人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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53話 生きる意味を知る

見滝原市郊外に新しく作られた高級住宅街は地元住民からは五郷と呼ばれている地区。

 

五郷駅を使い見滝原の学校やオフィス街に通う者もいれば、高級外車で通う富裕層もいる地域。

 

丘の上に広がるように整然と並ぶ高級住宅地は上に登るほど大富豪達の住まいとなっていく。

 

そんな高級住宅地の一角には近隣住民の富裕層から見ても顔をしかめる屋敷の塀が存在する。

 

汚職によって主人である美国久臣を失った屋敷通り。

 

そこは今となってはスラム街の通りと変わらない程にまで嫌がられる通りとなってしまう。

 

洋館建築の屋敷を覆う塀は心無い言葉で埋め尽くされた落書き塗れ。

 

ゴミも不法投棄され、酷い場合は死ねと書かれた紙に包まれた投石が屋敷に投げ込まれる。

 

この洋館屋敷に住んでいる人間は今では汚職議員が残した娘のみ。

 

母の由良子は娘が7歳の時に亡くなっており、国政政治家一族である父の親族は助けに来ない。

 

本家は真っ先に一族の不祥事を抹消するかのようにして関わり合いを断つ。

 

汚職議員の国政選挙支援を約束していた大物国会議員にまで遠ざけられてしまう。

 

政治の世界とは無縁だった亡き母親の親族が財産後見人として一人娘の生活を支えていた。

 

 

屋敷の内部は掃除も行き届かない蜘蛛の巣塗れ。

 

明かりもろくに点かない2階の隅に、その哀れな少女はいたようだ。

 

「私は…何のために居るんだろう?」

 

住民の嫌がらせに毎日怯え、白い布団を頭から被りながら震える毎日が繰り返される。

 

「何をするために…もう、解らなくなってしまった…」

 

窓は開かれ夜風がカーテンを揺らし、月明かりを窓辺に感じる夜。

 

その日、彼女の元に新たなる運命が訪れる事となるだろう。

 

「君には才能がある」

 

不意に声が聞こえた事で窓辺を見れば、見たこともない白い生き物が立つ。

 

「君が魔獣と戦う使命を受け入れ、未来を切り開きたいと言うのなら…」

 

「だ…だれ…?」

 

「ボクと契約するといいよ…織莉子」

 

現れた存在とはインキュベーター。

 

少女の魂を宇宙の熱に変え、大いなる神に捧げる無慈悲な神の生贄管理者。

 

かつての世界では、そう呼ぶべき存在であったが今では違うようだ。

 

「私…私は……」

 

少女の脳裏に過る言葉の数々が彼女を震わせてしまう。

 

――美国さんは、何でもよく出来るわね。

 

――国政政治家一族ですもの、あれくらい普通なんでしょ。

 

――流石は美国先生の娘さんですな、品があって何でもこなす完璧な人間。

 

――優秀なのは当然、だって美国だもの。

 

――美国さん、美国議員の娘、美国、美国、美国…。

 

少女個人を見てもらえた事など一度たりともなかった人生。

 

全て一族の家柄だけで決められて語られた空虚な形。

 

それさえ失ってしまったのなら、彼女は一体何者なんだろうか?

 

織莉子の望んだ願い、それは自分を知る道。

 

「私は……わたしが、生きる意味を知りたい」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「…ねぇ、織莉子ってば」

 

目を閉じていた織莉子は向かい合う椅子に座るキリカの声で目を開ける。

 

座っているのは屋敷の薔薇庭の園内にあるガーデンセットの椅子。

 

机の上には紅茶とケーキが並べられていたようだ。

 

「春の陽気でうたた寝かい?」

 

「ええ、キリカ。そんなところね…」

 

どうやら彼女達はお茶会を開いているようだ。

 

気持ちの良い気候と風を感じる今日ならば庭園で行うには絶好の日和であろう。

 

「私もお菓子でお腹が膨れたから眠くなってきたかも~」

 

机に顔をつけて横にそのまま顔を向ける。

 

キリカの眼前には様々な薔薇が咲き誇っており、辺りを見回す。

 

「ドロレス、ストロベリーカップ、銀世界、プリンセスダイアナ…あとは何だっけ?」

 

「キリカは薔薇が好きなのね。もっと植えましょうか?」

 

「あれ?織莉子が好きなんじゃないの薔薇?」

 

「お父様が好きだったのよ」

 

「へぇ…じゃあ、この記憶は頭から消しておくよ」

 

「せっかく覚えたのに勿体ないわ」

 

「いやいや、勿体ないのは私の頭の容量。私は君以外の情報なんていらないよ」

 

キリカと呼ばれる少女は織莉子の事になると視野狭窄になるほど熱を入れる。

 

何故これほどまで織莉子の事に彼女は夢中になるのだろうか?

