ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツ   作:さくらおにぎり

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10話 鍛えし意志と知恵を持ち

 戦場は荒野。

 

『00』のセカンドシーズンに登場するイノベイド専用MS『ガラッゾ』の指先のGNビームサーベルが一閃、銀色の金属物体に"侵食"されたバンシィを両断、沈黙させる。

 

 バンシィ、撃墜。

 

 そのガラッゾとは反対側にいる、同じくイノベイド専用MS『ガッデス』がGNビームサーベルファングを放ち、バンシィ同様に"侵食"されたハイペリオンガンダムの四肢を切断させると、止めにGNヒートサーベルを胴体に突き立て、念入りにもう二回ほど突き刺して動力部を停止させる。

 

 ハイペリオンガンダム、撃墜。

 

 ファーストガンダムを思わせるトリコロールカラーに塗り替えられた『リボーンズガンダム』がGNバスターライフルを連射し、相対しているデスティニーガンダムの武装やスラスターウイングを撃ち抜いていく。

 "侵食"によって再生するデスティニーガンダムは、アロンダイトを抜き放ってリボーンズガンダムに迫る。

 リボーンズガンダムは振り抜かれたレーザー対艦刀を飛び越えると、背部の四基のGNキャノンを照射、デスティニーガンダムを焼き払った。

 

 デスティニーガンダム、撃墜。

 

 荒野には戦闘の痕が痛々しく刻まれており、かなりの激戦であったことが伺える。

 

『周囲の敵対反応の消失を確認した』

 

 ガラッゾは指先のGNビームサーベルを切る。

 

『増援の出る気配もありません』

 

 GNビームサーベルファングを呼び戻しながら、ガッデスはGNヒートサーベルを納める。

 

『ご苦労だったね、二人とも』

 

 リボーンズガンダムは、ガラッゾとガッデスの二機に向き直る。

 

『ミツキがいれば、"キバ軍団"の掃討ももう少し楽に片がついたのだけど』

 

 リボンズ・アルマークと同じ塩基配列のイノベイドダイバーは小さく溜息をつく。

 

『今は、各アライアンスに協力を呼び掛けていますから』

 

 そのミツキに似た、ガッデスのダイバー、アニュー・リターナーに近い女性型のイノベイドが苦笑する。

 

『律儀な奴だ』

 

 薄赤い長髪を揺らしながら、ガラッゾのダイバー、ブリング・スタビティと同じ容姿のイノベイドが無表情に相槌を打つ。

 

『ミツキはそう言う性格さ。だからこそ、交渉や初心者への指導にも向いている。……無駄話が過ぎたね、帰還する』

 

『『了解』』

 

 リボーンズガンダムが飛び立ち、それに続くようにガラッゾとガッデスが追従する。

 その途中で、リボーンズガンダムは通信を繋ぐ。

 

『首尾はどうだい?』

 

 その通信の相手とは、ミツキだった。

 

「ご心配なく。先程、フォース『サンダーバード』にも声をお掛けしたところです。快く引き受けてくれましたよ」

 

『そうか。それで、彼ら……スピリッツにも声を掛けるのかい?』

 

「彼らはつい先日に、カイドウ先生名物の『地獄の修練』をクリアしたようです。戦力の勘定に入れるには十分値するかと」

 

『そこは君の判断に任せるよ。僕らもすぐに戻る』

 

「了解。私も一度、フォースネストに帰還しましょう」

 

 通信はそこで切られ、リボーンズガンダム、ガラッゾ、ガッデスはサーバーゲートを潜った。

 

 

 

 

 

 

 同時刻、"侵食"された四足のモスグリーンのMAーーグランディーネが荷粒子砲を照射、周囲の建造物ごと敵対するガンプラを薙ぎ払おうとするものの、その荷粒子砲を掻い潜るように肉迫してくるガンプラがいる。

 漆黒のダブルオーガンダムーーカイドウのガンダムダブルオーカイザーだ。

 

「チエェァストオォォォォォォォォォォッ!!」

 

 振り下ろされたバスタービームソードの一閃が、グランディーネの頭部を熱したバターのように斬り抜いた。

 しかしそれだけでは止まらないのか、グランディーネは即座に斬られた部位を"侵食"させて修復していく。

 

「チッ、相手がデカイぶん致命傷を与えにくいか」

 

 対空ビーム砲からの火線を逃れつつ、カイドウはガンダムダブルオーカイザーを後退させる。

 

『カイドウ、突っ込み過ぎるな。死に急ぐと言うのなら止めはせんが、勝手に死なれては困る』

 

 一足遅れてやってきた(正確にはカイドウが単騎で突っ込んだだけだが)アストレイ ブルーフレームが、ジンのバズーカである『キャットゥス』を撃ちながらもグランディーネに接近を試みる。

 

『勢いがあるのは構わんが、あまり周りを巻き込むなよ?小童よぉ』

 

 アストレイ ブルーフレームに追従するように、ゲイレールが110mmライフルをグランディーネの対空ビーム砲に撃ち込んでいく。

 

「巻き込まれる方が悪ぃんだろうが。んでもって……」

 

 カイドウはアームレイカーを捻りこんでガンダムダブルオーカイザーを上昇させると、バスタービームソードを構え直す。

 グランディーネは上空のガンダムダブルオーカイザーに荷粒子砲を向けようとエネルギーを集束させていく。

 にも関わらず、その砲門のど真ん中へ突っ込んで行くカイドウ。

 

「殺り合うよりも先に殺っとくのが、傭兵ってモンだろうよっと!」

 

 バスタービームソードの切っ先を、グランディーネの荷粒子砲へと突き込ませた。

 鍔にまで深々と突き込んだそれを引き抜き、ガンダムダブルオーカイザーは急速離脱する。

 荷粒子砲の砲門を潰されたグランディーネは、集束させていたエネルギーが逆流し、内部から大爆発を起こして砕け散っていった。 

 

 グランディーネ、撃墜。

 

「よっしゃ、これで大体片付いたな」

 

 バスタービームソードのビーム刃を切りながら、ガンダムダブルオーカイザーはそれを肩に担ぐ。

 

『カイドウ先生。無茶するなとは言いませんが、もう少し自重していただけると助かるのですが』

 

 サイドモニターから、オペレーターを担当していた女性ダイバーがカイドウに小言をぶつけてくる。

 

