人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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81話 アザレア三姉妹

尚紀の探偵事務所があるのは東京都江東区の倉庫街である。

 

住まいの新宿区歌舞伎町に帰るには北西に向かい、中央区と千代田区を超えていく事になる。

 

中央区には銀座があり、いわば銀座は尚紀の帰り道の途中にある街。

 

銀座は様々な高級ブランドショップが軒を連ねる街でもあろう。

 

質が良い品を消費者に提供してくれる街でもある。

 

魔法少女の虐殺者として戦う彼が身につける服装はここにある店を利用して揃えているようだ。

 

もちろん頑丈で質が良い分、値段も高額であろう。

 

「魔法少女はいいよなぁ…戦闘服を魔力か何かで生み出せて…」

 

彼は戦闘服が破れたりしたら自腹で買い足していくしかない訳であり、出費が嵩む立場。

 

前に使っていた服は痛みが酷くなって処分し、新しい衣装を仕事帰りに購入して帰宅中なのだ。

 

歩いて帰っていたら石の賢者であるニコラス・フラメルの店が見えてくる。

 

宝石商の彼が商いをしている宝石店であり、ジュエリーRAGという店の名前で営業している。

 

「おや、ナオキ君じゃないか。仕事帰りかい?」

 

店主であるニコラスがシャッターを閉めているため閉店時間だと分かるだろう。

 

「老骨に鞭打って独りで商売を続けるのか?金に困ってないなら店員を雇ったらどうなんだ?」

 

「私は秘密主義でね。おいそれと他人を近づけたくはないのだ」

 

「まぁ、見た目が変わらないお前の秘密に近づかれては不味いもんな」

 

「君も仕事帰りならどうだい?一杯飲みに行かないか?」

 

「BARマダムはもうカンベンしてくれ。俺はあそこの店に行き辛くなった」

 

「あの事件以来、君の正体が世界中の政財界にバレてしまったからな…」

 

「帰り道に付き添うなら歌舞伎町で俺が贔屓にしている店を紹介するぞ」

 

「楽しみだ。ついて行こうじゃないか」

 

2人は尚紀のマンションに近い歌舞伎町へと向かっていく。

 

目的地は彼が贔屓にしているイングリッシュパブであろう。

 

向かい合える席に座り、注文した酒が注がれたグラスを片手に今日の労働を労い乾杯する。

 

「ふむ、酒の味もいいし雰囲気も悪くない店だ。私好みの落ち着ける店だな」

 

「1人で飲みたい時にはよく利用している」

 

「1人でか…あれから君は様子を見に行ってあげているのか?君の義妹だった少女の様子を?」

 

「…偶には」

 

「元気にしていたかね?」

 

「美樹家も良くしてくれているようだ。娘の美樹さやかとは姉妹のように仲がいいみたいだな」

 

「離れ離れになったとしても、君にとっては義妹であり恩人。幸福に過ごせてるなら幸いだな」

 

「幸せそうな杏子の顔を見ていて…俺も気がついた」

 

「何にだね?」

 

「杏子と同じ孤児の俺だからこそ…感じた事だ」

 

両親を失い衣食住すらままならない孤児達は誰かが手を差し伸べて保護してやる必要がある。

 

そう感じた尚紀はその思いをニコラスに語っていく。

 

「俺も佐倉牧師に拾われて救われた。だからこそ、同じ事を俺もしたい」

 

「慈善家として目覚めたというわけか?社会主義者としては素晴らしい精神だ」

 

「俺は共同体のために個人の力を人間社会と共有したい思想家だ」

 

彼が自分の有り余る資本を独占したとする。

 

その上で他の魔法少女にだけ資本である魔法の力を社会のために使えとは言わない覚悟なのだ。

 

「卑怯者にはなりたくないだろう。君は善意を語りながらも行動が伴わない存在が嫌いだしな」

 

「風華のため、佐倉牧師のために使うはずだった宝石の金…今では巨額の貯金に成り果てた」

 

「両親を失った子供達か…。そういえば、去年の9月頃の時期を覚えているかね?」

 

「去年の9月頃?」

 

「私と君が余所から来た魔法少女達を見つけた時の話さ」

 

「あの三姉妹魔法少女のことか。あいつらも俺と同じく…天涯孤独の身だと言ってたな」

 

 

2018年9月頃、夏の暑さも落ち着いて秋が近づいていた時季。

 

尚紀は探偵の仕事で東京都港区に来ていたようだ。

 

