人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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58話 罪と罰

暁美ほむらが魔人戦に備える中、見滝原の魔法少女達は変わらぬ日々を送っている。

 

見滝原政治行政区や郊外の五郷で魔法少女活動を行っているのは美国織莉子達であろう。

 

彼女達が風見野市から流れてきた凶悪な魔法少女を倒し、街から追放した頃。

 

風見野市からとある魔法少女が見滝原市に訪れていたようだ。

 

風見野市で魔法少女活動を行っているグループのリーダーである人見リナであろう。

 

彼女は優木沙々を追ってこの街にやってきたのは彼女なりの正義感。

 

見滝原には巴マミが守護者として沙々を待ち構えている事ならリナも知っている。

 

しかし沙々の洗脳魔法の恐ろしさを身を以て経験し、仲間も一人犠牲となっている。

 

手練とはいえ他の魔法少女だけに任せるのはプライドが許さないし、仲間の無念も晴らせない。

 

リナは風見野グループも助太刀するべきかを探るために見滝原に訪れていたようだ。

 

そんなリナを見滝原の大きな駅で待ってくれていたのは美国織莉子。

 

彼女の固有魔法は未来予知であり、リナがこの街に訪れる光景も既に知っていたようだ。

 

「この街は巴さんや佐倉杏子だけじゃなかったんですね。私が来る事が分かってたんですか?」

 

「ええ、それが私の魔法です。優木沙々の件で訪れたのでしょ?」

 

「そこまで知ってるなんて…それが貴女の固有魔法なのね?」

 

「立ち話もなんだから、喫茶店で詳しい経緯を語りたいのだけど…」

 

「分かりました。それじゃ、あそこの喫茶店で話しましょう」

 

入店して席に座って向かい合い、珈琲と紅茶を注文した二人の会話が続いていく。

 

「そうですか…優木沙々は美国さん達が倒してくれたんですね?」

 

「殺してはいない。懲らしめてあげたし、更生を促し他の街に逃したのだけれど…どう思う?」

 

「甘い判断だと思います。あの性悪道化が分かりました!って言った時ほど危険なんです…」

 

「貴女達が彼女に苦しめられた事も知ってる。でも、私は応報刑はやり過ぎだと思ったのよ…」

 

「それが()()()()()()()()って、その時に想像は出来なかったんですか?」

 

「私の仲間も貴女と同じ意見よ。それでも人は学ぶ事で変わっていけると…私は信じたいの」

 

「貴女は優しいんですね…でも力が全ての世界では…その優しさが誰かの命取りになります」

 

「私の父は元弁護士だったの。だから日本の法律も小さい頃から父の部屋の本で読んでたわ」

 

「小さい頃からって…凄い学習欲ですね?美国さんのお父さんの影響?」

 

「そうね、私はお父様の影響を強く受けて勉強してきたから…法治主義を尊重したかったの」

 

「まぁ確かに…私刑なんてこの国の法律で禁じられていましたね…」

 

「罪には罰が必要。でも罰は罪の量刑で同じ責め苦を与えるだけが全てではない気がして…」

 

「罪と罰…そういえば、同じタイトルの長編小説があった気がしますね」

 

「あら?人見さんもロシアのフョードルが書いたあの小説を読んだ事があるの?」

 

「書店で立ち読みぐらいなら…。内容が難し過ぎて棚に戻してしまいました…」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()。覚えておいて損はないわ、人見さん」

 

「美国さんはあの小説が大好きなんですね…」

 

「社会を優先するあまり人の命を蔑ろにしてはならない…私はあの小説から…そう学んだわ」

 

珈琲を飲み干し、織莉子を見ながらリナは溜息をつく。

 

「勉強熱心な貴女を見ていたら…今年は高校受験だったのを思い出しました…」

 

「あら?人見さんと私って、同じ年齢だったのね?」

 

「お互いに可愛い半纏を冬場は着込んで、高校進学のために受験勉強を頑張りましょうか♪」

 

「ウフフ♪半纏も冬の部屋着に良いかもしれないわね、人見さん♪」

 

後半は和やかな談笑となり、優木沙々の一件は織莉子の判断を尊重して様子を見る事となる。

 

再び風見野駅に戻るリナのために織莉子は電車に乗り込む改札口まで見送りしてくれる。

 

彼女は手を振りながら人混みの中に消えていき、織莉子も笑顔で手を振っていく。

 

リナの姿が見えなくなった後、織莉子の表情が急に変わって沈着な表情となったようだ。

 

「あの小説の内容は…()()()()()()()()()()()()()()()()()()…リナさん」

 

