ジョジョとのび太と真夜中のサーカス   作:マメルイージ

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第1幕 開幕ベル

「サーカスに、連れていってくれませんか……」

 

 タイプ別診断ってあるだろ? 質問に「はい/いいえ」で答えて、矢印を辿っていくやつ。

 やけにでかいトランクを持った知らねえ子供に、そんな事言われたらお前はどうする?

 

→話を聞く。

→無視する。

 

 オレは無視するを選んだね。

 あっ、あんたオレのコト薄情だと思ったな? そう言うなよ、れっきとした理由があって、オレは相手する余裕なんて無かったのさ……

 

────────────────────────

 

 のび太とドラえもんが降りたサーカステント近くのバス停は、既に長蛇の列が出来ていた。丁度閉演直後の時間帯だったのだ。列の向こうにも、視界いっぱいの人だかり。二人は大河のような人の流れに逆らってサーカステントを目指す。

 

「すごく賑わってるね」

「日本でも指折りの大きなサーカスだからね」

 

 5m先も見通せない人混みの中、隣を通る人以外を識別することは困難である。しかしそんな中、

 

「おーいのび太! ドラえもん!」

 

目敏く2人を見つける者がいた。

 

「あっ、ジャイアン! スネ夫!」

「おう!」

「よっ!」

 

 ジャイアンこと剛田武と、骨川スネ夫。家族も一緒だが、そこから離れてのび太達の方へ向かってきた。

 

「こんなところで会うなんてキグウだな」

「2人ともサーカスの帰り?」

「おう! めちゃんこ面白かったぜ」

 

 満面の笑みを浮かべるジャイアン。しかしその巨躯からだと、どんな表情もかなりの迫力を感じさせる。

 

「ぼくちゃんはシルク・ドゥ・ソレイユを飽きるほど見てるけど、たまにはこういう庶民的なサーカスも悪くないね」

 

 一方のスネ夫もいつも通り、意地悪そうにニヤつきながらさりげなく自慢話を繰り出してくる。のび太とドラえもんは苦笑いするが、カタカナ語に弱いジャイアンは「白くてしょうゆ……?」などと呟きながら首を傾げていた。

 

「ところでのび太とドラえもんはサーカスに『向かってる』みたいだけど、さっき午前の公演が終わったばかり、次の公演まで一時間あるよ? どういうつもり?」

「時間間違えたのか?」

「違うよ、『サーカスに入れてください』ってお願いしに行くんだ」

「「サーカスに入るだってーーっ!?」」

 

 揃って驚愕の声を上げたジャイアンとスネ夫は、次の瞬間にはゲラゲラ笑い出した。

 

「サーカスに入る!? 跳び箱三段も跳べなきゃ逆立ちも出来ない、運動オンチのお前が!?」

「ムリムリ! 一日もしないでボロボロになって泣いて帰ってくるのが目に浮かぶよ!」

「「ギャーハハハハハ!」」

 

 文字通り腹を捩って笑い転げる二人。基本温和なのび太だが、これには顔を真っ赤にして食ってかかる。

 

「やってみなきゃ分かんないじゃないか! それに僕には売り込める芸だってあるんだぞ!」

「なに? 早昼寝でも披露するつもり? そりゃお客さんも笑っちゃうね! 呆れて」

「なんだとぉ~~……」

 

 自分の本気を茶化してくるスネ夫にのび太が拳を固くした時、

 

「武! いつまで喋ってるんだい!」

「スネちゃま! そろそろ行くザマスよ!」

「あっ、ママが呼んでる」

「そんじゃあな、せいぜい頑張れや」

「早昼寝を舞台で見られるのを楽しみにしてるよ」

 

 母親に呼ばれたジャイアン、スネ夫は、最後までのび太を嘲笑いながらそれぞれの家族の所に戻っていった。

 

「何さ! 2人して僕をバカにして……」

「全くだ! 人の夢をバカにするなんていつもながら酷い奴らだ! のび太君! こうなったら一流のサーカス芸人になって見返さなきゃ!」

「もちろんさ! 絶対一流になってやる! ……それでー……ドラえもん、『サーカスに入りたい』って、誰に言えばいいのかな?」

 

 のび太の一言に、ドラえもんは目を丸くし口をあんぐりと開けた。

 

「呆れたヤツだな! それを調べずに来たのかい!?」

「いやぁ……宿題が終わったらすぐにでも行きたくて……」

「やれやれ……君は実に馬鹿だな。もうちょっと計画性というものを……」

「あっ、でも見て! あの人なら話を聞いてくれるかも!」

 

 ドラえもんの説教を遮って、のび太が指差したのは、風船を配るクマの着ぐるみの近くを歩いていた……

 

「なんだ、子供じゃないか……でも随分大きなトランクを持ってるね」

 

