人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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82話 生き残らされる者

神浜市新西区。

 

この地区は小中高大一貫教育の規模を誇る神浜市立大附属学校が存在している。

 

多くの若い子供達が行き交う学生が多い地域と言えるだろう。

 

神浜住民だけでなく、他県から進学した生徒も大勢集まる地域のため、数多くの下宿屋があった。

 

数多い下宿屋の中でも、一際美しいと昔から評判であった邸宅が存在している。

 

現在は下宿屋としては機能しておらず、祖父母から邸宅を受け継いだ一人娘が暮らすのみ。

 

部屋数が多いため、管理も1人で行うのは掃除1つでも大変であった。

 

大学から帰宅した若い女性が黙々と掃除をしている光景が続く。

 

多忙な生活を送っている彼女は、隙間時間が出来ればこうして元下宿屋の管理を行うわけだ。

 

「ふぅ…何もない部屋でも、埃だけは溜まっていくわね」

 

空き部屋の掃き掃除を終えて一息つく。

 

埃が舞う掃除をしていたので換気のため窓を開けていた。

 

「モップをかけ終えたら近所に買い物に行って、その後は魔獣狩り。帰ったら…」

 

多忙な生活を送るせいか、時間管理のスケジュールばかりを考えてしまう。

 

疲れからか溜息をつき、一階物置にモップを取りに行こうと部屋の扉に手をかけた。

 

今は4月の季節。

 

気持ちがいい春風が部屋の中に入り込みカーテンを揺らす。

 

不意に後ろを振り向き部屋を見回してみる。

 

「変ね…?この部屋…こんなに広かったかしら?」

 

一瞬だが、2人分の家具が並んでいる光景を幻視して見えてしまった気がする

 

だが、家具もなければ誰もいない空き部屋の光景が現実であった。

 

「疲れてるのかしら?ここで()()()()()()()()()()()()()宿()している光景が見えた気が…」

 

気の所為だと思い、扉を開けて外に出る。

 

…この空き部屋と誰かが関わるのは違う宇宙の物語。

 

この宇宙(レコード)は魔獣世界。

 

魔女もいなければ、魔法少女達が魔女に成り果てる事もない世界。

 

一階に下りてきた彼女は少し疲れてきてる体を休めるためにリビングに向かう。

 

キッチンに隣接しているリビング空間に入った時、また幻視する光景が広がった。

 

「このリビング…こんなに静かな空間だったかしら…?」

 

()()()()()()()()()()()()()()が1人いたような気がする。

 

()()()()()()()()()()がいたような気がする。

 

先程見た姉妹のような2人と揃い、仲良く談笑している光景を幻視してしまったようだ。

 

「やっぱり疲れてるわね…掃除はここまでにしておくわ」

 

静かなリビングのソファーに座り込む。

 

時計の音だけが響く下宿屋だった邸宅内。

 

キッチンシンクから聞こえる蛇口の水滴音が聞こえる程の静かな空間。

 

キッチンには色とりどりのマグカップが棚に収められ飾られているが、今は使われていない。

 

「こう静かだと…独り言ばかり増えるわね。去年までは…ここもまだ賑やかだったのに」

 

リビングの壁に飾られているフォトフレーム内に収められた写真に目がいく。

 

彼女とみふゆ、耳にピアスをした金髪の少女が並ぶようにして仲良く写った写真が見えた。

 

隣にはまた別の少女達が並ぶようにして写った写真が飾られている。

 

彼女とみふゆ、鶴乃とももこ、緑の長髪をポニーテールにした少女が仲良く写った写真であった。

 

「私…寂しいから誰かがいる幻視まで見えてしまうのかしら?貴女達はどう思う…?」

 

やり切れない辛そうな表情を浮かべた彼女は写真に写った人物達の名を呟いた。

 

――かなえ…メル…。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

新西区の隣には水名区と呼ばれる城下町として栄えた町がある。

 

西とは水名大橋で繋がっており、水郷柳川として美しい景観に連なるような町屋が建っている。

 

