人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
ここはかつての宇宙とは違う世界の見滝原市。
美しい森林に囲まれた通学の風景が広がっているようだ。
男子生徒も女子生徒も学校に入り、自分達のクラスに入っていく。
この学校は近代的未来都市を象徴しており、普通の学校には見られない特徴が見られるだろう。
クラスを仕切る壁はガラスであり、向こう側が見える。
開放的な雰囲気だが授業中になればこのガラスはスモーク状に曇ってしまう。
外からは見えなくなる仕組みを採用しているようだ。
生徒の机も椅子も一体型であり、地面に収納出来る折り畳みのモノ。
黒板は電子黒板であり、電子ペンで授業内容を記入していく。
学校の外観も全面ガラス張りであり、まるで美術館か市民ホールのような外観に見える。
21世紀の近代的IT需要による答えをソリューションしているかのような中学校であろう。
クラスの一室に座り朝のHRを受ける人物とはこの世界の暁美ほむら。
担任教師である早乙女和子先生がクラスに入ってくる。
彼女は出入り口近くのセンサーに触れてガラス壁を曇らせた後、いつもの日課をこなす。
「皆さん!HRを始める前にお話する事があります!!」
眼鏡にボブカットヘアーをした30代半ばには見えない若々しい女性教師。
しかし何やら怪しい雰囲気をしている。
「マヤ暦で予言された世界の終わりをやり過ごしたからって、イイ気になってませんか?」
眼鏡を光らせ、怪しい笑みを浮かべていく。
「とある宗教の祭礼の日に合わせて、日食と月食が6回起こっちゃうという話です!」
普通は色々ツッコミが生徒達から入る光景である。
これがいつもの担任のノリなのであり、生徒達には平常運転なのだ。
「怖いですね~?それに2050年までに何が起こるのかと言えば…はい!中沢君!!」
いつも和子先生の理不尽な問題を突きつけられる役割を持つ男子生徒がいる。
クラスでは中沢と呼ばれる少年のようだ。
「えと、いや…ちょっと何のことだか…」
「あちらの国では41%の人々が、後40年もしないで神の子が再臨すると信じてるそうです」
担任の雰囲気はさらに怪しい手振り身動きを始めてしまう。
まるで悪魔憑きにでもあったのかと傍からは見えるやもしれない。
今日は特にクレイジーな奇行が続いていく中、担任教師が次に語った言葉にほむらは反応する。
――
「…黙示録」
夜中に飛び起きるように目を覚ました事が何日か前にあったのをほむらは思い出す。
眠っていた時に見た白い夢の内容が気になって忘れられないのであろう。
その中で聖書の黙示録に関わる事を聞いた気がする。
黒いトレンチコート姿に白い髪をした男がそんな話を言っていたはずだと考え込む。
「まぁ、でも先生ね…世界が滅んじゃうのもいいかなって思うんです」
「…あの」
「男女関係とか、恋愛とか、もう沢山ですし…」
「…ちょっと!」
「四捨五入して40歳と言われるぐらいなら、もういっそ何もかもお終いになっちゃった方が」
「先生…!?」
どうやら和子先生の奇行原因は男にフラれてハイテンションなのであろう。
いつもの担任の奇行、それにツッコミを入れる中沢。
これも時間渡航で繰り返し見た光景だが、それでもこの世界に流れ着いた場面は異質。
黙示録を担任教師が語るHRの光景は暁美ほむらの記憶に強く焼き付く事になってしまった。
♦
時刻も夕方、今日の授業を終えた学生達が学校の正門を出ていく光景が続く。
部活動には参加しないほむらもその中に混じっており、正門を出て曲がると二人の人物がいる。
「よぉ、ほむら」
「待ってたわ、暁美さん」
「…杏子、巴マミ」
この世界の見滝原市において膨大な数の魔獣と戦うために手を組んだ魔法少女達である。
1人が減り、今は3人となったようだ。