罪と罰という小説の内容はこうである。

 

頭脳明晰ではあるが貧しい元大学生のラスコーリニコフはこんな思想を思いつく。

 

一つの微細な罪悪は百の善行に償われる。

 

選ばれた非凡人は新たな世の中の成長のためなら社会道徳を踏み外す権利を持つ。

 

独自の犯罪理論をもとに金貸しの強欲狡猾な老婆を殺害し、奪った金を持ち逃げする。

 

その金を世の中のために使う善行をしようと企てた主人公であろう。

 

しかし殺害の現場に偶然居合わせたその妹まで殺害してしまう事態となってしまう。

 

思いがけぬ殺人にラスコーリニコフの罪の意識が増長して苦悩する。

 

しかしラスコーリニコフよりも惨憺たる生活を送る娼婦のソーニャとの出会いが彼を変える。

 

家族のために尽くす徹底された自己犠牲の生き方に心を打たれ、最後には自首する物語。

 

人間回復への強烈な願望を訴えたヒューマニズムが描かれた小説こそが罪と罰。

 

その主人公の在り方こそ、東京で魔法少女を虐殺して人々を守る()()()()()()()()()()()()

 

 

「人見さんとお話してたら、お父様の書斎の掃除を思い出しちゃったわ」

 

午後の時間、織莉子は掃除用エプロンと頭巾を家着用ドレスの上に纏いながら下の階に向かう。

 

自宅にある父の書斎だった部屋の埃を清掃しに行くようだ。

 

亡き父が残した祖父の屋敷はあまりにも広大であり、彼女一人で掃除を行える規模ではない。

 

休日はどこを掃除するかをカレンダーに書き込み、それをこなして清掃してきたようだ。

 

家族の部屋だった場所も偶にはこうして清掃してくれる。

 

織莉子にとって、それだけ両親が大切だったのだろう。

 

「魔法少女の魔法に掃除魔法があったら便利なのに…魔法使いって、そんなイメージよね?」

 

ホウキを操りながら掃除を行う鍔の広い三角帽子を被る魔法使いの少女。

 

絵本で描かれるイメージと自分達魔法少女を比べると、かけ離れたイメージ過ぎて苦笑いする。

 

彼女達はそんなファンシーな魔法少女ではない。

 

殺戮の世界で生きる者であり、親から貰った命を地獄の業火で炙り続ける親不孝者でしかない。

 

「お父様がまだ生きていて、私が魔法少女になった事を知ったら…どれだけ悲しむのかしら?」

 

もしもを考えても仕方ないと彼女は掃除に集中する。

 

書斎の棚に並べられた本を一つ一つ清掃していたら棚の中で取り辛い本を見つけてしまう。

 

「あら?何か引っかかって…きゃあ!」

 

力任せに引っ張ったら数冊の本ごと抜け落ちて織莉子は尻餅をついてしまう。

 

「もう、お父様ったら本棚に何か押し込んでたのね。それとこれは……何?」

 

本棚の奥にあったのは手帳と思われる品。

 

父が本棚に隠すように置いてあった手帳が気になり、織莉子はそれを開いてしまう。

 

そこに書き記されている内容が己に破滅をもたらす事さえ彼女は知りえない無知な少女。

 

書斎に飾られた両親の絵画に残る父の姿はそんな娘を無慈悲に見下ろすばかりであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

この国の新しい内閣総理大臣が指名され、新総理によって国務大臣の組閣が行われた時期。

 

初閣議も行われた総理官邸では国務大臣達も記者会見を終えたようだ。

 

総理官邸の5階には空中庭園とも表現出来る程の石庭が存在している。

 

開閉式の天井が開いた夜の光に照らされた石庭を見物している人物こそ、八重樫総理大臣。

 

新たな首相である老人は細目と穏やかな表情のまま石庭から生える竹林を見つめていた。

 

「八重樫総理、少しよろしいですか?」

 

総理が振り向くと立っていたのは八重樫総理よりも頭一つ身長が高い大臣だったようだ。

 

「やぁ、美国環境大臣。まだ帰っていなかったのかね?遅くまでご苦労様」

 

「…恐縮です」

 

七三分けの髪に眼鏡をかけた仏頂面を崩さない威圧的人物は織莉子の叔父である美国公秀。

 

矢部内閣の頃より環境大臣の職務を行っており、今回においても同じポストに選ばれた人物だ。

 

「大臣職を守れて良かったな。久臣の不祥事で前総理に人事刷新されてたら君を選ばなかった」

 

「……そうですか」

 

弟の汚職の話を総理にされても仏頂面は崩さないものの、その目の奥には怒りの感情が宿る。

 

