ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツ   作:さくらおにぎり

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13話 絶望を討ち破る者

 GBNベース基地 エントランスロビー。

 

 反マスダイバー連合軍とマスダイバー機達との戦闘が勃発する、その数刻前。

 フルメタルシェパードは、人を探していた。

 それは、つい最近になって行動を共にするようになった、エルと言うダイバーのことだ。

 基本的に、フルメタルシェパードがログインしている時間帯にはいつもここのエントランスロビーにいるのだが、今日に限って姿が見当たらない。

 一応、ログインしているらしいのだが、どこにいるのかが分からない。

 エルにも個人の都合と言うものがある、とすぐに思い直し、もう五分ほど探して見当たらなければ今日は都合が合わないのだと判断することにしたフルメタルシェパード。

 

 しかし、そんな日に限ってなのか、一番見たくない顔と鉢合わせしてしまった。

 

 女性でありながら着崩した学ランと学生帽を身に着け、毛先が赤みを帯びたボサボサの黒髪ーー自分の顔に泥を塗るどころか思い切り地面に押し付けてくれた、フォース・スピリッツのヤイコだ。

 

「……ん?ってテメェは!この間のぼっちフォースのヤツじゃねぇか!」

 

 出会い頭に、無礼失礼極まる発言をしてくれる。が、フルメタルシェパードは平静を装って言い返した。

 

「そう言う君は野蛮なサルじゃないか、いつものお仲間はどうしたのかね?」

 

「あァ?人様に向かってサルたぁなんだサルとは」

 

 んなことはどうでもいい、とヤイコは飴玉を口に放り込む。

 

「今、反マスダイバー連合とか言うのがどっかで集まってるって聞いたんだけどよ、どこでやってるか知らねぇか?」

 

「ふん、教える必要があるのか?」

 

 フルメタルシェパードも腕組みをして不遜な態度を見せつける。

 そんな彼の態度を見て、ヤイコは不快感を隠そうともせず舌打ちする。

 

「チッ……あーそうかいそうかい。テメェに聞いたアタシがサルだったよ、悪かったな。んじゃぁ、なっと!」

 

 なっ、と言うところでヤイコはわざとフルメタルシェパードに肩をぶつけてやりながら立ち去った。

 大股でどかどかと去っていくヤイコを怨めしく見送ってから、フルメタルシェパードは鼻を鳴らしてミッションを受けに行くことにした。

 

「(……ガンプラも無しに、どこで何をしているのだろうな)」

 

 ふと彼が抱いた疑問。

 それを気にしなかったことが、やがて自らの身を滅ぼしかねない結果になることを、この時はまだ知る由もない。

 

 

 

 

 

 反マスダイバー連合軍と、マスダイバー機達との戦いが開始されて、かなりの時間が経過していた。

 今や連合軍の全体戦力は50%を消失し、残されたダイバー達は腕利きも腕利きの者しか残されていない。

 対するマスダイバー機達も相当な数を減らされているはずだが、戦力が失われていることなどまるで気にしていないのか、狂ったように突撃してくる。

 

 ノエルのエーデルνガンダムの振るうビームレイピアが、NPDリーオーを斬り裂き、続けざまに動力部を突き刺して止めを刺す。

 

「これではキリが無い……ッ!」

 

 いくら肉体的疲労が起こり得ないとは言え、ダイバーの精神的な負担は無視出来るものではない。

 

 リヒターのアレックスは腕部のガトリング砲を撃ちまくって弾幕を張っているが、不意にそれがカラカラカラカラ……と乾いた音を立てて沈黙してしまった。弾切れだ。

 

「残弾ゼロか……敵はまだいると言うのに!」

 

 ビームライフルはとっくの昔に撃ち尽くし、シールドはそれよりも早く失われている。

 リヒターはビームサーベルを抜き放ち、近付いてきたNPDリーオーを斬り払う。

 

「苦しい状況ですが……まだ戦える!」

 

 ミツキのメガデッサは、出力を抑えたGNハイメガランチャーを連射して一機一機確実にNPDリーオーを仕留めていく。

 

 その側で、ホワイトグレーとダークグレーのツートーンカラーのガラッゾがNPDリーオーに組み付かれて侵食されていく。

 

「たっ、助けてっ、ソウゲツ……ッ!」

 

 侵食されてしまったガラッゾは、突然制御を奪われたように向き直り、メガデッサに襲いかかって来る。

 

「コントロールを乗っ取られている!?」

 

 メガデッサは咄嗟に腕部のGNバルカンの砲口からビームサーベルを発進させて、ガラッゾのGNビームサーベルを受け止める。

 しかし、並の実体剣程度ではそのまま斬り裂いてしまうほどのGNビームサーベルは、徐々に喰い込んでくる。

 あわやメガデッサが斬り裂かれる寸前に、トリコロールカラーのリボーンズガンダムが側面からガラッゾを撃ち抜いて破壊する。

 