張り込み捜査も終わり、証拠写真を収めたカメラを見ながら撮影した画像を確認していく。

 

仕事をしていた時、道路側から知っている人物の声が聞こえてくる。

 

「やぁ、ナオキ君。仕事に精が出るね」

 

横を見れば高級セダンであるベンツのSクラスが路上パーキングに停車しているようだ。

 

左ハンドルの運転席から声をかけてきた人物とはニコラスである。

 

「ニコラスか。今張り込みが終わって事務所に戻るところだ」

 

「良かったら乗せていこうか?」

 

「いいのか?」

 

「構わんよ。私も用事で港区に来ていて帰りの途中でな」

 

「それじゃあ、お言葉に甘えるぜ」

 

停車してある黒いセダンの助手席側のドアを開けて入り込み、高級セダンは発進していく。

 

彼を探偵事務所に送り届けるために隅田川に架かる築地大橋を目指していた時だった。

 

「止めろ!!」

 

突然声を荒げた尚紀の言葉で車を急停止させる。

 

「一体どうしたのかね!?」

 

「路上パーキングに駐車しておいてくれ。この先の竹芝ふ頭辺りに魔力が大勢集まっている」

 

「魔法少女達の争い事かね…?」

 

言われた通りニコラスは路上パーキングに車を停車させる。

 

「俺は様子を見てくる」

 

「介入するのかね?」

 

「魔法少女同士の小競り合いなら介入しないが、人間が巻き添えになるなら俺が割って入る」

 

「なら私も避難誘導ぐらいには役に立つ。一緒に行こう」

 

路駐した車から2人はドアを開けて外に向かう。

 

魔法少女達の魔力が集まっているのは夜の竹芝ふ頭公園の敷地内。

 

再開発によって港と公園が一体化した観光名所だが、今は平日の夜中であり人通りもまばら。

 

大きな円形の公園広場には帆船マストの垂直棒が立つ夜景スポットとしても有名な場所。

 

しかし今は大勢の魔法少女達が集まりながら誰かを囲んでいるようだ。

 

囲まれてしまっているのは3人の魔法少女グループのように見える。

 

「お前ら、余所者の魔法少女だろ?」

 

「あはは…そうですけど、お姉さん達…ちょっと殺気立ち過ぎじゃないかなぁ?」

 

金髪の長髪をサイドポニーテールにした少女が前に立ち、交渉事を行っている。

 

身長170センチの尚紀よりも大きい魔法少女と思われる人物だ。

 

後ろの2人の前に立ち、どうにかこの場をやり過ごそうとしているように見えるだろう。

 

「あたしらの縄張りに勝手に入り込んでさぁ、ただで済むと思ってるわけ?」

 

「縄張りってなんのことかなぁ…?」

 

改変されたこの世界の魔法少女達は数の多い魔獣と戦う者同士。

 

供給量の多いグリーフキューブ目当てに争い合い、縄張りを作る理由など微塵も無いはず。

 

「だから余所者なんだよ。東京の魔法少女社会はギャング勢力圏をそれぞれの区に作ってるの」

 

その縄張りを魔法少女が侵害するのは営業妨害であり、戦争の引き金になると語ってくる。

 

世界が改変されようが東京の魔法少女社会は物騒極まりない社会なのは変わりないようだ。

 

「あたしら余所者だから知らなくて…その、今回ばかりは見逃してもらえないかなぁ~って?」

 

横目で周りに視線を送るが人数が多過ぎる。

 

<ごめん…葉月。あちしが東京に行きたいなんて言い出すから…>

 

葉月と念話で呼んだ人物とは葉月の後ろで震えている小さな魔法少女であろう。

 

前髪を切り揃え、ピンク色の長髪をツインテールにした見た目の少女である。

 

庇うようにして隣の人物から抱きしめられているようだ。

 

<いいんだよ、あやめ。こういう魔法少女トラブルも…他所の街に流れて行くならあるって>

 

<葉月…やり過ごせるかしら?>

 

<ん~~…ちょっと無理かも。この子達は人の話を聞くタイプじゃないよ、このは>

 

念話で返事を返したのは、あやめを抱きしめて庇う銀髪の長髪をした魔法少女のようだ。

 

「あんた、イイ体してんじゃん?」

 

港区でギャング化した魔法少女チームのリーダーと思われる人物が葉月の前に出てくる。

 

「東京の魔法少女は半グレだけど、バックボーンにはエスタブリッシュメント達が大勢いる」

 

