人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

96 / 398
95話 トゥルーライダー

かつて、幼い少女は契約の天使にこう願った。

 

――生き残りたい。

 

それによって得られた恩恵は大きかった。

 

幼い少女はモデルの世界で生き残り続ける大成功の道を進む。

 

だが、少女は気がついていない。

 

自分が生き残るなら、誰かが死んで去るという結果をもたらす事に。

 

気がつけば2人の尊い命がこの世から消えた。

 

彼女はそれが自分の願いのせいだと気が付くこととなる。

 

己を激しく責め立て、自身を激しく呪っていく。

 

そして彼女は…周りの人間を遠ざける人生を選択した。

 

……………。

 

2018年12月時期。

 

大学入試がもう時期迫り、受験勉強に追われていたのは高校3年生時代の七海やちよ。

 

魔法少女として、西側の魔法少女社会の長として生きる彼女だが学生の本分は疎かにはしない。

 

今日も遅くまで図書室で受験勉強を重ね、学校から帰路につく。

 

「今年も冷えてきたわね…」

 

制服の上からピーコートを着てマフラーを首に巻き、寒そうにしながら自宅に向かう姿。

 

学校の正門を出た時、水名女学園女子生徒の姿を見かけてしまう。

 

「やっちゃん……」

 

彼女を待っていたのはダッフルコートを着た姿をした、かつての魔法少女仲間。

 

「貴女に用は無いわ。さようなら」

 

「少しぐらい私と話をしてくれたっていいじゃないですか!」

 

「私は家に帰って魔獣狩りに向かう時間までは、受験勉強がしたいの。多忙だから帰るわね」

 

「なら私も受験生だし、やっちゃんの家で受験勉強したいです」

 

「ついて来ないで。迷惑よ」

 

頑なな彼女の横をついていく、みふゆの姿。

 

「やっちゃん、自分を責め過ぎです」

 

「お節介よ。余計な事を言わなくてもいいわ」

 

「今の貴女は自責の念が頭にチラついて、受験勉強さえ捗らないと思いますが…違います?」

 

昔から勘が鋭い彼女に溜息をつく。

 

言われた通り、焦って勉強時間を増やしてみても思うように集中出来ない自分がいた。

 

「貴女と一緒にいたら、集中力が増すっていうの?」

 

「胸の内に溜め込んだ苦しみを吐き出せる相手がいるだけでも、疲れがとれて集中力が出ます」

 

「ハァ…私のことより、勉強が苦手な自分の受験の事を心配したらいいのに」

 

「お互い受験結果が崖っぷちだと言うわけですね♪受験はリラックス出来る時間も大切ですから」

 

「私にリラックス出来る時間なんて必要は……えっ?」

 

道路沿いの帰宅道を2人が歩いていた時だった。

 

不意に響いてきたのはバイクのマフラー音。

 

たいした出来事ではないのだが、何処か気になって横を振り向く。

 

鈍化した世界。

 

やちよの目の前を通り過ぎていった美しき存在。

 

やちよのように美しい長髪を後ろに靡かせた女性ライダーが横の道路を通過していく光景。

 

リッターバイクエンジンの排気音が耳の奥にまで響いてくる。

 

今まであまり意識した事がなかったのに聞き入ってしまう。

 

エキゾーストミュージックと言われる程、バイクの排気音は人の耳を虜に出来た。

 

「やっちゃん?」

 

呆然とした顔をしたまま通り過ぎていったバイクの方角を見つめ続ける。

 

「どうしたんですか?もしかして、今のバイクに乗ってた女性が気になる?」

 

「えっ?」

 

不意に我に帰り、みふゆに振り返る。

 

「いいえ…乗っていた女性じゃなくて、バイクの音が耳に残って」

 

「あっ、もしかしてやっちゃん♪ああいうカッコイイ女性ライダーになりたくなったんですか?」

 

「あの排気音を耳で聞けていた時…私の心が何処か自由になれていた気がするの」

 

「チャンスですよやっちゃん!あれを自分の受験成功のご褒美にしたらいいんです」

 

「ご褒美?」

 

「来年の受験で頑張った結果が出せたら、バイクに乗りたい!そういう欲を持てたら力も出ます」

 

「二輪車で走るなんて危ないじゃない。家族だって心配させちゃうし…」

 

「一度しかないやっちゃんの人生なんです。家族の人だってきっと理解してくれますよ」

 

「私の人生…?」

 

「進まなきゃ駄目です。人間は別れを繰り返すしかないけれど、人生の時間は立ち止まりません」

 

「私の人生を…進む」

 

彼女の脳裏に浮かんだ光景。

 

それは独りであっても、バイクと共に真っ直ぐに駆け抜けていける自分の姿。

 

周りに左右されず、自分の思いのままに、引き返したりせず、陸続きなら何処までだって走れる。

 

自由な世界がそこにはある。

 

「バイク…いいかも、しれないわね」

 

「でしょ?明るい兆しが見えてきたし、やっちゃんの家でバイクの情報を色々見ましょう♪」

 

「貴女は乗らないんでしょ?」

 

「やっちゃんの後ろに私も乗りた~い♪」

 

「駄目よ」

 

「ぶ~!!」

 

自責の念で留まり続けた人生。

 

鳥のように飛べなくても、バイクに乗れば飛ぶように走りきれる。

 

孤独であろうが、自由の扉が見えてきた七海やちよ。

 

そんな彼女が大学受験を済ませてから合格発表をスマホで確認した日。

 

「やった!どうにか私は神浜市立大学に合格出来たようだけど…?」

 

久しぶりに笑顔を作る事が出来た彼女の隣では?

