人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
6月12日を迎えた頃。
「それじゃあ、朝のHRを始めます。6月に予定をされてます…」
担任教師の和子先生による朝のHRが進んでいく。
教室の中に聞こえる伝達事項を聞いている暁美ほむらの表情は緊張感に包まれている。
新月を迎える今日の夜、黙示録の四騎士達がほむらの命を刈り取りに現れる戦いの日。
備えは十分ではないが、それでも僅かな期間でこれ以上は望めない程の準備を終わらせている。
(後は自分の技量と仲間達を信じる以外にない…だけど…懸念事項もある…)
それは約束を守ってくれる保証など何処にもないこと。
(もしあの時のように四騎士全てが戦いを挑んできたなら…仲間がいようが全員殺される…)
あまりにも実力差があり、関係ない立場のマミと杏子を戦いに巻き込んで死なせてしまう。
彼女は迷い続けるが、それでも自分を大事にしてくれる仲間達の気持ちに報いたいと決断する。
今日まで魔人達は現れなかった事もあり、約束を反故にする者達とは思えない。
それ程までに黙示録の騎士達はプライドが高い存在のように思えるのだろう。
(現れるのは一体づつ…ならその一体の魔人を3人で倒していくのを繰り返すしかない…)
7つの試練を仕掛けてきた自分と瓜二つの金髪少女、そして人修羅と呼ばれる悪魔。
それぞれが何を目的にしているかは未だに分からない。
(いずれ必ず私達の前に引きずり出し、葬ってやるわ)
魔法少女の使命を邪魔した上で仲間の命まで危険に晒す悪魔達に代償を支払わせようとする。
昼休みの屋上でマミと杏子の3人で魔法少女会議を行う。
今日の学校が終わるとほむらは急ぎ足で見滝原政治行政区にある自身の新たな武器庫へ向かう。
武器庫内で装備を整え、商業ビル裏口から外に出てそのまま跳躍移動しようと考えている。
ビルディングと橋を飛び越えながら商業区を目指しながら仲間と合流する予定のようだ。
日がまだ落ちきらない時間帯で重装備のまま動くのは人目につく可能性もある。
少しだけ時間を潰している時にホワイトが声をかけてきた。
「短い時間で貴様に伝えるべき事は全て伝えた。あとは貴様の腕次第だ」
「一応礼は言っておくけれど、お前も悪魔達に加担する者であるのを私は忘れていないわよ」
「馴れ合う気はない。貴様が生き残れるかどうか、俺はここで待たせてもらおうか」
「あの者達の目的については…何も知らされていないと言ったわね?」
「そうだ。俺を尋問するのは時間の無駄だ」
「所詮は雇われた教育係の傭兵と言ったところなのね、ホワイト」
武器や装備品の最終チェックを終えたほむらはエレベーターに向かって地上を目指す。
ドアが閉まる光景を見送った傭兵のホワイトは人間とは思えない声を出して喋り始める。
「4ツノ死、マズ現レルノハ黄泉ヲ従エル疫病…」
――戦争、飢饉ニヨッテ病魔が溢レル世界ヲ司ル…死滅ノ騎士ダ。
♦
「ほむらの奴、戦いの準備があるから遅くなるって言ったよな…昼休みの屋上で?」
「そうね…暁美さんの魔法武器以外に、何を用意しようと言うのかしら?」
集合場所として選んだ誰もいないビルの屋上では二人の仲間が魔法少女姿で待機している。
ほむらの魔力も近づいてきているのを感じ取り、やってくる方角に視線を移す。
「待たせたわね、二人共」
「「なっ…!?」」
戦争に向かう重装備兵士の姿をしたほむらの新たな魔法少女衣装を見た二人はドン引きする。
「何なんだよその…特殊部隊みたいな装備?コスプレじゃねーだろうな…?」
「違うわ、本物よ」
「本物ですって!?まさか軍隊から盗んできた品じゃないの…?」
「いいえ、これは私のために用意された武器と装備。それを譲り受けただけよ」
「暁美さん…貴女は一体どんな存在と繋がりがあるわけ?」
「私に魔人共をけしかけてくる連中が用意したものよ」
「ますます分からねぇ、どうして殺そうとする連中が助け舟を出すような真似をするんだよ?」
「…私の力を試したいのかもね」
ほむらは右手と左手に持ったガンケースを二人の前に置く。
