人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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63話 レッドライダー

学校が終わる夕方頃、ほむらは見滝原政治行政区の地下にある自身の新たな武器庫へと急ぐ。

 

武器庫内で装備を整え、時間を潰し終えてからエレベーターに向かう。

 

そんな時、背後に現れたホワイトから声をかけられたようだ。

 

「…何か私に言うことでもあるの?」

 

「いや、お前は必要な技量を十分身につけた。その成果を戦場で発揮出来たならば生き残れる」

 

「そう…お前も雇い主から残りの報酬を受け取ったなら、さっさとこの場所を去りなさい」

 

「長居するつもりは元々ない。後はお前次第だ」

 

無駄な会話を打ち切り、戦場に向かっていく彼女の背中に対してホワイトは言葉を送る。

 

「勝者となり生き残れよ…小娘。でなければ…俺も楽しめないからな」

 

言葉を背中で受け止めた彼女の足が一瞬止まる。

 

首を動かしてホワイトを見た後、彼女はエレベーターのボタンを押して中に入り地上を目指す。

 

第一の騎士である弓兵ホワイトライダーに鍛えられた者こそ魔法少女として生きる暁美ほむら。

 

その技術を用いて彼女は第二の騎士を乗り越えることが出来るのか?

 

「4ツノ死、三度目ニ現レルノハ戦場ノ流血」

 

――地上ニ内乱ヲ引キ起コシ、世界ノ平和ヲ奪ウ破壊ヲ司ル戦争ノ騎士ダ。

 

♦

 

2019年はデモの年と呼ばれる程に世界中でデモ活動が行われた年。

 

ベネズエラ、ボリビア、エクアドル、チリ、フランスなど様々な国でデモの騒乱が起きる。

 

その中で最も苛烈なデモとなったのは香港であろう。

 

逃亡犯条例改悪という抑圧ツールの導入に反対し、北京の傀儡な香港政府に怒りが爆発する。

 

民衆の数は200万人にも及び、国内だけでなく世界の華僑である移民のデモが行われるのだ。

 

それは日本の見滝原市にある中国大使館前でも同じであり、日が沈んだ時間でさえ起きている。

 

「光復香港!!(香港を取り戻せ)」

 

百人近い移民の民衆達が大使館前に集まり、民衆の五大要求を叫び続けている。

 

集まった人々は香港に残した家族や友人の身を案じているのだから無理もなかろう。

 

中国共産党の犬と化した香港警察によるデモ潰しはSNSで広く拡散されている。

 

酷い暴行動画や写真はスマホとSNSの発達によってリアルタイムで日本にも流れてくるのだ。

 

怒りの気持ちと恐怖の気持ちで居ても立っても居られない人々は中国に対して怒りをぶつける。

 

激し過ぎる怒りの感情エネルギーに釣られて現れるのは魔獣達。

 

中国大使館の屋上に現れた魔獣の群れに対して魔法少女達は一気に攻め込む。

 

隣の高層ビル屋上から飛び降りて降下しながら狙い撃つ。

 

飛来する攻撃に射抜かれた魔獣共は魔法少女達が着地する頃には消滅する末路だけを残すのだ。

 

「…酷い騒ぎね」

 

「テレビでやってるわね…香港の問題。他国の内乱は国境を超える程の問題なのね…」

 

「あたしはノンポリだから政治の話は分からねぇな」

 

「社会で暮らす民の苦しみが魔獣を生み出してしまう…やはりこの世界は救いようがないわ」

 

屋上から地上のデモを見下ろすが、新たな魔獣の魔力を感じ取った者達が武器を構える。

 

大使館前の建物の上に現れたのは人々の感情エネルギーを吸い上げて巨大化した魔獣達。

 

複数の四角いポリゴンを体の周囲に展開し、無数のレーザー攻撃を仕掛けようとした時だった。

 

「待って!!向こう側から感じる恐ろしい魔力は……魔人が来るわよ!!」

 

逃れられない死の気配が辺りを支配する。

 

死が三度襲いかかる最初の獲物となったのは魔獣達となるだろう。

 

刹那、巨大魔獣達の胴体が真一文字に切り裂かれた事で同時に消滅していく。

 

建物の上から雄叫びを上げながら跳躍してきた赤き馬に跨るのは第二の騎士の姿なのだ。

 

鈍化した世界。

 

魔法少女達は跳躍しながら頭上を超えて来た馬の姿を見上げていく。

 

大使館屋上に着地した騎士は大剣を地面に突き立て、なぞるように抉りながら旋回して急停止。

 

右手の大剣を右肩に担ぐ騎士こそ魔法少女達に逃れられない死を届けに来訪した者である。

 

戦争を司る騎士が現れた地において犠牲者が少なく済むはずもなし。

 

「な…何なの!?」

 

真一文字に切り裂いた斬撃波が通り抜けたのは大使館周囲どころか商業区の端を超えている。

 

この一撃こそ第二の騎士が地上に混乱をもたらす際に行使する『テラーソード』の一撃。

 

切断された巨大高層ビルの数々が次々とずれ落ちるようにしながら落下していく。

 

「うわぁぁぁぁぁーーーーっ!!?」

 

「キャァァァァァァーーーっ!!?」

 

悲鳴、叫び声、金切声、あらゆる絶望を示す叫び声が地上から巻き上がる。

 

倒れ込んできた大質量のビルが地面に叩きつけられて砕け、巨大な土煙を上げていく。

 

それは見滝原商業区内のいたるところで巻き起こり、この街始まって以来の大惨事であろう。

 

「ゲホッゲホッ!!何てことを…どれだけの人間が死んだわけ…!?」

 

「酷ぇ……一瞬で地獄が溢れかえりやがった……」

 

「私が…私が守り続けた見滝原の人々が…こんなこと…あんまり過ぎるわよ!!」

 

土煙に包まれる大使館の屋上に佇む戦場の騎士は左手を左耳に掲げるような構えを行う。

 

傷つきながらも生き延びた人々が奏でる騒乱の音を聞いた老騎士は笑い声を上げてくる。

 

