人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
東京で尚紀と出会った神浜魔法少女とは純美雨(チュン・メイユイ)と呼ばれる17歳の少女。
神浜の秘密組織である蒼海幇の一員として神浜の地で働いてきた人物のようだ。
彼女は神浜の魔法少女社会において、どんな生き方をしてきたのであろうか?
彼女はどんな魔法少女達と共に戦ってきたのであろうか?
今回の物語は彼女が所属する魔法少女グループの話となるだろう。
5月某日の神浜市、時刻は夜。
「ハァ…今夜もゾロゾロと出てきたネ」
魔獣結界内部に侵入した魔法少女グループが物陰に隠れながら周囲を警戒している。
結界内は徘徊している魔獣の群れで埋め尽くされているようだ。
「今日は随分と数が多いね…後続が現れるかもしれないよ」
ショートヘアの銀髪少女は美雨の後ろから魔獣達を観察している。
「……だ、大丈夫でしょうか?」
不安な顔をしてるのは背の小さい緑のミディアムヘアをした少女であり、誰かが肩に手を置く。
「大丈夫です。いつも通りやれば、私達は負けません」
「は…はいっ」
眼鏡をかけた萩色のセミロングヘアをした少女は冷徹な表情のまま仲間達に視線を向ける。
「敵の配置から見て、高台に陣取られては地の利を奪われます」
敵の規模を見る限り、彼女達で対応可能な数だと分析する。
魔獣に気づかれる前に側面から接敵し、包囲機動戦を仕掛ける事を提案してくる。
「任せるヨ。行くネ、あきら」
「ボクも美雨のサポートに回るよ。2人とも気をつけてね」
「かこさん、私達は敵を引きつけます。援護と回復をお願いします」
「はい!あの、ななかさん…私も精一杯頑張ります!」
4人は頷き、向かい合いながらソウルジェムを掲げて魔法少女姿に変身する。
側面から仕掛けるため美雨とあきらは隠密移動し、ななかとかこが前に出る。
ななか達に気がついた時には既に彼女の魔法武器である小太刀二刀流の斬撃間合いだ。
「散りなさい!!」
右袈裟斬りを仕掛け、魔獣の左肩から一直線に斬撃の痕が走る。
続けて放つ右薙ぎ斬りによって一体の魔獣が消滅する。
「と…とにかく行きます!」
かこが持つ魔法の杖は独特な形状をした武器。
杖の先端がまるで工具のニッパーかと思わせるような魔法の杖に魔力を込めて飛びかかる。
魔獣の脳天を杖で打ち付けると魔力が下に流れ込み、光が噴き上がっていく。
深碧の光が地面から噴き上げ、一体の魔獣が消滅するのだ。
敵に気がついた後方の魔獣達は瞬間移動を用いて高台に移動。
地の利を駆使して上からレーザー攻撃を仕掛けようとした時だった。
「全力…込めるネ!!」
側面から一気に飛びかかってくるのは鉤爪を魔法武器にした美雨の姿であろう。
「魂を…込めて!!」
両手の拳を保護する魔法のガントレットを装備したあきらも美雨と同時に仕掛ける。
右袈裟斬りから踏み込み、左右の切上げ斬りによって魔獣を両断しながらさらに突進していく。
跳躍からの旋風脚で魔獣の首をへし折りながら消滅させる。
あきらも跳躍突きで一体を仕留めると同時に踏み込む。
魔獣の懐に跳躍して入り込み、左右の正拳突きを上中下段と一気に打ち込み消滅させたようだ。
「押忍っ!!」
残身の構えをしながら美雨と背中合わせで魔獣と向かい合うあきらは背中の人物に提案する。
「どれだけ倒せるか、数を競うかい?」
「いいヨ、負けないネ!」
互いに踏み込み、後方の魔獣を次から次へと殲滅させる光景が続く。
「敵側の後方が崩れました。私達も前に出ますよ、かこさん」
「はいっ!」
かこは杖の先端に魔力を集中させ、魔力のビーム攻撃を後方から撃つ。
ななかは援護射撃に後押しされながら接敵して次々と斬り倒す光景が続くのだ。
分隊長の如き彼女の指揮のもと、魔獣は殲滅されて結界も消失していく。
「失礼…あしからず」
勝利の余韻に浮かれる表情を見せないななかは魔法少女の姿から元の学生服に戻る。
彼女が着ている制服は参京院教育学園と呼ばれる神浜の参京区にある学校の服装であろう。
「見事な状況判断ネ。お前にリーダーの座を譲て、私も鼻が高いヨ」
「リーダーとして日々精進を繰り返しています…美雨さん。皆の命を預かる立場ですから」
「かこちゃんも最初に比べたら随分と動けるようになったね?」
「私も成長出来てますか?」
「うん!頼もしいぐらいだよ!」
褒められた事で照れた表情を浮かべながら変身を解き、美雨とあきらもそれに続く。
「やはり魔獣という存在は…東地域の方が出現率が高いのでしょうか?」
「魔獣は人間の感情を吸い上げるヨ。あの荒くれモノ揃いの東地域なら吸い放題ネ」
「その原因を作ってきたのは…この街の差別の歴史なんだよ」
「…それを言われるのは私も辛いヨ。蒼海幇は中立として争うべきじゃないと言い続けたネ」
「聞いてるよ…。街の人達に声をかけても感情に振り回されて捲し立てられただけだって…」
「皆が心を持つ人間…感情から生まれる憎しみに囚われてしまう。私もそうです…」
「ボク達に出来る事は人々に害を成す魔獣を殲滅していく…それだけしか出来ないよ」
「無理に東地域に赴けば、東の魔法少女達と争いになてしまうヨ」
出口の見えない社会問題の話題が出た事で皆の顔が暗くなっていく。
「どうして同じ魔法少女なのに…分断されないとならないんですか?」
「皆の考え方が違うからです。西側の人々は自分達の固定観念しか見ないから迫害が起こる」
「固定観念のせいで不平等社会にされたら…東の人達が怒るのも無理ないよね…」
「神浜社会の呪いヨ。社会問題そのものは…魔法少女の魔法でもどうにも出来ないネ」
「私達魔法少女に出来る事は…それぞれの役目に努めて摩擦を防ぐ事しか出来ませんね…」
「感情があるからこそ…人間は環にはなれないんですね…」
