人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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73話 魔なるものたち

ここは何処かの宇宙の地球であり、見えるのは黒い雪。

 

眼下には見滝原市と呼ばれる大都市の光景が広がっているようだ。

 

見滝原中学校と近いせせらぎの水路と隣接しているのは桜が咲き乱れる通学路であろう。

 

季節は6月から4月の頭頃にまで逆行している。

 

この季節ならば学校に転校生が入学してきても違和感はない。

 

大勢の学生達が学校に向かう通りの中央には何処か場違いな生徒がいるようだ。

 

ガーデンパラソルが刺さった丸い机の横に2つの椅子を置き、片方に座るのは女子生徒。

 

周りの生徒達は場違いな生徒に気が付かないようにしながら日常の光景を続ける様子。

 

場違いな彼女がそこにいたという記憶は残らない、彼女によって既に消されているためだろう。

 

3年生の生徒達が通学していく光景の中には巴マミの姿も見える。

 

恐ろしい魔女結界に巻き込まれた事や、かつての仲間が世界に何をしたのかも覚えていない。

 

気持ちのいい春風に舞う桜の花びらに手を伸ばし、新しい出会いの季節を楽しむ。

 

場違いな生徒は誰かと話をしているが、横には誰もいない。

 

ふとグラスが割れる音が聞こえ、マミは後ろを振り向く。

 

椅子に座った女子生徒の姿はそこにはなかったようだ。

 

大切にしてくれた先輩に孤独な自分を見てもらいたかったような寂しい行動に見えてくる。

 

マミの手にあったのは贈り物であり、それは孤独なカラスの羽であろう。

 

何事もなかったのだと踵を返し、学校に向かうマミの横を黒い喪服の人形達が通っていくのだ。

 

桜の木の太い枝の上で季節を楽しむ者は見滝原中学校の制服を着ている佐倉杏子。

 

手に持っていたリンゴは凶報を告げるカラス達に貪り食われている。

 

大切な仲間の悲しい凶報を伝えに来たのだろうが、それを伝える言葉はカラスにはない。

 

カラスに大事なリンゴをあげる光景には違和感を感じる。

 

大事なリンゴをあげる相手を選ぶなら、大切な家族や仲間に与えるはず。

 

桜の木の下で誰かが手を伸ばしてリンゴを欲しそうにしていたから一つだけ下に落とす。

 

鈍化する世界。

 

落ちていくリンゴは大切に想う人への贈り物の品。

 

パラソルの下の椅子に座る女子生徒は首を振り、後ろに落ちていくリンゴを拒絶してしまう。

 

そのリンゴは大切な人に送るべきであり、杏子を騙す冷酷な女に与えるべきじゃないと示す。

 

水路にリンゴが落ちていき、その音で何かの違和感を感じたのか杏子は当たりを見回す。

 

そこには椅子に座った女子生徒の姿など何処にもなかったようだ。

 

流されていくリンゴを無邪気に追いかけるのは喪服の人形達。

 

奇行を続けていたようだが、違和感を与える人物に気がついてしまった少女がいる。

 

かつては円環のコトワリの一部であった者のようだ。

 

「あんた…何をしたか分かってるの!?」

 

自分に気がつく事が出来る存在は限られていると判断し、後ろの概念存在にゆっくり振り向く。

 

「その様子だと、何があったのか理解しているみたいね…美樹さやか」

 

違和感を感じさせるのは椅子に座る女子生徒だけではなく、さやかとて同じだろう。

 

この世と関係ない概念存在が何故生前の学生服を着て、受肉した姿をしている?

