人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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49話 円環のコトワリ

避難所には市民が大量に押し寄せ、いつ去るか分からない天災に怯えている。

 

体育館のように広い場所では深夜避難もあり布団などの寝具が市から提供されているようだ。

 

布団が敷かれたエリアに座る光景が広がっており、人混みの中には鹿目まどか達の家族もいる。

 

体育座りをしていたまどかだったが立ち上がり、室内を移動していく。

 

防災センター2階廊下の窓から外の荒れ様を見つめる中、足元にはインキュベーターが立つ。

 

「…ほむらちゃんは、本当に一人で勝てるの?」

 

「今更言葉にして説くまでもない。見届けてあげるといい、暁美ほむらがどこまでやれるのか」

 

「どうして…そうまでして戦うの?」

 

勝ち目などない、それでも守らせて欲しい。

 

あの時のほむらの強がりが、そう感じさせてしまう。

 

まどかには彼女の本音の言葉が何を伝えたかったのかが未だに分からない。

 

(どうしてわたしの為に…そこまでして戦ってくれるの?彼女が歩んできた道のりって…)

 

暁美ほむらの旅路とその覚悟をこの時間軸のまどかでは分かるはずもない。

 

この世界の彼女はそれを見ていないのだから。

 

「彼女がまだ、希望を求めているからさ」

 

いざとなれば暁美ほむらはこの時間軸も無為にして戦い続ける。

 

何度でも性懲り無く、この無意味な連鎖を繰り返す。

 

今の彼女にとって、立ち止まる事と諦める事は同義であろう。

 

何もかもが無駄、まどかの運命を変えられないと確信したその瞬間、彼女は絶望に負ける。

 

そして彼女もまた魔女を生み出すグリーフシードとなるのだ。

 

暁美ほむらはその現実を理解している者であり、だからこそ選択肢なんてない。

 

ワルプルギスの夜を相手に勝ち目のあるなしに関わらず、戦い続けるしかないだろう。

 

呪われた時間渡航の旅路とは、希望を持つ限り救いはない。

 

それが魔法少女達の法則だとインキュベーターは冷淡に語り終える。

 

魔法少女と魔女の世界、それを知り、末路を知り、それが繰り返された歴史を知った。

 

ここまで人間の少女達の心と魂を弄ぶ理不尽な世界などあってはならないと感じてしまう。

 

(魔法少女は…報われるべきだよ。せめて…純粋な願いと希望を持って…)

 

――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

全ての魔法少女達がそうあるべきだ。

 

過去・現在・未来の終わりまでの魔法少女達も、そうあるべきだ。

 

魔法少女達は呪われた法則に従わず、自由に生きるべきだ。

 

その可能性が無いのなら、生み出すべきだ。

 

鹿目まどかの中に描かれていくもの、それは()()

 

思想とは人間が自分と周囲について自分が感じて思考出来る物事について抱く考えのこと。

 

直観とは区別され、感じたテーマを基に思索する。

 

直観で得たものを反省的に洗練して言語や言葉として纏めること。

 

政治・経済・金融・宗教、社会に至るまで思想によって人間の生活は導かれて形作られていく。

 

それは世界をも導く羅針盤ともなるだろう。

 

彼女なりの思想が浮かんでいた時、まどかの頭の中に突然声が響く。

 

――()()()()

 

インキュベーターとは違うが、それと同じぐらい感情を感じられない無機質な声が響く。

 

それを聞いた後、まどかの手がギュッと握り締められていき、涙を払い、覚悟が決まる。

 

「おい…何処に行こうってんだ?」

 

「ママ……」

 

彼女の前に立ちはだかったのは実の母親である鹿目詢子。

 

何を隠していると問い詰める母であるが、娘は友達を助けるために外に出かけると言い出す。

 

防災センター職員や警察消防に任せるべきなのだが、彼女は譲る気配を見せない。

 

そんな意固地になって何か危険な事をしようとする気配をした我が子を見れば母ならこうする。

 

詢子はまどかの顔に張り手をくらわせたようだ。

 

「そういう勝手やらかして…周りがどれだけ心配すると思ってんだ!!」

 

自分一人の命ではない、まどかは家族達の最愛の子供。

 

その命と人生を守る為に、詢子がどれ程の苦労を背負い込んだのだろう?