「エスタブリッシュメントって…何だろう、このは?」

 

「…社会の支配階級という意味よ、あやめ」

 

「あたしらはその人達を儲けさせないとならないわけ…相互依存ってやつ?」

 

「儲けさせるって…あたしらに何やらせようって気なわけ?」

 

「闇金融、IT、AVプロダクション、あらゆる企業にコネがあるんだよ」

 

「私達のバックボーンはね、大手アダルトビデオの企業家でもあるんだ~♪」

 

葉月とこのはの豊満な体に視線を移すギャング魔法少女達が不気味な笑みを浮かべてくる。

 

「見逃し賃は高いよ。あんたらが目玉飛び出る金を請求するけど払えないでしょ?だ・か・ら」

 

――あんたら2人、AV女優として暫く働いてもらうから。

 

「「なっ!!?」」

 

赤面する2人だったが1人は意味を理解していないぐらい幼い少女のため体つきは貧相である。

 

「エーブイ女優って…何する仕事なの?」

 

「あやめは知らなくていい!!アタシらは絶対にそんなの嫌だから!!」

 

「なら隅田川に沈めてやる。川の底で円環の女神様にでも遺体を一本釣りしてもらうんだね」

 

もはや争いは避けられない空気となっていく。

 

その影で尚紀とニコラスは息を殺して隠れ潜み、状況把握に努めている。

 

「不味いな…どうやら魔法少女同士の殺し合いに発展しかねん空気だ」

 

「魔法少女同士潰しあって死ぬなら構わない。自ら選択してこの世界に入り込んだ連中だ」

 

しかし周りは人間の生活圏であり、多くの魔法少女が争い合えば甚大な被害をもたらすはず。

 

「無関係な人間にまで被害が出るのは避けられないな…」

 

判断次第では割って入る覚悟を決める尚紀は油断なく状況を見守る。

 

「あんたら、流れ者の魔法少女なんでしょ?そういうの東京では結構訪れる場合があるんだよ」

 

「だから…何なのさ?」

 

「大抵そういう連中はね、家出少女か児童養護施設から逃げ出した子供とかなんだ」

 

「あちし達以外の孤児達も…東京には訪れるんだ?」

 

「あんた達も孤児なんでしょ?私達天涯孤独で寂しいの~、って空気が全身から出てるって♪」

 

「お前らのような連中には悪くない話だよ~?」

 

「親に面倒見てもらえない女の選択肢はオジサンのチ○○咥えこんでる姿がお似合いだから♪」

 

周囲のギャング魔法少女達がゲラゲラと葉月達を嘲笑う光景が続く。

 

先程まではのらりくらりとした態度をしていた葉月の雰囲気が変わっていく。

 

「……やめろよ」

 

「あん?」

 

普段は平静を装い、相手から譲歩を引き出すタイプの葉月であったが、堪忍袋の緒が切れる。

 

「テメェらにアタシらの苦しみの何が分かる!?ふざけた口を叩くその口を縫いつけるよ!!」

 

葉月の激怒に呼応するかのようにして、このはとあやめも吼える。

 

「私達はね…孤児の私達を守ってくれたつつじの家を守るために!天涯孤独になったのよ!!」

 

「あちし達と同じ苦しみを背負ってる子達を馬鹿にするなぁ!!」

 

「みんな苦しくて、寂しくて…それでも私達のような孤児は誰も助けてくれないのよ!!」

 

「それを酷い目に合わせてきたんだろ!女の尊厳を踏み躙ってまで…アタシは許さない!!」

 

彼女達の逆らう態度を見たギャングのボスは目を細めていく。

 

「馬鹿だなテメェら……死んだぞ?」

 

取り囲んでいる魔法少女達がソウルジェムを生み出して構えてくる。

 

このは、葉月、あやめも左手にソウルジェムを出現させて構えていく。

 

状況的に戦闘は避けられない現場ならば人修羅が割って入り、連中を殺戮するしかないだろう。

 

「君が出たところで、遠くは人々が歩いている生活圏だぞ。ここで戦う事そのものが不味い」

 

「なら、お前ならどうするんだよ?」

 

「逃げるに決まっている」

 

ついてくるよう促してくるニコラスの後ろを尚紀はついていく。

 

「さて…荒っぽい運転なんて何十年ぶりの経験だろうか?」

 

「自信がないのか?」

 