 

生前のさやかは死を迎え、円環のコトワリに導かれたため肉体はこの世から消滅したはず。

 

「あんたは…円環のコトワリの一部をもぎ取っていった!魔法少女の希望だった救済の力を!」

 

「私が奪ったのは断片でしかないわ。まどかがまどかでなくなる前の…人としての記録だけ」

 

静けさに支配された空間で張り詰めた空気が広がっていく。

 

目の前の略奪者を円環のコトワリの一部として許さない意思を示す者がいるからだろう。

 

「どうやら貴女達まで巻き添えになって、元の居場所に帰れなくなったようだけど?」

 

飲み物が注がれたグラスの淵を指でなぞっていく略奪者の白々しい態度に怒りがこみ上げる。

 

グラスにはストローが二つ刺さっており、誰かを待ち続けているようにも見えたようだ。

 

「いったい何の権利があってこんな真似を!」

 

彼女達を巻き込んでしまった罪悪感など感じていない。

 

か弱い心はアマラの底で消されており、その心を塗り潰したのは暗黒の天使なのだ。

 

「今の私は魔なるもの。摂理を乱し、この世界を蹂躙する存在」

 

いつの間にか椅子から消えた女子生徒であるが、さやかの目の前で突然現れている。

 

アマラ宇宙を支配する光の秩序に与する者を挑発するような顔を向けてくる。

 

「あんたは…この宇宙を…壊すつもりなの?」

 

目の前の存在が何なのか、概念存在だからこそ分かってしまう。

 

今の彼女は光の勢力と永遠に戦う運命にある闇の勢力に属する混沌の悪魔なのだと分かるのだ。

 

せせらぎの水路が波立ち、逆流するように爆発して水の中から現れる巨大な存在。

 

円環のコトワリの使者の力が具現化したのは人魚の騎士の姿をした魔女であろう。

 

アマラ宇宙の光の秩序に与する者として混沌の悪魔を野放しにするわけにはいかない。

 

美しい後ろ髪を大きく掻き上げ、光の者に背を向ける闇の者はこう告げてくる。

 

「全ての魔獣が滅んだ後は、それもいいかもね。その時は改めて…貴女達の敵になってあげる」

 

グラスに注がれていた飲み物が逆流し、壊れた蛇口のように溢れ続ける光景が続く。

 

紫色をした中身が地面を覆っていく中、不気味な笑みを浮かべた者が挑発してくる。

 

「でも美樹さやか…貴女は私に立ち向かえるの?」

 

ゆっくりと両手を持ち上げていき、叩いて鳴らす。

 

「くっ!!!」

 

手を叩かれた瞬間、円環のコトワリの一部であった人魚の魔女が消え去ってしまう。

 

「今でも徐々に記憶が変わりつつあるでしょ?」

 

「あたしは確かに…もっと大きな存在の一部だった…」

 

カラスの羽が空を舞う。

 

紫色で水浸しになった通学路を走っていく人物がやってくる。

 

ただの小学生を演じさせられているのは円環のコトワリの一部であった百江なぎさ。

 

彼女は自分が何者であったのかを完全に忘れ去ってしまったようだ。

 

光を脅かす闇が近くにいるのに出会いの季節を楽しむ小学生のようにはしゃぐ姿を続ける。

 

円環の使者は混沌の悪魔の制御下にあるように見える中、さやかは抵抗するため藻掻き続ける。

 

「この世界の外側の力と繋がっていたのに…今はもう、あの感覚を取り戻せない…」

 

ここじゃない何処か、それさえも今となっては思い出せないのなら神の一部の力など使えない。

 

「もっと素直に、再び人間としての人生を取り戻せた事を喜べばいいんじゃないかしら?」

 

大魔法の領域に達した記憶操作魔法に抗い続ける者に対し、邪悪な笑みを浮かべる悪魔少女。

 

記憶操作魔法を無効化する耐性すら持たない者では逆らう力も示せない。

 

いずれ違和感を感じなくなり、横を通り過ぎる百江なぎさと同じ姿になるだろう。

 

「だとしても…これだけは忘れない。暁美ほむら…あんたが…悪魔だってことは!!」

 

美樹さやかは彼女を罵り、暁美ほむらに悪魔という悪者レッテルを張り付けてくる。

 

まどかの記録を返してあげただけなのに、円環のコトワリ神を滅ぼす事もしていないのに。

 

本物の悪魔のように人間を理不尽に虐殺すらしてないのに容赦なく()()()()()()()()()()()()

 

ただ感情が赴くままに、自分達に都合が悪いというだけで敵意を剥き出しにしてくるのだ。

 

