人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
ソ連になる以前のロシアが生んだ三大バレエの一つにはくるみ割り人形がある。
初演から100年以上を経て、数多くの改訂版が作られているようだ。
くるみ割り人形とは元々人形の形をしたくるみを割る道具のことであろう。
今から始まる舞台劇はロシアのくるみ割り人形の如き物語となっていく。
少女の願望、その煩悩であるクルミを自分で割り、己にとって死を意味する物語なのだ。
砂と土で作られたくるみ割り人形のお話が始まるのであった。
「今日は当劇場にお越し頂き有難う、アマラ深界で終わりの刻を待つ同士である悪魔諸兄よ」
ステージの幕はもうすぐ上がるだろう。
これは悲哀の物語であり、涙なしには楽しめない。
「もっとも、我々混沌の悪魔達にとっては喜劇となるがね」
期待に胸を膨らませる悪魔達のカウントダウンが始まっていく。
5・4・3・2・1…0。
くるみ割り人形の物語の始まりを示す開演ブザーが鳴り響いていった。
♦
滅びた人類文明と砂と瓦礫に覆われた世界。
人間の文明があった頃なら今の季節はクリスマス・イブの夜となるのだろう。
今日はクララの大切な親友を円環にお迎えするパーティの日。
今日という日を楽しみにしてクララは円環の仲間達と共にお迎えの支度を済ませたようだ。
パーティ会場であるクララの内側では、それぞれが楽しそうに踊っている。
でもみんなはお留守番となってしまう。
大切な親友を迎えに行くのは鞄持ちの二人だけなのであろう。
円環に導かれた鞄持ち達は地上に残した魔法少女と深い関係を持っていたから選ばれる。
凄く綺麗なパーティ会場に続く天の道を用意し、花吹雪が舞い降りながら祝福するだろう。
夢にまで見た笑顔の再会が訪れるのだ。
そんなクララの元に訪れたのは人形使いのドロッセルマイヤー。
クララのために作ったクララドールズをプレゼントしに現れたようだ。
しかしクララドールズを気に入らない円環の鞄持ちがいる。
チーズが好きなネズミのような魔法少女に警戒心を持たれてしまう。
だがもう遅い、パーティ会場ならデキソコナイ様が用意している。
円環の者達は引きずり込まれる末路となるだろう。
少女の甘い願望で作られた砂糖菓子のように脆い世界に招き入れられていく。
叩けば壊れる夢で作られたお菓子の世界へ円環の者達は招待されることになるのだ。
吸い込まれた女神様は自分の存在を忘れていく。
吸い込まれた鞄持ち達は自分の存在を忘れていく。
この子は鹿目まどかであり、見滝原市の中学校に通う何処にでもいる普通の女の子。
でもクラスのみんなには内緒にしている秘密がある。
人間に悪いことをしでかすナイトメアをやっつける変身ヒロインなのだ。
まどかには他の魔法少女仲間達がいる。
今日も5人揃ってナイトメア退治を行うようだ。
皆揃って可愛い変身ヒロインにピッタリの変身バンクと決めポーズを今夜も行う姿を見せる。
<<ピュエラ・マギ・ホーリー・クインテット!!>>
夢の世界で少女達は愉快に踊り続ける。
砂糖菓子に包まれて、甘い願望に包まれて、叩けば壊れる砂糖菓子に包まれたまま躍るのだ。
悪者役の白いマスコットもいるのだが、彼女達は気にしていない様子である。
今日も悪いナイトメアを懲らしめて、魔法少女だけの楽しいパーティは朝まで続くのだろう。
学校が始まる時間までマミの家でお茶会パーティが始まっていく。
終わらない優しい夢のようなお話であり、デキソコナイ様が夢見た理想の世界。
魔法少女を苦しめた悪い夢なんて無かったことにしてしまえばいい。
その方が楽しいし幸せなのだから。
しかし、そんな楽しい世界に疑問を持つ少女が現れる。
「魔法少女の戦いって……これで良かったんだっけ?」
それに気がついたのは、この世界を生みだして大切な人達を巻き添えにしてしまった罪人。
クララドールズからデキソコナイ様と呼ばれる少女であった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
楽しい日常は続いていく。
普通の人間に戻れたみたいな青春の学校生活が広がっていく光景こそデキソコナイ様の理想。
それでも疑問を隠しきれなくなったデキソコナイ様と呼ばれる少女が行動を起こしだす。
彼女は相談出来そうな魔法少女に接触することとなるだろう。
魔法少女仲間の杏子と向かい合うのは眼鏡をかけて三つ編みをしていた頃の暁美ほむらの姿。
最近おかしくないかと質問するのだが、杏子には伝わってくれない。
言ってる言葉は支離滅裂であり、本人だってよく分かっていないからだろう。
それでも暁美ほむらは目の前の佐倉杏子に対して違和感が拭いきれない。
佐倉杏子っは自分のせいで家族を死なせたと思い込み、罪を背負い込んで孤独に生きる者。
そんな子が魔法少女仲間の美樹さやかの家に前フリもなく居候して暮らしている?
さやかの両親は何処の馬の骨なのかも分からない子供の学費と生活費を快く引き受けた?
