人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
観光地として名高い歴史ある南凪区ならばホテルの数も多い。
その中で最も格式高く立派なクラッシックホテルとして名高い高層ビルが存在している。
地下駐車場だけでなく複数のレストラン、宴会場、挙式場が納められる規模を誇るホテルだ。
異国文化の窓口として神浜と共に歩んできたホテルであるが、その名は酷く不気味である。
そしてこのホテルは怪談めいた話を従業員達から語られる事が多い。
夜な夜な幽霊のような存在を見た、怪奇現象を見たなど不気味な体験談が数多く語られる。
ホテルのオーナーの存在は総支配人しか知らないと言われ、秘密主義を感じさせる宿泊施設。
その怪しいホテルの名は
9月某日、学校が終わった八雲みたまは足早に南凪区に向かってベイエリアに入っていく。
「相変わらず、叔父様が所有しているホテルは大きいわね~」
港を一望出来るエリアにそびえ立つ豪華ホテルを見上げながら彼女はホテル入口に向かう。
「お待ちしておりました」
入り口で出迎えてくれたのはホテルの経営を任されている総支配人であろう。
「ヴィクトル叔父様に会いに来ました~♪下を開けてくれます?」
「承知しました、こちらへどうぞ」
ホテルの内装は正統派ヨーロッパスタイルを思わせる程にエレガントな雰囲気である。
異国文化を感じさせるこの南凪区に相応しいホテルであろう。
ホテルに入り受付を超えると目の前にそびえる階段の間と呼ばれるフロアが出迎えてくれる。
上だけでなく地下にも進む階段があり、2人は下に降りていく。
「周りに人はいませんよ~開けちゃってくださ~い♪」
降りた先で彼女が左右を確認し、総支配人が近くにある円柱内部に隠されたスイッチを押す。
すると手前の壁が開き、地下に降りる階段が出現するのだ。
「ヴィクトル叔父様も偶には地下から出てきたらいいのに」
「ヴィクトル様は日光を嫌います。上がられる時は夜中になりますね」
「そうだったわね~。それじゃ、私は業魔殿に行ってきますね~」
みたまが降りていったのを確認した総支配人は壁を閉め、何もなかったかのように仕事に戻る。
地下に降りていく階段は深く、ホテル地下駐車場よりもさらに深い。
一番下まで降りたそこには現代的設備が整った地下研究所が広がっている。
研究所内部は現代的ではあるが、所々にオカルトシンボルなども見られるようだ。
奥まで進み、大きな自動ドアを開け、そこで見た光景こそ業魔殿の心臓部であろう。
「おお、みたま君。来てくれたか」
彼女に声をかけてきた存在は酷く不気味な人物である。
白髪のミディアムヘア、整えた黒髭、目元は頬まで流れる程の黒墨めいた入れ墨を持つ男性。
足が悪いのか豪華な支え杖を地面につきながら歩いてきたようだ。
「こんにちわ~ヴィクトル叔父様♪新しい情報を手に入れたので、レポートを持ってきました」
USB記録メディアを学生鞄から取り出して彼に渡す。
「後で見てみよう。どうだね、調整屋は繁盛しているか?」
「お陰様で大繁盛です♪叔父様にビジネス指導もしてもらって、商売のコツを掴めました~」
「地上のホテル経営の成功も大正時代に吾輩が学んだビジネス知識が役に立ったものだ」
喜ばしいことなのだが、ヴィクトルは顔をしかめていく。
彼を可愛がってくれたクソジジィの記憶が脳裏に過ったためだろう。
「東京の金王屋さんの地下で、慎ましく悪魔研究をしていた時代だったって言ってましたね~」
「昔は帝都と呼ばれたがね。ところで、ものはついでなのだが頼み事が…」
会話をしていた時、みたま達の元まで駆け寄ってくる存在が素っ頓狂な叫び声を出す。
<<うおおおっ!!うぉまえ!来たかぁ!!待ってたぞぉーっ!!>>
奥のドアの外から喧しい声を出しながら入ってきたのは業魔殿のメイドさんであろう。
白髪のショートヘアを持ち、頭部には間の抜けたアホ毛が靡く。
黒いエプロン風の上着には白く4と大きく描かれている。
顔の右目を4と描かれた黒い眼帯で隠す目隠れ少女である。
「あら~ダタラちゃん♪相変わらず元気一杯ね~」
ズカズカと入ってきた研究所職員?らしき人物がみたまに近寄っていく。
「うぉまえはカワイイか!?皆の視線をたっぷり浴びて、真っ青に育った有名人かぁぁぁ!」
「調整屋さんはカワイイわよ~♪ピチピチでナウいでしょ~?」
「うおおおっ!うぉまえ!そのカワイイの秘密うぉ教えろ!うぉれはもっとカワイイになる!」
外見の可憐さとは打って変わり、その口調は大変マッドである。
「コラ、イッポンダタラよ。吾輩が話している時に横槍は関心せんぞ」
「うぉまえは、うぉれのご主人様!?うぉれは、メイドで仕事に戻るぞぉぉぉ!!」
「今度流行りのカワイイを教えてあげるわよ♪ハイカラなメイドさんになれるわ~」
「うぉぉぉし!うぉれ、うぉまえを見てやるぞっ!約束だぁぁぁっ!!」
突然現れ、突然去っていくマッドメイドの騒がしさに対して主人は辟易してしまう。
「ふぅ。大正時代から助手をやらせている悪魔だが、カワイイメイドとやらを追求しだしてな」
「十七夜のライバルね~♪メイド喫茶で働いたら、きっとカワイイが理解出来ると思うわ~」
「さて、話を戻そう。頼み事があるのだが、構わないかね?」
