人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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67話 時の翁

学校から早退したほむらは家の居間として使っている白い空間で座り込んだままである。

 

衣装は魔法少女服であり、装備も武器庫に行って整え、魔人との戦いに備える構えであろう。

 

魔人の襲撃まで時間を潰しながら備えるだけでは意識も散漫になっていく。

 

だからだろう、彼女は自分の本音と人々を守る魔法少女の在り方が一致してない現実に苦しむ。

 

「まどかが救った魔法少女達が生きる世界…そこで生きる人間を守るために…私は戦ってきた」

 

しかしアマラ深界で彼女が叫んだ言葉はそれと一致しているのだろうか?

 

「でも私は…まどかが守った世界の人々の未来がどうなろうと構わないと言ってしまった…」

 

人間を守るために戦うと誓った者が、人間の未来を見捨てている。

 

言っている事と行動があまりにも矛盾した本音の言葉を叫んでいる。

 

彼女は本当に赤の他人である人間を守りたかったのだろうか?

 

「私の心の本音は…守りし者としての魔法少女の言葉ではなかった…」

 

まどかとまどかが救った魔法少女達だけを優先する選民思想の差別主義者、それが彼女の本音。

 

それだけでなく、彼岸の淵に流れ着いた時の記憶も蘇る。

 

「渡し守にも言われた…私は無意識に人間を見下し、都合のいい部分だけを拾う愚か者だと…」

 

善意は語る癖に行動が伴わない卑怯者。

 

やってきた事は都合の悪い部分を棚上げし、英雄気取りで気持ちよくなってただけの自己愛者。

 

周りに対して嘘(・)を(・)つ(・)く(・)事(・)が(・)常(・)習(・)化(・)し(・)て(・)い(・)る(・)詐(・)欺(・)師(・)なのではないか?

 

そう思うほむらは自(・)己(・)嫌(・)悪(・)に苛まれていき、苛立ちで顔も歪んでいく。

 

「このまま善意を語って守る者を演じていても…遠い未来の人間達を見殺しにするだけの私よ」

 

まさに地獄への道は善意で舗装されているという格言を体現するのが今の暁美ほむらである。

 

「しょうがないじゃない!!未来なんて救いようがない!責任なんて持てるわけないわよ!!」

 

遥か彼方の未来では、まどかは世界を滅ぼす者なのだと罵られる。

 

あるいは罵る権利さえ奪われ世界が滅ぶ理由さえ誰も分からないまま宇宙と共倒れしていく。

 

「私はまどかが幸せであればいい!魔法少女達が幸せであればいい!それの何が悪いのよ!?」

 

世界の裏を知らない人間達に暁美ほむらを批判する権利などないと正当化の言い訳を垂れ流す。

 

感情を捲し立てて出た言葉は自分達さえ良ければいいという人間らしい身勝手な言葉の数々。

 

これが彼女に肩入れしない者達が客観的に見た現実的姿。

 

見滝原市で人間達の守護者を気取ってきた暁美ほむらという魔法少女の醜い正体であろう。

 

「私は…まどかを守れたらそれで良かった…交わした約束だけが…私の全てだった…」

 

揺れ動くのは死神の両刃鎌を思わせる振り子であり、砂の流れる音を微かに刻む。

 

「周りの迷惑なんて考えない我儘で汚い女…私なんて…断(・)頭(・)台(・)で(・)処(・)刑(・)さ(・)れ(・)た(・)ら(・)い(・)い(・)の(・)よ(・)…」

 

少女が自らの命を投げ捨てる処刑を望んだ時、死神の振り子が止まる。

 

そして天井部位から落下し、巨大質量によって地面を砕きながら突き刺さるのだ。

 

「えっ……?」

 

突然の大きな音で目を丸くするほむらは落ちてきた振り子に振り向く。

 

まるでギロチンによって罪人の首を落とす刃のように落ちてきている。

 

それは居間の扉を覆うようにしており、この部屋から出すまいと佇む。

 

<<お前さんの死、望み通りもう時期訪れる……その時がきた>>

 

白い空間が地響きを立てながら振動し、ほむらも慌てて立ち上がりながら銃を構える。

 

ヴィンテージ感のあるインダストリアル時計部品が次々と天井から落ちていく。

 

古時計の内部を思わせる天井空間から現れ出たものを見た彼女はこう呟くだろう。

 

