人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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89話 アウトサイダー

嫌悪は人が持つ基本感情のうちの1つだ。

 

嫌悪は拒否機能をもち、物理的、あるいは心理的に有害な対象物を除去するという適応機能。

 

嫌悪の感情は、その強さの程度により嫌悪・忌避・嫌いなどがあった。

 

「グレイさんってさぁ、変わり者だよね」

 

栄総合学園の休憩時間中、1人の女子生徒が言い出した言葉。

 

「自信過剰って言うかさぁ、周りに合わせないよねぇ」

 

ここは総合学園故に、様々な専門分野を学び就職・デビューを目指す若者が集まる学校。

 

だが周りの生徒達を見てみれば…堕落の光景ばかり。

 

娯楽に溢れた今の時代の青春を謳歌するかのように怠惰な毎日を送っている者の方が多数派だ。

 

それでは専門技術が伸びる事もない。

 

堕落者が堕落者を肯定しながら堕落仲間を増やす集団足枷心理が生まれてくるだろう。

 

「なんて言うかさぁ、上から目線なんだよね。いつもあたしらのやる事をくだらないって言うし」

 

「美術が得意でも、他の教科はあんまり得意じゃないのにねー。何様のつもりなんだろ」

 

「得意分野の現代アートで賞を受賞出来てさぁ、あいつ天狗になってるんじゃないの?」

 

「ムカつくよねー」

 

彼女達も専門分野を目指す以上、様々な心理的負担を強いられる立場。

 

企業に求められる専門能力に対するストレスやプレッシャー等も人間なのだから感じている。

 

今の時代の優れた芸術分野に求められる能力は上がり続けるのが現状。

 

相当なプレッシャーを感じるストレス社会の学校空間であるのは察することが出来るだろう。

 

ストレスの多い環境では、文部科学省の調査によると虐めが起こり易い環境と調べられている。

 

不満やストレスが多い環境は、それだけで子供を攻撃的にしてしまう。

 

努力や我慢が苦手な子供や誰かに認めてもらいたいと思う子供は、苛立ちを他者へと向ける。

 

「ちょっとアイツ、からかってやろうよ♪」

 

天狗になっているように見える天才少女ならば、苛立ちをぶつけるのに最適であった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

天才は疎まれる。

 

17世紀の様々な学問を統一し、体系化しようとした才能を持つ天才哲学・数学者がいた。

 

ゴットフリート・ライプニッツと呼ばれた人物のことだ。

 

彼でさえ周りから疎まれ、晩年は秘書しか最後を看取る者がいなかった。

 

凡人が他人に嫌われる要因は分かりやすく、短所や欠点など負の要素に限られる。

 

しかし天才ともなれば負の要素はもちろんだが、加えて正の要素も嫌悪の要因となりやすい。

 

正しい事を指摘する天才程、不快な感情を周りにばら撒く結果を生むのであった。

 

「アリナ先輩…聞きたい事があるの」

 

「なにさ?」

 

スランプが改善せず、筆も進まないアリナは机に脚を伸ばしながら座っている。

 

会話も生まれなかったため、前から気になっていた事を質問したようだ。

 

「アリナ先輩は、美術部以外で他の生徒と一緒にいる時を見たことがないの」

 

「だから?」

 

「クラスメイトとは仲良くしてるのかと、気になったの…」

 

アリナの顔つきが苦虫を嚙み潰したような表情となっていく。

 

「…アリナ、クラスメイトなんていないんですケド」

 

「クラスメイトが…いない?」

 

「アリナは無視されてるんだヨネ。エアーとして扱われるなら、クラスに存在してないってワケ」

 

「そんな…酷いの…」

 

専門職を目指す学校に入学してるくせに、足の引っ張り合いをする周りに苛立ちをぶつけてきた。

 

彼女の正しい意見は周りから疎まれ、無視されるようになったようだ。

 

虐めの種類は暴力や暴言ばかりではない。

 

無視も立派なイジメであり女子の虐めで多かった。

 

昼休みが終わり、午後には体育の授業。

 

「…何で?」

 

アリナは女子更衣室で自分のロッカーを開けるが、体操服や運動靴が見当たらない。

 

見つけたゴミ箱の中にあったのは、誹謗中傷の落書き塗れになったアリナの体操服や運動靴。

 

帰り道では、クスクスと周りの生徒から嘲笑われる。

 

「…アリナの何がおかしいワケ?」

 

体育の件で苛ついていたアリナは無視する事が出来ず、女子生徒に食って掛かる。

 

「あんたさぁ、現代アート界隈だけじゃなく、この学校の裏サイトでも超有名人じゃん♪」

 

「裏サイト…?」

 

「気になるなら見てみたら~マッドアーティストさん♪」

 

帰ってから調べてみたら、栄総合学園の非公式コミュニティサイトに掲載されたアリナの紹介。

 

「ワッツ…?なによ…コレ!?」

 

『現代カルトアーティスト』

 

『死と再生に取り憑かれたマッドガール』

 

『死を芸術にする狂気の女が生贄を所望中』

 

『近寄ると塩が黒くなる女』

 

『エクソシストVSデス・アリナ近日公開予定』

 

アート系雑誌に掲載された顔写真を使った悪質なコラ画像まで添えられたあだ名虐めの数々。

 

「ざけんなぁ!!アリナに文句があるなら…直接言いに来ればいいんだカラ!!」

 

感情のままスマホを部屋の隅に投げ捨てる。

 

気性の荒いアリナに向けての度重なる陰湿な虐め。

 

それにも負けず、アリナは自分の美を追求するために今日も美術部に向かう。

 

しかしインスピレーションはあいも変わらず生み出せてはいない。

 

横で漫画の練習を続ける順調なかりんと比べたら、サボっているようにも見えるだろう。

 