「俺に自重しろってのも無茶な話ですな、『ソノザキ』先生」

 

『ハァ……ガンプラバトルと本物の戦争は違うんですよ?カイドウ先生は殺しても死にませんから構いませんが、ガンプラは壊れたら直さなくてはならないんですから……』

 

「はいはい分かってます。んじゃ、ダブルオーの整備お願いしますわ」

 

『……』

 

 この人本当に分かってるんだろうか、と言いたげな吐息がソノザキから漏れる。

 ともかく、このエリアの敵対反応は他に見られないので、カイドウ達は帰還していく。

 

 

 

 

 

 カイドウの地獄の修練をクリアしてから数日。

 

 期末考査を終えた学生達は、夏季休暇ーー夏休みが目前に迫っていた。

 

 その学生達の一人であるツルギは、ガンダムベースに訪れていた。

 

「んー……」

 

 販売ブースで、ガンプラのパッケージを手にとっては目を凝らし、そして元に戻すと言うことをかれこれ30分ほど続けている。

 

 彼にしては珍しい光景だった。

 

「おやおやこれはこれは、クサナギではないか?」

 

 ふと、聞き慣れた胡散臭い声が耳に届いたのでツルギはその方へ振り返れば、カゲトラがいた。

 

「カゲトラか」

 

「おはようクサナギ。お前がここに一人でいるとは、珍しいこともあるのだな」

 

 カゲトラの視線が、店内とツルギを見比べる。

 

「一人じゃなんかいけないのか?まぁ、いつもは誰かと一緒に来るしな」

 

 それはともかく、と間を置いてからツルギは自分が一人でここにいる理由を話す。

 

「そろそろ、マスラオ以外のガンプラも作ってみるべきかって思ったんだよ。この先、ランクが上がってくるとなると、マスラオひとつだけじゃキツいかもしれないしな」

 

 そう、ツルギは新しいガンプラを目的にここへ来ていた。

 

「しかし、そう言うことならヒメカワ嬢が喜んで飛び付いてきそうなものだが、本日はご一緒ではないのか」

 

 カゲトラはツルギに、ハルナと同行していない理由を気にした。

 

「そりゃ、ハルナにも一緒に選んでもらおうとか思ってたよ」

 

 それを訊かれると、ツルギは溜息混じりで答えた。

 

「だけど、あいつに「作りたいものを自分で選んで、それを自分の手で作って完成させることも大事だよ」って言われてな」

 

 だからこうして一人で悩んでたところだ、と苦笑するツルギ。

 

「なるほど、試練を与えられたわけだ」

 

 二つの理由に納得したらしく、カゲトラは頷いた。

 

「ところでクサナギよ。お前、射出成形機は利用しているか?」

 

「射出成形機?」

 

 聞き慣れない用語を聞いて、ツルギはオウム返しに訊き返した。

 

「GBNのミッションクリア報酬で、パーツデータを入手したことがあるだろう?それを、実際にリアルの方で形にするのだ。……聞くより実際に見た方が早いな。興味があるならついて来るがいい」

 

 カゲトラの言う通り、ツルギは射出成形機のあるファクトリーゾーンへ連れて行ってもらう。

 

 

 

 ガラスケース内に無数のランナーパーツが吊り下げられたような柱と柱の間に、複数のパイプに繋がれた大きなガシャポンマシンのような設備の前に、ツルギとカゲトラは立っていた。

 

「ダイバーギアを貸してくれ」

 

「おぅ」

 

 カゲトラに促され、ツルギは自分のダイバーギアを差し出す。

 受け取ったそれをマシンに接続、その中のメモリーからパーツデータを読み込ませる。

 複数ある項目の中から、カゲトラは『スピニングブラスター』と言うものを選択する。

 

 すると、ガタゴトと各部が稼働を開始し、数分の後に備え付けられたトレイの中に、ランナーパーツが転がってくる。

 スピニングブラスターという名称のそれは、ブレードやガトリングガンと言った複数の武器を、ギアの回転によって変形させて使用する武器らしく、複数のシリンダーを束ねたような砲身や、尖端が直角三角形のように尖ったブレードの形をしたパーツが見られる。

 

「……とまぁ、こんな感じにパーツが手に入るというわけだ」

 

「なるほど……」

 

 パーツデータの使い方を知って、ツルギは自分のダイバーギアに保存されているパーツデータを見直す。

 確かに、そこそこの数のパーツデータが揃っている。

 

「んじゃせっかくだ、とりあえず全部打ち出してみるか」

 

 ツルギはダイバーギアを入力し、パーツデータを全選択して片っ端から打ち出していく。

 

 

 

 パーツデータを全て打ち出し終え、ファクトリーゾーンを後にしてから、ツルギとカゲトラは再び販売ブースに足を運び直していた。

 

「何か気になったガンプラなどは無いのか?」

 

「気になったガンプラ、ってもなぁ……」

 

 カゲトラに訊かれるものの、ツルギの反応は芳しくない。

 ツルギ自身もガンダムの原作知識を知るために、少しずつDVDを借りて視聴しているのだが、いかんせんガンダムシリーズの数が多いので、まずはマスラオに関する作品である『00』のファーストシーズンから観始めている。

 

 その関係から、『HG00』のコーナーに目を向けているのだが、同じシリーズでもマスラオがいかに異質なものかがよく分かる。

 和風な意匠を取り入れているのはマスラオやスサノオ、そのテストベッド機である『アヘッド・サキガケ』ぐらいのものだ。

 

 ツルギは思考を一度切り替える。

 作品の枠から選ぶのではなく、自分が今のまでバトルしてきた経験から選んでみよう、と。

 そこから、ふと気になった機体が思い浮かんだ。

 

「(確かあれは、イルフート……なんとか言う奴)」

 

 以前にヤイコと出会ったミッションで遭遇した、マルーンカラーの機体。

 

「その顔、何か的を得たようだな」

 

「そんなとこだな」

 

 とは言え、どのシリーズの機体なのか分からないので、ツルギはその場から移動して、片っ端から目的のガンプラを探そうとして、

 

 すぐに見つかった。

 

 イフリート・シュナイド。

 