「ホッホッホッ、人間共ノ乱心コソ…我ガ喜ビヨ」

 

「ここは決闘の場では無かったはずよ!どうしてこんな真似をしたの!?」

 

「妙ナ事ヲ悪魔ニ聞クノォ、オ嬢チャン?国家ニ混乱ヲモタラス光景コソ、我ガ喜ビヨ」

 

「許せない…あなただけは絶対に…私は許さないわよ!!」

 

「コノ街ノ守護者ヲ気取ッテイタオ嬢チャンモ戦争ノ熱ガ入ッタヨウジャ、結構結構」

 

「たったそれだけのために大虐殺をしたのか……それが悪魔なのかよ!!」

 

「ツマラナイ戦争ハ好キデハナクテノォ。最モ、ツマラナカロウガ戦場ノ叫ビ声ハ心地イイ」

 

挑発してくる老騎士が大剣を逆手に持ち、馬上から地面に突き立てる。

 

「続キハ望ミ通リ、魔人ノ戦場デ始メルトスルカ…魔法少女ノ嬢チャン共」

 

土煙で足元が見えない魔法少女達は魔人の結界が開いていく事に気が付いていないのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

気がつけば魔人の結界世界であり、高台頂上で魔法少女達を見下ろすのは老騎士の姿である。

 

「オ前サン達ハ我ラ四騎士ヲ二人モ打倒シタ。強キ者達ヨ、ワシハ遠慮ヲスル気ハナイ」

 

「二体倒しただぁ…?何言ってんだよ…あいつが初めて現れた奴じゃないのか?」

 

ループ現象が起こってはいるが、二体の悪魔という概念存在は討ち倒されている。

 

ループ現象によって蘇る事が出来ないのは過去・現在・未来でも存在しない概念存在故だろう。

 

受肉した肉体を神や悪魔が失う末路とは元いた高次元領域に帰る事に等しい。

 

「見ルガイイ、ワシハ死天ノ軍勢ヲ連レテキタ」

 

赤き豪雷が空で荒れ狂う天に目掛けて右手の大剣を掲げる。

 

雲が大きく円形に広がるようにして穴が開く。

 

地獄の雲が穏やかな光に包まれていき、木漏れ陽を地上にもたらしていく。

 

神々しき空から現れ出た悪魔達の姿なら元キリスト教徒の杏子ならば分かるはず。

 

「え…?あれって…まさか…」

 

「ハハ…家族が生きてたら…みんなで跪いて祈りを捧げたくなる光景だぜ…」

 

赤き全身甲冑鎧を纏い、巨大な盾と槍、そして背中には純白の白き両翼。

 

あれを見れば人々は口々に天使が舞い降りてきたと叫ぶだろう。

 

【パワー】

 

天使の九階級で中級第三位に位置する能天使であり、名は神の力を表す。

 

武装した姿で警備し、悪魔の侵入を退けると共に善と悪の力の拮抗を保つ役割を担うとされる。

 

そのため善悪の間で揺れやすい性質を持ち、天使の内で最も堕天する者が多いともいう。

 

渓谷の高台頂上に次々と舞い降りて着地し、横一列に隊列を組みながら眼前の敵を睨みつける。

 

「いずれ魔女となる者共め!正義を執行する時がきたぞ!!」

 

「我らの聖なる鉄槌によって貴様らは焼き払われるのだ!!」

 

「主なる神のため、その魂を捧げ、宇宙の熱となるがいい!!」

 

死をもたらしに来た死天とは死靈とは違い、強き信仰心を持つ人間と変わらぬ意思を持つ者達。

 

だがその強き信仰心によって主なる神に仇をなす存在を決して認めず許さない。

 

「あたしを魔女って呼ぶんじゃねぇ!!」

 

「私達は人々に希望をもたらす魔法少女よ!!」

 

<<魔女め!!魔女め!!魔女め!!魔女め!!>>

 

槍の石突を地面に何度も打ち突けながら眼前の存在に対して悪のレッテルを貼り付ける天使達。

 

善(・)悪(・)二(・)元(・)論(・)を悪用すれば正(・)し(・)き(・)人(・)々(・)で(・)も(・)悪(・)に(・)す(・)る(・)事(・)が(・)出(・)来(・)る(・)印(・)象(・)操(・)作(・)を(・)行(・)っ(・)て(・)く(・)る(・)のだ。

 

傍から見ている人々から見れば、何が正しく何が悪いかなどたいして気にはしないし考えない。

 

存(・)在(・)が(・)大(・)き(・)い(・)権(・)力(・)の(・)声(・)に(・)流(・)さ(・)れ(・)る(・)だけの愚民達はこれによって迫害と戦争を繰り返している。

 

人間とは自(・)分(・)に(・)都(・)合(・)が(・)い(・)い(・)モ(・)ノ(・)し(・)か(・)見(・)よ(・)う(・)と(・)し(・)な(・)い(・)愚か者だから繰り返された歴史がある。

 

天使の軍勢達による鼓舞の如き音頭は魔人を含む天使達の攻撃力を上げていく。

 

悪魔の補助魔法に存在する悪魔の攻撃力を上げる魔法『タルカジャ』を使っているのだろう。

 

「イイ空気ジャ。戦争ガ始マル瞬間程、心地イイ一時ハナイ…」

 

手綱を引いて馬を魔法少女達に向け、騎馬突撃の態勢を行う。

 

天使達も翼を広げて飛翔しながら大盾を構えて突撃態勢を行う。

 

「密集隊形…集団戦になるわね。魔獣とは違う統率がとれた軍隊と戦った事はある?」

 

「…無いわ。それでも、やるしかない!!」

 

「天使と殺し合いか…キリスト教徒失格だな。まぁ…あたしや家族は…元々裏切り者だ」

 

「貴女達ならやれる…私は信じているから!!」

 

大剣を振り、指揮官である魔人が突撃の合図を行う。

 

