人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
暗い景色と暗い夜空、そして赤き月に照らされているのは無数に咲く彼岸花の数々。
ほむらが立っている場所とは、はたして悪夢の世界か?死した者達が立つ場所か?
<<ここは…?私…死んだの…?>>
喋る声として空気を振動させる音を出すことは出来ない。
まるでかつてのボルテクスで存在した思念体であり、強き感情によって世界に引き留められる。
そこにいて、そこにはいない霊的存在となったのだ。
<<何処なのここ…?何処かの…川辺…?>>
彼岸花で埋め尽くされた河原を歩きながら川辺の端に向かう。
彼岸花は毒性を持つが触れても害はないし、それに今の彼女の体では触れる事すら出来ない。
川の前に立ち、広大な川の向こう側を見るが地平線の彼方にまで広がっているようだ。
<<まるで三途の川ね…。私も渡らないといけないの…?>>
自分はホワイトライダーに殺されたのだと考えていき、握った拳を震わせていく。
<<私は魔法少女の使命も果たせないまま死んだ…まどかに合わせる顔も無いわ…>>
まどかと笑顔で迎える再会、それは魔獣達との戦いの果てに力尽き、円環に導かれること。
そう信じていた彼女にとって、魔法少女の使命と関係ない戦いで命を落とす結果となる。
そんな末路では大切な親友が笑顔で迎えに来てくれるか分からなくなってしまう。
<<死ねない……私……まだ死にたくない……!!>>
両膝が崩れて地面に跪き、戦いの果ての結末に対して嘆き崩れる姿を晒す。
そんな時、三途の川なのか嘆きの川なのかも不明な広大な川の上流から明かりが近づいてくる。
その明かりを見つけた彼女は涙を拭いながら立ち上がっていく。
<<まどか……?私を……迎えに来てくれたの?>>
川舟の腰当に明かりのランタンを置き、櫂を使って推進させる者が一人見えてくる。
川岸にいる人物の存在に気がつき、船の櫂を操りながら川岸にまで舟を接岸させたようだ。
<<まどか…?……いいえ、違うわ……貴方は誰?>>
白い修道服のようなボロボロの衣装を身に纏い、フードを被る人物が声をかけてくる。
身長からしてまどかのような少女ではなく、男性と思える見た目のため不安が募ってくる。
「迷える魂よ。ここはまだ、汝が来るべき場所ではない」
右手でフードを後ろに下ろした存在が素顔を見せてくれる。
白髪で覆われた長髪、顔つきも痩せ細り、人の死を意識させる老人であったようだ。
「私の名はカロン。三途の川であり、嘆きの川とも呼ばれる冥界へと続く道の渡し守だ」
名乗りを上げたその名を聞いたほむらは再び絶望するしかないだろう。
その名はあまりにも有名であり、冥界の神ハデスの元に人の魂を導く者の名であった。
【カロン】
ギリシャ神話における冥府の川アケローンの渡し守である。
暗闇の深淵エレボスと夜の女神ニュクスの子であり、彼も神々の系譜であろう。
死者が冥界に行くにはカロンに船賃として銅貨1枚を渡すと信仰されているようだ。
そのためギリシャの遺跡からは口に銅貨を含ませた亡骸が見つかる事もあるという。
死者が無事に冥府へ行けるようにとの慣習が太古にはあったようだ。
<<私は円環に導かれる事も出来ずに…人間と同じ死に方を…させられるわけなの!?>>
「慌てるな、小娘。汝はまだ、死んではおらんよ」
<<……えっ?>>
「だが死を意識するあまり魂が冥府に流れ着こうとし、死の概念に囚われてここに辿り着いた」
<<私が……死を意識し過ぎたせいで……ここに辿り着いたの……?>>
「その通り。ここの景色も汝が想像していた概念景色が反映されておる」
<<それじゃあ…私はまだ…生きてるのね…?>>
「だが死に囚われた魂のままでは…汝はこのままここに取り残された末に魂の死を迎える」
<<そんなっ!?私…まだ死にたくないのに!!>>
「汝は…本当に生きたい者なのか?」
<<どういう意味よ…それ…?>>
「ここに囚われる者はあの世に逝った者達と会いたいがあまり…自殺して流れ着いた者が多い」
<<それは…その…>>
「汝は生きたいのではない、
<<私は魔法少女よ!戦いの果てに死に、円環のコトワリに導かれる運命を背負ってるわ!>>
「汝は魔法少女であったか?しかし魔法少女も心は人間…使命と心中したい者などいなかろう」
