人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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第2部 4章 善悪二元論
76話 神浜の魔法少女


東京からそう遠く離れていない県には新興都市がある。

 

かなりの大規模な都市開発が国によって進められ、人口は300万人を誇る程の巨大都市。

 

海沿いに面したその都市の名は神浜市。

 

街の規模で言えば見滝原市に匹敵する程のこの都市ならば多くの魔法少女がいると思われる。

 

人類社会は狩猟採集民の部族社会から幾つかの段階を経て社会を複雑化させてきている。

 

それがやがて国家となっていくのだろう。

 

国際政治学者のカール・ドイッチュの説によればこうだ。

 

国家の起源を社会的コミュニケーションの連続性だという。

 

コミュニケーションによって積み重ねられた財貨、資本、労働、そして情報の移動。

 

コミュニケーションが密度を増すと財貨、資本、労働の結びつきが強い地域が出現する。

 

これを経済社会と定義したという。

 

また同時に言語と文化(行動様式・思考様式の総体)における共通圏が成立するようになる。

 

これを文化情報共同体と定義したようだ。

 

一定の地域でコミュニケーション密度が継続すると、そこは社会を構築する国となる。

 

では社会に対して自身の存在を秘匿し続ける魔法少女達はどうだろうか?

 

彼女達の社会もまた独自の社会、国家を形成しているとも言えるのではないだろうか?

 

魔力、魔法という財貨、資本、そして魔獣と戦う使命という労働を持つ魔法少女達。

 

同時に魔法少女社会にしか通用しない独自の言語と秘匿文化を構築し、共通圏を生み出す。

 

それは国という文化情報共同体とも言える社会構造であろう。

 

魔法少女達の情報秘匿ネットワーク社会、魔獣との戦いという命がけの労働が行われる社会。

 

魔法の力の格差もある社会、それぞれの考え方も違う社会がそこにはある。

 

東京の守護者である悪魔は人間社会の闇に潜むそんな彼女達の社会をこう呼ぶだろう。

 

その集団社会こそ魔法少女社会なのだと言葉を残すのであった。

 

♦

 

神浜市は九つの区から成る。

 

西は新西区と水名区、北は山に面するように横に伸びた北養区。

 

中央は中央区とその上に参京区、下に栄区、南は海沿いに面するように横に伸びた南凪区。

 

そして東には工匠区と大東区があるが東の土地は治安が悪いと地元民から言われているようだ。

 

それぞれの土地に魔法少女社会が存在するようだが、大きく三つに分けられている。

 

この街の魔法少女社会は東西中央という三つの縄張りによって分断されているのであった。

 

2019年の4月頃。

 

季節は4月も後半になろうかという新西区、時刻は夕方。

 

町民が頻繁に出入りする繁華街の街並みで建物を跳躍しながら超えていく2人の人影がいる。

 

「急ごうレナ!かえでちゃんの魔力が魔獣に囲まれてる!」

 

「ももこ…レナ、あの子に謝らないといけない。だから絶対に廃人になんてさせないから!」

 

駆け足で進んで行く2人の少女達は魔獣結界内へと突入していく。

 

その頃、魔獣結界内では1人の魔法少女が襲われている光景が続いているのだ。

 

「きゃぁっ!!」

 

逃げ回る事しか出来ない魔法少女の足にレーザー攻撃が掠めていき、そのせいで倒れ込む。

 

「うっ…!!ぐっ…はぁ…はぁ…」

 

足の傷は深くはないが、恐怖心によって体が思うように動かない様子。

 

かつての魔女程強くはない魔獣達であるが、怖気づいてくれる相手ならば容易く廃人に出来る。

 

(どうしよう…)

 

一体の魔獣が彼女に手を伸ばし、感情を吸い尽くして廃人に変えようとした時だった。

 

「なにボサッとしてんのよ!!」

 

伸ばした魔獣の手を串刺しにしたのは白い翼と光輪で飾られた三叉槍。

 

倒れたまま動けなかった魔法少女を庇うようにして着地する少女達。

 

槍と大剣を構えるのは救援に現れた魔法少女達であろう。

 

「……レナ、さん!?」

 

「ほら!さっさとやっちゃうよ!」

 

「おっし!行くぞ!」

 

ももこと呼ばれた少女はかえでと呼ばれた魔法少女に手を差し伸ばして引き起こす。

 

背丈も小さい魔獣達が彼女達に目掛けてレーザーを放とうと構えていく。

 

