人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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83話 悪魔の車

6月の季節も過ぎていく。

 

最初の週の週末頃、尚紀は風見野市に帰ってきている。

 

今見上げているのは、建設工事の足場が作業員達に組まれていく骨組み部分。

 

彼が炎を運んでしまった我が家だった大聖堂を見上げながら、足元の2匹の猫に念話を送った。

 

<ここが俺の家だったんだ…>

 

<悪魔である尚紀の家が神の家だったなんてね…皮肉なめぐり合わせだと思うわ>

 

<ニャー…元気出すニャ。こうして尚紀が建設会社に仕事頼んで修理しているし、元に戻るニャ>

 

<ここで暮らしてきた杏子ちゃんだってきっと喜ぶわ…家族は帰ってこないけど>

 

顔を陰鬱に沈ませる尚紀を見上げた猫達。

 

償いをしようとしているようだが、自責の念は消えないのだろうと察した。

 

<ちなみに、お幾らぐらいしたんだニャ?大聖堂の修理や、住まいを建て直す見積り金額?>

 

<100億円ぐらいだったか>

 

ニャッ!?<<100億円!!?>>

 

2019年の今年の4月、フランスではノートルダム大聖堂が火災被害を受けている。

 

850年前に建てられた歴史的ゴシック建築である大聖堂ゆえに、その修繕費は極めて高くつく。

 

額は6億~7億ユーロ(約740億~860億円)規模にまで膨れ上がったという。

 

ノートルダム大聖堂ほどの歴史建造物ではないが、佐倉牧師達が暮らした大聖堂もかなりの規模。

 

修繕費は100億円を超えてしまったようだ。

 

<こんな金額を風見野財政が賄うことなど出来ないだろう。杏子の家を焼いた俺が払うしかない>

 

<尚紀が焼いたわけじゃないでしょ?結果として…そうなっただけよ>

 

<原因を作ったのは俺だ…だから結果がついてきた。俺が杏子にもたらした呪いの因果だ>

 

<それで、いつ頃に元通りになる予定なんだニャ?>

 

<4年近くはかかると言われたな。杏子が高校に進学して卒業するまでには完成しているだろう>

 

<元通りにしたら、この大聖堂を誰の所有物にするつもりなの?>

 

<佐倉牧師が所属していたかつての教会団体に寄付する。悪魔の俺が神の家を所有するもんか>

 

<それが良いニャ。きっとまた牧師の誰かが赴任してくると思うニャ>

 

<焼かれても、ここは佐倉一家が暮らしてきた人間の足跡と思い出が残る場所だものね…>

 

<誰も寄り付かない廃墟のままだなんて寂しいニャ…だから尚紀は大金を出したんだニャ>

 

<…そうだな。さて、そろそろ東京に帰るか>

 

タクシーを止めてある教会へと続く森の入り口に向けて歩きだす。

 

「しかしまぁ…そんな大金をポンと出資出来るなら、尚紀も車ぐらい所有したらどうなの?」

 

「オイラ達だって遠出移動が便利になるニャー。猫が乗れるタクシー探す手間も省けるニャ」

 

「お前らが勝手に付いていきたいって言い出さなければ連れてこなかったよ」

 

「オイラ達を部屋に軟禁してストレスを与えていると、とんでもないイタズラをやるかもニャ」

 

「ソシャゲで俺のクレジットカードをまた使ったら、猫毛全部剃ってスフィンクスにしてやる」

 

「…カンベンだニャ」

 

ふと思いつき、黒いトレンチコートのポケットからスマホを取り出して検索する。

 

「車か…俺も神浜市に出張することになったし、色々見てみるぐらいなら構わないか」

 

「神浜市…横浜や神戸とよく似ている新興都市だと聞いているわ」

 

「…ついてくるのか、やっぱ?」

 

「当たり前だニャ」

 

「……泣けるぜ」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

国産車メーカーのディーラーから説明を聞き終えたがパッとせず、店舗から出てくる姿。

 

「通勤や尾行捜査、遠出に使う…だけじゃ済まねーよな、魔法少女共と関わる以上は…」

 

彼の荒っぽいドライビング・テクニックに耐えられる車を探しているようだ。

 

「車に詳しいわけじゃない俺が探しても時間の無駄か…そういや、車に詳しい奴がいたな」

 