場所を移すように歩いていき、人気のない公園の屋根のあるベンチに座って向かい合う。
「ついでに反省会をするぞー…なんて言わないだろうな~マミ?」
「美樹さんが亡くなったのは全員の責任よ。誰かに責任があるだなんて…擦り付けないわ」
2人はまだ仲間を失った事から立ち直れていないようだ。
「つまらない用事なら、私は帰るわよ」
「いえ…そういうつもりじゃなかったの…」
「ただ…気になってな」
視線はほむらに集中しているところからし、用事とは暁美ほむらに対する疑問であろう。
「暁美さん…あの時呟いた名前の子って…誰?」
「っ!?」
あの時、無意識に呟いてしまったのはかつての親友の名である。
「たしか…まどかって言わなかったか?どこかの魔法少女なのか?」
あの時は2人に問い詰められる前に走り去ってしまったが、それを今問い詰められている。
(説明出来るはずがない…頭がおかしいと思われるだけよ…)
「仲間を失った事は悲しいわ。それでも乗り越えて魔獣に負けないよう戦わなければいけない」
「あたし達のやり方に合う奴だとしたら、戦力として考えてもいいってマミと相談してな」
この世界の魔獣は大群で攻めてくる。
かつての世界のように個人で戦い続けるのは数の暴力を受ける弊害をもたらす。
その為この世界の魔法少女は率先して魔法少女達で集まり合い、集団を組む。
グリーフシードを求めて個人同士で争い合っていたかつての世界とは違うようだ。
「…貴女達には関係ない話よ」
「私達はチームよ?親友だとは言わないけれど、せめて隠し事は無しにしてくれる?」
「その必要はないわ。これは私個人の問題なの」
「さやかが死んだあの空気で、さやか以上に気になる奴を優先するような言動…おかしくね?」
「そ…それは……」
「何…隠してんだ?」
「いい加減にして!尋問をするつもりなら私は帰るわ!!」
苛立ちを隠さず席を立ち、帰ろうとするのだがその足が止まってしまう。
「…確かに、あの時の場所で言うべき言葉じゃなかったわ。…ごめんなさい」
「帰る前に確認させてくれよ?お前の知ってるまどかって奴を戦力として考えていいのか?」
「いいえ、戦力にはならない。私の知ってるまどかはもう…」
――魔法少女じゃないし、この街にはいない。
「魔法少女じゃ…なくなった?」
意味深な言葉を残し、彼女は帰っていく。
「あいつとは付き合い短いからなぁ…いまいち分からないんだよ」
杏子は両手を後ろに組んで後ろの背もたれに深く座り、天井を見上げてしまう。
そんな彼女に視線を移すマミは申し訳ない顔つきをする。
「暁美さんの触れられたくない部分を突いてしまった気がするわね…」
「まどかってのに期待出来ないなら、あたしらは3人でやってくしかねーな」
「…提案があるの。この街にはもう一組、魔法少女グループがいるのよ」
古くから魔法少女としてこの街を守ってきたマミは見滝原の魔法少女達をよく知る者である。
「あたしらは商業区や住宅区、工業区にまで広がって戦ってたけど、見かけなかったぞ?」
「見滝原政治行政区と呼ばれる海沿いや、郊外に出来た高級住宅街を中心に活動しているの」
彼女達の話に聞き耳を立てるのは自販機の裏側に隠れているほむらの姿である。
「そいつらは信用出来るのか?」
「一度しか会ってないけど、とても聡明で使命感を持つ魔法少女がグループを率いているわ」
――たしか名前は…美国織莉子さんよ。
その一言を聞いた瞬間、ほむらの頭に一つの光景が浮かぶ。
黒い破片を壁に向けて投げる姿。
ほむらが銃殺して死にゆく白き魔法少女。
その破片は壁を突き破り、向こう側にいた人間の命を奪ってしまう。
奪われた人間の名は鹿目まどかなのだ。
握り込む拳に力が入り込み、震えていく。
「美国織莉子?あたしは知らない奴だけど、そいつらの実力は…」
「ふざけないでっ!!!!」
怒鳴る声がした方を振り向くと、帰ったはずのほむらが怖い顔つきで歩いてくる。