それを表に出す事など彼はしない。

 

何故なら公秀自身が真っ先に弟を助けもせずに美国家から切り捨てた者だからであろう。

 

政治生命に関わる程のスキャンダル事件ならば、たとえ身内であろうと容赦はしない。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()、これが()()()()であろう。

 

「あの娘さんも可哀想に…ええと、ああそうだ、織莉子君だったか?」

 

「その話はやめて頂きたい」

 

「ほぉ?久臣君は良くて、彼の娘は駄目なのかい、美国君?」

 

「皆好き勝手言っているが、彼女は父を亡くし傷ついている……ただの中学生です」

 

「ふむっ、それもそうだね。それで、私に何か用事かね?」

 

「矢部前総理の体調の悪化からの辞任、この話は本当なのでしょうか?」

 

「疑っているのかね?」

 

「IR汚職事件、桜を見る会、元法務大臣夫妻の件。前総理は()()()()()()()だった」

 

「……何が言いたいのかね?」

 

「令和も控えた時期の突然過ぎる引退劇、そしてスピード組閣。滞りなく進む憲法審査会…」

 

「…………」

 

「まるで誰かに、目的を達成するために切り捨てられ…」

 

「憶測だけで物事を語るのはやめたまえ。根拠に乏しく君の被害妄想と区別がつかない」

 

「……………」

 

「私達国会議員は国民のため、不断の努力を行う清き存在であればいいのだよ」

 

細目と穏やかな表情を崩さないまま踵を返し、総理執務室に戻ろうとする八重樫総理。

 

美国大臣の横を通る際に立ち止まり、総理の細目が開くと恐ろしい顔のまま美国大臣を睨む。

 

「そういう事にしておきたまえ。恐れ知らずな詮索は政治生命だけでなく、君の命さえ消える」

 

恐ろしかった父とかつて並んでいた狡猾な古狸の迫力に対して顔に冷や汗が滲む。

 

そんな彼を横目に八重樫総理は自身の総理執務室へと消えていった。

 

「上の職務につく程…日本を蝕む闇の存在を感じずにはいられない…」

 

その存在達を周りに語る事は公秀は決してしない。

 

語ろうものなら()()()()()()()()()()()()()()()()をされるのは分かり切っている。

 

嘘つき、デマ屋のレッテル貼りで悪者に仕立て上げられる常套手段が待っているだけだから。

 

自身も政治家として上に登る野心のために弟を切り捨てた鬼として保身に走るしかない。

 

それを自覚している公秀は闇の存在達を否定する権利があるのだろうか?

 

答えが出ないまま公秀は総理執務室を呆然と見つめ続ける事しか出来なかった。

 

 

「ねぇ、小巻…織莉子が三日も白女を休んでるって…本当なの?」

 

「携帯で連絡とっても出ないんでしょ?魔獣狩りにも現れないし…」

 

「何かあったのかな…?もしかして風邪?」

 

「美国は魔法少女よ、呉。私達が風邪を患っても回復魔法があるでしょ?」

 

「そうだよね…」

 

キリカと小巻は美国邸の門の前で屋敷を見つめており、インターホンを鳴らしても応答がない。

 

「コラーッ美国ッ!!心配して来てくれた仲間をシカトするってのーッ!?」

 

インターホンを高速で連打するが、やはり反応無し。

 

「居ないのかな…?」

 

「あーっ、ムカつく!!そっちがその気なら…乗り込んでやろうじゃない!!」

 

塀をよじ登ろうとする小巻に対してキリカは慌てて羽交い締めにしながら止めてくる。

 

喧嘩口調で喚く彼女を道行く人達も怪訝な表情で見つめてくるからだろう。

 

短気かつ直情的な性格をしている小巻の友人達はこれに振り回されているのかと苦笑いする。

 

「あ、そうだ。魔力探知があったわ」

 

左手でソウルジェムをかざしてみるが、織莉子の魔力反応は屋敷からは感じられない。

 

「屋敷にいないわね…一体何処をほっつき歩いてるのよ…美国?」

 

「警察に電話した方がいい…?」

 

「アホ!美国が誰かにさらわれるような弱い女に見える!?」

 

「見えない」

 

「なら信じて待つか、宛もなく探すしかないって事よ!」

 

「私はジッとしてられないし…織莉子を探すよ!あぁ…心配で心が散り果てそうだ!」

 

「見つけたら連絡して、私も探してみるわ!」

 

二人は見滝原市内に向かって走っていき、大事な仲間を探しに行くのであろう。

 

日も沈み、夜の灯が降りる頃。

 

五郷の高級住宅街を彷徨い歩くのは織莉子の姿である。

 

瞳の色は濁り、幽鬼のように歩き続けながら小高い坂道を登っていく。

 

小高い丘の上に広がるように整然と並ぶ高級住宅地は登るほど大富豪の住まいとなっている。

 

そんな五郷の高級住宅街の丘の上にある屋敷に向かって彼女は歩き続けていく。

 

この道を歩くのは父の汚職事件の時期に助けを求めて駆け込んだ時以来であろう。

 

だがあの時、助けを求めた先で待っていたのは拒絶だけ。

 

何故今更そんな場所に赴くのか?