柄頭が切子状の形をし、三日月の曲線を描く刃をした大剣をももこは構えて号令を上げる。

 

3人が一気に動き出し、魔獣達を攻め滅ぼす光景が続いていったようだ。

 

小一時間が過ぎた頃。

 

魔獣との戦いに難なく勝利した3人は新西区の神浜市立大附属学校にまで戻ってきている。

 

「初めてにしては中々のチームワークだったな!」

 

「チーム…ワーク…」

 

「ほら…レナ」

 

もじもじとしていたレナの背中を軽く押してやり、かえでの前に歩み寄らせる。

 

「…とろいとか言って…ごめんなさい」

 

「えっ?」

 

俯つむいて言葉を濁そうとするが、本当の気持ちはしっかり伝えないと伝わらない。

 

勇気を振り絞ったレナは言葉を続けていく。

 

「嫌いとか、そういうんじゃなくて…素直なアンタが羨ましくて…八つ当りしちゃったの」

 

「そんな…羨ましいなんて…」

 

「本当に…ごめんなさいっ!」

 

本音の気持ちと行動は一致する。

 

だからこそ本気で謝りたい人のために深々と頭を下げられたようだ。

 

「そ、そんな…!!」

 

かえでは驚いた顔をしながら目をパチクリと瞬きさせてしまう。

 

「…あと、こないだ庇ってくれてありがと」

 

「いえ…」

 

「でさ…レナも反省したから…」

 

もじもじしていくレナを見て、かえでに代わりももこが何を言いたいのかを聞いてみる。

 

「レナ達のチーム…チ…チ……」

 

要領を得ない態度をしていたが、突然素っ頓狂な叫び声を上げてしまう。

 

「レ、レナの下僕になればっ!?」

 

「ふゆぅ!?」

 

「って、うぉおい!!下僕ってなぁ……!」

 

突然の失礼発言ではあるが、助けられたかえでは何処か嬉しそうだ。

 

そんな彼女は二つ返事で提案を承諾してくれる。

 

「……はいっ!喜んで!」

 

「って、いいんかーい!」

 

「中々飲み込みが早いじゃない…。これからはレナの下僕として一緒に戦ってもらうから!」

 

「はいっ!」

 

「ふっ…ふふ。んまぁ、これはこれでレナらしいかな?」

 

神浜の街でまた1つ、魔法少女グループが生まれる光景が広がっている。

 

この神浜ではこのように複数のメンバーを組んで戦う魔法少女で溢れかえっているのが現状だ。

 

個体は弱いが数の暴力を使ってくる魔獣を相手にする場合、独りで戦えば背後を取られ易い。

 

魔法少女達で集団を組み、互いの死角を補い合う連携をもって対処する方が効率的なのだ。

 

この世界では数の少ないグリーフシードを巡って争う必要はない。

 

だからこそ可能な魔法少女達の安定したグリーフキューブの消費活動を築いている。

 

神浜の魔法少女グループの密度数で見れば、他の街と比較しても強い魔法少女地域だと言える。

 

これは人間の生活に必要な物を生産、分配、消費する他に差をつけた経済社会と呼べるだろう。

 

生存をかけた状況が生まれないのなら、魔法少女社会に争い事は生まれないのか?

 

神浜市には魔法少女社会の問題とは別の地域独自の社会問題が根ざす現実もあった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

一定の地域においてある程度のコミュニケーション密度が長期間継続すると国となる。

 

そこに住む人達が民族と呼ばれるようになっていくわけだ。

 

民族が独自の政府統治機構を持ちたいと考えた瞬間に民族は国民と呼ばれるようになる。

 

こうした民族あるいは国民が実際に政府を樹立して成立するのが国民国家であろう。

 

国民国家体制は17世紀頃のヨーロッパにおいて出現した歴史がある。

 

第二次世界大戦後に旧植民地諸国が次々に独立することで全世界に広まっていったのだ。

 

現代における国家は必ずしもこうした理念型に合致するものではない。

 

一つの国家の中に異なる政府の樹立を求める民族が複数存在する場合もあるだろう。

 

西洋に恣意的に引かれた国境線を踏襲したまま独立したアフリカ諸国が代表例だ。

 

各国政府はナショナリズムをもって国民形成を急いだが、各(・)民(・)族(・)の(・)部(・)族(・)主(・)義(・)の(・)抑(・)圧(・)を(・)繰(・)り(・)返(・)す(・)。

 

