人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
日も沈み、魔人との戦いを迎えた新月の夜。
前回と同じ集合場所にやってきたほむらであるが、彼女の姿に驚く仲間の反応は変わらない。
用意した銃を勧めるが受け取ったのはマミだけであり、杏子は受け取らない反応も変わらない。
やはり時間操作魔法によって繰り返されるループ現象が起きているようだ。
「ねぇ…本当に魔人と戦った事を…覚えてないの?」
「だから、魔人と戦うのは今日だって言ってたじゃねーか、ほむら?」
「あれから魔人が現れた形跡は無いわね…」
「そう…それもそうね。私の勘違いだから…二人共気にしないでいいわ」
かつての自分が使っていた時間操作魔法と同じ魔法を悪魔も使えると考えるのが妥当であろう。
だとしたらほむらにとって最も恐れる事態が予想される。
(時間操作魔法が扱えるなら…恐らくはかつての私と同じく時間停止魔法も扱えるはず…)
時間停止魔法の一方的な攻撃の恐ろしさは利用してきた魔法少女なら知っていて当然。
現れる魔人の中に時間操作を操れる魔人が現れた場合の事を考えていた時、魔力を感じ取る。
「魔人が現れる日だろうが、魔獣共は楽をさせちゃくれねーな」
「手早く片付けて、いつ現れるか分からない魔人に備えましょう」
「…そうね。二人共、行きましょうか」
時間操作魔法を扱える難敵がいようが襲ってくる恐ろしい存在は他の魔人も変わらない。
今は目の前に集中する以外にないと判断し、ビルから飛び降りる者達は魔獣結界内に向かう。
いっぽう遠くの高層ビルの屋上では二体の魔人の姿が見える。
「マサカ、ペイルライダーガ敗レルトハノォ…」
赤き馬に乗るは第二の騎士であろう。
「……窮鼠猫ヲ噛ムカ。病魔ヲ運ブ鼠ニ敗レルトハ、死病ノ騎士ニハ皮肉ダナ……」
黒き馬に乗るは第三の騎士であろう。
「勝者トナルノハ、力ガ強イ者ダケトハ限ラナイ。油断ヲシタ者ハ死ヌ、ソレダケダ」
四騎士と同じく人間の声とは思えない恐ろしい声が聞こえてきた方向に魔人達は振り向く。
現れたのは暁美ほむらの教育係として雇われた兵士の姿を演じていた人物だ。
「オ前モ第四ノ騎士ガ破レタ知ラセヲ聞イテ駆ケツケタカ、ホワイトライダー?」
「……閣下ノ頼ミ事トハイエ、人間ノ姿デ教育係ヲヤラサレタ……貧乏クジヲ引イタ者カ」
「皮肉ハヨセ。俺モツマラナイ者ヲ射殺スダケデハ、歯ゴタエガ無イト思ッテイタ」
「オ眼鏡ニ叶ウ猛者ダッタヨウジャ。モハヤ遠慮ハ要ランノォ…ホッホッホッ」
余裕の態度を示してはいるが、もはやこの騎士達は相手を弱者だとは判断しなくなっている。
圧倒的な力量差を見せつけた上で姑息な手段で攻めてこようが油断なく蹂躙するだろう。
そんな者達の中にいた黒き馬が前に出る。
「……先ニ行ク。アノ者共ガ姑息ナ魔法ヲ使エヨウガ……我ニハ無駄」
高層ビルの屋上から黒き馬は駆けていき、一気に跳躍しながら新月の夜空を駆け抜けていく。
「アノ根暗ガ随分ト楽シソウジャ。アンナニ喋ルブラックライダーモ珍シイノォ」
「4ツノ死、次ニ現レルノハ飢饉ヲモタラス荒廃トナルナ」
――貧者ヘノ不正、食料ノ欠乏ヲ世界ニモタラス迫害ヲ司ル天秤ノ騎士ガ死ヲ与エヨウ。
♦
見滝原工業区エリアは古くはバブルの頃から工場外として機能した地域。
そのため工場や社宅が多いエリアとなっているようだ。
しかしバブルも弾けて時代も移り変わり、栄枯盛衰の影はこのエリアを蝕んでいる。
バブル崩壊によって工場を撤退、あるいはコストの安い郊外に移転する企業が相次いでいる。
閉鎖されてしまった工場廃墟も多く、足掻いた老舗企業でさえ時代に勝てずに去ってしまう。
衣食住もままならない生活苦に陥った元社員の人々は次々と魔獣に襲われて廃人化していく。
栄えた工場郡を除けば、ここは見滝原の
その工場廃墟では生活困窮者の者達が集まり、混ぜた洗剤で自殺未遂を行おうとしている。
「俺はこんな小さな工場一つ守れなかった駄目な人間なんだ…」
無気力な顔をした元工場長だったと思われる人物の周りには元社員だった貧者達もいる。
人々の絶望の感情である負のエネルギーに引き寄せられた魔獣達が迫っている。
感情を吸い付くして廃人に変えようと迫る中、天窓を破って魔獣を射抜く飛来物が降り注ぐ。
銃弾、槍、矢に射抜かれた魔獣達は次々と倒れていき、グリーフキューブに姿を変える。