 

女手一つで大黒柱を努めてきた苦労は計り知れない。

 

我が子が生まれて抱きしめた感動も経験し、子供が育ち、歩き始める喜びも経験する。

 

学校に入り、友達に巡り会える娘の幸福を見守る喜びも経験している。

 

その全てが詢子にとって、人生を捧げても構わない程に愛しかっただろう。

 

それを無駄に終わらせようとする危険な行為に走ろうとする娘を止める姿こそ母親そのもの。

 

血の通った親ならば当然の行為であった。

 

「解ってる…自分を粗末にしちゃいけない事も、家族に大切にしてもらってるかも…解ってる」

 

素直で優しい出来た娘に育ってくれたと感じていた詢子。

 

しかし、ここまでの覚悟をした娘の表情は見た事がない。

 

「だから違うの!わたしも皆が大切で、絶対に守らなきゃいけないから…」

 

――わたしにしか出来ない事を、やらなくちゃならないの。

 

我が子を守りたい気持ち、それは自身とは違う他人を守りたい気持ち。

 

詢子の心は娘の中にも受け継がれていたのだろう。

 

誰かを愛し、慈しむ。

 

自分の人生をかけてでも、守りたい優しい心は受け継いでいてくれたと悟る事になろう。

 

(ああ…やっぱりこの子は……あたしの血を持つ子供なんだ)

 

子は親の背中を見て育つ。

 

親こそが子供にとって最高の教育者であり導き手。

 

この子がこの道を選ぶのは詢子がそれを導く答えが出せる程の優しさを示した証。

 

我が子の肩を両手で抱き、詢子にとっては最後となる娘に送る言葉を送ってくれる。

 

「…絶対に下手打ったりしねぇな?…誰かの嘘に踊らされてねぇな?」

 

「…うん」

 

嘘をつく子ではない事は親である彼女が一番信じなければならないと詢子は覚悟する。

 

我が子の背中を叩いて送り出す彼女の表情は目頭が熱くなっていたようだ。

 

「行ってきな、まどか」

 

「うんっ!ありがとう、ママ…!!」

 

優しき母の血を持てた事を鹿目まどかは誇りに思うであろう。

 

全ての覚悟を決め、人間として最後を迎えるだろう道をまどかは駆け抜けていった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

未だ積乱雲に覆われ、雷が落ちる見滝原市商業区。

 

ずぶ濡れの黒いトレンチコートを纏った男の姿も見えてくる。

 

魔力気配を探りながら男は状況判断していくようだ。

 

「俺は魔法少女社会と関わると決めた時、取り決めをした…連中の魔女狩りには干渉しない」

 

人間社会に危害をもたらす危険性を持った魔法少女達。

 

それでも生きる為に魔女を狩り殺してくれるならば、人間社会から見れば役に立つ面もある。

 

そう考え、魔女と戦う魔法少女達を見物するだけに留めたようだ。

 

「問題は…使い魔を放置して魔女を養殖する者。それに魔法の力で人間社会を襲う者だ…」

 

彼の役目はその者達の監視であり、人間社会を傷つけるならば排除する。

 

それに魔法少女が相手をしない使い魔の駆除もこなしていく。

 

自分に役割を与え、東京の魔法少女社会で二年以上戦ってきたのだろう。

 

「だが…今回については状況も状況だ。あれ程の魔女ならば…魔法少女が勝てる確率は低い…」

 

暁美ほむらが敗北するとしたら織莉子とキリカが戦うのやもしれないが、結末は同じだろう。

 

「魔法少女が死んだなら例外として…あの大魔女については…俺が一撃で仕留めてやる」

 

遠く離れた工業区から聞こえてくる巨大な爆発音に対して彼が振り向く。

 

「きのこ雲だと…?爆風の圧縮波が来るな…」

 

人間ならば耳と眼をやられ、近ければ肉が剥がれて臓器も破裂する。

 

さらに大きな爆風に晒されると人間としての原形を留めなくなる。

 

去年のクリスマスに巻き起こった忌々しい惨状を思い出さずにはいられないだろう。

 

「深夜見かけた魔法少女はおそらく…アリスと同じく軍隊の武器を駆使して戦う奴だな」

 

辺りを見回しながら人間がいるかを確認する。

 

「市民は避難出来ている。後は俺が圧縮波をやり過ごせばいい」

 

悪魔である彼ならば、この程度の圧縮波ではびくともしないだろう。

 

爆風によって高層ビルの窓ガラスが一斉に破壊されていく光景が彼を襲う。

 

割れたガラスの刃は豪雨となって地面に降り注ぐだろう。

 

そんな時、彼の視界に映ってしまったのは命知らずな人間の姿。

 

「キャァァーーーッッ!!?」

 

避難警報を無視した空き巣か?