「ほむら!?お前帰ったんじゃ…」
「美国織莉子と共闘するですって!?冗談じゃないわ!!」
「暁美さん!?美国さんを知っているの!?」
「あの女達と共闘をしようだなんて言うのなら、私はこのチームを抜けるわよ!!」
「落ち着けって!まだ決まったわけじゃねーよ!」
感情の起伏が激しい彼女だが、それでも織莉子に向けられる怒りは尋常ではない。
「美国さんが貴女に何をしたっていうの?これも説明出来ない事なの、暁美さん?」
「あの女は…っ!」
――まどかを殺した魔法少女。
その一言が喉の奥から出かけた時、彼女は我に返って言葉を飲み込む。
「……なんでもないわ。ごめんなさい」
「おいほむら!何を隠してるのかいい加減…」
「それでも今言った言葉通りよ。美国織莉子と組む気は…私には欠片もない」
再び後ろに振り返り、問い詰められまいと走り去るようにして帰っていく。
「ますます…分からない奴だよな、ほむらって?」
「ええ…一体彼女は何を経験したというのかしら…?」
取り残された2人の仲間達は暁美ほむらの背中を呆然と見送る事しか出来なかった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「脳内世界に生きる不思議ちゃん…なんて、思えないモンを感じるんだよなぁ」
同じく帰路につく杏子とマミは商業区の繁華街を歩いていく。
この時間帯なら見滝原中学校の生徒達も同じように歩く景色が見えるだろう。
その中に溶け込むようにする杏子は見滝原女子学生服を着込んでいるようだ。
「しかしマミの借り物だけど、やっぱ胸の辺りがスースーするよなぁ…この服」
「ちょっと佐倉さん!?私が太ってるって言うの!」
「ちげーよ!ったく…何食ったらそんな胸のサイズになるんだ?」
これは見滝原中学校の屋上に集まり、魔法少女会議をする時に入り込むための借り物。
バストサイズが全く合わないため、上着だけサイズを超えていたようだ。
育ち盛りの時期に杏子は食事に困る人生を送ったせいかか貧相なバストサイズ。
対してマミのバストサイズは豊満な女子大生に見えてしまう程であろう。
同じ女として、少しだけ嫉妬を感じてしまったようだ。
(15~16歳で女の体が完成するって聞いたことがある…今からでもあたしは…育つ?)
そんな事を考えていたら腹の虫が鳴り出してしまう。
「なぁ、マミ。魔獣の瘴気も感じないし、ちょっと店で腹ごしらえして帰らないか?」
「…買い食いをしたら太るから嫌」
(さっきの言葉を気にしてるのか?体重計に乗るのが怖いタイプ?)
「冗談だって!マミは細い腰だし、太腿だって肉付きがいいぐらいの…」
「太るのは嫌!!」
(…地雷を踏んじまったか)
背を向けて震える頑ななマミの姿を見る杏子は申し訳ない気持ちを抱えてしまう。
(…奢ってもらおうと考えていたけど、上手くいかないよな)
「しゃーねぇな…ホテルに帰って着替えたら、あたし1人で飯食いに行くよ」
その言葉を聞いたマミは真剣な顔になって杏子に視線を移す。
「佐倉さん…やっぱり、魔法の力で盗んだお金を使って暮らしているのね?」
自分の犯罪行為を指摘された杏子の体が一瞬震えてしまう。
「魔法少女の力を犯罪に使うなんて許せないわ!人間社会に牙を突き立てるような真似よ!」
この世界でも杏子に同じ事を言って責めてきた人物がいたのを杏子は覚えている。
次は無いと彼に脅されたのも、かつての世界と同じのようだ。
その人物とは、杏子にとっては最後の家族となる嘉嶋尚紀。
家族が被害を与えた銀行に赴き、罪を被ってくれた行動もかつてと同じであるのだろう。
「…解ってるさ、マミ。後悔してる…」
「だったら、盗んだお金は…」
「それでも、この盗んだ金を使って生きていけって…あたしに言ってくれた人がいた」
「えっ…?」