「頼み事ですか?」
「1人の人物を業魔殿まで連れてきて欲しい」
「その人物って誰なんですか?この秘匿された業魔殿に入れる人物は限られてるし…」
「業魔殿本来の役割を必要とする存在だと言えば、伝わるだろうか?」
「まさか…デビルサマナーですか?」
「悪魔を連れ歩く存在はサマナーだけではない。悪魔自身もまた、悪魔を使役する立場だ」
「それじゃ…ここに連れてくる人物って…」
「1人の悪魔を、この業魔殿に連れてきて欲しい」
「1人の悪魔…?」
「その人物は嘉嶋尚紀という名前を用いて私立探偵業を営んでいる」
「探偵の嘉嶋尚紀さん…ですか?」
「しかし、彼はイルミナティや悪魔崇拝組織につけ狙われる立場となったのだ」
世間からは陰謀論だとバカにされる単語を言ってくる。
しかしみたまはそれを陰謀論だとは馬鹿にせず、驚愕した表情を浮かべてくるのだ。
「イルミナティと悪魔崇拝組織ですって!?」
「彼にはさらなる力が必要だ。吾輩はそれの協力がしたい」
「その人物は…神浜にいるんですか?」
「最近引っ越してきてな、北養区の山に面した場所にあった空き家を購入して暮らしている」
「北養区なら高校生の私でも歩いて行ける距離ですね、判りました」
「住所はメモに書いておいた。頼んだよ、みたま君」
メモを渡された彼女は業魔殿研究施設から去っていき、ヴィクトルは見送ってくれる。
そんな彼の後方からやってくる人物がいるようだ。
「…ニコラス先生、これでよろしいのですかな?」
「すまないね、ヴィクトル君。教え子の君に甘える事となる」
「構いませんよ。吾輩に悪魔合体技術の基礎となる錬金術を教えてくれたのは貴方なのだ」
♦
ポスティング仕事を進めていく尚紀は今日も遅くまで仕事をこなして家路につく。
クリスを運転しながら北養区に向けて車を走らせる。
「素敵な家を買えて良かったわね~ダーリン。これなら家路につく時間もかなり短縮よ」
「家に帰って猫共に餌やったら今度は東京だ。時間に追われる生活に変わりはない」
「東京の監視を済ませて神浜に帰ってお風呂とか済ませると夜明けも近いわね。寝られてる?」
「俺は毎日3時間睡眠だ」
「も~、ダーリンはワーカーホリックなんだから。悪魔じゃなかったら倒れて死んでたわね~」
「頑丈な悪魔だからこそ、今の多忙な生活に耐えられる。これからも続けるさ」
「でも、ダーリンと2人だけでいられる時間が少なくならずに済んで良かったわ~」
「これからも頼りにしているぜ。お前がいないと東京の守護者を続けられない」
「モチのロンよーっ!ガンガンアタシを乗り回しちゃってね~♡」
北養区の高級住宅街を超え、人気のない自宅に帰ろうとする道中で何かを見つける。
見ればスマホ片手に道に迷っているような人物がいるようだ。
車を減速させ、彼女の横で停止させて左側の窓を開ける。
「こんな遅くにどうした?道に迷ったのか?」
黒のキレイめパンツに白の肩だしニットトップスを着た少女が彼に振り向く。
「すいませ~ん、道に迷ったんですよ。地図アプリで探してるんですけどよく分からなくて…」
彼女を見た悪魔のクリスが突然念話を寄越してくる。
<ダーリン。アタシはこの子を見た事あるわよ>
<ああ、たしか新西区を走ってた時に見かけた魔法少女だ。特徴的な魔力だったから覚えてる>
「何処を探しているんだ?」
「この辺に引っ越してきた嘉嶋さんというお宅を探してて…この辺の人なら知ってます?」
「…俺の家に何の用事だよ?」
「えっ!?もしかして…嘉嶋尚紀さんですか?」
「そうだ。一体何の用事か知らないが…さっさと内容を言え」
「その…夜とはいえ、まだ人通りもありますし~。聞かれちゃうと不味い話なんです…」
<この子…どうするの?>
<この神浜生活で俺は人間のフリをしているが、極一部の魔法少女には正体がバレている>
<誰かが喋ったのかしら?>
<あいつらが神浜の魔法少女達に俺の正体をばら撒く理由はないだろう>
<まさかダーリン…?>
黙り込んで念話を繰り返していたが、みたまに向き直る。
「…乗れよ。家で聞いてやる」
「すいませ~ん、お手数おかけして。助手席に乗っていいですか?」
「さっさと乗ってくれ。俺は時間に追われる多忙な労働者だ」
「は~い♪」
好意に甘えるみたまが助手席を開けて入ったはいいが、クリスは浮気を許さない女悪魔である。
「ムギュゥゥゥ!!?」
椅子が前にスライドして彼女のパンパンな胸がダッシュボードに押し付けられて圧迫される。
<浮気よ浮気!!他の女を乗せるなんてアタシは嫌よ!この子、見た目もスタイルもいいし!>
<クリス…やめてやれ。そういう関係にはならないから心配するな>
妖車の手厚い洗礼を食らいながらも八雲みたまは彼の新居であるログハウスへ向かう。
激おこなクリスをなだめながらガレージに停車させた彼がみたまと共に家に入る。
ニャー(おかえりだニャー…って!?いつぞやの胸元パンパンのお姉ちゃんだニャー!?)
「あら~可愛い猫ちゃんですね~♪」
興奮したケットシーが彼女の胸元に飛びつき、抱えられながらゴロゴロと甘え声を出し始める。
家の奥からは威嚇する鳴き声を上げるネコマタが近寄ってきたようだ。
シャー!(こら、ケットシー!あんたは相変わらずオッパイ猫なんだから!)
