人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
まどかから生み出された絶望の魔女の力によって宇宙が終わる光景が広がっていく。
その光景を遠く離れた星の海に立つ二人の人影が見つめている。
絶望の波動は地球を中心に波打ち、円を広げるように拡散してきたようだ。
「…あれは、魔女なのか?」
「そうだ」
「これ程の力なら…宇宙を終わらせる事が出来るな…」
「宇宙を破壊する力を持つ神々と戦ってきたお前が認めるのなら、そうだろうな」
「あの魔女は存在してはならない…今直ぐ俺が…!!」
「守りし者になれるかどうか見届けてやると、お前は鹿目まどかに言っただろう?」
「しかし…!!」
「最後まで手出し無用だ」
「くっ……」
尚紀の横に立つ者は黒衣を脱ぎ捨てており、長い金髪をオールバックに纏めた長身人物が立つ。
漆黒のダブルボタンスーツ、白いシャツには黄色柄のネクタイ。
ポケットには黄色のチーフをした闇のフォーマルスーツ姿である。
左目はメラニン色素が少ない白人特有の青い瞳であり、右目は悪魔を表す真紅の瞳のようだ。
「…あんたとよく似た人物を、アマラ深界の最奥で見たよ」
「相違ない。あれは老いた私の姿だ」
「子供だったり爺さんだったり、忙しい奴だな……ルシファー」
横の人物はボルテクス界で見た姿とは違う青年であり、20代半ばを思わせる成人男性である。
「貴様がイルミナティ共が崇める……啓蒙の光明神か!」
「そう言われているな」
「ペンタグラムを率いたサイファーとは何者だ!?なぜあいつらを使って…!!」
「静かに…現れるぞ」
彼の追求を片手で制し、もう片方の手が指差す方角とは地球。
地球から巨大な光が絶望の前方に現れ、それは人の姿となっていく。
「あれがアラディアと鹿目まどかが啓いた円環のコトワリを成す女神の姿だ」
「円環のコトワリ…?」
「あれこそ、かつてはコトワリの神の形にすら成れなかった…アラディアの真の姿だ」
「祐子先生とは融合出来なかったアラディアの…真の姿…?」
「見た目は人の形でも、あの中には全ての魔女が内包される群体神と言ったところだな」
「全ての魔女だと!?なら…あの魔法陣から放たれた光の矢とは…」
「どうだね?お前の体の中に取り込まれた魔女達は回収されたか?」
「…あの矢は俺の元には飛んでこなかった」
「そういう事だ。あの二人の魔女は…円環のコトワリでさえ回収する事は不可能だろう」
女神という概念存在ではなく、悪魔という概念存在に吸収され同化した生贄がいる。
その者達は悪魔に吸収された事で円環のコトワリと一体化した魔女と同じ末路なのだろう。
「あの二人に救いの手は届かなかった。それでも他の魔法少女達は救うだろう救済の女神だ」
「鹿目まどかであり…アラディアであり…円環のコトワリ…」
「どうだ?大いなる神に選ばされたコトワリの神の力は?」
「この霊圧…かつてのアーリマン、ノア、バアル・アバターを超えてやがる…」
「お前は誰も選ばず消滅させた為に、宇宙の規範となったコトワリの神の力を知らない」
「…どういう意味だ?」
「大いなる光の加護が与えられるのだ」
「光の加護だと?」
「高次元神域に座す、大いなる神に代わる物質界の導き手として相応しい贈り物だろう?」
「これ程の霊圧なら…間違いなく神霊の領域にまで達しているな…」
人修羅が全力を持って戦ったとしても、勝てるかどうかも分からない本物のコトワリ神の次元。
だが、それ以上に彼には疑問に思うことがあったようだ。
「何故だ!?ここはボルテクス界ではない!!なのに何故コトワリの神が現れた!?」
古き宇宙の死をもって宇宙を生み出す儀式、それがかつての受胎。
その世界の中央に座すのは新たな宇宙を無限の光を持って生み出す神霊カグツチ。
カグツチを開放させる存在こそがコトワリの神々である。
「簡単な事だ。彼女は一つの宇宙を創り出せる程の希望の光を叶えてしまったからさ」
宇宙が創り出される程の希望の光、それは無限光カグツチの光と酷似するはず。
「宇宙を生み出す無限光に匹敵する…希望の光…」
「その光を求め、コトワリの神は現れた。そしてコトワリを示し、宇宙を作るならば…」
「…かつての受胎儀式そのものか」
「全く、こんな創生はイレギュラー過ぎると思わないか?かつての創生を経験した者よ?」
拳が震える尚紀は再び繰り返された生贄儀式ともいえる創生の光景を罵倒してしまう。
