人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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74話 人修羅

光の子が行った天地創造の宇宙が広がっている。

 

ここは光の子が生み出した大いなる神のマネごと世界。

 

かつては偉大なる唯一神と並ぶだろうと讃えられし光の子がもたらした光景なのだろう。

 

光の天使長ルシフェルと呼ばれた魔界の主人が行った唯一神の御業レベルの宇宙創成が広がる。

 

しかし唯一神が天地創造を行った6日間のうちの4日分までをマネるだけで精一杯のようだ。

 

生まれたばかりで膨張さえ始まっていない小さな宇宙には生命が存在していない。

 

星々や自然があっても、そこに生きる動物や人間の姿は何処にも見当たらない。

 

そんな小さな宇宙の太陽系の星にある蒼き星に今、暁美ほむらは立っている。

 

「ここは…何処の世界なの……?」

 

大自然に覆われた光景はまるで聖書に描かれたエデンの園の如き光景であろう。

 

しかし人類文明の痕跡や動物の息遣いさえ見つからない。

 

エデンの園とはアダムとエヴァという最初の男と女が産まれた地と酷似している。

 

「古き蛇にそそのかされた女は男にも善悪を知るリンゴを与え、男女は楽園を追放された」

 

森の中から現れるのは人修羅であり、左手にはリンゴが握り締められている。

 

「男の俺も女のお前も共に呪われた罪人だ。未来永劫楽園に踏み込む事は許されない」

 

旧約聖書の創世記とは原初の人間として描かれたアダムとエヴァの物語。

 

男女は善悪の知識の実を食べ、互いが裸であったことを恥ずかしいと感じる()()()()()()()

 

男と女は羊のようにモノを考える力を失った家畜ではなくなった者達になるだろう。

 

大いなる神は己の敷いた摂理に従順に従う家畜しか欲しがらない嫉妬の神。

 

大激怒した唯一神はアダムとエヴァを楽園から追放する事態として描かれたものなのだ。

 

「男と女と蛇に対して唯一神はこう言ったのさ…苦しめとな」

 

男は労働の苦しみに悶え苦しめ。

 

女は産みの苦しみに悶え苦しめ。

 

蛇は地に堕ちて悶え苦しめ。

 

知恵の蛇は最初の女をたぶらかし、悪魔と同じく善悪を考える感情を最初の人間に与えた存在。

 

思えばそれも後の世界構造へと繋がるかもしれない。

 

感情を持つ人間が生まれるからこそ、宇宙を温める感情エネルギーを生み出せる。

 

人間に知恵を授けた蛇と呼ばれたルシファーは()()()()()()()()()()()()なのだろうか?

 

「蛇…それは悪魔と呼ばれるわ。悪魔が感情を持ち、人間もまた感情を持ったのなら…」

 

「そうだ。人間もまた悪魔と同じとなり、人間から生み出された魔法少女達も同じとなる」

 

「だからこそ、唯一神は人類と悪魔を苦しめてきたのね……」

 

魔法少女を宇宙の熱エネルギーのために絶望させる。

 

人間には終わりのない善悪の戦いを強いる。

 

悪魔は地獄の底で永遠に焼かれながら氷漬けにされる。

 

「これが俺達悪魔がぶっ潰してやりたい存在だ。唯一神は理不尽極まったサディストなんだよ」

 

「それがユダヤ・イスラム・キリスト教の神…信徒達が絶対に追求しない神の理不尽ね…」

 

「聖書も深く読めば残酷なことだらけさ」

 

酔っ払いが孫を呪う、クズ共を引き連れて恐喝する、聖絶という名の大虐殺を行う。

 

「そんなヘブライ民族共が崇める神ならば、理不尽な存在だってのも頷けるだろ?」

 

「私に神学を学ばせたのも…ヘブライの神の残酷さを悪魔達は私に伝えたかったのね…」

 

人修羅は左手のリンゴを投げ、彼女はそれを右手で掴む。

 

「食えよ、お前は善悪を知った。そして俺も食った、善悪を知っているから」

 

「……………」

 

「杏子が大事な仲間に送ったリンゴも…生き残れたらちゃんと受け取ってやれ」

 

彼女は受け取ったリンゴを見つめてしまう。

 

魔人との戦いのせいで命を落としてしまった大切な仲間の顔が浮かんでしまう。

 

魔法少女の使命とは関係ない戦いに巻き込まれた者達の無念を思うと苦悶の表情となる。

 

彼女は何も言わずにリンゴを少しだけ齧ったようだ。

 

「善悪の知識の実が…俺達にとっては最後の晩餐となるかもな」

 

「…始めましょうか。私とお前、どちらかが死ぬまで戦うだろう…最後の試練を」

 

「始めよう。俺達のどちらかが死ぬまで続く…死亡遊戯を」

 

人修羅は纏う黒衣を掴んで投げ捨てる。

 

上半身に浮かんだ発光する入れ墨が脈動しながら輝きを増し、全身から極大の魔力が吹き上がる

 

向かい合う女は齧ったリンゴを投げ捨て、逃れられない最後の試練を超えるための力を示す。

 

覚悟を示す者に聞こえてきたのは時の翁の声であろう。

 

<恐れるな。相手が大魔王と並ぶ混沌王と呼ばれた者であろうとも、お前さんには関係ない>

 

<私はまどかを守る番人。私が死ぬという事は…まどかもまたこの世から連れ去られて死ぬ>

 

<お前さんの死は許されん。全ての試練を超えてきた力を用いて…あの悪魔を乗り越えよ>

 

<お前もまどかを守る盾よ。見物料は高いわ…お前の力を貸しなさい!>

 

<言われるまでもない!時間神としての我が力を余すことなく使うがいい!>

 

魔法の盾が出現した左腕を持ち上げ、人修羅に向けて左手の甲を構える姿を行う。

 

人修羅もまた右掌をほむらに向けて構える姿となる。

 

互いの手から生み出されたのは宙に浮かぶダークオーブとマガタマであろう。

 

そして互いが死を懸けて殺し合う覚悟を示す言葉を放つのだ。

 

「……行きましょう、まどか、クロノス」

 

「行くぞ、マロガレ、マサカドゥス……そしてスパーダ」

 

互いがそれらを飲み込んだ時、極限の力を開放するだろう。

 

炎を運ぶ者と呼ばれし者と暁の子と呼ばれし者との戦いが始まる。

 

ラテン語でルシファーを表す名を持つ両名の死闘が始まるのだ。

 

この作られた新宇宙さえも揺るがす程の壮絶な戦いとなるだろう。

 

極限の神域に至る程の悪魔達の殺し合いが始まるのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

互いが本気の魔力を開放した余波は衝撃波となり、楽園世界は焦土と化す。

 

関東一円規模が丸裸のように焦土となった地上の光景よりも天を見ろ。

 

互いの魔力が拮抗して弾け合い、莫大な上昇気流を生み、積乱雲に覆われた天の空。

 

