ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツ   作:さくらおにぎり

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11話 月下に雷鳥が舞った

 夏休み真っ只中。

 一ヶ月と十日ほど授業が休みになるこの期間、ある者は悠々と過ごし、またある者は忙しなく過ごす。

 フォース・スピリッツの多くは、どちらかと言えば前者に当たる。

 盆休みに実家に帰る予定はあるが、基本的にはいつもの休日とそう変わらない。

 

 ミーシャに関しては家庭背景が少し特殊なため、事実上、彼に実家と言う概念はない。

 

 ヤイコの場合は、普段の立ち振る舞いや服装からは信じ難いものがあるのだが、実家に神社を持つ由緒ある厳しい巫女の家庭であるため、長期休暇の半分近くはそこで暮らすらしく、催事で忙しい冬休みに至っては終業式のその日から始業式の前日まで帰ってこないと言う。

 

 ヤイコが長期間不在であることを除けば、いつもと大差ない夏休みの一日。

 予定が空いているフォース・スピリッツの面々は、フォースネストで集まっていた。

 ツルギとユイは自分達のバトルのリプレイを見ながら意見を交わし合い、ミーシャとサヤは大型モニターの前でフォース専用のミッションを選んでおり、マイは備え付けの簡易ソファーに寝転がって、GBN内のアクセサリーショップのカタログ情報を見ている。

 

 そんな中、ハルナはバンッと音を立ててテーブルを叩き、こう叫んだ。

 

「新しいフォースネストが欲しいッ!!」

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 数秒の間沈黙が漂ってから、ツルギが最初に口を開いた。

 

「……いきなりだな」

 

 この幼馴染みに何が起きたのかとツルギは眉を顰める。

 

「いきなりだけどいきなりじゃないもんっ!大体っ、ツルギくんはいいのかな!?」

 

「だから何を……いや、フォースネストのことか?」

 

 ついさっき、ハルナが大声で「新しいフォースネストが欲しいッ!」と叫んだところだ、そのことを言っているのかとツルギは判断して言葉を選び直す。

 

「そう!そのとーりだよッ!」

 

 ハルナは「殴って悪いか」と言う台詞のブライト・ノアのように、下半身はツルギに向いたまま上半身を斜め後ろに曲げて腕を広げる。

 

「こーんな質素で簡素で要素も酸素も二酸化炭素もないフォースネストで、いいわけないでしょぉ!?」

 

「……別に俺は困ってないが、ハルナはそれじゃ嫌だって言うんだな」

 

 GBNに酸素も二酸化炭素も無いのは当然だろう、と言うツッコミは入れないことにするツルギ。

 今のハルナの前でそんな茶化しを入れようものなら、即座にPK(プレイヤーキル)されるに違いない。

 

「ご理解いただけたのなら何より!ユイちゃんもそう思うでしょッ!?」

 

 ハルナはその激情の矛先をユイにも向ける。

 そのユイは「巻き込まれた」と言いたげな顔をしながら頷いた。

 

「まぁ、それはそうだけど……って言うか、何でそんなに怒ってるのよ。新しいフォースネストが欲しいってだけなら、普通に言ってくれればいいのに」

 

「ストレス溜まってるのっ!リアルで大声出したら近所迷惑だけど、ここなら問題なーしッ!」

 

「……現在進行形で私達に迷惑かけてるって言っちゃダメかしら」

 

 いくらストレスが溜まっているとは言え、友達に当たり散らすのは如何なものか。

 ユイのそんな言葉など聞こえていないのか、ハルナは今度はその矛先をミーシャにまで向けた。

 

「ミーシャくんっ!」

 

「はっ、はいはははハイィッ!?」

 

 ハルナの剣幕に、ミーシャは思わず声を裏返しながらその場で正座する。

 そんなミーシャにずずいっと迫り、声のトーンを1オクターブ落として、

 

「新しいフォースネスト、欲しくない?」

 

 と静かに(脅し)問い掛ける。その瞳に闇のオーラを纏いながら。

 

「ほっ、欲しいですッ、ハイっ!」

 

 ぶんぶんと首を縦に振(らされ)るミーシャ。

 その反応を見て「よろしい」と頷くハルナ。

 次はそれをサヤに向けようとするが、彼は既に行動に出ていた。

 大型モニターを操作、それはミツキへ向けた通信だ。

 

『はい、こちらフォース・トレイルブレイザー、ミツキです』

 

 数秒のコール音の後に、モニターに見慣れた薄紫色の髪が映る。ミツキも今は自分のフォースネストにいるのか、どこかのテラスハウスを思わせるような場所にいる。

 

『おや、サヤではありませんか。どうしましたか?』

 

 後ろの方で妖しく目を光らせているハルナには気を向けていないらしい。

 挨拶もそこそこに、サヤは変に捻らずに単刀直入で用件を告げる。

 

「こんにちはミツキ。突然で悪いんだが、空きのフォースネストを探してくれないか?値段は多少張ってもいい、なるべく良い物件をお願いしたい」

 

『分かりました。では、また後ほどご連絡しますので。失礼します』

 

 一礼してから、ミツキは通信を切る。

 それを確認してから、サヤはハルナに向き直る。

 

「……と言うわけだ。これで少しは落ち着いてくれるか?」

 

「落ち着きましたッ」

 

 ハルナはテーブルの椅子に体育座りになって「私落ち着いてます」アピールを見せつける。

 どこが落ち着いているように見えるのかは分からないが、大人しくしている分には構わない。

 

「んー、どっちがいいかなぁ……」

 

 マイだけはハルナのフォースネストの話題など興味の欠片も見せず、カタログ情報を見ているだけ。

 

 それから、今日はどのミッションを受けようかと選んでいると、フォースネストに向けた連絡が届く。

 ミツキからの返答だろう、とサヤは大型モニターを切り換えて応答する。

 

『お待たせしました。一般向けのフォースネストで、現在最も高価なものを検索しました。こちらをどうぞ』

 

 そう言うと、ミツキはデータを送信してくる。

 切り換わった画面には、周辺風景の画像や物件情報が表示されている。

 サヤは物件情報を読み上げてみる。

 

「っと……『美しい紅葉の舞う、温泉付きのフォースネスト。カタパルトデッキやメンテナンスハンガーも完備、増設も可能。フォースネスト内はデフォルトで完全和風仕様、建て替えにも対応』……なるほど、確かにこれは値を張りそうだな」

 

 しかし、フォース・スピリッツからすれば値段のことは大した問題ではない。

 以前に(ヤイコがフォースに加入してすぐの頃)、JPTトラストと言うフォースとのバトルによって、法外も法外な大金ーー数千万単位のビルドコインーーを巻き上げたこともあって、土地のひとつやふたつを買ったところで痛くないのだ。

 

「お、温泉付きフォースネスト……ッ!?」

 