怒りの形相を向けてくる者に対して暁美ほむらは不敵な笑みを返してくれる。

 

二人のやり取りなど気にも留めない喪服の人形達がトマトを投げて遊ぶ中、こう告げる。

 

「……せめて、普段は仲良くしましょうね」

 

かつてデキソコナイと嫌っていたほむらに目掛けて何かが飛んでくる。

 

クララドールズ達はもう、トマトを投げつけて彼女を馬鹿にしたりはしない。

 

本当の自分を見出し、悪魔として完成した者ならば従うだろうが、人形達にも自由意志がある。

 

だからついつい流れ弾のようにトマトを頭にぶつけてしまったようだ。

 

暁美ほむらの内面部分を自己評価する存在達はやはり暁美ほむらが好きではないのだ。

 

「あまり喧嘩腰でいると……あの子にまで嫌われるわよ」

 

血が滴るように流れ落ちる汁がかかった冷たい表情を向けてくる。

 

その視線が向かう先を見た時には既に悪魔の姿は何処にもなかったようだ。

 

「やぁ、さやか。おはよう」

 

「おはよう御座います、さやかさん」

 

そこに立っていたのは生前には当たり前にあった光景が広がっていてくれる。

 

ただ友達と挨拶を交わしあっただけの光景なのに、さやかの胸にこみ上げてくる感情がある。

 

人間の心ならばあって当然だった感情こそ、会いたかった人達と再会出来た喜びの気持ち。

 

これが冷酷だと自称する悪魔が与える人間の幸福。

 

概念存在は受肉することが出来る。

 

感情エネルギーであるマグネタイト、あるいはマガツヒを用いる事が出来たなら可能であろう。

 

ほむらの感情エネルギーによって生み出されたのは宇宙だけでなく円環の使者すら受肉させた。

 

「恭介や仁美にまたおはようって言えるなんて…それだけでどんなに幸せか…」

 

――あたし…想像もしてなかったんだってね…。

 

円環のコトワリの使者達も鹿目まどかと同じように人間としての幸福を感じてくれていい。

 

悪魔はそう思ったからこそ、彼女達にも手を差し伸べてくれた者。

 

これが悪者レッテルを張られた歴史魔法少女や、悪魔と呼ばれる存在達が経験してきた苦しみ。

 

善悪二元論という自分だけの正しさのみ求める感情によって歴史の中で繰り返されてきた呪い。

 

人は過ちを繰り返す。

 

過ちを生み出す()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

今日も担任の和子先生は恋人にフラれた愚痴から始めるHRを行っていく。

 

彼女も偽街に攫われた存在だったが、そんな被害はなかったかのようにして日常に帰っている。

 

そんなクラスの席に座るのは杏子、さやか、恭介、仁美、そしてほむらの姿。

 

以前までの光景とは少し違った部分が見える。

 

佐倉杏子は見滝原中学二年に通う女子学生などではなかったはず。

 

暁美ほむらの左耳にも違和感を感じさせるものが見える。

 

それはルシファーが擬態していた金髪の少女姿と同じ見た目のイヤーカフスが備わる部分だ。

 

「はい、後それから今日は皆さんに転校生を紹介します。鹿目さん、いらっしゃい」

 

その一言を聞いたほむらの鋭い視線が入り口に向けられる。

 

緊張した様子でクラスの中に入ってくる少女を見たクラスの男子達が色めき立つ。

 

以前までの光景とは違った部分が分かるだろう。

 

この世界において始まりも終わりも存在しなかった鹿目まどかが存在している。

 

彼女は見滝原中学校に転校してくる存在などではなかったはず。

 

両サイドの髪を纏めたリボンの色も以前とは違う黄色いリボンを身に着けているのだ。

 

「えと…鹿目まどかです。ママ…母が海外出張で家族みんなで3年間米国にいたんですけど…」

 

全ては捏造の如く作り変えられ、悪魔にとって都合がいい改変を行った世界。

 

人間の幸福だけを追求する優しい嘘の庭が広がっている。

 

