人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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87話 時女一族

世界を代表する秘密結社であるフリーメイソンとイルミナティ。

 

それ以外にも世界的に有名な宗教絡みの秘密結社が日本に存在している。

 

その名は八咫烏(ヤタガラス)であり、正式名称は八咫烏陰陽道という。

 

初代天皇であるカムヤマトイワレビコ(神武天皇)の神武東征を導いた神鳥が関係している。

 

神鳥ヤタガラス神話からその名を採用された秘密結社なのだ。

 

西暦744年の時代、聖武天皇の密勅により丹波国で結成したのが始まりだという。

 

古代氏族が日本における神道、陰陽道、宮中祭祀を裏で仕切るとされる組織。

 

宮中祭祀を裏で操るという事は太古の日本の最高権力を裏から実質支配していたも同然である。

 

しかしヤタガラスは江戸後期、徳川家定の時代において幕府や朝廷から遠ざけられていく。

 

陰陽道やヤタガラスの祭祀儀礼に頼らなくなったため、 ヤタガラスの影響力は退潮傾向に進む。

 

続く明治時代ではヤタガラスとは縁が無い薩長土肥出身者が主導する明治政府が弾圧を行う。

 

神仏判然令や神社合祀令、天社禁止令、修験禁止令等の形で直接的間接的に虐げていく。

 

大日本帝国憲法が公布される頃には解体寸前まで追い込まれるほど衰退の危機に瀕したという。

 

しかし、それでもヤタガラスは生き残っている。

 

神道とは違う国家神道を国教として明治政府が生み出した際に取り込まれていく形となるのだ。

 

衰退を乗り切ったようだが、それもつかの間の繁栄。

 

国家主義団体とみなした戦後のGHQ占領軍が神道指令や境内地の接収を強行してくる。

 

結社の解散などの社会政策や神社本庁創設による神社界の締め付けが行われる事になる。

 

それが原因でヤタガラスの財力や影響力は戦前よりも増して大きく削がれて零細化。

 

だがそれでも今日まで生き残り、日本を影から動かしているとも言われているようだ。

 

これ程までにヤタガラスが必要とされるのは日本の象徴である天皇家を支えるため。

 

神国である日本国には闇に跋扈する魑魅魍魎存在が太古の時代から数多い。

 

その存在を討伐するための霊的国防を担う存在としても彼らは利用されていくのだ。

 

神社、寺、隠れ里、あらゆる場所にヤタガラスの構成員は存在していると言われている。

 

そのヤタガラスが影響を及ぼしている隠れ里の一つを今回は見てみよう。

 

季節は6月頃、ここは関東に存在している秘境地域。

 

車では訪れることが出来ない程にまで山奥に存在している。

 

深い森の奥にまで続く道を徒歩で歩くことで秘境地域に訪れることが出来るだろう。

 

道が開けてきた時に見えたのは小さな集落であり、地元の人からは霧峰村と言われている里。

 

時女一族と呼ばれる女の一族が統治を行う集落であった。

 

 

苔むした杉林の中にある石段を昇るのは3人の少女達。

 

神の門である鳥居を潜り、石段が山の上まで伸びる世界は異空間のような神域を思わせる。

 

「ハァ…ハァ…どれだけ伸びてるんだろう…この石段?」

 

前髪を切り揃えたセミロングヘアをヘアゴムで纏めている少女は息を乱しながら上り続ける。

 

「ウフフ♪ちゃるは街での生活をしていたし、田舎暮らしに体が慣れないですか?」

 

長い前髪を真ん中分けにしている薄緑の長髪をした少女は微笑みながら昇っていく。

 

「便利な暮らしをしてたからこう不便だと鈍ってるんだなぁ~て、思うよぉ~…すなおちゃん」

 

「もう少し登ったらつくからね」

 

長く美しい黒髪をツインテールにしている少女は2人を先導しながら語ってくれる。

 

「この山の上にある神社に用事があるんだよね?どんな神社なの~静香ちゃん?」

 

「神社の名前はないの。だから霧峰村の名も無き神社と呼ばれているわ」

 

「名前が無い神社?どうしてそんな所に…あのお婆ちゃんの用事があるんだろうねぇ?」

 

「御子柴様の任務だとしか伝えられてないから…行ってみないと分からないわ」

 