ニャー(その歳で乳吸い癖が治らないナイチチ猫に言われたくないニャ)
「尚紀さんは猫好きなんですね~♪」
「バカ猫が迷惑かけたな」
抱えられたケットシーの首裏を掴み、嫌がるケットシーを地面に下ろす。
「座れよ。長い話になりそうか?」
「ええ…色々と話さないとね。私達の事を貴方は何も知らないと思うし」
「台所でコーヒーでも淹れてくる。安物だから味は期待するな」
暖炉のあるリビングの革張りソファーに彼女は座り、淹れてきたコーヒーが机に置かれる。
ケットシーがまたやってきて彼女の膝の上に飛び乗り、頭を撫でられながら甘えていく。
向かい合える革張り椅子に彼も座り、ネコマタも尚紀の足元で座って会話内容を共に聞く。
「で?お前は誰なんだ?ただの私立探偵をやっている俺に…一体どんな秘密の要件なんだよ」
「自己紹介させてもらえます?私は八雲みたまと言います。その…もしかして…知ってます?」
「…お前が魔法少女だってことか?」
「やっぱり知ってらしたんですね…」
「魔法少女のお前が人間の俺なんかに何の用事だ?」
「私は調整屋という魔法少女を専門とする店を経営してますが、違う仕事もこなしています」
「違う仕事…?」
「それは多分…さっきの怪しい車や、きっとこの子達に関わる仕事だと思います」
それを聞いた彼の両目が見開いていく。
「まさか…お前は?」
「はい。私は魔法少女ですが、悪魔ともご縁があるお仕事に携わる立場なんです」
「悪魔に関わる仕事だと?」
「その上でもう一度聞きたいんです。あなたは…本当に人間ですか?」
尚紀は沈黙し、場の空気が重くなる。
<尚紀!?この子…オイラ達悪魔の事を知ってるニャ!?>
<悪魔と関わる仕事ですって?尚紀は何か思い当たる節はある?>
<…一つだけある。かつての世界においても俺が利用し続けた悪魔専門の施設がな>
<ど、どうするニャ…?この子、オイラ好みのパンパン娘だけど…怪しいニャ!>
長い沈黙となったが隠しておくのは難しいと判断した彼の重い口が開き始める。
「…お前の察しの通り、俺もまた悪魔だ。人間のフリを続けていきたかったんだがな」
「やっぱり…。だからこそ私が働く施設の主である叔父様が貴方に会いたがっているんです」
「一つ聞かせろ。その職場は悪魔と関係しているのなら、思い当たる節があるんだ」
「何かご存知なんですか?」
「その施設とは…悪魔合体に関する施設なのか?」
それを聞いたみたまは真剣な眼差しで頷き、業魔殿の正体を教えてくれる。
「お察しの通りです。私は悪魔合体施設である業魔殿の者…二足の草鞋を履く魔法少女です」
「業魔殿…だと?俺が知っている悪魔合体施設の名前ではないな」
「他の合体施設は知りませんが…日本を探しても悪魔合体施設は業魔殿だけだと思います」
「…その叔父様とかいう奴の名は?」
「ヴィクトール・フォン・フランケンシュタインという名のドイツ人です」
「ヴィクトール…」
「私はヴィクトル叔父様と呼んでます。イルミナティに狙われる貴方に協力がしたいそうです」
「事情通だな?俺はストーカーに悩まされていてな…変につけ回す奴ならぶちのめすぞ」
「悪意はないと思います。悪魔研究の役に立つなら見境無い人ですが…悪い人じゃないんです」
「どうだかな…。それで、悪魔合体技術を俺に提供してくれるのか?」
「それは叔父様ご本人に直接お伺いしてもらえますか?私は道先案内人に過ぎないんです」
「…判った。その業魔殿と呼ばれる住所を教えてくれ、休みの日に出向いてやる」
「判りました。…はぁ~、よかった~♪断られたらどうしようって思ってました~」
「のほほんとしたり冷静になったり、忙しい奴だな」
「私はこういうキャラで調整屋をやってま~す♪」
「調整屋というのも気になるが、今はその業魔殿とやらに集中してやる」
住所をメモに書いてもらい、用事が済んだ彼女が帰ろうとするが呼び止められる。
「もう遅い時間だ。家の近くまで送っていってやる」
「えっ?いいんですか~?」
「まだ高校生ぐらいの見た目だし、鬱蒼とした夜道を独りで歩かせられるかよ」
「まぁ♪尚紀さんは紳士さんだって判って、私も嬉しいけど…あの車、また襲いません?」
「…俺が厳しく言っておく」
ガレージでまた怒り出したクリスをなだめた彼が車を発進させて大東区に向かう。
静かな車内空間の中、おもむろに尚紀が質問してくる。
「なぁ、みたまとか言ったか?お前はどうして魔法少女なのに悪魔と関わりたいと思った?」
その質問に対し、夜の風景を見つめていた彼女がそのままの姿で答えてくれる。
「…私はね、調整屋を営んでいるけれど…調整屋失格者かもしれない」
「どういう意味だよ?」
「ソウルジェムから得られる魂の情報を渡し、褒美に店を構えられる資金提供を受けているの」
「ヴィクトルとはそういう関係だったんだな」
「でもね…それ以上に私は…神秘に触れたかったんです」
「神秘に?」
「私は調整屋と呼ばれる特殊な魔法少女。悪魔と同じく人間の御霊に触れられる存在です」
だからこそ彼女は霊的存在、あるいは高次元に存在する者達に対して恐れを抱いてしまう。
「人は恐れ多い、あるいは破滅するかもしれない恐ろしい神秘に触れようとする」
「宗教家やカルト連中が有難がるもんさ」
「私も同じよ。知りたいと思う探究心って、時には理不尽になれちゃいますよね」
「それだけなのか?だったら宗教家にでもなったら良かったろ」
最もな意見を述べられたみたまは沈痛な表情を浮かべてしまう。
か細い声を上げるが、その言葉の裏には怒りの感情を感じさせてくる。
「私……本当はね……
空気が重くなる内容に対し、彼は押し黙りながらも怒りの出所が何なのかを探っていく。
これは探偵の職業病とも言える光景であろう。
「人間として生きたいと願っても…私達は魔法少女であり人間ではない…ただの石ころよ」
それでも人間として在りたいと願ってしまう神浜の魔法少女達。
それを許さない者達こそが差別の歴史という名の猛毒に汚染された人間達が繰り返す偏見。
神浜の東社会に対して繰り返される迫害の数々なのだ。
運転しながら押し黙っていた彼が彼女に視線を向ける。
窓ガラスに映る彼女の暗い表情は怒りで歪んでいるようにも見えたようだ。
「人間を守るのが私達の使命だって皆が言う。それでも人間は私達を虐待して…差別し続ける」
そんな心無き者達を守るのに八雲みたまは疲れ切っている。