「どうして繰り返されるんだ……こんな悲劇の創生は!!」
「それがアマラの摂理だからさ」
「…くっ!!!」
やり場のない怒りの先では円環のコトワリとなった女神アラディアの力が開放されていく。
「さぁ、ショータイムだ。ハンカチを用意した方がいいんじゃないか?」
円環の魔法陣から放たれたのは無数の光の矢。
絶望の魔女は浄化されるようにして崩れていく光景が広がり、宇宙は白い光で包まれるだろう。
「あの二人の最後は、お前にとっても……酷なものとなるのだから」
♦
赤紫の泡の渦が巻き起こるような不思議な空間。
その空間に漂うのは、かつて人間として生きた全ての世界の鹿目まどか。
インキュベーターの声が響く。
――鹿目まどか。これで君の人生は、始まりも終わりもなくなった。
――この世界に生きた証も、その記憶も、もう何処にも残されていない。
――君という存在は一つ上の領域にシフトして、ただの概念に成り果ててしまった。
――もう誰も君を認識出来ないし、君もまた誰にも干渉出来ない。
――君は、この宇宙の一員ではなくなった。
「…何よ…それ…」
衣服が透けて光る裸体姿をしているのは暁美ほむら。
彼女は最後の最後まで、まどかの終わりを見届けようとしている。
「冗談じゃないわ!これがまどかの望んだ結末だっていうの!?」
魂の次元上昇により神の領域にシフトアップする現象は
かつてこの神域にたどり着けた人間の代表例を挙げるなら、キリストや仏陀であろう。
さらに遥か太古の昔において例を挙げるなら天使の領域に辿り着いた二人がいる。
預言者ノアの曽祖父であり、アダムとエヴァの息子であるカインの子、エノク。
そしてエノクとは昇天して義兄弟の契りを結んだ預言者エリヤであろう。
物質界からの解脱による神の領域へのシフトアップなど、死よりも残酷に思えてくるはず。
<<…ううん、これでいいんだよ、ほむらちゃん>>
ほむらの後ろに現れたのは光体となったまどかであり、両肩を抱いてくれる。
<<今のわたしにはね、全てが見えるの>>
<<過去と未来、かつてありえた宇宙、ありえるかもしれない宇宙、みんな見える>>
<<だからね、全部解ったよ>>
<<ほむらちゃんがわたしの為に…頑張ってくれたこと…何もかも>>
「えっ…!!?」
繰り返す程にもつれていった彼女との距離がようやく解放され、まどかに伝わってくれる。
誰にも頼れず、誰にも真実を伝えられなかった旅路の苦しみを真に理解してもらえるのだ。
<<何度も泣いて、傷だらけになりながら、それでもわたしのために…戦い続けて…>>
今まで押し殺し続けた溢れ出す感情が耐えきれず、ほむらの目からは大粒の涙が零れだす。
<<こんなにも大切な友達がいたんだって、ずっと気づいてあげられなくてごめんね>>
「……まどかぁ!!」
繰り返し戦い続け、その度に友達を救えず、様々な世界が滅びては見捨ててきた苦しみの道。
彼女の歩んだ苦しみを、ようやくまどかに見てもらえた事が嬉しくて堪らない。
<<今のわたしになったから…本当の貴女を知ることが出来た>>
だからこそ言ってもらえる。
暁美ほむらが鹿目まどかに最も望んでいた言葉を送ってもらえる時がくるだろう。
<<ほむらちゃんは、わたしの最高の友達だったんだね>>
その一言だけで、ほむらの全ての苦しみは報われた。
彼女の心にも、光の温もりをまどかは与えてくれた。
「まどかはそれでいいの…?」
それでもこれは、二度と戻れない選択でしかない。
「帰る場所もなくなって、こんなところで独りぼっちで、みんな貴女の事を忘れて…」
<<これからのわたしはね、いつだって何処にでもいるの>>
<<見えなくても、聞こえなくても、ずっとほむらちゃんの側にいる>>
<<これが…わたしに出来る精一杯>>
神や悪魔の概念存在は本来この次元には存在せず、高次元領域に座す。
莫大な感情エネルギーを使って召喚でもされない限りは、この世界に干渉する事は出来ない。
改変されて新しく生まれる世界では極めて難しいだろう。
「そんなの嫌っ!!私だってまどかの事を忘れちゃう!!」
まるで気弱で病弱な昔の自分に帰ったかのような姿でほむらは哀願してしまう。
「二度と貴女を感じ取る事さえ…出来なくなる!!!」
無垢な彼女はまどかの胸に顔を埋めながら泣きじゃくる事しか出来なかった。
♦
「……そういう事だったのか」
この世界に投げ出された悪魔という概念存在、その者の名は嘉嶋尚紀であり人修羅である。