『UC』に登場する、ジオン残党軍MSの一機だ。

 宇宙世紀の世界観の中では、生産数の少なさから稀有であるものの名の知れた機体である『イフリート』の改修機。

 "シュナイド"と銘打たれたこのイフリートは、各部に複数取り付けられたクナイ型の武器『ヒートダート』が特徴的な機体だ。

 

「イフリート・シュナイドか。マイナーな機体を選んだな」

 

 カゲトラはツルギの隣からそのパッケージを覗き見る。

 

「こいつも格闘戦に特化しているようだが……得物が小さいな」

 

 マスラオの『ハワード』『ダリル』のような刀身の長いビームサーベルを使い慣れているツルギにとって、このような刃部の短い武器を使いこなせるかどうか不安だった。

 

「フッ、別に何もそれだけに拘る必要は無いのだぞ?」

 

 ふと、カゲトラが口を挟んだ。

 

「ん?どういうことだ?」

 

「"ガンプラは自由"と言う格言もある。もし好きじゃない部分があるのなら、そこを自分の好みにしてしまっても構わんと言うわけだ」

 

「ようするに、改造しろってか」

 

 そういうことか、とツルギはイフリート・シュナイドのパッケージを見下ろす。

 ふと、ツルギのものではない、ケータイの通話着信音が鳴りだした。

 

「おっと、同志からの定時連絡だ。では俺はここで失礼する、さらばッ!」

 

 カゲトラのケータイからだったらしく、彼は有無を言わせずその場から去った。

 それを見送ってから、ツルギは意識をイフリート・シュナイドに向け直す。

 

「しかし、こいつの改造か……」

 

 ハルナがまた手伝ってくれるかもしれないが、いつまでも誰かに手伝ってもらうばかりではいられない。

 これも、自分の手で改造すべきなのだろう。

 ツルギはイフリート・シュナイドのパッケージを見て回す。

 

 武装は、ジャイアントバズに、ヒートダートが複数のみ。

 ジャイアントバズはあくまでも拠点攻撃用の火器で、やはり本命はヒートダートを用いたインファイトと言うことだろう。

 

 ツルギ個人としては、ビームサーベルくらいの長さの近接武器、それも二刀流のそれを望んでいるところだ。

 それに近いものとしては、『イフリート改』と言う機体もあるが、それはスケールの異なる『1/100 RE』と言うものだ。

 せめてイフリート改が同じ1/144スケールであれば良かったのだが、生憎のところそれはプレミアムバンダイ品であり、一般では滅多に見られないレア物だ。

 

 しかし、とツルギは考え直す。

 

 イフリート・シュナイドのパッケージを一旦棚に戻し、自分の鞄の中を探る。

 先程、射出成形機で打ち出したパーツの数々だ。

 それらを見下ろして、「いけるか」と小さく呟いた。

 もう一度イフリート・シュナイドを手に取り、数本のガンダムマーカーも手に取って、会計に持っていく。

 

 会計を終えた後は、その足で製作ブースへ向かう。

 テーブルのひとつに腰を落ち着けて、パッケージを開封していく。

 

 

 

 

 

 ユイは自室で手荷物を揃えていた。

 今日は、マイとハルナと一緒になってショッピングへ駆り出すのだ。

 手早く準備を終えたユイは、マイの部屋のドアの前に立つと、その部屋主を呼ぶ。

 

「お姉ちゃん、まだ準備してるの?」

 

 呼び掛けても反応はなく、沈黙しか返ってこない。

 ノックをしてもやはり無反応。

 

「ちょっとお姉ちゃん?無視しないでよ、入るからね?」

 

 一言断ってから、ドアを開けて部屋に入る。

 が、肝心のマイは部屋にいなかった。

 

「あれ?」

 

 いつの間に部屋を出ていたのだろう。

 いないならいないで部屋を出ようとしたユイだが、ふとマイの勉強机に置いてある物に目を向ける。

 

 それは作りかけのガンプラだった。

 組み立てられているのは内部フレームだけで、外装などは取り付けられていない。

 ハンブラビに変わる新しいガンプラだろうかと思ったところで、

 

「はいはいどうしたのユイちゃん?出る前にトイレくらい行かせてよねぇ」

 

 マイが部屋に戻ってきていた。

 

「あ、お姉ちゃん……これ、新しいガンプラ?」

 

 ユイが振り向いて、マイとその組み立て途中のガンプラを見比べる。

 

「……んー、あぁソレ?うん、そうよ」

 

 何故か一瞬だけ間を置いてからマイは答えると、それをハンブラビのパッケージで覆ってしまう。

 

「んじゃ、ハルちゃん待ってるし、さっさと行きましょ」

 

「え?あ、う、うん……」

 

 そのまま追い出されるように、ユイは部屋を出る。

 

 何となく、不自然なものを覚えるのは何故かと思いながら。

 

 

 

 

 

「見て見てユイちゃんっ、これとかどうかな?」

 

「うん、これも可愛いと思う」

 

 ハルナとユイは行き付けのブティックで、買うかどうかはその時次第のウィンドウショッピングを楽しんでいた。

 

「それにしても、お姉ちゃん遅いわね……忘れ物したとか言ったの、けっこう前なのに」

 

 ふと、ユイはマイの消えていった方向を見て呟く。

 マイは先程に忘れ物を取りに戻ると言ってから、まだ帰って来ないのだ。

 

「まぁ、もうちょっと待とうよ。時間がないわけじゃないんだし」

 

 のんびりしてもいいし、と言いながらハルナはまた別のハンガーに手を伸ばす。

 

「あ、そうそうハルナ。この後で、あっちのスポーツ店にも寄っていい?」

 

 ユイの指す方向は、このブティックから見える範囲に点在する、スポーツ用品を扱うショップだ。

 

「うん、いいよ」

 

 特に急ぐ理由も無いので頷いて了解を示すハルナ。

 

 それからもう数分の間、ハンガーを手に取っては戻すを繰り返していると、不意にハルナがユイに別の話題を持ってきた。

 

「そう言えば、さっきのスポーツ店って聞いて思い出したんだけどね」

 

「ん?」

 

「ユイちゃんって、一年生の頃は弓道部に入ってたんだよね」

 

 それを聞いて、ピクリとユイの眉が微動した。

 

「……それが、どうかした?」

 

「二年生になってからはGBNをやるようになって、弓道部はどうしたのかなって。ツルギくんみたいに、部活しながらってわけでもないし……」

 

