人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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6話 インキュベーター

教会の清掃を行っている者が独りだけで清掃作業を続けている。

 

佐倉牧師は信仰の布教で外出しているようだ。

 

「魔法少女……か」

 

それはキュウべぇと呼ばれる存在と契約し、願いを叶えられた者達。

 

この世界に呪いと災いをもたらす魔女と戦う使命を負わされる者達だと聞かされている。

 

「キュウべぇとかいう存在は…あいつらの魂を石ころの中に閉じ込める秘密を隠しているな…」

 

それだけでなく人間の魂が穢れるとはどういう意味があるのか?それを考え込んでしまう。

 

「悪魔種族の幽鬼にでもなるのかな…?」

 

ソウルジェムの穢れというものが単なる魔力消費を表すだけのものでしかないとは思えない。

 

「もし霊魂が怨念によって穢れ、幽鬼と同一的な存在となるとしたら…生み出されるものは…」

 

悪い方向にしか考えが巡らない彼は深く溜息をついてしまう。

 

その時、不意に誰かの視線を感じたようだ。

 

「まただ…やはり祭壇の十字架から神のような視線を感じる。俺が最も嫌悪する何かがいる…」

 

祭壇がある階段前まで歩いた後、十字架を見上げる。

 

「なんだ…?何か白くて小さいのが……見える」

 

それは白いネコのような外見をした生き物のように悪魔の彼には見えてしまう。

 

尻尾はキツネのように太くて長く、瞳は丸く真紅の色。

 

背中には丸く赤い入れ墨のような毛並み。

 

それだけでなく、彼にとってもっとも嫌悪するものがその生き物にはあるようだ。

 

「ただの白猫じゃない…耳から生えてるのは翼?それに翼を覆うあれは…()使()()()?」

 

その生き物は十字の横側部分に立ち、彼を見つめてくる。

 

「…君には、ボクの姿が見えるんだね?」

 

「お前がもしかして……キュウべぇとかいう奴か?」

 

何気ない昼頃、秩序である天使と混沌である悪魔が対峙する瞬間が訪れるのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「姿が見えるのかと聞いたな?なら…お前も俺達悪魔と似た存在だということか?」

 

「自分達と君は言ったね?なら君以外にも君と同じ存在がいるという事でいいのかな?」

 

「お前がキュウべぇとか呼ばれる存在なのか?」

 

「その通り。それにしても驚いた…ボクの存在が見える人物が男性の中にいるだなんてね」

 

「魔法少女って奴から聞かされてる…お前の存在は魔法少女しか見えていないとな」

 

「それに興味深い事を口にした。悪魔と似た存在とは……どういう意味だい?」

 

神・天使・悪魔達の姿は普通の人間には見えない概念存在。

 

人々はそれを観測することは出来ても認識する事は出来ないと尚紀は語っていく。

 

「そうだね、イメージ世界の存在が現実に見える者など本来ならいないはず」

 

もし概念存在が受肉出来たとしても、それを視認する事は出来ない。

 

人々が霊魂を認識出来ないようなものだろうとキュウべぇは語っていく。

 

「その理屈通りになると、さっき言った俺の言葉も疑わしくなってきたな……」

 

「君は悪魔と自分の事を名乗ったけど、あまり自分の事を把握出来ていないようだね?」

 

「俺は人なる悪魔…創られた存在。半人半魔の中途半端な存在だから人々に認識されるのか?」

 

「実に興味深い存在だ。境界が曖昧で中庸的、物質と概念どちらの存在ともいえる」

 

そんな存在は神話の世界だけかと考えるのは普通のことであろうとキュウべぇは語る。

 

「神話か……ヨーロッパ神話なら半神的英雄の話をいくらか聞いた事があるぐらいだな」

 

「半神的存在と同一に思える…そうでなければ素質ある者以外でボクが見える者などいない」

 

「まぁいい、自分の事は自分で考える。それよりも…詐欺師のお前に聞きたい事がある」

 

「詐欺師?ボクは君を騙した事など一度もないけどね」

 

「お前は何故魔法少女達の魂を…ソウルジェムと呼ばれる檻に閉じ込め、屍に変えた?」

 

「驚いたね?君には人間の魂が見えるのかい?ますます神の如き存在に思えてきたよ」

 

「人間の魂が穢れきるという末路なら……悪魔の俺は大体予想がつく」

 

