人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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68話 デウス・エクス・マキナ

共産主義の生みの親の一人であるカール・マルクスの著作にはこんなものがある。 

 

絶望者の祈りという詩が1837年頃に作成されており、内容は以下の通りだ。

 

神が俺に運命の呪いと軛だけを残して()()()()()()()()()()

 

神の世界はみんな、みんな、なくなってもまだ一つだけ残っている、()()()()()()

 

俺は自分自身に向かって堂々と復讐したい、高いところに君臨しているあの者に復讐したい。

 

俺の力が弱くつぎはぎ細工であるにしろ、俺の善そのものが報いられないにしろ、それが何だ!

 

()()()()()()()()()()()んだ、その頂きは冷たくて巨大だ。

 

その砦は超人的なもの凄さだ、その指揮官は()()()()()だ!

 

内容から察するに、この詩は唯一神が生んだ世界に対する復讐そのものであった。

 

 

かつてのほむらは時間操作魔法を使えたお陰でデメリットも熟知している。

 

時間停止は使ってこそ無類の強さを発揮出来る魔法であろう。

 

しかし使わせられない状況においては役に立たない無力な魔法だということも知る者なのだ。

 

(奴を倒すには…不意打ちしかない!!)

 

腰のポーチから取り出した自作スタングレネードを投擲する。

 

シリンダーの締付けを調整した即効性のあるフラッシュバンであろう。

 

「むぅ!?」

 

目が眩み、耳が難聴になった魔人は見えない視界のまま相手の魔力を探っていく。

 

「外で迎え討つか…いいだろう」

 

時の翁はアダマスの鎌と共に崩落した教会の屋根から飛翔しながら外に飛び出す。

 

上空から街を見下ろしながら彼女の魔力を探るようだ。

 

「お前さんとは長い付き合いじゃ。何を企んでおるのか…ワシには手にとるように分かるわ」

 

ほむらは石造りの廃墟を警戒しながら索敵していた際に罠を用意している。

 

背中のバックパックに満載した爆弾トラップを至るところに設置していたようだ。

 

魔力を持たない現代武器なら魔人相手でも設置位置を気取られる心配はない。

 

簡単に不意打ちを仕掛けれると考えたようだが相手が悪過ぎたようだ。

 

「トラップを使おうが、お前さん自身の近くには設置出来ない。巻き添えを食うからのぉ」

 

混沌の闇が広がる眼窩(がんか)の奥から微かに聞こえるのは時計機械の音。

 

奥にあったのは暁美ほむらの盾の中央にあった時計じかけの機械部位を思わせるだろう。

 

刹那、世界の時間が停止。

 

時間停止世界で動く事が出来るのは、術者と術者が触れていた存在のみ。

 

動き出す翁とアダマスの大鎌。

 

鎌は術者の半身ともいえる存在であり、触れていなくとも時間停止世界で動く事が可能である。

 

そして時が動き出す。

 

物陰に隠れ、翁が自分を探しに来るのを待ち構えているのは暁美ほむらの姿。

 

右手には起爆用のリモコンが握られており、スイッチに指がかけられている。

 

「何ゆえお前さんに…()()()()()()()()()と思う?」

 

背後の空間には時の翁が立っており、慌てたほむらが振り返る。

 

「くっ!!」

 

右手のリモコンを捨て、右ホルスターからコルト・パイソンを抜いて相手の胴体に二発撃つ。

 

すると世界の時間がまた止まる。

 

翁の手前の空間で静止したのは一発のマグナム弾。

 

翁は右手の指揮棒で軽くマグナム弾を上に払い、弾を裏返す。

 

術者に触れた弾の時間が僅かに動き、後続から迫る二発目の弾に向かって飛びながら止まる。

 

時間が動き出し、二発目と一発目がぶつかり合った跳弾が路地裏内を飛んでいったようだ。

 

「私の固有魔法が……無かったですって!?」

 

魔法少女は願いによって固有魔法を会得する。

 

その固有魔法が魔法少女の武器の形を決めると言ってもいいだろう。

 

命を繋ぐ願いをした者はリボン、人々を惑わす願いをした者は相手を惑わす鎖の槍。

 

そして全ての世界から魔女を消したいと願った者は全宇宙に希望の枝を伸ばせる苗木の弓。

 

「不思議に思わなかったか?何ゆえ自分だけが()()()()()()()()()()()()()のだと?」

 

ほむらが構えている武器は自分の願いの形をしているだろうか?していないはず。

 

これは魔力で生み出されたものでも願いの形でもない、人間も扱ってきた現代武器である。

 

「お前さんは普通の魔法少女として生み出された者ではない、特別な存在なのじゃよ」

 

「私が……特別な魔法少女ですって……?」

 

「それゆえに…あの御方は不完全な形でお前さんを魔法少女に変えた」

 

「私の固有魔法は時間操作魔法よ!元に私は自分の魔力を用いて時間操作を行ってきたわ!」

 

「おかしいと思わなかったか?」

 

「この期に及んで何をおかしいと思えと言うのよ!?」

 