 

それとも台風の日にわざわざ外に出る馬鹿者の度胸試しか?

 

何にせよ、愚かな小娘である事には変わりない。

 

それでも尚紀にとっては守るべき人間の命なのだ。

 

「馬鹿野郎っ!!!」

 

鈍化した世界。

 

上を見上げて悲鳴を上げるまどかの元まで一直線で駆けていき、刃の雨の中に飛び込む。

 

ガラスの豪雨は降り注ぎ、地面に叩きつけられ砕けていくのだ。

 

「えっ……?」

 

前方に見えた人影だったが、いつの間にか彼女に覆い被さっている。

 

「あ…あの!?わたしを…助けてくれたの?」

 

体を盾にして刃と化したガラスの雨から守ってくれた人物が悪魔でなければ無事では済まない。

 

(この人と出会えてなかったら…わたし…死んでたよね?)

 

背中の衣服は破片に切り裂かれてズタズタであるが、体は無傷。

 

ゆっくりと起き上がる彼の上半身に対して感謝の言葉を伝えようとするだろう。

 

しかし発光した入れ墨を顔に持つ男を見てしまった鹿目まどかは絶句する。

 

金色の瞳を向けてきたのは人修羅と呼ばれし悪魔の姿なのだから。

 

(この人…人間じゃないよね?魔法少女でもない…)

 

人間でも感じられる魔女を超えた威圧感による恐怖に支配されたまどかの体は震えている。

 

「…小娘、死にたくなければ早く避難所に行け」

 

恐ろしい姿をした人物だったが、彼女の身を案じてくれている。

 

その行動は身を挺して命を守ってくれたと判断した事でどうにかお礼を伝えたようだ。

 

「助けてくれて…ありがとうございます。でもわたしは…行かないといけないんです」

 

「親の心配を踏み躙り、何処に行く?それはお前の家族の気持ちよりも大事なものか?」

 

社会人でもある彼から詢子と同じ気持ちで責められてしまう。

 

初めて会う人にどう説明したらいいのか分からず、顔を俯向けてしまうようだ。

 

「家族がいる事が当たり前の小娘には分からないだろう」

 

「そ…それは…」

 

「家族を失う事が、どれだけの絶望を残された人々に与えるかをな…」

 

まどかがやろうとしている決断とは、()()()()()()()()

 

そんな話を目の前の大人の男悪魔に伝えたならば、無理やり避難を強いられるはず。

 

(わたしの願い…それは…わたし自身を滅ぼす事になるかもしれない…)

 

それは彼女にしか出来ない可能性であるが、彼から言われた言葉が重い足枷となるだろう。

 

(わたしは…家族に絶望を与えるの…?パパやママの心を…踏み躙る結果を作るの…?)

 

「命は一つしかない。お前の人生を必死に守ろうとした人達を踏み躙ってまで…何を望む?」

 

かつての世界においても、この世界においても大勢を守ろうとしたが守れない。

 

人修羅と呼ばれた悪魔の人生において、残されるのはいつも自分のみ。

 

残された人のやり場のない苦しみなら、彼が一番理解している。

 

「貴方の言う通りです。わたしがやろうとしてる事は…家族を絶望に追い込むかもしれない…」

 

「理解出来るなら、早く…」

 

「それでも!それでもわたしは…大切な友達を守りたいんです!!」

 

「とも…だち…?」

 

「それだけじゃない!その友達と同じ苦しみを背負い、悲しい結末を迎えた人達を救いたい!」

 

脳裏に巡るのは守れなかった人達の記憶であり、まどかの姿がかつての自分と重なっていく。

 

「その決意を固めた経緯は聞かないが…何故そんなにまでして…自分を犠牲にする?」

 

「これは…人の道に反する行為です。それでも…聞いて下さい」

 

息を大きく吸い込み、自分の心を最も伝わりやすい言葉で叫ぶ。

 