「へぇ?魔法少女の魂が穢れきった時、一体どんな事態になるというのか…君の意見を聞こう」

 

恐らくは、この世に災いを撒き散らす存在となると悪魔の彼は自分の考えを伝えていく。

 

「いい線いっている。そこまで察しがついているなんてね?」

 

「答えろ……何故魔法少女達を……」

 

――()()()()()()

 

悪魔の知識がある彼にとっては、そうとしか考えられない。

 

魔法少女の末路の推察を伝えられた詐欺師は赤い目を開きながら驚きの声をあげる。

 

「正解だ。それを見抜くとは…やはり君の存在はボク達と同じなのかもしれないね?」

 

「このゲス野郎…白々しい態度しやがって。あいつらに隠して何を企んでいる?」

 

「それは君には関係ない話だ。それより、その考えに至れた君の知識にボクは興味がある」

 

「あのソウルジェムの穢れ…あれと似たものを…かつて在った世界で見たことがある」

 

「かつて在った世界?」

 

「人間の負の感情エネルギー……()()()()だ」

 

禍つ霊(マガツヒ)とは意識存在の精神エネルギーであり、苦痛を与えて感情から絞り出せる。

 

空間にも一定量存在するが、人間社会が生み出す僅かな苦痛エネルギーに過ぎないようだ。

 

マガツヒは様々な色をしており、赤く小さい星のような煌めきのようにも見えたと彼は語る。

 

「君は感情エネルギーの存在まで知っているなんてね…驚かされるばかりだ」

 

「俺は別の世界から流れてきた来訪者だと言えば…信じるか?」

 

「その言葉を信じるなら…君は多次元宇宙からの来訪者なのだと考えていいのかな?」

 

「好きに解釈しろ。それより感情が集積されるための器、それがソウルジェムの正体なのか?」

 

「その通り。ボク達は彼女達を精神的に苦しめる必要がある…全ては感情エネルギーのためだ」

 

「天使というよりは…()()()()()()()()かつてのマネカタのように拷問する姿がそっくりだ」

 

悪魔も感情エネルギーであるマガツヒを搾り取るためにマネカタと呼ばれた人間を拷問する。

 

拷問によって体から噴き出すマガツヒを啜る悪魔共の姿を彼は未だに覚えているのだ。

 

真似方(マネカタ)

 

人間を模した擬人であり、ボルテクス界では弱き人間のような存在。

 

東京受胎の際、人々はことごとく命を失っていく中で人の強い感情が残されていく事となる。

 

強い感情は泥の中へと宿り、命と形を得てマネカタという形を成す。

 

創世に必要な感情エネルギーであるマガツヒを生み出すための仮初めの命として苦しめられた。

 

「マネカタ、マガツヒ?聞いた事がない言葉だけど同じ仕組みでエネルギーを生む存在かい?」

 

「他人事のようにしやがって。お前は俺達悪魔と同じ事を繰り返しているんだぞ?」

 

「ボクも聞いてみたいね。君も悪魔だと言うのなら…感情エネルギーを必要としないのかい?」

 

「俺は一度もマガツヒを喰らった事はない」

 

マネカタを奴隷とし、拷問を繰り返した悪魔連中と一緒にするなと彼は眉間にしわを寄せる。

 

「悪魔だと名乗る割には…君は随分とお人好しみたいだね?」

 

「お前は感情エネルギーを集めて何をする気だ?」

 

「そこまで分かっていながら、ボク達の目的までは見抜けていないようだね?」

 

そう語った後、キュウべぇは十字架の上から祭壇に飛び移る。

 

「君がボク達と同じ存在だと認識出来たし、改めて名乗るよ」

 

――ボク達の本当の名は……()()()()()()()()さ。

 

彼も階段を登りながら祭壇の前に立ち、目の前の悪魔天使に対して静かな怒りで震えていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

神の家である荘厳な教会、ここは神なるものの存在を感じさせる空間。

 

インキュベーターと名乗る存在は神の家で自らの存在を堂々と表す。

 

「ボク達はね、宇宙を内側から温めて育てる存在。そのために宇宙エネルギーを必要とする」

 

「感情エネルギーの収集が宇宙の延命行為…?宇宙の秩序を司る存在なのかよ?」

 

「そうだね。感情エネルギーの宇宙エネルギーへの転換を目的にしているんだ」

 