江戸時代を思わせる光景として神浜の歴史地区として名高い水郷の古都として評判を集めていた。

 

夜空に大きな満月が輝く夜の出来事。

 

石畳が敷かれた路地裏を走る1人の魔法少女がいる。

 

既に周りは魔獣結界内。

 

息を切らせながら走り続ける姿が続く。

 

「あっ…!?」

 

突き当りを曲がれば行き止まり。

 

後ろを振り返れば複数の魔獣達。

 

「月咲ちゃんに会いに行ける日に限って…わたくし、なんて運がない…!」

 

黙ってやられるわけにもいかず、彼女は魔法武器である横笛を吹き鳴らす。

 

音圧攻撃を仕掛けるが効果が薄い。

 

音は反響させれる場所でこそ最大の効果を発揮出来るため、外では音の威力も低くなる。

 

「ダメ…やっぱりわたくしと月咲ちゃんの武器は…地の利を活かさないと効果が薄い!!」

 

数体の魔獣が相手に狙いを定め、レーザー攻撃を仕掛けようと構えていく。

 

絶対絶課と思われたその時だった。

 

「えっ…!?」

 

地面から突然出現した複数の巨大な魔力槍によって串刺しとなっていた魔獣達。

 

夜空に浮かぶ満月の如く、円を描くように側宙を決める魔法少女の影が浮かぶ。

 

襲われていた少女の前に上空から舞い降り着地した存在が魔法武器である槍を構えた。

 

「や…やちよさん!」

 

「下がっていなさい、月夜さん」

 

石畳に亀裂が入る程の踏み込み。

 

一瞬で間合いを詰め、三体を槍の一突きで串刺しにする豪快な攻撃。

 

槍を引き抜き、蒼い光が円を描くように一回転する横振りを見せる。

 

すると複数の魔法陣が彼女の周りに展開され、魔力の槍が八方向に向けて射出。

 

次々と槍に貫かれていく魔獣達が消滅していくのだ。

 

その力は手練として活躍した魔法少女の中でも特に強い古参の領域と言えるだろう。

 

「トドメ!!」

 

残り複数体の魔獣に向けて跳躍。

 

後方に現れる魔法陣を蹴り込み、上空から複数の槍と共に飛来。

 

頭を貫かれていき、数が多かった魔獣も現れた魔法少女の力で掃討されたようだ。

 

明るい表情を浮かべて現れた魔法少女に駆け寄っていく助けられた少女の姿。

 

「あの…すいませんでした。多忙なやちよさんの御手を煩わせてしまって…本当に感謝してます」

 

「…構わないわ。これも西の長である私の役目…誰も見捨てるわけにはいかないの」

 

「あまり無理をなされては体に毒です、ご自愛下さい。わたくし、少々用事を抱えてますので…」

 

「ええ、行って構わないわ」

 

「失礼いたします」

 

物腰が柔らかい月夜と呼ばれた魔法少女は深々と一礼をしてやちよの前から去っていった。

 

「…貴女がいても、戦力としては頼りなかったもの」

 

周りの魔獣結界はまだ消えてなどいない。

 

背後から現れる後続の魔獣達に振り向き、槍を構えようとした時だった。

 

「えっ…?」

 

やちよの後方から飛来して現れた炎を纏う功夫扇と巨大な円月輪。

 

後続で現れた複数の魔獣を一気に真一文字に切断して焼き滅ぼす程の攻撃。

 

魔獣結界が消失し、ようやく全ての魔獣を倒し終えたようだ。

 

誰が加勢として現れたのか分かっているのか、彼女は後ろを見向きもしない。

 

後ろから近寄ってくる存在を無視するかのように落ちているグリーフキューブを拾い続ける姿。

 

後ろから歩いてくる2人の足音。

 

舞い戻ってきた魔法武器をそれぞれが片手で受け取った。

 

「…加勢を頼んだ覚えはないわよ…みふゆ、鶴乃」

 

