人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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96話 弱肉強食

暑い夏、それは社会人にとっては仕事を行うのも暑さで苦しい季節。

 

しかし、十代の子供たちにとっては楽しい青春の1ページを飾るだろう。

 

夏休みを楽しむ子供達を見て、社会人は愚痴るかもしれない。

 

子供は気楽でいいよな~…とかだ。

 

「丈二、これは何処に纏めておくんだ?」

 

「取り扱いに気をつけろよ。これクソ高いんだから」

 

聖探偵事務所の8月は、一ヶ月丸々引っ越し作業となっている。

 

「ボス~、この際だから事務所に飾ってた私物のアメリカンインテリアは全部売りに出したら?」

 

「う~ん…確かに荷物になるよなぁ。引越し費用の足しに出来るかもしれない」

 

「愛着があって飾ってたんじゃないのか?」

 

「俺はインテリアよりは車の方が大事だな。俺のマスタングまで売りに出せと言われたら泣くぞ」

 

「じゃあ、このインテリアは私の方で売りに出しておくわね」

 

「頼む。売れない品はこの際処分しちまうか。また新しいインテリアが欲しくなったら集めるし」

 

事務所二階の備品関係を何回かに分けて小型トラックで運ぶ事となるのだが…。

 

「とりあえずこんなもんか。それじゃ、神浜まで俺が運転するぜ」

 

「旧型普通免許を持ってる丈二じゃないと、この重量のトラックは運転出来ないしな」

 

瑠偉はインテリア処分で出掛けたようだ。

 

尚紀と丈二は神浜に荷物を持てるだけ持っていく事となり、トラックに乗って出発。

 

江東区から品川区、大田区と超え、東京を後にして横浜まで移動。

 

「しかし暑いなぁ…夏だからしょうがないけど、外で働く連中にとっては地獄の季節だな」

 

「俺たち探偵も外回りの仕事だしな」

 

「気晴らしに海が見える道を通ろうぜ」

 

海沿いの道から神浜市南凪区を目指す事となり、景色も色鮮やかな海が見える。

 

「おーおー、横浜の海の公園は今年も若者達で盛況だね~」

 

横を見れば、横浜市内で唯一海水浴が出来る人工の砂浜。

 

「お前ぐらいの年齢なら、ああいう場所で水着の若者達と遊びたいんじゃないか?」

 

「別に。俺はもうガキの世代とは価値観が合わない。それなりに辛酸を舐めて社会で生きてきた」

 

「まぁ、大人には大人の楽しみがある。引っ越しが済んだら神浜の酒場で美味い酒でも飲もうや」

 

窓に片腕を置きながら、横の海辺で楽しそうに遊んでいる水着姿の子供達を見つめる。

 

「社会生活なんて考えず、友達と楽しく今を遊び合う。ああいう時代が俺にもあったよ…」

 

――子供は気楽でいいよな~。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

神浜市には横浜市と同じく人工の砂浜があり、今年も大勢の水着姿の若者達が押しかけている。

 

浜辺だけではない。

 

森林公園、多目的ホール、現代美術館、駐車場と周囲の環境が整備された多目的娯楽施設となる。

 

神浜住民だけでなく近隣の県からも利用者が多いようだ。

 

そんな神浜の海の公園には、学生としての青春を謳歌する魔法少女達の姿もあった。

 

多目的ホールでは現在、ご当地アイドルのライブイベントが開催されている。

 

<<キャァーーーッ!!さゆさゆ~~~!!!>>

 

スモークマシンから煙が吹き出し、ステージに立っていたのはご当地魔法少女アイドル。

 

<<さゆさゆ~~!!かわいい~~~!!!>>

 

すぐ横が海なので、独特な水着姿で現れたアイドル少女。

 

彼女は日本刀をアイドルイメージにした個性派だ。

 

「あなたのハートをたたっ斬る!恋の辻斬り姫こと~史乃沙優希、参上で~す♡」

 

<<さゆさゆかわいい~~!!鞘当して~~!!!>>

 

「みんな!今日は来てくれて有難う!暑い季節をたたっ斬る!私の袈裟斬り曲行くよーっ!!」

 

ライブイベントが一気に盛り上がる現場には、ももことレナとかえでの3人の姿も見える。

 