「恥ずかしながら、今日運転するのも久しぶりなぐらいの老いぼれだよ」

 

「ハァ…なら運転を俺に代われ」

 

「ドライビングテクニックに自信があるのかね?」

 

「まぁな」

 

尚紀が探偵の仕事に使う車の免許を取得出来た頃、瑠偉に休日を引っ張り回されてきている。

 

彼女が所有しているサーキットでドライビングテクニックを叩きこまれたというわけだ。

 

「なるほど…特別な英才教育を受けてきたというわけだね」

 

「シートベルトをしっかり締めな。俺の運転は瑠偉ほどお上品じゃない」

 

2人が現場を去った後、3人組の魔法少女達を包囲するのは東京のギャング魔法少女達。

 

ギャング達全員が殺気を放ち、魔法武器を葉月達に向ける状況が続いている。

 

対してこのはと葉月とあやめは互いに背を向け合いながら死角を補う陣形で敵に武器を向ける。

 

「アタシが道を切り開く。このは、あやめと一緒に荷物を出来るだけ抱えながら逃げられる?」

 

斧に似た独特な形状の二刀流武器を両手で構える葉月の無謀過ぎる提案に対して拒絶を示す。

 

「ダメよ葉月!?それでは貴女が囲まれて孤立してしまうじゃない!!」

 

「それ以外に…この状況からあやめを守りきれる手段を思いつけないんだよ…」

 

「あちしだってやれる!!葉月を置き去りにするぐらいなら…最後まで残って戦うし!!」

 

「ありがと、あやめ…。嬉しくてアタシ…泣きそうだよ」

 

怒りを見せる魔法少女ギャングリーダーが号令を上げようとする。

 

「舐めた態度してくれたんだ…バラバラに体を刻んでやるからなぁ!!」

 

リーダーが襲撃を仕掛けさせようとした、その時だった。

 

「なっ!?」

 

リーダーの瞳に映るのは公園の入り口付近から猛スピードで走り込んでくる高級セダンである。

 

「ABS、VSA、ドリフトの邪魔になるものが新型には多いな」

 

「私が隙をつくる。グローブボックスに入っているサングラスをかけたまえ」

 

「何をやるのか知らないが、派手にやってくれ」

 

高速で現場に侵入し、曲がりながらリヤを外に流し込む。

 

アクセルコントロールでリヤを制御して逆ハンドル操作を行う。

 

後輪が一気に流れてドリフト状態となりながら魔法少女の輪の中に突っ込むのだ。

 

「グハァ!!?」

 

ギャングの1人を跳ね飛ばしながら包囲された魔法少女達の目の前で急停止させる。

 

「余所者のお嬢さん方!!目を瞑りなさい!!」

 

突然現れた運転席の男と助手席の老人であったが、迷っている暇もなく目を瞑る。

 

助手席の窓から外に投げたのは1つの魔石であり、空中を舞っていた魔石が弾ける。

 

<<ギャァァァァーーッッ!!!>>

 

夜の公園に強烈な光が放出され、目を瞑る者以外は視力を奪われてしまう。

 

目を瞑っていた葉月は周りの呻き声が聞こえたので目を開ける。

 

目に映ったのは地面に蹲り、悶え苦しむ東京の魔法少女達の姿が転がっていたようだ。

 

「早く乗れ!!」

 

運転席の男に急かされた事で自分達を助けに来てくれた者だと判断するしかない。

 

「あやめ!!後部座席に入って!葉月は荷室を開けて私達の荷物を急いで入れて!!」

 

各々の役目を瞬時に理解した3人娘が動く。

 

このはが最後に乗り込んできたのを合図に一気に加速。

 

公園を抜け出していく高級セダンが現場を後にする事が出来たようだ。

 

「危ないところだったね、お嬢さん方」

 

助手席から後ろに振り向く謎の老紳士に警戒感を示すこのは達だが、運転する男が口を開く。

 

「この程度で終わる東京の魔法少女共じゃない。メンツを潰されて獲物を逃がすと思うか?」

 

運転に集中するサングラスをかけた男の言葉に反応した葉月が窓を開けて後ろを確認する。

 

「あいつら…追いかけてきてる!!」

 

後ろに見えた光景とは複数のオフロードバイクで追跡してくる者達の姿であろう。

 

「後ろの連中、シートベルトを締めろ。車酔いで吐いたらこの爺さんがキレるぞ」

 

「ええと!あちし真ん中だけど…シートベルトどこぉ!?」

 