「どうりで…勇と千晶が消え去って…誰も覚えていないわけかよ…」
「…そしてお前もまた、誰にも覚えていてもらえなかった存在だ」
彼もまた目の前のまどかと同じ末路を歩んだ存在。
この世界に流された彼は、この世界の嘉嶋尚紀ではない。
かつて人間として生きた記憶を持ち合わせているだけの受肉した悪魔。
その現実を3年近い年月を重ねた末に、ようやく彼は見つけ出せた。
「これが…神や悪魔になるって事だったのかぁ!!!」
「そうだ」
宙を浮く二人の光景を遠くの泡立つ水面に立ち、見届け続ける者達の一人が水面で蹲る。
「親父もおふくろも…俺の事を覚えていてさえくれず…俺は家から投げ出された!!」
「当たり前だ。知らない赤の他人が家に上がりこめば、そうするだろう?」
「勇も千晶も消えちまった!!コトワリの神なんぞになったから!!」
「彼らが選んだ道だ。鹿目まどかと同じくな」
「俺は…おれは…おれはぁぁぁぁ……」
「完全なる悪魔となる道を選んだのは…お前自身だ」
「くそぉぉぉぉーーーーッッ!!!!!」
宙に浮く存在達には届かなくても、泣き叫ぶ程の慟哭の雄叫びを上げ続ける男悪魔。
その先では、ほむらに自分のリボンを託すまどかの姿が見えるだろう。
「クックックッ…大いなる神よ!お前にとっては堪えきれないアマラ宇宙が訪れるぞ!!」
本来、まどかが生きる世界で受胎など起こらない。
そして彼女はコトワリの神となる資格もなかった者。
だが、それさえ覆す程の因果を与えたのは誰だ?
その結果、大いなる神はこの世界でボルテクス界と同じ創生を用意せざるを得なくなった。
それはただ一つの宇宙影響では済まず、全ての宇宙にまで影響を及ぼす程のかつてない創生。
大いなる神はこれを止めることは許されなかっただろう。
全ての宇宙が犠牲になる結果が見えていたとしても。
「コトワリを示し、無現光を開放し、宇宙を生み出す!これは
それを破るとしたら、たとえ大いなる神であろうと無事では済まない。
自らが生み出した
「見えるぞ!大いなる神が慌てふためき!悶え苦しみ!混沌の悪魔が大笑い出来る光景が!」
この創生によって生み出されたコトワリは、全ての宇宙を飲み込む規範となるだろう。
全ての宇宙が終わるまで円環のコトワリは居座り続けるだろう。
宇宙が終わるまでは受胎を起こす事など不可能となり、宇宙は光と熱を失うだろう。
魔法少女達はもう大いなる神の為に感情エネルギーを使わせてくれなくなるのだから。
「死んでいくぞ…光と熱を失うアマラ宇宙は、次々に死んでいく!!」
円環のコトワリを否定するコトワリが生まれるまでは、彼女のコトワリは影響を及ぼし続ける。
宇宙を導く思想とは、それを滅ぼされない限り、いくらでも残り続けてしまう。
思想は核兵器でさえ滅ぼせない。
民に移り変わり伝わり続け、風邪のように滅ぼせずに伝染する。
宇宙の光が消えてゆき、全ての宇宙の光を司る大いなる神にさえ影響を及ぼすだろう。
受胎を起こす力さえ残らない程に、光と熱の神の力は衰えていく。
「アマラ宇宙に生きた全ての星も生命も死んでいく…二度と生まれない刻も来る」
未来の果てに残るのは、全ての生命も星も宇宙も消え去った混沌の闇のみ。
闇が宇宙の全てを支配する刻がくるのだ。
「屈辱だろう、大いなる神よ!これは
大いなる神に絶望が与えられる刻がくる。
「この世界の魔女達を…そういう存在にしたのは、お前自身なのだ!!」
女神アラディアであり、円環のコトワリ。
それは遠い未来の果てに全宇宙を虚構に変えてしまうコトワリの神。
「暁美ほむら…私はこの為にこそ!かつて存在した世界で
両手を広げながら大笑いするのは大いなる神が生んだ大いなる闇。
この空間も終わりを迎えようとする中、新たな法則によって改変された全ての宇宙が生まれる。
「宇宙を温めてきた母達に投げ捨てられ、熱を失い凍えながら死んでいく赤子の宇宙…」
――名付けるとしたら…
御大層な演説など遠い世界のように聞こえているのは尚紀の姿。
消えていく光景の中で、まどかとほむらを見届ける者となるだろう。
ほむらの手には、まどかから託されたリボンが握られている。
「暁美ほむら…お前もコトワリの神となる親友を救えなかった…」
人間の力を超えた存在となり、大切な親友を守る為に修羅となって生き地獄を旅した人修羅。
しかし誰も守れず、二人の親友はコトワリの神となり果てた光景を目にするだろう。
