人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
「ついたニャーー!」
下側に見える大都会の景色。
高速道路から下りてくる1台のアメ車。
既にここは神浜市内であり、横浜市を思わせるほどの大都市圏となっている。
窓際に前足を置いて立ち上がり、街を見物している丸いサングラスをかけた二匹の猫達。
「ニャー♪ここが神浜市!オイラ達の新しいライフワークの街!ワクワクしてきたニャー!」
「子供みたいに騒がないの」
「オイラ子供だニャー。それにネコマタだって尻尾が立ってるニャ。ゴキゲンだニャー♪」
「五月蠅いわね…私だって新しい知識が得られそうな街に来たら嬉しくなるわよ!」
「俺はお前らを連れて行きたくはなかったけどなぁ」
「アタシも猫を乗せたくなかったけど!」
車内で騒いでいた悪魔達だったが、運転しているサングラスをかけた彼の視線がメーターに移る。
「おっと、燃料をいれるのを忘れていたな。危うくガス欠だった」
「あそこのガソリンスタンドに寄ってちょうだい!燃料タンクがひもじいって言ってるから!」
「分かったよ、あそこだな?」
車が通りかかる少し前のガソリンスタンドではアルバイト中の若い少女が元気に声を出している。
「ありがとうございましたーっ!!」
帽子を脱ぎお辞儀をしながら元気にお客様を送り出すバイト少女に声をかける先輩。
「そろそろ楽しみな給料日だね~ももこちゃん」
「えへへ♪やっと給料日がくる~!」
「短期バイトだけど元気な若者が来てくれると、うちも現場士気が上がって助かるよ」
「そんな褒められると照れちゃいますよ先輩♪」
「たしかお金を貯めて、水名区で有名なご当地アイドルのライブに行くんだったね?」
「はい!あたしが推しているわけじゃないんですけど、親友が大好きで…」
事情を聞けば、夏の大型ライブイベントに彼女の親友が行きたいという。
しかし親友は接客バイトが苦手であったため、ここで今彼女が働いているというわけだ。
「まさか、君が親友を助けてあげるためにアルバイトを?」
「前にレナが楽しみにしていたライブをすっぽかして行けなかったんです」
どうやら埋め合わせのために親友の望みを叶えるためのバイトをしているという事情のようだ。
「君のような友達思いの子なんて、今の世知辛い世の中では見かけないようになってしまったよ」
「そうですね…。なんだか世の中の若者達の社会がギスギスしている気がします」
「まぁ、これも2000年代の政権与党が行った政策が…おっと、お客さんだよ」
「あたしがやります!」
ガソリンスタンドに入ってくる一台のアメ車。
「らっしゃーせー!!」
元気に運転席側に歩み寄る少女に向けて運転席のサングラス男が視線を向ける。
「満タンいれてくれ。外車の古いモデルだから給油する時はゆっくりいれろ、溢れるからな」
「あ、はい!親切に教えてくれて有難うお兄さん♪」
慣れていない外車の給油は先輩が代わり、ももこは窓拭きタオルで車のガラスを拭き始める。
ニャー!?(おっぱい大きいお姉ちゃんだニャー!?オイラケットシー!友達になってニャー!)
シャー!(胸が大きい子を見つけたら直ぐに甘え声を出すスケベなガキ猫め!)