「その人は被害額の倍以上の自腹金を持って示談に行き…あたしの代わりに土下座してくれた」
(たしか、ニュース番組でそんな話を見た気がするわね…)
「もう罪は繰り返さない。次を犯したら…あたしは…尚紀に命を差し出すさ」
「あれは…尚紀さんがしてくれた話だったのね」
尚紀はこの世界のマミとも出会っている。
かつての世界と同じく、事なかれ主義の薄情女に怒りをぶつけた者として記憶される。
彼の顔を思い出すのは薄情女だと罵られたマミには辛かったのだろう。
(今でも…ずっと後悔している)
マミも過ちを繰り返したくない気持ちは同じであり、同じ後悔を背負う杏子を責められない。
「あたしに残された最後の家族だ。本気で身を挺してくれる人に誓って…繰り返さないよ」
「これから人間社会で…どう生きていくの、佐倉さん?」
「…まだ決めてないけど、学生やる余裕もないし、子供でも働ける場所を探すさ」
「尚紀さんのいる東京で暮らすのは?」
「頼っても嫌がるだけさ。あの人の道は…修羅となって生きる道だから」
(修羅…悪魔のイメージしか浮かばない…)
1月28日のニュースに釘付けにされた記憶が蘇ってくる。
(明らかに人間ではなかった…人の姿をした悪魔…それが、尚紀さんなのね…)
「彼の事は深くは問わないわ。佐倉さんの大事な家族ですもの…」
「そうしてくれると助かるよ」
気丈な態度を見せてくるが、こらから佐倉杏子はどう生きればいい?
金は保護者の働き手がいなければ幾らでも減っていく。
約2千万円の大金でも今年、来年の先まで持つのか?
そんな事は中学生のマミでなくても誰でも分かることであろう。
「佐倉さん…よかったら私の」
「同じ事言わせんなよ、マミ。あたしは1人で生きていくから」
気丈に振る舞いながらホテルに帰っていく杏子の背中はとても小さく見えるのであった。
♦
その日の夜。
不夜城のように輝く商業区が一望出来る国営放送局見滝原支局放送センターが見える。
ビルの頂上にそびえる高い電波塔の上に座り、街を見下ろすのは暁美ほむら。
座っている隣では地面にソウルジェムが置かれ、周りには複数のグリーフキューブ。
グリーフキューブは数は揃えられてもグリーフシード程の穢れを吸い出す力はないようだ。
「成程ね。確かに君の仮設は一つの仮設としては成り立つね」
「仮設じゃなくて、本当の事よ」
「だとしても、証明しようがないよ」
彼女の隣にはキュウべぇが立っており、穢れを溜め込んだグリーフキューブが投げられる。
「おっと」
丸く赤い入れ墨のような毛並が便座のように蓋が開く。
キュウべぇの体内は異空間のように暗く、底が見えない。
飛んできたグリーフキューブは吸い込まれ、宇宙を温める道具として利用されるだろう。
「器用なものね」
インキュベーターは宇宙を熱で温める使命を持つ。
少ししか温められなかったとしても、主から与えられた使命を投げ出す存在ではない。
(かつては殺したい奴だったのに、今ではこいつしかまともな話し相手がいない…)
「宇宙のルールを書き換えてしまったのだとすれば、ボクにはそれを確かめる手段はない」
インキュベーターは大天使達に代わり、物質界を管理する末端天使。
天使や悪魔といった神々が座す高次元霊界にまで干渉する力は無かったようだ。
「仮に君がその記憶を持ち越していたとして、それは君の中にある夢物語と区別がつかない」
「…ふん」
「おおっと」
また一つグリーフキューブを摘まんで投げ、キュウべぇは背中を開けて拾い上げる。
「まぁ確かに浄化しきれないソウルジェムがなぜ消滅してしまうのか、原理は解明出来てない」
夢物語に過ぎない話ではあるが、それでも興味深い態度を示してくる。
ほむらの話した魔女の概念、ソウルジェムから生まれる感情エネルギー。
それは宇宙を温める管理者インキュベーターにとっては余りにも魅力的な話であろう。