カバラ神秘主義で言えば物質界を構成するエネルギーを表せる。

 

宇宙チャクラとも呼ばれるエネルギー管理者こそがインキュベーターなのだろう。

 

「宇宙エネルギー管理者…それがお前か?一体どれ程のマガツヒを魔法少女から搾り取った?」

 

「宇宙を温める熱エネルギーは莫大なんだ。それらを効率的に回収する方法がある」

 

「効率的に回収する方法だと…?」

 

「最も最適化としてボク達が選んだ手段は……()()()()()()()()()()()()()()()

 

魔法少女の希望が絶望に相転移し、魔女として孵化させた時、膨大な絶望エネルギーが溢れる。

 

それを聞かされた人なる悪魔は目の前の存在は自分と同じ悪魔なのだと確信するだろう。

 

「…やはりお前は悪魔だ。人を苦しめる事に対して何も悪びれていねーな…」

 

「悪魔もボク達と同じ事をしてきたんだろ?物理的な拷問はボク達も考えたが効率が悪かった」

 

だからこそ願いを叶えさせて希望を与え、満足した瞬間に地獄に突き落とす。

 

この落差の相転移こそが莫大な感情エネルギーを生み出すのだとキュウべぇは教えてくれる。

 

「ゲス野郎を通り超えてもはや外道だな…?確かに…その方法が効率のいい搾取なんだろう」

 

「理解が早くて助かる。魔法少女は宇宙のエネルギーとしてボク達が飼育している家畜なのさ」

 

「ソウルジェムを失った魔法少女はどうなる?本当の意味で屍になるのか?」

 

「彼女達の魂が外側に影響を与える範囲は精々100m内。それを超えたら彼女達は屍になる」

 

「ソウルジェム、それは人間の魂そのものだ。もしそれが砕かれた場合においても…」

 

「もちろん、魂が砕かれた以上は…それは人間でいう死を意味するね」

 

「たいした死霊術師だな?そこまで死と絶望へと誘う事が出来る悪魔など…数えるぐらいだ」

 

「魂を外に移す事にはメリットもある。痛覚そのものをコントロールし、痛みさえ取り除ける」

 

「便利なものだな?戦闘でどれほど痛みを与えようが怯まない連中なのか?」

 

「ソウルジェムさえ無事なら心臓をえぐられようが全身の血を抜かれようが生きていられるね」

 

「フン…便利なものには裏があるんだろ?」

 

必要以上に生命維持の魔力を消費してしまえば何が起こる?

 

考えるとしたら()()であり、それが魔女化を促すための仕掛けなのかと尚紀は問いかけてくる。

 

「やれやれ、君は本当に理解が早いね?流石はボク達と同一存在なだけはある」

 

(知れば知るほど反吐が出る存在だな……)

 

「さて、そこまで魔法少女達について興味があるのなら…聞きたいんじゃないのかな?」

 

「ムカつく野郎だが…聞いてみたい。俺の質問内容を察してみろよ」

 

「推察は簡単さ。君は魔女化した魔法少女を元に戻せるのかと考えているんだろう?」

 

「聞く必要はない。魂が悪魔になったら元に戻れないのと同じ…俺も二度と人間には戻れない」

 

「その通り…一度魔女になったら最後、世界に呪いを撒き散らすだけの()()()()()んだ」

 

それを処分するのが魔法少女達の役目となるのだろう。

 

穢れによって生み出された魔女が魔法少女の魂の穢れを取り除く延命道具ともなり循環する。

 

「出来過ぎた仕組みだな…これで疑問に思っていた魔法少女の部分は全て把握した」

 

「有意義な議論の時間だったよ。ありがとう、ボク達と同じ存在」

 

(そしてこいつが……俺がもっとも殺したい連中と同じ存在だということもな)

 

「ボク達はこの星に訪れた存在。君達でいう地球外生命体と言ったところかな?」

 

「そして…お前達の後ろには大いなる存在がいるんだろう?この世の内側ではなく…()()()()

 

その一言を聞いたインキュベーターは黙り込んでしまう。

 

この存在はインキュベーターの始祖にまつわる存在まで知っているのだと理解するのだ。

 

「もう一度確認させてくれないかい?君は……本物の悪魔で間違いないんだね?」

 

「そうだ…俺は悪魔であり…神の敵対者だ」

 

