人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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63話 レッドライダー

今日の学校が終わる夕方、ほむらは急ぎ見滝原政治行政区地下にある自身の新たな武器庫へ。

 

武器庫内で装備を整え、時間を潰し終えてからエレベーターに向かう。

 

不意に背後に現れたホワイトから声をかけられた。

 

「・・・何か私に言うことでもあるの?」

 

「いや、お前は十分必要な技量を身につけた。その成果を戦場で発揮出来たならば生き残れる」

 

「そう・・・。お前も雇い主から残りの報酬を受け取ったなら、さっさとこの場所を去りなさい」

 

「長居するつもりは元々無い。後はお前次第だ」

 

無駄な会話を打ち切り、エレベーターに向かっている彼女の背中に、ホワイトが送る言葉。

 

―――勝者となり生き残れよ小娘。でなければ・・・俺も楽しめない。

 

歩く彼女の足が一瞬止まる。

 

首を動かし後ろのホワイトを見た後、彼女はエレベーターのボタンを押し中に入り地上を目指す。

 

第一の騎士たる弓兵ホワイトライダーに鍛えられた魔法少女。

 

その技術を用い、ほむらは第二の騎士を乗り越えることは出来るのか?

 

「4ツノ死、三度目ニ現レルハ戦場ノ流血。地上ニ内乱ヲ引キ起コシ、世界ノ平和ヲ奪ウ破壊ヲ司ル戦争ノ騎士」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

2019年はデモの年と呼ばれる程、世界中でデモが行われた年。

 

ベネズエラ、ボリビア、エクアドル、チリ、フランスなど様々な国でデモの騒乱が起きる。

 

その中でも最も苛烈なデモとなったのは香港。

 

逃亡犯条例改悪という抑圧ツールの導入に反対し、北京の意のままに動く香港政府に異を唱えた民衆の数は200万人にも及ぶ。

 

国内のみならず、世界中の華僑である移民が中国政府に対して抗議デモを行う年。

 

それはこの見滝原市の中国大使館前でも、同じ現象が日が沈んだ時間でさえ起きていた。

 

「光復香港!!時代革命!!!(香港を取り戻せ、時代の革命だ)」

 

100人近い移民の民衆達が大使館前に集まり、民衆の五大要求を広東語で書いた大きなプラカードを掲げて騒ぎ立てる光景。

 

集まった人々は皆が香港に残した家族や友人の身を案じている。

 

香港で行われている中国共産党の犬と化した香港警察によるデモに集まる民衆達への酷すぎる暴行動画や写真はスマホとSNSの発達により、リアルタイムで日本にも流れてきた。

 

怒りの気持ちと恐怖の気持ちで居ても立っても居られない人々は、中国に対し怒りをぶつける。

 

激しすぎる怒りの感情エネルギーに釣られて現れるは魔獣達。

 

中国大使館の屋上に現れ出た複数の魔獣の群れに対し、3人の魔法少女達は隣の高層ビル屋上から飛び降り、降下しながら狙い撃つ。

 

次々と飛来する攻撃に射抜かれ、大使館屋上に3人が着地した時には魔獣は殲滅出来たと見える。

 

「・・・酷い騒ぎね」

 

「テレビでやってるわね・・・香港の問題。他国の内乱は国境を超える問題なのね・・・」

 

「あたしはノンポリだから政治の話は分からねぇ」

 

「社会で暮らす民の苦しみが魔獣を生み出してしまう。やはりこの世界は救いようがないわ」

 

グリーフキューブを3人は拾い終え屋上から地上のデモを見下ろすが、魔獣の新たな魔力を感じ取り武器を構えた。

 

大使館前の建物の上に現れ出たのは、人々の感情エネルギーを吸い上げ巨大化した魔獣達。

 

複数の四角いポリゴンを巨体の周囲に生み、無数のレーザー攻撃を仕掛けようとした時だった。

 

「待って!!向こう側から感じとれる恐ろしい魔力・・・・・魔人が来るわ!!」

 

逃れられない死の気配。

 

死が三度襲いかかる最初の獲物となったのは・・・魔獣達。

 

刹那、巨大魔獣達の胴体が真一文字に同時に切り裂かれ、消滅。

 

建物の上から雄叫びを上げ跳躍してきた赤き馬、跨るは第二の騎士。

 

鈍化した世界、3人は跳躍しながら頭上を超えて来た馬の姿を見上げる。

 

大使館屋上に着地した騎士は大剣を地面に突き立て、なぞるようにエグリながら旋回急停止。

 

右手の大剣を右肩に担ぎ、3人に逃れられぬ死を送り届けに来た者。

 

だが、この戦争を司る騎士が現れた地において・・・犠牲者が少なく済む筈はない。

 

「な・・・・何・・・・!?」

 

大使館の両隣ビル・・・いや、真一文字に切り裂いた剣撃の斬撃余波が通り抜けたのは、商業区の端を遥かに超えている。

 

この一撃こそ第二の騎士が地上に混乱をもたらす剣技『テラーソード』

 

切断された巨大高層ビル上部が次々とずれ落ちるように・・・・落下。

 

「うわぁぁーーーーーーーー!!!?」

 

「キャァァァーーーーー!!!!?」

 

悲鳴、叫び声、金切声、あらゆる絶望を示す人間達の刹那の叫び声が地上から巻き上がる。

 

倒れ込んできた大質量のビルが地面に叩きつけられ、砕け、巨大土煙を上げていく。

 

それは見滝原商業区内のいたるところで巻き起こる、この街始まって以来の大惨事。

 

「ゲホッゲホッ!!何てことを・・・どれだけの人間が死んだわけ・・・・!?」

 

「酷ぇ・・・一瞬で地獄が溢れかえりやがった・・・・・」

 

「私が・・・・私が守り続けた見滝原の人々が・・・・こんな事あんまり過ぎるわよ!!」

 