「さゆさゆ最高~~っ!!レナのハートを袈裟斬って~~っ!!」

 

興奮した表情を浮かべて応援するレナの横では、彼女を見つめて微笑む友達の笑顔。

 

「レナの奴、楽しんでるみたいだな」

 

「ふゆぅ…私はアイドルはよく分からないけど、レナちゃんが楽しかったら私も楽しいよ~」

 

「同じ気持ちだよ。推しのアイドルじゃないけど、レナが喜んでくれてアタシも楽しい♪」

 

「たしか、ももこちゃんがバイトして今日のライブチケットを3人分お給料で買ったんだよね?」

 

「ああ!前の穴埋めだけど…やっぱり楽しい時間もチームワークだろ?」

 

「うふふ♪そうだね~」

 

熱狂の渦に包まれた多目的ホール。

 

その横を見渡せば、夏の日差しが照りつける海。

 

そこから遠くに見える大きな建物は、神浜でも有名な現代美術館。

 

今日はそこで国際芸術祭イベントが催されており、大勢の人々が詰めかけている。

 

外の敷地内では、現代アーティスト達が生み出した独特な展示物が軒を連ねるのだが…。

 

その中で、一際異色を放つアート展示物が周囲の人々をざわつかせていた。

 

「おい…なんだよ、この禍々しいアートは!?」

 

「なんだか怖いわね…。まるで船の上から海底を見ている時と同じ恐怖を感じるわ」

 

人々の感情に強烈なイメージを植え付けてしまった、ギリシャ神話をテーマにした展示物。

 

皆が連想してしまった強いイメージとは…海に引きずり込まれて死ぬイメージだ。

 

大勢の見物客を冷房の効いた現代美術館のガラス越しに観察している2人の人物達がいた。

 

「アリナ先輩…先輩が作ったあの怖いアート…なんてタイトルなの?」

 

「立体作品、海峡なんですケド」

 

「海峡…?どうしてそれが、ギリシャ神話と繋がるの?」

 

「ギリシャ神話には、オーシャンに纏わるクレイジー神話が多いワケ」

 

「神話は詳しくないけど、そうなの?」

 

「アリナは今日の展示会がオーシャンでやるって聞いたから、それをイメージしたんですケド」

 

「アリナ先輩にとって、海はどういうイメージなの?」

 

「ビューティフル・ブルーワールド。でも油断すれば、直ぐにでもデスに引きずり込まれる領域」

 

「確かに、溺れ死んだりしないか怖い部分があるの。昔から海は怖いイメージと隣合わせなの」

 

「怖い?アリナはそうは思わない」

 

海は多くの生物を陸地に上がらせる進化を与えた力強き領域。

 

再生の源だと彼女は考えている。

 

「それを…あの悪魔みたいな形にしたの…?」

 

「イエス」

 

それはまるで大渦、あるいは捕食者の口を思わせる。

 

小さく弱き者達を貪り喰らうために、海の底に引きずり込むイメージを周りに与える力強さ。

 

ギリシャ神話には、ポセイドンとガイアの娘であるカリブディスと呼ばれる魔物の神話がある。

 

同じ女の悪魔であるスキュラと共に、メッシーナ海峡を横断する船を襲い、喰らった存在だ。

 

「海峡。陸地と陸地の間のオーシャン。ヒューマンが住む陸地と、それらを分かつオーシャン」

 

海は美しさの中に死が満ち溢れている。

 

それと同時に差異性も生み出せる領域だとアリナは考えていた。

 

「海の中は…沈んでいったら光は届かないの。そこは、()()()()()()しか生きられないの」

 

「分かたれた光と闇の世界。でも、闇の世界には()()()()()達がいる…見てみたいヨネ」

 

「アリナ先輩…その、聞いてもいい?」

 

「今度は何を聞きたいワケ?」

 

「突然インスピレーションの洪水が出て、芸術を作れるようになったのは嬉しいと思うの」

 

「サンキュー、それがどうかしたワケ?」

 

「でも…突然過ぎて、気になるの」

 

「ああ、アリナが何をキッカケにしてスランプから抜け出せたか、知りたくなったワケ?」

 

「たしかあれは…一緒に()()()()()()()()()だと思うの。あの日からアリナ先輩がその…」

 

――変わったような気がして。

 