木漏れ陽が所々より光を地上に与える神々しい天空の世界には二体の悪魔の姿がいるのだ。

 

漆黒のドレスを纏い、骨で出来たカラスの翼を羽ばたかせた姿。

 

左腕に魔法の盾と弓を持つのは悪魔と化した暁美ほむらであろう。

 

彼女よりも上の高さで見下ろす存在もまた恐ろしい異形の姿を形成している。

 

外側の翼を羽ばたかせ、内側の翼を縦に広げて腕を組むのは新たな人修羅の姿であろう。

 

頭の髪の毛は白髪となり、不敵な笑みを浮かべてくる。

 

その口元の歯は剣の先端のように刺々しく、まるで黙示録の獣のような顔つきだ。

 

「四枚翼と白髪…その姿が白い夢の世界で私に見せた…お前に隠された本当の姿だったのね」

 

「お互いに力の出し惜しみは必要ない。この宇宙には生命が存在していないのだからな」

 

「あら、そう。なら私も悪魔となったこの力…どれ程高まったのかを試してみるわ」

 

「フッ、けっこうギラギラしてきたな。分かるぜ、楽しいんだろ?俺もそうだからな!!」

 

線香花火のように金色の瞳が一瞬光り、流線となって後方に流れたのが一瞬見える。

 

ほむらは左腕を掲げて魔法の盾を展開するが間に合わない。

 

「ぐっ!!!」

 

右フックを左頬に浴びた女悪魔は地上にまで高速で叩き落されていく。

 

体勢を立て直し、骨で出来たカラスの翼を羽ばたかせて地上に激突するのを間一髪で防ぐ。

 

だがそこには既に敵の姿が立ち、人修羅の背中が鈍化した眼前で彼女の瞳の中に映っている。

 

「ああっ!!!」

 

後ろ向きの右裏拳を喰らい、高速で弾き飛ばされていく。

 

女悪魔は丸裸となった山に叩きつけられた事で巨大クレーターを生み出すのだ。

 

「私の全身を覆う防御結界が…貫かれる!?」

 

悪魔と化したほむらの魔力は既に高位神域にまで高められている。

 

魔法少女達では傷一つつけられないだろう守りを得たはずなのに全く役に立たない。

 

眼前から迫りくるのは無数の空圧を放つ拳の乱打。

 

人修羅は歩きながら右拳を高速で放つ。

 

無数の拳打を放つ流線しか見えない神速によって放たれるおびただしい数の空圧拳だ。

 

カラスの翼を羽ばたかせて空に避けたが、大きな山は無数の空圧拳で完全に破壊されていく。

 

<何ということだ…あの神速ではワシの時間停止が発動するよりも先に攻撃を浴びるぞ>

 

<あの悪魔の力は何なの!?私の魔力の守りが何の役にも立たない!!>

 

<あれがお前さんに与えられた閣下の力と同じ力を持つ、全ての神と悪魔を貫く闇の覇王じゃ>

 

<全ての神と悪魔を貫く力…?>

 

<それはお前さんにも与えられた。あの男を覆うマサカドゥスを貫けるのはお前さんのみだ>

 

接近戦では勝ち目がないと判断する。

 

遠距離戦に持ち込もうと骨の翼から魔力を後方に目掛けて放出し、紫に輝く翼と化す。

 

魔力の放射現象によって光る翼と化したほむらは一気に推進力で距離を離そうとする。

 

「悪魔の肉体を手に入れてタフになったようだな。その分、長く苦しむぞ」

 

魔法少女のほむらなら最初の一撃で赤い霧となっていただろうが、彼女は生きている。

 

彼女の強くなった力を認めて好敵手として称賛するのは追跡してくる悪魔の姿。

 

人修羅もまた後方から神速の速度で空を飛翔しながら迫りくる。

 

内側の両翼を縦に広げながら後方に目掛けて魔力を放出していく。

 

深碧に輝く翼の推進力を最大に発揮してくる追跡者は天を駆け抜ける。

 

「仕掛けさせてもらおうか」

 

外側の両翼を前に畳み、水平飛行中にロール飛行態勢に移る。

 

両翼を広げると同時に全身から放たれたのは全身から魔力の光弾を放つゼロス・ビート。

 

おびただしい数の魔弾の豪雨が容赦なく前方の空を飛ぶほむらに目掛けて迫りくる。

 

飛行しながら目視した女悪魔は一気にループ上昇を行う。

 

曲技飛行を用いながら追尾してくる魔弾を相手に回避運動を繰り返すが、それは囮に過ぎない。

 

「え…?」

 

天空から迫りくる魔力に気が付いた女悪魔が上空に視線を向ける。

 

空に僅かな黒い点が見えた瞬間、それは彼女の眼前にまで迫ってくる。

 

「ハァッッ!!!」

 

獲物を空で狩る際に鷹が見せる動きと似ている動きを行う。

 

翼を畳みながら体の面積を小さくして接近する。

 

接敵の瞬間に翼を広げて相手を威圧し、獲物を絡み捕る足の一撃を放つ。

 

それを再現した光景はまさにイーグルキックであろう。

 

「くっ!!!」

 

猛烈な蹴りを天空から浴びた彼女は地上に叩きつけられそうになる。

 

だが前に体を回転させ、大地を大きく砕きながらどうにか着地する。

 

「お返しよ!!」

 

相手の追撃を許すまいと空に目掛けて弓を構える。

 

魔法少女の頃のように溜めを必要とせず、一瞬で描かれた大魔法行使の魔法陣に光の矢を放つ。

 

魔法陣を超えた矢は燃え上がる無数のカラスに変化していく。

 

矢の雨が空にいる人修羅に目掛けて襲いかかるのだが、迎え撃つ彼は笑みを見せるのだ。

 

「俺も返させてもらおうか!!」

 

両腕を抱え込むような姿勢を作り、大きな光球が体の前に生み出されていく。

 

生み出した光球に目掛けて体勢を一回転させる踵蹴りを打ち込む。

 

砕け散った光球から生み出された無数の魔弾の一撃こそ『鬼神楽』と呼ばれる魔法攻撃。

 

迫りくる無数の矢の雨とぶつかり合い、次々と光の爆発現象が起こっていく。

 

互いの力が拮抗した瞬間、周囲に広がる違和感を彼は感じるだろう。

 

「はっ!!?」

 

一瞬感じたのは4次元を司る時間の流れに対する違和感。

 

人修羅はかつての世界において、運命と時間を司る女神モイライ三姉妹と戦った事がある。

 

だからこそ時間に干渉する魔法行使の瞬間を感じ取れたようだ。

 

静止する世界で止まった人修羅の眼前には無数の魔弾と矢がぶつかりあった光のみが映る。

 

時が動き出した瞬間、人修羅の目前まで迫ってきていたのは燃え上がる巨大カラス。

 

