人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
神浜市新西区には小中高大一貫教育の規模を誇る神浜市立大附属学校が存在している。
多くの若い子供達が行き交う学生が多い地域と言えるだろう。
神浜住民だけでなく他県から進学した生徒も大勢集まる地域のため数多くの下宿屋がある。
数多い下宿屋の中でも一際美しいと昔から評判であった邸宅が存在しているようだ。
現在は下宿屋としては機能しておらず、祖父母から邸宅を受け継いだ一人娘が暮らすのみ。
部屋数が多いため、管理も独りで行うのは掃除一つでも大変であるだろう。
大学から帰宅した若い女性が黙々と掃除をしている光景が続く。
多忙な生活を送っている彼女は隙間時間が出来ればこうして元下宿屋の管理を行うわけだ。
「ふぅ…何もない部屋でも埃だけは溜まっていくわね」
空き部屋の掃き掃除を終えた後、換気のために窓を開ける。
「モップをかけ終えたら近所に買い物に行って、その後は魔獣狩り、帰ったら…」
多忙な生活を送るせいか時間管理のスケジュールばかりを考えてしまう。
疲れからか溜息をつき、一階の物置にモップを取りに行こうと部屋の扉に手をかける。
今は4月の季節であり、気持ちのいい春風が部屋の中に入り込み、カーテンを揺らす。
不意に後ろを振り向いた彼女が部屋を見回してみる。
「変ね…?この部屋…こんなに広かったかしら?」
一瞬だが2人分の家具が並んでいる光景を幻視して見えてしまった気がする。
しかし家具もなければ誰もいない空き部屋の光景こそが現実なのだろう。
「疲れてるのかしら?ここで
気の所為だと思った彼女は扉を開けて外に出る。
この空き部屋と誰かが関わるのは違う
この宇宙は魔獣世界であり、魔女もいなければ魔法少女達が魔女に成り果てる事もない世界。
一階に下りてきた彼女は少し疲れてきてる体を休めるためにリビングに向かう。
キッチンに隣接しているリビング空間に入った時、また幻視する光景が広がったようだ。
「このリビング…こんなに静かな空間だったかしら…?」
悪ガキみたいに元気がいい子供が1人いたような気がする。
控え目で泣き虫な誰かがいたような気がする。
先程見た姉妹のような2人と揃い、仲良く談笑している光景を幻視してしまう。
「やっぱり疲れてるわね…掃除はここまでにしておくわ」
静かなリビングのソファーに座り込み、時計の音だけが邸宅内に響いていく。
キッチンシンクから聞こえる蛇口の水滴音が聞こえる程にまで静かな空間。
キッチンには色とりどりのマグカップが棚に収められ飾られているが、今は使われていない。
「こう静かだと…独り言ばかり増えるわね。去年までは…ここもまだ賑やかだったのに…」
リビングの壁に飾られているフォトフレーム内に収められた写真に目がいく。
彼女とみふゆ、耳にピアスをした金髪の少女が並ぶようにして仲良く写った写真が見える。
隣にはまた別の少女達が並ぶようにして写った写真が飾られている。
彼女とみふゆ、鶴乃とももこ、緑の長髪をポニーテールの少女が仲良く写った写真であろう。
「私は寂しいから…誰かがいる幻視まで見えてしまうのかしら?貴女達はどう思う…?」
やり切れない辛そうな表情を浮かべた彼女は写真に写った人物達の名を呟くのであった。
♦
新西区の隣には水名区と呼ばれる城下町として栄えた町がある。
西とは水名大橋で繋がっており、水郷柳川として美しい景観に連なるような町屋が建っている。
江戸時代を思わせる神浜歴史地区として名高い水郷の古都として評判を集めているようだ。
夜空に大きな満月が輝く夜、石畳が敷かれた路地裏を走る独りの魔法少女がいる。
既に周りは魔獣結界内であり、息を切らせながら走り続けていく。
「あっ…!?」
突き当りを曲がれば行き止まりであり、後ろを振り返れば複数の魔獣達が屹立している。
「月咲ちゃんに会いに行ける日に限って…わたくし、なんて運がない…!」
黙ってやられるわけにもいかず、彼女は魔法武器である横笛を吹き鳴らす。