机に両肘を置きながら手を組み、順調に世界の捏造が行われているのを確認する仕草を続ける。

 

静かにまどかを見つめ続ける暁美ほむらの表情は慈しみを感じさせるだろう。

 

昼休みに場面は移り、クラスの女子生徒は転校生に興味津々で沢山集まって話しかけている。

 

しどろもどろになっていたまどかの元にほむらが歩いてきたようだ。

 

「みんな、一度に質問され過ぎて鹿目さんが困ってるわ。少しは遠慮しないと」

 

「あ、ああ…うん…?」

 

クラスメイト達はまどかの周りに何故集まっていたのか思い出せない顔をしながら散っていく。

 

周りの子達の突然過ぎる反応に対して困惑する顔をしたまどかに声を掛けてくる。

 

「私は暁美ほむら。初めまして、鹿目まどかさん…まどかって呼んでもいいかしら?」

 

「え…?う…うん」

 

「早速だけど校内を案内してあげるわ、ついて来て」

 

ほむらの後ろをついていく光景が続く。

 

何処か見たことがあるような景色ではあるが、まどかは上手く思い出せない表情を浮かべる。

 

「あ…暁美さん…?」

 

「ほむらでいいわ」

 

「…ほむらちゃん。あの…その…どうして、わたしを?」

 

自分をどうして気にしてくれるのか疑問なのだろうが、彼女は別の話題を振ってくる。

 

「久しぶりの故郷はどう?」

 

「ええと、うん。なんだか懐かしいような…でも、何かが違うような…ちょっと変な気分」

 

「無理もないわ、3年ぶりだものね」

 

静かに歩き続ける二人はクラスを超えていく。

 

ガラス張りの連絡通路を歩いていた時にそれは起こるのだ。

 

「いや、何も変わってないような気がする。むしろ変わっちゃったのは…」

 

ガラスに映り込むのは何処にでもいる人間の姿。

 

そんな自分を見ていた時、違和感に気がついてしまう。

 

ここにいるべき存在ではなかったはずだと。

 

「どっちかっていうと……わたしのような」

 

ガラスに映り込んだ人間のような姿の目には金色の光が灯っていく。

 

ガラスの向こうに映るまどかの背後からも何かを感じさせてくる。

 

あの恐ろしい顔をしながら悪魔ほむらを呪った円環のコトワリ神の気配がする。

 

背筋を氷で貫かれたような冷たい恐怖を感じたほむらは慌てて後ろを振り向くと驚愕するのだ。

 

「そう……わたしにはもっと違う姿……違う役目があったはず」

 

人間の戸惑いと女神の憤怒が入り混じりながら凍りつく空間。

 

螺旋を描く光がまどかから噴き上がり、そこは既にアラディアの神域。

 

彼女はアマラ宇宙の規範であり、ドレススカート内部は宇宙であり、アマラ宇宙と一つの存在。

 

何処の宇宙の何処の地球に引き篭もろうが、アラディアからは逃れられない。

 

ガラスに映るのは戸惑うまどかと悪魔に引き裂かれた怒りを爆発させる憤怒のアラディア。

 

それらがまるで引き裂かれたように別々に映っているのだ。

 

「それが……どうして?」

 

偽りの拘束のように結び付けられた黄色いリボンが解け、本当の姿を取り戻しかける。

 

ガラスに映る女神の魔の手が鹿目まどかに迫ろうとした時だった。

 

「ほ、ほむらちゃん……!?」

 

後ろから抱きつき、悪魔の魔力を最大限にまで高めて用いた記憶操作魔法をまどかに送り込む。

 

何を思い出したのかを強引にでも忘れさせたようだ。

 

この銀の庭はハリボテと嘘で固められた脆い世界。

 

コトワリの神が全力で叩けば簡単に壊れる世界であった。

 

「ハァ…ハァ…ハァ…」

 

「ねぇ…ちょっと!?」

 

広がっていた宇宙空間が連絡通路から消え、窓の外に蹴り出される。

 

完璧だと思われた嘘が壊れそうになったせいか、ほむらの顔つきは恐怖で引きつっている。

 

