人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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47話 ワルプルギスの夜

5月16日、午前七時。

 

見滝原市は現在警戒レベル5の非常に強い突発的異常気象災害情報が市内中に発令されている。

 

市民は全員最寄りの避難地区に移動しており、街はもぬけの殻。

 

<<付近にお住まいの皆様は速やかに最寄りの避難所への移動をお願いします!!>>

 

<<河川の氾濫の危険水域に達しております!これは訓練ではありません!!>>

 

<<ハザードマップを確認して命を守る最善の行動をとってください!!>>

 

街の道路を僅かに走るのは市の防災センターの車放送や警察、消防の避難誘導のみ。

 

この街は今、昨夜20時頃からスーパーセルの兆候が現れ始めている。

 

スーパーセルとは巨大雲の王の如き現象であり、巨大かつ長寿命であることが特徴だ。

 

雲の幅数10~100km、高さ15kmにも及ぶことのある超巨大な積乱雲の塊。

 

寿命は数時間と通常の積乱雲の寿命である30分を遥かに上回る。

 

スーパーセルが発生すると、ほぼ例外なく雹、落雷、大雨、竜巻といった激しい現象が起きる。

 

昨夜の22時からその現象が発生したという。

 

大雨と落雷被害によって見滝原災害対策警戒本部より防災センターを通じて市民に避難を勧告。

 

大雨により川は増水し、堤防も橋も飲み込まれそうになっている。

 

見滝原は避難訓練を市をあげて行う近代的未来都市であったお陰で市民の避難意識も高かった。

 

深夜の避難にも関わらず、7時間程度で避難をほぼ完了。

 

現在は大雨も沈静化しているが11時間を超えるスーパーセルなど前例がない。

 

雷に竜巻も発生する環境も未だ整っているため油断は出来ない。

 

水かさが増して今にも溢れ出しそうな誰もいない川岸遊歩道にほむらは立つ。

 

雷雲渦巻く巨大積乱雲を静かに見つめ続けていたようだ。

 

「…周回計算では、もうじき奴が現れる」

 

不安に怯える人間達を一箇所に纏めた上で、一気に襲い虐殺する大魔女。

 

その為に天災による被害を長時間与えた末に現れてくる。

 

スーパーセルとして天災扱いとなり、人間達が大魔女の存在に気がつく事などない。

 

今現れようとしている大魔女とは神魔の領域に辿り着こうとしている規模の存在。

 

一度顕現すれば大都市一つ軽く滅ぼせる程の力を持つ存在と独りで戦う。

 

それがどれ程の無茶なのかは彼女が一番知っている。

 

「それでも…やるしかない」

 

これは鹿目まどかに呪われた因果を与えてしまった罪。

 

そして己自身への罰だったのだから。

 

 

「数多の平行世界を横断した時間渡航者、暁美ほむら」

 

ここはほむらの自宅であり、室内は結界なのか異界なのかも判断出来ない大きな白い世界。

 

赤青黄色などのカラフルな曲線ソファーぐらいしか色がついていない場所。

 

宙を浮く魔女に関する資料を映し出した絵画のようなホログラフィックの数々もある。

 

何より奇妙なのは天井部位に備え付けられた時計の剥き出し内部かと思わせるゼンマイ装置。

 

そして死神の両刃鎌を思わせる振り子であろう。

 

そんな異空間に今、ほむらに対して喋るのはインキュベーターのようだ。

 

「君の存在が一つの疑問に答えを出してくれた」

 

「…何の話?」

 

「鹿目まどかの素質だよ」

 

魔法少女の素質は背負った因果の量で決まる。

 

英雄や反英雄、一国の女王や救世主、世界に影響を与えられる存在達ならまだ分かる。

 

しかし平凡な人生だけを与えられてきた鹿目まどかという異質な存在は説明がつかない。

 

どうしてあれだけの莫大な因果の糸が集中していたのか不可解であったのだろう。

 

「ひょっとしてまどかは君が時間を繰り返す度に強力な魔法少女になっていったんじゃない?」

 

思い当たる表情を浮かべたほむらを見た事でインキュベータは確信を得る。

 

「やっぱりね。原因は君にあったんだ」

 

「…どういう事よ?」

 

ほむらが時間を巻き戻す理由はただ一つ、まどかの安否のみ。

 

同じ理由で何度も時間を遡るうちに彼女の存在を中心軸に幾つもの平行世界を螺旋状に束ねる。

 

その結果、絡まるはずがない平行世界の因果線が全て今の時間軸のまどかに繋がってしまう。

 

彼女の途方もない魔力係数にもこれなら納得がいくのではないか?