「砂……時計……?」

 

自宅空間はついにその仮初の姿を解き放ち、地面に吸い込まれるように家具も沈んでいく。

 

「そんな…いつから私の家は…悪魔に…支配されていたの!?」

 

驚愕の言葉を叫ぶ頃には仮初の空間ごと彼女も魔人の領域へと連れ去られる。

 

そして何(・)処(・)か(・)で(・)来(・)た(・)こ(・)と(・)が(・)あ(・)る(・)だろう空間の世界において、一人の老人と出会うのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「無数の世界の運命が交差する…因果の糸を紡ぐ運命の至聖所?どういう意味なの…?」

 

「お前さんがここに訪れるのは二度目じゃ。覚えてはおらんだろうが…ここで見たのだ」

 

かつての世界を終わらせる絶望の因果をこの場で見た事があるというが彼女は要領を得ない。

 

それでも絶望の因果をもたらす究極の魔女ならば忘れることなど出来ないだろう。

 

「かつての世界を終わらせる絶望……まさか!?」

 

ほむらの脳裏に蘇るのはまどかから生み出された地球よりも遥かに巨大な絶望の魔女。

 

「消えてしまったかつての世界の因果が何ゆえこの場所に存在しているのか…分かるか?」

 

ここはアマラ宇宙において可能性の因果の糸が束ねられ、紡がれ、測られ、断ち切られる場所。

 

そう伝えられてもギリシャ神話にそこまで詳しくないほむらは理解し難い顔を浮かべてしまう。

 

「束ねられた糸を紡がれ、測られ、断ち切る…?」

 

「我々が立っている糸の束、これは運命の女神の長女クロトが糸巻き棒で束ねし運命の糸じゃ」

 

「運命の女神ですって…?」

 

モイライ三姉妹と呼ばれる者達こそ運命の女神。

 

紡ぐ者クロト、測る者ラケシス、断ち切る者アトロポスと呼ばれる女神なのだと教えてくれる。

 

「たしか…ギリシャ神話のモイラ達よね…?」

 

「ここでは全ての世界の運命の糸が紡がれる」

 

運命の長さを測り、その運命の結果を断ち切り終わらせる。

 

ゆえにここは世界の運命を決める場所でもあるのだと伝えられていく。

 

「かつての世界…絶望の魔女が産み出された因果の糸も…ここで断ち切られたの?」

 

「そうだ。だからお前さんはここで断ち切られた運命の糸クズのような残滓が見えたのだ」

 

「私は何故一度ここに訪れたわけ?」

 

「覚えておらんなら語ろう。お前さんは一度、ワ(・)シ(・)を(・)捨(・)て(・)た(・)からだ」

 

「言っている意味が分からないわ…私はお前とは一度も関わりなどないのよ」

 

「ワシは全ての世界の時と死を司り運命と関わる者。お前さんが流れた別の世界とも関わる」

 

「別の魔獣世界に私が流れたですって!?」

 

「じゃが、お前さんはその世界を守るために…一度ワシを壊した」

 

「さっきから何を訳の分からない事を言ってるのよ!?」

 

「お前さんはこの運命の至聖所に絶望の魔女を見出している者じゃよ」

 

この世界に魔女がいるなら、鹿目まどかもいるのではないかという期待を持ったという。

 

「私が…そんな愚かな事をしたというの…?」

 

「ここは運命の残滓が残る糸クズだらけの場所。ここに鹿目まどかなど存在しておらんかった」

 

故にほむらは自身に記憶操作魔法をかけて忘れた者だと聞かされた時、結末を聞いてくる。

 

「そんな事をしたのね……その世界は守られたの?」

 

「お前さんの活躍のお陰での。そして今、本来流れ着かなければならなかったこの世界にいる」

 

「随分と私に詳しいのね…私の家を支配して…何を企んでいたわけ?」

 

「ワシはお前さんと共に数多の世界を旅し、そしてお前さんの命の時間が尽きるのを見てきた」

 

隠していた後手を前に出すと持たれていたのは砂時計であり、砂はもう尽きようとしている。

 

「私の命が尽きる時間ですって…?」

 

「ワシは運命を司る時の翁。人の命を見切り、死期が近づくと迎えに来る者…死神じゃよ」

 

【時の翁】

 

時と死の運命を象徴し、死期を見出した人の前に現れてはその魂を連れて行こうとする死神。

 

