人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
かつて幼い少女は生き残りたいという願いを契約の天使に伝えてしまう。
それによって得られた恩恵は大きく、幼い少女はモデルの世界で生き残り続ける大成功を得る。
だが自分が生き残るなら誰かが死ぬという結果が生まれる現象に苦しむ事になるだろう。
気がつけば2人の尊い命がこの世から消え、自分の願いのせいだと自分自身を責め立てる。
その末に彼女は周りの人間を遠ざける人生を選択したのであった。
2018年の12月頃。
大学入試がもう時期迫り、受験勉強に追われていたのは高校3年生時代の七海やちよ。
魔法少女だけでなく西側の魔法少女社会の長としても生きる彼女は学生の本分を疎かにしない。
今日も遅くまで図書室で受験勉強を重ねた後、学校から帰路につく。
「今年も冷えてきたわね…」
制服の上からピーコートを着てマフラーを首に巻き、寒そうにしながら自宅に向かう。
学校の正門を出た時、水名女学園の女子生徒を見かけたようだ。
「やっちゃん……」
彼女を待っていたのはダッフルコートを着たかつての魔法少女仲間である。
「貴女に用はないわ。さようなら」
「少しぐらい私と話をしてくれたっていいじゃないですか!」
「私は家に帰って魔獣狩りに向かう時間までは受験勉強がしたいの。多忙だから帰るわね」
「なら私も受験生だし、やっちゃんの家で受験勉強したいです」
「ついて来ないで、迷惑よ」
頑なな彼女の横をついていくみふゆが顔を向けながらこう告げる。
「やっちゃん、自分を責め過ぎです」
「お節介よ。余計な事を言わなくてもいいわ」
「今の貴女は自責の念が頭にチラついて、受験勉強さえ捗らないと思いますが…違います?」
昔から勘が鋭い彼女の指摘は的を得ているため、やちよは顔を背けてしまう。
言われた通り、焦って勉強時間を増やしてみても思うように集中出来ない自分がいたようだ。
「貴女と一緒にいたら集中力が増すっていうの?」
「胸の内に溜め込んだ苦しみを吐き出せる相手がいるだけでも疲れがとれて集中力が出ます」
「ハァ…私のことより勉強が苦手な自分の受験の事を心配したらいいのに」
「お互い受験結果が崖っぷちだと言うわけです♪受験はリラックス出来る時間も大切ですから」
「私にリラックス出来る時間なんて必要は……えっ?」
道路沿いを歩いていた時、不意に響いてきたのはバイクのマフラー音。
たいした出来事ではないのだが、何処か気になって横を振り向く。
鈍化した世界。
やちよの目の前を通り過ぎていった美しき存在に釘付けになってしまう。
やちよのように美しい長髪を後ろに靡かせた女性ライダーが横の道路を通過していく。
リッターバイクエンジンの排気音が耳の奥にまで響いて聞き入ってしまう。
エキゾーストミュージックと言われる程、バイクの排気音は人の耳を虜に出来たようだ。
「やっちゃん?」
呆然とした顔をしたまま通り過ぎていったバイクの方角を見つめ続ける。
「どうしたんですか?もしかして、今のバイクに乗ってた女性が気になる?」
「えっ?」
不意に我に返ったやちよはみふゆに振り返る。
「いいえ…乗っていた女性じゃなくて、バイクの音が耳に残って…」
「もしかして♪ああいうカッコイイ女性ライダーになりたくなったんですか?」
「あの排気音を耳で聞けていた時…私の心が何処か自由になれていた気がするの…」
「チャンスですよ、やっちゃん!あれを自分の受験成功のご褒美にしたらいいんです」
「ご褒美?」
「来年の受験で頑張った結果が出せたらバイクに乗りたい!そういう欲を持てたら力も出ます」
「二輪車で走るなんて危ないじゃない?家族だって心配させちゃうし…」
「一度しかないやっちゃんの人生なんです。家族だってきっと理解してくれますよ」
「私の人生…?」
「進まなきゃ駄目です。人間は別れを繰り返すしかないけれど…人生の時間は止まりません」
「私の人生を…進む」
彼女の脳裏に浮かぶ光景とは、孤独であってもバイクに乗って真っ直ぐ駆け抜ける自分の姿。
周りに左右されず、自分の思いのままに、引き返したりせず、陸続きなら何処までも走れる。
自由な世界がそこにはあると思えたやちよの口元が微笑んでいく。
「バイク…いいかもしれないわね…」
「でしょ?明るい兆しが見えてきたし、やっちゃんの家でバイクの情報を色々見ましょう♪」
「貴女は乗らないんでしょ?」
「やっちゃんの後ろに私も乗りた~い♪」
「駄目よ」
「ぶ~!!」
自責の念で留まり続けた人生であるが、鳥になれなくてもバイクに乗れば飛ぶように走れる。
孤独であろうが自由の扉が見えてきた七海やちよ。
そんな彼女が大学受験を済ませてから合格発表をスマホで確認した日。
「やった!どうにか私は神浜市立大学に合格出来たようだけど…?」
久しぶりに笑顔を作る事が出来た彼女の隣には誰がいるのか?