「我コソ黙示録ノ四騎士ガ一人、レッドライダー!戦場ニ息吹ヲモタラシテミセヨ…小娘共!」

 

魔人の軍勢は渓谷斜面を風の如く一気に下り、魔法少女達に対して炎のように攻め込んでくる。

 

烈火の如く攻め降りる突撃軍団が放つのは一糸乱れぬランスチャージであろう。

 

「やるぞ、マミィ!!」

 

「ええ!!合わせるわ、佐倉さん!!」

 

砦を防御するようにして前に出た杏子とマミは迎え討つ魔法陣を構築する。

 

地面に生み出した巨大魔法陣から次々と飛び出すのは傾斜がかかったパイク槍。

 

パイク槍を取り囲む布陣でリボンを次々と生み出し、マスケット銃が空中に固定される。

 

この布陣は欧州の戦争歴史においてはテルシオと呼ばれる戦闘隊形と酷似するだろう。

 

機動力を捨てた移動要塞陣形であり、無数の槍兵の防御をマスケット銃兵が援護する堅牢さだ。

 

「思イツキトハ思エン見事ナ布陣!小娘ニシテハヤルガ…シカシ、付ケ焼キ刃ダ!!」

 

天使軍は翼を広げて上昇し、レッドライダーも赤き馬の足から白煙を吹き出しながら空を飛ぶ。

 

騎馬突撃ならば迎え討つには十分であろうが敵軍は空を飛べる者達。

 

中世の堅牢な布陣であろうが航空優勢を考慮した布陣のはずがないのだ。

 

「後ろに引けば突撃を浴びるわ!!二人とも前に飛んで!!」

 

テルシオ布陣を捨てた魔法少女達は前方に向けて大きく跳躍しながら陣を飛び越える。

 

空から急降下して放つ天使軍の『ギロチンカット』が次々と振り落とされながら大地を砕く。

 

振り向きざまに二人はテルシオ布陣を大きく反転させ、一気に攻撃を放つ。

 

槍に仕込まれた鎖が開放され、獲物に向けた無数の矛先とマスケット弾が襲い掛かる。

 

「後方防御!!」

 

指揮官の命令に合わせた動きで後方に大盾を向けた天使軍がファランクス防御陣地を築く。

 

壁のように密集した大盾の堅牢さによって全ての槍と銃弾は受け止められてしまうのだ。

 

だがそれだけでは終わらない。

 

ほむらが放った魔法の矢が空に魔法陣を描き、地上に目掛けて次々と矢の雨を降り落とす。

 

「上方防御!!」

 

ファランクス陣形のままパワー達は大盾を密集させて屋根を作り、矢の雨を受け止める。

 

後方のレッドライダーは盾を構える必要もなく、大剣を振り抜く剣圧で矢の雨を消滅させる。

 

「そうくると思ったぜ!!」

 

「ガッ……不覚ッ!!」

 

間合いを一気に詰めた槍の刺突によって一体のパワーが重装鎧ごと貫かれて消滅している。

 

ほむらの一撃は敵の注意を引きつける囮であろう。

 

守りが堅い布陣を敷かれては有効打は与えられないなら、接近戦に持ち込み乱戦と成す。

 

マミも敵陣に突撃しており、一体のパワーは飛び蹴りを顔面に受けて後方に突き飛ばされる。

 

彼女の両手に握られているのはライフル銃よりも短い拳銃サイズのマスケット銃なのだ。

 

「見事ナ連携ジャ!!抜刀!!」

 

密集した陣形内で使う槍では乱戦による接近戦は不利となるのは当然である。

 

槍を捨て、腰に携えた剣を抜いた天使軍は敵陣深くに突撃してきた魔法少女達を迎え討つ。

 

「お前の相手は私よ!!」

 

黒き翼を纏ったほむらは上空から指揮官を狙い撃つようにして矢を放つが大剣で切り払われる。

 

なおも速射を仕掛けてくる航空優勢の相手に対して手綱を引き、後方に駆け抜ける。

 

「指揮官ト部隊ノ分断カ!魔人共ヲ屠リシ小娘共ナラ、ヤハリ楽シマセテクレルモノジャ!」

 

「信じてるわ……貴女達が負けるはずなどないって!」

 

老騎士と共に渓谷の奥に移動するほむらは仲間の武運を祈りながら眼前の死と戦うのであった。

 

♦

 

左右から迫る薙ぎ払いに対して槍の柄を用いていなすのは杏子の姿。

 

天使は二メートルを超える巨体を持ち、補助魔法で攻撃力さえ上がっている。

 

まともに打ち合えば力負けするため、相手の斬撃の勢いを反らす守りに徹する。

 

また重装鎧による斬撃を受け止める防御もあり、有効打は貫通力の高い刺突のみであろう。

 

「どうした、天使様!小さい娘一人を相手に大人が大勢で攻めてくるのがあんたらの教義か!」

 

踏み込み斬りを放つ斬撃を避け、相手の両ふくらはぎを柄で打ち体を転がす。

 

槍を頭上で回転させた勢いのまま袈裟斬りを放ち、横から迫る斬撃を弾き落とす。

 

槍を周囲に振り回して相手を近寄らせない守りに徹する杏子に対して天使の一体が吠える。

 

「小娘一人に何をしている!!」

 

「私がやる!!」

 

激昂した相手の逆袈裟斬りを身を低めた回転ステップで避ける。

 

背後から切り込んで来る天使共が避けた相手とぶつかり、重なった体を刺突で串刺しにする。

 

「よってたかって悪者レッテルを貼りつけた奴を殺す!正義ってのは…そんな狡いもんかよ?」

 

両手に持った槍の柄を首の後ろに回して持ち、天使の正義になど屈しないと杏子が迫りくる。

 

「やれぇ!!」

 

複数で切り込む相手を上体の回避運動だけで避け、ステップを刻みながら歩き抜ける。

 

振り向いて攻めてくる敵の唐竹割りを首で避け、柄で受け止めた勢いのまま体を一回転させる。

 