「ここだからあやめ!落ち着いて!!」

 

後部座席をバックミラーで確認した後、サイドミラーで追手の魔法少女達に視線を向ける。

 

「東京の外まで出ればギャング共の縄張り外だ。そこまでは乗せてやる」

 

「南に向かうんだ。高速道路に入り込めば東京の魔法少女達の縄張り外にまで逃げられる」

 

片手でサングラスを外してニコラスに渡す。

 

両手持ちでハンドルを握りしめた尚紀の口元が不敵な笑みを浮かべるのであった。

 

「さぁ、遊ぼうぜ……クソッタレども」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

後続から次々と車を追い越してくる複数のオフロードバイク。

 

乗っているのは港区のギャング魔法少女達であろう。

 

このチームはバイクを乗り回すと東京の魔法少女社会では評判のバイカーギャング達。

 

首都高速都心環状線の下の道を走りながら追手を振り切らんとチェイスバトルが始まったのだ。

 

「ニコラス、この車を弁償する事になるかもな」

 

「気にするな。派手にやってくれていい」

 

「流石、金持ちは言うことが違う」

 

車線を越えて高速道路の下に入り込み、後続のバイカー達も追ってくる。

 

小回りが効くバイクの方が車の列も超えやすい。

 

一台のバイクが高級セダンの前にまで走り込み、後ろに向けて魔法武器を構える。

 

アクセルを一気に踏み込み、前のバイクに体当たりを仕掛けていく。

 

「キャーーッッ!!?」

 

体勢が崩れ、ボンネットに転がりながら後ろに目掛けて弾き飛ばされていく。

 

「ちょっと!?あやめが乗ってるのよ!荒っぽい運転は止めなさい!」

 

「嫌なら飛び降りるか?」

 

後続で追いかけてくるバイカー達をバックミラーで確認する。

 

片手で構えているのは魔法武器のクロスボウであろう。

 

「身を屈めろ!!」

 

次の瞬間、ガラスに穴が空いていき車内にガラスの破片が飛び散る。

 

「あはは…アタシら今…とんでもないアクション映画の世界に入ってるよ…」

 

ハンドル操作でドリフトし、芝四丁目方面へ向かう。

 

目の前を走る車を次々と猛スピードで避けながらの運転によって車内は激しく揺れる。

 

「うぷっ…あ、あちし…なんか気持ち悪くなってきた…」

 

「エチケット袋が必要か?」

 

「残念ながら私の車には無い」

 

「あなた達…よく落ち着いていられるわね!?」

 

猛スピードで左折し、国道15号浅草線に曲がりこむ。

 

「うわわわ!!信号!?お兄さん赤だって!!!」

 

アクセルを踏み込み、強引に車の間を超えていく。

 

後続で追ってきていたバイカー達も抜けてきたが、何台かは車の側面にぶつかり転倒していく。

 

小回りが効くバイク2台が猛スピードで追いついてくる。

 

横を走る車との間に入り込む前にサイドブレーキを引く。

 

後輪が滑り、車体が横にスライドして壁となる。

 

通り抜ける隙間を埋められたバイクが側面にぶつかり、屋根を通り超えて跳ね出されていく。

 

だが1人はボンネットに捕まり魔法武器のクロスボウを運転席に向けてくるが尚紀は動じない。

 

「ウワァァーーッッ!!?」

 

路駐していた車の後ろにボンネットの側面がぶつかり、魔法少女は弾き飛ばされたようだ。

 

そのまま半回転し終えた高級セダンのシフトレバーを操作し、後ろ向きに走行し続ける。

 

「なんて質の悪い人達に助けてもらったのかしら…」

 

幸運なのか不運なのかも分からず、怖いドライブが早く終わって欲しいと願うこのはの表情。

 

バック移動のまま左に左折し、シフトレバーを変えて前に走行する。

 

後続も三田通りに向けて追撃してくるようだ。

 

「どいてどいて~~ッッ!!!」

 

後部座席真ん中の席であるため前がよく見えるあやめが感じるのはスリルある景色。

 

横断歩道を歩いていた人達が悲鳴を上げながら逃げていくのを特等席で見せられ続ける。

 

「あちし…もう遊園地とかで絶叫マシンに乗りたくないよ…葉月」

 

「大丈夫だって…このドライブよりはマシだから…」

 

そんな時、迫る前方の車を超えながら走ってくる一台の追跡者が現れる。

 

「舐めてんじゃねぇぞーーー!!」

 