 

「ウフ…フフフ…よかったですね、やっちゃん…」

 

「みふゆ…?」

 

今にも泣き出しそうなみふゆはというと…。

 

「ウッ…グスッ…落ちちゃったんですよ…わたしッッ!!」

 

薬学部志望で頑張った彼女だったが、結果は悲惨である。

 

「みふゆ…ご愁傷さま。浪人生活頑張ってね」

 

「うぇぇぇ~~ん!!やっちゃんのバカ!!家族になんて言い訳したらいいんですか~!?」

 

近づく春の桜が美しく見える者と見えない者とが分かたれた日であった。

 

季節は2月へと移る。

 

卒業式を迎えるだけの長期休みに入ったやちよは今、教習場にいる。

 

満18歳から取得出来る大型自動二輪免許取得を目指しているようだ。

 

慣れないバイク操作に悪戦苦闘しながらも努力を繰り返し、試験が近づいていく。

 

結果発表が電子掲示板に示された時、自分の番号を確認した彼女の表情が喜びに包まれた。

 

「やったわ!!!」

 

思わずガッツポーズをしてしまう彼女の姿が、既に結果を示している。

 

卒業式も終え、近づく大学生活が始まる前に実家に戻って両親に免許取得を報告。

 

モデル生活も忙しい中、大学合格の結果を出せた彼女に両親も渋々頷いてくれる。

 

どうやらご褒美としてバイク購入を決めてくれたようだ。

 

両親と共にバイクショップに訪れる。

 

やちよは迷いない歩みで欲しいバイクの元へと進んで行くのだ。

 

「私…このバイクが欲しかったの!」

 

「カッコいいバイクじゃないか!お父さんも学生時代はこういうバイクに憧れたもんだなぁ」

 

「貴方の血を引いている娘だってことね。子供っぽいところがソックリよ~」

 

「わ、私…子供っぽいところある?」

 

「お父さんに似て食い意地が張ってるところもソックリ♪」

 

やちよが指差したバイクとは、ブルーメタリック色のリッターSSバイクであるR1。

 

この日より始まっていくだろう。

 

孤独に打ちひしがられる運命を背負っても、前に進める気持ちを取り戻せる日々が。

 

みかづき荘の前でバイクに跨る女性ライダーの姿

 

レザージャケットを着てヘルメットを被る七海やちよの新生活が始まる時がきた。

 

「さぁ、行きましょう。風を感じられる日々が始まるのね」

 

右足でブレーキペダルを踏み、クラッチ操作と前輪ブレーキを握る。

 

メインキーを回して電源を入れ、エンジンスタートボタンを押す。

 

彼女が一番聞きたかった音楽とも言えるエンジンの鼓動音が響いてくれる。

 

クラッチを切ってギヤ操作。

 

彼女を乗せた新しいパートナーが走り始める音色が響く。

 

春風を感じながらバイクを走らせていく。

 

七海やちよの新しい道の景色が広がっていった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

季節は2019年の5月。

 

世間はゴールデンウィーク真っ只中の時期である。

 

神浜市立大附属学校の生徒達は休みに入るが、1人だけ忙しそうにしている17歳の少女がいた。

 

彼女は今、神浜郊外にある免許センターで椅子に座り込み、腕を組みながら瞑想状態。

 

「うぅぅ~~むむむ……」

 

既にイメージとしては完璧であり、後は結果を待つだけなのだが…。

 

時間は過ぎていき、合格者の発表が電子掲示板に映る瞬間だった。

 

「カァーーーーッ!!!」

 

突然両目がカッと開かれ、喧しい声を出しながら立ち上がる。

 

視線が向かった先の電子掲示板に表示された自分の番号を一瞬で見つける事が出来たようだ。

 

「ちゃーっ!!やったよ~私!!原付2種免許取得出来たーっ!!」

 

突然大声を上げるものだから周囲の視線が彼女に集中。

 

隣にいた男が気恥ずかしいのか彼女をたしなめる。

 

「コラ鶴乃!!他の人達に迷惑だから大声出すなよ!」

 

「アハハ~ごめんお父さん。つい嬉しくって♪」

 

「お前がバイク免許が欲しいって言い出して困ったが、出前配達ちゃんとバイクでやれそうか?」

 

「大丈夫だよ!私の運転テクニックはね~教習所でも最強って言われてたしーっ!」

 

「店の役に立つから免許取得を許してやったんだし、あんまり無茶な走りをするんじゃないぞ?」

 

「は~い♪それで…欲しいバイクがあるの、お父さん」

 

ゴールデンウィーク休みも終わり、次の週末には2人はバイクショップへ向かう。

 

「コレコレ!このカブが欲しかったの~!」

 

まるで燃え上がる炎のように赤い色をした、CT125ハンターカブを彼女は指差す。

 

「最近のカブはお洒落になったもんだな。俺がガキの頃のカブイメージはスーパーカブだったよ」

 

「ねぇねぇお父さん~いいでしょ~?買って買って~~っ!!」

 

「ハァァ…金額分のお前の働きに期待する」

 

「ラジャーッ!!」

 

娘に甘い父親が渋々財布の紐を緩めてくれる。

 

由比鶴乃の新しい仕事パートナーをお迎えした日であった。

 

その日から少し過ぎた頃、参京区に古くから存在している中華飯店万々歳の裏側では。

 

「ふんふんふん~~~♪」

 