不安そうな表情を浮かべる後輩の姿を見て、ニヤついた表情を浮かべながら先輩は笑う。

 

「アハハ!…確かにアリナは変われた。マーベラスな出会いをもう一度する事が出来たカラ」

 

「出会いって…?」

 

「フールガールも覗きたい?それはとても暗く、冷たく、デスに近づく事になるんですケド?」

 

「よく分からないけど…怖そうだし、遠慮するの」

 

「そう?残念。アナタにもアリナと同じ感性が備わっている気がしてたんですケド」

 

「私に…アリナ先輩みたいな感性があるって言うの?」

 

「だってアナタは…」

 

――()()()()()が、大好きなんだカラ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

次の日は日曜日ともあり、前の日よりも大勢の海水浴客で賑わう神浜の海の公園。

 

青い空、オーシャンブルー、まさに若者達の青春の光景であろう。

 

勿論それを楽しむのは、魔法少女たち個人の自由だと東西中央の長達も認めている。

 

たとえ気が付かない場所で人間達の驚異が現れ、人間達を死なせようが個人の自由。

 

魔法少女達は公務員ではない。

 

消防や警察、自衛隊のように毎日驚異に備えいつでもスクランブル発進する義務などなかった。

 

「八雲…どうして自分を海に誘ったんだ?」

 

黒いビキニ水着の上に黒い上着を着ている美しい少女。

 

強い紫外線から目を守るサングラスをかけた少女とは、東の魔法少女社会の長を務める十七夜だ。

 

「だって~、十七夜は最近、調整屋に来ても元気が無かったし~。気晴らしだと思って~♪」

 

紺色のモノキニ水着を着て、長い後ろ髪を下ろした姿の八雲みたまも隣りにいる。

 

彼女達は同じ東の住民であり、歳が近い。

 

同じ大東学院生徒なので、昔から気が合うようだ。

 

「自分はバイトが休みの日でも、気晴らしをしている暇はなかったんだが…」

 

長いビーチタオルを砂浜に敷き、2人は海や海水浴客を静かに見つめているだけ。

 

それでも…十七夜の心は焦りに包まれているようだ。

 

「聞いてるわ。最近、東の魔法少女達が不穏な動きを見せているって」

 

「自分もバイトや魔獣狩りが忙しくて後手になっている。だが長として見過ごすわけにはいかん」

 

「十七夜、根を詰め過ぎよ。体が1つしかないのに無理し過ぎだわ…それでは潰れてしまう」

 

「心配してくれるのは嬉しい。だが長の努めを果たさず遊んでいる自分を考えると辛い…」

 

立ち上がって帰ろうとする十七夜であったが、手を掴まれて止められる。

 

「だ~め♪今日だけは、東の長でも魔法少女でもない。何処にでもいる女子高生だと考えなさい」

 

みたまが指差す方向を十七夜は振り向く。

 

「8~9~10!よーし回ったわよ!今度こそちゃんとゴールして見せるんだからーっ!」

 

「その意気だレナー!頑張れー!」

 

フリルがついた水玉模様の水着を着たレナが海辺を走る少女がいたのだが…。

 

「うぅぅ~~~目が回る!視界がグラつく!あ、あれ…?キャーッ!?」

 

体勢を崩し、レナは海辺に倒れ込む。

 

追い打ちをかけるように波が押し寄せ、彼女はずぶ濡れとなったようだ。

 

「ゲホッゴホッ!…ちょっと!レナは波が押し寄せてきて良いなんて許可してないわよ!」

 

「ふゆぅ、レナちゃん?自然に命令しても聞いてくれないよぉ?常識だよ~?」

 

可愛いワンショルダービキニを着た姿のかえでがレナに近寄り上から目線。

 

大人しい彼女だが…レナに向けては妙に強気になる瞬間があるようだ。

 

「分かってるわよかえで!あんたもレナと同じく完走出来てないんだし!偉ぶらないでったら!」

 

「まぁまぁ。これでアタシ1人が完走者ってわ~け~で?焼きそば、ゴチになりま~す♪」

 

くるくるダッシュは、黄色い花柄パレオを腰に巻いたビキニ姿のももこの一人勝ちだったようだ。

 

「うぅ…子供の遊びだって舐めてたわね。目が回ると本当に真っ直ぐに走れないし…」

 

「それじゃ、海の家に出発進行ーっ!」

 