「ボク達は魔獣から人間社会を守る魔法少女。それ以上には…なれないよ」
何か思うところがあったのか、あきらの言葉を聞いたななかの表情が俯いてしまう。
「人間社会を守る…魔法少女として…」
「どうした、ななか?」
「いえ、何でもありません。気分が優れないので私は先に失礼しますね」
去っていく彼女の後ろ姿を見つめていた美雨は彼女との出会いを思い出していく。
「ななか…
――これから魔法少女として、どう生きていくべきなのかを。
♦
常磐ななかは15歳の少女であり、参京院教育学園に通う中学3年生。
江戸時代から続く華道の名門である華心流宗家に生まれた人物でもある。
小規模ながらもその流派を堅実に受け継いできた名家の出身。
文武両道の厳しい家庭環境故に華道だけでなく剣術の稽古もさせられてきたようだ。
中学二年生の頃には居合の初段を授かるほどの才覚を見せる。
順風満帆かと思われた人生だが、ある出来事によって転機が訪れたようだ。
父が病に倒れた時、高弟の1人が宗家の代表の元に現れて問題を起こす。
今後の流派においての方針について話し合いが続いていく。
「先生、お体もそのようになってしまっては、流派存続に関わります」
高弟は正座しながら布団で眠る宗家の前で語り続ける。
「私に正教授三級のお免状と花伝書を頂けないでしょうか?私がこの流派を継承します」
眠る宗家の前に出されたのは、お免状の御礼である布に包まれた謝礼金であろう。
「たわけ。お前の技は伝統を無視し、独創性のみ追求するもの。我が流派の伝統を壊すだろう」
「先生…どうしてもお免状と花伝書を渡してもらえないのでしょうか?」
「くど…ゴホッゴホッ!お前は…我が流派の名声が欲しいだけだ…ゴホッゴホッ!!」
高弟の狙いを宗家は見抜いている。
独創性だけでは売りが弱く、大勢に周知させられる華心流の看板が欲しいだけだと分かるのだ。
「…お体が優れないご様子。また次の機会にこの件を話し合いましょう」
名声欲はあるが、犯罪を犯してまで盗み取る度胸はなかった高弟。
だがある日、とある少女と出逢った事により高弟は性格が豹変してしまったようだ。
あろうことか病床に伏せる宗家の元にその少女を連れてきてしまう。
部外者を招き入れた事に対して激怒する宗家だったが異変が起きる。
宗家までも人が変わったようになり、その少女の言いなりとなってしまったようだ。
宗家が気がついた時には全てを失っている。
お免状と花伝書、華心流の看板までもが合法的に譲渡している結果が残される始末。
何が起こったのかも分からず絶望し、病状も極めて悪化してしまう。
最後を迎える日、娘である常盤ななかは宗家である父の元に招かれる。
「何が起こって流派を奪われたか…分からない。覚えているのは…高弟が連れてきた…少女…」
「しっかりして!私を1人にしないで!!」
「頼む…我が流派を…一門を…取り…戻…せ……」
父親が非業の最後を迎えた原因とは、華心流の乗っ取り行為。
その原因は説明出来ない現象によって引き起こされている。
「どうしてこんな理不尽な事が起こるの!?私達が…何をしたっていうの!?」
まだ幼い常盤ななかに降りかかってきたのは救いようのない理不尽。
彼女が誰かに叫んでも、望む答えなど与えてはくれない。
その後は親戚の元に送られ、絶望に打ちひしがれる生活を余儀なくされる。
「現れた少女って…誰なの?その女が…私から全てを奪った人物だというの…?」
項垂れたまま縁側で座っていた常盤ななかが零すのは絶望の言葉の数々。
魔女が消滅した世界の人間社会で慎ましく生きているだけだった少女に舞い降りた悲劇。
理不尽過ぎる加害行為への慟哭の言葉が涙と共に絞り出されてしまう。
そんな常磐ななかの元に現れた存在とは、契約の天使なのだ。
「それはきっと、魔法少女の仕業だね」
「貴方は…何なんですか?喋れる…猫?」
「ボクの名はキュウベぇ。君に起こってしまった理不尽な現象を説明出来る存在だよ」
魔法少女という存在を不可思議な存在から聞かされる光景が続く。
現実離れした話であろうとも、そう考えれば辻褄が合う。
納得した常盤ななかの表情が怒りによって歪んでいく。
彼女の心には魔法少女と呼ばれる存在への怒りと憎しみが噴き上がり、支配されるのだ。
「魔法少女は他にもいるのですね…?なら何故…私の家に助けに来なかったのです!?」
「魔法少女の使命は魔獣討伐だからさ。必ずしも人間を守らなければならない決まりはないよ」
神浜の魔法少女社会は常盤ななかを助けてくれなかった現実がある。
人間社会に危害を加えてくる魔法少女を抑止出来る程の刑罰を作らなかった現実も聞かされる。
神浜の魔法少女社会が地域の魔法少女達を絶対的に司法管理する決まりはない。
魔法少女達の自由を踏み躙る抑圧社会を生み、大きな反発を招く危険があったからだろう。
そう聞かされたななかは驚愕した表情を浮かべてしまう。
「まるで…
「正義のために戦う魔法少女はこの街には大勢いる。でもね、彼女達は優し過ぎるんだ」
人間社会に危害を加える魔法少女が表れても、危機感を持って対処してこなかったという。
制裁に足る根拠となる法も作りはしなかったし、死刑を与える勇気さえなかったようだ。
「そんな…じゃあ、悪者になった魔法少女の扱いは…今までどうしてきたんですか!?」
「痛めつけて説教して終わり。後は相手の良心とやらに期待する…こんな感じだよ」
思いやり、優しさという名で隠されていたものを魔法少女の被害者ならば見抜くことが出来る。
心が優しいとか言われる魔法少女達が繰り返してきたのは、ただの
怒り狂い、悔し涙で顔を濡らす常盤ななかが吼える。
「ふざけんな!!何よそれ…正義の味方を気取る魔法少女って…何なのよ!?」
「きっと彼女達はフィクションの変身ヒロインにでもなった気分で…
ヒーローごっこをしながら満足する生活を送るが、肝心な時には役に立たない。