庭で何やらバイクを弄り回している鶴乃の姿があった。

 

どうやらハンターカブのリアキャリアに出前機を固定させようとしているようだ。

 

「出来たーっ!!」

 

スタイリッシュフォルムのハンターカブの後ろには、昔ながらの無骨な出前機がドッキング。

 

チグハグな見た目なのだが、彼女は満足げな表情である。

 

そんな彼女の元に歩いてくる人物の姿。

 

「こんにちわ、鶴乃さん」

 

後ろを振り向けば、今となっては魔法少女コンビと言えるだろう梓みふゆが遊びに来ていた。

 

「あ、みふゆ~!見て見て~これがLINEで写真送った最強万々歳バイクだよーッ!」

 

「まぁ♪真っ赤なバイクですね。まるで郵便配達のバイクみたい♪」

 

「配達する品は違うけどね~。これがあれば出前が出来る範囲もググッと上がるよー!」

 

「でも、やっちゃんみたいに突然バイクの免許を取得するって鶴乃さんも言い出して驚きました」

 

にこやかな笑顔を向けていた鶴乃だが、誇らしい表情を浮かべながらバイクに視線を向ける。

 

「…あのね、実は店で使うためっていうのは半分の気持ちで、もう半分はやちよのためなの」

 

「やっちゃんのため?」

 

「やちよはバイク乗りだしたけど、独りぼっちだし。バイク友達欲しいんじゃないかなって…」

 

「鶴乃さん…」

 

「今のやちよに必要なのは、自分の罪を毎日考える時間じゃないよ」

 

みんなと明るく過ごせる時間だと鶴乃は信じている。

 

絶対に独りぼっちにはさせたくないぐらい、大切に思っている存在。

 

たとえ拒絶されて遠ざけられようとも、大切な仲間であった。

 

「私もそう思います!それで、やっちゃんにはLINE送ったんですか?」

 

「いつもは無視されるけど、LINEの返事が帰ってきた!素敵なバイクだって褒められたんだ~♪」

 

「凄いですね♪やっぱりやっちゃんも寂しかったんですよ…独りぼっちだと」

 

「それでね、私とツーリングに行かない?って誘ったらね…なんと飛びついて来た!」

 

最初は乗り気ではなかったようだが、鶴乃がツーリングプランを練ったらホイホイついてくる。

 

かつての仲間達を誤魔化せるほど、七海やちよは器用な役者ではなかったようだ。

 

「ウフフ、やっちゃんったら♪それで、どんなプランなんですか?」

 

「多忙なやちよに合わせて、日帰りプランを考えたんだ~」

 

先ずはライダーの聖地と言われる奥多摩周遊道路の自然景色を堪能。

 

次はライダーに有名なお蕎麦屋さんでご飯食べる。

 

近くの多摩川が一望出来る温泉に入るといった、鶴乃にしては珍しい普通プランであった。

 

「まぁ素敵♪」

 

「午後からはバイクでさらに東に向かってね、3時のおやつ頃には東京に入るの」

 

「東京には何をしに向かうんですか?」

 

「やちよが昔から行きたいって言ってたインスタ映えする有名ドーナツ店でおやつ食べるの♪」

 

「やっちゃんはドーナツ大好きですからねぇ、喜ぶ顔が見えてきます」

 

「夕方頃は、夕日に輝くレインボーブリッジを眺めてから神浜に帰るって流れになるかな~」

 

「いいなぁ~。私もついて行きたいんですけど、バイクも免許も持ってませんし…」

 

「フフフ~大丈夫!私のバイクはシートをロングシートに交換したらタンデムで乗れるよ!」

 

「じゃあ、私も鶴乃さんの後ろに乗ってツーリング行けるんですね?やった~♪」

 

「ヘルメットは自前で用意してくれる?バイクインカムもあったら会話が出来るんだよ~」

 

「いいですね!両方探してみます」

 

「やちよのスケジュールを聞いてみたけど、忙しいから休みがとれるのは8月の夏場だって」

 

「やっちゃんは売れっ子のモデルさんですしね~。その頃までには私も用意できてると思います」

 

「楽しみだな~やちよの喜ぶ顔が既に!私には見えてきたよーっ!」

 

こうして元みかづき荘チームのツーリング計画が始まり、季節は過ぎていく。

 

季節は8月の現在まで進み、時刻は早朝頃となる。

 

「鶴乃さ~ん!お待たせしました」

 

「おっ?私とお揃いのゴーグル付きハーフヘルメットを選ぶとはお目が高い!」

 

「アドバイス通り、メッシュジャケットにライディングパンツとシューズも揃えてきました」

 

「夏は薄着だと日焼けで大変だからね~。それに転倒の危険も考えたら仕方ないよ」

 

ハンターカブに跨った鶴乃の後ろにみふゆも跨り、前の席の鶴乃の腰に両手を回す。

 

「よーし!!私達の古巣、みかづき荘に向けて発進~♪」

 

鳴り響くバイクマフラー音と共に、魔法少女達の絆が再生していく旅が始まろうとしていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

朝早くから移動し、神浜から下道を使って奥多摩に向かう二台のバイク。

 

快晴の空の下、先を走るやちよのR1と後ろから続く二人乗りのハンターカブが走行を続けていく。

 

風除けシールド付きハーフヘルメットを被るやちよのバイクにはスマホが固定されているようだ。

 

地図アプリの音声を耳のインカムで聞き、2人を先導してくれる。

 

<暑いね~ししょー。まさか夏場のツーリングがこうも蒸し暑いなんてね~>

 