土煙に包まれる大使館屋上の世界に佇む戦場の流血を司る騎士。

 

左手を左耳に掲げ、地上から巻き上がる傷つきながらも生き延びた人々が奏でる騒乱の音を聞く。

 

「ホッホッホッ、人間共ノ乱心コソ・・・我ガ喜ビヨ」

 

「ここは決闘の場では無かった筈!どうしてこんな真似を!?」

 

「妙ナ事ヲ悪魔ニ聞クノォ、オ嬢チャン?国家ニ混乱ヲモタラス光景コソ、我ガ喜ビヨ」

 

「許せない・・・あなただけは絶対に私は許さないわよ!!」

 

「コノ街ノ守護者ヲ気取ッテイタオ嬢チャンモ戦ノ熱ガ入ッタヨウジャ、結構結構」

 

「たったそれだけのために大虐殺を・・・それが悪魔なのかよ!!」

 

「ツマラナイ戦ハ好キデハナクテノォ。最モ、ツマラナカロウガ、戦場ノ叫ビ声ハ心地良イ」

 

大剣を逆手に持ち、馬上から地面に突き立てる。

 

土煙で足元が見えなかった3人は、魔人の結界が開いていくことに気が付かない。

 

「続キハ望ミ通リ、魔人ノ戦場デ始メルトスルカ・・・魔法少女ノ嬢チャン共」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

気がつけば3人は魔人の結界世界。

 

立ち上がる3人を赤き渓谷の高台頂上で見下ろす騎士の姿。

 

「オ前サン達ハ我ラ四騎士ヲ二人モ打倒シタ。強キ者達ヨ、ワシハ遠慮ヲスル気ハナイ」

 

「二体倒しただぁ・・・?何言ってんだよ・・・あいつが初めて現れた奴じゃないのか?」

 

ループ現象が起こってはいるが、二体の悪魔という概念存在は討ち倒されている。

 

ループ現象によって蘇る事が出来ないのは、過去・現在・未来でも存在しない概念存在故だ。

 

受肉した肉体を神や悪魔が失う事とは、元いた高次元領域に帰る事と等しい。

 

「見ルガ良イ、ワシハ死天ノ軍勢ヲ連レテキタ」

 

右手の大剣を赤き豪雷が空で荒れ狂う天に向けて掲げる。

 

雲が一気に円形に広がるように穴が開く。

 

地獄の雲が穏やかな光に包まれ、木漏れ陽を地上にもたらしていく。

 

神々しき空から現れ出た悪魔達とは・・・。

 

「え・・・?あれって・・・まさか・・・・・」

 

「はは・・・家族が生きてたら、みんなで跪いて祈りを捧げたくなる光景だぜ・・・・・」

 

赤き全身甲冑鎧、巨大な盾と槍、そして背中には純白の白き両翼。

 

あれを見れば人々は口々にこう言うだろう。

 

『天使』が舞い降りたと・・・。

 

【パワー】

 

天使九階級で中級第三位に位置する能天使であり、名は神の力を表す。

 

天界を武装した姿で警備し、悪魔の侵入を退けると共に、善と悪の力の拮抗を保つ役割を担うとされる。

 

その為善悪の間で揺れやすい性質を持ち、天使の内で最も堕天する者が多いともいう。

 

渓谷高台の頂上に次々と舞い降り着地し、横一列に隊列を組み眼前の敵を睨みつける。

 

「いずれ魔女となる者共め!正義を執行する時がきたぞ!!」

 

「我らの聖なる鉄槌によって貴様らは焼き払われるのだ!!」

 

「主なる神のため、その魂を捧げ宇宙の熱になるが良い!!」

 

死をもたらしに来た死天は死靈とは違い、強き信仰心を持つ人間と変わらぬ意思を持つ者。

 

だがその強き信仰心によって、主なる神に仇をなす存在を決して認めず許さない。

 

「あたしを魔女って呼ぶんじゃねぇ!!!」

 

「私達は人々に希望をもたらす魔法少女よ!!」

 

<<魔女め!!魔女め!!魔女め!!魔女め!!>>

 

槍の石突を地面に何度も打ち突けながら、眼前の存在に『悪のレッテル』を貼り付ける天使達。

 

『善悪二元論』を悪用すれば、どんな正しき人々でも悪にする事が出来る『印象操作』

 

傍から見ている人々から見れば、何が正しく何が悪いかなどたいして気にはしない考えない。

 

存在の大きい権力者達の声に流されるだけの疑う事を知らない民衆達は、これによって迫害と戦争を繰り返してきた。

 

人間とは、自分に都合の良いモノしか見ようとしない、愚か者だから繰り返された歴史。

 

天使の軍勢達による鼓舞の如き音頭は、魔人を含む天使達の攻撃力を上げていく。

 

悪魔の補助魔法に存在する悪魔の攻撃力を上げる魔法『タルカジャ』を使っていると見える。

 

「良イ空気ジャ。戦争ガ始マル瞬間程、心地良イ一時ハ無イ・・・」

 

手綱を引き馬を魔法少女達に向け、騎馬突撃の姿勢。

 

天使達も翼を広げ飛翔し大盾を構え、突撃姿勢をとる。

 

「密集隊形・・・集団戦になるわね。魔獣とは違う、統率がとれた軍隊と戦った事は?」

 

「・・・無いわ。それでも、やるしかない!」

 

「天使と殺し合いか・・・キリスト教徒失格だな。まぁ・・・あたしや家族は元々裏切り者だ」

 

「貴女達ならやれる・・・私は信じているから」

 

大剣を振り、いよいよ突撃の合図を指揮官たる魔人が放つ。

 

「我コソハ黙示録ノ四騎士ガ一人!レッドライダー!!戦場ニ息吹ヲモタラシテミセヨ小娘共!」

 