「見てよあいつ…今日もま白いキャンバスとにらめっこしてるよ」

 

「マッドアーティストの才能も枯れちゃったんでしょー?諦めちゃえばいいのに」

 

「大衆受けする絵の路線でも狙えばいいのにね~?」

 

「やっぱ王道は、愛とか勇気とかお笑いとかが勝つ、分かり易い表現でしょー?」

 

「いつまであんな大衆ウケしない()()()()()()()()()を進むんだろ?バカじゃないのアイツ?」

 

クスクスと嘲笑う声をアリナは無視するが、席を立ち上がって声を張り上げたのは後輩だった。

 

「アリナ先輩を馬鹿にしないでなの!!」

 

「なに?はみ出し者のグレイさんに尻尾振る、金魚の糞が何か言ってるよ?」

 

「ほっとけばいいじゃん。帰りに駅前のマック寄って恋バナでもしに行こ」

 

去っていく女子生徒を睨みつけ、文句を言いに向かおうとするかりんの肩を掴む人物に振り向く。

 

「あんな雑魚共ほっとけばいい。アリナは別に気にしてないカラ」

 

「酷いの…どうしてあんな心無い言葉ばかり言えるの?」

 

「それがエンターテインメントだカラ。ストレス発散してスッキリするんでしょ」

 

「娯楽…?あんな酷い事言うのが…娯楽なわけないの!!」

 

「どうして?楽しい事に決まり事なんて無いのを、表現の世界に進むアナタが分からないワケ?」

 

「楽しくなんてないの!腹が立つだけなの!!」

 

「アナタがそうでも、面白ければ大衆ウケする。消費者の世界ってね、極めて残酷なんだカラ」

 

「そんな…」

 

「人の道理に沿わなくても()()()()()()()、本質はソコ」

 

人気コメディアンが行うパワハラ芸がウケて大人気になれる。

 

アリナの死と再生のグロい世界も誰かが気に入って評価してくれる。

 

正しさに決まりなどない。

 

正しさなど人の数ほどあるのだから。

 

「虐めが楽しいだなんて…そんなのおかしいの!」

 

「固定概念に囚われるワケ?自分の表現が流行らなかったら埋もれていくだけなんですケド?」

 

「アリナ先輩はいいの…?自分が娯楽のおもちゃにされてるのに?」

 

「面と向かって暴力も使えない陰湿な雑魚に、エネルギー使うだけ無駄」

 

そういう悪意ある者達もいる、だから住み分ける。

 

価値観が自由であり多用な自由民主主義国家に住まう者達ならば分かるだろう。

 

あらゆる好き嫌いが存在するために、いがみ合いしか起きない現実を。

 

人間の価値観など民族どころか人の数だけ存在する。

 

国という概念は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのかもしれなかった。

 

「マジカルきりんの真善美の世界観を喜ぶ人もいたら、アリナ先輩の世界観を喜ぶ人もいる?」

 

「そういうことだって、フールガールも理解しなさいよ」

 

自分の椅子に座り、どうにかインスピレーションを湧きあげようとするが上手くいかない。

 

眉間にシワを寄せながら親指を噛むアリナの姿を見るかりんの心も締め付けられていく。

 

心では叫んで苦しんでいるのが伝わってくるからだ。

 

それでもアリナは挫けない。

 

結果で周りの連中を振り向かせてやろうと努力を諦めない。

 

スランプになれば投げ出したくなるのが凡人だ。

 

しかし天才は物事に対する執着心と集中力が極めて高い故に中途半端で投げ出せない。

 

妥協することが出来ない存在こそが、天才なのかもしれなかった。

 

天才はそれが普通だと考えるが、凡人はそうは考えないせいで笑いものにされる。

 

これが比較対象のない絶対的な自分をもつ天才…アリナ・グレイの生き方だ。

 

「…天才って、孤独だヨネ」

 

その才気に対して誰もが賛嘆するとは限らない。

 

1つの見解には必ず対立する見解が存在し、反駁(はんばく)する相手に憎まれる。

 

更に穿った見方をすれば、賛同者だってうわべは好意的でも妬んでるかもしれない。

 

ライプニッツはプロテスタントのルター派であったが、宗教に偏った見解を持たなかった人物。

 

キリスト教の対立を超えて統合を目指した思想家でもあった。

 

キリスト教のカトリック、プロテスタントの対立を嘆いた末に理性的統合を望んだ。

 

しかし、彼が起こしたキリスト教合同運動は受け入れられなかった。

 

これによって全キリスト教徒と敵対したも同然となってしまい、全ての人間に疎まれた。

 

人間という生き物は…見たいものしか見ようとしない、信じようとしない。

 

歴史を越えようが、ガイウス・ユリウス・カエサルが残した言葉通りの生き物に過ぎない。

 

天才の才気あろうが、心優しかろうが関係ない。

 

それだけでは社会も世界も救えなかった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

夜になり、家でも苛つきが収まらないアリナの姿。

 

他の魔法少女が寝静まる真夜中しか魔獣狩りを行わない彼女だが、今日は何故か狩りに向かう。

 

今直ぐ魔獣に八つ当たりして憂さ晴らしがしたい気分になってしまったようだ。

 

魔法少女に変身して夜の街に繰り出す。

 

決まった狩場を作らないアリナはその日の気分で魔獣狩りを行う。

 

今日向かった場所は神浜東地域である工匠区。

 

西側の魔法少女であるアリナだが、彼女は誰かが作った決まり事になど従わない自由主義者。

 

工場街の屋根を超え、魔獣と魔法少女達の魔力を感じ取る。

 

「チッ、先客がいるってワケ?」

 

魔獣結界内に入り工場倉庫の大きな屋根の上に着地。

 

下側の戦いを見物すると、戦う魔法少女姉妹の姿が目に入ってきた。

 