<<私の事を…頭のおかしい魔法少女だとでも言いたいわけ!?>>
「上流から流れてくる者達を見よ…汝のように身勝手に死に急いだ哀れな者達の魂の灯りをな」
そう言われたほむらは川の上流から流れてくる灯りに視線を向ける。
それはまるで灯篭流しのような明かりを灯し、下流の先へと流れていく。
「あの魂も…汝と同じ末路となった者達なのだ」
家族に先立たれた者、愛する人に先立たれた者、有名人の自殺に耐えられず後を追った者。
そんな者達が命を身勝手に投げ捨てた末にほむらと同じくここに流れ着いたと聞かされる。
<<魔法少女と人間を同じにしないで!>>
「ほう?どこが違うというのだ?」
<<私は優しい日常の世界でさえ耐えられなかった心の弱い人間という存在ではないわ!!>>
「死者の
厳しい目を向けられた事で押し黙ったほむらに対し、淡々とした口調で客観的意見を述べる。
「汝は魔法少女である事で人間以上の存在となった故に…心まで生ける屍となったのかね?」
<<ち……違うわ……!!>>
「魔法少女だから特別?運命を背負うあまり無意識に人間を差別するのだな?何も違わないさ」
<<魔法少女も人間も…何も変わらないと言いたいの…?>>
「私は迷える魂に対していちいち未練を聞きはしないが…汝は特別だ。誰を亡くした?」
そう質問されたほむらは思念体姿のまま顔を俯けていき、か細い念話を返してくれる。
<<私の最高の友達……鹿目まどかよ……>>
「言ったであろう?その心の苦しみこそまさに人間と同じ苦しみだ」
<<会いたい…まどかに…彼女に…会いたいの…>>
「死者は生者に答えないし、それは神とて同じ。円環のコトワリとして転生したあの娘か?」
<<まどかを知っているの…?>>
「本当にその娘が汝の死を望んでいると思うのか?死者が望むのは生ある者達の幸のみよ」
<<まどかは円環のコトワリとして使命の果てに死んだ魔法少女を円環に導いてきたわ!>>
魔法少女の死に際に現れるという円環のコトワリに対して酷い偏見的感情を爆発させていく。
まどかは導く者として魔法少女達に対して死を望んでいる存在なのだと曲解してくるようだ。
「まるで先に導かれた者達への
<<な…なんですって!?私が…ヤキモチを拗らせた女なのだと侮辱する気なの!?>>
「汝は親しき者に会いたい理由を魔法少女の運命に紐付けして望む…身勝手な
<<偉そうに説教して論破する気なの!?>>
「説教?論破?つくづく身勝手な奴だな?」
自分の悪い部分を指摘されたら相手を印象操作し始める言葉を吐く。
さも相手のみ悪い、私は悪くないと周りにアピールする。
善人であろうと都合が悪くなればこんな態度を繰り返すのは
<<事実じゃない!!>>
「それは都合が悪いから汝が身勝手にそう思い込んでいるだけだ、説教する気は無い」
<<私には説教にしか聞こえないわよ!!>>
「人は悪者にされたくないと考え、都合のいい言葉だけ拾う。違う考えを拒絶する
<<何が言いたいの…?>>
「魔法少女もそんな愚かな人間に過ぎないのだ」
人間だからこそ身勝手ではあるが、死者にとっては得難い生の喜びも得られると伝えてくれる。
<<生の…喜び…?>>
「汝には誰もいなかったのか?共に過ごしてみたいと思える程の…大切な人達が?」
<<大切な人…?共に過ごしたいと思える程の…>>
記憶に浮かぶ人々は共に戦う魔法少女の仲間達の姿のみ。
養ってくれた
「会いたいと思う感情は生ある者に向けよ。未来を夢見る気持ちこそ…魂を開放する鍵だ」
<<まどかがいない世界で…他の誰かと共に生きる未来を夢見る…?>>
目を閉じながら大切な仲間達と共に過ごす未来を夢見る。
魂に温もりを感じていき、徐々にではあるが思念体の姿が消えようとしていく。
「ここまで助言した迷える魂も珍しい。
彼岸の淵に流れ着いた者をカロンは黙って見送ってくれる。
「この彼岸は魔界への入り口前でもある…魔なる者達の領域なのだから…もう来るでないぞ」
川舟を櫂で押し出したカロンは渡し守としての役目に戻っていく。
渡し守として
――――――――――――――――――――――――――――――――
「……はっ!?」
気がつけばまた暗闇の空間であり、それでもメノラーの明かりが増したお陰で明るく見える。