「……チッ」

 

 やむを得ないとは言え、味方機を撃墜することを不快に感じてしまう。

 

「助かりました、ソウゲツ」

 

「礼はいいよ。……それより、こちらも戦力を削られ過ぎている」

 

 リボーンズガンダムはGNバスターライフルを撃ちながらもミツキと通信を繋ぐ。

 

「ミツキ、残り敵戦力はどのくらいいる?」

 

「……数えないで、ざっと50機ですね。それに、リョウコのガッデスはもう限界です、下がらせましょう」

 

「分かった」

 

 リボーンズガンダムはガッデスを下がるように言い付けて、再びメガデッサと共に矢面に立つ。

 

「(これ以上長引くのは不味い……北西への援護に向かわなくてはならないのに)」

 

 ミツキは眉を顰めながらも、NPDリーオーを撃ち抜いていく。

 

 

 

 

 

 ビーム刃の出力が低下しつつあるバスタービームソードを振るい、ガンダムダブルオーカイザーはゾックを斬り裂く。

 

「クソッタレが……ッ!」

 

 カイドウは悪態をつきながらも、再生侵食するゾックの動力部にGNソードⅡを突き立てて破壊する。

 

「んー、さすがにこりゃ辛い。どうしたものかねぇ……」

 

 フラワーズのガンダムバルバトスルプスは、目の前にいるゲルググMの胴体にショートメイスを強引にねじ込んで、ダメ押しとばかり踵落としで動力部を踏み潰す。

 

 その側面からガンダムナタクがツインビームトライデントを振り抜こうとするが、それはユイのガンダムヘビーバスターの超高インパルス長射程狙撃ライフルに阻止される。

 

「辛いものは辛い……けどっ!」

 

 ガンダムヘビーバスターに近付こうとするカオスガンダムをビームサーベルで斬り裂くのは、サヤのガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲル。

 

「どうにかするしかない!」

 

 ガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルはガンダムアスタロトリオートと背中合わせで立ち回り、ガンダムアスタロトリオートは弾の無くなった滑腔砲を捨てる。

 

「諦めるもんか……!」

 

 グシオンアックスの斧刃は欠け、亀裂が生じているものの、ミーシャの戦意までは欠けていない。

 

「そぉだっ、諦めなきゃぁ……」

 

 ヤイコの蛇威雄音はドムのボディを両手で掴み、

 

「何とかなるッ!!」

 

 そのまま真っ二つに引きちぎった。

 蛇威雄音を囲もうとするマスダイバー機の群れには、ヒュドレインシァのファンネルが足を止め、続けてインコムからのビームが動力部を正確に焼き切る。

 

「……ですが、いい加減に切りを着けなければなりませんわね」

 

 ミスズは鼻で溜息をついた。

 敵の数は残り少なくなってきたが、油断は出来ない。

 

「ツルギくん……大丈夫かな……」

 

 ハルナは単独で北西方面へ向かったツルギの身を案じつつも、今は眼前の敵を討ち倒すことに専念する。

 

 

 

 

 

 北西方面へ急行するローランのガンダムDXと、それに追従する一個中隊の連合軍。

 現在のオーストラリア・サーバーには月が見えないため、ガンダムDXはハイパーマイクロウェーブの受信によるツインサテライトキャノンが使用できない。

 まともに戦うしかないな、とローランは現状を受け入れつつ、アデレートからある程度離れた位置で停止する。

 

「よし、ここで敵を迎撃する。各機、一斉射撃の準備を急げ」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

 一個中隊は、即座にフォーメーションを組み上げ、いつでも敵を迎撃出来るよう各々の火器を構える。

 後数十秒でこちらの射程に踏み込んで来る、と言うときだった。

 

 不意に、戦闘にいたローランのコンソールがアラートを告げた。

 

「攻撃!?いかんっ、全機回避運動を取れッ!」

 

 瞬間、大出力のビームが薙ぎ払われ、ローラン達一個中隊に襲い掛かった。

 すぐに反応出来たのは、ローランを含む一個中隊の半数のみ。

 残り半分は放たれたビームによって焼き払われてしまった。

 

「……敵は!?」

 

 回避に成功すると同時に、ローランは前方を拡大して確認する。

 

 最初に見えたのは、赤銅色の機体色。

 蜘蛛のような六本の脚部。

 それを繋ぐ胴体と、その上部に接続されているAEUイナクトカスタム。

 

 それらの特徴から『00』に登場する大型MA『アグリッサ』と言うのは理解出来た。

 

 問題なのは……

 

「何なんだ……この、大きさは!?」

 