変身ヒロイン気分で今日も悪者をやっつけに行く高揚感しか興味はない。
皆それぞれに綺麗ごとを吐きながら自分達の美しい世界だけを尊ぶ生活を送る。
「何よ……ソレ……?」
「これが神浜の魔法少女達が繰り返してきた事実さ。社会秩序なんて本気で誰も考えなかった」
「自分達の正しさだけを見て…正しくないものは見たくない者達……」
「そうやって戦ってきたのが…正義を気取る魔法少女達が繰り返してきた現実なんだよ」
「人間社会のための大儀は何処にあるんですか…?それが正しい大儀だとでも…?」
「結局彼女達はね、
聞けば聞くほど、魔法少女という存在に対して反吐が出る常盤ななか。
自分にもそのクソッタレ共と同じ存在になれる才能があると聞かされる。
怒りに燃えていた彼女だったが、それを聞かされた時に決断する表情を浮かべてしまう。
「私に…真の敵を見抜く力を与えてください!魔法少女への復讐に足る力が欲しいのです!!」
人間を玩具のようにして弄ぶ魔法少女への復讐に足る力が欲しい。
殺しても飽き足らない程にまで憎い魔法少女への復讐に足る力が欲しい。
彼女が望んだのは加害者になる魔法少女を見つけ出す力なのだ。
「人間社会を本気で守る気がない…正義を気取る魔法少女達が望む正義は…私はいらない…」
「それが…君の望みなんだね?」
「それでも魔法少女だけに都合がいい正義を望む連中がいるのなら…糞食らえよ!!」
「君の魂を輝かせる怒りの願いは成就するだろう。君の新しい人生が始まるんだ」
「私の新しい人生…それは人間の命を奪う魔法少女を見つけ出し…
光が辺りを包み込み、新しい魔法少女が誕生する。
「契約は成立だ、常盤ななか。それが君のソウルジェムの輝きだよ」
今ここに魔法少女を殺す復讐鬼が誕生することになるだろう。
人間として生きてきた自分達から全てを奪った者を見つけ出し、狩り殺す者が生まれたのだ。
しかし彼女の怒りは復讐する魔法少女だけに向けられたものではない。
人間を魔獣から守ると言いながら人間社会に危害を加える同族を取り締まらない連中がいる。
自分達に都合のいい正義しか求めない魔法少女達への怒りもまた同じぐらいに燃えている。
新しい人生が始まった常盤ななかは探し続けるだろう。
父を貶めて死に追いやった加害者であろう魔法少女を追い求めるのだ。
「私は迷わない…周りの魔法少女から人殺しは良くない、良心を信じるべきだと言われても…」
綺麗ごとの中に隠された事なかれ主義を望む者達の理屈など、彼女は聞く耳を持たない。
冷徹に獲物を探し出し、殺すことのみを求めて生きていく。
刃を研ぎ澄ますように策を巡らせるために兵法書や戦術書も頭に叩き込んでいる。
気が付けば周りからは策士と呼ばれる程にまで戦いの世界で成長を遂げていたようだ。
「貴女は…?」
「お初にお目にかかるネ。私の名前は純美雨というヨ」
「ボクの名前は志伸あきら!突然で申し訳ないんだけど、話があってね」
彼女の噂を聞いて現れたのは正義の魔法少女として生きる美雨とあきら。
説得に応じたななかはコンビを組む相棒の夏目かこも彼女達に紹介してくれる。
かこも説得に応じてくれたことにより、4人組の魔法少女チームが誕生したのだ。
この世界で生きる常磐ななかの立場は違う。
違う宇宙においては、魔女の被害によって魔法少女となり復讐の道を進んだ者。
この世界では
人間としてささやかに生きる自由を魔法少女に奪われた、余りにも哀れな少女であった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
5月の過ごしやすい季節の神浜市参京区。
喫茶店の席で向かい合うようにして座る人物達とは常盤ななかと夏目かこであろう。
「私に話があるとは、どういう要件なのでしょうか?かこさん」
「あの…ななかさんはまだ…囚われているのかなって…」
「それは…復讐を果たし終えた件についてでしょうか?」
「はい…ななかさんの復讐は果たされました。それは私の復讐でもありました…」
「そうですね…かこさんもあの女に人生を滅茶苦茶にされて…魔法少女になった者です」
「覚えていますか?私とななかさんが出逢った日のことを…?」
夏目かことの出会いの日を思い出していく。
夏目かことは13歳の少女であり、神浜市立大附属学校に通う中学一年生。
神浜市の古書店である夏目書房の一人娘であり、母親は国語の教師でもある。
日々愛する読書の世界に浸り、店の看板娘としても働いてきた人生を送ってきた存在だ。
順風満帆かと思われた人生だが、ある出来事によって転機が訪れる。
夏目書房が店舗を構える地域で行われた外国資本による不動産ビジネスが横行する。
狙いは低い調達金利と、他の金融商品に比べて相対的に高い利回りを持つ地域性であろう。
日本の不動産を割安と見る外国人投資家共が様々なマネーを神浜の不動産に流し込んでいく。
日銀の金融緩和と観光インバウンドブームが相まって一部の都市の不動産価格は上昇している。
外国人観光客の増加に沸く神浜市もまた、そんな活況を呈するエリアの一つなのだ。
そうなれば、邪魔者となっていくのが地域住民達。
地域ぐるみで土地買収に反対していたが、それに呼応するかのように嫌がらせが始まっていく。
地上げの如き嫌がらせが地域に吹き荒れる光景がもたらされてしまう。
それは暴力団関係者に委任された巨額のビジネスでもあったのだ。
夏目書房の店主であるかこの父も反対派に加わり声を荒げるが、様々な嫌がらせを受ける。
嫌がらせのポスティング、張り紙、落書き。
相手を痛めつけずに心を折り、立ち退かせる恐怖心扶植戦術が続けられてしまう。
暴力団は怖いイメージを利用して巧妙に恐怖心を植え付ける手口をするのには理由がある。
暴力団も警察に逮捕される事を恐れ、余程の事がない限りは暴力を振るわないのが現状なのだ。
