人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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97話 悪魔錬金術ホテル

観光地として名高い歴史ある南凪区ならば、ホテルの数も多い。

 

その中で最も格式高く立派なクラッシックホテルとして名高い高層ビルが存在している。

 

地下駐車場だけでなく、複数のレストラン、宴会場、挙式場が納められた規模を誇るホテル。

 

異国文化の窓口として神浜と共に歩んできたホテルであるが、その名は酷く不気味。

 

そして、このホテルは怪談めいた話を従業員たちから語られる事が多い。

 

夜な夜な幽霊のような存在を見た、怪奇現象を見たなど不気味な体験談が数多く語られる。

 

ホテルのオーナーの存在は、総支配人しか知らないと言われ秘密主義を感じさせる宿泊施設。

 

そのホテルの名は…()()()()()殿()と呼ばれた。

 

9月某日。

 

学校が終わった八雲みたまは足早に南凪区に向かい、ベイエリアに入っていく。

 

「相変わらず、叔父様が所有しているホテルは大きいわね~」

 

港を一望出来るエリアにそびえ立つ豪華ホテルを見上げながら、彼女はホテル入口に向かう。

 

「お待ちしておりました」

 

みたまを入り口で出迎えてくれたのは、このホテルの経営を任されている総支配人。

 

「ヴィクトル叔父様に会いに来ました~♪下を開けてくれます?」

 

「承知しました。こちらへ」

 

ホテルの中へと入っていく2人。

 

ホテル内装は正統派ヨーロッパスタイルを思わせる程にエレガントな雰囲気だ。

 

異国文化を感じさせるこの南凪区に相応しいホテルであろう。

 

受付を超え、目の前に大きくそびえるのは階段の間と呼ばれる巨大フロア。

 

上だけでなく地下にも進む階段があり、2人は下に降りていく。

 

「周りに人はいませんよ~。開けちゃってくださ~い♪」

 

降りた先で彼女が左右を確認し、総支配人が近くにある円柱の柱内部に隠されたスイッチを押す。

 

すると手前の壁が開き、奥に降りる階段が出現。

 

「ヴィクトル叔父様も偶には地下から出てきたらいいのに」

 

「ヴィクトル様は日光を嫌います。上に上がられる時は夜中になりますね」

 

「そうだったわね~。それじゃ、私は業魔殿に行ってきますね~」

 

みたまが中に降りていったのを確認し、総支配人は壁を閉め何も無かったかのように仕事に戻る。

 

地下に降りていく階段は深く、ホテル地下駐車場よりもさらに深い。

 

一番下まで降りたそこには、現代的設備が整った地下研究所。

 

研究所内部は現代的ではあるが、所々にはオカルトシンボルなども見られる。

 

奥まで進み、大きな自動ドアを開け、そこで見た光景とは…。

 

「おお、みたま君。来てくれたか」

 

彼女に声をかけてきた存在。

 

白髪のミディアムヘアを持ち、整えた黒髭、目元は頬まで流れる程の黒墨めいた模様を持つ男性。

 

足が悪いのか、豪華な支え杖を地面につきながら歩いてきた。

 

「こんにちわ~ヴィクトル叔父様♪新しい情報を手に入れたので、レポートを持ってきました」

 

USB記録メディアを学生鞄から取り出し、彼に渡す。

 

「後で見てみよう。どうだね、調整屋は繁盛しているか?」

 

「お陰様で大繁盛です♪叔父様にビジネス指導もしてもらって、私も商売のコツを掴めました~」

 

「地上のホテル経営の成功も、吾輩が大正時代に学んだビジネス知識が役に立ったものだ」

 

喜ばしいことなのだが、ヴィクトルは顔をしかめていく。

 

彼を可愛がってくれたクソジジィの記憶が脳裏に過ったためだ。

 

「東京の()()()さんの地下で、慎ましく悪魔研究をしていた時代だったって言ってましたね~」

 

「昔は()()と呼ばれたがね。ところで、ものはついでなのだが頼み事が…」

 

会話をしていた2人の元まで駆け寄ってくる存在が放つ、素っ頓狂な叫び声。

 

<<うおおおっ!!うぉまえ!来たかぁ!!待ってたぞぉーっ!!>>

 

研究所奥のドアの外から喧しい声を出しながら入ってきたのはメイドさん。

 

白髪のショートヘアを持ち、頭部には間の抜けたアホ毛が靡く。

 

黒いエプロン風の上着には白く4と大きく描かれている。

 

顔の右目を4と描かれた黒い眼帯で隠す目隠れ少女なのだが…?

 

「あら~ダタラちゃん♪相変わらず元気一杯ね~」

 

ズカズカと入ってきた研究所職員?らしき人物がみたまに近寄ってくる。

 

「うぉまえはカワイイか!?みんなの視線をたっぷり浴びて、真っ青に育った有名人かぁぁぁ!」

 

「調整屋さんはカワイイわよ~♪ピチピチでナウいでしょ~?」

 

「うおおおっ!うぉまえ!そのカワイイの秘密うぉ教えろ!うぉれはもっとカワイイになる!!」

 

外見の可憐さとは打って変わり、その口調は大変マッド。

 

「コラ、イッポンダタラよ。吾輩が話している時に横槍は関心せん」

 

「うぉまえは、うぉれのご主人様!?うぉれは、メイドで仕事に戻るぞぉぉぉ!!」

 

「今度流行りのカワイイを教えてあげるわよダタラちゃん♪ハイカラなメイドさんになれるわ~」

 

「うぉぉぉし!うぉれ、うぉまえを見てやるぞっ!約束だぁぁぁっ!!」

 

突然現れ、突然去っていくマッドメイドである。

 

「ふぅ。大正時代から助手をやらせている悪魔だが、カワイイメイド道とやらを追求しだしてな」

 

「十七夜のライバルね~♪メイド喫茶で働いたら、きっとカワイイが理解出来ると思うわ~」

 

「さて、話を戻そう。頼み事があるのだが、構わないかね?」

 

「頼み事ですか?」

 

「1人の人物を業魔殿まで連れてきて欲しい」

 

「その人物って誰なんですか?この秘匿された業魔殿に入れる人物は限られてるし…」

 

「業魔殿本来の役割を必要とする存在だと言えば、伝わるだろうか?」

 

「まさか…デビルサマナーですか?」

 

「違う。悪魔を連れ歩く存在はサマナーだけではない。悪魔自身もまた、悪魔を使役する立場だ」

 

「それじゃ…ここに連れてくる人物って…」

 

「1人の悪魔を、この業魔殿に連れてきて欲しい」

 

「1人の悪魔…?」

 

「その人物は嘉嶋尚紀という名前を用いて私立探偵業を営んでいる」

 

「探偵の嘉嶋尚紀さん…ですか?」

 

「しかし、彼はイルミナティや悪魔崇拝組織につけ狙われる立場となったのだ」

 

世間からは陰謀論とバカにされる単語を言ってくる。

 

だが、みたまはそれを陰謀論だとは馬鹿にせず驚愕した表情を浮かべてくるのだ。

 

「イルミナティと悪魔崇拝組織ですって!?」

 

「彼にはさらなる力が必要だ。吾輩はそれの協力がしたい」

 

「その人物は…神浜にいるんですか?」

 

「最近引っ越してきてな。北養区の山に面した場所にあった空き家を購入して暮らしている」

 

「北養区なら高校生の私でも歩いて行ける距離ですね、判りました」

 

「住所はメモに書いておいた。頼んだよ、みたま君」

 

メモを渡され、踵を返し業魔殿研究施設から去っていく彼女の後ろ姿を静かに見つめる。

 

彼の後ろの影から現れる、1人の人物とは?