欧州絵画では運命を支配する時を翼を生やした死期が近い老人の姿で表す事が多い。

 

死がその力を振るうのを許されるのは定められた時が到来した時だけだとしているのである。

 

起源はギリシャ神話の時(・)間(・)神(・)ク(・)ロ(・)ノ(・)ス(・)ともされ、手に大鎌を持った老人の姿で描かれるという。

 

ゼウスの父クロノスとは別存在だったが、発音が酷似していた事から古くから同一視される。

 

砂時計とは無(・)常(・)に(・)流(・)れ(・)る(・)人(・)生(・)の(・)象(・)徴(・)であった。

 

「この砂時計の砂は…お前さんが生まれた時より、下に流れ落ち続けてきた」

 

「その砂が落ちきれば…私は死ぬとでも言いたいわけ?」

 

「信じておらんようだな?まぁいい、人は死を受け入れ難いものよ」

 

「生まれた時からその砂時計を見てきた?なら…私が魔法少女になる前から関わった悪魔?」

 

細目をした翁は頷き、踵を返してついてくるように促す。

 

今この場で殺し合う殺気を出してこない魔人に対して彼女は黙ってついて行く。

 

「お前さんが魔法少女になった頃の記憶、覚えておるか?」

 

「忘れるわけがないわ…無力な人間である私を救ってくれたまどかの死を忘れるものですか」

 

「それはキッカケだ。お前さんが魔法少女になった瞬間を覚えているかと聞いている」

 

「どういう事よ?私達はインキュベーターと契約し、魔法少女に…」

 

「記(・)憶(・)と(・)は(・)直(・)ぐ(・)曖(・)昧(・)に(・)な(・)る(・)も(・)の(・)じゃ」

 

野菜の形や色は覚えていても名前が出てこない等、覚えているのにはっきりと思い出せない。

 

このような記憶の曖昧化は誰でも引き起こすと翁は伝えてくれる。

 

「何が言いたいわけ…?」

 

「お前さんは契約の天使と契約して魔法少女になったと言う。じゃが、それは認知の弊害じゃ」

 

他の魔法少女の契約ばかりを見て、自分もそうであったと認知してしまった弊害なのだという。

 

「馬鹿な事を言わないでよ!?私は…私はインキュベーターと契約して魔法少女に…」

 

はっきりとその時の記憶を思い出そうとする。

 

憎いキュウべぇによって次々と魔法少女にされてしまった子供達なら直ぐに思い出せるはず。

 

しかし繰り返してきた時間渡航によって積み重ねてきた契約現場の記憶による認知は遥か彼方。

 

自分の原点となる契約の瞬間を鮮明に思い出せと言われたら混乱を引き起こしてしまうもの。

 

思い出そうとしても他の人達の内容と同じものにしか考えられなくなっていく。

 

脳の深くに収められた記憶の引き出しは意識して引き出せるものではないからだろう。

 

「お前さんは四騎士を倒せたし褒美をやろう。これはお前さんにとって、知るための試練じゃ」

 

「知るための…試練…」

 

「小娘、今こそ明かそう。お前さんが我々からは決して…逃げられないという事実をな」

 

運命の糸束の上を歩いていると、翁の前方に光が溢れ出していく。

 

「ワシはお前さんと共に数多の世界を旅してきた…ワシが導いてやってな」

 

溢れ出す眩い光が暗闇の至聖所を覆い、強い光量によってほむらは右腕で目を覆う。

 

「こ……ここは!?」

 

目の前の景色は忘れることなど出来ない場所、ワルプルギスの夜によって滅ぼされた見滝原市。

 

そこに再び立っている彼女は時間を逆に向けて流されたような気持となり困惑していく。

 

「この世界もかつてあった運命の残滓に浮かぶ景色じゃよ」

 

運命の至聖所でなければこの光景を再び目にする事は出来ないと聞かされる。

 

かつてあった世界線の宇宙もまた円環のコトワリに書き換えられたしまったのだから。

 

「まさか……この見滝原市は……?」

 

「……見よ」

 

翁が指差した方角を見ると、そこにいた人物を目撃した瞬間、ほむらの目が見開いていく。

 

「わた……し……?」

 

水害で水浸しの水面に倒れた魔法少女人物に縋り付く少女がいる。

 