 懐事情のことはともかく、それを横から覗いていたハルナは妖しく光らせていた目をキラキラと輝かせている。

 

「美しい紅葉を眺めつつ、心地好い時間を心ゆくまで……はァ……ッ」

 

 うっとりと(若干の)色気を醸し出しつつ、しかし顔はこの上なくだらしなく、妄想と言う名の温泉に入り浸っているハルナは一旦放置した方が良いだろう。

 ツルギは物件情報の続きを読む。

 

「場所は、イースト・エリアの山岳地帯の中か。徒歩じゃ時間はかかるだろうが……」

 

「基本はガンプラに乗って移動するから、問題ないわね」

 

 山道であるため、徒歩では険しくそれなりの距離を歩くことになりそうだが、ガンプラに搭乗して飛行すればそれは問題ではない。

 カタパルトデッキやメンテナンスハンガーも完備されているので、他所のガンプラの受け入れや発進も可能だ。

 フォースネストのエリア内は武装の使用にロックが掛けられるので、誤射による山火事の心配もない。

 徒歩での移動を考慮しない前提として、多少の初期費用はかかることを除けばほぼノーリスクでこのフォースネストは使用可能だ。

 

『如何ですか?』

 

 物件情報の画面の端に、再びミツキの顔が映る。 

 ハルナとユイ、ミーシャは「このフォースネストが良い」と傾いていたが、ツルギとサヤだけは少しだけ訝しんでいた。マイに至っては全く聞いていないので、成り行きに任せるつもりだろう。

 

「一般向けでこれだけ良質な物件が残っている、と言うのは引っ掛かるな。何か他に条件があるんじゃないか?」

 

 サヤは目を細めた。

「上手い話には裏がある」とまでは疑っていないが、ミツキはまだ何かを伏せているように感じたのだ。

 それを問われるのを待っていたかのように、ミツキは苦笑した。

 

『実はこのフォースネスト、あなた方の他にも買い取りたいというフォースがいるのです』

 

「どういうことだ?先約があったんなら、どうして俺達にこのフォースネストを紹介した?」

 

 やはりそう上手くはないかと察していたツルギは、画面に顔を寄せてミツキの真意を問い質す。

 

『このフォースネストのオーナーが買い手を決めても良いのですが、オーナーとしてはそれは面白くないそうです。であれば、このGBNでの答えはひとつです』

 

 やや間を置いてから、ツルギがその真意を読み取った。

 

「……なるほどな。利権が欲しいなら、自分で勝ち取れってか」

 

『ご明察。相手方は、今週の日曜日の午後にフォースバトルをご所望ですが、そちらはよろしいでしょうか?』

 

 一部の人間を除けば、夏休み真っ最中のフォース・スピリッツの予定は常にフリーだ。

 特に問題もなく、フォースネストの利権を賭けたバトルは、今週日曜日の午後になる取り決めとなった。

 

 日曜日までには、まだ少し日にちに余裕があった。

 

 ミツキとの通話を終えたフォース・スピリッツは、直ちに作戦会議を開いた。

 ヤイコが不在であり、マイのやる気が無さそうなのはいつものことなので、参戦するメンバーは、フォース・ロイヤルナイツの時と同じ、ツルギ、ハルナ、ユイ、ミーシャ、サヤの五人だ。

 ミツキからは、相手がどこのフォースなのかは明かされておらず、相手フォースも同様にスピリッツが相手とは知らない。

 つまり当日、それもバトルが開始されるまで対策などは取れないため、ぶっつけ本番と言うわけだ。

 作戦会議に掛ける時間は短く、残りの時間はガンプラの調整や連携の確認に当てられる。

 

 

 

 

 

 そして、バトル当日。

 

 指定時間よりも少しだけ早めに到着出来る程度の時間帯に、参戦するメンバー五人は集合し、出撃するために格納庫へ向かう。

 

 格納庫には手前から、ツルギの新たなガンプラであるイフリート・エスパーダ、姫武者頑駄無、左腕に新たな武装を装備したガンダムヘビーバスター、同じく新装備を携えるガンダムアスタロトリオートが順に並び、最奥に立つサヤのガンプラが最も様変わりしている。

 ベースはガンダムAGE-2のままだが、Z系を思わせるレッグと、肩には以前よりも枚数は四基から二基に減ったものの大型化したーー1.5アイズガンダムのモノがベースだろうーーウイングユニットが大きな変化だ。

 

「未完成のまま引っ張り出してましたけど、やっと完成したんですね」

 

 ミーシャはサヤの隣に立ちながら、新たな姿となったガンダムAGE-2を見上げる。

 

「あぁ。これが俺の新しいAGE-2ーー『ヴィントフリューゲル』だ」

 

 ヴィントフリューゲルーー独語で"風翼"を意味する四肢を与えられたガンダムAGE-2は、来たるべき嵐を待ち臨むかのように、静かに佇む。

 

 カタパルトに乗せられ、フォース・スピリッツのガンプラは随時発進していく。

 

「ツルギ、イフリート・エスパーダ、参るッ!」

 

「ハルナ、姫武者頑駄無、行きまーす!」

 

「ユイ、ガンダムヘビーバスター、出るわ!」

 

「ミーシャ、ガンダムアスタロトリオート、行きます!」

 

「サヤ、ガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲル、出撃します!」

 

 出撃完了。

 GBN上での今の時間帯は夜に当たるらしく、暗蒼色の星空に五つの機影が流れ行く。

 今宵は満月らしく、視界の斜め上には大きな黄金色の球体が地上を見下ろしている。

 ツルギはコンソールパネルを呼び出しつつ、ミツキから提供された目的地へのガイドマップを開く。

 

「んーと、イースト・エリアの山岳地帯……こっちだな」

 

 ディメンション上で示される東方向に進路を向けて、ツルギ達フォース・スピリッツは目的地へ向かう。

 

 目下には深い森林が広がっており、この中には鬱蒼とした木々と険しい山道が広がっているのだろう。

 しかし悪いばかりでもない、川の上流には大きな滝が流れており、それが月明かりを反射して幻想的な輝きを放っている。

 ガンプラによる飛行だけでなく、徒歩の移動による森林浴をしても良いかもしれないが、彼らはここに観光に来たのではない。

 

 バトルをしに来たのだ。

 

 予定ポイントは、この渓流の麓に当たるエリア。

 ガイドマップに示されているガイドビーコンに従い、ツルギ達はそこへ降下していく。

 着陸成功。

 ハッチを開けてガンプラから降りると、ミツキが出迎えてくれる。

 

「こんにちはツルギ、お待ちしておりましたよ」

 

「おぅミツキ、こんちは。それで、相手のフォースはまだってところか?」

 

 イフリート・エスパーダから降りたツルギは、辺りを見回してみるが、それらしい姿は見えない。

 