「ウフ…フフフ…よかったですね、やっちゃん…」
「みふゆ…?」
今にも泣き出しそうなみふゆは薬学部志望で頑張ったようだが、結果は悲惨である。
「ウッ…グスッ…落ちちゃったんですよ…わたしッッ!!」
「みふゆ…ご愁傷さま。浪人生活頑張ってね」
「うぇぇぇ~~ん!!やっちゃんのバカ!!家族になんて言い訳したらいいんですか~!?」
近づく春の桜が美しく見える者と見えない者とが分かたれた日となるであろう。
季節は2月へと移り、卒業式を迎えるだけの長期休みに入ったやちよは教習場にいる。
満18歳から取得出来る大型自動二輪免許取得を目指しているようだ。
慣れないバイク操作に悪戦苦闘しながらも努力を繰り返し、試験が近づいていく。
結果発表が電子掲示板に示された時、自分の番号を確認した彼女の表情が喜びに包まれる。
「やったわ!!!」
思わずガッツポーズをしてしまう彼女の姿が結果を示している。
卒業式も終え、近づく大学生活が始まる前に実家に戻った彼女は両親に免許取得を報告。
モデル生活も忙しい中、大学合格の結果を出せた彼女に対して両親も渋々頷いてくれる。
ご褒美としてバイク購入を決めてもらい、両親と共にバイクショップに訪れる。
やちよは迷いのない歩みで欲しいバイクの元へと進んで行くのだ。
「私…このバイクが欲しかったの!」
「カッコいいバイクじゃないか!お父さんも学生時代はこういうバイクに憧れたもんだなぁ」
「貴方の血を引いている娘だってことね。子供っぽいところがソックリよ~」
「わ、私…子供っぽいところある?」
「お父さんに似て、食い意地が張ってるところもソックリよ♪」
やちよが指差したバイクとは、ブルーメタリック色のリッターSSバイクであるR1である。
孤独に打ちひしがられる運命を背負っても前に進める気持ちを取り戻せる日々が始まっていく。
みかづき荘の前でバイクに跨るのは女性ライダーとなった七海やちよ。
レザージャケットを着てヘルメットを被る彼女の新生活が始まる時がくるのだ。
「さぁ、行きましょう。風を感じられる日々が始まるのね」
右足でブレーキペダルを踏み、クラッチ操作と前輪ブレーキを握る。
メインキーを回して電源を入れ、エンジンスタートボタンを押す。
彼女が一番聞きたかった音楽とも言えるエンジンの鼓動音が響いてくれる。
クラッチを切ってギヤ操作した彼女を乗せた新しいパートナーが走り始める音色が響く。
春風を感じながらバイクを走らせる七海やちよの新しい道の景色が広がっていった。
♦
季節は2019年の5月頃、世間はゴールデンウィーク真っ只中の時期である。
神浜市立大附属学校の生徒は休みに入るが、1人だけ忙しそうにしている17歳の少女がいる。
彼女は今、神浜郊外にある免許センターで椅子に座り込みながら腕を組んで瞑想状態のようだ。
「うぅぅ~~むむむ……」
イメージとしては完璧であり、後は結果を待つばかり。
時間は過ぎていき、合格者の発表が電子掲示板に映る瞬間だった。
「カァーーーーッ!!!」
突然両目がカッと開かれ、喧しい声を出しながら立ち上がる。
視線が向かう先の電子掲示板に表示された自分の番号を一瞬で見つける事が出来た彼女が叫ぶ。
「ちゃーっ!!やったよ~私!!原付2種免許取得出来たーっ!!」
大声を上げるものだから周囲の視線が集中し、隣にいた男は気恥ずかしいのかたしなめてくる。
「コラ、鶴乃!!他の人達に迷惑だから大声出すなよ!」
「アハハ~ごめんね、お父さん。つい嬉しくって♪」
「バイク免許が欲しいって言い出して困ったが、出前配達ちゃんとバイクでやれそうか?」
「大丈夫だよ!私の運転テクニックはね~教習所でも最強って言われてたしーっ!」
「店の役に立つから免許取得を許してやったんだし、無茶な走りをするんじゃないぞ?」
「は~い♪それで…欲しいバイクがあるの、お父さん」
ゴールデンウィークも終わり、次の週末にはバイクショップへ向かう。
「コレコレ!このカブが欲しかったの~!」
まるで燃え上がる炎のように赤い色をしたCT125ハンターカブを彼女は指差す。
「最近のカブはお洒落になったもんだ。俺がガキの頃のカブイメージはスーパーカブだったよ」
「ねぇねぇお父さん~いいでしょ~?買って買って~~っ!!」
「ハァァァァ……金額分のお前の働きに期待する」
「ラジャーッ!!」
娘に甘い父親が渋々と財布の紐を緩めてくれる。
由比鶴乃の新しい仕事パートナーをお迎え出来た日となるだろう。
その日から少し過ぎた頃、参京区に古くから存在する中華飯店万々歳の裏側に移る。
「ふんふんふん~~~♪」
庭で何やらバイクを弄り回している鶴乃がいる。
どうやらハンターカブのリアキャリアに出前機を固定させようとしているようだ。
「出来たーっ!!」
スタイリッシュフォルムのハンターカブの後ろには昔ながらの無骨な出前機がドッキング。
チグハグな姿なのだが彼女は満足げであり、そんな彼女の元に歩いてくる人物がやってくる。