音圧攻撃を仕掛けるが効果は薄い。
音は反響させれる場所でこそ最大の効果を発揮出来るため、外では音の威力も低くなる。
「ダメ…やっぱりわたくしと月咲ちゃんの武器は…地の利を活かさないと効果が薄い!!」
数体の魔獣が相手に狙いを定め、レーザー攻撃を仕掛けようと構えていく。
絶体絶命と思われた、その時だった。
「えっ…!?」
地面から突然出現したのは複数の魔力の槍であり、串刺しとなっていく魔獣達。
夜空に浮かぶ満月の如く、円を描くように側方宙返りを行う魔法少女の影が浮かぶ。
襲われていた少女の前に上空から舞い降りて着地した存在が魔法武器である槍を構える。
「や…やちよさん!」
「下がっていなさい、月夜さん」
石畳に亀裂が入る程の踏み込みを行い、一瞬で間合いを詰めていく。
槍の一突きで三体を串刺しにする豪快な刺突を行い、すぐさま引き抜く。
槍を抜いた反動を用いて蒼い光が円を描くようにしながら一回転する横振りを行う。
すると複数の魔法陣が彼女の周りに展開され、魔力の槍が八方向に向けて射出されていく。
次々と貫かれていく魔獣達が消滅していく末路を遂げる。
その力は手練として活躍した魔法少女の中でも特に強い古参の領域と言えるだろう。
「トドメ!!」
残存した複数体の魔獣に目掛けて跳躍する。
後方に現われる魔法陣を蹴り込み、上空から複数の槍と共に飛来する。
頭を貫かれていき、数が多かった魔獣でさえ現れた魔法少女の力で掃討されたようだ。
明るい表情を浮かべた月夜は現れた魔法少女に駆け寄っていく。
「…すいませんでした。多忙なやちよさんの御手を煩わせてしまって…本当に感謝してます」
「…構わないわ。これも西の長である私の役目…誰一人見捨てるわけにはいかないの」
「あまり無理をなされては体に毒です、ご自愛下さい。わたくしは用事を抱えてますので…」
「ええ、行って構わないわ」
物腰が柔らかい月夜は深々と一礼を行った後、やちよの前から去っていく。
「…貴女がいても、戦力としては頼りなかったもの」
周りの魔獣結界はまだ消えてなどいない。
背後から現れる後続の魔獣達に振り向き、槍を構えようとした時だった。
「えっ…?」
やちよの後方から飛来して現れたのは炎を纏う功夫扇と巨大な円月輪。
後続で現れた複数の魔獣を一気に切断して焼き滅ぼす程の攻撃力を見せる。
魔獣結界が消失し、ようやく全ての魔獣を倒し終えたようだ。
誰が加勢として現れたのか分かっているのか、彼女は後ろを振り向きもしない。
後ろから近寄ってくる存在を無視するかのように落ちているグリーフキューブを拾い続ける。
後ろから歩いてくる2人は舞い戻ってきた魔法武器をそれぞれが片手で受け取ったようだ。
「加勢を頼んだ覚えはないわよ…みふゆ、鶴乃」
「し、ししょー…」
ドライな態度を崩さないかつてのチームメイトの姿に対して鶴乃は目を伏せてしまう。
そんな鶴乃の隣にいる梓みふゆが七海やちよに歩み寄ってくる。
中学時代とは違い、かつての長髪は切り落とされてミディアムヘアになっていたようだ。
「やっちゃん…いつまでも囚われてはいけないと思います」
「…なんのことかしら?」
「私達の前で惚けないで下さい。同じチームメイトだった私達に誤魔化しは効きません」
「貴女達とはもう終わったのよ。魔法少女社会のトラブルでもない限り、姿を見せないで」
頑なな親友に我慢ならないのか、つい声を荒げてしまう。
「いい加減にして下さい!かなえさんやメルさんが死んだ事を願いのせいにしないで下さい!」
やちよの願いによって大切な仲間達が死んだと考えるのは証明出来ない被害妄想だと叫ぶ。
それでも頑なに自分を責めるやちよは死んだ仲間達の名を出されたために目つきが変わる。
「私と深く関わった魔法少女は…二度死んだわ。二度あることは三度でも四度でも起こる」
「生き残りたい…やっちゃんはそう願った。でもそれはモデル業界で生き残るためだけです!」
「そ、そうだよ…師匠がそんな事を望むわけがないよ!結果として亡くなっただけだよ…」