ケットシーがダッシュボードの上に飛び乗り、タオルの動きに合わせて猫の顔と前足が動く。
「アハハ♪サングラスかけた可愛い猫が二匹もいる♪お兄さん猫好きなんですね~」
「世話がかかるドラ猫共だ」
「あたしの友達にも犬や猫が大好きな子がいるんです。きっとかえでが見たら喜んだろうな~」
二匹の言葉は魔法少女が聞いても猫の鳴き声にしか聞こえない。
猫の姿に擬態したままなら魔力を感じさせもしないので悪魔だとバレる心配はない。
「あの、猫の写メ撮って良いですか?」
「別に構わない」
「かえでが見たら驚くぞ~サングラス猫二匹登場!って送ってあげよ♪」
ニャ~(オイラを撮影したいのかニャ?撮影料としてオイラを胸に抱っこしてニャ~グフフ)
ニャー(まぁ、美しい私の美貌を写メ撮りたいって気持ちも分かるわよ~フフフ)
お尻の左ポケットからスマホを取り出し、車内に向ける彼女の左手中指に視線が移る。
(…魔法少女か)
給油も終わり、ガラスも拭き終わったようだ。
代金を窓から手渡した時、彼がふと声をかけた。
「なぁ…この街は
「えっ…?猫好きなら普通に多いと思うけど…」
「いや…気にするな、なんでもない」
含みがある言葉を残して、尚紀は車を発進させていった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
神浜市内を走行し続けるクリスの車体が道を流れていく。
「何処に停車させようか…」
「天気が快晴の土曜日ニャんだし、暫くこのまま神浜市内をドライブするニャ」
「俺は観光に来たわけじゃねーぞ」
「いいじゃない、貴方はこの街をロクに知らないんでしょ?先ずは現地視察よ」
「仕事で来てるんだ。道楽じゃねぇよ」
「ダーリン、あたしも久しぶりに外に出られたから色々見て回りたい!」
「どうせ直ぐには見つからないわ。人の出入りが激しい地域は椅子取り合戦にしかならないし」
「それに、尚紀は事務所引っ越しは乗り気じゃなかったニャー。適当にやってたらいいニャ」
「良い場所見つかりませんで済ませて事務所引っ越しも考え直された方が貴方には都合が良いし」
猫悪魔達の理屈に促されたのか、彼も渋々了承する。
「…チッ。しょうがねぇな、少しだけだぞ」
「西から時計回りで進んで行きましょうよ。最後は目的地の神浜市南凪区に辿り着けるわ」
ダッシュボードに固定してあるスマホの地図アプリはクリスが電波操作してくれる。
彼女に案内されながら神浜の様々な区に進んでいくのだ。
最初に訪れたのは水名区。
「アメダスさんは歩く姿も美しいですわ。流石はモデルさんでございます」
「ア・ミ・リ・アよ明槻さん!?いい加減覚えなさいよ!!」
「あ、失礼しました阿見莉愛さん。立ち振舞も水名女子に相応しいぐらい優雅でございます」
「オ~ホッホッホ!私はゆくゆくはトップモデル!世界デビューさえ狙える逸材なんだから!」
「フフフ♪楽しみにしております」
道端を歩いている休日の水名生徒の姿が見える。
その横の車道では信号待ちのため停車している尚紀たちの姿があった。
ニャー!?(またオッパイ大きいお姉ちゃん達だニャー!?)
ケットシーが興奮しながら窓に前足をついて立ち上がり、甘えた鳴き声を出し始める。
窓を開けていたせいで隣の道を歩いていた2人の耳にも猫の鳴き声が聞こえてしまったようだ。
「あら?見てください美愛さん。隣の車の可愛らしい猫♪わたくし達に手を振ってますわ」
「アミよ!!あら、本当ね?私の美しさを猫も理解出来るのね~偉いわこの子♪」
笑顔で左手を振ってくれた2人を横目で見つめていた尚紀は目を細める。
(あいつらも魔法少女か…)
信号も青に変わり、発進していった。
ひとしきり水名区を走り、次に向かったのは新西区。
街の端に沿うように走っていたら、不況の影が色濃く覆うエリアに入ったようだ。
車の前方には閉館してしまった大型施設が見えてくる。
「またオッパイ娘の気配がするニャ!!まな板猫娘と暮らすオイラには癒やしの街だニャ♪」
「…ケットシー、そろそろ私怒っていいかしら?」
袋に詰めたみかんを両手に抱えて廃墟に入館しようとしている少女が車の音を耳にして振り向く。
「あら…?ここいらじゃ見かけない珍しい車ね~?」
ニャッ!?(胸元パンパンだニャー!?青い燕尾服みたいな上着のボタンが弾けそうだニャー!)
シャーッ!!(いい加減にしないと打つわよ!!)