飛び降りた魔法少女達は無事だった人々に駆け寄ったが怒りの形相を向けてきたようだ。
「大丈夫ですか?もう大丈夫…」
「何なんだ君達は!?余計な事をしてくれたな!!」
見れば用意した自殺道具まで槍によって串刺しにされており、洗剤容器が漏れ出している。
「無理心中なんてやめとけよ、おっさん共。生きてれば何かいいこと…」
「生きてればだと!?衣食住さえ無い!我々はもう老いて再就職すらままならないんだ!」
飢えのせいで大の大人が子供を相手に捲し立てる程にまで怒鳴り散らしながら睨みつけてくる。
こんな人柄ではなかったはずなのに、生活が苦しくなり追い詰められれば人は変わってしまう。
「落ち着いて下さい!死んだって問題が解決するはずがないわ!!」
「生活保護申請すら通らない!公務員の水際作戦ってやつさ…なのにどうして生活出来る!?」
親に食わせてもらえる子供に失業者の苦しみは分からないと叫ぶ中、杏子がこう告げてくる。
「不幸自慢は終わったか?なら言わせてもらうけど、あたしは食わせてもらえてねーよ」
貧者なら老いた大人達だけでなく眼の前にもいると告げられた者達が動揺の顔つきとなる。
「あたしも生活困窮者さ…犯罪にまで手を染めたロクでなしでも…生きる事を辞めたりしねぇ」
「何故なんだ…?」
「最後の家族が罪を犯してでも…あたしに生きろと言ってくれたからさ」
「貴方達にも家族はいるでしょ?残された人はどうするの!?私だって親を亡くした子供よ!」
「家族…うっ…うぅ!!不甲斐ない父ちゃんを許してくれぇ…」
嗚咽の声が響き渡る中、黙ってグリーフキューブを拾っていたほむらは銃を構えて警戒する。
「二人共…どうやら現れたみたいよ」
工場の中に広がるのは逃れられない死の気配。
恐ろしき悪魔の魔力を廃工場の中で感じ取り、魔法少女達は上を見上げる。
骨組みのように張り巡らされた天井の鉄骨部分から白煙が流れてくる。
その中に佇む者こそ黙示録の第三の騎士の姿なのだ。
「……荒廃ハ、何時ノ時代モ変ワラナイ。飢エガ人ヲドウ変エルカ……見セヨウ」
「何をする気なの!?」
工場の床に巨大な魔人結界の穴が出現し、あろうことか人間までもが巻き添えで落ちていく。
魔法少女達が気がついた時には既に魔人の結界世界である。
「そんな…私達だけでなく…人間達まで…っ!?」
「冗談きついぜ…」
「ヒィィーーーッッ!!?何なんだ…ここはぁ!?」
赤い大地に倒れ込んでいた貧者の人間達は訳も分からず叫ぶばかり。
そんな中、赤い大地から立ち上っていくのはどす黒い煙。
大地を覆っていく闇の領域から這い出てきたのは同じ飢えた者達なのだ。
<<ギャァァァーーーーッッ!!!!>>
闇から這い出た飢えた者達が人間という食料に群がりながら次々と喰らい始めていく。
「な…何だよ…アレ…!?何やってんだ…てめぇらぁーーっ!!」
それはブヨブヨとした無数の肉塊の集合体である悪魔であり、見る者に嫌悪感を与えるだろう。
【レギオン】
聖書マルコ福音書にて我、多数なりと記された存在。
同じような苦痛を味わう悪霊が集合したものとされる。
悪霊達は同じ悩みで苦しむ悪霊を自らの分身と見なす事で自己と他者の区別を失う者達だった。
「やめなさい!!やめてぇーーっ!!」
地獄絵図の如き食肉祭りの惨状となり果てた赤き大地が人間の血を吸いあげ、さらに赤くなる。
銃弾や槍の投擲で貫かれた肉塊部分の顔の一部が人間と同じ顔となり、内側から再生してくる。
その顔つきは先程喰らった飢えに苦しむ人間達の断末魔のような表情をしている。
自己と他者の区別を失い、同じ飢えに苦しむ者達を食料の如く喰らい合う。
やがては集合して一つとなる存在こそが悪霊や幽鬼と呼ばれる悪魔種族なのであろう。
「何故私達だけでなく…関係ない人間達まで襲うのよ!?それでも騎士なの!!」
天に佇む黒き馬に乗る冷酷なる魔人に対して怒りを叫ぶ。
寡黙な性格をした黒き騎士は暫しの沈黙の後、重い口を開いてくれる。
「……飢エタ者達ハ…満タサレナイ。持ツ者達ヲ妬ミ……欲望ノミヲ求メル……餓鬼トナル」
「何が言いたいのよ!生き残っている人達を元の世界に返して!!」
「最モソレハ……
バブルが崩壊した21世紀の日本の格差は完全なる二極化を生み、中流層という概念が消える。
資産家は株式配や当土地の賃借料、特許料といった不労所得でますます資産が増えていく。
資産を持たない人は家や土地を借りるなど生活に必要な物のために働いても貯蓄すら出来ない。