港区のギャング魔法少女のボスが運転するバイクが側面にまで走り込む。

 

左手で構える魔法武器のクロスボウを撃ち続け、横の窓ガラスが割れていく。

 

クロスボウを捨て、足元付近に備え付けた鞘から抜いたのは彼女のメイン武器である曲刀。

 

接近して車を両断しようと迫りくる。

 

「くそっ…あやめに怪我させたらあんた許さないよ!!」

 

伏せて射撃を躱した葉月が窓から身を乗り出す行動を起こす。

 

迫ってきた相手の逆袈裟斬りを振るう左手首を右腕で止め、左手に魔法武器を生み出す。

 

斧に似た形状の魔法武器で反撃するが、ギャングボスのハンドル操作で避けられる。

 

後方に下がるリーダーのバイクを超えてきた追跡者が接近し、クロスボウを車内に向けてくる。

 

「しつこいんだよ!あんた達は!!」

 

咄嗟に動いた葉月が魔法武器を相手の前輪の側面にねじ込む。

 

「ギャァァァーーーーッッ!!!」

 

後輪が跳ね上がりながら大回転して投げ出され、追手が路上に倒れ込む。

 

倒れ込んだ仲間を轢き、反動でウイリー跳躍しながらギャングリーダーも迫りくる。

 

「軽いノリの女かと思ったが、意外と熱いノリが出来るじゃねーか?」

 

「こんなので褒められても嬉しくないよ、荒っぽい運転のお兄さん」

 

前方から右折して現れ回り込んできた追撃チームが攻撃を放ってくる。

 

前から撃ち込まれるクロスボウをハンドル操作で掻い潜っていく。

 

前から走ってくる2台のバイクが側面通過しようとするのだが、このはも窓から身を乗り出す。

 

彼女が生み出した魔法武器は長柄両端に蝶の羽根型の刃を持つ両刃薙刀であろう。

 

「ギャァァァ!!?」

 

魔法武器の平たい部分を顔面に打ち込まれた1人が路面に倒れ込む。

 

通り超えた一台が地面に足をつけて旋回し、ボスと共に並走する。

 

追手がバイクを捨ててボスの後ろ側に飛び乗っていく。

 

乗り捨てたバイクは横倒しのまま後ろに滑っていったようだ。

 

後ろのメンバーにクロスボウを撃たせながら左手に持つ曲刀を構え、バイクを加速させる。

 

「お嬢さん方、シートベルトを外すと前のガラスとキスする羽目になるぞ」

 

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!?」

 

道のりは大田区に迫り、このまま進めば他のギャングチームの縄張りに入り込む。

 

焦るボスは勝負に出ようとアクセルを回し、車の横にまで迫る。

 

そんな時、尚紀はブレーキを踏み込んで急減速をかける。

 

「「キャーーッ!?」」

 

言われた事が現実になりかけたが、あやめが姉達の衣装を掴みなんとか体勢を留めてくれる。

 

「ご、ごめんなさい…あやめ」

 

「にっしっし!シートベルトは基本だよ~このは、葉月♪」

 

「あやめに指導されるなんてね…アタシらもヤキが回っちゃったかな?」

 

左折して向かうのは環七通り方面。

 

急減速した相手を追い抜いてしまった追手も旋回して追撃の手を緩めない。

 

蛇行運転しながら車を避けるボロボロの高級セダンに並走するまで迫りくる。

 

後ろのクロスボウが至近距離で狙いを定めた時、尚紀は運転席側ドアを一気に開ける。

 

「くそっ!?」

 

扉がボスのバイクに当たり体勢が崩れながらも持ち直し、加速しながら追撃してくる。

 

「そろそろ仕掛けるか」

 

「何をする気なの!?」

 

「しっかり掴まってろ」

 

三車線中央の大型トラックの左側を加速しながら追い抜いていく。

 

後続のバイクも大型トラックの右側を加速して追い抜こうとしたのが運の尽き。

 

「マジかよッッ!!?」

 

前方からドリフトしてきたのは右側車道を逆走してきた高級セダンである。

 

「サーカスジャンプしてみな、ケダモノ共。上手く飛べたらご褒美やるぜ」

 

不敵な笑みを浮かべた尚紀がアクセルを踏み込む。

 

「あちし…もうこんなドライブやだぁぁーーッッ!!」

 

あやめの目前には猛スピードで迫り来るバイク。

 

