人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
砂の流れる音が聞こえる。
これは砂時計から微かに聞こえるような砂の流れる音。
かつて暁美ほむらが所有していた魔法の円盤盾の中に同じものがあった気がする。
しかしその魔法の盾は彼女が流れ着いた別の魔獣世界において彼女自身が破壊してしまう。
魔法少女は一つの固有魔法しか持ち得ない。
しかしキュウべぇを介さずに奇跡を叶えてしまったイレギュラー存在がいたようだ。
魔法少女でありながら奇跡をもう一度叶える事によってどんな弊害が生まれたのだろうか?
それはほむらのソウルジェムの中に二つの魔法が同居する弊害が生まれてしまうものだろう。
まどかとほむらが無意識に叶えてしまった奇跡は記憶を操り、魔獣を穿つ弓の力へと変わった。
他の魔法少女を遥かに超える強力な魔力がほむらのソウルジェムの中に収められたわけだ。
しかし本来の固有魔法であった時間操作がソウルジェムから消えたわけではない。
相反する二つの魔法は互いに干渉を始めていく。
まどかがもたらした世界を終わらせる呪いと絶望の因果が魔法の盾に集積されてしまうのだ。
それにより別の魔獣世界はほむらが捨てた魔法の盾を手に入れた魔獣が魔法盾に取り込まれる。
そして世界に絶望を与える疑似魔女に変異を遂げてしまう結果となるだろう。
まどかを繋ぐたった一つの盾が新しい世界を終わらせる。
それを防ぐには魔法の盾を壊す以外になかったのだろう。
魔法の盾の中に見えた呪いと絶望の因果とは、かつて世界を終わらせかけた絶望の魔女の形。
しかし魔女が盾の中に存在するのならば、まどかもまたこの盾の中にいるかもしれない。
まどかを選ぶのか、まどかが守った世界を選ぶのか、答えはもう彼女には出ていた。
彼女は自身のまどかを救う旅路の因果によって生まれた己の如き存在にこう告げる。
――まどかを守る盾を捨て、まどかを脅かす全てを貫く力を選ぶ。
その存在とは魔法の盾を超えるまどかとほむらを繋ぐ絆、まどかへの想いの結晶とも呼べる者。
逃げる道を選ばずに全ての魔獣を倒した果に彼女と再会する。
それこそが笑顔でまどかが迎えてくれる道だとほむらは信じる。
疑似魔女に取り込まれた魔法の盾は世界のコトワリを歪めるため、円環のコトワリが破壊する。
魔法の盾が壊された時、もう一度だけ時間が巻き戻ってくれる現象が起こってしまう。
これによって、ほむらのソウルジェムに同居していた時間操作の魔力は永久に失われる。
魔法の盾に触れていた存在以外、別の世界で生きた記憶さえ持ち得ないだろう。
彼女がもう一度気がついた場所は美樹さやかが魔獣と共に滅び、円環に導かれた今の魔獣世界。
これによって、ほむらは時間を操る魔法の盾から開放されたはず。
それでも覚えてさえいないはずの時間を司る砂の音が聞こえてくるのは何故?