ガラスに身を乗り出すケットシーに飛びついて後ろの席で大喧嘩を始める二匹の猫達。
後ろは構うことなく、尚紀は彼女の横を通り過ぎる際に横目を一瞬向ける。
(…変わった魔法少女だな)
通り過ぎていった車の後ろ姿を彼女は静かに見つめてくる。
「東京ナンバー…?どうりで見かけない旧車だと思ったわ~」
みかんを抱えた少女は視線を戻し、そのまま廃墟の映画館の中に入っていった。
車は走っていき、新西区を越えようとしている。
「夏目書房…見どころありそうなスポットね。今度お邪魔しましょう」
「散々オイラの地域視察を邪魔しておいて…自分はこっそり地域チェックしてるニャ」
「あんたがチェックしてるのは巨乳娘だけでしょ」
新西区を超えて参京区へと移動。
「そろそろお昼の時間だニャー。尚紀も何処かでお昼済ませてオイラ達のご飯も買って来るニャ」
「さっき見かけた中華飯店で済ませてきたら良かったのに」
「毎日外食通いの俺だから分かる。ああいう店はハズレが多い」
「なんで分かるんだニャ?」
「昼時だってのに人だかりも見えない中華飯店なんぞに味を期待出来るわけねーだろ」
「そうねぇ…きっと
「そこまでいってたら、まだ良いほうだろうな」
水徳寺、参京院教育学園などを超えて北の山に面した北養区に入っていく。
「ああいう店が当たりなんだよ」
老舗洋食屋の外観をした美しいレストランを見つけ、昼飯を済まそうと駐車場に車を停めた。
「ウォールナッツか…さて、味を試させてもらうか」
入ろうとしたがCLOSE札が入り口にかけられているようだ。
入り口に張られた説明書きを読み、溜息をつく。
「シェフが出張ばかりで週に1日しか営業していないレストランなんてアリなのかよ…?」
外食に行こうと考えたが情報不足で閉まっていたのはよくある話。
帰ろうとしたが、駐車場に車を停める音が聞こえていた店の中のシェフがドアを開けてくれた。
「お客さん待って!まなかが料理を作りますからどうぞ!」
出てきたのは中学生ぐらいの少女のようだがコック服を着ている。
「ここのコックはいつも出張なのか?」
「父は人気シェフなので出張して料理を振る舞ってます。だから店の方は閑古鳥です…」
「お前が料理を作るのか?」
「はい!まなかの料理の腕は世界一ですよー!!安心して入ってください!」
「随分自信家のようだな。試させてもらおうか」
ニャー(オイラ達も食べたいニャー)
いつの間にか尚紀の足元には二匹の猫の姿。
「あら?可愛いネコちゃん達も、まなかの料理が食べたいんですか~?」
「おい、お前らは後で…」
「大丈夫!まなかの料理に期待してくれるなら、まなかは全力で美味しい料理を振る舞います!」
「ペット用の料理も作れるのか?」
「作ったことないですけど、多分大丈夫ですよ?」
ニャー♪(楽しみねー♪早く入りましょう)
「お前ら…猫に有害な食べ物食わされて倒れても俺に文句言うなよ」
溜息をつきながら飼い猫と一緒に店の中に入っていく。
(こいつも魔法少女…何処にでも湧きやがる)
誰もいない店内を見回しながら窓辺の席に座る。
おまかせを頼み、調理が終わるまで時間を潰せる雑誌でも読もうかと移動していく。
「客が来ないから雑誌の更新もあまりしてないようだな」
手にとった何週間か前の神浜経済新聞を席で広げてみる。
地域新聞前面に大きな見出しで書かれている記事に目を通していくのだが…。
「医療法人、里見メディカルセンターご子息死去…?」
医療財団も運営しているこの街の象徴の1つとして存在する大病院の一人娘に関する記事内容。
不治の病と言える程の重い病状が悪化して死亡したという内容だった。
「同じ病室に入院していた他の小学生達に続くようにして死去したのか…」
同じ病室で入院していたのは、環ういと柊ねむという名前の子供達だと記事にはある。
最初に
最後に死んだのが院長の娘である
「顔写真載せられてるけど、まだ小学生ぐらいの少女じゃない?早過ぎる死だったのね…」
「人間は死ぬ時は死ぬもんだニャー…可哀想に」
地域経済を動かす法人の娘が死去したニュースが掲載された新聞を読んでたら良い臭いが近づく。
「おまたせしました~!まなかの新作オムライスです!」
おまかせを頼んだらオムライスが運ばれたようである。
「運が良いですよ~まなかのオムライスを食べれるなんて!ネコちゃん達もお皿でどうぞ~♪」
ニャー!(こいつは美味そうだニャ!)