 

彼女の右手には手帳が力なく握られたまま閉じもせずに開かれているページが見える。

 

そこにはこのような内容が書かれていた。

 

――嵌められた。

 

――国会議員の席をほのめかされて、私は犯罪者に貶められてしまった。

 

――彼は始めからそのつもりだったのだ。

 

――彼の政敵である兄を陥れるために、私を貶めたのだ。

 

高い丘の上の方にある大きな日本庭園を持つ屋敷が見えてくる。

 

ここは日本の新たな総理大臣となった八重樫総理の別邸。

 

普段は東京の永田町で暮らしているが、今日は偶々こちらの屋敷に戻ってきている。

 

書斎でパジャマ姿のまま高級ソファーに座り、高そうな酒を静かに飲み続けている人物がいる。

 

風の流れを窓辺から感じるだろう。

 

書斎の窓が何者かによって開かれている。

 

そこから現れた不法侵入者を背にしても八重樫総理は微動だにしない。

 

「おや?こんな時間に珍しい客だ。ただ窓からとは関心しない」

 

窓辺に立つ侵入者とは、ただの人間では勝ち目など無い魔法少女。

 

「お父様は躾をしてくれなかったのかな?織莉子君」

 

彼女の表情は怒りの感情で歪みきっており、殺意に満ちている。

 

「私を糾弾しにでも来たのかね?それが無駄であることは、頭の良い君には解ると思うが?」

 

彼女の周囲で獲物を威嚇するように光輝くのは無数の水晶玉。

 

「まるで捨て犬のようだ。何か大事なものを失ったのかね?」

 

「……うるさい」

 

魔法少女と日本国首相。

 

あまりにも現実味を感じさせない対決が始まるのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「人を呼ばないんですか…八重樫総理?私は貴方を殺せるのに」

 

誰を呼ぼうがいつでも殺せる。

 

そんな態度の魔法少女を背にしながらも総理は余裕の表情を浮かべてくる。

 

「ああ、そうだろうね」

 

「冗談だとでも?」

 

「いいや、魔法少女ならば出来るし、君はそういう人物だと私は解っている」

 

魔法少女の存在を知っている首相に対して驚きの表情を浮かべてしまう。

 

「美国久臣は他の兄弟に比べて…政界への野心も度量もない男だった」

 

それでも国会議員の椅子を欲しがった織莉子の父。

 

何故この男が?と八重樫も最初は理解出来なかったようだ。

 

「だがある時、理由が解った」

 

「…何故?」

 

「美国修一郎、君の祖父だ。…幼い頃故に会った事はないだろうがね」

 

「私の祖父…存命の頃は総理大臣として2006年まで首相をしていたと聞いてるわ」

 

「彼は政治手腕もだが人柄も無知な国民に人気があった。上品な佇まいから慕われたものだ」

 

メディアにもてはやされた当時の美国修一郎。

 

上品なライオンの鬣ような髪を持ち、大衆受けするヴィジュアル系バンドの音楽が彼の象徴。

 

政治を知らない若者達からでさえ慕われた総理だったようだ。

 

「ただ国政政治家達や、一部の知識人達を同じ様に騙す事は出来なかった」

 

腐敗を一掃する孤高の一匹狼という破天荒イメージ作りによってメディアと共に国民を騙す。

 

邪魔立てする者を貶め、利用価値だけで人を使い、そして使い捨てる腐れ外道。

 

不景気を打開すると国民に嘘をつき()()()()()()し、規制緩和の名の下に()()()()()()()()

 

その目的とは経団連優遇であり、景気次第で労働者を捨てられる()()()調()()()を生み出すこと。

 

また公務員を一気に削減し、行政サービスを劣悪にもさせている。

 

その穴埋めは民間に税金を流し込み、安価な労働力で賄う()()()()()まで生み出した糞国賊。

 

その権益が欲しい大手派遣会社会長を務める民間議員を内閣にまで招き入れた汚職総理。

 