「月夜ちゃん!倉庫の中ならウチらの笛の音も響くよ!」

 

「はい!魔獣をおびき寄せて一網打尽にいたしましょう!」

 

魔法少女姿の天音月夜と天音月咲は、アリナが屋根に隠れる工場倉庫の中へと入り込んでいく。

 

魔獣達も後を追うように移動して倉庫に入り込む。

 

「あのピーヒョロ姉妹かぁ。詰めが甘い連中だって、影で聞いたことあるんですケド」

 

倉庫内で背中合わせに魔獣達と対峙する2人は同時に横笛を構える。

 

「笛花共鳴、いくよ!」

 

「思いをこめた一撃、お受けになってくださいな!」

 

横笛の音が同時に奏でられ、その音波は外の何倍も強く響く。

 

強力な音色が魔獣に襲い掛かり、苦しむ魔獣達が同士討ちを始めてしまう。

 

彼女達の魔力が籠もる音色は、魔なる存在を苦しめる音色であると同時に操る力も持つ。

 

魔女がいた世界ならば笛の音で魔女を操る事も出来たであろう。

 

同士討ちの末に、残った魔獣は大型の一体のみ。

 

「トドメだね!ウチに力を貸して月夜ちゃん!」

 

「共に奏でるでございます!」

 

2人は互いに片手を水平に合わせる。

 

すると月夜の魔力が月咲に合わさるように混ざり合い、魔力の恩恵をもたらす。

 

「とりゃーーーーっ!!!」

 

大事な笛で殴りつける価値もない存在など、馬に蹴られて三途の川と言わんばかりの跳躍蹴り。

 

豪快な飛び蹴りが魔獣頭部に直撃。

 

攻撃力が増した威力もあり、魔獣の頭部は千切れ飛び消滅していく。

 

「やったー!やりましたね月咲ちゃん!」

 

「月夜ちゃんがいてくれたから、勝てたんだからね♪」

 

駆け寄る月夜に抱きしめられて喜びを分かち合う。

 

戦闘を見守っていたアリナは、先程の見慣れない光景を見て首を傾げていく。

 

「あれが噂に聞く…神浜魔法少女連中が得意としてる連携魔法の…()()()()ってヤツ?」

 

彼女はコネクトなどする相手がいないため、コネクト魔法を使ったことなど一度もない。

 

「一人一人では足りなくても、ウチらは揃えば満月になる。2人が揃えば魔獣には負けない!」

 

「「ねー♪」」

 

ハモリながら喜び合うのだが…詰めが甘かった。

 

「あーあ、やっぱ噂通りのポンコツ共ってワケね」

 

2人が無数の魔力に気がついた時には、周りは後続の魔獣だらけ。

 

焦りを浮かべてしまう姉妹であるが、勝気な妹が姉の身を守ろうと叫ぶ。

 

「月夜ちゃん…ウチが囮になるから逃げて…!」

 

「ダメで御座います!傷つき倒れる時は…姉妹揃ってでございます!!」

 

無数の魔獣達に狙いをつけられ、集中砲火を浴びせられようとしている。

 

「…フン。バトルよりもストリートパフォーマンスの方がお似合いなピーヒョロ女共!」

 

アリナの右手に出現したのは、ルービック・キューブを思わせるエメラルドに輝く立方体。

 

突如天窓が砕け、頭上を見上げた2人の周囲に降り注ぐ無数の小型キューブ。

 

光弾となって降り注いだ範囲魔法攻撃が魔獣共の体全体を貫いていき、同時に仕留め続ける。

 

「す…凄い…」

 

「なんて魔法の力で御座いましょう…」

 

縦横無尽に工場内を踊り狂う、エメラルドに輝く小さな飛翔光弾の美しき乱舞攻撃。

 

為す術もなく貫かれ続け、全ての魔獣が消滅した。

 

工場入口から足音が響く。

 

無数の光弾が天音姉妹の周りを回転して威嚇していたが、入り口に向けて飛翔していく。

 

主の元に集まっていき、水平にかざした右掌内でルービック・キューブの形へと戻っていった。

 

「あ…あんたは!?」

 

「アリナ…グレイさん…?」

 

黒い軍帽を思わせる帽子を被る、黒い衣装の神浜魔法少女など1人しかいない。

 

東西の魔法少女社会の中でも、はみ出し者と呼ばれるアウトサイダーが現れた事に戦慄する姉妹。

 

「その様子だと、アリナの評判ぐらいは知ってるみたいだヨネ~?」

 

挑発するような笑みを浮かべながら2人の前まで近寄ってくる。

 

その途中で地面に転がっている複数のグリーフキューブを回収していく。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!それはウチらが仕留めた魔獣のグリーフキューブだよ!?」

 

「アナタ達は殺されそうになってたダケ。ヴィクトリーはアリナ。ドゥーユーアンダースタン?」

 

「手柄を独り占めする気なの!?だからあんたは皆の嫌われ者なんだよ!」

 

「そういうの、ソロで魔獣相手に勝てるぐらいになってから言って欲しいんですケド?」

 

「協調性が無いって噂は本当で御座いましたね…」

 

嫌われ者として扱われるのには慣れているのか、どこか人を馬鹿にしたような顔を姉妹に向ける。

 

「協調性?強かったら仲間なんていなくても、十分キープウィニング出来るカラ」

 

「アンタ…何がしたくてこの街で魔法少女をやってるわけ!?」

 

「それがアナタと何か関係があるワケ?」

 

「正義のために戦う訳でもない!魔法少女社会のルールにさえ従わない!」

 

「そうですわ!自分勝手な狩りを続けて…皆に迷惑をかけてるだけです!」

 

「魔法少女やるのに、何で正義だのルールだのを周りから押し付けられないとならないワケ?」

 

「魔法少女は夢と希望を叶える存在で御座います!私利私欲のために魔法を使うだなんて!」

 