 

「ねぇ、織莉子は私の事をちゃんと記憶してくれているかい?」

 

「勿論よ。貴女は呉キリカ…見滝原中学校3年生であり、巴さんと同学年よ」

 

「引き篭もり中学生って言わないところに愛を感じるよ」

 

「随分長い引き篭もりだったみたいね…?」

 

「そうだね…。私が内気になってしまった原因…前に話したよね?」

 

「姉妹のように仲が良かった小学生時代のご友人…えりかさんに原因があったと聞いたわ」

 

「昔は明るい性格してたんだ…。でも、えりかとの喧嘩が原因で…私は子供が嫌いになった」

 

「えりかさんの両親が離婚する時期だったそうね…。住む家まで引っ越す事になるなんて…」

 

「えりかは反対していた…でも聞いてくれない。だからえりかは…親に仕返しをした」

 

「…万引ね。社会に迷惑をかけてまで、身勝手な両親に対して報復がしたかったのよ」

 

「えりかを見つけた私はそれを止めた。彼女は慌てて逃げ出した…盗んだ品を落としてね」

 

「…そして、店から出てきた店員はキリカを…」

 

「うん…万引き犯は私って事にされちゃった」

 

「…えりかさんは、逃げるように街から引っ越していった」

 

「幼い私の心は引き裂かれたよ。子供が大嫌いになって…遠ざけるように引き篭もりになった」

 

「辛い人生だったわね…」

 

「でも、そんな引き篭もりの私に転機が訪れた日を…私は生涯忘れない」

 

「私と貴女が、初めて出会えた日ね」

 

「代わり映えしないコンビニで私は釣り銭を落とした。モタモタしてたから客は怒り出す」

 

「ウフフ♪あの日見た貴女の姿はね、捨て猫のようにほっとけない姿をしてたわ」

 

「織莉子は小銭を親切に拾ってくれて、お礼も満足に言えない私に微笑んでくれた」

 

たったこれだけでキリカと呼ばれる少女は織莉子に自分の全てを捧げた者。

 

長く遠ざけた人の温もりを、もう一度与えてくれた存在に捧げられた忠誠心であろう。

 

「たったそれだけで…本当に人間を辞めてよかったの?」

 

「後悔はないさ。人間が大嫌いだった私は白まるに願った」

 

――変わりたいってさ。

 

「私は変われたよ、織莉子。そして私の全ては…織莉子のものなのさ」

 

「あら?ならキリカのとても大切な友達の事は…もういいのかしら?」

 

「えっ!?ええ~~!!何言ってるの織莉子~!」

 

織莉子の視線は机の上に置いてある手紙に向けられている。

 

「貴女は確かに変われたわ。学校にも行くようになった頃に…えりかさんと再会したのよね」

 

「うん…。暗い人生が変わり始めたのに、私の心はまた暗闇に引き摺りこまれそうになった」

 

「それでも、貴女は昔の呉キリカじゃない。だからこそ貴女は…魔獣からえりかさんを救った」

 

「親を呪う気持ちに取り憑かれていたんだ…えりかだって、本当はあんな事したくなかった…」

 

「えりかさんを救った時に、確信が持てたかしら?」

 

「そうだね。奇跡は叶った…何も出来ずに、周りを恨んでばかりいた頃の私はもういない」

 

――私は…昔の私に戻る事が出来たんだよ。

 

「変われた貴女を見て、えりかさんも変われたわね」

 

「うん。今ではこうして手紙のやり取りぐらいは出来るようになったんだ」

 

「手紙の内容はどんな事を書かれていたの?」

 

「母親の再婚相手の父親とも仲良くやれるようになったって書かれてたね」

 

「キリカにとって、えりかさんはとても大切な友達よ。大事にしてあげなさい」

 

「だから!私のとても大切はこの世に只一人だよ!!他には断じていない!!」

 

「あら?それはとても気になる話しだわ」

 

親友と愛する人を比べられてしまい慌てる彼女に対して織莉子は意地悪な微笑みを返す。

 

「それって、誰なのかしら?」

 

「ちょ!そ、そんなの決まってるじゃないか!」

 

「あら私には分からないわ、だぁれ?」

 