「魔人の中には私の魔法を封印する魔法を使う奴が存在したわ。魔法に頼らない武器も必要よ」
「それが魔人の魔法なの…?なら私が魔封をされたら…」
「リボン魔法は使えなくなるでしょうね。銃や大砲を作る力がなくなると困るでしょ?」
右手のガンケースを開けるとマミ用の武器を取り出す。
大きく仰角がついた光学サイト付きダネルMGLリボルバーグレネードランチャーのようだ。
「大砲の榴弾が好きなんでしょ、巴マミ?魔封をされたなら、これを使いなさい」
「えっ!?わ…私はこんな現代武器なんて使ったことないのに!」
「擲弾発射器はマスケット銃時代の擲弾兵が攻城戦で使ってきた歴史の武器。貴女向けよ」
40mmグレネード弾が詰まった弾薬ベルトも手渡してくる。
仕方なく弾薬ベルトを魔法少女衣装のコルセット部位に身に着ける。
銃は三点スリングで右肩にかけて背中に回し、いつでも取り出せるよう工夫をしてみる。
「杏子には…」
「あたしはいらねぇ」
「我儘言わないの。貴女だって魔法を封じられたら…」
「あたしは自分で魔法を封じてる。固有魔法は槍を生み出すためのものじゃない、幻惑魔法だ」
「保証は無いわよ?もしもの時は素手で殴りに行くしかないわね」
頑なな態度に溜息をついた後、グレネードランチャーの扱い方をマミにレクチャーしていく。
榴弾を用いる大砲を扱ってきた榴弾兵のようなマミは飲み込みも早かったようだ。
そんな時、魔獣の瘴気が出始めたせいで3人は顔をしかめてしまう。
「魔人が現れる日だろうが…魔獣共は楽をさせちゃくれねーな」
「手早く片付けて、いつ現れるか分からない魔人に備えましょう」
ビルから飛び降り、魔獣結界に向かう3人。
月の無い新月の夜空。
高層ビル屋上では既に一体の魔人が屹立しているのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
見滝原市から他の街まで続く線路のレールを走る電車そのものが魔獣結界となっている。
内部には人間達も見えるが、彼らに魔獣の姿や結界内の光景は見えないだろう。
だがそれでも乗客達がざわついているのは電車の上から聞こえてくる何かの足音であろう。
「行くぜオラーーッ!!」
車両の上では魔法少女達と魔獣達が相対している。
前方車両に飛び移りながら魔獣に対して駆け込み斬りを仕掛ける杏子。
レーザーで迎え撃つ魔獣共に対して杏子の背後から次々と通り超える矢と弾が敵を射抜く。
先頭車両に居座っていた魔獣も杏子の袈裟斬りの一撃によって両断され、魔獣共は殲滅する。
落ちたグリーフキューブを風で飛ばされる前に拾い上げている杏子の元に仲間達も歩いてくる。
「魔獣共は戦う場所を選んではくれないわね」
「乗客達には突然失礼しちゃったわね…。騒ぎが大きくなる前に電車から降りましょう」
「お前らも拾うの手伝ってくれよ…」
敵の数もしれたものだったので減った魔力を回復しようとしていた時、彼女達は戦慄する。
あの時感じた逃れられない死の気配と恐ろしき悪魔の魔力が高速で近づいてくる。
魔獣結界の電車と並走しながらレールを駆け抜けてくるのは白煙を纏う青白き馬と黒衣の魔人。
その姿を並走する電車内の人間達は見ることは出来ない。
悪魔は概念存在であるが故にその存在を見る事が出来るのは同じ存在か魔法少女のみ。
青白き馬は横の電車の上部に目掛けて跳躍を行う。
鈍化した世界。
横から現れた魔人が持つ死神の大鎌がほむらに迫りくる。
咄嗟の判断で魔法の杖を振り上げ、大鎌の一撃を両手持ちで受け止める。
しかしそのまま持ち去るように電車の天井から押し出されてしまうのだ。
「ほむらっ!!」
「暁美さん!?」
地面に叩きつけられる前に魔人の結界が開き、ほむらと魔人は決闘を行う結界に入り込む。
「くっ!!」
相手の武器を受け止めたまま結界深部に逆さ状態のまま落下していく。
「クックックッ……汝ハ良キ仲魔達ニ恵マレテイタヨウダ」
よく見ると逆さ姿のほむらの両足にはリボンと鎖が巻き付いている。
「同じ手が二度もあたしらに通用すると思うなよ!髑髏野郎!!」