<季節を体で感じるのがバイク乗りの醍醐味よ。多少の不便も愛嬌だわ>

 

<やっちゃんの大型バイクも街乗りだと不便そうだけど、不便を楽しんでます?>

 

<バイクは嗜好品よ。好きなものだからこそ不便も楽しめるわ>

 

<後悔しながら欲しくない品を買うよりは、欲しいものを買いたいよね~>

 

<確かにそうですね。私も買わずに後悔するよりは、買って後悔したいタイプですね~>

 

<次の角を右に曲がるわよ>

 

<了解~~>

 

走り続けるバイクがそろそろ奥多摩周遊道路に入る頃合いだ。

 

<でもよかったよ~ツーリングの誘いに来てくれて。やっぱり私達は仲間だね!>

 

<バイク乗りの仲間よ。魔法少女仲間ではもうないわ>

 

<またまた~、本当は仲直りしたいくせに~♪>

 

<スピード上げて置いていくわよ>

 

<待って待って!高速道路に入れない私のバイクじゃ追いつけないよ~!>

 

<フフ、頑張ってついてきなさい>

 

<コラコラ、あんまり意地悪しちゃ駄目ですよ~やっちゃん>

 

走行しているうちに、二台のバイクの前方には緑溢れる自然景色が広がっていく。

 

<わぁ…綺麗な景色。ライダーの聖地と言われるのも頷ける気持ち良さね>

 

<なんだか体感温度も自然パワーで涼しくなってきたよ!風が気持ちいい~♪>

 

<バイク乗りの世界ですね~。私も大学合格したら、バイク免許取りに行きたいですよ~>

 

<あら?みふゆもバイクに興味が出たの?ちゃんと管理出来そう?>

 

<みふゆは私生活だと結構だらしないところがあるからね~>

 

<普段は放置されて、庭に転がる寂しそうなバイクの姿が目に見えるわ>

 

<あ~ん!2人とも私をイジメないで下さ~い!>

 

<<アハハハハハ♪>>

 

喜びを分かち合える楽しい時間。

 

いつ以来ぶりなのかと、やちよは考える。

 

(本当に懐かしいわね…。かなえ、貴女も生きていてくれたらきっと…私の前を走っていたわ)

 

やちよの前方景色の世界には、彼女と同じ大型バイクに乗った雪野かなえの幻が見えた気がした。

 

奥多摩周遊道路の景色を堪能し、バイカーもよく訪れるお蕎麦屋さんにバイクを停車。

 

3人は暑い季節の風物詩であるざる蕎麦を注文し、舌鼓を打つ姿。

 

「美味し~っ!!このお蕎麦は私が最強認定するよーっ!!」

 

「本当ですね~。これならモリモリ食べれそうですよー♪」

 

「暑い時期の風物詩と言われるだけあるわね。バイクに乗ってて良かったと思える瞬間よ」

 

「よーし!今年の受験こそ絶対に合格して、私も来年はバイク免許を取ります!」

 

「浪人生活は順調かしら?予備校に通っているんでしょ?」

 

「ええ。それに、強力な助っ人も現れてくれたんですよ~」

 

「強力な助っ人?」

 

「中央でリーダーを努めているひなのさんを知ってますよね?彼女が私に勉強指導してくれます」

 

「あの子も今年は受験だったわね。お互いに受験生だし、気が合うのも判るわ」

 

都ひなのは魔法少女社会のリーダーとしては、西にも東にも与しない中庸の者。

 

どちらも差別せず、西側社会の魔法少女にも良くしてくれる人物であった。

 

「もしかして、頼れる彼女に泣きつきに行ったとか?」

 

(ギクッ)

 

ボタボタと嫌な汗をかき始めるみふゆの姿を見て、2人も苦笑い。

 

「アハハ♪その表情は図星だね~みふゆ♪」

 

「うぅぅ…だってだって!みやこさんは魔法少女の中でも、ずば抜けた理系少女ですし!」

 

「物理と化学を選択しているみふゆにとっては、お釈迦様みたいなものかもね~」

 

「都さんがついているのなら、2人とも合格出来るわよ。先にライダー世界で待ってるわね」

 

「みふゆに似合うバイクも一緒に探してあげるよ~!来年も3人でツーリングに行こうね!」

 

食事を終えた3人はバイクを走らせ、多摩川が一望出来る温泉に到着。

 

更衣室で衣服を脱いでいる3人なのだが…。

 

「うわ~、みふゆの胸はいつ見てもパンパンだよ~!」

 

「鶴乃さんだって結構大きいと思いますよ?」

 

「私は控えめな方が良かったかな~。スポーツブラで揺れを制御しても靭帯に負荷がかかるし」

 

胸が大きい苦労を語り合う2人であるが、隣の人物からは因縁オーラが噴き上がっていく。

 

「2人とも…胸の話題を私の前でするなんて…いい度胸ね」

 

鬼の表情を向けてくる彼女を見て、ボタボタと嫌な汗がまた噴き出してくる。

 

「「あっ…すいませんでした」」

 

隣にあったのは、()()()()()をしたやちよの胸。

 

不穏な空気を出すやちよに対して、2人は深々と頭を下げた。

 

多摩川が一望出来る絶景を堪能しながらの楽しい入浴タイムが始まっていく。

 

「あぁぁぁ…夏の温泉も汗だくになれるバイク乗りにとっては格別だよね~」

 

「そうね…またバイク乗りとしての喜びに目覚めたわ」

 

