人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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88話 ヤタガラスからの使者

あいも変わらず物件探しを行っている尚紀であるが結果は散々である。

 

人気物件エリアの南凪区で事務所を探す以外にも選択肢が必要だと彼は感じているようだ。

 

現在は中央区辺りを彷徨い歩いており、街の景観に目を向けながら物件を探していく。

 

「東出身の丈二の選択肢で西側がありえないのなら、後はこの地域ぐらいだろうな…」

 

神浜市中央区は街最大の商業区であり、東西のどちらにも属さない中立地帯。

 

この区は外資系企業が集中する商業区であり、企業のブランディング価値も高い地域であろう。

 

働く人々も神浜住民だけでなく他県や外国人の就労者も多く存在している特色ある地域性。

 

神浜市民に根強く残る差別アイデンティティとは無縁の流れ者達が多い。

 

そのお陰で中央は東西の争い事とは関わらない緩衝地帯としての役割を担っているようだ。

 

「これだけの外資系企業が集まる地域は東京で言えば港区や千代田区の規模だろうなぁ」

 

外資系企業のオフィスが入る様々な高層ビルが軒を連ねる神浜経済心臓部の街を歩き続ける。

 

高層ビル群を見上げれば、一際高いランドマークタワーである神浜電波塔も見えたようだ。

 

「むぅ!?」

 

体の前から小さな衝撃が襲いかかる。

 

電波塔を見上げていたせいで誰かとぶつかってしまった事に気がついた彼が声をかける。

 

「すまない、大丈夫か?」

 

目線を下ろしたが、ぶつかった人物が目線に入り込まない。

 

もう少し視線を下ろしたら小学生かと見紛う程の小さな女子生徒がいたようだ。

 

「おい!天下の往来で余所見しながら歩いてたら危ないだ…ろ?」

 

「…どうした?俺の顔に何かあるのか?」

 

前髪を切り揃えた緑のミディアムヘアをした少女が彼の顔を見上げながら凝視してくる。

 

(…けっこう、イケメンだな!)

 

少女の脳内でラブストーリーの王道展開が妄想されていく。

 

曲がり角で運命の相手とぶつかる展開によってリア充が約束されるご都合展開。

 

そんな都合のいい妄想世界が脳内に広がっていたのだが、彼がそれに付き合う理由はない。

 

「って!?おい!無視して去る気かーっ!?」

 

「謝っただろ?」

 

「そういう問題じゃない!その…なんだ!他にもアタシに言う事あるだろ!」

 

追いかけてきた彼女が尚紀を見上げるが、グルグル目のまま赤面中。

 

喋る言葉も要領を得ない内容である。

 

「か弱い女とぶつかったのなら…ええと…お詫びにお茶に誘ったり…紳士的に交換日記とか…」

 

「チンピラのマネごとか?ぶつかった程度で俺から強請ろうってつもりなら…いい度胸だ」

 

「そ、そうじゃない!ええと…くあ~~っ!上手く表現出来ん自分が憎い~っ!!」

 

(何なんだ?この情緒不安定なリスザル女?)

 

美丈夫の男性を前にすると上がり症な自分に対して地団駄を踏み続ける。

 

憤慨していたところで中学生ぐらいの女子生徒が割って入ってきたようだ。

 

「みゃーこ先輩、大丈夫そ?怖そうなお兄さんが相手なら、あーしがナシつけてあげるけど?」

 

長い金髪をツインテールにした中学生ぐらいに見える少女がギャル語を捲し立ててくる。

 

独特な喋り方をしてくる存在まで現れた事もあり、彼は困り顔となってしまう。

 

「お前は何処から現れたんだ!?アタシは別に絡まれてるわけじゃ…」

 

「俺がこいつに絡まれてるだけだ」

 

「みゃーこ先輩のリア充案件?結構イケメンの人だし~語彙力無くなるでしょ~みゃーこ先輩」

 

「ウルサイ!お前のギャル語の方がもっと解りづらいぞ…衣美里!!」

 

「丁度いい、年上なんだしこいつの面倒見てくれ。俺は出張でこの街に来てるから忙しい」

 

「年上じゃない!アタシの方が年上だーっ!!アタシは花を恥じらう18歳なんだぞー!!」

 

「随分と小さい高校3年生がいたようだな?俺は行くから、ギャルの相手でもしていろ」

 

踵を返して去っていく後ろ姿を見送りながら、みゃーこ先輩と呼ばれた人物の膝が崩れる。

 

「またフラれた…どうしてアタシの春の訪れを邪魔するんだーっ!?うおぉおぉ~~ん!!」

 

滝のような涙を流す光景が続くが、これが日常なのか後輩は笑顔で慰めてくれたようだ。

 

「ドンマイ、みゃーこ先輩♪それに、あれはフラれてすらないから遠吠えはやめぽよ♪」

 

可笑しな2人組みについて歩きながら考えていく。

 

「あの2人…魔法少女だった。それにみゃーこってのはもしかして…都ひなのの事か?」

 

魔法少女社会に探りを入れていた時に知った存在であったが、顔まで分かるわけではない。

 

「普段はどうあれ、魔法少女としては周りから頼りにされているようだな」

 

(それにおかしな2人組は…あいつらだけじゃない…)