うたた寝をしていたのか、彼女は自分の家の居間と思われる場所で目を覚ます。
その室内は結界なのか異界なのかも判断出来ない大きな白い世界。
赤青黄色などのカラフルな曲線ソファー。
魔女に関する資料を映し出した絵画のようなホログラフィックの数々はもう存在しない。
しかし天井部位に備え付けられた時計の剥き出し内部かと思わせるゼンマイ装置は健在である。
そして死神の両刃鎌を思わせる振り子でさえ未だ健在。
自分の家の光景を呆然と見つめながら、天井のゼンマイ装置をほむらは見上げる。
「そういえば…私は何故、
今まではまどかを救う事のみ考えたが、今は落ち着いて自分の周りが見えるようになっている。
かつてあった魔法の盾の力にこんな空間を生み出す力などなかったはず。
魔法の盾を失いながらも存在し続ける謎の空間。
それに対して疑問さえ持たずに生きてきた自分を酷く奇妙に思うのであった。
♦
4月も最終日の夜。
ほむらはマミと杏子と一緒に今日の狩りを商業区で終えてから工業区にまで足を伸ばす。
連戦に次ぐ連戦であり、先を考えているとは思えない向こう見ずな生き様であろう。
交わした約束を失った彼女にあるのは魔獣と戦い続けた果に使命と共に果てる道。
その先にあるまどかとの笑顔の再会を夢見て己を捨てる戦いを続けるのだろう。
多くなかった魔獣も狩り終えたほむらはグリーフキューブを拾い上げてソウルジェムにかざす。
「精が出るね、暁美ほむら。働き詰めじゃないか?」
グリーフキューブを回収するためにキュウべぇも現れてくる。
「多少の休息も魔法少女の努めだよ。より多くの魔獣を倒してもらえるのは嬉しいけどさ」
この世界で感情エネルギーを回収する手段とは、魔獣から生み出されるグリーフキューブのみ。
グリーフシードを産み出す事が不可能となった今、魔獣を狩る者をキュウべぇは必要とする。
それ故に魔法少女の数をいたずらに減らすのは得策ではないと考えているのだろう。
「ふん、お節介は無用よ。あなた達の都合で戦っているわけじゃない…私の戦いだもの」
変わらない態度に対するキュウべぇも呆れた表情を浮かべる。
無鉄砲な行動を起こしている原因は彼女が語ってくれた存在であるのは分かっているようだ。
「鹿目まどかのためか。君もつくづく信心深いね」
「どうせ信じてないんでしょ?」
「君が語ってくれた夢物語はボクにとって、大いに夢のある話だけどね」
「夢物語じゃないって何度も言ってるわ。本当の事よ…」
根拠のある論ではないせいか、彼女は自分で自分の理屈を疑い始めてしまう。
「せめてその事象を立証する手がかりが一つでもあれば、ボクらの見解も違ったろうけど…」
「例えば?」
穢れを吸ったグリーフキューブがキュウべぇに投げられ、尻尾を使って背中に収容していく。
「円環のコトワリを世界にもたらすキッカケを作ったという…因果を紡ぐ魔法の盾さ」
それは時間操作魔法の事を言っている事ぐらい、ほむらには分かっている。
「そんな目で見られたって、あの力はもう使えないわよ。今の私にあるのは…」
工業区の奥から強い風が吹き抜け、ほむらの長い後ろ髪を揺らす。
その風の中に感じたのは魔獣の瘴気。
「新たな魔獣のお出ましだ。独りで行くのかい?」
「ええ、余計な連中を呼ぶ必要はないわ」
後ろ髪を右手でサラッと大きくかき上げて流し、左手に魔法の杖を召喚する。
尖端の紫の薔薇から伸びる蔦が螺旋を描き、絡み合うように杖に巻き付いた魔法武器。
この杖が彼女の魔力に呼応し、魔法の弓となる光景はかつてのまどかの武器と酷似する。
跳躍して工場群を飛び越えていくほむらの後ろ姿をキュウべぇは追いかけもせず黙って見送る。
「ふぅん…どうやら覚えているのは…
その背中ある丸く赤い入れ墨のような毛並が便座のように縦に開く。
「時間を操る者の武器や身体に触れている間は同じ時間を共有出来る…だったかな?」
異空間のように暗く底がない竈の中から何かの破片が飛び出す。
それを長い尻尾で受け止め、顔の前まで持ち上げる。
その破片とは違う魔獣世界において破壊された
「まさか本当に…時間渡航の魔法なんてものを扱えたとはね」