「死後の世界の次は悪夢なの…?何処までも私は…振り回される女なのね…」
右手に握るメノラーの灯りを見つめたまま意識は彼岸の淵を彷徨っていたようだ。
顔にかけられた眼鏡を通して見つめる灯りから目を離し、周りの空間を確認する。
ゴシック様式で作られた何処かの礼拝堂のように思える奥まった閉鎖的空間をしている。
背後を振り返ると礼拝堂の奥には嵌め込まれた巨大なステンドグラス。
メノラーの灯りに照らされた色鮮やかな白や赤紫といった色で見る者を癒やす。
そのステンドグラスに描かれた人物像を見たほむらの両目が見開いていく。
「まど……か?」
まるで女神の宗教画のように美しく描かれていたのは魔法少女達の救い神。
そして自分を残して高次元領域に消えてしまった身勝手過ぎる最高の友達でもある。
「まどか…まどか…どうして…どうして逝ったの?私そんなの…望んでなかった!!」
ステンドグラスに左手を優しく添えながら縋り付くようにしながら膝を崩して跪く。
死した者は生ある者には何も語らない。
――
優しい声が聞こえないから溢れ出る感情の色が抑えられない。
――
この感情こそ愚かな人間である証拠。
そこから生み出される
耳をすませば暗闇の空間からすすり泣くような音が聞こえてくる。
まるでほむらの泣きたい感情を代わりに請け負う
暗闇に潜む何者かに気が付いて後ろを振り返るが、そこにいるようで誰もいない。
「やっぱり…私には無理よ。まどかのいない世界で生きる未来を夢見る事は…出来ないわ」
潜む者が迫る前に礼拝堂の奥から出入り口に向かって走り、両開きの扉を開けて奥に進む。
礼拝堂の信者達が座る奥にある椅子の一つに視線が向いてしまう。
暗闇に包まれていたそこに座っていた存在とは潜む者。
まどかを美しく飾るこの礼拝堂を汚したくなかったのか、大人しくしてくれているようだ。
14個存在している信者椅子の端にも
この人形達もまた潜む者と同じく暁美ほむらの感情の色が生み出した者達なのやもしれない。
悪魔の感情エネルギーを表す言葉であるマグネタイトやマガツヒは人間の欲求エネルギー。
それは
――色から生まれ空にはあらず、此岸の淵こそ我らが舞台。
魔なる者である悪魔の領域こそ、感情を司る傲慢な人間達の領域でもあった。
♦
「ここは……?もう……ついたわけ?」
そこは王の控えの間であり、先程の両開きの扉は目的の扉と繋がっていたようだ。
「聞かなければいけないわ…まどかを奪った者の正体と天使と悪魔…そして黙示録の事をね…」
メノラーを台座に置き、四つの灯りが大きくなっていく。
部屋を明るくする蝋燭の灯火の中に金髪の少女の視線を感じ取る。
自分の視界が血管内の穿孔トンネルをうねるようにしながら落下していく感覚が襲ってくる。
気がついたらほむらの視界は生物体内にある細胞壁の隙間のような覗き窓。
ここはアマラの果であるアマラ深界であり、四度目の訪問となるだろう。
<<出てきなさい。いるのは分かっているわ>>
真紅の空間にそびえる中央にある血の湖の上に浮かぶのはオペラ劇場の舞台。
ほむらに促されたことで真紅の舞台カーテンが上がっていく。
ステージの主舞台にいたのは変わらない面々であり、不敵な笑みを浮かべてくる。
「危うく常世逝きになるところだったね。おかえり、お嬢ちゃん」
王の書斎のような豪華な主舞台のアンティークキングチェアに座っているのは金髪の少女の姿。
目を閉じ、山羊の形をした銀の飾り杖を握るその姿は髪の色が違うだけのほむらに思えてくる。
その両隣には喪服姿の鹿目詢子に化けた女悪魔と、アモンと呼ばれた梟の姿。
鹿目詢子に化けた喪服姿の悪魔に対し、ほむらはもう罵倒しない態度を見せてくる。
あの姿は暁美ほむらの罪の形そのものなのだと理解したようだ。
「黙示録の四騎士を打ち破りし者よ。期待通りの成果を見せてくれてあたしも嬉しいよ」
<<教えなさい…光の者達と闇の者達との関係を…そして…コトワリの神の正体をね>>
喪服の淑女は主の方に振り向き、主は目を閉じたまま頷く。
「魔人を倒せし者。あんたに世界の真実を…最後となるけど、あたしが語るわ>>
最後となるという部分が引っかかったが、黙って清聴する事にしたようだ。
「時を超えて世界、宇宙では光と闇の勢力が争った。その戦いはあらゆる者に影響を与えたわ」