不自然過ぎる優しい嘘のこじつけのように思えてくるだろう。
元々杏子は見滝原市の魔法少女ではなく、風見野市の魔法少女である。
あっちの街が平和?になったからこっちのマミ先輩の縄張りを手伝っている。
風見野市が平和になったという話など今までの魔法少女生活の中で聞いたこともない。
デキソコナイ様は風見野市が気になり、一緒に里帰りしないかと頼み込む。
語られた内容と変わらないのなら全てデキソコナイ様の勘違いで済む。
「あんた、マジなんだな?」
「ええ」
「地元であたしが通ってた美味いラーメン屋があるんだ。そこで晩飯奢ってくれよ」
根負けしたのか、杏子も乗り気になってくれる。
ロンドンバスが走ってくるが、こんなバス見滝原市にあったのだろうか?
バスの二階に乗った二人を連れた赤いバスは風見野市まで走っていく。
長い橋、大きな橋、お空にかかる橋、沢山の橋、こんな橋の数々は見滝原市にあったのか?
見滝原市の端にあるバスの停留所まで到着し、後少しで風見野市に入れるだろう。
<<次は、見滝原三丁目。安心と信頼の東雲歯科医院は、こちらからお越しください>>
「違う!ここ…左に曲がるはずなのに!?」
左に曲がれば風見野市に入るはずなのに再び見滝原市に到着している。
端の停留所に戻った二人は乗り換えのバスに乗り込み、もう一度トライ・アンド・エラー。
いい加減に走るバスの運転手に対し、ついに杏子が激怒して二階から運転席に飛び移る。
それを制したのはデキソコナイ様。
バスが当てにならないなら今度は二人で歩いてみたけど、辿り着いたのは同じ見滝原市。
「こいつは幻覚か何かか…?あたし達を見滝原の外に出さないための…」
「そんな生易しいものじゃないかもしれない。もしかしたら、見滝原には外なんてないのかも」
勘のいいデキソコナイ様に対し、ここで暮らすハリボテだらけの人間達が表れて囲んでくる。
見滝原市で暮らしていた人間達なんて、デキソコナイ様にとっては顔すら覚える価値が無い。
変な落書きの似顔絵を顔に貼り付け、ヒトモドキを作ってこの街で動かしてるだけなのだ。
この世界で動く人間でまともなのは上条恭介・志筑仁美・中沢・担任の先生、まどかの家族。
それ以外の触れてこなかった人間という存在達は全員偽物のハリボテで演出されるのみ。
デキソコナイ様にとって、赤の他人なんてどうでもいい。
色々な世界の人間という他人達なんて、守る価値も無かったデキソコナイ様なのだから。
デキソコナイ様とって必要な人間とは、大切な人の周囲を囲む極僅かな人間達で十分であろう。
お綺麗なハリボテだらけの人生だった詐欺師様が作られたのは、こんな嘘だらけの街。
お綺麗な世界に浸ったデキソコナイ様が作った偽街で暮らし、偽物のヒーローごっこを行う。
そんな下らない子供の遊びに酔いしれる眼鏡をかけた魔法少女の演技は終わりを迎える。
「こんなに強きな暁美ほむらは初めて見るはずなのに…全然意外って気がしねぇ」
――むしろ、しっくりくるぐらいだ。
♦
今日はマミさんの家でお茶会パーティであり、まどかも誘って3人で楽しい時間を過ごす。
デキソコナイ様が三編みを解いたところに気がついたマミは思いやり溢れる優しい人である。
そんなマミの家で一緒に暮らしているのがべべと呼ばれるマスコット生物。
チーズが大好きであり、チーズの単語を口走るネズミみたいに欲張りさんのようだ。
かつてのマミはこんな生物と一緒になんて暮らしてこなかったはず。
まどかやさやかよりも前に出会っていた古い付き合いなのだとべべについて語ってくれる。
独りぼっちだった頃の自分を支えてくれたのはべべだけだったそうだ。
「マミ、サミシガリ、知ル、知ル」
「この子がいなかったら、私はとっくに駄目になってたと思うわ」
「……巴さんはもっと強くて逞しい人です」
「ありがとう。たしかにそうやって頼り甲斐のある先輩ぶってた頃もあったわね」
デキソコナイ様が知っている巴マミは孤独な魔法少女だったはず。
不自然に思うかのようにべべが問いかけるが視線を逸らす。
独りでも孤独に戦った姿を覚えている、自分に厳しかった頃の姿を覚えている。
でも本当のマミは独りぼっちに耐えられなかった魔法少女。
仲間や友達が欲しかった彼女の願望をデキソコナイ様は覚えているのだ。
「でもそうね…今にして思えば、これって昔の私が夢に見ていた毎日なのかもね」
孤独の寂しさを知っている者達であるマミと杏子にとって、ここは誰かが夢見た理想の世界。
しかし魔法少女はそんな世界で腐っている暇などなかったはず。
魔法少女達には使命がある、それを覚えている、だから許せない者こそがデキソコナイ様。
魔法少女達を欺き、扇動し、貶める奴の仕業だと推測していく。
かつての世界の魔女と酷似したべべの存在を危険視するようだ。
デキソコナイ様が無意識でも必要としたなら、左腕には古時計爺さんが既に備わっている。
その姿は機械仕掛けの魔法盾に変わっており、時間停止魔法が行使されるだろう。
時間が停止した世界でべべを掴み上げたデキソコナイ様は問い詰めていく。
「茶番はこのくらいで終わらせましょう」
「ハッ!?ホヘェ!!?」
「思い出したの、あなたがかつて何者だったのか。私は…あなたの正体を覚えている」