 

尚紀の背中を追うように歩いてくる2人組の少女達の姿が遠くに見える。

 

彼は歩く歩調を変え、尾行に気が付かれたのかと後ろの2人が慌て始める。

 

立ち止まったり寄り道したりと尾行してくる相手の嫌がる行為を繰り返す。

 

彼が尾行を専門としている探偵だからこそ、逆をする事も出来るようだ。

 

路地裏に入る彼を追うようにして2人も入ろうとしたようだが姿が消えている。

 

「いませんね…涼子さん」

 

「あちゃー…やっぱりあたしら、気が付かれてたんだよ」

 

「尾行を巻かれてしまいました…」

 

「悪鬼や巫なら魔力で探せるんだけど…あの男、魔力を感じさせないってのが厄介だよ」

 

「一度戻りましょう。水徳寺の静香さん達と相談した方がいいですね」

 

2人の少女達が去っていく中、路地裏隣の塀を飛び越えて尚紀が現れる。

 

「あの魔法少女共は何なんだ?2日前からこの街で俺を尾行してきやがる…」

 

考えるとしたら魔法少女の虐殺者に対しての報復であろう。

 

「あいつらは東京の魔法少女じゃなさそうだ。感じたこともない魔力をしてやがった」

 

他にも考えるとしたら、東京テロの時に見かけた報道ヘリの事が頭を過る。

 

「俺の存在が世界にバレちまうってのは…厄介なもんだな」

 

危害を加えてこないなら手紙を送ってくる連中と同じく無視をしようと彼は決める。

 

夏用仕立ての黒スーツに衣替えした尚紀は路地裏の奥へと消えていく。

 

これは神浜での生活で彼が初めて魔法少女と関わる事になってしまう物語となるのだ。

 

 

参京区の水徳寺に移り、寺の縁側ではスマホが鳴り出した事で慌てふためく静香が見える。

 

「キャァーッッ!!すまほが鳴り出した!?これで通話するって…どうやればいいの!?」

 

秘境規模の田舎育ち故に便利道具さえも奇怪な反応をしてしまう。

 

「ほら、この通話表示のここの部分を横にスライドさせるんだよぉ」

 

「すらいど?それってどういう意味?」

 

「そこからなの…?」

 

「この板切れみたいなのを耳に当てたら通話出来るんじゃないの?皆はそうしてたけど…?」

 

「ちかさん達の報告だと思います。私がやってみせるから、それを真似すればいいんです」

 

静香からスマホを受け取り、スライドボタンをスライドさせて耳に当てる。

 

「は~…あれで本当に電話が出来てるなんて、未だに信じられないわ」

 

「せっかくちかちゃんと一緒にスマホを手に入れても、先が思いやられる反応だよぉ」

 

興味津々な姿ですなおの姿を見つめるばかりの田舎娘。

 

そんな静香の姿を見つめるちはるは神浜市に訪れた時の彼女の姿を思い返す。

 

これは少し前の出来事だ。

 

中央区の駅ホームに降り立つ3人の魔法少女達が大都会の景色に視線を向ける。

 

「うわー…なんて数の人だろうねぇ。地方では見られない光景だよぉ」

 

大都会ならではの混雑ぶりに目を丸くするちはるの横では田舎娘の慌ただしい反応が続く。

 

「なんで皆…こんなに歩く速度が早いの!?それにどっちに歩けば駅の外に出られるわけ!?」

 

「落ち着いて、静香。出口表示はあっちが出口って書いてあります」

 

「なんで出口に行くのに表示がいるわけ!?まるで洞窟探検よ!」

 

「それにこう人が多いと…人間の悪意ばかり感じて…気分悪くなるよぉ」

 

「そうですね。後ろの人達も静香がオロオロして進行止めると苛立ってるのが伝わってきます」

 

2人を呼び止めた静香が混雑の流れから外れるよう促してくる。

 

どうやら長旅のせいで尿意を催したようだ。

 

「私…お手洗いに行きたい…」

 

「あっちがトイレみたいですよ?」

 

「大丈夫?私がついていようか?」

 

「トイレぐらい独りで出来るわよ!ここで待っててくれていいわ!」

 

少しした後、赤面しながら走ってくる静香が仲間達の下に帰ってくる。

 

「ちゃる~!すなお~!なんで都会のトイレはこんなに混雑してるの!?」

 

グルグル目のまま慌てた静香をなだめながらも何があったのかを確認してくれる。

 

「水を流すぼたんって何っ!?押し間違えてトイレが怒ったの!お尻に水鉄砲浴びせてきた!」

 

ウオッシュレットトイレ一つでこの騒ぎであり、大声で騒ぐ田舎者達の光景が続く。

 

そんな彼女達に対して周りの人達は白い目線を向けてくる。

 

静香の保護者のような立場をやっている仲間達は大きな溜息を出すしかないだろう。

 

「都会の人は、なんでこんなに息苦しいんだろう…。まるで他人を拒む檻の中での生活みたい」

 

どうにか改札口までたどり着いた3人がICカードを改札口に当てて精算していた時だった。

 

「あ痛っ!?」

 

静香だけが改札口の赤い表示を灯してしまい、引っかかっている。

 