口の奥から絞り出すようなか細い声を彼女は出していく。

 

「大丈夫…貴女は間違いなく、本当の貴女のままよ…」

 

外の領域も元の日常風景へと戻っており、アラディアの干渉は銀の庭から消えてしまう。

 

息を荒げてまどかの両肩を掴み、顔を俯けたままのクラスメイトを心配そうに見つめてくる。

 

その肩を掴む力が強められていく中、こんな質問を送ってきたようだ。

 

「…鹿目まどか。貴女はこの世界が尊いと思う?欲望よりも秩序を大切にしている?」

 

その言葉はアマラの闇を司りし混沌の悪魔が光りの者に対して聞いてみたかった言葉。

 

人間の幸福は望むままを行っても構わないという、悪魔が送る切実な言葉であろう。

 

「わたしは尊いと思うよ…やっぱり自分勝手にルールを破るのって…悪い事じゃないかな…?」

 

光の女神の片割れはアマラの摂理というルールを破る事は悪いことだと伝えてくれる。

 

濁った目をしながら哀願するように聞いていた悪魔ほむらの気持ちは裏切られてしまう。

 

ルールを破って欲しかった気持ちは裏切られてしまうのだ。

 

ならばもう、混沌の悪魔としては是非もないだろう。

 

「……そう」

 

沈黙を終えたほむらは肩から手を離して上半身を起こしていく。

 

左手を自分の左側頭部に結んだ赤いリボンの紐に近づけながらこう伝えてくる。

 

「なら、いずれ貴女は……私の敵になるかもね」

 

「えっ……?」

 

結んだ紐を解き、解かれたリボンをまどかの髪に近づけていく。

 

「でも構わない。それでも私は…貴女が幸せになれる世界を望むから」

 

まどかの両サイドをリボンで結び直す。

 

孤独の道を選び、自分に都合のいい存在の幸せを望むために()()()()()のだ。

 

ほむらの赤いリボンこそ、かつての世界で生きた鹿目まどかからの贈り物。

 

「ほむらちゃん…あ、あの…」

 

しばらく沈黙した後、寂しそうな笑顔を作りながら暁美ほむらはこう言うだろう。

 

「やっぱり……貴女の方が似合うわね」

 

そこに立つのは何処にでもいるありふれた人間の姿をした少女。

 

彼女こそ、ほむらが全てをかけてでも守り抜きたかった本物の鹿目まどかの姿であろう。

 

たとえ敵になる日が訪れようとも、人間として生きたかっただろう鹿目まどかを守り抜く。

 

悪魔になっても忘れない。

 

交わした約束を忘れることなどないのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

そこは優しい世界。

 

人魚の魔女はもう、赤き魔法少女と共に海の底に沈む必要がない優しい世界。

 

二人は偽りの家族となって過ごすだろう。

 

もう杏子は犯罪を犯しながら生きる必要もなくなるはず。

 

お菓子の魔女はもう、寂しがり屋の魔法少女を傷つけて殺す必要がない優しい世界。

 

二人は偽りの姉妹のようになって過ごすだろう。

 

マミは寂しい思いをせずに済む。

 

女神となった少女は愛する家族を置いて逝く必要がもうない優しい世界。

 

家族四人はこれからもかつてあった光景のように末永く仲良くしながら暮らしていくだろう。

 

優しさが溢れた世界こそ、悪魔が生み出した銀の庭。

 

皆が幸せになれる優しい世界だけれど、その幸せを得られるのは悪魔以外の者達でしかない。

 

悪魔が君に送る銀の庭、そこは悪魔が幸せになるための優しい庭ではなかったようだ。

 

嫌われ者は幸福を得られた人々を見守りながら去るだろう。

 

それでも悪魔は幸福なのだろう、やっと約束を果たせたのだから。

 

暁美ほむらはついに長い旅路を超えてやり遂げた。

 

これこそ彼女が望んだハッピーエンド。

 

その後、悪魔となった少女はどうなったのだろうか?

