人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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96話 弱肉強食

暑い夏、それは社会人にとっては仕事を行うのも苦しい季節。

 

しかし十代の子供達にとっては楽しい青春の1ページを飾るだろう。

 

夏休みを楽しむ子供達を見つめる社会人は愚痴るかもしれない。

 

「丈二、これは何処に纏めておくんだ?」

 

「取り扱いに気をつけろよ。これクソ高いんだから」

 

聖探偵事務所の8月は一ヶ月丸々引っ越し作業となっている。

 

「この際だから、事務所に飾ってた私物のアメリカンインテリアは全部売りに出したら?」

 

「う~ん…確かに荷物になるよなぁ。引越し費用の足しに出来るかもしれない」

 

「愛着があって飾ってたんじゃないのか?」

 

「俺はインテリアよりは車の方が大事だ。俺のマスタングまで売りに出せと言われたら泣くぞ」

 

「じゃあ、このインテリアは私の方で売りに出しておくわね」

 

「頼む。売れない品はこの際処分しちまうか。新しいインテリアが欲しくなったら集めるよ」

 

事務所の備品関係を何回かに分けて小型トラックで運ぶ事となり、作業が続いていく。

 

「とりあえずこんなもんか。それじゃ、神浜まで俺が運転するぜ」

 

「旧型普通免許を持ってる丈二じゃないと、この重量のトラックは運転出来ないしな」

 

瑠偉はインテリア処分をするために出掛けていく。

 

尚紀と丈二は神浜に荷物を持てるだけ持っていく事となり、トラックに乗って出発する。

 

江東区から品川区、大田区と超えていき、東京を後にして横浜まで移動するのだ。

 

「しかし暑いなぁ…夏だからしょうがないけど、外で働く連中にとっては地獄の季節だな」

 

「俺達探偵も外回りの仕事だしな」

 

「気晴らしに海が見える道を通ろうぜ」

 

海沿いの道から神浜市南凪区を目指す事となり、景色も色鮮やかな海が見えてくる。

 

「おーおー、横浜の海の公園は今年も若者達で盛況だね~」

 

横を見れば横浜市内で唯一海水浴が出来る人工の砂浜が一面広がっている。

 

「お前ぐらいの年齢なら、ああいう場所で水着の若者達と遊びたいんじゃないか?」

 

「俺はもうガキの世代とは価値観が合わない。それなりに辛酸を舐めて社会で生きてきた」

 

「まぁ大人には大人の楽しみがある。引っ越しが済んだら神浜の酒場で美味い酒でも飲もうや」

 

窓に片腕を置きながらも横の海辺で楽しそうに遊んでいる水着姿の子供達を見つめてしまう。

 

「社会生活なんて考えず、友達と楽しく今を遊び合う。ああいう時代が俺にもあったよ…」

 

神浜市には横浜市と同じく人工の砂浜があり、今年も大勢の水着姿の若者達が押しかけている。

 

浜辺だけでなく様々な施設が併設されているようだ。

 

森林公園、多目的ホール、現代美術館、駐車場と環境が整備された多目的娯楽施設となる。

 

神浜住民だけでなく近隣の県からも利用者が多い。

 

そんな神浜の海の公園には学生としての青春を謳歌する魔法少女達の姿もいるようだ。

 

多目的ホールではご当地アイドルのライブイベントが開催されている。

 

<<キャァーーッ!!さゆさゆ~~っ!!>>

 

スモークマシンから煙が吹き出し、ステージに立つのはご当地魔法少女アイドルであろう。

 

<<さゆさゆ~~かわいい~~っ!!>>

 

横が海なので独特な水着姿で現れたアイドル少女は日本刀をアイドルイメージにする個性派だ。

 

「あなたのハートをたたっ斬る!恋の辻斬り姫こと~史乃沙優希、参上で~す♡」

 

<<さゆさゆかわいい~~鞘当して~~っ!!>>

 

「みんな!今日は来てくれて有難う!暑い季節をたたっ斬る!私の袈裟斬り曲行くよーっ!!」

 

ライブイベントが盛り上がる現場には、ももことレナとかえでの3人がいる。

 

「さゆさゆ最高~~っ!!レナのハートを袈裟斬って~~っ!!」

 