絵に描いたような正義のヒロインっぷりを見せられたアリナの口元が不敵に笑う。

 

「アリナさぁ、東の魔法少女の陰口の中で…面白い話を聞いた事があるんですケド」

 

「面白い話…?」

 

「アナタ達はさぁ、この街から揃って出ていきたいんでしょ?」

 

その言葉を聞いた姉妹達の表情が青くなっていく。

 

周りの魔法少女にあまり知られたくない秘密をはみ出し者が知っている現実が恐ろしいのだ。

 

「自分達を苦しめるだけの家から逃げたいって、聞いちゃったワケ」

 

「そ…それは…」

 

「この街の人間を守る正義を気取っても、結局アナタ達は()()()()()()()()()()()()()()

 

正義の魔法少女を演じてきたが、彼女達だって気分屋の子供達。

 

本音の部分では、善行を続けることに疲れ切っている。

 

この街の人間達は…正義を成しても見返りなど与えてはくれないからだ。

 

天才アーティストとしてだけでなく、鑑定眼も鋭いアリナの目は誤魔化せない。

 

「最初から街の人達なんてどうでもいいし見捨ててる。アリナと変わらない」

 

「ち、違うよ!ウチは…ウチはこの街の人々を守るために…正義の魔法少女として…」

 

「なら、何故この街から逃げ出したいワケ?」

 

答えは返せない。

 

正義の味方を気取りながらも街から出て行きたいでは矛盾しているからだ。

 

「残って戦い続ければ良いと思うんですケド?それなのに、何でアリナだけ協調性が無い扱い?」

 

「偉そうにウチらに説教して論破しにきたわけ!?だから貴女は嫌われ者なのよ!!」

 

善意は語るくせに、行動が伴わない。

 

善人も悪人も皆、自分だけが可愛い生き物。

 

リアリストであるアリナにはそう見られていた。

 

「都合が悪い話は説教だの論破だのと喚き散らし、()()()()()()()()()()身勝手さ…呆れるヨネ」

 

地面に落ちていた全てのグリーフキューブをスカートのポケットに押し込み、立ち上がる。

 

「解放の自由を望むくせに、自由を遠ざける生き方をする。どうしてそうなるか、理由が判る?」

 

「…判りませんで御座います」

 

「それはね、()()()()()()()()ダケ」

 

「保身で…御座いますか?」

 

「本当は怖い?2人だけで外の世界に出たところで、生きていけるか分からないヨネ?」

 

返す言葉も無くなり、2人は俯いてしまう。

 

彼女が言う言葉は事実だからだ。

 

「この街との繋がりを断つ事を恐れる。だからジャスティスガールをやりながら愛想ぶる」

 

人間を含む生物は、押しなべて利己的。

 

自己の成功率を他者よりも高めたいからだ。

 

「利己的に行動した結果、利他的に行動しているように見える事もある…その答えは分かる?」

 

「どういう意味よ?」

 

「それが()()っていう概念なんですケド」

 

相互利他の精神で連帯を深めても、()()()()()()()()()()()()()のは自然界も労働社会も同じ。

 

「共生の中の利己的な弱肉強食。周りに合わせる損に耐えるのは、()()()()()()()()()()だカラ」

 

「わたくし達が…正義に従って魔法少女社会で生きているのは…自分達の利益のため?」

 

「なんとかして欲しいんでしょ?他の魔法少女の便利魔法を使って」

 

――アナタ達は可哀想な境遇だし、仲間のために魔法を少しだけ悪用してもらいたい。

 

――家族から救ってもらっても良いとか…考えてるんだヨネ?

 

彼女達が絶対に知られたくなかった本音の部分を語られる。

 

もはや怒りをぶつけて相手を悪者に仕立て上げることでしか、自分達の正しさを証明出来ない。

 

「ウ…ウチらが…周りからのご褒美欲しさに!正義の魔法少女をやってるですって!?」

 

「いい加減にしてくださいまし!!!」

 

顔が真っ青になって逆上する2人を見て不気味な笑みを浮かべるアリナの表情。

 

2人だけでしか語れない秘密の愚痴とも言える黒い下心に触れたのが、彼女には感じ取れた。

 

<<そこまでにしてもらおう、西側のトラブルメーカー>>

 

冷徹な声が響く。

 

入り口を見れば、白い軍服のような魔法少女衣装と乗馬鞭を構える東の長の姿。

 

彼女の姿を見たアリナの表情は不快によって歪んでしまう。

 

「チッ…面倒くさい奴が来たんですケド」

 

「十七夜さん…?」

 

「君は東の領域で身勝手な狩りをしている。ここは我々の自治権がある地域、勝手は許さない」

 

「アリナだけに言うワケ?ピーヒョロ姉の方だって、西側の魔法少女なんですケド?」

 

「勿論、月夜君にも気をつけてもらいたい。月咲君と行動したいといっても、ここは東地域だ」

 

「待って十七夜さん!それじゃウチ…月夜ちゃんと一緒にいられない!」

 

「ダメだ。たとえ君が西側に行って月夜君と狩りを共にしても、今度は西側社会との軋轢を産む」

 

「そ…そんな…」

 

「東側の自治権を西側に押し付ける以上は、不義理は許されない」

 

「月咲ちゃん…」

 

「アリナ。手に入れたグリーフキューブを渡してもらおう。それは東の魔法少女のものだ」

 

「イヤだ、って言ったら?」

 

十七夜の持つ乗馬鞭が魔力を纏い、帯電し始める。

 

「自分と戦う事になる。西側が東側で好き放題したのだ…西に文句を言われる筋合いはない」

 

アリナも和泉十七夜の実力は聞いている。

 

自分が全力を出しても勝てるかどうかは未知数の相手。

 

溜息をつき、オーバーに両手を広げておどける仕草を見せた。

 