 

「ニコラス先生、これでよろしいのですかな?」

 

「すまないね、ヴィクトル君。教え子の君に甘える事となる」

 

「構いませんよ」

 

――吾輩に悪魔合体技術の基礎となる、錬金術を教えてくれたのは貴方だ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

ポスティング仕事を進めていく尚紀は今日も遅くまで仕事をこなし、家路につく。

 

クリスを運転しながら北養区に向けて車を走らせる光景が続いていく。

 

「素敵な家を買えて良かったわね~ダーリン。これなら家路につく時間もかなり短縮よ」

 

「家に帰って猫共に餌やったら今度は東京だ。時間に追われる生活に変わりはない」

 

「東京の監視を済ませて神浜に帰ってお風呂とか済ませると夜明けも近いわね。寝られてる?」

 

「俺は毎日3時間睡眠だ」

 

「も~、ダーリンはワーカーホリックなんだから。悪魔じゃなかったら倒れて死んでたわね~」

 

「頑丈な悪魔だからこそ、今の多忙な生活に耐えられる。これからも続けるさ」

 

「でも、ダーリンと2人だけでいられる時間が少なくならずに済んで良かったわ~」

 

「これからも頼りにしているぜ。お前がいないと東京の守護者を続けられない」

 

「モチのロンよーっ!ガンガンアタシを乗り回しちゃってね~♡」

 

北養区の高級住宅街を超え、人気のない自宅に帰ろうとする道中。

 

「ん?」

 

見れば、スマホを片手に道に迷っているような人物の姿。

 

車を減速させ、彼女の横で停止させて左側の窓を開ける。

 

「こんな遅くにどうした?道に迷ったのか?」

 

黒のキレイめパンツに白の肩だしニットトップスを着た少女が彼に振り向く。

 

「すいませ~ん、道に迷ったんですよ。地図アプリで探してるんですけどよく分からなくて…」

 

彼女を見た悪魔のクリスが突然念話を寄越してくる。

 

<ダーリン。アタシこの子を見たことあるわよ>

 

<ああ、たしか新西区を走っていた時に見かけた魔法少女だ。特徴的な魔力だったから覚えてる>

 

「何処を探しているんだ?」

 

「この辺に引っ越してきた、嘉嶋さんというお宅を探してて。この辺の人なら知ってます?」

 

「…俺の家に、何の用事だよ?」

 

「えっ!?もしかして…嘉嶋尚紀さんですか?」

 

「そうだ。一体何の用事か知らないが…さっさと内容を言え」

 

「その…夜とはいえ、まだ人通りもありますし~。聞かれちゃうと不味い話なんです…」

 

<この子どうするの?>

 

<この神浜生活で俺は人間のフリをしているが、極一部の魔法少女には正体がバレている>

 

<誰か喋ったのかしら?>

 

<あいつらが神浜の魔法少女達に俺の正体をばら撒く理由はないだろう>

 

<まさかダーリン…?>

 

黙り込んで念話を繰り返していたが、みたまに向き直る。

 

「…乗れよ。家で聞いてやる」

 

「すいませ~ん、お手数おかけして。助手席に乗っていいですか?」

 

「さっさと乗ってくれ。俺は時間に追われる多忙な労働者だ」

 

「は~い♪」

 

彼の好意に甘え、助手席を開けて中に入ったのはいいのだが…。

 

「ムギュゥゥゥ!!!?」

 

突然助手席側の椅子が前にスライド。

 

彼女のパンパンの胸がダッシュボードに押し付けられて圧迫中。

 

<浮気よ浮気!!他の女を乗せるなんてアタシは嫌よ!!この子、見た目もスタイルも良いし!>

 

<クリス…やめてやれ。そういう関係にはならないから心配するな>

 

妖車の手厚い洗礼を食らいながらも、みたまは彼の運転で新居であるログハウスへ向かう。

 

激おこなクリスをなだめながらガレージに停車させ、家の中へ。

 

ニャー(おかえりだニャー…って!?いつぞやの胸元パンパンのお姉ちゃんだニャー!?)

 

「あら~可愛い猫ちゃんですね~♪」

 

興奮したケットシーが彼女の胸元に飛びつき、抱えられながらゴロゴロと甘えた声を出し始める。

 

家の奥からは威嚇する鳴き声を上げるネコマタが近寄ってきた。

 

シャー!(こらケットシー!あんたは相変わらずオッパイ猫なんだから!)

 

ニャー(その歳で乳吸い癖が治らないナイチチ猫に言われたくないニャ)

 

「尚紀さんは猫好きなんですね~♪」

 

「バカ猫が迷惑かけたな」

 

抱えられたケットシーの首裏を掴み、嫌がるケットシーを地面に下ろす。

 

「座れよ。長い話になりそうか?」

 

「ええ…。色々と話さないと、私達の事を貴方は何も知らないと思うし」

 

「台所でコーヒーでも淹れてくる。安物だから味は期待するな」

 

暖炉のある大きなリビングの革張りソファーに彼女は座り、淹れてきたコーヒーが机に置かれる。

 

ケットシーがまたやってきて彼女の膝の上に飛び乗り、頭を撫でられながらまた甘え声。

 

向かい合える革張り椅子に彼も座り、ネコマタも彼の足元に座り込み会話内容を共に聞く。

 

「で?お前は誰なんだ?ただの私立探偵をやっている俺に、一体どんな秘密の要件なんだよ」

 

「自己紹介からさせてもらえます?私は八雲みたまと言います。その…もしかして知ってます?」

 

「…お前が、魔法少女だってことか?」

 

「やっぱり知ってらしたんですね…」

 

「魔法少女のお前が、人間の俺なんかに何の用事だ?」

 

「私は調整屋という魔法少女を専門とする店を経営してますが、違う仕事もこなしています」

 