スマホを取り出し、ニコラスの店に電話。

 

週末となり、彼はニコラスの住んでいる家がある地域に向かう。

 

「渋谷区松濤…政財界の大物も暮らす東京で最高の富裕層住宅街であいつは暮らしてたんだなぁ」

 

高い塀を構えた要塞さながらの家が多く、暮らしている人の気配を感じさせない家々。

 

政財界の大物が多く住む高級住宅街故に、セキュリティ意識が高いようだ。

 

「ここだよな…?」

 

広大な敷地を覆う石張りの塀に落ち着いた外壁を持つ豪邸が目に映る。

 

目立つのは横に長すぎるほど広がっている車を収納させる巨大ガレージ扉だ。

 

「そこに収めてある車は私の自家用車だ」

 

いつの間にか玄関を開け、彼の元に歩いてきているのは紺色の整備用つなぎ服を着たニコラス。

 

「庭に入ってくれ。車を弄り回す私の趣味が詰め込まれた宝箱まで案内しよう」

 

「自慢する気か?」

 

「当たり前だろう?」

 

「だろうな」

 

広大な庭の中で目についたのは、石造りの自動車整備工場のような外観をした建物。

 

隣接しているのは車のギャラリーを思わせるガラス張りの大きな建物が見えた。

 

ギャラリーに案内され、高級車ショールームを思わせる内部を飾る欧米の車が出迎えてくれる。

 

装飾と共に並べられた数々のコレクションカーを見せられながら車の話に花を咲かせていった。

 

一階応接ルームの窓辺に座り、淹れてもらった珈琲を飲みながら感想を述べていく。

 

「欧州の車だけでなくアメ車も色々あったなぁ。アメ車も好きだなんて意外だな?」

 

「私がアメリカで妻を見つけた話をしたと思う」

 

「そういやアメリカで生活してたんだったか」

 

1949年から79年までの30年間アメリカに滞在したニコラスは妻を説得し続けた。

 

その過程で様々な友人関係も出来たようだが、その後は今の日本生活を送ると語られる。

 

「どれもピンとこないな。高級車ばかりで収入源の稼ぎではとてもじゃないが維持していけない」

 

「貯金は沢山あっても、君は投資家の道には進まなかったからなぁ」

 

「大金持ちになろうが俺は庶民だ。それに…高級車を乗り回しても直ぐに壊す未来しか見えない」

 

「君の荒っぽい運転を楽しませてもらった感想としては、スクラップが何台も生まれると思う」

 

「このショールーム以外で余らせているコレクションカーを置いていないのか?」

 

「後は車内部を弄り回す整備工場に置いてあるエンジン等の部品パーツぐらいなのだが…」

 

「そうか…なら仕方ない。色々見せてくれたが今回は遠慮…」

 

何かを思い出した表情を浮かべるニコラスが尚紀に何かを勧めてくる。

 

「いや、待て。もう1台だけあるんだが…」

 

「何か含みがある言い方だな?」

 

「あの車はアメリカで暮らしていた頃に、私が半ば引き取る形で手に入れたいわくつきの妖車だ」

 

「へぇ、魅力的な単語が出てきたな。見せてくれないか?」

 

「分かった。ついてきたまえ…彼女の元に案内しよう」

 

「彼女…?」

 

「ああ、とんでもないじゃじゃ馬娘だよ…あの車はね」

 

2人は席を立ち、車の整備工場の隣に設置されている木造ガレージに案内される。

 

観音開きの扉を開けていくと、中にあったのはとてもじゃないが人に勧められる品ではない。

 

「おい…なんだよこの…オンボロ車は?」

 

「紹介しよう。彼女の名前は…クリスだ」

 

置いてあったのは、ボロボロに壊れていた一台の車であった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「おい、まさか俺にこんなスクラップカー娘を紹介したかったのか?」

 

「説明させてくれ」

 

ガレージの中に入り、2人は車に近づく。

 

真紅の塗装と白の屋根が美しい1958年型のプリムス・フューリーだと説明される。

 

その姿はもはや美しかった頃の原型など留めていない程のボロボロの姿。

 

それに気になるのは、地面に固定されるかのように太い鎖に繋がれている車体だった。

 

「何故クリスなんて名前がつけられたんだ?」

 