なおも攻めてくる相手の袈裟斬りを身を引くめて避けると同時に柄を振って胴に一撃を打つ。

 

横の相手の一撃を柄で受け流し、即座に相手の足を柄で弾いて体勢を崩す。

 

背後から切り込む相手の首に槍の一撃を叩き込み勢いのまま転がった相手に倒し込む。

 

そのまま背中から串刺しにして天使共を消滅させる杏子には裏切者として迷いなどないだろう。

 

「異端者がぁぁぁぁーーっ!!」

 

翼を羽ばたかせながら急降下一撃を放つ急襲に対し、咄嗟に柄の両手持ちで受け止める。

 

攻撃力が上がった効果で地面に亀裂が入る程の攻撃に対して鍔迫り合いでは負けるだろう。

 

押し負けまいと必死の表情を浮かべる小娘に対し、天使は裏切り者を罵倒する言葉を放つ。

 

「知っているぞ!貴様の一家は私達と同じ神を崇拝していたはず!なのに…何故裏切った!?」

 

「うるせぇ!!あたしだって…裏切りたかったわけじゃねぇよ!!」

 

「父親が異端の道を進むなら神の信徒である貴様は何故止めなかった!?誑かされた者め!」

 

「違う!!あたしは父さんの道を信じたかっただけだ…!!」

 

「主なる神の言葉を捨て、人間の言葉で救世を行おう等とは…背信の裏切り者がぁ!!」

 

杏子の脳裏に浮かぶのは主なる神の信徒であった教会信者達から言われた罵倒の数々。

 

あの頃の杏子は信者達が掌を返すように激怒する光景が恐ろしくて震える事しか出来なかった。

 

小学生時代のトラウマに蝕まれた事で体に震えが走り、鍔迫り合いを押し切られる。

 

「佐倉さん!!」

 

乱戦の中、地面を這うように伸びてきたリボンがパワーの足に絡みついて引き倒される。

 

咄嗟に我に帰った杏子は地面に倒れた相手を串刺しにして消滅させる。

 

援護に駆けつけたマミは杏子の後ろに着地して背を向け合いながら天使軍と対峙するのだ。

 

「悪い、マミ…昔の記憶に囚われて…死にかけたぜ…」

 

「この天使の姿をした悪魔は…もしかして…佐倉さんの教会の…?」

 

「あたしの教会のステンドグラスにも描かれていた…本物のヘブライ天使達のようだな…」

 

「元キリスト教徒の佐倉さんが本物の天使と殺し合うだなんて…酷い運命ね…」

 

「言うなよ…過ぎたことさ。それにあたしは…この裏切りの罪から逃げる気はねぇよ」

 

「貴女は死なせないわ。貴女の家族を見捨てた私だって…咎人なのだから」

 

杏子とマミを相手に対峙するパワー達は剣を天にかざし、魔法を放つ構えを行う。

 

「佐倉さんまで死なせたら…貴女の最後の家族にさえ…顔向け出来ないから!!」

 

「滅びよ、悪しき魔女となる者達よ!!アーメン!!」

 

仕掛けられる前に大地を踏み込み、魔法少女達は前方に跳躍移動する。

 

跳躍して別れた二人が立っていた場所に目掛けて破魔を司る光の書物の紙が覆い尽くす。

 

悪しき存在を浄化の光を用いて消滅させる『ハマオン』の一撃を回避するのだ。

 

人間であれば浄化の光は通じないが、人間ではない悪魔や魔法少女達なら即死していただろう。

 

天使の斬撃を身を低めてステップ移動して避け、側転で左斬り上げを避けると同時に跳躍する。

 

「私達を魔女と言わないで!私達は希望を振りまく魔法少女よ!!」

 

右手で放たれるリボンが螺旋を描きながら砲身となる。

 

周囲にもマスケット銃が生み出されていき、大砲の榴弾と共に一斉発射していく。

 

地上のパワー達は大盾を上空に構えながら擲弾を受け止める構えを行う。

 

無数の魔弾は大盾の隙間を縫うように地面に撃ち込まれていく。

 

大盾で榴弾を受け止めた瞬間、パワーは異変に気が付いて叫び出す。

 

「な…煙幕だと!?」

 

放たれた発煙弾が戦場を覆い、視界が悪くなったパワーの命中率と回避力が阻害されてしまう。

 

「視界に頼るな!邪悪なる魔女の魔力を追え!!」

 

「私なら、ここよ」

 

地面に撃ち込まれた弾からリボンが生まれていき、パワー達の足に絡みつく。

 

視界が悪い空間内でもはっきりと位置が分かる魔力のマーキングが施されてしまうのだ。

 

濃霧のように広がる白煙の中、拳銃サイズの二丁マスケット銃を顔の前でクロスして構える。

 

左右の天使の頭部に発射して撃ち殺し、投げ捨てて新たなリボン二丁拳銃による射撃を行う。

 

逆袈裟斬りに踏み込み右手の銃床で手首を打ち付けながら払い込む。

 

左手の銃で頭部を撃ち抜き、右の銃で前の天使の頭部を撃ち抜く。

 

「私の動きについてこれる!!」

 

左薙を身を引くめながら掻い潜り、回転と同時に背中に蹴りを入れる。

 

左右から迫る天使を相手に両手でクロス射撃を行い、左右のパワー達の頭部を撃ち抜く。

 

「魔弾の射手めぇーーっ!!」

 

背後から二体のパワーが袈裟斬りと逆袈裟斬りを仕掛けてくる。

 

鈍化した世界。

 

2丁拳銃を指で回転させながら背を向けてしゃがみ込む。

 

グリップを握り込んだ瞬間、2丁拳銃を頭上に撃つ。

 

深く斬り込んだ体勢の両天使の下顎が撃ち抜かれて消滅するのだ。

 

「佐倉さんは私が必ず守る…だから暁美さんも…生き残って!!」

 

二人の仲間は激戦を繰り広げていく。

 

死を乗り越える希望をほむらは見せてくれるのだと信じて彼女達は戦うのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