 

暁美ほむらが繰り返した時間の中で循環した因果全てが巡り巡ってまどかに繋がってしまう。

 

「それって…まさかっ!?」

 

「お手柄だよ、ほむら」

 

――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「…来る」

 

大気が震えるほどの魔力の波動が見滝原工業区の工場群の上に現れる。

 

空高く上で現れようとするのは歴史に語られてきた大魔女の巨体。

 

この日のためにあらゆる装備を時間停止魔法を駆使して盗み出す大罪を彼女は背負う者。

 

ほむらの左腕に装備された機械仕掛けの砂時計がそれを成す力を与えてくれるようだ。

 

これは時間停止魔法や時間渡航魔法を行える円盤型の丸盾であり、中には一か月分の砂が入る。

 

ひっくり返すことで一か月時間を巻き戻したり、砂の流れを止める事で時間停止も出来る。

 

それだけではない。

 

一部の悪魔が使えるだろうアイテムを収容する魔法の力まで持っていたようだ。

 

円盤盾の収容力は悪魔が収容出来る容量を遥かに超えている優れもの。

 

魔法少女の固有魔法は時に悪魔の魔法を凌駕してしまう程の規模。

 

円盤盾の中にあるのはあらゆる現代武器、そして現代兵器の数々。

 

彼女は他の魔法少女とは違い、円盤盾の機能に特化した為か魔法武器を生み出す能力はない。

 

その中身を紹介すれば、どれも女子中学生が持っていいものではない犯罪極まった品々。

 

見滝原市に事務所を構えるヤクザの武器。

 

見滝原市から電車を乗り継ぐ距離になる自衛隊駐屯地の武器も手に入れている。

 

だが自衛隊基地の品は距離があり過ぎてあまり活用しきれなかった様子。

 

もっとも装備を調達してきた場所は見滝原市からそう離れていない郊外施設。

 

2009年頃に完成した在日米軍基地の兵器であろう。

 

その規模は東京にある米軍基地施設機能全てを満たす程になる。

 

何故そんな基地が見滝原近くに出来たのか、政治的理由を彼女が知ることはない。

 

「必要だったのは戦う力だけ。まどかを守れる武器が手に入るなら罪を犯そうが何でもいい」

 

この武装を最大限に利用する為に避難警報が出た深夜帯の時から動き始める。

 

避難する人々に隠れて米軍ミリタリーポンチョを纏い、叩きつける大雨の中での作業を行う。

 

ブービートラップや鉄骨を爆破するC4爆弾を路地裏に仕掛けている。

 

米軍兵器は目立たない路地裏やビルの開けた屋上に都市迷彩シートで覆って配置済み。

 

ガソリンが満タンに入ったタンクローリーにもC4爆弾を車の底部に大量セット。

 

もっとも大掛かりな作業となったのは見滝原工業区。

 

ワルプルギスの夜が計算上落下するエリアの建物全てに仕掛けたプラスチック爆弾だ。

 

TNT計算をした結果、核兵器の次に威力があると言われる気化爆弾エネルギー量に匹敵する。

 

「爆発の規模が大きすぎて地盤沈下の恐れもある…でも手段は選んでいられない」

 

ほむらは人間の街を破壊するテロリストとも呼ばれよう。

 

それでも全ての火力を集中してこの戦いに挑む覚悟はもう出来ているのだ。

 

宿敵とも言える存在が現れる前兆が見滝原市に現れてくる。

 

増水した川を遡るように波打つ霧が生まれ、遊歩道の彼女の足は霧で包まれていく。

 

持ち場に向かうため、霧に包まれた遊歩道を歩きだす。

 

足元を小さな使い魔が素通りしていき、緑の象の足が踏み潰す。

 

カーニバルパレードの装飾が施された使い魔達の群れが現れ、横を大行進していく。

 

それはこれから始まる嵐の如き舞台劇を舞台裏から支える団員のような存在達。

 

舞台の幕はもうじき広げられるだろう、カウントダウンをしよう。

 

『5』

 

『4』

 

『3』

 

『2』

 

『1』

 

開演。

 