こんなくだらない茶番を仕掛けたのは魔女の姿をしたお前なのだと悪者レッテルを張り出す。
捕まれたまま時間が動いているべべは知らぬ存ぜぬな態度を繰り返す。
締め上げられながら苦しそうな表情を浮かべていく中、デキソコナイ様が動く。
窓の開閉ボタンに触れ、時間が動き出した窓を開け、外に飛び出ていく。
何かを思い出せば次から次に記憶の引き出しが開く、記憶とは自分で制御出来ないもの。
巴マミと呼ばれる存在をデキソコナイ様はよく覚えている。
あの人が苦手であり、強がっても繊細で、あの人の前で真実を暴くのはいつだって苦しい。
だから彼女の家から離れ、このハリボテだらけの歪な街の外で尋問して殺すつもりだろう。
巴マミの事はよく知っているが、記憶とは厄介だからこそ所々を忘れている。
あの人は違和感を感じたなら備える思慮深さを何処かで学んでいた者なのだと抜けていたのだ。
足にはいつの間にかリボンが絡みついており、足を引っ張られて地面に目掛けて急降下する。
掴めるモノを掴んで落下から静止し、足に巻き付くリボンがおびただしく伸びた先を見る。
油断出来なかった先輩が立っており、昔のように相手を全く信じない態度を示してくるのだ。
だからこそ自分の言葉を伝えても聞いてくれる相手では無いことぐらい分かるだろう。
「どうあっても、そいつを守るつもり?」
「追いかけようだなんて思わないで。さもないと、私と戦う羽目になるわよ?」
こんな事もあろうかと、古時計爺さんはデキソコナイ様の武器庫から武器を回収している。
自分の聖域内に収め、数多の世界で共に戦った戦友達を持ってきてくれていたようだ。
だからこそデキソコナイ様だって戦える。
今から始まるのはバレットパーティであり、観客を務める魔界の悪魔達は大喜び。
時間停止した世界で逃げる、かつての獲物に齧りつく。
丸呑みしてくる巨大な魔女の姿となったべべを追うデキソコナイ様を追撃する巴マミ。
デキソコナイ様は現代銃で応戦するように迎撃する構えを行う。
時間停止した世界で互いに放った無数の弾丸が向かい合うように静止し、時は動き出す。
おびただしい弾と弾が弾け合う光景はさながら綺麗な花火大会。
お空を駆ける二人の口元には不敵な笑みが浮かんでいく。
「お互い動きの読み合いね?同じ条件で私に勝てる?」
「根比べなら……負けないッッ!!」
互いに撃ち合う銃弾の流線は無数の房状線と化し、偽街を覆っていく。
接近戦になろうとデキソコナイ様も巴マミも互いに一歩も譲らないガンフーバトルを繰り出す。
互いに息を切らせながら銃を構えて睨み合い、静寂に包まれた静止世界で響くのは息遣いのみ。
時が動き、周りの事など気にせず撃ちまくった弾と弾が弾け合い、放物線を描いて広がる。
自身の側を掠めていく弾丸の雨を前にしても二人は動じず、睨み合う。
攻め手に困った詐欺師様が一計を案じたようだ。
自らのこめかみを拳銃で撃ち抜くフリをし、相手の良心を利用して飛び込ませる。
弾丸が頭をかすり血を撒き散らせながらも体を捻じり、繋がったリボンを撃ち抜き時間停止。
巴マミの体の時間が止まり、悲壮な顔つきで自身を助けに来ようとする先輩の姿を見る。
デキソコナイ様も良心の呵責に苦しんでいるような顔つきとなってしまう。
前にも後輩を案じてくれたり、片腕を捨ててまで助けに走った先輩と戦うのは苦しい。
だから邪魔して欲しくないとソウルジェムは狙わず足を撃ち、動きを止めようとする。
記憶とは厄介であり、下手な芝居が通用するような相手じゃないのを直ぐ忘れている。
撃った弾が足に当たった瞬間、ダミーリボンボディが内側から弾けて無数のリボンと化す。
気がついたらデキソコナイ様は体を拘束されている。
魔女の事を説明するだけ無駄であるが、マミは自分達が戦っていた偽物存在に気がついていく。
魔獣と戦うことこそが魔法少女達の使命だったはず、それなのにナイトメアとは何なのか?
少しずつハリボテ世界の嘘に気がついてきたところで、空から消化器と剣が降ってくる。
煙に撒かれて気がついたらデキソコナイ様はそこにはいなかったようだ。
そこにいたのは今まで見たこともなかったチーズ大好きねずみの魔法少女の姿であった。
「……貴女は?」
「今まで黙っていてごめんなさい。でも…落ち着いて聞いて欲しいのです」
デキソコナイ様を救ったのは美樹さやかであり、注意されてしまう。
絶好調の先輩相手に喧嘩売るとか自信過剰だって馬鹿にされるのも仕方ないだろう。
さやかはべべの正体を知っており、昔は魔女という存在だったと言ってくる。
デキソコナイ様以外で初めて魔女という存在を知っている人物が現れたため、警戒していく。
さやかは淡々と語ってくる。
ハリボテの街に人々を攫ってきたのに襲いもしないで現状維持する魔女がいる。
そんな存在、かつての魔女共がしてきた行為なのか?していないはず。
囚われた人々の中にご都合主義なハリボテ世界を望んだ人物がいるのだと推理を披露する。
そしてデキソコナイ様が知っている美樹さやからしからぬ事を言いだすようだ。
「ねぇ、これってそんなに悪い事なの?」
「あなた…」
「誰とも争わず皆と力を合わせて生きていく。それを祈った心は裁かれなきゃいけないほど…」
――罪深いものなの?