興奮した表情を浮かべて応援するレナの横では彼女を見つめて微笑む友達の笑顔が見える。

 

「レナの奴、楽しんでるみたいだな」

 

「ふゆぅ…私はアイドルはよく分からないけど、レナちゃんが楽しかったら私も楽しいよ~」

 

「同じ気持ちだよ。推しのアイドルじゃないけど、レナが喜んでくれてアタシも楽しい♪」

 

「確かももこちゃんがバイトして、今日のライブチケットを3人分お給料で買ったんだよね?」

 

「ああ!前の穴埋めだけど…やっぱり楽しい時間もチームワークだろ?」

 

「うふふ♪そうだね~」

 

熱狂の渦に包まれた多目的ホールの横を見渡せば、夏の日差しが照りつける海。

 

そこから遠くに見える大きな建物は神浜でも有名な現代美術館がある。

 

今日はそこで国際芸術祭イベントが催されており、大勢の人々が詰めかけているようだ。

 

外の敷地内では現代アーティスト達が生み出した独特な展示物が軒を連ねる。

 

その中でも一際異色を放つアート展示物が周囲の人々をざわつかせているようだ。

 

「おい…なんだよ、この禍々しいアートは!?」

 

「なんだか怖いわね…。まるで船の上から海底を見ている時と同じ恐怖を感じるわ」

 

人々の感情に強烈なイメージを植え付けてしまうのはギリシャ神話をテーマにした展示物。

 

皆が連想してしまった強いイメージとは、海に引きずり込まれて死ぬイメージだろう。

 

大勢の見物客を冷房の効いた美術館のガラス越しに観察している2人の少女がいる。

 

「アリナ先輩…先輩が作ったあの怖いアートは…なんてタイトルなの?」

 

「立体作品、海峡なんですケド」

 

「海峡…?どうしてそれがギリシャ神話と繋がるの?」

 

「ギリシャ神話にはオーシャンにまつわるクレイジーな神話が多いワケ」

 

「神話は詳しくないけど、そうなの?」

 

「アリナは今日の展示会がオーシャンでやるって聞いたから、それをイメージしたんですケド」

 

「アリナ先輩にとって、海はどういうイメージなの?」

 

「ビューティフルブルーワールド。でも油断すれば直ぐにでもデスに引きずり込まれる領域」

 

「確かに…溺れ死んだりしないか怖い部分があるの。昔から海は怖いイメージと隣合わせなの」

 

「怖い?アリナはそうは思わない」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()であり再生の源だとアリナは考えている。

 

「それを…あの悪魔みたいな形にしたの…?」

 

「イエス」

 

それはまるで大渦、あるいは捕食者の口を思わせる。

 

弱き者達を貪り喰らうために海の底に引きずり込むイメージを周りに与える力強さであろう。

 

ギリシャ神話にはポセイドンとガイアの娘であるカリブディスと呼ばれる魔物の神話がある。

 

同じ女の悪魔であるスキュラと共にメッシーナ海峡を横断する船を襲い、喰らった存在だ。

 

「海峡、陸地と陸地の間のオーシャン。ヒューマンが住む陸地と、それらを分かつオーシャン」

 

海は美しさの中に死が満ちており、同時に差異性も生み出せる領域だとアリナは考えている。

 

「海の中は…沈んでいったら光は届かないの。そこは…()()()()()()()()()()()()()()の」

 

「分かたれた光と闇の世界。でも、()()()()()()()()()()()()()()()…見てみたいヨネ」

 

「アリナ先輩…その、聞いてもいい?」

 

「今度は何を聞きたいワケ?」

 

「突然インスピレーションの洪水が出て、芸術を作れるようになったのは嬉しいと思うの」

 

「サンキュー、それがどうかしたワケ?」

 

「でも…突然過ぎて、気になるの」

 

「ああ、アリナが何をキッカケにしてスランプから抜け出せたか、知りたくなったワケ?」

 

「たしか一緒に水名区に行ってた時だと思うの。あの日から先輩がその…()()()()()()()()…」

 

不安そうな表情を浮かべる後輩を見つめる先輩がニヤついた顔をしながら笑い出す。

 