「ハァ…ワーストタイミング。バットな事が起きる時は立て続けってワケ…?」

 

ポケットに押し込んだグリーフキューブを手で掴み、乱暴に十七夜に渡して去っていく。

 

不意にアリナの足が止まり、背中越しに声をかけてくる。

 

「東のリーダーを気取るアナタにさぁ、アリナが観察して思った事を一つだけ教えてあげる」

 

「…聞くだけ、聞いてやろう」

 

「魔法少女社会に合わせて頑張っている東の仲間に向けて、飴玉さえ渡さないとかさぁ…」

 

――()()()()()()()()して、アナタに襲いかかってきても…アリナ知らないんだカラ。

 

そう言い残し、今度こそアリナは夜の闇へと消えていった。

 

天才は物事を一面からではなく、多角的な目で見ることができる故の警告だった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

昨夜は邪魔者が来て無駄に魔力を消耗した事もあり、今日のアリナも酷く不機嫌。

 

この苛つきを今日こそ発散させるために、また深夜も待たずに魔法少女として街に繰り出す。

 

今度は邪魔者が来ないように西側に向かおうと、新西区に訪れようとしていた。

 

だが、アリナよりも先に新西区に訪れている栄区の魔法少女がいる事を彼女は知らない。

 

「フールガール…?」

 

魔獣結界内に入ったアリナは、数人の西側魔法少女とよく知る人物の魔力を感じ取った。

 

「アナタはたしか、孤高のマジカルきりんのようにソロで戦い続けるんじゃなかったワケ?」

 

マジカル怪盗かりんとして、栄区の魔法少女を助けては去っていく光景をアリナも知っている。

 

今でも最初の気持ちを貫く生き方をしている筈だと考えていた。

 

嫌な予感しかしなくなり、移動速度も早くなっていく。

 

魔獣との戦闘領域に入った彼女が見た光景とは…。

 

「ハァァァーーーーーッ!!!」

 

レナの踏み込み突きの一撃が魔獣を貫き、包囲に穴が開く。

 

「かえで!動きを止めて!」

 

「はわわ…う、うん!」

 

木で出来た湾曲した杖を地面に打ち付ける。

 

地面を砕いて植物のツタが飛び出し、魔獣を縛り上げていく。

 

「おっし!ナイスかえで!それじゃ、一気にいくよ!かりんちゃん!!」

 

「心得ている!我が魔鎌ジャックデスサイズが、貴様ら魔獣の命を盗み取ろう!」

 

三日月の曲線を描く独特な刃をした大剣を構えたももこが跳躍。

 

かりんは体勢を大きく回転させながら両手の大鎌を魔獣に投げつけた。

 

右に囲む魔獣の群れを、ももこの横薙ぎが両断していく。

 

左に囲む魔獣の群れを、かりんの投擲した回転大鎌が薙ぎ払い両断していった。

 

着地したももこだが直ぐに次の魔獣が現れる予感を察知して大剣に魔力を込める。

 

彼女は炎属性魔法を扱える魔法少女…なのだが。

 

「うわわわわっ!!?」

 

炎属性を剣に纏わせる魔力を使ったつもりだったのだが、明らかに魔力以上の炎が宿っている。

 

「毎度毎度驚かされるなぁ…。でも、このよく分からない力は…あたしと相性が良い!」

 

現れ出た一際大きい魔獣に向けて業火が噴き上がる大剣を振り下ろす。

 

炎が大剣から伸びるように放たれ、巨大魔獣は一撃で燃え広がり燃え尽きていった。

 

「流石ハロウィンの精霊!今宵も我の影の守護によって勝利を得られたな!」

 

「そのハロウィンの精霊って、前々から気になっててさ…そろそろあたしにも教えてよ」

 

「ハロウィンの企業秘密なのだ!」

 

「いや…これ絶対にあたしの魔力だけじゃないし!それにいきなり燃えるから心臓に悪いよ!」

 

「さぁ次の後続が来るならば!正義の怪盗マジカルかりんと、その仲間が成敗してくれる!」

 

「やっぱあたし…ハロウィンの精霊ってのに、取り憑かれてる?」

 

大鎌の石突を地面に打ち立て胸を張る勇ましさを見せる正義の怪盗。

 

元気に活躍する仲間を見て、レナとかえでも微笑んでくれた。

 

「あはは…普段のかりんちゃんとはキャラ違うけど、こっちもこっちで元気があって良いよね♪」

 

「やる気満々なのはいいけど、今のが最後みたいだったんだけど?」

 

「ふゆぅ…元気な時は凄いけど、普段は割とへっぽこなんだよぉ?かりんちゃんって」

 

「うっ!い、今はマジカル怪盗だから問題ないの!」

 

かえでの鋭いツッコミを受けて赤面したかりんが、じゃれつくように追いかけっこを始めていく。

 

チームリーダーのももこも安心した表情を浮かべてレナと共にその光景を見守ってくれる。

 

「かえではかりんちゃんと仲良いしなぁ。それにしても…組んでから一ヶ月が過ぎたんだよね」

 

「子供の時間もあっという間に過ぎていくわね。ってか…今のセリフはオバサン臭かった?」

 

「あたしをオッサン扱いするレナも、寄る年波には逆らえなかったってわけだ♪」

 

「レ、レナはまだオバサンじゃないわよ!も~からかわないでよももこったらーっ!」

 

和気あいあいと戦闘に勝利した喜びを分かち合う4人の魔法少女グループ。

 

そんな彼女達を呆然と眺める事しか出来なかった魔法少女が影に隠れていたようだ。

 

「夜でも蒸し暑い季節だと、魔獣狩りはシャワーを浴びた後に終わらさないと体の体臭が…」

 

「やっぱり加齢臭♪」

 

「ももこったら~~!!」

 