「何で私だけ通せんぼされるの!?アイシーかーどってのをかざしたら出られるはずでしょ!」

 

「残高不足みたいですね?静香はチャージしなかったの?」

 

「ちゃーじって何なの…?3枚揃えたら攻撃力が上がるとか?」

 

「そこからの説明になるんですか…?」

 

進行を滞らせる者達に対して後ろの人達はイラつきを彼女達にぶつけてくる有様となっていく。

 

どうにか改札口を出た静香達は大都会である神浜市の中央区に歩み出たようだ。

 

「はぁ…疲れたわ。私達…本当にこの窮屈で息苦しい都会生活を送らないとダメなのね…」

 

しょぼくれながら周りを見渡す田舎娘の視線の先には見慣れない景色が広がっている。

 

圧迫感すら感じるだろう無数の高層ビル群が広がる光景に不安を感じてしまう表情を浮かべる。

 

そんな静香に少しでも都会生活に慣れてもらおうと神浜観光に向かったようだ。

 

「この商店街…凄い人だかりよ!?私…商店街はシャッター通りのイメージが浮かんでたわ」

 

「地方の商店街は軒並み潰れて郊外の大型店舗にお客さんを吸い取られるもんね…」

 

水徳寺にたどり着き、今日の買い出しを和尚に頼まれた3人は外に向かって行く。

 

「スーパーが24時間営業ってどういうこと!?働いてる人達はいつ仕事から帰れるの!?」

 

行くとこ行くとこで大騒ぎを起こす静香に付き合わされる仲間達も苦笑いしか浮かばない。

 

夜も更けてくればまた大騒ぎが始まってしまう。

 

「見て見て!!深夜なのに街の明かりが消えないわ!信じられない!まるで不夜城よ!」

 

都会生活に静香を慣れさせるのは前途多難であると仲間達は悟るだろう。

 

現在に戻り、遠い眼差しをしていたちはるだったが電話を終えたすなおの方に振り向く。

 

「そう…気が付かれて巻かれてしまったのね」

 

魔法少女でも一筋縄ではいかないところは流石神様なのだと痛感した静香は考え込む。

 

「ヤタガラスの情報で見たんですが、嘉嶋尚紀という名を名乗る男の人でしたよね?」

 

「名前と見た目の特徴だけを頼りに広い街を宛もなく探し続けるというのも…効率が悪いわね」

 

物事には因子と因果関係がある。

 

先を予言することは不可能だが過去の傾向から起きる事を予測する事は可能だとちはるは語る。

 

胸のバッチを握りながら等々力耕一の探偵心得を自慢したかったようだ。

 

「ちゃるの言う通りよ。彼は物件探しで神浜の街を彷徨っているのだから、やりようはあるわ」

 

「物件屋さんの前で網を張っていれば接触出来るチャンスもあるかもしれませんね」

 

「えへへ♪宿無し探偵等々力耕一の探偵心得があれば!どんな捜査も進展するんだよぉ♪」

 

自分の意見を褒められた事で照れながら後頭部を掻くちはるであるが問題もあるだろう。

 

「でも…この広い街で物件屋さんといっても…数多くありますよ?」

 

「こちらも人員が限られている以上は…全てに張り込み人員を割くわけにもいかないわね…」

 

至極ごもっともな意見を仲間達に返されてしまい、肩をガックリ落としてしまう。

 

「私達時女の巫は魔法少女。この街の魔法少女社会との摩擦だけは避けなければならないわ」

 

「巫達同士で争い合いが起こるのかなぁ?悪鬼の魂魄の取り合いなんて起きないと思うけど?」

 

「時と場合にもよるわ。魔法の力を持つ全ての巫達が…日の本社会に素直に従うとは限らない」

 

「縄張り意識の高い魔法少女社会を相手にする場合は…特にそうですね」

 

「私達はこの街の巫達とは関係ない者。密命のみを果たし、里に帰る事を目的に動くわ」

 

「相手が素直にこっちの言い分に従ってくれるかは未知数だよぉ」

 

「根気よく交渉を続けても…最悪の場合…今年が終わるかもですね」

 

「うぅ…早く霧峰村に帰りたい。大都会の水も野菜も不味いから…」

 

後日となり、静香達は神浜市外の分家集落からも可能な限り応援を呼び、網を張り巡らせる。

 

静香も張り込みに向かうのだが、都会に不慣れな彼女のためにちはるとすなおも同行していく。

 

「網を張るのはいいけど、広く分散させ過ぎて隙間だらけだよぉ」

 

「しょうがないでしょ…人員は限られてるんだし」

 

「せめて彼がどの地区を重点的に訪れているのかが分かれば…良かったんですけどね」

 

静香達が中央区で網を張っていた時、素っ頓狂な叫び声を耳にする。

 

<<そこの貴女達!何をコソコソと怪しい事をしているのですか!!>>

 

突然の大声を聞いた静香達の肩がビクッと震えてしまい、声の主に慌てて振り向く。

 

見れば大きな薙刀袋に試合用の白樫薙刀を収めた黒髪の水名女学園制服少女がいるようだ。

 

片手で薙刀の石突を地面に立て、仁王立ちのまま威圧的な視線を向けてくる。

 