仲間を慰めようとしてくれているようだが、余計に自責の念に駆り立てていく。
苛立つように立ち上がり、厳しい表情を2人に向けてくる。
「私が望まなくても…あの子達は死んでいった。私を庇ってね…若過ぎる命だったわ」
「死の比重は全員が同じ重さです!遅かれ早かれ…私達は円環のコトワリに導かれるんです…」
「なら早く私も迎えに来て欲しいわ。これ以上誰かを…私のせいで死なせる前にね」
俯いた顔のまま間を通り抜けるようにやちよは去っていく。
黙り込んでいた鶴乃だったが、彼女もやちよを大切にしている者の1人。
後ろを振り向き、思いの丈を叫ぶのだ。
「やちよーっ!!私達…もう元に戻れないの?」
呼び止められた彼女が立ち止まるが、振り向きはしない。
「去年みたいに笑い合ったり…励まし合って…一緒にに泣いたりも出来た頃に…戻れないの?」
皆が環のように輪となって繋がり合えた頃に戻りたい。
その思いは自責の念に縛られた者には届かず、振り向きもせずに冷たい言葉を言い放つ。
「もう…私に深入りしないで。死神に取り憑かれて…魔獣に殺されるわよ?」
2人に向けて幾つかグリーフキューブを投げ渡した後、古都の夜道に消えていく。
やちよの身を思う仲間達の言葉は今日も届かない。
「かなえさん…メルさん。私…どうしたらやっちゃんを救えるんですか?」
満天の夜空の世界を見上げたみふゆはかつての仲間達の顔を思い浮かべていく。
「やっちゃんは…貴女達に託された命のバトンが重過ぎて…今にも潰れそうなんです」
円環のコトワリに2人が導かれた日、やちよがどれほど自分を責めたか2人は知っている。
優しさは人を救いもするが、時には人の心を殺しもする。
全ての事柄には表と裏がある陰陽構造であろう。
答えなど与えてはくれない大切な人達の死を想い、一滴の雫が目から流れ落ちていった。
♦
同じ日の夜、ももこは寝付けないのか自宅の屋根に登って座り、月を見つめ続けている。
「なぁ…キュウべぇ。聞きたいことがあるんだ」
彼女の隣に立つキュウべぇの真紅の目が彼女を見上げる。
「やちよさんは…本当に自分の願いのせいで…メルやかなえさんを死なせてしまったのかな?」
「その話かい?君達のチームは解散したはずだけど、今更どうして気にするんだい?」
「解散したからって…ほっとけないよ!」
「たしか君は…自責の念に塞ぎ込んで周りを拒絶する彼女に腹が立っていたはずだけど?」
「腹は立つさ…でも、だからってやちよさんが悪いわけじゃないだろ?」
「ボクにはよく分からない世界だね」
「ったく、感情がない奴は気楽でいいよ」
「七海やちよの願い、それは生き残ることだ。それはね、誰かに死を与えることになるんだ」
恐れていた答えがそのまま返され、ももこは驚愕した声を出してしまう。
「嘘だろ!?やっぱり…やちよさんが考えている通りなのか?」
「君は意識したことはないと思うけど、こんな事を考えたことはあるかい?」
「何の話だよ…?」
「七海やちよを放置出来ない優しい者が不自然なほど周囲に集まってくるとは考えないかい?」
「それが一体何の関係が?」
「彼女のためなら人生すら投げ捨てる。そんな者達が集まり過ぎだとは感じないかい?」
何が言いたいのか分かったももこの表情が青くなってしまう。
「まさか…そんなことって…!?」
「察しの通り…それが七海やちよがもたらす奇跡の結果なんだよ」
七海やちよはモデルの世界でも周りの環境に恵まれて成功し続けている。
彼女を引きずり落とすぐらいなら自らが退くぐらい優しい人間達が不自然なほど集まってくる。
彼女のためにモデル人生を捨ててまで引退した者が大勢いたと聞かされてしまう。
彼女のために命を投げ捨てる仲間まで2人もいる。
全ては生き残りたい願い通りの結果を残せており、それこそが奇跡の効果だと伝えるのだ。
「そのせいで…心優しい子達を死なせているっていうのかよ!?」
「彼女の祈りが原因を作り、結果として周りに死を与える…因果そのものさ」
「魔法少女は円環のコトワリの力で…呪いの因果を断ち切れたはずだろ!?」