「どうして……死んじゃうって……分かってたのに……」

 

嗚咽を出して泣くのは眼鏡をかけた長い髪をおさげにした少女の姿。

 

「私なんかを助けるより……貴女に生きてて欲しかったのに……」

 

ここまでなら今の暁美ほむらも覚えている光景であろう。

 

大切な友達である鹿目まどかを初めて亡くした瞬間を忘れる事など出来ない者なのだ。

 

「私はここで……インキュベーターに声をかけられて……」

 

――その言葉は本当かい?暁美ほむら。

 

「そうよ……たしか、あいつはそう問いかけてきて……」

 

「記憶とは厄介なもの…思い出せるはずなのに違う記憶と混ざった記憶を思い出す時がある」

 

翁からそう言われた事で暁美ほむらの記憶にノイズがかかっていく。

 

――君がその祈りのために叶えたい望みがあるなら…。

 

「あいつはそう言ったはずよ!!魔法少女はインキュベーターでなければ生み出せないわ!!」

 

「インキュベーターとは契約の天使。天(・)使(・)な(・)ら(・)…(・)他(・)に(・)も(・)い(・)る(・)」

 

そう言われた瞬間、ハッとした顔つきを浮かべていく。

 

「あっ…ああ…あぁぁぁぁ……」

 

自分がずっと記憶に留めていた光景とは全く違う光景が広がっている景色に対して戦慄する。

 

「誰…なの…?私は…知らない!!あんな男は知らないわよ!?」

 

ほむらが瓦礫の上に立っていたとずっと記憶に留めていたインキュベーターの姿。

 

その記憶は今見えている光景とは違っていたのだ。

 

――やぁ、お嬢ちゃん。その言葉が聞けて…私も嬉しいよ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「あ…あの…貴方は…誰ですか…?」

 

ほむらが見上げた先に立つ人物とは長い金髪をオールバックに纏めている外国人男性の姿。

 

闇のフォーマルスーツに身を包む者であり、右目はインキュベーターのような真紅の瞳を持つ。

 

「私は通りすがりの天使とでも言えば、夢があるかね?」

 

「えっ…?天使…さま…?」

 

天使と言われて頭に浮かぶのは翼を持つ存在だが、目の前の人物に翼は無く、ただの白人男性。

 

男は瓦礫の上から下に飛び降りるが、下は水害で水浸しのため裾を濡らすかと思われる。

 

「えっ…?ええっ…!?」

 

しかし水面に浮かぶようにしたその男の足元は濡れてはいない。

 

「お嬢ちゃん。君は天使の奇跡を信じるかい?」

 

「天使様の奇跡…?」

 

「君はミッション校出身だ。天使の存在は地上に奇跡をもたらす存在だと信じてきたはず」

 

「本当に…本当に天使様なの…?」

 

「信心深い君の元に、神の祝福を届けに来た」

 

「お願いします!!鹿目さんを…鹿目さんを生き返らせて下さい!!」

 

「神の奇跡には対価が必要なのだ、君はそれを支払えるかい?」

 

「奇跡には…対価が必要…?」

 

「君は魂を天使に差し出さなければならない。そして、死ぬまで続く戦いの道に進む事となる」

 

「そんな…そんなこと私…神学の先生から習ってないです!」

 

「これが太古より連綿と続けられてきた地上に奇跡をもたらす天使の契約なのさ」

 

「そういえば…聖書の創世紀でも主は見返りとして子羊の生贄を要求してきたような気が…」

 

「それこそがカインの時代から続く対価だ。君は魂を差し出してまで、その子を救いたいか?」

 

「わ…私…そんな怖い事なんて…」

 

「保身に走るのは仕方ない、君は病弱な少女に過ぎない。だがそれではその子は死んだままだ」

 

命の温もりを失った大切な友達に目を向けると震えながらも唇を噛み締めてしまう。

 

「それでいい…奇跡の対価はあまりに重い。軽はずみで魂を差し出すなど…無理な話だ」

 

踵を返して去っていく男に対し、ほむらは立ち上がりながら呼び止めてくる。

 

「天使様と契約すれば……どんな願いも叶えてくれるの?」

 

振り返った男がほむらの元に歩きより、涙で潤んだ彼女の目を見つめてくる。

 

「大いなる神と私は共に一つ…勿論可能だ。君にはその素質もあるから問題はない」

 

不思議な目をした存在から目を離す事が出来ない。

 

ほむらは眼鏡を外し、袖で涙を拭ってから男をしっかりと見つめてくる。

 

「教えてくれ。君はどんな願いをもって…その魂を対価とする?」

 

「私は…鹿目さんとの出会いをやり直したい。彼女に守られる私じゃなくて…」

 

――彼女を守る私になりたい!

