人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
格差が社会の分断、暴動や革命を引き起こす事を示す歴史上の事実は多い。
フランス革命では国民のわずか2%の権力者が国の富と権力を握り続けたあげくに起きる。
社会の在り方を大きく転換させる歴史的な出来事として語られているのだ。
このフランス革命によって弱者である民衆革命の歴史が始まるだろう。
民衆革命は後の共産主義思想の雛形として産声を上げることとなっていく。
人はなぜ格差による不平等で国家、社会転覆までの暴力性を得るのだろうか?
これをなぞるようにして神浜市の東の魔法少女社会に暴力性が広がっていく光景を語ろう。
魔法少女という人間の感情が生み出す、怒りと悲しみの物語である。
「……ただいま」
パートで働いている1人の女性が東地域の寂れたアパートの一室に帰ってくる。
「…お母さん、お腹すいた」
帰りを待っていたのは一人娘であり、お腹を膨れさせてくれるご飯を求めている。
「ごめんね…冷蔵庫の中にある少ない材料で何か作るから…」
「給食…食べたいよ…。どうして給食費を払ってくれないの…?」
「生活費がね…稼げないの」
「どうして…?」
「私が労働経験もない主婦で…稼げる資格も貴女を育てるので忙しくてとれなかったからよ」
「私の…せいなの?」
「私の労働価値なんて…パートぐらいでしか認めてくれなかったのよ…」
「お父さん…死んでからだよね?こんなに生活が苦しくなったの…」
「あの人も…もっとマシな仕事に就けて…財産を残してくれていたら良かったのにね」
「どうして、お父さんはマシな仕事に就けなかったの?神浜の西はお賃金いいんでしょ?」
「…それはね」
――貴女のお父さんが、東地域の住人だったからよ。
大東区にある大東学院のとある休み時間の光景に移る。
「あんたさぁ、話しかけないでくれる?」
「な、何でさ…?ちょっと周りの子らが何の話題してるのか気になっただけだよ…?」
「あんたスマホさえ持ってない貧乏人じゃん?そんなんで学校の交友関係出来ると思ってる?」
「うちのお父ちゃんが、工匠区の勤め先の工場で雇い止めされて…生活費が苦しいの…」
「あっそ。あたしらも貧乏だけど、それなりに暮らせてて良かったよ」
同じ地域であるのに生まれた家の違いだけでこうも格差が生まれてくる。
「極貧な奴は教室の隅で壁にタッチ操作しながら壁とチャットしてみたら~?」
相手の事情など関係ないのか、周囲はゲラゲラと嘲笑ってくる。
「酷い…どうして?少し周りと違うだけで…東の仲間にさえ、そんなにも冷たくなれるの…?」
「あたしらだけじゃなく、皆やってることだし~」
こんなのは序の口であり、もっと悲惨な東の家庭もあるだろう。
「なんでよ!?あたしが高校に進学出来ないって…皆してるのに…どうして!?」
「進学費を用意出来ないんだ…。どうしても行きたいなら働いて金を貯めてから通え」
「嫌だよ!皆が楽しい高校生活を送れるのに!!あたしだけ労働者になるだなんて!!」
「我儘言うな…俺だって辛いんだ」
父親の職場は取引先から切られ、コストが安い企業に仕事を奪われている。
待っていたのは社員の給料カットと希望退職者を募ることであろう。
「貯金崩してよ!あたしに工匠学舎に通わせてよ!」
「生活していくだけで精一杯で貯蓄が無い…。若い頃は西に就職したかった…でもな…」
「どうして…就職出来なかったの…?」
「俺が東の住人だからと言われて…全て蹴られたんだ」
「理不尽だよそれ!東の住人だからって…何で西の連中はこんなにも理不尽になれるのさ!?」
「俺が子供の頃よりも前から続いていた地域ぐるみの差別だ。神浜は差別で出来た街なんだよ」
「そんな…ことって……」
「俺達は東の住人なんだ…どうか耐えてくれないか?」
格差と差別が人の心をどんどん蝕んでいく社会がここにある。
「あんた東の住人でしょ~?」
「な、何さ…急に道端で声をかけてきて?」
「貧乏臭い格好してたからさ~ついおかしくて。どうせ服なんてロクに持ってないんでしょ?」
「だから何!?東の貧乏人だからって…上から目線で貴女達から馬鹿にされる言われはない!」
「まぁまぁ、そう言わないでさぁ。いい儲け話があるんだけど…乗ってみない?」
「儲け話…?」
「金持ちオジサンと飲食するだけでいいんだよ。あんた顔いいしデート代金で儲けられるわけ」
「そ、それ…パパ活ってやつなの…?」
「そうそう。儲けのマージンは仲介手数料で貰うけど、東側の貧乏人には悪くない話でしょ?」
「デートだけで済むわけないわよ!無理やりホテルとかに連れてかれたらどうするの!?」
「それも金になるじゃん?貧乏人なんだし、体で稼ぐってのも立派な労働…」
「ふざけないで!私達東の住人をいつまでも馬鹿にして…西側を絶対に許してやらない!!」
――こんな理不尽あんまりよ…神浜の西側なんてぶっ壊れてしまえ!!