だがある日、やり過ぎとも呼べる惨劇を引き起こしてしまう事態となっていく。
その犠牲となってしまったのが燃え上がる夏目書房であり、家族は無事だが店は全焼。
暴力団とて慎重であるはずなのに行われた凶行事件は不自然な点が多い。
放火犯は逮捕されたが、本人曰く何も覚えていないを繰り返すばかり。
加害者の第一発見者とは、この店の娘である夏目かこ。
怖くてへたり込み、震えるばかりで店を守れなかった事を悔やんでしまう。
全焼してしまった我が家を見つめていた時、キュウべぇを連れたななかと出会うのだ。
「キュウべぇさん、どう思いますか?」
「魔獣は人間を操る力なんてもたない。これは間違いなく魔法少女の魔法だね」
「でしょうね…あら、貴女は?」
どうやら彼女だけでなく、キュウべぇの姿もかこには見えている。
「貴女…キュウべぇさんが見えるのですか?」
「え…あの…は、はい……」
「ふ~ん…なるほど。では…」
「ああ、間違いないね。この子もそうだ」
「後日、この犯行の件について詳しい話をしたいのですが、お時間は大丈夫ですか?」
「あの…その…大丈夫だと…思います」
「では、またお伺いしますね」
後日、同じ時間に現れたななかとキュウべぇに詳しい経緯を語られていく。
真犯人を捕まえたいかと問うた時、かこは二つ返事で望んでくれる。
「は、はい!それは勿論!」
「…だそうです、キュウべぇさん」
「君はその願いを叶えることが出来るんだ、夏目かこ」
才能があったために魔法少女への契約を持ち掛けられる。
フィクションネタだと疑ったが、ななかも魔法少女だと名乗り出てくれたようだ。
キュウべぇの存在も説明がつかない事もあり、納得する以外にないだろう。
「私達魔法少女は魔獣と呼ばれる存在と日夜戦いを繰り広げています」
「なら…私の家を焼いたのも、魔獣と呼ばれる存在ですか?」
「いいえ、魔獣は人間から感情エネルギーを吸い上げて廃人にする力しかありません」
明らかに魔法少女が持つ固有魔法によってもたらされた犯行だと伝えられ、驚愕した顔となる。
「そ、そんな!?魔法少女は魔獣から人間を守るヒーローじゃなかったんですか!?」
「魔法少女にそんな決まりごとはありません。魔獣と戦う使命を果たす、それ以外は自由です」
ならば手に入れた最高の力をどのように扱おうと本人の自由意志に委ねられる。
人間社会に虐げられたなら、魔法を使って面白おかしく報復する事が出来てしまう。
「酷い…それじゃあ、私の家はどうして…魔法少女にこんな目に合わされたんですか!?」
「ドクズ共の発想を客観的に考えるなら…
ななかが語る犯罪心理を聞かされたかこの目に悔し涙が浮かんでいく。
「そんなの…理不尽です!!あまりにも許せないっ!!」
怒りに燃え上る彼女の姿を見つめる常盤ななかは、かつての自分の姿と重ねてしまう。
だからこそ彼女に魔法少女の存在を打ち明ける気になったようだ。
「私も魔法少女になれば…真犯人を捕まえられますか?」
「それだけじゃない、元の生活に戻ることさえ可能さ。君がそれを願うならね」
「ただし、貴女も魔法少女となる以上は命をかけた戦いの日々が待っています」
真剣な目つきでかこを見つめてくるななか。
魔法少女になるからこそ、魔獣と戦う使命以外で気を付けなければならない事がある。
「そして…貴女が得る魔法の力は…人間を簡単に傷つける力さえ持ってしまうでしょう」
「急がせるつもりはない、熟慮してからでもボクは構わないよ」
ななか達はかこの負担にならないよう配慮してくれる。
しかしかこは真っ直ぐな視線をななかに向けてくる。
「ななかさんなら、こんな時…どうしますか?」
「…あまり良い質問ではありませんね」
「ごめんなさい…」
「ですが……私なら、迷わずに契約します」
「どうしてですか?」
「貴女が今感じた怒りを…私も経験したからです」
彼女もまた夏目かこと同じく魔法少女の犠牲者となった人間なのだと語ってくれる。
「私は復讐を誓いました…そのために願いを使った。私の道は…鬼の道となります」
「魔法少女は魔獣と戦う使命を与えられても、自由意志によって魔法を使える危険な存在…」
「その通りです。貴女が魔法少女になったとして、その力に自惚れる者であったのならば…」
「ななかさん…?」
目を細めながら夏目かこを見る彼女の瞳には暗い炎が宿っているように感じてしまう。
「人間の目線を忘れて絶対者を気取り、加害行為を行ってもいいと考える者になるなら…」
――私は貴女も殺します。
かこに殺気を向けてくるななかだが、自然と心は落ち着いてしまう。
彼女だって気持ちはななかと同じだったのだから。
「私には…復讐に生きるだけの覚悟はもてません。それって…人が人を殺す道だから」
「それでいいんです。自由とは憧れながらも…
誰も責任なんて取りたくない、背負いたくない、だからこそ自由は拒まれるものだと語る。
「ななか…」
勧誘に来たはずなのに魔法少女になる事から遠ざける発言をしていた事に気が付かされる。
キュウベぇに注意された彼女は咳払いを行った後、気持ちを改めてくれたようだ。
「すいません、出過ぎた事を語ってしまいました」
ななかの気持ちと同じ気持ちを持ってくれた夏目かこ。
だからこそ彼女は迷わず契約する事を決めたようだ。
「私…魔法少女になります。ななかさんと気持ちは同じでも貴女とは違う道になると思います」
店を守れなかったのが悔しかった、塞ぎ込む家族を見るのが辛かった、だからこそかこは願う。
「人は皆…考え方が違う生き物。同じ苦しみを背負っても…私にはならないで下さい」
「夏目かこ。君はどんな願いをもって、その魂を輝かせるんだい?」
「私は……」
こうしてまた新たな魔法少女が誕生する。
夏目かこが願った内容は放火で焼失した夏目書房と家族の笑顔を取り戻したいというもの。