「こんにちわ、鶴乃さん」
後ろを振り向けば今となっては魔法少女コンビと言える梓みふゆが遊びに来ていたようだ。
「あ、みふゆ~!見て見て~これがLINEで写真送った万々歳の最強バイクだよーッ!」
「まぁ♪真っ赤なバイクですね。まるで郵便配達のバイクみたい♪」
「配達する品は違うけどね~。これがあれば出前が出来る範囲もググッと上がるよー!」
「でも、やっちゃんみたいにバイクの免許を取得するって鶴乃さんも言い出して驚きました」
にこやかな笑顔を向けていた鶴乃は誇らしい表情を浮かべながらバイクに視線を向ける。
「…あのね、実は店で使うためっていうのは半分の気持ちで、もう半分はやちよのためなの」
「やっちゃんのため?」
「やちよはバイク乗りだしたけど、独りぼっちだし。バイク友達欲しいんじゃないかなって…」
「鶴乃さん…」
「今のやちよに必要なのは自分の罪を毎日考える時間じゃないよ」
皆と明るく過ごせる時間がやちよを救うと鶴乃は信じている。
絶対に独りぼっちにはさせたくないぐらい大切に思っている存在なのだろう。
たとえ拒絶されて遠ざけられようとも大切な仲間だと言ってくれる。
「私もそう思います!それで、やっちゃんにはLINE送ったんですか?」
「いつもは無視されるけど、LINEの返事が帰ってきた!素敵なバイクだって褒められたんだ♪」
「凄いですね♪やっぱりやっちゃんも寂しかったんですよ…独りぼっちは悲しいです」
「それでね、私とツーリングに行かない?って誘ったらね…なんと飛びついてきた!」
最初は乗り気ではなかったようだが、鶴乃がツーリングプランを練ったらホイホイついてくる。
かつての仲間達を誤魔化せるほど七海やちよは器用な役者ではなかったようだ。
「ウフフ、やっちゃんったら♪それで、どんなプランなんですか?」
「多忙なやちよに合わせて日帰りプランを考えたんだ~」
先ずはライダーの聖地と言われる奥多摩周遊道路の自然景色を堪能する。
次はライダーに有名なお蕎麦屋さんでご飯食べる。
近くの多摩川が一望出来る温泉に入るといった鶴乃にしては珍しい普通プランであるようだ。
「まぁ~素敵♪」
「午後からはバイクでさらに東に向かってね、3時のおやつ頃には東京に入るの」
「東京には何をしに向かうんですか?」
「やちよが昔から行きたいって言ってたインスタ映えする有名ドーナツ店でおやつ食べるの♪」
「やっちゃんはドーナツ大好きですからねぇ、喜ぶ顔が見えてきます」
「夕方頃は夕日に輝くレインボーブリッジを眺めてから神浜に帰るって流れになるかな~」
「いいなぁ~。私もついて行きたいんですけど、バイクも免許も持ってませんし…」
「フフフ~大丈夫!私のバイクはシートをロングシートに交換したらタンデムで乗れるよ!」
「じゃあ、私も鶴乃さんの後ろに乗ってツーリング行けるんですね?やった~♪」
「ヘルメットは自前で用意してくれる?バイクインカムもあったら会話が出来るんだよ~」
「いいですね!両方探してみます」
「やちよのスケジュールを聞いてみたけど、忙しいから休みがとれるのは8月の夏場だって」
「やっちゃんは売れっ子のモデルさんですしね。その頃までには私も用意できてると思います」
「楽しみだな~やちよの喜ぶ顔が既に!私には見えてきたよーっ!」
こうして元みかづき荘チームのツーリング計画が始まりながら季節は過ぎていく。
季節は8月の現在まで進み、時刻は早朝となった頃。
「鶴乃さ~ん!お待たせしました」
「おっ?私とお揃いのゴーグル付きハーフヘルメットを選ぶとはお目が高い!」
「アドバイス通り、メッシュジャケットにライディングパンツとシューズも揃えてきました」
「夏は薄着だと日焼けで大変だからね~。それに転倒の危険も考えたら仕方ないよ」
ハンターカブに跨った鶴乃の後ろにみふゆも跨り、前の席の鶴乃の腰に両手を回す。
「よーし!!私達の古巣、みかづき荘に向けて発進~♪」
鳴り響くバイクマフラー音と共に魔法少女達の絆が再生していく旅が始まるのであった。
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朝早くから移動し、神浜から下道を使って奥多摩に向かう二台のバイク。
快晴の下、先を走るやちよのR1と後ろから続く二人乗りのハンターカブが走行を続けていく。
風除けシールド付きハーフヘルメットを被るやちよのバイクにはスマホが固定されている。
地図アプリの音声を耳のインカムで聞き、2人を先導してくれるようだ。
<暑いね~ししょー。まさか夏場のツーリングがこうも蒸し暑いなんてね~>
<季節を体で感じるのがバイク乗りの醍醐味よ。多少の不便も愛嬌だわ>
<やっちゃんの大型バイクも街乗りだと不便そうですけど、不便を楽しんでます?>
<バイクは嗜好品よ。好きなものだからこそ不便も楽しめるわ>
<後悔しながら欲しくない品を買うよりは、欲しいものを買いたいよね~>