「因果の力を持たないお前さんが世界に干渉する大魔法行使など…本来なら使えるはずがない」

 

「なら…私のかつての固有魔法の正体は何だったと言いたいのよ!?」

 

「お前さんのソウルジェムの魔力に寄生した神の一部がおった…今からその神の力を見せよう」

 

いつの間にか全方位を取り囲んでいたのは三日月の刃をもつ無数の山鎌。

 

それに気が付いたほむらは咄嗟に黒き翼を背中に生み出して飛翔する。

 

山鎌によって細分化されるまで切り刻まれるのを避けたようだがまだ終わりではない。

 

荒れ狂う空から回転しながら勢いよく迫るアダマスの鎌には気がついていなかったようだ。

 

「ああっ!!?」

 

右翼を真っ二つに切り裂かれた彼女はメインストリートに目掛けて落下していく。

 

レッドライダーやゴッドアローさえも消滅させる力をもったほむらの翼を切り裂くのは神の刃。

 

体を回転させながら着地した彼女は無数の赤旗が靡くメインストリートの奥に視線を向ける。

 

「お前は…まさか……そんなっ!?」

 

「鈍いお前さんでも、ようやく感づいてきたようじゃのぉ?」

 

目の前の存在とは、自分の左腕にかつて存在した魔法の盾なのだと彼女は理解する事になる。

 

「かつての世界の私を相手にしている気分になるはずよね…お前があの盾だったなんて…っ!」

 

「何度でも試すがいい、結果は同じなのだから」

 

右手に握ったコルト・パイソンの連続射撃をほむらは行う。

 

すると時間停止した世界が広がり、翁は右手の指揮棒で弾を左右に払い続ける。

 

時間が動きだす世界のほむらには見えたはず。

 

4発の弾の軌道が勝手に逸れていき、壁に撃ち込まれる光景が広がっていたのだ。

 

撃ち尽くしたリボルバー銃を右側のホルスターに収める彼女の表情は焦りを隠せていない。

 

「絶望的な存在を相手にしているのだと、ようやく理解出来たか?」

 

「それでも私は超えてみせる……かつての私の力であったとしても!!」

 

スリングで吊るした自動小銃を構えるほむらに対し、時の翁は不敵に笑う。

 

「……第二ラウンドと行くか」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

空中に浮いたアダマスの鎌が回転しながら地上のほむらに目掛けて迫りくる。

 

横に飛んで回避すると大鎌は回転ノコギリの如く地面を切り裂きながら進んでいく。

 

跳躍と同時にポーチから携帯電話を取り出してリモコン起爆をほむらは行う。

 

メインストリートの左右の壁に設置してあった待ち伏せ用の爆弾が爆発していく。

 

左右から破片を撒き散らし、破片に囲まれた翁に目掛けて迫る中、時間神が動く。

 

「時よ止まれ」

 

空間が時間停止し、破片と爆風が空中に固定された静止世界を翁は進む。

 

「いない!?」

 

建物の屋根に跳躍して辺りを索敵するが既に彼女の周囲は山鎌の刃で囲まれている。

 

「くぅっ!!」

 

突然現れた鎌で全身を切り裂かれていく中、時間停止による狙い撃ちだと彼女は理解する。

 

追撃を逃れるために屋根を飛び越えようとした瞬間、彼女の体の時間が止まって空中で止まる。

 

「あぁ!!」

 

そのまま急降下蹴りを頭に受けた彼女は屋根から転落していく。

 

路地裏に着地したほむらは仕掛けておいた跳躍地雷の電気信管を作動させる反撃を行う。

 

打ち上げ花火のように飛んだ手榴弾の数々が空に浮かぶ翁の周りに飛来するが無駄な抵抗だ。

 

「えっ……?」

 

空に打ち上げたはずの複数の手榴弾ならほむらの足元に転がっている。

 

跳躍して爆発を避けたが、破片が飛んできて背中のボディアーマーと後ろ足を傷つけてしまう。

 

道にまで跳躍回避した彼女は転がりながらも立ち上がり、眼前にいる翁を睨んでくる。

 

「前奏程度で死んでくれるなよ?」

 

遊ばれているのが分かる程にまで桁外れの実力差があると彼女は感じてしまうようだ。

 

「現代武器を使ったお前さんの戦術が…共に旅したワシに通用するとでも思っているのか?」

 

「そうね……お前は常に私の左腕にいたものね……」

 

「新たな世界で得た力を使え。ワシの知らないお前さんの力を見せよ」

 

大きく後方跳躍する彼女に対し、時間停止を使って追撃してこない。

 

ほむらと共に旅した仲魔とも呼べる翁は気にしているのだろう。

 

違う魔獣世界で自身の別の姿である魔法盾に干渉してきた因果の弓の力に興味があったのだ。

 

腰のポーチの隙間に挟んでいた魔法の杖を抜いたほむらは武器を弓の形にして構える。

 

(本当に…嫌になるわね。私の魔法と戦う事になるなんて…)

 

翁の姿がかつての自分の姿とダブって見えてくる。

 