魔人の軍勢は一気に渓谷斜面を風の如く下り、3人の魔法少女に対し炎のように攻め込んできた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

烈火の如く攻め降りる突撃軍団が放つ一糸乱れぬランスチャージ。

 

「やるぞマミィ!!!」

 

「ええ!!合わせるわ佐倉さん!!!」

 

砦を防御するように前に出てほむらの前に迎え討つ方陣を構築する。

 

地面に生み出した巨大魔法陣から次々飛び出す傾斜かかったパイク槍。

 

パイク槍を取り囲む布陣でリボンが次々生み出されマスケット銃が空中に固定された。

 

この布陣は欧州の戦争歴史において、テルシオと呼ばれる戦闘隊形と酷似する。

 

機動力を捨てた移動要塞陣形、無数の槍兵の防御をマスケット銃兵が援護する堅牢さ。

 

「思イツキトハ思エン見事ナ布陣!小娘ニシテハヤル・・・シカシ!!」

 

天使達は翼を羽ばたかせ、一気に空に向けて上昇、レッドライダーも赤き馬の足から白煙が吹き出し跳躍。

 

騎馬突撃ならば迎え討つには十分だが、相手は空を飛べる。

 

中世の堅牢な布陣であろうが、航空優勢を考慮した布陣であろう筈がなかった。

 

「後ろに引けば突撃を受ける!!二人とも前に飛んで!!!」

 

テルシオ布陣を3人は大きく跳躍して前方に向けて飛び越える。

 

空から急降下して放つパワー達の一撃『ギロチンカット』が次々と振り落とされ、大地を砕く。

 

振り向きざまに二人はテルシオ布陣を大きく反転させ、一気に攻撃を放つ。

 

槍に仕込まれた鎖が開放され、獲物に向け射出された無数の矛先、無数のマスケット弾も追う。

 

「後方防御!!」

 

<<オオッ!!!>>

 

指揮官の命令、息を合わせた動きで後方に大盾を向けファランクス防御陣地を築く。

 

壁のように密集した大盾の堅牢さによって、全ての槍と銃弾は受け止められてしまった。

 

だがそれだけでは終わらない。

 

空から迫る攻撃、ほむらが放った魔法の矢が空に魔法陣を描き、地上に向け次々と矢の雨を降り落とす。

 

「上方防御!!」

 

<<オオッ!!>>

 

ファランクス陣形のままパワー達は大盾を密集させ屋根を作り、矢の雨を受け止める。

 

後方のレッドライダーは盾を構える必要すらなく、大剣を空に向け振り抜く剣圧だけで矢の雨を弾き、消滅させた。

 

「そう来ると思ったぜ!!」

 

「ガッ・・・・・不覚ッ!!」

 

一体のパワーは間合いを一気に詰めた槍の刺突によって重装鎧ごと貫かれ消滅。

 

ほむらの一撃は敵の注意を引きつける囮。

 

守りが堅い布陣を敷かれては有効打は与えられない、ならば一気に接近戦に持ち込み乱戦と成す。

 

既にマミも敵陣に突撃し、一体のパワーは飛び蹴りを顔面に受け、後方に突き飛ばされた。

 

マミの両手に握るはライフル銃よりも短い拳銃サイズのマスケット銃。

 

「見事ナ連携ヨ!!抜刀!!」

 

密集した陣形内で使う長い槍では乱戦による接近戦が不利なのは当然。

 

槍を捨て、左腰に携えた剣を抜きパワー達は敵陣深くにたった二人で突撃してきた魔法少女を迎え討つ。

 

「お前の相手は私よ!!」

 

黒き翼を纏ったほむらが上空から指揮官を狙い撃つように矢を放つ。

 

大剣で切り払い、なお連続した速射を仕掛けてくる航空優勢の相手に対し、手綱を引き後方に駆け抜ける。

 

「指揮官ト部隊ノ分断カ!ヤハリ二体ノ魔人ヲ屠リシ小娘共ハ、楽シマセテクレルワ!!」

 

「信じてるから・・・貴女達が負ける筈ないって!」

 

レッドライダーと共に渓谷の奥に移動するほむらは二人の武運を祈り、眼前の死と戦う事とした。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

左右の薙ぎ払いにより相手の剣の一撃を槍の柄を用いていなす。

 

天使は二メートルを超える巨体を持ち、補助魔法で攻撃力さえ上がっている。

 

まともに打ち合えば力負けするため、相手の斬撃の勢いを反らす守りに徹する。

 

また重装鎧による斬撃を受け止める防御もあり、有効打は貫通力の高い刺突のみ。

 

「どうした天使様!小さい娘一人に大の大人が大勢で攻めてくるのがあんたらの教義か!」

 

踏み込み斬りを放つ斬撃を避け、相手の両ふくらはぎを柄で打ち転がせ、槍を頭上で回転させた勢いで袈裟斬りを放ち斬撃を弾き落とし、大きく旋回し槍を周囲に振り回し相手を近寄らせない。

 

「小娘一人に何をしている!!」

 

「私がやる!!」

 

激昂した相手の逆袈裟斬りを身を低めた回転ステップで避け、背後から同時に切り込んで来ていた天使が避けた相手とぶつかり、重なった胴体を槍の刺突で串刺しにして消滅させる。

 

「大勢でよってたかって悪者レッテル貼りつけた奴を殺す!正義ってのはそんな狡いもんかよ?」

 

両手に持った槍の柄を首の後ろで持ち、堂々とした姿で天使の正義になど屈しないと歩き進む。

 

「やれぇ!!」

 

複数で切り込む相手を上体の回避運動だけで避けステップを刻み歩き抜け、振り向き攻めてくる相手の唐竹割りを首で避け柄で受け止めた勢いのまま身体を一回転させ相手を後方に振り抜けさせる。

 