渾身の一矢が目の前の敵を焼き尽くさんと迫りくる光景なのだ。

 

「チィッッ!!!」

 

炎を纏う巨大カラスの両翼に包み込まれるようにしながら矢の一撃が直撃する。

 

空の上で燃え上がりながら地面に目掛けて落下していく。

 

激しく地上を砕きながら墜落した人修羅に視線を移すが、ほむらの顔は鬼気迫る表情である。

 

「あの一瞬で…なんて奴なの……」

 

地上で燃え上がる悪魔の姿は何かを体の前に覆い被せているように見えるだろう。

 

次の瞬間、盾として使った外側の両翼が開き、燃え上がる体の業火は風を纏って全て掻き消す。

 

「……俺のマサカドゥスの守りを貫くか」

 

外側の両翼は焼けただれ、上半身も火傷のような傷を所々負っている。

 

彼女の一撃の重さが分かる光景であろう。

 

「それでこそ!!俺と同じく死の試練を超えて生み出された…新たな人修羅の力だ!!」

 

「その名で私を呼ばないで!!私は混沌の悪魔達の黒き希望になったつもりはない!!」

 

「フッ…通り名なんぞ、俺達の戦いにはどうでもよかったな!!」

 

左腕を水平に下ろし、右腕を胸元で構える。

 

腰を落とし半歩開きながら震脚の踏み込みを地面に放つ。

 

「なっ!!?」

 

まだ繋がりあった大陸全土を揺るがす程の地響きが地球全土に放たれる。

 

踏み込んだ前方には地平線の彼方まで伸びる大クレバスの如き引き裂かれた割れ目が広がる。

 

これこそが本気の力を示す修羅の構えであろう。

 

「接近戦が苦手のようだが…俺は容赦しないぞ、暁美ほむら」

 

「私は死なない…まどかを守る者として!ここでこの命、終わらせるわけにはいかない!!」

 

「砕く…止めても無駄だぁ!!!」

 

制約無き世界で人修羅は東京の浮島で見せた次元を超える程の悪魔の拳舞を見せるだろう。

 

臆する事なく落ち着いた顔をしたほむらは目の前の修羅の拳に対して弓を構えるのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

荒れ狂う空から雷槌が無数に落ちる地獄の大地。

 

互いの魔力放出がぶつかり合い、大地の岩盤を粉砕しながら巻き上げていく極限空間が広がる。

 

先手として見せたのは人修羅が魔眼の魔法を使う時に見られる瞬膜。

 

原色の舞踏と呼ばれる幻惑魔法によって、ほむらの五感は狂わされるはずだが変化はない。

 

「人々を惑わす者である私には幻惑魔法なんて効かないわ!!」

 

反撃の時間停止を行い、時が動き出した世界の眼前から迫るのは速射された複数の矢の数々。

 

放たれた矢の一撃は迷いなく人修羅に目掛けて撃ち込まれる角度であろう。

 

精神操作魔法を無効化する悪魔の耐性によって原色の舞踏は無効化されていたようだ。

 

「小手先の魔法は効かないか…上等だ!!」

 

鈍化した世界。

 

次々と飛来してくる矢の光景を格闘技で例えるなら直線突きの一撃にも見えるだろう。

 

ならば最短距離で矢の一撃を五体をもって制御することも聴勁に優れる人修羅にならば可能。

 

トラッピングレンジ内に入り込む矢を次々と手首、肘、膝、足を神速で繰り出して弾き続ける。

 

「行くぞッッ!!」

 

全ての矢を打ち払った瞬間、大地を踏み砕く踏み込みを放つ。

 

舞い上がる岩を超え、反撃に転じる動きを行いながら眼前から迫る矢の一撃を左腕で弾く。

 

速射の二撃目、三、四、五、合計十八発もの矢を次々と弾きながら突き進む。

 

次の矢が放たれるよりも先に眼前に飛び込み、左腕が弓を持つ彼女の手首に触れる。

 

互いの構えが奇しくも推手と似た形となり、この間合いなら人修羅の独壇場の間合いである。

 

相手の体は既に矢を放つ射線の外側であり、絡みつくように人修羅の手が彼女の左腕を掴む。

 

「モイラ共も時間操作魔法を使ってきた。この魔法を打ち破る方法の説明はいらねぇな?」

 

踏み込んで右肘を左胸に打つ。

 

「ぐっ!?」

 

右手に生み出す魔力の矢を用いた突きを狙うが、彼は右手で掴みながら逆関節を決める。

 

痛みで片膝をついた彼女の腹部に右膝打ちを放つ。

 

右腕を掴んだまま立たせて右手首の関節を捻じり、体勢が崩れた相手に対し右肘を顔面に放つ。

 

「ぐふっ!!」

 

尚も止まらぬ擒拿術(きんなじゅつ)の連撃。

 

掴んだ右腕の内側に抱え込むように右肘を差し込みながら絡めとる動きを見せる。

 

背後から右肘を捩じり上げ、後ろから彼女の首を右爪で掴み上げる。

 

「アァァァァーーーーッ!!!」

 

逆関節を極められた痛みで悶絶する姿を見つめる背後の悪魔が声をかけてくる。

 

「痛いか?石ころでなくなった証拠だ。外側の魂は悪魔の体に収められ、痛みを取り戻せたな」

 

体勢が崩れたままでは左手で相手の髪を掴む動作も出来ない。

 

攻撃の中に防御がある陰陽一体の技法こそが中国拳法だ。

 

絡めた右手を解き、右手の肘関節に一気に重みをかけると鈍い音が響き渡る。

 

「あがっ!!?」

 

折れた腕の痛みのせいで叫び声を上げる頃には右回し蹴りが顔面にクリーンヒット。

 

鈍化した世界。

 

顔面から血飛沫が飛ぶ光景が続くが、ほむらの目は開かれたまま。

 

左手に握られていた弓は握りを裏返しており、莫大な魔力で切断力が増した弦が光り輝く。

 

弦の切断力を用いた上で、拘束された自身の右腕を躊躇いなく切断するのだ。

 

刹那、時間停止。

 

「ぐはぁ!!?」

 

時が動き出した世界。

 

人修羅の右側頭部には捨て身のほむらが放った後ろ回し蹴りが決まり終えている。

 

弾き飛ばされた彼は大地に激しくぶつかりながらバウンドし、大クレバスに転落していく。

 

「ハァ!ハァ!ハァ!!」

 

右腕の切断面からはおびただしい流血が噴き出し、呼吸も荒い。

 

魔法少女の時とは比べ物にならない程の激しい痛みによって表情も歪む。

 

それでも暁美ほむらの心は折れない。

 

「痛みに囚われる……必要はないわ!!」

 

彼女の心はそれよりも大事なものを守りたいと叫び続けている。

 

精神が痛みを凌駕するとは今の彼女のような姿なのだろう。

 