これは自分の魔力の中に意図せずしてあった盾と弓の戦いなのだ。

 

菱形が幾重にも重なり合う魔法陣を前方に生み出されていき、魔法の矢を放つ。

 

矢が触れた魔法陣から放たれる無数の光の矢は紫のカラスめいた姿となって翁に迫る。

 

<<ほう…?火力だけならあるようじゃ。最もそれは…当たればの話じゃよ>>

 

時間停止を使って回避したのなら彼女も分かっている。

 

姿を消した相手に対し、反撃を与えまいと真上の空に目掛けて矢を放つ。

 

空に大きく描かれた魔法陣に矢が重なった瞬間、光の矢が雨の如く周囲に撒き散らされる。

 

屋根の上で演奏する者達まで巻き込む程の弾幕は演奏者達にも被害をもたらす危険な攻撃。

 

だが演奏する堕天使達は降りかかる光の矢を演奏しながら反射していく。

 

魔法攻撃を反射する魔法である『マカラカーン』を行使してきたようだ。

 

「なんですって!?」

 

上手く調整して巻き添え被害は回避出来たが、迫ってきたのは屋根の上から反射された光の矢。

 

後方に大きくバク転しながら避けようとするが右足に反射された矢が被弾してしまう。

 

バク転の体勢が崩れて地面に倒れ込んだほむらは倒れ込んだ姿のまま空を見上げる。

 

赤く荒れ狂う空に佇むのはアダマスの大鎌。

 

交差した三日月刃の上に着地して地上を見下ろすのは死をもたらしに来た死神の姿である。

 

ほむらの命の時間を司る左手の砂時計の砂も残り僅かで落ちきるようだ。

 

「お前さんの力は拝見せてもらったが…ワシを超える程の力には見えんのぉ」

 

圧倒的な力の差を見せつけられても彼女の闘志は揺るぎもせず、力を振り絞って立ち上がる。

 

弓を空に構えながら力の限り弦を引き絞って放つ渾身の一撃を放つのだろう。

 

放たれた魔力の矢の一撃はその姿を燃え上がる巨大なカラスの姿に変化させていく。

 

ペイルライダーを葬った一撃が迫る中、翼を羽ばたかせた翁が大鎌から飛び退く。

 

主人に迫る大矢を切り裂かんと大鎌は回転していき、巨大カラスに目掛けて放たれる。

 

燃え上がる渾身の一撃が真っ二つに両断されてしまい、なおも回転しながらほむらに迫る。

 

横に跳躍回避しようとした時、背後に死の気配を感じたようだ。

 

「お前さんの命…流れ落ちる時がきた」

 

背後から踏み込み蹴りをほむらの背中に放ち、軽い体重の彼女が空に蹴り上げられる。

 

鈍化した世界。

 

回転しながら迫るアダマスの大鎌に対し、ほむらは打撃を浴びた事で身動きがとれない。

 

そして彼女に死が訪れる時がやってくるのだ。

 

「がっ……ハッ……ッッ!!!」

 

ほむらの腹部を大きく貫通し、突き刺さった大きな鎌の刃先が背中を飛び出す惨い光景。

 

ミートフックのように空へと吊り上げていく大鎌に対し、彼女は吐血しながら悶えていく。

 

細い鎌の刃先に着地した翁は膝立ち状態のまま吊り上げられて苦しむ女に目線を合わせてくる。

 

「共に旅した者よ、お前さんの最後をワシが看取ろう。何か言い残す言葉はあるか?」

 

吐血しながら咳き込むほむらは力の限り翁を睨みながら何かを言おうとしている。

 

「ん?何か言ったか?歳のせいで耳が遠くてのぉ…」

 

耳を近づける翁に対し、苦しみ悶える彼女ではあるがその口元が不敵な笑みを浮かべてくる。

 

「この時を……待っていたわ!!」

 

ポーチから取り出したのはワイヤーが固く括り付けられた手錠であり、翁の手首に嵌め込む。

 

「むぅっ!?貴様…ッッ!!」

 

そのままタクティカルベストの胸部に備え付けたスタングレネードのピンを手放さずに引く。

 

投げたグレネードを時間停止空間内で落とされないようにするための苦肉の策であろう。

 

ほむらの胸元で炸裂した至近距離のフラッシュバンによって翁は苦しみ悶えていく。

 

視力が回復した頃には獲物はいなくなっている。

 

体に深々と刺さった刃先を両手で掴み、体の内側を切り裂きながら引き抜いて脱出したようだ。

 

「足掻くでないわ!!お前さんの死はもう決まって…ぬぅっ!!?」

 

地上の屋根の上から手錠に固定されたワイヤーが引っ張られていき、翁は体勢を崩す。

 

大鎌から転落するが両翼を羽ばたかせて宙を浮き、ワイヤーの先にいるほむらを睨む。

 

スタングレネードは非殺傷兵器であるが至近距離で使えば無事では済まない。

 

「ゴホッ!!ゴホッ!!代償は大きくても……私はまだ……戦えるわ!!」

 

小型爆弾が炸裂したのと同じ結果となったほむらの顔には大きな火傷の跡が残っている。

 