「過ちは繰り返さないって言ったでしょ!!」
咄嗟の状況にも関わらずマミと杏子はほむらにしがみつき、結界まで仲間と共に侵入している。
決闘の結界内部に繋がる光の穿孔を超えながら深潭まで落ち、身を回転させながら着地する。
「杏子!?それに巴マミ!?あの一瞬でよくついて来れたわね…」
「あたしらを舐めるなよ、ほむら。それにしても、何だよ…ここは…?」
「なんて広大で恐ろしい結界空間なの…まるで地獄そのものじゃない!?」
かつての魔女結界でも、今の魔獣結界でもない魔人の結界内部世界を見た二人は動揺している。
この場こそ魔人が選んだ獲物との生き残りをかけた地獄の闘技場なのだ。
「新月ノ夜ニ魔人ト出会ウ不運…イヤ、世界ノ滅ビヲ見ズニ済ム幸運ニ見舞ワレタ小娘共」
空から恐ろしい声が結界内に響き、3人は空を見上げる。
「案ズルコトナカレ。暁美ホムラノミナラズ、汝ラニモ等シク、死ノ一文字ヲ与エヨウゾ」
地獄の空に現れたのは黙示録の四騎士の一体であり、青白き馬に乗る黄泉を従えし騎士。
「あれが…魔人と呼ばれる悪魔なのね…暁美さん?」
「……そうよ」
「へっ…魔獣が蟻以下に見えるぐらいの魔力を感じさせてきやがる…」
かつての世界でも遭遇した事がない存在を前にした二人は戦慄の表情を浮かべている。
だが暁美ほむらは仲間達の前から踏み出し、自身に試練を課す者を睨む。
「約束通り一体で現れたようね?悪魔にしては随分と義理堅いのね?」
「我ラ皆一騎当千ノ騎士。悪魔ノ真似事ガ出来ル程度ノ魔法少女トヤラニ、不義理ハセン」
「余裕なのね?でもいきなりお前達のリーダーが現れるとは思わなかったわ」
「勘違イダ。我ラ四騎士達ニ力量差ナドナイ。皆等シク世界ニ死ヲモタラシ尽クセル強者ダ」
「嫌な話を聞いたわ…どうやら、お前を倒しても楽はさせてくれないみたいね」
「貴方達は何故暁美さんを狙うの?目的は何?」
「ソレヲ汝ラガ知ル必要ハナイ。コレハ暁美ホムラガ超エネバナラヌ問題…ダガ…」
「関係ない私達までご招待した意味があるわけ?」
「ソウダ。コレヨリ世界ハ黙示録トナル…コレハ暁美ホムラノミノ問題ニアラズ」
「未来のあたしらも当事者になる問題ってか?なら教えてくれよ、世界に何が起こるのか?」
「聖書ヲ読マナカッタノカ?汝ハ、ヘブライ神話ヲ崇メル宗教家デアッタハズ」
「あたしの家族も知ってるわけか?じゃあ世界に…まさか…そんな…」
「何か知ってるの…佐倉さん?」
「
「ソレガ時期ニ世界ニ起コル。我ラノ現界ハ、ソレヲ象徴シテイル」
「象徴に過ぎないなら、お前達がそれを実行する者ではないということね…?」
「ソレヲ確カメタケレバ、私ガモタラス汝ラノ死ヲ、超エテミセロ」
右肩に担いでいた死神の大鎌を構える。
杏子は槍を構え、マミはリボンで編み上げたマスケット銃を自身の周り生み出す。
ほむらは三点スリングでぶら下げたドラムマガジン付きHK417自動小銃を構えるのだ。
「見ルガ良イ、私ハ黄泉ヲ連レテキタ」
空に浮かぶ魔人の直ぐ下の大地にどす黒い煙が巻き起こりながら同じ魔人が現れる。
「汝ノ前ニ……」
ほむら達の後方にもそれは現れてくる。
「後ロニ……」
「分身…あたしと同じ幻惑魔法かよ…?いよいよヤバい奴を相手する気になってきたぜ!」
「私達は仲間を守り抜く…絶対に暁美さんを死なせないわ!!」
「杏子!巴マミ!貴女達の気持ちは忘れないわ!!3人で超えましょう…魔人との戦いを!!」
死が直ぐ後ろに張り付く緊張感をもたらす強敵を前に3人は意を決して戦う覚悟を決める。
「我ガ名ハ黙示録ノ四騎士ガ一人!ペイルライダー!!我ノ死病ヲ超エテミセヨ!!」
♦
三体に分身したペイルライダーが繰り出す『猛突進』が同時に襲いかかる。
二人の魔法少女の射撃を潜り抜け、死神の刃で命を刈り取らんと迫りくる。
地上の魔人の一撃を身を引くめるように斜め前転を行いながら回避したほむらとマミ。
すぐさま片膝をついて後方に振り向き、駆け抜けながら旋回する魔人共に射撃を行う。
しかし素早い動きのせいか狙いが定まらない。
「ぐっ!!」