「悪鬼の魔獣と戦う時女の使命以外にも、何かやらないといけないのかなぁ?」

 

「これは最重要任務。日の本を象徴される天皇陛下の勅命に等しい責任があると言われたの」

 

「えぇ~っ!?そんな重要過ぎる任務…何で私達に任されるんだろう?」

 

「それは名も無き神社に現れると言われる…ヤタガラスの使者に聞くしかないですね」

 

長い階段を上りきり、二体の狐像が守る神社にたどり着いた3人が辺りを見回していく。

 

「ヤタガラスの使者は決まった参拝方法を行わないと現れないみたいですね」

 

「静香ちゃん、やり方を知ってる?」

 

「大丈夫、ちゃんと聞いているから私のやり方に従ってね」

 

手水のやり方、拝のやり方を示す静香の真似を仲間達は行っていく。

 

鈴鐘を決められた回数鳴らし、礼を行った3人が顔を上げたようだ。

 

「…誰も現れないけど?」

 

「おかしいわ…こういうやり方だって教わったはずなんだけど…?」

 

考え込むポーズをとる静香だが、不意に女性の声が木霊する。

 

<<よく来ましたね。日の本を守る任務を果たす、若き巫(かんなぎ)達>>

 

3人が後ろを振り向くと鳥居を背に立っていたのは漆黒の女性着物を着た人物。

 

カラスの如き漆黒の御高祖頭巾(おこそずきん)を目深く被り、素顔は伺えない。

 

顔立ちや女性着物を見る限り、女性なのは間違いないだろう。

 

「び、びっくりしたぁ~…狐様の像が喋ったのかと思ったよぉ~」

 

「若い人ですね…?もっと年配の人が来るのかと思いました…」

 

3人娘がヤタガラスの使者に近寄っていき、一族を代表する静香が2人の前に出る。

 

「私がヤタガラスの使者です。貴女が時女本家の時女静香ですか?」

 

「はい、そうです。御子柴様よりヤタガラスの任務を受けよと申し渡され、馳せ参じました」

 

「霧峰村はヤタガラス傘下の集落。その地で活動する巫達は悪鬼討伐以外にも使命があります」

 

「仰せつかってます。我々は常に日の本の利益を守らなければならない立場です」

 

「待って下さい。質問してもいいですか?」

 

静香の横にまで来たすなおが緊張した面持ちで質問を繰り返す。

 

「土岐すなお、ですね?何でしょうか?」

 

「私達は…その…ヤタガラスの使者から与えられる重要任務を授かるのは初めてなんです…」

 

新参者達に国防の最重要任務を任せるという異常な采配に対して不安になったのだろう。

 

「ヤタガラス内部でも揉めた案件です。しかし、時女に任せよと三羽烏様達が仰られました」

 

「三羽烏…?その御方達のお言葉は…天皇陛下の勅命に値する程なのですか?」

 

「その通りです。表の天皇陛下が在るのなら、三羽烏様は裏の天皇陛下達です」

 

ヤタガラスについて詳しくは聞かされていない静香達もこれには驚く。

 

天皇と呼ばれる存在が二つあったなどと言われたら、今までの概念が崩れてしまうからだ。

 

「そ…そんな存在が日の本にいただなんて…」

 

「学校の授業でもTVでもやってないから…知らなかったよぉ~」

 

「ヤタガラスの大鳥様達が時女を信頼してくれるのは誇りです。それで…任務内容とは?」

 

「あ、私も質問していいかなぁ~?」

 

同じく静香の横まで来たすなおがにこやかな顔を向けながら質問する。

 

ヤタガラスを前にして無礼にはなっていないかと時女一族本家の嫡女も心配になってくる。

 

「もーっ!2人とも興味津々なのはいいけど、ここは時女の私の顔を立てて欲しいわ!」

 

「フフ、仲がよろしいのですね。貴女は最近この村に来て巫となった広江ちはる…ですね?」

 

「はい、そうです!聞きたい内容は…その…ヤタガラスってなんなんですか?」

 

まさかヤタガラスを知らないまま訪れる者が来るとは思われなかったため、沈黙に包まれる。

 

時女の者として恥ずかしさがこみ上げてくる静香が顔を真っ赤にしながらちはるに振り向く。

 