なお攻めてくる相手の袈裟斬りを身を引くめ避けると同時に柄を振り胴に一撃、横の相手の一撃を柄で受け流し即相手の足を柄で弾き転がし、背後から切り込む相手の首に槍の一撃を叩き込み勢いのまま転がった相手に倒し込み、背中から串刺しにして消滅させた。

 

「異端者がぁぁーーーー!!!」

 

翼を羽ばたかせ急降下一撃を放つ空からの急襲、咄嗟に柄の両手持ちで受け止めた。

 

攻撃力が上がった威力もあり、地面に亀裂が入る程の威力、鍔迫り合いでは負ける。

 

押し負けまいとした必死の表情の小娘に対し、天使は裏切り者を罵倒する言葉を放つ。

 

「知っているぞ!貴様の一家は私達と同じ父なる神を崇拝していた筈!なのに何故裏切った!?」

 

「五月蝿ぇ!!あたしだって裏切りたかったわけじゃねぇ!!」

 

「父親が異端の道を進むなら何故神の信徒である貴様は止めなかったのだ!?誑かされた者め!」

 

「違う!!あたしは父さんの道を信じたかっただけ・・・」

 

「主なる神の言葉を捨て、人間の言葉で救世を行おう等とは!!この背信の裏切り者がぁ!!」

 

杏子の脳裏に、かつて主なる神の信徒であった教会信者達から言われた罵倒の言葉が蘇る。

 

―――裏切り者め!!もうお前はキリスト教徒として終わりを迎えたぞ!!

 

あの時の小学生時代の彼女の姿は、仲良くしてくれた周りの大人達が掌を返すように激怒する光景が恐ろしくて震える事しか出来なかった。

 

小学生時代のトラウマに蝕まれ、身体が震え力が入らなくなり鍔迫り合いが押し切られる。

 

「佐倉さん!!!」

 

乱戦の中で地面を這うようにリボンが伸び、パワーの足に絡みつき引き倒され、咄嗟に我に帰った杏子は地面に倒れた相手を串刺しにして消滅させる。

 

跳躍して援護に駆けつけたマミは杏子の背中に着地して背を向け合い天使と対峙。

 

「悪いマミ・・・昔の記憶に囚われて死にかけたぜ・・・・」

 

「この天使の姿をした悪魔は、もしかして佐倉さんの教会の・・・?」

 

「あたしの教会にかつてあったステンドグラスの窓にも描かれていた、本物のヘブライ天使達さ。あたしや妹も昔は大好きで、うちの家の自慢の光景だった・・・」

 

「元キリスト教徒の佐倉さんが本物の天使と殺し合うだなんて・・・酷い運命ね」

 

「言うなよマミ、過ぎたことさ。それにあたしは・・・この裏切りの罪から逃げる気はねぇ」

 

「貴女は死なせないわ。貴女の家族を見捨てた私だって咎人なのだから」

 

対峙したパワー達が剣を天にかざし、魔法を放つ構え。

 

「佐倉さんまで死なせたら私は・・・貴女の最後の家族に顔向け出来ないから!!」

 

「滅びよ悪しき魔女となる者達よ!!Amen!!」

 

大地を踏み込み、二人は一気に前方に跳躍移動。

 

別れた二人の場所を破魔を司る光の書物の紙が多い尽くし、悪しき存在を浄化の光を用いて消滅させる『ハマオン』の一撃を回避。

 

人間であれば浄化の光は通じないが、人間ではない悪魔や魔法少女達なら即死していただろう。

 

パワー達の斬撃を身を低めステップを踏みながら避け、側転で左斬り上げを避けると同時に大きく跳躍。

 

「私達を魔女という聞いた事もない言葉で言わないで!私達は希望を振りまく魔法少女よ!!」

 

上空から右手で放たれるリボンが螺旋を描き砲身となる。

 

周囲にもマスケット銃が生み出され、大砲の榴弾と共に一斉発射。

 

地上のパワー達は大盾を上空に構え擲弾を受け止める構え。

 

無数の魔弾は大盾の隙間を縫うように地面に撃ち込まれていく。

 

大盾で榴弾を受け止めた瞬間だった。

 

「な・・・煙幕だとっ!?」

 

放たれた発煙弾の中身が乱戦の戦場を一気に覆い、視界が悪くなりパワーの命中率と回避力を大幅に阻害する。

 

「視界に頼るな!邪悪な魔女の魔力を追え!!」

 

「私なら、ここよ」

 

周りの天使達は気がついていない、地面に撃ち込まれた弾からリボンが生まれ足に絡みつき、視界が悪いこの空間内でマミにはっきりと位置が分かる魔力のマーキングが施されてしまった事を。

 

濃霧のように広がる白煙世界の中、拳銃サイズの二丁マスケット銃を顔の前でクロスした構え。

 

左右の天使の頭部に発射し撃ち殺す、投げ捨て新たなリボン二丁拳銃による射撃。

 

逆袈裟斬りに踏み込み右手の銃床で手首を打ち付け払い、左手の銃で頭部を撃ち抜き、右の銃で前の天使の頭部を撃ち抜く。

 

左薙を身を引くめ掻い潜り回転と同時に背中に蹴りを入れ、左右から迫る天使を相手に両手クロス射撃、左右天使の頭部を撃ち抜く。

 

「魔弾の射手めぇーーー!!」

 

背後から二体のパワーが同時に袈裟斬り、逆袈裟斬りを仕掛ける。

 

鈍化した世界、2丁拳銃を指で回転させながら背を向けしゃがむ。

 

グリップを握り込んだ瞬間、2丁拳銃を頭上に撃つ、深く斬り込んだ体勢の両天使の下顎が撃ち抜かれて消滅した。

 

「佐倉さんは私が必ず守る・・・だから暁美さんも生き残って!!」

 

二人の仲間は激戦を繰り広げていく。

 