願いで得た固有魔法は再現と呼ばれる魔法であろう。
行使すれば四肢が切断されようが復元レベルの回復力を発揮出来るようになる。
また現象を再現する事も可能になっていく。
魔法攻撃を再現する力さえ持つ可能性に満ちた魔法少女となるのだ。
「ななかさん、私…貴女についていこうと思います。貴女の道を、私にも見せて下さい」
「貴女は私と貴女は同じ苦しみを背負う同士です。私の苦しみを…貴女になら話せます」
魔法少女になる事は両親にとっては最悪の選択肢であろう。
それでも心の何処かでは不謹慎を詫びながらも嬉しい感情が湧いてくる。
こうして彼女達は魔法少女コンビを組む事となった経緯が過去にはあったようだ。
この世界で生きる夏目かこの立場は違う。
違う宇宙においては魔女の被害によって魔法少女の世界に巻き込まれた者。
この世界では魔法少女の加害行為によって魔法少女となり、常盤ななかの復讐を見届ける者。
人間としてささやかに生きる自由を魔法少女に奪われた、余りにも哀れな少女であった。
♦
「早いものですね…美雨さん達とチームを組んだ日を今でも昨日のように思い出せます」
「私達は魔獣と戦う中で…ついにあの女を見つけ出して…復讐をやり遂げる事が出来ました」
かこが語った復讐を成し遂げた日を思い返すようにして、ななかは両目を閉じていく。
「あの日を生涯忘れられません。復讐を果たしても…心の負担が半分程度になっただけでした」
「加害者に背負わされた怒りと悲しみ…そのうちの怒りの鎖だけでも外せました」
常盤ななかは復讐を成し遂げた魔法少女。
父親は帰ってこないが、それでも前に進めるようになったようだ。
「ななかさんの華道流派は暗示魔法が解けても元には戻りませんでしたね…」
「元々あの高弟は流派の看板を求めていました。魔法が解けたとしても…棚からぼた餅でした」
「これからななかさんは華心流の道をどう進んでいくつもりですか?」
「華心流の伝統をもって、時代の流行りに打ち勝つ以外には…名誉回復の道はありませんね」
「そうですよね…。それと、もう一つ聞きたいことが……」
「何ですか?」
遠慮がちになってしまうが、それでも心を同じくした人物だからこそ聞く覚悟を示せる。
「人が人を殺す…それは私刑です。ななかさんはあの時、何を思ってあの人の命を……」
目を瞑ったまま溜息を出し、両目を開いたななかが真剣な眼差しを向けてくる。
「かこさんになら…語れますね。いいでしょう、私があの魔法少女を……」
――
――――――――――――――――――――――――――――――――
ななか、かこ、美雨、あきらの四名は魔法少女チームを組んだ者達。
神浜の魔法少女社会に名を馳せる新たな西の強豪チームとなるだろう。
自分達の地域である参京区だけでなく美雨が暮らす南凪区も活動拠点として範囲を広げている。
魔獣との戦いを繰り返しながらも、ななかは固有魔法を使い神浜の魔法少女達を見極め続ける。
相手を白か黒かで判断してきたが、お目当てが誰かという決定的証拠を見つける能力ではない。
それ故に復讐する相手を探す捜査は難航し、彼女自身も参っているようだ。
出来る事は人間社会に害を成す魔法少女かどうかという人間性の把握のみ。
それでは見つけた者を次から次に処刑を繰り返し、当たりを引くまで殺し続ける道となる。
捜査に行き詰まっていた頃、神浜の魔法少女社会でとある噂が流れてくる事になるだろう。
「魔法少女が襲われる事件?」
「そうネ。あの流れ者の魔法少女組が怪しいという噂ヨ」
「どうして…魔法少女が襲われてるんですか?」
「そう言えば、前にもこんな騒ぎがあった記憶がありますね」
「あの時も…その流れ者の魔法少女達が疑われたけど…短絡的過ぎるよ。証拠もないのに」
「…調べてみる価値がありそうですね」
調べて見たが、噂の出所が曖昧であり調べを進めていくうちに途切れていく。
「襲われた魔法少女の数も一日で数人規模…」
「全員昏倒して目を覚まさないそうネ」
「命は奪わない手口…美雨さんは犯人が何を目的にしているのだと考えます?」
「捕まえて吐かせたら済む話ヨ」
「荒っぽいなぁ…美雨は…」
犯人の犯行動機について思索を繰り返していた時、黙っていたかこが口を開く。
「面白かったから、だと…私は思います」
皆がかこに視線を向けてしまい、リーダーのななかも彼女の意見に頷く。
「かこさん、私もそう考えています。これは明らかに…加害行為を楽しむ魔法少女の仕業です」
それからも捜査を続けて見つけたのは流れ者の魔法少女の1人を目撃したという情報である。
「遊佐葉月…彼女の周りを張り込む必要がありそうです」
「前にも疑われた人だよね…。でも、今回は襲われた魔法少女の前に現れていたそうだよ」
「行きましょう」
根拠は無いが、それでもこの事件を野放しには出来ない。
ななかの固有魔法がそう叫んでいるかのようであった。
♦
遊佐葉月の身辺を洗い、彼女の周りの魔法少女達もその過程で調べ上げる。
静海このは、三栗あやめ、この2人が遊佐葉月と組んできた流れ者の魔法少女達。
だが調べても彼女達の固有魔法が加害行為に役に立つ代物ではなかったようだ。
魔法少女のことなら魔法少女に詳しい者に訪ねた方がいいと考えたななかが行動を開始する。
神浜魔法少女達が大勢世話になっているという、とある店にも赴いたようだ。
そこで得た紹介情報や、紹介された人物から得た情報を頼りに思索を繰り返していく。
「やはり…暗示魔法を使う魔法少女が今回の加害行為の首謀者ですね」
急がなければならない。
短絡的な答えを求める神浜魔法少女達が葉月達を狙っている状況なのだ。
「みんな…冷静でなくなっているね。あの子達が犯人だって決めつけてるみたいだよ…」
「そうですね…これではまるで…
セイラム裁判とは、1692年3月1日のアメリカで起こった魔女裁判である。