「アハハ!…確かにアリナは変われた。マーベラスな出会いをもう一度する事が出来たカラ」

 

「出会いって…?」

 

「フールガールも覗きたい?それはとても暗く、冷たく、デスに近づく事になるんですケド?」

 

「よく分からないけど…怖そうだし、遠慮するの」

 

「そう?残念。アナタにもアリナと同じ感性が備わっている気がしてたんですケド」

 

「私に…アリナ先輩みたいな感性があるって言うの?」

 

「だってアナタは…()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

次の日は日曜日ともあり、前の日よりも大勢の海水浴客で賑わう神浜の海の公園。

 

青い空、オーシャンブルー、まさに若者達の青春の光景であろう。

 

勿論それを楽しむのは魔法少女達個人の自由だと東西中央の長達も認めている。

 

たとえ気が付かない場所で人間達の驚異が現れ、人間達を死なせようが個人の自由。

 

魔法少女達は公務員ではない。

 

消防や警察、自衛隊のように毎日驚異に備えていつでもスクランブルする義務などないのだ。

 

「八雲…どうして自分を海に誘ったんだ?」

 

黒いビキニ水着の上に黒い上着を着ている美しい少女はサングラスを纏っている。

 

強い紫外線を毛嫌いする少女とは東の魔法少女社会の長を務める和泉十七夜であろう。

 

「だって~、十七夜は最近、調整屋に来ても元気がなかったし~。気晴らしだと思って~♪」

 

紺色のモノキニ水着を着て長い後ろ髪を下ろした姿の八雲みたまも隣りにいる。

 

彼女達は同じ東の住民であり歳が近く、同じ大東学院生徒なので昔から気が合うようだ。

 

「自分はバイトが休みの日でも気晴らしをしている暇はなかったんだが…」

 

長いビーチタオルを砂浜に敷いた2人は海や海水浴客を見つめる休日を過ごしている。

 

そんな十七夜の心は焦りに包まれており、仕事の奴隷になった社会人のようにも思えてくる。

 

「聞いてるわ。最近、東の魔法少女達が不穏な動きを見せているってね…」

 

「自分もバイトや魔獣狩りが忙しくて後手になってる。だが長として見過ごすわけにはいかん」

 

「十七夜、根を詰め過ぎよ。体が一つしかないのに無理し過ぎだわ…それでは潰れてしまう」

 

「心配してくれるのは嬉しい。だが長の努めを果たさず遊んでいる自分を考えると辛い…」

 

立ち上がって帰ろうとする十七夜であったが手を掴まれて止められる。

 

「だ~め♪今日だけは東の長でも魔法少女でもない。何処にでもいる女子高生だと考えなさい」

 

十七夜はみたまが指差す方向に振り向く。

 

「8~9~10!よーし回ったわよ!今度こそちゃんとゴールして見せるんだからーっ!」

 

「その意気だレナー!頑張れーっ!」

 

フリルがついた水玉模様の水着を着たレナが海辺を走るようだが足元がおぼつかない。

 

「うぅぅ~~~目が回る!視界がグラつく!あ、あれ…?キャーッ!?」

 

体勢を崩したレナは海辺に倒れ込み、追い打ちの波が押し寄せてずぶ濡れとなってしまう

 

「ゲホッゴホッ!ちょっと!レナは波が押し寄せてきていいなんて許可してないわよ!」

 

「ふゆぅ、レナちゃん?自然に命令しても聞いてくれないよぉ?常識だよ~?」

 

可愛いワンショルダービキニを着たかえではレナに対して上から目線になる時があるようだ。

 

「分かってるわよ!あんたもレナと同じく完走出来てないんだし!偉ぶらないでったら!」

 

「まぁまぁ。これでアタシ1人が完走者ってわ~け~で?焼きそば、ゴチになりま~す♪」

 

くるくるダッシュは黄色い花柄パレオを腰に巻いたビキニ姿のももこの一人勝ちとなるだろう。

 

「うぅ…子供の遊びだって舐めてたわね。目が回ると本当に真っ直ぐに走れないし…」

 

「それじゃ、海の家に出発進行ーっ!」

 