「あ、サウナもありますよ~。後で入りましょうよ♪」

 

「よ~し!誰が最後まで残れるか勝負勝負~!」

 

「のぼせて走れなくなるからやめなさい。午後からのツーリングもあるんだし」

 

「大丈夫!隣の冷水に飛び込んで火照りを冷やすから!」

 

「風邪を引いても知らないわよ」

 

温泉を堪能した3人は浴場から出て、施設内で瓶のコーヒー牛乳やフルーツ牛乳を飲む。

 

「あれ?みふゆは何処?」

 

「あそこのマッサージ機を使ってるよ」

 

2人が近づけば、何とも言えない気持ちよさそうな表情を浮かべるみふゆが座っている。

 

「私は結構肩こりしやすくて…やっぱり胸が大きいと不便ですね~」

 

人は過ちを繰り返す。

 

墓穴を自ら掘ってしまった浅はかな女性に待っていたのは、制裁だ。

 

「……そう、ならもっと肩こりをとらないとね」

 

「あっ!やっちゃんリモコンで何を…あイタタタ!!?」

 

「最大にしておいたから、どうぞごゆっくり」

 

「あはは…肩こりよりも痛そうだね」

 

背中を強烈にマッサージされたみふゆを乗せて、鶴乃はやちよの後を追いかける光景が続く。

 

<後はひたすら東京に向けて走るだけよ>

 

<やちよのスマホ案内があるから便利だね~。もうカーナビの時代じゃないのかも>

 

<運転に疲れた頃には東京についてますよ。小腹が空く丁度いいタイミングです>

 

3人は道中で見かけた美しい景色を撮影しながら東京を目指す。

 

奥多摩町を超えて東京に向かって走行していく。

 

そこは彼女達にとっては初めての土地となる場所。

 

魔法少女社会が東京にもあるのは自然なこと。

 

危険な縄張りであるとも知らず、彼女達は楽しいイメージを浮かべながら走行して行った。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

東京に入った二台のバイク。

 

目指すは渋谷区にあるインスタ映えすると人気のドーナツ店。

 

<うわ~神浜以上に人や車が多いね~。流石この国の首都だよ~>

 

<神浜の人口は約300万人だけど、東京はその4倍だって聞いたわ>

 

<地方では人口減少が止まらないけれど、地方から人が流れて大都会だけは人口増加するんです>

 

<日本の総人口はこれからどんどん減り続けるって…お父さんも言ってたっけ>

 

<嫌な時代よね…若者達が先に希望を見いだせない時代なんて>

 

<それに、今年の1月にあったあの事件…酷かったよね>

 

<1・28事件ですね。それに去年のクリスマスに米軍爆撃機が行った東京空爆事件…>

 

<悲惨過ぎるわ…東京の人達。辛く苦しい筈なのに、それでも経済のために毎日働いているのね>

 

<社会に緊急事態が起きて自粛を強制されても、経済を回さないといけないんですよ…>

 

<そうだね…経済が回らないと、きっと焼け野原みたいに路頭に迷う人達だらけになると思うよ>

 

<人間社会に訪れる突然の混迷と混乱。人間達の心は…未だ暗雲に包まれてると思うわ>

 

<だから魔獣の増殖が止まらないんですよ。人間社会の問題と魔法少女社会の問題は繋がります>

 

重い空気となりながらも道路を走行して行く。

 

ツーリングを楽しみたかった鶴乃が気を利かせて明るく振舞ってくれた。

 

<まぁまぁ2人とも。今日は楽しいツーリングだし、暗い話題は無しにしようよ>

 

<そうね、もうすぐ渋谷区に入るわ>

 

代々木公園近くにあるドーナツ店に向かうため、近くにある有料駐車場にバイクを止める。

 

徒歩で目的地に向かう3人が店を見つけたようだ。

 

「いらっしゃいませ~」

 

店員の元気な声で出迎えられ、3人はメニュー表に目を通す。

 

「うわ~…凄く個性的なドーナツばかりよ!こんなの神浜の店じゃお目にかかれないわ!」

 

「あははっ♪ドーナツが大好きなやちよだから、目を輝かせるって期待してたんだ~」

 

「ありがとう鶴乃、気を使わせてしまったわ。どれにしよう…なんなら全部食べてもいい?」

 

「やっちゃんの食い意地入りました~♪お腹を壊さない範囲でなら、好きなの食べましょうか」

 

「むむむ…ピコーン!万々歳新メニューの天啓が閃いた!うちも個性的な肉饅を出そう!」

 

「個性を追求するよりも、何を食べても同じ味付けの腕前をもう少し上げたほうが…」

 

3人は気に入ったドーナツをそれぞれ注文していく。

 

持ち運ばれた品の写メを撮影した後、美味しく頂いていく光景が続いていった。

 

満足した彼女達が店から出てくる。

 

有料駐車場まで歩いていたその時だった。

 

<やっちゃん>

 

3人の背後から感じた複数の魔法少女の魔力。

 

<分かってるわ。背後からでも敵意を剥き出しにしてくる程に…殺気立ってる>

 

<ど、どうしよう?なんで魔法少女が魔法少女を襲いに来るわけ?同じ魔獣と戦う仲間なのに…>

 

<縄張り意識が強い魔法少女社会が…東京にあったのかもしれないわ>

 

3人はやり過ごそうと長い時間遠回りしながら歩き続けるが、諦める気配はない。

 

<どうしても私達を逃さないつもりね…>

 

<仕方ありません、あそこに路地裏があります。人通りが多い場所では相手出来ませんよ>

 