ギャングボスが乗るバイクは避けることが出来ずに正面衝突してしまう。

 

鈍化した世界。

 

ボロボロのセダンの上空を跳ね飛ばされていくのは追手の魔法少女達。

 

「がっ!!!」

 

俯向けで叩きつけられたボスだが起き上がって反撃しようとするが、まだ終わりじゃない。

 

「ぐえっ!!!」

 

続けてバック走行してきた高級セダンがボスの体を無慈悲に轢いてしまったようだ。

 

「ケダモノの芸にしては見応えあったな。ご褒美だ」

 

「あは…あははは…はっ…は……」

 

乾いた笑いしか出てこないのは葉月とこのはであり、真ん中のあやめは涙目で赤面している。

 

「あ…あちし…少し漏らしたかも…」

 

そんな彼女達の事などお構いなしの男はサイドブレーキを引き、車体を一気に半回転させる。

 

<<キャァァーーーーッッ!!?>>

 

今夜は尚紀の運転に振り回されるばかりであった後部座席の三姉妹達。

 

京浜運河を超え、首都高速湾岸線に入り羽田空港方面を目指すが、悪夢はまだ終わらない。

 

「…まぁ、通報されるわな」

 

「えっ…?」

 

「嘘でしょーーッッ!!?」

 

葉月が後ろを振り向くと複数のパトカーが猛追してきている。

 

「高速道路では囲まれる。下道を通って東京を超えるしかない」

 

「まだまだナイトドライブを楽しめそうだな」

 

「下ろしてーーッッ!!!」

 

夜の東京を超えていくのはテールランプの光とパトカーのサイレン。

 

東京に現れた魔法少女三姉妹が織り成すド派手なカーチェイスバトルであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「確かあの後、あいつらを神浜市の手前辺りで下ろしたんだったなぁ」

 

「中々に刺激的なドライブだったよ」

 

「あんたもノリがいい趣味してるな」

 

「私は車が好きでね。運転するというよりは、中身を弄り回すのが趣味なのだ」

 

「へぇ?伝説の錬金術師の意外な趣味を聞かされた」

 

「長過ぎる人生なら趣味も必要さ。気が向いたら家のガレージに来るといい」

 

「考えておくよ」

 

「話を戻そう。君は孤児達を支援するためあれ程の資金を投入するなら…何を考える?」

 

「そうだな…非営利支援団体を設立するというのはどうだろうか?」

 

「たとえ設立したとしても君は投資家ではない。君の財力とて長年続ける事は出来ないぞ?」

 

「日本は児童問題に対して消極的だ。厚生労働省の一部にしか取り扱う部署がないぐらいにな」

 

国が責任を持って孤児を守る省庁が生まれるまでは彼が支援したいと申し出る。

 

「あの三姉妹や君の義妹のような孤児達を自分の財産を消失させてでも救いたいと言うのか?」

 

「…ああ、俺が支えてあげたい」

 

その返事を聞きたかったとばかりにニコラスの表情が明るくなる。

 

「いい答えだ、気に入った。私も出資者になろう」

 

「俺の我儘で始める慈善活動だぞ?」

 

「私は錬金術で財を成した中世時代、教会や病院、礼拝堂などへ多くの援助を行ってきた男さ」

 

「あんたも慈善活動家だったなんてなぁ」

 

「フフッ、気持ちは君と同じだったよ」

 

「本当にいいのか?助けてくれるなら…これ以上ないぐらいに助かる」

 

「共同代表という形にしようじゃないか。私と君の気持ちは同じ…空中分解はしないだろう」

 

「お前が代表者をしてくれないか?俺は見た目がガキのままだし…胡散臭くならないか?」

 

「これは君が言い出した慈善活動だ。責任者として君も前に出たまえ」

 

「しょうがねぇな…やるしかなさそうだ」

 

2人の意見は一致した事もあり、非営利団体を設立するために必要な手順を確認していく。

 

設立認証申請書、定款、役員名簿、各役員の就任承諾書や宣誓書の写し等が必要となってくる。

 

専門的な書類は尚紀が資金を出す形で行政書士に任せる事にしたようだ。

 

設立発起人会を開催する必要もあるし、支援活動を協力してくれる働き手も必要となってくる。

 

人手に関しては尚紀が世話になってきた東京のホームレスを頼りにするという流れになるのだ。

 

「さて…これから忙しくなっていくんだな」

 

「君と私が始める孤児達の支援活動がスタートしていくのさ」

 

 