天から迫ってきたペイルライダー本体の一撃を両手持ちの槍で受け止める杏子。
だが馬の質量も合わさり、軽い身体ごと地面に叩きつけられて大打撃を受けてしまう。
今宵は月の無い静天。
ペイルライダーは静天においては力強き『会心』の一撃を繰り出す事が出来る能力を持つ。
3人を囲むように旋回移動を繰り返し、魔人達は円を描いていく。
「魔法少女ニトッテハ、初メテ味ワウダロウ悪魔ノ魔法、存分ニ味ワウガイイ」
ペイルライダーは背を向けあって死角を防ぐ魔法少女達の頭上に目掛けて手をかざす。
「何をする気なの!?」
大気中の水分が急速に氷結していき、魔法少女達の周囲が突然暗くなる。
頭上に何が生み出されてしまったのか頭上を見上げた彼女達の顔が驚愕してしまう。
「嘘だろ…おい!?」
そこに生み出されたのは北極を構成する氷の大地かと思わせる程にまで巨大な氷塊。
それが砕け、地滑りして海面に落ちるようにしながら魔法少女達の頭上から落下してくる。
魔法少女の中には水属性魔法を使いこなせる者もいるが、悪魔は水を氷結させて攻撃に用いる。
敵全体に襲いかかる氷結魔法『マハブフダイン』の一撃であろう。
魔法少女達は全力で走りながら散り散りに逃げ、体を横倒しにしながら跳躍していく。
地に手をついて側転しながらアクロバット着地した者達が振り向くと天変地異の景色が見える。
砕けた氷塊が周りにまで押し倒れてきた事で危うく潰されてしまうところであった。
「陣ガ解ケタナ」
散り散りになった魔法少女達の元に迫りくるのは分身したペイルライダー達。
「分散させられた…気をつけて!!来るわよ!!」
氷塊の向こう側でも襲われている仲間達のためにほむらは声を張り上げる。
「来なさい!!悪魔であろうと…私達は負けないわ!!」
前方に複数のマスケット銃を生み出し、整列させて放つ『ティロ・ボレー』が発射される。
それに対して銃弾を回避すると同時に攻撃を仕掛けるように跳躍するペイルライダーの分身。
大鎌の一撃を掻い潜りながらマミは前方に前転し、手をつきながらさらに跳躍。
月面宙返りを行いながら敵に振り向く彼女の周りには反撃の狼煙を噴き上げる武器が並ぶ。
空にはおびただしい数のマスケット銃が召喚されており、獲物に狙いをつけている。
「無限の魔弾の雨に打たれなさい!!」
マミが右手をかざすとマスケット銃の火打石が一気に叩かれ、業火の如き銃弾の雨が降り注ぐ。
ペイルライダーの分身は大鎌を大きく振りかぶり、刃に毒々しい病魔の魔力を纏わせる。
氷塊で遮られた向こう側では激しい剣戟の音が響かせながら杏子と魔人の分身が戦っている。
跳躍して体を二回転させる連続袈裟斬りを大鎌で次々と弾き返し、後方に駆け抜けていく。
「チッ!魔獣と違って…すばしっこい髑髏野郎だぜ!!」
旋回しながら再び猛突進が迫ってくる中、杏子の口元には不敵な笑みが浮かぶ。
「いいぜ…相手が騎士なら、槍使いとしてお約束をくれてやる!!」
青白き馬が迫りくる中、杏子はタイミングを計っていく。
(まだだ…もう少し引きつけて…)
ペイルライダーの分身が大鎌を振り上げる時、彼女は一気に魔力を練り上げる。
「今だ!!」
地面に槍を突き刺し、前方の地面に大きく魔法陣が広がっていく。
地面からせり出したのは傾斜がかかった無数の槍。
その布陣はまるで騎士の突撃を迎え討つ中世ヨーロッパ戦争のパイク兵陣形に見えるだろう。
だが槍兵を相手にそれを知らぬでは黙示録の騎士など務まらない。
手綱を引き、馬を横にスライドさせながら制動をかけていく。
振りかぶった大鎌には病魔を思わせる魔力が備わっており、邪悪な光を生み出す。
二体のペイルライダーの分身はマミと杏子に対して同時に『ベノンザッパー』の一撃を放つ。
魔弾の雨を吹き飛ばし、無数の槍を消し飛ばした衝撃波は二人に対して重傷を与えるだろう。
<<アァァァァーーーッッ!!!>>
衝撃波は止まらず、二人を弾き飛ばしてなお後方にまで大きく拡大しながら地面をえぐる。
小さな街ならば瓦礫の山に出来る程の威力であろう。
「あ…あぁ……」