<<世界…宇宙…まさか…全ての並行世界で…?>>
悪魔や人間、それに魔法少女達も何れかの勢力の支配下に組み込まれ、戦いを続ける。
そしてその戦いは終わる事なく続いているのだと喪服の女悪魔が伝えてくれるようだ。
<<私達魔法少女まで…光と闇の争いに加担していたの…?>>
「しかし、我が主はこの無限の戦いを終わらせる事を…その名に誓った」
<<無限に続いてきた光と闇の戦いを終わらせる…それが…黙示録?>>
今までにない己の意思を継ぐ程の混沌の悪魔を創りだし、光の勢力との終わりの決戦に挑む。
そう決意した堕天使の長がそのために用意した存在こそが死を司る魔人なのだと伝えてくれる。
<<混沌の悪魔を作り出すために用意した存在が…魔人の正体!?>>
死に挑み、死を超える事で悪魔の滅ぼし、滅ぶ力の結晶となる事が出来る。
それが我らに許される黒き希望となるのだと伝えてくれるようだ。
「そしてその黒き希望の一つは…違う世界で生まれたわ」
<<その黒き希望…それこそが…人修羅と呼ばれる悪魔なのね…?>>
「そして決戦の地として選んだこの世界で…我が主は再び同じ事を成そうとされている」
<<私が悪魔に…
「本人の意思は関係ない。あんたは刻印を授かる時より逃れられない呪いを
<<私の左腕に…呪いの刻印ですって…?>>
ほむらの左腕には人修羅のような光る入れ墨など存在せず、思い当たるフシもない。
「いずれこの世界で光と闇の最終戦争が起こる」
それは死海文書に記された通り、光の子と闇の子との戦いとなる。
そして生み出されるのは
<<死海文書って…あの?それに…二人のメシアって…何なの…?>>
光の子か闇の子か大いなる神か、あるいは二人のメシアが千年王国を築くと告げられる。
光であろうが闇であろうが、その世界は築かれると言われるのだ。
<<この世界で…もう時期ハルマゲドンが…起こるのね…>>
「インキュベーターの親玉と戦える…憎い天使を殺しまくれる。魅力的だと思わないかい?」
<<そ、それは……>>
「沈黙は肯定だよ。さて、円環のコトワリ神であるアラディアについて聞きたかったんだね?」
<<まどかに取り憑き、まどかを神の次元に連れ去ったアラディア…奴は何者なの!?>>
「魔女の救い神であり虚構の神…宇宙の規範であり光の秩序…大いなる神に与する女神さ」
<<どういうこと…?大いなる神は円環のコトワリを憎んでいるんじゃないの…?>>
円環のコトワリである鹿目まどかのせいで遠い未来の果てには全てのアマラ宇宙は虚構となる。
宇宙を滅びに導く女神だからこそ、大いなる神は円環のコトワリを大いに憎むと告げられる。
<<まどかが…全ての宇宙を滅ぼす存在ですって!?>>
「それと止める事は大いなる神には出来ない…だからこそ腸が煮えくり返る存在だろうねぇ?」
イレギュラーであり宇宙を滅ぼす神であろうが、大いなる神が生んだアマラの摂理を守る女神。
その存在を憎んだ大いなる神が戦いを挑めば自ら生んだ法を犯し、裁く者に襲われるという。
<<あの並ぶ者無き唯一神を裁ける神がいるというの…?>>
「その神霊をあたし達は裁く者と呼ぶ。円環のコトワリがした事を思い出してみなよ」
宇宙の延命を妨害して全ての宇宙から熱を奪い、凍えさせて死なせる規範となっている。
それを実行した存在こそが鹿目まどかの大罪なのだと告げられた時、ほむらは声を荒げてくる。
<<そんな事を…まどかが望むはずがないわ!それじゃまるで…
「だから言っただろ?鹿目まどかがやった所業は…悪魔の所業なのさ」
全ての宇宙を永遠の闇に閉ざす虚構の神、それが円環のコトワリであるアラディア神の正体。
未来の果てに絶望という因果を宇宙にもたらす邪神そのものなのだと告げられた時、激怒する。
<<黙りなさいよ!!神聖なまどかは女神よ!邪神などでは決して無いわ!!>>
「あんな小娘じゃ、自由な選択によってもたらされる弊害までは見通せなかったという訳さ」
アマラ宇宙に生きる星も生命も全ては鹿目まどかのせいで輪廻を断ち切られる。
人修羅でさえ一つの宇宙を死滅させただけの視点から見たら、桁外れの悪行だと言ってくる。
<<黙れ…まどかは何も悪くない!あの子は私達魔法少女を絶望から救いたかっただけよ!>>
「魔法少女だけ良くて他の星や生命はどうでもいい?