赤き渓谷の谷を駆け抜けるレッドライダーをほむらは空から追撃し続ける。

 

上空からの弓矢の速射は大剣で弾き落とされ続け、有効打は与えられずにいるようだ。

 

「姑息ナ戦法ジャ。ワシニ近寄ラレルノハ恐ロシイカ?弓兵ノ嬢チャン?」

 

戦争を司る騎士として望むのは戦場の花形たる一騎打ちであろう。

 

「下ニ降リル気ガ無イトイウナラバ、叩キ落トスマデヨ」

 

前方の傾斜が激しい崖の斜面を赤き馬は跳躍し、岩場を跳ねながら上を目指す。

 

頂上まで辿り着いたレッドライダーは空のほむらに向き直り、大剣を天に向けてかざす。

 

「何をするつもり!?」

 

赤き豪雷が渦巻く空から豪雷が大剣に落ちる。

 

豪雷を纏った大剣から放射される雷魔法は人修羅も東京で使った事があるショックウェーブ。

 

レッドライダーが放つこの一撃は手加減抜きであり、威力は東京で見せた悪魔の比ではない。

 

「あああああーーーっ!!!」

 

地上から放たれた放電の一撃は空中で拡散してスパーク現象を空で発生させる。

 

ほむらは放電空間に巻き込まれたせいで全身が感電していくだろう。

 

地上に叩きつけられた彼女は雷特有の熱傷により全身を焼かれている。

 

シダの葉模様の電紋が体中に走った重傷を負っているようだ。

 

それよりも落雷によって死に至らしめる原因となるのは心肺停止であろう。

 

「くっ……うぅ……っ!!」

 

彼女の心臓も心肺停止状態であるが、魔法少女にとって肉体は外付けハードディスクである。

 

魔力で操る肉人形ゆえに本体のソウルジェムさえ無事なら死を受けいれない限り体を動かせる。

 

しかし生命停止を魔力で動かす分、魔力消費は一気に高まってしまうだろう。

 

早く体を回復魔法で蘇生措置させて通常魔力消費状態に戻さなければ無事では済まないはず。

 

ソウルジェムの魔力がもたないし、死んだ体も腐ってしまうのだ。

 

「ホッホッ!死ンデオイテマダ動クカ!!魔法少女トイウ存在ハ、ツクヅク生ケル屍ヨ!!」

 

頂上から駆け下り、一騎打ちをせんとレッドライダーは大剣を振り上げながら迫りくる。

 

「くっ!!体を動かす魔力消費が激しい…大魔法行使をする余裕が…ない!!」

 

片膝立ちで自動小銃を構えながら迎え撃とうとした時には既に大剣の間合い。

 

袈裟斬りによって銃身が切断され、なおも追撃の逆袈裟斬りが迫る。

 

銃から手を放して地面に転がっていた弓を右手で拾い上げ、逆袈裟斬りを受け流す。

 

走り抜ける赤き馬に振り向くほむらの体勢はガンベルトに吊ったホルスターに手を添えている。

 

新たに選んだ拳銃を抜き終えた後、赤き馬の後ろに目掛けて構えながら射撃を行う。

 

「ヌゥ!!?」

 

突然叫び声を上げながら痛みに藻掻くように暴れまくる赤き馬。

 

左後ろ足の外もも肉が散弾でえぐられており、深い傷をすれ違いの瞬間に与えていたようだ。

 

彼女が左手で構えた銃はトーラス・ジャッジと呼ばれる散弾を撃てるリボルバー拳銃である。

 

「貴様…ヨクモワシノ愛馬ヲ傷物ニシタナ!!」

 

「これでも喰らいなさい!!」

 

腰のポーチから取り出した武器のピンを抜き、レッドライダーに目掛けて投げつける。

 

レッドライダーの眼前でM84スタングレネードが炸裂した事で閃光と轟音が一気に炸裂する。

 

目が眩み、耳が難聴になった魔人は見えない視界のまま相手の魔力を探る。

 

すると重たい体を引きずるようにしながら渓谷の奥に逃げている獲物の気配を察知したようだ。

 

「アノ体デハ、ソウ遠クニハ逃ゲレンノォ」

 

回復したレッドライダーは獲物にトドメを刺すため馬を走らせるが、全開の速度とは程遠い。

 

「追いつかれる前に罠を貼らないと……まだ持ちこたえて……私の体!!」

 

♦

 

「おりゃぁぁぁぁーーーっ!!」

 

槍の鎖で体を巻き取ったパワーを振り抜き、迫ってくる別のパワーにぶつけて弾き飛ばす。

 

「ハァ…ハァ…数が多過ぎる…」

 

杏子の体も剣撃の傷を無数に受けており、衣服もズタボロで血を流し続ける。

 

マミも杏子と同じく疲れが見え始めており、二人の動きも悪くなり勢いがなくなっている。

 

「正義の刃に倒れるがいい…裏切り者めぇーっ!!」

 

迫りくる二体に対し、右手で槍を振り回して演舞のように回転させる。

 

体を捻りこみながら放つ唐竹割りの一撃で敵を分断する。

 

槍で大きく左薙を放ち、避ける相手は迫る槍の一撃で体勢を崩してしまう。

 

勢いのまま袈裟斬りを放ち、片側の相手を寄せ付けないまま鬼気迫る顔の杏子が叫ぶ。

 

「少しは休ませてくれよ!!」

 

なおも攻め立てる片側の相手の腹に蹴りを入れ、兜の側面に槍の一撃を叩きこむ。

 

起き上がる相手の袈裟斬りを大上段の構えで受け止め、絡め取るように巻き込んで払い飛ばす。

 

柄を短く持ち、トドメの刺突を行って迫りくるパワーを仕留める抵抗を見せつけてくる。

 

「異端者如きに…主なる神の軍勢である我らが…負けるわけにはいかんのだ!!」

 

兜がヘコんだパワーは両手の剣と盾を捨て、地面に転がった天使の槍を拾い上げて突きを放つ。

 