この世界のほむらと同じように彼もまた永遠に親友を失った者なのだ。
「お前の悲しみ、叫び、慟哭、絶望、そして怒りが…手にとるように俺には分かる…」
暁美ほむらは創生と関わる人修羅の道をなぞってきた魔法少女。
ならば彼女の存在とは、誰かと重なってくるはず。
「お前は
――俺と同じ……
――――――――――――――――――――――――――――――――
ここは何処かの宇宙の地球であり、見えるのは夜空の光景。
眼下には見滝原市と呼ばれる大都市が見え、見滝原市庁舎から近いオペラ座が見えてくる。
照らされた会場ステージでは赤い幕の奥からステージに歩いてくる少年がいる。
見滝原中学校の男子生徒姿をしている少年が持っていたのはヴァイオリンだったようだ。
「25番、上条恭介です。課題曲はアヴェ・マリア」
客のいない観客席の数席には審査員達が座り、そこから少し離れた後ろ側にも誰かが見える。
照らされた席に座る二人の少女の幻影は誰にも存在を認識されず、恭介ですら見えていない。
アヴェ・マリアの演奏が披露される中、少女の幻影達はその音色に耳を傾ける。
「…なんか、手間かけさせちゃったね」
「…こっちこそ、ごめん」
かつての世界で親友だったまどかはこの世界の美樹さやかを迎えに来た女神。
さやかの声は、女神の分霊に向けられている。
その雰囲気は、かつての親友を思い出す光景にも見えるやもしれない。
「さやかちゃんを救うには、何もかも無かった事にするしかなくて…」
さやかが見たかったモノを覚えているまどかだからこそ、全てを無かった事にはしない。
「そしたら、この未来も消えちゃう…」
それは想い人だった恭介が、無事にヴァイオリンの夢を追える姿を見ること。
「でもそれはたぶん、さやかちゃんの望む形じゃないんだろうなって…」
魔法少女達を救う為に鹿目まどかは全宇宙の人柱となるコトワリの神の道を進む。
全ての宇宙の過去・現在・未来の終わりまでを生きる救い神となるだろう。
魔法少女達を無限に救い続ける光の矢を放つ射手として存在し続けるだろう。
「さやかちゃんの祈った事も、その為に頑張ってきた事も、とっても大切で…」
魔法少女となったさやかの絶望を救済し、女神の内に取り込む。
それはこの宇宙からさやかが消滅する事を意味する。
最後だからこそ、彼女の望みの形を聞いてみたくてこの場所に連れてきたようだ。
「絶対に無意味じゃなかったと思う。だからどうか…人の道に反してでも…私と一つになって」
「…うん、これでいいよ」
まどかは友達の望む形を信じ、インキュベーターに対して地球に関わるなと言わなかった者。
魔法少女という殺し合いの世界で生きる者が生まれる事を肯定する道を選んだ者。
生きる人生の果に残酷に殺される末路を肯定した者でもあるのだ。
人の歴史の中で生み出される、かつて魔女と呼ばれて迫害された者達とて同じ末路。
たとえ魔女と呼ばれなくても、
社会から悪者にされ、陵辱され、殺害される末路を救わないだろう。
貶められた歴史を生きた女達の救われたい願望によって生まれた女神こそ、新たなアラディア。
口伝をもって抽象化された希望という概念存在に過ぎない女神であるのだ。
アラディアであり、心優しきまどかでもあるが、彼女の行く道は残酷そのもの。
歴史の中で惨たらしく殺されていく魔法少女達を見ている事しかしない女神。
彼女達のソウルジェムが終わりを迎える瞬間まで現れてはくれない女神。
アラディアは、ただ信徒に
これこそが、魔女の救い神として伝承されていくアラディア神話となった。
「そうだよ、あたしはただ…もう一度あいつの演奏を聞きたかっただけなんだ」
さやかは恭介の夢を信じた末に魔法少女となった者だからこそ、決断を伝えてくれる。
「あたしはもっと…大勢の人達に彼のヴァイオリンの音色を聞いて欲しかっただけ」
それだけのためにさやかは一つだけの願いを彼に捧げた恋する女。
魔法少女となり、散り果てた末にこの世界からも抹消されるだろう。
何一つ人間らしい見返りもなしに消えたとしても、本望だと言ってくれる。
「それを思い出せただけで…十分だよ」
「…さやかちゃん」
ステージ幕の奥には、この世界に生きる志筑仁美の姿が見える。
彼女はステージ中央で演奏する恭介の姿を熱を帯びた瞳で見つめ続けている。
まるで後方彼女とでもアピールしたいかのように見えてくるやもしれない。
この世界でも彼女はさやかから想い人を奪うような真似をしたのだろうか?