魔法の円盤盾をピザの円形で例えれば、切り分けた一部程度の大きさにまで砕けた破片。
時間を操る砂も撒き散らされ、機械構造も全て壊れきってしまったガラクタ。
しかし時間渡航魔法を行えた道具の欠片であれ、十分彼女の論を証明出来る根拠となるだろう。
「これで君が因果を束ねたという話も、納得しうるものになったわけだね」
ほむらの仮説は証明されたのなら宇宙を熱で温める天使として、
「いつの日か君のその魂が呪いの色で満たされた時、ボク達に協力してもらう事になるだろう」
全てはこの宇宙の未来のため、光と熱を司る大いなる神のためにインキュベーターは存在する。
「円環のコトワリ…いや、鹿目まどかをボクらのモノにするためにね」
いずれその時が来るまで無茶な戦いを続けるといいとキュウべぇはほむらの自滅を望んでいく。
背中の空間に再び盾の欠片を収容しようとした、その時だった。
――それは、貴様などが持っていいモノではない。
「えっ…?」
いつの間にかキュウべぇの全方位を取り囲んでいたのは三日月の刃をもつ無数の
声を発した瞬間には無数の山鎌によって細分化されるほどにまで切り刻まれて絶命する。
宙を舞う盾の欠片が空に向かって浮かび上がっていく。
頭上には三日月に照らされた天使の翼を背に持つ老人の人影。
裾の長い黒のチェスターコート、白いスーツズボンの黒いストライプ色。
首元の白いスカーフが夜風に靡く姿をした者の手に収まるように盾の欠片を掴み取る。
右手から次々に生み出されていくのは時計を構築する部品の数々。
それらは紳士姿の存在の両手に収まるように浮遊しながら目の前で組み上がっていく。
魔法の盾の形が蘇っていき、ほむらの左腕に備えられた頃の形へと戻ってしまうのだ。
だが肝心の砂時計の砂は収められてはいない。
蘇った魔法の盾を取り、右手を砂時計に近づける。
すると時を操る砂が砂時計の中に収められていき、赤い砂の色が蘇ってしまう。
「…
天使の翼を持つ老紳士は懐かしい盾を眺めながら立派に伸びた白髭を右手で撫でる。
そして左手に持つ魔法の盾を身体の中に押し込んでいく。
盾は光となっていき、老紳士の身体の中に収まってしまう。
かつてほむらが所有していた魔法の盾。
それを誕生させた生みの親とは本当に暁美ほむらだったのであろうか?
時間渡航、平行世界移動、他の魔法少女達がもつ固有魔法とは余りにも
それはもはや奇跡の領域であり、一度だけの奇跡ならば一度ぐらいは平行世界に行けただろう。
だが暁美ほむらは数えるのも億劫になる程に使い続けてこれている。
それはもはや
暁美ほむらはなぜ他の魔法少女達とは違う次元の能力が与えられた?
他の魔法少女達のように魔法の武器を生み出す事がなぜ出来なかった?
その鍵を握る存在こそ、天使の翼をもつ老紳士の姿をした
「黙示録の騎士達も既にこの街に現れた。先に獲物を譲ってやろうかのぉ」
宙に浮かぶ老紳士は背中の翼を折り曲げて身体を包み込む。
「ワシは獲物を追いかけなくとも、いつでもあの小娘を殺せるのだ」
細目が開くと底なしの闇を思わせる程にまでどす黒く底が見えない空洞となっている。
「ワシは
その言葉を言い終えた瞬間、老紳士の姿は空から消えている。
人間ならば一瞬の出来事であり、視認する事さえ出来なかっただろう。
その光景はまるで暁美ほむらが行使してきた時間停止魔法と酷似するのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
2019年5月1日となって元号が変わり、令和元年を迎える日。
新天皇即位式など社会人や学生は特に意識する理由もなく、今日も学校に通って授業を受ける。
今日の学業を終えた学生達は帰路につき、マミも同じく他の学生達と共に正門を出ていく。
彼女が先に帰るのを確認し終えたほむらは後から帰路につくようだ。
魔法少女仲間に心を開く事が出来ない自分に苛立ちを感じてしまう。
それでも記憶操作魔法を使う気にはなれなかったようだ。
あの時に出会った暁美ほむらと瓜二つの金髪の少女に言われた言葉が頭にこびりついている。
――忘れてしまった部分から、次々にあの子の記憶にも綻びが生まれていくわよ?