右耳も破片で千切れて鼓膜が破裂し、胸元も炸裂した破片がボディアーマーを貫く。

 

肺に破片が深々と刺さる中、彼女は腰のガンベルトの裏にある大きなポーチに手を伸ばす。

 

ポーチ内に収められていたのは電動式の巻上装置。

 

これこそが時間停止魔法を使ってくる魔人に対するほむらの秘策であろう。

 

「貴様…最初から捨て身でこれを狙っておったのか!?」

 

「これで私も時間停止世界の住人よ…後奏を始めましょうか?」

 

翁も至近距離で破片を浴びた事で黒のチェスターコートが傷んでいるようだがダメージは軽微。

 

時間停止魔法を用いてくるが、ワイヤーで術者と繋がったほむらの体は静止していない。

 

これこそ彼女が用いてきた時間停止魔法の大きな欠点であったが、ほむらはそれを逆利用する。

 

「かつての私の力を……越せてみせる!!」

 

ダブルドラムマガジンで装弾数を増やしたHK417自動小銃を翁に向け、引き金に指をかける。

 

翁もまた時間停止世界に踏み込んできた者に対し、周囲の空間に山鎌を生み出して迎え討つ。

 

「その死にかけた体でなんとする!!根性だけでワシに勝てると思うなよ!!」

 

「根比べなら……負けないッッ!!!」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

ほむらが跳躍すると同時に翁も動く。

 

互いの射撃武器が時間停止世界で交差するように流線を描きながら静止し続ける。

 

吹き上がるマズルフラッシュとライフル弾は静止世界の空中にいる翁に目掛けて撃たれていく。

 

無数の弾が次々と時間停止世界で静止する軌跡を生むのだ。

 

翁の右腕を繋ぐワイヤーを鎌で断ち切られるわけにはいかないため弾幕を張り続ける。

 

翁もまた周囲に生み出し続ける山鎌を発射していき、ライフル弾の雨を迎え討つ。

 

時間停止が解け、動き出した世界で弾け合い火花を飛ばす飛び道具の光景はさながら花火大会。

 

再び静止世界の屋根に着地したほむらは走りながら弾をばら撒いて弾幕を張る

 

そして翁もまた弾幕を張るようにしながら無数の山鎌を射出し続ける。

 

静止した街に描かれていく互いの射出武器の流線は無数の房状の線と化し、街を覆っていく。

 

「ちぃ!!」

 

アダマスの鎌が静止世界で回転しながら迫り、繋がるワイヤーを切断しようと飛び込んでくる。

 

それに気が付いているほむらは跳躍からの横倒れ姿勢のまま射撃を行う。

 

レイルに取り付けたM203グレネードランチャーの弾が空中で静止。

 

迫る大鎌が弾頭にぶつかって爆発すると弾き飛ばされた大鎌が地面に深々と突き刺さる。

 

自動小銃を撃ち尽くした彼女は背中に背負っていたもう一丁の銃をスリング回転させて構える。

 

ドラムマガジン付きのソ連製RPD軽機関銃の銃口から猛火が吹き上がっていく。

 

翁の動きを弾で牽制しながら街の屋根をそのまま超えて走り続けるようだ。

 

「鉄砲遊び如きでワシを止められると思うてか!!」

 

周囲に張り巡らせた複数の山鎌を前面に移動させ、迫る弾丸を連続で弾きながら彼女へと迫る。

 

接敵する相手が軽機関銃を山鎌で切断し、相手の体も細切れにせんと追撃の逆袈裟斬りを放つ。

 

それに対し、左のホルスターから銃を抜いた彼女がショットシェル放って山鎌を破壊する。

 

右薙、左薙も撃ち落とし、袈裟斬りに対しては身を横倒しに向けながら避ける。

 

体を捻じりながら回転した姿勢で最後のショットシェルを放とうとするのだろう。

 

狙うのは翁の左手に持たれていたモノであった。

 

「き……貴様ッ!!?」

 

ショットシェルによって破壊されてしまったのは暁美ほむらの命の時間を司る砂時計。

 

撒き散らされたガラスと砂が静止した世界に浮かぶ。

 

「何をしてしまったのか…貴様は解って…ッッ!!?」

 

信じられない行動をしたほむらに対して動揺し、身が硬直してしまったのが運の尽き。

 

「悪魔であろうと、一瞬の油断で死を迎えてきたわ…お前もそうなるのよ!!」

 

右胸部位に備え付けたタクティカルナイフを右手で抜く。

 

逆手持ちのまま放たれるほむらの一撃が翁の顔面に決まる時が訪れる。

 

「ぐおおおおおぉぉーーーーッッ!!!!」

 

チタン合金の刃が右目の空洞をえぐり、眼窩(がんか)内部にあったギアとギアの間に挟まり固定させる。

 

時間停止が解け、放たれた時間によって周囲に張り巡らされた銃弾と山鎌が一気に弾け合う。

 

街を覆う規模の火花を撒き散らしていく中、翁の片膝が崩れてしまう。

 