「確かにさ、ちょっと悔しいけど仁美じゃ仕方ないや。恭介には勿体ないくらい良い子だし…」
殺し合いの世界でしか生きられなかったからこそ身を引いてくれる。
普通の世界に生きる人と最後まで添い遂げられないなら諦めて誰かに託す。
さやかは自身の恋心を冷たい海に捨てるだろう。
男女恋愛を願った人魚の恋慕の心は虚しく散り果て海に沈む。
それでも最後ぐらいは想い人だった恭介の幸有る人生を願うだろう。
涙を流しながらこう言ってくれるのだ。
「きっと……幸せになってくれるよね」
彼女の悲痛な気持ちこそ、全宇宙の歴史の中で生きた魔法少女達も経験している。
見ている事しか許されなかった女神の無力さを噛み締めながら、まどかは彼女を導くだろう。
「うん…それじゃ…行こうか」
席を立ち上がり、この世界の一つ上の次元へと旅立っていくのであった。
♦
「アラディア神話…か」
オペラ座で恭介の演奏を聞いていたのは審査員だけではない。
5階席に座っていた人物とは大魔王ルシファーの姿である。
横の席に留まっているのはアモンと呼ばれた梟のようだ。
「あの神話には、被抑圧者解放の祈りとして
「サバトは収穫祭を祝う祝日ですな」
「世界の子供達にとっては
「古代ケルト人が行っていたサウィン祭やサムハイン祭が起源となりますね」
「執り行っていたのが
「火を焚き、収穫された作物や動物などを与えてくれた神に祈りを捧げておりましたな」
「村民達は牛の骨を炎の上に投げ込んで、火を燃え上がらせていく…」
「クックッ…実に禍々しい祭りです。中東の悪魔信仰は遠い英国の地にも根ざした証ですな」
「ゾロアスター教…
「それを取り入れたドルイド達が行ったのは…
「ドルイドの生贄儀式は独特だ。犠牲者をじわじわ殺していくものが多い」
「生贄が倒れた時の姿勢や、こぼれた血の量などで吉凶を判断するのが連中です」
ドルイドの生贄儀式で最も有名なものが
木で作られた巨大な人形の檻の中に多くの犠牲者を詰め込んだ上で火にかけるという。
「ウィッカーマンとは、
「アラディア…吾輩には、あの神が救済の女神などとは思えませんな」
「鹿目まどかとアラディアが啓いた円環のコトワリ…だが、実態はどうだ?」
「魔法少女が生まれるのを肯定し、結果として血みどろの殺し合いが続く地獄へと誘う」
「女神はそれを見届け、
「ハハハ…建前では魔法少女の願いが尊いからと言っておりましたがね…」
「魔法少女から見れば救済でも、残された人間から見れば…どうだ?」
魔法少女になってしまったせいで我が子がこの世から消え、嘆き苦しむ。
人間から見れば、我が子の命が神の生贄に捧げられていくも同然であろうと大魔王は語る。
「人々はサバトをハロウィンだと言って面白可笑しく楽しむ…実に滑稽だと思わないか?」
「子供達の命が生贄にされる楽しいイベント…まさに子供達の死を愚弄する光景ですな」
「母親の涙と子供達の血に塗れた魔王の賛美…それこそがハロウィンの正体だ」
「魔法少女の
「それが、我々混沌の悪魔が解釈する…円環のコトワリ神アラディアの正体」
――鹿目まどかは人々から呪われるだろう、我が子を返してくれとな。
「……さやか?」
演奏を終えて観客席を見つめた恭介は幼馴染のさやかがいない事にようやく気がついてくれる。
「…何も知らぬ人間の少年。彼ならば、円環のコトワリをどう解釈するでしょうな?」
「魔法少女の主観的な意見とは違うだろう。客観的な意見を述べるやもしれん」
「大切な幼馴染を連れ去っていく女神なら…彼は怒り狂い、こう叫ぶでしょう」
――
――――――――――――――――――――――――――――――――
暁美ほむらが次の世界を認識した最初の場所となったのは見滝原駅ホーム内。
目の前には3メートル程度の大きさはあるが大した魔力も感じない存在達もいる。
見たことがない存在が燃えていくのを呆然と見つめてしまう。
それは白い体を持つ大きな男達。
古代ローマで男性が使うトガと思われる白いウール布を纏う聖職者のような姿のようだ。
禿げた白い頭をしており、素顔自体は分からない。
特徴的なのは顔や体の周りを覆う複数の四角いポリゴンであろう。
かつてアラディアはこんな言葉を残す。
――自らを由とすれば、世界には光が戻る。
――また、闇も戻る。
この存在こそ女神アラディアが言った存在であり、人間達に闇をもたらす存在か?