「違う仕事…?」

 

「それは多分…さっきの怪しい車や、きっとこの子達に関わる仕事だと思います」

 

それを聞き、彼の両目が見開いていく。

 

「まさか…お前は?」

 

「はい。私は魔法少女ですが、悪魔ともご縁があるお仕事に携わる立場なんです」

 

「悪魔に関わる仕事だと?」

 

「その上でもう一度聞きたいんです。あなたは…本当に人間ですか?」

 

沈黙し、場の空気が重くなる。

 

<尚紀!?この子、オイラたち悪魔の事を知ってるニャ!?>

 

<悪魔と関わる仕事ですって?尚紀は何か思い当たる節はある?>

 

<…1つだけある。かつての世界においても、俺が利用し続けた悪魔専門の施設がな>

 

<ど、どうするニャ…?この子、オイラ好みのパンパン娘だけど…怪しいニャ!>

 

長い沈黙となったが、彼の重い口が開き始める。

 

隠しておくのは難しいと判断したためだ。

 

「…お前の察しの通り、俺もまた悪魔だ。人間のフリを続けていきたかったんだがな」

 

「やはり…。だからこそ私が働く施設の主である叔父様が、貴方に会いたがっているんです」

 

「1つ聞かせろ。その職場は悪魔と関係しているのなら、思い当たる節があるんだ」

 

「何かご存知なんですか?」

 

「その施設とは…悪魔合体に関する施設なのか?」

 

真剣な眼差しで見つめてくる彼女は、静かに頷く。

 

「お察しの通りです。私は悪魔合体施設である業魔殿で働く、二足の草鞋を履く魔法少女です」

 

「業魔殿…だと?俺が知っている悪魔合体施設の名前ではないな」

 

「他の合体施設は知りませんが…日本を探しても悪魔合体施設は業魔殿だけだと思います」

 

「…その施設長である叔父様とかいう奴の名は?」

 

「ヴィクトール・フォン・フランケンシュタインという名のドイツ人です」

 

「ヴィクトール…」

 

「私はヴィクトル叔父様と呼んでます。…イルミナティに狙われる貴方に協力がしたいそうです」

 

「事情通だな?俺はストーカーに最近悩まされていてな、変につけ回す奴ならぶちのめすぞ」

 

「悪意は無いと思います。悪魔研究の役に立つなら見境無い人ですが…悪い人じゃないんです」

 

「どうだかな…。それで、悪魔合体技術を俺に提供してくれるのか?」

 

「それは、叔父様ご本人に直接お伺いしてもらえますか?私は道先案内人に過ぎないんです」

 

「…判った。その業魔殿と呼ばれる住所を教えてくれ、休みの日に出向いてやる」

 

「判りました。…はぁ~、よかった~♪断られたらどうしようって思ってました~」

 

「のほほんとしたり冷静になったり、忙しい奴だな」

 

「私はこういうキャラで調整屋をやってま~す♪」

 

「調整屋というのも気になるが、今はその業魔殿とやらに集中してやる」

 

住所をメモに書いてもらう。

 

用事も済んだことで彼女も立ち上がり、玄関に向かうのだが…。

 

「もう遅い時間だ。家の近くまで送っていってやる」

 

「えっ?いいんですか~?」

 

「まだ高校生ぐらいの見た目だし、鬱蒼とした夜道を1人で歩かせられるかよ」

 

「まぁ♪尚紀さんは紳士さんだって判って、私も嬉しいけど…あの車、また襲いません?」

 

「…俺が厳しく言っておく」

 

ガレージでまた怒り出したクリスをなだめ、車を発進させて大東区に向かう。

 

静かな車内空間で、彼がおもむろに口を開く。

 

「なぁ、みたまとか言ったか?お前はどうして魔法少女なのに、悪魔と関わりたいと思った?」

 

その質問に対し、夜の風景を静かに見つめていた彼女がそのまま口を開く。

 

「…私はね、調整屋を営んでいるけれど…調整屋失格者かもしれない」

 

「どういう意味だよ?」

 

「ソウルジェムから得られる魂の情報を渡して、褒美に店を構えられる資金提供を受けているの」

 

「ヴィクトルとはそういう関係だったんだな」

 

「でもね…それ以上に私は…神秘に触れたかったんです」

 

「神秘に?」

 

「私は調整屋と呼ばれる特殊な魔法少女。悪魔と同じく人間の御霊に触れられる存在です」

 

だからこそ、彼女は恐ろしくなった。

 

霊的存在、あるいは高次元に存在する者達に。

 

「人は恐れ多い、あるいは破滅するかもしれない恐ろしい神秘に触れようとする」

 

「宗教家やカルト連中が有難がるもんさ」

 

「私も同じ。知りたいと思う探究心って、時には理不尽になれちゃいますよね」

 

「それだけなのか?だったら宗教家にでもなったら良かったろ」

 

最もな意見を述べられたみたまは、沈痛な表情を浮かべていく。

 

か細い声を上げるが、その言葉の裏には怒りの感情を感じさせた。

 

「…私、本当はね」

 

――()()()()()なんです。

 

車内の空気が重くなる程の言葉を放つ。

 

彼は押し黙りながらも、彼女の怒りの出所が何なのかを探っていく。

 

探偵の職業病とも言える光景だ。

 

「人間として生きたいと願っても…私達は魔法少女であり人間ではない…ただの石ころよ」

 

それでも人間として在りたいと願う、神浜の魔法少女達。

 

それを許さない者達こそが、差別の歴史という名の猛毒に汚染された人間達が繰り返す光景。

 

神浜の東社会に向けて行われ続ける迫害なのだ。

 

運転しながら押し黙っていた彼が、彼女に視線を向ける。

 

窓ガラスに映る彼女の暗い表情は…怒りで歪んでいるようにも見えた。

 

「人間を守るのが私達の使命だって…皆が言う。それでも人間は私達を虐待して…差別し続ける」

 

そんな心無き者達を守るのに、八雲みたまは疲れ切っている。

 

だからこそ、彼女は人間が嫌いだ。

 

人間よりも魔法少女が好き。

 

人間よりも悪魔が好き。

 

現実逃避を選ぶが如く、彼女は人間とは違う存在達に救いを求めていったのだ。

 

「…この街は、たしかにクソッタレ共の巣窟だ。それでも俺は…人間に貴賤は作らない」

 

「私は…人間から逃げたかったのかもしれない。魔法少女や悪魔の世界に埋没したかった…」

 

そうすれば、こんな理不尽な街の現実など忘れられる。

 

魔法少女と言えども、彼女はまだ17歳の子供。

 

社会に変化を求める方法を探すこともせず、自分の怒りの感情だけに振り回されてしまう。

 