ほんの少しでも記憶を弄っただけで、まどかの存在を疑ってしまうかもしれない。
まどかを繋いでくれた魔法の盾も失い、唯一残ったまどかの記憶や想いまで失ってしまう。
「やっぱり私には出来ない。周りからなんと思われても…これだけが私のかけがえのないもの」
まどかを覚えている事だけが今の暁美ほむらを支えている。
だが他にも鹿目まどかを覚えてくれていた存在がいるとも聞かされている。
俯きながら通学路を帰っていくほむらの横を男が通り過ぎていく。
その男の姿に見覚えがあったのか、彼女はハッと顔を上げて後ろを振り返る。
「夢の中で逢った、ような……」
黒い革靴に黒いスーツズボン、白シャツの上から黒いトレンチコートを着込んだ男の後ろ姿。
しかし白い夢の中で出会った男とは明らかに違う部分が頭部に見える。
「…違うわね。人修羅はたしか…頭が白い髪の毛だったわ…あの男は私と同じ黒い髪だし」
衣装が同じだけの別人だと判断した彼女は踵を返して帰路についていった。
♦
日が沈みかけた時間。
黒いトレンチコート姿の男は建設作業現場の奥深くに進み、明かりもない領域へとたどり着く。
剥き出しの鉄骨や天井部位がひしめく空間の広場で足が止まったようだ。
作業現場の奥の領域は特に暗く、夕日の日差しもあまり届かない。
その領域から濃度の濃い白煙が男の足元まで流れ込んで包んでしまう。
男は左ポケットからタバコの箱を取り出し、一本口に咥えて右手の人差し指と中指で火を灯す。
吸い込んだタバコの紫煙を奥に向けて吹きかけながら不敵な笑みを浮かべるのだ。
「ルシファーが言っていた暁美ほむらを試す存在とは…お前らだったか」
暗い奥の領域から馬の蹄の足音が複数響きながら近づいてくる。
夕日の光に照らされた広場にまでその存在達は進み、黒いトレンチコート姿の男の前に現れる。
「懐かしいツラ共だ。相変わらず不気味な連中だぜ」
男の前に現れたのは白い馬、赤い馬、黒い馬、そして青白い馬。
青白い馬に跨るのは騎士甲冑の上に黒いローブを上から纏う男であり、他も同様の姿。
「久シイナ、人修羅ヨ。カツテアッタ世界以来カ」
黒いローブに備わったフードで隠れたその顔は第一の騎士と同じく髑髏顔。
青白い馬に跨る存在と同じ姿をした赤い馬に跨る髑髏顔の男も口を開きだす。
「ソレトモ、新タニ生マレタ神エンキ、ト呼ブベキカノォ?」
年寄りを思わせる口調の髑髏顔の男は表情筋の無い髑髏顔で愉快に笑う。
「エンキ?そんな名で呼ばれたのは初めてだな、ジジイ」
「イズレ、分カル事ジャ。ソウジャノォ?ブラックライダー?」
赤い馬に跨る年寄りの横にいる黒い馬に跨る髑髏顔の女と思われる存在は酷く不気味であろう。
「…………」
髑髏顔の女騎士は相変わらず寡黙な性格をしているようであり、つまらない質問には応えない。
「マスマス力ヲ増シタヨウダナ、人修羅。ソレデコソ、俺達ヲ倒シタ者ヨ」
青白い馬の隣に立つのはホワイトライダーであり、人修羅との再会をどこか嬉しそうにする。
かつての宿敵すら強者であるならば認めてくれる存在であり、敬意を示す騎士のようだ。
「戦う相手を間違えるなよ、ホワイトライダー?今回の獲物は俺じゃないんだろ?」
「ソノヨウダ。一度見ニ行ッタガ、落胆サセラレタモノダ」
「独リヨガリノ戦イブリダッタソウジャノォ?ソレデハ…人修羅以下ジャ」
「……ツマラナイ女ダ」
「オオ、ヤット口ヲ開イタカ?ブラックライダー」
「…オ前ノ話ハ、ツマラナイ話題バカリデ答エル気ニナラナイダケダ、レッドライダー」