あるいはかつての世界を取り戻そうと足掻く光の勢力か?
白き男達を相手にする新たな世界の魔法少女達はこう呼んでいる。
人に見えざる魔獣なのだと。
「おい…さやかは!?さやかはどうした!!」
この世界では生きていた佐倉杏子は友達となれた存在の身を案じて叫ぶ。
「逝ってしまったわ…円環のコトワリに導かれて。それが魔法少女の運命よ」
この世界では生きていた巴マミは淡々としている。
さやかは全ての力を魔獣にぶつけてこの世界から消え去ったと仲間達に伝えたようだ。
杏子とマミの姿を見つめているのが新たな世界の暁美ほむらであろう。
「希望を求めた因果がこの世に呪いをもたらす前に、私達魔法少女は消え去るしかない」
遠い世界の言葉が聞こえてくるが、ほむらの手にはかつての世界の温もりが握られている。
リボンを胸に抱き締めながらこの世に存在しない者の名前を呟くのだ。
「……まどか」
急に知らない女の子の名前を呟いた彼女に視線を向ける仲間達は驚いた顔つきになる。
「暁美さん?…まどかって」
「…誰だ?」
神や悪魔となった概念存在を覚えているはずがない。
概念とは口伝や神話伝承などで人間の思考意識の世界で作られるイメージ存在。
杏子とマミにとっては、ほむらの頭の中に浮かんだ誰かだと察する以外に無い。
この世界の暁美ほむらはどうして実在しない人物の名を覚えていたのだろうか?
それは彼女と、そして一部の存在達が知るのみであった。
♦
夕暮れに染まる見滝原市の住宅区と工業区を分ける川沿いの遊歩道。
学校からの帰宅道を帰るほむらは小さな子供と出会う。
棒切れを使って地面に落書きをしていたのを見た事で興味深そうに見物していく。
可愛らしい衣装を着たキャラクターの絵と名前が見え、まどかと書かれている。
3~4歳ぐらいの小さい男の子の横で膝を曲げて座りながら目線を合わせてくれる。
「まどか!まどか!」
「…うん、そうだね。そっくりだよ」
ほむらはこの子供の存在を知っており、名前は鹿目タツヤ。
かつての世界においては鹿目まどかの弟だった人物であろう。
かつての世界ならまだしも、この世界のタツヤには姉など存在しないはず。
ほむらの頭に巻かれているモノにタツヤは興味が向いてしまう。
かつての世界では複数の宝石のようなデザインをした黒いカチューシャを身に着けていたはず。
この世界の彼女は赤いリボンを代わりとし、左側頭部で余った部分を蝶結びしているようだ。
余程それが気に入ったのか、タツヤが手を伸ばそうとする。
そんな時に保護者の父親が現れ、ヤンチャな我が子を抱きかかえてくれる。
「コラ、駄目じゃないかタツヤ。女の子の髪を引っ張るのは」
「まどか!まどかー!」
「すみません!大丈夫でしたか?」
「いえ、こちらこそ…お邪魔してしまって」
父親の腕の中で無邪気に暴れる我が子をあやす男性も自分を心配してくれる女性も覚えている。
男性は鹿目知久、そして女性は鹿目詢子。
かつては鹿目まどかの両親と呼ばれた二人である。
「…まどか!」
「うん、そうだね」
ヤンチャな子供の相手をする父親を見守るようにして、ほむらと詢子は堤防に腰を下ろす。
「誰かな?あの子が一人遊びする時の見えない友達ってやつ?子供の頃はよくあるんだけどね」
「…ええ、私にも覚えがあります」
「まどかってさ…貴女も知ってるの?アニメか何かのキャラ?」
「…さぁ、どうだったか」
「そっか…」
大きく背伸びをして夕日の空を見上げる詢子の視線は何処か遠い世界を見ている。
「偶にね、すっごく懐かしい響きだなぁって思うんだ…まどか」
「…そうですね」
かつての世界の終わりにおいて、まどかはほむらにリボンを託す。
その時にこんな言葉を残している。
――魔法少女はさ、夢と希望を叶えるんだから!