「も、も~~~しょうがないなぁ…それは…」

 

<<くぉらぁーーー美国ぃ!!>>

 

塀の方から大声が聞こえてきた事で縮こまってたキリカが跳ね起き、その方角に振り向く。

 

「はぁ…なんてタイミングに訪れるんだい、まったく」

 

塀の上には飛び上がって身を乗り出す小巻の姿が見えたようだ。

 

「インターホン何回押したと思ってんのよ!門開けないなら塀を飛び越えるわよ!!」

 

「ごめんなさい、小巻さん。ドアホンは室内機に繋がってるから聞こえなかったの」

 

「私は聞こえないまま、織莉子との2人きりの時間を共有していたかったねぇ」

 

「聞こえてるわよ~呉!」

 

「待ってて。今門を開けるから」

 

間の悪い魔法少女仲間に対してげんなりするキリカだが、織莉子は違う。

 

嫌がらせとは違う来訪者がきてくれた彼女の顔つきは笑顔を向けてくれた。

 

 

小巻は不機嫌な顔をして庭に歩いてくる。

 

彼女は機械音痴なため電気錠付き門扉の開け方が分からなかったようだ。

 

椅子の真ん中席に座り込むと反動で2人のお尻が宙に浮いてしまう。

 

「凄い重量感だねぇ、小巻って。ダイエットしたら?」

 

「私が太ってるっていうの、呉っ!?」

 

「フフ、私も小巻さんが横に思い切り座ってきたら、お尻が浮いちゃうのよね」

 

「美国まで!集合かけたのは私に喧嘩売る目的だったのなら、買ってやろうじゃない!!」

 

「ダイエットしてないなら、小巻のケーキも食べていいよね?」

 

「食べるわよ!ケーキ如きが私を丸く出来ると思ってんの!?」

 

(何と戦ってるのかしら?)

 

この喧嘩口調で喋る短気かつ直情的な性格をした魔法少女は浅古小巻である。

 

織莉子と同じく白羽女学院に通う前髪を真ん中から分けた腰まである青い長髪をした同級生。

 

家は商業で富豪となったため成金組だと良家のお嬢様から陰口を叩かれてはいつも怒っている。

 

自分にも他人にも厳しい性格、家柄だけで威張っている良家組に対する対抗心であろう。

 

彼女は決めた事は必ずやり遂げないと気がすまない価値観を持っている。

 

同じ成金組と言われる行方晶(なめかたあきら)長月美幸(ながつきみゆき)を友人に持つ。

 

また浅古小糸(あさここいと)という妹がおり、姉が夜に出歩く毎日を心配している。

 

彼女が魔法少女になったのは林間学校に行っていた時期。

 

火災に巻き込まれた人達を助けると決めたせいでキュウべぇと契約した魔法少女だ。

 

それがどんな道となるか知っても彼女は決めた事は貫く少女。

 

友達や家族に内緒にしたまま彼女は魔法少女として生き、そして二人の仲間と出会えている。

 

「んで?要件は何なのよ、美国?」

 

ケーキをがっつく小巻と甘味料を後先考えずに紅茶に入れるキリカが顔を向けてくる。

 

「風見野市から流れてくる無法者の魔法少女がこの街に現れる予知が見えたわ」

 

「へぇ?そいつはどんな悪い事して風見野から蹴り出されたのか視えたのかい、織莉子?」

 

「魔法を私欲のために使い、風見野の魔法少女に襲われれば人間を盾にするぐらい姑息な者よ」

 

「私が風見野で魔法少女やってたら、真っ先に頭を叩き割ってるタイプだわ、そいつ」

 

「彼女は風見野の守護者に追い詰められて街を捨て、新しい狩り場として見滝原市を選んだわ」

 

「そいつの魔法の特徴は?」

 

「洗脳魔法だと思うわ…魔獣を洗脳して付き従え、魔法少女や人間社会を襲わせる手口ね」

 

「厄介な奴ってワケ?もしかして魔法少女相手でも、その固有魔法は有効なの?」

 

「ええ、洗脳魔法は魔法少女相手でも有効よ。風見野の守護者達もそれに苦戦したみたい」

 

「何から何まで誰かを利用する手口…自分では何も出来ないタイプのドクズだね、ソイツ」

 

「つまり商業区や工業区の方で頑張ってる巴達よりも先に…私達でそいつを倒そうってワケ?」

 

「巴さん達は見滝原市の大部分を魔獣達から守っている。私達は彼女達をサポートするべきよ」

 