「何ニセヨ、我ラハ閣下ノ御心ノママニ動クノミダ」
「暁美ほむらは…かつて俺が通った道を通るか…」
懐かしい宿敵達を見物しながら人修羅と呼ばれた男はタバコを吸い続ける。
東京の守護者として新世界で生きる道を進む時期にルシファーは再び人修羅の前に現れている。
啓明結社やサイファーの件で問い詰めようとしたが、それよりも気になる存在がいたのだろう。
暁美ほむらを試すと言い出された事で彼もまた彼女を試す者として名乗りを上げてしまう。
「暁美ほむらの末路を共に見届けてみないか?魔人の試練を超えた者よ」
聞きたい事は山程あったが、それでもルシファーから出された提案は魅力的であろう。
「……いいだろう、今回だけなら協力してやる」
あの世界が改変される時に見た暁美ほむらの悲しみと慟哭。
もはや他人とは思えない程にまで自分と似通った運命を感じさせた存在だからこそ見届けたい。
魔人の試練を自分と同じ様に超えられる者になり得るかを試す者となる事を望む魔人となった。
「我ラハコレヨリ、アノ女ガ持ツ、メノラーヲウバウ為ニウゴク」
「目的ヲ同ジクシタ者トシテ見物ニ来タノダ。何カ我ラノ狩リニ注文ハアルカ、人修羅?」
「フッ…そうだな、ペイルライダー。俺が求める狩りの注文は…」
右手で吸っていたタバコの吸い殻をペイルライダーに目掛けて指で弾く。
青白い馬の前でタバコの吸い殻は業火で燃え上がり、一瞬で灰となって消えてしまう。
「暁美ほむらの五体をバラバラに切断し、焼き滅ぼし、ソウルジェムを喰らえ」
かつての魔人達との戦いは誰一人たりとも油断を許されない生死をかけた極限の試練。
それを女子供だから容赦しろとは言わない者こそが魔人の試練を超えた人修羅であろう。
女子供であろうが殺し合いの世界に入ると選択して契約したのならば責任を持つべき。
末路が惨たらしく理不尽に殺される末路であろうとも結果を享受するべき。
自由な選択とは、
「俺と戦う資格が無い者なら、円環のコトワリに導いてやる必要などない。悪魔の生贄だ」
「ハッハッハッ!魅力的ナ注文ダ、人修羅ヨ!ソレデコソ、タタカイトイウモノダ!!」
ホワイトライダーは神弓を召喚し、敵の首級を上げて勝利を宣言するように天にかざす。
レッドライダーは右手にクレイモア大剣に似た剣を召喚して握り込む。
ブラックライダーは右手に黒い天秤を召喚して掲げてくる。
ペイルライダーは右手に死神の大鎌を召喚して右肩に担ぐ。
「行け、黙示録の四騎士共。かつての俺と同じく暁美ほむらからメノラーを奪い取ってみせろ」
各々が手綱を打ち、人修羅の横を四騎士達は一気に駆け抜けながら消えていく。
「見極めさせてもらおうか…暁美ほむらは何者に成り得るかをな」
踵を返して帰ろうとする彼の足が止まる。
魔人と比べれば取るに足らない程にまで弱い魔力の群れを感じるのだろう。
魔人の馬達から放たれていた白煙とは違う濃霧のような瘴気が建設現場内に漂い始める。
「全く…東京も見滝原も変わらないか。何故俺ばかりを集中して狙うんだ?」
現れたのは魔獣の群れであり、建設現場だけでなく現場の外まで埋め尽くすほどの規模。
魔獣は人間や魔法少女といった感情を持つ存在から感情エネルギーを吸い上げて廃人にする。
ならば感情エネルギーを莫大に持つ存在に引き寄せられるのは当然だろう。
感情エネルギーを持つ存在とは人間や魔法少女だけではない。
悪魔達もまた感情を持つ存在であり、人間や魔法少女と近い存在。