だからこそ人間が嫌いであり、
現実逃避を選ぶが如く、彼女は人間とは違う存在達に救いを求めていったのだろう。
「…この街はたしかにクソッタレ共の巣窟だ。それでも俺は…人間に貴賤は作らない」
「私は…人間から逃げたかったのかもしれない。魔法少女や悪魔の世界に埋没したかった…」
そうすれば、こんな理不尽な街の現実など忘れられる。
魔法少女と言えども彼女はまだ17歳の子供であろう。
社会に変化を求める方法を探す事もせず、自分の怒りの感情だけに振り回されてしまう。
憎しみの感情に支配され、浅はかな選択肢しか選ぶことが出来ない精神の袋小路となる。
それが今の八雲みたまを形作る原因なのだ。
「私達だって普通の女の子として生きたい。なのに、どうして人間はこんなにも残酷なのよ…」
やりきれない怒りと憎しみによって魔法少女は人間社会を傷つけてしまう。
その光景ならば東京の守護者として生きてきた尚紀ならば腐るほど見てきた者。
だからこそ八雲みたまに言える言葉があり、その言葉こそ人間の守護者が言える言葉なのだ。
「この街が嫌なら、さっさと出ていけ」
尚紀の言葉が車内の空気を凍てつかせる。
嘉嶋尚紀が放った言葉は可哀相な立場に苦しむ八雲みたまを突き放す言葉内容であろう。
「っ!?なんですって…!!」
「この街の差別が嫌なら政治で変えろ。それが嫌なら街から出ていけ」
可哀相な理由によって東京の人間達が魔法少女にどれほど殺されていったのかを彼は見ている。
可哀相な理由さえ用意出来てしまえば人間をゴミのように踏み潰せる魔法少女達。
魔法少女達は
「それさえ嫌で、魔法少女として人間などゴミクズとして扱うなら…今直ぐ俺が殺してやる」
魔法少女の虐殺者が放つ恐ろしい言葉。
彼の発言が強がりなどではないということなら悪魔と関わってきた彼女なら分かるだろう。
「……そう、貴方は人間の肩を持つのね。ここで降ろして」
車を停車させた尚紀が彼女を降ろす。
何も言わずに去って行く彼女の後ろ姿に対して窓を開けた彼が言い放つ。
「警告してやる。悪魔の世界は甘くはない」
立ち止まった彼女が後ろを振り向く。
彼女にとっては最悪の印象を与えてくる慈悲無き悪魔に対する怒りの言葉を言い放つ。
「貴方に何が判るっていうのよ!!」
「人間社会に嫌気がさしたから、今度は優しい悪魔の世界だと?笑わせるな」
――悪魔はな…
尚紀の脳裏に浮かぶのは人修羅として生きたボルテクス界での記憶。
かつての世界に跋扈した悪魔と呼ばれる存在は人の命など大事にはしてくれなかった者達。
取るに足りないゴミクズ同然の扱いを行い、家畜として管理するのみ。
拷問して感情エネルギーであるマガツヒを吸い取る虐殺行為しか与えてはこない。
そして感情エネルギーを吸い終えた魂を貪り喰らってきた光景を人修羅は未だに覚えている。
「悪魔にとって…人の命など取るに足らないゴミクズだ。家畜として差別し続ける…」
――お前の嫌いな人間のようにな。
人修羅として生きた尚紀が語ってくれた悪魔の現実。
業魔殿で悪魔に関わってきたが悪魔の残虐性に触れた経験はなかったのだろう。
みたまの表情は驚愕に包まれ、目の前の悪魔が恐ろしくなっていく。
「俺は悪魔だが、魔法少女と同じく元人間だ」
「元人間ですって…?」
「俺には人間の友達がいたが弱者として悪魔から差別を受け拷問を繰り返され…心を壊された」
彼もまた失うばかりの人生を生きた存在だと聞かされる。
みたまに対して容赦のない不快極まる男ではあるが、同情の感情も浮かんでしまう。
「そして…お前達魔法少女も同じだよ。人間など取るに足らない存在だと差別する」
「私達魔法少女も…悪魔と同じく…差別する者ですって!?」
「
怒りの感情を抱えた2人が睨み合う。
2人の価値観はあまりにもかけ離れている。
このままでは喧嘩になると判断した彼女は苦虫を嚙み潰したような顔をしながら怒りを抑える。
彼とは話すだけ無駄なのだと割り切ったようだ。
「…貴方は人間の守護者なのね。もういい…私の役目は終わりよ…さようなら」
「じゃあな、魔法少女や悪魔という人外共だけが可愛い調整屋さん」
互いの価値観は物別れとなり、車を走らせながら去っていく。
怒りが収まらない彼女の脳裏に浮かぶのは自分が魔法少女になった時の記憶である。
八雲みたまが神浜の歴史差別をどれだけ憎んだのかは推し測るまでもない。
憎しみの感情は望む願いの形となり、願いの言葉として解き放たれることとなったのだろう。
「私はね…魔法少女になる時に……こう願ったわ」
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9月も半ばに差し掛かろうとした時期の週末。
東京の監視を終えて神浜に戻った尚紀はそのまま車を走らせて南凪区ベイエリアへと向かう。
「ここが人間嫌いの調整屋が言っていた…ヴィクトルの業魔殿か?」
地下駐車場に車を停車させてホテルの入り口に向かえば総支配人が待っている。
「嘉嶋尚紀様で…よろしいでしょうか?」
「そうだが、俺が来るのを知っていたのか?」
「ヴィクトル様がお待ちです。こちらへどうぞ」
中へ案内され、みたまと同じように地下へと誘導される。
「隠し扉か…秘密主義のホテルのようだな」
「中へどうぞ。貴方が入り次第、直ぐに扉を閉めなければなりませんので」
「分かった」
階段を降りていく後ろ姿を見送った総支配人は扉を閉めて去って行く。
深い階段を降り、現代的設備が整った研究所内に入る。
地下に作った横坑に並ぶようにして設けられた実験エリアを見ながら奥へと進んでいく。
「邪教の館とは随分違うな。この業魔殿は科学を媒体にして悪魔合体を行うのか?」
<<その通りだ、悪魔よ。科学の元となったのは錬金術だからな>>
声がした方に振り向くと紳士的な服装を着た赤いインバネスコートを纏う男を見つける。
2メートル近い長身の人物が杖をつきながら歩いてきたようだ。
「ようこそ、業魔殿へ。吾輩がこの施設の主であるヴィクトルだ」
「みたまから聞いてきたが、お前もタチの悪いストーカーみたいだな?何処で情報を得た?」
「君は丸瀬不動産を利用して北養区に物件を購入したのだろう?」
「ああ、あのサングラスかけて額に絆創膏を貼り付けた太っちょオッサンの物件屋だ」
「吾輩は古くから神浜に根ざした者の1人。商売人ネットワークというものがあってね」