「商業区も工業区も無駄に広いからね~。私達は政治行政区と五郷、後は住宅区を少々だし」

 

「ようは魔法少女同士の喧嘩ってワケね!燃えてきたわ!!」

 

「私は巴さんにこの事を伝えておくわ。彼女達も大物魔獣の件もあるし、支えてあげましょう」

 

織莉子の家着は洋風ドレスを思わせる衣装姿であるが、出かけるのには目立つ。

 

私服に着替えてから見滝原市内に向かうため織莉子は屋敷の中に入っていく。

 

「美国も魔法の調子が戻ったようね」

 

「一時期はどうなることかと思ったけど、織莉子が語ってくれた…ゆまって子供のお陰だね」

 

キリカと小巻は織莉子から聞かされた騒動を思い出しながら語り合うのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

そこには母親に疎まれる小学生ぐらいの少女がいた。

 

毎日母親に虐待され、それでも母親が怒るからと、泣いて助けを乞う事も許されない。

 

少女の名は千歳ゆま。

 

夫と不仲な母親は自分の怒りのハケ口を実の娘に求めてしまう。

 

毎日殴られ蹴られ、壁に叩きつけて戸棚の重たいものが頭に落ちて大怪我しようが殴り続ける。

 

ゆまの前髪で隠れた額は母親が吸うタバコの灰皿にされた跡が沢山残っているようだ。

 

それでも彼女は泣く事が許されない。

 

近所の人が虐待の声を聞き、民生委員に通報して職員が訪れた時もある。

 

しかし娘のせいで余計な手間をかけさせられたとDV親はさらに報復してくる。

 

親に愛されないのは自分のせいだと思い込んで良い子を演じ続ける日々となるだろう。

 

嘘の自分を演じる事でしか保護者から生きることさえ許されない生き地獄の日々。

 

そんな彼女と織莉子が出会った頃とは彼女の予知魔法が上手く制御出来ない時期のようだ。

 

自分の意志に反して辺り構わず予知魔法が乱発され、魔力が減る一方。

 

グリーフキューブを自分の力で集める余力もなくなり、キリカと小巻に助けられていた頃。

 

夜の公園で独りポットに入れた紅茶を飲みながら黄昏れていたところで出会う事になる。

 

家の中にいたら父親の自殺現場を思い出し、苦しむ事が多い織莉子は外出が多い。

 

家族の死、それが織莉子の心に影を落として魔法の制御を難しくさせている。

 

未だに彼女は魔法少女となっても布団に包まって震えるばかりの頃と変われない自分の姿。

 

家族に囚われたままの少女の前に、同じく家族に囚われた少女が現れたようだ。

 

知らない者達だったが、何処か惹かれ合い二人でお茶を飲んでいた時に相談を受ける。

 

「ゆま……良い子じゃないから怒られるのかな?いらないのかな……?」

 

その言葉だけで親に疎まれた子供だということを織莉子は察することが出来るだろう。

 

「良い子であろうと思う事は大事だけれど、自分は良い子だなんて思うのは思い上がりだわ」

 

――()()()()()()()()()()()()なのよ。

 

本当の意味で良い子なんていない、目の前の織莉子からゆまはそう聞かされている。

 

子供だから深い意味は分からないが、織莉子が励ましてくれたのだと子供ながらに理解する。

 

少し元気になったゆまは織莉子にお茶のお礼を言った後、手を振りながら帰っていく。

 

そんな時、制御出来ない予知の魔法で未来の光景を織莉子は見てしまう。

 

千歳ゆまが死亡したというニュースを街の大型エキシビジョンで見てしまう未来が迫る。

 

少しして織莉子は再びゆまと公園で出会う事となる。

 

全身痣と傷だらけの頭部からは流血を流して倒れている彼女を織莉子は慌てて抱き起こす。

 

「ゆまさん!しっかりしなさい!すぐ医者が来るから大丈夫よ!!」

 

「だめなの…ゆま、おいしゃさん行っちゃダメ……なの……」

 

医者は事件性があると認められた場合、報告義務がある。

 

虐待の場合ならば警察や民生委員、児童委員に連絡を行うのは当然だろう。

 

そうなれば人間失格の母親が風邪をこじらせただけだとシラを切るいつもの流れが始まる。

 

そして警察などが帰ったら直ぐに娘を半殺しにするのがテンプレの地獄の日々。

 

ゆまを哀れに思った織莉子は自身の回復魔法を用いてゆまの傷を治療してあげる。

 

あまりにも無力な存在と親の理不尽。

 

