人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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93話 常盤ななかとの出会い

アフガニスタンやイラクの戦場から帰還した米国兵が精神を病むケースが後を絶たない。

 

戦場で戦友と共有した仲間意識を帰国後は持てなくなるからという分析がある。

 

戦地で残酷な死を目撃し、友を失い、ときには()()()()()()()()()()状況に追い込まれる兵士。

 

過酷な戦場を生き延びた軍人は、なぜか平和な母国に戻ってから精神的に壊れていった。

 

蒸し暑さがまだ残る8月の夜。

 

「うぅ…あぁぁ……」

 

布団の中で苦悶の表情を浮かべた寝顔をした常磐ななか。

 

「ハァ…ハァ…みんな…やめて…私が…どうして……」

 

布団を開け、肌を露出させた姿のまま藻掻くように寝返りをうち続ける姿。

 

寝汗に塗れた体のまま突然布団から飛び起きた。

 

「……また同じ悪夢」

 

部屋に敷いた布団の上で三角座りをして膝に顔を埋めてしまう。

 

「私は独り…ええ…そうですとも。……だって私は」

 

――人殺しなんですもの。

 

生死をかけて闘わねばならない戦地では部隊は仲間として強く団結し、仲間のためなら人を殺す。

 

ところが祖国に戻ってくると()()()()()()()()()()()()されている。

 

分断はそれだけでは済まなかったのは、ベトナム戦争から帰還した兵隊も特徴的だろう。

 

何故なら彼らは()()()()()()と罵られ、祖国の正義のために戦ったのに国民から虐待された。

 

メディア戦術を駆使してお茶の間に米国兵の残酷さを宣伝されたのだ。

 

正義の味方という分かりやすいイメージを剥奪された米国兵。

 

だからこそ支持を失い、()()()()()()()()()()()から罵られる結果となった歴史事実。

 

人は何も考えないし、相手の立場を想像してくれない。

 

正義という()()()()()()()()を求めて…凶暴化する。

 

人を殺したという部分だけを切り取って分断し、差異を産み、差別が始まっていった歴史。

 

全ては()()()()()()という、魔女狩りの頃から変わらない浅慮たる人間の残酷さがあった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

8月は一ヶ月丸々使う仕事拠点引っ越し作業となってしまった尚紀。

 

季節は夏も終わった9月頃。

 

まだ残暑が残る神浜市の南凪区に向け、東京から車を走らせる彼の姿がそこにはあった。

 

「引っ越し作業は丈二もニコラスも含めてようやく終わり。新しい生活もいよいよ本格指導だな」

 

「8月は働き詰めだったわね~お疲れ様ダーリン。仕事ばかりの社会人は辛いわね」

 

聖探偵事務所は現在、東京の事務所を引き払い神浜市南凪区の港にある倉庫街に移った。

 

場所としては神浜市全域地図を見て東南側、海に突き出たエリア付近。

 

そこから東側を見れば、海の向こうには観光地である神浜赤レンガ倉庫街を見渡せるだろう。

 

「ところで、な~んであんた達までついてくるのかしら?」

 

後部座席でゴロゴロしているのは猫悪魔達の姿。

 

「家でニャルソックしてるのも飽きたニャ!」

 

「海が見えるエリアなんでしょ?美しい私が歩き回るに相応しい場所だと良いわね~」

 

「ダーリン、なんでこいつらまで連れてきたわけ?」

 

「連れて行かないと家の中を引っ掻き回すと脅された……質の悪い自宅警備猫共だ」

 

「まぁしょうがないわね……アタシも軟禁されてた時期はフラストレーション溜まったわ」

 

新しい事務所が入った倉庫の前に車を停める。

 

「不満なのは、この倉庫がまだ以前のような改装が施されてないとこだな」

 

電動シャッターではないので、車から降りて手動で開けなければならない。

 

シャッターを手動で開け、車を中に入れて停車。

 

「おう、来たか尚紀」

 

二階事務所に登る階段踊り場にはダンボール箱を持ち、ガレージに降りてきている丈二の姿。

 

「不便だよな~この倉庫……また東京事務所みたいに改装しないとなぁ」

 

「俺もそう思ってたよ」

 

「神浜聖探偵事務所の本格指導はまだ先だ」

 

ガレージまで下りてきた上司がダンボール箱を尚紀に渡してくる。

 

「発注してたポスティング・チラシが事務所に届いてるから、街でポスティングしてきてくれ」

 

「随分な量だな?まぁ、広告は数打って少しの市民に覚えてもらえたら良い方だしな」

 

「なんとか今月中にはチラシを捌ききってくれないか?俺と瑠偉は二階の整理で手一杯だ」

 

「分かったよ。猫の手も借りたいなら貸すことが出来るぞ」

 

「おいおい、お前の家の猫まで連れてきたのかよ?全く、お前は顔に似合わず猫好きだなぁ」

 

ニャ~(力仕事は男の仕事よね?頑張ってねケットシー、私は尚紀の方についてくわ)

 

フニャ~!?(オイラだってそっちのがいいニャ!!オイラは男でも子供だニャ!!)

 

「猫に力仕事は無理だな。事務所整理のバイトは募集しといたから、そいつらに任すさ」

 

「なら俺はこいつを鞄に詰めれるだけ詰めたら出かける」

 

「不審者に間違えられたら逃げろよ。ポスティングバイトは結構勘違いされるからな」

 

A4サイズが入るビジネス用ショルダーバッグに広告を入れ、事務所倉庫を後にする。

 

「う~ん、潮風を感じるわね~。ここってドラマのロケ地とかでも使われてそうな雰囲気ね♪」

 

「何処のエリアから配っていくんだニャ?」

 

「そうだな…取り敢えず周辺から始めるとしたら南凪区だな」

 

こうして神浜市に仕事拠点を移してからの最初の仕事が始まっていく。

 

ポストが設置されている周辺の民家や企業などにポスティングを朝から繰り返す。

 

昼時が近づいた頃には南凪路方面に向かっていく姿。

 

<そろそろお昼の時間だニャー。この中華街って尚紀の顔見知りが多いって本当かニャ?>

 

<ああ。ニコラスの宝石店もこの街に引っ越したし、それに地元の互助組織にも顔が効く>

 