その構造はどちらも飢えており、飢える者と幸福をさらに求めたい者とが対立するだろう。
人とは皆、餓鬼道に堕ちていると第三の騎士は語ろうというのだ。
「飢エタ悪霊達モマタ…生アル者達ヲ妬ミ…欲望ヲ満タスタメニソレヲ求メテ…喰ライ続ケル」
ついには魔人の結界内に入れられた人間の姿は誰もいなくなってしまう。
決闘の場を飾る生贄を求め、およそ騎士道精神とは程遠い貧者への不正行為の光景であろう。
弱者を惨たらしく虐待して殺し、喰らい続ける迫害を司る騎士こそがブラックライダーなのだ。
「こいつら…あたしらまで喰らいたそうな顔に見えるぜ…」
背中合わせでレギオンの群れに相対する魔法少女達は死靈の群れに取り囲まれている。
「……我モマタ同ジ……汝ラノ命ト魂ヲ求メル者。汝モイズレ……
「お前みたいな欲深いケダモノと私を一緒にしないで!!」
「フフ……汝ノ欲望ハ今ダ正義ヲ求メルカ?
髑髏顔をした老婆を思わせる女騎士が右手の黒き天秤を掲げてくる。
「よくも無関係な人々を虐殺したわね…高く付くわよ!!」
「黙示録を気取るテメーらに…あたしが神に代わって神罰を下してやるぜ…根暗髑髏!!」
「私は正義を求める魔法少女よ…それ以上でもそれ以下でもない!!」
魔法少女達は武器を構えながら死靈達を迎え討つ。
「黙示録ノ四騎士デアル……ブラックライダーガ……汝ラガ裁キ……執リ行ナオウ」
――――――――――――――――――――――――――――――――
死靈の包囲攻撃に対して背を向け合いながら迎え討とうとする仲間達のためにほむらが叫ぶ。
「気をつけて!奴らは私達の知らない魔法を使う!迂闊に固まっていると対処出来ないわ!」
「分かったわ…暁美さん!止まらずに動き続けましょう!!」
ほむらの一声で三人は一気に駆け出し、移動を繰り返しながら各個撃破を目指す。
彼女の冷静な判断は正しく、この幽鬼レギオンは魔法少女を呪殺出来る魔法を行使する悪魔達。
レギオンの目が光り、眼光を放つ。
単体相手に即死を与える呪殺魔法『ヘルズアイ』の猛威が迫る。
魔法少女達はアクロバット跳躍を繰り返しながら攻撃を避けていく。
地上で浮遊している愚鈍な肉塊に空から攻撃を行い、正面から戦う事を避ける戦術を繰り返す。
「グガオォアァ……アァ……グガァ!!」
空への有効な攻撃手段を持たないレギオン達が使う魔法こそ、悪魔達の凶悪な魔法防御である。
「あの化け物共を一気に仕留めるわ!!」
右手からリボンを生み出して螺旋を描きながら纏まると装飾された巨大な大砲に形を変える。
「ティロ……」
「待て、マミ!!あいつら…何かやる気…」
「フィナーレ!!」
静止の声は乱戦では届かず、巨大な大砲からトドメの一撃が発射される。
地上を粉々に出来る榴弾の一撃に対してレギオン達の体が光りに包まれていく。
直撃かと思われた大砲の一撃はレギオン達から反射されてしまうのだ。
「キャァァァーーーーッッ!?」
自分の必殺技が反射されたことで榴弾の一撃は空中で大爆発。
左手で咄嗟に生み出したリボンを使い、地上の岩場に絡めて体を引っ張り込む。
自動ワイヤー巻上装置のように移動して逃げようとしたが全身が爆発に晒される。
これこそが悪魔達でさえ警戒を怠ってはならない物理反射魔法の『テトラカーン』であろう。
地上に叩きつけられてしまったマミに対してレギオン達が迫りくる。
「くっ…これが悪魔達の魔法なのね…魔法少女でさえ…こんな魔法を使える者はいないわ…」
よろめきながら起き上がるマミに迫りくる肉塊の触手めいた無数の魔の手が迫りくる。
獲物を掴んで生命を吸い上げる『デスタッチ』が迫る中、仲間は援護射撃の体勢を見せる。
ホロサイト照準器内に捉えた魔の手を自動小銃の猛火が次々と射抜きながら撃ち落とす。
「迂闊よ、巴さん!!魔獣を相手している感覚では駄目なの!!」
「ごめんなさい…暁美さん…同じ種類の魔獣ばかりを相手にしてきた…ツケが回ったわ…」
駆け寄った仲間に起き上がらせてもらうマミの背中の傷は痛々しいがまだ戦える状態である。
地上で激戦を繰り返す者達を天から無情に見下ろすブラックライダー。
騎士と呼ばれながらも武勇を競うように自らが打って出る行動を示さない。
「オマエ達……魔法少女ハ……限ラレタ命。若クシテ……タタカウ力サエ……ナクス…」
四騎士の中で唯一武器を持たない理由とは、その手に持つ天秤の役割のせいか?