誰も助けてくれない社会の理不尽によって幼い命が踏み躙られる。

 

覆す奇跡を望むならば、それは一つしかないだろう。

 

辿り着く答えを望むならば、叶えてくれる存在がゆまの前に現れるだろう。

 

ゆまにはそれが見えており、目の前に現れたキュウべぇの存在を認識してしまう。

 

「ゆま、君には叶えたい願い事はあるかい?」

 

「え?何でも良いの?」

 

「うん!だからボクと……」

 

「その先を言うことは許さないわ、インキュベーター」

 

契約すると発言する前にキュウべぇの体は織莉子の魔法武器である水晶玉で破壊される。

 

魔法少女になるのは地獄の業火の如き戦場を渡り歩き、死ぬまで戦う戦士の道。

 

残酷に殺されたならば呪いの因果を人間社会にもたらす前に円環のコトワリに導かれる定め。

 

いわば()()()()()()()()()()()()()()()

 

そんな救いようのない道にこの子を進ませたくないとキュウべぇの手から彼女を救ってくれる。

 

「今日の事は忘れた方がいいわ。誰も信じはしないから」

 

「……うん、ゆま誰にも言わない……言わないから」

 

「……良い子ね、ゆまさん」

 

希望は断たれ、また地獄の虐待が待っている。

 

力なくゆまは歩いていき、また良い子を強いられる日々が始まってしまう。

 

彼女の偽りの人生を覆す力を望むならば、それは奇跡などではないと織莉子は信じている。

 

「いい加減になさい!!こんな目にあって、そのずっと前からなんで助けを求めないの!?」

 

急に肩を掴まれたゆまは、どうして織莉子が怒っているのか分からない顔を向ける。

 

「自分を我慢すればいい?良い子にしていれば親は愛してくれる?冗談じゃないわ!」

 

人間には読心術の力など備わってはいない。

 

だからこそ人間社会では報告、連絡、相談といった行動が重要視される。

 

保身のための偽情報を流していては、周りを含めて大事になってしまうのは当然の結果。

 

だからこそ取り返しがつかなくなる前に事実を迅速に報告しなければならない。

 

社会では当たり前の事さえ、小学生のゆまには今まで出来なかった哀れな人生。

 

その原因とは、それを誰も教えてくれなかったから。

 

「口に出さなければ解らない、魔法が使えたって変わらない。気づいた時には……」

 

織莉子の脳裏に浮かぶのは取り返しがつかなかった光景が蘇る。

 

自室で首を吊って亡くなった父の姿が浮かんでしまう。

 

美国の名に恥じない良い子を演じていたのに、父に手を差し伸べる事が出来なかった自分の姿。

 

ゆまに自分を重ねて見てしまうからこそ、惹かれ合ったのが解ったようだ。

 

「全て……失くしてしまっているのよ」

 

織莉子の感情がゆまに響くと感情が抑えられずに目から大粒の涙が溢れ出す。

 

「ゆまは……ゆまはなにも……悪いことしてないのにっ!!」

 

なんでおこるの?なんでたたくの?なんでみんなしらんぷりするの?みんなこわい。

 

「ママなんか嫌いっ!パパも嫌いっ!みんなにいじめられるゆまも大っ嫌い!!」

 

「忘れないで。言うことで貴女が傷つく事もある、それでも何かが変わる」

 

二人はもう誰かのために良い子でいつづける必要はない。

 

織莉子もゆまも誰かのモノではない、自分であっていいのだから。

 

「貴女のなりたい貴女になればいい……私のようには、ならないで」

 

その後、予知の制御は回復してくれる事になるだろう。

 

魔法少女の魔法は精神部分に大きく影響される。

 

ゆまと出会えた事で自分を見つめ直す機会を得て冷静さを取り戻せた影響であろう。

 

二人の仲間達と共に自分の目的を探し、願いの意味を織莉子は未だに探し続けている。

 

戦いの気晴らしと商業区にショッピングに出かけていた時、ゆまの姿を見かけるだろう。

 

彼女の両手を引いてあげるのは老夫婦の姿。

 

どうやらゆまは父の祖父母に虐待の事実を告げたようだ。

 

怒り狂った祖父母は人間失格の母親の悪行を警察に全て通報してくれる。

 

子供を見捨ててきた息子に関しては勘当してまで孫のゆまを引き取ったようだ。

 

今は優しい祖父母に引き取られて田舎暮らしにはなるが、ゆまは幸せを得ている。

 

そんなゆまの姿を見た織莉子の心も救われてくれるのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

夜の見滝原市住宅区。

 