「…そうね、貴方達ってそういう奴らよね」
忌々しい存在に視線を向けるが、今はもう敵対する理由などない。
インキュベーターから守り抜きたかった人は新たな世界にはもういない。
いるのは瘴気を纏う魔獣である。
ほむらは穢れを吸いきったグリーフキューブを全部キュウべぇに目掛けて投げ捨てる。
「うわわっ!」
慌てて走り回って背中を開けながらキャッチしていく。
眼下のビルが並ぶ商業区内には魔獣の気配が広がっているようだ。
「たとえ魔女が生まれなくなった世界でも、それでも人の世の呪いが消え失せるわけではない」
それは最初の人間が犯した逃れられない原罪。
人間達に感情ある限り、呪いという感情エネルギーは生まれ続ける。
呪いは別の形となって現れ、人々に襲いかかるだろう。
ソウルジェムを左手に身に着けて立ち上がる彼女の肩にキュウべぇはよじ登る。
「今夜はつくずく瘴気が濃いね、魔獣も次から次に現れる。いくら倒してもキリがない」
「ぼやいたって仕方ないわ。さぁ、行くわよ」
市内、高速道路、ビルの屋上、あらゆる場所に魔獣の影。
ほむらは電波塔の上から一気に下に飛び降りるだろう。
「悲しみと憎しみばかりを繰り返す、この救いようのない世界…」
――それでもかつて、この世界を守ろうとした人がいた。
背中から魔力色を示す紫色をした光の翼が生み出されていく。
翼が羽ばたき、浮遊して着地すると周りは既に魔獣に包囲されている。
「まだ弓には慣れないのかい?」
「それでも、使いこなしてみせるわ」
彼女の左手が大きく輝いて出現したのは暁美ほむらの新たな魔法武器。
色や形は違えど、かつての世界の親友が使っていた魔法弓に似ている。
まるでそれは、世界の守り手としてのバトンが渡されたかのように見えるかもしれない。
(それを覚えてる…決して忘れたりしない)
生み出された光の弦を引き絞り、魔法の矢が生まれる。
――がんばって。
何処かから懐かしい声が響いてくる。
「もう、迷わない」
これがこの世界の暁美ほむらが戦う理由。
まどかが守り抜いた魔法少女達と共に戦い、生き続ける世界。
「まどか…私は戦い続ける」
引き絞られた矢が放たれ、新世界で生き抜く覚悟が形となりながら魔獣に目掛けて飛んでいく。
たとえ親友が側にいなくても、いつかまた会える日が訪れる事を信じて戦うのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
そこは白い世界、ただただ白い世界。
でも一色だけ違う色があり、一本の細く黒い線、あるいは一次元の如き一本の線に見える。
近づいてみたら黒い電車であり、走行する姿が一本線に見えたようだ。
線路もないのにただ走り続ける車内は乗客の姿が見つからない。
そんな電車内にいた黒髪の美しい少女が重たい瞼を開き始める。
「私…眠っていたの……?」
居眠りしていた自分に気が付き、周りを見渡すと誰も乗っていない電車だと気が付くだろう。
「どうして…?私は電車通学なんてしてないのに…思い出せない…」
見滝原中学校の女子制服を着た少女とは暁美ほむらである。
体を起こそうとするが力が入らない。
「体が動かない…まるで金縛りにあったみたい…」
思考だけは正常であるが現実感を何一つ感じられていない。
「まるで…夢と現の世界ね…」
思考を巡らせてみたが、こんな現象はおかし過ぎる。
「魔獣の力?あいつらには…こんな現象を起こせる力なんてないわ…」
魔獣ではないのなら彼女が考えつくものは唯一つであろう。
「魔女…?いいえ、そんなはずない。だって魔女は…まどかが全て消し去ったから…」
人々に呪いの因果をもたらす前に一人の少女が彼女達を受け止めて救ってくれたはず。
「魔法少女達を救うメシア…鹿目まどかを覚えているのは…私独り…」
かつて守りたかったが守り抜く事が出来なかった最高の友達を今でも彼女は覚えている。