「そこからの説明になる…?すごく長くなりそうだから迷惑だって!ちゃるったら~!」

 

困った微笑みを浮かべるヤタガラスの使者ではあるが、皆に説明してくれる気になったようだ。

 

「ヤタガラスとは、かつては超國家機関と呼ばれ、この国を影から守り抜いてきた存在です」

 

「超國家機関?古い時代から国防をやってきた存在なのかな?」

 

「そうです。陛下の御身や神民である日の本の民を守り抜く任務を行ってきました」

 

「どうしてその存在をオープンにしないんですかぁ?」

 

「我々は秘密結社。秘密主義であり、その存在を公の場に晒す事は古来より許されません」

 

「魔法少女である時女の巫が村の外に秘密を持ち出す事を禁じられてるのと同じなのよ」

 

「じゃあ、時女の巫達はヤタガラスの構成員になるんだね?」

 

「その通り。ヤタガラスは霊的国防を任されてきた存在であり、多くの退魔師一族を抱えます」

 

「時女の霧峰村だけでなく、日本中に傘下となる退魔師の一族を抱えて導いてきた人達なのよ」

 

「ふ~ん…時女の巫達だけじゃなかったんだねぇ~…悪鬼と戦ってきた人達って?」

 

「時女の巫には巫の、他の退魔師一族には他の倒すべき驚異が存在していたと伝えておきます」

 

「役割分担ってやつだねぇ。それで、私達全員を総括して日の本を守る裏組織がヤタガラス!」

 

「飲み込みが早いですね」

 

「えへへ…♪私、探偵に憧れてるんです!宿無し探偵等々力耕一って知りません?」

 

胸につけた等々力耕一のバッチを見せるために胸を張るちはる。

 

どうやら探偵ドラマのグッズか何かのようだ。

 

「2人とも、ヤタガラスのお姉さんが困ってるから、そこまで~!」

 

ゴホンと咳き込み、改めてヤタガラスの使者に向き直る静香である。

 

「此度の任務、それは1・28事件と深く関わる人物を見つけ出すことです」

 

「時女の里にまで轟きました…首都で起きたあの悲惨な事件と関わる人物の捜索依頼ですか?」

 

「捜索依頼!?うわ~探偵の仕事だよ~等々力さん!」

 

「ちゃるはバッジに話かけない!それで、その人物の特徴や潜伏先の目星は?」

 

「見た目は少年ですが、人間ではありません。魔法少女さえも凌駕する力を持った…悪魔です」

 

悪鬼ではなく悪魔だと語られた時、初めて聞く霊的存在に対して静香達も不安に包まれる。

 

「あ…悪魔?少年の姿をした…?」

 

「もしかして…その悪魔という存在が悪鬼である魔獣とは違う…霊的驚異ですか?」

 

「えーっ!?役割が違うよね?巫は悪鬼の魔獣と戦う役割分担じゃなかったの…?」

 

「大鳥様が時女を信頼してくれてるんだからいいの!すなお、ちゃるの口を抑えててくれる?」

 

「あーっ!もっと知りたいのにぃ!!」

 

後ろから口を両手で抑えられ、モゴモゴしながらも黙ってくれたようだ。

 

「見つけ出して…どのように対処すればよろしいのでしょうか?」

 

すなおは対処という言葉を聞いた途端、顔を俯向けてしまう。

 

「討伐依頼ではありません。彼を見つけ出し、我々側に迎え入れる説得を試みて欲しいのです」

 

「その彼…いいえ、悪魔を私達と同じく日の本を守る霊的国防を担わせるつもりですか?」

 

「それだけではありません。悪魔の神としての権威が…ヤタガラスは欲しいのです」

 

人修羅として生きる尚紀の権威は世界最高峰なのだとヤタガラスの使者から伝えられる。

 

天皇陛下や裏天皇であるヤタガラスの三羽鳥さえも超えていると言ってくるのだ。

 

「彼の存在はもはや現人神。世界を象徴する程の権威を日の本に与えてくれるでしょう」

 

「日の本の皇帝であらせられる陛下を超える程の…権威ですか?」

 

「それが神の権威です。神を超える権威はこの世に存在しません」

 

「モゴモゴ…悪魔だったり神様だったり、謎が深まるばかりだよぉ…等々力さん」

 