憎しみの感情に支配され、浅はかな選択肢しか選ぶことが出来ない精神の袋小路。

 

それが、今の八雲みたまを形作る原因であった。

 

「私達だって普通の女の子として生きたい。なのに、どうして人間はこんなに残酷なのよ…」

 

やりきれない怒りと憎しみによって、魔法少女は人間社会を傷つけてしまう。

 

その光景ならば、東京の守護者として生きてきた尚紀ならば…腐るほど見てきた。

 

だからこそ、八雲みたまに向けて言い放てる。

 

人間の守護者として、言える言葉がある。

 

――この街が嫌なら、()()()()()()()()

 

車内が凍り付く。

 

嘉嶋尚紀が放った言葉は…可哀相な立場に苦しむ八雲みたまを突き放す言葉だった。

 

「っ!?なんですって…!」

 

「この街の差別が嫌なら政治で変えろ。それが嫌なら街から出ていけ」

 

可哀相な理由によって、東京の人間達がどれほど魔法少女に殺されていったのか…彼は見てきた。

 

可哀相な理由さえ用意出来てしまえば、簡単に人間をゴミのように踏み潰せる魔法少女達。

 

魔法少女達は、可哀相な理由を悪用して…己の外道行為を正当化してきたのだ。

 

「それさえ嫌で、魔法少女として人間などゴミクズとして扱うなら…」

 

――今直ぐ俺がお前を殺してやる。

 

魔法少女の虐殺者が放つ、恐ろしい言葉。

 

彼の発言が強がりなどではないということなら、悪魔と関わってきた彼女なら分かる。

 

「……そう、貴方は()()()()()()()のね。ここで降ろして」

 

車を停車させ、彼女を降ろす。

 

何も言わずに去って行く彼女の後ろ姿に向けて、窓を開けた彼が言い放つ。

 

「警告してやる。悪魔の世界は甘くはない」

 

立ち止まった彼女が後ろを振り向く。

 

彼女にとっては最悪の印象を与えてくる慈悲無き悪魔に向けて、怒りの言葉を言い放つ。

 

「貴方に何が判るっていうのよ!!」

 

「人間社会に嫌気がさしたから、今度は優しい悪魔の世界だと?笑わせるな」

 

――悪魔はな……人間を遥かに超えて、残酷だ。

 

尚紀の脳裏に浮かぶのは、人修羅として生きたボルテクス界での記憶。

 

かつての世界に跋扈した悪魔と呼ばれる存在は…人の命など大事にはしてくれなかった。

 

取るに足りないゴミクズ同然の扱いを行い、家畜として管理するのみ。

 

拷問して感情エネルギーであるマガツヒを吸い取る虐殺行為しか与えてはこない存在。

 

そして、感情エネルギーを吸い終えた魂を貪り喰らってきた。

 

「悪魔にとって…人の命など取るに足らないゴミクズだ。家畜として差別し続ける…」

 

――お前の嫌いな人間のようにな。

 

人修羅として生きた尚紀が語ってくれた悪魔の現実。

 

業魔殿で悪魔に関わってきたが、悪魔の残虐性に触れた経験はなかった。

 

みたまの表情は驚愕に包まれ、目の前の悪魔が恐ろしくなっていく。

 

「俺は悪魔だが、魔法少女と同じく元人間だ」

 

「元人間ですって…?」

 

「俺には人間の友達がいたが、弱者として悪魔から差別を受け拷問を繰り返され…心を壊された」

 

彼もまた、失うばかりの人生を生きた存在だと聞かされる。

 

みたまに対し容赦のない不快極まる男ではあるが、同情の感情も浮かんでしまう。

 

「そして…お前たち魔法少女も同じだよ。人間など取るに足らない存在だと()()()()

 

「私たち魔法少女も悪魔と同じ…差別する者ですって!?」

 

「虐められたから虐め返したいか?悪魔の力でも使って」

 

怒りの感情を抱えた2人が睨み合う。

 

2人の価値観はあまりにもかけ離れている。

 

このままでは喧嘩になると判断したみたまは…大きく溜息をつく。

 

彼とは話すだけ無駄なのだと割り切ったようだ。

 

「…貴方は人間の守護者なのね。もういい…私の役目は終わり……さようなら」

 

「じゃあな。魔法少女や悪魔という、()()()()()()()()()調整屋さん」

 

互いの価値観は物別れとなり、車を走らせ去っていく。

 

怒りが収まらない彼女の脳裏に浮かぶのは、自分が魔法少女になった時の記憶。

 

八雲みたまがどれだけ神浜の歴史差別を憎んだのかは、推し測るまでもない。

 

憎しみの感情は望む願いの形となり、願いの言葉として解き放たれることとなった。

 

「私はね…魔法少女となる時に……こう願ったわ」

 

――()()()()()()()()()()()()()

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

9月も半ばに差し掛かろうとした時期の週末。

 

東京の監視を終えて神浜に戻った尚紀は、そのまま車を走らせ南凪区ベイエリアへと向かう。

 

「ここが人間嫌いの調整屋が言っていた…ヴィクトルの業魔殿?」

 

地下駐車場に車を停車させてホテルの入り口に向かえば、総支配人が彼を待っていた。

 

「嘉嶋尚紀様で…よろしいでしょうか?」

 

「そうだが、俺が来るのを知っていたのか?」

 

「ヴィクトル様がお待ちです。こちらへどうぞ」

 

中へ案内され、みたまと同じように地下へと誘導される。

 

「隠し扉か…秘密主義のホテルのようだな」

 

「中へどうぞ。貴方が入り次第、直ぐに扉を閉めなければなりませんので」

 

「分かった」

 

階段を降りていく後ろ姿を見送った総支配人は、扉を閉めて去って行く。

 

深い階段を降り、メインレベルエリアである現代的設備が整った研究所内に入った。

 

「地下に作った横坑に並ぶようにして設けられた実験エリアか」

 

歩きながら周囲を見渡す。

 

「邪教の館とは随分違うな。この業魔殿は…科学を媒体にして悪魔合体を行うのか?」

 

彼の疑問の答えを返す言葉が響く。

 

<<その通りだ悪魔よ。科学の元となったのは錬金術だからな>>

 

声がした方に振り向く。

 

紳士的な服装の上着として着ている特徴的な赤いインバネスコート姿の男が視界に入る。

 

2メートルに近い長身の人物が杖をつきながら歩いてきた。

 

「ようこそ、業魔殿へ。吾輩がこの施設の主であるヴィクトルだ」

 

「みたまから聞いてきたんだが、お前もタチの悪いストーカーみたいだな?何処で情報を得た?」

 

「君は丸瀬不動産を利用して、北養区に物件を購入したのだろう?」

 