200名近い村人が魔女として告発された歴史的悲劇。
19名が刑死、1名が拷問中に圧死、2人の乳児を含む5名が獄死した悲惨な事件内容だ。
魔女狩り被害を起こした原因は集団ヒステリーと呼ばれる現象が起因となっている。
若い少女が言っている言葉を鵜呑みにし、
いわゆる
「SNSで見かけるネ…批判意見の中身も調べずに悪者レテル張りする短絡的な連中と同じヨ…」
「専門書を読めば知識でその人達が何を伝えようとしているのかだって…分かるはずなのに」
「葉月さん達の姿が見えない状況から考えて、身を潜めて騒ぎの沈静化を待っているはずです」
「賢いネ。その間に私達で出来る限りの捜査を進めていくヨ」
「あやめちゃんは私の友達です!絶対に犯人を許さない!捜査に役に立つ本を探してみます!」
駆け出していく彼女の後ろ姿を見送る仲間達が向かい合い、互いの考えを述べていく。
「私達も捜査に行き詰まっている以上は…このはさんと合流するのも一つの案です」
ななかはこう提案してくる。
彼女達が貶められているのなら、犯人はあの3人の元にまた現れるのではと考えていたようだ。
「おびき寄せる囮として使うかぁ…ボクはそういうの苦手だけど、他に案もないしね…」
「かこはこう言たネ。あやめちゃんは私の友達…利用出来るヨ」
「接触させ、隠れ家に誘導してもらう。それ以外に彼女達を見つける方法も無いですね…」
美雨の提案を採用し、夏目かこを泳がせる事にした仲間達。
後日、かことあやめが接触した際に2人は内輪揉めを始めてしまう。
(あれが…敵の暗示魔法?2人を無意識に洗脳することが出来るようですね)
美雨に指示を出し、ななかとあきらは内輪揉めを止めに入る。
美雨は走って帰っていくあやめを尾行するために動き出したようだ。
彼女達がこのは達の隠れ家を見つけた時に常盤ななかは一計を案じる提案を持ち掛ける。
「今回の獲物…決して取り逃すわけにはいきません」
「どうするネ?」
「中の魔力を探れば、やちよさん達もおられるご様子」
戦力を過剰に集めるよりは遊撃班として敵の逃走ルートを見つけ出して潜伏するという提案だ。
「ななかさん…もしかして?」
「…やちよさんや他の魔法少女に…私の戦いを見られるわけにはいかないのです」
「ななか…お前……」
蒼海幇メンバーとして闇社会で生きてきた美雨だからこそ分かる。
今のななかから発している張り詰める程の空気とは殺気なのだ。
程なくして東の長から情報を伝えて欲しいと頼まれた東の魔法少女もやってきて情報を得る。
その後、隠れ家から逃げるのに一番適していると思われる逃走ルートを見つけ出して陣を張る。
時間が過ぎていく中、ななかはソウルジェムで魔力を探り続ける。
近づいてくる知らない魔法少女の魔力と走る音が接近してくる。
「チッ!あいつらやるじゃん…でも、あたしの暗示は甘くないんだよ、あっは~潰し合え!」
ここは一本道であり、前と後ろを塞げば逃走犯は逃げられない。
「あっ…!?」
路地裏の隙間から出てくるのは鞘に二刀小太刀を収めた魔法武器を握り締める魔法少女。
「貴女が…更紗帆奈さんですね?」
逃げ道の後ろに視線を向ければ、杖を握り締める小さな魔法少女まで現れる。
逃げ場を失った犯人に対して、周囲の空気が凍り付く程の冷淡な声が木霊する。
「1つ…質問してもよろしいですか?」
「あんたも…あいつらのお仲間?質問って何さ?」
「去年の話です」
この街でささやかに生きてきた華道流派の一家がいたと常盤ななかは語っていく。
しかし何者かによって流派は乗っ取られる被害が起きてしまう。
「原因不明の現象によって、合法的に看板と花伝書を持ち逃げされました」
「それが何だっての~?」
「お心当たり…ありませんか?」
「私からも…質問があります」
後ろに陣取ったかこも怒りに燃えた目つきをしている。
「今年の初め頃です」
彼女が住まう古書店が何者かに放火される被害が起きる。
犯人は捕まったが、本人は何も覚えてはいない。
「こんな真似が出来るのは…魔法少女だけですよね?」
彼女達の質問をニタついた表情のまま聞いていた魔法少女が何かを思い出す。
「あ~~、なんか記憶に浮かんできたわ」
腕を組みながら余裕の態度をし、被害者の反応を楽しむかのような態度を見せつける。
「あたしが適当に歩いてた時にさぁ?月刊華道って雑誌が開きっぱでベンチに落ちてたんだぁ」
内容は常盤ななかが生花コンクールで賞を受賞した時の記事内容であろう。
「花のように気取る綺麗な女が写ってたんだよね~。そしたらさ~急になんかね…突然だよ?」
――こいつをくっちゃくっちゃにしてやったらどんな顔するんだろって気持ちが湧いちゃった♪
威圧感を放つななかの顔つきが変わっていく。
「この街に久々に帰ってきた時にさぁ…地上げ騒動やってたんだよね~」
「それってまさか…私の古書店がある地域で起きてきた…」
「暴力団なんて肩書だけで地味な嫌がらせしかしてないしさ~、あたし派手なのが好きでさ~」
――凶行に及ばせたら街の人間共は恐怖で引きつった顔するかな~って、思っちゃいました♪
目に悔し涙を溜め込む程にまで怒りで震えだす夏目かこ。
「そういえば~あんたの顔ってさ、昔見た華道雑誌に載ってた奴と似て…」
「フフ……ウフフフフ……アハハハハハ……」
気が触れたような低い笑い声が暗い路地裏に響きだす。
「人間の私は運が悪かった…。でも、魔法少女の私は…とても運がいいです」
気が触れた魔法少女は帆奈の前に歩み寄っていく。
「美雨さんとあきらさんを別ルートに回して正解でした。あの2人は人殺しには手を貸さない」
左手に持つ二刀小太刀の鞘を前に掲げ、両手で小太刀の柄を握り締める。
「人間に駆除される
「お、おまえ!?」
威圧感から変化した空気とは目の前の獲物を決して逃さず、命を殺す決意が込められた憤怒。