経済財政政策担当大臣・IT担当大臣に任命し、凶悪な政策を実行させた売国奴そのもの。

 

それが美国修一郎元総理大臣の正体だと語ってくれる。

 

祖父の正体を語られた織莉子は酷く動揺してしまう。

 

本家から遠ざけられたせいで修一郎元総理と会った事もなかったから知らなくて当然であろう。

 

それでも今はそんな話をしに来たのではないと再び憎しみを燃やす顔つきとなる。

 

「彼の子供達は自分の父親は我が子でも容赦しない外道だと知っていた。恐ろしい人物だった」

 

「話を逸らさないで。祖父と父の話になんの関係があるの?」

 

「切り捨てられた無能のうちには、彼の子供も入っていた。美国久臣だ」

 

長男である公秀は反発したようだが、逆らって勝てる相手ではなかったせいで保身に走る。

 

「久臣君は大人になってもなお父を恐れていたようだ」

 

八重樫議員が修一郎の昔話をした時は、決まって久臣の顔に恐怖が滲んでいたのを覚えている。

 

「話を逸らさないでと言ってるの!!」

 

周囲の魔法武器が彼女の周りで回転していき、一気に放つ構えを行う。

 

「もういい、父を死に追いやった貴方を許さない」

 

その一言で堪えきれずに苦笑してしまった八重樫総理。

 

後ろを振り向き、その細目を開いて政界という闇の世界を生き抜いた恐ろしい眼光を向ける。

 

()()()()()()()、美国織莉子」

 

 

由良子が亡くなって織莉子は変わってしまった。

 

泣き虫だったあの子がまったく泣かなくなってしまった。

 

何でもそつなくこなすようになり、進学すると多くの人望を集め、人の上に立つようになった。

 

僕の子とは思えない程に出来過ぎるようになってしまった。

 

僕は怖い、僕は知っている。

 

能力が高く、人望があり、微笑みの中に冷たさを携えた人間を。

 

優秀な我が子にまで切り捨てられたくない、自分の無能さを悟られたくない。

 

これが莫大な選挙資金を犯罪を犯してでも用意し、国政の道を進みたかった理由なのだろうか?

 

そんな話を八重樫総理は応援活動をしていた時期の酒の席で聞かされた者なのであろう。

 

そう伝えられた織莉子の表情は動揺を隠しきれず、それでも威圧的な態度を崩さない。

 

「君は誰よりも彼に似ている…美国に、美国修一郎元総理に」

 

もう僕は疲れた。

 

逃げようと思う。

 

自殺する前の彼ならそう呟いていたに違いないと八重樫総理は告げてくる。

 

「知らない……会ったこともない人は関係ない」

 

――我が子から、逃げようと思う。

 

その一言こそ、織莉子が見つけた父の遺品の中に記された絶望の言葉。

 

「殺す!!貴方を殺す!!!父の無念を晴らす!!」

 

美国織莉子は父の理想でなければならないと信じて自分を殺し続けてきた少女。

 

それが彼女の心の中で音を立てて崩れていく。

 

「君はこちら側の人間だ。自分の理想のために、他者を切り捨て消す事を厭わない人間だ」

 

ソファーから立ち上がって後ろを振り向き、オーバーに両腕を広げて無抵抗をアピールする。

 

「さぁ、お前の目的のためならば邪魔な人間一人消してみろ。それが美国の血なのだ」

 

「くっ……八重樫ぃ!!!」

 

簡単に殺せるはずなのに、魔法の力を撃つ事が出来ない。

 

そんな事をしても気が付かされてしまった己の罪は消えない。

 

父親の心を完璧になろうとしたせいで壊してしまった罪は消せないのだ。

 

今にも泣き崩れそうな彼女の顔に満足したのか細目に戻り、政界の古狸が笑顔を向けてくる。

 

「私は思う。君が……まつりごと(政治)をやったら、面白かろうと」

 

彼女の中で何かが壊れた音が響く。

 

今の自分がやろうとしている殺人行為こそ、まさに美国の血。

 

呪わしき祖父の血が自身に色濃く流れていると自分で証明してしまっている。

 

我が子の姿に祖父の姿を投影させる程に完璧になろうとしたせいで父親は壊れた。

 

美国織莉子が父を殺してしまったのだと完全に理解出来た。

 

力なく両膝を地面につく。

 

織莉子の人生とは父親を支えて救う目的のはずが、逆に父を苦しめて殺しただけ。

 

そのせいで家族を失う結果を残す。

 

これが美国織莉子の運命であり、背負うべき罪と罰であった。

 

「うああああぁぁぁぁーーーー……ッッ!!!!」

 