<へぇ~…それと、ネコマタが知らない間に何処かに消えてるニャ>

 

<あのバカ猫…何処かに散歩行きたいとか聞いていないか?>

 

<たしか、前々から新西区にある夏目書房に行ってみたいって言ってた気がするニャ>

 

<遠くまで行くなって言った筈なんだけどなぁ…>

 

南凪路で彼の姿を見つけた人々が笑顔で挨拶をしてくる。

 

南凪路の人々から恩人として受け入れてもらえたような空気を感じさせる光景だ。

 

暫く歩いていると、目の前から知っている人物の姿が見えてくる。

 

「……あ、ナオキ」

 

俯きながら歩いてきた人物とは夏用学生服姿の純美雨(チュン・メイユイ)であった。

 

「もう…いいのか?マスターから聞いたが、随分塞ぎ込んでいたようだが?」

 

「うん…大丈夫ヨ。一ヶ月間も落ち込んで、皆に迷惑かけたネ」

 

「今日は学校から早い帰宅だな?」

 

「夏休みも終わて学校初日ヨ。昼までだたネ」

 

「そうか…まだ本調子じゃなさそうだし、今日は早く家に……」

 

気がつけば、美雨の足元ではケットシーが彼女の足に擦り寄り媚を売る鳴き声を出している。

 

「フフ♪元気ない私を心配してくれるネ?この猫は…ナオキの家猫カ?」

 

「俺も今日から本格的に神浜での仕事を始めるんだが…家猫までついてきやがった」

 

「アハハ♪ナオキは仕事場にまで家猫連れて行くぐらい動物好きだたなんて、知らなかたヨ♪」

 

ニャー(尚紀~オイラそろそろお腹空いてきたニャ~)

 

「お前の昼飯は後で…」

 

「ナオキは昼飯まだだたカ?」

 

「ああ、この街で済ませようかと思って」

 

「なら今日は付き合うヨ。少し…相談もあるし」

 

「ポスティングの仕事中なんだがな…まぁいい。今月中に配りきれれば良いんだし」

 

「残暑も残る暑い時期、元気の源は辛い料理ネ。久しぶりに張さんの店で食事するヨ」

 

「あの激辛プロテインモンスターの店かよ…勘弁してくれないか?」

 

「あの程度で辛いなんて、ナオキの舌は甘党ネ」

 

2人はチャイナタウンを歩き、四川料理を提供する中華料理店筋肉一番の店舗に入る。

 

「おお!英雄のご帰還だな!!聞いてるぞ~ナオキ君!君はこの街の恩人だ!!」

 

「そう思うなら、辛さは手心を加えてくれないか?」

 

「馬鹿野郎!!こんな熱い時期だからこそ唐辛子料理だろうが!!」

 

「俺に選択権は無いのかよ…?唐辛子に取り憑かれてるのか?この筋肉達磨おっさん」

 

席に座り、当然のごとく美雨のオーダーは今日のオススメ激辛料理を注文。

 

「ナオキ君の飼い猫なら無下には出来ねーな!ほら、小さな麻婆だ」

 

ニャー(こいつは美味そう……ニャんか、鼻を突き刺すような刺激臭が?)

 

「俺の分まで注文しやがって…。俺は炎に強くても、味覚にまで耐性があるわけじゃねーのに」

 

「辛い食べ物食べた後の杏仁豆腐が最高ネ♪」

 

2人は食事を終え、向かい合いながら話し合う。

 

「その…ナオキ。会て欲しい人がいるネ」

 

「どんな奴だ?」

 

「私の魔法少女仲間ネ。チームを組んでるメンバーヨ」

 

「おい…美雨。まさかとは思うが、俺の正体をベラベラ喋ったのか?」

 

「違うヨ!ナオキの正体は秘匿したままネ」

 

「秘匿したままなのに、何で俺に興味なんて持つんだ?」

 

「ナオキの活躍を色々と喋たら、どうしても手合わせしたい!って…駄々こねだしたヨ」

 

「俺に手合わせを申し込むってことは…そいつも格闘技か何かをしている奴か?」

 

「空手家ヨ。家の空手道場の看板娘ネ。そして私と古くから魔法少女コンビを組む娘ヨ」

 

空手家と聞いて、以前2人の横で隠れていた時に見かけた人物が頭を過る。

 

「気が乗らねぇ…勘弁してくれないか?」

 

「お預けばかりしていると私と会ている時に、背後から突然試合を申し込まれたりするヨ」

 

「参ったな…適当にあしらえば良いのか?」

 

「それが出来る相手ではないヨ。腕前は保証するネ」

 

「そうか…名前は何ていうんだ?」

 

「志伸あきら。私の二つ下で、参京院教育学園に通う中学3年生の魔法少女ネ」

 

「家の空手道場って言ってたよな?その道場は何処にあるんだよ?」

 

「案内するヨ。勘定済ませたらついてくるネ」

 

「どうせ俺が払うんだろ…」

 

「大人が女子高生に払わせたいカ?」

 

席を立ち上がり、レジに向かっていた時にケットシーのことを思い出す。

 

「……………」

 

舌を伸ばしたまま泡を吹き、痙攣したまま地面に倒れるケットシーの哀れな姿が転がっている。

 

「やっぱりよぉ…もう少しだけ辛さの手心をだな…」

 

「また来てくれよナオキ君!!次は秘蔵の唐辛子を使った特別激辛料理を出すぜ!!」

 

「話を聞けよ!?」

 

ケットシーを抱えた尚紀は溜息をつきながら店から出て行き、美雨の後ろに続いていった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

参京区の一等地にある大きな空手道場の門前に今、2人は立つ。

 

「随分と立派な空手道場だな?」

 

「神浜市にある武術や格闘技を教える道場の中でも、1~2位を争う立派な道場ネ」

 

「それに比べて、マスターのショボい武術館ときたらなぁ…」

 

「長老いたらどつかれるヨ。まぁ、流行らない理由は…この道場と比べたら判るネ」

 

「アポはとってあるのか?勝手にお邪魔するわけにもいかないだろ」

 

「あきらには連絡済みヨ。電話の向こう側から大喜びの声が聞こえたネ」

 

話し込んでいると、道場の方から元気な声が木霊してくる。

 