 トランクは、丁度のび太と同じくらいの年頃と思わしきその少年の背丈程もある巨大なもので、人集りの中でもそこそこ目を引く。

 

「あの大きなトランク、きっと芸に使う道具が入ってるんだ、サーカスの関係者だよ!」

「まさか! ……でも、それ以外の中身も考えられないし」

「話を聞きに行ってみようよ!」

「そうだね」

 

 二人は再び人の流れに逆らって歩き出した。しかし周りが気を遣って避けてくれるとは言え、次の一歩を踏み出す場所にも困る人混みである。そうそううまく進めるものではなく、風船とトランクは一向に近付かない。あまりに変化しない景色を前に、二人の意識は散漫になり始める。

 と、その時、状況が動いた。着ぐるみの近くから立ち去ろうとした少年を、突如三人の黒服が取り囲んだのだ。雑多な人混みの中に突如現れた黒い塊。視界に入ったイレギュラーは、二人の意識を覚醒させるには十分だった。

 

「あれ? あの子隠れちゃった。何だろうあの人たち……」

「サーカスの事務員とかじゃないの? きっと迎えに来たんだよ」

「だといいんだけど」

 

 ドラえもんの言葉に納得しかけたのび太だが、直後ある事に気付いて指し示す。

 

「ちょっと待って……やっぱり違うよ、あれ見て」

 

 それは、さっきまで少年が持っていたトランク。まともな迎えなら少年と一緒に持っていく筈のそれが、置き去りにされていた。

 

「ドラえもん」

「うん」

 

 顔を見合わせた二人はお互いに頷き合うと、黒服達に向けて一直線に走り出した。

 

「きゃっ!? なにこの子達!」

「コラ! ちゃんと前を見て歩け!」

「オイ! 人にぶつかっといて何か言うことねえのか!?」

 

 当然のように前方の通行人にぶつかりまくり、ぶつかられた人からヤジや怒声が飛ぶ。しかし二人は彼らの顔も見ずに突っ走っていく。

 

「ごめんなさい!」

「急いでるんです!」

 

 だが、二人の全力疾走も空しく黒服達はどんどん遠ざかっていく。

 

「このままじゃ逃げられちゃうよ! ドラえもん、何か周りの人をすり抜けられる道具って無いの?」

「そんなすぐには出ないよ……あーこれじゃなくてあれでもなくて……」

 

 慌てて四次元ポケットを探るドラえもんの手が、やかんを掴んだその時だった。

 

 バキッ!

 

 何かが砕けるような音。見れば、あのクマの着ぐるみが黒服二人を立て続けにぶん殴ったところだった。彼も黒服の不審さに気付いたらしい。黒服は倒れ、その後ろにいる少年の姿が露になった。

 

「まちがってたらすまんね。誘拐か?」

 

 着ぐるみが尋ねると、少年は頷いた。

 

「よっしゃ。てめーら警察に連れてっちゃる」

 

 早速、着ぐるみは三人目の黒服を殴りつける。すると、その黒服の首が不自然な方向に曲がってしまった。

 

「げっ!」

「うわぁ!? 首が!?」

「なんてこった!」

 

 折った本人はもちろん、ドラえもんとのび太も驚愕する。ところが、黒服は首が折れた格好のまま、動揺で硬直した着ぐるみの腕を掴んで締め上げた。

 

「そんな馬鹿な! 人間が首を折られてまともに動けるわけがない!」

「ドラえもん、まさかあれってロボットなの!?」

「そうかもしれない。最初に殴られた時も、人間ならありえない音が出てたもの」

 

 見れば、その最初に殴り倒された黒服二人も起き上がり始めていた。座った姿勢を経由しない、ゾンビのように不自然な起き上がり方だ。このままでは着ぐるみが危ない。

 

「ドラえもん!」

「待って、もう少しで出て来そうな……あった!」

 

 二人に、もう躊躇いは無かった。

 

────────────────────────

 

 オレがトランクの子供に構わなかった理由は、病気だ。

 ……しまった、自己紹介が遅れちまったな。オレは加藤鳴海、18歳。父親の仕事の関係でちょっと前まで中国にいたんだが、そこでミョーな病気にかかっちまった。ゾナハ病とかいうヤツだ。時々発作が襲ってきて、息が出来なくなってメチャ苦しい。ほっとくと死んじまう怖い病気だ。

 で、その発作を止めるためには……えーっと、副なんとか神経をなんとか状態に……とにかく、人を笑わせなきゃなんねーんだそうだ。それで、どうにかして人を笑わせるために、サーカスでヌイグルミ着て風船配りなんかやってるワケだが……

 

「……」

「……」

 

 ちっともウケねえ!