「し、ししょー…」

 

ドライな態度を崩さないかつてのチームメイトの後ろ姿。

 

胸が締め付けられた鶴乃は目を伏せてしまう。

 

隣のみふゆが歩み寄ってくる。

 

中学時代とは違い、かつての長髪はバッサリ切り落とされた白髪のミディアムヘアになっていた。

 

「やっちゃん…いつまでも囚われてはいけないと思います」

 

「…なんのことかしら?」

 

「私達の前で惚けないで下さい。同じチームメイトだった私達に誤魔化しは効きません」

 

「貴女達とはもう終わったのよ。魔法少女社会のトラブルでもない限り、姿を見せないで」

 

頑なな親友に我慢ならないのか、つい声を荒げてしまう。

 

「いい加減にして下さい!かなえさんやメルさんが死んだ事を願いのせいにしないで下さい!」

 

やちよの願いによって大切な仲間が死んでしまったと考えるのは証明出来ない被害妄想。

 

それでも頑なに自分を責めるやちよは、死んだ仲間達の名を出されたために目つきが変わる。

 

「私と深く関わった魔法少女は…二度死んだわ。二度あることは三度でも四度でも起こる」

 

「生き残りたい…やっちゃんはそう願った。でもそれはモデル業界で生き残るためだけです!」

 

「そ、そうだよ…師匠がそんな事を望むわけない!結果として…亡くなっただけだよ」

 

仲間を慰めようとしてくれているようだが、余計に彼女を自責の念に駆り立てていく。

 

苛立つように立ち上がり、厳しい表情を2人に向けてくる。

 

「私が望まなくても…あの子達は死んでいった。私を庇ってね…若過ぎる命だったわ」

 

「死の比重は全員が同じ重さです!遅かれ早かれ…私達は円環のコトワリに導かれるんです…」

 

「なら早く私も迎えに来て欲しいわ。これ以上誰かを…私のせいで死なせる前にね」

 

間を通り抜けるようにして、俯いた顔のままやちよは去っていく。

 

黙り込んでいた鶴乃だったが、彼女もやちよを大切にしている者の1人。

 

後ろを振り向き、思いの丈を叫ぶのだ。

 

「やちよー!!私達…もう元に戻れないの?」

 

呼び止められた彼女が立ち止まるが、振り向きはしない。

 

「去年みたいに皆で笑い合ったり…励まし合って…一緒にに泣いたりも出来た頃に…」

 

皆が環の輪のように繋がり合えた頃に戻りたい。

 

その思いは自責の念に縛られた者には届かなかった。

 

振り向きもせずに冷たい言葉を言い放つ。

 

「もう…私に深入りしないで」

 

――死神に取り憑かれて…魔獣に殺されるわよ?

 

幾つか2人に向けてグリーフキューブを投げ渡し、古都の夜道の世界に消えていった。

 

彼女の身を思う仲間達の言葉は今日も届かない。

 

「かなえさん…メルさん。私…どうしたらやっちゃんを救えるんですか?」

 

満天の夜空の世界を見上げたみふゆは、かつての仲間達の顔を思い浮かべていく。

 

「やっちゃんは…貴女達に託された命のバトンが重すぎて…今にも潰れそうなんです」

 

円環のコトワリに2人が導かれた日。

 

やちよがどれほど自分を責め抜いたか2人は知っている。

 

優しさは人を救いもするが、時には人の心を殺しもする。

 

全ての事柄には表と裏がある陰陽一体。

 

何も答えなど与えてはくれない大切な人達の死を想い、一滴の雫が目から流れ落ちていった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

同じ日の夜。

 

ももこは寝付けないのか自宅の屋根に登って座り、月を見つめ続けている。

 

「なぁ…キュウべぇ。聞きたいことがあるんだ」

 

彼女の隣に立つキュウべぇの真紅の目が彼女を見上げる。

 

「やちよさんは…本当に自分の願いのせいで、メルやかなえさんを死なせてしまったのかな?」

 