<確かにそうですね。私も買わずに後悔するよりは買って後悔したいタイプですね~>
<次の角を右に曲がるわよ>
<了解~~>
走り続けるバイクは奥多摩周遊道路に入る頃合いとなる。
<でもよかったよ~ツーリングの誘いに来てくれて。やっぱり私達は仲間だね!>
<バイク乗りの仲間よ。魔法少女仲間ではもうないわ>
<またまた~、本当は仲直りしたいくせに~♪>
<スピード上げて置いていくわよ>
<待って待って!高速道路に入れない私のバイクじゃ追いつけないよ~!>
<フフ、頑張ってついてきなさい>
<コラコラ、あんまり意地悪しちゃ駄目ですよ~やっちゃん>
走行しているうちに二台のバイクの前方には緑溢れる自然景色が広がっていく。
<わぁ…綺麗な景色。ライダーの聖地と言われるのも頷ける気持ち良さね>
<なんだか体感温度も自然パワーで涼しくなってきたよ!風が気持ちいい~♪>
<バイク乗りの世界ですね~。私も大学合格したらバイク免許取りに行きたいですよ~>
<あら?みふゆもバイクに興味が出たの?ちゃんと管理出来そう?>
<みふゆは私生活だと結構だらしないところがあるからね~>
<普段は放置されて庭に転がる寂しそうなバイクの姿が目に浮かぶわ>
<あ~ん!2人とも私をイジメないで下さ~い!>
<<アハハハハハ♪>>
喜びを分かち合える楽しい時間などいつ以来ぶりなのかとやちよは考えてしまう。
(本当に懐かしいわね…。かなえ、貴女も生きていてくれたらきっと…私の前を走っていたわ)
やちよの前方景色の世界には彼女と同じ大型バイクに乗った雪野かなえの幻が浮かぶ。
奥多摩周遊道路の景色を堪能し、バイカーもよく訪れるお蕎麦屋さんにバイクを停車させる。
3人は暑い季節の風物詩であるざる蕎麦を注文して舌鼓を打つ。
「美味し~っ!!このお蕎麦は私が最強認定するよーっ!!」
「本当ですね~。これならモリモリ食べれそうですよー♪」
「暑い時期の風物詩と言われるだけあるわね。バイクに乗ってて良かったと思える瞬間よ」
「よーし!今年の受験こそ絶対に合格して、私も来年はバイク免許を取ります!」
「浪人生活は順調かしら?予備校に通っているんでしょ?」
「ええ。それに強力な助っ人も現れてくれたんですよ~」
「強力な助っ人?」
「中央でリーダーを努めているひなのさんを知ってますよね?彼女が勉強指導してくれます」
「あの子も今年は受験だったわね。お互いに受験生だし、気が合うのも判るわ」
都ひなのは魔法少女社会のリーダーとしては西にも東にも与しない中庸の者。
どちらも差別せず、西側社会の魔法少女にも良くしてくれる人物なのだろう。
「もしかして、頼れる彼女に泣きつきに行ったとか?」
(ギクッ)
ボタボタと嫌な汗をかき始めるみふゆを見た者達は苦笑いしてしまう。
「アハハ♪その表情は図星だね~みふゆ♪」
「うぅぅ…だってだって!みやこさんは魔法少女の中でもずば抜けた理系少女ですし!」
「物理と化学を選択しているみふゆにとってはお釈迦様みたいなものかもね~」
「彼女がついているのなら2人とも合格出来るわよ。先にライダー世界で待ってるわね」
「みふゆに似合うバイクも一緒に探してあげるよ~!来年も3人でツーリングに行こうね!」
食事を終えた3人はバイクを走らせていき、多摩川が一望出来る温泉に到着する。
更衣室で衣服を脱いでいる3人であるが、鶴乃が横のみふゆに顔を向ける。
「うわ~、みふゆの胸はいつ見てもパンパンだよ~!」
「鶴乃さんだって結構大きいと思いますよ?」
「私は控えめな方が良かったかな~。スポーツブラで揺れを制御しても靭帯に負荷がかかるし」
胸が大きい苦労を語り合う2人であるが、隣の人物からは因縁オーラが噴き上がっていく。
「2人とも…胸の話題を私の前でするなんて…いい度胸ね」
鬼の表情を向けてくる彼女を見た者達がボタボタと嫌な汗を噴き出してしまう。
「「あっ…すいませんでした」」
隣にあったのは枯れた大地をしたやちよの胸。
不穏な空気を出すやちよに対して2人は深々と頭を下げてしまう。
多摩川が一望出来る絶景を堪能しながらの楽しい入浴タイムが始まっていく。
「あぁぁぁ…夏の温泉も汗だくになれるバイク乗りにとっては格別だよね~」
「そうね…またバイク乗りとしての喜びに目覚めたわ」
「あ、サウナもありますよ~。後で入りましょうよ♪」
「よ~し!誰が最後まで残れるか勝負勝負~!」
「のぼせて走れなくなるからやめなさい。午後からのツーリングもあるんだし」
「大丈夫!隣の冷水に飛び込んで火照りを冷やすから!」
「風邪を引いても知らないわよ」
温泉を堪能した3人は浴場から出た後、施設内で瓶のコーヒー牛乳やフルーツ牛乳を飲む。
「あれ?みふゆは何処?」
「あそこのマッサージ機を使ってるよ」
2人が近づけば何とも言えない気持ちよさそうな表情を浮かべるみふゆが座っている。
「私は結構肩こりしやすくて…やっぱり胸が大きいと不便ですね~」
人は過ちを繰り返す。
墓穴を自ら掘ってしまった浅はかな女性に待っていたのは制裁なのだ。