地面に蹲り、機械に異物が差し込まれてギアが噛み合わない苦しみに悶える翁は激怒する。

 

「小娘がぁぁぁぁぁーーーッッ!!!」

 

周囲に浮かばせた山鎌を暴れさせていき、周囲を見境なく乱切りしていく。

 

体勢を立て直すために飛び退いたほむらは身を潜めようとその場を離れていく。

 

右目に刺さったナイフを抜こうとする翁であるが、刃は奥深くまで食い込んでびくともしない。

 

精密機械の時計は少しの故障で力を発揮出来なくなるのと同じく、力が弱まっているようだ。

 

「ハァ…ハァ…ハァ……」

 

激戦を制したほむらであるが出血が酷く、体を動かす余力と魔力は底を尽きようとしている。

 

少しでも体の負担を減らそうと廃墟の中で重い装備品を取り外していく。

 

血まみれの魔法少女服だけを残す彼女は左手に持たれた弓のみで最後の戦いへと赴くのだろう。

 

「何処だぁぁーーッッ!!小娘ぇぇーーッッ!!!」

 

アダマスの大鎌を強引に振り回し、街を破壊しながら獲物を探す翁の姿は獰猛な悪魔そのもの。

 

時間停止を駆使して獲物に近づけないのは時計内部が異物によって動かせないせいであろう。

 

もはや余力がないほむらが放つ事が出来る一撃は一発のみであり、外す事は許されない。

 

メインストリートで暴れる翁の前に現れようと路地裏から彼女が現れる。

 

翁は獲物に向き直り、獰猛な敵意を向けてくるのだ。

 

「決着をつけましょう…孤独だった私と共に…旅した者」

 

この一撃が勝負を決めることになるだろう。

 

静止した両者の間に風が吹き、丸まった雑草が二人の間を転がっていく様はまるで西部劇。

 

「貴様が自分の命の時間をぶち撒けたように…臓物も撒き散らしながら死ねぇぇーっ!!!」

 

指揮棒を投げ捨て、右手を大きく払い込みながら放つのはアダマスの鎌を用いた豪快な右薙。

 

鈍化する世界。

 

ほむらはホワイトライダーから習った戦場弓術を思い出しながら弓道とは違う姿勢を作る。

 

右薙が迫る刃を身を低めて避けるために後ろ足に重心を置きながらしゃがみ込む。

 

弓を斜めに構えながら胸から下に向けて矢を引き絞る。

 

頭上をかすめるように刃が通り抜けると同時に斜め上に目掛けて矢を放つ。

 

高速で迫りくる矢に対して複数の山鎌を放たれていく。

 

それでも光の矢は次々と山鎌を破壊して突き進み、共に旅した仲魔の頭部に直撃するのだ。

 

「ガッ……」

 

光の矢は機械仕掛けの翁の頭部を破壊しながら貫通する。

 

倒れ込んだ翁の頭部に残っているのは口元のみであった。

 

「……私は超えたわ。まどかを守る盾を……穿つ力を用いて……」

 

最後の力を使い果たしたほむらもまた地面に倒れ込む。

 

盾と弓、守る者と穿つ者との戦いの決着であった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

ふらつきながらも立ち上がり、魔法の杖をつきながら翁の元に向かう彼女の余力は既にない。

 

頭部が半分破壊されて地面に倒れ込んだ時の翁の姿を確認し、トドメを刺したものだと願う。

 

「……愚かな事をしたな、小娘」

 

口元しか残っていない頭部が突然喋りだし、慌てる彼女だがトドメを刺す力は残っていない。

 

「ワシの砂時計の運命は絶対じゃ…だが万が一ワシを倒せた場合には…他の手段もあった…」

 

「他の手段ですって……?」

 

「実体が失われる前に砂時計を傾ければ…死の運命を逆転させられたものを…ぶち撒けおった」

 

「私の死…それはもう逃れられないと言いたいの…?」

 

「死神のワシが刈り取らずとも…お前さんの命は消える…死が訪れるのじゃよ…」

 

「…………」

 

「自ら命を捨てたのなら自ら命を終わらせる…これもまた魔法少女の逃れられない因果じゃ…」

 

「まどかが魔法少女に希望をもたらしてくれた因果によって…絶望死する結末はもうないわ…」

 

「お前さん達は決して…逃れられん…コトワリがそれを許さなくとも…()()()()()()()()()()

 

勝敗は決したと判断した者達が拍手を送ってくる。

 

周囲を見渡すと建物の屋上からほむら達を見下ろしながら拍手を送る堕天使達がいたようだ。

 

「…あの者達は襲ってこなかったわ。奴らは何者なの?」

 

「エグリゴリの堕天使達だ…お前さんの姿を一目見たいと…集まって来おったわ…」

 

「エグリゴリの堕天使…?秘密結社か何かなの…?」

 

「イルミナティやフリーメイソンとは違う、あの御方直属の地上実働部隊じゃ…」

 

「あの御方直属の実働部隊…?」

 

「ホワイトライダーより聞かされたであろう…遥か太古の地上で召喚された堕天使達の存在を」

 