「その彼を祀り上げて、日の本を世界に名だたる神国にしようと大鳥様達はお考えですか?」

 

「そのように考えておられます。皇帝教皇主義が世界にある限り、彼の権威は揺るぎません」

 

皇帝教皇主義は古くから世界に存在し、皇帝は宗教の長として考えられている。

 

皇帝の言葉はそれ程にまで重くあり、国家間戦争さえ皇帝の発言次第では軟化出来る程だ。

 

世界を束縛出来る程の権威を司る存在こそが神であり宗教なのだろう。

 

「そんなにも権威って…人々に強く影響を与えるんですね」

 

「宗教権威は神の権威、神の権威は皇帝の権威、故に英国王室や欧州貴族も欲しがる」

 

「それを世界に先んじて我々日の本が手に入れる…まさに政争の世界ですね」

 

「ですが…政治とは切り離された天皇家を支えるヤタガラスが政争に加わるというのですか?」

 

「天津神族の血族である天皇陛下は日の本の国家元首として世界に招かれます」

 

「国家元首…?陛下は政治とは切り離されてるはずなのに…?」

 

「建前では否定しても、世界の政治的脈絡の中に取り込まれているのが神族の現実なのです」

 

「神様の説得だなんて…私達に務まるのでしょうか?」

 

「そうだね…私達は悪魔と呼ばれる存在とさえ…出逢ったことがないのに…」

 

不安になる2人に振り向き、静香が決意を示してくれる。

 

「やるしかない。この任務を成功させたら時女が日の本の世界権威に大貢献した事になるわ!」

 

静香の決意に促されるかのようにして、2人の仲間達も頷いてくれる。

 

「日の本の未来を思う…あなた方時女の強い使命感に委ねます。期待していますよ」

 

ヤタガラスの使者が静香に歩み寄り、懐から古風な伝令書を取り出して彼女に渡す。

 

中身を確認した静香が顔を上げ、ヤタガラスの使者に確認を取る。

 

「長期任務になりそうですね。ヤタガラスが彼を重要視している証拠だと思います」

 

ヤタガラスの使者から尚紀についての情報が伝えられる。

 

東京で探偵として暮らしてきたようだが、今は仕事の関係で神浜市に赴く時間が多いという。

 

「貴女達は神浜市に赴き、彼と接触を試みてもらえないでしょうか?」

 

「え~!その人って探偵さんなの!?どうしよう…本職の人とお話出来るなんて!」

 

「コラ、ちゃる!遊びじゃないんだから、はしゃいじゃダメですよ」

 

「神浜市での潜伏先は水徳寺の和尚に任せています」

 

「その人は…私達の事情を知っている人物だと判断しても大丈夫ですか?」

 

「彼はヤタガラスの構成員ですから、巫の秘密が漏れても大丈夫です」

 

「あの…私は学校があります。学校に通っていない静香なら分かりますが…」

 

「そうね…すなおは両親を説得しないといけないわね…」

 

「学校の方は我々が対処します。それに親族は時女と関わる者である以上、我々を拒めません」

 

「け、結構です!ヤタガラスの名を出さなくても…私がちゃんと両親に話しますから!」

 

「それに静香ちゃんは都会生活大丈夫?世間知らずだって自分でも理解してると思うけどぉ?」

 

「うっ!そ、それは…出たとこ勝負になるかも…」

 

「少し時間を頂けないでしょうか?長期任務になりますし、私達にも準備が必要です」

 

「彼の監視だけなら神浜に近い集落で暮らしている時女分家の巫にお願いしておきます」

 

「分かりました。なるべく早く合流出来るようにします」

 

「全ては日の本の安寧のために。時女はヤタガラスと共に、これからも歩んで参ります」

 

「彼をこの国の大いなる神として迎え入れるのです。現御神(アキツミカミ)信仰のために」

 

ヤタガラスの使者に深々と頭を下げた3人の少女達が下山していく。

 

その後ろ姿を見つめながらも視線を山の下に広がる平地に移す。

 

眼下には夕焼けに染まる美しい霧峰村の光景が見える中、こんな話を語るのであった。

 

「この集落を見ていると…ヤタガラス傘下にかつて存在したという槻賀多村を思い出しますね」

 

――霧峰村は槻賀多村と同じく…()()()()()()()()()()()()()()()なのです。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