「これで全ての疑問に答えが出たよ。君は……()()()()()()()だと理解出来た」

 

「そうかい?なら俺も役に立つ情報を与えてくれたことだし…お前に礼をしてやるよ」

 

「えっ?」

 

そう言った瞬間、キュウべぇの頭は弾け飛ぶ。

 

人なる悪魔の右手の構え方は指弾を放つ形となっている。

 

掌内で圧縮した空気を固めた弾丸をお見舞いしたようだ。

 

「これではっきりとした。こいつの後ろには……大いなる神とその御使い共がいるとな」

 

<<やれやれ、酷いじゃないか>>

 

殺したはずのインキュベーターの声が教会内に木霊した時、尚紀は後ろを振り返る。

 

「何体もいるのか…見た目が同じ連中が……?」

 

殺したはずのインキュベーターと同じ形をした存在が祭壇に登る階段から上がってきたようだ。

 

「ボク達には死の概念など存在しない。ボク達はただの端末に過ぎないのだから」

 

そう言って現れたインキュベーターが祭壇に飛び乗った後、見るのも憚られる行為を始める。

 

殺された個体の()()()()()()()()()()光景を見つめる中、かつての悪魔の一体を思い出す。

 

(……まるで無限増殖しながら襲ってきた威霊アルビオンだな)

 

恐らくキュウべぇを倒すには全ての個体を破壊する必要性があるのだろうと考えてしまう。

 

(一体この星に…何体コイツらがいやがるのか…検討もつかねーよ)

 

「確信したよ。君の存在はこの世界に決して在ってはならない…受肉した神の敵だ」

 

「ならどうする?お前の力で俺を始末するか?」

 

「君の力は未知数だ。そんな相手を前にして、無謀な行動をすると思うのかい?」

 

そう言った後に祭壇から飛び降り、教会から出ていこうとするが後ろに振り返る。

 

「君の力は観測させてもらう。君はこの世界にとって…あまりにも大き過ぎるイレギュラーだ」

 

「お前の後ろにいる連中に言っておけ。首を洗って待っていろとな」

 

悪魔から宣戦布告されたインキュベーターは今度こそ去っていく。

 

「宇宙を延命させるために多くの少女達の魂を生贄にするインキュベーターか…胸糞悪いぜ」

 

考えを纏めようとすればするほど苛立ちが増してしまう。

 

「繰り返させない…人間を秩序の生贄にはさせない…人間には運命を選ぶ自由の権利が必要だ」

 

教会のドアが開く音がして振り返ると学校から戻ってきた風華が立っている。

 

「尚紀?どうかしたのですか?」

 

押し黙ったまま何も喋らない彼を心配する彼女は彼の元まで歩み寄ってくる。

 

「何かあったんですか……?」

 

眉間にしわを寄せながら目を瞑った後、決意を込めた眼差しをしながら彼女に向き直る。

 

「……風華、俺がお前の力になってやる」

 

「え…?」

 

初めて自分の名前を呼んでくれた尚紀に対して彼女は驚きの顔を見せてくる。

 

「お前の魔女狩り、俺も参加させてもらう」

 

小さな反逆に過ぎないのは彼だって分かっている。

 

魔法少女のシステムそのものを変えられなくてもいい。

 

恩人である目の前の少女の運命くらいは変えてみせたいと彼は決意を固めてくれるだろう。

 

人間は神の家畜として支配されるべきではない。

 

人なる悪魔はそう心に言い聞かせるのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

次の日の夕方、風華が自転車に乗って教会に訪れる。

 

この時間帯の彼女は杏子とモモと接する時間なのだと、今は違う存在と付き合うだろう。

 

「来たか。それじゃ、魔女狩りに行こうぜ」

 

「本当にいいんですか、尚紀?帰りが遅くなったら…佐倉先生が何ていうか…」

 

「お前の私用の手伝いに向かうと言っておいたから大丈夫だろ?」

 

「貴方の力を疑いませんが…佐倉先生の大事な家族にもしものことがあったら…私…」

 

「他人よりも自分の事を優先しろ。満足に魔女を手に入れる事も出来ない女のくせに」

 

「…分かりました。それじゃあ、自転車の後ろに座って下さい」

 

「男の俺を後ろに乗せて大丈夫か?」

 

「フフ、恋人と勘違いされたりして♪」

 