 チクショー、オレのじーさんはサーカス芸人で、人を笑わせるのがすげー上手かったっていうのによ! なんでオレはからっきしなんだよー!

 どんなひょうきんなポーズをとったって、子供たちは一向に笑っちゃくれねえ。こっちは発作で苦しくて仕方ねえんだ、ちょっとでいいから笑ってくれえ! オレを助けると思って、なあ!?

 

「……」

「……」

「早く行きましょ、あんなの何が面白いの」

「ううん、全然面白くない」

 

 あああああ~~~~~! チクショー、死ぬー……

 とまあ、そんな時だった。

 

「くすすっ」

 

 笑ってくれたのさ、トランクの子供が。あんなに苦しかった喘息が、嘘のように引いていく。

 

(助かった~~~~)

 

 感激してあいつの顔をまじまじと見ていると、そのうち軽くお辞儀をして、くるりとこちらに背を向けて去っていった。

 トランクを押して、とぼとぼ歩き去るあいつの背中を見ているうち、なんだかほっとくのが忍びなくなってきた。あいつからしたらほんの偶然、何気なく笑っただけなんだろうが、オレからすれば紛れもなく命の恩人だ。

 

(話くらいは聞くか……)

 

 そう思った矢先、三人の黒服がトランクの子供を取り囲んだ。逃げようともがく子供の腕を一人が引っ掴んで連れて行く。不思議と通行人は気づかねえ。他の二人がうまく壁をつくってる……

 こりゃ誘拐か? いや、家出の子供を連れ戻してるのかも……。判断材料を探していたオレは、例のばかでかいトランクが置き去りにされているのに気づく。あんなに大層な荷物を道に置いていくなんて、例えあの黒服にとっていらないもんだったとしても普通はありえねえ。

 こりゃ絶対に怪しい。オレは覚悟を決め、黒服どもを止めることにした。間違ってたら後であやまる。

 黒服どもに全速力で追いついて、まず壁役の黒服一人をぶっとばし、それから子供の腕を掴んでた黒服の腕をほどいてこいつもぶっとばした。

 人をあっさりぶっとばしすぎだって? これでもオレ、腕っぷしには自信があるのよ。中国にいる間、ひたすら拳法に打ち込んでたんだ。立派な師匠もいたしな。着ぐるみ着てるくらいで技が鈍るようじゃ、師匠の顔に泥を塗っちまう。

 

「まちがってたらすまんね。誘拐か?」

 

 解放された子供にたずねると、小さく一回、コクとうなずいた。

 

「よっしゃ。てめーら警察に連れてっちゃる」

 

 もう一度子供を捕まえようとする三人目の黒服。オレはこいつもぶっとばそうと、顔面に拳をお見舞いした。そしたらどうだ。頭だけ真横に倒れちまった!

 

「げっ!」(くっくく、首のホネ折っちまった!?)

 

 そりゃもう驚いたさ、人間なら()()()()()()()()()殴り方をしたんだからな。何度も言うが、オレはちゃんとした師匠について修行してたんだ。そのへんの知識は確かだぜ。

 だが、そうやって驚いている間に、もっと驚くことが起きた。首が折れたはずの黒服が、オレの腕を信じられねえような力で掴んできた!

 

(痛ててててて! な、なんて力だ⁉︎)

 

 咄嗟にヤツの後ろに回り込み、オレの腕を掴んでいる腕を掴み返して引っぺがし、そのまま両腕を封じて組み伏せようとした。ところが黒服は、肩を外して関節技を抜け出しやがった! 黒服はそのまま、するりとオレの手から逃れた。オレの見間違いでなければ、外れたはずの肩が元に戻っていた。

 ここまで読んでくれたあんたなら、オレがどれだけ気味の悪いヤツと戦ってたかわかってくれただろう。だがな、一番不気味なのは、ここまでこの黒服が、表情一つ動かしてねえってことだ。首まで折られてるっつーのにだぜ?

 こいつら、いったい何なんだ!?

 

「はっ!?」

 

 気がつくと、背後にはさっきぶっとばした二人の黒服が迫っていた。しまった、構えが間に合わねえ……

 

「空気砲!」

「どかーん!」

 

 一瞬の出来事だった。オレの背後数センチに迫っていた黒服どもが、のけぞった格好でオレの左右をぶっとんでいったんだ。

 おそるおそる後ろへ振り返ると、メガネの子供と、同じくらいの背丈の青いマスコットみたいなヤツが、並んで鈍色の筒を構えていた。

 

 思えば、俺が辿ることになる奇妙な運命の、これが始まりだったのかもしれない……




 鳴海の一人称視点での進行があるのは、からくりサーカス原作第1幕で鳴海のモノローグによる進行が多かったからです。
 あとドラのび視点じゃ何してるか分かりづらいんで原作なぞらせてもらいました。
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