商業区と住宅区を境界線で分けるように線路が走り、その中央には巨大な見滝原駅がある。

 

この日、風見野駅から見滝原駅に流れてきた一人の魔法少女がいるようだ。

 

その少女は今、住宅区を魔法少女姿をしたまま歩いている。

 

背後には洗脳魔法で操られる魔獣の群れまで従える魔法少女は邪悪な笑みを浮かべてしまう。

 

「くっふっふ、リナさんもここまで来れば追ってこないですよねぇ」

 

彼女の名は優木沙々(ゆうきささ)

 

沙々が風見野市に現れてから魔獣被害が爆発的に増えてしまう。

 

理由は彼女が魔獣を使う魔法少女であり、魔獣に人間という餌を与えていたからだ。

 

沙々は魔法の力で悪逆非道の限りを尽くしてきた者。

 

風見野市でも被害が生まれたが人見リナ達から追い出されたため見滝原市に流れてくる。

 

彼女は見滝原で活動する魔法少女はマミと杏子しかいないと計算してやってきたのだろう。

 

「巴マミの噂は聞いてたし、佐倉杏子の腕前もリナさんのお墨付き、手強いですねぇ?」

 

彼女達を潰すために住宅区にコロニーを生み出させて増殖させようとしていく。

 

「この街の魔法少女共を蹴散らしてぇ!私より優れた奴らを従わせて略奪してやりますよぉ!」

 

沙々は優れた人間が大嫌いな魔法少女。

 

自分より頭がいい、顔がいい、金を持っている、人望がある。

 

そんな連中を下僕のように従わせ、支配したいと願った者こそが彼女の契約内容。

 

それが形になった固有魔法が洗脳魔法である。

 

形容しがたい形をした魔法武器の杖を振るい、巨大な魔獣達を誘導する。

 

住宅区の公園郡に巨大魔獣を座り込ませ、魔獣結界と瘴気を生み出させていく。

 

瘴気によって産み出される魔獣は住宅区の人間を襲い感情エネルギーを喰らっていくだろう。

 

マミと杏子を倒すための弾とも呼べる製造工場とでも呼べるやもしれない。

 

そんな光景を住宅区にある高層マンションの屋上から見下ろしていたのは三人の魔法少女の姿。

 

「おーおー、でかくなっても弱いだけの魔獣を沢山連れてるね、あのドクズ」

 

「ムカつく道化師みたいな衣装してるし、ステージで派手に踊らせてやるわよ」

 

「行きましょうキリカ、小巻さん。魔獣コロニーが産み出されて固定される前に仕留めます」

 

商業区や工業区に今夜は向かっているマミ達に代わり、もう一組の者達が夜空を超えていく。

 

「さぁて、先ずは住宅区で魔獣共の腹ごしらえですねぇ」

 

コロニーを産み出す大型魔獣の瘴気から次々に小型の魔獣が産み出されていく。

 

次々と量産を重ね、小型の魔獣達は公園郡を抜けて外の民家に向かおうとする。

 

そんな時、雲が晴れて月明かりが見えたその先から現れたのは一人の少女の影。

 

その人影とは小巻であり、両手には巨大なポールアックスが握られている。

 

小巻は体を縦に回転させながらアックスを振り抜く勢いを増していく。

 

コロニーを形成していた魔獣を脳天から唐竹割りし、十階建て以上の大きさを両断する。

 

大地に叩きつけられてめりこんだ斧刃は重量があり、直ぐ持ち上げて行動する事は出来ない。

 

周りの大型魔獣達が小巻に反応し、体の周りを覆う複数の四角いポリゴンを向けてくる。

 

彼女に目掛けてレーザーを放とうとした時、魔獣の側面から飛び道具が飛来してくる。

 

稲を狩る大鎌の如き赤黒く光る鎌が迫り、真一文字に複数の大型魔獣を両断していく。

 

月の夜空に浮かぶのはエアリアルアクロバットを行うキリカであり、小巻の背後に着地する。

 

「やっぱり重量級だね~小巻って?鈍足だし、ダイエットしたら?」

 

「だーかーら!!私は太ってないっつーの!呉ぇ!!」

 

「なっ…なんですか…お前らぁ!?見滝原には他にも魔法少女がいたなんて聞いてねーぞ!!」

 

マミと杏子とは違う魔法少女の出現に戸惑う沙々は自分の周りで光る無数の光球に気がつく。

 

それは魔力を帯びて回転する水晶玉であり、それが沙々の周りを囲むように覆っている。

 