ヤタガラスの使者である若い女性がこの霧峰村と関わる前に調べた内部資料がある。

 

時女集落という外界より隔離された地域について、こう記されていたようだ。

 

人工衛星からの上空写真には写らず、携帯電話の電波も圏外という人里離れた山奥に存在する。

 

静香の実家である時女本家を筆頭とし、神官として神子柴家が強い発言権を持っている集落だ。

 

この集落では魔法少女の存在が一般人にも認識されている。

 

魔法少女を巫(かんなぎ)、魔獣を悪鬼、グリーフキューブを悪鬼の魂魄と呼ぶ。

 

日本の暗部を担う存在であり、警察や政治家と裏で接触する以外を除けば外部との交流はない。

 

「時女一族が政財界にまで影響力を及ぼす程の存在となれたのは神官の神子柴の手腕…」

 

――いいえ、巫という生贄によって生み出された結果に過ぎない。

 

神官である神子柴が霧峰村に訪れてより始まった祭祀が存在する。

 

契約を司るヘブライ天使のインキュベーターを用いて行う國兵衛神楽ならびに巫の儀。

 

それは少女達を魔法少女へと誘う契約儀式であろう。

 

自分で願いを考えさせる契約方法をキュウべぇは行ってきたが、この村は違う。

 

「この村で生まれる魔法少女達は…願いを自分で決める権利は存在しない…」

 

神官である神子柴が願いの内容を決めてしまえる不公平な儀式内容がこの村では横行する。

 

これがどういう結果を生み出せるのか、少し考えたら分かるだろう。

 

()()()()()…大いなる神が与えるただ一度の奇跡を…無敵の政争道具にしてしまえる」

 

これが実現すれば、日本にもたらされる欧米支配のあらゆる不平等条約の改正が可能となる。

 

しかし行き過ぎた国家民族主義の犠牲によって不平等条約の改正が行われた形跡はない。

 

それがどういう事を意味しているのか、ヤタガラスの使者ならば考えられるはず。

 

「神子柴は欧米裏権力と通じている…とくにヘブライ民族である()()()()()()()()()()()()…」

 

日本人である神子柴が何故ユダヤと深い結び付きが生まれるのか?

 

それは太古の日本に渡来してきたという、()()()()()を辿れば分かるかもしれない。

 

それだけでなく、ヤタガラスの若い使者は巫達が不可解な消失を繰り返す現象にも疑問をもつ。

 

「巫となった少女はヤタガラス構成員となり、神子柴を窓口として霊的国防を行ってきた…」

 

しかし時女の魔法少女達の末路は不可解であり、円環のコトワリに導かれて消えていない。

 

魔力減退期を迎えた手練の巫達が、ある日を境にしていなくなっていく。

 

それに戦いの才能がなかった弱い巫達もまた同じように行方不明となっている事実を知る。

 

公式には悪鬼と戦って命を落としたという事にされている。

 

しかし巫達の中には悪鬼に殺されてはいないと叫ぶ者の姿もあったという。

 

異を唱える巫でさえ、その後の姿を見た者は誰もいないこの村の現象は実に不自然であった。

 

「ヤタガラス内部でも強い影響力を持つ神子柴…あの者のやり口はあまりにも非人道的…」

 

ヤタガラスはそれを否定する事は出来ない現実を抱えている組織。

 

奇跡の悪用が日の本に利益を与えてきたのも事実であったからだろう。

 

神子柴の生贄儀式による恩恵を考えていると彼女にとっては祖母となる人物を思い出す。

 

同じヤタガラスの使者として生きた人物が語ってくれた大正時代での出来事がある。

 

ヤタガラス傘下の一族の中には時女一族と似た秘密主義の集落が存在していたようだ。

 

「生贄儀式を用いて日の本に恩恵をもたらす事を考えたのは…神子柴だけではありません」

 

ヤタガラスの暗殺集団として、かつては君臨した存在こそが()()()()()と呼ばれる者達。

 

その者達を率いた槻賀多家も神子柴と同じ事をしたからだ。

 

人間の道徳よりも国家正義である大義を優先するのが秘密結社ヤタガラスの現実。

 

それ故にヤタガラス傘下の一族がどれだけ非人道的行為をしようが手を出さない。

 