「悪魔の俺を嗅ぎ分けられる、ろくでもないネットワークみたいだな。神浜も奥が深い」
「ストーカーのように思われたなら謝罪しよう。だが、吾輩は君の味方だと信じて欲しい」
「俺に悪魔合体の恩恵を与えてくれるのか?」
「吾輩は悪魔研究者…研究の役に立つなら誰にでも助力しよう。たとえ魔法少女や悪魔でもね」
奥へ来るよう促された尚紀はヴィクトルの後ろをついていく。
歩きながらも業魔殿と呼ばれる施設について彼は質問を繰り返す。
「俺が知っている悪魔合体施設とは随分違うな。邪教の館という名を知っているか?」
「勿論だ。それは太古から存在する古の神々が生み出した神秘。吾輩はそれを目指している」
「この世界で邪教の館を見たことはあるか?」
「ない。遥か古には中東やヨーロッパに存在していたと聞いているが、今は行方知れずだ」
「そうか。それにしても…肌が病的なまでに色白だな?それに…妙な魔力を感じさせる」
「神々が生み出した神秘に近づくには人間の寿命は短すぎる」
「まさか…お前は…?」
「長寿を得て研究を長く続けるために…吾輩は半吸血鬼となる道を選んだのだ」
「半吸血鬼だと?」
「吸血鬼の血を元に作成した組織再生血液製剤を自分に輸血したから長寿を得たという訳だ」
「なら、今のあんたは何歳なんだよ?」
「吾輩は既に200歳を超えた老人だよ。年齢を数えるのも億劫になってきた」
「こんなところにも妖怪ジジィがいたってわけかよ。意外といるようだ」
「勿論弊害もあるがね」
半吸血鬼であろうとも日光に弱いと聞かされる。
長寿を得た代償として悪魔と同じく闇の世界で生きる事しか出来なくなった立場のようだ。
「あのみたまがお前を慕うわけだ。随分と人間嫌いな助手をお持ちのようで?」
彼の皮肉には苛立ちの感情が宿っていると感じたヴィクトルは顔を向けてくる。
可愛い研究助手の立場を守るのもまた業魔殿主人の務めなのだろう。
「責めてやるな。人間嫌いではあるが、人間の殺戮を望む存在ではない」
「フン、どうだかな?」
「社会に何度も傷つけられたら誰でも精神的に閉じこもってしまうものだよ」
「お気持ち主義という根拠の無い意見は信じない。悪魔同様に…魔法少女も危険な存在だ」
「確かにな。しかし、差別は政治が解決しなければならない問題。吾輩には関係ない」
「まぁいい…あの女が人間社会に牙を突き立てる日がくるなら…東京の俺の姿に戻るだけさ」
八雲みたまなりの立場と苦しみがあると弁護してくれるが、その心は彼には届かない。
人間の守護者が求めるものは常に一つ。
人間社会に潜む魔法少女という脅威から如何にして人間社会を守るかだけなのだ。
研究所の奥へと進むガラス通路エリアを通っていた時、尚紀の視線が横に向く。
ガラス通路の隣のエリアには研究フロアが広がっているようだ。
「あの大きなカプセルの中にいる悪趣味な塊はなんだ?」
ガラスの向こう側には培養液で満たされた巨大カプセルが並んでいる。
機械と繋がった形で中に浮かぶのは人形の肉塊のようにも見える醜悪な存在だ。
「造魔と名付けた人造悪魔だ」
「造魔…?人造の悪魔だと…?」
「人が唯一神に逆らい、人造生命を産み出す禁忌の所業さ。ホムンクルスと言えば伝わるか?」
造魔に興味を持たれたのが嬉しかったのか、立ち止まったヴィクトルが造魔について語り出す。
造魔と呼ばれる人造生命は素となるドリー・カドモンを必要とする。
カドモンは錬金術用語であり、ドリーは人形を意味するようだ。
ユダヤの秘儀カバラにおいては神のおわす最上階アツィルトでも同じ名を見かける。
アツィルトで創られた完全なる人の魂をアダム・カドモンと呼ばれたようだ。
ドリー・カドモンの見た目は人形に似た肉の塊に近い。
それを用いて造魔研究を続けているようだが、研究状況は芳しくないと語られる。
「研究は道半ば。見ての通り皮膚も無く、外気に晒されればたちまち苦しみだす失敗作だ」
「悪魔と合体させた人造悪魔…まるで…俺の違う可能性のようだな…」
「この造魔も安楽死させてやるしかない。カバラを用いた唯一神の真似事は困難を極める」
「フン、ようは土塊で産み出されたマネカタのようなもんか。前の世界に大勢いた」
「真似形とは手厳しい。それが何を意味するかは大体分かるとも」
業魔殿の悪魔研究はこれからも続いていくだろう。
神秘を求めるヴィクトルにとって、罰当たりなど恐ろしくもない。
完璧な生命を産み出す生命探求の道を進む者は、時に残酷な選択を選ぶ事が出来る。
知りたいと思う探究心はこうも理不尽な光景を生みだす危うさを秘めている。
「業魔殿は造魔作りだけがメインじゃないんだろ?」
「勿論だ。さぁ、吾輩の研究成果の全てが詰まった場所まで案内しよう」
一番奥の自動扉が開き、巨大空間が広がる施設内部を見た尚紀の目が見開いていく。
「…懐かしい空気だ。施設は変わっても…この禍々しさは変わらないな」
「本当の業魔殿にようこそ…来訪者よ」
広大な空間の中央を取り囲むのは円柱であり、下には巨大な五芒星魔法陣。
周囲は現代研究所設備の他にも中華を思わせる飾り物が多い空間だ。
「この中央の円陣内部で悪魔合体が行われる」
「俺が見た邪教の館とは違う形の合体となるんだろうな。どんな風に悪魔合体する?」
「バイオテクノロジーと錬金術を駆使して合体を行う」
錬金術とは大いなる神である唯一神の次元を目指すもの。
唯一神の真似事を行い、土塊から生命を生み出そうというわけだ。
「悪魔合体する光景は…さながら粘土をこね合わせるようにも見えるかもな」
「俺が見た邪教の館の悪魔合体とは大分違う光景になるんだろうな」
「その話は興味深い。今度時間の空いている時は是非、邪教の館について教えて欲しいものだ」
「考えておく。一つ聞いていいか?悪魔合体施設なら悪魔全書は置いてあるのか?」
「勿論だが…気になるのかね?」
「悪魔全書は多くの悪魔を登録する事で、いつでも召喚したい悪魔を召喚出来るものだ」
「その通り。料金はそれなりにかかるがね」
「見せてくれ。もしかしたら…かつての世界で共に戦った仲魔達がいるかもしれない」
「では持ってきてあげよう」
暫くした頃、ヴィクトルは悪魔全書を持ってくる。
慣れた手付きで中身を調べ上げていくのだが落胆の色が浮かんでしまう。
「…どれもこれも弱い悪魔ばかりだ。それに俺の仲魔達の名前さえない」