「ももこちゃん。食べ過ぎてお腹壊しても、海水浴場のトイレは混んでるんだよ~」

 

「アハハ…かえではアタシ達のお母さんみたいだなぁ」

 

元気な姿で青春を送る魔法少女達の光景は他にも見える。

 

みたまが指差す違う方角に見えた魔法少女達とは…。

 

「ほらほら月夜ちゃん!波が来るタイミングだからねーっ!」

 

「存じております!」

 

コルセット・ビスチェ水着を着た月夜と、ビキニ水着を着た元気な月咲は波と追いかけっこ中だ。

 

打ち寄せる波が近づく。

 

「キャー!来ましたわーっ!!」

 

「逃げろ逃げろ~~っ♪」

 

波から逃げ、波が引いていけば追いかける単純な遊びだが子供達は大喜び出来た。

 

そんな魔法少女達の青春の1ページを見つめる十七夜だが、大きく溜息をつく。

 

「自分にも、ああやって魔法少女としての悩み事など忘れて、大はしゃぎしろと言いたいのか?」

 

「魔法少女だってリラックスしても良いわ。私達は()()()()()になる必要なんてないの」

 

「社会の奴隷だと…?」

 

先程までのほほんとしていたが、十七夜を心配する気持ちは本物なのか真剣な顔つきを見せる。

 

「私達は社会に合わせる努力義務がある。でも優先するあまり自由を蔑ろにしたら…どうなる?」

 

「どうなるのだ?」

 

「例えてあげるわ。これをどう思う?」

 

仕事が忙しい時期、妻が出産を迎えようとしている。

 

しかし夫は今直ぐ駆け込みたいのに、企業社会がそれを許してくれない。

 

「労働者としての責任を押し付けられ、()()()()()が潰されていく?」

 

「社会に合わせるだけの人生…まるで()()()()()()()()そのものよ」

 

そこには人情など欠片もない。

 

ただ社会の歯車となり、社会を守るためにしか必要とされない存在と化していく。

 

個人よりも社会という全体を優先しろという政治思想…全体主義の光景だ。

 

「社会の歯車になる…か」

 

責任感が人一倍強い十七夜が考えたこともなかった概念。

 

それは…社会のために努力し続けろという美徳を疑えという、個人の自由の概念であった。

 

「確かにその世界は機能美に満ちた秩序ある世界かもしれない。でもね…()()()()()()()

 

人情なんて欠片も感じられない無機質な世界。

 

()()()()()()()()世界なのだ。

 

「静寂社会…それが社会秩序に溢れる世界だと言うのか?」

 

「秩序はあっても人情が無い世界なんて、私はごめんだわ。だって、楽しくないじゃない?」

 

どちらも正しく聞こえた十七夜は腕を組んで考え込む。

 

悩みの答えが出ないのか、みたまの方に振り向いて質問をしてくる。

 

「自分は…どちらを選べばいいのだろうな?」

 

長として秩序を優先するなら、今直ぐ魔法少女達の自由を縛り上げるべきだ。

 

だがそれは、魔法少女達の個人の自由を社会秩序の名の元に潰す行為となってしまう。

 

「みんな凄く辛いわよ…そんな世界」

 

人間はサラリーマンという社会に合わせなければ生きられないロボット化を強いられる。

 

みんな同じ服装、同じ時間に電車に乗り、残業も自己責任。

 

まるでその光景は全体秩序だけで拘束された()()のような光景だった。

 

「労働者達に鬱病が蔓延るわけだな。みんな心があるのに、社会責任の重圧に潰される…」

 

それでも許してくれない社会に絶望していくだろう。

 

自殺したとしても自己責任。

 

人ではない、()()()()()だ。

 

「私達は魔法少女であろうとも人間の魂を持つ者達。魂は外部刺激によって穢れていくわ」

 

それは魔法少女達を死に向けて進めていく。

 

「死が救いだなんて、人間と同じく悲しいじゃない?」

 

「八雲……」

 

社会というものを自分以上に真剣に考えてくれていた親友の言葉が胸を打つ。

 

しかし、それでも全体を優先しなければならない長の立場がそれを許さない。

 

「魔法少女は社会を守る戦いを強いられた果てに死に、円環のコトワリに導かれて救済される」

 