頼れる仲間だからこそ信じたい、死を乗り越える希望をほむらは見せてくれるのだと。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

赤き渓谷の谷を駆け抜けるレッドライダーを空から追撃し続ける。

 

上空からの弓矢の速射も大剣で弾き落とされ続け、有効打は与えられず。

 

「フン、姑息ナ戦法ジャ。ワシニ近寄ラレルノハ恐ロシイカ?弓兵ノ嬢チャン」

 

戦争を司る騎士として望むは、戦場の花形たる一騎打ち。

 

「下ニ降リル気ガ無イトイウナラバ、叩キ落トスマデヨ」

 

前方の傾斜が激しい崖の斜面を赤き馬は跳躍し、岩場を跳ねながら上を目指す。

 

頂上まで辿り着いたレッドライダーは空のほむらに向き直り、天に大剣をかざす。

 

「何をするつもり!?」

 

赤き豪雷が渦巻く空から豪雷が大剣に落ちる。

 

豪雷を纏った大剣から放射される雷魔法は人修羅も東京で使った事がある『ショックウェーブ』

 

レッドライダーが放つこの一撃も手加減抜き、威力はかつて東京で見せた悪魔の比ではない。

 

「あああああ!!!」

 

地上から放たれた放電の一撃は空中で拡散しスパーク現象を空で発生させ、ほむらは放電空間に巻き込まれ全身が感電。

 

地上に叩きつけられたほむらは雷特有の熱傷により全身を焼かれ、シダの葉模様の電紋が身体中に走った重傷。

 

だが、それよりも落雷によって死に至らしめる原因は心肺停止。

 

「くっ・・・・・うぅ・・・・・!!」

 

彼女の心臓も心肺停止状態だが、魔法少女にとって肉体は外付けハードディスク。

 

魔力で操る肉人形ゆえに、本体のソウルジェムさえ無事なら死を受け入れて絶望死しない限りは魔力で死んでいる肉体を動かせる。

 

しかし生命停止を魔力で動かす分、魔力消費は一気に高まり早く身体を回復魔法で蘇生措置させて通常魔力消費状態に戻さなければソウルジェムの魔力がもたないし、死んだ身体も腐る。

 

「ホッホッ!死ンデオイテマダ動クカ!!魔法少女トイウ存在ハ、ツクヅク生ケル屍ヨ!!」

 

頂上から駆け下り、一騎打ちをせんとレッドライダーは大剣を振り上げ迫りくる。

 

「くっ!!身体を動かす魔力消費が激しい!大魔法行使をする余裕がない!!」

 

片膝立ちで自動小銃を構え、迎え撃とうとした時には既に大剣の間合い。

 

袈裟斬りによって銃身が切断され、なお追撃の逆袈裟斬り。

 

銃から手を放し地面に転がっていた弓を右手で拾い上げ、逆袈裟斬りを受け流す。

 

走り抜ける赤き馬に振り向くほむらの体勢は、既にガンベルトに吊った左のホルスターから新たに選んだ拳銃を抜き終え、赤き馬の後ろに構えていた。

 

「ヌゥ!!?」

 

突然叫び声を上げ、痛みに藻掻くように暴れまくる赤き馬。

 

左後ろ足の外もも肉が散弾でえぐられ、深い傷をすれ違いの瞬間に与えていたのだ。

 

彼女が左手で構えた拳銃はトーラス・ジャッジと呼ばれるショットシェルを撃てるリボルバー銃。

 

「貴様・・・ヨクモワシノ愛馬ヲ傷物ニ!!」

 

「これでも喰らいなさい!!」

 

腰のポーチから取り出した物のピンを抜き、レッドライダーに向け投げる。

 

レッドライダーの眼前でM84スタン・グレネードが炸裂して閃光と轟音が一気に起爆。

 

目が眩み、耳が難聴になった魔人は、見えない視界のまま相手の魔力を探ると、重たい身体を引きずるように渓谷の奥に逃げている獲物の気配が分かる。

 

「アノ身体デハ、ソウ遠クニハ逃ゲレンノォ」

 

目と耳が回復したレッドライダーは獲物にトドメを刺すため赤き馬を走らせるが、全開の速度とは程遠い。

 

「追いつかれる前に罠を貼らないと・・・まだ持ちこたえて私の身体!」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「おりゃぁーーーーー!!!」

 

槍の鎖で身体を巻き取ったパワーを左薙で振り抜き、迫ってくる別のパワーにぶつける。

 

「ハァ・・・ハァ・・・数が多すぎる・・・・」

 

杏子の身体も剣撃の傷を受け、衣服もズタボロで血を流す。

 

遠くのマミも既に杏子と同じく疲れが見え始め、二人の動きも悪くなり最初の勢いは既に無い。

 

「正義の刃に倒れるが良い裏切り者めぇー!!」

 

迫りくる二体、右手で槍を振り回し演舞のように回転させ、身体を捻りこみ放つ唐竹割りの一撃で敵を分断。

 

槍で大きく左薙を放つ、避ける相手は迫る槍の一撃で体勢を崩し、勢いのまま袈裟斬りを放ち片側の相手を寄せ付けない。

 

「少しは休ませてくれよ!!」

 

なお攻め立てる片側の相手の腹に蹴りを入れ、兜の側面に槍の一撃、起き上がる相手の袈裟斬りを大上段の構えで受け止め、槍で絡め取るように巻き込み払い、柄を短く持ちトドメの刺突。

 

「異端者如きに!!主なる神の軍勢たる我らが負けるわけにはいかん!!」

 

兜がヘコんだパワーは両手の剣と盾を捨て、地面に転がった天使の槍を拾い上げ突きを放つ。

 

両手持ちの槍で刺突を柄で受け止め、相手の刃を地面に押し付けるように薙ぎ払い抑え込む。

 