「因果という概念はね、原因が起こって初めて積み重ねられながら結果に結びつく」
――因果から逃れたいと願うのなら、そもそも
感情が無い契約の天使が語る無慈悲な現実を飲み込めるほど魔法少女達は大人ではない。
「アタシ達をこの世界に引きずり込んだお前が…それを言うのかよ!?」
「それを背負ってでも、君達は叶えたい願いがあったんだろ?」
事実を突きつけられた彼女の顔が俯いてしまう。
「アタシは…」
「君はたしか、想い人に告白する勇気が欲しくて魔法少女の契約を結んだよね?」
「そうだよ…」
「それは奇跡の力などなくても叶えられた問題さ。それでも君は都合が良かったから願ってる」
「アタシ…願いが叶って勇気がもらえても…結果は先に告白しに行った子に先取りされた…」
「君が早く行動を起こさなかったから結果がついてきた」
原因とは常に
「それを都合が悪くなったら周りのせいにするなんて、余りにも人間は理不尽だ」
「やちよさんの自業自得だって言うのかよ…かなえさんの死も…メルの死も?」
「その通り。自分が生き残るなら、誰かが死んで去るという想像力が足りなかった結果さ」
抗えない現実を聞かされたももこは三角座りのまま膝に顔を埋めてしまう。
「やちよさんは…これからも自分の願いのせいで…誰かを死なせていくのか?」
「その原因を作らないために彼女は魔法少女を遠ざけるし、人間も遠ざけていくだろう」
「そんなのあんまりだよ…独りぼっちの人生じゃないか…」
「彼女を独りぼっちにしたくないと考える心優しい魔法少女は君も含めて多い」
――七海やちよの因果の糸は君達に絡まっているというのを忘れないことだね。
そう言い残した後、屋根から飛び降りたキュウべぇは去っていく。
現実に抗えない者は悔しい感情を押し殺すようにして低い呟きをしてしまう。
「酷いよ…やちよさんが可哀想過ぎるじゃないか。この世界には…現れてくれないのかよ?」
――やちよさんの因果の糸を断ち、皆を環のように繋いでくれる可能性の魔法少女は?
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6月も後半の神浜市、時刻は夕方になろうかとしている。
孤独な人生を生きる七海やちよは独りで生きていくなりのささやかな楽しみを持つ女。
追い詰められ過ぎるとソウルジェムが濁り、戦う魔力が削られてしまうからだろう。
元下宿屋であったみかづき荘から近い距離にあるスーパーマーケットに場面は移る。
現在のこの場所は七海やちよの決意が示される場と化していたようだ。
「今日の夕方は鮮魚のタイムセール…そしてポイントも10倍デーよ」
どうやら目的は夕市の高いお刺身であろう。
モデルの仕事をこなしているようだが独りでみかづき荘を維持するのはかなりの負担がある。
そのため買い物は計画的に行う習慣が身に付いていたようだ。
「いけない!?出遅れたわ…SNS社会の主婦は動きが早いわね!」
人だかりが出来ているスーパーに対して突撃を行っていく。
暫くした頃、両手一杯の買い物袋を携えたやちよの姿が出入り口から現れる。
「夕市は惣菜も狙い目なのよね…揚げ物を家で作るのは労力の割りにコストがかかるのよ」
一万円分買い物をしたので1000ポイント貯める事が出来た彼女は自然と表情もほころぶ。
「溜まったポイントで何を買おうかしら?少し高めのお菓子に手を出してもいい…?」
ポイントの使い道を考えながら帰路についていた時、女子生徒達の会話が聞こえてくる。
<<ねぇ、聞いた?東で起こっている最近の事件?>>
<<聞いた聞いた。最近妙な犯罪が横行しているみたい…怖いよね>>
神浜市立大附属学校の女子生徒の声が聞こえてきた彼女は立ち止まり、聞き耳をたてる。
<<警察の捜査班でも何が原因で盗まれているのか分からないんですって>>
<<凄いよね…まるで魔法の力みたい>>
聞き捨てならない単語を耳にしたやちよが2人の前に歩み寄る。
「その話、詳しく聞かせてもらえないかしら?」
「えっ?えーと…お姉さんはどちら様?」