<<あっ!来てくれたんだね!!>>

 

伝統的な建物をした大きな空手道場の入り口で手を振る人物。

 

銀髪ショートヘアのボーイッシュな外見をした少女が、空手着を着た姿で出迎えてくれた。

 

「ごめんね美雨…ボクの我儘のために相談に乗ってもらって」

 

「いいネ、私とオマエの仲ヨ。ナオキも別に構わないと言たヨ」

 

「いつ言った…?俺はこう見えてポスティングの仕事中なんだが…」

 

「あぁ…美雨に無理強いされた感じ?ごめんなさい…ええと、尚紀さんだよね?」

 

「俺の紹介は済んでるようだな。それで、お前が志伸あきらか?」

 

「あきらでいいです。父が営むこの道場の娘で、ついでに師範代も努めています」

 

「中学3年生で師範代か…」

 

よく見れば、彼女の黒帯には二段を示す線が2つ見えた。

 

ニャ~(口が…舌が…水…いや、辛さ中和のミルクが飲みたいニャ…)

 

「右腕に抱いた猫は…尚紀さんの飼い猫ですか?可愛いな~……なんかこの子弱ってません?」

 

「手合わせに付き合ってやるから、こいつに牛乳を飲ませてやってくれ」

 

「尚紀さんって、可愛い動物が好きなんですね!ボクも可愛いものが大好きなんです!」

 

2人は道場内に案内され、ケットシーはあきらに預けられ住まいの方に向かう。

 

「セイヤ!セイヤ!」

 

道場内では子供たちが空手着を着て元気な声を出し、内弟子指導員の声に合わせ鍛錬に励む。

 

「今は子供空手教室の時間か」

 

「曜日によって年配クラスという風に、地域の需要に合わせた経営をしているヨ」

 

「稽古道具の中に防具やヘッドギアが見えるな?」

 

「あれは選手を目指す門下生用ネ。あきらの流派は顔面有りのフルコン空手だから安全第一ヨ」

 

「なるほど、読めたぞ。マスターの武術館に防具なんてなかったし…怪我人が続出したな?」

 

「聴勁という恐怖心を使う技術磨くための工夫も…安全面という大衆需要向けじゃなかたネ」

 

道場の隅っこで話していると、空手着を着た大柄な人物が近寄ってくる。

 

「おや?もしかして君がうちの娘に義侠心と強さを惚れられた人物かね?」

 

現れたのは、あきらの父である道場師範。

 

2人は抱拳礼を行い頭を下げ、あきらの父も腕で十字を切って頭を下げて互いが礼儀を示す。

 

「俺はあきらの我儘に付き合っている暇は無い社会人だが…成り行き上、来るハメになった」

 

「申し訳ない。あの子は体育会系で勝負事に拘るんだ。道場の男達の世界で育てた弊害かもな」

 

「俺について、あいつは何を期待してたんだ?」

 

「武侠世界に生きる、仁義に溢れた拳法家と絶賛していたよ。だからこそ共に技を磨きたいんだ」

 

「あきら相手の出稽古をやっている暇は無い。多忙な人生を生きているんだ」

 

「そうか…なら、今日は思い切り彼女に胸を貸してやってくれ。手加減など無用だ」

 

「娘の腕前を信用しているみたいだな」

 

「ハハハ!だからこそ、我が道場の看板を任せれる看板娘なのだよ」

 

暫くしてあきらも道場に入り、子供空手教室が終わる時間まで少し待つ。

 

道場内が次の稽古時間までゆとりがある隙間を利用して組手を行おうという流れだ。

 

「尚紀さん、この空手着を使ってくれる?身長もボクとさほど変わらないし、サイズ合うと思う」

 

「遠慮する。俺は仕事着のままで十分だ」

 

「ならせめて防具を身に着けて欲しいんだけど」

 

「いらない」

 

「で、でも…怪我したら大変だよ?」

 

「俺に一発でも良い一撃を入れられたら、お前の好きな品を買ってやる」

 

「ええっ!?本当に?高額品でもいい?」

 

「構わない」

 

「やったーっ!!甘ロリ界で今トレンドの服が買え……なんでもないから、今の忘れてね!」

 

ボタボタと嫌な汗をかく彼女に眉を寄せていると、横から美雨が耳打ちしてくる。

 

(こう見えてあきらは、ラブリー世界で生きるお花畑な娘ネ。あきらの部屋見たらドン引きヨ)

 

「美雨!?尚紀さんに変な情報与えないでよね!!」

 

「どうでもいい、始めるぞ」

 

こうして、成り行き上の組手バトルがスタートする事になったのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

夏用ビジネススーツの上着とネクタイを脱ぎ、鞄と一緒に美雨に預ける。

 

白シャツの腕まくりをしながら道場中央へと彼は進む。

 

あきらと向かい合い、中央で主審を務めるあきらの父も立つ。

 

「ルールは?」

 

「金的、目潰し、急所打ちは禁止。それ以外なら投げようが関節を決めようが構わない」

 

「ポイント制か?」

 

「相手が参ったというか、私が勝負有りと判断するまで続けて構わない」

 

「あきら、お前は防具やヘッドギアを身に着けないのか?」

 

「尚紀さんが防具を着けないなら、ボクも身に着けない。不公平な勝負はしたくないんだ」

 

「あんた自慢のお嬢さんに痣が出来るかもしれないが…構わないのか?」

 

「遠慮はいらないと言った筈だ。うちもこんな大衆路線だが、実戦派であることに変わりはない」

 

「了解だ。……始めるぞ」

 

「向かい合い!礼!!」

 

審判の声に合わせ、互いが礼を行う。

 

「勝負、始め!!」

 

同時に構えた互いが間合いを詰めていく。

 

(隙が全くない……流石は美雨が目標として決めたライバルだよ)

 

瞬き1つ許されない程の緊張感に包まれた道場内の端では、武道仲間である美雨の視線もある。

 

(ボクも恥ずかしい戦いなんて出来ない。小細工は無し…全力で、ぶつかる!)