「確かに味はかなりのモノだな。ニンニクが効いて、みじん切り玉ねぎと挽き肉の味付けも良い」
「まなかの腕前は神浜だけで終わる器ではないのです!また来てくださいね、お兄さん♪」
「そうだな、この味ならまた……うん?ニンニクと玉ねぎ?」
暫くして、彼と猫の姿が店から出てくる。
彼女の料理の味は抜群であり、満足した彼は次の目的地へと移動していった。
……………。
東地域も見て回り、中央区や栄区を超えた当たりで夕日が沈み始めてくる。
南に進む頃には目的地の神浜海沿い都市である南凪区にたどり着いたようだ。
「結局1日観光になっちまったか…。まぁ神浜の不動産情報誌も買ったし、今日は東京に帰るか」
後ろの席で倒れ込んでいる二匹の仲魔に視線を移す。
後ろでは只ならぬ状態となった仲魔達の姿
「玉ねぎ…ニンニク…オイラ、そろそろヤバいかも…」
どうやら二匹の猫達はオムライスに隠れていた大当たりを引かされたようだ。
「悪魔も…死ぬ時は…死ぬわよ……」
「はぁ…仕方ねーな。これでも飲み込め」
左手に出現させたのは『ディスポイズン』と呼ばれる状態異常回復道具。
悪魔である二匹はそれを渋々飲み込み、POISONを治療出来たようだ。
「それにしても…丈二の故郷の東地域は荒んでたな」
「消費者の流れは商業区の中央や観光地の南側に流れていき、地域経済は麻痺状態ね」
「シャッター街も多かったニャ―」
「大きな団地街の労働者達も工匠区の工場街に流れてるのよ」
「物騒なチンピラ達も大勢見かけたニャ。車で移動して正解だったニャー」
会話を打ち切り、神浜ベイエリアから見える夕日を車の窓から眺めながら物思いに耽る。
「…やっぱり気になる?神浜の魔法少女が?」
「…ああ。この街をぐるりと回って目についただけだが…あまりにも数が多過ぎた」
「尚紀は…東京の守護者だニャ。ニャにも他所の街の魔法少女社会まで気にする必要は…」
「……今日はもう帰ろう」
車を発進させ、今日のところは神浜市を後にする一行。
帰路の道を走る彼の頭からは、神浜魔法少女社会に向けての心配事が消えることはなかった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
日曜日の早朝。
尚紀はどうしても神浜の魔法少女社会情勢が気になり、神浜市に向けて車を走らせていた。
「ダーリンと2人だけでドライブ♪でも、どうしてまた続けてあの街に行くわけ?」
「…あの街の魔法少女社会が気になるんだ」
到着するまで、クリスに今まで自分がどんな生き方をしてきたのかを語っていく。
「ワーオ!ダーリンもアタシと同じくジェノサイダー♪それでこそ悪魔の生き様ね~♪」
「俺は人間社会の安寧が欲しい。そのためなら全身返り血塗れになろうが構わない」
「なるほど~。つまり神浜の魔法少女達も……ぶっ殺すわけね?」
「その必要があるのかどうか、確かめに行きたいんだ」
高速道路を下り、先にスマホで見つけておいた立体型駐車場にクリスを停車。
「ダーリン!?アタシも獲物の品定めに行きたい~!」
「車に乗ったままじゃ現地をくまなく見て回れない。今日は大人しくしていろ」
「んもー。なるべく早く……って、まさか神浜市の全ての区を見て回る気?」
「……今日は遅くなる」
私服姿の彼は歩きながら神浜の街に向かい、全ての区に向けて歩みを進めていった。
……………。
夕日が沈み夜の時間が過ぎていった頃、彼がクリスの元に帰ってくる。
「おかえりダーリン。もう調べ終わった?」
「ああ。大方調べたと思う」
「それじゃ、東京に帰りましょうか。あの猫共も部屋に軟禁されて暴れてると思うし~」
車の運転席に入り込み、エンジンを始動させ立体駐車場から発進。
東京に帰りながら現地の魔法少女社会がどんな状況なのかをクリスに向けて語っていった。
「神浜の魔法少女社会の規模は、東京の魔法少女社会と比べてどうだった?」
「凄い規模だ。東京の魔法少女社会は、俺が減らす前でも130人には届いていない」
「なら神浜の魔法少女社会の魔法少女数はどれぐらいの規模なの?」
「俺が調べた限りでは…神浜の魔法少女社会はざっと見て200人を超える規模だ」
「えーほんと?この国の首都の魔法少女社会を超える規模の数って…異常じゃない?」
「魔法少女同士の争い事を収めて統率する…無欲で優秀な指導者が3人いるんだ」
「3人であの街に沢山いる魔法少女を纏め上げるなんてねぇ…」
「西の七海やちよ、東の和泉十七夜、中央の都ひなの。こいつらが魔法少女社会のリーダーだ」
彼女達がどのような社会治世を行ってきたのかを尚紀は語っていく。