「旧約聖書の儀典であるエノク書に描かれた…堕天使の一団ね…」

 

堕天使達はヘルモン山に召喚され、密命を受けた者達が現れたとほむらは聞かされている。

 

カルメル山とはイスラエル北部の山であり、イスラエルの土地は元々はカナン族の土地である。

 

「出エジプト記においてイスラエルの民がカナン族の土地を奪い取って建国を行った地ね…」

 

「エグリゴリの堕天使はカナン族の美しい娘達を娶った。何故か分かるか…?」

 

「欲情したからだと聞かされたわ…」

 

「悪魔の血をカナン族に流し込み…ネフィリムを生み出し…闇のカバラを崇拝させるためじゃ」

 

「悪魔の血…?闇のカバラ…?」

 

「それが今日まで続く…悪魔崇拝とカバラの歴史の…始まりじゃよ…」

 

息も絶え絶えな二人の元に歩んできたのは演奏隊を代表する二名である。

 

「シェムハザ……そしてアザゼルか……」

 

その名はエグリゴリの堕天使達を率いてきたリーダー格の堕天使の名前であろう。

 

人間に擬態したままの二人は死の運命を五回も超えた者に対して敬意を示すお辞儀を行う。

 

堕天使達は新たに生まれるだろう悪魔の姿を目に焼き付けた後、結界内から消えていくのだ。

 

「あの者達と関わり合いになるか…小娘…?それとも世界の終わりを傍観するだけか……?」

 

「わ……私は……」

 

迷っていた時、倒れ込んでいたはずの翁が背後で立ち上がっている。

 

「そんな……まだやれるというの…っ!?」

 

「ワシの中に入った異物ごと頭を消し飛ばしてくれて礼を言うぞ。体の歯車も回りだしたわ」

 

もはや打つ手なしのほむらは両膝をついてしまい、命を刈り取る者を呆然と見つめるのみ。

 

「お前さんは死を乗り越える力を示した。褒美として、ワシの真の姿を…お披露目しよう」

 

翁の姿をした魔人の翼が折り畳まれていき、開くと同時に羽をまき散らしながら消えてしまう。

 

結界世界に巨大な振動が巻き起こっていくが、ほむらにはどうする事も出来ない。

 

赤き雷雲が渦巻くように収束していき、天に現れた神の御姿を見た彼女はこう口にするだろう。

 

「……デウス・エクス・マキナ(機械仕掛けの神)!?」

 

巨大な天使の翼を背後から生やして現れたのは巨大な魔法の盾。

 

このような存在を表す言葉として古くからある存在こそがデウス・エクス・マキナである。

 

古代ギリシャの演劇において劇の内容が錯綜して()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

そうなった時、絶対的な力を持つ存在である神が現れるという。

 

機械仕掛けで登場する神ないしは舞台装置として解決に導く神そのものが機械仕掛けであろう。

 

混乱した状況に一石を投じて解決に導き、物語を収束させるという()()()()()()()()()存在だ。

 

古代ギリシャの時点で既にこの手法は批判されている。

 

演劇の筋はあくまで必然性を伴った因果関係に基づいて導き出されていくべきである。

 

行き詰った物語を前触れなく解決に導いてしまうこのような()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

鹿目まどかの悲劇の物語、それをどんでん返しするためにルシファーが用意した神でもあろう。

 

ご都合主義の機械の神がもたらしたものとは反キリスト。

 

まどかに因果のもつれた糸を絡みつけて消滅に追い込み、平行宇宙の終わりさえもたらす存在。

 

機械の神はただの砂時計の機械を演じており、故に機械を動かすには人の意思がいる。

 

幸せを望む物語の全てを悲劇として演出してしまった人物こそが暁美ほむらであろう。

 

自ら紡いだ因果とは、()()()()()()()()()()()()()()()のであった。

 

「私の……盾……」

 

神々しく天に現れたのはかつての魔法の盾。

 

それがここまで巨大な神域の概念存在であったと思い知らされたほむらは震えが止まらない。

 

円盤盾の表面を上下から中央に向かって飾るのはマガタマを模した6と9に見える陰陽太極図。

 

陰陽の円形カバーが開くとそこに見えたのはかつての機械構造ではなかったようだ。

 

<<これが我の真の姿。汝が身につけていた盾とは、我の一部であり、我自身なのだ>>

 

中央部の剥き出し部分から地上を見下ろしてくるのは神の一つ目であるプロビデンスの目。

 

<<今こそ語る時がきた。汝の左腕に授けた我々の刻印の正体を……教えよう>>

 

自身の盾だった巨大な時間神がほむらに問いかけてくる。

 

<<汝は自分の盾の模様を見た時、何も感じなかったか?>>

 

「私はあの盾をまどかを救う道具として利用していただけよ…模様が何だって言うの…?」

 

<<我の模様には数秘術であるゲマトリアが隠されている。よく見よ……>>

 

ほむらの盾をよく見て欲しい。

 

模様として目立つのはマガタマを模した6と9の砂時計だが、それ以外もある。

 

中央の円に絡みつくように伸びた二つの6と9。

 

これらが何を意味しているだろうか?その答えは()()()()である。

 

6666とはエンジェルナンバーやルシファーの軍勢の数字などと言われるのが通説。

 

しかしこの数字の中にこそ、真の意味が数秘術によって隠されているのだという。

 

計算すればこうだ。

 

6×6×6×6=1296になる。

 

1+2+9+6=()()()()()()となり、ルシファーやサタンを表す獣の数字となるだろう。

 

1+8=9でもあり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()数字。

 

数秘術の9の意味は寛容で慈愛の存在というが、暁美ほむらからは最も遠い意味を持つ。

 

ならばこれに彼女が繰り返してきた反キリスト行為である()()()()()()()()を行えばどうなる?