 

先に動いたのはあきら。

 

「ハァァァーーッ!!」

 

一気に跳躍、飛び蹴りを放つ。

 

横に避ける相手に続けて踏み蹴り。

 

彼女の蹴りは想像よりも重く、受け止めたが後ずさる。

 

蹴り足を地面につき、踏み込み上段回し蹴り。

 

片足をバックステップさせて避ける相手に対し、回転の勢いでさらに上段回し蹴り。

 

尚紀は身を低め避けると同時に前掃腿で両足を狙う。

 

後ずさるあきらに向けて片手をつき、逆立ちしながら二連蹴りの穿弓腿を打つ。

 

「くっ!!」

 

「いい蹴りだ。それでこそ空手家だな」

 

「ありがとう!ボクの一撃一撃には…魂を込めてるからね!」

 

あきらが踏み込む。

 

彼女の左右突きを捌き、突きや肘を返す。

 

あきらは空手の回し受けの要領で両腕を匠に使い、攻撃を捌き続ける。

 

彼女の飛び後ろ回し蹴りを後ろに下がり、続く前蹴りを片手で受ける。

 

踏み込む彼の突きを捌き、左右手刀打ちを繰り出し、体を揺らして避ける尚紀に右突きを打つ。

 

だが、左サイドに入られ右肘打ちが迫りくる。

 

「っ!!」

 

左中段受けで受け止めたが勢いが止められず、彼女の左側頭部に決まる。

 

続く左右の肘打ちを受け止め、右鉤突きを放つが下に避けられる。

 

「ぐぅッ!!」

 

左膝を右脇腹に食らい、彼女は後ずさる。

 

「やっぱり強いね。ボクも美雨に痛みの取り戻し方を教えてもらい、感覚が研ぎ澄まされたのに」

 

「集中しろ」

 

「うん!!」

 

上段、下段と互いの蹴りの応酬。

 

互いが避け、接近して打撃を打ち合い、受け止め合う光景が続く。

 

「セイヤッ!!」

 

あきらの重い右肘打ちを左腕で受け止める。

 

しかし、重い一撃が危うく左側頭部に決まりかけた。

 

続く彼の右肘打ちも重く、お互いが一歩も譲らない。

 

彼女の両手が尚紀の襟首を掴んで上半身の態勢を崩しながらの左右膝蹴り。

 

彼は両手で捌くが後ずさり、彼女の細い腰を掴みながら一気に前に押し込む。

 

両足を広げ踏ん張り、堪えた彼女の掴む手を両腕を回して払う動作。

 

払われた彼女の両腕が引き絞られていく。

 

彼女が最も得意とする技に繋がる動きだ。

 

「ハァァァーーッ!!」

 

払われた両腕を腰に構え、一気に両拳を相手の胴体に突く双手突きが放たれる。

 

だが……。

 

「がぁっ!?」

 

尚紀は体勢を一気に下げながら蹴り足を放つ。

 

右手を地面につき、逆立ちとも言える程の角度から左逆回し蹴りを放つ。

 

左側頭部に踵を食らった彼女は脳が激しく揺れ、足元がふらつく。

 

攻防の果てに生み出された一瞬の隙を、尚紀は見逃さない。

 

跳躍して背中に飛びつき、彼女の腰を両足で蟹挟みしながら右腕を首に引っ掛ける動き。

 

一回転して自分ごと地面に相手を転ばせ、倒れたあきらの左足を掴み逆関節を決めた。

 

「そこまで!!勝負有りだ!!」

 

関節をテコの原理で曲げられた彼女が悶絶していたが解放し、試合の立ち位置に彼は戻っていく。

 

「お父さん!ボクはまだやれるよ!!」

 

「実戦ならお前は即座に片足を折られていた。戦う余力など無い死に体となっている」

 

「くっ……」

 

「悔しい気持ちは判るが、多くの事を彼から学べたな…あきら」

 

片手を差し出す父の手を掴み、立ち上がる。

 

試合の立ち位置に戻ったあきらは尚紀と共に礼を行い組手を終了させたようだ。

 

「どうネ?ナオキの実力は?」

 

「彼は強かったよ…。美雨が言ってた通りの人だったね」

 

「道場の内弟子相手に本気を出せなかったあきらネ。今日は楽しかたカ?」

 

「うん!今日は本気で戦える貴重な経験が出来て、本当に嬉しかったよ!」

 

とある事情というのは、道場の私物入れから感じるソウルジェムの魔力反応が教えてくれる。

 

余程の手練でなければ、魔法少女は素手でも人間相手に大怪我させる危険があった。

 

「本当に尚紀さんは強いね…こんな人間がボクの周りに沢山いたらなぁ」

 

(俺の正体をあきらに語っていないという話は本当のようだな)

 

「気持ちは判るヨ。私だて、鍛錬に共に付き合える実力者に飢えてるヨ」

 

「空手も拳法も…独りで強くなれるもんじゃないからね。ねぇ、尚紀さん…その……」

 

何を言いたいのか直ぐに察したので彼は即答する。

 

「駄目だ」

 

「え~~っ!?ボクまだ何も言ってないよ!」

 

「どうせ出稽古相手になってくれと言いたいんだろ?俺は仕事やNPO法人活動もあって多忙だ」

 

「残念だなぁ…でも、尚紀さんはNPO活動のような社会貢献も積極的なんだね?親近感が湧くよ」

 

「お前も人間社会への社会貢献活動が好きなのか?」

 

「6歳の頃からボクはお人好しな性格でね、頼まれごとがあったら断れないタイプなんだ」

 

あきらは語ってくれる。

 

町内会のボランティアや人助けをしているうちに、こう呼ばれるようになったようだ。

 

参京院のトラブルシューターと。

 

「ようは便利屋か。俺も副業でやってるな」

 

「ボクとお揃いだね尚紀さん♪義を見てせざるは勇無きなり…行動が出来る人を尊敬するよ」

 

「お前も続けるといい。社会主義的な活動を行える魔法少女は貴重な存在だ」

 

「時間空いてる時はいつでも道場に来てよ!楽しみにしてる!」

 

上着とネクタイを身に着けた彼が鞄を肩にかけ、中から一枚広告を取り出す。

 

「そうだ、うちの事務所の広告を貰ってくれないか?」

 

「喜んで。え~と…聖探偵事務所?尚紀さんの本職は探偵さんなんだね~」

 

「うちの仕事は民事のトラブルだ。トラブルは起きない事に越したことはないが、考えてくれ」

 

道場の入り口で待っていたケットシーを足元に連れて、尚紀は仕事に戻るのだが…。

 

「おい、美雨。なんでお前までついて来る?お前の用事は終わったんだろ?」

 

「ポスティングの仕事、手伝てあげるヨ。オマエには本当に世話になてるし…サービスネ♪」

 

「まぁ…足元の猫に頼むよりはマシかもな」

 

ニャー(猫と言えば、そろそろネコマタ迎えに行かないのかニャ?)