<<Ah ha ha ha ha ha ha ha ha! !! !!>>

 

それは後に世界の気象歴史において記録を残すだろう。

 

高層ビルすら根本から破壊して巻き上げた見滝原スケールとして。

 

【舞台装置の魔女】

 

その性質は『無力』であり、回り続ける愚者の象徴。

 

歴史の中で語り継がれる謎の魔女であり、通称はワルプルギスの夜。

 

この世の全てを戯曲へ変えてしまうまで無軌道に世界中を回り続ける。

 

逆さ位置にある人形の頭部が上部へ来た時、暴風の如き速度で飛行するという。

 

その時は瞬く間に地表の文明をひっくり返してしまう程の大魔女であった。

 

 

逆さの位置に頭部らしきものが見えるが、頭は無く顔だけしか備わらない。

 

失った頭部からは二本角と、それに纏う形の半透明ヴェールが備わる。

 

白い縁取りの青い貴婦人ドレス姿の巨大人形であろう。

 

スカート内は巨大歯車が重なり合い、舞台劇のステージのように見える。

 

もっとも威圧的なのはその背中。

 

魔女の背後空間に浮かぶのは重なり合った花の如き虹色の魔法陣。

 

全長はおそらく200メートル~400メートル規模。

 

暴風に巻き上げられるように破壊された高層ビルが空に浮かぶ程の恐ろしい光景。

 

ワルプルギスの夜の周囲を高層ビルが漂い、燃え上がっていく。

 

まさに災厄規模の大魔女であり、それが見滝原市に襲いかかるのだ。

 

「…行くわよ」

 

ソウルジェムによって魔法少女となり、円盤盾に収容された武器を開放。

 

遊歩道を埋め尽くすのは現代火器の数々。

 

M136AT4対戦車ロケットランチャー。

 

RPG7対戦車ロケットランチャー。

 

それらが縦に置かれた形で通りを埋め尽くす規模で出揃ったようだ。

 

「…今度こそ、決着をつけてやる」

 

ほむらの円盤盾の表面を上下から中央に向かって飾る装飾部位は特徴的だ。

 

()()()()()()()()()()()、陰陽太極図の円形カバーのように見えるはず。

 

中央の陰陽太極図の円形カバーが開くと上下の6・9の丸み部分は真紅の砂が入っている。

 

上の9から下の6に向けて目減りし続けるガラス製砂時計のようだ。

 

開かれた中央の円形内部には剥き出しの機械式ゼンマイ仕掛けが見える。

 

上下の6と9が機械仕掛けで回転し、砂時計の砂が落ちない左右に回った瞬間、時間が停止。

 

周囲の時間が停止した中で動けるのは術者と術者が触れた存在のみ。

 

「全てを出し切る!!」

 

地面に設置した対戦車ロケットランチャーを次々と構えて発射する。

 

後方に逆流したロケット弾の火炎が噴き出していき、ロケット弾が次々と飛翔する。

 

時間停止魔法の影響を遅れて受けたのか、ワルプルギスの夜の手前で次々と静止していく。

 

機会仕掛けの魔法盾が横から縦に回転し、陰陽太極図カバーが閉じていく。

 

赤い砂が入った砂時計が動き、時間停止魔法が解除される。

 

すると無数のロケット弾が時間の影響を受けていく。

 

ワルプルギスの夜に目掛けて雨のように降りかかり、逆さ人形部位に次々と着弾していく。

 

連続した爆発が空を照らして爆発に押し戻されていくが、その巨体はびくともしない。

 

遊歩道を駆け抜ける彼女の背後には盾の中から出した次の兵器が並び立つ。

 

M327・120mm迫撃砲であり、兵士の操作がなくても魔力操作で発射されていく。

 

ほむらの魔法は現代兵器を魔法の力で操る力も持っていたようだ。

 

ワルプルギスの夜が体勢を崩す位置も全て周回計算によって把握されている。

 

一発の無駄弾も無く全弾が命中し、完璧なタイミングでC4が仕掛けられた鉄骨に体を持ち込む。

 

すぐさまリモコン爆破され、倒させた鉄骨を大魔女の体にぶつける。

 

だが、これだけの猛攻をしかけてもワルプルギスの夜は無傷。

 

「…知ってたわ」

 

鉄骨は突然高熱発火して崩れ、大きな橋に目掛けて空から体を傾けていく。

 