衝撃波に引き裂かれた大地に転がった二人は今まで味わった事がない程の痛みに襲われる。
マミはこの時、両親と車で出かけていた時に被害を受けた交通事故の記憶が蘇る。
(あの時と同じ死の感覚…両親を亡くした時以来…感じた事なんて…無かったのに…)
逃れられぬ死こそ魔人の力であり、死をもたらす事に特化した悪魔の恐ろしさである。
「くっ…マミの魔力まで…弱くなって…」
槍を地面に突き立て、ボロボロの姿で立ち上がろうとする杏子。
だがそんな二人の事などお構いなしに迫りくる死が彼女達を刈り取ろうとする。
マスケット銃を杖代わりにして立ち上がろうとするマミに対して地面を切り裂く大鎌が迫る。
その光景は杏子も同じであり、二人は横に飛び退いて大鎌の一撃を同時に避けていく。
旋回して追撃される前に起き上がろうとした時、二人の身体に死病が襲いかかる。
「杏子!!巴マミ!!」
氷塊の向こうで弱っている仲間達の身を案じてほむらは叫ぶ。
ドラムマガジンの弾も撃ち尽くし、マガジンチェンジを行っている最中であろう。
ほむらと戦っているペイルライダーは表情筋の無い髑髏顔のまま愉快に笑う。
「フフフ…黄泉ガ汝ラニ手招キシテイルゾ…」
ペイルライダーが語った言葉通り、杏子とマミの体を病魔が蝕んでいく。
「ぐっ!?ゴホッゴホッ!なんだよ…?あたしの体に…何が起こって…ゴハァ!!」
体中に広がる酷い悪寒と発熱、突然の嘔吐感、血が混じった咳、呼吸困難等の症状が出てくる。
マミも同じ症状によって苦しめられており、吐瀉物を口から吐き出す程にまで苦しんでいく。
「汝ノ仲魔ハ毒ニ蝕マレタノダ。死病トイウ毒ニナ」
「な…なんですって!?そんな魔法まで持っていたの…!?」
先程の強力な衝撃波には相手の命をジワジワと蝕む毒をもたらす効果も備わっている。
このような攻撃手段など、魔女の世界でも経験した事がなかったせいで備えられなかった。
備えられなかった者が死ぬ、それが混沌の悪魔達との戦いであろう。
「汝モ後ヲ追ウガ良イ!!」
死神の大鎌を振りかぶり、ベノンザッパーを放つ構えを行う。
ほむらは咄嗟に腰のポーチから取り出した物のピンを抜き、ペイルライダーに目掛けて投げる。
眼前でM84スタン・グレネードが炸裂したことで閃光と轟音が一気に炸裂。
「グッ!!小癪ナ真似ヲ!!」
目が眩み、耳が難聴になった魔人は見えない視界のまま相手の魔力を探る。
すると飛行していくようにして仲間達の魔力ごと連れ去っていく気配を察知する。
「逃ゲタカ…イヤ、ココデハ逃ゲラレナイ。罠デモ仕掛ケテ迎エ討ツ気カ?」
二体の分身達が本体に戻るようにして消えていく。
青白き馬の足元からどす黒い煙が吹き出し、大地を覆っていく。
「行ケ、死霊共ヨ」
大地を覆う漆黒の領域であろう黄泉から這い出てきた存在達が蠢きながら空を飛んで行った。
♦
赤き渓谷を超えた奥に見えるのは洞窟であり、そこに目掛けてほむらは高速で飛んでくる。
病魔に蝕まれた仲間達を両手に掴み、黒き翼の侵食する力を使わず飛行するのみに留めている。
「ハァ…ハァ…すまねぇ…ほむら。足を引っ張っちまってるな…あたしら…」
「貴女を救うと言いながら…ゴホッゴホッ!貴女に助けられるなんて…先輩失格…ゴホッ!!」
「喋らないで…無関係な貴女達を巻き込んだのは私の方なのよ。本当にごめんなさい…」
洞窟内部で彼女達を降ろし、入口に視線を向けると魔人が放った追手の魔力に気が付く。
背中の大きなバックパックを下ろし、中身を確認する。
「貴女達はここにいて。私が迎え討つわ」
「次から次へと…敵の能力も知らなかった私達は…最初から不利だったのね…」
「分からない相手なら、分からないなりに工夫をするだけよ」
バックパックを背負い直したほむらは入り口に向かって走っていく。
残されたマミ達であるが、地面を這うように移動してきた杏子がマミに語りかけてくる。
「佐倉さん…無茶をしては…」
「あたしの残ってる魔力をくれてやる…死病は治せなくても…動けるぐらいにはしてやる…」
マミの肩に手を置き、ありったけの魔力を使いながら回復魔法をかけ続ける。