「ああ、あのサングラスかけて額に絆創膏を貼り付けた、太ったオッサンの物件屋だ」

 

「吾輩は古くから神浜に根ざした者の1人。商売人ネットワークというものがあってね」

 

「悪魔の俺を嗅ぎ分けられる、ろくでもないネットワークみたいだな。神浜も奥が深いぜ」

 

「ストーカーのように思われたなら謝罪しよう。だが、吾輩は君の味方だと信じて欲しい」

 

「俺に悪魔合体の恩恵を与えてくれるのか?」

 

「吾輩は悪魔研究者、研究の役に立つなら誰にでも助力しよう。たとえ魔法少女や悪魔でもね」

 

奥へ来るよう促され、ヴィクトルの後をついていく。

 

歩きながらも、業魔殿と呼ばれる施設について尚紀は質問を繰り返した。

 

「俺が知っている悪魔合体施設とは随分違うな。邪教の館という名を知っているか?」

 

「勿論だ。それは太古から存在する古の神々が生み出した神秘。吾輩はそれを目指している」

 

「この世界で邪教の館を見たことはあるか?」

 

「ない。遥か古には中東やヨーロッパに存在していたと聞いているが、今は行方知れずだ」

 

「そうか。それにしても、肌が病的なまでに色白だな?それに…妙な魔力を感じさせる」

 

「神々が生み出した神秘に近づくには、人間の寿命は短すぎる」

 

「まさか…お前は…?」

 

「長寿を得て研究を長く続けるために…吾輩は半吸血鬼となる道を選んだのだ」

 

「半吸血鬼だと?」

 

「吸血鬼の血を元に作成した組織再生血液製剤を自分に輸血したから長寿を得たという訳だ」

 

「なら、今のあんたは何歳なんだよ?」

 

「吾輩は既に…200歳を超えた老人だよ。年齢を数えるのも億劫になってきた」

 

「こんなところにも妖怪年寄りがいたってわけかよ。意外といるようだ」

 

「弊害もあるがね」

 

半吸血鬼であろうとも、やはり日光に弱いと聞かされる。

 

長寿を得た代償として、悪魔と同じく闇の世界で生きるしか出来なくなった立場のようだ。

 

「あのみたまがお前を慕うわけだ。随分と人間嫌いな助手をお持ちのようで?」

 

彼の皮肉には、苛立ちの感情が宿っている。

 

そう感じ取れたヴィクトルは溜息をつき、彼に向き直る。

 

可愛い研究助手の立場を守るのもまた、業魔殿主人の務めなのだろう。

 

「責めてやるな。人間嫌いではあるが、人間の殺戮を望む存在ではない」

 

「フン、どうだかな?」

 

「社会に傷つけられ続けたら、誰でも精神的に閉じこもってしまうものだよ」

 

「お気持ち主義という()()()()()()()()()()()()。悪魔同様に…魔法少女も危険な存在だ」

 

「確かにな。しかし、差別は政治が解決しなければならない問題。吾輩には関係ない」

 

「まぁいい…あの女が人間社会に牙を突き立てる日がくるならば、東京の俺の姿に戻るだけさ」

 

みたまにはみたまの立場と苦しみがあると彼に語るが、心には届かない。

 

人間の守護者が求めるものは、常に一つ。

 

人間社会に潜む魔法少女という脅威から、如何にして人間社会を守るかだけだった。

 

……………。

 

研究所奥へと進むガラス通路エリアを通っていた時、尚紀の視線が横に向く。

 

ガラス通路の隣のエリアには、研究フロアが広がっているようだ。

 

「あの大きなカプセルの中にいる…悪趣味な塊はなんだ?」

 

ガラスの向こう側には、培養液で満たされた巨大カプセルが並んでいる。

 

機械と繋がった形で存在し、中に浮かぶのは人形の肉塊のようにも見える醜悪な光景だ。

 

()()と名付けた人造悪魔だ」

 

「造魔…?人造の悪魔だと…?」

 

「人が唯一神に逆らい、人造生命を産み出す禁忌の所業。ホムンクルスと言えば伝わるか?」

 

造魔に興味を持たれたのが嬉しかったのか、立ち止まったヴィクトルが造魔について語っていく。

 

造魔と呼ばれる人造生命は、素となる()()()()()()()()を必要とする。

 

カドモンは錬金術用語であり、ドリーは人形を意味するようだ。

 

ユダヤの秘儀カバラにおいては、神のおわす最上階アツィルトでも同じ名を見かける。

 

アツィルトで創られた完全なる人の魂を、アダム・カドモンと呼ばれた。

 

ドリー・カドモンの見た目は人形に似た肉の塊に近い。

 

それを用いて造魔研究を続けているようだが…研究状況は芳しくないと語られる。

 

「研究は道半ば。見ての通り皮膚も無く、外気に晒されればたちまち苦しみだす失敗作だ」

 

「悪魔と合体させた人造悪魔。まるで…俺の違う可能性のようだな」

 

「この造魔も安楽死させてやるしかない。カバラを用いた唯一神の真似事は困難を極めるようだ」

 

「フン、ようは土塊で産み出されたマネカタ(真似形)のようなもんか。前の世界で大勢いたよ」

 

「真似形とは手厳しい。それが何を意味するかは大体分かるとも」

 

業魔殿の悪魔研究はこれからも続いていくだろう。

 

神秘を求めるヴィクトルにとって、罰当たりなど恐ろしくもない。

 

完璧な生命を産み出す生命探求の道を進む者は…時に残酷な選択を選ぶ事が出来る。

 

知りたいと思う探究心は、こうも理不尽な光景を生みだす危うさを秘めていた。

 

「業魔殿は造魔作りだけがメインじゃないんだろ?」

 

「勿論だ。さぁ、吾輩の研究成果の全てが詰まった場所まで案内しよう」

 

一番奥の自動扉が開く。

 

巨大空間が広がる施設内部を見た尚紀が、目を見開いていく。

 

「…懐かしい空気だ。施設は変わっても…この禍々しさは変わらないな」

 

「本当の業魔殿にようこそ…来訪者よ」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

広大な空間の中央を取り囲む円柱、下には巨大な五芒星魔法陣。

 

周囲は現代研究所設備の他にも中華を思わせる飾り物も多い空間だ。

 

「この中央の円陣内部で悪魔合体が行われる」

 

「俺が見た邪教の館とは違う形の合体となるんだろうな。どんな風に悪魔合体する?」

 

「バイオテクノロジーと錬金術を駆使して合体を行う」

 

錬金術とは、大いなる神である唯一神の次元を目指すもの。

 

唯一神の真似を行うが如く、土塊から生命を産み出そうというわけだ。

 

「悪魔合体する光景は、さながら粘土をこね合わせるように見えるかもな」

 