「だってわたしは…その人達が大好き!絶対に…犠牲になんてさせたくないから!!」

 

彼女の決意の言葉は誰も守れなかった人修羅の心に深く突き刺さる程の決断であろう。

 

目の前の少女はただの人間であり、悪魔や魔女と戦える存在ではない。

 

人間如きがどうなったかは、かつての親友達の末路が証明すると人修羅は経験している。

 

「お前……死ぬぞ」

 

「貴方には…いませんでしたか?」

 

「そ…それは……」

 

「たとえ死んでも…守り抜きたいと思った大好きな人達が…いませんでした?」

 

(勇…千晶…祐子先生…)

 

かつての気持ちを思い出した人修羅は彼女に道を譲るようにして体を移動させてくれる。

 

「お前が守りし者になれるのかどうか…俺が見届けてやる」

 

「行かせて…もらえるんですね?」

 

「そして、その道を選んだせいで…両親に与える事になる絶望の罪を…永遠に背負うがいい」

 

「パパ…ママ…本当に…ごめんなさい…」

 

彼の横を走り抜けていく中、守ってくれた両親に対する思いを零す。

 

「でも、パパとママが私を守ってくれたように…わたしにも…守りたい人達が…出来たから!」

 

小さな後ろ姿を見送る彼はかつての自分の背中を見ているように感じてしまう。

 

「守りし者とは、()()()()()()()()()()()()()()()()…救いようのない道だぜ…小娘…」

 

 

ほむらの戦いは既に彼女の敗北が決定しているかのような敗走戦となっていく。

 

商業区が戦場となっていく中、直ぐ近くの高層ビルで巨大なビル同士がぶつかり合う。

 

上部が瓦礫の山となり、ワルプルギスの夜が人修羅の頭上を通り抜けようとしている。

 

「あの魔法少女が破れたのなら…俺が打って出るしかないな」

 

そう考えていた時、かつて感じた事がある恐ろしい魔力を感じてしまう。

 

「なんだ…この魔力はたしか…!?」

 

忘れるはずがない魔力の顕現こそ、大いなる闇の力。

 

王の中の王と呼ばれし魔王の力であり、彼は右上のビルの屋上に視線を向ける。

 

屋上に見えたのは黒いローブとフードで姿を隠した長身の男の姿。

 

「あの男は……まさか!!?」

 

その者は破壊された高層ビルの方角を指差す。

 

指差された方向に振り向いた人修羅は目撃する者となるだろう。

 

ボルテクス界において大切な親友達が人間を辞める瞬間の記憶がフラッシュバックする。

 

人がコトワリの神と成った瞬間を思い出した人修羅の顔は恐怖でおののくだろう。

 

魔法少女の世界でもまた、コトワリの神が誕生する時が訪れるのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

そこは白い世界であり、徐々に形となっていく光景が広がっていく。

 

まどかを魔法少女の世界に導いた巴マミの部屋のように見えるやもしれない。

 

「鹿目さん。それがどんなに恐ろしい願いか、解っているの?」

 

ソファーの前に置かれた机の前に座るのは鹿目まどかの姿である。

 

ケーキと紅茶を出して語りかけてきたのは死んだはずの巴マミ。

 

ここはまどかが人間であった人生を終える最後の光景となるだろう。

 

「…たぶん」

 

「そうなれば貴女は、貴女という個体を保てなくなる」

 

「…いいんです、そのつもりです」

 

「死ぬなんて生易しいものじゃない、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()わ」

 

それが鹿目まどかの辿り着く末路なのだとかつての先輩は告げてくる。

 

彼女はインキュベーターに対して自分の思想である願いを叫んでいる。

 

――全ての魔女を、生まれる前に消し去りたい。

 

――全ての宇宙、過去と未来の全ての魔女をこの手で。

 

インキュベーターすら驚愕させる程の大いなる神の御業をまどかは望む。

 

そんな祈りが叶うとしたら、それは時間干渉などという次元ではない。

 

大いなる神が記した因果律の改竄に匹敵するだろう。

 

全宇宙の光の秩序を司りし唯一神が生み出した運命への反逆。

 

希望が絶望に変わる末路なんて許さない。

 

救われる可能性は無いなんて許さない。

 

これは鹿目まどかが全ての魔法少女達を開放するだろう、()()()()()()()()()()

 