「ももこちゃん。食べ過ぎてお腹壊しても、海水浴場のトイレは混んでるんだよ~」

 

「アハハ…かえではアタシ達のお母さんみたいだなぁ」

 

元気な姿で青春を送る魔法少女達の光景は他にも見える。

 

「ほらほら月夜ちゃん!波が来るタイミングだからねーっ!」

 

「存じております!」

 

コルセットビスチェ水着を着た月夜とビキニ水着を着た月咲は波と追いかけっこしている。

 

「キャー!来ましたわーっ!!」

 

「逃げろ逃げろ~~っ♪」

 

波から逃げ、波が引いていけば追いかける単純な遊びであるが、子供達は大喜びしている。

 

魔法少女達の青春の光景を見つめる十七夜はくだびれた表情を浮かべながら今の気持ちを語る。

 

「ああやって魔法少女としての悩み事など忘れて大はしゃぎしろと…自分にも言いたいのか?」

 

「魔法少女だってリラックスしてもいいわ。私達は()()()()()()()()()()()()()()()の」

 

「社会の奴隷だと…?」

 

先程までのほほんとしていたが、十七夜を心配する気持ちは本物なのか真剣な顔つきを見せる。

 

「私達は社会に合わせる努力義務がある。でも優先するあまり自由を蔑ろにしたらどうなる?」

 

「どうなるのだ?」

 

「例えてあげるわ。これをどう思う?」

 

仕事が忙しい時期、妻が出産を迎えようとしている。

 

しかし夫は今直ぐ駆け込みたいのに企業社会がそれを許してくれない。

 

「労働者としての責任を押し付けられ、()()()()()()()()()()()()?」

 

「社会に合わせるだけの人生なんて…まるで()()()()()()()()()()()()よ」

 

そこには人情など欠片もなく、社会の歯車と成り果て、社会を守る道具としての価値しかない。

 

個人よりも社会という全体を優先しろという政治体制である()()()()()()()()()()()()

 

「社会の歯車になる…か」

 

責任感が人一倍強い十七夜が考えたこともなかった概念を知るだろう。

 

それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という自由思想なのだ。

 

「確かにその世界は機能美に満ちた秩序ある世界かもしれない。でもね…静か過ぎるのよ」

 

人情なんて欠片も感じられない無機質な世界であり、()()()()()()()()()()だと伝えられる。

 

「静寂社会…それが社会秩序に溢れる世界だと言うのか?」

 

「秩序はあっても人情が無い世界なんて私はごめんだわ。だって、楽しくないじゃない?」

 

どちらも正しく聞こえる十七夜は腕を組んで考え込む。

 

悩みの答えが出ないのか、みたまの方に振り向いて質問してくる。

 

「自分は…どちらを選べばいいのだろうな?」

 

長として秩序を優先するなら今直ぐ魔法少女達の自由を縛り上げるべき。

 

だがそれは魔法少女達の個人の自由を社会秩序の名の元に潰す行為となってしまう。

 

「凄く辛いわよ…そんな世界なんて。無機質そのものよ」

 

人間は社会に合わせなければ生きられないサラリーマンというロボット化を強いられる。

 

みんな同じ服装、同じ時間に電車に乗り、残業も自己責任。

 

まるでその光景は全体秩序だけで拘束された無機質軍隊のような光景であろう。

 

「労働者達に鬱病が蔓延るわけだな。みんな心があるのに社会責任の重圧で潰される…」

 

それでも許してくれない社会に対して人々は絶望していくだろう。

 

自殺したとしても自己責任など人ではない、()()()()()()()()()()()()だ。

 

「私達は魔法少女であろうとも人間の魂を持つ者達。魂は外部刺激によって穢れていくわ」

 

それは魔法少女達を死に追い詰めてしまうのだと八雲みたまは語ってくれる。

 

「死が救いだなんて、人間と同じく悲しいじゃない?」

 

「八雲……」

 

社会というものを自分以上に真剣に考えてくれていた親友の言葉が胸を打つ。

 

しかし、それでも全体を優先しなければならない長の立場がそれを許さない。

 

「魔法少女は社会を守る戦いを強いられた果てに死に、円環のコトワリに導かれて救済される」

 

――私はね、そんな理屈を絶対に認めたくない。

 