天秤とは食料の代価を量る目的に使われるものであり、言うなれば
黙示録においてのブラックライダーとは割当を決める権限を与えられた者と推測出来る。
大規模戦争になるほど兵站が命綱となるため、その権限を迫害者に与えたなら飢饉も起きよう。
「ソレデモ……生ニシガミツク姿コソ……生キタイト言ウ……飢エ……」
「くそっ!!どいつかが防御魔法を使えば全体にかかりやがる!」
範囲攻撃魔法が使えないなら一体づつ警戒しながらの戦いを強いられるだろう。
「ぐあぁぁぁーーっ!!」
背後のレギオンから放たれた範囲物理攻撃である『烈風波』に弾き飛ばされる杏子。
周りの幽鬼まで巻き込むフレンドリーファイアだが、気遣いを見せる思考は無いようだ。
「飢エシ者共……我ハ天秤ノ担イ手……汝ラノ生キル糧デアル魔法ト命……許ス量ヲ測ロウ」
ブラックライダーは右手の黒き天秤を天高く掲げる。
天秤の左の受け皿に三人の魔力色を示す炎が灯る。
右の受け皿には血の通う人の命を司る三人の赤き炎が灯る。
天高くから感じる自らの死を感じ取ったほむらは空を見上げながら仲間達に叫ぶ。
「汝ラノ魂ノ均衡……己ガ身ヲ持ッテ……知ルガイイ……!」
「気をつけて!!魔封と生命を削り取られるわ!!」
ほむらの極大魔法を討ち破ったブラックライダーのソウルバランスがついに襲い掛かってくる。
体の命が突然削られる程の激痛によって全身が苛まれる魔法少女達。
「な……何だよ……コレ?傷も受けてない……はずなのに……」
「体から生命が……急に……抜き取られたみたい……」
「くっ!!二人共…この魔法は…それだけじゃない…っ!」
何が起きたかも理解出来ないまま倒れ込んでしまう魔法少女達。
幽鬼共を倒しても闇の領域が地面から溢れ出し、飢えし者達は次々と現れてくる。
迫ろうとするレギオンに対してマスケット銃を生み出そうと右手をかざすが異変に気が付く。
「えっ…!?」
魔法のリボンは生み出されていない状況によってマミの顔が恐怖によって青ざめていく。
「これが…魔封なの…!?」
生ある者に対して簒奪者が与えた残りの命を喰らおうとレギオン共が迫りくる。
大きな口を開けて頭から齧りつこうとする中、槍が飛来して口内を串刺しにしてくれる。
「どうやら…あたしの武器は…無事みたいだ…ぜ…」
槍を魔力で生み出して杖のようにしながら立ち上がる杏子。
彼女は自らの願いを否定し、固有魔法を自分で封印する弊害に見舞われた魔法少女。
それゆえにブラックライダーの魔封効果の影響からは逃れていたようだ。
「立って……2人共!!」
ほむらも苦しい表情のまま立ち上がり、レギオンの群れに対して銃を構える。
彼女自身もかつてと同じく魔封状態なのは経験から分かっているだろう。
マミも立ち上がり、魔法武器が使えない警告を聞かされた際に渡された武器を構える。
「弾数は装填済みを合わせて18発…それ以上は持たないわね…」
背中に回していたダネルMGLリボルバーグレネードランチャーを構えてレギオンを迎え討つ。
魔法少女達の戦力はジリ貧状態であり、貧者と成り果てている。
これこそが迫害者による兵站の割当なのだ。
「モハヤ勝敗ハ決シタ……イカナル兵士トテ……兵站ガ無ケレバ……戦エナイ」
自らが動く必要も無しと判断した魔人は死靈と戯れる貧者共の飢えに苦しむ姿を眺める。
表情筋の無い髑髏顔であるが、それに表情があったならば愉悦に満ちていただろう。
「モウ良カロウ……汝ラノ死ガ訪レル刻ガ……来タ……」
ブラックライダーは空いている左手を地上に向けてかざして死靈を操る。
それに呼応するかのようにレギオン達が同時に魔法を放とうとする。
「痛ミハナイ……甘美ナ呪イニ蝕マレテ……一瞬デ死ヌガイイ……」
「何をする気!?」
広大な大地を円形に覆っていくのはサンスクリット文字が描かれた古代仏教系呪術魔法。
レギオン達を必死に倒し、魔法行使を止めようとするが全員を倒しきれるはずがない。
「……終ワリダ」
放たれる呪術魔法は『マハムドオン』であろう。
魔法耐性が無いなら悪魔達でさえ一瞬で呪殺してしまえる即死魔法が遂に放たれる。
(私達は…こんな場所で終わってしまうの…?)