「……余計な事を言ってないでさっさと行けよ」

 

気恥ずかしくなった彼は自転車の後ろの席に対して後ろ向きに座り込む。

 

(一体何が彼を変えたんでしょうね?でも…嬉しいです。また誰かと共に戦えるなんて…)

 

「いきましょう、尚紀!」

 

「安全運転で頼む」

 

彼女は自転車をこぎながら彼と共に教会を後にするようだが、隠れて見送る子供もいる。

 

「……ふう姉ちゃん。今日はあたし達と遊ばずに…あいつと一緒に出かけるのかよ…?」

 

教会の柱の影に隠れていた杏子は不満そうな顔を向けながら二人を見送ったようだ。

 

夕方の日差しが降り注ぐ風見野市郊外の田園地帯へと自転車は進んでいく。

 

その道を走る風華の後ろでは風見野市を見物する尚紀がいてくれる。

 

「住宅もまばら…人が集まりそうな公共施設も見かけないせいか…人通りも少ないな」

 

「風見野市は田舎の街ですからね…人が集まる場所も市の中央にある繁華街ぐらいです」

 

(魔女が集まりそうもないこんな場所を…コイツは延々と自転車で彷徨ってたのか…?)

 

「私のソウルジェムで魔女や使い魔の魔力を探さなくてもいいんですか?」

 

「俺が見つける。運転に集中していろ」

 

「分かりました」

 

二人は郊外の田園地帯を自転車で巡回するが、魔力反応は殆ど感じない。

 

「なぁ、こんな場所を延々と回ってても仕方ないだろ?繁華街の方が効率がいい」

 

「駄目です。彼女達の縄張りで活動を行えば…縄張り争いになってしまいますから…」

 

「そんな事を言ってる場合かよ?魔力を回復出来ないだろうが?」

 

「大切なのは一人でも多くの人が救われること…私はそう信じています」

 

「救いようのないお人好しめ…よく今まで生き残れてこれたよ」

 

「人のいない郊外に迷い込んだ使い魔を相手しながら生きてきたんです」

 

魔女を孕むか分からない使い魔程度で食い繋いできた者に対して深い溜息が出てしまう。

 

夕日に輝いた風見野市を自転車に乗りながら眺めていた時、その美しさを実感していく。

 

「小さな地方都市だが…美しい光景だな。東京しか知らない俺には田舎の方が新鮮だ」

 

「そう言ってくれると地元の人間として嬉しいです」

 

「都会人の俺から言えば…遊ぶところもない辺鄙な場所だけどな」

 

「遊ぶところは少ないけれど気持ちがいい風が吹く街…だから私は愛しています、この街をね」

 

「風見野市……風が見える野原のような街だな」

 

不意に彼が魔力を感じ取った事で運転手に伝えてくる。

 

「魔女にしては小さい…使い魔だろう。どうする?」

 

「もちろん倒します!どちらですか?」

 

「……あっちだ」

 

魔法少女にとって使い魔を倒したところで得られるものは何もない。

 

それでも風華は人々のためにその身を犠牲にし続ける選択を繰り返す。

 

(こんな事を続けていたら…いずれは持たなくなるぞ)

 

先が思いやられると感じていたが彼女の信念を否定する事は彼には出来ない。

 

その優しい気持ちは彼とて同じであったのだから。

 

「使い魔の数は…それなりに多そうだ」

 

「さぁ、いきましょう!」

 

彼女は左手にソウルジェムを出現させる。

 

魔法少女はソウルジェムを探索に使うだけでなく魔法少女に変身する際にも用いる者達。

 

(そういえば、俺はコイツが魔法少女に変身する場面を見るのは初めてか?)

 

いかにしてあのコスプレめいた服装になるというのか彼も気になっている。

 

彼女のソウルジェムが光を放ち、眩い光景が見えてしまう。

 

(……不味いな、ここから先はR()()()()

 

返信シーンを見物してしまった彼は後ろを向いてしまう。

 

「どうかしましたか?」

 

悪魔の彼には魔法少女の変身シーンが一瞬ではあったが全て見えていたのだろう。

 

(魔法少女って連中は……いちいち全裸になって変身するものなのか?)