 

たどり着く答えは一つであり、それは()()()()()()()()()であろう。

 

その形とは悪魔を生み出す人修羅のマガタマの形でもある。

 

全ての6666を取り払った盾の模様には何が残るのか?それは一つ目の模様である。

 

プロビデンスの目、悪魔(神)の目に見張られてきた者とは6(悪魔)となる者。

 

6は数学では完全数でも、聖書では永遠の完全数である7になる事が許されない不完全な数字。

 

天地を6日で創造した神の権威を得ようと足掻いたサタンは6の数字を自身の権威とする。

 

故に6とは悪魔を表す数字であると同時に、大いなる神を表す数字ともなるだろう。

 

「悪魔とは聖なる存在に擬態し、隠れ潜み、内側から乗っ取る事を好む。例えば…()()()()だ」

 

「……嘘よ、そんな話……」

 

<<これが汝の盾の正体だ。それを左腕に与えられし汝とは、()()()()()()()なのだ>>

 

「嘘よ……ッッ!!そんな話は絶対に認めない!!!」

 

<<刻印はまだある。汝の左手を見るがいい>>

 

「この上…何があるっていうの!?」

 

視線を左手に移すと見えたのは切り刻まれた左腕の傷から流れ落ちる血が滴った左手。

 

そこには暁美ほむらのソウルジェムがあるはずだが、異変を感じてしまう。

 

「あ…あぁ…何…?何なの…これ…?」

 

左腕から滴る血がソウルジェムを土台にしてなぞるように流れ続け、何かの模様を描いていく。

 

指の甲をなぞり、左手の甲全体を使って描かれていく血染めのシンボルとは何なのか?

 

「嫌…嫌っ…嫌ぁぁぁーーッッ!!私の手の甲に…何故こんな模様が…っ!!?」

 

彼女の手の甲に浮かんだ刻印こそ、()()()()()()()()()と呼ばれるもの。

 

その刻印は()()()()()()()()()を表すシンボル。

 

サタンを人間が接触したり嘆願したりする相手となる超自然的な存在・力とみなす信仰である。

 

こうした信仰を持った組織や結社をおおまかに指す事もある伝統的なサタニズムシンボルだ。

 

有神論的サタニズムは無神論ではなく有神論を採用する。

 

サタンは概念のようなものではなく、むしろ実在すると考える。

 

サタニズムにおいてサタンとは個人主義と自由思想を慫慂(しょうよう)してくれる存在。

 

魔術や秘儀伝授といった方法によって反抗に対して自己を高める追求という()()()()()()()

 

自身が他者にコントロールされたり抑圧されたり群衆に従わされたりする手段を除去する道。

 

それこそがサタニズムを表す信仰であった。

 

「私…いつの間に…?私に近づいたあの男が…悪魔の刻印を私に刻んだの…?」

 

思えば暁美ほむらが魔法少女として生きてきた道とはどんなものだったのだろうか?

 

自分の言葉は届かないと殻に閉じこもり、周りの魔法少女達の言葉さえ聞く耳持たない人生。

 

まどかを救う目的のみに邁進した自己完結の生き方。

 

まどかを救うというお綺麗な独善的大義名分を振りかざし、我儘を貫いてきている。

 

その在り方こそがサタニズムの道。

 

それによって、どれだけの世界で地球を滅ぼすまどかの魔女を結果として生み出したのか?

 

まどかを救えなかった世界などゴミのように見捨てては人類を見殺しにしてきたのだろうか?

 

赤の他人である人間達の涙と絶望など、暁美ほむらにとっては価値などない。

 

救いたかったのは、交わした約束をした相手である鹿目まどかのみという独善しか残らない。

 

まさに善意によって舗装された数々の地獄の道のりがそこにはあった。

 

<<汝の生き様を我は共に旅し、見てきた。言い訳は出来ない…我が保証人だ>>

 

「嫌ッッ!!!言わないで…私は…違う……違う……ッッ!!!」

 

<<汝の生き様はまさに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()そのものだったぞ>>

 

「いやぁぁぁぁーーーーーーーーーーッッ!!!!」

 

自分の化けの皮を全て剥ぎ取られていく。

 

言い逃れなど出来ない、相手は生き証人なのだから。

 

地面で蹲り、嗚咽を出しては醜い自分を呪う言葉を叫ぶほむらの涙声が溢れていく。

 