その場で泣き崩れてしまった織莉子の無様な姿は優等生の面影など存在しない。

 

彼女を見下ろす冷徹な八重樫総理は何一つ感じる態度も見せずに無慈悲に見下ろすだけ。

 

国会でどれだけ野次られようが、知らぬ存ぜぬを演じる事が出来る名役者の場数がそうさせる。

 

「魔法の力があっても所詮は小娘か。年相応の精神しか持たない無様な姿だ」

 

「ごめんなさい…ごめんなさぃ…お父様…ごめんなさぃぃぃぃ…ッッ!!」

 

無力に泣き喚く事しか出来ない子供に鼻を鳴らした総理は踵を返して書斎を歩く。

 

「確かに私は政敵である公秀君を嵌めるために久臣君を利用した。だが、それだけではない」

 

大きな書斎の本棚の前に立ち、何かの本を右手でタイトルをなぞりながら探す総理。

 

「本当は公秀君など、どうでもいい。政敵がいようが…国政は滞りなく()()()()()()()()

 

下の段から四段目をなぞる右手の指が一冊の書籍で止まる。

 

「国民は何か勘違いしていないか?国会が本当に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「グスッ…ヒックッ…どういう…事よ…?」

 

「我々政府も国会も官僚が持ってくる彼らのマニフェストを進めていくだけ。野党も含めてな」

 

「何が…言いたいの…?」

 

「君は父親が国政に乗り出した時、やりたかったマニフェスト内容を見たかね?」

 

「…いいえ。私は愚かな勘違いの日々をこなしていただけ…」

 

「自分の見栄を守るために国政は出来ない。そんな者の言葉など誰も聞きたがらんだろ?」

 

国会に来るなら自分の政策をかがげなければ選挙の街頭演説で誰が聞き耳を立てる?

 

言っている事は正論であり、織莉子は反論することなど出来ない。

 

父を知る努力をせず、優等生を演じていればいいと無関心になってた自分に絶望するばかりだ。

 

「私が本当に葬りたかったのは久臣君が掲げた政策内容。彼らを脅かす存在を…私は許さない」

 

「お父様の政策…?」

 

一冊の書籍を本棚から取り出し、織莉子の前に歩み寄る。

 

「織莉子君、君は()()()()()()()()()について、考えた事はあるかい?」

 

生活の身近にある銀行を突然語られ、何を伝えたいのか理解出来ずに泣き顔のまま困惑する。

 

「銀行が融資で経済を動かし、経済組織が組織票と政治献金で国政政党を支える」

 

――言わば()()()()()()()()()()

 

「分からないわ…銀行がお父様と何の関係が…?」

 

「久臣君だけでなく全国民に関係する。銀行の中で重要なのが国家紙幣を製造する中央銀行だ」

 

「日本銀行…日銀が何故そんなに重要なの…?」

 

「通貨発行権を国家が持たず民間に奪われる。この世界最大の恐ろしさを知らぬ無知な小娘め」

 

両膝を曲げて泣き崩れた織莉子に目線を合わせてやり、一冊の書籍を手渡す。

 

「……()()()()()()()?この本を何故私に…?」

 

「内容は退屈だが、世界はそれに書かれている通りに動く。私はもう要らないから君に譲ろう」

 

「シオンの議定書と銀行、それがどうしてお父様と繋がるわけ…?」

 

「ヒントをあげよう」

 

日米合同委員会、CSIS、シンクタンク、軍産複合体、ロックフェラー家、ロスチャイルド家。

 

「それらの組織を…お父様はどうしようと…?」

 

「久臣君は優し過ぎた。日本を憂う故に保身に走らず国家主権とやらを求めた末に…破滅した」

 

「お父様……」

 

「社会で暮らす民を愛する故に日本の支配構造に抗い、破滅したなら彼も本望かもしれんがね」

 

その一言で脳裏に浮かぶのは小さかった頃の記憶。

 

両親と共に過ごせた時期のとある思い出が蘇る。

 

<<どうしたんだい、織莉子?>>

 

夜中に眠れなくて泣き顔のまま父の元に訪れた幼少時代の織莉子。

 

<<おとうさまも……おじさんやおばさんみたいになっちゃうの?>>

 

<<それは少し、違うかな>>

 

<<おじさん達は国を動かしていく人達だけれども、私はこの街を良くしていきたいんだ>>

 

<<世間知らずだった私達に、地域の人達はとてもよくしてくれたからね>>

 

美国久臣一家が見滝原市住宅区に流れてきた頃、地域を見つめた久臣はこう感じた者。

 

閑散とした地域商店街、人の流れは商業区に流れていく。

 

商業区で開発されていく外資系大企業にシェアを奪われ、地元住民達は露頭に迷う者達が多い。

 

本家の国政政治家とは違い、弁護士に過ぎなかった自分に何が出来るのか?