「これの前の持ち主も君と同じ質問をしたことがある」

 

クリスという名で呼ばれるのは、誰がつけたのかも分からない文字キーチェーンが由来。

 

アルファベットでクリスティーンという文字の形をしていたからだった。

 

「何故こんなにまでボロボロの姿になっちまったんだ?」

 

「それを説明するには、この車が如何に呪われているかを語らねばならない」

 

この妖車は1957年頃にアメリカのデトロイトで完成を間近にしていた。

 

生産ライン上にある車に乗って一服していた工員が車中で謎の死を遂げたという。

 

それが理由となり呪いの車として扱われだした。

 

時は流れて1979年初頭。

 

妻であるペレネルが暮らすミネソタ州の東側にある州で暮らすニコラスの元に連絡が届く。

 

この妖車をスクラップ置き場で見たという内容だった。

 

妻の説得を諦めかけていた時に出会い、ニコラスが惚れ込んでしまう程の車となった。

 

日本に生活の場を移す準備を進めてきた彼は日本に移ってから暫くして彼女も日本に持ち込む。

 

異国の地でボロボロの体を整備してあげたようだ。

 

「あれ程愛していた妻を忘れさせてくれる魅力を感じてしまったが…そこがこの車の恐ろしさだ」

 

「人を呪う魔石と同じ類の妖怪車だって言いたいのか?」

 

「このクリスをスクラップ場で見つけた時、スクラップ場の管理人から聞かされたんだ」

 

「スクラップ場で見つけただと…?何を聞かされたんだ?」

 

「この車はカリフォルニアのスクラップ場でも…サイコロになるまで圧縮され壊されてたようだ」

 

「…まさか再生して動き出し、ウィスコンシン州にまで自力で走ってきたとでも?」

 

「そうとしか説明出来なかった。そして、ウィスコンシン州でも悲劇は起きた…」

 

クリスを所有していた男が恋人を乗せて運転していたら制御不能になったという。

 

そのままガソリンスタンドに突っ込み、炎上した末に原型が残ったのはクリスのみと話された。

 

「まさにジェノサイドカーだな。お前もこの女に振り回されたようだが?」

 

「恥ずかしながらね。私は自宅の整備工場でこの車を私好みの女にしようとしてたんだ」

 

「その熱の入れようなのに、どうして今はこんなボロボロにして放置している?」

 

「エンジンや変速機を改造していた時に…妻の名を工場内で呟いてしまった。それが不味かった」

 

「暴れだしたってのかよ?誰も乗っていないのに?」

 

「工場が体当たりで内側から壊されるかもと肝を冷やす程の暴れっぷりだったよ」

 

「…それ以来、ここに繋いできたというわけだな」

 

「この車の魔性に取り憑かれるわけにもいくまいと封印してきたというわけさ」

 

「話は分かった。俺もこういう類の同族と出会うのは初めてだな」

 

ゆっくりとクリスの回りを歩きながら彼女のボロボロの姿を確認し続ける。

 

車のフロント前に立ち、右手をゆっくりへしゃげたボンネットに置いた。

 

すると突然のエンジン音が鳴り響く。

 

「なんだと!?」

 

サイドブレーキが外され、後輪が煙をあげながら回転していく。

 

太い鎖を引き千切らんと加速し始めるのだ。

 

「離れなさいナオキ君!!」

 

封印されてきたガレージから逃れんと走り続けるが前に進まない。

 

フロント部分を抑え込んだ悪魔の力の前ではびくともしないようだ。

 

「落ち着けよ、じゃじゃ馬娘。まだまだ暴れたりないのか?」

 

両手でバンパーを掴み、後輪が浮く程にまで持ち上げていく。

 

まるで拗ねて言うことを聞かないお転婆な恋人を、彼氏がお姫様抱っこしてなだめるように。

 

暫く回転し続けた後輪だったが、次第に大人しくなっていく。

 

完全に静止したクリスをゆっくりと地面に下ろしていった。

 

<おい、クリス。お前も俺と同じく…悪魔なんだろ?>

 

念話をクリスに送ってみる。

 

暫くの沈黙した後、カーラジオから洋楽のラブソングが流れ出した。

 

<やっと見つけた…アタシを抱き上げてくれる…悪魔のダーリン!!>

 

車から発せられた魔力の波動を感じとる2人。

 