 

願いを聞いた天使と名乗る男の口元が不気味な笑みを浮かべていく。

 

「その願い、私がしかと聞き届けよう」

 

天使と名乗る男は右手を彼女の胸元に近づけていく。

 

「私は契約を職務とする天使ではないから…少々荒っぽくなる、許してくれ」

 

命の危機を本能で感じ取った少女は震えるが、もはや蛇(・)に(・)睨(・)ま(・)れ(・)た(・)カ(・)エ(・)ル(・)の姿である。

 

男の右手が胸板を素通りするように体の内側に滑り込んできたその瞬間、絶叫するだろう。

 

「あぁ……あぁぁぁぁーーーーーーーッッ!!!!」

 

痛いという次元を遥かに通り超えている程の苦しみが突然襲い掛かっていく。

 

全身から自分の全てを手で掴み取られたまま取り出される程の衝撃によって発狂してしまう。

 

全身が痙攣して意識も朦朧としていく中、男が右手を抜いてくれる。

 

取り出した存在とは、ほむらの魔力色を示す紫色の魂であろう。

 

「契約は成立だ、暁美ほむら。ようこそ……魔法少女の世界へ」

 

耐えきれなかったほむらは気を失ったのか、体が後ろに目掛けて倒れ込んでいく。

 

いつの間にか後ろに立っていた存在が右腕で彼女を抱き留めてくれる。

 

その左手には首を跳ねられたインキュベーターの頭部が掴まれたままのようだ。

 

「…これでいい。この娘がアマラ宇宙を終わらせる因果を…鹿目まどかにもたらす」

 

右手の魂をソウルジェムの指輪に変え、気を失ったほむらの左手中指へと身に着けさせる。

 

「この娘が混沌の悪魔達の黒き希望となると…お考えなのですか?」

 

「期待しては駄目かね?この娘は私にとって…愛しい存在だ」

 

「御心のままに…閣下」

 

「後は任せる。暁美ほむらを導いてやれ…クロノス」

 

ほむらを魔法少女にしてしまった天使と自称した男は消えていく。

 

クロノスと呼ばれた存在こそ、今の暁美ほむらの隣に立つ時の翁の姿であろう。

 

左手の肉塊をゴミのように握り潰した後、背中の両翼でほむらを包み込む。

 

「幾多の世界へワシが導こう、小娘。長い旅となる…」

 

奇跡が叶えられた影響か、ほむらの体とクロノスと呼ばれた存在が消えていく。

 

そして目を覚ましたのはベットの上。

 

病室カレンダーを見れば見滝原中学への転校日に印をつけたサインが見えるだろう。

 

魔法少女となった暁美ほむらはインキュベーターを介さずに産み出された者。

 

違う世界のインキュベーターがそれに気がつくことはない。

 

他の宇宙の事まで分かるのはもはや、神のみぞ知る世界だからであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

かつてあった運命の残滓が見せた光景も消えたことで暗闇の至聖所の景色に戻っていく。

 

「お前さんはあの御方に選ばれたのだ。そして…魔法少女となった者じゃ」

 

全てはこのアマラ宇宙を終わらせる因果を鹿目まどかに集めさせるため。

 

いずれ宇宙は永遠の闇に閉ざされ、闇の悪魔がアマラ宇宙を支配出来るようにするため。

 

唯一神が消えた新たな宇宙を誕生させる目的のために暁美ほむらは利用されたと聞かされる。

 

翁の右側に立つほむらの顔は俯いたままであり、陰った目元で表情は伺えない。

 

「お前さんの願いのお陰で宇宙は滅ぶ。鹿目まどかと暁美ほむらは…共(・)犯(・)じ(・)ゃ(・)よ(・)」

 

それを聞かされた瞬間、左のホルスターから銃が抜かれて翁の顔にノールック射撃をする。

 

ショットシェルで顔面が爆ぜようかと散弾が迫った瞬間、そこに翁の姿はいない。

 

「受け入れられない真実かね?」

 