 ハルナはそう言いながらも、言葉を続ける内にユイの表情が不快感を覚えているそれになっていることに気付く。

 

「ごめん、訊いちゃいけないこと言ったよね?」

 

「……いいのよ。そう言うのは周りから何度も訊かれたこともあるし」

 

 慣れてるから、とユイはハルナに背を向けた。

 

「私、お姉ちゃん捜してくる。もし先に帰ってきたら、連絡入れて」

 

「あっ、ユイちゃ……」

 

 有無を言わせず、ユイはその場から駆け足で去った。

 ハルナは彼女の背を見送るしかなかった。

 

「(でも、ホントにどうしたんだろ……?)」

 

 後ろめたい何かがあるのは分からないでもなかった。

 だが、それに踏み込んで訊こうとするほど、ハルナは図々しい人間ではない。

 今は、待つことにした。

 

 

 

 

 

 忘れ物を取りに戻ることを名目に、マイは目立たない場所で電話をしていた。

 

『ほぅ、フォース・キバ軍団……確か、カイドウ氏が血眼になって追い掛けていると言う、非公式のマスダイバーフォースだったか』

 

 通話相手はカゲトラだ。

 

「あたしらがカイドウ先生のクソゲーをやってる最中に乱入してきたってとこ。ま、来たのは下っ端連中だったけど、首領が来ても結果は同じだったろうけどね」

 

『まぁそっちに関しては、カイドウ氏の『スカルフォース』とローラン氏の『サンダーバード』、それとミツキ氏の『トレイルブレイザー』のアライアンスが有志で動くだろう。……それより、本命の用件を話そう』

 

 キバ軍団のことは置いておき、カゲトラは話を進める。

 

『件の新型ブレイクデカールについてだが、あれからまた少し進展があった』

 

「詳しく」

 

『順を追って話そう。まず、今回の"新型"には複数の種類があることが分かった』

 

「複数の種類?」

 

『ひとつは従来のブレイクデカールと同じ、プログラム的に違法強化を行う"接種"するタイプ。もうひとつは……ネットワーク上で"感染"するタイプだ』

 

「感染……」

 

『前者は、何者かが配布しているモノだろう。だが、准将麾下の諜報部員が調べたデータによると、従来品と比べても拡散速度があまりにも速すぎる。だとすれば考えられるのは、後者だ』

 

「拡散速度が速すぎるっても、それと比較しても表面化している件数が少なすぎるわ。何か、根拠はあるの?」

 

『ふむ、根拠か……根拠と言えるかどうか怪しいが、イチノセ姉よ。お前、そうだな……『インフルエンザ』を発症したことはあるか?』

 

「あるけど、それが今回とどう関係して……」

 

 そこまで考えてマイはハッとなる。

 

「……"潜伏"期間」

 

『察しがいいな。恐らく、"感染"するタイプのものは"潜伏"するものだと見てもいいだろう』

 

「でも、病的なモノでもないのに潜伏する必要があるのかしら?」

 

『そこまでは分からん。だが、"接種"タイプは撃墜判定を受けると"侵食現象"を起こすのは知っているな?恐らくあれは、"発症"した状態なのだろう』

 

 彼の言う"侵食現象"とは、正体不明の金属物質が装甲の内側から突き破って生え、自己再生することのそれを指している。

 

「つまり、ガンプラのダメージ、もしくはダイバーのライフが一定を下回ると強制的に侵食現象……"発症"すると?」

 

『断言は出来ん。ただ、動力部を完全に破壊、もしくは停止させれば侵食現象は収まるらしいがな』

 

「何とも面倒なのを流行らしてくれたわねぇ……ま、対処が難しくないだけマシか」

 

 マイは嘆息をついたが、カゲトラはそれを気にすることもなく話を続ける。

 

『あぁ、それともうひとつ。……そうだな、うむ、難しい』

 

 しかし、不意にカゲトラの言葉の歯切れが悪くなる。

 マイは口を挟むことなく彼の発言を待つ。

 

『ここから先は、完全に憶測であると前提しよう』

 

 そう前置きを置いてから、カゲトラは言い放った。

 

『"感染"したガンプラは、『既に何者かの手中に収められている』のではないか?』

 

「つまり……自覚のない内に手駒にされていると?だから"潜伏"すると?憶測は憶測でも、その理由は?」

 

『最近、ディメンション各地……それも、『新型ブレイクデカールが使用されたエリアにだけ』、"異常反応"が散見されているのだが、そのどれもが「通信設備のエラー」や「処理落ちしたバグ」として、その場で片付けられている。……何かおかしいとは思わんか?』

 

「えぇおかしいわね。だって、『異常反応が見られることがそもそもおかしい』いもの」

 

 マイも気付いている。

 何故ならブレイクデカールは本来、ログデータには記録されないし、改竄された痕も残らないのだ。

 新型だから違う、とは片付けられないだろう。そもそもそんなことで片付くのであれば運営が一斉摘発を行うはずだ。

 証拠のひとつさえあれば運営は問答無用で"処分"するが、証拠さえ無ければその重い腰は上がらない。

 

 そんな運営のガード機が、あからさまな異常反応を見て、何事も無かったかのように「修復可能なエラー」で片付けるはずがないのだ。

 

『その"異常反応"も、日を追うごとに増えつつある。恐らく、先も話したフォース・キバ軍団が新型ブレイクデカールを乱用しているのだろう』

 

「虫歯黴菌(キバ軍団)のことはどうでもいいけど……なんかきな臭いわね」 

 

『すまんイチノセ姉、そろそろ切るぞ。俺はこれから、准将から与えられた任務を遂行せねばならん』

 

「はいはーい、まったねー」

 

 通話を切ってから、マイは二人の元へ戻っていく。

 

 

 

 

 

 蝉の鳴き声が耳に聞こえる音を塗り潰す。

 日本の夏の風物詩だが、人によっては暑い上にうるさいのではた迷惑なだけかもしれない。

 それは、ミハイルにとっては当て嵌まるものだった。

 

「あー、うー、暑いぃ……」

 