この世界に召喚された悪魔は全身が感情エネルギーで構成され受肉した存在。
エネルギー量で言えば人間や魔法少女を遥かに超えるであろう。
莫大な因果を束ねた暁美ほむらも強かったが、遥かに超える規模の悪魔がここにいる。
「人間や魔法少女だけの感情では足りないか?悪魔の感情さえ喰らいたいか?」
首から顔、両手からも発光する入れ墨が浮かんでいく。
その両目も悪魔の金色の瞳に変わっていき、首の後ろから悪魔の一本角が生えてくる。
この街に魔人が現れた数は5体ではなく人修羅も含めれば6体であり、彼もまた魔人なのだ。
「光の霊獣共、闇の悪魔の感情を喰らいたいならば、奈落の底に堕ちる覚悟は出来ているか?」
混沌の覇王は魔獣に向かって行き、雑草を刈る程の労力にさえならない弱者共を刈り殺す。
魔人とは魔的な力を宿し、人智を超えた能力を身に着けた存在。
彼らは死を司り、それを存在意義とする死神として人々からは不吉・災厄の象徴とされる者達。
何のために人間の前に姿を現わし、何の目的で死を振り撒くのか謎に包まれている。
その正体は様々であり、怨念が死神の姿となって実体化された存在という説。
悪魔と合体して力を得た人間という説、人間から悪魔に転生した存在という説などがある。
また世界の終末の時に姿を現わす四騎士や、終末の笛を鳴らす者など様々だった。
2019年5月1日とは全てを足せば18となり、三つに分ければ
黙示録の獣になりえる666の存在達の運命の歯車が回り始める日となった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
その日の夜、今日も魔獣を狩るためにパトロールを行っていた3人の成果は芳しくない。
高層ビルの屋上で商業区を見物しながら魔力を探るが、今日は魔獣は感じられない。
「おかしいわね…いつもなら信じられないぐらいの魔獣の繁殖が起こるのだけれど…」
「誰かがあたしらより先に…工業区や商業区の魔獣を全部狩っちまったのか?」
「美国さん達とは考え辛いわね。彼女達は商業区や工業区を私達に委ねてくれているわ」
「なら他の街の魔法少女だとしても、そんな連中の魔力なんて感じられねーしなぁ?」
「…………」
使命を果たせない日に恵まれただけで暁美ほむらの心に焦燥感が湧き上がる。
魔法少女は魔獣を滅ぼし続けなければならない、遊んでなどいられない。
使命を忘れ、日常に堕落し続ける魔法少女を円環のコトワリは笑顔で迎えてくれる気がしない。
そんな激しい思い込みに支配されてしまう彼女は奥歯を噛み締めていく。
「なら今日は成果無しで解散でいいか、マミ?」
「そうね、今日ぐらいはゆっくり休んでも…」
「その必要はないわ。工業区や商業区にいないなら住宅区や政治行政区にまで足を運ぶだけよ」
「おい待てって…ほむら!なんでお前はそんなにまで…」
「私達は魔法少女よ。魔獣を全て滅ぼすために在る者として、戦い続けなければならないわ」
「だからって…そんなに自分を追い詰めなくても…」
「貴女達が日常に堕落していきたいならすればいい。私は一人でも魔獣を狩り続ける」
「待って、暁美さん!私達だって人間らしい女の子であるべきよ!少しは話を…」
「…くどいわ。貴女達と魔法少女についての議論をここでする気はない」
左手に魔法の杖を召喚し、屋上から向こうのビルに飛び移ろうかと屋上の端に移動していく。
(……何?この…感じた事がない恐怖は?)
ほむらの背後から
本当にこの場所に留まり続けるべきか?逃げるべきか?