互いの身体もぶつかり合い力比べの状態、なお負けを認めぬ相手に対し天使は疑問を問いかけた。

 

「何故主なる神の教えに背いた!?お前達一家はあれ程まで信仰心の厚い者達であったのに!」

 

「へへ・・・天使様は神の家を見守ってくれてたのかよ?有り難いけど、人間は天使様が考えているよりも想像力豊かで、思い上がるのかもしれないよな」

 

「想像力だと!?」

 

「夢を持つってやつさ。与えられた教義に束縛されず、別の可能性を考えて道を求める・・・」

 

「別の可能性・・・・?」

 

「自分の思うままに振る舞い、他者の心に目を向け慈しむ道・・・それは別に歴史ある宗教でなくたっていい・・・自由な教義を目指したって良い」

 

「そんな事のために主なる神の教えに背いたというのか!?」

 

「いけないかい?自分の心よりも大事なモンってあるのかよ・・・?我慢しても後悔するだけさ」

 

対峙する二人の横の地面では、腹部を刺された先程の天使。

 

倒れた身体の右手で地面を探り、武器を拾い上げる。

 

「天使様から見たら我儘な愚か者だろうが、あたしはそんな愚かな父さんの、子供のように夢を追いかける純粋な姿も好きだった」

 

その言葉を言い終えた瞬間だった・・・。

 

「ガッ・・・・・・!?」

 

腹部を大きく背後から貫いた天使の槍。

 

地面には先程の天使が右手で槍を持ち、最後の一撃とばかりに裏切り者に放つ刺突の一撃。

 

「佐倉さんっ!!!!」

 

遠く離れたマミは乱戦の隙間からその光景を鈍化した世界で見てしまい、絶叫した。

 

槍を握る手の力も無くなり、ゆっくりと地面に倒れ込む。

 

対峙していた天使は槍の刃を下に向け、柄を両手で力強く持ち振り上げる。

 

「私にはお前の気持ちは分からない。もし理解出来たなら・・・きっと私も堕天していた」

 

無慈悲なるトドメの一撃が杏子の心臓をえぐり、槍は身体を貫き地面に深く食い込んだ。

 

「いやぁぁぁーーーーーーーーーッッ!!!!!」

 

守ると誓ったばかりの仲間の元に駆ける。

 

過ちは繰り返さないと誓った筈なのに、その想いは儚く消されていく。

 

「自由な選択ってのは・・・ゴハッ!・・・大きな責任が・・・伴うよな・・・・・」

 

胸元に輝く濁ったソウルジェム、最後の力で右手で握り込む。

 

「マミ・・・ほむら・・・過去があたしの人生を・・・裁きに来たんだ・・・背負うよ・・・」

 

この魔法はかつての世界で用いた、救えなかった大切な人と共に世界へ別れを告げる一撃。

 

「駄目ぇぇーーーーーーーーー!!!!!」

 

薄れゆく意識の中、ぼやけた姿で遠くから近づいて来ている恩師に微笑む。

 

―――ごめんな・・・マミ。

 

マミの眼前でそれは起こる。

 

魔法少女の魂を燃やし尽くす・・・全てを焼き払う贖罪の炎。

 

自らの死という犠牲を払って全人類を神に対する罪の状態からあがなった・・・イエスの道。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

切り立った渓谷の崖の下に続く道を崖に沿って進む赤き馬。

 

傷が深く息も荒い、既に速歩き程度の速度にまで落ちている。

 

これでは空を駆け巡る余力も無いだろう。

 

道の奥の岩場の影、敵が渓谷にかかる巨大なアーチ岩の下を潜るのを待ち構えるほむら。

 

グリーフキューブで魔力を回復させた後、胸に手を当て回復魔法をかけ続け自分の身体の蘇生措置を施し続ける。

 

「お願い・・・動いて私の心臓・・・!!」

 

既に人間ならば心臓から血を送られず脳死している時間が経過している。

 

それでも諦めず回復魔法をかけ続けると、胸の中で小さく高鳴りを始めてくれた心臓。

 

しかしほむらの身体は血を送られない時間が長く過ぎたため、心臓から遠い距離の手足は既に黒ずんできていた。

 

自分の身体の最低限の処置を施したほむらは、アーチ岩の方に振り向く。

 

右手には起爆用のリモコン、既に指がスイッチにかけられている。

 

時間にしてあと数秒、レッドライダーが巨大アーチ岩の下に入り込んだ瞬間、ボタンは押された。

 

アーチ岩を支える部位に仕掛けられたプラスチック爆弾(C4)の雷管が点火され一気に起爆、両端が崩れ、屋根を構築していた巨大岩が下に落下。

 

「隠レタ小娘ヨ、見ルガ良イ。コレガ・・・一刀両断ヨ」

 

鈍化した世界、上に掲げた大剣の刀身に風が集まり収束していく。

 

嵐の力を宿した大剣が振り下ろされる。

 

刃から発せられた『真空刃』の一撃が直上から迫る巨大岩を両断し、岩はレッドライダーの両端に分かれるように落ち砕ける。

 

真空刃の威力は留まらず前方の渓谷さえも縦に両断していった。

 

だがそれは囮の一撃。

 

「かかったわね」

 

レッドライダーの近くにある茂みに置かれたほむらが自作した大きなIED(即席爆発装置)。

 

100ポンド(45キロ)の火薬が詰め込まれた簡易手製爆弾の時限装置の設定時間が合わさる。

 

「オオオッ!?」

 

大爆発が起き、爆発の爆風を岩場に隠れてやり過ごす。

 

バックパックの中身を全て使い切った連続攻撃ではあるが・・・。

 

「クッ・・・不意打チモマタ戦場ニハツキモノヨ・・・・」

 

咄嗟に馬から飛び降り馬を盾にして爆発から逃れたレッドライダー。

 