「その話かい?君達はチームを解散した筈だけど、今更どうして気にするんだい?」

 

「解散したからって…ほっとけないよ!」

 

「たしか君は、自責の念に塞ぎ込み周りの言葉に耳を貸さない彼女に腹が立っていた筈だけど?」

 

「腹は立つさ…でも、だからってやちよさんが悪いわけじゃないだろ?」

 

「僕にはよく分からない世界だね」

 

「ったく、感情がない奴は気楽でいいよ」

 

「七海やちよの願い、それは生き残ることだ。それはね、死を誰かに与えることになるんだ」

 

恐れていた答えがそのまま返され、ももこは驚愕した声を出してしまう。

 

「嘘だろ!?やっぱり…やちよさんが考えている通りなのか?」

 

「君は意識したことはないと思うけど、こんな事を考えたことはあるかい?」

 

「何の話だよ…?」

 

「七海やちよを放置出来ない優しい者達が不自然なほど周囲に集まってくるとは考えないかい?」

 

「それが一体何の関係が?」

 

「彼女のためなら人生すら投げ出せる。そんな者達が集まり過ぎだとは感じないかい?」

 

何が言いたいのか分かったももこの表情が青くなっていく。

 

「まさか…そんなことって…!?」

 

「そう、察しの通り…それが七海やちよがもたらす、奇跡の結果なんだよ」

 

七海やちよはモデルの世界でも周りの環境に恵まれて成功し続けている。

 

彼女を引きずり落とすぐらいなら自らが退くぐらい優しい人間達が不自然なほど集まってくる。

 

彼女のためにモデル人生を捨て引退した者が大勢いた。

 

彼女のために命を投げ捨てた者が2人いた。

 

全ては生き残りたい願い通りの結果を残せた。

 

「そのせいで…心優しい子達を死なせているっていうのかよ!?」

 

「彼女の祈りが原因を作り、結果として周りに死を与えるという…()()()()()()さ」

 

「魔法少女は円環のコトワリの力で…呪いの因果を断ち切れたはずだろ!?」

 

「因果という概念はね、原因が起こって初めて積み重ねられ結果に結びつく」

 

――因果から逃れたいと願うのなら、そもそも魔法少女になることそのものが間違いだ。

 

情の無い契約の天使が語る無慈悲な現実。

 

それを飲み込めるほど魔法少女達は大人ではない。

 

「アタシ達をこの世界に引きずり込んだお前が…それを言うのかよ!?」

 

「それを背負ってでも、君達は叶えたい願いがあったんだろ?」

 

事実を突きつけられた彼女の顔が俯いてしまう。

 

「アタシは…」

 

「君はたしか、想い人に告白する勇気が欲しくて魔法少女の契約を結んだよね?」

 

「そうだよ…」

 

「それは奇跡の力などなくても叶えられた問題。それでも君は都合が良かったから願いを使った」

 

「アタシ…願いが叶って勇気がもらえても…結果は先に告白しに行った子に先取りされた」

 

「君が早く行動を起こさなかったから結果がついてきた」

 

原因とは常に、()()()()()()()()()()()()

 

それが万物の因果法則という概念。

 

「それを都合が悪くなったら周りのせいにするなんて、余りにも人間は()()()だ」

 

「やちよさんの自業自得だって言うのかよ…かなえさんの死も…メルの死も?」

 

「その通り。自分が生き残るなら、誰かが死んで去るという想像力が足りなかった結果さ」

 

抗えない現実を聞かされたももこは、三角座りのまま膝に顔を埋めてしまう。

 

「やちよさんは…これからも自分の願いのせいで…誰かを死なせていくのか?」

 

「その原因を作らないために彼女は魔法少女を遠ざけるし、人間も遠ざけていくだろう」

 

「そんなのあんまりだよ…独りぼっちの人生じゃないか…」

 

「彼女を独りぼっちにしたくないと考える心優しい魔法少女は君も含めて多い」

 

――七海やちよの因果の糸は既に、君達に絡まっているというのを忘れないことだね。

 

そう言い残し、屋根から飛び降りてキュウべぇは去っていく。

 

現実に抗えない者は悔しい感情を押し殺すようにして、低い呟きをした。

 

「酷いよ…やちよさんが可哀想過ぎるじゃないか。この世界には…現れてくれないのかよ?」

 

――やちよさんの因果の糸を断ち、皆を環のように繋いでくれる()()()()()()()()は?