――私はね、そんな理屈を絶対に認めたくない。

 

――魔法少女だって心ある人間として生きて欲しい。

 

海で楽しく遊ぶ魔法少女達を見つめる八雲みたまが語る切実な気持ち。

 

それは、魔法少女達にも人間としての人生を与えて欲しいという願いにも似た言葉だった。

 

「そういえば、お前は円環のコトワリに向けては否定的だったな」

 

「だからね~調整屋さんは、円環のコトワリが見えたらこう言ってあげるわ~♪」

 

「どう言ってやるつもりだ?」

 

「私達は心ある人間として生きたい。戦いだけの世界で終わりたくない…」

 

――だからどうか、私達が人間としての人生を歩み終えるまでは…姿を見せないでと言うわ。

 

彼女の言葉を聞き届けた親友の十七夜。

 

個人の自由を誰よりも大切に考える者の意見も大切に思えるが…彼女は東の長という立場だ。

 

「言いたい事は分かった。それでも自分は、魔法少女社会秩序を預かる東の長だ」

 

「十七夜…」

 

「個人の自由は尊いが、人間社会に不義理を行う自由平等など…自分は認めない」

 

「自由と平等を心から愛する十七夜なのに…皮肉よね。立場がそれを許してくれない」

 

「自分が掲げる自由と平等の精神は…神浜東西差別問題への怒りからきている」

 

東の者という自身のコンプレックスから生まれてしまう自由と平等思想。

 

だが、私情を持ち込むことを嫌う彼女は魔法少女社会にまで持ち込む個人の自由を認められない。

 

「たとえ神浜の人間社会が、理不尽であったとしても?」

 

みたまの言葉を聞き、暫しの沈黙が続く。

 

合点がいったのか、十七夜の目が見開いていく。

 

「…そういうことなのか?東の魔法少女達が暴れ始めている原因は…?」

 

「急いては事を仕損じる。内部事情を完全に把握するまでは、早計な答えは出さない方がいいわ」

 

「むぅ…また謎が増えてしまった。やはり調べるために自分は帰…」

 

また立ち上がるのだが、みたまに手を掴まれてしまう。

 

「駄目駄目♪精神的に雁字搦めになったら機転も効かなくなるわ。今日は一日付き合いなさい」

 

真面目モードを切り替えたのか、のほほんとした笑顔を向けてくる。

 

自分の身を案じてくれる親友の姿を見て、譲歩する気持ちになれたようだ。

 

「八雲は自分に厳しいな…」

 

「ウフフ♪もう長い付き合いだもの~♪貴女のことなら魂に触れなくても判るもん♪」

 

みたまが立ち上がり、大きく背伸びをしていく。

 

その時…何か良からぬ事を閃いたようだが?

 

「よーし!青春を謳歌する魔法少女達に~♪調整屋さんのスペシャル調整サービスを~…」

 

突然のノリを見せられ、冷や汗が浮かぶ。

 

付き合いが長い分、みたまのこういう態度の時にはロクな事が起こらないのを知っている。

 

「あぁ…これは不味いパターンが来てしまったな」

 

――始めちゃうぞ~~~♪

 

……………。

 

悪い予感とは的中するものだ。

 

<<な、何よこの魔法少女服~~~~~ッッ!!?>>

 

素っ頓狂な叫び声を上げたのは、レナ、かえで、月夜、月咲達だ。

 

どうやら運悪く…気まぐれ調整屋に捕まってしまったようだ。

 

人気のない森林公園の目立たない場所に連れて行かれ、ソウルジェムに無理やり調整が施された。

 

その変わり果てた姿とは?

 

「とっても似合うわよ~♪今日からその水着が貴女達の魔法少女衣装ね~♪」

 

「ちょっと!?レナの魔法少女衣装が…なんで水着になったわけ!?」

 

「ふみゃみゃ!?元の衣装に戻れないよーーっ!!?」

 

「まさか…ウチらはこれから、こんな水着姿で魔獣を相手に戦わされるわけ!?」

 

「勘弁して下さいで御座いますーーっ!!!」

 

阿鼻叫喚となった周囲を笑顔で見つめる混乱の元が、十七夜とももこにも視線を向けてくる。

 

「さ~て、お次はももこと十七夜よ~~♪」

 

餌食となりかけている彼女達は全力で首を横に振り続けるが…無駄な抵抗であった。

 