そんな思考の選択など、やっている暇さえなかった。
「「えっ……?」」
マミと杏子の横を突然駆け抜けた白き馬と赤き馬。
二体の魔人はほむらが後ろに振り向く暇さえ与えず彼女の両腕を互いに掴み上げて持ち上げる。
「お前達は…ッッ!!?」
二匹の馬に跨る魔人達は暁美ほむらを持ち上げたまま高層ビルの端から跳躍する。
後続から現れた黒き馬と青白き馬も駆け抜けながら跳躍していく。
ほむらの両足を後続から現れた二体の魔人達が掴んでくる。
魔人達に四肢を拘束されてしまったほむらは天駆ける騎士達と共に落下していく。
地面に広がっていく魔人の結界空間の入り口に入り込み、その姿をくらましてしまう。
マミと杏子が慌てて下を見下ろした時には魔人の結界は閉じられ、何処にも見当たらない。
「なっ……何だったの!?いきなり現れた…あの存在達は…一体何なの!?」
「あいつらが大物魔獣…いや!!あんな連中が魔獣なもんか!!!」
「暁美さんをさらった黒衣の騎士達は魔獣じゃない?なら私達は…一体何を見たというの!?」
今まで見た事も戦った事もない存在達に奇襲を仕掛けられたマミは酷く混乱している。
しかし聖書知識を持つ杏子は聖書の何処かで四騎士の存在を見かけた記憶を思い出す。
「まさか…そんな事って……」
「何か知っているの…佐倉さん!?」
「あれは魔獣っていうよりは……ヨハネ黙示録の四騎士だ!!!」
白き馬、赤き馬、黒き馬、青白き馬、それらに跨る騎士達はヨハネ黙示録の逸話である。
小羊(キリスト)が解く七つの封印の内、始めの四つの封印が解かれた時に現れるという。
四騎士はそれぞれが、地上の四分の一を支配する存在。
第一の獣、第二の戦争、第三の飢饉、第四の死を表し、人類を殺す権威を与えられた騎士。
多くのキリスト教徒は四騎士を未来の苦難の予言と解釈していたようだ。
「黙示録…?四騎士…?何でそんな存在がこの世に現れて…暁美さんをさらったの!?」
「そんな事まで分からねーよ!だけどほむらはもう…助からねーかもしれねぇな…」
「そ…そんな…ことって…」
――あれは人類にとって、逃れられない死の概念そのものだ。
♦
地面に倒れ込んだほむらの意識が戻り、起き上がりながら辺りを見回す。
そこはまさに地獄かと錯覚してしまう程にまで異質であり、赤く燃え上がる世界。
赤き豪雷が空で荒れ狂い、景色は業火のような赤き渓谷と大地に包まれた空間である。
「ここは…一体…?」
――大いなる神を表す7を用いた試練を超えてみせなさい。
脳裏に蘇るのは自身と瓜二つの姿をした金髪の少女の声。
それと同時にとてつもなく恐ろしい気配と魔力が周囲から感じてしまう。
この魔力はかつての世界の魔女でも、今の世界の魔獣でもない。
<<人ノ身ヲヤメ、石コロニ成リ果テテマデ、何カヲ成ソウトシタ者ヨ>>
燃えるような豪雷で荒れ狂う空に浮かぶのは、天駆ける白馬に乗った騎士。
<<友ノタメニ戦イ、友トカワシタ約束ヲ貫イテキタ者ニ…聞キタイノォ>>
同じく空に浮かぶのは天駆ける赤馬に乗った騎士。
<<……約束ハモウ、守レナイ。オ前ハ……何モナセナカッタ>>
同じく空に浮かぶのは天駆ける黒馬に乗った騎士。
<<オマエガ望ンダ世界トハ、コノヨウナ形デアッタノカ?>>
地獄の空に浮かぶはのは、青白い馬に乗った騎士も合わせた黙示録の四騎士達。
ほむらは目の前の存在達を見上げたことで理解するだろう。
この存在こそが7つの試練である逃れられない死である事を肌身で感じとる事態となる。
今から始まるのは堕ちた天使に導かれし魔法少女の新たなる戦いの道。
これこそがかつての世界で人修羅と呼ばれた悪魔が超えてきた戦いの再現。
魔法少女か魔人か、生き残れるのは二つに一つ。
ほむらはこの試練を超え、世界の真実を知る事が出来るのか?
知るために超える戦いこそ、死と黄泉との道。
それを切り開く事が出来る唯一の方法とは、魔人を超える力を示すのみであった。
読んで頂き、有難うございます。