鈍化する世界。
大地から吹き上がる呪いによって魔法少女達に死がもたらされるだろう。
その瞬間、ほむらの脳内で声が響く。
<<
何処かで聞いた声であったが、魔法の盾に触れていなかった彼女は覚えていない。
ほむらの想いとは、一体なんの事であろうか?
かつて違う魔獣世界に流れ着いたほむらが出会った存在は、そう名乗っている。
暁美ほむらが願った最初の想い、それはまどかを守ること。
それだけを求め、地獄を彷徨い続けた時間の中で想いはどんどん先鋭化していく。
彼女自身気が付かないうちに身も心も想いに支配され、多くを切り捨てて乗り越えてこれた。
「ムゥ……?」
大地を覆い尽くす呪殺の呪いの空に浮かび上がるのは黒き翼を持った存在。
その両手にはマミと杏子が掴まれており、二人共無事な様子である。
「馬鹿ナ!?解除魔法スラ行使セズ……我ノ魔封ヲ破ッタダト!?」
天高く佇むブラックライダーを見上げるのは黒き翼を背に持つ暁美ほむら。
彼女自身も何故魔封を破れたのかは分かっておらず、その想いの正体さえ掴めない。
それでも今やるべき事は目の前の魔人を倒して死を乗り越えるのみであろう。
「杏子、巴さん…大丈夫?」
「ほむら…お前…魔封を破れたのか?」
「そうみたい…後は任せて、奴は私が倒すわ」
「私達の魔封は未だに解けてない…悔しいけれど…暁美さんに任せるしかないわね…」
沈黙の後、合点がいったのかブラックライダーは忌々し気にこう語る。
「ソウカ……汝ノ内側ニ潜ミシ醜キ者……貴様ノ仕業カ」
「私の内側に潜む者ですって…?」
「イズレ解ル……何故ナラソノ者ハ……
「私の中に潜む者が…私に死を与えに来る…?」
「最モソレハ……我トイウ死ヲ……超エラレタラノ話!!」
ペイルライダーを破った者達は一筋縄ではいかないと自分の目で見て理解する。
沈黙した魔人はついに目の前の獲物に死を与えるために動き出す。
左手を天に掲げて行使するのは消滅を司る光の大魔法。
この一撃はかつて人修羅がペンタグラム魔法少女を相手に使った事がある。
だがあの時は周りの被害を恐れたせいで僅かばかりの光にまで掌内で押し殺した一撃。
しかしブラックライダーの一撃は違い、無数の光の粒子が左手に収束してゆく。
「……嘘?」
「なんて…魔力だよ…」
「いけないっ!!!」
「……モウ遅イ」
極大にまで膨れ上がった神の雷霆ともいえるのはメギドの火。
左手が振り下ろされると同時に地上へと高速で落ちていきながら爆ぜる。
極大の光が爆発し、エネルギーが広がっていく威力は見滝原市でさえも消滅させる程であろう。
それはまるで光の核爆発の光景であり、本物の神の力である『メギドラオン』であった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
高速で迫りくる光の大爆発の消滅エネルギーから全力飛行で逃げ続ける。
二人を振り落とすまいとほむらの両手にも力が籠もる。
「冗談じゃねぇぞ!?魔人共は歩く核爆弾か何かなのかよぉ!!」
「なんて光景なのよ!!まるで神の次元そのものよぉ!!」
あまりにも次元が違い過ぎる魔法攻撃に対して杏子とマミは狼狽した叫び声を上げてしまう。
「お願い……間に合ってぇ!!」
異形の黒き翼に魔力が一気に籠もり、なおも加速を続けていく。
辛くもメギドラオンの爆発範囲から離脱した魔法少女達は宙に浮かびながら背後を振り返る。
そこに広がっていた景色とは、まるで底が無い奈落。
どれだけの深さを光のエネルギーが掘削し、消滅させたのか見当もつかない暗闇の大地である。
「なぁ…ほむら…あんなのに…お前だけで…勝てるのかよ…?」
「わ…私達…何が出来るの…?」
「それでも…私は逃げないわ。貴女達は下にいて…」
ブラックライダーの恐ろしい魔力が高速で近づいてきているのはほむらは感じている。
渓谷の地に二人を降ろし、背中の重いバックパックも二人に預ける。
拾っておいたグリーフキューブで魔力を補充し、魔法の杖を弓に変化させる。
黒き翼で舞い上がりながら敵を迎え討つために再び飛行していく姿を仲間達は見送るしかない。