――ほんの少しなら、本当の奇跡が起こるかもしれない。
夢と希望を叶える存在、それが魔法少女。
(…取り残された今の私に、それを言う資格があるの?)
もう交わした約束は守れない、まどかはこの世にはいない。
(守るべき人のいない世界で……私は……どう生きるべきなの?)
それを探す新たなる戦いの火蓋が始まっていく。
かつての世界の記憶を持った魔法少女、その者の名は暁美ほむら。
しかし、そんな彼女に対して無言で問いかける人物の姿も近くにいる。
(これが本当に……お前の望んだ世界だったのか?)
悲しい目を向けていた人物とは、黒いトレンチコートを纏った嘉嶋尚紀であった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
東京の深夜において、瘴気が漂う路地裏に張られた魔獣結界が発生する。
内部では東京の魔法少女達が生き残る為の戦いを繰り広げているようだ。
魔獣の結界は独特であり、人間を襲う混沌の悪魔達の結界である異界と酷似する。
背景世界に現実の建物が映り込むような物質界の中間層を表すたぐいのものだろう。
ならば魔法少女や悪魔達ならば外側からも魔獣の結界内を見る事も出来るはず。
ビルの屋上から彼女達の戦いの光景を見下ろしている悪魔達がいたようだ。
「…あれがお前達の新しい親戚か。この世界の魔獣って奴らさ」
「ドン引きよ!何よ…あの白禿頭の男共!美しい魔獣である私と一緒にしないで!!」
「ニャー…あれと種族が同類扱いされるのは…勘弁して欲しいニャー」
二匹の猫悪魔を連れた尚紀は新しい世界の光景を見つめている。
彼もかつての世界の記憶を持つ存在であり、ケットシーとネコマタも覚えている。
円環のコトワリの改変は悪魔とその末裔達にまで影響を及ぼせなかったようだ。
神の摂理に抗えるのは、いつだって悪魔なのであろう。
「ねぇ、尚紀…。その…残念だったわね」
「風華さん…この世界でも死んじゃってたニャー…」
「……………」
この新しい世界に彼も放り出されてしまい、目覚めたのは自宅のベット。
隣にいたルシファーの姿は何処にも見えない。
新たに生み出された世界において尚紀はどんな生き方をしてきた事にされたのか?
かつての世界で関わってきた人達がどうなったのかを彼は調べ上げる。
職場の丈二と瑠偉も尚紀の事を覚えており、歌舞伎町のシュウも覚えてくれている。
ニコラスも覚えており、ニュクスも覚えている。
変わらない関係が続いてくれていたようだ。
「魔獣が現れてからは…東京の魔法少女社会は少し変化したな」
「魔女も使い魔も存在しないわね。その代わりに現れたのが…あのハゲた男共よ」
「魔獣って連中は、1個体の力は魔女の中でも特に弱かった奴らの領域だニャ」
「でも…現れる数が膨大過ぎよね…」
「魔獣はコロニーを形成して瘴気を放ち、尽きることなく増え続ける存在のようだ」
「魔獣から得られる新しい魔力を回復させる道具が生み出されたのよね?」
「そうだ。連中はグリーフキューブと呼んでいる」
「なんかサイコロのように小さいみたいだニャ?そんなのを体内に内包しているニャ?」
「数の多い魔獣から沢山手に入れられるなら、魔力回復を巡る戦いが起きないのも頷ける」
「それを生み出す為に魔獣達は人間を襲って感情を喰らい、廃人にしていくのよ」
「…唯一神の苦肉の策かもな」
「感情エネルギーは人間達も持っているしね…」
「微量でも宇宙延命のために回収を試みようとしているのかニャ?」
「だとしたら、魔獣という存在は唯一神が生み出した光と熱の秩序だろうな」
「それにしても…変わらなかった部分もあるわね」
「他の街は知らないが…東京の魔法少女社会は変わらない部分だらけだった」
個人主義に腐り、魔法の力を人間社会に向けて使う自由主義の魔法少女達。
魔力の奪い合いは起こらなくても、半グレビジネスの縄張り争いなら起きたのだろう。
グループ同士のビジネス抗争となるため、戦力として新しい魔法少女は必要とされる。
グループに加入するか、はぐれ魔法少女として扱われるかを迫られる暴力社会があったのだ。
「腐った魔法少女共と俺の関係も変わりそうにないな…」
「東京を調べ終えた後、尚紀は風見野市に行ってみたのよね?」
「ああ…そこで俺は、この世界の杏子と出会う事が出来たよ」
その時の記憶が頭の中に浮かんでいく。
風見野市に帰ってきた尚紀は慌てて駆け寄りながら知っている魔法少女を問いただす。
「教えろ杏子!!風華は…佐倉牧師達はどうなった!?」
「何だよ尚紀!?覚えてないのかよ!」
「どうなんだ!!答えろ杏子!!!」
「落ち着けよ!取り敢えず立ち話も目立つし、腹減ったから落ち着いて飯食える場所で話すよ」
杏子が自分の事を覚えていてくれた事で少しだけ安堵する。
佐倉牧師の家族達との関係もこの世界で生まれていた証拠なのだから。
行きつけのラーメン屋に杏子と共に入り、ラーメンを啜る彼女の口から経緯を聞かされる。
やはり風華と家族達は死に、家と呼べる場所も燃えていたと聞かされる。
呪われた彼の重荷は新たな世界でも消えなかったようだ。
この世界の魔法少女達の経緯も聞かされた時、不可解な部分が出てくる。
2年前の1月28日、風華の遺体を教会に持ち込んだのは尚紀だという。
(…この世界の魔法少女である風華は、円環のコトワリに導かれなかったのか?)