3人は路地裏に入り、開けたエリアに入り後ろを振り向く。

 

そこには、渋谷区を縄張りにしている魔法少女ギャング達の姿があった。

 

「あんたら、余所者だろ?ここはあたし達の縄張りでさ、無断侵入するなら出すもの出しな」

 

「カツアゲ?東京の魔法少女達は随分と品が良いみたいね?」

 

「私達は魔獣と戦う仲間同士ですよ。どうして争わないとならないんですか?」

 

「別にグリーフキューブの取り合いがしたいわけじゃない」

 

「なら、何が目的だと言うわけ?」

 

「あんた達が勝手にあたし達の支配地域に無断侵入してきたんだし、通行料ぐらい貰わないとね」

 

「ここは公共の場だよ!他所の魔法少女が遊びに来たぐらいで、どうしてそんな理屈になるの!」

 

「五月蝿い!!あたし達はね…苛ついてるんだよ!」

 

敵意を隠さず声を荒げる東京の魔法少女ギャング達。

 

彼女達の怒りの原因とは果たして、縄張りを侵害したというだけなのか?

 

「東京で好き勝手出来なくなったんだよ…あたし達!!」

 

「やり場のない怒りを…魔法少女にでもぶつけないと気が済まないんだ!!」

 

「そうさ!あの()()()()()()()は…魔法少女同士の殺し合いなら文句を言わない!」

 

()()()()()()()()()()()()()()奴だから!!」

 

彼女達が叫ぶ内容だが、神浜の魔法少女達が聞いても要領を得る筈がない。

 

事情を知らない者達にまくし立てたところで、意味が通じる筈がなかった。

 

「悪魔みたいな…男ですって?」

 

「カツアゲなんて本当はどうでもいいんだよ…あたしらのストレス発散として死んでくれよ」

 

――通行料はね…あんた達の命さ!!

 

東京の魔法少女ギャング達が左手にソウルジェムを掲げて変身していく。

 

怒りを叩きつける魔法武器であるスパイククラブを生み出して構える姿。

 

もはや戦闘は避けられないと判断した神浜の魔法少女達。

 

「いくわよ…後悔させてあげるわ」

 

やちよ達も左手にソウルジェムを掲げ、魔法少女となり武器を構える。

 

一瞬即発の状況であったが、場の空気を壊す勢力が現れる。

 

「おいテメェら!!勝手な真似してんじゃねーぞコラァ!!!」

 

突然建物の上から跳躍して現れたのは、目黒区を縄張りにしていた魔法少女ギャング達だ。

 

「なんだテメェら!?ちょっかい出してんじゃねーぞ!!」

 

「魔法少女同士の殺し合いならあの男は…()()()は!!文句言わないだろうがぁ!!」

 

敵意の矛先が違う勢力に向けられていく。

 

神浜の魔法少女達は混乱しながらも、彼女達が叫ぶ言葉に耳を傾ける。

 

(人修羅…?その男は、どうしてこんなにも東京の魔法少女達に恐れられているの?)

 

「テメェらがそんな器用な戦い方を出来るわけねーだろうが!!」

 

「東京でも評判の血の気の多いギャング共だろお前ら!!」

 

「見張らせてもらってたんだよ!…不本意だけどね!」

 

「人間に1人でも犠牲者が出たら、アタシら全員…()()()()で悪魔に殺されるのよ!!」

 

「この東京の魔法少女社会が、()()()()()()に支配されちまったのを…忘れたわけ!?」

 

違う勢力は人修羅がもたらした全体主義政治体制に恭順の意思を示している。

 

だが、東京の魔法少女たち全てが人修羅の政治体制に従う意思を示す筈がない。

 

「そんなの知るか!!あたしら以外の他の連中が人修羅に虐殺されようが、どうでもいいよ!!」

 

「へぇ…?なら、あんたらの命もどうでもいいし」

 

「あの悪魔に感づかれる前に…お前らを処分してあげる!!」

 

突然始まってしまった東京の魔法少女ギャング達の抗争バトル。

 

だが、これは現場から逃げ出すチャンスでもあった。

 

「逃げるわよみふゆ!鶴乃!」

 

「こっちです!!」

 

「訳がわからないよぉーーッッ!!」

 

表通りまで走る彼女達の横側の壁には、渋谷区を縄張りにする彼女達のチームエンブレム。

 

それを大きく塗り潰すかのように塗装された、共産主義の象徴である赤い星。

 

人修羅がもたらした人間社会主義が、東京の魔法少女社会を蹂躙しているという証だった。

 

……………。

 

3人はどうにか争いの現場から逃げ出し、魔法少女姿から元の姿へと戻る。

 

「直ぐに駐車場に戻りましょう。出来るだけここから離れたほうがいいわ」

 

「ならレインボーブリッジだけでもバイクで見物しながら帰ろうよ!」

 

鶴乃に振り向けば、せっかくの楽しい旅を台無しにされた事によって涙が浮かんでいる。

 

「こんな後味の悪いツーリングの締めくくりは…私は嫌だから」

 

彼女に気を使われてツーリングに連れて行ってもらえたやちよも、辛い彼女を気遣ってくれる。

 

「…分かったわ。取り敢えず、今直ぐ渋谷区から離れましょう」

 

3人は駐車場まで走り、料金精算を済ませてからバイクを発進させていく。

 

向かった先は行く予定であったレインボーブリッジのビューポイント施設。

 