「ほむら…なんて連中から狙われちまったんだよ…」
「守るだなんて…軽はずみで言い切れる存在なんかじゃ…なかったわ…」
杏子とマミは魔法少女に過ぎない自分の無力さによって打ちひしがられる。
それでも魔人の結界に訪れた以上は死から逃れる術はない。
杏子とマミが立つ大地からどす黒い煙が吹き上がっていく。
「へへ…とことんやるしかねーよな…」
大地から這い出てくる飢えた者達に対して槍を魔力で生み出した杏子は武器を構える。
マミはリボルバーグレネード銃のフレーム上部を上にスイングさせる。
腰の弾薬ベルトの弾を回転式チャンバー内に込め続ける中、愚痴が零れてしまう。
「残弾は残り6発…悪魔って…白旗振ったら許してくれるかしら?」
「さぁね…こいつらは…そんな事が分かるオツムには見えねーよ…」
もはや逃げ場無しと覚悟を決めた魔法少女達のプライドをかけた死闘に打って出る。
時を同じくして黒き馬もまた天を駆け抜けてくる。
獲物を追い求める追跡者であるブラックライダーは眼前に獲物の魔力を感じ取っている。
前方に広がる遠くの空に描かれているのは菱形が幾重にも重なり合う魔法陣。
黒き馬の手綱を引き、旋回しながら回避行動を行う。
後方で放たれた無数の光の矢は姿をカラスに変え、背後から自動追尾レーザーの如く迫りくる。
それに対してブラックライダーの手に小さく生み出した複数の『メギドラ』を後方に投げる。
それらは空中で無数の大爆発を後方で巻き起こし、魔力の矢を消滅させていく。
その光景はまるで戦闘機のフレア散布のようにも見えただろう。
無数の光の爆発が消える只中から高速で飛来して現れるのは魔法少女の姿なのだ。
「始めましょうか…あの時とは違う、一対一の対決よ!!」
「フフ……コウイウ趣向ハ面白イ。タカガ魔法少女ノ分際デ……楽シマセテクレル!」
天を駆ける騎士と黒き翼の魔法少女によるドッグファイトが始まっていく。
前方を高速で駆け抜けるブラックライダーを猛追するほむらは弓に魔法の弦を生み出す。
片足を弓にかけて力強く弦を引き絞り、現れた複数の矢が同時に放たれて自動追尾していく。
だが先程のメギドラの爆発に阻まれて攻撃が届くことはない。
黒き翼の空中機動と格闘力を相手に一撃離脱を繰り返し、有効打を与えてはくれない。
空で繰り返されるアクロバット戦であるが魔力の差もあり、先にほむらが魔力切れするだろう。
(守りが堅い…決め手にかける…!)
トドメを狙うとしたらペイルライダーを葬った一撃か、世界を侵食する黒き翼の力。
無駄に魔力をばら撒く戦いでは負けると感じていた時、体中に凍える程の寒さを感じてしまう。
前方のブラックライダーによって後方に目掛けて放たれていたのは『絶対零度』の氷結魔法。
温度計研究者のシャルルの法則によって生み出された絶対零度の温度とは-273度である。
それと同等の極寒温度が目の前から吹き荒れてきていたのだ。
「かっ…あっ…魔力で…体を…温め…っ!!」
人間が寒さに耐えられる温度の限界は-50~60度と言われるが、これは遥かに超えている。
既に全身が凍りつき、体の感覚すら無くなったほむらは空から墜落してしまう。
そして死神は彼女の落下を予測した動きで迫りくる。
落下中のほむらの胸ぐらを左手で掴み取って空中で佇む姿を見せてくる。
「何を…する気…!?」
「我ガ渇キ……イカナル血ニテモ……潤ウコトナシ」
ほむらの体から魔力が抜け落ち、魔力色を示す紫の魔力がブラックライダーに吸われていく。
「あっ…やめっ…て……っ!!」
体温を温めていた魔力が奪われ続けたことで体の寒さに耐えきれない。
敵対する者から魔力を吸い上げる『吸魔』と呼ばれる魔法行使によって命の灯火が消えていく。
「我ノ飢エ……汝ノ魔力ダケデハ足リヌ……ソウルジェムモ……喰ワセテモラウ」
(また……死の感覚が……)
天秤の簒奪者であるブラックライダーは彼女に許す命の量を与える慈悲など存在しない。
このまま暁美ほむらは使命も果たせず、魂さえも悪魔の生贄となって力尽きてしまうのか?