「貴女達はこの街の魔法少女ではありませんね?西側社会で貴女達を見たことがありません!」

 

「え…ええと…その……」

 

「余所者ですね!この不審者め!この街で不審な行動をとる目的を言いなさい!」

 

「ど、どうしよう等々力さん!?気をつけてたのに…トラブルの方からやってきたよぉ!」

 

「彼女はこの街の魔法少女ですね。どうします…静香?」

 

「…説明する訳にはいかないわ。私達のとるべき行動は一つよ」

 

向かい合ってヒソヒソ声で相談し合う者達を見た事で、さらに的外れな勘繰りを始める薙刀娘。

 

「何をコソコソと怪しい!やはりこの街に悪さをしにきた魔法少女ですね!?神妙になさい!」

 

袋から薙刀を取り出して構えるよりも先に静香達は一目散に逃げ出す。

 

「あ、待ちなさ~い!!く~~っ!!逃げるとはちょこざいな!!」

 

薙刀を回転させながら素っ頓狂な魔法少女まで追いかけてくる。

 

「腕に覚えがあるなら!この竜真流薙刀術師範代の竜城明日香と尋常に勝負なさい!!」

 

「ひぃ~!!あの子は思い込みが激し過ぎるよぉ!!」

 

「二手に分かれて逃げましょう!ちゃるは静香をお願いね!!」

 

分散して逃走した事で明日香は静香とちはるの方に食いついていく。

 

<私達はこの子を巻くから、すなおは引き続き張り込みをお願いね!>

 

念話をすなおに送ったはいいが、後ろを見れば体力自慢の娘がどんどん距離を詰めてくる。

 

路地裏に入った静香はちはるを引っ張りながら跳躍していく。

 

三角飛び蹴りを繰り返して屋上へと移動する彼女達を見つけた明日香は敵を称賛してくれる。

 

「やりますね!ですが、その程度で私を置き去りに出来ると考えるのは浅はかです!」

 

明日香も続くようにして身軽な体術を駆使しながら追ってくる。

 

「時女の巫と張り合える見事な体術ね…。時女一心流の担い手として勝負したい…けど!」

 

「探偵は尾行が見つかったら逃げるが勝ちだよぉ!!」

 

屋上で繰り返されるパルクール追跡劇であったが、静香がバランスを崩す。

 

「きゃあーっ!!?」

 

朝に降った小雨で濡れていた屋上ネットフェンスに着地したのが運の尽き。

 

「静香ちゃーん!!?」

 

静香は後ろに向けて体勢を崩し、落下していく。

 

<私は巫だから大丈夫!ちゃるは逃げて!!>

 

必死の念話を聞いたちはるは後ろを振り返る。

 

「お命頂戴~~っ!!」

 

「ひ~っ!!私も時代劇は好きだけど…勘違い暴れん坊将軍を相手にするのは勘弁だよぉ!!」

 

静香の指示通り、迫ってきた明日香を相手に逃走劇を続けていく。

 

残された静香は地面付近に纏めてあったゴミの中に落下したようだ。

 

「イタタタ…柔らかい燃えるゴミで良かったわ。けど……」

 

辺りを見回してみるが、土地勘が無いのでどの辺に来たのか判断出来ない。

 

「ここ…この街のどの辺なのかしら?」

 

仲間達とはぐれてしまった事もあり、不安がこみ上げてくる。

 

静香は慣れない大都会で迷子になってしまったようであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

不安そうに街を歩く光景が続いていく。

 

「どっちが北で南なの?知っている山に囲まれていないから、方角さえ分からないわ…」

 

彼女は中央区から大きく離れてしまう。

 

地図アプリを使えば場所など直ぐに分かるのだが、彼女はスマホ操作を理解すら出来ていない。

 

「お巡りさんに聞くのが一番よね…?何処かに派出所はないのかしら?」

 

霧峰村には派出所など存在しなかったので、どういう建物に警察がいるのかも検討がつかない。

 

南に歩き続けた果てに栄区を超えてしまい、気が付けば海沿いの南凪区にまで迷い込む始末。

 

「参ったわ…中央区を目指していたはずなのに……海が見えてきちゃった」

 

電話BOXを探してみたが、携帯が普及した21世紀の現在では何処にも見当たらない。

 

途方に暮れてしまった静香は独りベンチに座り込み、どうしようかと考え込む。

 

すなお達に見つけてもらう以外になさそうな状況だと考え込んでいた時だった。

 

「見てあの子、きっと田舎者よ」

 

「ああ、何処となく芋っぽさがあるよね~」

 

流行が終わっているファッションやメイク、髪型をしている素朴な静香を嘲笑う女子学生達。

 

見た目が田舎者らしさを醸し出してしまっているせいで笑われてしまったようだ。

 

黙ってそれをやり過ごした彼女は嘲笑ってきた女子達の背中を見つめながらこう口にする。

 

「やっぱり噂は本当だった…都会者は田舎者に冷たいって噂は現実だった…」

 

都会で暮らす人々は過度な干渉を苦手に思う人が多く、近所付き合いをする事が殆どない。

 

田舎社会で生きてきた静香にとって、都会の光景はコンクリートのように無機質に思えるはず。

 