魔女を絶対悪だと決めて倒す事しか頭になかった美樹さやかが魔女の肩を持つ。
違和感を感じる三つの存在に対してデキソコナイ様は気がついてきている。
杏子とマミは魔女の存在など語りはしなかったし、あの二人は何も変わらない仲間達。
ならば偽街を作った存在と魔女の姿をしたべべと魔女の存在を知る美樹さやかとは何者だ?
「あたしはあんたが知ってる通りのあたしだよ……転校生?」
背中を向けたまま振り返る不気味な顔のさやか。
地面の水たまりに浮かんでいるさやかの影は魔女の姿をしている。
咄嗟に攻撃を加えようとしたが、隙をついて逃げられてしまう。
器用なほど実力を上げている美樹さやかの存在について疑問は増すばかりであろう。
最後に念話でこんな言葉をさやかは送ってくる。
――この見滝原を壊して本当にいいのか、じっくりと考えてから決めるんだね。
――悔いを残さないように。
――――――――――――――――――――――――――――――――
ここは偽物の街であり、誰かが夢見た願望の世界。
皆を巻き込んでありえない世界に逃げ込んだ人物が何処かにいる。
魔獣と戦う使命を放り出し、あまりにも理不尽過ぎた現実から逃げた人物が何処かにいる。
魔法少女が魔獣と戦う使命から逃げることなど許されない。
戦い続けなければならない、それが奇跡を願った対価なのだから。
そんな魔法少女達を身を犠牲にしてでも救ってくれた人のためにも。
こんな茶番劇は、その人の犠牲を無駄にしているだけであり、絶対に許されない。
そんな風に魔法少女の使命から逃げる自分への自責の念に駆られるのはデキソコナイ様。
心配して駆けつけてくれたのは鹿目まどかのようだ。
二人が流れ着いた場所は偽街を見渡せる丘で咲き誇るお花畑。
独りぼっちになっていくデキソコナイ様に悩みなら聞いてあげると優しい言葉をかけていく。
そんな優しい御方だからこそ、デキソコナイ様は自分の苦しみを吐き出せるだろう。
「……とても怖い夢を見たの」
大切な人が遠いお星様の世界に消えていき、なのに世界中の誰もが大切な人を忘れてしまう。
自分だけがその人を覚えている者となり、たった一人取り残されたとまどかに伝えていく。
自分以外でまどかを覚えてくれていたのは、あろうことか邪悪な悪魔達。
その事だけは絶対に口に出せず、大切な人にさえ語れなかったようだ。
「寂しいのに、悲しいのに……その気持ちを誰にも分かってもらえない」
大切な人の思い出さえ忘れていき、絵空事だったんじゃないかと疑って汚していく。
自分自身さえ信じられないと告げられたまどかは悲しそうな顔をしながら寄り添ってくれる。
「うん……それはとっても嫌な夢だね」
体育座りで泣き顔を隠すデキソコナイ様に寄り添ってくれる優しいまどかは語ってくれる。
自分だけが誰にも会えない程にまで遠くに逝くことなんてない。
デキソコナイ様でさえ泣く程の辛い事なんて我慢出来るはずがないと伝えてくれる。
かつて生きた世界で出逢った4人の魔法少女、それに自分と関わってくれた人間達。
誰とだってお別れなんてしたくなかったと告げられる。
その一言を聞いたデキソコナイ様は悪魔達に語られた最も重い罪を思い出してしまう。
家族や仲の良かったクラスメイトや魔法少女達だって、鹿目まどかと一緒に生きたかった者達。
ワルプルギスの夜と戦った別れの日において、どんな手段を使ってでも止めるべきだった。
皆が辛かったのに悲しんであげることさえ、弔ってあげることさえ許されない結末。
だけどまどかはその道を選択してしまった事をデキソコナイ様は覚えている。
大勢を悲しませてでも、それ以上に守りたい魔法少女達を優先してくれる。
優しいけど残酷な御方こそが鹿目まどかという少女の在り方。
力もないくせに、自分にしか出来ない事があると分かればやり遂げる、強くて優しい少女。
それを覚えていないのは、目の前にいる今のまどか。
この子は本当に鹿目まどかなのか?誰かが用意した幻や偽物じゃないのか?