「……そう、ならもっと肩こりをとらないとね」
「あっ!やっちゃんリモコンで何を…あイタタタ!!?」
「最大にしておいたから、どうぞごゆっくり」
「あはは…肩こりよりも痛そうだね」
背中を強烈にマッサージされたみふゆを乗せた鶴乃はやちよの後を追いかける光景が続く。
<後はひたすら東京に向かって走るだけよ>
<やちよのスマホ案内があるから便利だね~。もうカーナビの時代じゃないのかも>
<運転に疲れた頃には東京についてますよ。小腹が空く丁度いいタイミングです>
3人は道中で見かけた美しい景色を撮影しながら東京を目指す。
そこは彼女達にとっては初めての土地となる場所であり、知らない魔法少女社会が存在する。
危険な縄張りであるとも知らず、彼女達は楽しいイメージを浮かべながら走行して行った。
♦
東京に入った者達が目指すのは渋谷区にあるインスタ映えすると人気のドーナツ店である。
<うわ~神浜以上に人や車が多いね~。流石この国の首都だよ~>
<神浜の人口は約300万人だけど、東京はその4倍だって聞いたわ>
<地方では人口減少が止まらないけど、地方から人が流れて大都会だけは人口増加するんです>
<日本の総人口はこれからどんどん減り続けるって…お父さんも言ってたっけ>
<嫌な時代よね…若者達が先に希望を見いだせない時代なんて…>
<それに今年の1月にあったあの事件…酷かったよね>
<1・28事件ですね。それに去年のクリスマスに米軍爆撃機が行った東京空爆事件…>
<悲惨過ぎるわ…東京の人達。辛く苦しいはずなのに…それでも経済のために働いているのね>
<社会に緊急事態が起きて自粛を強制されても、経済を回さないといけないんですよ…>
<そうだね…経済が回らないと焼け野原みたいに路頭に迷う人達だらけになると思うよ…>
<人間社会に訪れる突然の混迷と混乱。人間達の心は未だ暗雲に包まれてると思うわ…>
<だから魔獣の増殖が止まらないんです。人間社会の問題と魔法少女社会の問題は繋がります>
重い空気となりながらも道路を走行して行く。
そんな中、ツーリングを楽しみたかった鶴乃が気を利かせて明るく振舞ってくれる。
<まぁまぁ2人とも。今日は楽しいツーリングだし、暗い話題は無しにしようよ>
<そうね、もうすぐ渋谷区に入るわ>
代々木公園近くにあるドーナツ店に向かうため、近くにある有料駐車場にバイクを止める。
徒歩で目的地に向かう3人は店を見つけて中に入り込む。
「いらっしゃいませ~」
店員の元気な声で出迎えられた3人はメニュー表に目を通す。
「うわ~…凄く個性的なドーナツばかりよ!こんなの神浜の店じゃお目にかかれないわ!」
「あははっ♪ドーナツが大好きなやちよだから目を輝かせるって期待してたんだ~」
「ありがとう鶴乃、気を使わせてしまったわ。どれにしよう…なんなら全部食べてもいい?」
「やっちゃんの食い意地入りました~♪お腹を壊さない範囲でなら好きなの食べましょうか」
「むむむ…ピコーン!万々歳新メニューの天啓が閃いた!うちも個性的な肉饅を出そう!」
「個性を追求するよりも、何を食べても同じ味付けの腕前をもう少し上げたほうが…」
3人は気に入ったドーナツをそれぞれ注文する。
持ち運ばれた品の写メを撮影した後、美味しく頂いていく光景が続いていく。
満足した彼女達が店から出てきて有料駐車場まで歩いていた時だった。
<やっちゃん>
3人の背後から感じさせてくるのは複数の魔法少女の魔力であろう。
<分かってるわ。背後からでも敵意を剥き出しにしてくる程に殺気立ってる…>
<どうしよう…?なんで魔法少女が魔法少女を襲いに来るわけ?同じ魔獣と戦う仲間なのに…>
<縄張り意識が強い魔法少女社会が東京にあったのかもしれないわ…>
やり過ごそうと長い時間をかけて遠回りしながら歩き続けるが、追手は諦める気配がない。
<どうしても私達を逃さないつもりね…>
<仕方ありません、あそこに路地裏があります。人通りが多い場所では相手出来ませんよ>
3人は路地裏に入り込み、開けたエリアで立ち止まった後、後ろを振り向く。
そこには渋谷区を縄張りにしている魔法少女ギャング達が立っているのだ。
「あんたら余所者だろ?ここはあたし達の縄張りでさ、無断侵入するなら出すもの出しな」
「カツアゲ?東京の魔法少女達は随分と品がいいみたいね?」
「私達は魔獣と戦う仲間同士ですよ。どうして争わないとならないんですか?」
「別にグリーフキューブの取り合いがしたいわけじゃない」
「なら、何が目的だと言うわけ?」
「あんた達が勝手にあたし達の支配地域に侵入してきたんだし、通行料ぐらい貰わないとね」
「ここは公共の場だよ!他所の魔法少女が遊びに来たぐらいでどうしてそんな理屈になるの!」
「うるさい!!あたし達はね…苛ついてるんだよ!」
敵意を隠さず声を荒げる東京の魔法少女ギャング達。
彼女達の怒りの原因とは果たして縄張りを侵害したというだけなのか?