「俺が見た邪教の館の悪魔合体とは大分違う光景になるんだろうな」

 

「その話は興味深い。今度時間の空いている時は是非、邪教の館について教えて欲しいものだ」

 

「考えておく。1つ聞いていいか?」

 

「なんだね?」

 

「悪魔合体施設ならば、()()()()は置いてあるのか?」

 

「勿論だが…気になるのかね?」

 

「悪魔全書は多くの悪魔を登録することで、いつでも召喚したい悪魔を召喚出来るものだ」

 

「その通り。料金はそれなりにかかるがね」

 

「見せてくれ。もしかしたら…かつての世界で共に戦った仲魔達がいるかもしれない」

 

「では、持ってきてあげよう」

 

暫くして、ヴィクトルは悪魔全書を持ってくる。

 

慣れた手付きで中身を調べ上げていくのだが、落胆の色が浮かぶ。

 

「…どれもこれも弱い悪魔ばかりだ。それに、俺の仲魔達の名前さえない」

 

「この悪魔全書を育ててくれる者が今までいなかった。これには低級悪魔しか登録されていない」

 

「そうだよな…ここは業魔殿だ。悪魔全書を利用し続けた…かつての邪教の館ではない」

 

期待外れだったのか、悪魔全書をヴィクトルに返す。

 

「ここは悪魔合体施設。もし君が手持ちの悪魔がいるのならば持ってきなさい」

 

たとえ低級悪魔しか登録されていなくとも、既存の悪魔を合体させ続けて成長させられる。

 

これによって、強い仲魔を手に入れられるというわけだ。

 

「手持ち悪魔…何体かいるな」

 

悪魔の仲魔所有者である尚紀が気になっている内容をヴィクトルに語っていく。

 

この世界には人間世界と太古の昔から共に生きた悪魔達がいた。

 

人や動物と交わるうちに力が弱まってしまった悪魔達の力を取り戻せるかという話だ。

 

ヴィクトルは頷き、太鼓判を押してくれる。

 

「そうか…だとしたら、利用する価値はありそうだ。今度そいつら連れてくる」

 

「待っているぞ嘉嶋君。それとだ…君と会わせたい人物がいるんだ」

 

「俺と会わせたい人物?」

 

ヴィクトルは腕時計を見て、日も沈んだ時間帯だと確認。

 

「吾輩は業魔殿の主であると同時に、上のホテルのオーナーだ。上の階に上がろう」

 

「その足であのクソ長い階段を登るのも大変そうだな」

 

「あれは表の入り口だ。物資搬入用エレベーターがあるし、脱出路のエレベーターもある」

 

「そっちの方が楽そうだな。案内してくれ」

 

2人は業魔殿施設内部の脱出路エレベーターに乗り込み、上の階を目指す。

 

地上だけでなく、ホテル最上階フロアにまで登ることも出来たようだ。

 

「ついたぞ」

 

隠し扉が開き、ホテル最上階フロアに到着。

 

エレベーターから出て来た尚紀はエレガントな通路を歩いていく。

 

程なくして高級そうな店舗を発見した彼が店の看板に目を向ける。

 

「クレティシャス?この会員制のBARにいるのか?」

 

「そうだ。オーナーであるマダムと、私の友人であり恩師達が君を待っている」

 

「マダムと…あんたの恩師?」

 

「ついてきたまえ」

 

案内され、後ろをついていく。

 

高級な会員制BARを進んで行くと、大きな両開き扉と出くわす。

 

「この奥だ。ここから先はマダムの許可がない者は入れない」

 

「何処かで見たことがある雰囲気の店内だったが…まさか?」

 

両開きの扉を開けて中に入り込む。

 

水槽で覆われ水の中を思わせるVIPルームに入る2人を出迎えた存在とは…見知った人物達だ。

 

「ニュクス!?それにニコラスじゃねーか!」

 

東京でも世話になってきた人物達が、彼を見て笑顔を向けてくる。

 

「やぁ、ナオキ君。業魔殿はどうだったかね?」

 

「お久しぶりね、名探偵さん」

 

出迎えたのはBARマダムのオーナーであるニュクスだが、見た目と雰囲気が変化している。

 

髪を黒色に染めてオールバックにした頭部と、上品な着物を着ている姿になっていた。

 

「イメチェンか?よく似合うよ」

 

「フフッ、ありがとう。座って頂戴」

 

2人はニュクスに促され、円形の革張りソファーに座り向かい合う。

 

「彼女は東京でBARマダムを所有しているオーナーだが、神浜店舗に活動拠点を移されたようだ」

 

「手広く経営をしているようだな?」

 

「ええ。静かな夜を愛する者達の憩いの場を提供するのが私の本懐だけれど…」

 

溜息をついて視線を逸らすニュクスを見て、尚紀は察する。

 

彼女が所有する東京店舗を不快な場所に変えた原因は、自分にあることは分かっていた。

 

「東京銀座は空気が悪くなったわ。啓蒙神に一目会いたいと世界中の悪魔崇拝者が集まりだした」

 

「どうやら…俺が迷惑をかけちまったようだな」

 

「気にしないで、貴方のせいではない。それにこちらの店舗の方が私は気に入っているの」

 

神浜店舗は政財界の代表者達が集まる密談の場ではない。

 

彼女が真に認めた人間達だけが集まれる憩いの場として利用出来るようだ。

 

「そうか…それなら俺もここに飲みに来れるだろう。また世話になるぜ、ニュクス」

 

「おっとナオキ君。今の彼女はマダム銀子と名乗っている。神の名をみだりに語ってはいけない」

 

「マダム銀子…夜の世界に似合う、洒落た名前だな」

 

「フフ♪お待ちしているわ、名探偵さん」

 

「そしてニコラス?お前がヴィクトルの恩師だったとはな」

 

「彼がまだ人間の若者だった頃に出会ってな。その頃の私はドイツで妻を探していた頃だ」

 

「ニコラス先生がいなければ、吾輩は悪魔研究者になどなれなかったよ。本当に感謝している」

 

「進んだ道は違えども同じ錬金術師。彼と私は古くから日本で魔導探求を続けた友人なのだ」

 

「吾輩は悪魔の研究を、ニコラス先生は魔石の研究を。共に歩める友人でありライバルなのだ」

 

「そうか…しかし、凄いメンツだな?夜の神に伝説の錬金術師に悪魔合体施設の主とくる」

 

「君もそうだ。イルミナティの守護神と呼ばれだした嘉嶋君も、凄いメンツの中に入っている」

 

「俺が人修羅だとヴィクトルは知っていたのか?」

 

「すまないナオキ君。私が彼に話していたのだ」

 

「そうか、だからヴィクトルは俺の事をよく知っていたんだな」

 