「先程、これよりこちらに向かうと連絡を聞きました。じきに到着し……、おや」

 

 ふとミツキが明後日の方向を見やると、遠くから風切り音や、それに混じるようにバーニアの噴射される推進音が、夜風に乗って聞こえてくる。

 ミツキの見やる方向へ目を凝らしてみると、点にしか見えないソレが徐々に大きく見えてくる。

 

「相手フォースの、お出ましか……」

 

 

 最初に到着したのは、白色と黒色を基調としたカラーリング、胸部にクリアグリーンのレンズが埋め込まれ、バックパックには一対の長大な砲身と数枚のバインダーが一体化したようなユニットを背負ったガンダムだ。

 

『ガンダムX』に登場する後半主役ガンダム『ガンダムDX』だ。

 

 その機体の到着を皮切りに、一歩遅れた後続が四つほどやって来る。

 ジムスナイパーⅡ、グフ・カスタム、デルタプラス、I.W.S.P.装備のストライクEが次々に着陸し、最初にガンダムDXからダイバーが降りてくる。

 

 長い黒髪を後頭部で纏めた、大人びた男性ダイバーだ。

 他のメンバーも同様に社会人、ないしは大学生で、いずれもツルギ達中高生より歳上のようだ。

 フォースリーダーだろう、ガンダムDXのダイバーがツルギに一歩前に歩み出る。

 

「君達が我々の相手か……」

 

 アメジストの双貌が、ツルギを見定めるかのように細められる。

 

「私はローラン。フォース『サンダーバード』のリーダーを努めさせてもらっている」

 

 対するツルギは、見せない程度に緊張感を滾らせた。

 

 このローランと言うダイバー、紛れもない強者であると、己の感覚で悟ったのだ。

 武道の試合でも、相手の目の前に立てば、自分にとって脅威であるかそうでないかを感じ取ることが出来る。

 今回の相手は、確実に前者に当たるダイバーだ。

 

「俺はツルギです。フォース・スピリッツのリーダー……ではありませんが、代表を努めさせております」

 

 目上だろう人物に対する、弁えた言葉遣いで一礼するツルギ。

 

「ふむ、礼儀正しくて結構。最近のGBNは無礼千万な輩が多いものだが、君達はその類で無いようで何よりだ」

 

 ツルギの礼儀正しい様を見て、ローランは感心するように頷く。

 

「今回、このフォースネストを賭けたバトルではあるが、我々とて手を抜くつもりは毛頭ない。……良いバトルをしよう」

 

「よろしくお願いします」

 

 無論、ツルギも手を抜くつもりはない。

 手を抜きたくても、そうさせてくれる相手では無いのだから。

 ツルギとローラン、双方のフォース代表が互いに握手を交わし、その手が離れたのを見計らって、ミツキが動く。

 

「それでは、今回のバトルは、スタンダードルールの五対五の殲滅戦です。先に相手側のガンプラを全滅させた方のフォースの勝利になります。説明は以上になりますが、何かご質問等はありますでしょうか?』

 

 質問等が無いことを確認してから、ミツキは最後に締め括る。

 

『それでは、五分間のインターバルの後に、バトル開始の発光信号を打ち上げます。皆さんのご健闘をお祈り致します』

 

 インターバルが開始され、各々のコンソールパネルに300秒のカウントダウンが開始される。

 

 

 

 

 

 それぞれのガンプラに搭乗し直したツルギ達フォース・スピリッツの面々は、山道の中腹にある切り立った崖に機体を寄せている。

 

「よし、俺は問題ない。みんなは大丈夫だな?」

 

 イフリート・エスパーダの起動状態を確認しつつ、ツルギは他四人と通信を交わす。

 

 ハルナは「オッケーだよ」と、ユイは「いつでも行けるわ」と、ミーシャは「ボクも大丈夫です」とそれぞれ調子良好の応答を確認する。

 だが、サヤの反応だけがまだだった。

 

「サヤ先輩、聞こえてますか?」

 

「……あぁ、すまない。少し考え事をしていた」

 

 ハルナがもう一声かけて、ようやくサヤは反応した。

 

「五年前に、ローランさんと同じ名前のマスダイバーと戦ったことがある。だから、同一人物ではないかとな……」

 

「あの人が、マスダイバーだと?」

 

 ユイの声が敵対視するような低いものになるが、サヤは首を横に振った。

 

「『有志連合』の戦い以降、マスダイバーの数は激減したんだ。それに、元マスダイバーが改心して一般ダイバーに更生した話もよく聞く。だから、仮にあのローランさんが元マスダイバーだったとしても、今は改心していると信じたい」

 

 今なおマスダイバーである可能性も、再びマスダイバーになっている可能性もあるが、サヤは敢えて口にしなかった。

 

「でもそれは、戦ってみないと分からないですよね」

 

 ミーシャが口を挟む。

 不正ツールを使用して、ガンプラに表面的な変化が見えない限り、マスダイバーかそうでないかの判別は付かない。

 それを確かめるには、鎬を削り合うしかないのだ。

 

「相手が顔見知りだか何だか知りませんが、あれこれ言う前に、俺達ダイバーは"コレ"でしょう」

 

 ツルギはそう言いながら、イフリート・エスパーダの左手にヒートサーベルを抜刀、それを軽く振るって見せる。

 バトルだと言うのなら相手が誰であろうと関係ないことだと、声にせずに語る。

 

 その右手には、何故かイフリート本来の装備ではない120mmのザクマシンガンが握られている。

 

「……ってかハルナ、このマシンガン置いて行っていいか?正直いらな……」

 

「ダーメ、何回も言ってるでしょ。ツルギくんも射撃が出来るようにならなきゃダメだって」

 

 そう、このザクマシンガンは、ハルナがツルギに無理矢理装備させるように言い付けたものだ。

 マスラオと同じような感覚でこのイフリート・エスパーダを使おうと考えていたツルギだったが、ハルナに「格闘ばっかりじゃダメだよ。ちゃんと射撃も出来るようにならなきゃ」と咎められ、渋々持たされたのだ。

 

「わーかってる、ちゃんと全弾使い切る努力はする」

 

 溜息をつきながらも、ツルギはイフリート・エスパーダのヒートサーベルをサイドスカートに収め、ザクマシンガンを構え直す。

 

 ふと、カウントダウンがゼロになったのか、先程までミツキがいた所に発光信号が打ち上げられた。

 

 バトルスタートだ。

 サヤも意識を入れ替えたらしく、他四人に指示を飛ばす。

 

「よし、基本はフォーメーション通り動くが、相手にはツインサテライトキャノンのあるDXがいる。月からのマイクロウェーブが見えたら、全力で回避運動。さもなければ即死だと思ってくれ」

 

「「「「了解」」」」

 