「な…なんと…」

 

ニコラスはついに数十年ごしに見ることになる。

 

彼女がなぜ原型を留めないスクラップにされても元に戻ることが出来たのかを。

 

多くの悲劇を生み出し続けた悪魔の力を見せつけられる時がきた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

【クリス・ザ・カー】

 

愛を得ず死んだ女が取り憑いた妖車。

 

付喪神という器物は百年経ると化けるという日本の俗信がある。

 

九十九年目で捨てると古い器物があと一年で命を得られたものをと恨みを抱いて妖怪に変貌した。

 

思い入れた物品には付喪神として魂が宿るとも言われるが、彼女は最悪にタチが悪い類である。

 

彼女を題材にした洋画も存在し、映画好きの間でも人気があるヴィンテージカーだった。

 

砕けた丸いフロントライトからハイライトの光が灯され、2人を包み込む。

 

空気圧が抜けた片側タイヤが元に戻るかのようにして車体がせり上がっていく。

 

ボコボコに凹んだ車体が見る見るうちに復元していく。

 

へしゃげた屋根も、砕けたガラスも、曲がったグリルも復元していった。

 

悪魔の中には歩いているだけで体力や魔力を回復させる力を持つ悪魔が存在している。

 

また自らが戦闘後に傷や魔力を完全回復させる力さえ持つ最高位の悪魔達いるようだ。

 

彼女の回復力だけならば、最高位に辿り着く事も可能であろう。

 

「スクラップにされても姿を維持出来るわけだ。この光景をアメリカの友人にどう説明しよう?」

 

「秘密にしておけ。どうせ説明したところで、俺たち悪魔の存在など理解出来ない」

 

「そうだな…そうしよう」

 

<乗ってダーリン!一緒に踊りましょう!!>

 

勝手に運転席側の扉を開け、クラクションを鳴らして早く乗れと急かす。

 

「こいつの鎖を外してやれ」

 

「気に入ったのかね?」

 

「ああ。悪魔の俺には悪魔の車がお似合いだ」

 

「なるほど、確かに。しかしこの車は魔性の女…君も男なら魅了されかねんぞ」

 

「悪魔の精神操作魔法である魅了魔法は、かつての世界でも凶悪だったな。気を付けよう」

 

促された尚紀は車内に乗り込む。

 

ニコラスは車を拘束し続けた鎖を外していく。

 

開放された彼女はご機嫌なエンジン音を鳴らし、ツインマフラーから排気ガスを吹かす。

 

「いくらで譲ってくれるんだ?」

 

「金などいらないよ。私も厄介払いが出来て嬉しいぐらいだ」

 

<その爺さんも顔は良いから相手してやったけど、嫁さんの尻に未だに夢中な男は嫌いよ!>

 

「…とか言ってるぞ」

 

「ヤレヤレ、他の女に入れ込むと怖いものだ。私はペレネル一筋を貫いていこう」

 

「問題はこいつを預けておける車庫だな…引っ越しを考える必要がありそうだ」

 

「去年の君は…私の自家用車の1つを立派なスクラップにしてくれるまで走ってくれたな?」

 

「まぁ…そういう出来事もあった気がするよ」

 

「お陰で家の前のガレージには停車させておけるスペースがある。使ってくれて構わないよ」

 

「何から何まで世話になりっぱなしだな、ニコラス」

 

「君と私は秘密を共有出来る数少ない友人の1人。友よ、気にするな」

 

空ぶかしさせ、久しぶりの光の世界に進み出ようとした車の悪魔。

 

真紅の塗装が徐々に真紅の色から漆黒の輝きに染まっていく。

 

「君に似合う女になれるよう、お色直しも出来るようだ」

 

「試運転に行ってくる。玄関の大きな扉を開けてくれ」

 

「君の荒っぽい運転では車体もエンジンも摩耗するばかりだろうが、彼女なら問題ないな」

 

自動で開いていく屋敷の門からドリフトしながら車道に躍り出てきたクリス・ザ・カー。

 

胸ポケットから葉巻を取り出し、火を点けて紫煙を燻らせながらニコラスは見送ってくれた。

 

「ケツをしっかり振れるいい子だ。俺のダンスは激しいぞ?」

 

<その強引さは嫌いじゃないわ!アタシはクリス・ザ・カー!今後ともヨロシクね、ダーリン!>

 