「この人知ってる!有名な女性ファッション誌で表紙を飾ったことがあるモデルさんだよ!」
「あーっ!?あたしもコンビニ雑誌で見たことある!あの…応援してますね!!」
「応援してくれて有難う。それで、東で起きているという事件の話だけど…」
「えっとですね…ATM強盗の話なんですよ」
東地域において重機も使わずにATMの中身が持ち逃げされる強盗事件が起こっているようだ。
酷い時には現金自動預払機を何かの武器で壊して中身が奪われていたりもしたという。
最近では現金を運んでいる現金輸送車まで襲われた事件もあったと聞かされる。
「犯人は見つかってませんし、防犯カメラも犯人が映りもせずに壊されてるって話です」
「もう無法地帯ですよ…今の神浜の東地域は…」
「昔からだよね…東が物騒なの。西に生まれてよかった~」
状況を理解したやちよの表情が厳しくなっていく。
「…聞かせてくれて有難う。貴女達も寄り道せずに早く家に帰りなさい」
「そうですね…最近本当に物騒だし。コンビニで貴女が写ってる雑誌を見かけたら買います!」
帰る女子学生達に対して平静を装っていたが、内心は穏やかではない。
「こんな真似が出来るのは魔法少女しかいないわ…」
魔法少女社会の長の1人として、この状況を看過することは出来ない。
「東は十七夜を長として統制がとれた魔法少女社会を築けてきたはずじゃなかったの…?」
状況確認をしようにも東地域に赴く事は立場上許されない。
「自由と平等を掲げて不義理を許さない十七夜が…こんな魔法少女犯罪を許すはずがないわ…」
だが状況は後手に回り、半ば放置しているようにも西の長は感じてしまう。
ベンチにこしかけ、買い物袋を隣に置いてスマホを取り出す。
緊急の連絡先として十七夜の電話番号は登録してあったようだ。
「何年ぶりかしらね…十七夜に電話をするのは…」
電話アプリで何回か相手に連絡していたら返事が戻ってくる。
「随分と久しぶりな連絡だな…七海。自分に何か緊急の用事なのか?」
「十七夜…東の魔法少女社会は今どうなってるの!?西にまで事件の話が流れてきてるわ!!」
電話の向こう側が沈黙してしまうが、気持ちを隠したような言葉が戻ってくる。
「その話か。自分が全力で対処するから、七海は西の内政に集中していればいい」
「そんなことを言ってる場合じゃないでしょ!?人間社会に実害が出ているのよ!」
「状況は知っている」
「何の手立ても打たないわけ!?こんな不義理を貴女だけでなく、私だって許せないわよ!」
「本当にすまない…自分の監督不行き届きだ。今は家計が厳しくてな…現場を抑えられない」
勤め先を変えて賃金の良い西側でバイトを行っているせいか、後手に回っていると聞かされる。
「貴女らしくない言い訳よ!本気の貴女なら真っ先に現場に向かうぐらいの熱い女だったわ!」
暫くの沈黙が続いたが、冷淡な言葉が戻ってくる。
「それ以上は言うな…西の長が東地域の魔法少女社会にまで口出しするのは自治権侵害だ」
無理やり腹に力を入れて平静を取り繕うような押し殺した声に聞こえる。
彼女が何かを隠しているのではないかと勘繰ってしまう。
「何を背負い込んでいるの…十七夜?声が震えてきているのが分かるわ」
東の長の弱さを見透かされてしまったせいか、弱々しい声が聞こえてくる。
「…頼む、もう何も言わないでくれ。自分とて……本当に辛い状況なのだ」
そう言い残して電話は切られてしまう。
「プライドの高い十七夜が…あそこまで追い込まれる事態になっているの?今の東側は…?」
状況が見えず、東の魔法少女に声をかける訳にもいかない西の長。
何が出来るかを考えてもみたが、現地から正確な情報が届かなければ憶測しか浮かばない。
「十七夜を信じるしかないわね…。あの子は不義理を許さない子なのだから…」
何も出来ない状況に無力感を感じながらも旧知の仲である十七夜を信じる事にしたのであった。
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4月も終わりの時期が差し掛かっている頃にまで戻る。