(ごめんな……さい……まど……)
死の淵に立たされた時、何処かから懐かしい声が再び彼女に響いてくる。
それはもう聞こえなくなって久しいであろう、愛する人の声なのだ。
――がんばって。
閉じかけたほむらの目がカッと開き、手に生み出した魔力の矢を握り締めて最後の一撃を放つ。
狙うのはブラックライダーの右腕部分。
「グッ!!小娘……マダッ……!?」
矢に貫かれた右腕の力が緩み、手に持たれていた道具がすり抜けてしまう。
「シマッ……!?」
黒き天秤は地面に吸い込まれるようにして落ちていき、衝突の衝撃で砕け散ってしまう。
黒き天秤の力であるソウルバランスの力が消失していく。
それによってもたらされる魔法少女達の兵站を司る代物もまた取り戻せる事態となるだろう。
地上から黒き馬に迫りくるのはリボン魔法と鎖の槍。
この空域は杏子とマミが戦っていた場所であったようだ。
「グオォォーーーーーッッ!!?」
リボンと鎖によって馬ごと雁字搦めとなりながら空中で固定される。
左手に掴まれていたほむらの体が空中から落下してくる。
地上では駆け抜けてきた杏子がスライディングで滑り込みながらほむらを受け止めてくれる。
「やっちまえ!マミ!!」
渓谷頂上の高台岩場にある小さな岩の上に片足を起き、空を睨むのはマミの姿。
まるで港で片足を乗せてカッコつけたり、黄昏れたりするボラードポーズに見えるだろう。
「よくも私の後輩を傷つけ、罪もない人達を殺戮したわね…高く付くと言ったはずよ!!」
岩場から跳躍して宙返りを行うと同時にマスケット銃を生み出し、大量にばら撒く。
「クッ!!ヤレ……死靈共!!」
着地した彼女は大地に固定されたマスケット銃を次々と蹴り上げる。
迫りくるレギオンに対して舞い落ちる銃を両手に掴む。
握っては次々と撃ち捨て、二丁のマスケット銃の砲火が吹き上がり続ける。
前方射撃と同時に後方射撃、左右同時射撃、斜め左右同時撃ち。
近接戦を仕掛けるレギオンの群れを相手に寄せ付けない戦いを見せる。
「ハァァァーーーーーッ!!!」
齧り付きに来たレギオンの頬を蹴り飛ばす美しき蹴り技はまさに『黄金の美脚』であろう。
舞い上がる銃を踊る様に撃つ近接銃格闘こそ、ガン・フーの如き『魔弾の舞踏』である。
既に邪魔者は無く、地上から目標まで一直線に射線を伸ばせる砲撃陣地にマミは立つ。
舞い踊る砲兵の如き魔法少女は挑発するような態度でこう叫ぶだろう。
「おいたが過ぎたわね、オジサン?倍返しでは済まさない…千倍返しよ!!」
「オジサン!?我ハ……女騎士ダ!!」
「あらそうなの?ごめんあそばせ!!」
リボンネクタイを右手で解き、螺旋を描きながら生み出すのは巨大な大砲。
それだけでなく、周りには無数のリボンで生み出された傾斜がかかった巨大な大砲もある。
「ティロ…フィナーレ!!」
無数の大砲が咆哮の如き砲撃音を次々と奏でていき、砲身を支える脚架が大地に食い込む。
火打ち石が次々と叩かれ、巨大な大砲からも巨大榴弾が咆哮を上げていく。
「オオオォォォォォーーーッッ!!!」
この一撃は敵から略奪された物資を溜め込む兵站所を破壊し尽くす程の殲滅光景となるだろう。
飛来した砲弾が次々とブラックライダーに直撃していき、空は大爆発の業火で埋め尽くされる。
「ハハ!!魅せてくれたぜ…マミの奴!!」
「フッ…流石ね…巴さん…」
回復魔法で持ち直したほむらも上半身を起こして先輩魔法少女の魅せ場を見届けてくれる。
「ありったけの魔力を込めたわ…お願いだから…もう立たないで…」
片膝を地面についたマミは空から落ちてくる燃え上がった魔人の最後を見届ける。
黒き馬が断末魔を上げた後、投げ出された燃え上がるブラックライダーの体が動き出す。
「マダ……我ハ……滅ビヌ!!!」
全身燃え上がる黒衣の炎の中から浮かぶのは髑髏顔であり燃える上半身が持ち上がっていく。
「そんな……あれだけの魔力を込めたのに!?」
右手をかざして放つのはメギドラオンであろうがマミのフォローなら頼れる仲間がしてくれる。
「よぉ、根暗髑髏。ほむらがお釣りを渡し忘れてたってよ」
声が聞こえた方に髑髏顔が振り向く。
寒さで震える右腕を杏子が支えながらほむらは銃を構えている。