同時に遊歩道に停めていた大量の爆弾を搭載したタンクローリーが橋に目掛けて突き進む。

 

魔力を用いてタンクローリーを車の上部から操っているのはほむらの姿。

 

猛スピードで橋に入り込み、半円鉄骨をタンクローリーが走り登っていく。

 

飛び出す射角はワルプルギスの夜の逆さ頭部位置であろう。

 

「喰らいなさい!!」

 

鉄骨から飛び上がったタンクローリーから彼女は飛び降りる。

 

ワルプルギスの夜の頭部にまで届いたタンクローリーをリモコン起爆させると大爆発を起こす。

 

「まだまだぁ!!」

 

増水した川の中から現れたのは陸上自衛隊の大きな兵器。

 

03式中距離地対空誘導弾が運用出来る大型トラックの上にほむらは着地。

 

ミサイル射角がワルプルギスの夜に向けられていく。

 

ミサイルが一斉射撃され、人形胴体に撃ち込まれる。

 

ロケット推進によってワルプルギスの夜の巨体が一気に後方に目掛けて押し込まれていく。

 

計算通り、工業区のエリアに落下してくれたようだ。

 

魔女を囲む周囲の建物が赤い光を一斉に放つ。

 

「お願い…これで最後にさせて!!」

 

全ての爆弾をリモコン起爆させた破壊力の規模は核爆発にも似た景色。

 

きのこ雲が登る程の大爆発であったようだ。

 

これが周回を重ねた末の攻撃計画であり、ワルプルギスの夜を倒し切る総火力攻撃であろう。

 

一方的とも言える惨状であるが油断なく工業区を見つめるほむらであったが驚愕してしまう。

 

「そんな…!?」

 

燃え盛る煙を飛び越えてきたのは無数の黒い影であり、彼女に目掛けて襲い掛かってくる。

 

黒い影共の突進攻撃を受けた事で突き飛ばされたようだ。

 

黒い影が人の姿のようになっていき、その形はまるで魔法少女の影そのものであろう。

 

【舞台装置の魔女の手下】

 

その役割は道化役者。

 

強大な魔力に引かれ集まった無数の魂。

 

ワルプルギスの夜は元々一人の誰かであった可能性がある。

 

あるいは多くの魂が集合する事により生まれた幻の可能性もあった。

 

大きく地面に倒れ込むほむらは倒れ込んだまま顔を持ち上げて川の向こうの工業区を見る。

 

業火の中から瓦礫を巻き上げながら飛翔していく巨体が現れるのを戦慄しながら目撃する。

 

<<Ah ha ha ha ha ha ha ha ha! !! !!>>

 

あれだけの総火力攻撃を浴びてもワルプルギスの夜は無傷なのだ。

 

「くっ…」

 

周囲は既に使い魔軍団に囲まれている。

 

持てる最大火力を用いようが大魔女に傷をつけることすら出来ない。

 

あまりにも理不尽な光景であり、絶望に飲まれかけてしまう。

 

それでも彼女は何度でも絶望の縁に立たされようが諦めはしなかった魔法少女。

 

「私は逃げない…」

 

ほむらは時間停止魔法を利用した一方的な攻撃しか能がない魔法少女ではない。

 

今こそ彼女は見せるだろう。

 

まどかを守る為に身につけた魔法とは違う戦いぶりをを示す時がきたのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

軍隊の戦術行動において突破を選択する前に迂回及び包囲を考える。

 

しかし彼女は孤軍奮闘しか選択肢がない。

 

正面突破は攻撃方法を間違えれば損害も多く、全滅の危険が高いがやるしかない。

 

円盤盾から取り出したのはUZI短機関銃であり、2丁拳銃スタイルで構えていく。

 

「弾なら好きなだけくれてやるわ!!」

 

腰を落としながら左足で円を描くようにして一回転する。

 

両腕は広げられ、回転しながらの水平撃ちをフルオート射撃で撃ちながら弾幕を張り巡らす。

 

蹴り技の後掃腿の形で左足が止まった時、包囲に穴が開いた事で跳躍しながら包囲を突破。

 

「ついて来なさい!!」

 

使い魔達の集団防御を崩壊させるための緊要地形は把握している。

 

軍事地理的要素であり、平野を見下ろす山頂や隘路などの軍事的に重要な地形を指す。

 

地の利を活かし、使い魔軍団を分散させて各個撃破するのが目的であろう。

 