また指導者が自らの属する民族を重用し、政(・)府(・)内(・)を(・)自(・)民(・)族(・)で(・)固(・)め(・)る(・)といった行為も繰り返す。

 

自由、平等に反する不義理を行ってきた歴史背景があったというわけだ。

 

アフリカと同じ様に神浜市には西と東の地域によって地域差があり、対立現象が起こっている。

 

西の人間達は東の人間を理由もなく嫌っているという神(・)浜(・)部(・)落(・)問(・)題(・)があったのだろう。

 

同じ平民でありながらも他の平民に優劣をつけるという深刻な社会問題を抱えた街。

 

その光景は神浜人間社会だけでなく、神浜魔法少女社会にも存在している現実があった。

 

5年前の出来事に移る。

 

「十七夜(かなぎ)…東の魔法少女達はどうしても独立したいというわけ?」

 

蒼く美しいセミロングヘアーをした少女は目の前のミディアムカットの白髪少女に問いかける。

 

「神浜の魔法少女社会の代表は西側の者達で固められてきた」

 

「それは…そうだけど……」

 

「東の魔法少女は不満を抱えてきた。自分は不平等を許せないし、他の皆も気持ちは同じだ」

 

「私達は魔獣を滅ぼすために共に戦う仲間よ!どうしてそれが分断されないとならないの!?」

 

「東地域は魔獣の出現率が高過ぎる。なのに西の魔法少女達は西側を優先する方針を崩さない」

 

「数の少ない東の魔法少女達だけに…命の比重の重さを敷いてきたと言いたいの…?」

 

「そうだ、七海。これは西側の自業自得の末路だ」

 

七海と呼ばれた少女は事実を突きつけられた事で顔を俯けてしまう。

 

彼女の代わりとして隣の人物が反論を行ってくれる。

 

「待って下さい十七夜さん!私とやっちゃんは東の貴女達を助けに行きましたよ!?」

 

特徴的な跳ね毛をした白髪ロングヘアーの少女が食って掛かる。

 

しかし十七夜と呼ばれた少女は目を細めながらこう告げるのだ。

 

「梓、あの時…西側で活動する他の者達は来てくれたか?」

 

「そ…それは……」

 

「みんな、嫌な顔をして来なかったんだろう?」

 

梓と呼ばれた少女は事実を突きつけられ、隣の少女と同じように顔を俯けてしまう。

 

彼女が伝えたかった部分は十七夜も知っている。

 

西側の魔法少女全てが東側を嫌悪しているわけではない。

 

それでも、それが少数派に過ぎなければ不平等社会という大きな構造を変える力は無い。

 

「社会の方向性は常に愚(・)か(・)な(・)多(・)数(・)派(・)に(・)よ(・)っ(・)て(・)決(・)め(・)ら(・)れ(・)る(・)。魔法少女社会は実に民(・)主(・)主(・)義(・)だ(・)な(・)?(・)」

 

「十七夜…それは謝るわ。でも…」

 

「君達が悪いわけではない。それでも東側は西側魔法少女社会の在り方が許せない」

 

「…東のリーダーと十七夜さん達に慕われている、あの人は何と言ってるんですか?」

 

「あの人と神浜魔法少女社会のボスを気取る西側の女とは…思想の上で完全に決裂した」

 

「何ですって…?そこまで状況が悪化してただなんて…末端の私達にまでは届かなかったわ」

 

「それを引き金にして、自分達も東のリーダーと共に声を大にする」

 

――従わされるばかりで手を差し伸べない西側に付き合うのは…もううんざりだとな。

 

十七夜は席から立ち上がりながら最後の言葉を残す。

 

「皆に崇高な目標があるからといって…環(・)の(・)よ(・)う(・)に(・)繋(・)が(・)り(・)合(・)う(・)と(・)は(・)限(・)ら(・)な(・)い(・)」

 

「貴方達は何をやってるか分かってるの!一つに纏まってた社会を分断するのよ!」

 

「皆が纏まる事が正しい?それは地(・)域(・)主(・)権(・)を(・)脅(・)か(・)す(・)欧(・)州(・)思(・)想(・)だ(・)。我々は東地域を優先する」

 

「それで?いざという時に手を取り合えず、魔獣の軍勢を相手にした時はどうするつもりよ!」

 

「自分達で何とかする。元より君達西側の連中を当てにしている東の者は極めて少ない」

 

「駄目なんですか…?魔法少女達は夢と希望を信じて手を取り合い…環となる事は!!」

 

夢と希望、そして環となる社会。

 