魔法少女だって心ある人間として生きて欲しい願いをみたまは心に宿す魔法少女である。

 

海で楽しく遊ぶ魔法少女達を見つめる彼女が語る切実な気持ち。

 

それは魔法少女達にも人間としての人生を与えて欲しいという願いにも似た言葉であろう。

 

「そういえば、お前は円環のコトワリについては否定的だったな」

 

「だからね~調整屋さんは円環のコトワリが見えたら…こう言ってあげるわ~♪」

 

「どう言ってやるつもりだ?」

 

「私達は心ある人間として生きたい。()()()()()()()()()()()()()()()…」

 

――だからどうか、私達が人間としての人生を歩み終えるまでは…姿を見せないでと言うわ。

 

彼女の言葉を聞き届けた親友の十七夜。

 

個人の自由を誰よりも大切に考える意見も大切に思えるが、彼女は東の長という立場である。

 

「言いたい事は分かった。それでも自分は魔法少女社会秩序を預かる東の長だ」

 

「十七夜…」

 

「個人の自由は尊いが、人間社会に不義理を行う自由と平等など…自分は認めない」

 

「自由と平等を心から愛する十七夜なのに…皮肉よね。立場がそれを許してくれない…」

 

「自分が掲げる自由と平等の精神は…神浜東西差別問題への怒りからきている」

 

東の者というコンプレックスから生まれてしまう自由と平等思想こそが十七夜を形作る。

 

私情を持ち込む事を嫌う彼女は魔法少女社会にまで個人の自由を広げられないジレンマがある。

 

「たとえ神浜の人間社会が…理不尽であったとしても…?」

 

それを聞いた十七夜は沈黙が続くが、合点がいったのか彼女の目が見開いていく。

 

「東の魔法少女達が暴れ始めている原因とは…そういう事なのか…?」

 

「急いては事を仕損じる。内部事情を完全に把握するまでは早計な答えを出さない方がいいわ」

 

「むぅ…また謎が増えてしまった。やはり調べるために自分は…」

 

また立ち上がるのだが、みたまに手を掴まれてしまう。

 

「駄目駄目♪精神的に雁字搦めになったら機転も効かなくなるわ。今日は一日付き合いなさい」

 

真面目モードを切り替えたのか、のほほんとした笑顔をみたまは向けてくる。

 

自分の身を案じてくれる親友の姿に対して十七夜は譲歩する気持ちになれたようだ。

 

「八雲は自分に厳しいな…」

 

「ウフフ♪もう長い付き合いだもの~♪貴女の事なら魂に触れなくても判るもん♪」

 

みたまも立ち上がって背伸びしていた時、何かよからぬ事を閃いてしまう。

 

「よーし!青春を謳歌する魔法少女達に~♪調整屋さんのスペシャル調整サービスを~…」

 

突然のノリを見せられた十七夜の顔に冷や汗が浮かぶ。

 

付き合いが長い分、みたまのこういう態度の時にはロクな事が起こらないのを知っている。

 

「あぁ…これは不味いパターンが来てしまったな」

 

「始めちゃうぞ~~~♪」

 

悪い予感とは的中するものであり、その餌食となるのは先程の魔法少女達であろう。

 

<<な、何よ…この魔法少女服は~~ッッ!!?>>

 

素っ頓狂な叫び声を上げたのはレナとかえで、それに月夜と月咲であろう。

 

人気のない森林公園に連れて行かれた者達はソウルジェムを無理やり調整されてしまう。

 

「とっても似合うわよ~♪今日からその水着が貴女達の魔法少女衣装ね~♪」

 

「ちょっと!?レナの魔法少女衣装が…なんで水着になったわけ!?」

 

「ふみゃみゃ!?元の衣装に戻れないよーっ!?」

 

「まさか…ウチらはこれから、こんな水着姿で魔獣を相手に戦わされるわけ!?」

 

「勘弁して下さいで御座いますーっ!!」

 

阿鼻叫喚となった周囲を笑顔で見つめる混乱の元が十七夜とももこにも視線を向けてくる。

 

「さ~て、お次はももこと十七夜よ~♪」

 