もしそんな思想を叶えられるとしたら、それはもはや神か悪魔の次元そのものだろう。

 

「希望を抱くのが間違いだなんて言われたら、そんなのは違うって…何度でも言い返せます」

 

未来永劫をかけて希望の大切さを伝え続ける終わりなき旅路をまどかは望んでくる。

 

頑ななまどかの横には死んだ杏子の姿もいるようだ。

 

ケーキを摘んで食べながらまどかを肯定してくれる。

 

「戦う理由、見つけたんだろ?逃げないって決めたんだろ?なら仕方ないじゃん」

 

「うん。ありがとう、杏子ちゃん」

 

まどかは未来永劫をかけてでも絶望を否定する道のりを走り続けるだろう。

 

「じゃあ、貴女から預かっていたものを…返さないとね」

 

それは一冊のノートであり、まどかが下手なりに描いた夢の形。

 

魔法少女達がどうあるべきかを思い描き、理想を詰め込んだ希望の形なのだ。

 

「このノートが…貴女の未来永劫の道を迷わせない羅針盤となって欲しいわ」

 

人間だったまどかの最後を見届けてくれた2人の姿も消えていく。

 

「貴女は希望を叶えるんじゃない、()()()()()()()()()()のよ」

 

――私達全ての希望に。

 

 

「あれは……あの時の小娘!!?」

 

薔薇の枝を思わせる杖が魔法の弓となる光景が悪魔には見えている。

 

花は咲き誇り、燃え上がるように赤紫の光を放つ。

 

天に目掛けて弓を引き絞るのは魔法少女と思われる姿となった鹿目まどか。

 

「…みんな、待ってて」

 

空には無数の円が繋がりあった魔法陣が浮かび、幾つもの宇宙を希望の糸で繋ぐ円環となる。

 

光の矢が魔法陣に向けて放たれると人修羅でさえ驚愕する程の光景を目にするだろう。

 

「空が…一瞬で青空に…!?」

 

円環の魔法陣は起動するように光を放ち、無数の矢が数多の世界にばら撒かれていく。

 

「あの光の矢は…一体何処に向かって飛んでいくんだ…?」

 

それは数多の世界で繰り返される魔法少女の終わりを迎える場所へと飛んでいくのだ。

 

「ハァ…ハァ…私…死んで魔女に…」

 

希望を願い、そして呪いを振りまく絶望に飲まれようとした時、それは飛来するだろう。

 

「えっ…?」

 

現れた矢はまどかの幻影のような姿となってこう告げてくる。

 

<<もう大丈夫、誰も呪わなくていいからね…>>

 

絶望に染まりきったソウルジェムを握ったまどかの幻影が優しく両手で包んでくれる。

 

すると呪いの穢れはソウルジェムと共にこの世から消えてしまう。

 

「あっ……」

 

死を迎える魔法少女は何処か安らかな顔をしながら逝ったようだ。

 

ソウルジェムから生み出されるはずだった魔女は数多の世界で顕現する事無く消失する。

 

その光景はこの世界の過去・現在・未来のタイムラインでさえも起こり続ける。

 

アマラ宇宙である全ての平行世界で起き続けていく光景こそ、多次元を超える救いの手。

 

鹿目まどかの因果によって神の領域にまで高められた願いの力が奇跡を生む。

 

「何が…起こっているんだ?」

 

世界に広がる希望の矢を呆然と眺めている事しか出来ない人修羅。

 

その救いの手はワルプルギスの夜にまで及び、その巨体が崩れていく。

 

前方に見える光の柱の中には宙に浮かぶまどかが見える。

 

その光景はまるで世界の人柱のようにも見えるやもしれない。

 

最後の抵抗とばかりに大魔女の巨体が光の柱に目掛けて体当たりを仕掛けようとする。

 

「もういいんだよ…そんな姿になる前に、わたしが受け止めてあげるから…」

 

――もう誰も、呪わなくていい。

 

優しく抱きしめるように両手を広げ、ワルプルギスの夜を受け入れてくれる。

 

ついに大魔女の歯車は弾け、無数の魔法少女の魂が開放される光景が生み出されるだろう。

 

美しいエンディングのように見えるが、彼女はやり過ぎた者。

 

強大な神から奪うわけでなく、自分の魔力によって神の次元の大魔法を行使した者なのだ。

 

