後書きが付いたらその回は完成したと思ってください。
鳴海の背後に迫っていた二人の黒服は、間一髪ドラえもんとのび太が右手の空気砲から放った空気弾で吹き飛ばされ、鳴海を襲おうとした姿勢そのままに顔面から地面に倒れ伏した。その様子を呆然と見ていた鳴海だったが、すぐ我に返り正面から襲い掛かる黒服の腹に渾身の拳を突き入れる。黒服はくの字になって吹っ飛び、先の二人とは逆に後頭部を地面に強く打ち付けて倒れた。
「クマさん!」
トランクの少年が泣きそうな顔で鳴海に駆け寄る。鳴海は一つ深く呼吸すると、
「心配すんな。この通りへっちゃらだぜ」
と、少年に向かって大振りに、両腕で力こぶを作るポーズをとって見せた。
それからドラえもんとのび太の方へ向き直り、
「危ねえとこをありがとな。どうやったのかはわからねえが、お前らがあいつら倒してくれたんだろ?」
と頭を下げて礼を言った。
「ぼ、僕もありがとうございます!」
少年も慌てて鳴海の隣に立ち、勢いよく頭を下げる。
「お礼には及びません」
「うん、無事でよかったよ」
ドラえもんとのび太はニコニコしながら答えた。その時である。
パチパチパチパチパチ……
拍手と歓声が聞こえてきた。
「すっげー! 大迫力だったぜ!」
「お見事!」
「かっこよかったよー!」
見れば、四人の周囲を群衆が取り囲んでいた。どうやらこの戦いを何かのショーと勘違いして集まってきたらしく、使い捨てカメラで写真を撮る者もいる。彼ら、特に男の子達の表情には、わくわくした笑顔が浮かんでいる。
「あ、ああ……どうも……」
鳴海は再びぺこりと群衆に向けてお辞儀しつつ、照れくさそうに頭を掻く仕草(着ぐるみ越しなので掻けていないが)をした。ふと隣を見ると、いつの間にかトランクを回収した少年がにっこり笑って鳴海の方を見上げている。鳴海はつい、着ぐるみの頭を更に強く掻き毟るのだった。
一方のび太も、
「いやぁ~、それほどでもあるけど……」
などと言いながらいかにも照れくさそうに頭を擦りながらニヤついていたが、
「あなたじゃないわよ」
と前列の女性にツッコまれ、落胆した。
どうやら群衆は、黒服二人が吹っ飛んだのを鳴海が早業で放り投げたのだと思っているらしい。小学生と青ダヌキが空気砲で助けたなどと言っても信じる者はいるまい。
「仕方ないさ、助けてもらった本人には感謝されたんだし十分だろ」
そう言って、ドラえもんはのび太の肩を優しく叩き慰めるのだった。
しかし、微笑ましい時間は長くは続かなかった。
キ キ キ キ キ キ キ キ ……
黒服三人が不気味な音を立てながら、再び立ち上がっていたのだ。
「な……こいつら、あれだけやったのにまだ立てるのかよ!?」
立ち上がり切った黒服達は両腕を伸ばし、また少年めがけて襲い掛かってきた。そのうち顔面から倒れた二人は額や頬に大きな擦り傷が出来ており、裂けた皮膚の下から……木目が覗いていた。
「こ、こいつらやっぱり人形か! どうりで首が折れても平気なわけだ」
鳴海は三体式(形意拳の基本的な構え)をとり、
「ボーズ! 俺の後ろに隠れな」
とトランクの少年に促した。少年はそれに従い、トランクと一緒に鳴海の背後に隠れる。それとほぼ同時に、鳴海が黒服――もとい人形の先頭の一体に正拳を打ち込み、第二ラウンドが始まった。
「お、アンコール上演か!」
「よっ、太っ腹!」
「あの二人同時投げ、もう一度見せてくれよ!」
これがショーだと信じ切っている群衆は、呑気に声援を送っている。シャッターを切る音も絶え間なく聞こえてくる。
「どかん!」
「ドカン!」
ドラえもんとのび太も空気砲で鳴海を援護。二つの空気弾が人形の一体に迫る。ところが人形はそれに気付き、胸の前で両腕を組み、右足を踏み出して守りの構えをとる。空気弾の威力で2m程押されるも倒れるには至らず、守りを解くとすぐさま二人に向かってきた。
「ドラえもん、空気砲じゃダメみたいだ! もっと強い道具無いの?」
「そう言われても普段使わないからなぁ……レンタルしてないかも……」
ドラえもんがぶつぶつ言いながらポケットを探るが、これと言った道具は見つからない。
「もう! 肝心な時に役に立たないなあ!」
「勝手なこと言うなよ! ひみつ道具だって安くないんだぞ!」
無自覚にさらりと心無い言葉を言うのはのび太の悪癖だが、それで二人の絆が崩れるわけではない。軽く言い争いにはなりつつも、のび太はドラえもんを守るように前に立ちながら空気砲を連射する。しかし人形は空気弾の捌き方を完全に見切ったらしく、じわじわと迫って来る。
一方鳴海も防戦一方。突いても突いても何事もなかったかのように向かってくる人形に決定打を与えられない。先程のような強烈な打撃を何度も食らわせれば破砕は可能かもしれないが、二体の同時攻撃を捌いていてはその余裕も無いようだ。
「クマさん! 逃げよう!」
鳴海の劣勢を見てそう叫ぶトランクの少年は、怯えて眉がすっかり下がり切っている。
(ちっ、悔しいが確かにこのままじゃ守り切れねえ! 逃げる方がいいか……?)