餌食となりかけている彼女達は全力で首を横に振り続けるが無駄な抵抗であろう。

 

<<ギャァァァーーーッッ!!?>>

 

調整屋さんは海に来ても元気に通常営業を行う二面性を宿した存在なのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

今日の海に訪れている魔法少女達はみたま達だけではない。

 

作業を終えて一息つきたいと思っていたアリナだったが、後輩の我儘に付き合わされている。

 

来たくもなかった海に無理やり付き合わされてしまったわけだ。

 

「~~~っ!!暑過ぎるんですケド!!」

 

アリナは太陽に目掛けて下品なハンドサインを向けながら苛立っている。

 

「こんなに暑いなんて、聞いてないんですケド!」

 

奇抜な水着を着たアリナはビーチパラソルの下で不機嫌極まったような表情を浮かべてしまう。

 

「でもアリナ先輩、作業が終わって一息つきたいって言ってたの」

 

「だからシーパラダイスに連れてきたワケ!?アリナにとってはスコーチングヘルなワケ!」

 

大きなリボンがついたワンショルダービキニを着て長い横髪を纏めたかりんも横にいる。

 

「何で糞熱いオーシャンでアリナが癒やされるって発想が出てきたのか解らないんですケド!」

 

「海は学生の青春なの!それにアリナ先輩は海をアートにするぐらい好きだと思ったけど?」

 

「アリナはパワーワールドが好きなダケ。海水浴客だらけな暑い場所はノットクレイジー!」

 

プンスコ怒る彼女の元にバットタイミングなナンパ男達がやってくる。

 

「お姉さんヒマ?ヒマなら俺達と…」

 

「ハァ!?バッドムードなアリナにナンセンスを言いに来たらどうなるか教えてあげるワケ!」

 

左手にソウルジェムを生み出すために構えようとするせいで横の後輩が慌ててしまう。

 

「待ってアリナ先輩!?わ、わたし達は忙しいから…他の女の子に声をかけて欲しいの!!」

 

慌てたかりんがアリナを静止させ、彼女が男達をなだめていく。

 

後輩のファインプレーによって彼らは事なきを得たかのように去って行くのだ。

 

そんな後輩の態度が気に喰わないのかアリナは立ち上がてしまう。

 

「帰る。こんな鬱陶しいだけの場所、一秒でもいたらアリナは辛いだけだし」

 

「待ってアリナ先輩!海が居心地悪いならせめて森林浴ぐらいは付き合って欲しいの」

 

「森林浴?」

 

「この海の公園には大きな森林公園も整備されているの。そこでなら海よりは涼しいと思うの」

 

「あ~、そういえばそんな場所もあったと思うんですケド。でもめんどくさいし…」

 

「ほらほら、海が居心地悪いなら善は急げなの~♪」

 

「ちょっ!?アリナの手を引っ張らないでったら…フールガール!」

 

困った先輩の機嫌などお構いなく、かりんに引っ張られながら森林公園に向かう。

 

遊歩道が整備された森林内で森林浴と洒落込みたい後輩であるが、先輩はそうはいかない。

 

「ハァ………アァァァァ!!セミうるさい!!なんなワケ!?この大音量!」

 

「そりゃ夏だし、セミはうるさいに決まってるの」

 

夏の風物詩とも言えるセミの大音量がアリナの神経をさらに逆撫でしていくようだ。

 

「それぐらい分かるワケ!寝てる時にも聞こえてくるセミの季節って…ほんとバットだヨネ!」

 

「夏だと寝辛いの?わたしなんて音楽をイヤホンで大きめにして聞いてたら寝られるの」

 

「お気に入りのミュージックと不快なサウンドを一緒にしないで欲しいんですケド…」

 

愚痴を垂れ流しながら森林を散歩していく光景が続いていたがアリナが立ち止まってしまう。

 

「ハァ、なんでアリナの休日がこんなバッドな場所で…?」

 

「アリナ先輩?木を見ているけど、どうかした………えっ!?ヤダ!!」

 

アリナが目にしていたのはセミを捕食中のカマキリという醜悪な光景。

 

自然界の食物連鎖であり、大きい存在が小さな存在を捕食する。

 

あるいは数の多い方が数の少ない方を捕食する。

 