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

6月も後半の神浜市、時刻は夕方になろうかとしている。

 

孤独な人生を生きる七海やちよは、独りで生きていくなりのささやかな楽しみを持つ。

 

追い詰められ過ぎるとソウルジェムが濁り、戦う魔力が削られてしまうからだ。

 

元下宿屋であったみかづき荘から近い距離にあるスーパーマーケットに場面は移る。

 

現在この場所は七海やちよの決意が示される場と化していた。

 

「今日の夕方は鮮魚のタイムセール…そしてポイントも10倍デーよ」

 

どうやら目的は夕市の高いお刺身のようだ。

 

モデルの仕事をこなしているようだが、1人でみかづき荘を維持するのはかなりの負担がある。

 

そのため買い物は計画的に行う習慣が身に付いていたようだ。

 

「いけない!?出遅れたわ…流石SNS社会の主婦は動きが早いわね!」

 

既に人だかりが出来ているスーパーに意を決して入り込む。

 

暫くして両手一杯の買い物袋を携えたやちよの姿が出入り口から現れた。

 

「夕市は惣菜も狙い目なのよね…揚げ物を家で作るのは労力の割りにコストがかかるのよ」

 

一万円分買い物をしたので1000ポイント貯める事が出来た彼女も自然と表情がほころぶ。

 

「溜まったポイントで何買おうかしら?少し高めのお菓子に手を出してもいい…?」

 

ポイントの使い道を考えながら帰路についていた時、女子生徒達の会話が聞こえてくる。

 

<<ねぇ、聞いた?東で起こっている最近の事件?>>

 

<<聞いた聞いた。最近妙な犯罪が横行しているみたい…怖いよね>>

 

神浜市立大附属学校の女子生徒の声が聞こえてきた彼女は少しだけ聞き耳をたてる。

 

<<警察の捜査班でも何が原因で盗まれているのか分からないんですって>>

 

<<凄いよね…まるで魔法の力みたい>>

 

聞き捨てならない単語を耳にしたやちよが2人の前に歩み寄る。

 

「その話、詳しく聞かせてもらえないかしら?」

 

「えっ?えーと…お姉さんはどちら様?」

 

「この人知ってる!有名な女性ファッション誌で表紙を飾ったことがあるモデルさんだよ!」

 

「あーっ!?あたしもコンビニ雑誌で見たことある!あの…応援してますね!!」

 

「応援してくれて有難う。それで、さっきの東で起きているという事件の話だけど」

 

「えっとですね…ATM強盗の話なんですよ」

 

東地域において重機も使わずにATMが持ち逃げされる強盗事件が起こっているようだ。

 

酷い時には現金自動預払機を何かの武器で壊して中身が奪われていたりもしたという。

 

最近では、現金を運んでいた現金輸送車まで襲われた事件もあったと聞かされた。

 

「犯人は見つかってませんし、防犯カメラも犯人が映りもせずに壊されてるって話です」

 

「もう無法地帯ですよ…今の神浜東地域」

 

「昔からだよね…東が物騒なの。西に生まれてよかった~」

 

状況を理解したやちよの表情が厳しくなっていく。

 

「…聞かせてくれて有難う。貴女達も寄り道せずに早く家に帰りなさい」

 

「そうですね…最近本当に物騒だし。コンビニで貴女が写ってる雑誌見かけたら買います!」

 

帰る女子学生達に向けて平静を装っていたが、内心は穏やかではない。

 

「こんな真似が出来るのは魔法少女しかいないわ…」

 