槍で刺突を受け止め、パワーの刃を地面に押し付けるように薙ぎ払いながら抑え込む。

 

互いの体もぶつかり合い、力比べの状態になっていく。

 

なおも負けを認めぬ相手に対して天使は疑問を問いかけたようだ。

 

「何故…我らの神に背いた!?お前達一家は…あれ程まで信仰心の高い者達であったのに!」

 

「見守ってたのは嬉しいけど、人間は考えてるより想像力豊かで、思い上がるのかもしれない」

 

「想像力だと!?」

 

「夢を持つってやつさ。与えられた教義に束縛されず、別の可能性を考えて道を求めるんだ…」

 

「別の可能性だと…?」

 

自分の思うままに振る舞い、他者の心に目を向けながら慈しむ道を佐倉牧師は啓こうとした者。

 

その道は歴史ある宗教でなくてもいい、自由な教義を目指したい願いだと杏子は伝えてくれる。

 

「そんな事のために…主なる神の教えに背いたというのか!?」

 

「いけないかい?自(・)分(・)の(・)心(・)よ(・)り(・)も(・)大(・)事(・)な(・)モ(・)ン(・)っ(・)て(・)あ(・)る(・)の(・)か(・)よ(・)…?我慢しても…後(・)悔(・)す(・)る(・)だ(・)け(・)さ(・)」

 

対峙する二人の横の地面では腹部を刺された先程の天使がいる。

 

倒れた体の右手で地面を探り、武器を拾い上げる。

 

「天使様から見たら我儘だろうが、あたしは…そんな愚かな父さんの純粋な姿が…好きだった」

 

その言葉を言い終えた瞬間、杏子は大きく吐血してしまう。

 

「ガッ……!?」

 

背後から腹部を貫いた天使の槍の一撃は体を大きく貫通してしまう。

 

地面には先程の天使が右手で槍を持ち、最後の一撃とばかりに刺突の一撃を放ち終えている。

 

「佐倉さん……っ!!」

 

遠く離れたマミは乱戦の隙間からその光景を見てしまったことで絶叫してしまう。

 

「へっ…背信の裏切者として…最後まで…抵抗したけどよ…ここまで…か…」

 

槍を握る手の力も無くなり、ゆっくりと地面に倒れ込む。

 

対峙していた天使は槍の刃を下に向け、力強く柄を持ちながら振りかぶる。

 

「私にはお前の気持ちは分からない。もし理解出来たなら…きっと私も…堕(・)天(・)し(・)て(・)い(・)た(・)」

 

無慈悲なる一撃が杏子の心臓をえぐり、槍は体を貫き地面に深く食い込む。

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁーーーッッ!!!」

 

守ると誓ったばかりの仲間の元へとマミは駆けてくる。

 

過ちは繰り返さないと誓ったはずなのに、その想いは儚く消されていく。

 

「自由な選択ってのは…ゴハッ!大きな責任が…伴う…よ…な……」

 

胸元に輝く濁ったソウルジェムを杏子は握り込む。

 

「マミ…ほむら…過去があたしの…人生を…裁きに…来たんだ…背負う…よ……」

 

この魔法はかつての世界で用いたもの。

 

救えなかった大切な人と共に世界へ別れを告げる一撃を再び放つ時がくる。

 

「ダメェェェェェェェーーーーっ!!!」

 

薄れゆく意識の中、ぼやけた姿で遠くから近づいて来ている恩師に微笑む。

 

「ごめんな……マ……ミ……」

 

魔法少女の魂を燃やし尽くし、全てを焼き払う贖罪の炎の一撃が噴き上がる。

 

自らの死という犠牲を払って全人類を神に対する罪の状態からあがなったイエスの道。

 

それを再現する道もまたキリスト教徒の道であり、杏子は最後に昔の自分に帰れた気がした。

 

♦

 

切り立った渓谷の崖の下に続く道を崖に沿って進むのは赤き馬。

 

傷が深いせいで息も荒く、既に速歩き程度の速度にまで落ちている。

 

これでは空を駆け巡る余力も無いだろう。

 

奥の岩場の影、敵が渓谷にかかる巨大なアーチ岩の下を潜るのを待ち構えるのは暁美ほむら。

 

グリーフキューブで魔力を回復させた後、胸に手を当てて回復魔法をかけ続けている。

 

自分の体の蘇生措置を施し続けながらどうにか蘇生させようと試みているようだ。

 

「お願い動いて…私の心臓…っ!!」

 

人間ならば既に心臓から血を送られずに脳死している時間が経過している。

 

それでも諦めずに回復魔法をかけ続けると胸の中で小さな高鳴りを始めてくれる。

 

しかし彼女の体は血を送られない時間が長く過ぎた兆候が出始めているようだ。

 

心臓から遠い距離の手足は既に黒ずんできている。

 

自分の体の最低限の処置を施したほむらはアーチ岩の方に振り向く。

 

右手には起爆用のリモコンが持たれており、指がスイッチにかけられている。

 

時間にして後数秒。

 

レッドライダーが巨大アーチ岩の下に入り込んだ瞬間、起爆ボタンは押されるだろう。

 

「ヌゥ?」

 

アーチ岩を支える部位に仕掛けられたC4爆弾の雷管が点火され、一気に起爆する。

 

アーチ岩の両端が崩れ、屋根を構築していた巨大な岩が下に落下する中、髑髏顔が不敵に笑う。

 

「隠レタ小娘ヨ、見ルガイイ。コレレコソガ…一刀両断トヨバレルモノヨ」

 

鈍化した世界。

 

頭上に掲げた大剣の刀身に風が集まりながら収束していく。

 

嵐の力を宿した大剣が振り下ろされた時、刃から放たれるのは『真空刃』の一撃。

 

直上から迫る巨大岩を両断し、岩はレッドライダーの両端に分かれるように落ちて砕ける。

 

真空刃の威力は留まらず、前方の渓谷さえも縦に両断していく。

 

だがそれは囮の一撃であり、桁外れの剣技を見せられようがほむらの口元には笑みが浮かぶ。

 