赤き馬は絶命し、淡い深碧色の感情エネルギーたるマグネタイトと化す。

 

「ワシノ愛馬ヲ死ナセタ罪ハ高クツクゾ・・・切リ刻ンデクレルワ」

 

既に居場所は気が付かれている、ほむらは岩場から飛び出し弓を構えようとするが、既に大剣の間合いにまで踏み込まれていた。

 

「くっ!!」

 

矢を撃つのを諦め、大剣の逆袈裟斬りを左手の弓で払い、即座に右のホルスターからコルト・パイソンを抜く。

 

肘を曲げた状態で撃つリコイルの反動を肘で受け止めるリボルバー銃独特の早撃ち射撃。

 

しかしレッドライダーの黒衣の下は鎧、髑髏顔が剥き出しの頭部ならまだしも胴体の鎧はマグナム弾でも撃ち抜けない。

 

「チャチナ小物デワシガ倒セルモノカ!!」

 

右肩の体当たりでほむらを突き飛ばし、倒れ込んだ相手に跳躍して大剣を叩きつけるが、転がりながら射撃を仕掛ける相手の弾を全て大剣で弾き落とした。

 

立ち上がり銃を構えるほむらだが・・・。

 

「剣士ト切リ合ウ技量モ無イオ主デハ勝テンヨ!」

 

左切上の一閃、宙を舞うほむらの銃を握ったままの右手首。

 

「トドメジャッ!!!」

 

左切上から霞の構え、そして一気に刺突を腹部に仕掛けほむらを突き刺す。

 

「ぐッッ!!!」

 

レッドライダーの刺突突進は止まらず、後ろの岩にぶつかり岩ごと串刺しとなった。

 

「ヨクヤッタノォ、生ケル屍ノ如キオ嬢チャン共ニシテハ、楽シメタワ」

 

このまま真上に切り上げ上半身を真っ二つかと思われたが・・・。

 

「・・・・・この時を、待ってたわ」

 

弓を手放した左手で刀身を強く掴み、赤黒い血が滴り落ちる。

 

「接近戦を得意とする魔法少女ではない私が剣豪のようなお前に勝つには、捨て身しかない」

 

「貴様・・・・・マサカ!?」

 

ほむらの背中から吹き上がったのは、世界を侵食する黒き翼。

 

大剣を引き抜こうとするが、ほむらの背後の岩に刀身は深く突き刺さっている。

 

「・・・・・終わりよ」

 

「オオオォォォォォ!!!!」

 

黒き翼の侵食領域に飲み込まれたレッドライダーと大剣が消滅していく。

 

どす黒い侵食領域が消えていく中、ほむらは両膝から崩れ落ち倒れ込む。

 

倒れ込んだほむらの視界に映るのは、首だけ残ったレッドライダーの頭部だけであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「・・・魔人ヲ退ケルトハ・・・流石トシカ言エンノォ・・・」

 

頭部だけとなっているが、レッドライダーにはまだ息がある。

 

残った左手で左ホルスターから銃を抜く。

 

「ヨセ・・・勝負ハツイタ。モハヤワシハ滅ブノミヨ・・・・」

 

「死ぬ前に約束を果たして。お前達悪魔がこの世に現界出来る方法を教えなさい」

 

「良カロウ・・・ワシラ概念存在ノ受肉スル現界方法ノ要ハ、魔法少女ヤ人間ガモタラス・・・感情エネルギーナノジャ」

 

「私達のソウルジェムから生み出されてきた感情エネルギーですって!?」

 

「ワシラハソレヲ、生体マグネタイト、アルイハ、マガツヒト呼ブ・・・」

 

「マグネタイト・・・マガツヒ・・・そんな呼ばれ方もあったのね」

 

「強キ神ヤ悪魔ヲ召喚スルニハ、莫大ナ量ノマグネタイトヤマガツヒガ必要トナル。円環ノコトワリトナッタ娘モマタ、死ヌ間際ニ莫大ナマガツヒヲ生ミ出シ、コトワリノ神ヲ召喚シタ」

 

「コトワリの神の召喚ですって・・・?まどかがコトワリの神じゃないの?」

 

「アノ小娘ハ、守護ヲ降ロシタ。召喚サレタコトワリノ神ト融合シ、円環ノコトワリトナッタ」

 

「そんな・・・それじゃあ、まどかの内側にはまた別の神が宿っているわけ!?」

 

「ワシラ魔人達モマタ、閣下ガ人為的ニ生ミ出シタ莫大ナ感情エネルギーヲ触媒ニシ現界シタ」

 

「人為的に感情エネルギーを生み出す・・・?」

 

「生贄ジャヨ・・・オ前達魔法少女ハ、悪魔ノ生贄トナルノジャ。ソレハ世界中ノ国家デ起コル」

 

「私達魔法少女が・・・悪魔の生贄ですって・・・!?」

 

「ムロン、コノ国ニモ魔法少女ヲ生贄ニスルタメノ施設ガ複数アル。生贄施設ガ無イ国ハ片手デ数エラレル」

 

「世界規模の魔法少女の生贄施設・・・感情エネルギーの搾取・・・・・」

 

「全テハ、終ノ決戦ノ為・・・モウ直グソコマデ迫ッテ・・・オル・・・」

 

「待ちなさい!!まどかの内側に宿った神とは何者なの!?世界の未来に何が起こるの!?」

 

「フフフ・・・急グノジャ若人・・・。大規模ナ戦争ガ、始マロウトシテイルゾ・・・」

 

その一言を最後に、レッドライダーの身体を構成する感情エネルギーが爆発。

 

淡い深碧色の感情エネルギーたるマグネタイトが空にバラ撒かれ、レッドライダーの頭部も消えた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

魔人の結界が晴れ、元の世界に帰ってこれたが・・・広がる光景は地獄。

 