 形は少々古いが、造りはしっかりした一軒家。

 その縁側で、扇風機の強風を浴びながら、ミハイルはぐったりとしていた。

 日本と比べても温度差のあるロシア出身の彼にとっては、この国の暑さはもはや嫌がらせレベルだった。

 午前中でこれなのだから、日が登り終えるお昼頃にはさらに暑くなるのかと思うと、やる気を根こそぎ刈り取られるようだ。

 ただそこにいるだけで汗が止まらない。

 しかし朝からエアコンの冷房を点けるのも、気が引ける。

 常に冷房の効いているガンダムベースの工作室にでも行って、ガンダムアスタロトリオートに手を加えようかと思っても、この暑さでは外に出る気にもなれそうにない。

 

 そんな時に限って、変なのはやってくるのだ。

 

「そぉいっ!」

 

 塀の向こうからそれを飛び越えるように、伸身三回宙返り一捻り(ムーンサルト)をしながら、誰かが庭に(無断)進入してきた。

 スタッ、とやたらと格調高く着地したのは、カゲトラだった。

 

「わわっ、カ、カゲトラさんっ?」

 

 ミハイルは慌てて飛び起きて姿勢を正す。

 

「やぁおはようみ〜ちゃん!今日もいい天気だぞ!」

 

「あ、あぁえぇーと、そ、そぉですね……」

 

「何故声が小さいのだみ〜ちゃんよ!しっかりとピーマンを食べているか!?」

 

 いつもは胡散臭さ120%のこの男だが、今日に限ってムダにテンションが高い。しかも、生のピーマンをバリバリと食べながら。

 

「うむっ、さすがはピーマン!生で食べると苦くてたまらん!お子様が嫌がる理由もよく分かる!」

 

「ぱ、パプリカじゃダメですか?」

 

 何故ピーマン?と思いながらもミハイルは正直に応えた。

 

「……なるほど、み〜ちゃんはそっち派だったか。失敬、覚えておこう」

 

 それはさておき、と無駄に長くなった前置きを置いてからカゲトラは本題を持ってくる。

 

「ところでみ〜ちゃんよ、暇なら俺と付き合わんか?なぁに、ちょっと学園に行くだけだ」

 

 学園に行くだけと言うカゲトラだが、それを聞いてミハイルは苦虫を生きたまま飲み込んだような顔をした。

 

「ごめんなさいカゲトラさん、その……先生達から、「カゲトラみたいな先輩にはなるなよ」って言われてて……」

 

 ようするに、「知らない人に付いていかない」と言うことだ。

 

「ウッ、ウエェッ、オエェェェッ!?」

 

 ミハイルから"拒否"を突き出され、カゲトラは阿頼耶識システムのピアスを見たボードウィン特務三佐のごとく嘔吐するフリを見せる。

 

「……そうか、それはすまない」

 

「そ、そんな戻しそうになるほどショックを受けなくても……」

 

「仕方あるまい。例えどのような状況であっても、准将の命令を遂行するのが俺の任務だ。では、さらばッ!」

 

 するとカゲトラは、すぐさま逆再生するように伸身三回宙返り一捻り(ムーンサルト)で塀を飛び越えていった。

 

 縁側に残されたミハイルは、ぼんやりとカゲトラのいなくなった塀を見つめていた。

 

「……どっか出掛けよっかな」

 

 ミハイルは立ち上がって、出掛ける準備を始める。

 

 

 

 

 

 夏休みで中でも、生徒会室は慌ただしさの最中にあった。

 

「会長、特別教室の使用許可と、部長会で提出された書類の送検が終わりました」

 

 サヤは生徒会長に業務完了を報告する。

 生徒会の中では書記の役目を一任されているサヤだが、その業務内容は通常の書記がこなすべき仕事量を遥かに上回っている。

 

「えぇ、分かりました。それで、次は各運動部の練習試合に関する日程表のまとめをお願いします」

 

「はい」

 

 生徒会長からの次の指示に不満を見せることなく、即座に与えられた業務に取り掛かるサヤ。

 

「ごめんなさいツバキくん。あなたにばかり面倒ごとを押し付けるようで、大変申し訳ないのだけど……」

 

「お気になさらず。大変ではありますけど、苦ではないので」

 

 そう言いながら、サヤは涼しい顔で業務をこなす。

 しかし、その涼しい顔は一瞬で曇ることになる。

 

「かっ、会長!緊急事態ですッ!」

 

 ドアが勢いよく開かれると、風紀委員の腕章を付けた男子生徒がケータイを片手に駆け込んでくる。

 

「こ、校内に『カゲトラらしき人物』を発見しました!」

 

 それを聞いた生徒会長はガタッと椅子から立ち上がった。

 

「なっ!?この忙しい時に……」

 

「現在、逃走中のターゲットを追跡中、至急応援を要請するとのこと!」

 

 生徒会室内が、先程までとは全く別の意味でさらに慌ただしくなるが、生徒会長の対応も早い。

 

「すぐに増援を向かわせます。ターゲットの逃走経路の封鎖を第一に……」

 

「いやそれじゃ間に合わない、俺が行きます」

 

 瞬時にサヤは手掛けていた書類業務を終わらせると、報告に来た風紀委員と共に生徒会室を飛び出した。

 

「ターゲットは現在、中庭を通過して……」

 

「ブラフだな、俺達は"先回り"するぞ」

 

 サヤは風紀委員からの現状報告を切り捨てると、中庭とは全く逆方向である体育館裏へと足を走らせる。

 

 体育館裏に到着すると、サヤの予想通りの光景が見えていた。

 

「ほぅ?風紀委員はまとめて囮に釣られたと思ったら、貴様が来たか……ツバキ氏」

 

 カゲトラ本人が、そこにいたのだ。

 足元に鞄を置いており、何かの作業をしているようだった。

 

「それにしても、いつから生徒会書記殿は風紀委員の手伝いをするほど暇になった?」

 

「前置きはそこまでにしろカゲトラ。これ以上校内に問題を増やすんじゃない」

 

 相変わらず胡散臭い笑みを浮かべるカゲトラに、サヤは一歩踏み込む。

 その間にも、随伴してきた風紀委員はカゲトラの現在地を通達している。

 

「すまんが、これも世のため人のため……そして、准将のためだ」

 

 不意に、表から複数の足音が迫って来る。

 そして、メガホンによるくぐもった声が響く。

 

『貴様は既に完全に包囲されている……大人しく投降しろ!』

 