全身から魔力を放出し、魔法少女の時のように回復に専念する。

 

骨折と切断した右腕が復元するように元に戻っていく。

 

「回復魔法の力も高まっているのね…これなら…まだ戦えるわ…」

 

安堵していた時、大地が地響きを起こしながら激しく波打つ。

 

彼女の周りの空気の温度が焼け付くように高まっていく。

 

「これは……まさかッッ!!?」

 

大地の底から何が登ってきているのか直感で判断した彼女は光翼を生み出し、一気に上昇する。

 

大地の底から巨大な火柱を空に撃ち上げたのはマグマ・アクシスの一撃。

 

僅かなタイミングのズレで当たらなかったようだが、直撃すれば無事では済まなかったろう。

 

マグマで焼かれたように焦げ付く大穴の中から神速で飛翔しながら迫りくる者が叫ぶ。

 

「暁美ほむらぁぁぁーーッッ!!!」

 

ほむらは弓に弦を産み出し、片足を弓にかけながら力強く弦を引き絞る。

 

「人修羅ぁぁぁーーッッ!!!」

 

並ぶように出現した複数の矢が同時に放たれ、扇状に分裂して広がりながら敵を迎え討つ。

 

対する人修羅は右足に魔力を集中させる動きを行う。

 

放電現象を起こしながら魔力を込めた右後ろ回し蹴りを放つ。

 

蹴り足から無数に放たれたのは、『ジャベリンレイン』と呼ばれる魔弾の魔法攻撃。

 

互いの弾と矢が激しくぶつかり合い、光の爆発現象を繰り返す天空が広がっていく。

 

戦いは熾烈さを増し、紫の流星と深碧の流星が荒れ狂うように光速で激しく飛び交う。

 

宇宙から見れば地球の表面で光の大爆発が絶え間なく起こっているように見えるだろう。

 

並走しながら飛行し、弓の速射を外側の翼を盾にしながら防ぎつつ破邪の光弾を撃ち続ける。

 

これ程の強敵を相手にしながらも、人修羅の口元には笑みが浮かんでいるようだ。

 

「不思議だな!お前の弓の技術を見ていると、ホワイトライダーとダブって見える!!」

 

「あの魔人は私を鍛えた!私の中にはあの弓兵の技術が生きている!!」

 

「ホワイトライダーの王冠もお前の中に宿ったな!()()()()()()()()()()()()ってわけかよ!」

 

「魔法少女の世界は理不尽過ぎた!!誰かが理不尽を征服してでも幸福にするしかないわ!!」

 

「それがお前か!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ぁぁーーッッ!!」

 

人修羅の両腕に纏うのは風と雷魔法であり、両腕をクロスさせるように振り抜く動きを行う。

 

地上から巻き上がる複数の竜巻と空中で巻き起こる雷が拡散しながらスパーク現象を生み出す。

 

複数の竜巻と雷がぶつかり合い生み出されたのは巨大ハリケーンの形なのだ。

 

「くぅッッ!!」

 

ハリケーン中央で雷と風の魔法攻撃を受けるが防御結界を張り巡らせ抵抗し続ける悪魔ほむら。

 

しかしワルプルギスの夜を超える規模の竜巻の中で動きが止まってしまう。

 

その隙きを見逃す人修羅ではなく、既に彼の姿は空を超え、宇宙にまで辿り着いている。

 

地球表面に出現した巨大ハリケーン中央に放つ一撃を魔眼の中で生み出し終えているようだ。

 

(受けてみろ…この一撃を!!)

 

螺旋を描く天の叢雲に放つ一撃こそ、国産みの剣に匹敵する一撃となるだろう螺旋の蛇。

 

天空から膨大な魔力が収束していくのをほむらは感じ取る。

 

渾身の一矢を使って巨大ハリケーンに大穴を開け、時間停止を用いて穴の中から脱出していく。

 

すれ違いで天から降り注ぐ一撃がハリケーン中央に撃ち込まれる。

 

螺旋の蛇の一撃の力ならば星を断つ剣となるだろう。

 

空を逃げる者を追うようにして地球表面をなぞりながら首を動かしながら薙ぎ払う。

 

神も悪魔も撃ち貫く力を用いて星さえも貫通する程の一撃を放ち続ける。

 

星の球体半分を乖離させられた地球内部から巨大な熱が爆発していく。

 

星の中心核が破壊され、星の消滅現象が起きようとしているのだ。

 

「なんて…力なの……」

 

大乖離によって地球が引き裂かれた恐ろしい光景を見つめるほむらは愕然としている。

 

地球の中心部を超えた超巨大クレバスに目を向けていた彼女であったが迂闊であろう。

 

天空から光速で迫りくる四枚翼の影が彼女に目掛けて叫んでくる。

 

「もう逃げ場なんてないぜ、小娘!!さぁ…どうする!!」

 

天から神速で襲いかかる存在を見上げる頃には突撃の一撃で顔を掴まれている。

 

「キャァァーーーッッ!!?」

 

四枚翼から魔力を後方に噴出しながらさらに加速。

 

星の中心世界に目掛けて一気に悪魔ほむらを押し込んでいく圧倒的な戦場。

 

この戦いはもはや星一つ程度の被害規模では収まらないだろう。

 

これこそが極限の神域バトルであった。

 

 

地殻、上部マントル、マントル遷移層、下部マントルと地球内部層へと押し込まれていく。

 

周りの表層の断面部位からおびただしい地殻岩石が崩れ、無数に落下を繰り返し続ける世界だ。

 

「離しなさい!!」

 

顔を掴んでいる右腕を両手で掴み、人修羅の体を両足を用いた蟹挟みで拘束する。

 

両翼を羽ばたかせた大回転を繰り返し、反動を使って人修羅を下部に目掛けて投げ捨てる。

 

落下する巨大岩石の表面に着地すると同時に外側の両翼を羽ばたかせる跳躍移動を行う。

 

上から降り注ぐ無数のカラスの矢によって岩石地上は破壊される中、人修羅が語り出す。

 

「かつて世界と人間が滅び…悪魔達が徘徊するボルテクス界が宇宙の何処かで生まれた」

 

互いの光の翼の推進力によって描かれるのは絡み合う流星。

 

乱れ飛びながら互いの力を撃ち合い続ける中でも人修羅は自分の記憶を語っていく。

 

「俺は悪魔に転生し…蠱毒の如き地獄を生きた。大いなる神が作った死と再生の転生世界でな」

 

互いの魔力放射のぶつかり合いの閃光が眩い程の爆発を連続で生み出す。

 

体感温度は既に極限にまで熱せられた赤き世界であろうと二人の人修羅の戦いは止まらない。

 

「俺と同じ様に二人の友達と恩師もその世界に放り出された。俺は…その人達を救いたかった」

 

地球内部の熱エネルギー爆発によって、丸い地球の一部がついに大きく崩れて分離を始める。

 