「あはは…そう言えばもうすぐ夏休みだけど、かりんちゃんは何か予定は立ててる?」

 

「夏休みは…特に予定は考えてないの」

 

「だったらさ♪私達と一緒に…」

 

その時、和気あいあいとした仲間達の光景を引き裂く声が木霊する。

 

<<御園かりんッッ!!!!!>>

 

突然の大声でびっくりしたももことレナとかえでの姿。

 

その声の主が誰なのかが判るかりんは…震えあがってしまう。

 

振り向けば、立っていたのはかりんと同じ栄区の魔法少女でありアウトサイダーと嫌われる者。

 

「アリナ……先輩!?」

 

現れたアリナの表情は怒りに燃え上っている。

 

彼女が怒る原因ならば、後輩のかりんには分かっていた。

 

「アリナって…あの神浜魔法少女社会のはみ出し者…?」

 

「ふみゃうみゃっ!!こ、怖い顔してこっちに来るよ~!?」

 

眉間にシワが寄り切ったアリナが迫ってくる。

 

3人の魔法少女を無視し、立ち止まったのはかりんの前だ。

 

「ち、違うのアリナ先輩…魔獣は数で攻めてくるから…チームを組んだ方が効率…」

 

言い訳を並べる前に飛んできたのは、アリナの右手。

 

「あうっ!!?」

 

魔力は込めてはいないが力任せのビンタを左頬に受けて地面に倒れ込む。

 

「お、おい!!かりんちゃんに乱暴するなよ!!!」

 

「アウトフィールドの連中は黙ってろ!!!」

 

ものすごい剣幕で睨みつけてきたアリナに対して、ももこもたじろぐ。

 

「う…あぁ…きゃあっ!?」

 

胸ぐらを両手で掴まれ、無理やり引き起こされてしまう。

 

「今のが本音なワケ?アンタは一体何がしたかったのか…アリナにもう一度言ってみろ!!」

 

「あ…あぁ…わ、私は…その…」

 

「アナタがやりたかったのは孤高の変身ヒロインでしょ!?違うだろうがぁぁーッッ!!!」

 

「ごめんなさいアリナ先輩…努力はしたけど私…アリナ先輩みたいに強くは…」

 

()()()()()()()()()()なんて!!()()()()()()んだカラ!!!」

 

泣き出しそうな仲間の姿に耐えられなかったのか、ももこ達が庇うように声を荒げてくる。

 

「もういいだろ!かりんちゃんをチームに誘ったのはあたしだ!責めるならあたしを責めろ!!」

 

「それを選んだのはコイツなワケ!断る自由もあった…でもコイツは妥協した!!」

 

「ちょっとあんた!いい加減にしなさいよ!!後輩なのは判るけど…やり過ぎでしょ!?」

 

「アリナはフールガールにさ…自分に正直になって欲しかった。でも願いは…踏み躙られた」

 

「ぐす…ヒック…私が悪いの…全部…全部私が理想を妥協したから…」

 

「アリナはね…口では善意を言うけど行動が伴わない連中が大嫌い。アナタも同じなワケ?」

 

彼女の脳裏に浮かぶのは、虐めてきた女子生徒達の醜悪な生活光景。

 

専門的学校に入学した癖に、やるべき事もやらずに遊び惚ける道を選んだ妥協した者達の生活。

 

アリナがこの世で最も嫌いな存在達が好んで選んだ妥協行為と同じ事を後輩がやっている。

 

その現実が受け入れられず、憤慨してしまう。

 

「ま、待ってよぉ…!かりんちゃんにもう一度チャンスをあげて!」

 

割って入って来たのは、臆病でも仲間を大切に思う秋野かえでの姿。

 

恐ろしい光景だろうとも、無抵抗で攻められる親友の姿を見せられ続けるのは耐えられなかった。

 

「私達だって…かりんちゃんにそんな事情があったなんて…知らなかったんだよぉ!!」

 

「かえでの言うとおりだ!そこまで厳しい女なら…人は過ちを犯す生き物だって事も判るだろ!」

 

「シャラップ!!引っ込んでろって言ったのが聞こえなかったワケ!?」

 

「過ちを犯す事は恥じゃない!()()()()()()()()()()だ!お前の嫌いな連中もそうだろ!?」

 

「それは……そうだケド」

 

「こんな自分にも他人にも厳しすぎる女…レナ大嫌い!!」

 

「アナタに好かれたいとは思わない。アナタも何か言いたいワケ?」

 

「そうよ!かりんの為に言わせてもらうわ!この子に…もう一度チャンスをあげて!!」

 

懸命な仲間達からの弁明が続く。

 

自分の道を妥協してまで選ぶ程の存在だという事を彼女に感じさせる。

 

反論されて落ち着いたのか、俯いた表情のまま妥協した者に向けて言葉を紡ぐ。

 

「…フールガール。もう一度だけ、アリナに言ってくれる?」

 

――アナタは…何がしたいワケ?

 

泣き崩れてしまっているかりんだが、それでも立ち上がって懸命に叫ぶ。

 

何か一つを選べと言われたら…迷わず選べるものがあったから。

 

「わ…私!もう一度…マジカルきりんみたいに…生きたいの!!」

 

「……もう二度と、他の魔法少女連中と組んだりしない?」

 

「誓うの!!絶対に…絶対に…孤高のヒロインになってみせるの!!!」

 

大事な後輩の悲痛な叫びを聞き届けたアリナの怒りも収まっていく。

 

踵を返して去って行く後ろ姿を見せながら、念を押す言葉を口に出す。

 

「…次に同じ事をしたら、アリナの前に二度と現れないでヨネ」

 

去って行った先輩を見届けたかりんは膝が崩れ、わんわんと泣き出す有様。

 

泣き出してしまったかりんに3人が集まり、肩を抱きしめてくれる優しさを与えてくれた。

 