人々の泣き叫ぶ声が響く、火災まで巻き起こり崩壊していく見滝原商業区内。

 

「くっ・・・・うぅ・・・・・!!」

 

切り落とされた右手、刺し貫かれた腹部から大量に出血しながらほむらはゆっくり立ち上がる。

 

近くに巴マミの魔力も感じるが・・・杏子の魔力が感じられない。

 

足を引きずりながら煙と炎に包まれた街を歩き、マミの元に向かっていく。

 

路地裏にいた膝を抱えて丸くなり泣きじゃくる、かつて憧れた魔法少女の変わり果てた姿。

 

「巴・・・・さん・・・・?杏子は・・・・何処?」

 

「グスッ・・・エッグ・・・ごめんなさい・・・・ごめんなさいぃぃ・・・・」

 

狼狽した恩師の姿を見て、杏子がどうなってしまったのかを察した。

 

あの自爆魔法の一瞬、マミはリボンで咄嗟に防御結界を張ったが、それでも全身傷塗れ。

 

傷だらけの二人に声をかける者達はいない、皆パニックになり外では逃げ惑うばかり。

 

「私は駄目な魔法少女よぉ・・・過ちばかり繰り返す・・・何も学ばない駄目な女なのよ!」

 

「落ち着いて巴さん!貴女のせいじゃないわ!!」

 

「佐倉さんを守るって約束したわ!!なのに守れない・・・私は佐倉さんの最後の家族の尚紀さんに・・・どうやって顔向けしたら良いのよ!」

 

錯乱して容量を得ない事ばかりを叫ぶ『混乱』に包まれたマミの姿を見ていると心がえぐられる。

 

泣きじゃくるばかりのマミに右手を失った右腕で肩を貸してあげ、抱き起こす。

 

地獄に包まれた街を足を引きずりながら歩く二人、だがほむらも既に限界が近い。

 

「暁美さん・・・貴女まで死ぬの・・・?私を置いて死んじゃうの?・・・独りにしないで!」

 

「死んでたまるもんですか・・・私にはまだ・・・やらなきゃならない使命が・・・」

 

流血は止まらない、既に体中が冷たくなり、もはや死体も同然の姿。

 

ついには人気のない場所で力尽きてしまい、マミの前で倒れ込んでしまう。

 

「暁美さん!!?いやぁぁぁーーーーーーーーー!!!誰か助けてぇーーー!!!」

 

「私・・・まだ・・・・死にたくない・・・・・」

 

回復魔法をかける魔力の余力も無いマミは助けを叫ぶばかりだが、周りの人間達も同じ状況。

 

(逃れられないの・・・・私の死からは・・・・・?)

 

目を開ける力も無くなっていき、周りの音も遠くなっていく。

 

ついに観念してしまったほむらだったが、不意に傷が開いた腹部に暖かさを感じた。

 

「しっかりしなさい暁美ほむら!!貴女はこんなところで死にたくないんでしょ!?」

 

(この・・・・声は・・・・?)

 

忘れもしない、憎い敵の一人だった魔法少女の声。

 

「美国織莉子・・・・・・?」

 

懸命に自身の身体に回復魔法をかけ続けてくれているのは織莉子とキリカ。

 

「お願い美国さん!!呉さん!!暁美さんを死なせないでぇ!独りぼっちは嫌ぁ!!」

 

「落ち着きなさいよ巴!!あんただって全身傷だらけなのよ!!」

 

隣のマミも小巻に回復魔法をかけて貰っている。

 

見滝原市に存在するもう一組の魔法少女達がこの商業区の混乱に駆けつけてくれたようだ。

 

「美国織莉子・・・呉キリカ・・・私は、貴女達を・・・・・」

 

「何も言わないで暁美ほむら!今は自分の生命が助かる事だけ考えて!!」

 

「織莉子!この子の出血が酷すぎる・・・・これじゃもう!」

 

「諦めないでキリカ!魔法少女は希望を叶える存在でしょ!奇跡を信じて!!」

 

(どうして・・・私なんかのために・・・私は貴女達を殺し続けたはずなのに・・・)

 

・・・今になってようやく分かった。

 

まどかが自分を犠牲にして残したこの世界は、魔法少女達が手を取り合って助け合う事が出来る可能性を持つ世界なのだと。

 

(あの子の死が・・・魔法少女達に希望を与える世界を作ったのね・・・・)

 

自分達にとってどれだけ尊い犠牲だったのかを痛感し、両目から涙が溢れ出た。

 

もうこの世界に、ほむらが敵と憎む魔法少女達はいない。

 

「ごめんなさい・・・・ごめんなさい・・・・美国さん・・・・」

 

「良いのよ・・・暁美さん。私もキリカも気にしてはいないから」

 

心の中で力の限り叫びたい、ありがとうと。

 

まどかが残してくれた希望の暖かさによって救われる魔法少女達の絆の世界。

 

息を持ち直したほむらは、まどかの尊い死を儚く想いながら、その眼を閉じていき気を失った。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

ここは、記憶の回廊。

 

メノラーの明かりもまた一つ増え、暗闇を照らす光量も増す。

 

死を乗り越えても、また次の死が襲いかかる逃れられない7つの試練。

 

知るための道、その度に仲間の死をもたらす結果を招いてしまうかもしれない。

 

ほむらは迷っていた。

 

本当に・・・マミと杏子を、魔人との戦いに巻き込んで良いのだろうかと。




折角のメガテンクロスオーバーなので、キリスト教の教会娘だった杏子ちゃんの業を煮詰める形で描いてしまい、調子こいて長々と書いてしまった。
メガテンバッドステータスの混乱を撒くレッドライダーをそのまま書くと、突然杏子ちゃんがお金ばら撒いたり、マミさんが意味不明なティロ・フィナーレ教義を喚き散らすギャグにしかならんので話の調整に苦労した。

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