 体育館裏の前後には、それぞれ4、5人ほどの風紀委員が待ち構えている。

 カゲトラの左右には体育館の壁と、20mほどの高さのフェンス。

 おまけに真っ昼間だと言うのにサーチライトまで照らされる。

 文字通り、袋のネズミと言うわけだ。

 

「ふむ、ツバキ氏のおかげで対応が早かったか」

 

 まぁいい、と呟いてからカゲトラは足元にあった鞄を踏み付けた。

 瞬間、ポンッと言う破裂音と共に、鞄から煙が撒き散らされた。

 

「ぐっ!?」

 

 サヤも含めた、その場にいた全員が思わず手で目を覆う。

 どうやら鞄の中に煙幕弾か何かを仕込んでいたらしい。

 

「逃がすかッ」

 

 いち早く視界を取り戻したサヤは煙幕の中に突っ込むが、そこにはもうカゲトラの姿は無かった。

 

「ひゃーっはっはっはっ、さらばだツバキ・サヤ!そして無能なる風紀委員の駄犬達よ!」

 

 そして一体いつの間にこの包囲を抜けたのか、サヤの背後からカゲトラの声が届く。

 

「ハァ……頼むからこれ以上俺の仕事を増やさないでくれ……」

 

 サヤは脱力したように片手で頭を抱えるしかなかった。

 きっと今日の昼食も、栄養ドリンクと胃薬のお世話になるだろう。

 

「この夏休みは、地ご……」

 

「使いじゃねえぇぇぇぇぇェェェェェ!!!!!」

 

「呼んでないですよ、カイドウ先生」

 

 "地獄"と言う単語に反応しただけですっ飛んでくるリュウガを見て、サヤはもう一度深く溜息をついた。

 仕事しろよ、カイドウ先生。

 

 

 

 

 人気のない路地裏。

 

「ぶっ……」

 

 顔面を殴り飛ばされたチンピラは、鼻血を垂らしながらその場で倒れた。

 彼の周りには同じような末路を辿ることになった人間が、死屍累々と重なっている。

 そのチンピラを殴り倒したのは、

 

「気合が足りねぇな。調子に乗ってるだけのチンピラが雁首揃えたって、喧嘩のやり甲斐もねぇよ」

 

 もちろんこの女、ヤイコである。

 

 この街で『悪喰のカラスノ』と呼ばれた奴がいると聞き、徒党を組んで喧嘩をけしかけたのは良いが、あまりにも相手が悪すぎた。

 釘バットも鉄パイプもバタフライナイフも、ヤイコの前ではオモチャ同然の代物。

 むしろそれがあろうと無かろうと、結果は同じだったろう。

 全員気絶させたのを見てから、ヤイコはその場から立ち去る。

 

 路地裏から出てきたところで、そいつは待ち構えていたかのように腕組みして壁に背中を預けていた。

 

「ご機嫌ようカラスノ。先程の喧嘩開始から全員気絶させるまで、1分と22秒のタイムが出た。ベストタイム更新だぞ」

 

 カゲトラである。その懐にはストップウォッチがある。

 

「カゲトラ、テメェ傍から見てたってのか」

 

「いざとなれば手助けが必要かと思ったが、その必要も無かったな」

 

「ハっ、誰の助けだっていらねぇよ。寄って集るしか喧嘩の出来ねぇチンピラどもへの制裁なんてのは、アタシ一人でちょうどいいのさ」

 

 ヤイコは自分の背後を指しながら鼻で笑った。

 

「フッ、それもそうか。ところでカラスノよ、ついさっきそこのコンビニに強盗が……」

 

 カゲトラがそこまで言った時には、もうヤイコは既にそのコンビニに入店していた。

 それを見送ってから、カゲトラは立ち去った。

 

「オイゴルァ人様のカネぇ盗もうなんざいい度胸じゃねぇかこのサルがァ!」

 

「ぐべっ、げびっ、おぼっ!?」

 

「テメーみてぇなのがいるから日本は世界からナメられんだよ分かってんのかこのブタがァ!!」

 

「ふぶげらっ、ひでぶっ、ごぶしっ!?」

 

「分かったんならとっととパンツ一丁になって店員さんに「ごめんなさい」って土下座でもしろやこの虫ケラがァ!!!」

 

「たっ、助けっ、ゲブォァッ」

 

 ヤイコが強盗犯を相手に馬乗りになっては、そのまま罵倒しながら顔面を殴りまくっている。

 

 その光景を目の当たりにしていた車椅子の女性ーーミスズはすかさずケータイで110番通報していた。

 

「…………えぇ、そうです。強盗が入って、来たのですが……とにかくよく分からない状況で……逮捕の相手を間違えないようにだけ、お願いします」

 

 もはやどっちが強盗なのか分からない光景が、監視カメラに記録されていたとかされていなかったとか……

 

 

 

 

 

 ところ変わって、GBNのディメンション内。

 

 ノエルのエーデルνガンダムが率いるフォース・ロイヤルナイツの中に、不自然にザクⅠが混じっていた。

 

 そのザクⅠのダイバーとは、カゲトラである。

 

 エーデルνガンダムが振るったビームレイピアの一閃が、紫色のオーラを纏ったブルーディスティニー2号機を斬り裂いて爆散させた。

 リヒターのアレックスや同じくフォースメンバーも、同じようにマスダイバーのガンプラを撃破していく。

 辺りの敵対反応が消失したのを見て、ノエルはカゲトラと通信を繋ぐ。

 

「確認されているマスダイバー機は、これで全部ですの?」

 

「うむ。また増える可能性もゼロでないが、ひとまずの安全は確保出来たと言ったところだな」

 

 カゲトラのザクⅠがモノアイをぐるりと見回すが、マスダイバー機らしい反応は他に見られない。

 

「感謝致します、カゲトラ。あなたの情報が無ければ、マスダイバーの奇襲を受け、もっと大きな被害が出ていたかもしれませんわ」

 

 ノエルはモニター越しにカゲトラにお辞儀する。

 

「礼など過分な言葉だ、ノエル嬢。俺はただ、准将の命令に従っただけに過ぎんのだ」

 