船をモチーフにしたショッピングセンターの駐車場にバイクを停め、デッキに向かって行った。

 

嫌な汗をかき、一気に疲れが出てきた3人が休憩場に座り込んでいく。

 

「はぁ…最悪。修学旅行中に、地元のチンピラに絡まれたような気分だわ」

 

「本当ですね…やっちゃんは例えが上手です」

 

「気分を変えたいから、私が何か美味しいドリンク買ってくるよ」

 

「悪いわね…鶴乃。せっかく温泉に入ったのに、また汗だくになってるし」

 

ショッピングセンター内の店舗に向かった鶴乃を見送りながらも、2人は向かい合う。

 

「あのチンピラ魔法少女達が言っていた…人修羅と呼ばれた男ってなんなのかしら?」

 

「さぁ…?東京の魔法少女達を震え上がらせる程の男の人なんて…存在するんですか?」

 

「考え辛いわね。男である魔獣だろうが、魔法少女が集団を組めば恐れるほどではないし」

 

「魔獣とは違う存在?それに…東京の魔法少女社会に敷かれた社会全体主義って何ですかね?」

 

「個人の自由を暴力と恐怖で束縛して、魔法少女達を魔獣討伐以外で魔法を使わせない法律?」

 

「それに、連帯責任なんて物騒な事も言ってましたね…」

 

「魔法少女の自由を互いが監視しなければ連帯責任を課されて虐殺されるだなんて…酷過ぎるわ」

 

「まるで…ソ連の全体主義相互監視社会ですね」

 

「行き過ぎた暴力抑止力よ…そんなの。魔法少女の()()()()だわ」

 

「そうですね…私達だって、個人一人一人の自由があっていいと思います」

 

犯罪抑止とプライバシー問題のジレンマがある。

 

監視は人権侵害として問題視される。

 

その一方で、人権侵害が一切起こりえない社会は人権侵害を監視する社会でしか実現出来ない。

 

「監視行為なんて、国家の行き過ぎた暴力的行為よ」

 

「いつの間にか社会全体を優先されていき、私達個人の自由が消されていくんですね…」

 

()()()()()()()()()()という概念は…神浜の西の長を務めてきた私も…悩まされたわ」

 

「2つを天秤にかけた時…私たち魔法少女は、どちらを優先するべきですか?」

 

「私にも…分からない。いくら悩んでも…答えは出てこなかったわ」

 

「きっと答えなんて…無いのかもしれませんね。どちらに傾いても…弊害だらけです」

 

社会について真剣に考えさせられた2人が暗い表情となっていく。

 

「キャッ!?」

 

重い空気を解いてくれたのは、やちよの後ろからジュースコップを両頬に押し付ける人物だ。

 

「つ、冷たいじゃない鶴乃!」

 

「難しい話はやめようよ。私達は神浜魔法少女だし、東京の魔法少女社会に口出しは出来ないよ」

 

そう言って、2人分のドリンクジュースを手渡してくれる。

 

彼女の気遣いを無駄にはしまいと、2人は社会議論を中断してくれたようだ。

 

「そうね…考え込んでも、違う街の話だし。鶴乃はジュースを買わなかったの?」

 

「えへへ、喉が乾いてたから先に飲んじゃった♪」

 

既に時刻は夕方であり、日没ももうすぐだろう。

 

潮風を感じながら、夕焼けに染まるレインボーブリッジを3人は静かに見つめ続ける姿。

 

「ねぇ…やちよ。楽しかった?」

 

「え…?」

 

「またツーリング、みんなと一緒に行こうね。…絶対に」

 

辛い現実を浴びせられようとも、隣で優しく微笑んでくれる仲間がいてくれる。

 

鶴乃の優しさによって心が雪解けるように温かくなり、拒絶する気も起きなくなっていく。

 

「…そうね。また…いつか」

 

「ねぇ、2人とも。レインボーブリッジを背景にして記念撮影しましょうよ」

 

「あっ、ちょっとみふゆ!」

 

みふゆは道行く男の人に声をかけ、記念撮影をお願いする。

 

「ほら~やちよは真ん中だからね~!」

 

「ちょ、くっつき過ぎよ2人とも!」

 

「私達は、やっちゃんを離しませんからね♪…絶対に」

 

「2人とも…その……今日は誘ってくれて……ありがとう」

 

――本当に……嬉しかったわ。

 

スマホで撮影された記念写真画像。

 

そこに映る3人の姿は、昔の魔法少女時代に戻れたかのような満面の笑みが広がってくれていた。

 

……………。

 

下道を走行しながら神浜に向けて帰宅中にトラブルが起きる。

 

<あっ…?ど、どうしよう…>

 

<どうしたのみふゆ?何か忘れ物?>

 

信号停止中に突然みふゆが慌てだし、二台のバイクは横で停止。

 

事情をみふゆから聞いたやちよと鶴乃も驚きを隠せない。

 

「えっ!?リュックのチャックを閉め忘れてて…入れてた財布を落としたかもしれない!?」

 

「多分…自販機休憩していた時かもしれません。チャックを締め忘れたのかも…」

 

「自販機休憩はだいぶ前よ…。そこから走行してきたし…何処で落としたか検討もつかないわ…」

 

怖くなっていき、涙目となるみふゆの姿。

 

「どうしよう…やっちゃん!鶴乃さん!お小遣いだけでなく…個人情報の品も入ってるのに!!」

 

「困ったわね…。取り敢えず、道路緊急ダイヤルに電話を…」

 

慌てふためく3人娘の元に近寄ってくる男がいる。

 