ソウルジェムが耐えきれるはずなどなかった。

 

<人修羅よ、ここからだ>>

 

人修羅の頭におぞましい闇の声が響くが、その念話の主ならば彼は知っている。

 

<貴様…!!>

 

<お前には見慣れた光景を…見届けてやれ>

 

「くっ!!!」

 

ソウルジェムは魔法行使に耐えきれるはずもなく亀裂が入り、生まれようとしている。

 

世界を滅ぼす魔女となり、宇宙さえ滅ぼせる魔女が鹿目まどかの中から顕現するだろう。

 

かつてない程の莫大な感情エネルギーが解き放たれていく。

 

感情エネルギーとは生体マグネタイトであり、感情から絞られるマガツヒ。

 

莫大な量を用いれば何を降臨させられるのかなら、人修羅は何度も見てきた者である。

 

「まさか……()()()()()()気なのか!!?」

 

守護とはマガツヒを用いてコトワリを成す為の神を降ろす召喚を表す。

 

「マガツヒ…感情エネルギー…この世界でも見る事になるなんて…」

 

マガツヒを求め、どれだけの命がかつての世界で犠牲になった?

 

この世界でさえ少女達がマガツヒの為に犠牲になり続けている現実があるだろう。

 

「こうまでして…世界は求めてしまうのか…理不尽な程に!」

 

苦しみ悶えて最後を迎えるまどかも人修羅と同じ気持ちとなってくれる。

 

(こんなエネルギーのせいで…どれだけの魔法少女が絶望を迎えたの…?)

 

宇宙を熱で温めて延命させるのが光の道?

 

宇宙を温める絶望の母親になれ?

 

宇宙の正義ではあるだろうが、それはまだ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

もうくれてなどやらないという感情こそがまどかの覚悟を示す力となるだろう。

 

(この感情の熱は…インキュベーターが少女達に涙を流させた熱さ…)

 

絶望させた少女達の希望を願った感情が込められている。

 

(もうあなた達の好きにはさせない…)

 

鹿目まどかは自己の真の理解に達した者。

 

自らの真の意志に応じて行為する為の本質的な方法を今、必要としている。

 

それを行使する方法を教えてくれた存在がいたようだ。

 

防災センターを出て直ぐに出会ってしまったのは黒いローブ姿の存在であり、語りかけてくる。

 

「あ、貴方は…誰ですか?」

 

「君が死を迎える時に必要となる魔術(セレマ)を与えよう」

 

「魔術…?」

 

「簡単なチャントだから、今から私が言う言葉を覚えておきなさい」

 

近代魔術の父と言われるアレイスター・クロウリーはこのような言葉を著作に残している。

 

自分が誰であり、何であり、なぜ存在しているのか、自分で見出し、確信しなければならない。

 

そのように追い求めるべき進路を自覚したら、それを遂行する為の条件を理解することである。

 

成功にとって異質、もしくは邪魔なあらゆる要素を自分自身から取り除く。

 

前述の条件を制するのに特に必要な自分の中の部分を発達させなければならない。

 

アレイスターが残した言葉をなぞるようにして、決意をもった少女が決断を叫ぶ。

 

その叫びはインキュベーターと光と熱の唯一神に対して宣戦布告の言葉となろう。

 

「わたし達の感情は…宇宙のものじゃない!皆を救う祈り!お願い響いて…わたしの感情!!」

 

まどかのソウルジェムはついに砕け散り、莫大な感情エネルギーが放出されていく。

 

世界が白い光で染まっていき、まどかの意識が薄れていく。

 

そんな中、最後の力を振り絞って鹿目まどかはチャントを唱えた。

 

――Eko Eko Azarak(響き)

 

――Eko Eko Zomelak(響け)

 

――Zod ru koz e zod ru koo(祈り、響け)

 

――Zod ru goz e goo ru moo(響け)

 

――Eeo Eeo hoo hoo hoo!(かすかに)

 

 

白い世界を漂うのは役目を終えた鹿目まどかの肉体。

 

その光景を見ることが出来たのは二人の存在であり、人修羅と黒いローブ姿の男である。

 

宙を浮くまどかの奥に見える白き景色が変化していき、天地が縦に向かって亀裂が入っていく。

 

襖ドアのようにして左右に開いていき、見えた領域とは虚構の世界。

 