理想主義的な望みを伝えられた十七夜の表情は落胆に満ちている。

 

「夢と希望か…。東の者達には平等に与えてはくれなかったのだ……この街はな」

 

怒った七海と心配顔の梓を置いていきながら店を出る。

 

曇った空を見上げながらも、十七夜は何処か遠い目を曇天に送る。

 

「自分も含めて…皆が自(・)分(・)に(・)都(・)合(・)が(・)い(・)い(・)正(・)し(・)さ(・)し(・)か(・)見(・)な(・)い(・)のさ」

 

都合が悪くなれば相手の事情など棚上げし、自分達の理屈ばかり押し付けて相手を悪者にする。

 

それが崇高であろうと、相手側の事情など知った事ではない押しつけがましい理屈でしかない。

 

理想では人は救えないのが世の常である。

 

「度し難い程にまで人間という存在は…善悪を生み出す感情に…呪われているな」

 

その後、神浜市の魔法少女社会は考え方の違いによって東西に分断される。

 

東西ドイツ、南北朝鮮半島のような地域の分断現象がもたらされてしまったようだ。

 

東西のボスとなった魔法少女達はその後、年齢を重ねた末に力が弱まり戦いに散る結末を残す。

 

東西で長が不在となったため、立候補を募った末に新たな魔法少女社会の長が生まれたようだ。

 

5年後の2019年。

 

現在の神浜魔法少女社会の西側の長は七海やちよとなっている。

 

また彼女の補佐役として梓みふゆが側近のような立場で活躍しているようだ。

 

一方、東側のリーダーは現在に至るまで和泉十七夜独りによる治世が続けられていたようだ。

 

社会の分断現象は今もなお続いていき、これから先も続くだろう。

 

この街に蔓延り続ける部落差別問題がある限り続くだろう。

 

哲学者ニーチェの生の光学の元でという著書の中では民主主義についてこう論じられている。

 

民衆は所有権獲得の変更の教説としての社会主義から最も遠く隔たっている。

 

民衆が多数派となり国を支配し、徴税の締め具を掌握する。

 

すると民衆は累進課税によって少数派である資本家達の死と命を制する事になってしまう。

 

それにより、気高い社会主義思想を捨てる事が出来るようになるのだと言葉を残す。

 

民主主義も一皮剥けばその背後にあるのは実に単純な構造だろう。

 

数の力と数の力が戯れるだけの愚(・)か(・)過(・)ぎ(・)る(・)パ(・)ワ(・)ー(・)ゲ(・)ー(・)ム(・)社(・)会(・)に過ぎなかった。

 

♦

 

環のように皆が繋がり合う。

 

このような思想の事を政治ではコスモポリタニズム(世界市民主義)と呼ばれている。

 

人間性の根本的な要素である理性と道徳的能力を世界規模で普遍化させよという政治思想だ。

 

道徳的に善きものにこそ国家に限定せず、世界人類が忠誠を誓うべきである事を目指す。

 

コスモポリタニズムの発展的、急進的形態として世(・)界(・)国(・)家(・)構(・)想(・)が挙げられる。

 

人種、言語の差を乗り越えた世界平和には全ての国家を統合した世界国家を建設すべき。

 

歴史において最もコスモポリタニズムを指向した国家こそがソビエト連邦である。

 

ロシア革命を起こしたボリシェヴィキはロシア革命を世界革命の発端として考えていたようだ。

 

だが現実はどうだ?

 

ソ連が期待していた西欧諸国での革命は起こらない。

 

ソ連もスターリンが実権を握った後は一国社会主義に傾く。

 

コスモポリタニズム的な世界革命論を唱えたトロツキーは追放される結果を残す。

 

世界の国々がなぜ国の思想を超えて環となる事が受け入れられなかったのだろうか?

 

これを現在の神浜魔法少女社会の光景と照らし合わせて語っていこう。

 

2019年の4月も終わりに差し掛かった頃。

 

夜の20時を過ぎた頃の工匠区では現在、東の魔法少女が誰かに追われているようだ。

 

「ウチ…どうしよ…やっぱりこんな時間に買い物に行かされたのが間違いだったよーっ!!」

 

職人街として栄えた工匠区の工場を飛び越えながら逃げ惑うが、既に周りは魔獣結界。

 

後方には短い瞬間移動を繰り返しながら迫りくる魔獣の群れ。

 

「きゃぁっ!!」

 

屋根に着地したが体勢が崩れ、屋根から転がり落ちてしまう。

 