 サヤの注意を聞き、四人の頷きに緊張感が張られる。

 

「……行くぞ!」

 

 彼の号令により、フォース・スピリッツは発進していく。

 中腹の岩陰を降りて、木々に囲まれた河を下る。

 

 発進して数十秒、そろそろ戦闘エリアの中央にまで踏み込んで来る頃、不意にユイの視線が斜め上に向けられた。

 

 満月から伸びる、蒼白い一筋の光。

 間違いない、サテライトシステムを使用するための電力である、ハイパーマイクロウェーブのガイドレーザーだ。

 

「散開してっ、サテライトキャノンが来るっ!」

 

 ユイの声に全員が反応し、ツルギとユイが右方向へ、ハルナとミーシャ、サヤが左方向へ分かれて急速離脱する。

 

 一泊を置いて、この渓流の木々を薙ぎ払いながら、蒼白の光の柱、その一対が横切った。

 

 相手のリーダー、ローランのガンプラであるガンダムDXのメインであり、最強の武装であるツインサテライトキャノンのそれだ。

 

 原作設定ではコロニーレーザーを一撃で破壊し、なおかつそれを連射可能と言うとてつもない性能を誇る。

 しかしGBNでのサテライトシステム搭載型のガンプラは、他のガンプラと比べても制約が多く、エネルギー配分も難しいため、単に最強であるとは言い切れない。

 

 ツインサテライトキャノンが横切った部分の木々が焼き払われ、その部分だけがポッカリと空けられる。

 その空白部分に、グフ・カスタムとストライクEが切り込み、その後方からジムスナイパーⅡとデルタプラスが追従してくる。

 サヤは瞬時に判断し、後輩達に指示を飛ばす。

 

「ツルギとユイ、ハルナとミーシャ、ツーマンセルで対応してくれ!俺はDXを押さえる!」

 

 するとガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルは変形ーーフライヤーフォームへと変形し、ツインサテライトキャノンが放たれた方向へと急行する。

 ツルギそれを見送りつつも、接近してくるストライクEと、その場でビームスナイパーライフルを構えて狙撃しようとするジムスナイパーⅡに向き直る。

 

「サヤ先輩、一人で行くつもりか?」

 

「私達も早く片付けて、先輩の援護に向かいましょう」

 

 ユイのガンダムヘビーバスターはダブルガトリングガンを速射して、ジムスナイパーⅡの自由を封じていく。

 

「そうだな。よし、やるか!」

 

 ツルギはアームレイカーを押し出してイフリート・エスパーダを加速させ、ザクマシンガンを連射しながらストライクEを牽制する。

 

『随分舐められたものだな、簡単に抜けさせると思うなよ!』

 

 ストライクEはザクマシンガンの銃弾を躱し、コンバインシールドのガトリング砲を撃ち返しつつも、右手に対艦刀を抜刀、イフリート・エスパーダへ迫る。

 向こうは接近戦をお望みらしいが、それはツルギも同じことだ。

 ハルナには少し申し訳なく思いつつも、イフリート・エスパーダはザクマシンガンを捨てて、ヒートサーベルを両手に抜き放って、ストライクEの対艦刀と打ち付け合う。

 

 

 

 

 

 グフ・カスタムのヒートサーベルが、ミーシャのガンダムアスタロトリオートへ振り下ろされるが、それは肉厚の斧刃によって弾き返される。

 ガンダムアスタロトリオートが握るのは、アニメ本編では使用されなかった武器である、グシオンアックスだ。

 

 長柄の先端に、斧刃とモーニングスターが一体化したそれは、ガンダムアスタロトリオートのパワーによって軽々と振るわれ、グフ・カスタムは飛び下がって避ける。

 まともに打ち合えば、砕かれるのはヒートサーベルの方だ。

 グフ・カスタムもそれを感じ取っているようで、真正面からの白兵戦を避け、ガトリングシールドで牽制する。

 降り掛かる銃弾を前にして、ガンダムアスタロトリオートはグシオンアックスで急所を守りつつも、加速してグフ・カスタムを追い詰める。

 

「うおぉぉぉぉぉッ!!」

 

 機体各部を銃弾に叩かれ、コクピットが震動する中でもミーシャは怯まず、間合いに踏み込んだ所でグシオンアックスを下から上へと振り上げる。

 グフ・カスタムは咄嗟にガトリングシールドで身を守るが、ガンダムアスタロトリオートの重い一撃を前に吹き飛ばされ、ガトリングもろともシールドを吹き飛ばされる。

 

『やってくれるな。しかしまだ負けんぞ!』

 

 ガトリングシールドを失ったグフ・カスタムだが、受け身を取りつつも着地する。

 上空から、ウェイブライダー形態のデルタプラスが、シールド内に仕込まれたグレネードランチャーを発射、ガンダムアスタロトリオートに襲いかかるものの、それは姫武者頑駄無の雷振火音によって撃ち落とされる。

 

 

 

 

 

 フライヤーフォームのガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルは、ツインサテライトキャノンの放たれた方向へ向かい、ガンダムDXを捕捉する。

 

「見つけた……」

 

 フライヤーフォームからMS形態に変形すると、その場でホバリングする。

 対するローランのガンダムDXも、ガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルに気付いたらしく、そのツインアイを光らせて視界に捉える。

 

『そのAGE-2……見覚えがあると思ったが、あの時の君か』

 

 上空にいるガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルにバスターライフルを向ける。

 

「俺を覚えていると言うことは、やはりあなたは、あのローランさんでしたか」

 

『このような形で再び相まみえるとは、奇縁だな。しかし、私は頭に"元"が付くとはいえマスダイバー……その存在は、許し難いものか?』

 

 ガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルもまた、ハイパードッズライフルを向け返す。

 

「マスダイバーの中には、ガンプラが好きでもない者も大勢いた。でも、あなたはそうではないはず。例えブレイクデカールに手を染めていたとしても、ガンプラが好きだと言うその心に嘘偽りはなかった。それを証明出来るガンプラが、そのDXのはずです。であれば、敵意は必要ありません」

 

 だからこそ、とサヤはアームレイカーを握り締める。

 

「俺はあなたを倒す。それだけです」

 

『……なるほど、答えは単純明快と言うわけか。ならば、かかって来るがいい!』

 

 その言葉を口火に、ガンダムDXからバスターライフルが放たれる。

 サヤのガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルも撃たれるばかりではない、ウイングバインダーを翻して急降下すると、そのまま流れるようにガンダムDXへ迫りつつ、ウイングの先端を前方へ向け、高出力のDODS効果を帯びたビームーー『フリューゲルカノン』を放った。

 