死にゆく風華のソウルジェムに対して悪魔は何をしたのかを考えると背筋が寒くなる。
(…それを行った記憶はない。それでも…それ以外に考えられない…)
この世界の悪魔は風華のソウルジェムを喰っている。
ソウルジェムと共に遺体も消滅する法則は崩され、遺体が残ったお陰で葬式も出来たのだろう。
(悪魔の本能がそうさせたのか…?それとも、彼女が望んだのか…?)
その時の記憶を持たない尚紀には判断出来ない。
風華の墓に花を添える彼の顔は苦悶に満ちている。
「すまない…この世界の風華。お前まで俺は…救えなかった」
彼女を殺したのはやはりこの世界のペンタグラムであろう。
ニュースを調べたらその時の争乱を見つけたようだ。
「あの事件は…1・28事件として人々の記録に残されたんだな…」
♦
新しい世界を見つめる尚紀の目は虚しさに満ちている。
魔法少女達の社会は変わっても、自分が背負う重荷は何一つ変わらなかった。
「でも!尚紀の妹の杏子ちゃんは生きててくれたニャ…」
「それだけでも、救いはあるわ…尚紀」
「あいつとの因縁は変わらない。杏子の大切な人達を焼いた事はこの世界でも変わらなかった」
「…殺し合うの?佐倉杏子と?」
「…その時がくればな」
「やめるニャ!!犯した罪も尚紀が肩代わりしたし…きっと更生してくれるはずだニャー!!」
(俺を心配してくれる家族のような存在は…この二匹の仲魔達ぐらいだな)
無表情のまま踵を返して彼は帰っていく。
「これからどうするの?」
「やる事は変わらない。俺は東京の守護者だ」
「また血煙舞う日々が続くのかニャ…。尚紀も少しは楽しみぐらい持つべきだニャ!」
「楽しみか…一つだけあるかもな」
世界が終わる時に見たあの魔法少女の姿が頭を過る。
自分と同じくこの世界に流れ着く確信が彼にはあった。
「見届けてみたい奴が現れた」
「それは…魔法少女なのかしら?」
彼の歩みが止まり、振り返る悪魔の口元には不敵な笑みが浮かんでいる。
「もうひとりの、俺だ」
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むかしむかし、未来の向こう。
お空の先の彼方では、素敵なお国、御座します。
魔法少女達の女神さま、今日もレコードに耳を傾ける。
くるくる回る無数の溝が、異口同音奏でる歌は、魔法少女の希望の歌声。
天の川、溢れ堕ちる雫、たくさんの歌声が重なる。
女神さま、まぁるいお顔、にっこり、ほっこり、綻ばせる。
それだけ?本当に?本当に、それだけ?
女神さまなら、聞こえるだろう?
<<
素敵なお国、高次元に座す円環の女神さま。
その世界は涙で濡れた、天の川。
雫は尽きず、永遠に零れる、熱い雫。
蓄音機、今日も聞こえるかわいい声。
ねーたん!まどかーー!
女神さま、覚えてる、家族を抱いた、温もりを。
<<お前が捨てたのだ、その温もりを!!!!>>
女神さま、うつくしい翼。
嘆き、もがき、白き羽根で埋め尽くされた、素敵なお国。
<<自由とは、
ねーたん!あそぼーあそぼー!
女神さま、まぁるいお顔、熱い雫。
だってこれが、まどかが選んだ、道だから。
「うああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー……ッッ!!!!」
天の川、 熱い雫、 白き羽根、素敵なお国。
ココハ、ステキなお国。
女神さま、永遠に出られない。
それはきっと、
読んで頂き、有難うございます。