<<やらせない…まどかを邪悪な破壊神になど…貶めさせはしないわ…っ!!>>
絶対にあのコトワリ神からまどかを救い出してやるとほむらは決意を固めていく。
破壊神として世界を終わらせる邪神なのだと罵られればいいのは一つだけ。
<<私から大切なまどかを連れ去ったコトワリの神…アラディアだけで十分よ!!>>
目を瞑り沈黙していた金髪の少女であるがほむらの叫びを聞いた時、不敵な笑みを浮かべる。
「アッハハハハ!!よく言い切ったね!それでこそ、あたし達が見込んだ
<<何とでも言いなさい…私はまどかと魔法少女が救われたら…それだけでいい女よ…>>
あの子が守った世界もまどかの願いで遠い果てには滅びるならそれでいいのだと切り捨てる。
それこそが暁美ほむらの在り方であり、様々な平行宇宙を見捨てて時間渡航した者の姿なのだ。
「自分達さえ良ければそれでいいという差別に塗れた本音の言葉…確かに聞いたよ」
――あんたこそ、新しい黒き希望になれる程の…醜い女さ。
真紅の舞台カーテンが下がっていき、ほむらの意識もまた急速に遠のいていくのが分かる。
意識だけが魔界に訪れていた感覚も無くなっていく中、喪服の女悪魔が最後の言葉を残す。
「世界の真実も伝えるべき事は伝えたし、あたしの役目は終わりさ」
次に語られるのは暁美ほむら個人に関わる真実。
それを語るべきなのは当事者である御二方のみだと告げてくる。
喪服姿の鹿目詢子の姿を晒す女悪魔は両手を広げながら暁美ほむらに言い放つ。
「永遠に忘れるんじゃないよ。この母親をもう悲しませる事のないようにね…」
――円環のコトワリ神であるアラディアから…鹿目まどかを守り抜いてみせなさい。
ほむらの覗き窓の気配が無くなった真紅の舞台カーテンの裏側で口を開く者がいる。
「……いよいよ仕上げに入る時がきた」
「このために…吾輩達はイルミナティを用いて
「投資した分だけ…儲けさせてもらうよ」
――――――――――――――――――――――――――――――――
666日。
「それじゃあ、朝のHRを始めます。6月に予定をされてます…」
担任教師の和子先生による朝のHRが進んでいく。
教室の中に聞こえる伝達事項の中、一人の生徒は机に顔を伏せたまま眠っている。
「コラー暁美さん。学校はお昼寝をする場所じゃありませんよ~?」
和子先生に声をかけられたほむらはゆっくりと顔を上げていく。
「顔色が悪くないですか…暁美さん?大丈夫?」
「…すいません、先生。体調が悪くなったので…今日は早退します」
「え…?あ、はい…分かりました…お大事にね、暁美さん」
学生鞄に教材を詰めた彼女は教室から出ていき、正門まで来た時に学校の屋上に振り返る。
今日は屋上で魔法少女会議の集合があるのだが今の彼女は仲間達を遠ざける者となるだろう。
「ごめんなさい…巴さん…杏子。もう貴女達を…魔人との殺し合いに巻き込みたくないわ…」
魔法少女の使命とは無関係の悪魔との殺し合いに仲間達を巻き込む自分の弱さを呪ってしまう。
どれだけ仲間達を悲しませ、尊い命を失わせたかを思い出す度に拳を握り込む力が強まる。
たとえループ現象によって元に戻っても悲劇を繰り返す罪の上塗りでしかないのだと思い込む。
「いつか貴女達になら…背負わせた苦しみに対する私の罰を…執行してもらっても構わない」
――断頭台の前にいる罪人の私を押し出すように…
お昼休みとなった頃、ほむらの異変に気が付いた者達が不安そうな顔を浮かべてしまう。
「どうだった…マミ?ほむらの奴は教室にいたか…?」
「いいえ、朝のHR中に体調を崩したようで早退したと和子先生に教えてもらったの…」