手には女性が使うような財布が握られていた。

 

<<おい、お前らか?積載物の転落・飛散の防止措置義務を怠った連中は?>>

 

声がした方に振り向けば、紺色の作業服を着た少年のような見た目をした青年がいる。

 

みふゆが彼の手に視線を向けて安堵の声を漏らす。

 

「あっ!私の財布です!もしかして、走りながら追いかけて…持ってきてくれたんですか?」

 

彼が右手に持っていたのは無くした財布だったようだ。

 

「俺がタバコ休憩していた時に、道路に目を向けていなければ…どうなってたと思う?」

 

「えっ……?」

 

「お前は後続車に落下物を与えて事故を起こさせる危険を起こした者として、罰せられてたぞ」

 

「そ…そんな法律もあったんですね。私…うっかりしていました」

 

「あちゃ~…私もバイクに乗る時は気をつけないとだね」

 

「本当にありがとうございます!おかげで私…財布の中身を悪用されずに済みました!」

 

「友達の不注意で手間を煩わせてしまって、すみませんでした。私達も今後気をつけます」

 

「そうしたほうがいい。それじゃ、俺は行くぜ」

 

みふゆに財布を渡して男は去っていく。

 

「親切な人に見つけてもらえて良かったね、みふゆ」

 

「全く、しょうがない子ね。でも、バイク乗りとして私も気をつけないとね」

 

「うぅぅ…ごめんなさい、2人とも。迷惑かけました…」

 

「社会に迷惑をかけてはいけない、行う者は罰する。これも…さっきの話と通じる気がするわね」

 

「法律って…社会で生きるみんなを守るために、法を犯す存在を抑止する…」

 

――()()()()なんですね。

 

みふゆの言葉を聞いたやちよは、神浜魔法少女社会の長として強く考えさせられる。

 

治世を行う者が社会ルールを作るのは、何のためなのかを。

 

「社会って…()()()()()()()()()()()()()わね」

 

気を取り直してバイクを発進させていった魔法少女達の姿が遠ざかっていく。

 

その頃、みふゆに財布を届けに行った男はコンビニまで戻ってくる。

 

彼が休憩していたコンビニの大型自動車を駐車させるスペースにはトラックが見える。

 

「尚紀、落とし物はちゃんと届けてやれたか?」

 

引っ越し荷物を大量に積んだ小型トラックの運転席には丈二の姿。

 

「ああ、ちゃんと渡してきたよ」

 

「教習所の怠慢だな。運転だけでなく、社会で乗り物を扱うための法律を教えやがれってんだ」

 

「そうだな」

 

「バイクや車っていうのはな、()()()()()()()()()()()()に化ける。だから縛るルールがいる」

 

「正しい法によって罰せられる社会となれば、バイクや車は()()()()()()()()()()()となるんだ」

 

――それが…俺が求める社会主義の概念さ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「バイクは、乗らない人が思うほど危険ではないけど、乗る人が考えるよりも安全ではないわね」

 

夜の静かなみかづき荘リビングの光景。

 

旅の思い出を撮影したスマホ画像をコンビニでプリントし、写真として持ち帰ったやちよの姿。

 

持っていた写真を机に置き、ソファーに大きくもたれ込み両目を瞑る。

 

耳の奥には、心地いいエンジン音とマフラー音が蘇っていく。

 

体で感じた風の感触、季節、時には不便に思うけれど自由を感じさせてくれた。

 

何よりも嬉しかったのは机に置かれた写真や、今日を楽しんだ彼女の記憶が物語る。

 

奥多摩周遊道路を走行していた時だった。

 

対向車線を走行していたドライバー達が片手を上げ、旅を祝福してくれた事が嬉しかった。

 

綺麗な多摩川をボケっと眺める事しか出来なかったが、自由な余白を感じられた事が嬉しかった。

 

自責の念に蝕まれ、独りぼっちで佇んでいた自分の人生が迷わず進んでいったのが嬉しかった。

 

そして、最も嬉しかった存在とはかつての仲間達の優しさ。

 

彼女にバイクを勧めてくれたり、ツーリングに誘ってくれた最高の友達。

 

大勢の人々から独りぼっちで佇んでいた自分に喜びを与えてくれた。

 

「人が跨がらないと、自分独りでは立ち上がれないバイク。…まるで私みたいね」

 

――バイクに乗れて…本当によかった。

 

そんな言葉を呟きながら、彼女は静かな寝息を立て始めていった。

 

……………。

 

今となっては、彼女の生活そのものとなっていく愛車のバイク。

 

今日も彼女はモデルの仕事場である撮影場に向けて愛車を走らせる。

 

「私が暮らすみかづき荘。()()()()()()()と考えた事もあったけど、もう大丈夫。迷わないわ」

 

風を感じながら何処までも続く道のりだって走りきれる自信が出来た。

 

風を切り裂き、1人であろうとも真っ直ぐ突き進むその姿は…自身が振るう武器に似ている。

 

大勢の仲間達と共に戦っていた頃の自分が振るっていた魔法武器の形。

 

彼女の迷い無き槍の一突きそのもののようにも見えるだろう。

 

静か過ぎるみかづき荘のリビング。

 

そこにあった写真を飾るスペースは大幅に拡張されている。

 

そこに飾られる写真は、これからもどんどん増えていくだろう。

 

かつての魔法少女達との思い出だけではない。

 

バイク乗りとして大勢の人々と触れ合えた喜びの形が…残されていった。

 




読んで頂き、有難うございます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。