 

「忘れてた…たしか夏目書房だったか?」

 

「かこの家がどうかしたネ?」

 

「かこ?」

 

「夏目かこ。夏目書房の娘で家の手伝いもしてるし、私とあきらと組む魔法少女でもあるヨ」

 

「案内してくれないか?もう一匹のバカ猫がそっち方面に行ってる気がするんだ…なんとなく」

 

「お安い御用ネ♪でも、やぱりナオキは偶におかしな事を言い出す不思議くんヨ」

 

道場の門前まであきらが見送りをしてくれる。

 

2人は次なる目的地である夏目書房へと向かっていった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

尚紀が美雨と出会う時間にまで遡る。

 

ここは参京区、水名区にほど近い新西区北側の歴史ある本屋が建ち並ぶエリア。

 

レトロな雰囲気が漂うこのエリアを歩く一匹の白猫の姿がいた。

 

ニャー(確かこの辺に…あったわ!夏目書房はこの店よね?)

 

ネコマタが見上げれば、そこには夏目書房と看板を掲げた店舗。

 

ニャー(ブックハウスカフェも好きだけど、やっぱり蔵書量が多い店が一番落ち着くわね)

 

自分が猫だという事も気にせず、開いている扉を超えて中に入店。

 

ニャー(紙とインクの匂いに包まれた知的空間…癒やされるわ~)

 

店舗内の様子を見てみれば、小さな少女がレジカウンターの奥で座り、読書中。

 

時刻は静かに流れてゆき、お昼ごろになろうとしている。

 

「あっ…いけない、また読書に夢中になっちゃった。お父さんに見つかったら叱られる」

 

どうやら店舗の客がいない時間中に好きな本の続きを読んでいたようだ。

 

家の手伝いを再開するため立ち上がり、蔵書量が多い店舗棚の掃除に向かう。

 

そこで見つけた珍客とは?

 

「えっ?……ええ~~っ!?」

 

白猫が本棚の上に飛び乗り、前足で取り出した古書を前足の爪を使いながら読んでいる光景。

 

店員に見つかったのに気が付いたのか、ネコマタが視線を向けてくる。

 

「きゃ~可愛い~!!丸眼鏡つけた白猫ちゃんが来てくれた!しかも…本を読んでる!?」

 

ニャ?(あらやだ?見つかっちゃった。お構いなく~)

 

「どうしよどうしよ!お父さんや友達に見せたい!写メ撮って良いですか???」

 

ニャー(読書に勤しむ知的美女な私の撮影?フフ~良いわよ~美しく撮影しなさいね)

 

「ねぇねぇ猫さん、貴女も読書好き?読書好きな私のオススメ本があるんだけど~?」

 

ニャー!(古書店店員さんオススメ本?聞き捨てならない情報だわ…案内して!)

 

機嫌よく尻尾を立てながら彼女の後ろをついていき、レジカウンターの上に飛び乗る。

 

「見て下さい猫ちゃん♪私の宝物の本!」

 

ニャ!?(こ、これは…古八式大八郎先生のデビュー作!?吾輩は君であるの初版版!!)

 

突然興奮した白猫が甘えた声を出しながら彼女の手に頭を擦りつけ、見せて欲しいとせがむ。

 

「ウフフ♪猫ちゃんも古八式大八郎先生の良さが判るんだ?良いお友達になれそう♪」

 

カウンターに座り、家の手伝いも忘れて珍客相手に読書会となっていく。

 

時間がどんどん過ぎてゆく夏目書房内。

 

その店舗に向かって歩いてくる2人の存在がいた。

 

「あそこが私の仲間であるかこの家、夏目書房ネ」

 

「雰囲気ある古書店だな。うちのバカ猫が大好きそうな店構えだ」

 

2人は中に入店。

 

「かこ~~いるネ?」

 

「あっ、美雨さん?それと可愛い猫と一緒にいる隣の男の人は…お客様ですか?」

 

「お前の隣にいるバカ猫の飼い主だ」

 

フニャー!(げっ!?尚紀にケットシー!私はこの子との読書会でまだ忙しいのよ!シッシッ!)

 

ニャー(相変わらずの本の虫だニャ)

 

「そうだったんですか?首輪やペット用眼鏡つけてますもんね…ごめんなさい引き止めて」

 

「謝る必要は無い。むしろうちの飼い猫が店の迷惑になったな」

 

「そ、そんな!本に興味がある猫ちゃんだなんて…こんな猫が私欲しかったぐらいです!」

 

ニャ~!(この子は本を愛する私の同朋よ!意地悪言ったら引っ掻くわよ!)

 

<夏目書房の飼い猫になるか?>

 

<そ、それは困るわね…だって悪魔の私の言葉が判るのは尚紀だけだし>

 

渋々レジカウンターから飛び降り、尚紀の足元に移動。

 

「この男が、私が前々から話していたカシマナオキネ」

 

「美雨さんから聞いてます。東京で探偵を営む…凄く強い方ですよね?」

 

「俺の事をどういう紹介の仕方をしたのやら…」

 

「私は夏目かこと言います。夏目書房の娘で、神浜市立大附属学校に通う中学一年生です」

 

「そうか。迷惑ついでだが、この広告チラシを貰ってもらえないだろうか?」

 

鞄から広告を出し、かこに手渡す。

 

「うわ~、嘉嶋さんはやっぱり探偵さんなんですね。神浜に事務所を引っ越したんですか?」

 

「そうなる。うちは民事トラブル専門だから……まぁ、父親に渡しておいてくれ」

 

「判りました。バイバイ猫ちゃん…ええっと、名前とかつけてます?」

 

「白い方はネコマタ、ブルーグレーの方がケットシーだ」

 