「よく言ったかりんちゃん!離れても…あたし達はずっと仲間だから安心しろよ!」

 

「この子はへっぽこなんかじゃないわよ、かえで。言うべき時は勇気を出せる子だったわ」

 

「ぐすっ…貰い泣きだよぉ!もう一度チャンスをもらえて…よかったねかりんちゃん!」

 

この日を境にして、孤高の変身ヒロインの道が再び蘇るだろう。

 

それこそが御園かりんの原点。

 

原点を見失えば妥協しか起こり得ないのは天才アーティストならば知っている。

 

だからこそ、大切な後輩にだけは妥協してもらいたくはなかったのだ。

 

……………。

 

魔鎌の柄に座り込み飛翔するのは、泣き晴れた表情を浮かべたかりん。

 

それに追随するように飛翔して追いかけてきたのは、一匹のカボチャ悪魔。

 

「ヒホー…悪魔みたいにおっかない女だったホ。打たれたけど大丈夫かホ?」

 

「ランタン君は…何をやってたの?」

 

「恥ずかしながら…俺も震え上がって、蛇に睨まれたカボチャになってたホ~」

 

「アリナ先輩は…ハロウィンの精霊さんよりおっかないの。でも、本当は優しい人だからね?」

 

暫く沈黙したまま夜空を飛んでいたが、ランタンが横に振り向く。

 

「…これから、どう生きていくんだホ?俺は今まで通り、影で魔法援護してれば良いホ?」

 

「どうしようかな…?私…色々あり過ぎて…考えがまとまらないの」

 

「俺は善行を積んで成仏出来たらなんでもいいホー」

 

「ランタン君と組んでるのがバレたら…でも、ランタン君は精霊だから魔法少女じゃないの」

 

「俺の存在がバレたら…きっと蜂の巣を叩いた騒ぎになるから勘弁してくれホ~」

 

「クスクス♪アリナ先輩の新しいインスピレーションの材料にされたりして?」

 

「ヒホーッ!?あの恐ろしい女に持ってかれるなら俺は街から引っ越すホー!!」

 

「インスピレーション…あっそうだ!思い出したの!!」

 

「何か妙案でも思いついたのかホー?」

 

目を輝かせたかりんはランタンに振り向き、今後の方針を語っていく。

 

「マジカルきりんは孤高のヒロインだけど、精霊が守護してくれてもいたの!」

 

「そういう設定だったのかホ?」

 

「マジカルきりんハロウィン編第4話からの設定なの!後で証拠を見せるの!」

 

「ヒホー、あの漫画は見せられたけど…長編過ぎてあんまり内容覚えてないホ」

 

「これならランタン君と一緒にいても、マジカルきりんとして生きていけるの!」

 

「屁理屈があの恐ろしい先輩に通じるかは知らんけど、俺は付き合うしか無さそうだホ」

 

「えへへ♪これからもヨロシクね!ランタン君♪」

 

新しいかりんの生き方が始まっていく。

 

その道を照らす明かりを灯す存在となってくれたのは、カボチャ悪魔のジャックランタン。

 

握ったランタンを夜空に掲げ、彼女の暗い道のりを照らすようにして導いてくれた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

路地裏で佇むのは、苦しそうな表情をしたままのアリナ。

 

自分のソウルジェムを手に取り、濁った光を見つめていた。

 

「アリナ…ショックが大きかったワケ?こんなんでソウルジェムが濁るアリナも…大概甘いワケ」

 

タイ風ピン付けブローチのようなソウルジェムを襟元のクロスタイに戻す。

 

大きな溜息をつき、路地裏から見える狭い夜空に視線を向ける。

 

「フールガールは…仲間や友達にも恵まれるんだね。アリナとは大違い…」

 

アリナに怒りをぶつけられた仲間を必死に守ろうとした魔法少女達の顔が脳裏に浮かぶ。

 

「アリナは何も得られない…。アリナの美も…魔法少女としての生き方も…同じ価値観の仲間も」

 

かりんに向けての嫉妬の感情が噴き上がり、握り込んだ拳も震えていく。

 

「どうして…アリナの前には現れてくれないワケ?あんな…最高の存在達が?」

 

悔しい感情で目元が潤んでいたのか、右腕で目元を擦る。

 

両目を開けた時、そこにあった筈の光景に違和感を感じた。

 

「えっ…?」

 

広い路地裏の壁際に立っていた自分の前には、小さな占い小屋が現れている。

 

「さっきまで無かったヨネ…?アリナの勘違い…?」

 

目を擦ってみるが、見間違いなどではなく存在していた。

 

<<美しい魂を持つ少女…こちらに来なさい>>

 

小屋の中から響く、妖艶で不可思議な声。

 

導かれるようにしてアリナは中に入っていった。

 

「人か?魔法少女か?あるいは悪魔か?力ある者よ、よく来ましたね」

 

小屋の奥には占い師と思われる女性が占い机の奥の椅子に座っている。

 

占い師の横には、止り木に佇む一匹のフクロウがいた。

 

「アリナを…どうして魔法少女だって判るワケ?」

 

「座りなさい。心の動きを、貴女の魂の傾きを…測ってあげましょう」

 

言われた通り、椅子に座って女性占い師と向かい合う。

 

占い師は水晶に光を灯して両手を翳す。

 

占いなんて信じないアリナだが、謎の占い師をしている女性を見つめていく。

 

(ビューティフルボディ…パーフェクトって、こういうのだヨネ)

 

ファンタジーのソーサレスを思わせるセクシーな占い衣装を纏う女性に見惚れていたようだ。

 

「質問してもいいかしら?」

 

「質問したら、アリナの何かが判るワケ?なら…答えはイエスなんですケド」

 

質問を聞く態度を示したアリナに向けて穏やかな表情を浮かべながら、質問していく。

 