「今日の私達の出会いに乾杯しましょう。好きなお酒を注文してね」

 

「吾輩はこのBARが気に入っている。海やフェリーもよく見える。海はいいぞ~嘉嶋君!」

 

「海や船が好きなのか?」

 

「吾輩のロマンの世界だ。いつか豪華客船を購入して…キャプテンとして大海原を目指したい」

 

「フフ…まるで悪魔船長だな」

 

「未来の業魔殿へ~~ヨーソロー」

 

4人は出会いを祝し乾杯を行う。

 

後は静かな夜の世界だけが過ぎて行ってくれた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

数日が過ぎた頃、みたまは業魔殿に訪れている。

 

緊張した顔つきのまま主人であるヴィクトルに振り向く。

 

「ヴィクトル叔父様…本当に今日、悪魔合体が見られるんですね?」

 

「そうだ。君にとっては初めての光景になるだろうな」

 

「高次元の存在達が結合して、新たなる魂が形となる秘儀…私も緊張しちゃうわ」

 

「突然暴れだしたりはせんと思うが…まぁ、悪魔相手に絶対はないがね」

 

通路の奥から足音が聞こえてくる。

 

足音よりも、猫達の悲鳴の方が目立つようだが。

 

「よぉ、赤青コンビ。手持ちの悪魔を連れてきたぜ」

 

仕事を早めに終えた尚紀が両手に持っているのは、ペットキャリーバックだ。

 

中に納められ助けを求める猫とはケットシーとネコマタである。

 

ニャー!(嫌ニャー!!助けてニャー!オッパイパンパンのお姉ちゃん~!!)

 

ニャー!(そうよ!確かに太古の頃の強さが欲しいって愚痴った事あるけど!怖いのは嫌!!)

 

二人の前に立つのだが、猫の鳴き声が五月蠅過ぎる光景が続く。

 

助けを乞う仲魔達の叫び声は無視してみたまの方に視線を向ける。

 

彼女は顔を横に向けて無視の態度を返してくる。

 

「…みたま君。仕事の時間だ、私情は謹んでくれ」

 

「…はい、判りました叔父様」

 

ヴィクトルになだめられ、尚紀の元に歩み寄ってくる。

 

「ネコマタとケットシーだ。こいつらを悪魔合体させたい。合体施設に持っていけ」

 

「…この可愛い猫ちゃん達が、本当に悪魔の姿になるっていうの?」

 

「こいつらも太古の昔は悪魔だったが、人間世界と同化していくうちに血が薄くなっちまった」

 

「今では満月の夜にしか本来の姿に戻れない弊害を抱えている者達というわけだよ、みたま君」

 

「そうだったのね…。でも、この子達の慌てっぷりを見ていると…なんだか可哀想だわ」

 

ニャー!!(助けてニャ~オッパイお姉ちゃん!!オイラは変な悪魔の姿になりたくないニャ!)

 

シャー!!(こんな時までオッパイオッパイ喧しいこと言ってんじゃないわよスカタン猫!!)

 

「大丈夫だ。こいつらを変な姿の悪魔にはしない。悪魔合体にはコツがある、任せろ」

 

「悪魔合体に随分と慣れているみたいね?判ったわ」

 

ペットキャリーバックを受け取り、彼女は合体施設に向かう。

 

「ヴィクトル、悪魔全書を貸してくれ。召喚する悪魔を決めていく」

 

「もう持ってきている。商談といこう」

 

悪魔全書を広げながら、合体素材として使うために召喚する悪魔を決めていく。

 

「支払いはマッカか?現金か?」

 

「どちらでもいいが、マッカを持っているのかね?」

 

「かつての世界でしこたま集めた。100万マッカは手持ちである」

 

「相当な戦いを繰り広げた光景が目に浮かぶよ」

 

支払いを済ませ、尚紀も合体施設へ入っていく。

 

中央の合体エリアでは、ケットシーが先にキャリーバックごと置かれていた。

 

「さて、そろそろ始めるか」

 

「フフ…大正時代を思い出す光景だよ。そして、あの()()()()()()()()()()もな…」

 

<<早く合体させろぉぉぉ!!うぉれは今直ぐ合体ボタンを押したいぃぃぃっ!!!>>

 

突然喧しい声の館内放送が鳴り響く。

 

「なんだよ…この喧しい声を出してる奴は?」

 

「コラ!!喧しい声を出さなくても聞こえるぞ、イッポンダタラ!!」

 

「イッポンダタラ?そいつも悪魔なのか?」

 

「そうだ。吾輩の助手として大正時代から使っているが…独特な個性派悪魔なのだ」

 

「振り回されている光景が目に浮かぶよ」

 

「まぁ…否定はせん」

 

「まぁいい…。それよりも、始めてくれ」

 

施設内が暗くなる。

 

中央に召喚されたのは、悪魔全書から選んだ悪魔達。

 

合体施設中央の五芒星が回転を始めていく。

 

「これが…錬金術を用いた悪魔合体か」

 

緑の霧のようなものが魔法陣から吹き上がり、中央の悪魔達が包まれていく。

 

緑の霧が晴れ、空中には蠢く巨大な粘土の塊。

 

「これが…神々が生み出した邪教の秘儀である、悪魔合体の御業を再現する光景…凄いわ!」

 

蠢く粘土の塊が弾け、施設内が眩い光に包まれる。

 

両腕で目を覆い光を防ぎ、目を見開くみたまが見た悪魔とは?

 

「初めての悪魔合体だったんだ…気分はどうだ?」

 

空中を浮遊しているのは、六芒星が描かれた壺。

 

壺から小さな悪魔の顔が出てくる。

 

「びっくりしたけど…思ったよりも力を感じる!これが悪魔合体なんだね尚紀!!」

 

【アガシオン】

 

ユダヤ伝承の壷や護符、指輪などの中に封じられている魔物の総称。

 

精霊と同様に見えない存在であり、家事から人の呪殺まで何でも命令された事を行う存在。

 

善とするも悪を為すも使い手次第というわけだ。

 

「これなら尚紀の力になれるよ!よーし、新しい姿で悪い魔法少女をケチョンケチョンに…」

 

「何言ってるんだ?まだまだ悪魔合体は終わらないぞ」

 

「えっ…?」

 

「お前に身に付けさせる物理や補助スキルを継承させつつ、元の姿に戻すまで終わらない」

 

「そんな~~っ!!ボク怖いのが続くのヤダーーッ!!!」

 

「アハハ…ケットシーちゃん、ご愁傷さま…」

 

右手に持つキャリーバックから異臭を感じたみたまは視線を向ける。

 

バックの中でガタガタ震えながら失禁してしまったネコマタがいたようだ。

 

「大丈夫よ、ネコマタちゃん。元の姿にちゃんと調整してくれる慣れた悪魔だし~怖がらないで」

 

ニャー!(いやぁぁぁ!!怖いの嫌ぁぁ!!ケットシーだけで勘弁してぇぇーッッ!!!)