走る彼女の後ろからは空を飛翔しながら追いかけてくる使い魔達が迫ってくる。

 

「さぁ、追って来なさい……私の結界まで!!」

 

住宅区を超え、見滝原で一番大きい商業区にまで撤退するとポイントAの路地裏が見える。

 

「パチンコ玉はお好きかしら?」

 

追いかけてきた使い魔は周囲に設置してあったクレイモア地雷の直撃を左右から浴びて消滅。

 

続いてポイントBの路地裏に入る。

 

ゴミ箱には仕掛けられているのは時計型爆弾であり、回路電流が流れる時刻は計算されている。

 

「眠りの時間よ」

 

横を通る使い魔は爆発に巻き込まれて消失。

 

次のポイントに向かう前方から迫りくるのは地面を走る使い魔達。

 

だが足元に見えるのはネズミ捕り器を改造した爆弾であろう。

 

「ネズミは駆除しないとね」

 

足を捕らえられた瞬間、バネの力で撃針が叩かれた事で起爆する。

 

足が破壊されて動けなくなった使い魔達に狙いを向けるのはポンプアクション式ショットガン。

 

容赦なく散弾で撃ち殺し、ポイントCの路地裏に入っていく。

 

彼女の空から迫りくる使い魔達であるが、地面に備わるのは複数の打ち上げ花火のような装置。

 

これは跳躍地雷と呼ばれるブービートラップであり、電気信管で地雷の発射薬に点火される。

 

筒の中から手榴弾が打ち上げられると同時にピンが外れる。

 

空から迫りくる使い魔達の前で複数の手榴弾が次々と爆発。

 

破片でズタズタにされた使い魔達が消失していく中、鉄のゴミ箱に隠れた彼女が飛び出す。

 

「酷い臭いが染みついたわ……シャワー浴びたい」

 

どうやら電気信管をゴミ箱内部で操作し、同時に破片の雨から身を守ったようだ。

 

開けた路地裏まで走り終えた彼女の前にはシートで隠してある兵器が待機している。

 

シートを開けて現れたのはアベンジャー防空システムと呼ばれる軽車両。

 

スティンガー地対空ミサイルを4連装ポッド2基で発射出来るようにしたものである。

 

従来の自走式対空ミサイルより軽便で機動性に優れている車両に乗り込む。

 

「非常時だし、中学生の無免許運転を許してくれると有り難いわね」

 

ハンヴィーに似た汎用四輪駆動車のエンジンをかけて走り出す。

 

この日のために盗んだ車で運転の練習もしてきたようだ。

 

上空のワルプルギスの夜は住宅区を超えていき、既に商業区にまで入り込まれている。

 

この進行経路から見れば、恐らくは住民達の避難地区を目指すのであろう。

 

見滝原市の高台にある避難所に到達するのも時間の問題なのだ。

 

「倒せなくてもせめて…見滝原から追い出して他の街にでも向かわせる!!」

 

道路を走行しながら商業区内の高速道路に入り込む。

 

しかし前方からは見えてきたのは招かれざる客のようだ。

 

「こんなタイミングで…運のない連中ね!!」

 

現れたのは避難誘導をしていたと思われる警察車両である。

 

「おい!なんだあの軍用車両は!?」

 

「少女が運転しているぞ!?」

 

パトカーがドリフトUターンを行い、ほむらが運転するハンヴィー車両を猛追してくる。

 

<<そこの軍用車両に乗る子供!止まりなさい!!>>

 

「チッ…」

 

<<君は明らかに重罪を犯しているぞ!!>>

 

「無駄に命を散らす者を救う余裕は…私にはないのよ!!」

 

追走してきたパトカーであったが、使い魔の魔法攻撃を受けて爆発炎上してしまう。

 

「追ってきたわね…」

 

サイドミラーから見えたのは空を飛行するワルプルギスの夜と使い魔達。

 

「もう残された火器も少ない…それでも足掻くわ!!」

 

荷台に搭載された地対空ミサイルシステムが後ろに回転し、砲身が使い魔達に狙いをつける。

 

4連装ポッド2基がミサイル8発を次々と発射。

 

7発は使い魔達に命中したが、1発は避けられてしまう。

 

避けた使い魔の魔法攻撃が放たれた事でハンヴィーの後部が爆発する。

 

「くぅ!!」

 