 

それを考え、実行に移したのが市議会議員の道であった。

 

<<私も、この街のために何かしたいと思ったんだ>>

 

涙も止まり、呆然とした表情を浮かべる織莉子。

 

彼女の横には持っていた父の手帳がページを開いたまま転がっている。

 

それを手に取り、内容をパラパラめくりながら総理は見ていく。

 

最後のページを開いた時、虫けらの戯言を見せられた気分にさせられ細目が薄く開いたようだ。

 

「ふん。久臣君の最後の意地と言ったところか」

 

「えっ……?」

 

思い出の世界から我に帰った織莉子は父の手帳を開いている八重樫総理を睨みつける。

 

「返して!!それはお前なんかが触れていい品じゃない!!」

 

「言われなくても返そう。そして君に負けたくなかった最後の意地とやらも見てあげるといい」

 

「最後の……意地?」

 

自分が読み終えたページから白紙が続き、書かれた内容は終わったものだと勘違いしている。

 

最後のページには久臣が自分に言い聞かせるように書きなぐった言葉が残されていたようだ。

 

――確かに私は不出来な美国。

 

――それでも兄や娘に負けていないモノがある。

 

――それは…民を愛する心、民の未来を憂う気持ち。

 

――これだけは絶対に兄や織莉子に負けてはいないと、死ぬまで言い続けられる。

 

――この国の()()()()()()を私の政策で変えてみせる、そのために国政に打って出る。

 

――美国の人間に相応しい織莉子への劣等感も確かにある。

 

――それでも私の政策は……国民の未来のためのもの。

 

――国会議員になるのは私のくだらない自尊心を満たすためだけではないと言い続けてやる。

 

――そのためならば父が残した財産である屋敷だって手放してでも選挙資金を用意する。

 

――不出来な私に死ぬまで付いて来てくれた由良子…草葉の陰で、私を見守ってくれ。

 

 

侵入者が窓から出ていった後、総理は再びソファーに座りながらグラスの酒を飲み続ける。

 

ソファーの後ろに音もなく現れていたのは首相秘書官の一人と思われる女性の姿。

 

「……総理、宜しかったのですか?あの魔法少女をあのまま帰らせても?」

 

「構わんよ。サマナーの君が手を汚す必要はなかった」

 

秘書官の右手に持たれているのは()()()のように見える道具。

 

太古の日本において()使()()と呼ばれた者達が悪魔召喚に利用していた道具と酷似している。

 

夜風も強くなり、薄暗い書斎の灯りとして使われている蝋燭の火を揺らす。

 

その蝋燭は7つに枝分かれした燭台であるメノラーの上に置かれているのだ。

 

「夜風が寒くなってきた。老体に堪えるから閉めてくれ」

 

侵入者が開いた窓を閉め、総理の元に歩み寄るサマナーと呼ばれた女性秘書官はこう告げる。

 

「何故我々の存在をほのめかす事を…あの小娘に語られたのですか?」

 

「知ったところで無駄だ。騒ぎ立てようが国民はメディアの情報しか信じない偏見生物だ」

 

「ですが、不穏分子の出現はあの方々も望まれないのでは?何故彼女に肩入れを?」

 

「……彼女が政治に関わり、父親と同じく破滅していく姿が見たい」

 

飲み干したグラスに新たな酒を注ぎ、グラスを右手に持ちながら乾杯の構えを行う。

 

「全てはイルミナティと、啓蒙の神ルシファー様のために」

 

近い将来、織莉子がどのように苦しむ光景が生まれるのか考えるだけで酒の旨味も愉悦で増す。

 

「あの娘がどう足掻こうが、あの方々が気になされる必要は……本当に無さそうですか?」

 

「心配性だね?その時はイルミナティに代わり、我々フリーメイソン……いや」

 

細目が開き、国民を裏切る恐ろしき売国奴の片鱗を見せた八重樫総理大臣はこう告げるだろう。

 

「我々ディープステートが、相手となろう」

 

ディープステートとは陰謀論において国家内部の国家、闇の政府を表すもの。

 

政治の中に共謀と縁故主義が存在し、合法的に選ばれた政府の中で隠れた政府を構成するもの。

 

ディープステートは見えない領域に深く根を下ろして繋がり合い、巨大な世界政府となる。

 

その形は人間の視界に映らないが、地面の中で繋がりあった木の根として表現出来るだろう。

 