でなければ空の世界に旅立ったまどかと再び出会えるなんておかし過ぎる。
それでもデキソコナイ様には説明出来なくても分かっているのだろう。
この人物は本当のまどかなのだと伝わってくれるのだ。
「まどか……こんな風に一緒に話が出来て、もう一度また優しくしてくれて……本当に嬉しい」
――ありがとう……それだけで十分に……私は幸せだった。
♦
くるみ割り人形の物語とはクリスマスの夜にまどかが素敵な夢を見るお話。
悪魔の国で暮らす大魔王の御令嬢、あるいは王子のように凛々しい少女が大魔王に呪われる。
心が呪われた王子はくるみ割り人形にされてしまった悲しい物語となるだろう。
砂で創られた王子様のくるみ割り人形が鹿目まどかと供に雪の国とお菓子の国で旅する夢物語。
まどかは夢の世界で踊り続け、王子様と一緒に雪の精達と共に幸せに暮らせるはずだった物語。
朝が来る喜び、家族と過ごせる喜び、友達と学校に通う喜び、魔法少女達と過ごせる喜び。
雪の精達は踊り続け、まどかと王子様の夢物語のために雪片の踊りを続けてくれる。
それはまどかにとっては過ぎた夢物語。
まどかが一人の人間のように生きる事が出来る、人生の色をもう一度楽しめた夢物語であった。
悪い夢だったのはどちらであろう?
理不尽過ぎる現実の方か?それとも優しい嘘で塗り固めた夢物語の方か?
こんな夢のような世界を望む事が許されたのはデキソコナイ様が夜に見た夢の世界だけ。
――まだだめよ、夜はまだ始まりよ、夜の帳よ上がらないで。
醒めない夢なんてなかった。
開けない夜なんてなかった。
熱が籠れば雪は溶け、雪の世界は溶けて無くなり、夢の時間が解けて無くなる。
空から落ちてくるのは燃え上がる飛行船の熱であり、砂粒が混じった雪の世界は溶けていく。
雪の国だけでなく、お菓子のように甘い時間を生きられた世界も溶かしていく。
デキソコナイ様は鹿目まどかという存在を捏造する事が出来る存在について気が付いてしまう。
デキソコナイ様は皆を偽街に閉じ込めた犯人が誰なのかを気が付いてしまう。
デキソコナイ様は自分のソウルジェムがただの飾り物だった事に気が付いてしまう。
デキソコナイ様は今の自分が誰なのかを気が付いてしまうのだ。
全てはイブの夜のまどかに夢を魅せていたデキソコナイ様の仕業なのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
凶報を知らせるカラスが飛び交う終わらない夜の空。
偽街の空に掛かるアーチ橋に生み出されたのは繭のような巨大な塔。
行軍してくるのはかつての世界で見かけた眼鏡をかける魔法少女と酷似した使い魔の軍勢。
その中に混じっているのは記憶の回廊で見かけたクララドールズの姿。
このクララドールズはデキソコナイ様の内面を自ら自己評価した本物の存在であろう。
塔の内部は空洞であり、そこにはガラスで覆われた人間サイズのおもちゃハウスがそびえる。
おもちゃハウス内のガラスの向こう側の布団の中に誰か見える。
布団を被って醒めたくない幸せな夢の世界に引き篭もっていただけの人もどきが見える。
あれこそがデキソコナイ様であり、偽街を生んで無関係な人々を巻き込んだ張本人なのだ。
「真実なんて知りたくもないはずなのに、それでも追い求めずにはいられないなんてね」
歩み寄ってくるのは何度憎んだか分からない契約の天使。
「つくづく人間の好奇心というのは理不尽だねぇ?」
契約の天使もまたこの道化芝居の世界に合わせてきたようだが止めたようだ。
「残る疑問は君の命と魂がいま、何処にあるのかだよね?その答えをボクが教えてあげる」
契約の天使の赤い瞳に映し出されたのは人類文明が滅び去った世界の光景。
その世界で朽ちた遺跡の寝台のような場所で眠っているのが生前のデキソコナイ様の姿。
その周りは浮遊するレンズで砕けかけたソウルジェムを見つめる赤い瞳が膨大に浮いている。
暁美ほむらと呼ばれたデキソコナイ様を囲んでいるのは契約の天使であるインキュベーター達。
デキソコナイ様のソウルジェムを研究している選抜チームのように見えるやもしれない。
「ボク達の作り出した干渉遮断フィールドが、君のソウルジェムを包んでるのさ」
限界まで濁りきったソウルジェムを外の影響を一切及ばない環境に置いた時、何が起こる?
「それが今回のボク達の実験だったのさ」
魔法少女を浄化して消滅させる力、それが円環のコトワリと呼ばれる現象だと聞かされている。
ならばそれから隔離したらソウルジェムはどうなってしまうのか?