<<ギャァーーーーーー!!!?>>

 

調整屋さんは、どうやら海に来ても元気に通常営業中であったというわけだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

今日海に訪れている魔法少女たちは、彼女達だけではない。

 

アート作業を終え一息つきたいと思っていたアリナだったが、後輩の我儘に付き合わされている。

 

来たくもなかった海に無理やり付き合わされてしまったみたいだ。

 

「~~~っ!!暑過ぎるんですケド!!」

 

太陽に向けて下品なハンドサインを向ける不機嫌な態度。

 

「こんなに暑いなんて、聞いてないんですケド!」

 

奇抜な水着を着たアリナは、ビーチパラソルの下で不機嫌極まったような表情を浮かべてしまう。

 

「でもアリナ先輩、作業が終わって一息つきたいって言ってたの」

 

「だから海に連れてきたワケ!?」

 

大きなリボンがついたワンショルダービキニを着て、長い横髪を纏めたかりんの姿も横にいる。

 

「なんで糞熱いオーシャンでアリナが癒やされるって発想が出てきたのか解らないんですケド!」

 

「海は学生の青春なの!それにアリナ先輩は海をアートにするぐらい好きだと思ったけど?」

 

「アリナはパワーワールドが好きなダケ。海水浴客だらけで暑過ぎる場所はノットクレイジー!」

 

プンスコ怒る彼女の元に、バットタイミングなナンパ男達がやってきた。

 

「お姉さんヒマ?ヒマなら俺達と…」

 

「ハァ!?バッドムードのアリナにナンセンスなこと言いに来たらどうなるか教えてあげるワケ」

 

左手にソウルジェムを生み出すために構えようと…。

 

「待ってアリナ先輩!?わ、私達は忙しいから…他の女の子に声をかけて欲しいの!!」

 

慌てたかりんがアリナを静止させ、かりんが男達をなだめていく。

 

後輩のファインプレーによって、彼らも事なきを得たかのように去って行った。

 

だが、そんな後輩の態度が気に喰わないのか、アリナは立ち上がる。

 

「アリナ帰る。こんな鬱陶しいだけの場所、一秒でもいたらアリナ辛いだけだし」

 

「待ってアリナ先輩!海が居心地悪いならせめて、森林浴ぐらいは付き合って欲しいの」

 

「森林浴?」

 

「この海の公園には大きな森林公園も整備されているの。そこでなら海よりも涼しいと思うし」

 

「あ~、そういえばそんな場所もあったと思うんですケド。でもめんどくさいし…」

 

「ほらほら、海が居心地悪いなら善は急げなの~♪」

 

「ちょっ!アリナの手を引っ張らないでったらフールガール!?」

 

困った先輩の機嫌などお構いなく、かりんに引っ張られながら森林公園内に向かう。

 

遊歩道が整備された美しい森林内で森林浴と洒落込みたい後輩であるのだが…。

 

「ハァ………アァァァァ!!!セミ五月蝿い!!なんなワケ!?この大音量!」

 

「そりゃ夏だし、セミは五月蝿いに決まってるの」

 

夏の風物詩とも言えるセミの大音量がアリナの神経をさらに逆撫でしていくようだ。

 

「それぐらい判ってるワケ!寝ている時にも聞こえてくるセミの季節ってほんとバットだヨネ!」

 

「夏だと寝辛いの?私なんて、音楽をイヤホンで大きめにして聞いてたら寝られるてるの」

 

「お気に入りのミュージックと不快な音を一緒にしないで欲しいんですケド…」

 

愚痴を垂れ流しながら森林を散歩していく光景が続いていく。

 

「ハァ、なんでアリナの休日がこんなバッドな場所で…?」

 

立ち止まったアリナは木に視線を向ける。

 

「アリナ先輩?木を見ているけど、どうかした………えっ!?ヤダ!!」

 

アリナが目にしていたのは、セミを捕食中のカマキリという醜悪な光景。

 

自然界の食物連鎖。

 

大きい存在が小さな存在を捕食する。

 

あるいは、数の多い方が数の少ない方を捕食する。

 

昆虫好きならば見ていられるだろうが、好きではない者なら不快で見ていられないだろう。

 

「うぅぅ…気持ち悪い光景。なんでアリナ先輩は…そんなに平気な顔して見ていられるの?」

 