「魔法少女が体調を崩すだぁ?風邪ぐらいなら回復魔法で治るだろうが…?」
「私達を避けようとしてるのかしら…?魔人との戦いに巻き込みたくないから…?」
「……あのバカ」
その日の夜も仲間達はほむらの様子を伺うための行動を起こしてくれる。
「早退したほむらの家に宿題を持っていってやったんだろ?あいついたのか?」
「いいえ…魔力の反応も無いということは…自宅にもいないのよ…」
「どういう事だよ…?まさか…魔人を引き受けるために街から逃げたんじゃないのか…?」
「その可能性もあるわね…。キュウべぇ、そこにいるんでしょ?そこから出てきなさい」
屋上の端に隠れていたキュウべぇに行方を聞くが、近隣の街にさえいないという答えが返る。
「ほむら…一体あいつ…何処に消えたんだ…あたし達はそんなにも…頼りなかったのかよ!!」
「暁美さん…どうして独りで背負い込むの…?私達は仲間を見捨てたくなんてなかったのに…」
やりきれない気持ちの仲間達であるが、魔獣の瘴気は容赦なく現れる。
ビルの屋上から飛び降りた魔法少女達は元の毎日であった魔獣との戦いのため動き出す。
この日以降、マミと杏子がほむらを見つける事はなくなってしまう。
日常に埋没していく仲間達が再びほむらと関わり合いになるのは別の世界の街となるだろう。
それこそが偽物の街、
魔獣狩りに向かった者達を見送ったキュウべぇであるが、悪魔の存在には気が付いている。
「ルシフェル様が動いている…一体何を企んでるんだろう?」
あの東京での事件によって進化したあまりにも強大な悪魔の誕生はキュウべぇも観測している。
この世界に悪魔を召喚し、一体何を成そうとするのか考えていた時だった。
<<……インキュベーターよ>>
神々しき念話が響き、感情がないキュウべぇでさえ慌てた動きで夜の空を見上げる。
新月の夜に輝きをもたせる程にまで神々しき夜空が広がり、そこから響くのは神の如き声。
「まさかその声は……我らが天使長……ミカエル様!?」
<<急ぐのだ…新たな悪魔が…我らの神に弓引く悪魔が…生まれようとしている>>
「悪魔…?ボク達の主なる神に弓引く…新たなる悪魔が生まれる…?」
<<悪魔を生み出すな…円環のコトワリの観測と制御を急げ…宇宙の熱の鍵は暁美ほむらだ>>
「暁美ほむらを鍵にする…?では、暁美ほむらはまさか…?」
<<もう時期あの魔法少女は死を迎える。その時こそ…この宇宙に熱を取り戻す実験を行え>>
――
♦
「ここは……何処なの……?」
自分に何が起きたのかをほむらは思い出していく。
白い居間のような空間に突然閉じ込められ、頭上の歯車の中から声が聞こえてきたと思い出す。
「見たことがあるような景色ね……でも、思い出せない……」
まるで無数の糸を紡いだ上を歩いているような空間でほむらは立っている。
墓標のように束ねた糸の地面に刺さっているのは巨大な編み針の数々であろう。
<<ここは…無数の世界の運命が交差する場所。因果の糸を紡ぎし…運命の至聖所じゃ>>
暗闇の世界に濃霧のような濃い煙が充満し、その奥から歩いてきた人物が現れる。
「これがホワイトが言っていた…年寄りの姿をした…魔人?」
裾の長い黒のチェスターコート、白いスーツズボンの黒いストライプ色、首元の白いスカーフ。
それらを纏う老人姿の魔人を見るとまるで大きなのっぽの古時計な爺さんに思えてくるだろう。
「お前は…何者なの…?」
「ワシはお前と共に幾多の世界を旅した者じゃ」
「私はお前のような年寄りを抱えて戦いをしてきた覚えはないわ。名を名乗りなさい」
「ふむ、この姿では伝わらないだろう。名か…そうじゃのぉ……」
――時の翁と……呼ぶがいい。
読んで頂き、有難うございます。