「かかったわね」

 

レッドライダーの近くにある茂みに置かれているのは彼女が自作した即席爆発装置である。

 

100ポンドの火薬が詰め込まれた大きな手製爆弾の時限装置の設定時間がついに合わさる。

 

「オオオッ!?」

 

大爆発が起きた事で彼女は岩場に隠れて爆風をやり過ごす。

 

バックパックの中身を全て使い切った連続攻撃ではあるが、レッドライダーの命には届かない。

 

「クッ…不意打チモマタ、戦場ニハツキモノヨ…」

 

咄嗟に馬から飛び降りて馬を盾にした事でレッドライダーは爆発から生き延びている。

 

赤き馬は絶命し、淡い深碧色の感情エネルギーとしてMAGの光が立ち上るようだ。

 

「ワシノ愛馬ヲ死ナセタ罪ハ高クツクゾ……切リキザンデクレルワ」

 

居場所に気が付かれていると判断したほむらは岩場から飛び出す。

 

弓を構えようとするが、既に大剣の間合いにまで踏み込まれているのだ。

 

「くっ!!」

 

矢を撃つのを諦め、大剣の逆袈裟斬りを左手の弓で払い飛ばす。

 

即座に右のホルスターからコルト・パイソンを抜く。

 

リコイルの反動を肘で受け止めるリボルバー銃独特の早撃ち射撃を行おうとする。

 

しかしレッドライダーの黒衣の下は鎧である。

 

髑髏顔が剥き出しの頭部ならまだしも、胴体の鎧はマグナム弾でも撃ち抜けない強度なのだ。

 

「チャチナ小物デ、ワシガ倒セルモノカ!!」

 

右肩の体当たりでほむらを突き飛ばし、倒れ込んだ相手に跳躍して大剣を叩きつける。

 

しかし転がりながら避けて射撃を仕掛ける相手に対し、銃弾を大剣で弾き落としていく。

 

立ち上がって銃を構えるほむらであるが、銃撃が通用しない相手では分が悪過ぎる。

 

「剣士ト切リ合ウ技量モナイ者ナラ…ワシニハカテンヨ!!」

 

左切上の一閃が決まり、宙を舞うのは銃を握ったままの右手首。

 

「トドメジャッ!!!」

 

左切上から霞の構えを行い、一気に刺突を仕掛けてほむらの腹部を突き刺す。

 

「ぐっ!!」

 

レッドライダーの刺突の突進は止まらず、後ろの岩にぶつかりながら岩ごと串刺しとなる。

 

「ヨクヤッタノォ、生ケル屍ノ如キ嬢チャン共ニシテハ、タノシメタワ」

 

このまま真上に切り上げながら真っ二つかと思われたが、彼女の顔は敗北者の表情ではない。

 

「……この時を、待ってたわ」

 

弓を手放した左手で刀身を強く掴み、赤黒い血が滴り落ちる。

 

「接近戦を得意とする魔法少女ではない私が剣豪のような敵に勝つには…捨て身しかないわね」

 

「貴様…マサカ…ッ!?」

 

ほむらの背中から吹き上がったのは世界を侵食する黒き翼。

 

剣を引き抜こうとするが、彼女の背後の岩に深く突き刺さっているせいで抜け出せない。

 

「……終わりよ」

 

「オオオォォォォォーーーッッ!!!」

 

黒き翼の侵食領域に飲み込まれたレッドライダーと大剣が消滅していく。

 

どす黒い侵食領域が消えていく中、ほむらは両膝から崩れ落ちて倒れ込む。

 

倒れ込んだ彼女の視界に映るのは首だけ残ったレッドライダーの頭部だけであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「魔人ヲ退ケルトハ……流石トシカ……イエンノォ……」

 

頭部だけとなっているが、レッドライダーにはまだ息がある。

 

最後の力を振り絞ったほむらは残っている左手で左ホルスターから銃を抜く。

 

「ヨセ……勝負ハツイタ。モハヤワシハ……滅ブノミヨ……」

 

「死ぬ前に約束を果たして…お前達悪魔がこの世に現界出来る方法を…教えなさい…」

 

「ワシラ概念存在ノ受肉スル方法トハ…魔法少女ヤ人間ガモタラス…感情エネルギージャ…」

 

「私達のソウルジェムから生み出されてきた…感情エネルギーですって…っ!?」

 

「ワシラハソレヲ…生体マグネタイト…アルイハ…マガツヒト呼ブ…」

 

「マグネタイト…マガツヒ…そんな呼ばれ方もあったのね…」

 

強き神や悪魔を召喚するには莫大な量のMAGやマガツヒが必要となるだろうと教えてくれる。

 

「円環ノコトワリトナッタ娘モ死ヌ間際ニ莫大ナMAGヲ生ミ出シ、コトワリノ神ヲ召喚シタ」

 

「コトワリの神の召喚ですって…?まどかがコトワリの神じゃないの?」

 

「アノ娘ハ…守護ヲ降ロシタ。召喚サレタコトワリノ神ト融合シ…円環ノコトワリトナッタ…」

 

「そんな…それじゃあ、まどかの内側には…また別の神が宿っているわけ!?」

 

「ワシラ魔人達モマタ…閣下ガ人為的ニ生ミ出シタ莫大ナMAGヲ触媒ニシテ…現界シタノジャ」

 

「人為的に感情エネルギーを生み出す…?」

 

「生贄ジャヨ…オ前達魔法少女ハ、悪魔ノ生贄トナルノジャ。ソレハ世界中ノ国家デ起コル…」

 

「私達魔法少女が…悪魔の生贄ですって…!?」

 

「日本ニモ魔法少女ヲ生贄ニスル施設ガアル…ソレガ無イ国ハ片手デ数エラレル程度ジャ…」

 

「世界規模の魔法少女の生贄施設…感情エネルギーの搾取…」

 

「全テハ…終ノ決戦ノ為…モウ直グソコマデ迫ッテ…オル…」

 