こんな神浜社会に絶望し、憎悪を燃やす少女が増えていく。
「あの成績優秀な都落ちした奴、どの面下げて帰ってきたんだか?」
「西の有名校にせっかく行けたのに暴力沙汰やらかしたみたいだぜ?東の汚名返上も台無しだ」
「これでまた東の評判が落ちるわ。東の面汚しよ、あいつ」
「西の学校に東の奴が通うってどうなんよ?見方によっちゃ、魂売った裏切り者だぜ?」
陰口を叩く者達がわざと本人に聞こえるようにしながらヒソヒソ声で話す。
明らかに挑発してくるのに対し、銀髪の少女は堪忍袋の緒が切れる。
「何よ!送り出す時は散々期待したくせに!!私が水名でどれだけ苦労したと思ってるの!?」
「お前がどう考えてるか知らねーが、東の連中から見たらそうとしか思えないぜ」
「あんたの家族もこれから評判落とすよね~」
「妹さんもまだ小さいのに巻き込んじゃってさ~、近所の人に嫌がらせされちゃうかも?」
心無い言葉を浴びせられ続けた少女は悔し涙を浮かべながら吼える事しか出来ない。
「都合が悪くなったら悪者レッテル張り!?家族まで含めて…最低のクズ共よ…貴方達!!」
「あぁ!?なに俺らを悪者扱いしてんだぁ?水名で暴れたお前だけが悪者だろうが…八雲!!」
怒り狂った彼女は端に置いてあった消火器を持ち上げて暴れてしまう。
八雲と呼ばれた少女はこの街を大いに憎む事になるだろう。
「西も東もみんな同じよ!!勝手に悪者作って…叩きながら悦に浸り始める!!」
西も東も何も変わらない現実が彼女を狂気に駆り立てていく。
「人の話なんて聞いてくれない!悪者ならどうでもいい!叩く差別が楽しいだけなのよ!!」
人間が繰り返す差別感情を憎み続けた末に彼女はこう叫ぶ時が来る。
「神浜の人間みんなが同じ穴の狢なら…神浜なんて滅びてしまえばいい!!」
被害者と加害者、周囲ではやし立てる観衆、見て見ぬふりをする傍観者。
それら全てが集団現象によって差別を許容してもいいという社会全体の空気を醸成させる。
格差とは社会だけでなく、家族やクラスメイトといった人間社会全般に生み出される。
ヒエラルキーとは
周りが何故?と思うが、人間は思い込みだけで人物を語る癖があるからだ。
女性のほうが家事や育児に向いている、男性のほうがリーダーシップがある。
専門家なら嘘は言わないといった固定観念に縛られる。
本当にそれがあっているのか
偏見はよくないと言いながらも固定観念の偏見だけを見て周りに押し付ける人間という存在。
固定観念が周りに否定されたなら、どうだろう?