 ヴィントフリューゲルウェアを構成するこのウイングバインダーは、単なる揚力翼ではない。

 これ自体が大型のドッズキャノンであり、その設計思想には『ダブルバレットの派生型』と言うコンセプトがある。

 ダブルバレットのように切り離して二丁拳銃のようには扱えないが、砲身そのものが揚力翼であるため、単独飛行、及びフライヤーフォーム時の加速に一役買っている。

 

 ガンダムDXはその場から跳躍してフリューゲルカノンをやり過ごすと、肩のマシンキャノンと胴体部の砲口ーーブレストランチャーをばらまく。

 ガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルは瞬時にフライヤーフォームへ急速変形、放たれる銃弾の群れを掻い潜るように機動し、ガンダムDXへ接近を試みる。

 

「あなたはメガランチャーのような重火器を好むダイバーだったはず!ならば、それを二度も撃たせるわけにはいかないっ!」

 

 間合いに入ったと判断し、ガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルはMS形態へと変形すると同時に、両手にビームサーベルを抜き放つ。

 

「ふっ……五年前ならいざ知らず、今の私は重火器に頼るばかりではないのだよ!」

 

 ローランのガンダムDXも、バスターライフルを納めると右手にハイパービームソードを抜き、ガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルの倍はある太さのビーム刃が発振される。

 

 激突。

 

 ビームサーベルとハイパービームソードが干渉し合い、スパークが夜闇を眩く照らす。

 しかし、一般的なビームサーベルよりも高い出力で発振されるハイパービームソードが、徐々にガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルのビームサーベルを押し返す。

 

「さすがに力比べでは勝てないか……しかしっ!」

 

 サヤは勢い良くアームレイカーを引き下げてガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルを後退させて、ハイパービームソードを空振りさせる。

 

「これならどうだっ!」

 

 フリューゲルカノンの砲口から長大なビーム刃を発振させ、砲身ごと回転させるように振るうガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲル。

 ダブルバレットの派生型だけあって、砲口からビーム刃を発振させての格闘攻撃も可能だ。

 手持ちのビームサーベルよりも長いリーチかつ高い出力を持つそれを、ガンダムDXの左側から薙ぐ。

 

『なんのっ!』

 

 ローランのガンダムDXは左手にもハイパービームソードを抜き、それでフリューゲルカノンのビームソードを押し止める。

 これでどうにか互角に鍔迫り合いに持ち込める程度だが、サヤはそれを楽観視しない。

 ガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルはこれも弾いて一度ビームソードを切り、真上に跳躍、ガンダムDXの斜め上から左右のフリューゲルカノンを発射する。

 左右から迫る二筋のビームの内、ローランは右のビームを回避でやり過ごし、左からのビームはシールドであるディフェンスプレートで受けるが、元より貫通力に優れたDODS効果を帯びたビームだ、厳選されたルナ・チタニウム合金によって構成された堅牢なディフェンスプレートを、金槌で釘を指すように喰い破る。

 

『ぬっ、甘くは見ていなかったがっ』

 

 ローランは咄嗟に左腕とディフェンスプレートとを繋ぐ接続を切り離し、盾ごと左腕を失うことを避ける。

 

「ここで畳み掛ける!」

 

 サヤはアームレイカーを一気に押し上げてガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルを加速させながら急降下、ガンダムDXとの距離を詰める。

 

 

 

 

 

 ヒートサーベルと対艦刀が打ち合い、ダブルガトリングガンとプルパップマシンガンが交錯する。

 ツルギのイフリート・エスパーダは対艦刀を弾き返し、飛び下がって距離を置く。

 距離が開けば、ストライクEからのガトリング砲に加えて、I.W.S.P.の肩越しからのレールガンと単装砲の弾丸が襲いかかってくる。

 ジグザグにホバー機動しつつ、銃弾と砲弾の連撃をやり過ごしていくイフリート・エスパーダ。

 銃撃と砲撃の間を掻い潜り、再び接近戦を仕掛けるツルギだが、即座にストライクEのコンバインシールドのビームブーメランが投擲され、真っ直ぐにイフリート・エスパーダへ迫る。

 

「はッ!」

 

 ヒートサーベルでビームブーメランを弾き返しーー、その目前には対艦刀を降りかざすストライクEがいた。

 

『もらったっ!』

 

 イフリート・エスパーダと対艦刀の切っ先との距離はほぼゼロ、回避は不可能だ。

 が、ツルギはその瞬間が"見えている"上に、それにはどう対処するかが既に脳裏に浮かび上がっている。

 すると、イフリート・エスパーダは突如ヒートサーベルを手放しーーその場で前転した。

 ちょうど、ストライクEの左斜め下を潜り抜けるように。

 

『なんっ……!?』

 

 空振った対艦刀が地面に叩き付けられ、ストライクEに大きな隙が生まれてしまう。

 

 以前までのツルギならば、対艦刀の一撃を見切れずに撃墜されていただろう。

 しかしツルギを含むフォース・スピリッツの面々は、カイドウから与えられた課題『地獄の修練』をクリアしたのだ。

 ただのクソゲームリゲーだと思っていたそれは、気付かぬ内にツルギ達の反応速度と判断力を恐るべき速度で高めている。

 今のツルギならば、GBN内に限った話ではあるものの、目の前で銃を撃たれても銃弾を掴み取ることが出来るレベルだ。

 

 前転から流れるように起き上がったイフリート・エスパーダは、ストライクEのコンバインシールドを持った左腕を掴み取って後ろに回り込み、

 

「よっ、と!」

 

 後ろからストライクEの左膝の裏を踏み付けるように蹴った。

 結果、左腕を掴み上げられたまま左膝からバランスを崩したストライクEは、派手に転び倒れながら左肩の関節を引きちぎられた。

 人間の関節を外す柔術と、原理は同じだ。

 曲がらない方向へ関節を締め上げながら勢い良く倒してやれば、関節は自重に耐え切れずに壊れる。

 

『うおわぁっ!?』

 

 うつ伏せに倒れるストライクE。

 頭部をイフリート・エスパーダに踏み付けられれば、もうそこから先はツルギの独壇場だ。

 次は右腕を背中側へ締め上げられて同じように関節を破壊され、I.W.S.P.は殴り壊され、最後に河へ蹴り飛ばされてしまう。

 まともな推力を失ったストライクEは河に放り込まれ、そのまま流されて戦場からどんどん離されていく。

 このバトルが終わった後で、救助してもらわなければ文字通り藻屑と化すだろう。

 

 ツルギはそれ以上ストライクEの相手をするのを止めて、ユイが相手をしているジムスナイパーⅡの方を見やる。

 ガンダムヘビーバスターの弾幕の前には、得意の狙撃を仕掛けられず、散発的に反撃しているばかりだ。

 先程手放したヒートサーベル(一応ザクマシンガンも)を拾い直し、ユイの援護へ向かう。

 

 

 

 

 