操縦が効かなくなった車両が高速道路の壁を突き破り、下の道路にまで落下。

 

地面に叩きつけられた車両は大破したが、頭から血を流すほむらは無理やり体を動かしていく。

 

「ぐっ…まだよ…もう少しでたどり着く…」

 

横転した車両から這いながら出てきた彼女が上を見上げれば追撃してきた使い魔の攻撃がくる。

 

「いい加減にしなさい!!」

 

M16A2アサルトライフルを構えて引き金を引き、使い魔を撃ち殺す。

 

起き上がった彼女が道路を走り抜けていき、目的地のビルに駆け込んでいく。

 

ビルの屋上にシートで隠している最後の抵抗兵器を使う目論見のようだ。

 

「やっと着いた…」

 

目的地のビルに入りこむと追手も次々と入り込んでくる。

 

大きなエントランスホールに入り込んだ使い魔が二階に視線を向けていく。

 

「網にかかったわね」

 

地面に置かれた弾薬箱と繋がる給弾ベルトが伸びる先にはミニガンを構えた彼女の姿。

 

「うあああぁーーーーッッ!!!!」

 

銃身が回転していき秒間100発の射撃音がエントランスホール内に轟音となって響き渡る。

 

鈍化した世界。

 

マズルフラッシュが噴き上がり、薬莢が大量にばら撒かれていく。

 

大勢の使い魔達が薙ぎ払われていく光景が広がり、次々と形が砕けてしまう。

 

弾薬箱の中身を使い切り、銃身がカラカラと回転する音が響く頃には追手は全滅しているのだ。

 

「ハァ!ハァ!ハァ…追手もこれで最後にして…」

 

ミニガンを投げ捨てた彼女はエレベーターに入り込む。

 

天井をショットガンで破壊して上に飛び移り、メインロープを掴む。

 

ショットガンの銃撃で片方のロープを切断すると小柄な彼女の体が急上昇してしまう。

 

「ぐっ!!」

 

反対側のエレベーターが落下してくる中、痛みに耐えながら一気に屋上まで昇っていく。

 

エレベーターのドアを蹴破り、ほむらは外に着地する。

 

「くっ……」

 

右手からは血が流れ落ちていき、手の皮が全て擦り剥けている痛々しい状態となるだろう。

 

シートで隠してあった兵器を開放すると現れたのは広域防空用地対空ミサイルシステムである。

 

「このミサイルで他の街に目掛けて押し出してやる…」

 

出来なければ万策尽きる彼女は必死の形相を浮かべながら叫ぶ。

 

「お願いよ…他の人は守れなくても!まどかとその家族だけは…守らせて!!」

 

4発のミサイルがワルプルギスの夜に目掛けて次々と発射されていく。

 

街から押し出せたら風見野市にでも流れてくれるか?どちらにせよ大量の犠牲者が出るはず。

 

暁美ほむらは人間の守護者などではない。

 

鹿目まどかの守護者でしかない魔法少女なのだろう。

 

ワルプルギスの夜は既に地を這う虫けらの存在には気づいている。

 

ドレスをこれ以上汚されたくない魔女がとった行動とは瓦礫を使った防御である。

 

「そ…そんな!!」

 

ミサイルを体で受け止めもせず、周りに浮遊させている高層ビルを盾にしてしまう。

 

側面から迫ったミサイルを防いだワルプルギスの夜は大勢を殺すために高速道路を進んでいく。

 

「このままじゃまどかは…それに3人の家族も…」

 

激しい無力感と絶望がほむらを襲う。

 

そんな彼女に目掛けて使い魔達は容赦なく襲いかかってくる。

 

「まだよ…まだ私はやれる!!」

 

屋上から大きく跳躍した彼女は粉骨砕身の覚悟で戦う者となる。

 

ビルを飛び越えながら89式小銃を取り出し、使い魔を相手に応戦しながら避難所に向かう。

 

「せめてまどか達だけでも…」

 

時間停止を使って避難させる腹づもりだろうが、残された人間の命は切り捨てる覚悟ならある。

 

目的の為なら非道に走る魔法少女の足掻きであろうと、大魔女は相手するのも飽きたようだ。

 

ワルプルギスの夜は暴風を生み出し、高層ビルを千切りながら巻き上げる。

 

そのうちの一つがほむらに目掛けて勢いよく落ちてきてしまう。

 

「くっ!!」

 