3人の行う治世とは、人間社会に向けて自由に魔法を使う事を禁じた社会。
魔法少女本来の使命である魔獣討伐のみを目的にして社会を動かしている。
また、弱い魔法少女を互いに支え合う共生社会も築き上げてきたようだ
「絵に書いたような優等生連中ってわけね。周りの魔法少女は不満を感じてこなかったわけ?」
「神浜は西と中央が栄えている。満たされた環境ならばあまり目立った不満も起こらない」
「なら…問題は昨日の…」
「ああ…問題なのは東の魔法少女社会だ」
尚紀達が見物した東の街は酷く寂れている。
底辺層に堕とし込まれた社会に不満を撒き散らすチンピラも多く見かけた。
荒くれ魔法少女が大勢いるのだろうと察する事が出来るだろう。
尚紀が調べた限りでは、勢力圏は西側の面積が大きくても、魔法少女の数だけなら東側が多い。
東を占める二区だけで100人を超える規模の魔法少女社会を築き上げていたようだ。
「格差によって切実な願いが生まれる。そこに契約の天使がつけ込んだ結果だと思う」
「なら、衣食住満たされてる西や中央の魔法少女連中は…どんな刹那主義で契約した
「そこまでは調べてない。大規模に膨れた魔法少女社会を東の長はたった1人で統率してきた」
「あんな掃き溜めで良い子ちゃんリーダーやってたってさー、絶対摩擦が起きるよ」
「そうなるだろうな」
「それを力で抑え込んでも不満が溜まって風船みたいにボンッ!…て、弾けるだけよ」
「そうだな。俺もかつての世界でな、考え方が違う仲魔に愛想つかされて出ていかれたもんさ」
「そんなもんよ。人間も魔法少女も悪魔も変わらない、みんな異なる考えと立場があるわ」
「今はまだ神浜の魔法少女社会が人間社会に危害を加える明確な現場を抑えていない」
現状では魔法少女の虐殺者が神浜で動く理由は無いということだ。
「ダーリンは神浜市に探偵事務所を引っ越したら…神浜の街でどう生きていくわけ?」
「ただの人間のフリをして生きる。魔法少女達と関わる理由もない」
「ブー、つまんない展開よ~それ」
「お前も大人しく車のフリして過ごすんだぞ」
「まだアタシは開放されて血が見れてない~!」
「形が残らないぐらいのスクラップにされたいか?」
「ダーリン怖い…でも、そんなダーリンも素敵よ♪ちなみに…その情報は何処から?」
「俺は
「ダーリンはアレ使えるんだ?悪魔には通用しないけど魔法少女ぐらいなら効果あるってわけね」
「そろそろ東京が見えてきた。明日も神浜に出張だし、さっさとニコラスの車庫に預けるか」
こうして尚紀の神浜魔法少女社会の現地視察が終わりを迎え、次の日へと流れていった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
次の日は二匹の猫達を家に置いてさっさと車を出す。
神浜市南凪区に辿り着き、車を立体駐車場に駐車した尚紀は神浜の街へと歩いていく。
「あいつら連れて行ったら物件探しの邪魔だからなぁ」
不動産情報誌や不動産情報サイトの情報を頼りに南凪区を見て回る。
南凪区は神浜市でも観光に特化した地区。
古くは日米修好通商条約の開港場として選ばれ、アメリカとの貿易によって栄えたようだ。
目立つ施設としては神浜港や、神浜中華街とも呼べる南凪路が有名だろう。
外国人居住地として残る異人館や、港区を中心に再開発されたベイエリアは観光地となっていた。
人が集まる地域は法人も沢山集まる。
ならば物件探しは困難となるのも無理はない。
「ダメだ…何処もかしこも先約が入ってやがる。こりゃ思ったよりも手こずりそうだ」
様々な物件を見て回ったが、丈二が気に入りそうな事務所物件は見つからない。
「南凪区がここまで栄えてるとはなぁ。丈二…ここに事務所置きたいは贅沢言い過ぎだぜ」
この区がダメなら他の区を当たるしかないのかもしれないと考え込む。
書店に行って南凪区以外の不動産情報誌も目を通し始めたようだ。
お昼になり、コンビニで昼飯と神浜経済新聞を買ってから海が見える通りのベンチに座る。
右手でおにぎりを口にしながら組んだ左足の上で新聞記事を読む姿。
「アインシュタインの再来とも言われた天才物理学者
【スティーブン】
筋ジストロフィーに冒されながらも車椅子の上で第一線の研究を続けていた物理学者。
独自の宇宙論である量子重力理論を発表した人物として知られる。
無神論者である彼が発表した宇宙創生において、神が関与しない量子重力理論を提唱した。
だが、生前の彼はこういう意見を残している。
――人間の思考も物理法則に支配される。
――その下でそれを支配しているモノを見出す事は、そもそも不可能なのではないか?