「顔に似合わず、可愛い名前をつける奴ネ」

 

「バイバイ、ネコマタちゃん!またうちに来てね♪」

 

ニャー♪(必ず来るわ♪ほら尚紀、私がこの店に迷惑かけたんだし、商品ぐらい買いなさいよ)

 

<迷惑かけた張本人が言うな。だがまぁ仕方ない…何か見つけるか>

 

「ネコマタが迷惑かけたし、本を買わせてもらう。政治や社会ジャンルの棚はどっちだ?」

 

「そんなお気になさらなくても…でも有り難いです。こちらになります」

 

かこに案内され、棚に並べられた書籍を見渡す。

 

読んだことがある書籍や、あまり興味がない書籍を飛ばしていく。

 

隣の棚にある古い長編小説が並べられた棚を見渡していた時、一冊の本に視線が移る。

 

「…罪と罰か」

 

その本を棚から取り出し、かこが待つレジに向かう。

 

「ロシアの文豪フョードル・ドストエフスキーの長編小説ですね」

 

「知らない人物だが、読んでみるよ」

 

「尚紀さんも小説が好きなんですか?」

 

「いや、どんな小説内容なのかは知らないが…ただ、タイトルが気になってな」

 

「タイトルでビビッときた感覚は大事です!私も小説をタイトル買いして大当たり引くんです!」

 

「すまないが、俺は専門書しか読まなくてな。まぁいい、時間が空いた時に読んでみる」

 

「またネコマタちゃんやケットシーちゃんを連れてきてくださいね、尚紀さん!」

 

2人と二匹の猫はかこの店を後にする。

 

「さて、もう日が沈んできてやがる。今日の分を可能な限り配っていくか」

 

「私にも渡すヨ。手伝うネ」

 

「分かった。自分の分を配り終えたらそのまま帰宅して構わない。俺も職場に帰るしな」

 

鞄からチラシの束を美雨に渡し、2人は参京区の民家が並ぶエリアへと向かっていった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

復讐の旅路を終えた日。

 

それが彼女の苦悩の始まりだった。

 

――ねぇ、参京区にいる常磐ななかって魔法少女の話を聞いた?

 

――水名区で魔法少女やってる天音月夜って子が言ってたよね?

 

――魔法少女を…殺したんですって。

 

――酷い…何も殺す必要なんてなかったのに。

 

――そうだよ…いくら悪者でも、痛めつけて反省を促すだけで良かったのに。

 

――人殺しなんて許せません!魔法少女の恥晒しです!

 

――魔法少女は夢と希望を叶える存在…人殺しの外道なんかじゃない!

 

――正義に生きる魔法少女たちに泥を塗ったあの外道女…許せない!!

 

人殺しになった。

 

たったそれだけで…差別される地獄が始まっていったのだ。

 

……………。

 

同じ西側魔法少女である常磐ななかに向けられた西側魔法少女達の激しい嫌悪。

 

正義と人情を愛する西の長の元に集う魔法少女達は、絵に描いたような正義の少女ばかり。

 

多くが人殺しなど行わないし、人殺しを許すつもりなどない。

 

魔法少女はフィクション世界で輝くような存在だと皆が自分達に言い聞かせてきた。

 

それがモチベーションを保つ支えになってくれたからだ。

 

だからこそ…()()()()()()()()()()()()()()()ような魔法少女の存在を激しく憎悪した。

 

「常磐ななかさん。私達の縄張りで狩りを行わないでもらえますか?」

 

「どうしてですか?私達は人間社会に害を為す魔獣を共に倒す者です」

 

「貴女が魔法少女社会に害を為す、人殺しだからです」

 

「……………」

 

「西側社会の魔法少女達はね、貴女の事が大嫌いです。みんな怒ってます」

 

「そ…それは……」

 

「私たち魔法少女の…面汚しだと」

 

「お、お願いです!弁明させて下さい!!」

 

「弁解の余地はありません。貴女の人殺しに関する問題は、西の長にも報告していますので」

 

「お願い…話を聞いて……!」

 

西側魔法少女社会で繰り返される、常磐ななかに対する無視、拒否、拒絶、罵倒。

 

口を揃えて皆が言う。

 

この人殺し!!

 

外道!!

 

人でなし!!

 

面汚し!!

 

人殺しとなった少女に向けられる差別と罵倒の数々。

 

それはある意味、刑務所から出所した犯罪者に向けられる()()()()()()()と酷似している。

 

正義と人情で形作られた魔法少女というフィクション概念を崇拝する者達。

 

それは固定概念となり、崇拝対象となり、それを壊す存在の憎悪へと導かれていく。

 

人は見たいものしか見ないし、信じない。

 

ガイウス・ユリウス・カエサルが残した言葉だ。

 

彼女と同じ苦しみを背負った歴史存在こそが…ベトナム戦争帰還兵達であった。

 

彼女は西側の隅に追いやられ、今では皆に見つからないよう細々と魔獣狩りをするしかない。

 

そんな常磐ななかを、七海やちよが呼び出して話をした日があった。

 

「常磐さん。貴女があの時に…更紗帆奈を殺した存在なのだと、皆に知れ渡ってしまったわ」

 

「……そうですか」

 

「ごめんなさい。月夜さんにきつく箝口令を敷くべきだったわ。今の貴女を皆が怒っている」

 

「西の長であるやちよさんは……どのようにお考えで?」

 

「個人的には許さないわ。人殺しなんて、正義の魔法少女としてあるまじき行為よ」

 

「…貴女も皆と同じ意見なのですね」

 

「でもね、人殺しをした人物だからって、西側魔法少女達で社会的制裁を加えるのは反対よ」

 

「…何故ですか?」

 

「日本の犯罪者が社会復帰出来ない一番の原因はね…()()()()()()()()なのよ」

 

「人は暴力行使を恐れる。その後に待っている刑罰、そして社会的制裁が恐ろしいからです」

 

「判っているのならどうして人殺しを…?」

 

人殺し、心無き外道、正義の味方の面汚し。

 

そんな言葉で差別されようとも、揺るがぬ信念を常盤ななかは抱えている。

 

「やちよさん。視野を広くして考えてもらえませんか?」

 

「視野を広く?」

 