苛ついて感情を爆発させ、お前だけが間違っていると悪者レッテル張りを始めていく。
人間は
それ故に人間とは
♦
「お待たせしちゃったわね~入っていいわよ~♪」
「し、失礼する…」
大東学院女子制服を着た十七夜が緊張した顔つきのまま店舗事務所に入ってくる。
「それじゃ、履歴書見せてくれるかしら?」
「どうぞ…」
オネェ口調で喋る店長が履歴書を受け取り、一通り目を通す。
目を伏せながらもあまり期待をしていないような諦めムードで待っていく。
「貴女……東地域の子なのね?」
やはり、という顔つきになった十七夜は席を立ち上がろうとするが呼び止められる。
「待って~、帰っちゃまだダメ。そのままルンバのようにターンしてくれるかしらぁ?」
「むっ?こ…こうか?」
すっと体を回転させ、短い制服のスカートをひらめかせると店長は微笑んでくれるのだ。
「う~ん、とっても花がある子ね~♪少し固い性格みたいだけどぉ…採用よ」
「えっ…?自分は…このメイド喫茶で働いてもいいのか?」
「ええ、これからよろしくね。十七夜…じゃ堅いわね~、なぎたんって呼ばせましょう♪」
採用は喜ばしくとも釈然としない表情を浮かべてしまう。
彼女は東の者だというコンプレックスを抱えている少女。
こんな自分が西側の店で働いてもいいのかと疑問を感じ、店長に質問してしまう。
溜息をつきながら席を回転させ、夕日が映り込む窓に視線を送る店長が答えてくれる。
「アタシね、この街の住人じゃないの。前は激戦区の秋葉原でメイド喫茶を構えていたわ」
「東京から来られた方だったのか?」
「新興都市に店舗を移して新しいご主人様と出会いたいって引っ越してきたけど…残念な街ね」
「それは…神浜の東西差別問題の事なのか?」
「ええ…。アタシは皆に楽しんでもらえる空間をメイド喫茶として提供したかった…」
店を楽しみに来た東の女子学生と西側の客との間で揉め事があったと店長は教えてくれる。
「…あんな東の連中を入れるな、出される飲み物が不味くなるとでも言われたのか?」
「それ以上の事も言われたわ。だから頭にきて、そのご主人様の方を出禁にしてあげちゃった」
期待を込めて店舗を引っ越す決断までしてくれた人を落胆させた街、それが神浜市。
生真面目な十七夜は申し訳ない気持ちとなっていく。
「すまない…。神浜住民として他の地域から来られた人を不快にさせた事を謝る…」
「なぎたんが悪いわけじゃないから頭を上げていいわよ~?アタシは気にしてないし♪」
席を立ち、彼女の背丈に合うサイズのメイド服をロッカーの中から探してくれる。
しかし背を向けたままの店長は寂しそうな声を出してしまう。
「アタシね…オネエでしょ?だからジェンダー規範に縛られるの」
男と女がどうあるべきでどう行動し、どんな外見をすべきかという規範に苦しんだ過去を語る。
「男は男らしく生きろ気持ち悪いって…社会生活の中で虐められてきたわ」
「そんな…店長は心優しい人物です」
「
髪の毛を派手に染めた、ピアスの穴を開けた、肌にタトゥーを彫り込んで気持ち悪い。
「…人間は簡単に他人を差別出来る生き物なのよ」
「みんな…弱い者虐めが大好きなのだろう。東の者とて…例外ではない」
「アタシが大阪の大手お笑い芸人事務所が大嫌いなのもそこよ」
上の芸人が人をおちょくるパワハラ芸がお笑いにされる現実に対し、くだらないと吐き捨てる。
「嘲笑いさえ…人間は娯楽にしてしまえるのよ…」
「なぜ日本人は…ここまで劣化してしまったんだろうな。自分には分からない…」
「人間は悪魔のように残酷よね。アタシはそんな世界が嫌だから…メイド喫茶始めたの」
メイド喫茶とは非日常を体験出来る癒しの世界。
社会のくだらない部分を排除して皆が幸せになれる娯楽の場にしたいという信念を店長は語る。
「立派です店長…。自分は貴方について行きたい」
しんみりした空気にしてしまった事に罪悪感を感じたのか場を盛り上げようとしてくれる。
「やーん!オネェサマって呼んで!差別なんてくだらないわ!みんなラブ&ピースよ!」
後ろに振り向き片足を可愛く?上げながら両手でハートサインを作ってくれる。
そんな店長の思いやりを汲み取れたのか、十七夜は少しだけ笑顔になれたようだ。
「ホラホラ、なぎたんも可愛いポーズをしてみなさぁい!」
「むっ?こ…こうか?」
「うーん、まだまだ固いわ。貴女に似合うメイドポージングも自分で見つけていかないとね♪」
こうして運良く東の者が西の仕事にありつける。
こういう例は稀であり、西の地域住民が経営する環境ならばありえない。
そんな幸運に恵まれる東の者を見た同じ東の魔法少女達はどう思うのだろうか?