魔法少女社会の長の1人として、この状況を看過することは出来ない。

 

「東は十七夜を長として統制がとれた魔法少女社会を築けてきた筈じゃなかったの…?」

 

状況確認をしようにも、東地域に赴く事は立場上許されない。

 

「自由と平等を掲げて不義理を許さない十七夜が…こんな魔法少女犯罪を許す筈がないわ…」

 

だが、状況は後手に回り半ば放置しているようにも西の長は感じてしまう。

 

ベンチにこしかけ、買い物袋を隣に置いてスマホを取り出す。

 

緊急の連絡先として十七夜の電話番号は登録してあったようなのだが…。

 

「何年ぶりかしらね…十七夜に電話するのは」

 

電話アプリで何回か相手に連絡していたら返事が帰ってくる。

 

「随分と久しぶりな連絡だな…七海。自分に何か緊急の用事なのか?」

 

「十七夜…東の魔法少女社会は今どうなってるの!?西にまで事件の話が流れてきてるわ!!」

 

電話の向こう側が沈黙してしまうが、気持ちを隠したような言葉が帰ってくる。

 

「その話か。自分が全力で対処するから、七海は西の内政に集中していればいい」

 

「そんなことを言ってる場合じゃないでしょ!?人間社会に実害が出ている!」

 

「状況は知っている」

 

「何の手立てもうたないわけ!?こんな不義理を貴女だけでなく、私だって許せないわよ!」

 

「本当にすまない…自分の監督不行き届きだ。今は家計が厳しくてな…現場を抑えられない」

 

どうやら勤め先を変えて賃金の良い西でバイトを行っているせいか、後手に回っているようだ。

 

「貴女らしくない言い訳よ!本気の貴女なら…真っ先に現場に向かうぐらいの熱い女だったわ!」

 

暫くの沈黙が続いたが、冷淡な答えが帰ってきた。

 

「それ以上は言うな七海…西の長が東地域の魔法少女社会にまで口出しするのは自治権侵害だ」

 

無理やり腹に力を入れて平静を取り繕うような押し殺した声。

 

彼女が何かを隠しているのではないかと勘繰ってしまう。

 

「何を背負い込んでいるの…十七夜?声が震えてきているのが分かるわ」

 

東の長の弱さを見透かされてしまったためか、弱々しい声が聞こえてくる。

 

「…頼む、もう何も言わないでくれ。自分とて……本当に辛い状況なのだ」

 

そう言い残して電話は切られてしまった。

 

「プライドの高い十七夜が…あそこまで追い込まれる事態になっているの?今の東側は…?」

 

状況が見えず、東の魔法少女に声をかける訳にもいかない西の長。

 

何が出来るかを考えてもみたが、現地から正確な情報が届かなければ憶測しか浮かばない。

 

「十七夜を信じるしかないわね…。あの子は不義理を許さない子なのだから…」

 

何も出来ない状況に無力感を感じながらも、旧知の仲である十七夜を信じる事にしたようだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

4月も終わりの時期が差し掛かっている頃にまで戻る。

 

平将門の首塚に向けて歩いている黒いトレンチコート姿の男がいた。

 

首塚の碑の前でポケットから線香を取り出し、右手で火を付ける。

 

線香の煙が立ち上る中、尚紀は手を合わせて将門の首塚を拝んだ。

 

頭を上げ、魂と会話するように首塚に向けて念話を行う。

 

<息災か?東京の守護者よ。危うく死にかけたようだが?>

 

<ああ、なんとか生きている。暁美ほむらに貫かれた致命傷もいつの間にか塞がっていた>

 

<ルシファーが再び生み出した新たなる悪魔との戦いの件で訪れたのだろう?>

 

<流石だな…神様に隠し事は通用しないのだろうな>

 

右手を翳し、マガタマを出現させる。

 

<…またマガタマを壊されたのか>

 

<まぁな…暁美ほむらの一撃で貫かれちまったよ>

 

6の形を描きながら浮遊する生物のようなマガタマ。

 