「私にはまどかがいれば良かった…でも彼女は…どこにもいない…」
まどかは3次元と時間を足した4次元の領域からシフトアップした存在。
神の領域である11次元に辿り着いた事でほむらは独り残されてしまう。
神の次元を思う心が古巣の記憶を呼び起こす。
東京のミッション校時代を少しだけ思い出せたようだ。
「牧師の資格を持つミッション学校の先生が語っていた言葉があった気がする…」
今いまし、昔いまし、やがてきたるべき者。
全能者にして、主なる神が仰せになる。
わたしはアルファであり、オメガである。
あなたがたの兄弟であり、共にイエスの苦難と御国と忍耐とにあずかっている。
わたしヨハネは、神の言葉とイエスの証とのゆえに、パトモスという島にいた。
ところがわたしは、主の日に御霊を感じた。
そして、わたしのうしろの方で、ラッパのような大きな声がするのを聞いた。
その声はこう言った。
あなたが見ていることを書きものにしなさい。
それを七つの教会に送りなさい。
そこでわたしは、わたしに呼びかけたその声を見ようとしてふりむいた。
ふりむくと、七つの金の燭台が目についた。
「どうして今頃になって…聖書の一節を思い出せたの…?」
考えていた時、右手に重みがあるのを感じてしまう。
どうにか右手だけは動かし、顔の前に持ち上げるとアンティークな道具だと分かるだろう。
「これは…燭台?」
右手に持たれていたのは七つの金の燭台であり、ユダヤ教とヘブライ民族を象徴する
「なんで私は…こんなものを…?」
燭台の隙間から何かが見えた時、目の前の椅子に座っている男に気が付く。
男を見た時、また聖書の一説が蘇っていく。
それらの燭台の間。
足までたれた上着を纏い、胸に金の帯をしめている人の子のような者がいた。
そのかしらと髪の毛とは、雪のように白い羊毛に似た白髪。
目は燃える炎のようであった。
目の前に座る人物の服装は膝下まである長い黒のトレンチコート姿。
バックルでベルトを前に通し、結び、股下まで短く垂らす。
頭は羊毛のように白い白髪。
白シャツに絞められているネクタイ色は金を思わせる。
黒い革靴は明かりで真鍮のように輝いて見えるだろう。
「お前は……」
彼の瞳が向けられると、その目は闇夜に輝く金色の炎のように思えてくる。
「よぉ、やっと会えたな。と言いたいところだが…まだ俺達の出会いは…先の話だ」
♦
「私をここに閉じ込めている貴方は何者?」
「何者だと思う?」
「魔女…」
「俺が女に見えるか?」
「なら…魔獣?」
「俺の頭は禿げてはいない。それに、お前を閉じ込めてなどいない」
「なら、どうして私はこんな場所にいるわけ?」
「ここは…お前の夢と現の境界さ」
夢と現の境界線を走り続ける漆黒の電車空間の音だけが静かに響き続ける。
「なら、貴方は私の脳が映し出す…夢幻といったところなのかしら?」
「そうであり、いずれそれが現実となる」
「言っている意味が分からないわ」
「俺達はいずれ出会う運命だ」
「貴方の目的は何なの?」
「俺とお前、いずれ交わる時…それはお前にとって、最大の試練となる」
「貴方…私の敵なの?」
「今はそうであり、そして違う事になる日も訪れるだろう」
「ぼかした言葉しか使わない男ね」
「お前という存在が、俺達の役に立つか…見極めたい」
「俺達と言ったわね?なら、貴方達の目的は何なの?」
「それもいずれ分かる」
「この燭台を私に持たせて…何を企んでいるわけ!?」
「それは俺と同じ道を辿る為に必要な導きとなる…炎の燭台だ」
「私を導く炎…?何かは分からないけれど、今は敵だと言うなら容赦はしないわ」
左手からソウルジェムを出そうとするが左手に力が入らず持ち上がらない。
「今は戦う必要はない。その時がくれば、俺はお前の前に立ちはだかる」
「いつでも殺せると言いたそうね…」