東の魔法少女社会は人間社会への不満が溜まる一方であった。
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日本は極端な世代間格差を生んでしまっているという現実に対し、多くの高齢者は気づかない。
貧しい若者によるオレオレ詐欺やデート詐欺のような犯罪に走らせる社会現実が生まれている。
バブル崩壊後、2000年代の規制緩和による雇用変化によって若者は日本に絶望していく。
大卒ですらまともな仕事に就けないほど日本社会は劣悪になり果てていく。
猛烈なルサンチマンが蓄積していった結果、若者社会が荒廃していくのだ。
金を抱え込んだ高齢者を狙う者を生みだしていく光景こそ、まさに戦後の荒廃した日本社会。
大東亜戦争の犠牲となった
これは人間社会の若者達だけでなく、魔法少女社会の若者達とて同じ状況であろう。
「ねぇ…はぐむんはどう思う?」
2人の魔法少女達が魔獣との戦いを終えて帰路につきながらも会話を続ける。
「東の長は人間社会のためにこそ魔法を使うべきだってボク達の力を束縛してきた…」
「うん…だから私達は…人間のために命を懸けて戦ってきた…でも…」
「命を削りながら戦うボク達に対して…人間社会はどんな仕打ちをしてきたんだろう…?」
「酷い目に合わされ続けても…それでも人間社会は東の魔法少女達を冷遇し続ける…」
東の魔法少女達は長の意思を汲み取り、正義の味方として戦ってきた者達。
それでも神浜社会は歴史に縛られながら差別を繰り返す。
差別を繰り返す者達のために命を懸けているのに虐待ばかりされる。
東の魔法少女達は心が完全に擦り切れてしまっているようだ。
「ボク達…これからも人間社会のために…尽くしていかないとならないのかな?」
何もしてくれない上に弾圧までしてくる神浜の人間達に対して我慢の限界まで追い込まれる。
「時雨ちゃん…何を考えているの?」
「ボクは欲しい…魔法少女が人類の上に立てる…そんな理想が…」
「魔法少女が…人類の上に立てる…?」
「ボク達だって報われるべきだ。命を削って魔獣と戦わされるなら…見返りだってあっていい」
神浜の差別に抵抗する力がある事を東の魔法少女達は気づき始めている。
彼女達は魔法少女であり、魔法という圧倒的な暴力が使える者達だと気づいてしまう。
「抑圧され続けた東の魔法少女社会の開放…でも、絶対に十七夜さんが許さないよ…」
生真面目な東の長が魔法を使って世直しを決行する。
それは強者が弱者を喰らう構図であり、無力な人間を襲う魔獣共と同じ光景となっていく。
十七夜は誰よりも自由と平等を愛する者。
自由に平等を望む者達が排他主義を持ち込んだ時点で
<<自由?平等?本当にそういうのってさ~、東の魔法少女達にあると思ってるわけ~?>>
何処からか知らない少女の声が聞こえた後、夜道の中を声の主が歩み寄ってくる。
「えっ…?貴女は…?」
天女を思わせる魔法少女衣装に身を包む少女が2人の目の前にゆっくりと現れる。
「自由、平等、不義理を許さないって言いながら、東のリーダーは何を貴女達にしてきたの?」
いきなりの質問に対し、抑圧されてきた魔法少女の1人が答えを告げる。
「ボク達の魔法を…自由に使いたい望みを拘束する…抑圧社会だった」
「それって自由?自由と平等の精神ってのはね、個人一人一人の生き方を尊重する社会だよ」
個人の生き方を尊重するという個人主義は黄色い旗を象徴する政治思想。
自由と平等概念から考えれば
誰よりも自由と平等を愛するくせに自由と平等を拘束してきた東の長。
彼女は従ってきた魔法少女達に不義理を行ってきたのだと天女少女は告げてくる。
「そうだ…あの人は口では自由と平等を言うくせに!ボク達の自由と平等を拘束してきた!」
「口では善意を言うくせに行動が伴わない…十七夜さんは卑怯者の詐欺師よ!!」
十七夜の治世が道理に合わないと悟る事となった東の魔法少女達。