「東京で好き勝手出来なくなったんだよ…あたし達!!」
「やり場のない怒りを…魔法少女にでもぶつけないと気が済まないんだ!!」
「そうさ!あの悪魔みたいな男は…魔法少女同士の殺し合いなら文句を言わない!」
「人間様さえ無事ならそれでいい奴だから!!」
彼女達が叫ぶ内容は事情を知らない神浜の魔法少女達が聞いても要領を得るはずがない。
「悪魔みたいな男ですって…?」
「カツアゲなんて本当はどうでもいいんだよ…あたしらのストレス発散として死んでくれよ」
東京の魔法少女ギャング達が左手にソウルジェムを掲げて変身していく。
怒りを叩きつける魔法武器であるスパイククラブを生み出して構えてくる。
もはや戦闘は避けられないと判断した神浜の魔法少女達は覚悟を決めるだろう。
「いくわよ…後悔させてあげるわ」
やちよ達も左手にソウルジェムを掲げて魔法少女になりながら武器を構える。
一瞬即発の状況であったが、場の空気を壊す勢力が現れる。
「おいテメェら!!勝手な真似してんじゃねーぞコラァ!!」
突然建物の上から跳躍して現れたのは目黒区を縄張りにしている魔法少女ギャング達だ。
「なんだテメェら!?ちょっかい出してんじゃねーぞ!!」
「魔法少女同士の殺し合いならあの男は…人修羅は!!文句言わないだろうがぁ!!」
敵意の矛先が違う勢力に向けられていく。
神浜の魔法少女達は混乱しながらも彼女達が叫ぶ言葉に耳を傾ける。
(人修羅…?その男はどうしてこんなにも東京の魔法少女達に恐れられているの…?)
「テメェらがそんな器用な戦い方を出来るわけねーだろうが!!」
「東京でも評判の血の気の多いギャング共だろ、お前ら!!」
「見張らせてもらってたんだよ!不本意だけどね!」
「人間に1人でも犠牲者が出たら、アタシら全員…連帯責任で悪魔に殺されるのよ!!」
「この東京の魔法少女社会が社会全体主義に支配されちまったのを…忘れたわけ!?」
違う勢力は人修羅がもたらした全体主義政治体制に恭順の意思を示している。
だが東京の魔法少女全てが人修羅の政治体制に従う意思を示すはずがない。
「そんなの知るか!!あたしら以外の他の連中が人修羅に虐殺されようが、どうでもいいよ!」
「へぇ…?なら、あんたらの命もどうでもいいし」
「あの悪魔に感づかれる前に…お前らを処分してあげる!!」
突然始まってしまった東京の魔法少女ギャング達の抗争バトル。
しかしこれは現場から逃げ出すチャンスでもあろう。
「逃げるわよ!みふゆ!鶴乃!」
「こっちです!!」
「訳が分からないよぉーーッッ!!」
表通りまで走る彼女達の横の壁には渋谷区を縄張りにする彼女達のチームエンブレムがある。
それを大きく塗り潰すかのように塗装されたものとは共産主義の象徴である赤い星。
人修羅がもたらした人間社会主義が東京の魔法少女社会を蹂躙しているという証なのだ。
3人はどうにか争いの現場から逃げ出し、魔法少女姿から元の姿へと戻る。
「直ぐに駐車場に戻りましょう。出来るだけここから離れたほうがいいわ」
「ならレインボーブリッジだけでもバイクで見物しながら帰ろうよ!」
鶴乃に振り向けば、せっかくの楽しい旅を台無しにされた事によって涙が浮かんでいる。
「こんな後味の悪いツーリングの締めくくりは…私は嫌だから」
彼女に気を使われてツーリングに連れて行ってもらえたやちよは辛い彼女を気遣ってくれる。
「…分かったわ。取り敢えず、今直ぐ渋谷区から離れましょう」
3人は駐車場まで走り、料金精算を済ませてからバイクを発進させていく。
向かった先は行く予定であったレインボーブリッジのビューポイント施設であろう。
船をモチーフにしたショッピングセンターの駐車場にバイクを停め、デッキに向かって行く。
嫌な汗をかいた3人が休憩場で座り込み、一気に疲れが出てしまう。
「はぁ…最悪。修学旅行中に地元のチンピラに絡まれたような気分だわ…」
「本当ですね…やっちゃんは例えが上手です」
「気分を変えたいから、私が何か美味しい飲み物を買ってくるよ」
「悪いわね…鶴乃。せっかく温泉に入ったのに、また汗だくになってるし…」
ショッピングセンター内の店舗に向かった鶴乃を見送りながらも2人は向かい合う。
「あのチンピラ魔法少女達が言っていた人修羅と呼ばれた男って…なんなのかしら?」