渋谷区松濤から山手通りに入り、首都高速三号渋谷線に向けて進んでいく。

 

悪魔と悪魔のダンスパーティの会場入りの光景であった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

次の日。

 

まだ朝日も登らない早朝の首都高速湾岸線には、クリスが走行していく姿が見える。

 

深夜移動のドライバーやタクシーぐらいしか走らないだろう高速道路を突き進む光景が続く。

 

派手なアメ車が駆け抜けていく光景は、周りの車から見ても目立つだろう。

 

軽く追い抜かれていく一台のタクシー。

 

ドライバーは追い抜いた車を見て感慨深く溜息をついた。

 

「プリムス・フューリーの初代モデルか!あの加速力…中身は相当弄ってあるんだろうなぁ」

 

クリスの車内には運転席で操縦し続ける黒のトレンチコートを着た尚紀がいる。

 

仕事場に行く前に少しでも彼女を操縦する感覚を磨き上げようとしているようだ。

 

古いメーター計器も正常に作動し、内装も大幅なレストアが行われていたようだ。

 

ダッシュボードにスマホを固定させ、デッキに搭載したオーディオにスマホの音楽を流す。

 

キックパネルスピーカーから溢れる車内音楽を楽しみながらのドライブというわけだ。

 

「ダーリンのダンスリードはとっても素敵よ!アタシとの相性バツグンだし相思相愛ね!!」

 

「そのノリ勘弁してくれないか?」

 

「それにしても、アタシの他にも同じ悪魔を何匹か飼っていたなんてねぇ。しかも臭い猫」

 

「ネコマタと会って早々に喧嘩しやがって。女の敵は女なのか?」

 

「あら?よく分かってるじゃないダーリン。そう、女社会はめんどくさいのよ~」

 

「男の俺に女社会の生き辛さを語られてもなぁ…」

 

「サバイブする器用さと残酷さが無いと蹴落とされて女社会のゴミ箱行き。恋愛競争のようにね」

 

「ドライな関係でも周りと上手くやってける男社会で暮らせて良かったよ」

 

ひとしきり走行性能を試していたら、サイドミラーに目が行く。

 

後方から猛スピードで迫ってくる一台のスーパーカーが見えたようだ。

 

「ハァイ、尚紀!新しい車を手に入れていたなんて、私に真っ先に連絡してほしかったわ♪」

 

左車線側に並走し、助手席側の窓を開けて声をかけてきたのは瑠偉。

 

「どうせお前に連絡したら、挑まれるって分かってたからだよ!」

 

「ドライビング勝負しましょう!」

 

「勘弁してくれ!直線番長のお前のチェンテナリオ相手にして、首都高で適うわけないだろ!」

 

「ならドリフトテクニックでいきましょう!事故ったら負けね!」

 

「おいっ!!?」

 

<面白いじゃないダーリン!受けて立ちましょう!>

 

<お前まで乗り気かよ…>

 

<あんな()()()()のような車を選んでいる趣味の悪い女なんかに、アタシ達が負ける訳ないわ!>

 

クリスのカーオーディオと電波で繋がっているスマホを勝手に操作。

 

You Tube画面をスクロール操作させていく。

 

音楽動画が再生されたのは、チャイコフスキーバレエ組曲。

 

くるみ割り人形、花のワルツだ。

 

「たくっ…どういう趣向だよこのノリは!?」

 

前方から逆走してきた瑠偉のスーパーカー。

 

あわや接触事故かと思うほどの至近距離まで迫りくる。

 

鈍化した世界。

 

互いがサイドブレーキを引き上げる。

 

互いの車体後輪が横滑りしていく。

 

互いの車が円を描く回転によって二台の車が踊っていく。

 

互いに並走状態に戻し、接触距離も迫る状態でさらにドリフト。

 

1センチ程度の距離で互いの車が絡み合う一回転。

 

先に躍り出た瑠偉の車が一回転ダンス。

 

続いて尚紀の車も一回転ダンス。

 

一緒に踊りましょうとばかりに瑠偉は車体を半回転させ、彼の車の1センチ幅前でバック走行。

 

江東区ビックサイト前で社交ダンスのように瑠偉の車が半回転。

 

尚紀も一回転ドリフトさせる光景は、まるでルンバのスポットターン。

 