ヤタガラス内部の問題事で済む程度の規模ならば黙認してきたと語ってしまう。

 

<<ホッホッホッ。槻賀多家とは懐かしい言葉を聞けたものじゃの>>

 

怪しい老婆の声が木霊する。

 

ヤタガラスの使者は気配に気がつくことが出来なかったみたいだ。

 

「ワシを連中と同じにするでない」

 

後ろを見ると立っていたのは神子柴家の紋が付いている柄のない着物を着た老婆である。

 

「良心に邪魔され娘を虫人である天斗共の()()()()()()事に耐えられず滅びた愚者共とは違う」

 

「…腕は衰えてはいないようですね、神子柴。気配に気が付きませんでした」

 

「ワシは策を巡らせる者じゃが、本来は魑魅魍魎と戦ってきたヤタガラス内部の退魔師じゃ」

 

腕の衰えは寿命を縮めるため、この老婆は政の間でも鍛錬を疎かにはしてこなかったようだ。

 

「奇跡を利用して国とヤタガラスに恩恵を与えるなら…我々は貴女の儀式を邪魔しません」

 

これからも日の本のために尽くすという神子柴の態度だが、怪訝な表情を浮かべてくる。

 

「それと…ワシはお前さんの口から妙な言葉を聞いてしまってのぉ?」

 

ヤタガラスの使者に対して神子柴が歩み寄ってくる。

 

「ユダヤと繋がりをもつだの、行方不明者となった巫がいるだの、根掘り葉掘り勘ぐる…」

 

「……………」

 

「最近の若い使いの者達の間では…人を疑う行為が流行りなのかのぉ?」

 

ヤタガラスの使者の横で立ち止まり、黒い御高祖頭巾に耳打ちするような言葉を放つ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。秘密結社では当たり前の常識じゃて」

 

――この村の暗部に触れようものならば、ヤタガラスの使者とて容赦はせん。

 

「ワシの可愛い悪魔の餌食になりたくなければ…この村と深く関わるでない」

 

脅迫されたようだが、ヤタガラスの使者は無言のまま平静を保つ。

 

「此度の依頼を葛葉一族から奪う為に財界に金をばら撒いたが故に財政も落ち込んでしもうた」

 

それだけの価値があるものなのかと神子柴は問うてくる。

 

「1・28事件に関わった悪魔は紛れもなく世界権威を象徴する程の神なのは間違いないです」

 

この世界に流れ着いた人修羅と呼ばれる悪魔は神と呼ばれるようになった存在。

 

古代シュメールにおいては地の王と呼ばれ、バビロニアにおいては天空神と呼ばれる神。

 

啓蒙の光を与えし最高神エンキ(エア)なのだと世界の権力者達は認識してしまったと語る。

 

「ルシファーのルーツかもしれん悪魔が現れる…長生きはしてみるもんじゃの~ホッホッホッ」

 

両手を腰に回し、年齢を感じさせない足取りで石段を下りながら去っていく怪しい老婆。

 

見送るヤタガラスの使者の口元に浮かぶのは不気味な笑みである。

 

「神子柴、せいぜい悪巧みを続けなさい。貴女と我々の利害は一致しています」

 

神子柴がヤタガラスの掌の上で踊るだけの愚者で居続ける限り、ヤタガラスは関知しない。

 

ヤタガラスが時女一族に救いの手を差し伸べる事はないという現実を表すだろう。

 

神殿に飾られた巨大な提灯に火が灯り、大きな鴉紋を浮かばせていく。

 

日が沈んで暗くなる境内を鴉紋の光が照らす頃にはヤタガラスの使者の姿も消えていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

闇深き霧峰村であるが、外界からの訪問者にはそれを感じさせない程にまで自然豊かな地。

 

この村で暮らす巫の中には、そんな雄大な自然に囲まれて暮らす事を愛する者がいる。

 

その1人が山間の森の中に入りこんでいるようだ。

 

両手に持たれているのは魔法の狙撃銃と思われるライフル銃。

 

山の狩人であるマタギ、あるいはソ連軍服を思わせる魔法少女衣装を身に纏う人物である。

 

オレンジのショートボブをした魔法少女が身を潜めていく。

 

風下に向かい腰を屈め、木の陰に隠れながら少しずつ動物に接近する。

 