しかし、尾の部分が貫かれた一撃で消滅させられていた。

 

<その程度ならば自力で再生するだろう。しかし、長い休眠期間が必要だな>

 

<そうか…暫くは俺の最大の力を使えそうにないんだな>

 

マロガレを右手の中に収め、もう1つ聞きたいことを問いかける。

 

<あんたは生きていた頃は豪族だったんだろ?>

 

<如何にも>

 

<一定の地域であろうが、内政を行える立場だった者の意見を聞きたいんだが?>

 

<ほう?政治にでも目覚めたのか?かつての世界では小僧に過ぎなかった者が成長したものだ>

 

尚紀は語っていく。

 

東京の魔法少女社会において、恐怖政治による暴力統制を行うということを。

 

自分を含めて魔法を使える者達はその力を人間社会と共有させ、それ以外には使わせない治世だ。

 

<勿論これは俺の独断であり、あんたの約束の内容とは関わりはない>

 

<構わない、それも東京の秩序になるならばやり遂げてみせよ。しかし恐怖政治とはな…>

 

<…かつての世界で言えば、マントラ軍のゴズテンノウと同じ事を俺はすることになる>

 

かつてボルテクス界に存在したマントラ軍と呼ばれる存在。

 

暴力でボルテクス界と統率する自由主義者達であり、弱肉強食を尊ぶ者達。

 

彼らの望みは強者のみが優先される選民主義だったのだが…。

 

<俺は()()()()でそれを行う。弱者こそが優先されるべきであり、強者に私権はいらない>

 

<弱者を優先するために強者を虐げる道。やり方こそマントラだが、思想としてはニヒロに近い>

 

<俺の道は…かつての思想であるシジマの道となるのかもな>

 

彼はシジマ思想をもって、魔法少女社会に静寂をもたらす者となりたいという。

 

二度と人間社会に危害を加える事が出来ないよう、感情すら湧かない世界の歯車社会を望むのだ。

 

しかし、ニヒロの思想とは宇宙そのものの在り方を変えようとした思想。

 

彼が行う静寂とは、魔法少女社会の静寂というあまりにも小さな思想でしかなかった。

 

<歯向かう者も現れる。俺はそれを殺し尽くし死の山を築き上げ、静寂秩序を作り上げる>

 

<社会全体主義。全ては人間社会の福祉と安全保障のための恐怖政治か>

 

――弱者である民衆の革命政府の原動力は徳と恐怖である。

 

――徳なき恐怖は有害であり、恐怖なき徳は無力である。

 

フランス革命指導者の1人であるロベスピエールが残した言葉だ。

 

彼は力の無い統治社会など制御不能だと語ったのだ。

 

<徳という思いやりや優しさだけで世の中が回るなら、警察や裁判所など必要ではない>

 

――恐怖支配は、手っ取り早く大衆を服従させるもっとも安上がりな方法だ。

 

――権力とは力の中に存在している。

 

1773年頃に語られた言葉として知られる。

 

マイヤー・アムシェル・ロスチャイルドがフランクフルトで集めた秘密会議で決めた項目の一つ。

 

集まった世界的実力者である12人が生み出した25項目は、後の世界革命行動計画となるのだ。

 

<力無き革命計画は存在しない。我の起こした朝廷への乱とて、死の山を築き上げる道となった>

 

<今年の5月1日、俺はもう一度この東京の魔法少女社会に対し、血の惨劇を起こす>

 

<かつての世界で行った虐殺…再びこの世界でも繰り返すか>

 

<見届けるがいい。俺がもたらす魔法少女社会への…()()()()()をな>

 

踵を返し、将門の首塚の碑を後にする。

 

空を見上げれば血のように赤い夕暮れ。

 

「かつて俺は…アマラ深界の悪魔にこう言われた」

 

人は死して忘れる魂をもつ。

 

悪魔は死せず学ばぬ魂をもつ。

 

「人は死ねば、生前の因果は消えるだろうが…悪魔は死んでも因果は消えない」

 