その結果は期待通り、かつての世界の魔女と同じ性質をもつ空間世界を生み出せている。
ソウルジェムという殻のせいで生み出されそうになってた魔女は孵化する事も出来ていない。
卵の内側で成長したまま生まれるはずだった魔女は閉じ込められていたのだと告げられていく。
このデキソコナイ様のソウルジェムこそが偽街の舞台となった卵の内側世界。
フィールドの遮断力は一方通行であり、外からの干渉は弾き、内側の誘導は素通り出来る。
魔女となったデキソコナイ様が無意識に求めた犠牲者達はこうやって連れ去られたという。
円環のコトワリでもフィールド内部に干渉出来ないし、ならば誘いに乗って入り込もうとする。
それは悪手であり、円環のコトワリ自身が自分の存在を忘れてしまう弊害まで生まれてしまう。
こうして誕生したのが現実世界で死んだ人物達と過ごせた偽街のからくり構造。
過去や未来の可能性にさえ存在しない一人の魔法少女がデキソコナイ様の世界に具現化する。
神の力を忘れたまどかでは未知の力を観測しようにもそれが出来ない。
デキソコナイ様の記憶操作魔法は女神様にさえ通用し、救済する目的や正体さえも見失う。
これではお手上げでしかなかったのだとインキュベーターはデキソコナイ様に伝えてくれる。
「鹿目まどかは神であることを忘れ、暁美ほむらは魔女であることを忘れた」
お陰でこんな無意味な堂々巡りに付き合わされる事になったと契約の天使はぼやいてしまう。
「暁美ほむら、まどかに助けを求めるといい。それで彼女も思い出す…自分が何者なのかをね」
「……貴方達の狙いは何?」
彼の態度に苛立っているのか編み針や槍を地面に打ち付けていくクララ達や眼鏡の使い魔達。
「もちろん、今まで仮設に過ぎなかった円環のコトワリをこの目で見届けることだよ」
「……何のために?好奇心なんて理不尽だって言ってたくせに」
編み針と槍の振動によっておもちゃハウスのガラスがヒビ割れていく。
「まどかの存在を確認するためだけに…こんな大袈裟な段取りまで用意するわけがない」
デキソコナイ様の確信を持った質問に対して、インキュベーターは背を向ける。
それを見たデキソコナイ様は歯が鳴る程にまで食い縛った後、こう告げる。
「まどかを……支配するつもりね?」
怒りと憎しみに支配されたデキソコナイ様がクララドールズ達をけしかける。
「最終的な目標については否定しないよ。まぁ道のりは困難だろう」
編み針を槍にしながら迫るドールズ達に対してインキュベーターは逃げていく。
「この現象はボク達には謎だった。存在すら確認出来ない者には手の出しようがないからね」
「それで諦めるあなた達じゃないわ」
「そうだね、観測さえ出来れば干渉出来る、干渉出来るなら制御も出来る」
そうなれば魔法少女は魔女となり、さらなるエネルギー回収が期待出来るようになる。
「ボク達の研究は円環のコトワリを克服するだろう」
逃げ回るだけの行動であるが感情を持たないインキュベーターは命の危機でも淡々としている。
希望と絶望の相転移。
その感情から変換されるエネルギーの量は予想以上のものなのだと研究結果で示されている。
「やっぱり魔法少女は無限の可能性を秘めている」
――君達は魔女へと変化することで、その存在を全うするべきだ。
他人事みたいな無責任な態度のまま語り続ける獲物を仕留めても次から次に湧いてくる。
「なぜ怒るんだい?暁美ほむらの存在は完結した。君にはもう何の関わりもない話だ」
暁美ほむらは過酷だった運命の果てに待ち望んでいた存在と再会の約束を果たす。
これは幸福なことなんだろう?と質問された暁美ほむらは極大の呪いを纏いながらこう告げる。
「いいえ、そんな幸福は……モトメテナイ」
デキソコナイ様の目から溢れ出すのは血涙のあみだくじであり、まるで入れ墨のように広がる。
血涙が流れ落ちるように塔の内部に赤黒い呪いが流れ込んでくる。
「そんな…自ら呪いを募らせるなんて…何を考えているんだ!?浄化が間に合わなくなるよ!」
「私はね、まどかを救うただそれだけの祈りで魔法少女になったのよ。だから今度も同じこと」
まどかの秘密が暴かれるぐらいならこのまま魔女になる、それこそがデキソコナイ様の決断。
「もう二度と……インキュベーターにあの子を触らせない!!」
「君はそんな理由で救済を拒むのかい?このまま永遠の時を呪いと共に過ごすつもりなのか?」
「……大丈夫、きっとこの結界が私の死に場所になるでしょう」
デキソコナイ様の脳裏に浮かんだのは、また巻き込んでしまった大切な仲間達の姿であろう。
あの時に思った事を実行して欲しいと望み、罪人の魔女を断頭台に突き出して欲しい。
数々の平行世界の人類さえ絶滅させる迷惑をかけてきた傲慢で我儘な魔女を処刑して欲しい。
契約の天使はもうデキソコナイ様の思考なんて理解出来ない。
殻を破る事を拒んで卵の中で魔女となったなら、円環のコトワリに感知されず破滅するのみ。
「もう誰も君の魂を絶望から救えない!君は鹿目まどかと出会うチャンスを永久に失うんだ!」
<<まどか…マドカ…?イカナイデ…ソバニイテ…ヒトリニ…シナイデ……>>
「ダマリナサイ!!!」
デキソコナイ様は眼鏡をかけた自分の弱い心を踏み潰し、ついには魔女となってしまうのだ。
今から始まるのはデキソコナイ様の公開処刑であり、それを盛り上げるのは使い魔達の役目。