後輩のごもっともな感想。

 

だが、アリナ・グレイと呼ばれる少女は…別の感性を持っていた。

 

「アリナ先輩…聞いているの?」

 

強き者に喰われながらも、必死に生き残ろうと藻掻く弱者の姿。

 

その光景を夢中で見つめ続けてしまう。

 

「こんな醜い光景に…どうしてそんなに夢中になれるの?」

 

彼女の疑問を向ける言葉に反応するかのように口が開いていく。

 

かりんに対して答えた言葉とは…夏の暑さも忘れさせる程にまで冷たい言葉だった。

 

「……弱いくせに、生きることには必死なのね」

 

――強く生きられると夢を見たこと、それがお前達の罪よ。

 

「えっ……?」

 

アリナらしい独特な口調ではなくなってしまった冷たい言葉。

 

雰囲気までアリナらしさを失ってしまったかのような恐ろしさを周囲に放つ。

 

恐ろしい存在と化したアリナが、かりんに振り向いていく。

 

「見て、美しいでしょう?」

 

――力有る者は、美しいわ。

 

「あ……アリナ先輩!?」

 

驚愕に包まれて怯えるかりんの大声に反応する。

 

「……あっ?」

 

突然我に帰ったかのように顔を振り、妙な高揚感を振り払い彼女に向き直る姿。

 

「どうしたワケ?そんな顔をして?」

 

不安な表情となってしまったかりんが、重い口を開いていく。

 

「なんだか…アリナ先輩の雰囲気が……別人みたいに見えちゃったの」

 

「えっ…?」

 

何故そんな言葉を言ってくるのか首を傾げる態度を見せる。

 

「変なフールガール。そろそろ帰るんですケド」

 

「あっ……待って先輩!」

 

アリナを追いかけ、片手をギュッと掴む。

 

「何さ…?」

 

「アリナ先輩…私を置き去りにして、何処にも行かないでなの…」

 

「アリナはアリナの進みたい道に行きたいダケ。アナタもついてくれば良いだけなんですケド?」

 

「アリナ先輩は…どんな道に進みたいの?」

 

「アリナは、アリナが見たいと思う存在達がいるワールドで…アリナの美を探したいんだカラ」

 

「アリナ先輩が見たい存在達がいる世界?それは何処なの…?」

 

「そのワールドは…きっとビューティフルな戒律によって支配されている」

 

――()()()()という、戒律によって。

 

2人は森林公園から移動して、更衣室がある海の休憩所へと去って行った。

 

……………。

 

中国の韓愈(かんゆ)である弱肉強食。

 

それは進化論の提唱者であるハーバード・スペンサーが発案した適者生存と似ている概念。

 

適者生存はダーウィンの進化論にも取り入れられている。

 

個々に務める生物のうち、最も環境に適した形質をもつ個体が生存の機会を保障されると表した。

 

人間社会学者のスペンサーは、個体それぞれに生まれつき定められている適応力に重点を起く。

 

進歩的社会思想と進化論を同一次元で考えたようだ。

 

かつて、美国修一郎元総理大臣はこんな言葉を大衆達に残している。

 

――強い者が生き延びたのではない。

 

――()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

その言葉はまるで、かつてのボルテクス世界において存在した力の思想と酷似する。

 

力のコトワリを掲げた神々が目指した世界だった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

若者達の青春の1ページを飾っただろう、2019年の夏休みも終わりが近い。

 

8月の最終日頃には聖探偵事務所の引っ越し作業もようやく終わりを迎えようとしている。

 

「後は事務所の整理整頓だけ!今夜はお前達のねぎらいとして、神浜の酒場に飲みに行くぞ!!」

 

「ボス~待ってました!私がオススメの店を見つけておいたから、そこに行きましょうよ~♪」

 

「まだ片付けが残ってるんだ。飲みすぎて潰れるなよ、丈二」

 

聖探偵事務所で働く者達が移動を開始。

 

南凪区繁華街の裏通りにある飲み屋街へと向かって行った。

 

瑠偉のオススメともあり、飲み屋のBARはエレガントな雰囲気に包まれているようだ。

 

丸一月かかった引っ越し作業も終了したこともあり、今日はハメを外して飲みたい気分。

 