次の瞬間、立っていた場所に目掛けて大砲の様に飛行して着弾する。

 

しかし沙々は大きく跳躍して難を逃れ、着地した彼女は背後の存在に気が付いて恐怖を感じる。

 

「リサーチ不足と言ったところかしら?私達は魔法少女になってそう日が長くない者達だから」

 

「てめーら…何者ですかぁ!?」

 

地面に着弾した無数の水晶玉が再び宙に浮き、沙々を超えて術者の元に集まっていく。

 

周りを囲みながら飛び、目の前の獲物を威嚇するように輝く光に照らされたのは織莉子の姿。

 

「私達は見滝原の守護者。巴さん達だけが守護者ではないのですよ、優木沙々さん?」

 

「くそっ…てめーら!!やっちまえーーっ!!」

 

杖を掲げて洗脳魔法を行使された小型の魔獣達が反転し、キリカと小巻に襲い掛かる。

 

「小巻と組むのは癪だけど、あの小者のドクズなら織莉子でも十分勝てる」

 

「私だって呉と組むのは癪だけど、あんたの力は当てに出来るからね!」

 

「ま、小巻のパワーも当てに出来るし…さぁ、行こうか!!」

 

キリカは横に繋ぎ合わせた赤黒い鎌を操り、小巻は巨大な斧を構えながら突進していく。

 

ポールアックスを後ろに振りかぶり、体を一気に旋回させながら複数の魔獣の胴体を切断。

 

勢いは止まらず、刃の竜巻の勢いのまま直列の魔獣共を一掃していく。

 

刃が届かなかった一体の魔獣の頭上には跳躍していたキリカが迫る。

 

魔獣の肩口に膝から飛び乗り、頭部を両膝で挟み込む。

 

「サービスだよ、おじさん!!」

 

そのまま体を回転させて魔獣の首を捻じり折る。

 

体勢が崩れた魔獣から飛び退き、右手の繋ぎ合わせた鎌で胴体を刻み込む。

 

両足で着地したキリカは両腕を目の前でクロスさせた後、一気に振り抜く。

 

繋ぎ合わされた鎌は分離しながら射出され、複数の魔獣の頭部を刈り落としていくのだ。

 

「あれでまだルーキーなんですかぁ!?見滝原って…レベルが高過ぎですよぉ!!」

 

「楽な戦いばかりを選んできた小者には分からない成長もあるんです」

 

次々に倒されていく魔獣達を横目に見ながら織莉子の相手をする沙々は焦りの色を隠せない。

 

彼女の力は脆弱であり、水晶玉の弾幕を超える事さえ出来ないようだ。

 

直線発射だけでなく、自由自在に側面からも頭上からも無軌道に襲いかかる魔法の水晶玉。

 

その一つが沙々の腹部に直撃した事で苦悶の表情を浮かべてくる。

 

「ゴホォッ!!?」

 

内蔵が破裂して大きく吐血をした沙々は地面に蹲ってしまう。

 

「優木沙々さん、今まで犯した罪…どのように償っていただけるのかしら?」

 

蹲る彼女に歩みを進めていく織莉子。

 

背後では次々と倒されていく魔獣の群れ。

 

もはや全滅は時間の問題であるが、顔を俯ける道化師は邪悪な笑みを浮かべている。

 

(近寄れ、あと少し近寄れば…洗脳魔法の射程だ)

 

織莉子が履く白い革ブーツの音が聞こえる中、握り込む杖に魔力が込もる。

 

(お前を盾にして…あの黒いゴキブリとマサカリ女にぶつけて…共倒れさせてやる!)

 

あと一歩で間合いであるが、その一歩の音が聞こえてこない。

 

「私を洗脳するつもりですか?」

 

「なっ!?なんで知ってるんですかぁ!!私の固有魔法を!?」

 

「だってそれを識る事が出来る魔法こそが…私の固有魔法だから」

 

「そんなの理不尽だッ!!」

 

背後からも二人の靴音が近づいてくる。

 

死神の鎌を両手に持つ女と全てを両断する巨大斧を肩に担ぐ怪力女が自分の命を収穫しにくる。

 

「さぁ、ピエロ女?出し物はもう終わりなわけ?小者らしいつまらないショーだったわ」

 

「全くだね~小巻。ところで織莉子、このつまらないピエロの末路はどうしようか?」

 

「ウフフ、どうしようかしら…キリカ?小巻さん?」

 

「ぐっ…うぐぐ……!!」

 