「霧峰村は違ったわ…。近所付き合いや地元の人達との人間関係を大切にしてくれてた…」

 

野菜やお米は近所から無料で貰えたりするし、助け合い社会がまだ残ってくれていたようだ。

 

都会の冷たさに苛立ちを感じてしまった時、かつて聞かされた母の言葉が脳裏を過る。

 

あれはまだ魔法少女になる前の頃。

 

稽古が終わった静香は向かい合うようにして正座している中、師範の母親が語り出す。

 

「静香、()()()()()()()()()()()()()()大切さが分かる?」

 

「どういう意味なの……母様?」

 

「世の中には様々な価値観がある。田舎と都会の人々の価値観の違いがいい例ね」

 

田舎者から見れば信じられないような事をする都会の人々。

 

それでもそれが地域の人々にとっては普通の価値観だったりもする。

 

「そんな酷い人達の価値観が普通って…私には分からないよ。だってそんなのおかしいわ…」

 

「自分の常識や価値観を曲げずにいる事も大切よ。でもそれを他人に押し付けてはいけないの」

 

「どうしてなの、母様?」

 

「価値観の違いで拒絶ばかりを繰り返せば、人間社会は()()()()()()()()()()()()()()()()の」

 

思想が自由である自由民主主義国家には弊害もある。

 

皆の自由が尊重されれば互いの自由と自由がぶつかり合う争いが生まれてしまう。

 

それは国の社会秩序さえも脅かす事になるのだと静香の母親は語るのだ。

 

「私…人情こそが尊いものだって信じてる!なのに人情も無い人まで尊重しろだなんて…」

 

「価値観の違いを拒絶するのではなく、()()()()()()()()()という風に相手を尊重するのよ」

 

それが無用な争いを回避出来る唯一の手段だと師範であり母親は伝えてくれる。

 

「日の本だけでなく、同じ自由主義国家である米国も同じ弊害を抱えているわ」

 

「米国も?」

 

「様々な人種がいても白人街・黒人街・ヒスパニック街という風に自分達の縄張りを作ったわ」

 

これは価値観の違いによって起こる争いを避けるために生み出された()()()()とも言える現象。

 

尊重社会とは異なる価値観がぶつかり合う争いを回避するための住み分け社会なのだろう。

 

「それってようは…無関心社会じゃない!?そんな社会が正しいって思えないわ…」

 

「社会学に正解はないの。民主主義も社会主義も弊害だらけな政治思想の世界なのよ」

 

何を選んでも人々は過ちを繰り返す。

 

時女一族とは、そんな社会を影から支えなければならない政治的中庸右派の一族なのだ。

 

「そんな人間社会なんて…理不尽過ぎるよ…母様。私にはまだ…理解出来ないわ…」

 

「時女の使命、それは自由民主主義国家たる日の本の安寧を支えることよ」

 

そこには自分の感情の善悪である固定観念を作ってはならない。

 

ただ日の本社会の安寧のみを支える秩序となるのだと娘に伝えてくれる。

 

真剣な表情で時女の思想を語る母親に対して未熟な静香は理解し辛い顔を浮かべてしまう。

 

それでも母が間違った事を言う人でないのは知っているため、渋々頷く。

 

「はい…努力します」

 

釈然としない静香にも分かり易いよう例え話をしてくれる。

 

「武術の世界でも同じね。相手が正眼で武器を構えていても、必ず斬撃が来るとは限らない」

 

「そうね…突きもくるし組打もしてくるわ」

 

「臨機応変、これは固定観念を超えなければ得られないのよ」

 

「母様と勝負しても剣の動きが読めないところは思想にも応用出来たのね」

 

「皆が優しさだけで繋がり合える、環のようになれる。崇高だけど…所詮は絵に描いた餅よ」

 

「理想を追いかけるのはダメだと母様は仰るのね?」

 

「理想主義では問題解決には至れない。私達は犠牲を払おうとも()()()()()()()()()()なのよ」

 

――それが秩序を支える者の考え方なのだと…心に刻みなさい。

 

日の本の秩序を司る時女の矜持を伝えてくれた母親の言葉を思い出すように呟いていく。

 

「価値観の違いが争い事を生む…社会の安寧のためにこそ私達は有れ…母様…覚えてるよ」

 

「殊勝な心がけだな。今時のガキにしては政治や社会に目を向けられる珍しいタイプだ」

 

背中越しに声をかけてきた人物に反応して立ち上がり、後ろを振り向く。

 

見れば新聞を開きながら静香の言葉を後ろの席で聞いていた男の背中が見えたようだ。

 

「私の話…聞こえてましたか?」

 

「田舎者らしい声の大きさで語るんだ、嫌でも聞こえてくる」

 

「ごめんなさい…新聞を読んでいたかったのに…お邪魔でしたよね?」

 

「気にしていない。むしろ興味がある話題は新聞よりもそっちの方だった」

 

新聞を閉じて立ち上がり、後ろに振り向く。

 

「あっ…貴方はまさか…?」

 

ヤタガラスからの情報と一致する外見をした姿をしている。

 

神浜の街で尾行したり張り込みを続けてまで接触しようとした男は直ぐ後ろにいたようだ。

 

「どうした?俺の顔に何かあるのか?」

 

また絡まれるのではないだろうかと嫌な予感しかしない尚紀であるが予感は的中する。

 

「あの…つかぬ事をお伺いしたいのですが?」

 

「言ってみろ」

 

「貴方は…嘉嶋尚紀さんですか?」

 

「…何故俺の名前を知っている?」

 

2度ある事なら何度でも起こるかもしれない。

 

神浜生活を始めた尚紀にとって、逃れられない魔法少女との関わりが始まっていくだろう。

 

ところ変わって明日香に追われていた広江ちはるはどうなったのか?