「やるじゃない尚紀!それでこそよ!私が直々に指導してあげた甲斐もあったものね!」

 

「フン。その車とドラテクが相手じゃ首都高だけでなく峠でもお前に走り勝てる自信はねぇよ!」

 

<キーッ!!峠で勝負するならダーリン!アタシがあいつの車を崖に突き落としてあげるわ!!>

 

「やめとけ。避けられて俺達が崖に落ちるだけだ」

 

まさに町の遊撃手とばかりに踊りまくった2台の車は辰巳第一PAから道を下っていく。

 

職場の聖探偵事務所に近づく頃には朝日も顔を出し始めたようだ。

 

「ん?瑠偉のチェンテナリオのエンジン音と、もう1つ聞き慣れないエンジン音が来るな?」

 

朝早く出勤していた丈二は、愛車であるマスタングを事務所内ガレージで磨いていたのだが…。

 

「おわッッ!!?」

 

開いたシャッター目掛けて同時ドリフトしながら並走してくる二台の車に驚き声を上げてしまう。

 

慌てたため握っていたタオルを床に落としてしまったみたいだ。

 

「ふぅ!楽しかったわ尚紀。早起きは得するって本当よね~♪」

 

「よう、丈二。お前も早くに出勤してたんだな?」

 

「な…尚紀?おま…お前、その車はーっ!!?」

 

突然興奮しだした丈二がクリスの周りを回転しながら様々な角度でクリスを見つめ続けてくる。

 

「初代プリムス・フューリーじゃねーか!?こんなレアなヴィンテージカーを何処で見つけた!」

 

興奮が収まらない丈二が助手席側の扉に頬ずりしはじめた時、悲劇が起きる。

 

「んがッッ!!?」

 

勢いよく開いた助手席側の扉に頭を強打され、地面に倒れ込んだようだ。

 

<アタシに気安く頬ずりするなんて、こいつヘンタイよダーリン!轢き殺して良い?>

 

目を回した丈二を見ながら瑠偉は肩をすくめ、尚紀も額に手を当て遠い眼差しを上に向けた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

6月も前半までには尚紀が東京で抱えていた探偵の依頼をこなし終える。

 

彼は新しい事務所引っ越し先を探すため、今日から神浜市に向かう出張生活となるのだ。

 

「楽しみだニャー!オイラ初めて神浜市に行くけど、どんな建物があるのかニャー?」

 

「貴方は建物よりも、女子学生とかに媚び売って可愛がってもらう方が目当てなんでしょ?」

 

「な…なんの事かニャー?」

 

出張する尚紀の足元についてきているのはケットシーとネコマタみたいだ。

 

「首輪にGPS発信機をつけてやったが、あまり遠くに行くんじゃねーぞ」

 

「「ハーイ」」

 

ニコラスから貰ったガレージリモコンのコピーを使い、シャッターを開けていく。

 

「アーッ!!ダーリン…まさかそいつら、私の車内に乗せていく気じゃないでしょうね!?」

 

「まぁ、成り行き上そうなっちまった」

 

「乗車拒否よ猫臭くなる!特にネコマタ!ダーリンに近づくな泥棒猫!」

 

「あんただってガソリンやオイル臭いじゃない!?それに尚紀は私はそういう関係じゃないわ!」

 

「そう言いながらダーリンの布団の中に入り込んで寝てるんでしょ!?キーッ!悔しい!!」

 

「その巨体で家の中に入るのはやめてくれ」

 

「女同士って、割りと合わない時は合わないもんなのかニャー?」

 

尚紀になだめられ、結局二匹の猫も車内に入れることとなったクリスである。

 

朝日も昇り始め、光に包まれた世界に進み出るために車のキーを差込口に刺す。

 

アルファベットキーホルダーに追加して彼がつけたのは、()()()()キーホルダー。

 

キーを半回転させ、エンジンが始動。

 

トレンチコートの胸ポケットからサングラスを取り出し、朝日の逆光に備える。

 

「さぁ、俺達の新しいステージに向かうとするか」

 

光の世界に走り出た4体の悪魔達。

 

懐かしい感覚に彼は包まれている。

 

かつての世界でも、こうして4体の悪魔が前に出て共に戦ってきたのだから。

 




読んで頂き、有難うございます。
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