「その為に、お前は数々の死の試練を超える必要があるんだ」
「答えなさい…お前は一体何者なの!?」
「俺は未来のお前が辿り着く場所さ」
「未来の私が…辿り着く場所…?」
「俺は先にゴールをしているだけだ」
邪悪な笑みを浮かべる男の表情を見たほむらは冷や汗が滲み出てしまう。
剥き出しとなった歯は、まるで刃のような鋭さを持つ。
背筋が凍りつき、空気さえも張り詰める圧迫感が周囲を支配していく。
まるで終末の空に邪悪に輝く、黒い太陽を思わせるやもしれない。
(今は…争うべきではないのかもしれない)
彼女の脳裏に再び聖書の一説が過る。
その足は炉で精錬されて光り輝くしんちゅうのようであった。
声は大水のとどろきのようであった。
その右手に七つの星を持ち、口からは、鋭いもろ刃のつるぎがつき出ていた。
顔は強く照り輝く太陽のようであった。
わたしは彼を見たとき、その足もとに倒れて死人のようになった。
すると彼は右手をわたしの上において言った。
「恐れるな。俺は初めであり、終りであり、また、生きている者だ」
「ヨハネの黙示録…お前はまさか…」
「俺は死んだことはあるが…見ろ、世々限りなく生きている者さ」
「私に…何をさせる気なの?」
「死と黄泉との鍵を俺達は持っている」
「死と黄泉の鍵…?」
「そこでお前の見たこと、現在のこと、今後起ろうとすることを、俺達は書きとめていくんだ」
「私達にこれから起こることを…記す?」
「俺の右手にかつてあった七つの星と、七つの金の燭台との奥義は…お前の真実を照らす」
「私の…真実……?」
「お前は七つの星、七つの教会の御使い、七つの燭台、七つの教会に背く者となる」
「私に何が起こるの…?世界に何が起こるの…?」
「俺達は7人の神の御使い共と殺しあう事になる」
「聖書に書かれている事が…起ころうとしているの!?」
「そうだ。お前の力を…俺達は期待する」
「黙示録…?ハルマゲドン…?」
男は満足そうな顔を少女に向けた後に立ち上がり、少女に歩み寄って顔を近づけてくる。
「俺達悪魔が、お前の嘘に塗れた今の魔法少女人生を否定してやる」
「嘘…?悪魔…!?」
「俺達悪魔が、お前のもっともどす黒い感情を晒し物にしてやろう」
「悪魔が…私の黒い感情を晒す…?」
「お前を導いてやる…混沌の闇の世界へとな」
「私は…まどかからこの世界を託されたのよ!」
「ほう?」
「魔女のような…邪悪な存在になるつもりはないわ!」
「なら俺達悪魔が…お前にかつてあった感情の極みを思い出させてやる」
「感情の…極みですって?」
「
ほむらの背後にある窓に手をつき、彼女の顔の前まで顔を近づけながら悪魔はこう告げる。
「自分に嘘をつき続ける嘘つきが…お前の心は
「嘘つき…?私が…愛に狂っている…!?」
「低い次元の世界から消えた…鹿目まどかへの愛に飢えている」
「まどかへの…愛……」
「俺達が…思い出させてやる」
少女から離れた悪魔は電車の向こう側へと歩くその背中に向かってほむらは叫ぶだろう。
「お前は悪魔なのね…名を名乗りなさいよ!!」
男が立ち止まり、首を傾けながら背後に向かって顔を反らして振り向いてくる。
「俺は東京の魔法少女共からこう呼ばれている。人修羅だとな…」
「人修羅…それが…悪魔の名前…」
「次に出会う時は言葉ではなく力で語り合うだろう。楽しみにしてるぜ…暁美ほむら」
そう言い残した人修羅は向こう側の車両へと消えていく。
それに合わせて意識がホワイトアウトして夢と現の時間も終わりを迎えようとする。
境界を進む列車の終着駅が近いのだろう。
「交わした約束…感情の極み…まどかへの……愛…」
悪魔に言われた言葉を最後に死人のようにほむらは倒れ込む。
眠りについた彼女が次に目を覚ました場所とは自宅ベット。
これは暁美ほむらが見滝原中学校に転校する少し前の出来事となるのであった。
読んで頂き、有難うございます。