 

「申し訳ありません!!ただの観光で訪れていた方々だったなんて!!」

 

平謝りしてくるのは先程まで薙刀を振り回して命を取ろうと暴れていた魔法少女である。

 

「話せば分かる人で良かったよぉ」

 

どうにか穏便に済ませる事が出来たようにも思えたのだが、素っ頓狂な叫び声を上げてくる。

 

「く~~っ!!自分の迂闊さが恥ずかしいです!!自害します!!」

 

グルグル目をした彼女の突然の乱心を慌てて止める事態になっていたようであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「お前達か?神浜市で俺の事をつけ回している連中は?」

 

不審な顔つきを向けてくる探し人に対して静香は深々と頭を下げる礼儀を示す。

 

「無礼だったのは承知しております。それでも私達は…貴方様を見つけ出す必要がありました」

 

「俺を尾行し続けたお前達魔法少女の目的はなんだ?俺への報復か?」

 

神に対する礼儀がなっていなかったのだろうと静香は感じ取る。

 

苛立ちを見せる彼に誠意を示すために片膝を地面につきながら跪いてしまう。

 

「大いなる神よ、本当に…申し訳ありませんでした」

 

「お…おい!?」

 

突然の光景が上手く飲み込めず、彼も慌ててしまう。

 

「重ねた無礼は時女一族を代表する本家の者として…時女静香が…謹んでお詫び申し上げます」

 

突然平伏してきた少女の姿を見かけた周囲の人々まで奇異な視線を向けてくる有様である。

 

正体を偽りながら生きる社会人としての彼も流石にこの状況の恥ずかしさには耐え切れない。

 

「分かったから…平伏するのはやめろ!」

 

「神である貴方様がお許しになるまで…私は頭を上げる訳にはいきません!」

 

何かの騒ぎなのかと周囲の人々も集まってくる。

 

ボタボタと嫌な汗が吹き出し、頑なな彼女をついには許すまで追い込まれてしまったようだ。

 

「俺も大人気なかったから顔を上げろ!それと俺を神扱いするな!気持ち悪い!!」

 

「では…何とお呼びすれば宜しいのでしょうか?」

 

後頭部を掻きながら彼はそっぽ向く。

 

強情な娘に根負けしたのか、渋々名を名乗る事になったようだ。

 

「…嘉嶋尚紀で構わない。頼むから地面から立ち上がってくれないか?」

 

許しを得たのだと感じ取った彼女も立ち上がってくれる。

 

「…場所を帰るぞ」

 

目立つ場所を避けるため場所を移動していく2人。

 

見つけた喫茶店の中に入り、ドアを閉めた勢いでドアベルが店内に響く。

 

「…いらっしゃいませ」

 

「2人だ。目立たない奥の席を使わせてくれ」

 

「どうぞ…」

 

参京院教育学園の制服の上からカフェエプロンを纏う少女に促された者達が店の奥に進む。

 

薄花色をしたショートヘアの少女に案内された者達は向かい合うようにして席に座る。

 

「珈琲を二つくれ。それでいいな?」

 

「そ、そんな!嘉嶋さんにご馳走になってしまっては…時女本家の嫡女として…」

 

「俺を祀り上げるようなセリフを並べるのはやめろ。いいから二つ持ってきてくれ」

 

「判りました…」

 

カウンターの奥に入り、珈琲を淹れ始める。

 

珈琲を席に並べた後、店番をしている少女はカウンターへと移動していったようだ。

 

「落ち着いたか?」

 

渋々珈琲を飲み、歩き疲れた口の中を潤す。

 

喉の渇きも癒えたこともあり、静香は重い口を開いてくれる。

 

「改めて挨拶します。私は時女静香…日の本を影から支える組織であるヤタガラスの使者です」

 

「ヤタガラス?」

 

「我々ヤタガラスは嘉嶋さんを啓蒙の神である最高神エンキ様ではないかと考えております」

 

「……………」

 

「それは世界中の権威ある存在達も同じ考えなのだと…ヤタガラスは判断しているみたいです」

 

(やはり…俺を神として祀り上げて取り入ろうとする者達と同じ類かよ)

 

彼の眉間にシワが寄り、不審極まった顔つきになっていく。

 

「我々は貴方様を現人神として祀り上げる用意があります。世界に大いなる神の権威を…」

 

「断る」

 

内容を把握した尚紀は即答し、これ以上静香と付き合う理由もなくなったようだ。

 

「そ、そんな!?まだ私…説明も終わってないのに!!」

 

「俺は生き神として祀り上げられるつもりなんてない。珈琲飲み終わったら俺の前から消えろ」

 