体を蝕み続ける毒の苦しみがさらに襲い掛かり、杏子の命を削り落とす。
「駄目よ!弱りきった貴女の体じゃ…ソウルジェムが濁りきってしまうわ!」
「あの馬を止めるんだ…マミ…将を射んと欲すれば…先ず馬をって言うだろ…?」
「佐倉さん…」
「過ちは…繰り返さない……だろ?」
その頃、赤い岩と大地がひしめき合う渓谷を超えてくる死霊共が迫ってくる。
死霊と呼ばれる存在はペイルライダーが召喚した悪魔達なのであろう。
【ロア】
ブードゥー教の蛇霊であり、信者にとってロアは世界中で言われる精霊と同一視する。
人間を助け、慰め、時には苦しみを与える存在の総称であろう。
ブードゥー圏においては大部分の人々がカトリックでありながら多くの信者がいる。
ロアやペトロ、ラダ等のブードゥーの精霊や神々を併せて信仰しているようだ。
ブードゥーの神々の体系はあらゆる外来の神々を組み込んでしまう性質があるからであった。
<<グゴッ……グガガッ!!>>
大きな浮遊する髑髏であり、蛇が眼球の穴から這い出て髑髏全体に絡みつく姿。
人語は介さず本能だけで動く悪魔であり、黄泉を司るペイルライダーの下僕として動く。
赤い岩場を次々と浮遊しながら魔法少女達を探す追跡者なのであろう。
だが赤い岩の裏側には悪魔の魔力探知でも見つけることが出来ない現代武器の光が点滅する。
離れた渓谷の高台の岩場で身を伏せ、双眼鏡で敵の数を確認するほむらがいるようだ。
「恐らく、あの悪魔達も私達が知らない魔法が使えるのでしょうね…」
迂闊に戦いを挑むのは危険ならば、奇襲攻撃で一気に仕留める。
既に悪魔達は大量のプラスチック爆弾が仕掛けられた網の中なのだ。
右手のリモコンを押し、雷管の点火により悪魔が入り込んだエリアが次々と爆発していく。
岩の裏に設置していた爆弾の起爆によって砕けた破片が次々と悪魔達に叩きつけられていく。
双眼鏡から見える爆発の白煙が晴れるとほむらは舌打ちする結果を残す。
「チッ……しぶとい連中ね」
地面に転んでいるが、全身傷だらけのまま身動きしている悪魔達の姿が見える。
トドメを指すために立ち上がり、高台の岩場から大きく跳躍して移動を開始。
銃を構えて警戒しながら進むと小柄なほむらの体程もある巨大髑髏が転がっている。
しかし浮遊して戦いを挑んでくる気配はないためトドメを行おうとした時だった。
「グ…ガ…ウ…ゴガァァ!!」
「何っ!?」
倒れ込んだロア達の身体が突然発光を始める。
魔力を暴走させる一撃を放つ光と似たものであり、杏子が使った自爆魔法とよく似ている。
「まさか……っ!!?」
次の瞬間、悪魔達は一斉に『自爆』を行い、渓谷内で大爆発の光景が生まれてしまう。
ほむらの慎重な判断は正しく、ロアは耐性を備えない魔法少女を呪殺出来る魔法が使えた者。
だがそれだけがロアの魔法ではなかったのだ。
渓谷を揺るがし、削り取る程の大爆発の光景を目にするのは迫りくるペイルライダーである。
「イイ狼煙ダ。見ツケタゾ」
巨大クレーターが生み出された渓谷は静まり返っている。
「……危なかったわ。悪魔の魔法には魔法少女と同じ自爆を行えるものまであるのね…」
地上の光景を空から見つめるのは黒き翼で浮かび上がったほむらの姿である。
辛くも死を逃れる事が出来たのであろうが、魔人の死からは逃れられない。
「私ノ死病カラハ、誰モ逃レラレヌ!!」
上を向くよりも早く急降下してきたペイルライダーが仕掛けてくる。
無慈悲な死神の刃が振り上げられ、その凶刃が彼女の背中を大きく抉る。
「ぐっ!!」
中身を使い切ったバックパックを捨てたほむらの背中に死神の刃の刻印が裂傷として刻まれる。
高台の頂上に着地した魔人に対して会心の如き一撃に見舞われたほむらは地面に落下していく。
それでも体勢を立て直しながら体を一回転させて地面に片膝着地。
ほむらはすぐさま腰のポーチの隙間に挟んでいた魔法の杖を抜く。
杖は弓に変わり、高台の頂上に狙いを定めるが、彼女の両手が震えて狙いが定まらない。
「ゴホッ!ゴホッ!!まさか…私まで…!?」
手だけでなく全身にも震えが走り、死病に蝕まれてしまった現実に彼女は戦慄してしまう。