「待ちなさい!!まどかの内側に宿った神とは何者なの!?世界の未来に何が起こるの!?」

 

「フフフ…急グノジャ…若人…大規模ナ戦争ガ…始マロウト…シテイル…ゾ……」

 

その一言を最後にレッドライダーの体を構成する感情エネルギーが爆発する。

 

淡い深碧色の感情エネルギーであるMAGが空にバラ撒かれ、レッドライダーの頭部も消えた。

 

♦

 

魔人の結界が消えていき、元の世界に帰ってこれたが広がる光景は地獄そのもの。

 

人々の泣き叫ぶ声が響き、火災まで巻き起こって崩壊していく見滝原商業区内である。

 

「くっ……うぅ……っ!!」

 

切り落とされた右手や刺し貫かれた腹部から大量に出血しながら彼女はゆっくり立ち上がる。

 

近くに巴マミの魔力も感じるが杏子の魔力は感じられない。

 

足を引きずりながら煙と炎に包まれた街を歩き、マミの元へと向かっていく。

 

路地裏にいたのは膝を抱えて泣きじゃくる魔法少女の姿なのだ。

 

「巴…さん…?杏子は…何処…?」

 

「グスッ…エッグ…ごめんなさい…ごめんなさいぃぃ…」

 

狼狽した恩師の姿を見たほむらは杏子がどうなってしまったのかを察してくれる。

 

あの自爆魔法の時、マミは咄嗟にリボンを用いて防御結界を張ったが全身は傷塗れ。

 

傷だらけの二人に声をかける者達など存在せず、皆がパニックになりながら逃げ惑うばかり。

 

「私は駄目な魔法少女よぉぉぉ…過ちばかり繰り返す…何も学ばない…駄目な女なのよ…!!」

 

「落ち着いて…巴さん!貴女のせいじゃないわ!!」

 

「佐倉さんを守るって約束したわ!!なのに守れない…尚紀さんに…顔向け出来ない…っ!!」

 

錯乱して容量を得ない事ばかり叫ぶ混乱に包まれたマミの姿を見ていると心が抉られていく。

 

泣きじゃくるばかりのマミに右手を失った右腕で肩を貸してあげ、抱き起こす。

 

地獄に包まれた街を足を引きずりながら歩く二人であるが、ほむらも限界が近い。

 

「暁美さん…貴女まで死ぬの…?私を置いて死んじゃうの…?独りにしないで!!」

 

「死んでたまるもんですか…私にはまだ…やらなきゃならない使命が…」

 

流血は止まらず、既に体中が冷たくなり、もはや死体も同然の姿を晒している。

 

ついには人気のない場所で力尽きてしまい、マミの前で倒れ込んでしまう。

 

「暁美さん!?いやぁぁぁぁ!!誰か助けてぇーーーっ!!」

 

「私…まだ…死にたく…ない……っ」

 

回復魔法をかける余力も無いマミは助けを呼ぶばかりだが、周りの人間達も同じ状況であろう。

 

(私の死からは……逃げられないの……?)

 

目を開ける力も無くなっていき、周りの音も遠くなっていく。

 

ついには観念してしまったほむらであったが、不意に傷が開いた腹部に暖かさを感じる。

 

「しっかりしなさい、暁美ほむら!!貴女はこんなところで死にたくないんでしょ!?」

 

(この……声は……?)

 

忘れもしない、憎い敵の一人だった魔法少女の声が聞こえてくる。

 

「美国……織莉子……?」

 

懸命に回復魔法をかけ続けてくれているのは織莉子とキリカなのだとほむらは理解するだろう。

 

「お願い…美国さん!!呉さん!!暁美さんを死なせないでぇ!!独りぼっちは嫌ぁ!!」

 

「落ち着きなさいよ、巴!!あんただって全身傷だらけなのよ!!」

 

隣のマミも小巻に回復魔法をかけてもらっている。

 

見滝原に存在するもう一組の魔法少女達が商業区の混乱に気が付き、駆けつけてくれたようだ。

 

「美国織莉子…呉キリカ…私は…貴女達を……」

 

「何も言わないで!!今は自分の命が助かる事だけを考えなさい!!」

 

「織莉子!この子の出血が酷すぎる…これじゃもう…っ!!」

 

「諦めないで…キリカ!魔法少女は希望を叶える存在でしょ!奇跡を信じて!!」

 

(どうして…私なんかのために…私は…貴女達を…殺し続けた…はずなの…に…)

 

かつては敵だった者達の献身を感じるほむらはようやく理解してくれる。

 

まどかが残したこの世界は魔(・)法(・)少(・)女(・)達(・)が(・)助(・)け(・)合(・)う(・)事(・)が(・)出(・)来(・)る(・)世(・)界(・)なのだと分かったようだ。

 

(あの子の死が…魔法少女達に…希望を与える世界を…作ったのね…)

 

自分達にとって、それがどれだけ尊い犠牲だったのかを痛感した彼女の目から涙が溢れ出る。

 

もう世界に暁美ほむらが敵として憎む魔法少女などいないと分かった時、懺悔の言葉が溢れる。

 

「ごめんなさい…ごめんなさい…美国さん…」

 

「いいのよ…暁美さん。私もキリカも…気にしてはいないから…」

 

心の中で力の限り有難うと叫びたいとほむらは思っているのだろう。

 

まどかが残してくれた希望の暖かさによって救われる魔法少女達の絆の世界。

 

息を持ち直した彼女はまどかの尊い死を儚く想いながら眼を閉じていって気を失った。

 

♦

 

ここは記憶の回廊。

 

メノラーの明かりもまた一つ増え、暗闇を照らす光量も増す。

 

死を乗り越えても、また次の死が襲いかかる逃れられない7つの試練。

 

知るための道、その度に仲間の死をもたらす結果を招いてしまうかもしれない。

 

ほむらは迷っているのだろう。

 

マミと杏子を魔人との戦いに巻き込んでいいのだろうかと躊躇いを抱え込むのであった。

 




読んで頂き、有難うございます。
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