「さぁ…?東京の魔法少女達を震え上がらせる程の男の人なんて…存在するんですか?」
「考え辛いわね。男である魔獣だろうが魔法少女が集団を組めば恐れるほどではないし…」
「魔獣とは違う存在?それに…東京の魔法少女社会に敷かれた社会全体主義って何ですかね?」
「個人の自由を暴力と恐怖で束縛して、魔法少女達を魔獣討伐以外で魔法を使わせない体制?」
「それに連帯責任なんて物騒な事も言ってましたね…」
「魔法少女の自由を互いが監視しなければ連帯責任を課されて虐殺されるだなんて酷過ぎるわ」
「まるで…ソ連の全体主義相互監視社会ですね」
「行き過ぎた暴力抑止力よ…そんなの。魔法少女の人権侵害だわ」
「そうですね…私達だって個人1人1人の自由があっていいと思います」
彼女達は犯罪抑止とプライバシー問題のジレンマがある事を知らないのであろう。
監視は人権侵害として問題視される。
その一方で人権侵害が一切起こりえない社会は人権侵害を監視する社会でしか実現出来ない。
「監視行為なんて国家の行き過ぎた暴力的行為よ」
「いつの間にか
「社会秩序と個人の自由という概念は…神浜の西の長を務めてきた私も悩まされたわ…」
「2つを天秤にかけた時…私達魔法少女はどちらを優先するべきですか?」
「私にも…分からない。いくら悩んでも…答えは出てこなかったわ」
「きっと答えなんて…無いのかもしれませんね。どちらに傾いても弊害だらけです…」
政治について真剣に考えさせられる者達が暗い表情となっていた時、やちよが驚きの声を出す。
「キャッ!?」
重い空気を解いてくれたのはやちよの後ろからジュースコップを両頬に押し付ける人物だろう。
「冷たいじゃない、鶴乃!」
「難しい話はやめようよ。私達は神浜魔法少女だし、東京の魔法少女社会に口出し出来ないよ」
そう言った鶴乃は2人分の飲み物を手渡してくれる。
彼女の気遣いを無駄にはしまいと2人は社会議論を中断してくれたようだ。
「そうね…考え込んでも違う街の話よね。鶴乃はジュースを買わなかったの?」
「えへへ、喉が乾いてたから先に飲んじゃった♪」
時刻は既に夕方であり、日没までもう直ぐだろう。
潮風を感じられる場所に来た者達が夕焼けに染まるレインボーブリッジを静かに見つめ続ける。
「ねぇ…やちよ。楽しかった?」
「えっ…?」
「またツーリング、みんなと一緒に行こうね。絶対に…」
辛い現実を浴びせられようとも、隣で優しく微笑んでくれる仲間がいてくれる。
鶴乃の優しさによって心が雪解けるように温かくなり、拒絶する気も起きなくなっていく。
「…そうね。また…いつか」
「ねぇ、2人とも。レインボーブリッジを背景にして記念撮影しましょうよ」
「あっ、ちょっとみふゆ!」
みふゆは道行く男の人に声をかけて記念撮影をお願いする。
「ほら~やちよは真ん中だからね~!」
「ちょ、くっつき過ぎよ!?2人とも!」
「私達はやっちゃんを離しませんからね♪絶対に…」
「2人とも…その…今日は誘ってくれて……ありがとう。本当に……嬉しかったわ」
スマホで撮影された記念写真に映る者達の表情にはわだかまりなど映っていない。
昔の魔法少女時代に戻れたかのような満面の笑みが広がってくれているのだろう。
下道を走行しながら神浜に帰宅していくのだが、トラブルが起きる。
<あっ…?ど、どうしよう…>
<どうしたの…みふゆ?何か忘れ物?>
信号停止中に突然みふゆが慌てだし、二台のバイクは路肩で停止する。
事情をみふゆから聞いたやちよと鶴乃も驚きを隠せない。
「えっ!?リュックのチャックを閉め忘れてて…入れてた財布を落としたかもしれない!?」
「多分…自販機休憩していた時かもしれません。チャックを締め忘れたのかも…」
「自販機休憩はだいぶ前よ…そこから走行してきたし…何処で落としたか検討もつかないわ…」
怖くなって涙目となるみふゆがやちよに縋り付いてくる。
「どうしよう…やっちゃん!鶴乃さん!お小遣いだけでなく個人情報の品も入ってるのに!!」
「困ったわね…取り敢えず、道路緊急ダイヤルに電話を…」
慌てていた時、3人娘の元に近寄ってくる男が現れる。
その手には女性が使うような財布が握られているようだ。
「おい、お前らか?積載物の転落・飛散の防止措置義務を怠った連中は?」
声がした方に振り向けば、紺色の作業服を着た少年のような見た目をした青年がいる。