その内容は…子供に語っていいような内容ではなかった。

 

「貴女は人里離れた山奥にいたとする。そこで一匹の獣が今にも人を襲おうとしているのを見た」

 

「……………」

 

「泣き叫ぶ人間と、飢えて痩せ細った獣。人であれば獣を追い払うわね…貴女はどうする?」

 

暫くの沈黙した後、アリナは重い口を開く。

 

「アリナはね……()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「酷い女ね…どうして?」

 

「人里離れた場所。そこには美しい自然の掟がある。ヒューマンの道徳精神は必要としないワケ」

 

「貴女は飢えた獣に人間を食べさせて、()()()()()()()。でも、人間は貴女の選択を許さない」

 

――裏切り者、人でなし、心無き悪魔と罵られ、獣の世界に追い出される事になるわ。

 

自分の選択をたしなめる占い師だが、アリナの表情には迷いはない。

 

「お似合いなんですケド。どうせアリナは…居場所もなければアリナの美さえ見つからない」

 

「だったらいっそのこと…暗闇の獣達の世界に行った方がマシだと考えたいのね」

 

「イグザクトリー。その通りなんですケド」

 

「…貴女はその()()()()()()()()()()()()()故に、人間ではいられなくなる」

 

「……………」

 

「人間社会や魔法少女社会から…追われる事になるわ」

 

覚悟を問う質問。

 

沈黙が続くかと思われたが、アリナは迷いなく答える。

 

「望むところなんですケド。この世界で生きるアリナなんてね……」

 

――何処に行っても、()()()()()()()なんだカラ。

 

覚悟を聞き届けた占い師の口元が不気味な笑みを見せる。

 

「良い返事ね…気に入ったわ。いずれまた…貴女と会うことになるわね」

 

「ねぇ…貴女はいったい…?」

 

占い師に手を伸ばそうとするが、視界がホワイトアウトしていく。

 

意識が気がつけば…自宅のベットの中。

 

「……夢オチ?」

 

狐にでもつままれたような気分になっていくが、妙なリアリティを感じさせる光景。

 

溜息をつき、気分も乗らなかったのか今日の学校はズル休みする事にした。

 

……………。

 

「あの小娘…どう思う?」

 

魔法の力で彼女を自宅にまで運び終えた存在達が口を開きだす。

 

「吾輩が見たところでは、十分過ぎる輝きを持っていた」

 

「流石は閣下が失った第三の目に存在した()()()()()()()()と同じ光を持ちし魔法少女ね」

 

「あの小娘の頭上には閣下の星である()()…明けの明星が輝くに相応しい」

 

「まぁ、暁美ほむらの輝きに比べたら…ただの石ころに過ぎないわ」

 

「閣下に代わり、お前があの小娘を磨いてみたくなったのかね?」

 

「フフ…あの子は私からは逃れられないの」

 

占い衣装のフードを下ろす。

 

そこにいたのは暁美ほむらがアマラ深界で見た事がある人物。

 

鹿目詢子に化けていたと思われる喪服悪魔だ。

 

「閣下のご息女とも呼べる暁美ほむらは、お前の事を鹿目詢子と呼んでいたな?」

 

「そうね。意識して化けたつもりだったけれど…私の姿は鹿目詢子とそこまで似ていたの?」

 

「吾輩もあの人間の女を見た時、瓜二つのように見えた。お前の真の姿と似ていたのだ」

 

「だから髪の色を変えるだけで、鹿目詢子とあの子は間違えてしまったようね」

 

鹿目詢子が前髪に身に着けていた黒いリボンアクセサリーを取り外して捨てる。

 

右指を鳴らせば、頭部の髪は漆黒に染まっていた。

 

ゆっくり両手が前髪と側頭部をかき上げていき、髪をオールバックにしていく。

 

鹿目詢子のフリを止めた女性悪魔が本来の姿を表す。

 

その姿はかつての世界においてはカグツチ塔に現れたことがある存在。

 

かつての人修羅がカグツチ塔で戦った事がある悪魔であった。

 

「我が名はリリス…あの子を終わらない夜の世界へと導く…誘惑の悪魔よ」

 

【リリス】

 

アダムの最初の妻と呼ばれる存在。

 

リリスは星々の自然の摂理によって生まれた原生生物である。

 

リリスはアダム誕生時に神によりエデンに呼び出され、初めはアダムの教育を任されたという。

 

ユダヤ教の宗教文書であるタルムードおよびミドラーシュにおいては、リリスは夜の妖怪である。

 

リリスはシュメール語のギルガメシュ叙事詩に見える女性の妖怪と同一視される存在。

 

また、バーニーの浮彫に当てはめられるとも考えられていた。

 

バーニーの浮彫は特徴的なデザインをしている。

 

脚が鳥の鉤爪になった女神の両脇には、二匹の梟を従えていたのだ。

 

「逃れられない死を貴女に与えてあげるわ…アリナ・グレイ」

 

占い小屋の天幕に入り込んでくる巨大な蛇。

 

リリスに絡みつくように体を登り、蛇を纏う。

 

「そこにこそ、貴女の美が約束されている。それは…()()()()()()()なのよ」

 

古代世界観において、脱皮を繰り返す蛇は死と再生を司る。

 

巨大蛇が、アリナを求めるかのような鳴き声を放つ。

 

彼女の体から溢れ出すのは…魔王とも呼べる程の魔力。

 

「恐れる必要はないわね?だって貴女は…自分の美がそこにあるのなら…」

 

――奈落の底にだって、魔法少女に契約した時と同じく…()()()()()()()()()()なのだから。

 

死海文書4Q184

 

――彼女の門は死への門であり、その家の玄関を彼女は冥界へと向かわせる。

 

――そこに行く者はだれも戻って来ない。

 

――彼女に取り憑かれた者は穴へと落ち込む。

 




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