平将門の首塚に向けて歩いている黒いトレンチコート姿の男がいたようだ。
首塚の碑の前で立ち、ポケットから線香を取り出して右手で火を点ける。
線香の煙が立ち上る中、尚紀は手を合わせて将門の首塚を拝む。
頭を上げた後、魂と会話をするように念話を行う。
<息災か?東京の守護者よ。危うく死にかけたようだが?>
<ああ、なんとか生きている。暁美ほむらに貫かれた致命傷もいつの間にか塞がっていた>
<ルシファーが再び生み出した新たなる悪魔との戦いの件で訪れたのだろう?>
<流石だな…神様に隠し事は通用しないのだろうな>
尚紀は右手をかざしてマガタマを出現させる。
<…またマガタマを壊されたのか>
<まぁな…暁美ほむらの一撃で貫かれちまったよ>
6の形を描きながら浮遊する生物のようなマガタマ。
しかし尾の部分が貫かれた一撃で消滅させられていたようだ。
<その程度ならば自力で再生するだろう。しかし、長い休眠期間が必要だな>
<そうか…暫くは俺の最大の力を使えそうにないんだな>
マロガレを右手の中に収め、もう一つ聞きたいことを問いかける。
<あんたは生きていた頃は豪族だったんだろ?>
<如何にも>
<一定の地域であろうが内政を行える立場だった者の意見を聞きたいんだが?>
<ほう?政治にでも目覚めたのか?かつての世界では小僧に過ぎなかった者が成長したものだ>
東京の魔法少女社会において恐怖政治による暴力統制を行うという政策内容を尚紀は語る。
自分を含めて魔法を使える者はその力を人間社会と共有させ、それ以外には使わせない治世だ。
<勿論これは俺の独断であり、あんたの約束の内容とは関わりはない>
<構わない、それも東京の秩序になるならばやり遂げてみせよ。しかし恐怖政治とはな…>
<…かつての世界で言えば、マントラ軍のゴズテンノウと同じ事を俺はすることになる>
かつてのボルテクス界に存在したマントラ軍と呼ばれる勢力の記憶を彼は思い出す。
ボルテクス界と暴力で統率する自由主義者達であり、弱肉強食を尊ぶ者達。
彼らの望みは強者のみが優先される選民主義だったようだ。
<俺は逆の目的でそれを行う。弱者こそが優先されるべきであり、強者に私権はいらない>
<弱者を優先するために強者を虐げる道。やり方こそマントラだが思想としてはニヒロに近い>
<俺の道はかつての思想であるシジマの道となるのかもな>
彼はシジマ思想をもって魔法少女社会に静寂をもたらす者になりたいという。
二人間社会に二度と危害を加える事が出来ないよう感情すら湧かない歯車社会を望むのだ。
しかしニヒロの思想とは宇宙そのものの在り方を変えようとした思想。
彼が行う静寂とは魔法少女社会の静寂という、あまりにも小さな思想でしかない。
<歯向かう者も現れる。俺はそれを殺し尽くし、死の山を築き上げて静寂秩序を作り上げる>
<社会全体主義か。全ては人間社会の福祉と安全保障のための恐怖政治というわけだな?>
――弱者である民衆の革命政府の原動力は
――徳なき恐怖は有害であり、恐怖なき徳は無力である。
フランス革命指導者の1人であるロベスピエールが残した言葉を尚紀は語ってくれる。
彼は力の無い統治社会など制御不能だと伝えるための格言内容であろう。
<徳という思いやりや優しさだけで世の中が回るなら、警察や裁判所など必要ではない>
恐怖支配は手っ取り早く大衆を服従させる安上がりな方法であり、
1773年頃に語られた言葉としてこの言葉は残されている。
マイヤー・アムシェル・ロスチャイルドがフランクフルトで集めた秘密会議で決めた項目だ。
集まった世界的実力者の12人が生み出した25項目は後の世界革命行動計画となったという。
<力無き革命計画は存在しない。我の起こした朝廷への乱とて死の山を築き上げる道となった>
<今年の5月1日、俺はもう一度この東京の魔法少女社会において血の惨劇を起こす>
<かつての世界で行った虐殺…再びこの世界でも繰り返すか>
<見届けるがいい。俺がもたらす魔法少女社会への…シジマ革命をな>