昆虫好きならば見ていられるだろうが、好きではない者なら不快で見ていられないだろう。

 

「うぅぅ…気持ち悪いの。なんでアリナ先輩は…そんな風に平気な顔して見ていられるの?」

 

ごもっともな感想であるが、アリナ・グレイと呼ばれる少女は別の感性を持っている芸術家だ。

 

「アリナ先輩…聞いているの?」

 

強き者に喰われながらも必死に生き残ろうと藻掻く弱者の姿を夢中になって見つめている。

 

「こんな醜い光景に…どうしてそんなに夢中になれるの?」

 

疑問を投げかける言葉に反応するようにアリナの口が開いていく。

 

かりんに対して出した言葉とは、夏の暑さも忘れさせる程にまで冷たい言葉なのだ。

 

「…弱いくせに生きる事には必死なのね。強く生きられると夢を見た事、それがお前達の罪よ」

 

「えっ……?」

 

アリナらしくない口調と雰囲気をもたらす存在に対して言い知れぬ恐ろしさを感じてしまう。

 

「見て、美しいでしょう?()()()()()()()()()

 

「あ……アリナ先輩!?」

 

怯えるかりんの大声に反応して我に返ったアリナは顔を振り、高揚感を振り払う。

 

「どうしたワケ?そんな顔をして?」

 

「なんだか…アリナ先輩の雰囲気が……別人みたいに見えちゃったの」

 

「えっ…?」

 

何故そんな言葉を言ってくるのか首を傾げる態度をアリナは見せてくる。

 

「変なフールガール。そろそろ帰るんですケド」

 

「あっ……待って先輩!」

 

アリナを追いかけながら片手をギュッと掴む。

 

「何さ…?」

 

「アリナ先輩…わたしを置き去りにして…何処にも行かないでなの…」

 

「アリナはアリナの進みたい道に行きたいダケ。アナタもついてくればいいだけだカラ」

 

「アリナ先輩は…どんな道に進みたいの?」

 

「アリナが見たいと思う存在達がいるワールドに行って…アリナの美を探したいんだカラ」

 

「アリナ先輩が見たい存在達がいる世界?それは何処なの…?」

 

「そのワールドはきっと…ビューティフルな戒律によって支配されている」

 

――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のよ。

 

2人は森林公園から移動して更衣室がある海の休憩所に向かいながら海を去るのであろう。

 

アリナらしくない口調で語られた弱肉強食とは中国の韓愈(かんゆ)である。

 

それは進化論の提唱者であるハーバード・スペンサーが発案した適者生存と似ている概念。

 

適者生存はダーウィンの進化論にも取り入れられている。

 

個々に務める生物のうち、最も環境に適した形質をもつ個体が生存機会を保障されると表す。

 

人間社会学者のスペンサーは個体それぞれに生まれつき定められている適応力に重点をおく。

 

進歩的社会思想と進化論を同一次元で考えた者のようだ。

 

かつて美国修一郎元総理大臣はこんな言葉を大衆達に残している。

 

――強い者が生き延びたのではない、()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

その言葉こそ、かつてのボルテクス世界において存在した力の思想と酷似する。

 

力のコトワリを掲げた神々が目指した世界こそが弱肉強食という()()()()()であった。

 

 

若者達の青春を飾った2019年の夏休みも終わりが近い。

 

8月の最終日には聖探偵事務所の引っ越し作業もようやく終わりを迎えようとしている。

 

「後は事務所の整理整頓だけ!今夜はお前達のねぎらいとして…神浜の酒場に飲みに行くぞ!」

 

「ボス~待ってました!オススメの店を見つけておいたから、そこに行きましょうよ~♪」

 

「まだ片付けが残ってるんだ。飲み過ぎて潰れるなよ、丈二」

 

聖探偵事務所で働く者達が向かうのは南凪区繁華街の裏通りにある飲み屋街であろう。

 

瑠偉のオススメともあり、飲み屋のBARはエレガントな雰囲気に包まれているようだ。

 

丸一月かかった引っ越し作業も終了した事もあり、今日はハメを外して飲みたい気分。

 

社会で我慢を強いられる大人達といえど、ハメを外していい時だってあって構わない。

 