少年の声を聞き、そう思考したことで鳴海の集中が一瞬途切れる。そして、手捌きが緩んだ一秒あるか無いかの隙を突いた人形の一体に胸ぐらを掴まれ、放り投げられてしまった。
「しまっ……」
水平に飛んでいく鳴海。飛んで行った先は、不幸にも群衆のど真ん中だった。加減を知らない高速で投げられた大柄な着ぐるみを顔面に食らった最前列の数名がもんどりを打って倒れ、ドミノ式に三十人近い人々が薙ぎ倒された。流石にこれは只事ではないと気付き、群衆は蜘蛛の子を散らすように逃げ始めた。
邪魔者がいなくなり、人形達の手がトランクの少年に迫る。のび太に手が届く距離まで迫っていた人形も突如向きを変え、少年へ向かっていく。
「その子に手を出すな!」
少年を守ろうと、のび太はまた空気砲の引き金を引く。
が。
カチッ カチッ
「エネルギー切れ!? そんな!」
何度指を引いても、乾いた虚しい音が鳴るだけ。のび太が構えた右腕の先で、少年はなす術なく人形達に両腕を掴まれてしまった。
人形に取り囲まれ視界から消えていく少年に向かって、空気砲をはめていない左腕を、目一杯伸ばす。引き伸ばされた時間の中で、伸ばしたところでどうにもならないその手がゆっくりと宙を掻く。
まだだ、まだ、何か出来ることがあるはずだ、今からでも、何か、分からないけど、きっと何か、
「あったっ! 『ころばし屋』!」
光明が四次元ポケットの中から取り出された。ドラえもんは続いて取り出した財布から、帰りのバス賃だった500円玉を躊躇なくころばし屋の背中にあるコイン投入口へと突っ込む。
「入れた金額分、あの黒服三人を転ばせろーーっ!」
ドラえもんが命令するが早いか、ころばし屋は右腕の銃から立て続けに空気弾を放つ。高さ20cmも無さそうな小さな丸っこい体躯相応の、小さな銃から放たれたそれは、確実に人形達の足を掬い、転ばせた。
ころばし屋。10円を入れると、指定した人物を3回転ばせるというひみつ道具である。小柄な体からは想像もつかない膂力と俊敏さ、頑丈さを併せ持ち、メカゆえにどれ程強大な相手にも臆さず立ち向かう。しかし真に恐ろしいのはその知力。標的がどこにいようと必ず見つけ出す追跡能力を備え、その場の物や地形を駆使した戦法にも長けている。設計上決して致命傷を与えることは出来ないが、あらゆる手段で敵を追い詰め確実に転ばせるその手際は、一流の暗殺者をも凌駕すると言っても過言ではないのだ。
「大丈夫!?」
人形と一緒に転倒したトランクの少年をのび太が抱え起こす。少年は恐怖で震える脚をよろめかせながらも、のび太を支えに何とか立ち上がった。
同時に人形も起き上がろうとするが、ころばし屋がすかさず空気弾を撃ち込み再び地に伏せさせた。
「早く逃げよう!」
「でも、カバンが!」
余程大事な物が入っているのだろう、少年がトランクを指し示して叫ぶ。これにドラえもんが「任せて」と反応し、トランクを四次元ポケットに突っ込んだ。
「え……ぇ……!?」
青狸の腹にトランクが吸い込まれ消えていく光景に少年は声を失う。
「大丈夫、ちゃんと返すから」
のび太は固まっている少年の背を押して急かす。しかし、ドラえもんが今度は鳴海のもとへ駆け寄ったのを見て足を止めた。
「ドラえもん!急いで!」
「どうしよう、この人達ひどいケガだ」
鳴海の周りには、十数人の通行人が倒れていた。投げ飛ばされた鳴海にぶつかって重傷を負い、逃げられなかった人達だ。中には頭から血を流している人もいる。
「放っておいたら命に関わる。誰かが残って手当てしないと」
「でも……」
のび太は振り返ってころばし屋の方を見やる。立て続けに空気弾を連射し、懸命に人形達を食い止めているが、残された時間は多くなさそうだった。
「二手に分かれるしかない。のび太くん、君はどっちの役をやる?」
「僕は……」
→少年を守って逃げる。
→残ってケガ人を助ける。
2年も放置してすみませんでした……
この後の展開は二択アンケートになっております。
結末には影響ありませんが、のび太視点を優先して書きます。
ころばし屋の性能を盛ってるのは、ころばし屋Zと戦うエピソードで滅茶苦茶かっこよかったからです。
オチまで含めて彼なりの美学を貫いている感じでいいキャラしてました。
なお、一度に十円より多く入れたらその分多く働くっていうのは完全に自己解釈です。
のび太はどちらを選ぶ?
-
→少年を守って逃げる。
-
→残ってケガ人を助ける。