思考が定まらない頭痛と全身の悪寒、発熱による震えに襲われたせいでバランスさえとれない。
「コレデ汝ラハ皆、死病ノ身トナッタ。コノ勝負、私ノ勝チダ!!」
大地から跳躍して空を駆け抜ける青白き馬。
旋回しながら渓谷の谷が一直線に収められる空中に浮かぶ。
この強大な一撃の射程内にはマミ達が隠れている洞窟まで含まれている。
ペイルライダーの死神の大鎌が蜃気楼のように歪み、その姿を包み隠していく。
「病魔ハ見エナイ…故ニ人々ハ
死病を司る死神の刃が今、死病に蝕まれた者達の命を死滅させる一撃を放つ。
「ソレデモ人々ハ…誰カガ何トカスルト…
ペイルライダーが放つのはタロットカードの死神としても語られる死神の力であろう。
「黄泉路ニ旅立ツカ!黒キ希望トナルカ!私ニ汝ノ可能性ヲ示セ!!」
この一撃は悪魔の耐性があろうと防げない。
死病の毒に蝕まれた者は容赦なく即死させる『ペスト・クロップ』を放つのだ。
見えない死病の刃が振り抜かれようとする中、ほむらは死を覚悟したその時だった。
<<レガーレ・ヴァスタアリア!!>>
「ヌゥ!!?」
渓谷頂上の両面から大量のリボンがライフリング回転を描くように高速で迫ってくる。
ペスト・クロップの一撃を放つのを止め、大鎌でリボンを切り裂こうとするが遅過ぎる。
無数のリボンが次々とペイルライダーと青白き馬に絡みつき、動きを拘束していく。
「巴マミ!?貴女…なんて無茶を!!」
頂上の高台で右手を構えるのはマミであり、最後の気力を振り絞って放つ一撃がほむらを救う。
「後は…お願いね…暁美…さ…ん……」
最後の力を出し切ったマミはその場で膝をつき、そのまま倒れ込んでしまう。
「オノレェェェェ!!死ニ損ナイノ小娘ガァ!!」
手放した死神の大鎌を魔力を用いて空中で操り、自身を拘束しているリボンを切断していく。
「……
拘束から開放されたペイルライダーは地上で強大な魔力が練り上げられるのを感じてしまう。
膨大な魔力を集中させた一撃は既に放たれていたのだ。
ほむらの全力を用いた魔力の矢の一撃はその姿を燃え上がる巨大なカラスに変えていく。
「オオオォォォォォーーーッッ!!!」
戻ってきた死神の大鎌を手に取り、ベノンザッパーで迎え撃とうとするが間に合わない。
紫の炎を纏う巨大カラスの両翼に包み込まれるようにしてペイルライダーに直撃する。
空の上で燃え上がりながら地面に目掛けて魔人は落下していくのをほむらは見届けるだろう。
「ハァ!ハァ!お願いよ…もう…動かないで!!」
死病に蝕まれた体を維持させる魔力消費も考えれば、もはや戦う余力はないだろう。
地面に倒れ込んだ青白き馬の最後の断末魔が渓谷に響く。
しかし馬から投げ出されて燃え上がる騎士が立ち上がろうとしている。
「マダダァァァーーッッ!!マダ私ハ…終ワラナイゾ…小娘ェーーッッ!!」
燃え上がる黒衣の炎の中から浮かぶのは髑髏顔。
死を与える存在は死を乗り越える力もまた強い存在なのだ。
「そ…そんな…魔人は…これ程までの存在なの…!?」
燃え上がりながら歩く死神が迫る中、ほむらは両膝を地面についたまま動けない。
両腕を大きく振りかぶり、ペスト・クロップを放つ構えを行ってくる。
<<生きている者は死ぬべき事を知っている>>
「ムゥ!?ソノ…一説ハ…!?」
<<しかし死者は何事をも知らない。また、もはや報いを受けることもない>>
聖書の一節が響き、声が聞こえた方にペイルライダーは振り向く。
飛来してきた槍の先端は死者に永遠の眠りを与える炎を纏わせる形と化している。
「ガッ……ハッ……ッッ!!!」
ペイルライダーの胸部を黒衣の下の鎧ごと貫いたのは杏子の槍の一撃。
刺さった槍は業火を刃から吹き出し、ペイルライダーの内側で大爆発する。
この世界においても杏子は人修羅と戦い、悲しい別れを経験した者。
その時の怒りの感情によって生み出された盟神抉槍の一撃が炸裂するのだ。
「杏子!?貴女まで無茶をして…」
「風姉ちゃんから教わった…聖書の一節…なんか…思い出せちまったよ…」