異世界であろう、よそ者の世界なのだ。

 

「時空の溶け流れる無限の宇宙であるアマラ…そこには様々な世界が存在している」

 

「……知ってる」

 

「この世界は、大いなる神の真なる力によって生まれし正当なる世界の一つ」

 

「その言葉は…アマラ深界で聞いたよ」

 

「虚構とされた者達が集う世界があると、お前には語り伝えたはず」

 

「…覚えている」

 

「その世界に生きた概念存在達が望んだ事を、覚えているか?」

 

「それは…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ」

 

「その手立てを探すため、彼らは自らの世界を飛び立ち、アマラの海を超えた」

 

「異邦の存在である…()()()…」

 

その一体とはボルテクス界において人修羅は出会った事がある存在であろう。

 

「この神の気配……本当に奴なのか!!?」

 

様々な世界を巡る迷い神である異神の顕現がついに起こってしまう。

 

虚構の世界から現れ、世界の隙間を超えて迷い出た存在とは白く発光した女性と思われる人影。

 

「祐子先生…っ!?」

 

その姿は覚えており、その異神が取り憑いていたが切り捨てた女性の形をしている。

 

宙に浮かぶ遺体に近づくにつれ、その姿と形は変わっていき、鹿目まどかと同じ姿となるのだ。

 

「よせ……やめろ……やめろぉーーーッッ!!!」

 

かつての世界で見た悪夢の光景が魔法少女の世界でも再び繰り返される。

 

勇と千晶が辿った末路と同じく守護を纏い、コトワリを成す者が生まれる瞬間なのだ。

 

遺体を抱き上げた鹿目まどかの姿をした異神はまどかと同じ声でこう告げる。

 

<<()()()()()()()()()()よ。かの地にて、我はついに巡り会えた>>

 

かつて人修羅の事を自由という名の愚か者だと告げた異神は言葉を続ける。

 

<<女よ、よくぞ自由と可能性を信じてくれた。かつての世界の女は、それを否定した>>

 

<<自由をもたらすが我が使命、いかなる者をも解き放とうぞ>>

 

<<自らを由とすれば、世界には光が戻る。また、闇も戻る>>

 

<<理不尽に従うな、自らを由とせよ。女よ、汝は()()()()()()()()()()()>>

 

<<希望をもたらす真実を築こうぞ。それこそが、我と汝の悲願…()()()()()()()>>

 

鈍化した世界。

 

人修羅が駆けていき、守護に取り憑かれる前に鹿目まどかの遺体を守ろうとする。

 

それでも間に合わず、まどかの体に溶けるように異神は一つとなっていく。

 

すると巨大な光と化し、白き世界が消失していく。

 

また悲劇を繰り返す呪わしい神の名を人修羅は知っている。

 

ありったけの呪いを込めて、尚紀はこう叫ぶだろう。

 

「アラディアァァァァァァーーーッッ!!!!」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「……ここは?」

 

気がついたほむらが立っていた場所とは宇宙空間であり、地表を持つ星の大地。

 

<<そうか、君もまた、まどかと同じ時間を超える魔法の使い手だったね>>

 

インキュベーターの声が聞こえるが、その姿は何処にも見えない。

 

<<彼女がもたらした新しい法則に基づいて、宇宙が再編されているんだよ>>

 

「まどかは…どうなったの?」

 

<<見届けてあげるといい、鹿目まどかという存在の末路を>>

 

宇宙の彼方に見えた存在とは呪いの塊の如き黒い光を持った何かであり、流れてくる。

 

地球を遥かに超える巨大隕石にも見えるかもしれない。

 

それが地球にめがけて流れ堕ちてきたようだ。

 

<<あれが何だか解るかい?彼女の祈りがもたらしたソウルジェムさ>>

 

余りにも巨大過ぎる、神か悪魔の如き禍々しい超巨大魔女の姿。

 

黒き光を内側から解き放ち、おぞましい魔女の顔を曝け出す。

 

黒き光は魔女の腕のように広がっていき、地球を外側から包み込んでいく。

 

<<一つの宇宙を創りだすに等しい希望が遂げられた>>

 

魔法少女の法則とは、希望と同じ量の絶望がやってくる。

 

まどかの願いの規模ならば一つの宇宙を終わらせる程の絶望をもたらすことを意味する。

 