 

赤面した顔で後ろ髪を掻いている彼の心境なら男達なら分かるだろう。

 

(昔から異性を意識させられる場面は苦手だよな……俺)

 

「どうしたんですか?顔が真っ赤ですよ?」

 

「うるさい、さっさと行くぞ」

 

「あ、尚紀ってば~!」

 

照れた顔つきのまま使い魔の結界へと彼は進み、魔法少女も後ろからついてくる。

 

魔女の結界ほど規模は大きくないが魔女同様にしてその決壊内部は陰惨そのもの。

 

「いたぞ」

 

「凄い数ですね…今まで流れてきた使い魔の規模に比べたら、今日はかなりの数です」

 

「おおかた連中の嫌がらせってところだろう」

 

パーカージャケットを着たままの尚紀が悪魔化していく。

 

全身に発光する悪魔の入れ墨が浮かんでいき、首裏からは悪魔の一本角がせり出してくる。

 

「結界内で忘れ物をしたら結界ごと消えてしまうしな…上着は着ておくか」

 

「私が前に出ます!背後に回り込んでくる使い魔達をお願いしますね!」

 

「お前は引っ込んでろ」

 

「でも…この数ですよ!?」

 

「問題ない」

 

彼は左腕を垂直に構え、ボクシングでいうジャブの構えを行う。

 

「時間をかけるつもりはない。お前ら、相手が悪かったな」

 

一匹の使い魔が彼に飛び込んできたが一瞬で消し飛ぶ。

 

「くっ!!今の一瞬で……なんて凄い拳圧と衝撃波なの!?」

 

風華は両腕で顔を覆い、彼の底知れない力に戦慄してしまう。

 

次々に飛び込んでくる使い魔達だが接敵する事も出来ずに次々と消し飛んでいく。

 

その度に衝撃波が巻き起こり、凄まじい暴風を巻き起こす。

 

「ガキの群れでも相手している気分だな。弱かった時期の俺なら手こずったろうが……」

 

拳速がどんどん加速していき、無数の拳の嵐が吹き荒れる。

 

拳が届かなくても彼の拳から放たれる拳圧によって使い魔達は粉々に消し飛んでいくのみ。

 

「凄い……もうあらかたの使い魔を倒してしまいましたね?」

 

「見惚れている場合か?どうやら後続がやってきたようだ」

 

騒ぎを聞きつけた他の使い魔の群れも合流し、二人は囲まれてしまう。

 

「フン、無駄に数だけで攻めてくるか」

 

「尚紀、私も手伝います」

 

「同じ事を言わせるな」

 

背中合わせに使い魔の群れと睨み合っていたが彼だった不敵な笑みを浮かべていく。

 

「久しぶりに使ってみるか」

 

「え?何をですか?」

 

「お前と同じ、風の魔法さ」

 

右腕を水平にして構えながら前に突き出すと極大の暴風が生み出される。

 

「こ、これは……私と同じ風の魔法!?」

 

深碧の暴風が二人の周りに発生していく。

 

暴風は竜巻と化し、使い魔の群れを巻き上げていくのだ。

 

「なんて強力な風の魔法なの…!?私でもここまでの威力を出せるか…分からない…」

 

これこそが魔法少女の魔法ではない悪魔の魔法。

 

使い魔の群れは暴風に体を千切られていき全滅するしかない。

 

「使い魔の結界が閉じる。さっさと行くぞ」

 

「本当に…私が何もしないまま一人で片付けてしまうなんて…」

 

「グズグズするな、置いていくぞ」

 

促された彼女も慌てて後ろからついていき、二人は使い魔結界から脱出する。

 

魔力を消耗し続ける魔法少女にとって得られた成果は何もない。

 

お互いに人間の姿に戻った後、顔を向けてくる男が真剣な顔つきで現実を突きつける。

 

「お前……こんな調子じゃ死ぬぞ」

 

「え…?」

 

「お前の魔力は有限だ。回復出来ない環境に身を置いていたら先はない」

 

「それは……」

 

「お前が死んだら…あの教会の人達みんなが悲しむ。忘れるな」

 

踵を返し、自転車を駐めてある場所まで歩いていく彼の心は叫んでいる。

 

(一人の魔法少女の運命を変える…変えてみせるさ…)

 

インキュベーター、そして大いなる神が生み出した宇宙秩序の理不尽な所業。

 

この戦いこそが理不尽過ぎる光の秩序に対する反逆の一歩目となるのであった。

 




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