それから暫くした頃、舞台は神浜市に移る。

 

一軒の空き家住まいをしているのはあの時に助けた三姉妹である。

 

「6月12日…か」

 

「今日がどうかしたの?このは」

 

複数のモニターを繋ぎ合わせたPCの前で株の推移画面を見つめる彼女に対し、葉月が質問する。

 

「金融の世界ではね、()()()()()()()()()()()()()()()()の。世界規模でね」

 

「18…?それが何か金融界に伝わる暗号だと考えてるわけ?」

 

「オカルトよね…。でも、何故かしら今までずっと繰り返されてきたの」

 

このはの話では米国や英国という世界を代表する金融街にはオカルトサインが多いという。

 

それはヨハネ黙示録で語られる赤き獣の数字である666を象徴するサインだと聞かされる。

 

「うへ~…気味が悪いね。でも意外だったなぁ~あのこのはがオカルトを信じるなんてさ?」

 

「私はオカルトを信じてる訳じゃないけど…偶然の一致にしては出来過ぎな不自然さなのよ」

 

彼女は18にまつわる金融の現象を語ってくれる。

 

18になる日の株価の動きでは、もっぱら大きく動くのが建築株。

 

それと連動するかのようにして世界で起こっていく大規模災害。

 

あまりにも説明がつかない現象が連動していると葉月に伝えたかったようだ。

 

「考え過ぎだって。でも、このはの考えが当たってるとしたら…」

 

「そうね…まるで()()()()()()()()()()()()()()()()ような…出来レースに見えてくるわ」

 

この株価の動きにいち早く反応出来るのが国際金融資本家と呼ばれる投資家達。

 

彼らは未来予知能力でもあるのだろうか?

 

いいや、彼らは魔法少女でも何でもないただの人間。

 

出来る事と言えば()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことぐらいだろう。

 

「不自然だね…まさか魔法の力とか?」

 

「魔法少女の魔法だけで全てを説明出来るほど…世の中は単純じゃない気もするわ」

 

悩む2人が溜息をついていた時、部屋をノックしたあやめが入ってくる。

 

「ねぇ、このは…妙な封筒が届いているけど?」

 

「妙な封筒?」

 

あやめから封筒を受け取り、中を開けて書類に目を通す。

 

「特定非営利活動法人…嘉嶋会?」

 

書類の内容とは20歳未満の孤児の自立支援内容である。

 

「申請と審査が通れば…成人するまで給付金が貰えるですって!?」

 

このはが興奮のあまり大声を出し、他の姉妹も驚愕したまま慌てだす。

 

「マジで!?そんな仏様みたいな法人なんてアタシ…聞いたこともなかった!!」

 

「あちし達みたいな孤児を助けてくれるの…!?」

 

「やったじゃんこのは!!正直アタシ…株取引だけで生計を立てていくのも怖かったんだ…」

 

マネーゲームは泡銭を使って資産を増やすもの。

 

絶対に勝ち続ける事など情報を独占出来る国際金融資本家でなければ不可能であろう。

 

株取引を行う静海このはとて、企業情報はネットで調べる事しか出来ないささやかな立場。

 

ネットの恣意的な扇動情報を検証する作業に苦しみ、振り回される状況が続いていたようだ。

 

「投資は確かな情報源を膨大に持つ者が制する世界…()()()()()()()()()()()()()()なのよ」

 

「この書類を直ぐに書いて送ろうよ、このは!」

 

「待って!これが本当に活動している団体なのかを確認させて!」

 

PCでウェブサイトを開き、嘉嶋会の紹介サイトに進む。

 

代表者を紹介するページをクリックした時、3人は目を丸くしながら驚きの顔に包まれる。

 

「うそ…このお兄さんとお爺さんって…」

 

「あーっ!!去年のあちし達を引っ張り回…じゃない、助けてくれた2人だよ!!」

 

「この人達が私たち姉妹…それに同じ境遇の孤児達を救ってくれるの?あの時のように…?」

 

三姉妹達にとっては意外な場所での再会となっていく。

 

つつじの家という児童養護施設を守るため魔法少女になった3人の少女達。

 

その絆は固く、これからも支え合って生きていくだろう。

 

だが未成年者が成人扱いされる仕組みがまだ整っていない日本社会は厳しい現実がある。

 

渡りに船とはこのことであり、姉妹達は尚紀達に対して心から感謝の気持ちを持つのであった。

 




読んで頂き、有難うございます。
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