突然現れた少女の意見によって覚醒を得たような気分に浸っていく。
「あのリーダーも自分の生き方を客観視する事が出来たら良かったのにね~」
――リーダーには向かないタイプの、
怒りに燃え上った時雨とはぐむを止める事はもう出来ない。
彼女達は本当の自由と平等を知ったのだから。
「もう東の長に従ってやるもんか…自由と平等を謳うなら、ボク達の自由を認めてみせろ!!」
「答えを見つけた…ありがとう。貴女はなんて名前の魔法少女なの?」
礼を言ってくる2人を見た事でにこやかな笑みを見せながら名前を教えてくれる。
「私チャン?藍家ひめなだよ~★」
「ボク、君が教えてくれた真実を皆に伝えてくる!もう抑圧なんて…されてやるもんか!」
「オー、燃えてきちゃったカンジ?チョーウケる~♪」
「私達は自由に生きていいのよ!だって、十七夜さんが掲げた自由と平等なんですもの!!」
謎の少女の元から2人は去って行き、東の魔法少女達に次々と真実を伝えていく。
その後、東の魔法少女社会と東の長との間には埋める事が出来ない程の溝が生まれるだろう。
それと同時に行われだした魔法少女犯罪。
東の者でありながらも東地域に対して無差別に繰り返された魔法犯罪行為。
皆が魔法少女達を苦しめる連中でしかないなら、もはや西も東も関係ない。
皆が飢える若者となり、その在り方は戦後間もない子供達と同じでしかないだろう。
そしてついに東の魔法少女達が東の長に対して決別を叫ぶ事となる日が訪れるのであった。
♦
深夜の誰もいない大東区の神浜監獄は地元の人からも不気味な場所だと言われている。
明治五大監獄に匹敵する程の規模で建造された広大な収容施設であるが老朽化が酷い。
現在は全貌を残す建物だけが残り、地域住民もあまり寄り付かない場所なのだろう。
今ここには東の魔法少女達が全員集結している。
その前に立ちはだかるようにして仁王立ちしているのは東の魔法少女の長である和泉十七夜だ。
「君達…魔法の力をこれ以上悪用する事は自分が許さない!東の長として!!」
乗馬鞭のような魔法武器に魔力を注ぎながら帯電させて振り抜く。
東では最強の魔法少女を相手にしているが周りの魔法少女達は怯むどころか睨み返す。
彼女達の心にあるのは恐れすら塗り潰すほどの感情の爆発なのだ。
「あんたさ…あたし達に自由、平等を言ってきたじゃん。それを実行して何が悪いの?」
「自由と平等を履き違えるな!社会に不義理をしてまで自由など行ってはならない!」
「何よソレ?自由と平等を叫びながら自由と平等を否定する。自分が何言ってるか解ってる?」
「な、何も間違っていない!自分は…自由と平等を愛しているが…それは社会のため…」
「ふざけんな!!あんたさぁ…支離滅裂なんだよ!!」
「自分の自由と平等だけを見て、あたし達の自由と平等は見てくれない!考えてくれない!」
「言ってくる言葉は自分の理想だけよ!しかも行動がそれを否定までしてくる!!」
「それは…その…た、頼む…自分に弁明させてくれ…」
自分の矛盾部分を初めて指摘された事で東の長は動揺を隠しきれない。
そんな時、時雨とはぐむの前に現れた人物の笑い声が聞こえてくる。
<<アッハハハ!!おっかし~の~♪ほんとチョーウケなんだけど~♪>>
東の魔法少女達の列が開いていき、その中央から歩み寄ってきたのは天女姿の藍家ひめな。
「お…お前は…?」
「藍家ひめなだよ~★通りすがりだったんだけど…東の魔法少女社会を見てたら可笑しくて♪」
「自分が行ってきた治世が…可笑しいだと!?」
「そうだよ♪あまりにもくだらなさ過ぎてさ~、つい客観的な意見を与えてあげちゃった~♪」
「客観的…意見……?」
「ねぇ?不義理を許さないんだったよね~?でも、リーダーが周りにやらせてきた事って何?」
自分が今までやってきた事を振り返った時、出せる言葉は決まっているはず。
「人間社会を守るために…魔法少女として魔獣と戦わせる…」