社会で我慢を強いられる大人達と言えども、ハメを外して良い時だってあって良いだろう。

 

社会の奴隷ではないのだから。

 

夜遅くまで飲み明かした3人がBARから出てくるのだが…案の定泥酔者が出ている。

 

「うぃ~~!もう一軒いくぞ~~………ヒック」

 

「飲み過ぎだぞ丈二…だから言ったんだ」

 

尚紀に肩を抱かれながら酔っぱらいとなった丈二が運ばれていく。

 

かく言う尚紀も今日は飲み過ぎたようだ。

 

(子供達が海で楽しそうに遊んでいる光景を以前見ちまったし…遊び心が蘇ったのかもな)

 

心の中で反省を促している尚紀の隣を歩く瑠偉がにこやかに振り向いてくる。

 

「今日は東京に帰らず、ビジネスホテルに泊まるんでしょ?」

 

「当たり前だ。車を運転出来ないしな」

 

「私もホテルに帰るから、丈二の面倒をよろしくね~尚紀♪」

 

「お、おい瑠偉!?」

 

どうやら面倒事を押し付ける算段をしていたようだ。

 

「たくっ、面倒事から逃げるのだけは上手なんだよな…あいつ」

 

丈二を肩に担ぎながら飲み屋街を移動していく光景が続く。

 

「まだまだ日付は変わってね~ろ~~!俺はシラフら~~!!」

 

「吐くんじゃねーぞ」

 

路地を重い足取りで移動していた2人だったのだが…キャッチに捕まってしまう。

 

<<お兄さん達~ちょっと寄っていかない~~♡>>

 

横を振り向けば、セクシー衣装で客引きをしている若い女性達の姿。

 

新宿歌舞伎町近くで暮らしてきた尚紀にとっては関わる必要もない風景のような存在達だ。

 

無視して通り過ぎようとするのだが、しつこく付き纏ってくる。

 

「お兄さん達お疲れのようね?席料500円で大サービスするわよ?」

 

「なんか…()()()()()()()()()()()()()顔をしているな、お前ら?」

 

彼の脳裏に浮かんだのはアマラ深界と呼ばれた魔界での苦い記憶。

 

「おお!!セクシー美女達の夢の国に500円で連れて行ってくれるのか~!?俺は行くぞ!」

 

「どう見てもヤバい空気が…というか、なんか俺も苦い記憶が頭の中にチラつく…」

 

「若いお兄さんなんだし、青春しなきゃ駄目よ~♡私達が可愛がってあげるわ~♡」

 

「くそ…俺も酔いが回ってるのか?なんか頭がハッキリしてこねぇ…」

 

いつの間にか尚紀は何処かで見たことがあるような美女達に連行されている姿と化す。

 

「さぁさぁ、お二人様ご案内~~♡♡♡」

 

気がついたら、2人は怪しい酒場の席に座っていた。

 

<<さぁ、まずは一杯お飲みになって…♡>>

 

「美味いなこの酒!?悪魔でも完全回復出来そうな次元だ…もう一杯くれ」

 

<<もっとお飲みになって♡もっとお飲みになって♡>>

 

「うおおおっ!!俺は今夜はここで飲み明かすぞ尚紀~~ッッ!!」

 

飲めば飲む程に風景が歪んでいく。

 

美女達の声も遠ざかっていく。

 

<<もっ…と…飲…みに…も…飲…て……>>

 

(こんな…状態……前にあった……ような気が……)

 

飲み過ぎたのか、ついに尚紀の意識まで途絶えることとなってしまった。

 

……………。

 

「「おや?」」

 

2人が気がついた頃には既に早朝。

 

起きた場所とは…飲み屋街裏路地にあるゴミ捨て場。

 

尚紀も丈二もドラム缶のようなゴミ箱の中に尻から放り込まれた形となっていた。

 

「尚紀…なんか俺、財布の中身が軽くなってるような気がするぞ?」

 

「何処かであいつらを見たことある気がしてたんだが…またやられた」

 

この世は資本主義であり弱肉強食。

 

かつての世界とそれほど変わらないのかもしれない。

 

ボルテクス界で人修羅と呼ばれた尚紀が再び経験する事となった失敗劇。

 

夏の苦い青春の1ページとして、忘れられない記憶となってしまったようだ。

 




読んで頂き、有難うございます。
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