暁美ほむらと呼ばれる魔法少女を客観的に見てみたら、こんなにも我儘で自己完結な娘。

 

悪魔のように綺麗事を語り、善人に擬態しては迷惑など考えず、数多の世界を滅ぼしている。

 

それも行動が伴わなければ彼女に肩入れしない者達を騙しようがないだろう。

 

その末路こそ、まさに詐欺師と同じ結末なのだ。

 

<<()()()()()()()()()()()()()が、天国は善行で満たされている。ヨーロッパの諺通りだ>>

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

<<汝の行動は嘘をつけなかったのだ。悪魔の刻印を受けるに相応しい独善者…暁美ほむら>>

 

「ごめんなさぃぃぃぃ……ッッ!!!」

 

円環のコトワリによって書き換えられた世界こそ、デウス・エクス・マキナの如きご都合世界。

 

神様に無かった事にされた数多の世界の終焉であるが罪は消えない、()()()()()()()()()()()

 

ご都合主義を司るデウス・エクス・マキナ自身にそれを批判されるのは皮肉そのものだろう。

 

<<醜き者よ、汝の死が訪れる時が来た…そのみすぼらしい姿では死にゆくは…哀れか>>

 

泣き崩れたままのほむらの周りに温もりの光が出現し、彼女の傷と衣服の損傷も修復していく。

 

『ディアラハン』と呼ばれる悪魔の回復魔法の中でも最上位の回復力をもつ復元レベルの力だ。

 

<<汝はもはや悪魔からは逃れられない。汝が我を望むならば与えよう…再び我の力をな>>

 

デウス・エクス・マキナである時間神クロノスの姿が消えていく。

 

泣き崩れたほむらの左腕に光と共に現れたのは、かつての左腕にあったモノ。

 

「嫌ッッ!!お前なんて私はいらない!!離れて!離れなさいよッ!!!」

 

左腕に取り憑いた悪魔を無理やり剥がそうとするが、盾の装着部位が左腕に食い込み外せない。

 

<<これより新たに向かう世界は汝にとっては最後となる因果だ。導こう、かつてのように>>

 

ほむらの意思に関係なく、魔法の盾の機械式砂時計が反対に回る。

 

世界にヒビが入り、魔法の盾が違う世界に向けて流れ落ちていく。

 

何度も見てきた時間渡航の道に流されるままとなった者こそ、時間渡航者である暁美ほむら。

 

彼女が辿り着くだろう暁美ほむらの人生の最果ての地とは何処か?

 

かつての世界で繰り返してきた病院のベットの上での覚醒か?

 

そんな生易しい景色などではないのだ。

 

「……ここは、記憶の回廊?」

 

メノラーを持った姿をした自分の姿を眼鏡ごしに見てそう判断するが、景色は変わっている。

 

メノラーの光で宮殿の玄関を構築する多目的ホールを思わせる豪華な空間が照らされていく。

 

すると魔法少女達が使う念話のような声が聞こえてきたようだ。

 

<心せよ、小娘。お前さんは既に第6の魔人が支配する結界内に囚われている>

 

<お前は!?年寄りのオンボロぜんまい盾なんて…私は要らないって言ったでしょ!!>

 

<そこまで酷く言われた覚えは…まぁいい、口論している暇は無い>

 

<言われなくても分かってるわよ!!>

 

<既に奴はお前さんを見つけた。メノラーのその光量では隠れられないのぉ…>

 

<奴ですって…?潜む者のこと?>

 

<ここはお前さんの夢の世界。それ故に魔法少女としての力など使いようがない>

 

<どうりで私の姿が無力で病弱な姿をしていたわけね…今でも偶に病弱な私を夢で見るわ…>

 

<夢の中でも人の精神は殺せる…奴に殺されたらお前さんの精神は死ぬのだ>

 

そうなれば一生抜け殻のまま円環のコトワリに救済される事もない廃人となるだろう。

 

末路は魔獣に感情を吸われた者と同じようなものだと伝えられたほむらの顔に冷や汗が滲む。

 

<お前は私の死を望んでいたんじゃないの?>

 

<そうじゃ。だがそれは廃人になって抜け殻となるような結末ではない>

 

<訳の分からない年寄りね…こんなお爺さんを左腕に抱えて旅をしてたなんて…泣けるわ>

 

<ワシは何もしてやれん。警告はした、後はお前さん次第じゃよ>

 

時の翁であるクロノスの念話が消えていく。

 

今の彼女は眼鏡をかけていた頃の病弱な娘であり、戦う力など皆無。

 

それでもあの潜む者を倒せるのだろうかと考えれば、勝算は無いに等しい。

 

「私は超えるわ…ここで死ぬわけにはいかない!死ぬのは魔法少女の使命を終えてからよ!」

 

意を決した彼女はメノラーの灯りを前に向け、エントランスホールの巨大な階段を登っていく。

 

灯りが奥に向かって行くとホールを暗闇が支配していく。

 

そのホール内の暗闇には既に白いヴェールを被った潜む者が立っていた。

 




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