鞘の両側から刃が抜かれる光が煌めく。
マンキャッチャーの形をした魔法の杖を相手に向け、暗示をかけようとするが遅過ぎる。
「がっ!!?」
顔に向けて蹴り込まれていたのは両側から抜かれて地面に落ちかけていた小太刀の鞘。
ななかは既に踏み込んでおり、間合いにまで走り込んでいる。
「くそっ!!」
敵の左側に踏み込み、右肘を相手の左肘に差し込み背中側に曲げ、逆関節を決める動きを行う。
「ギャァァァーーッッ!!?」
拗じられた痛みで上半身が仰向け姿勢となる相手の顔面に左膝蹴りが迫る。
「ぐふっ!!」
赤いつば広ハットが反動で転がり、仰け反る相手の右側頭部に左肘打ちが打ち込まれる。
壁に倒れ込む相手に目掛けて右小太刀の唐竹割りが迫っていく。
両手持ちの杖で小太刀を受け止めようとしたが、それはフェイトなのだ。
「あぁぁぁーーーッッ!!?」
本命である左小太刀の右薙を振り抜き、上に掲げてしまった両腕を刎ね落とす。
おびただしい血飛沫が両腕から噴き出し、絶叫が木霊する。
「……やめろ」
「アァァアアァーーーーッッ!!!!」
「…やめろって言ってんだよ、そのムカつく叫び声を…!!」
左碗刀で相手の喉を打ち込み、壁に押し付けながら喉を潰さんばかりに締め上げる。
「私と父の人生を、面白おかしくグチャグチャにしてみたくなっただ?」
「がっ…あぁぁぁ~~……ッッ!!」
「地上げに苦しむ街の人を、放火で怖がらせたら楽しそうだっただ?」
――オマエ……
理詰めで物事を語る沈着冷静であった常盤ななかの姿が何処にも見当たらない。
恐ろしさで震え上がるかこが見つめているのは、もはや別人のような彼女の姿であろう。
「オマエ…何…分かる!!あたし…家族にさえ…必要とされずに…」
「加害者が被害者ぶってんじゃねぇぇーッ!!そういうのが一番ムカつくんだよぉ!!」
右手の小太刀を帆奈の腹部に一気に差し込み、壁に縫い付ける。
「アガァァッッ!!?お願…カンベ……」
「可哀想な理由があったら、魔法少女は人間社会に何をやってもいいのか、エ?」
「許…して…もう…しな……」
「やむを得ない都合が魔法少女にあったなら、テロリストになってもいいのか、ア?」
もはや勝負はついたと悟り、かこが止めに入ろうとするが拒絶されてしまう。
「手を出さないで!!」
鬼のように歪んだ恐ろしい形相をかこは向けられ、金縛りにあったように体が固まる。
「…見ていて下さい、かこさん。これが貴女に見せる…私の復讐……」
左手の小太刀を右手に持ち替え、逆袈裟の構えを行う。
右肘の奥に隠れるななかの顔は醜くなりながらも両目からは熱い涙が零れていく。
「常磐ななかの…復讐です…ッッ!!!」
迫りくる復讐の刃を見届ける更紗帆奈は最後の言葉を残すだろう。
それはもう、全てがどうでもいいような言葉だった。
「…アハッ……お~わり」
『わたしは返り血をインクにして、心のノートに文字を刻む』
『考え得る限りの口汚い言葉を並べて罵倒する』
『ここに書かれている通りの事が起きるように心から祈念する』
『ありったけの悪意を込めて、ただひたすらに…』
更紗帆奈の歪み切った心が綴られたノートと同じ言葉を常盤ななかの復讐心が叫び続ける。
まさにこの光景こそ、血で血を洗う報復合戦。
人を殺せば穴二つ、必ず
「ヒィィィーーーーーーーッッ!!!!」
路地裏から叫び声を聞いた水名女学園制服を着た少女が駆け寄り、そこで見た光景に絶句する。
円環のコトワリに導かれ、光となって消えていくバラバラの細切れ肉片。
路地裏は返り血塗れであり、自分と同じように座り込んで震えたままの魔法少女もいる。
この場所でただ独り立っていたのは常盤ななかのみ。
「あ…あ…あぁぁ……」
「……終わりました、かこさん。……行きましょうか」
全身血塗れ姿となった常磐ななかが恐ろしく静まり返った表情をかこに向けてくる。
彼女の左側頭部に飾られている白椿の花びらも返り血で染まり、ソウルジェムも赤黒く染まる。
椿の花には花言葉がある、それは
「「ななかぁ!!!」」
気が遠くなって倒れた水名生徒の横を美雨とあきらが通り抜けていく。
「な…なな…か…」
周りの惨状を見て絶句してしまうあきらの表情。
「お前…殺して…しまたカ……」
全てを察した美雨は放心状態のななかの代わりに状況を判断する。
震えるかこをあきらに任せ、ななかを美雨が連れてその場から去っていくしかないだろう。
送れてやってきたのは更紗帆奈のせいであらぬ疑いをかけられた静海このは達である。
「月夜さん!?しっかりして!!」
やちよに揺さぶられても月夜と呼ばれる少女は目を覚まさない。
あやめの両目を右手で覆って隠すのは葉月であり、青い表情をしながらこう口にする。
「酷い…こんな光景…あやめには見せられない……」
「私達姉妹を貶めた奴に…誰かが十分過ぎるぐらいのお礼をしてくれたみたいね…」
凄惨な現場に残された正義の味方を気取る魔法少女達が見せられた現場光景こそ、復讐現場。
魔法少女に人生を奪われた1人の人間の苦しみが叫びとして残されたような景色であった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「私は激情のまま、あの女を斬り刻みました。心の中ではこう叫んでいました…」
死ね、クソッタレの魔法少女。
そして、
泣きながら復讐を果たした人間が心で叫んだ慟哭の言葉を包み隠さず語ってくれたようだ。
正義を気取る魔法少女なら彼女を軽蔑するかもしれない。
しかし常盤ななかと心を同じくする目の前の魔法少女は違ったようだ。
「ななかさんは…何処にでもいる人間として…家族と共に生きたかったんですね」
暗い影を落とした表情を浮かべながらも頷いてくれる。
ミイラ取りがミイラになる選択までして果たし終えた復讐。
復讐を果たし終えた常盤ななかは何を得たのだろうか?