このメタ的な問いかけの中に、彼が
彼は優れたプログラマーでもあった。
米国国防高等研究計画局(DARPA※ダーパ)のプロジェクトマネージャーにも参加していた。
特別技術研究室の主任研究員として招かれ、
「研究完成が間近に迫っていた時期に、その研究成果を持ち逃げして自宅の邸宅を放火?」
現地警察とFBIの捜査では、持ち逃げした極秘プロジェクトのデータごと自殺を図ったとある。
「死体は発見されず、極秘データと彼の姿は依然行方不明…か」
新聞に掲載された写真に写る、特徴的な赤いスーツと銀髪。
眼鏡の奥に見える彼の目は何を考えているのか周りに悟らせないミステリアスな表情をしていた。
お茶を飲みながら新聞から視線を外していた時、尚紀の表情が困り顔となる。
「…忘れてた。この南凪区はあいつの縄張りだったな」
新聞を両手で持ち上げて顔を隠す仕草を見せる。
やってくる人物に見つかるのは不味いのだろう。
「今日も組み手をボクに頼むだなんて、美雨は最近凄く拳法の稽古に身が入ってるね?」
「倒したいライバル見つけたネ。もとクンフー磨いて、いつかソイツ倒すヨ」
「美雨を拳法で倒すぐらいの実力者かぁ…ボクも空手家としてその男の人と勝負してみたいね~」
「ソイツ倒せたら、ソイツが私の木人椿買てくれるネ。大事な金づるヨ♪」
「アハハ…麻雀好きな美雨らしいがめつさだよ」
前を通り過ぎる女子学生達。
彼はそっと新聞をずらし、視線を通り過ぎた少女達の背に向けた。
「引っ越し先が見つからず、蒼海幇に泣きついたら…俺はどうなるんだ?」
その時の状況を彼なりに想像していく。
「ナオキ、職場の女から聞いたヨ。オマエ金持ちだと分かたネ。蒼海幇を会社にする資金出すヨ」
「なんでっ!?」
「あの時に蒼海幇が助けてやた恩…忘れたカ?」
「ついでに尚紀君、うちの道場も経営が厳しいんじゃ。スポンサーになってくれんかのぉ?」
「だからなんでっ!?」
「事務所物件を提供してやったのに恩知らずじゃのぉ~?荷物纏めて事務所を引き払ってくれ」
「やっぱりお前らヤクザだろ!?」
……………。
「あいつらに泣きつくのは最後の手段だな…。どうにか自力で見つけないと…」
立ち上がり、近くにあったゴミ箱に新聞と昼飯のゴミを捨てる。
見えなくなっていく美雨の背中に目を向けながら、溜息をつく。
「蒼海幇…お前らが地域を守る互助組織なのは分かる。だが闇の世界は金と暴力の世界だ」
この新興都市を狙う闇組織は多い。
考えたくはない事を考えてしまう。
マフィア抗争が起こった場合、蒼海幇に死者が出るかもしれない事だ。
「お前は親しい隣人が次々と殺された時、魔法少女として…怒りと悲しみを自制出来るのか?」
彼女の魔法武器が人間の血に濡れる日を考えてしまう。
「俺は命に貴賤を作らない。社会のクズであろうが人間だ…」
東京社会で魔法少女を苦しめた人間も大勢いた。
だが、可哀相な理由が出来たなら人間社会を踏み躙っても構わないという理屈を彼は許さない。
復讐者として加害者になる魔法少女が表れたならば、一切の容赦をしてこなかった。
人間社会の罪人は人間社会の法で裁くべき。
魔法少女の私刑は許さない立場を崩さないのが人間の守護者の考え方だ。
「俺がこの神浜の魔法少女社会を調べた時、見つける事は出来なかったよ…」
――魔法少女が人間社会に手を出せば裁かれる…死刑を含む
――――――――――――――――――――――――――――――――
時刻も夕日が沈む赤い空。
今日の成果は何も得られず、南凪区ベイエリアの歩道を歩いている。