「この悪魔全書を育てる者が今までいなかった。これには低級悪魔しか登録されていない」
「そうだよな…ここは業魔殿だ。悪魔全書を利用し続けた…かつての邪教の館ではない」
期待外れだったのか、悪魔全書をヴィクトルに返す。
「ここは悪魔合体施設。もし君に手持ちの悪魔がいるのならば持ってきなさい」
たとえ低級悪魔しか登録されていなくとも、既存の悪魔を合体させ続けて成長させられる。
これによって強い仲魔を手に入れられるというわけだ。
「手持ち悪魔か…何体かいるな」
悪魔の仲魔を所有する尚紀が気になっている内容をヴィクトルに語っていく。
人や動物と交わるうちに力が弱まってしまった悪魔達の力を取り戻せるかという内容であろう。
ヴィクトルは頷き、太鼓判を押してくれる。
「そうか…だとしたら利用する価値はありそうだ。今度そいつらを連れてくる」
「待っているぞ、嘉嶋君。それとだ…君に会わせたい人物がいるんだ」
「俺と会わせたい人物?」
ヴィクトルが腕時計を見ると丁度日が沈んだ時刻を指し示している。
「吾輩は業魔殿の主であると同時に上のホテルのオーナーだ。上の階に上がろう」
「その足であのクソ長い階段を登るのも大変そうだな」
「あれは表の入り口だ。物資搬入用エレベーターがあるし、脱出路のエレベーターもある」
「そっちの方が楽そうだな。案内してくれ」
2人は業魔殿施設内部の脱出路エレベーターに乗り込み、上の階を目指す。
地上だけでなく、ホテル最上階フロアにまで登ることも出来たようだ。
「ついたぞ」
隠し扉が開き、ホテル最上階フロアに到着。
エレベーターから出て来た尚紀はエレガントな通路を歩いていく。
程なくして高級そうな店舗を発見した彼が店の看板に目を向ける。
「クレティシャス?この会員制のBARにいるのか?」
「そうだ。オーナーであるマダムと私の友人であり恩師が君を待っている」
「マダムと…あんたの恩師?」
「ついてきたまえ」
案内されながら後ろをついていく。
高級な会員制BARを進んで行くと大きな両開き扉と出くわす。
「この奥だ。ここから先はマダムの許可がない者は入れない」
「何処かで見たことがある雰囲気の店内だったが…まさか?」
両開きの扉を開けて中に入り込む。
水槽で覆われた水の中を思わせるVIPルームに入る者達を出迎えたのは見知った人物であろう。
「ニュクス!?それにニコラスじゃねーか!」
東京でも世話になってきた人物達が笑顔を向けてくる。
「やぁ、ナオキ君。業魔殿はどうだったかね?」
「お久しぶりね、名探偵さん」
出迎えたのはBARマダムのオーナーであるニュクスだが、見た目と雰囲気が変化している。
髪を黒色に染めてオールバックにした頭部と上品な着物を着ている姿になっているようだ。
「イメチェンか?よく似合うよ」
「フフッ、ありがとう。座って頂戴」
ニュクスに促された者達が円形の革張りソファーに座って向かい合う。
「彼女は東京でBARマダムを所有しているオーナーだが、神浜店舗に拠点を移されたようだ」
「手広く経営をしているようだな?」
「ええ。静かな夜を愛する者達の憩いの場を提供するのが私の本懐だけれど…」
溜息をついて視線を逸らすニュクスを見つめる尚紀は察してくれる。
彼女が所有する東京店舗を不快な場所に変えた原因なら自分にある事は分かっているからだ。
「銀座店は空気が悪くなったわ…啓蒙神に一目会いたいと世界中の悪魔崇拝者が集まりだした」
「どうやら…俺が迷惑をかけちまったようだな…」
「気にしないで、貴方のせいではない。それにこちらの店舗の方が私は気に入っているの」
神浜店舗は政財界の代表者達が集まる密談の場ではない。
彼女が真に認めた人間達だけが集まれる憩いの場として利用出来るようだ。
「そうか…それなら俺もここに飲みに来れるだろう。また世話になるぜ、ニュクス」
「おっと、今の彼女はマダム銀子と名乗っている。神の名をみだりに語ってはいけない」
「マダム銀子か…夜の世界に似合う洒落た名前だな」
「フフ♪お待ちしているわ、名探偵さん」
「そしてニコラス?お前がヴィクトルの恩師だったとはな」
「彼がまだ人間の若者だった頃に出会ってな。その頃の私はドイツで妻を探していた頃だ」
「ニコラス先生がいなければ、吾輩は悪魔研究者になどなれなかったよ。本当に感謝している」
「進んだ道は違えども同じ錬金術師。彼と私は古くから日本で魔導探求を続けた友人なのだ」
「吾輩は悪魔の研究を、ニコラス先生は魔石の研究を。共に歩める友人でありライバルなのだ」
「そうか…しかし凄いメンツだな?夜の神に伝説の錬金術師に悪魔合体施設の主とくる」
「君もそうだ。イルミナティの守護神と呼ばれだした嘉嶋君も凄いメンツの中に入っている」
「俺が人修羅だとヴィクトルは知っていたのか?」
「すまない…私が彼に話していたのだ」
「そうか、だからヴィクトルは俺の事をよく知っていたんだな」
「今日の私達の出会いに乾杯しましょう。好きなお酒を注文してね」
「吾輩はこのBARが気に入っている。海やフェリーもよく見える。海はいいぞ~嘉嶋君!」
「海や船が好きなのか?半分吸血鬼なのに変わった奴だ」
「吾輩のロマンの世界だ。いつか豪華客船を購入して…キャプテンとして大海原を目指したい」
「フフ…まるで悪魔船長だな」
「未来の業魔殿へ~~ヨーソロー」
4人は出会いを祝して乾杯し、後は静かな夜の世界だけが過ぎていくのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
数日が過ぎた頃、みたまは業魔殿に訪れている。
緊張した顔つきのまま主人であるヴィクトルに振り向く。
「ヴィクトル叔父様…本当に今日、悪魔合体が見られるんですね?」
「そうだ。君にとっては初めての光景になるだろうな」
「高次元の存在達が結合して、新たな魂が形となる秘儀…私も緊張しちゃうわ」
「突然暴れだしたりはせんと思うが…まぁ、悪魔相手に絶対はないがね」
通路の奥から足音が聞こえてくるが、足音よりも猫達の悲鳴の方が目立つ。
「よぉ、赤青コンビ。手持ちの悪魔を連れてきたぜ」
仕事を早めに終えた尚紀が両手に持っているのはペットキャリーバックであろう。
中に納められ、助けを求める猫とはケットシーとネコマタである。
ニャー!(嫌ニャー!!助けてニャー!オッパイパンパンのお姉ちゃん~!!)