「人間社会のため~?なら魔法少女社会なんて…どうでもよかったんじゃない~?」
「ち、違う!!自分は…長として出来る限り周りの仲間達と協力して…助け合い社会を…」
「でもさ~、彼女達の本当の苦しみを助けてあげたことって…あったかな?」
「え…?」
面白いぐらい困った表情を浮かべる十七夜を見ながら十七夜の姿を語っていく。
「みんな人間社会の理不尽を背負い込み、苦しくて、寂しくて堪らないから願い事を使ったよ」
「そうだ…自分も…そんな魔法少女達の1人だった…」
「それでも人間社会は変わらない、皆を苦しめ続ける。なのに…まだ皆を苦しめるの?」
「苦しめて…いた?自分が…東の魔法少女達を…?」
「神浜に鞭を打たれるし東の長にも鞭を打たれる。皆の心はね、きゃぱいぐらい苦しんでる」
「自分が…鞭を打つ?東の魔法少女達を苦しめるために…?」
乗馬鞭を持つ右手が震えていく。
この力を彼女達に向けながら従わせてきた象徴を掲げる力が緩んでしまう。
「義理人情も道理もあったもんじゃない。あるのは自分だけの理想の世界だよね~?」
「自分だけの…理想の世界…?」
「ひょっとして、気がついていなかったの?」
歩み寄ってきたひめなが十七夜の耳元で笑みを浮かべながらこう呟く。
和泉十七夜を壊す事になるほどの客観的事実を告げてしまうのだ。
「アナタさ、自分の理想である自由と平等に…
東の長の中で何かが壊れる音が響き、帯電している乗馬鞭を地面に落としながら両膝を崩す。
東の長を気取ってきた詐欺師など見る価値もないとばかりに東の魔法少女達まで去っていく。
「ま…待ってくれ…自分は…自分は…!!」
許しを請うように手を伸ばすが誰も足を止める者などいない。
最後に残っていたのは十七夜を今まで慕ってきた数人の東の魔法少女達だけなのだ。
「月咲君…君は違うよな…?自分が間違っていたと…思うのか…?」
顔面蒼白になりながら震えていたが、震えた手を握りしめる。
「ウチ…もうこんな街イヤ…家族も人間も魔法少女も……
「月咲君!!」
悔し涙を零す彼女は走りながら帰っていく魔法少女達の後に続く。
「どうして!?どうしてみんな喧嘩するの!?分からない…私ももうイヤです!!」
「千秋君まで…!?」
小学生ぐらいの東の魔法少女まで走り去ってしまう。
工匠学舎女子制服を着た数人も黙り込んでいたが、眼鏡をかけた少女が重い口を開きだす。
「ついにバレてしまったわ…。私もね…和泉さんの矛盾には気がついていた…」
「古町先輩は…知ってたんだ?」
「でも…それを追求したらこうなるって分かってた。波風を立てたくないと…保身に走ったわ」
「酷い…こんなの映画で言えば…バッドエンド過ぎるよ…」
「ラノベでも流行らないよ…こんな辛過ぎる展開…」
十七夜を援護する言葉も無いまま彼女達も去っていく。
東の詐欺師を見つめ続けていた宮尾時雨と安積はぐむも歩み出た後、別れの言葉を残す。
「十七夜さん…大変お世話になりました。ボク達は貴女と決別します」
「私達が欲しかったのは…自分だけの理想を周りに押し付けるリーダーじゃないです」
――みんなの望みを汲み取ってくれる、ついて行きたくなるリーダーでした。
踵を返した2人も去っていき、残ったのは十七夜とひめなのみ。
項垂れながら嗚咽を堪えていた十七夜の前で両膝を曲げてしゃがみ込む。
両腕で顔を支えながら目線を合わせるひめなは先程とは打って変わり、冷たい顔を向けてくる。
「ねぇ?アナタってさぁ、他人の目線で物事を考えてあげたこと、一度でもある?」
放心したまま言葉も返せない十七夜のために言葉を続けていく。
「聞いたけど、読心術の固有魔法があるんでしょ?」
「……そうだ」
「どうせ心だけ盗み見てたんでしょ?女の子の股ぐらを覗き見る変態オジサンと変わらないね」
「……そうかもな」
「相手の本当の心に触れるにはね、本気で相手の考え方の違いに向き合うしかないんだよ?」