地面に倒れ込んだ魔法少女は涙目になりながら愚痴を零す。

 

「痛い…なんでウチばっかが…男共に酷い目に合わされるの?」

 

起き上がろうとした彼女の周りは既に魔獣達が包囲している。

 

咄嗟に魔法の横笛を吹き鳴らし、魔音の旋律をもって動きを制しようとするが効果は少ない。

 

「だ…駄目!やっぱりウチの力じゃ一体が限界だよぉ!!」

 

横笛の力が効く範囲は限定されているため、数の暴力に対して極めて相性が悪かったようだ。

 

魔獣の周りを覆う複数の四角いポリゴンが彼女に向けられていく。

 

絶体絶命かと思われたその時だった。

 

<<チャラ~~~~~~ッ!!!>>

 

工場敷地にある煙突の上から素っ頓狂な掛け声が聞こえてくる。

 

炎を両手に纏いながら回転してくる存在が一気に急降下していく。

 

「きゃあっ!?」

 

魔獣の足元から巨大な火柱が起こり、熱を防ぐように両腕で顔を覆う。

 

目を開けていくと焼け焦げた地面しか見えず、魔獣は全て倒されている。

 

燃え上がる功夫扇を両手に持つ魔法少女が立ち上がっていき、笑顔を向けてきたようだ。

 

「ふぅ!今日も私は絶好調!危なかったね~大丈夫?」

 

開いた功夫扇を閉じて纏う炎を消してから歩み寄ってくる謎の魔法少女。

 

長い髪を高めのポニーテールにした彼女は武器を仕舞って手を差し伸べてきたようだ。

 

横笛を持つ魔法少女は目の前の魔法少女を無言で見つめるばかりの態度を示す。

 

「ほっ?どうしたのかな?私の服に何か妙な物でもついてる?」

 

「…その武器、もしかしてアンタは西で最強とか言い回ってる魔法少女?」

 

「その通り!最強の魔法少女!それがこの私、由比鶴乃だから!」

 

西の者だと分かった少女は苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべていく。

 

「…ウチは天音月咲。助けてくれた事には礼は言うけどさ…これ…問題じゃないの?」

 

「ほっ?何が問題なの?私はうちの万々歳の出前でこっちにまで来ててさ、帰り道で偶然…」

 

「越権行為じゃない!ここは東のテリトリーだよ!なんで西の魔法少女が活動しちゃうのさ!」

 

「な、何を言い出すの!?あなたピンチだったじゃない!魔法少女は助け合うものでしょ!」

 

「助け合う?ウチら東の魔法少女に…西側が何をしてくれたのさ!」

 

昔から魔獣の密集地帯を東側に押し付けてきたため、西側の魔法少女達の印象は悪い。

 

そのため相互不可侵を続けてきたようだ。

 

「何でそんな事言うの…?私はただ貴女を助けたくて…」

 

「大きなお世話だから!ウチらの街はウチらだけで守る!西側には頼らないからね!」

 

「昔は昔、今は今だよ!過去に縛られ続ける必要なんて…」

 

「西側が東側にしてきた事を忘れたの!アンタ達の平和は東側の犠牲で成り立ってきたのに!」

 

「ち…違うよ!私はそんなつもりじゃ…」

 

「もういい…助けてくれた事は礼を言うけどお節介だよ。お父ちゃんを待たせてるから帰るね」

 

「あっ……」

 

声をかけようと思ったが、何を言っていいのかも分からず黙り込むしか出来ない有様を残す。

 

これが西側魔法少女社会と東側魔法少女社会との間で広がる深い溝。

 

手を差し伸べたら喜ばれる、有難うと言ってくれる、共に支え合える、た(・)だ(・)の(・)激(・)し(・)い(・)思(・)い(・)込(・)み(・)。

 

コスモポリタニズムは地域主義を掲げる多くの愛国派から批判の声を浴びせられた政治思想だ。

 

他者を想像することの困難さはSNS社会だけでなく、現実生活でさえ克服する者は少ない。

 

他者の痛みを知らずに済ませる事は余りにも簡単だという事実がある。

 

相手の心に危害を加える事の容易さ、他人を想像する我々の能力が極めて劣ってる事の表れだ。

 

想像した事物は知覚された事物のような活力、生き生きとした性質をもたない。

 

世の中における差異は無限であり、想像を超える人物達が存在する。

 