ニャー!(そうよ!太古の頃の強さが欲しいって愚痴った事あるけど……怖いのは嫌!!)
2人の前に立つが、猫の鳴き声が煩すぎる。
助けを乞う仲魔達の叫び声を無視する尚紀がみたまの方に視線を向ける。
彼女は顔を横に向けて無視の態度を返してくるようだ。
「…みたま君。仕事の時間だ、私情は謹んでくれ」
「はい……判りました、叔父様」
ヴィクトルになだめられたみたまが尚紀の元に歩み寄ってくる。
「ネコマタとケットシーだ、こいつらを悪魔合体させたい。合体施設に持っていけ」
「…この可愛い猫ちゃん達が本当に悪魔の姿になるっていうの?」
「こいつらも太古の昔は悪魔だったが、人間世界と同化していくうちに血が薄くなっちまった」
「今では満月の夜にしか本来の姿に戻れない弊害を抱えている者達というわけだよ、みたま君」
「そうだったのね…。でも、この子達の慌てっぷりを見ていると…なんだか可哀想だわ」
ニャー!!(助けてニャ~オッパイお姉ちゃん!オイラは変な悪魔の姿になりたくないニャ!)
シャー!!(こんな時までオッパイオッパイ喧しいこと言ってんじゃないわよスカタン猫!!)
「大丈夫だ。こいつらを変な姿の悪魔にはしない。悪魔合体にはコツがある、任せろ」
「随分と悪魔合体に慣れているみたいね?判ったわ」
ペットキャリーバックを受け取った彼女は合体施設に向かう。
「ヴィクトル、悪魔全書を貸してくれ。召喚する悪魔を決めていく」
「もう持ってきている。商談といこう」
悪魔全書を広げながら合体素材として使うために召喚する悪魔を決めていく。
「支払いはマッカか?現金か?」
「どちらでもいいが、マッカを持っているのかね?」
「かつての世界でしこたま集めた。100万マッカは手持ちである」
「相当な戦いを繰り広げた光景が目に浮かぶよ」
支払いを済ませた後、尚紀も合体施設の中に入っていく。
中央の合体エリアではケットシーがキャリーバックごと置かれている。
「さて、そろそろ始めるか」
「フフ…大正時代を思い出す光景だよ。そして、
<<早く合体させろぉぉぉ!!うぉれは今直ぐ合体ボタンを押したいぃぃぃっ!!>>
喧しい声の館内放送が突然鳴り響き、顔をしかめた尚紀が何者かを聞いてくる。
「コラ!!喧しい声を出さなくても聞こえるぞ、イッポンダタラ!!」
「イッポンダタラ?そいつも悪魔なのか?」
「そうだ。吾輩の助手として大正時代から使っているが…独特な個性派悪魔なのだ」
「振り回されている光景が目に浮かぶよ」
「まぁ…否定はせん」
「まぁいい…。それよりも始めてくれ」
施設内が暗くなり、中央に召喚されたのは悪魔全書から選んだ悪魔達。
合体施設中央の五芒星が回転を始めていく。
「これが…錬金術を用いた悪魔合体か」
緑の霧のようなものが魔法陣から吹き上がり、中央の悪魔達が包まれていく。
緑の霧が晴れ、空中には蠢く巨大な粘土の塊が出現している。
「これが…神々が生み出した邪教の秘儀である悪魔合体の御業を再現する光景…凄いわ!!」
蠢く粘土の塊が弾け、施設内が眩い光に包まれる。
両腕で目を覆いながら光を防ぎ、目を見開くみたまが目にした悪魔とは?
「初めての悪魔合体だったんだ…気分はどうだ?」
空中を浮遊しているのは六芒星が描かれた壺であり、壺から小さな悪魔の顔が出てくる。
「びっくりしたけど…思ったよりも力を感じる!これが悪魔合体なんだね…尚紀!!」
【アガシオン】
ユダヤ伝承の壷や護符、指輪などの中に封じられている魔物の総称。
精霊と同様に見えない存在であり、家事から人の呪殺まで何でも命令された事を行う存在。
善とするも悪を為すも使い手次第というわけだ。
「これなら尚紀の力になれるよ!よーし、新しい姿で悪い魔法少女をケチョンケチョンに…」
「何言ってるんだ?悪魔合体はまだまだ終わらないぞ」
「えっ…?」
「お前に身に付けさせる物理や補助スキルを継承させつつ、元の姿に戻すまで終わらない」
「そんな~~っ!!ボク怖いのが続くのヤダーッ!!」
「アハハ…ケットシーちゃん、ご愁傷さま…」
右手に持つキャリーバックから異臭を感じたみたまは視線を向ける。
バックの中でガタガタ震えながら失禁してしまったネコマタがいたようだ。
「大丈夫よ、ネコマタちゃん。元の姿にちゃんと
ニャー!(いやぁぁぁ!!怖いの嫌ぁぁ!!ケットシーだけで勘弁してぇぇーッッ!!)