「自分は…向き合わなかった…荒事にしたくないと…保身に走っていた…」
「盗み取った情報だけで相手を悪者だと決めてきたの?」
「自分は……」
「人間はね、違っていて当然なのよ。境遇の違いを背負う差異があって当たり前じゃない?」
「境遇の違い…差異があって…当たり前…?」
「なのに、アナタは周りの差異を間違いだと勝手に決めつけながら悪者にしてきたんだよ?」
それを聞かされた十七夜の目が見開かれていく。
彼女の脳裏に浮かんだのはバイト先の店長が面接の時に語ってくれた言葉であろう。
――少しの差異だけで、人間は簡単に間違っていると決めつけて悪者を作るわ。
自分の過ちに気が付かされた事で彼女の両目は涙で滲んでいく。
「自分の信念だけで相手を否定して縛るだけじゃ…
皆を輪にする長に必要だったのは周りの人々が何を望んでいるかを一緒に考えること。
見知らぬ者から上に立つ者の在り方を伝えられた事で十七夜の長としての誇りが崩壊する。
「うっ…うぁぁ……!!うぁぁぁぁぁ……!!!」
嗚咽を漏らしながら言葉が言葉にならない。
全てを失った者に対して藍家ひめなはこう告げるだろう。
「…バイバイ、独りぼっちの理想主義者さん。理想と一緒に…溺死しなよ」
ひめなも去っていき、残されたのは泣き喚く事しか出来ない者だけ。
「うああああぁぁぁぁーー……ッッ!!!!」
夜空から雨が降りしきる頭上を見上げながら東の長と呼ばれた少女は慟哭を叫ぶ。
独り残された理想主義者は誰からもその理想を理解されもせずに追放される結果を残す。
かつてのソ連で中央委員会の多数派と対立して追放された理想主義者のトロツキーのように。
10月も終わりを迎える頃の出来事であった。
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「昨日から天気が悪いわね…今日もまた雨が降りそうな雲行きよ」
みかづき荘の前で愛車を止めたやちよはバイクから下り、車体を押しながら邸宅に昇る。
「ヨイショ…重たいわね。あら?やだ…オバサン臭い言葉が出てきちゃう年齢なのかしら?」
階段に設置してあるバイク用スロップを使って愛車を押し上げていく。
押し上げたバイクを庭に設置してあるバイク保管庫まで運び、シャッターを閉めて鍵をかける。
曇天の空からは心配していた通りに雨が降りしきる。
「不味いわ…洗濯をする日だったのに。あとでコインランドリーに行かないと」
玄関に向かって歩いていた時、邸宅に昇る階段前から人の気配を感じとる。
彼女が振り向くと立っていた人物は見知った存在のようだ。
「か…十七夜?」
ずぶ濡れのまま立ち尽くす十七夜の顔は俯いており、前髪で隠れて目元の表情は伺えない。
「十七夜…何かあったの?東の長の貴女が西の長の私の元にまで来るなんて…?」
階段を下りて十七夜の元まで近寄ったやちよは様子がただならないことに気がつく。
「十七夜……?」
「……まない」
やちよに対して口を開きだすその言葉には悲しみと後悔が入り混じっている。
「体が震えてる…一体貴女の身に何が…」
「すまない七海…自分のせいなんだ…」
「貴女のせいって…?」
「自分が皆を……苦しませたから!!」
顔を上げた彼女の両目からは溢れ出していく大粒の涙が落ちていく。
自分自身に絶望した十七夜は感情が抑え込めずに泣き叫び始めてしまう。
「自分は東の長失格だ!!理想なんかに溺れていなければ…間違いを正せたのに!!」
「落ち着いて十七夜!!」
「皆の違う考え方を理解してあげる努力をしていれば…あんな事にはならなかった!!」
十七夜が叫んだ言葉の内容を聞かされた西の長は察する事が出来ただろう。
今の彼女はもはや東の長などではなく、東の魔法少女社会から追放された者でしかない。
東京の魔法少女社会においてのはぐれ魔法少女と同じ立場に成り果てた者なのだ。
「十七夜…貴女は頑張った…頑張り過ぎた。家族だって苦しい、社会情勢だって厳しいのに…」