「日の本の祭祀を司るヤタガラスから祀り上げられる事がどういう事か分からないのですか!」

 

「知ったことか」

 

「天皇陛下すら超えられる程の存在となれるのですよ!?」

 

「そんな権威に興味はない、失せろ」

 

一筋縄ではいかないというのはヤタガラス側も承知している。

 

この任務が根気のいる長期任務なのだと伝令書に書かれた内容を確認した静香も承知している。

 

それでもここまでの拒絶を見せられてしまっては慌ててしまうのも無理はない。

 

「俺の生き方は俺が決める。誰かに祀り上げられて神社の石像と同じ扱いにされたくはない」

 

「どうしても…ダメなのですか?これ程までの待遇を得られる存在なんて世界を探しても…」

 

「皇帝のような権威ある存在として華やかで豪華な人生を送ることに興味はない」

 

彼の望みがあるとすれば人間社会の安寧と平穏のみ。

 

それは彼の役目ではなく、本来ならこの国の行政府の仕事であろう。

 

説得は極めて難しいと判断した静香も黙り込み、重苦しい空気に支配されていく。

 

不意に彼は視線を窓に移し、空を見上げながらこんな疑問を投げかけてきたようだ。

 

「人間社会の平穏は…政府も手を出せない存在に脅かされている。お前のような魔法少女にな」

 

魔法少女が人間社会に危害をもたらしていると知る者は少ない。

 

彼はそれを知る者であったのだと静香は驚愕してしまう。

 

「お前は知ってるか?俺が東京の魔法少女界隈で…どんな通り名で呼ばれているか?」

 

「いえ……存じません」

 

「魔法少女の虐殺者、死神、人の姿をした悪魔…そして人修羅だ」

 

そんな情報はヤタガラスからは与えられていなかった彼女の目が見開いていく。

 

目の前にいる存在は魔法少女である自分達にとっては天敵なのだと絶句させられたようだ。

 

「丁度いい。ヤタガラスとかいう存在がこの国の裏側にいたのなら、お前らにも質問がしたい」

 

「な…何を知りたいのですか?」

 

「俺独りに東京の魔法少女社会を押し付けながら…見て見ぬ振りをしてきた連中についてだ」

 

――日の本を守るとぬかす癖に行動が伴わない、欺瞞に満ちたクソッタレ組織の事を教えろ。

 

長い沈黙が続き、俯く彼女の顔に威圧的な視線を送り続ける男が恐ろしくなる。

 

これが魔法少女の虐殺者の威圧感なのかと死線を超えてきた静香でさえ身震いに包まれる。

 

慎重に言葉を選ぶ静香はヤタガラス構成員の事情を語っていく。

 

「私達ヤタガラスは外の巫社会に手を出さなかった…巫という社会脅威を…野放しにしました」

 

「お前達は何故傍観してきた?お前達が管理していたのなら俺が虐殺者になる必要はなかった」

 

何か理由があるのだろうが、彼が納得するかは分からない程にまで険悪な表情を浮かべてくる。

 

「……ヤタガラスに所属して悪鬼と戦う構成員である退魔師一族は複数存在します」

 

そのどれもが秘匿された存在であり、公の場に現れて存在を示すことは許されない。

 

それが秘密結社に所属する一族の掟なのだと聞かされる。

 

「貴様らは人間達が魔法少女に危害を加えられても傍観するだけか?たいした愛国精神だな?」

 

「ヤタガラス一族は霊的国防を背負わされます…ですがそれぞれの一族にも立場があるのです」

 

各々の一族が専門とする退魔任務は基本的には不可侵。

 

魔法少女一族である時女一族も例外ではなかったようだ。

 

「魔法少女一族だと言ったな?ならどうして同じ魔法少女の脅威共を始末に行かないんだ?」

 

「私達の里の政治、行政、祭祀を司る神官である神子柴様が巫討伐を許されないのです」

 

「何故だ?」

 

「我々が戦うべきは悪鬼である魔獣であり、同じ巫同士の殺し合いに戦力は割けないそうです」

 

「正義の魔法少女一族でありながらも…役に立たない連中だな。他の一族も同じ態度か?」

 

「他の退魔一族については…神子柴様からお聞きした程度の知識しかありません」

 

静香は神子柴から聞かされている内容を話し始める。

 

かつては帝都と呼ばれた東京の守護を任されている退魔師一族についてだ。

 

ヤタガラスの退魔師一族の中でも最強である()()()()に守護を一任されていると聞かされる。

 

「その葛葉一族ってのは何をやってる?外道に堕ちた魔法少女に東京は荒らされてきたんだぞ」

 

「葛葉一族は秘密主義を固く守る一族。私達も全容を聞かされたわけではないのですが…」

 

「何か含みがあるな?言ってみろよ」

 

「葛葉一族は…ある時期を境にして、帝都守護の任務より外されたと聞きました」

 

「ある時期を境にして…東京の守護から外された…?」

 

「その事件と関わりがあるかもしれない者の名前ぐらいしか分かりませんが…たしか…」

 

静香から聞かされた名を聞いた尚紀の目が見開いていく。

 

知らない存在であるはずなのに何処かで出会った事があるような気にさせられる名前を知る。

 

聞かされた帝都守護者の名とはヤタガラス最強の退魔師と呼ばれた人物。

 