かつてのボルテクス界の砂が混じる風を感じる。

 

悪魔達の血煙舞う死で満ち溢れる荒野の風を。

 

「俺はこの世界でも死を撒き散らす。人間として死んでも終わりはない殺戮の道…」

 

――暁美ほむら…お前は俺のような悪魔にはなるんじゃねーぞ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

7月も後半になり、学生達は夏休みの時期を迎える。

 

今日のやちよのスケジュールは1日を使う撮影スケジュールとなっていた。

 

水着撮影のため千葉県にまで出張するために出かけていく。

 

海水の透明度を誇る浜辺で撮影が終わるだろう夕方までのモデル活動が今日の仕事だ。

 

青いストライプビキニに透明パレオを腰に撒いた大人っぽくクールな印象をもたらす衣装姿。

 

カメラマンの作品イメージに合うポージングと表情をこなしていく。

 

「午前の撮影は終了です。お疲れ様でした七海さん」

 

「お疲れ様、カメラマンさん。お昼を食べたら少し休憩しても良いですか?」

 

「どうぞ」

 

簡単にお昼を済ませ、少しだけ近場を散歩する。

 

「あれから一ヶ月…十七夜は大丈夫なのかしら?」

 

海辺に集まる様々な店が連なる街道を歩いている時、古風な外観をした占い屋を見つける。

 

「タロット占いもしてるのね…メルも好きだったわ。占いの結果で大慌てする子だったけど」

 

かつての大切な人を思い出し、少しだけあの頃に戻れるかもしれないと店の中に入る。

 

占い師に座るよう案内され、タロット占いをしてもらったようだ。

 

暫くして、厳しい表情を浮かべながら占い屋から出てくる。

 

占いの内容があまりにも彼女の気分を害したためだ。

 

「塔の正位置…()()。今まで築き上げていた物が全て崩れる…非常に辛い困難が待つ…」

 

嫌な占い結果を忘れるため、彼女は午後の撮影仕事に集中していく。

 

気持ちを切り替え撮影を繰り返したが、タロット内容が気になり続けてしまう。

 

悩み事を繰り返していると、いつの間にか仕事の方も終わりを迎えている。

 

「今日の撮影は以上です。遠いところまでわざわざご自分からご足労頂き、有難うございました」

 

「お疲れ様でした。私は神浜市に帰るので失礼します」

 

駐車場に向かう途中、赤い夕日に視線を移す。

 

「私は…西の魔法少女社会の長を務める者」

 

呪いそのものに思える固有魔法を抱えようとも、魔法少女社会の長となると決めたのは彼女自身。

 

長としての責任まで遠ざけるわけにもいかず、彼女なりに精一杯頑張ってきた。

 

夏の風がやちよの美しい長髪を靡かせていく。

 

「みんなは…私と十七夜の魔法少女社会治世をどんな風に見ていたのかしら?」

 

言い知れぬ不安の気持ちが湧いてくる。

 

もし自分の治世に欠陥があったのなら、それが崩壊の兆しになるやもしれないからだ。

 

迷いを振り払い、駐車場に止めてある乗り物まで歩いていく。

 

駐車してあったのは、ブルーメタリック色のリッターバイクであるR1の車体だ。

 

ブルーのフリップアップヘルメットを被り、エンジンを始動させる。

 

「私はいつまで…魔法少女社会の長としてみんなを支えていけるの?」

 

彼女の年齢は19歳。

 

既に魔力減退期に入っている。

 

神浜魔法少女社会に現れた東の魔法少女社会問題。

 

タロット占いで示された崩壊と全てが崩れるという結果。

 

魔法少女として生きてきた七海やちよは、これから進んでいくべき道すら見えていない。

 

それでも進んでいくしか出来ない後戻りすることが出来ない道。

 

アクセルワークをこなし、一気に道路に進み出る。

 

その後姿は何処か…自分の道を探している迷子のようにさえ見えた。

 




読んで頂き、有難うございます。
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