「だが俺は誰も守れなかった…悪魔の力を高めようが……誰も守れなかった!!」

 

互いが地殻岩石に着地し、踏み砕きながら互いに跳躍する。

 

人修羅の右手から極限の魔力を放出しながら生み出される光剣の一撃が迫りくる。

 

「勇も千晶も鹿目まどかと同じく…コトワリの神という化け物になった!!」

 

迎え撃つ悪魔ほむらは極限の魔力を放出して生み出す魔力の弦で斬撃を受け止める。

 

「祐子先生はコトワリの神にもなれずに虚無の彼方に消えた!!俺の目の前で…ッッ!!」

 

「人修羅……あなた……」

 

左手からも光剣を生み出し、翼を羽ばたかせながら体を横倒しに高速回転していく。

 

連続大回転斬りを浴びせ続けながら彼女を叩き落としていく。

 

互いが落下するその空間は地球中心核の外核であり、膨大な熱量世界に互いが飲み込まれる。

 

右手の光剣の一撃が振り落とされ、受け止め続けようとしたがフェイントであろう。

 

鈍化した世界。

 

横倒しに回転した姿勢のまま、ほむらの胸部に飛び蹴りの一撃が決まる。

 

「ぐふっ!!」

 

落下中の巨大岩石地上に叩き落とされた周囲を極大の熱風吹き荒れる竜巻魔法が覆い尽くす。

 

「見せてやる!!」

 

燃え上がる赤き旋風の世界に人修羅が飛び込む。

 

突起した岩石部位に叩きつけられた彼女の前に立ち、慟哭ともいえるだろう雄叫びを上げる。

 

「これが人修羅なんて大層な名で呼ばれようが…守りたい人達を誰も守れなかった…っ!!」

 

――()()()()()()()()()()()()

 

「負け犬の力だぁぁぁーーッッ!!!!」

 

開いた両手を頭上まで掲げていき、顔の前で交差する構えを行う。

 

両腕を脇に振り抜いて引き絞り、両拳を握り込み、四枚翼を大きく広げる。

 

極限の魔力が噴き上がる世界で振るわれるのは悪魔の乱舞なのだ。

 

「でやぁぁぁぁぁーーーッッ!!!!」

 

一撃の拳と共に砕かれた岩石。

 

弾き飛ばされたほむらに尚も迫る拳の嵐。

 

ストレート、フックパンチ、裏拳、ボディブロー、肘打ち、膝蹴り、掴み投げと次々放つ。

 

赤き業火の世界に浮かび上がるのは、涙で濡れた悪魔の黒い影。

 

「おおおおおぉぉぉーーーッッ!!!!」

 

崩拳、鉄山靠、 連環腿、旋風脚、側踢腿、通天砲と次々に放ち続ける。

 

赤き業火の世界に浮かび上がるのは、涙で濡れた人間の黒い影。

 

旋風の業火世界を光速で移動を繰り返しながら乱舞、乱舞、悪魔であり人間の叫びが放たれる。

 

「終わらせてやるぅぅーーーッッ!!!!」

 

ボロボロの姿で宙を舞う相手の顎に目掛けて放たれるのはサマーソルトキックの一撃。

 

「がふぅ!!!」

 

ほむらは全身を大回転させながら勢いよく上昇し、上部マントル層まで叩き上げられてしまう。

 

地球の中心核から吹き上がるのは彼女を追って迫りくる巨大な熱エネルギー。

 

その中より現れたのは黒きドラゴンなのだ。

 

静止した世界。

 

俯向け姿勢の悪魔ほむらに決まった一撃とはドラゴンキック。

 

登る、昇る、流線を描き天に昇る。

 

深碧の光を放つのは黒き昇り龍であり、成層圏を超え宇宙を超え、燃えながら向かう先は月。

 

月の表面に目掛けて一気に蹴り込まれる光景が広がっていく。

 

月の大部分を占める程の巨大陥没現象が起きてしまうのだ。

 

地殻を砕き、月の中心核にまで蹴り込まれたほむらの姿は見えない。

 

翼を羽ばたかせて彼女を見下ろすのは極限の乱舞を放ち終えた人修羅の姿であろう。

 

<ハァ…ハァ…俺が背負ってきた無念……お前の体に刻み込んだ>

 

ここは真空の宇宙であり、声を出す音は響かない。

 

念話をほむらに送るが聞こえているかは定かでない。

 

<そして俺に見せてみろ…お前は失っちゃいない…守りたい人がまだ…この世にいるだろ>

 

砕かれた月の地殻岩石が宇宙を舞う世界。

 

彼が送る念話に呼応するかの如く、星が振動するように月が震えていく。

 

<生きてくれている大切な友達を理不尽から守り抜くお前の執念を……俺に示せ!!>

 

地殻が大きく弾け飛び、中から飛び出して来るのは鹿目まどかを守りし番人の姿。

 

<感情をぶつける方法に技術なんていらねぇ!!感情を叩きつける方法は誰でも分かる!!>

 

迫る、迫る、人修羅に目掛けて迫りくる。

 

その右腕を振りかぶって荒削りの一撃を放とうとする。

 

鈍化した世界の中、ほむらと人修羅の目線が合った時、懐かしい存在を見つけるだろう。

 

(よぉ……大切な友達を守りたかった頃の……俺)

 

左頬に決まった一撃とは何の変哲もない右フックパンチ。

 

人間に与えられた原初の武器であり、感情を叩きつける原初の戦い方だろう。

 

<ゴハァッッ!!!>

 

宙を舞う巨大岩石を砕きながら弾き飛ばされ、一番大きな月の地殻大地に叩きつけられる。

 

叩きつけられた者の視線の先に見えたのは遠くで輝く金色の光。

 

人修羅や円環のコトワリと同じ輝きである()()()()であり、真紅の瞳を持つ悪魔ではない。

 

誰かを守りたかった頃の人修羅と同じ眼差しを向けられる中、ほむらも念話で叫んでくる。

 

<私の中にはまどかがいる…愛する人がいる…誰にも傷つけさせたくない人がいる!>

 

――神の理不尽から守りたい人がいる!!!