 何故カゲトラがフォース・ロイヤルナイツの元で活動しているのかと言うと、彼がノエル達にマスダイバーに関する情報を提供したからだ。

 それはあくまでも予測の範疇を出ないものだが、カゲトラのその予測は見事に的中、奇襲を考えていたマスダイバー達を逆に奇襲した、と言うことになった。

 

「しかし、どうやって何千万人といるダイバーの中から、彼らが僕達を襲撃してくると予測出来たんだい?」

 

 リヒターは怪訝そうな顔をしながらカゲトラに問い掛ける。

 それもそうだ、と他のフォースメンバー達も気にしている。

 

「すまんが、それにはお答えすることが出来ない。企業秘密なのでな」

 

 しかしカゲトラはそれを明かそうとしない。

 それはともかくとして、フォース・ロイヤルナイツは余計な被害を出さずに事なきを得た。

 

「では、俺はこの辺で失礼するとしよう」

 

 不意にカゲトラのザクⅠが、ノエル達とは逆方向に機体を向けて手を振る。

 

「えぇ。あなたも、お気をつけて」

 

 ノエルのエーデルνガンダムも軽く手を振り返す。

 

「おっとそうだ、ノエル嬢よ」

 

 そのまま立ち去ろうとしたカゲトラのザクⅠだが、ふと思い出したように頭部だけ背後に向ける。

 

「今、クサナ……ツルギが新しいガンプラを作っている。近々、またフォースバトルを申し込むのも一興だぞ」

 

 それだけ告げてから「さらば」の一言と共に、今度こそカゲトラはその場から立ち去った。

 

 

 

 

 

 同じくディメンション内。

 フルメタルシェパードは、エルを名乗るダイバーと行動を共にしていた。

 

「なんと、君はガンプラを持っていないのか?」

 

「うん」

 

「まぁそれならそれで構わんよ。出撃の際は、ゲストモードで私のトールギスに乗るといい。なに、戦闘は全て私のMDが終わらせてくれるさ」

 

「ありがとう」

 

 これからミッションを受けようとしていたフルメタルシェパードだったが、エルはガンプラを持たないダイバーであったのだ。

 フレンド登録を交換しても、ダイバーネームとランクがFであること以外に何も表記されていないし、フォースに加入するためのランクも足りていない。

 とは言え、そんなことはフルメタルシェパードにとっては瑣末ごとに過ぎない。

 エルにはバトルを行ってもらう必要がないからだ。

 フルメタルシェパード一人いれば、残りは全てMDが相手を始末してくれる。

 彼にとってのエルは、同志であると言うことだけで十分過ぎる。

 自分の行いを肯定してくれる。

 たったそれだけで、フルメタルシェパードはこれ以上にない優越感に満たされるからだ。

 

「さて、それでは早速フォースバトルの募集を掛けるとしよう……」

 

 

 

 フルメタルシェパードとエルの二人を、コンソールパネル越しに遠目から見ている者がいた。

 カゲトラである。

 

「(あのワンワン……確かクサナギ達が以前に……いや、それよりもあのエルと言うダイバー……)」

 

 意気揚々とフォースバトルの募集を掛けているフルメタルシェパードよりも、その傍らにいる純白のダイバーに目を向けていた。

 

「("彼女"に似ている……いやしかし、アレは全く偶然の産物……だが、何故あのワンワンに味方する……?)」

 

 何食わぬ顔のまま、カゲトラは思案する。

 

「……准将への報告を最優先とするか」

 

 コンソールパネルを閉じて、カゲトラはログアウトした。

 

 

 

 

 

 ところ戻り、ガンダムベース。

 買う物を買ったツルギは、製作ブースでそれを作り始め、たった今完成させた。

 

「……やろうと思えば、出来るもんだな」

 

 ツルギは、テーブルの上にその完成されたガンプラを立て置いた。

 

 イフリート・シュナイド本来のカラーリングではなく、マスラオを思わせる赤色と黒色のツートーンカラー。

 ショルダーアーマーに外付けされていたヒートダートは取り外され、代わりにジオニック社製のMSを思わせるスパイクが取り付けられ、頭部のブレードアンテナも一回り大型のものに付け替えられている。

 スパイクとブレードアンテナは、ミッション報酬で入手したものだ。

 両サイドスカートに携えているのは、グフのヒートサーベル、それが二振り。これもまた、ミッション報酬で入手したもの。

 二振りのヒートサーベルとショルダースパイクから、『イフリート改』を思わせつつも、カラーリングはマスラオのものに近いものと言う、ツルギオリジナルのイフリートだ。

 

「さて、機体名はどうするか……」

 

 うーむ、とツルギはイフリートを前に腕を組む。

 悩むこと数分、しかしこれと言った名前が思い浮かばない。

 

「あ、ツルギくんだ」

 

 ふと聞き慣れた声がしたと思えば、ハルナとユイ、それとミハイルが製作ブースに入ってきていた。

 

「ハルナ、それにユイとミー……ミハイルか。……って言うかなんだ。ミハイルはともかく、結局ハルナもユイもここに来てるんじゃねぇか」

 

 ツルギはハルナを睨む。

 ハルナは元々、ユイとマイとショッピングに出掛けると言っていたので、ツルギはここに一人で来ることになったのだ。

 

「まぁまぁ、細かいことは気にしなーい気にしなーい」

 

 それより、とハルナは、ツルギの手元にあるものに目を向けた。

 

「ツルギくんも、ちゃんと作れるようになったんだね」

 

「まぁ、な。まだ機体名が決まってないんだが」

 

 今それを考えているところだ、とツルギは頷く。

 ツルギとハルナが会話している側で、ユイとミハイルがテーブルに座って自分の作業に取り掛かっていた。

 ふと、ツルギは周りを見まわすが、マイの姿が見当たらない。

 

「そう言えば、マイはどうしたんだ?」

 

「お姉ちゃんなら、疲れたとか言って先に帰っちゃったわ」

 

 珍しくもないけど、ユイは自分のガンプラであるガンダムヘビーバスターから目を切らずに答えた。

 

「そうか。それで、ユイとミハイルも、ガンプラの改造か?」

 

「そんなとこです。まぁ、ボクの場合は暑さから逃れて来たって言うのも理由ですけど……」

 

 ミハイルは苦笑しつつも、ガンダムアスタロトリオートをケースから取り出している。

 ハルナはケータイを取り出して、何か調べているようだ。

 

「…………あっ、ねぇツルギくん。これとかどうかな?」

 