「復讐を果たしたあの瞬間…得られた感情は……」
――帰ってこない人間としての人生に手を伸ばしても届かない…悲しみでした。
長い語り口となってしまい、飲み物を一口含む。
「復讐の道は終わりましたが魔法少女となった以上は死ぬまで魔法少女として生きるしかない」
「これから…どう生きていくんですか?」
「まだ見つかりません…でも私……怖いんです」
そんな言葉を語り出すななかは遠い眼差しを喫茶店の窓の外に向ける。
「人殺しの罪を犯した…自分自身にですか?」
「違います。私が怖いのは……魔法少女社会です」
「この街の魔法少女社会が…怖い?」
「気が付きませんか?神浜魔法少女達の会話内容の中に…何処か不自然な部分がないですか?」
「そう言われても…私は特に意識してませんでした」
人間として生きたかった者が見出した神浜魔法少女達の恐ろしい光景の正体を伝えてくれる。
「消えていくんです…人間としての目線が…」
気がつけば自分達魔法少女の話題ばかりをしている。
恐ろしい魔法を振り回す自分達の姿に違和感すら感じていないと教えてくれる。
「魔法の力を振り回す私達の姿の……違和感?」
「私達は人間でした。人間とは本来、武力や…ましてや魔法の力など所有してはなりません」
――それは人間社会にとって見れば、
「そ、そんなことは……」
「かこさんはある日、隣の家に猟銃を所有する男が現れたとして枕を高くして寝られますか?」
「それは…その…」
「良識ある人だから大丈夫…そんな考えはただの激しい思い込みなのです」
もし社会状況が変わり追い詰められてしまったらどうする?
ある日、猟銃の銃口が面白半分に向けられたとしたらどうする?
「信じられないって言うんですか!?正義に生きる魔法少女達のことが!?」
「正義?それが何の安全保障になるのですか?そうであれ、というお気持ち主義に過ぎません」
「白も…状況次第で黒になると…?」
「抑止力として人間社会には警察が存在し、裁判所と刑務所が存在する司法があります」
「私達の長社会にも…そういう制度を期待したいのですか?」
「ええ。今の魔法少女社会には、そんな大層な社会秩序は残念ながらありませんので」
「ななかさんは魔法少女の秘密を公にすべきとか、国に管理されるべきと考えてるんですか?」
「私は魔法少女社会にも法が形となり、抑止力として機能さえしてくれたらいいだけです」
狩猟部族社会にすら死罪を含む刑罰があるのに、魔獣を狩猟する部族社会の魔法少女には無い。
殆ど無法状態の社会で生きていく事に対して、常盤ななかは警告を与えるのだ。
「今のやちよさんや十七夜さんが決めた魔法少女社会のルールでは…ダメなんですか?」
「そのルールが抑止力となってくれていたら…私とかこさんは魔法少女になどならなかった」
事実を突きつけられ、顔が俯いてしまう。
「ルールとは
――何の抑止力にもならない魔法少女社会の決まり事など、価値はありません。
無言になってしまったかこに罪悪感が湧いてしまい、謝るななかに彼女も慌ててしまう。
その姿がお互いに面白かったのか、少しだけ2人は笑顔を作ることが出来たようだ。
勘定を済ませ、外でお互いに分かれ合う。
夕焼けになっていく空を見つめながら常磐ななかはやり切れない表情を浮かべていく。
「私にはやちよさん程の実力はない。それでも…魔法少女社会が変わって欲しいと願っている」
力の無い自分への苛立ちが拳を握り込ませ、震えさせる。
「圧倒的な力と人間社会を重んじる思想。両方を供える者が神浜社会に現れてくれたなら…」
他力本願の思考になっていく自分に嫌気が差したのか思考を止めて彼女も帰路につく。
人殺しの罪を犯しても、仲間達は責任を追求せずに変わらぬ態度を今でも示してくれている。
ななかが魔法少女になってしまった苦しみを抱える者として気を使ってくれる仲間達なのだ。
そんな優しさに報いたいと、常磐ななかは今日も仲間達を引き連れて魔獣討伐へと赴く。
一輪の白椿、それは今宵も闇夜に咲き狂う魔法少女の姿になるのであった。
読んで頂き、有難うございます。