他者に気を使うという事は非(・)常(・)に(・)主(・)観(・)的(・)で(・)あ(・)り(・)、(・)他(・)者(・)を(・)認(・)め(・)て(・)い(・)な(・)い(・)事(・)と(・)同(・)じ(・)。

 

コスモポリタニズムは地域主義の暖かく心地よい感情とは異なり孤独である。

 

理性と人間性への愛のみを提供するが、異なる相手を深く理解するものではない。

 

価(・)値(・)観(・)の(・)押(・)し(・)付(・)け(・)行(・)為(・)とも相手に捉えられてしまい、相手を深く傷つける結果だけを残す。

 

異なる他者、異なる地域、異なる文化、異なる宗教、異なる国。

 

それらに自分達の愛溢れる道徳思想こそ絶対だと押し付けたところで、結果は歴史が示す通り。

 

この世界とは違う宇宙に存在する神浜市では、この思想を魔法少女に広めようとする者がいる。

 

愛と優しさだけで魔法少女達を環の如く繋げ合い、助け合う社会を目指そうと信じる者がいる。

 

違う宇宙の彼女の道は果たして、魔法少女達の総意となるのであろうか?

 

独りよがりの独善であり、周りの意見を見てくれない理想主義に過ぎないのであろうか?

 

その理想さえも行動と責任が伴わなければ無責任と周りから言われるだろう孤独な道。

 

思想、自分の正しさ、全ては感情から生み出される願望を叶えたい人間の欲。

 

自分の正しさは他人の正しさとは限らない、だからこそ人類は争い合うし永遠に苦しむ。

 

終わりなき善悪を生み出すものこそ人間の感情。

 

人が永遠に背負うだろう原罪によって争い合うしか許されない。

 

まさに唯一神から人類に与えられた神罰であった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

4月の始め頃に場面は移った東京の成田国際空港。

 

淑女が好む服装を身に纏い、眼鏡をかけた細目の白人女性が空港内に現れる。

 

行き交う日本人の姿や日本語を耳にしながら彼女は口を開きだす。

 

「…この国に再び訪れるなんてね。懐かしいわ」

 

時刻は夜であり、ロビーを照らす照明によって女性の背後には人影が映っている。

 

その人影に生まれていくのは真紅の瞳であり、念話が聞こえてくる。

 

<たしか、我々が最初に訪れた時代は1878年だったかな?>

 

<…そうだったわね>

 

<あの頃はイザベラ・バード・ビショップと名乗り、英国人を演じていたな…ビショップ夫人>

 

<…やめて。その名はもう意味を成さないわ>

 

イザベラ・バード・ビショップとは、19世紀の大英帝国の旅行家であり探検家。

 

明治11年の6月から9月にかけて日本を旅行した記録として日本奥地紀行を残した人物だ。

 

<習った日本語も覚えていたようだな?まぁ、お前は何処の国にも居場所などないからなぁ>

 

<…この永遠に続くだろう苦しみを与えた貴方が、それを私に言うわけ?>

 

<お前がそれを望んだのだ。忘れるな>

 

事実を突きつけられた細目の女は溜息をつきながら再び歩き出す。

 

空港出入り口付近に止められているタクシーに乗り込み、行き先を伝える。

 

走り出した車の中でも彼女は念話を続けていたようだ。

 

<日本で活動する拠点をどうして東京ではなく神浜市にしろだなんて進言してきたの?>

 

<この東京と呼ばれる首都はいずれ…危(・)険(・)地(・)帯(・)に(・)な(・)る(・)からさ>

 

<東京が危険地帯になる…?それは東京の守護者として振る舞う人修羅と関係があるわけ?>

 

<この国の首都である東京は既に…この国に見捨てられている。いずれ分かることだ>

 

<この国の首都が…日本政府に見捨てられた…?>

 

疑問が募るばかりの女性を乗せたタクシーの灯りが夜道を進みながら神浜市を目指す。

 

そこは東京の守護者が立ち寄る事になるだろう、大規模な魔法少女社会を抱えた街。

 

悪魔であり人間でもある尚紀は神浜市で何を求めていくのであろうか?

 

向かう先は表の社会であり、そして関わるのは裏の社会。

 

この物語は社会の在り方について自分の正しさをぶつけ合う物語となるだろう。

 

社会主義を全体主義にまで押し上げ、共産主義思想に目覚めてしまった人修羅が動き出す。

 

東京の守護者を気取りながら炎を運ぶ者となった者の物語が今、再び始まるのであった。

 




読んで頂き、有難うございます。
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