「暴力が許されないのに、なぜ司法暴力ともいうべき死刑制度が日本にあるのかご存知ですか?」

 

「…いいえ、考えたことも無かったわ」

 

死刑は国家の暴力であり廃止すべき。

 

その風潮なら世界中にある。

 

「ですが、日本はグローバル化の波に抗ってでも、守りたい司法暴力の根拠があります」

 

死刑制度の威嚇力は犯罪抑止に必要である。

 

被害者、遺族の心情からすれば死刑制度は必要である。

 

凶悪な犯罪者による再犯を防止するために死刑が必要である。

 

「他にも沢山ありますが…長くなるので割愛します」

 

「全体に対する抑止力のためなら…人殺しも止む終えない、そう言いたいわけ?」

 

「その通りです、西の長。貴女は…何か考えようとは思わないのですか?」

 

「何を考えるですって…?」

 

眼鏡をかける少女の瞳には、差別に苦しみながらも曲げたくない願いが込められている。

 

「魔法少女社会を厳格統制する抑止力になりえる、()()()()()()()()()と聞いてるんですよ」

 

「刑罰だなんて…やり過ぎよ。私達の魔法少女社会は国家機関じゃないのよ?」

 

「私は魔法少女犯罪者を許さない…刑罰を与えたい…でも国は魔法少女に何もしてくれない」

 

――だからこそ…私が殺したのです。

 

――人間社会に牙を突き立てる者は死ぬと皆に分からせる…()()()()()とならんがために。

 

……………。

 

七海やちよは常磐ななかに対し、皆の気持ちが落ち着いて冷静になるまでは大人しくしろと言う。

 

常磐ななかに何のペナルティも与えない西の長に向けて、西側魔法少女達の意見も割れる。

 

大人しくしていようが、周りの魔法少女達の社会的制裁は留まらない。

 

罵倒こそ七海やちよの目が恐ろしくて行われなくなったが、完全に無視される現状。

 

そんな彼女を心配して寄り添ってくれるのは、常磐ななかとチームを組む仲間達。

 

過去に西側魔法少女から悪者レッテル貼りを受けて苦しんだ静海このは達も寄り添ってくれる。

 

そして、常磐ななかと同じ目線で苦しむ夏目かこだけであった。

 

月日は流れ…現在。

 

「今日はこんなもんでいいか」

 

日もすっかり沈もうとしている時刻。

 

「…そろそろ出てきたらどうなんだ?」

 

唐突に彼は後ろに隠れていた人物に向けて背中越しに声をかける。

 

「……………」

 

電柱の後ろ側に隠れている少女がいる。

 

「夏目書房の辺りから付け回していただろ?」

 

「…すいません、大変失礼な振る舞いをしました」

 

物陰から現れたのは、常磐ななか。

 

「俺に何か用事か?」

 

「貴方は…美雨さんが話していた、東京の探偵なのかと思いまして」

 

「東京の探偵なら…何かあるのか?」

 

「そ、その…なんと言えばいいのか…」

 

「要領を得ない奴だな?はっきり言え」

 

「…判りました。では、単刀直入に言います」

 

眼鏡越しに彼の目をしっかり見据え、彼女の口が開く。

 

その瞳には…疑いの感情が宿っていた。

 

「私の固有魔法がこう叫んでいます」

 

――貴方は…私たち魔法少女の()()()()()

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「なに?帰りが遅くなる?」

 

「ああ。ちょっと相談に乗ってもらいたいと言ってきた奴がいてな」

 

「早速広告の効果が出たってわけか。依頼の件か何かか?」

 

「民事に関するトラブルごとだ。俺に対応出来る範囲でアドバイスしておく」

 

「判った。大事になるならうちに来いと言っておいてくれ」

 

スマホの通話を終え、目の前の常磐ななかに向き直る。

 

現在2人はレストランの個室内で向かい合うようにして座っている。

 

二匹の猫はペット禁止の場所だったので外で待機中だ。

 

カフェのような場所では今の時代、企業情報などがSNSに即座に漏れるという弊害がある。

 

こういう場所なら密談に最適だ。

 

政治家が料亭で秘密談義をしているのが良い例であった。

 

「お心遣い、感謝します」

 

「それで?お前は美雨の仲間だというなら、魔法少女なんだろう?俺を倒しに来たか?」

 

「美雨さんは、貴方を拳法家として実力のある人物だと言っていました」

 

「他の連中にも同じ説明をしているようだな…あいつ」

 

「ですが、人間の拳法家が本気の魔法少女の敵になり得るのか…私は疑問なのです」

 

「…何が言いたい?」

 

「貴方はただの探偵であり拳法家…本当にそれだけなのでしょうか?」

 

「……………」

 

疑いの眼差しを向ける少女が、疑いの原因となっている部分に触れてくる。

 

「貴方は本当に…人間ですか?」

 

押し黙ってしまう尚紀だが、大きく溜息をつく。

 

「…どうやらお前の固有魔法は、敵か味方かを判断する事しか出来ないようだな?」

 

「悔しいですが…その通りです。私の魔法は万能ではありません…だからこそ直接伺いたいです」

 

美雨や時女一族以外にも秘密が漏れるのを彼は快く思わない。

 

だが、それでも美雨が仲間として選ぶ程の者ならばと…重い口を開いてくれた。

 

「俺は東京の魔法少女社会ではこう呼ばれている。魔法少女の虐殺者だとな」

 

「っ!?」

 

「お前の固有魔法は正確だ、そしてお前の勘も正しい。俺は人間ではない…悪魔だ」

 

悪魔と呼ばれる未知の存在な上で、魔法少女の虐殺者と名乗ってくる。

 

常盤ななかでさえ、想像する事も出来なかった脅威。

 

それが目の前にいる男の正体であった。

 

「魔獣ではなく…悪魔…?それを裏付けられる何かをお持ちでしょうか?」

 

「悪魔の俺がどうして魔法少女の虐殺者になったのかは…長い話となる」

 

「構いません、お聞かせください」

 

彼は東京において、どんな生き方をしてきたのかを彼女に語っていく。

 

視線を逸らさず、静かに聞き続けたななかが口を開き始める。

 

「貴方は人修羅と呼ばれる悪魔。そして、私たち魔法少女社会に向けて…社会全体主義を望む者」

 