それこそが八雲みたまが伝えたかった自由概念であり、人間は社会の奴隷になってはならない。

 

夜遅くまで飲み明かした3人がBARから出てくるのだが泥酔者がいるようだ。

 

「うぃ~~!もう一軒いくぞ~~………ヒック」

 

「飲み過ぎだぞ…だから言ったんだよ、丈二」

 

酔っぱらいとなった丈二を肩に担ぎながら運んでいくが、かく言う尚紀も飲み過ぎている。

 

(子供達が海で楽しそうに遊んでいる光景を以前見ちまったし…遊び心が蘇ったのかもな)

 

心の中で反省する彼の隣を歩く瑠偉がにこやかな顔をしながら振り向いてくる。

 

「今日は東京に帰らず、ビジネスホテルに泊まるんでしょ?」

 

「当たり前だ。車を運転出来ないしな」

 

「私もホテルに帰るから、丈二の面倒をよろしくね~尚紀♪」

 

「お、おい…瑠偉!?」

 

どうやら面倒事を押し付ける算段をしていたようであり、そそくさと帰ってしまう。

 

「たくっ、面倒事から逃げるのだけは上手なんだよなぁ…あいつ」

 

「まだまだ日付は変わってね~ろ~~!俺はシラフら~~!!」

 

「吐くんじゃねーぞ」

 

重い足取りで路地を移動していた2人であったがキャッチに捕まってしまう。

 

<<お兄さん達~ちょっと寄っていかな~~い♡>>

 

横を振り向けばセクシー衣装で客引きしている若い女性達がいる。

 

新宿歌舞伎町近くで暮らしてきた尚紀にとっては関わる必要もない風景のような存在達だ。

 

無視して通り過ぎようとするのだが、しつこく付き纏ってくる。

 

「お兄さん達お疲れのようね?席料500円で大サービスするわよ?」

 

「なんか…()()()()()()()()()ような顔をしているな…お前ら?」

 

彼の脳裏に浮かんだのはアマラ深界と呼ばれた魔界での苦い記憶。

 

「おお!!セクシー美女達の夢の国に500円で連れて行ってくれるのか~!?俺は行くぞ!」

 

「どう見てもヤバい空気が…というか、なんか俺も苦い記憶が頭の中にチラつく…」

 

「若いお兄さんなんだし、青春しなきゃ駄目よ~♡私達が可愛がってあげるわ~♡」

 

「くそ…俺も酔いが回ってるのか?なんか頭がハッキリしてこねぇ…」

 

何処かで見た事があるような美女達にいつの間にか連行されてしまう。

 

「さぁさぁ、お二人様ご案内~~♡♡♡」

 

気がついたら2人は怪しい酒場の席に座っている。

 

<<さぁ、まずは一杯お飲みになって…♡>>

 

「美味いなこの酒!?悪魔でも完全回復出来そうな次元だ…もう一杯くれ」

 

<<もっとお飲みになって♡もっとお飲みになって♡>>

 

「うおおおっ!!今夜はここで飲み明かすぞ~尚紀~~ッッ!!」

 

飲めば飲む程に風景が歪んでいき、美女達の声も遠ざかっていく。

 

<<もっ…と…飲…みに…も…飲…て……>>

 

(こんな…状態……前にあった……ような気が……)

 

飲み過ぎたのか、尚紀の意識までついに途絶えることとなってしまうのであった。

 

そして夜が明けた頃。

 

「「おや?」」

 

2人が気がついた頃には早朝であり、起きた場所とは飲み屋街の裏路地にあるゴミ捨て場。

 

尚紀も丈二もドラム缶のようなゴミ箱の中に尻から放り込まれた形となっている。

 

「尚紀…なんか俺、財布の中身が軽くなってるような気がするぞ…?」

 

「何処かであいつらを見た事がある気がしてたんだが…またやられた…」

 

この世は資本主義であり弱肉強食、かつての世界とそれほど変わらないのかもしれない。

 

ボルテクス界で人修羅と呼ばれた尚紀が再び経験する事となった失敗劇となってしまう。

 

夏の苦い青春の1ページとして、忘れられない記憶となるのであった。

 




読んで頂き、有難うございます。
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