この光景こそまさにカバラにおけるセフィロトの樹の地面内部に描かれた闇の領域。

 

()()()()()()()()()()()()の領域そのものであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

あれから幾日かが過ぎた頃。

 

「……美国、もう大丈夫なわけ?」

 

魔獣の瘴気を感じる夜、織莉子は再び仲間達の元に顔を出している。

 

「……ええ、私は大丈夫よ。心配かけてごめんなさい…二人共」

 

「織莉子…何か、あったんだね?私で良かったら…」

 

「気持ちだけで十分よ、キリカ。私は…大丈夫だから」

 

「気分転換にお茶会しようよ!小巻だって織莉子のケーキ食べて太りたいって!」

 

「ちょっと、呉!?あたしはケーキ如きじゃ…」

 

「ごめんなさい…これからは学校と魔獣狩り以外の時間は調べ物が多くて…時間を取れないの」

 

「美国…あんた変よ?本当に何があったの…?」

 

「ごめんなさい、小巻さん、キリカ…これは私の家族の問題なの。口を出さないで」

 

「織莉子…」

 

以前にも増して冷たい顔になり、仲間達の前でさえ表情は一切崩れる事がなくなってしまう。

 

それは何かを覆い隠すような仮面のようにも見えるだろう。

 

仲間達もそれを感じてきているようだ。

 

「私は魔獣との戦いを辞めはしない。この街は…お父様とお母様が愛した民が暮らす街…」

 

身を盾にして人々を守る道こそが家族を死に追いやった罰であり、贖罪なのか?

 

深い闇を心の中に宿らせてしまった美国織莉子。

 

彼女はこれから何を知り、どう生きていくのであろうか?

 

その後の美国邸は静まり返る場所となっていく。

 

内部を見てみると一部の部屋は砕け散った品々が所々に散乱している。

 

それは織莉子が学業によって成果を出した功績を白女から讃えられた品々。

 

美国の者に相応しくなるため努力して手に入れたが、父を苦しめ自殺に追い込んだ己の罪の証。

 

彼女はそれを全て地面に投げ捨てて壊してしまっている。

 

散乱したゴミとなってしまった己の偉業の片付けさえせず、父の書斎に入り浸り続ける。

 

父が残した大きな書斎こそ、織莉子がこの屋敷で必要とする知識の宝庫。

 

もう日向ぼっこしながら中庭でお茶会を楽しむ時間は訪れないかも知れない。

 

今の彼女は書斎の本を読み漁るだけの本の虫。

 

八重樫総理から貰ったシオンの議定書、伝えられたヒント。

 

そして父の部屋から見つけ出した政策マニフェスト。

 

これらの断片的な情報を頼りに父親がどんな存在と戦おうとしていたのか見つけようとする。

 

「お父様の無念は必ず…貴方を死なせた私が晴らします」

 

今の彼女は政治活動の道を進む覚悟が決まっている。

 

その覚悟こそヒントを伝えてきた国賊総理の罠だとも知らずに愛国精神を燃やしていく。

 

今の自分は綺麗事を言っているだけなのではないか?という疑問が浮かぶ。

 

どんなに贖罪を叫ぼうが、父親を死なせてしまった罪は消える事なんてないじゃないか?

 

贖罪なんて詭弁、織莉子はただ許されたいだけなのではないか?

 

どんなに善行を積んだって死んだ人間は帰らないじゃないか?

 

全ては偽善であり、人殺しの言い訳なのかもしれないと思考が混乱していく。

 

そんな織莉子の姿こそ、小説の罪と罰の主人公が辿った道であり、今の彼女と重なってくる。

 

「お願いだから言い訳をさせて…黙って何もしなければ…心が罪の重圧で壊れそうなのよ…」

 

これより後、彼女は学業と魔獣狩り以外でも見滝原市で独自の活動を行う者となっていく。

 

学生身分でありながらも街頭で政治活動を小さく続けていく事態になっていくだろう。

 

敵の存在は余りにも巨大であり、たとえ魔法少女であろうとも勝ち目は万に一つも無い。

 

だからこそ民衆達の力が必要になると織莉子は強く感じていたのだろう。

 

しかし世間の彼女の評価は汚職議員の娘。

 

これから織莉子は今まで以上に経験する事になるだろう。

 

心無い人々から蔑まれ、嘲笑われ、罵られ、責め苛み、心が張り裂ける責め苦が待っている。

 

そして彼女は己の身を持って知ることとなるだろう。

 

日本の闇の恐ろしさは牙を剥き出しにして彼女の元に訪れる日がもう直ぐ訪れるのであった。

 




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