 

静まり返った夜空の下にはその悪魔が存在している。

 

天に輝くのは半月の光。

 

見滝原を見通せる高台の一番上で椅子に座る孤独なカラスとなった悪魔少女がいる。

 

ほむらが座る横は半月のように縦に引き裂かれた崖の景色。

 

何か大事なモノを失ったかのように半分が欠けた世界で佇む。

 

後ろ髪を夜風に靡かせるほむらは見滝原という優しい庭を孤独に見守り続けるだろう。

 

不意に茂みの中から音が聞こえてくる。

 

「はっ!?」

 

何かを期待していたように慌てて後ろを振り返る仕草を行う。

 

そこに潜んでいたモノは見る価値もない存在。

 

期待しても無駄なのは分かっていても、人の心が失った何かを求めさせる。

 

悪魔もまた人間の心をもつ感情の生き物であったのだから。

 

迷いを払うように左手をかざし、身につけた菱形の宝石からダークオーブを生み出す。

 

彼女にあればいいモノとは、愛おしい鹿目まどかが人間として生きていい運命の時間。

 

幸福に生きられる時間の砂が流れ落ちるまで、優しい番人は見守り続けるだろう。

 

季節外れのように降ってくる雪。

 

出会いの季節の春なのに寒い孤独な夜の中、終幕のワルツを悪魔は踊る。

 

愛しい人を閉じ込めたダークオーブと共に舞う姿を繰り返す。

 

「まだダメよ」

 

足元に転がっていたのは汚らしい程にまで見る価値がないモノ。

 

悪だくみは出来ない程に支配されたか弱い生き物はボロ雑巾のような毛並みとなっている。

 

「何処にも行かないで」

 

もう迷いはない、何が一番正しいのかは、()()()()()()()()()()()()()()のだから。

 

一人の人間の幸福を願い、理不尽な運命に対して我儘を貫いた魔法少女の物語は終わった。

 

これにて、まどか☆マギカの物語は終劇となるだろう。

 

長い間見てくれてありがとう御座いました。

 

――劇終。

 

――END。

 

――fin。

 

――the end。

 

まどか☆マギカの物語は終劇を迎えたなら、新しい物語を始めよう。

 

ここから語るのは、神と悪魔が跋扈する世界の話となるだろう。

 

ここは神と悪魔が生まれた世界であり、同じ存在達がいるのも不思議ではない。

 

宇宙の死と再生の物語を越えた悪魔と同じ運命を背負い、同じ名で呼ばれる悪魔との邂逅。

 

その時はついに迎える事になるだろう。

 

悪魔となった暁美ほむらは光と闇の終わりの戦争へと巻き込まれていく者になっていく。

 

神々と悪魔達、そして魔法少女達の新たなる物語が始まるのだ。

 

タイトルを名付けるならば、こう名付けよう。

 

真・女神転生 Magica nocturne record。

 

――To be continued

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「……あの小娘、やり遂げやがった」

 

ワルツを踊るほむらの光景を高台の下から見ている人物達がいる。

 

二人は彼女から見えない位置で背を向けながら立ち、彼女が超えた物語の結果を語り合う。

 

「かつてお前に渡した死と黄泉との鍵を彼女に与え、数々の試練を見てきた」

 

「俺達はそれを記憶に書き留めた。あいつは確かに俺と同じく7を司る神と戦うに値する者だ」

 

物陰に立つ男は丘の上に視線を向け、彼女と共に舞うダークオーブを見つめながら語っていく。

 

「あれが…勇や千晶のようなコトワリ神となった人間を…取り戻せた証なのか…?」

 

「どうだ?暁美ほむらには出来て、()()()()()()()()()()()()結末を見せられた気分は?」

 

それを聞かされた尚紀は黒いトレンチコートの中で握り込んでいた拳を震わせていく。

 

「…それを俺に問うか、ルシファー?俺を負け犬だと…嘲笑いたいか…?」

 

闇のフォーマルスーツを着た長身の男は首を振り、同じように踊る暁美ほむらを見つめる。

 

「……行ってくれるか?」

 

彼の問いに応えるかのようにして、男は決意を込めた言葉を言い放つ。

 