「俺は社会主義者であり、共産主義者だ」

 

正義に陶酔する者を軽蔑する者であり、無関心を許さない者。

 

二度と人間社会に魔法少女の加害行為が行われない()()()()()L()A()W()()を望む者だと語る。

 

その言葉1つ1つが、ななかの心の叫びを代弁してくれる。

 

「俺たち力ある者は、人間社会のためにより平等で公正な社会を目指さなければならない」

 

共同体(コミュニティ)のために魔力や魔法の力は、か弱い人間達のために共有されるべき。

 

彼の思想の1つ1つが、常磐ななかの心の中に染み入っていく。

 

「公平な社会を生み出すため、魔法少女社会の個人主義という名の魔法少女至上主義を滅ぼす」

 

社会そのものを完全なる社会組織化を施す法を生み出す。

 

それこそが、常盤ななかに伝える嘉嶋尚紀の政治思想。

 

人間社会主義である。

 

「そ、それが…共同体主義であり、共産主義…?」

 

「俺達は無力階級たる人間社会の福祉を最優先にする社会全体組織となるべきだ」

 

――もはや俺達に私権はいらない。

 

――1人は全体となろう、全体の幸福こそ1人の幸福である。

 

「1人は全体となり…全体の幸福こそ、私たち1人1人の幸福…」

 

心が熱くなる程の思想に触れた常盤ななかの体が震えていく。

 

「…すまない、長々と喋ってしまったな。お前に俺の思想を押し付けは…」

 

「必要です!!」

 

突然声を荒げて立ち上がる彼女を見て彼も目を見開く。

 

「貴方の思想が…人間社会主義が…神浜の魔法少女社会には必要なんです!!」

 

正義の魔法少女達から差別と抑圧を受け続けてきた少女が吼える。

 

嘉嶋尚紀が提唱する政治思想を心の底から欲しがる態度を示す。

 

「突然何だよ…?何故それほどまでに興奮する?さっきまでの冷静さはどうした?」

 

「あっ……」

 

涙が滲む程に熱く叫ぶ彼女に対し、店員が訪れて声を荒らげないで欲しいと注意を言ってくる。

 

「どうしてお前は…そこまで魔法少女の敵とも言える俺の思想を欲しがる?」

 

「貴方は包み隠さず語ってくれました…。今度は私が…包み隠さず話す番です」

 

彼女が受けてきた苦しみが語られていく。

 

魔法少女となり復讐に生き、アウトサイダーとして扱われた苦しみを伝えられた彼の口が開く。

 

「そうか…お前は魔法少女の加害行為によって…魔法少女の世界に引きずり込まれた犠牲者か」

 

「私…人間のまま生きたかった!何の変哲もない人生を生きたかった!なのに…みんな酷い…」

 

魔法少女を相手に国は守ってくれない。

 

正義を気取る魔法少女達も人間時代の常盤ななかを守ってくれなかった。

 

もう冷静でいられないのか、彼女は心の叫びのままに慟哭の言葉と涙が溢れ出す。

 

「どうして?どうして魔法少女は()()()()()()()しか見てくれないの…?」

 

「ななか……」

 

「どうして無力な人間達の気持ちになってくれないの…?どうしてぇ!?」

 

魔法少女としてではなく、1人の人間として叫ぶ慟哭。

 

尚紀の脳裏に浮かぶのは…東京で殺されていった人間達の光景。

 

己の甘さによって死なせてしまった人間の少女の光景。

 

娘を失った苦しみと、救ってくれなかった人間の守護者を罵倒する母親の光景。

 

全てが常盤ななかと重なっていく。

 

机の上に置かれた彼の手も握り込まれ、震えていく。

 

彼女の無念の感情を心から理解する者として。

 

「……人間としてのお前の叫び、俺の心に確かに響いた」

 

「えっ…?あっ…わ、私……すみません、取り乱してしまって…」

 

「俺の悪魔としての力は、お前のような者達を守るためにこそある。だから約束する」

 

――お前の望みを叶えられる社会作りを…俺は目指す。

 

「正義の味方を気取る魔法少女たち全てを相手に…敵となってでも?」

 

「だからこそ、魔法少女の敵なのかとお前は俺に質問したんだろ?」

 

――答えは勿論…()()()だ。

 

また店員が押しかけてきて、いい加減にしてくれと怒られる始末。

 

「もうこの話はやめよう、店の迷惑だ」

 

「そうですね…長い話に付き合わせてしまって…申し訳ありませんでした」

 

しゅんと項垂れてしまった彼女を見つめる尚紀の口元が微笑んでいく。

 

「常磐ななかだったな?おまえ、晩飯は食べたのか?」

 

「えっ?い、いえ…まだです…」

 

「ならメニュー表をとって好きなもの注文しろ、奢ってやる」

 

「ええっ!?そ、その…迷惑にはなりませんか?」

 

「ドリンクバーもつけていい、何でも注文して構わない」

 

「どうしてそんなに…私に優しくしてくれるんですか?」

 

尚紀が後ろのソファーに深くもたれていく。

 

その表情は心の底から嬉しそうな表情を浮かべてくれたようだ。

 

「やっと出会えたよ…俺の思想を理解してくれる魔法少女に。嬉しかったんだ…本当にそれがな」

 

その言葉が聞けた常盤ななかの表情も明るくなっていく。

 

ようやく人間らしい笑顔が戻ってきてくれた。

 

「わ、私!ドリンクバーで尚紀さんの飲み物も作って持ってきますね!」

 

「適当に頼む」

 

喜び勇みながら、思想を分かち合える友と夕餉を共にするのだが…彼は知らない。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

「ゴハッ!!!?」

 

突然尚紀が倒れ込む。

 

ななかに渡されたドリンクを飲んだ事が原因のようにも見える。

 

「尚紀さん!?飲み物が口に合いませんでしたか…?」

 

ドリンクバーにあった品を全て混ぜ込んだ毒々しい飲み物を一息で飲んでしまう判断の誤り。

 

嬉しい感情によって安堵したために油断してしまったようだ。

 

常盤ななかの()()()()()()

 

危うく彼女の希望を託せる人物を殺しかねない一撃となったようである。

 




読んで頂き、有難うございます。
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