 ガンダムヘビーバスターの左脚のホーミングミサイルが一斉発射、それら十数発のミサイルは木々にぶつかりながらもジムスナイパーⅡ目掛けて追尾する。

 ジムスナイパーⅡの方も、誘導ミサイルへの対処を熟知しているのか、機体を下がらせつ間合いを図り、ホーミングミサイルが一箇所に集まって来るのを見てから、頭部のバルカンを速射、まとめてホーミングミサイルを破壊してしまう。

 ミサイルの爆初によって炎煙が立ち昇る。

 

『……む、カインの反応が消えた?』

 

 ジムスナイパーⅡのダイバーは、ストライクEの反応が消失したのを見やる。

 撃墜されたと言う表示は無かった。

 何をどうされたのかは分からないが、ストライクEが相手をしていたイフリート・エスパーダが、遠くからこちらに接近してくる辺り、"してやられた"らしい。

 

『スナイパーに二対一は辛いな……こちらエルダー、そちらに合流する』

 

 ジムスナイパーⅡはその場から離脱し、グフ・カスタムとデルタプラスが交戦している方向へ向かう。

 

 しかし、彼はここで誤った選択肢を選んでしまっていた。

 

 

 

 

 

 イフリート・エスパーダのモノアイが、ジムスナイパーⅡがこの場から離脱しようとする光景を捉える。

 

「仲間の所に逃げるつもりか?」

 

 ならば追撃をとアームレイカーを押し込もうとするが、

 

「待ってツルギ」

 

 それはユイに制止を掛けられる。

 すると、ガンダムヘビーバスターはその場にしっかりと立つと、左腕を伸ばし、装備しているソレを展開する。

 

 小型のシールドのように見えるソレから、一対のバインダーが展開、さらにバインダーとバインダーの間にビームが発振される。

 

『アルクフレッシュ』ーー仏語で、"弓矢"と名付けられたその武装は、文字通りガンプラが弦ーーこの場合は指向性の粒子線を引き絞り、シールドに内蔵されたジェネレーターで粒子線の尖端部にビームサーベルを集束、弦をマニュピレーターから離すことで発射する。

『ライジングガンダム』のビームボウから着想を得たそれを、ガンダムヘビーバスターに装備させたのだ。

 

 ガンダムヘビーバスターの右マニュピレーターが弦を掴み、引き絞る。

 ユイの視界には、背を向けたジムスナイパーⅡ。

 

「ーーーーー狙い射つ!」

 

 引き絞られた弦が解かれ、光速の矢が砲口から放たれた。

 

『ぬっ、アラー……ッ?』

 

 ジムスナイパーⅡがアラートを警戒したせいで、咄嗟に回避行動を取ったためか、アルクフレッシュの矢はコクピットへの直撃コースを外れ、代わりに左肩を貫通し、そのまま森林の木々を貫きながら遠くへ消えていく。

 

「………………外した、まだまだ改良が必要ね」

 

 プロトタイプとは言え、本来ならあれで即死を狙うべきなのに、とユイは唇を噛みながら、アルクフレッシュを折り畳んで再び小型のシールドとする。

 

「引き留めたのはそれを使うためだったのか?だったら、追うぞ」

 

 ツルギはガンダムヘビーバスターのアルクフレッシュを見やる。

 確かに相手の後ろから追い掛けている中に、そんな物を撃ち込まれては堪ったものではない。

 だが即死には至らなったものの、片腕を破壊したことで敵戦力の低下には繋がった。

 片腕を失ったジムスナイパーⅡを追うため、イフリート・エスパーダは加速し、その後をガンダムヘビーバスターも追う。

 

 

 

 

 

 姫武者頑駄無は、雷振火音をデルタプラス目掛けて放つものの、可変機で空中機動性の高いデルタプラスは宙を舞うようにして雷振火音の銃弾をやり過ごしつつも、反撃にビームライフルを撃ち返してくる。

 

「むー、さすがに可変機相手に地上戦はキッツいなぁっ……」

 

 火糸薙刀による接近戦を仕掛けようにも、相手は上空にいる上に機動性も上回っているのだ、接近しても即座に振り払われるのは目に見えている。

 姫武者頑駄無も被弾こそしていないが、相手にも致命打を与えられていない。

 デルタプラスからの攻撃を凌ぎつつ、僚機確認の情報を開けば、イフリート・エスパーダとガンダムヘビーバスターがこちらに向かって来ているが、それよりも先に片腕を失ったジムスナイパーⅡが近づいて来る。

 ストライクEはどうしたかは分からないが、もう少し凌げば数的有利に立ち回れる。

 

 

 

 

 

 もう一方のミーシャのガンダムアスタロトリオートは、グフ・カスタムに果敢に挑み掛かっており、グシオンアックスを巧みに振るって互角を張っていた。

 

「せいッ!」

 

 薙ぎ払うグシオンアックスの一閃を潜るようにやり過ごすグフ・カスタム。

 

『隙ありぃッ!』

 

 ガラ空きの胴体部へヒートサーベルを突き立てようとするグフ・カスタム。

 だが、ヒートサーベルの切っ先がガンダムアスタロトリオートの胸部装甲に突き刺さる直前に、ミーシャは行動に出ていた。

 空振った状態から流れるように、グシオンアックスの後ろの柄を突き出し、それはグフ・カスタムのモノアイへ衝突、カメラレンズが突き破られる。

 

『ぬぉっ、誘い込まれたかっ!?』

 

 メインカメラを潰されたグフ・カスタムは攻撃を中断、その場から飛び下がるものの、ミーシャは動きの鈍ったそれを見逃さない。

 

「そこだっ!」

 

 ガンダムアスタロトリオートはその場でグシオンアックスを振るい、尖端部の鉄球がチェーンと共に放たれ、飛び下がろうとしていたグフ・カスタムの左脚に巻き付けられる。

 

『しまっ……』

 

 左脚の自由を奪われたグフ・カスタムは、ガンダムアスタロトリオートに強引に引っ張り上げられる。

 引っ張られたグフ・カスタムに、ガンダムアスタロトリオートの左ウェポンラックから伸びた、滑腔砲が300mmの口を開いて待っていた。

 放たれた引き金と共に、グフ・カスタムは撃ち抜かれた。

 

 グフ・カスタム、撃墜。

 

『クソッ、スコットまでやられたか!エルダーッ、隊長のいる位置まで下がるぞっ、乗れるか!?』

 

 デルタプラスは急速旋回しつつ、ジムスナイパーⅡと通信を繋ぐ。

 

『こっちは左腕持ってかれてるんだ、迎えに来てくれ』

 

『了解っ……』

 

 すると、ジムスナイパーⅡは飛び上がり、その下に回り込むようにデルタプラスが移動、ジムスナイパーⅡを乗せて再度加速、ローランのいる方向まで後退していく。

 