円盤盾の時間停止魔法を使って避けようとしたが異変が起きる。

 

「そんなっ!?」

 

魔法盾の砂時計に納められていた赤い砂は既に落ちきっていた事で時間停止が発動しない。

 

もはやこの盾の使い道は砂時計を逆回転させるのみ。

 

それは違う時間軸に逃げ出し、この世界を見捨てる事を意味する。

 

迷う暇もなく巨大ビルが迫り、背後にも高層ビルがある。

 

「あぁぁぁぁーーーーっ!!!」

 

彼女の体が高層ビルとビルの間で挟まれながら潰されていく事になってしまう。

 

「ぐっ…うぅ…」

 

崩壊する高層ビルの瓦礫の中にほむらは閉じ込められ、足は瓦礫に挟まって身動き出来ない。

 

そんな虫けらにトドメを刺す気にもならないワルプルギスの夜は遠ざかっていくばかり。

 

「このままでは…また…」

 

今までの平行世界の末路と同じく、まどかを含めた大勢がこの時間軸でも死ぬ事になるだろう。

 

しかし、この世界はかつての平行世界とは違う。

 

始まりの日に見る事になった悪夢の中で存在した人物が語った言葉をほむらは思い出している。

 

──君の長かった旅は、この世界で終わる。

 

彼女が未だ気がついていない存在達がこの世界線には存在するようだ。

 

「えっ…?私は、何が見えているの…?」

 

遠ざかっていたはずの大魔女の巨体が静止している。

 

ほむらもまた傷の痛みさえ忘れる程の鳥肌が立つ。

 

ワルプルギスの夜など虫ケラ以下に思えてしまう程の恐怖が街を覆い尽くす。

 

「この恐ろしい魔力…たしか、悪夢の世界で感じた事があった気が…」

 

ワルプルギスの夜もまた次元が違い過ぎる高次元存在を感じているのだろう。

 

たとえ大魔女の半回転が終わり、最大の力を発揮出来ても太刀打ちなど出来ないと感じている。

 

こんな存在は戯曲にはなく、舞台を乱すありえない乱入者が直ぐ近くにいると恐れるのだ。

 

「どうして…動かないの…?」

 

ワルプルギスの夜は空の上で地上を見下ろす形で沈黙を続けている。

 

「どうする…?戦う力など…私には残っていない…」

 

あのワルプルギスの夜を遥かに超える程の恐怖存在に対して希望を持つべきか?

 

しかし、それがこの街を助けてくれる保障など何処にもないとほむらは感じている。

 

下手をすれば、ワルプルギスの夜と共に見滝原市どころか世界さえも滅ぼしかねない。

 

「イレギュラー過ぎる世界よ…この世界も…見切りをつけるしか…」

 

円盤盾の6と9を逆回転させようとした瞬間、インキュベーターの言葉が頭に過る。

 

(繰り返せば…それだけまどかの因果が増える…)

 

己の罪を増やし続け、まどかを苦しめてきた自責の念が彼女を絶望へと導いていく。

 

ついにほむらのソウルジェムは絶望に染まってしまう末路となるだろう。

 

(私がやってきたことは…結局…)

 

もう罪を繰り返したくないと観念したのか円盤盾から手を放す。

 

魔女に成り果てる終わりを受け入れようと目を閉じて涙が溢れた時、希望の声が響くだろう。

 

「…もういいんだよ、ほむらちゃん」

 

絶望に染まろうとしたソウルジェムが飾られた左手に誰かの温もりを感じてしまう。

 

「あっ…その声は…まどか…?」

 

まどかの横にはインキュベーターの姿も存在しており、最悪の瞬間が訪れるのだと理解する。

 

「まどか…まさか…」

 

「……ごめんね」

 

魔法少女の残酷極まった世界を最後まで見届けた人間は決意するだろう。

 

鹿目まどかの物語が終わりを迎えようとしている。

 

見届ける事となるのはインキュベーターと暁美ほむら。

 

それだけではない。

 

突然現れた謎の存在もまた彼女の最後を見届ける者となるだろう。

 

そしてこの街に現れたもう一人の人物もいる。

 

誰かを探し求めて彷徨い続けた黒いトレンチコートを纏う人物もまた因縁の景色を目撃する。

 

その者とは東京において人修羅と呼ばれし悪魔の姿であった。

 




読んで頂き、有難うございます。
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