回復魔法で魔力を殆ど使い果たした杏子であるが、魔獣との闘いで回復道具を得ている。
それで回復を行い、最後の一撃を放ちに現れたようだ。
槍に串刺しにされたまま焼かれるペイルライダーはついに大の字で倒れ込む。
「死滅の騎士なら…自分の死滅も…受け入れやがれ…」
最後の力を出し尽くした杏子は地面に倒れ込み、マミと同じく意識を失う。
魔法少女達は全ての力を出し切って魔人の第一の試練を乗り越える結果を残す。
第四の騎士は最後を迎え、魔法少女達は逃れられない死の一つを潜り抜けるのであった。
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重い足を引きずるようにほむらは移動し、黒焦げとなったペイルライダーに歩み寄る。
息がある場合はトドメを刺すために自動小銃を構えるが、煤けた髑髏の口が開きだす。
「フフ…魔人ヲ…退ケルトハナ…。私ハモウ…滅ビルノミ…汝ラノ…勝チダ…」
「死ぬ前に教えなさい、お前達が私を襲う理由をね。そして世界に起こる黙示録とは何なの?」
「…汝ノ試練ノ答エハ…オノズト出ル。ダガ…世界ニ起コル黙示録ノ一旦ナラバ…語ロウ」
「一体世界に…何が起こるわけ?」
「今年カラ数エ…年ヲ超エタ時期ヨリ…世界規模ノ死病ガ…蔓延スル…」
「死病…?百年前のスペイン風邪のようなパンデミックが起こるの…?」
「百年周期デ現レル死病…ペスト…天然痘…スペイン風邪…ソシテ2020年ヲ…蝕ム…」
「それが黙示録の始まりというわけなの…?」
「太古カラ始マッテイル…
「第一の騎士であるホワイトライダーは…太古の昔から存在していた獣共なの…?」
「ソノ征服者達ニヨル…偽リノ平和ト…戦争ガ繰リ返サレテキタ…」
「歴史の中で語られてこなかった第一の騎士となる者達による…偽りの平和と戦争の歴史…」
「世界規模ノ死病ヲ蔓延サセル発生源ハ…恐ラク…
「中国から…世界規模のパンデミックが生まれる…」
ペイルライダーの体を構成していた感情エネルギーが抜け落ちるようにして輝きを放つ。
「フフフ…急グノダ…若人。死病ノ蔓延セシ世ガ…始マロウト…シテイル…ゾ……」
その一言を最後に、ペイルライダーの体を構成する感情エネルギーが爆発する。
淡い深碧色の感情エネルギーであるMAGがバラ撒かれ、ペイルライダーの形も消えてしまう。
「世界に起こる黙示録…そして私に与えられた7つの試練とは……一体……」
ほむらもついに限界を迎えたのか両膝を地面について倒れ込み、意識を失うのであった。
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目が冷めた時、彼女は暗闇の世界にいる。
「何……?何故私は…何も見えない暗闇の世界にいるの…?」
自分の右手に重みを感じて持ち上げるとメノラーが握られている。
燭台を顔の前に掲げるとメノラーに備えられた蝋燭のうちの一つが輝きを放ち、火が灯る。
たった一つの小さな灯りでは彼女の顔の周りだけしか照らせないだろう。
「ここは……一体何処なの?」
ひんやりする足元は靴を履いていないのか素足である。
自分の姿を僅かな灯りで確認しようとするが、眼鏡が必要な程に視界がぼやけている。
「魔力の身体強化が無くなっている…?」
それでもフリルが沢山ついたゴシック風の黒いドレスを身に纏っているのだけは分かるだろう。
ぼやけた視界で手探りのまま進んでいくと壁際が見えてくる。
壁の端に置かれたアンティーク台座の上を手で探ると慣れ親しんだ自分の眼鏡の感触を掴む。
それを手にしたほむらは両目にかけるとようやく視界も安定するのだ。
「魔人を一体倒した次は…何が起こっていくの……?」
ここは余りにも遠くまで一直線に広がる暗闇の回廊。
ほむらはこの場所において何を経験する事になるのか?
ペイルライダーが語った黙示録の世界と7つの試練。
その一つ一つが暗闇となり、暁美ほむらはそれを手探りで探していくしかないのであった。
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