狙うのは関東に溢れてしまった外来種である鹿の仲間として知られるキョンであろう。

 

100メートル程の距離にまで接近してライフル銃を構える。

 

大きく息を吸い込み、手ブレを抑えながら狙いをつけ、引き金に人差し指をかける。

 

森に銃声が響き、鳥達が飛び立っていくのだ。

 

「キョンの生息圏が村にまで伸びてしまってからというもの…数が増えてきてるでありますな」

 

独特な口調をするマタギ魔法少女が仕留めた獲物に歩み寄る。

 

ベテランからも狙い辛いと敬遠されがちなキョンの頭部を見事に撃ち抜いていたようだ。

 

「麓の村で肉を仕入れるのもここでは一苦労。ジビエは貴重なタンパク源となるであります」

 

幾つもの山菜やキノコ、それに獣肉を手に入れた少女は森から出て村に帰っていく。

 

向かった先はめし処もロクに見当たらない霧峰村で唯一賑わいを見せている飯処であろう。

 

「やぁ、旭ちゃん。今日のキョンはサイズが大きめだね」

 

「今日の我の成果であります。皮を剥いで解体するので、裏を借りてもいいでありますか?」

 

「構わないよ、解体した肉と皮は買い取ろう。キョンの毛皮は高級品だから麓で売れるからね」

 

店の裏にある解体場に持ち運んで帰ってくるが、何やら悩んだ顔を浮かべている。

 

「う~~ん…」

 

「どうしたんだい?」

 

「夕飯をどう食べようかと歩きながら考えていたのでありますが、迷うであります」

 

「ローストはどうだい?沢山食べて健康的な体つきになってくれ、村の男達も喜んでくれるよ」

 

「セクハラであります。我は色恋沙汰よりも狩猟場で役に立つ体つきになりたいでありますね」

 

「発想が完全にマタギだね…。流石は霧峰村を代表するマタギ少女な三浦旭ちゃんだ」

 

獲物を手早く解体した彼女は肉を持ち込み調理してもらう。

 

席に持ってきてもらった肉料理を食べながらも店内を見渡す彼女は何か気になる様子。

 

「今日は静香殿やすなお殿、それにちはる殿の姿が見えないでありますな?」

 

「彼女達は神子柴様の任務のために…今は麓の街に買い物に行ったりアルバイトをする生活さ」

 

「買い物やアルバイト…で、ありますか?」

 

「静香ちゃん達は長期任務に向かう事になったんだ。大都会で滞在する事になるが問題もある」

 

「…静香殿ですな?」

 

「静香ちゃんは村でも有名な世間知らず。都会に行ったら右も左も分からないからねぇ…」

 

「明かりも持たずに夜の森を歩くようなものでありますな…」

 

「旭ちゃんは大都会生活には憧れないのかい?」

 

「ちっともであります」

 

「旭ちゃんは自然愛好者だね。何も無いところだが自然だけは美しい場所だし離れたくないか」

 

「その通りであります。我は明日も狩りに出かけるであります」

 

後日となり、昨日の森の中には旭がいる。

 

山のルールと共に生きるマタギである彼女は生態系を壊さない範囲で狩りを行う。

 

冬眠から目覚めたクマが人里に来る前に仕留めたりもしている。

 

巫である魔法少女として生きるだけが彼女の本意ではなかったようだ。

 

簡易的に作ったマタギ小屋に干してあった山菜を取りに向かっていた時、何かを感じる。

 

「…またであります」

 

獣ではないし、人間でもなく悪鬼である魔獣ですらない視線を何処かから感じてしまう。

 

その視線は森の中で幾度も感じていたようだ。

 

「…敵意は感じられないでありますが、気になるであります」

 

きっと森の精霊が見守ってくれているものだと考えるようにして歩みを再会する。

 

彼女が超えていく木々の上の方に視線を向けていくと、何やら小さな存在達が浮かんでいる。

 

魔法少女ならば姿が見えるかもしれないが、高い場所にいたためか気が付かれなかったようだ。

 

「あ~、今日もあの子が来てくれたよーシルフ」

 

緑色の体をした小さな人形存在が子供らしい口調で喋る。

 

顔はなく、特徴的な渦巻き模様を描く頭部をしている存在も悪魔の種類の一つなのだ。

 