楽しい葬列にしよう、泣き屋を用意しよう、盛大な音楽を流そう。
――私が…消えていく…後悔と輝きだけしか…もう思い出せない…これが本当の…絶望。
――まどか…こんな所まで迎えに来てくれて有難う…最後にお別れを言えなくて…ごめんね。
♦
【くるみ割りの魔女】
その性質は
歯はこぼれ頭蓋はとろけ目玉も砂のように落ちている。
もう種を砕けない頭には約束だけが惨めに植えられている。
しかし殻の中で目覚めた魔女はそれでもまだ魔法少女の姿を色濃く残す。
手下達はその姿をデキソコナイと呼びながら恥ずかしく思っているようだ。
凶報のカラスが燃える街の明かりで照らされた夜空を飛び交う。
頭部を失い涙の代わりに歯が零れ落ちる巨大な魔女が進んでいく。
くるみ割り人形と呼ばれるだろう魔女の使い魔達も後に続いていく。
繭の殻を破って現れたデキソコナイ様の魔女が偽街に顕現する時が訪れたのだ。
遠くの場所には巨大な断頭台まで現れ、死刑執行の葬列を盛り上げる泣き芝居が始められる。
クララドールズ達は泣き屋であり、この処刑のために生まれた自分自身のシャドウなのだ
魔女の腰にあるリボンが意思を持つように這い回り、地面に縋り付くように掻き毟っていく。
これが罪人の望んだ結末だというのに無様で醜く命に縋り付こうとする矛盾を体現するだろう。
数多の世界に迷惑をかけた我儘独善者は寂しい場所で死を迎えて終わる、それが彼女の望みだ。
「あれが…魔女?」
「怖がらないでやって。ああ見えて一番辛いのは…あいつ自身なんだ」
「…笑えねぇな」
遠くからくるみ割り人形の魔女を見つめる魔法少女達とべべの元にキュウべぇが走ってくる。
「待ってくれみんな!あれは暁美ほむらなんだ!君達は仲間と戦う気かい!?」
「…キュウべぇ」
「へぇ…あんた普通に喋れたんだ?」
「残念だわ…キュウべぇ。これでもう、べべの話を信じるしかないみたいね」
「まどか!君ならほむらを救えるはずだ!君が持っている本当の力に気付きさえすれば!」
「そいつはほっときな、まどか。大丈夫、さっきあたしが教えた通りにやればいい」
不安な顔のまどかに笑顔を送った後、さやかとべべは葬列の使い魔の中に飛び込んでいく。
「パ!パ!パ!パルメジャーノ・レッジャーノ!!」
チーズが大好きな鼠みたいな魔法少女が正体を表す時が訪れる。
空に向かって吹き鳴らされる小さなラッパからは無数のシャボン玉が飛び出す。
結界世界を覆うフィールドの障壁に強烈な衝撃を与えていく。
亀裂が入る空の中、葬列を邪魔しに来た者達に気がついた眼鏡の軍隊が迫ってくる。
「慌てなさんな!あんたを外に…出そうってわけじゃ…ないっ!!」
何をするかと思えば、さやかは自分の心臓に剣を突き立ててしまう。
背中を突き破り飛び出した心臓から流血が撒き散らされる。
血液という水を使って具現化していく巨大な魔女こそ人魚の魔女と呼ばれた存在。
人魚の魔女は無数のラッパを鳴らし、そこから現れたのはバラ園の魔女の手下共。
信じられない光景を目にするキュウべぇは二人が何者なのか分からない顔をしている。
「君達は…一体…?」
「私達はかつて希望を運び、いつか呪いを撒いた者達」
「そして今は円環に導かれ、この世の因果を外れた者達」
「そんな……」
「まどかだけに狙いを絞って、まんまと引っかかってくれたわね?」
「じゃあ君達もまた…円環のコトワリ?」
「まぁようするに、鞄持ちみたいなモンですわ!!」
彼女達こそ群体神である円環のコトワリの一部となった円環の魔女達なのだろう。
「結界に取り込まれる時に置いていった記憶と力を運んであげなきゃならなかったからね!」
「なぎさかさやか、どっちか無事な方が預かっていた記憶をまどかに返す手筈だったのです!」
「迎えに来るのに三人がかりなんてね。手間かけさせてくれたけどあいつの為なら仕方ないか」
燃え上がる偽街の中でハチャメチャ大戦争が始まっていく。
くるみ割り人形が使役する兵隊人形達とハツカネズミ軍団が大喧嘩を始めていくのだ。
「さやかちゃん……」
「鹿目さん!私達も行くわよ!!」
リボンを使ってサーカスの空中ブランコみたいにまどかを吊り上げて持ち運ぶのはマミの姿。
「はいっ!!」
手を繋ぎ合ったかつての世界の師弟コンビが始めるのは、ほむらちゃん自殺救出劇であろう。
デキソコナイ様と罵られる大切な友達が寂しい場所で死んでいくなど認めない。
そう信じる魔法少女皆が集まり、神様のところにほむらを導きたいと戦い続ける。
<<やめて…もうやめて!私はこの世界で…死ななきゃならないの!!>>
自分自身を呪う感情をさらに募らせ、次々と使い魔の軍勢を生み出していく。
クララドールズ達も円環から現れ続ける使い魔の群れを蹴散らしながら迫ってくる。
「だーかーらーっ!!独りで背負い込もうとするなっての!!」
クララドールズ相手にチャンバラを始めるさやかの力は円環に導かれた事で増している。
「……ちっ、訳わかんねーことに巻き込みやがって」
ネクラのドロップキックがさやかに命中し、飛んで行った彼女は巨大な凶報カラスに飲まれる。
その瞬間、杏子の槍がカラスを一瞬で切り裂いてさやかは救出されたようだ。
「サンキュー♪」
何事もなかったように背を合わせて着地する二人だが、杏子は浮かない顔を見せる。
「胸糞悪くなる夢を見た…あんたが死んじまう夢を…本当はそっちが現実で…今は夢だって…」