緑の霧、粘土の塊、ピカーっと光る。
そんな光景を何度も繰り返した果てに現れた悪魔の姿はとてもやつれている。
「あぁ…やっと…元の猫悪魔に…戻れた…ニャ」
円陣内で倒れ込んでしまったのは満月の時にしかお目見え出来なかった悪魔の姿である。
【ケットシー】
スコットランド地方やノルウェー等に伝わる猫の妖精。
普段は普通の猫と全く区別が付かないが高い知性を持ち、人間の言葉を操る事もできる。
また気配を消して神出鬼没に行動出来る能力もあるようだ。
人間の目の届かない廃屋や木のうろの中に異世界めいた独自の王国を築いているという。
猫を理不尽に虐待した人間は彼らの王国にてお仕置きされるとも言われていた。
「どうだ?慣れているって言っただろ」
「キャーカワイイッ!!可愛い猫ちゃん悪魔よぉ~~♪♪」
ケットシーに飛びついて頬摺りを始めるカワイイ大好き、八雲みたま。
オッパイパンパン娘に可愛がられても合体の恐怖が続いたケットシーはグッタリしたままだ。
「さて、次はネコマタの番だ」
ニャー!(さよなら!!可憐な美しさの私ぃぃーッッ!!)
ケットシーはみたまに引っ張り出された後、今度はネコマタの番となる。
合体させる悪魔を中央に召喚し、五芒星が回転を始める。
緑の霧が晴れれば粘土の塊が浮かぶのだが、トラブってしまう。
「何だ?」
施設内で警報が鳴り響き、何となくではあるが尚紀は何が起こったのか分かってしまう。
「あっ…これは見知っているが、不味い流れだ…」
かつての世界の経験によって何が起こるのかを察した彼は後頭部を掻き毟る。
粘土の塊がけたたましく蠢きながら破裂し、中から表れる悪魔とは何なのか?
「……やっぱ、
「合体事故って…?えっ…ネコマタちゃんなの!?この醜い……スライムが!?」
表れたのは外道スライム姿のネコマタである。
【スライム】
スライムとはドロドロネバネバした粘液状のものという意味をもつ。
悪魔が実体化し損なった場合はスライムになると言われているようだ。
きちんと実体化した時と比べれば、力を振るう事もろくに出来ない存在である。
しかし魔王クラスの悪魔がスライム化した場合ならば話も変わってくるだろう。
その時の魔王の怒りは計り知れないものとなるのであった。
「忘れておった。今日の
「それが合体事故と関係していたのか?ボルテクス界ではカグツチの光が関係していたな」
「グッ…ガッ…ナニヨ…コノ、ミニクイ…スガタ!?」
蠢くスライムと化してしまった哀れな存在が何かを喋っている。
「俺も月齢を忘れて合体事故をやらかしたもんだ。そういやネコマタはどんな姿だったっけ?」
「えっ?私に聞かないでよ…知るわけないし」
「オォォ…ハヤク…モトニ…モドシテ…ゴガッ!!」
「そういえば、スライムみたいな姿だったような?ならこれでいいよな?」
「ナン…デ…ヤネンンン!!ウラム…トリツク…モドセェェ!」
体をプルンプルンと揺らしながら猛抗議してくる仲魔を見ながら尚紀も苦笑いしてしまう。
「ハァ…あまりからかってあげないで。この子が可哀想よ」
「フフ、そうだな」
そうして合体作業も捗っていき、元の姿に返り咲く。
「やっと…元の美しさを…取り戻せた…わ」
円陣で倒れ込んでいるのは満月の時にしかお目見え出来なかった悪魔の姿であろう。
【ネコマタ】
猫股と呼ばれる長年生き続けた化け猫であり、神通力を得た猫達のことである。
尻尾が2つに別れていることからそう呼ばれており、中国では仙狸と呼ばれる存在。
猫股となると人語を解するようになり、しばしば若い女や老婆になるという。
飼い猫が猫股にならないよう日本の猫の尻尾が切られ、短い尻尾の猫が多かったようだ。
「どうだ?慣れているって言っただろ」
「キャーカワイイッ!!丸メガネつけた可愛い女の子な猫ちゃん悪魔よぉ~♪♪」
ネコマタに飛びついて頬摺りを始めるカワイイ大好き、八雲みたま。
合体の恐怖が続いたネコマタはグッタリしたままであった。
「これで全ての悪魔の合体作業は終わりだな?」
「あと一体、車の仲魔がいるんだが…そいつは合体を拒絶して何処かに走って逃げやがった」
「やれやれ、嘉嶋君は愉快な仲魔達に囲まれていたようだな?」
「帰るぞ、ケットシー、ネコマタ。これでお前らも満月に関係なく好きに悪魔の姿に戻れるさ」
グッタリした二匹の仲魔達を引きずりながらエレベーター方面に向かう。
「いかがだったかな、みたま君?これが悪魔合体という神秘の世界だ」
「凄かったです…。私も魂に触れられる調整屋として、大変勉強になりました」
「励み給えよ、魔導の世界に踏み入った若き卵よ。君は商売だけでなく…この世界も似合うさ」
合体施設から出ていくヴィクトルを見送った後、魔法陣を見つめるみたまは呟いてしまう。
「本当に凄い力を手に入れられるのね…悪魔合体って。私の調整を超えていたわ」
悪魔研究者として一つの仮説を頭の中に描いてしまう。
悪魔合体とは魔なる存在を合体させる行為。
魔なる存在なら、この世界には悪魔達以外にも存在している。
「もし、魔法少女がこの悪魔合体を行使したとしたら…?どれ程の力が手に入れられるのか…」
知りたいと思う探究心は理不尽へと変化してしまうが、それを止めるものこそ良心であろう。
「それを知りたくもなるけど…やっぱりやめるわ。彼女達が可哀想だものね♪」
それでも心の中には悪魔研究者としての気持ちもあり、拭いきれない欲となるのであった。
読んで頂き、有難うございます。