【コダマ】

 

古多万と書く樹木に宿る精霊であり、山で人の声を反響させる山彦と同一視されている。

 

木霊が返る等というように元来山彦は木霊の力の一つであったといわれる存在。

 

八丈島や青ヶ島には木霊の宿る樹を伐ると祟りがあるという伝承が多く残されているという。

 

そのため森の伐採時は必ず1本残して木霊を祀って供養するといわれたようだ。

 

「コダマー、私は人間の男の人と恋愛がしたいわけ。あの子は女の子だって分からない?」

 

シルフと呼ばれた存在が近くに飛んでくる。

 

美しい金髪の長髪をもった色白少女のような小さな見た目だが、その背には妖精の羽根をもつ。

 

「分からないな~、人間の顔ってみんな同じに見えるもん」

 

「それ、あんたが言うの?」

 

シルフから見ればコダマ達も全員同じ顔にしか見えていないのである。

 

【シルフ】

 

16世紀になり錬金術師のパラケルススにより風の属性を司る精霊として位置づけられた存在。

 

シルフは風のイメージに相応しく、自然的な存在と超自然的な存在の間にあるものとされる。

 

美しく華奢な乙女の姿をとり、女性名詞のシルフィードと呼ばれる事もあるという。

 

人間の男と恋をして結ばれれば不死となるといわれ、人に恋愛感情を抱く者だと伝わっていた。

 

「全く、あんたは地霊だけど子供みたいな性格が治らないんだから」

 

「でも好きだなーあの子。だってボク達が暮らす自然を愛してくれるもん」

 

「そうねぇ、その部分だけは100点あげてもいいかもね」

 

「人間は自然をどんどん穢していくし、ボク達も悲しい。あの子も悲しいよね?」

 

「人間なんてその時によって考え方を変える風見鶏が多いし、あの子も分からないわよ?」

 

「疑い深いね~シルフってさ」

 

「当たり前でしょ?…あの子が暮らす村の長がやっている悪行を見たことある?」

 

「見た事ないよ~」

 

顔に恐怖が表れてしまうシルフはこの村の暗部の光景を教えてくれる。

 

「あの子と同じか、成人が近そうな女性の死体をね…()()()()()()()()()のよ」

 

「えーっ!?それ、ほんとなの~?」

 

ビックリするコダマではあるが、渦巻き顔のため驚いているのかどうかは判断出来ない。

 

「ええ…森を離れて夜中の川沿いを飛んでた時に見たのよ…それも何回もね」

 

「じゃあ、川底は大変な事になってるねー。だってあの川、イソラがいるもんね~」

 

「きっとあの子と同じ魔法少女達の死骸が…イソラに喰い散らかされて埋め尽くされてるわ」

 

「人間は酷い連中もいるし、いい子もいるし、よく分からない。シルフは信じられる?」

 

「そうねぇ…私達の自然を目の前で破壊される光景をあの子が見て…もし怒ってくれるなら…」

 

「シルフ、仲魔になってあげたい?」

 

「分からないわ、だってあの子は女の子だもん。あ~~…本当に惜しい」

 

旭に視線を向けていたシルフとコダマは木の枝から飛び立ち、木々が生い茂る森の空を飛ぶ。

 

周りの木々からもコダマと同じ存在が飛び立ちながら住処である森深くへと帰っていくのだ。

 

大自然とは人間に感動を与える程に美しく、時には人間に牙を向けてくる恐ろしい存在。

 

それ故に世界中で古くから信仰の対象となり、自然の中に神を見出されてきたのだろう。

 

自然崇拝は本来の神道の形であり、古神道と呼ばれるもの。

 

しかし今ではキリスト教と変わらない神の家のような社を立てるように様変わりしてしまう。

 

西洋の魔女も自然学者であり、近代魔術の父もまた自然を愛する登山家だと知られているのだ。

 

誰もが皆、自然の中に畏敬の念を感じずにはいられないが故に信仰され続ける。

 

自然世界に存在する神々は自然神と呼ばれて崇拝されてきたが、一神教がそれを弾圧している。

 

貶められてきた自然神達は後に邪悪な悪魔だと呼ばれるようになっていくだろう。

 

神が悪魔と認識されてきたその歴史こそ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()であった。

 




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