その武器は彼女が今まで使ってきたデザートイーグルではない。
ホルスターから抜いて構えるのは早撃ちのために選んだリボルバー銃のコルトパイソンである。
「お前も決め言葉はあるか?」
「無いわ…でも今だけは…巴さんのノリに付き合ってあげる」
――
「ガッ……ハッ……!!!」
髑髏の眉間に命中したマグナム弾の一撃が頭部を貫く。
ついにブラックライダーは倒れ込み、死闘を制したのは魔法少女達である。
「あと…5体も魔人がいるのね…」
杏子に支えられたほむらの顔は勝利の余韻に浸る事さえ出来ない程に曇った顔つきであった。
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魔法少女達は重い足を引きずるようにしながら黒焦げとなったブラックライダーに歩み寄る。
眉間を貫かれて亀裂が入った髑髏顔の口が開き、最後の言葉を残すだろう。
「……魔人ヲ退ケルトハ……第四ノ騎士ヲ倒セシ力……確カデアッタ……」
「死ぬ前にお前達悪魔について教えなさい。そして世界に起こる黙示録についてもね」
「ソレハ閣下カラ直接聞クガイイ……ダガ世界ニ起コル黙示録ノ一旦ナラ……語ロウ……」
「来年には世界中でパンデミックが起こると聞いたわ。それから何が起こるわけ?」
「暁美さん?そんな話を一体誰から…?」
「死病ガ蔓延スレバ次ニ起コルノハ飢饉ダ……」
食料の欠乏と略奪者が世界中に現れていき、人間共の食料を食い尽くすと聞かされる。
それを聞かされた魔法少女達は困惑するが、聖書知識がある杏子は真実味を感じてしまう。
「黙示録はマジで起こるのかよ…しかも来年って…もう直ぐじゃねーか!?」
「略奪者とは何?それも悪魔だと言うの?」
「人間ノ歴史デ語ラレル蝗害……
「飛蝗…まるで聖書の出エジプト記で語られたイナゴの災害の再現みてーだ…」
「世界規模ノ飢饉ヲ蔓延サセル発生源ハ……恐ラク……アフリカ……」
「来年には死病の蔓延と大飢饉がもたらされる…世界は一体どうなってしまうわけ?」
ブラックライダーの体を構成していた感情エネルギーが抜け落ちるようにしながら輝きを放つ。
「フフ……急グノダ若人……飢エニ満チタ世界ガ……始マロウト……シテイル……ゾ……」
その一言を最後にブラックライダーの体を構成する感情エネルギーが爆発する。
淡い深碧色のマグネタイトが空にバラ撒かれた事でブラックライダーの形も消えたようだ。
魔人結界も晴れていき、元の廃工場内へと魔法少女達は戻ることが出来ている。
「生き残れたのは……私達だけね」
「なぁ、あんた達はあんな死靈に喰われて死ぬのが満足だったのかよ?」
彼女達以外は誰もいない空間にいたであろう自殺願望者達のために杏子はこう語ってくれる。
「残された家族達は…どんだけあんた達の死を悲しみ…苦しむんだろうな…?」
やりきれない顔のままバケツと自殺用洗剤を見つめる事しか彼女達には出来ないのであった。
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帰路について自宅の部屋に戻ったほむらは傷だらけのままベットに倒れ込む。
動いて行動する体力すら残っておらず、突然の睡魔に襲われたせいで深い眠りについてしまう。
目が冷めた時、彼女の目の前は再び暗闇の世界が広がっている。
「……またここなのね」
鹿目詢子の姿をした悪魔が語った記憶の回廊に広がる暗闇の空間が彼女を出迎えてくれる。
既に持たれていたメノラーの燭台を顔の前に掲げる。
一つだけ灯っていた明かりの隣の蝋燭に火が灯り、暗闇の空間を明るくする光が増えていく。
前回と変わらないゴシック風の黒いドレスを身に纏ったまま素足で歩く。
眼鏡があった場所の方角に向うとそこには変わらず眼鏡が置かれたアンティーク台座がある。
眼鏡をかけ直して暗闇の空間に向き直るほむらは決意を持った顔つきで進むだろう。
「この先にまた…アマラ深界があるのね…」
答えを求めるために彼女は己を知るための回廊を歩き続ける。
ここはそのために用意された場所であり、
逃れられない記憶を司る領域であり、
読んで頂き、有難うございます。