「暁美ほむらの悪魔としての可能性は…同じ運命を背負う俺も試してみたい」

 

「…それだけの理由か?」

 

挑発するような言葉に対し、黒のトレンチコートを着た人物の顔が酷く歪んでいく。

 

慟哭にも似た感情と共にこう吐き捨てるのだ。

 

「あの小娘は…俺に違う可能性を示した。コトワリ神と殺し合うのではなく…救う道をな…」

 

「7つの試練における最後の役目を…任せたぞ、人修羅」

 

もう一度だけ丘の上を見上げてみる。

 

その頃には暁美ほむらの姿は半分に割れた高台の上から身投げし終えていたようだ。

 

それを気にも留めない尚紀は最後の試練を与える者として歩き始める。

 

闇のフォーマルスーツを着たルシファーは彼を見送りながらもポケットに手を入れる。

 

煙草を取り出し、咥えた煙草に右手の人差し指と中指から小さな火を灯して火を点ける。

 

紫煙が舞う雪の夜空の下、口元から低い笑い声が響いていくだろう。

 

「人修羅…暁美ほむらが鹿目まどかを救う瞬間を見たお前の顔つきは……最高だったよ」

 

叛逆の物語上映会が開かれる中、意識だけを連れ込まれて見せつけられた者こそ人修羅である。

 

覗き窓からコトワリ神と成り果てた親友をほむらが救った瞬間を見た彼は絶叫してしまう。

 

言葉にならない声を叫び、大声で喚き散らしながら泣き続けてしまう。

 

自分には出来なかった事をやり遂げた者を見せられたその顔つきは涙で歪みきった顔。

 

叫び続ける尚紀の意識が生み出した表情をルシファーは見物していたのだろう。

 

コトワリ神となり果てた親友を救えなかった無力な自分への怒り。

 

道を違えた親友をその手で殺す結末しか得られなかった悲しみ。

 

自分には出来なくて、他の人なら救えた結末への嫉妬。

 

あらゆる感情が爆発し、理性無き感情の奔流を叫び狂い、嘆き、苦しみに塗れたその表情。

 

大魔王ルシファーにとっては最高の愉悦劇であったと語ってくれるのだ。

 

「二人の人修羅…ついに邂逅か。暁の子よ、今からお前の元に現れる存在こそ…炎を運ぶ者だ」

 

かつて一つの宇宙を死滅させる伝説を築き上げた混沌の悪魔がやってくる。

 

もはやその存在は大魔王と呼ばれる悪魔と肩を並べる程にまで成長を遂げているはず。

 

「尚紀はお前を本気で殺しにかかるだろう。あの男の感情を…受け止めきってみせろ」

 

――どうか生き残って欲しい。私を失望させないでくれ…新たなる黒き希望よ。

 

 

あれから幾日かが過ぎた夜。

 

幼い少女の幸せな夢の世界を見守る番人は見滝原を見渡せる丘の上で今日も座っている。

 

目を瞑り、まどか達が歌うだろう人生を生きる喜びの歌に耳を傾けながら。

 

「これこそ私が求めていた結末。でも、概念存在になった私だからこそ…他の宇宙も観える…」

 

そこは円環のコトワリ神でさえ、アマラ宇宙を滅ぼしかねないと危惧された異端の宇宙。

 

アマラではなく、レコードとしてその宇宙を語るならばこう呼ばれるだろう。

 

()()()()()()()()()と。

 

その世界には魔法少女になってしまった鹿目まどかと、その子を救う別のほむらの姿がいる。

 

かつて世界が再変された時、その世界の記憶を覗いた事が今の彼女にはあったようだ。

 

しかし今のほむらは別の可能性が眠る世界を拒絶して魔獣世界を生きる道を選んだ者である。

 

「私はまどかを魔法少女にさせている…違う可能性の私が…許せない」

 

彼女が疑問に思うのは何故あんな宇宙が生み出されてしまったのかについてだ。

 

唯一神の気まぐれが生んだ世界なのか?

 

あるいはその宇宙で生きる一人の少女がもたらした可能性か?