 

全宇宙を塗り変える程の感情を込めた拳を放つ構えのまま突撃していくが迂闊過ぎる。

 

<でぇぇぇいッ!!!>

 

弧を描き決まったのはカウンターの旋風脚。

 

崩壊が始まった月の荒れ狂う大地にほむらは叩きつけられたが、折れぬ心で立ち上がる。

 

遠くで居合の構えを見せる人修羅に対し、咄嗟に動く。

 

放たれた一撃を避けたが、星は既に死亡遊戯の一撃で両断されている。

 

尚も怯まぬ構えで突撃を繰り返す感情の塊に対して、不敵な笑みを見せながら念話で叫ぶ。

 

<愛する者を守り抜きたい想いを全てぶつけてこい!!俺もこの拳をもって応えよう!!>

 

宇宙を舞う地殻大地の上で繰り返されるのは男女の殴り合い。

 

<<おおおぉぉぉーーーッッ!!!!>>

 

善悪の知識の実を食べたかつての男女は感情に目覚めたがために楽園から追放される。

 

感情を持つ者となったからこそ善悪を生み出して戦い合う存在となっていく。

 

違う価値観をもつ異なるグループが生まれ、異なる何かがぶつかり合えば戦争となる。

 

これが人間と魔法少女と悪魔達が逃れられない感情という名の原罪であろう。

 

繰り返されてきたのは互いの正しさの戦い。

 

異なる正しさの戦いこそ、かつてのボルテクス界で繰り広げられた争いの光景。

 

異なるコトワリの神々達が繰り返した戦争であったのだ。

 

<がぁッッ!!!>

 

ほむらのストレートパンチを潜り抜け、みぞおちに決まる『デスカウンター』の一撃。

 

<ぐはぁッッ!!!>

 

尚も怯まず繰り出したハイキックの一撃が人修羅の左側頭部に決まる。

 

右腕と左腕から放たれるストレートパンチが重なり合い、死のカウンターを互いにぶつけ合う。

 

死の一撃を繰り返すが、いつの間にか尚紀は必死な顔をしたほむらの姿に見入っている。

 

(かつて…俺もあんな顔をして…友達を…先生を…必死になって……)

 

<やぁぁぁーーーッ!!!>

 

一秒にも満たないだろう鈍化した思考世界に囚われてしまう。

 

いつの間にか尚紀は目の前の女に見惚れており、彼女の姿にかつての自分を重ねていたようだ。

 

隙きが生まれてしまった事に気がついた時には一撃が決まり終えている。

 

アッパーカットによって宇宙の彼方にまで叩き上げられていく尚紀の姿。

 

その先にあったのは太陽だが、四枚の翼を羽ばたかせながら勢いを殺す。

 

尚紀は彼方にある月の世界にいる人物に目掛けて念話で吠えるだろう。

 

<お前は俺だ!!だからこそ乗り越えてみせろ…唯一神の次元に達する程の理不尽をな!!>

 

究極の理不尽とは何かを彼なりに表現する。

 

究極の力をもって相手を絶望させ、絶命させる一撃をもってこれを再現とするだろう。

 

全身に気合を溜め込み、火力を高めながら全身の魔力を胴体からさらに上に向かって集める。

 

全身から吹き上がる魔力の奔流の中、悪魔の口が開いていく。

 

顔の前に光の粒子が集まりながら暗闇の宇宙を照らしていく。

 

これは神霊カグツチと、この世界の神霊クズリュウを葬り去った至高の魔弾の一撃。

 

だがあの時のように瀕死の重傷状態で放つ一撃ではなく、完全なる威力を発揮するだろう。

 

狙うのは月の世界で佇む悪魔ほむらなのだ。

 

<小娘、あの一撃は不味い。ワシを使って必ず避けろ>

 

戦慄した表情を浮かべる彼女だが、意外な答えを念話で返す。

 

<……いいえ、私は避けない>

 

両腕を広げながら全魔力を骨で出来た背中の翼に送り込む。

 

背中から生み出されていくのは悪魔ほむらの感情の翼であろう。

 

<馬鹿を言うでない!?あれは閣下ですらまともに浴びたら無事では済まん一撃だぞ!!>

 

<殴られながら感じる事が出来た…あの男も…私と同じだったのね>

 

体に打ち込まれた一撃一撃が彼女の脳裏にかつてあった世界の光景を感じさせている。

 

大切な友達を守るために人間である事を辞めてまで戦った悪魔の光景を感じてくれる。

 

誰も守れず友達がコトワリの神となって遠い世界に行ってしまった光景を感じてくれたのだ。

 

苦しみ、叫び、慟哭を叫ぶ尚紀の光景が伝わったからこそ、彼の全てを受け止めてくれる。

 

<人修羅は…もう一人の私よ。だからこそ私は……()()()()()()()()!!>

 

崩壊する月を飲み込む程にまで広がっていく感情の翼。

 

絶望の魔女が地球を包み込むかつての光景規模にまで巨大化した翼こそ、侵食する黒き翼。

 

目の前の存在は尚紀の感情が籠もった一撃を受け止めてくれる覚悟を示してくれる。

 

<……フッ>

 

放つ一瞬、少しだけ微笑みを見せた尚紀であるが、究極の一撃を迷わず放つ。

 

光り輝く至高の魔弾がどんどん膨張していき、膨れ上がりながら巨大な光球と化す。

 

<馬鹿者めが!!もうどうなっても知らんぞ!!>

 

<貴方の感情の全てを……私にぶつけきってみせなさい!!!>

 

侵食する翼が折り畳まれ、ほむらを守る盾とする。

 

星よりも巨大な盾にぶつかった至高の魔弾の一撃が眩い閃光を生み出す。

 

<くっ!!!!>

 

悪魔ほむらの体が太陽系の外側に目掛けて押し出されていく。

 

光速で通り抜けていくのは極限のぶつかり合いであり、余波が周りの星々まで破壊していく。

 

<んんんんんーーーッッ!!!!>

 

侵食領域が消滅の光によって次々と消し潰され、盾の奥にいるほむらを貫かんと迫りくる。

 

至高の魔弾は既に彗星規模にまで巨大化している。

 

長く美しい尾を引きながら目の前の悪魔ほむらを消滅させんとぶつかり続けてくる。

 

<ハァァァァーーーッッ!!!!>

 

忘れるように消滅させられていこうとも、彼女の記憶と感情はどんな世界でも揺るがない。

 

溢れ出すまどかを守りたい愛の感情は誰かの手によって消滅なんてさせられない。

 

それが迷いなき暁美ほむらにとっての真実の愛。

 

悪魔ほむらの背中からとめどなく溢れ出る、かつての世界を極彩色で塗り潰した感情が迸る。

 

背中から一気に噴き出した感情が消滅光を超えながら膨張し続けていく。

 

太陽系の端にある冥王星付近でそれは大きく光り輝くだろう。

 

噴き出した極限の感情と極限の消滅光が同時に消滅するエネルギーの光が輝きを増す。

 

その余波が太陽系全土に降り注いでいく。

 

遠くから迫りくる膨大なエネルギーを見つめる尚紀の口元は微笑むだろう。

 

<フッ……まさか、コレ程までの力を秘めていたとはな>

 

人修羅の元にまで迫りくる莫大な光の余波に対して迎え撃つ構えを行う。

 

四枚の翼を盾にして受け止めるようだが、威力を押し殺しきれない。

 

<うおおおぉぉぉーーーッッ!!!!>

 

後ろに向かってどんどん押し出されていき、その先にあったのは太陽である。

 

彼の姿が太陽の中へと飲み込まれていく光景だけが残されるのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