自分の事を強く想ってくれていた仲間の言葉に対し、後ろのさやかは表情を見せない。
それでも顔を上げたさやかが優しい言葉を言ってくれる。
「夢って言う程…哀しいものじゃないよ…これ」
さやかは地上に未練なんてなかった魔法少女。
もう一度見たいと思った光景を守る事が出来た上で導かれた者であり、悔いはなかったはず。
「やっぱりあたし…心残りだったんだろうね。あんたを置き去りにしちゃったことが…」
背中を向け合いながら手をつなぎ合う杏子とさやかであったが、チーズの魔法少女が現れる。
「なぎさは!もう一度チーズが食べたかっただけなのです!!」
使い魔に乗って通り過ぎた奴を見た事でバツが悪い顔をしながらさやかはツッコミをする。
「おーい、コラ!!空気読めっての!!」
しんみりした空気も台無しとなり、さやかは跳躍しながら楽譜の道を作って駆けていく。
涙を流す杏子の顔も笑顔となり、二人は互いに背を向け合って使い魔やドールズと戦っていく。
くるみ割り人形の魔女が生み出す呪いの歯車が自分の周囲を埋め尽くしていく。
街の外側からエントリーしてきたのは巨大化した眼鏡の使い魔達。
踊るように暴れていくが、列車が走ってくる音が聞こえてくる。
線路を走ってきたのは巨大紅茶カップに盛られたパフェに巨大砲身をつけて走行する列車砲。
リボンを使って砲身の上に飛び移ったマミは例の決め台詞を叫ぶだろう。
「ティロ・フィナーレ!!」
轟音と共に発射された砲弾が飛んでいき、遠くで踊る眼鏡の使い魔を爆散させてしまう。
その威力は街を削り取る程の大爆発であり、列車砲の威力は桁外れであろう。
人魚の魔女が空を飛び、巨大化させた杏子の槍を使って結界に突き立てると亀裂が入る。
後方から空を駆けてくるのは楽譜の道を走るまどかの姿が魔女に目掛けて迫っていく。
「ほむらちゃん!!」
弓の弦が引き絞られていき、追い打ちをかけるような魔力の矢が空の結界を砕いてしまう。
<<やめて……まどかっ!!!>>
割れたガラスの雨となったフィールド結界が世界に降り注ぐ。
マミとの合体魔法の轟音で目を回すなぎさであるが、空に見える存在に対して叫びを上げる。
「見えた!インキュベーターの封印なのです!!」
「あれを壊せば自由になれる!インキュベーターの干渉を受けない外でまどかに会える!」
皆の叫びの声が聞こえる中、くるみ割り人形の心の閉じた窓が開き始めるのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
――駄目だよ、ほむらちゃん。
そこにいたのはトカゲのように小さくなった醜い少女の心である。
――独りぼっちにならないでって、言ったじゃない。
――何があっても、ほむらちゃんはほむらちゃんだよ。
――わたしは絶対に見捨てたりしない。
窓の外から醜いトカゲの心に手を伸ばしてくれたのは慈愛の手。
――だから諦めないで。
トカゲの頭部を覆う程の涙が零れ落ち、その涙がようやく思い出させてくれる。
自分の中に芽生えた本当の気持ち。
もう一度まどかに会いたいと私が望んだ気持ち。
その気持を裏切るくらいならどんな罪だって背負えるし、どんな姿にだってなれる。
まどかが側にいてくれさえすれば、思い残すことなどない。
くるみ割り人形の半分に割れた頭部に咲いていた彼岸花が美しい桜のような形となっていく。
「さぁ……ほむらちゃん、一緒に」
二人の想いが形になった弓が今、空に向けられていく。
「ほむらちゃん、怖くない?」
「ううん……大丈夫。私は……私はもう……
空に描かれた巨大な円を繋ぐ魔法陣に放たれた光の矢はインキュベーターの結界を超えていく。
それは現実世界の空にまで魔法陣を構築しながら偽街を飛び出し、地上に降り注ぐのは光の雨。
「……訳が分からないよ」
光の雨に打たれて消えていくインキュベーター達。
こうしてくるみ割り人形の物語は終焉を迎え、魔法少女達が迎えてきた末路へと至るだろう。
だが今回ばかりはまどかの最高の友達を迎えるのだから盛大なお迎えになりそうだ。
今日という日を楽しみにして、クララは円環の仲間達と共にお迎えの支度を済ませている。
円環のパーティ会場では他の魔法少女達も暁美ほむらの到着を待ってくれている。
最高のハッピーエンドを迎える時がきたのであった。
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くるみ割り人形の物語を見ていたアマラ深界の観客悪魔達は静まり返っている。
思っていたのと違ったのか、ガッカリした表情を浮かべる者や癇癪を起こす者達までいる。
「ここまではよくある皆で大団円を迎えるハッピーエンド物語。実につまらないであろう?」
劇場で進行を務める大魔王に対して観客悪魔達はそうだそうだと叫んでいく。
「しかし当劇場までお越しくださった同胞達よ、席を立たずにどうか見届けて欲しい」
この物語はここからが面白くなり、我々悪魔の期待を裏切るような終わり方はしないと告げる。
「何故なら暁美ほむらは自分の中に抱いていた感情に気がついた者だからさ」
強く、熱く、感情が望むままの結末とは円環のコトワリが期待しているモノではないという。
「案ずるな、彼女は劇中でこう言ったではないか?」
――私はもう、ためらったりしないとな。
読んで頂き、有難うございます。