家の事情や社会の事情が苦しくとも皆の模範になろうと頑張り続けてきた東の長だった者。
彼女に待っていたのは彼女の頑張りそのものの拒絶である。
「自分は自由や平等なんて愛していなかった!!自分が見ていたのは理想でしかなかった!!」
「もういい…いいのよ、十七夜。貴女だって年相応の子供なのよ…」
周りの自由や平等など本気で考えてこなかった者の哀れな末路に対して、やちよはこう告げる。
「それなのに東の子は…貴女にだけ面倒事を押し付けたのよ。誰も責任者になりたくないから」
「七海…うっ…あぁ…あぁぁぁーーー……ッッ!!!」
やちよの胸に飛びつきながら泣き叫ぶ彼女を西の長は強く抱きしめてくれる。
「十七夜…大丈夫、私は貴女を見捨てないわ…安心して…」
「自分のせいで…今まで築き上げていた物が全て…崩れてしまったぁーーッッ!!」
十七夜の苦しみが痛い程にまで伝わってくる。
同じ神浜魔法少女社会の長として周りから責められる苦しみと向き合う。
十七夜の頭を撫でながら自分もいずれ同じ立場になる日がくることを考えてしまう。
理想だけでは人は救えない、優しさだけでは人は救えない、それは他人の目線ではないだろう。
自分の都合の良さという、
♦
神浜の東に突然現れた魔法少女である藍家ひめな。
思慮が深く冷静沈着に物事を観察し、本質を見極める力をもつ。
彼女は今、東の魔法少女の長として活動しているようだ。
周りから勝手に祀り上げられてしまった立場ではあるが、彼女は満更でもない表情を見せる。
それ以降、東の魔法少女達は自由と平等の名の下に人間社会への加害行為が加速していく。
それを楽しむ魔法少女、止めに入る魔法少女、全てが嫌になり傍観する魔法少女が生まれる。
今の東の魔法少女社会は混沌に包まれた現実に対して、新たな東の長はこう告げるだろう。
「人生はね~刺激があるから楽しいんだよ★抑圧社会なんて忘れてさ~パーッといこうよ♪」
魔法少女達の心の中には刹那主義、快楽主義、エゴイズムが広がっていく。
いい加減で無鉄砲のようにも思えるが、魔法少女達はかつてない程にまで生き生きとしている。
抑圧されて苦しんできた魔法少女達が何を望んでいるのかを彼女は知り尽くしている。
だから皆の望みを汲み取って自由と平等の名の元に魔法を使わせているのだろう。
自由とは聞こえはいいが、無秩序であり混沌であり社会秩序にとっては天敵となるだろう概念。
魔法を自由に使い続ける魔法少女の楽しそうな顔は無力な人間から見れば混沌の悪魔そのもの。
神浜魔法少女社会に噴き荒れた新たな思想こそ、魔法少女至上主義と呼ばれるもの。
抑圧からの開放という大義名分の元、利己主義に生きる魔法少女が組織的に動けるようになる。
それ程までになれば、何処までの悪行が人間社会に対して行えるだろうか?
きっとその規模は神浜の街を巨大な人災によって焼き払う規模にまで膨れ上がろう。
そんな頃の神浜の混沌を見つめている西側の魔法少女チームがいたようだ。
「最近…パトカーが走る数が多過ぎるよね…?」
「東の魔法少女の仕業ヨ…もう制御不能社会になたネ。東から流れてくる厄介な思想のせいヨ」
「魔法少女至上主義…開放という思想に感化された西や中央の魔法少女まで現れてきています」
「一体どうなっていくんですか…?神浜の街は…?」
「かこさん…私が恐れていた事が…現実になってしまいそうですね」
歩き去る常磐ななか達が立っていた自販機の裏側パーキングエリアにはアメ車が停車している。
窓を開けて聞き耳を立てていた男の姿は東京の魔法少女社会で恐れられてきた男であろう。
その表情は東京に現れるという魔法少女の虐殺者に成り果てている。
彼は東京の守護者であり、人間社会主義を掲げる者。
人間社会そのものを魔法少女から守り抜く虐殺者であり、人間の守護者でもあった。
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