踵を返した男が将門の首塚の碑を後にする頃には血のように赤い夕暮れが空を包んでいる。
「かつて俺は…アマラ深界の悪魔にこう言われた」
人は死して忘れる魂をもつ、悪魔は死せず学ばぬ魂をもつ。
「人は死ねば生前の因果は消えるだろうが…
かつてのボルテクス界の砂が混じるような風を感じてしまう。
悪魔達の血煙舞う死で満ち溢れた荒野の風を全身で感じているようだ。
「俺はこの世界でも死を撒き散らす。人間として死んでも終わりはない殺戮の道か…」
――暁美ほむら…お前は俺のような悪魔にはなるんじゃねーぞ。
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7月も後半になり、学生達は夏休みの時期を迎える。
今日のやちよのスケジュールは1日を使う撮影スケジュールとなっているようだ。
慣れない水着撮影であっても千葉県にまで出張する。
本来の彼女は水着撮影の仕事はしないのだが、辛い記憶を紛らわせるため敢えて引き受ける。
海水の透明度を誇る浜辺で撮影が終わる夕方まではモデル活動が続く。
青いストライプビキニに透明パレオを腰に撒いた大人っぽくクールな印象をもたらす衣装姿。
カメラマンの作品イメージに合うポージングと表情をそつなくこなしていく。
「午前の撮影は終了です。お疲れ様でした、七海さん」
「お疲れ様、カメラマンさん。お昼を食べたら少し休憩してもいいですか?」
「どうぞ」
お昼を済ませた後、少しだけ近場を散歩する。
「あれから一ヶ月…十七夜は大丈夫なのかしら?」
海辺に集まる様々な店が連なる街道を歩いている時、古風な外観をした占い屋を見つける。
「タロット占いもしてるのね…メルも好きだったわ。占いの結果で大慌てする子だったけどね」
かつての大切な人を思い出し、少しだけあの頃に戻れるかもしれないと店の中に入る。
占い師に座るよう案内され、タロット占いをしてもらったようだ。
暫くした頃、厳しい表情を浮かべながら占い屋から出てくる。
占いの内容があまりにも彼女の気分を害したせいであろう。
「塔の正位置…崩壊。
嫌な占い結果を忘れるため、彼女は午後の撮影仕事に集中していく。
気持ちを切り替え撮影を繰り返したが、タロット内容が気になり続けてしまう。
悩み事を繰り返していると、いつの間にか仕事の方も終わりを迎えている。
「今日の撮影は以上です。遠いところまでわざわざご足労頂き、有難うございました」
「お疲れ様でした。私は神浜市に帰るので失礼します」
駐車場に向かう途中、赤い夕日に視線を移す。
「私は…西の魔法少女社会の長を務める者…」
呪いそのものに思える固有魔法を抱えようとも魔法少女社会の長となると決めたのは彼女自身。
長としての責任まで遠ざけるわけにもいかず、彼女なりに精一杯頑張ってきたようだ。
夏の風がやちよの美しい長髪を靡かせながらも自分の治世内容を思い返す。
「私と十七夜の魔法少女社会治世を皆はどんな風に見ていたのかしら…?」
それを考えると言い知れぬ不安の気持ちが湧いてくる。
もし自分の治世に欠陥があったのなら、それが崩壊の兆しになるやもしれないからだろう。
迷いを振り払い、駐車場に止めてある乗り物まで歩いていく。
駐車してあったのはブルーメタリック色のリッターバイクであるR1。
ブルーのフリップアップヘルメットを被り、エンジンを始動させる。
「私は魔法少女社会の長として…いつまで皆を支えていけるの…?」
彼女の年齢は19歳であり、既に魔力減退期に入っている。
神浜魔法少女社会に現れた東の魔法少女社会問題。
タロット占いで示された崩壊と全てが崩れるという結果。
魔法少女として生きてきた七海やちよはこれから進んでいくべき道すら見えていない。
それでも進んでいく事しか出来ず、後戻りすることが出来ない道になるだろう。
アクセルワークをこなし、一気に道路に進み出る。
その後ろ姿は何処か自分の道を探している迷子のようにさえ見えるのであった。
読んで頂き、有難うございます。