翁が立っていたのは彼女とは逆側である中、激高したほむらが罵倒してくる。

 

「……信じない。こんな悪魔の惑わしに……誰が乗ってやるものですか!!!」

 

自動小銃を構えたほむらが翁を狙い撃つが、今度は背後に回り込まれている。

 

「都合が悪いモノは嘘のレッテルを貼り、信じないようだが…時間と記憶からは逃れられない」

 

「お前なのね……かつてあった私の盾と同じ魔法が使える魔人は!?」

 

「同じ魔法が使える…か。やはり…この化身の姿では伝わらんかのぉ?」

 

左手に砂時計を携えた翁の背中から天使の翼が生えた後、飛翔する。

 

「ワシと戦うか?孤独なお前さんと共に戦場を駆けた戦友に銃を向けるとは…ツレナイ娘じゃ」

 

「黙りなさいッッ!!」

 

銃の引き金を引く前にほむらの体勢が崩れながら地面に吸い込まれていく。

 

気がつけば彼女は魔人の結界内にいたようだ。

 

「魔人の結界世界に…こんな場所もあったなんて…」

 

そこは砂と石で覆われた街。

 

砂煙が風で舞う乾燥した砂で埋もれていく廃墟と化した街の中へと彼女は入っていく。

 

中東で見かけるような石造りの廃墟を警戒しながら索敵するが人の気配はしない。

 

赤き豪雷が荒れ狂うのは変わらない空の下をメインストリートを超えて街の奥へと向かう。

 

そこで見つけたのは街のシンボルとも言えるだろう大聖堂規模の教会。

 

石造りの塀の入り口を超え、教会内部へとほむらは歩み進んでいく。

 

風が入り込む隙間だらけの廃墟と化した教会内部の礼拝堂は天井も所々崩落している。

 

瓦礫が礼拝堂内部に散乱した中を歩み進む中、一際目立つものがあるようだ。

 

石造りの壁に掲げられていたのは真紅のポールフラッグの数々。

 

そこには黄色いシンボルとして描かれているものがあり、それは鎌(・)と(・)槌(・)、そしてペ(・)ン(・)タ(・)グ(・)ラ(・)ム(・)。

 

共産主義を掲げる共産党政党カラーの革(・)命(・)を(・)示(・)す(・)赤(・)き(・)旗(・)が両壁に並び立つ光景であるのだ。

 

「これはたしか…世界史の授業で見たソ連国旗に描かれていた…鎌と槌と五芒星…?」

 

教会の最奥に設けられている祭壇にも目を向ける。

 

キリストの絵画が壁に描かれている祭壇にはあってはならないシンボルが備わっているようだ。

 

「逆(・)さ(・)の(・)…(・)十(・)字(・)架(・)…?」

 

それは聖ペトロ十字と呼ばれるものであり、聖ペトロはローマ帝国の皇帝ネロに迫害された者。

 

彼が磔刑に処された際には逆さまの十字架に掛けられたとしている。

 

自分がイエスと同じ状態で処刑されるに値しないとして自らこの処刑方法を望んだという。

 

反キリストや悪魔崇拝のシンボルではないと言われるのが通説ではある。

 

しかしそれは悪魔学や反キリストの本質を理解していない者達の思考停止に過ぎない。

 

「反キリストとは…全(・)て(・)を(・)逆(・)さ(・)ま(・)に(・)す(・)る(・)事が肝心なのじゃ」

 

崩落した天井から祭壇の前に翼を羽ばたかせて現れたのは時の翁。

 

祭壇前に着地した彼は後ろの逆十字架に振り向くと悪魔学や反キリスト主義の話を語り出す。

 

聖書の全てを逆さまに解釈する、人の道理の真逆を行う、自然を愛せと言うなら焼き払う。

 

隣人を愛せというなら貶める、神の血であるワインの代わりに人の生き血を飲む。

 

全てを反対に向ける価値観こそ反キリストであり、逆十字架はただの象徴に過ぎないという。

 

「反キリスト主義なんかが…私と何の関係があると言うのよ!?」

 

「宇宙に秩序があるなら混沌をもたらせ。お前さんはずっと反対にしてきたじゃろう?」

 

「私が反対に向けてきたですって…?何を反対にしてきたと言うのよ…?」

 