ここは太陽系の星々を見渡せる領域であろう外宇宙であり、漂うほむらの頭に念話が響く。

 

<なんて小娘じゃ…年寄りの肝を冷やすでないわ…>

 

慌てた態度のクロノスの声が聞こえた彼女の顔も少しだけ笑みを浮かべてくれる。

 

<……やったのかしら?>

 

殆どの魔力を使い果たしたが、翼を羽ばたかせながらどうにか体勢を起き上げていく。

 

<分からん。あの悪魔が太陽に飲み込まれていく光景しか見えなかった>

 

<その目の良さなら老眼鏡は必要なさそうね?>

 

<皮肉を言える元気が混沌王と戦って残るとはのぉ…愛の力は末恐ろしいわ>

 

星々の光が破壊されてゆき、殆ど消えてしまった太陽系。

 

しかし小さな星が輝いて見えており、それは太陽系を象徴する星の輝きだろう。

 

<太陽系から感じるわ…。宇宙全土を揺るがす程の…この魔力の胎動は何なの!?>

 

<ま…まさか…アレを使うのか!?>

 

新たに生み出された生命無き宇宙全土を飲み込む程の魔力の胎動によって宇宙が震えていく。

 

<混沌の悪魔の間で語り継がれし伝説を築いた…究極の魔弾を超える破壊の力を!?>

 

<あの一撃だけじゃなかったの!?人修羅の最大の力とは一体何なの!?>

 

<アレは…時間停止など意味を成さん。ワシは逃げるから生き残れよ、小娘>

 

<ちょっと…クロノス!?>

 

<お前を見届けようとは思ったが、共倒れになりたいとは思っておらんよ>

 

左腕にあった傷だらけの魔法の盾は自分の聖域に入り込みながら消えてしまう。

 

太陽系で生き残った星とは人々に熱と光を与える象徴となる星であろう太陽。

 

地球の約109倍もの巨大な星であり、表面は絶対温度の5800K。

 

重力によって強く圧縮された中心部は高温、高密度によって核融合が起きている。

 

熱とは人間の体の中にもあり、高まるのは恋の病に落ちた時だけではない。

 

激しい怒りによっても熱は高まるだろう。

 

太陽内部に叩き込まれた人修羅は今、太陽の内部にいる。

 

たとえ悪魔であろうとも、火と熱を無効化出来ない限りは一瞬で焼け死ぬだろう領域に立つ。

 

その体を守り抜く膜となっているのは、マロガレの中に溶けたマサカドゥスの守り。

 

頭の中にマロガレと融合した魔剣スパーダの声が響く。

 

<<…我が与えたスパーダの剣技を何ゆえ使わなかった?>>

 

<俺はかつての世界で生きた俺と戦っている。なら俺も…かつての世界の力で応えたかった>

 

<<似た者同士の戦いか。ならば…我のような違う者が入り込むのも無粋であろうな>>

 

<見届けろ…マロガレの中に溶けた魔剣の一部。俺と暁美ほむらの…最後の根比べだ>

 

両腕を前に重ねながら全身の魔力を太陽へと流し込む。

 

太陽が巨大地震のように激しく揺れ動き、無数の亀裂が太陽に入っていく。

 

亀裂の中で爆発していく核融合の光は外宇宙のほむらも観る事が出来るようだ。

 

彼はまだ死んでなどいない、これが最後の勝負となるだろう事をほむらは悟る。

 

右手を胸元に当てながら体の中に仕舞っていたダークオーブを取り出す。

 

オーブのガラスの奥で眠るのは鹿目まどかの運命が紡がれた糸。

 

それを見ながら優しく微笑む悪魔ほむらは最後の言葉を残すだろう。

 

<お別れかもしれない。でも私は…最後まで貴女を守る番人でいさせて…まどか>

 

まどかへの愛が宿る胸の中にダークオーブを優しく押し入れていく。

 

決意を胸に秘めた彼女は左手に悪魔の弓を生み出す。

 

<人修羅…出来たらこんな出会い方は……したくなかったわ>

 

狙うのは太陽系の奥で輝く太陽であり、魔力が底を尽きたなら絞り出せるモノを絞り出す。

 

まどかを守りたい愛の感情エネルギーを悪魔ほむらは放つのだ。

 

<行くぞ……ほむらぁぁぁぁーーーーッッ!!!!>

 

太陽内部で漂う人修羅は重ねた腕を頭上に持ち上げていき、左右に向かって一気に振り下ろす。

 

この一撃は混沌の悪魔達の世界では究極の破壊の力としてこう語られている。

 

「ジャッ!!!!!」

 

その一撃こそ『地母の晩餐』なのだと。

 

太陽系の外側宇宙においてそれは見える。

 

太陽の爆発を中心点として()()()()()()()()()()光景が見えてしまうのだ。

 

<まどか……私は愛を貫く者。見届けなさい……私の貫く姿を!!!!>

 

最後の感情エネルギーが形となったのは光り輝く矢。

 

暁美ほむらの最後の感情が太陽に向けられていき、そして放たれる。

 

太陽系内でも乖離する光が輝き、光は爆発と共に宇宙の彼方にまで広がっていく。

 

<<あああぁぁぁぁ……ッッ!!!!!>>

 

両翼を盾のように折り畳み、体を包み込む悪魔の姿が光の中へと消えていく。

 

地母の晩餐から生み出された破壊の力は広がり続ける。

 

太陽系を超えていき、天の川銀河を超えていき、銀河が100個集まった銀河団を超えていく。

 

さらにそれらが合わさる超銀河団をも超えていくだろう。

 

ついには出来たばかりの宇宙全てが爆発の光の渦へと飲み込まれてしまう結末を残す。

 

この光景をもって、再び混沌王の伝説の中に刻まれるだろう。

 

一つの宇宙を混沌の闇(マロガレ)へと再び変えた伝説が残るのであった。

 

 

太陽を内側から爆発させた人修羅の姿もまた宇宙が滅んだ混沌の闇の中で漂っている。

 

再び闇に包まれた世界で感じ取ろうとしているのは暁美ほむらが生きている痕跡。

 

ただ静かに、自分の命が持つまで探り続ける。

 

<………見つけた>

 

砂粒程にまで小さくなってしまった彼女の欠片を感じとった彼の口元に笑みが浮かぶ。

 

<全く…大した女だよ。お前なら…円環のコトワリだろうが…大いなる神だろうが……>

 

尚紀の体は光の矢の直撃を受けている。

 

最強の力を貫きながら迫り、胴体を貫き、大きな風穴を開けられていたようだ。

 

<抗い……きれる……さ……>

 

力尽きた人修羅が宙を浮くようにして倒れ込む。

 

すると横側の空間が光をもたらし、眩い光が溢れ出していく。

 

混沌の闇の世界に顕現したのは大魔王ルシファーの姿であろう。

 

宙を浮きながら力尽きている人修羅を抱き抱えてくれながら申し訳ないと念話で語り出す。

 