大正の時代を生きてきた()()()()()()()()()()なのだと伝えてくれるのだ。

 

「ヤタガラスと葛葉一族との間で揉め事があったのだろうと思いますが…詳しくは知りません」

 

葛葉一族は役に立たず、魔法少女一族さえ役に立たない。

 

空白地帯となった東京だからこそ魔法少女が好き勝手に暴れる事が出来る魔都となった。

 

人間の守護者となった人修羅が現れるまではその地獄が続いてきたようだ。

 

「葛葉一族はヤタガラス最強と言われてきましたが…今ではかつて程の威厳は無くなりました」

 

「ヤタガラスと揉め事を起こした一族だ。隅に追いやられても無理はないのかもな」

 

「それを象徴するのが葛葉四天王における葛葉ライドウの地位が落ちぶれ果てた事情でしょう」

 

葛葉四天王である高弟一族の一つを務める葛葉ライドウは14代目を境にして異変が起こる。

 

14代目を境にして継承者不足に陥っているという。

 

葛葉ライドウの名を継ぐべき者に恵まれず、15代目から直ぐに代替わりをしていく。

 

この調子でいけば遠からずに40代目を数える程にまで落ち目の存在と成り果てているようだ。

 

「他の葛葉連中も東京には手を出せないか…ヤタガラスに飼われるだけの負け犬共め」

 

「同じ立場の私が言うのもなんですが…私だって…悔しいんです」

 

「言い訳がましいぞ」

 

「時女一族の矜持から考えたら…誰に止められようとも東京の人達を救いに行くべきでした…」

 

「今更そんな理屈を俺に言っても無駄だ。お前らの尻拭いなら俺がやってきたんだ」

 

「本当に…御迷惑をおかけしたと思います。ですが…何処か変なんです」

 

困ったような表情を浮かべる静香に対し、何が気になっているのかを質問してくる。

 

「ヤタガラスが霊的国防を担う存在なら、この国の首都を放置するなんて…おかしいです」

 

帝都である東京は天皇陛下が住まう地域。

 

ヤタガラスは天皇家と共に歩んできた存在なのに放置というのは明らかに変だと言える。

 

「まるでヤタガラスそのものが…東京を…見捨てているような気がするんです…」

 

「…分かった。俺から聞きたい事は以上だ」

 

きな臭い話を聞かされたが、それは重要ではない。

 

「俺の用事は済んだことだし、もう帰っていいぞ。ヤタガラスによろしく言っておけ」

 

「私達は諦めません!日の本の偉大なる神として貴方を迎え入れる事は時女の誇りなんです!」

 

「どうせヤタガラスのための点数稼ぎだろ?浅ましい女の一族め」

 

「ぐっ!!それは…否定しきれませんけど…」

 

しょんぼりした静香を見ながら肩をすくめていたところで喫茶店の扉が開く音が鳴る。

 

「あーっ!ここにいたよ~静香ちゃん!」

 

「ちゃる!?それにすなおまで!どうして私がここにいるのが分かったの?」

 

「静香が持ってるスマホにはGPS追跡アプリを入れておいたんです」

 

「じーぴーえす…?あぷり…?」

 

「これがあればスマホの場所を確認することが出来るし、持ち主も追えるというわけですよ」

 

「えーと…つまり…どういう仕組みなわけ?」

 

静香の世間知らずがまた出てきたとちはるは苦笑いを浮かべてしまう。

 

しかし横のすなおは静香ではなく尚紀に視線を移している。

 

「静香、まさかこの人は…?」

 

「うん、この人こそ私達が追いかけていた嘉嶋尚紀さんよ。さっきまで私達の話をしていたの」

 

「凄いですね!迷子になったのかと心配してたのに、目的の人物を探し当てるだなんて!」

 

「えっ?あ~…うん、そう!これでも私は時女本家の嫡女だもん!」

 

席から立ち上がり、大和撫子らしい控えめな胸を張りながら威厳を示す若き時女の当主候補。

 

しかし広江ちはるの固有魔法が何かを告げている。

 

「クンクン、あれ~?これは見栄を張ってる時の匂いだよ~静香ちゃん?」

 

「うっ!?ちゃるの嗅覚は尖過ぎるよ~すなお!」

 

魔法少女達のペースとなっていく空間に嫌気が差した尚紀は立ち上がってレジに向かう。

 

店番をしていた少女に精算を頼み、その時に店番少女の左手にも視線を向けたようだ。

 

「嘉嶋さん!私達は暫く神浜に滞在します!貴方の頑なな心を絶対に動かしてみせますから!」

 

喫茶店から出てきた彼の肩がガックリ落ちる。

 

これから先の事を考えれば考えるほど億劫な気分になってしまう。

 

「何処もかしこも魔法少女だらけ…それにヤタガラスからもつけ回される生活か…泣けるぜ」

 

つくづく自分は()()()()()()()()のだと悪魔となった暁美ほむらの事を思い返す。

 

「どうせなら俺じゃなくて…お前の方を神として担ぎ上げてくれてたら楽が出来たんだがなぁ」

 

これからの生活が思いやられる気分に浸りながらも彼は物件探しへと戻っていくのであった。

 




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