「あぁ…うぅ…!!」

 

両手で顔を覆い、絶望の言葉さえほむらは形に出来ない。

 

最愛の友達から生み出された魔女が、この世界を終わらせるのを見届ける事しか出来ない。

 

無力な暁美ほむらの罪であり罰の象徴となった魔女は地球を破壊するだろう。

 

太陽系を破壊し、銀河を破壊し、そして宇宙を破壊し尽くすだろう。

 

(私達魔法少女に…可能性なんてものは…)

 

<<…大丈夫だよ、ほむらちゃん>>

 

「まどか…!?」

 

白き世界で生み出されたのは巨大な光であり、地球から宇宙に目掛けて生み出されていく。

 

あまりにも長い髪を携えし神々しき御姿が顕現するだろう。

 

前は短いが後ろはロングドレスの裾程の長さを持つ白きスカート。

 

その内側は宇宙の光が見える。

 

発光する白き翼を持ちし、女神の両目は金色の瞳。

 

ボルテクス界でコトワリ神となった少年と少女が持っていた同じ瞳であり、人修羅とも同じ。

 

その目は神を表すのか、あるいは悪魔を表すのか。

 

顕現したのは絶望を否定する思想の象徴となったコトワリ神。

 

全ての宇宙を新たに導く規範となりし女神の御姿なのだ。

 

守護降ろしによって新たに生み出された概念存在の神名とはアラディア神。

 

かつて鹿目まどかと呼ばれた女神であった。

 

【アラディア】

 

1899年にチャールズ・リーランドという民俗史家が発表した書籍に登場する女神。

 

アラディアもしくは魔女の福音書において記された存在であろう。

 

魔女達はキリスト教以前の女神信仰を拠り所としている。

 

大母神ディアナの娘にして虐げられし貧しい者や異教徒を救うべく地上に降りた最初の魔女。

 

それが女神アラディアとされた。

 

アラディアは信者達に被抑圧者解放の祈りとしてサバトの儀式を広めた末に天に帰ったとある。

 

この神話は民俗学者の研究により取材した魔女による創作世界の虚構である事が発覚。

 

しかし創作ではあるが、現代魔女の概念形成に大きく寄与する形となるだろう。

 

アラディアと抑圧され虐げられた魔女という概念は現代魔女としてウィッカの思想形成を成す。

 

アラディアは夢想にて作り出された悲しき救い神。

 

強き神に追われ、迫害をうけた魔女と呼ばれし女性達の求めから生まれた存在。

 

魔女らはアラディアに自分達が力を授かり自由を得ることを祈った。

 

そして生に苦しむ民衆らが救われることを祈った。

 

しかしアラディアはその姿を地上に現すことはなかった。

 

政治や宗教、社会によって理不尽に殺された魔女らも救われることはなかった。

 

アラディアは、ただ()()()()()()()()()()()()()でしかなかった。

 

神が創りし人間が新たな神を創りだし、虚構の神アラディアという概念存在となるだろう。

 

概念存在となった女神が生み出したコトワリの名こそ、()()()()()()()であった。

 

<<わたしの願いは全ての魔女を消し去ること。本当にその願いが叶ったんだとしたら…>>

 

人々を弾圧する事を正当化した善悪二元論。

 

それを政治利用した為政者達が生み出したのは、呪われた魔女という概念。

 

まどかは願った。

 

――全ての魔女を、生まれる前に消し去りたい。

 

善悪二元論によって生み出された魔女という概念。

 

それまでもが消え去るのならば歴史の中において虐げられた女性達は救われる。

 

人々から悪者にされる魔女とはもう呼ばれないのやもしれない。

 

民衆に希望を振りまく夢と希望を与えしは魔法少女となるだろう。

 

そう皆に呼ばせる自由を今ここに女神は解き放つ。

 

<<わたしだって…絶望する必要はない!!>>

 

描かれしは円環の魔法陣、構えるは女神の薔薇弓。

 

光り輝く矢が魔法陣を貫くと無数に放たれたのは救いの一撃。

 

それらが宇宙を終わらせる極限の魔女を貫いていく。

 

<<わたし自身の絶望も…わたしが受け止めてみせる!!>>

 

悪魔の如き魔女の消滅する余波によって宇宙は白く覆われていくのであった。

 




読んで頂き、有難うございます。
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