『何なんだあいつらっ、ほんとに結成して間もないルーキーフォースなのかよ!?』

 

『まぁ慌てなさんな、隊長と連携して押し返せばいい』

 

 後退していくデルタプラスとジムスナイパーⅡを見つつ、ツルギとユイ、ハルナとミーシャが合流する。

 

「急げっ、サヤ先輩が孤立するぞ!』

 

 ツルギのイフリート・エスパーダが突出して敵機を追い、そのすぐそばを姫武者頑駄無が追従、足の速くないガンダムヘビーバスターとガンダムアスタロトリオートはやや遅れながらもその後を追う。

 

 

 

 

 

 ガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルと、ガンダムDX。

 両者の拮抗は、やがて水辺近くにまで到達しつつある。

 ガンダムDXは長距離砲故に白兵戦では取り回しの効かないツインサテライトキャノンを封印し、バスターライフルとハイパービームソードを主軸に立ち回り、対するガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルはフリューゲルカノンによる高火力を手札に伏せつつ、ハイパードッズライフルとビームサーベルを使い分けて攻め立てる。

 ローランはアームレイカーを引き下げて距離を置きつつ、僚機の状態を確認する。

 グフ・カスタムは撃墜、ストライクEは戦線から離れつつあり、ジムスナイパーⅡはデルタプラスに乗ってこの近くにまで後退しつつある。

 

『押されているか……しかし、まだ負けは認められんな!』

 

 バスターライフルとヘッドバルカンを連射してガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルを牽制する。

 それを回避するため、サヤはアームレイカーを引きつつ捻り込み、ビームと銃弾を往なしていく。

 

『総員対ショック姿勢!急げ!』

 

 サヤがそう動くと読んでいたか、ローランはまだ生存しているメンバー達にそう告げる。

 ガンダムDXも後方に飛び下がり、その場でホバリングしつつサテライトシステムを起動、上空の月からのガイドレーザーがガンダムDXの胸部に発振される。

 

「撃たせるかッ!」

 

 ガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルはハイパードッズライフルとフリューゲルカノンを同時に向け、三筋のビームがガンダムDXを貫けと放たれる。

 

 サヤが引き金を引くと同時のことだった。

 

 ガイドレーザーを受信しているガンダムDXは、その場から退避した。

 

 すると、タイムラグによって遅れて発振されてきたハイパーマイクロウェーブは、ガンダムDXにではなく、その足元ーー湖に降り注がれた。

 

 結果、サテライトキャノンを放つための膨大な超高エネルギーは、湖の水中で分子振動を起こしーー水分を一瞬にして臨界させ、想像を絶する水蒸気爆発を巻き起こした。

 

「なっ、ぁ……ッ!?」

 

 水蒸気爆発はDODS効果を帯びたビームすらかき消し、そのままガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルを呑み込んだ。

 

 

 

 

 

 追撃対象であるデルタプラスとジムスナイパーⅡが突然その場で身を伏せたのを見て、先頭にいたツルギは疑問を覚えーーその疑問はすぐに警鐘となった。

 

「……!?」

 

 直後、何かが大爆発を起こしたのか、轟音と共に木々が吹き飛んでくるのを目の当たりにする。

 

「ヤバイ伏せろぉっ!!」

 

 イフリート・エスパーダは、近くにいる姫武者頑駄無の頭を引っ捕まえると、そのまま地面に押し付け、自らもヒートサーベルを地面に突き立てて片膝を着く。

 しかし、姫武者頑駄無のウェイトが軽いせいで、イフリート・エスパーダの手を離れ、吹き飛んでしまう。

 

「ハルナ……っ」

 

 ツルギの叫びを聞き、ガンダムアスタロトリオートとガンダムヘビーバスターもその場でうつ伏せになるように倒れる。

 

 

 

 

 

 どれだけの範囲が水蒸気爆発の影響を受けたのかは分からないが、少なくとも今ので誰も撃墜されていないことは判明した。

 

 ローランのガンダムDXは、爆発源のほぼ中心近くにいたため、機体各部が損傷し、満足に戦闘を行えるような状態ではなかった。

 武装に関しては、バスターライフルは吹き飛んでしまったが、納めているもう片方のハイパービームソードは生きているし、バルカン各種も問題なく使用できるようだ。

 

『……エルダー、クード、応答出来るか?』

 

 ローランはデルタプラスとジムスナイパーⅡに通信を繋ぐ。

 

『……こちらクード。想定はしてましたけど、えっらい爆発ですね、コレ』

 

『こちらエルダー。まだ戦えるんで、すぐ合流する』

 

 僚機二人からの応答を確認し、ローランは安堵に一息つく。

 すると、水蒸気の霧中からすぐに二機が現れ、ガンダムDXの左右を守るように着く。

 水蒸気の霧が辺りを覆い尽くし、視界は最悪、さらに高温と湿度によって熱源も役に立たない。

 この状況で、彼らはフォース・スピリッツはどう仕掛けてくるか。

 

 沈黙が流れること、ほんの数秒。

 

 不意に霧を切り裂くかのように、高エネルギーの熱線が放たれてきた。

 

『ぬっ!?』

 

『へ?』

 

 それはデルタプラスの胴体を直撃、コクピットにいたダイバーは何が起きたのか分からないまま撃墜された。

 

 デルタプラス、撃墜。

 

『この状況でこの正確な射撃……バスターの連結ライフルか』

 

 ローランはすぐさま事態を読み取る。

 今の攻撃は、ガンダムヘビーバスターの超高インパルス長射程狙撃ライフルによるものだ。

 直後、ビームの後を追ってきたかのように、一振りのヒートサーベルを両手で構えたイフリート・エスパーダが突撃してくる。

 

『隊長、自分が……』

 

『お前は下がれエルダー!片腕でイフリートと戦うつもりか!?』

 

 前に出ようとするジムスナイパーⅡを下がらせるように言いつけ、ローラン自らがツルギのイフリート・エスパーダと対峙する。

 

 そのイフリート・エスパーダに追従するように、ガンダムアスタロトリオートがグシオンアックスを構えながらジムスナイパーⅡの方へ回り込んでくる。

 

『やるしかないか』

 

 ジムスナイパーⅡはビームスナイパーライフルを捨てて、ビームサーベルを抜き放ち、バルカンで牽制するも、その程度でガンダムアスタロトリオートは止まらない。

 

「でえぇぃッ!」

 

 ガンダムアスタロトリオートはグシオンアックスのモーニングスターのチェーンを伸ばしながら薙ぎ払う。

 遠心力も加わった、リーチの長い一撃だ。

 

『……』

 

 だが、ジムスナイパーⅡは腰を落として身構えると、瞬時にビームサーベルを一閃、モーニングスターのチェーンを斬り裂いた。

 チェーンの斬られた鉄球が草原の上を転がることに気を向けず、ミーシャは振り抜いた姿勢のままガンダムアスタロトリオートを加速させ、肩からぶつけるようにタックルを仕掛ける。