みふゆが彼の手に視線を向けると安堵の声を漏らす。
「あっ!私の財布です!もしかして、走りながら追いかけて…持ってきてくれたんですか?」
「俺がタバコ休憩していた時に、道路に目を向けていなければ…どうなってたと思う?」
「えっ…?」
「お前は後続車に落下物を与えて事故を起こさせる危険を起こした者として、罰せられてたぞ」
「そ…そんな法律もあったんですね?私…うっかりしていました…」
「あちゃ~…私もバイクに乗る時は気をつけないとだね…」
「本当にありがとうございます!おかげで私…財布の中身を悪用されずに済みました!」
「友達の不注意で手間を煩わせてしまって、すみませんでした。私達も今後は気をつけます」
「そうしたほうがいい。それじゃ、俺は行くぜ」
みふゆに財布を渡した男を見送った者達が顔を向け合って安堵する。
「親切な人に見つけてもらえて良かったね、みふゆ」
「全く、しょうがない子ね。でも、バイク乗りとして私も気をつけないとね…」
「うぅぅ…ごめんなさい、2人とも。迷惑かけました…」
「社会に迷惑をかけてはいけない、行う者は罰する。これもさっきの話と通じる気がするわね」
「法律って…社会で生きる皆を守るために法を犯す存在を抑止する…
みふゆの言葉を聞いたやちよは神浜魔法少女社会の長として強く考えさせられてしまう。
治世を行う者が社会ルールを作るのは何の為なのかを迷い出す。
「社会って…
気を取り直した者達がバイクを発進させて遠ざかっていく。
その頃、みふゆに財布を届けに行った男はコンビニまで戻ってくる。
休憩してたコンビニの駐車スペースには引っ越しで使うトラックが停車しており、丈二もいる。
「尚紀、落とし物はちゃんと届けてやれたか?」
「ああ、ちゃんと渡してきたよ」
「教習所の怠慢だな。運転だけでなく、社会で乗り物を扱うための法律を教えやがれってんだ」
「そうだな」
「バイクや車っていうのはな、人間を簡単に殺戮出来る力に化ける。だから縛るルールがいる」
「正しい法によって罰せられる社会となれば、バイクや車は
――それこそが、俺の求める社会主義の概念さ。
♦
「バイクは乗らない人が思うほど危険ではないけど、乗る人が考えるよりも安全ではないわね」
夜のみかづき荘のリビングでは旅から帰ったやちよがソファーにもたれ込んでいる。
旅の思い出を撮影したスマホ画像をコンビニでプリントし、写真として持ち帰っているようだ。
座り込んだまま両目を瞑ると耳の奥には心地よいエンジン音とマフラー音が蘇っていく。
体で感じた風の感触、季節、時には不便に思うけれど自由を感じさせてくれる。
何よりも嬉しかったのは机に置かれた写真の光景や今日を楽しんだ記憶の数々。
奥多摩周遊道路を走行していた時の出来事を思い出す。
対向車線を走行していたドライバー達が片手を上げ、旅を祝福してくれた事が嬉しかった。
綺麗な多摩川を眺める事しか出来なかったが、自由な余白を感じられた事が嬉しかった。
自責の念に蝕まれ、独りぼっちで佇んでいた自分の人生が迷わず進んでいったのが嬉しかった。
そして最も嬉しかった記憶とは、かつての仲間達の優しさであろう。
彼女にバイクを勧めてくれたり、ツーリングに誘ってくれた最高の友達。
大勢の人々から独りぼっちで佇んでいた自分に喜びを与えてくれたのが嬉しかったのだ。
「人が跨がらないと自分独りでは立ち上がれないバイク…まるで私みたいね…」
――バイクに乗れて…本当によかった。
そんな言葉を呟きながら彼女は静かな寝息を立て始めていくだろう。
今となっては彼女の生活そのものとなっていく愛車のバイク。
今日も彼女はモデルの仕事場である撮影場に向けて愛車を走らせる。
「私が暮らすみかづき荘。
風を感じながら何処までも続く道のりだって走りきれる自信を手に入れる。
風を切り裂き、1人であろうとも真っ直ぐ突き進むその姿は自身が振るう武器に似ている。
彼女の迷い無き槍の一突きそのもののようにも見えるだろう。
静か過ぎるみかづき荘のリビングにあった写真を飾るスペースは大幅に拡張されている。
そこに飾られる写真はこれからもどんどん増えていくだろう。
かつての魔法少女達との思い出だけではない。
バイク乗りとして大勢の人々と触れ合えた喜びの形が残されていくのであった。
読んで頂き、有難うございます。