「反キリスト行為は何でもいい…例えばお前さんの左腕にあった砂(・)時(・)計(・)の(・)盾(・)を(・)反(・)対(・)に(・)す(・)る(・)とか」

 

「私が…反キリスト行為をしてきたとでも言うわけ!?」

 

「あるべき時間の流れ、運命、それは世界の秩序であり本来は変えてはならないものなのじゃ」

 

それを反対に向けてでも変えようとした身勝手な独善者が目の前にいると言うのだろう。

 

「私はまどかを救うために砂時計を反対にしてきただけよ!反キリストになんてならないわ!」

 

「その結果、鹿目まどかに何をもたらした?宇宙に何をもたらした?答えるがいい」

 

「それは……ち、違う!!私は……私は反キリストなんかじゃないの!!」

 

「都合の悪いモノを棚上げし、都合のいいモノしか見ない、受け入れないか?ワ(・)ガ(・)マ(・)マ(・)女め」

 

「私を惑わす悪魔め!!お前の戯言なんて絶対に受け入れない!!」

 

自動小銃を向けようとした時、天井を破り空から瓦礫と共に落ちてきたのは巨大質量である。

 

「くっ!!これは私の家にあった……振り子の大鎌?」

 

翁を守る盾として現れたのは二つの大鎌の三日月刃が交差する姿をした巨大な大鎌。

 

刃が交わる中央には振り子の長い棒があり、宙に浮いた大鎌を翁は右手を用いて振るう。

 

翁に操られた大鎌はほむらの首を刈り取らんと右薙を仕掛けていき、彼女は身を低めて避ける。

 

大鎌が巻き起こした風に揺られるのは共産主義と革命を象徴する赤旗なのだ。

 

「黒き希望となるか、何処までも愚かな人間のままで終わるか…共に旅したワシが見極めよう」

 

天使の翼を羽ばたかせた時の翁は大鎌と共に宙に浮かぶ。

 

左手にはほむらの命を表す砂時計を持ち、右手にはコンサートの指揮者が持つ指揮棒を持つ。

 

「さぁ、共に奏でよう…世(・)界(・)に(・)反(・)逆(・)す(・)る(・)革(・)命(・)マ(・)ー(・)チ(・)を!これこそお前さんが世界にもたらす…」

 

――セ(・)カ(・)ン(・)ド(・)・(・)イ(・)ン(・)パ(・)ク(・)ト(・)だ!!

 

細目が開き、混沌の闇が広がる眼窩(がんか)を覗かせる。

 

教会の鐘の内側にある槌の如き分銅が鐘を鳴らす。

 

それに呼応して外からは大音量のオーケストラ生演奏の音色が響き渡る。

 

外の街に召喚されているのは演奏用の燕尾服を纏う者達。

 

人間に擬態した無数の堕天使達が奏でるのはソビエトを思わせる世界への革命行進曲。

 

街の窓からも次々と革命の赤旗が伸ばされていき、風で靡かせる。

 

時の翁、その正体は時間神クロノスとも解釈出来る。

 

陰謀論やオカルトの世界ではマルクス、レーニン両名が生み出した共産主義と密接に関わる神。

 

鎌とハンマー、そしてプロビデンスの目はギリシャ神話でも見られる。

 

大鎌とはゼウスの父親であるクロノスゆかりであり、万物を切り裂くアダマスの鎌となる。

 

ゼウスはキュクロープスの作った雷霆であるケラウノスを主な武器とした神。

 

キュクロープスとは鍛冶技術を持つ単眼の巨人であるサイクロプスを表す。

 

イルミナティはエジプト神話だけでなく、ギリシャ神話やローマ神話なども取り入れる団体。

 

稲妻がイルミナティのシンボルだというのもギリシャ神話ゆかりであったようだ。

 

「お前達混沌の悪魔の計画なんて関係ない!私はまどかを救うために…世界に抗うわ!!」

 

暁美ほむらはついに自身の時間魔法を象徴してきた魔人と戦う事となるだろう。

 

「反キリストを象徴する弓兵に鍛えられたその弓の技術…余すことなく使うがいい!!」

 

世界革命の狼煙の火種を生みだす程の戦いが始まろうとしていく。

 

これこそ宇宙の秩序に反逆する魔なる者誕生の儀式となるであろう。

 

大いなる神に弓引く悪魔が聖誕する時は、近いのであった。

 




読んで頂き、有難うございます。
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