 

『おっと……』

 

 ガンダムアスタロトリオートに突き飛ばされたジムスナイパーⅡは、背部のランドセルから地面に叩き付けられる。

 

「これでぇッ!」

 

 振り下ろされる斧刃。

 

『……隊長、申し訳ない』

 

 その一言を最後に、ジムスナイパーⅡの胴体をグシオンアックスが砕き潰した。

 

 ジムスナイパーⅡ、撃墜。 

 

 

 

 

 

「ここで決める!」

 

 ツルギはアームレイカーを力強く押し出し、イフリート・エスパーダをさらに加速させてガンダムDXへ肉迫する。

 対するガンダムDXももう片方のハイパービームソードを抜刀、振り抜かれるヒートサーベルと衝突する。

 

「(パワーは向こうの方が上か!)」

 

 一合打ち合っただけで分かる、ガンダムDXの膂力。

 であれば真っ向からの力比べなどする必要もない。

 ハイパービームソードを弾きながら一歩踏み下がり、即座に上段の構えを取りつつヒートサーベルを振るう。

 

「面ッ!」

 

 叩き付けるような、それでいて貫くような一閃に、ガンダムDXはハイパービームソードを寝かせて防ぐ。

 

「面ッ!面ッ!」

 

 もう一撃、二撃とヒートサーベルを打ち付けるイフリート・エスパーダ。

 一点を狙った攻撃でさえ、ハイパービームソードは破れない。

 だが、ツルギとしてはそれを破れなくとも良い。

 

 本命は三撃目の面打ちーー

 

「胴ッ!」

 

 と見せ掛けた胴打ち。

 面打ちの姿勢から瞬時にヒートサーベルの位置を入れ替え、ガンダムDXの胴体を両断せんと振り抜く。

 

『そう来たかッ』

 

 しかしローランも粘り、ガンダムDXは右腕のラジエータープレートを納めた腕部でヒートサーベルを受けるが、赤熱化された刀刃は徐々に喰い込み破ってくる。

 ガンダムDXはその間合いでヘッドバルカン、マシンキャノン、ブレストランチャーを一斉掃射、イフリート・エスパーダの装甲が見る内に蜂の巣と化していく。

 

「ぐぬっ、おぉぉぉぉぉッ……!」

 

 銃弾がバイタルバートを痛めつけ、コクピット内に起きる激しい震動にツルギは歯を食い縛って堪える。

 コンソールモニターは、イフリート・エスパーダの損傷が広がっていることを煩く伝えてくるが、それを確認している余裕はない。

 ヒートサーベルが、ガンダムDXの右腕の半分近くまで喰い込んだ時、ツルギは叫ぶ。

 

「今だっ、サヤ先輩ッ!!」

 

『何っ……?』

 

 接触通信で、ローランの耳にもその叫びは届く。

 直後、上方向からロックオン反応が響く。

 

 ローランが見上げたその真上に、ガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルが、フリューゲルカノンの砲口を向けている。

 

『まずいっ……』

 

 その場から退避しようにも、イフリート・エスパーダのヒートサーベルが食い込んでしまっており、簡単には抜け出せない。

 

「俺達の勝ちです、ローランさん」

 

 その言葉と共に、サヤはトリガーを引いた。

 

 放たれた一対の閃光は、ガンダムDXの頭部から貫いた。

 

『……見事だ』

 

 ガンダムDX、撃墜。

 

 その直後に、発光信号が上げられる。

 

『そこまで!フォース・サンダーバード、全機行動不能。勝利フォース、スピリッツです』

 

 発光信号を上げたらしいミツキの広域通信が全員に届く。

 

 

 

 その一方で、

 

「うわーんっ、誰でもいいから早く助けてよー!」

 

『隊長ー、俺いつまでここにいりゃいいんですかぁ?』

 

 水蒸気爆発によって吹き飛んでしまった姫武者頑駄無と、偶然そこにいたストライクEは、お互い動けないので河の下流で仲良くどんぶらこと流されていた。

 

 

 

 

 

 姫武者頑駄無とストライクEの回収を完了したところで、各々ガンプラ達はメンテナンスハンガーに預けられ、フォース・スピリッツとフォース・サンダーバードの面々は、互いの健闘を称え合い、談笑に華を咲かせていた。

 

「良いバトルだった、サヤ君」

 

「こちらこそ、ありがとうございました」

 

 ローランとサヤは互いに握手を交わす。

 

「これであのフォースネストは、君達フォース・スピリッツのものとなるな」

 

 ローランは視線の先を山中に向ける。

 ツインサテライトキャノンやら水蒸気爆発やらで随分森林破壊を広げてしまったが、フォースネストへのダメージは届かないようになっている。

 破壊された自然も、GBNの世界ならば短時間の内に修復されるので何も心配は必要ない。

 

「すぐに使えるのなら、サンダーバードの皆さんも、フォースネストの温泉に入りませんか?」

 

 サヤは自分達だけでなく、ローラン達サンダーバードの面々も温泉に誘おうとするが、目の前の男性は少し表情を固いものにした。

 

「気持ちは嬉しいが……、……ミツキ、いいかい?」

 

 ローランは何故かミツキを呼んだ。

 

「何でしょう?」

 

 ミツキはローランの声に応じる。

 

「この後だろう?『例の会合』は」

 

「そうですね。まだ少し時間に余裕はありますが、あまりのんびりは出来ませんね」

 

 ローランとミツキが何やら話しているようだが、その内容はサヤにも聞こえている。

 

「何の話です?それに、『例の会合』と言うのは一体……」

 

 疑問符を浮かべるサヤに、ローランは真剣味を帯びた声で答える。

 

「サヤ君。話を聞きたいと言うのなら、付いて来てくれ。フォースメンバー全員で、な」

 

 

 

 

 

 

 夜明けの水平線には、暗雲が広がりつつあるーーーーー。

 

 

 

 

 

 

【次回予告】

 

 ツルギ「ミツキ、これは一体何の集まりだ?」

 

 ミツキ「各フォースの有志によって結成される、アライアンス……つまりは同盟作戦です」

 

 ハルナ「それって、昔の有志連合みたいな感じかな?」

 

 ユイ「有志連合……あの最近よく見る不正ツールに対することかしら」

 

 ミツキ「ですが、この話を聞いて同盟に協力するかしないかは、皆さんの自由です」

 

 ミーシャ「ボクは協力します!」

 

 サヤ「こんな話を聞いて、協力しないわけにはいかないな」

 

 ツルギ「次回、ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツ

 

『反マスダイバー連合軍』

 

 俺達は、俺達に出来ることをするだけだ」 

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