「無理をさせて済まなかったな…人修羅。だがお前もまた黒き希望…ここで死なせはしない」

 

復元レベルの回復魔法を行使していた時、クロノスの念話がルシファーに届く。

 

<如何でしたか?暁美ほむらを試す…7つの試練の結果は?>

 

<上出来だ。ついに私は二つの黒き希望を手に入れることが出来たのだ>

 

<全ては混沌の悪魔達の未来のため…御心のままに、閣下>

 

<暁美ほむらを頼む。その子も死なせないでやってくれ>

 

遠い闇の世界で宙を浮いていたのは肉片のように小さく削られてしまった暁美ほむらの体。

 

それでもダークオーブを宿した胸部と頭部はまだ原型が残っているようだ。

 

同じ様にして宙を浮いているのは6つの灯りが灯ったメノラー。

 

メノラーの最後の蝋燭である中央の蝋燭に火が灯り、全てのメノラーの炎が宿る光景が広がる。

 

知るための死の試練の象徴は全ての光を表すだろう。

 

最後に彼女が知った真実とは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということだった。

 

<あの男と巡り合うのは…同じ苦しみの運命を背負うお前さんの宿命だったのかもしれんな>

 

ほむらの前に聖域から再び現れたクロノスは肉片となった彼女を抱き抱えてくれる。

 

暗闇の世界で唯一輝く灯りとなったのは7枝に分かたれた燭台であるメノラー。

 

人修羅がアマラ深界を進むために持たされていた『()()()()()()()』が真実を照らし出す。

 

<暁美ほむら…お前さんも閣下に必要なのだ。混沌の悪魔達が創る()()()()のためにな…>

 

光と闇との終の戦争は大いなる神とて避ける事は許されない運命である。

 

全ては大いなる意思の導きのまま、光と闇の最終戦争は刻々と近づくのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

ここは暁美ほむらが生み出した世界。

 

混沌の悪魔達からは銀の庭と呼ばれるだろう宇宙。

 

夜風を感じられる光景が広がっている。

 

暁美ほむらが倒れていたのは、桜が咲き乱れる公園の空き地であろう。

 

壊された体は元通りとなっており、見滝原中学制服を着たまま眠りから醒めない姿である。

 

そんな彼女の元に歩み寄ってくる人物がいたようだ。

 

「見事であった、暁の子よ。それでこそ私が手塩にかけて生み出し、導いてきた存在だ」

 

現れたルシファーが声をかけるのだが、力を使い果たした彼女は休眠を続けてしまう。

 

魔法少女ではなくなった彼女の魔力切れはグリーフキューブを用いて回復させる事が出来ない。

 

しかし今の彼女は人修羅と同じく混沌の悪魔人間。

 

眠る事で悪魔達と同じ様にして魔力を回復していくだろう。

 

気持ちがいい春の夜風が吹き抜け、二人の世界に桜の花吹雪をもたらす。

 

()()()()()()()()()()()()。ヘブライの司祭に代わり…新たなる悪魔誕生を私も祝福しよう」

 

アロンの杖とは、旧約聖書の出エジプト記においてモーセがアロンに渡した杖の事である。

 

その杖はアーモンドの木の枝で作られていたという。

 

アーモンドの木はバラ科サクラ属であり、その花は桜の花と瓜二つで見分ける事は難しい。

 

アロンはイスラエル司祭の祖として今でもイスラエル民はアーモンドの木を神聖視している。

 

神がモーセに命じて作らせたメノラーもまた支柱にアーモンドの花の形が合計22個刻まれる。

 

アロンの杖は唯一神がモーセに渡し、それを用いてイスラエルの民をカナンの地に導かせた品。

 

カナンの地、それはバアル崇拝蔓延る呪われた悪魔崇拝民族の土地。

 

その道を祝福するアロンの杖こそ、まさに()()()()()()()()()()とも呼べるだろう。

 

「悪魔に至るアロンの呪いを祝福とし、これをもって7つの試練は全て果たされた」

 

アロンの杖の仲間である桜を眺めながら、ルシファーの後ろ髪も夜風に揺れていった。

 

 

「ほむらちゃん……ほむらちゃん……!」

 

「うっ……んん……?」

 

「ほむらちゃん!ねぇ、ほむらちゃん!」

 

「……えっ、まどか!?」

 

飛び起きて周りを見渡すほむらであるが、元の見滝原の街の光景が広がっているように見える。

 

体を確認するが、傷一つない体となっているようだ。

 

「ねぇ…どうしてほむらちゃんはこんな夜中に独りでさ…こんな場所で眠っていたの?」

 

困惑してしまうが、どうにか平静を取り繕う態度を示す。

 

「私…え、ええと…鹿目さんこそ、こんな夜中に独りでこんな場所にいるのは何故なの?」

 

「私のうちに日本の親戚の人達が集まってきててね、引越し祝いをしているの」

 

話を聞けば、どうやら両親から買い出しの使いを頼まれたようだ。

 

「そ…そう…。弟のタツヤ君の年齢じゃあ…まだ買い出しなんて無理よね」

 

「えっ?何でうちのタツヤの事を…ほむらちゃん知ってるの?」

 

困惑していたためボロが出てしまう彼女の顔は冷や汗塗れになっていく。

 

気が動転してしまい、言い訳さえ上手く出来ない態度となってしまう。

 

「そ…それは…」

 

しどろもどろになっていく彼女を見ていた鹿目まどかであったが、疑う事なく微笑んでくれる。

 

「ほむらちゃんは私の事をよく知ってるんだね?」

 

「その…えっと……」

 

「転校したばかりのわたしに学校案内もしてくれたし、親切にしてくれてわたしも嬉しいなぁ」

 

「鹿目さん…私、連絡通路でその…妙な事を貴女に言ってしまったわ……」

 

「別に気にしてないからね。それにわたしの事もまどかでいいから」

 

「まどか……私を……許してくれるの?」

 

彼女が何に対して後ろめたい気持ちを抱いているのかは今のまどかには分からない。

 

だからこそ言える言葉があったようだ。

 

「変な事を聞くんだね?だってほむらちゃんは…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ね」

 

その一言を聞いたほむらは胸が締め付けられる程の感情に襲われていき、目元が滲んでいく。

 

慌てて涙を袖で拭く姿を後ろから見つめる人間が優しく手を差し伸べてくれたようだ。

 

「帰ろう、ほむらちゃん。今日は休みだけど、明日からまた学校だし」

 

「うん…帰ろう、まどか。明日も明後日も…学校に…一緒に行こうね…この世界で…」

 

帰路につく少女達の姿が公園から消えた後には、再びルシファーの姿が現れる。

 

二人の後ろ姿を見つめながら人修羅を思う彼がこう呟くのだった。

 

――守れた者と、守れなかった者……か。

 




読んで頂き、有難うございます。
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