 

緑の霧。

 

粘土の塊。

 

ピカーっと光る。

 

そんな光景を何度も繰り返した果てに現れた悪魔の姿はとてもやつれている。

 

「あぁ…やっと…元の猫悪魔に…戻れた…ニャ」

 

円陣内で倒れ込んでしまうは、満月の時にしかお目見え出来なかった悪魔の姿。

 

【ケットシー】

 

スコットランド地方やノルウェー等に伝わる猫の妖精。

 

普段は普通の猫と全く区別が付かないが高い知性を持ち、人間の言葉を操る事もできる。

 

また、気配を消して神出鬼没に行動出来る能力もあるようだ。

 

人間の目の届かない廃屋や木のうろの中に異世界めいた独自の王国を築いているという。

 

猫を理不尽に虐待した人間は、彼らの王国にてお仕置きされるとも言われていた。

 

「どうだ?慣れているって言っただろ」

 

「キャーカワイイッ!!可愛い猫ちゃん悪魔よぉ~~~♪♪」

 

ケットシーに飛びついて頬摺りを始めるカワイイ大好き、八雲みたま。

 

オッパイパンパン娘に可愛がられても、合体の恐怖が続いたケットシーはグッタリしたまま。

 

「さて、次はネコマタの番だ」

 

ニャー!(さよなら可憐な美しさの私ぃぃーッッ!!!)

 

ケットシーはみたまに引っ張り出され、今度はネコマタの番となる。

 

合体させる悪魔を中央に召喚。

 

五芒星が回転を始める。

 

緑の霧が晴れれば粘土の塊が浮かぶ。

 

その時であった。

 

「何だ?」

 

施設内で警報が鳴り響く。

 

なんとなくではあるが、尚紀は何が起こったのかが大体分かってしまう。

 

「あっ…これは見知っているが、不味い流れ…」

 

かつての世界の経験によって何が起こるのかを察した彼は、後頭部を掻き毟る。

 

悪魔合体を失敗した時に出る癖のようだ。

 

粘土の塊がけたたましく蠢き、破裂。

 

中から表れ出た悪魔とは…?

 

「……やっぱ、()()()()か」

 

「合体事故って…?えっ…ネコマタちゃんなの!?この醜い……スライムが!?」

 

表れ出たのは、外道スライム姿のネコマタだった。

 

【スライム】

 

スライムとはドロドロネバネバした粘液状のものという意味をもつ。

 

悪魔が実体化し損なった場合は、スライムになると言われていた。

 

きちんと実体化した時と比べれば、ろくに力を振るう事も出来ない存在である。

 

しかし、魔王クラスの悪魔がスライム化した場合ならば話も変わってくるだろう。

 

その時の魔王の怒りは、計り知れないものとなるであろう。

 

「忘れておった。今日の月齢は満月だったな」

 

「それが合体事故と関係していたのか?ボルテクス界ではカグツチの光が関係していたな」

 

「グッ…ガッ…ナニヨ…コノ、ミニクイ…スガタ!?」

 

蠢くスライムと化してしまった哀れな存在が何かを喋っている。

 

とてもキモイ光景だ。

 

「俺も月齢を忘れて合体事故をやらかしたもんだ。そういや、ネコマタはどんな姿だったっけ?」

 

「えっ?私に聞かないでよ…知るわけないし」

 

「オォォ…ハヤク…モトニ…モドシテ…ゴガッ!!」

 

「そういえば、スライムみたいな姿だったような?なら、これで良いよな?」

 

「ナン…デ…ヤネンンン!!ウラム…トリツク…モドセェェ!」

 

体をプルンプルンと揺らしながら猛抗議してくる仲魔を見ながら尚紀も苦笑い。

 

「ハァ…あまりからかってあげないで。この子が可哀想よ」

 

「フフ、そうだな」

 

そうして合体作業も捗っていき、元の姿に返り咲く。

 

「やっと…元の美しさを…取り戻せた…わ」

 

円陣で倒れ込んでいるのは、満月の時にしかお目見え出来なかった悪魔の姿。

 

【ネコマタ】

 

猫股と呼ばれる長年生き続けた化け猫であり、神通力を得た猫達のことである。

 

尻尾が2つに別れていることからそう呼ばれており、中国では仙狸と呼ばれる存在。

 

猫股となると人語を解するようになり、しばしば若い女や老婆に変化した。

 

飼い猫が猫股にならないよう、日本の猫の尻尾が切られ、短い尻尾の猫が多かったようだ。

 

「どうだ?慣れているって言っただろ」

 

「キャーカワイイッ!!丸メガネつけた可愛い女の子な猫ちゃん悪魔よぉ~♪♪」

 

ネコマタに飛びついて頬摺りを始めるカワイイ大好き、八雲みたま。

 

合体の恐怖が続いたネコマタは、グッタリしたままであったとさ。

 

「これで全ての悪魔の合体作業は終わりだな?」

 

「あと一体、車の仲魔がいるんだが…そいつは合体を拒絶して何処かに走って逃げやがった」

 

「やれやれ、嘉嶋君は愉快な仲魔達に囲まれていたようだな?」

 

「帰るぞ、ケットシー、ネコマタ。これでお前らも満月に関係なく、好きに悪魔の姿に戻れるさ」

 

グッタリした二匹の仲魔達を引きずりながらエレベーター方面に向かう。

 

「いかがだったかな、みたま君?これが悪魔合体という神秘の世界だ」

 

「凄かったです…ヴィクトル叔父様。私も魂に触れられる調整屋として、大変勉強になりました」

 

「励み給えよ、魔導の世界に足を踏み入れた若き卵よ。君は商売だけでなく…この世界も似合う」

 

踵を返し、合体施設から出ていく主の後ろ姿。

 

中央の魔法陣を見つめながら…みたまは呟く。

 

「本当に凄い力を手に入れられるのね…悪魔合体って。私の調整を超えていたわ」

 

悪魔研究者として、一つの仮説を頭の中に描いてしまう。

 

悪魔合体とは、魔なる存在を合体させる行為。

 

魔なる存在ならば…この世界には悪魔達以外にも存在している。

 

「もし、魔法少女がこの悪魔合体を行使したとしたら…?どれ程の力が手に入れられるのか…」

 

知りたいと思う探究心は、時に理不尽な欲求へと変化してしまう。

 

「それを知りたくもなるけど……やっぱりやめるわ」

 

――彼女達が可哀想だものね♪

 




読んで頂き、有難うございます。
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