 

他の世界の人物とはいえ、苦しみと悲しみに塗れた魔法少女の世界に身を置く者がいる。

 

鹿目まどかを魔法少女にさせている他の宇宙の現実を許すことが出来ない。

 

可能であるならば、今すぐ乗り込んでいって別のまどかも救いたいと考えてしまう。

 

それでも、それが許されない現実問題を抱えていたようだ。

 

「今の私に出来る事は…円環のコトワリ神であるアラディアを警戒し続けていく事だけね…」

 

左手からダークオーブを出現させてオーブが周囲を舞う光景が続く中、こう口にする。

 

「別の可能性…あの宇宙の暁美ほむらはどんな可能性をまどかに示すというのかしら?」

 

違う自分の可能性に思いを馳せていた、その時だった。

 

<<別の可能性か。それはお前自身もまた…俺に示してくれたな>>

 

全身に鳥肌が立つ程の恐怖を感じさせる声が響いてくる。

 

6つの試練で経験してきた逃れられない死の気配どころではない。

 

もはや死が約束されている程の圧倒的なまでの絶望を感じさせる気配を背後から感じてしまう。

 

「よぉ、会えて嬉しいぜ…小娘。お前もそう思うだろ?」

 

椅子から立ち上がり、直様後ろを振り向くと立っていたのは黒衣を纏う男の姿。

 

ウィザードローブのような黒いジャケットコートを纏い、パーカーを目深く被り顔は見えない。

 

その姿はまるで黙示録の四騎士を思わせるだろう死を司る死神であり、最後の魔人なのだ。

 

「その声…白い夢の世界で聞いたわ。お前があの……」

 

魂を射抜かれる程の恐ろしい視線を向けられていたが、男の視線が椅子の隣側に向けられる。

 

「自己完結の道を選びながらも…愛する人という都合のいい存在を必要とするのか?」

 

「……何が言いたいの?」

 

「酷い矛盾を抱えたお前の本心は…まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()な」

 

そこに置かれていたのは彼女の心が用意させてしまった望んではならないだろう椅子。

 

愛する人と仲間がいつか迎えに来てくれて孤独な自分を救ってくれるという()()()()()()()()

 

「7つの試練…お前が最後の魔人というわけね……人修羅」

 

「その通り名は…いずれお前のモノにもなるだろう」

 

「……………」

 

「最もそれは俺かお前か、どちらかが生き残った者にのみ周りが与える通り名でしかないさ」

 

黒いパーカーの内側で金色の瞳が輝く。

 

パーカーが首裏の角によって跳ね上げられ、悪魔の素顔を晒し出す。

 

「発光する入れ墨の顔…でも髪の毛が黒い……お前は一体何者なの!?」

 

「答え合わせなら、俺達が戦うのに相応しい舞台で教えてやるよ」

 

右手を水平にしながら指差す方角に視線を向けていく。

 

そこに置かれていたのは世界の深層と繋がり世界の情報や巨大な力を引き出せるアマラ転輪鼓。

 

「俺達を導け…悪魔と悪魔の極限の戦いを行うのに相応しい世界へとな」

 

目の前にいる少女は魔法少女ではなくなり、悪魔となった者。

 

ならば魔法少女として扱う必要などない、かつての世界と同じ戦いをすればいい。

 

世界の死と再生をかけた蠱毒の如き地獄で繰り返された悪魔同士の殺し合いが再び始まるのだ。

 

発光しながらマニ車のように回転を始める転輪鼓。

 

周囲に放電を放ち始める現象を見た悪魔ほむらは驚愕したままこう叫ぶだろう。

 

「私を何処に連れて行く気なの!?」

 

()()()()()。その先にあるという…ルシファーが生み出した新宇宙だ」

 

「何ですって!?」

 

アマラ経絡の道が開き、二人の体は経絡の道に引きずり込まれていく。

 

光を超える程の速さで回廊の世界を曲がりくねりながら流されていく。

 

アマラ地図の世界を通っていき、多次元宇宙を超えていくのだ。

 

その果てに小さくあるだろう、創られたばかりの新世界へと二人は導かれていった。

 




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