ふと夕日に照らされた2つの塔のような影を地面に見つけて視線を移す。
それは並ぶように屹立したオベリスク。
本物ではない大きな街路灯だが、彼にとっては忘れられない代物。
2つのオベリスクの真ん中に立ち、そびえる先端に目を向けていく。
「オベリスク…ボルテクス界の創生が行われた地。カグツチへと至る道…」
彼の脳裏に2つの塔が蘇っていく。
オベリスク塔を昇り恩師を救ったときのこと。
全てを失った彼が地に打ち付けられしオベリスクが眠るカグツチ塔を昇る時のことを。
彼は創生の物語を超えた。
そして今は他の世界に流れ着いたアマラの漂流者。
「この世界に流れ着き、俺なりにあの創生の出来事を調べてきたよ…」
大いなる神が生み出したアマラの摂理によって滅ぼされた宇宙の成れの果て、ボルテクス界。
その出来事をもっと深く知るために、あらゆる神話を探ってみた。
オベリスクとは、古代エジプトのシンボルでありエジプト神話の生殖器崇拝。
「男の俺の股ぐらにもぶら下がっている…
オベリスクは創造神(ヘリオポリス神学ではアトゥム)の降臨した原初の丘。
その丘の上に立つベンベン石を様式化したものと考えられている。
ベンベン石は天地創造の時に放出された創造神の精液が石化したものと言われる。
これに由来するオベリスクは男根のシンボルとみなされていた。
「神の男根が届く先にあったのは、まるで
宇宙を生み出す創世神話の中で卵を象徴するものは多い。
オルペウス教、後漢の張衡の渾天儀、インドのチャンドーギャ・ウパニシャド等多岐に渡る。
宇宙と卵のアナロジー。
殻が割れてそこから宇宙が生じてくるという時間的起源的記述ではない。
卵の構成そのものが世界の構成と一致するという考え方である
また人間の体は
ダヴィンチが描いたウィトルウィウス人体像は古代ギリシャの世界観における小宇宙。
コスモグラフィアとして描いた代物であった。
「人間の体が宇宙と同じ設計図ならば、宇宙もまた人間と同じようにして生み出される…」
そこから導き出した、彼が生きた地獄であったボルテクス界の正体とは?
「あの地獄は大いなる神が生み出した…男女の熱によって行われるものと同じだ」
――新たなる宇宙を生み出させる…おぞましい
アマラ経路に流れていた赤い光は精液の川。
川の中に見えた赤く小さな光は精子。
それを掻き集めて守護として降臨したコトワリの神。
神の男根の塔を殺し合いの熱を繰り返しながら昇っていく。
卵子にたどり着く生存競争であったコトワリの戦いは、いわば受精をかけた生存競争。
生き残れる精子となれるのは、ただ1人のコトワリだった。
大いなる神が宇宙に敷いた熱の儀式世界に放り出された人なる悪魔こそが…人修羅であった。
「俺はボルテクス界の全て破壊した。そして今…俺は違う世界に流れ着いている」
クリスの運転席に乗り込み、エンジンを始動させる。
運転席から見える神浜の街を少しだけ見つめながら呟く。
「創世記においても
またかつての世界にように全てを破壊して、母なる熱とも言える少女達を消し去っていくのか?
答えが出ないまま、彼は東京に向けて車を走らせる。
かつての世界で人修羅と呼ばれた悪魔。
その悪魔は世界に変革をもたらす悪魔だとミロク経典には記されている。
この世界で彼はどう生きていくのか?
どのような変革をもたらすのか?
それは、人修羅として生きた嘉嶋尚紀の心が導き出すだろう。
かつての世界を破壊した感情…憤怒によって。
読んで頂き、有難うございます。