 何か思い当たったものが見つかったらしく、ケータイの画面をツルギに見せてくる。

 

「どうしたハルナ?」

 

「これこれっ、これとかピッタリじゃないかな?」

 

 ハルナが指すのは、カタカナの羅列の中のひとつ。

 

「エスパーダ……イタリア語で"剣"って意味か」

 

「ね?ツルギくんの名前にもピッタリ!」

 

「あのな、いくら俺の名前が"つるぎ"でも、それとこれとは別だろうが……まぁいい」

 

 一呼吸の後に、ツルギは命名した。

 

「こいつの名前は、『イフリート・エスパーダ』だ」

 

 剣を与えられた炎神(イフリート)は、それに頷くかのように、モノアイの光沢を反射した。

 

「それじゃ、早速慣らし運転に行く?」

 

 ハルナはGBNにダイブしてミッションを受けに行こうと誘うが、ツルギは「ちょっと待ってくれ」と一言告げる。

 

「ずっと製作に集中して疲れたんでな……後で全員で行こうぜ」

 

 自身の一休みも兼ねて、ガンプラに手を掛けているユイとミハイルを待つ、と言うのがツルギの意見だ。

 

「そっか。ユイちゃんとミハイルくんも、それでいいかな?」

 

 ハルナは一応二人の都合も訊いてみて、ユイは「大丈夫よ」と答え、ミハイルも同様に頷く。

 異論は無しとして、ツルギは一度製作ブースを出て、自販機で飲み物を買いに行く。

 

 迷わずにペットボトルのお茶を選び、それを手に取る。

 

「おやおやほうほう、いつの間にか皆さんお揃いではないかね?」

 

 すると、ダイブルームの方から胡散臭い男ーーカゲトラがやって来た。

 

「おぅカゲトラ。同士からの定時連絡とやらはどうだった?」

 

「うむ。准将への報告まで万事滞りなく、といったところだな」

 

「そうか。それでだ、この後で新しいガンプラの慣らし運転に行くんだが、お前も行くか?」

 

 カゲトラの話は半分聞き流しつつ、ツルギはカゲトラも慣らし運転に誘うが、そのカゲトラは申し訳なさそうな顔をする。それすらも胡散臭いのだが。

 

「むぅ、クサナギからのお誘いは嬉しいのだが、俺はこの後で、また別の用件があってな。すまんが今回はパスだ」

 

 ではさらばっ、とカゲトラは身を翻してガンダムベースを後にしていった。

 

「相変わらず忙しねぇ奴だな……」

 

 カゲトラを見送ってから、ツルギはお茶を片手に製作ブースに戻った。

 

 ツルギが戻ってくると、いつの間にかサヤも製作ブースに来ていた。

 

「あれ、サヤ先輩?こんにちは」

 

「あぁ、ツルギか……」

 

 しかし、そのサヤはどこか憔悴しており、テーブルに突っ伏している。

 どうしたのかとツルギは訊ねようとするが、それにはハルナが答えてくれた。

 

「生徒会の仕事で疲れたんだって」

 

 それを聞いて、ツルギは思い切り眉をしかめた。

 

「……まさかカゲトラの奴、定時連絡とか言いながら、また学園で何かやらかしたんじゃないだろうな?」

 

「あぁその通りだよ……」

 

 おかげで今日も胃薬のお世話だよ……、と顔を上げるサヤだが、顔色は何だかよろしくない。

 

「それは、その……お疲れ様です」

 

「そう言ってくれるだけでもありがたい……」

 

 深いため息をつきながら、サヤは鞄から嵩張らない程度の大きさのガンプラのパッケージを取り出した。

 

「サヤ先輩も新しいガンプラですか?」

 

 ミーシャは横からパッケージを覗く。

 

「いや、正確にはAGE-2の改造だ。新しいウェアに換装しようと思ってね」

 

 サヤがパッケージを開けると、中からサーフェイサーを吹いたグレー一色のパーツが複数の袋に入って納められている。

 

「ふんふん、脚部スラスターの形を見て、Z系のパーツと見ました!」

 

 ハルナが一目見ただけで、何のガンプラのパーツを使っているのかを当ててみせる。

 

「おっ、よく分かったな?」

 

 サヤの反応を見ても、どうやら正解らしい。

 

「ん?でもサヤ先輩、エアレイドの脚ってエアマスターがベースですよね。Z系の脚を組み込むなら、前より全高が高くなって、バランス悪くなっちゃいません?」

 

 エアレイドウェアの脚部は、同じ可変機であるガンダムエアマスターのモノをベースにされているが、そのガンダムエアマスターの全高は17m前半ほど。

 対する今回のZ系のMSの全高は19m後半(機体によっては20mにもなる)もあり、脚裏から腰部までの高さが大きく差が出る。

 そうなると相対バランスがエアレイドウェアと比べても、多少煩雑になる恐れがあるのではないかと、ハルナは懸念する。

 

「まぁ、多少エアレイドよりもバランスが悪くなるのは避けられないが、その辺りは俺の操縦で何とかするさ」

 

 基本的な操縦は変わらないしな、とサヤは自信ありげに頷く。

 

「……なんか、みんなこれから作り始めるって感じだな」

 

 もう少しのんびりするか、とツルギはペットボトルのキャップを開けた。

 

 

 

 

 

【次回予告】

 

 ツルギ「次回のガンダムビルドダイバーズ・スピリッツは、本編とは別の特別編……この『ハーメルン』で活動されていた、響鬼ぎゅねいさん(pixivへのログインもされてます)の作品『新模型戦記ガンプラガールズ』の設定を元に再構築されたキャラ達とのコラボ小説だ!」

 

 ハルナ「わたしとユイちゃん、それとマイちゃんの三人でミッションを受けたのはいいんだけど、バグの影響で移動先のサーバーに閉じ込められちゃった!」

 

 ユイ「どうしたものかと悩んでいた私達三人の前に、彼女達が来てくれたのはいいんだけど……」

 

 マイ「あー、めんどくさ……こっちだって色んな意味で忙しいんだから巻き込まないでよねぇ」

 

 ハルナ「次回、ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツ特別編

 

『切られた時の中で』」

 

 ツルギ「……何、男子禁制だと!?主人公無しでいいのかおいっ!」

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