もはや勝ち目なしだと判断した沙々は速やかに土下座してくる。

 

「申し訳ありませんでしたぁ~降参です~~ッッ!!」

 

なりふり構わない小者に相応しい敗北のアピールであろうが相手は容赦してくれない。

 

「謝ってすんだら、あんたが迷惑かけた連中が許してくれるわけ?」

 

「因果応報ってやつだね。二度と悪さが出来ないよう、その両腕は刻んでおいた方がいいね」

 

「せめて裁判にかけるために魔法少女達の意見を募って下さいよ~~っ!!」

 

()()()()()()って知ってる?犯した罪は、それと同じ責め苦を与えるべきだって」

 

小巻は斧を振りかぶる。

 

()()()()()…諦めなよピエロ?そんなつまらない理屈で…罪は許されるべきじゃない」

 

キリカは鎌を振り上げる。

 

「ひぃぃぃぃぃ!!ここは優しい世界じゃないーーッッ!!!」

 

地面に顔を埋めて震え上がる沙々に対して断罪の刃が振り下ろされる時、織莉子が叫ぶ。

 

「待ちなさい!!」

 

普段大声など出さない織莉子が珍しく声を張り上げたのに驚いた二人は刃を止める。

 

無様に震える沙々の股からは命が終わる絶望感で体が弛緩したのか失禁が漏れ出している。

 

「優木沙々、貴女が犯した罪は決して許されない。小さな刑で済ませるべきではないわ」

 

「は…はいっ!私はとっても悪い子ですぅ~~ッ!!」

 

土下座姿勢のまま織莉子に平伏し、命を助けてと泣きながら許しを乞う。

 

「でも貴女も力ある魔法少女。その力をこれからは償いの道のために使って欲しいわ」

 

「償いますぅ!!何でも償いますからぁ!許してぇ~~!!」

 

「巴さんは違う答えを出すかもしれないけど、これが私の答えです。違う街でやり直しなさい」

 

「はいっ…グスッ、見滝原からは出ていきますからぁ…許してぇ…」

 

彼女に手を差し伸べる織莉子であるが、仲間は洗脳魔法を警戒しながら武器に力を込めている。

 

しかし沙々は観念したのか素直に従い、小さな背中のまま街を去っていくようだ。

 

「消化不良ってやつだね…あんな終わらせ方で良かったのかい、織莉子?」

 

「呉の言う通りよ。その甘さのせいで…また誰かが危険に晒されるリスクだってあるんだし」

 

「甘い判断だって分かってる…それでも私は応報刑とは違う教育刑による更生の道を信じるわ」

 

やりきれないキリカと小巻に申し訳ない顔をしてしまう織莉子。

 

リーダーの彼女がそう考えても、仲間の二人はそう考えてなどいない。

 

(悪人は死ぬまで悪人だよ…織莉子)

 

(奪った存在は帰らない。悪人が裁かれようが犠牲になった人々は元の生活には帰れないわ…)

 

(心が壊される程の被害を被った犠牲者達の無念のためにも、()()()()()()()()()んだ…)

 

仮に悪人が裁判にかけられ許されてしまい、普通の生活に戻れたとする。

 

そうなれば犠牲者達の無念の心は泣き叫び、慟哭と絶望の結果となろう。

 

魔法少女社会とは力ある者達が築く社会。

 

緊急事態に対処するには極刑である死刑もまた必要なのだとキリカ達は感じるのであった。

 

 

下着を履き替え、東京行きの電車に乗り込む沙々の表情は恥辱と怒りで歪み切っている。

 

反省する者の顔つきではなく、仕返しを望む者の顔つきであろう。

 

東京に流れていく優木沙々は再び力をつけて見滝原に戻ってくるやもしれない。

 

今度は負けないために東京の魔法少女全員を洗脳して戦争を仕掛けてくるだろう。

 

そんな計画を立てていた沙々の消息は東京において途切れる事となってしまう。

 

数日後の夜中、路地裏にある事件現場。

 

警察が立入禁止の黄色いテープを事件現場に張り巡らせて周囲の人だかりを制限させる。

 

路地裏の奥は警官達も顔が青くなる程の惨たらしい痕跡が残っている。

 

少女の肉片がまだ壁に付着している返り血塗れの壁。

 

地面には焼け焦げた五芒星の跡が見え、火葬場で見かけるような人骨の炭が残る。

 

この犯行を行った者はきっと()()()()()()()なのだと現場を捜査する警官達は語るのであった。

 




読んでいただき、有難うございます。
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