 ローランは己の目を疑った。

 原典作品から見ても、ビグ・ザムやサイコガンダム程度のサイズであるアグリッサだが、あからさまに原典機よりも巨大過ぎる。

 100m超えのα・アジールやネオ・ジオングと同レベル……つまり、原典機の倍かそれ以上の大きさなのだ。

 その上、新型ブレイクデカールの効果を帯びているのか、機体は侵食され、紫色のオーラを纏っている。

 ーー五年前の有志連合の戦いで現れた超巨大ビグ・ザムと同等だろう。

 が、こんなものを相手にするには戦力が全く足りない。

 

 ローランは瞬時に判断、残った部下に命令を飛ばす。

 

「全機に告ぐ!まともに戦うなっ、援軍が到着するまで足止めに徹しろッ!」

 

 ガンダムDXは後退しながらバスターライフルを撃つものの、アグリッサに直撃してもまるでダメージが入っていない。

 ローランの部下も、彼に倣うように後退しながら各々の火器を集中させるものの、大したダメージを受けたように見えない。

 対するアグリッサも、AEUイナクトカスタム本体からブレイドライフルを連射ーーサイズも去ることながら、バズーカ並の口径の銃弾が電磁加速されて飛んでくる。

 ブレイドライフルによる射撃で、一機、また一機が撃墜され、ついにローラン一人になってしまう。

 

「クッ……かつてのチャンピオン達ですら死力を尽くした敵と同等の相手に、何が出来る……?」

 

 仮にここでツインサテライトキャノンが使えたとしても、あのアグリッサを相手にどれほどの効果があるものか。

 続けざまに放たれるブレイドライフルの銃弾を回避しつつ、ローランは通信回線を開く。

 

「ミツキ、カイドウ先生!こちらに戦力を回してくれないか!こいつは私では抑えきれない!」

 

 即座に他方面で応戦しているだろう両者からの通信が返ってくる。

 

「こちらミツキ。こちらも状況が厳しいですね、むしろ今は一人でも増援を送ってほしいくらいです」

 

「こちらカイドウ!こっちはもう少しで片がつく!それまで持ちこたえろ!」

 

 ミツキとカイドウの両者は自分の持ち場から離れられないらしい。

 

「……了解したっ、くっ……何とか堪えてみせる!」

 

 アグリッサから放たれたプラズマキャノンをやり過ごし、ローランは比較的脆いだろう関節部を狙い撃つ。

 バスターライフルからのビームはアグリッサの脚の関節に着弾、ほんの一瞬だけアグリッサの足が遅まるが、それでも効果はいまひとつだ。

 しかし、全くの無効でないのなら勝ち目が無くはない。

 ガンダムDXは、アグリッサのブレイドライフルを掻い潜りながら、バスターライフルだけでなく、ヘッドバルカン、マシンキャノン、ブレストランチャーも速射、可能な限りアグリッサの関節部に射撃を叩き込む。

 攻撃を重なったおかげか、アグリッサはその侵攻の足を止める。

 ーーが、被弾した関節部を侵食させて修復させてしまう。

 

「再生侵食も顕在か……いやっ、これを繰り返せば足止めにはなる!」

 

 ここでアグリッサを撃墜することは出来ない。

 増援が来るまで、このアグリッサをアデレートに近づけさせない。

 それが今の自分の役目だと、ローランは気力を振り絞る。

 

 不意にアグリッサはその場で踏ん張るような動作を行いーー次の瞬間にはガンダムDXに飛び掛かってきた。

 

「なっ……」

 

 ガンダムDXの十倍以上はある巨躯による体当たりは、強かに打ち据えられ、派手に吹き飛ばされる。

 

 アデレート郊外の建造物に叩き付けられて、ようやく止まる。

 

「ぐっ……まず、いっ……!」

 

 目視ギリギリの距離から、アグリッサがプラズマキャノンのチャージを行っている。

 ローランも早くこの場から離脱しなくてはと理解しているが、肝心のガンダムDXは動作不良を起こしてしまったのか、動けない。

 

「(もはや、これまでか……)」

 

 今にもプラズマキャノンのチャージが完了されるーー

 

 ーーその瞬間、アグリッサの頭部に何かが炸裂した。

 

 ほぼノーダメージではあったが、アグリッサの意識をガンダムDXから遠ざけることには成功する。

 アグリッサもチャージが完了されたプラズマキャノンをその方向へ向けて照射するが、何者かは既にその場から迂回するように離脱しており、ローランのガンダムDXを守るように立つ。

 

「バカでかいな、ただでかいだけじゃないんだろうが……」

 

 それは、硝煙を洩らすジャイアントバズを構えた、ツルギのイフリート・エスパーダだった。

 

「イフリート……ツルギ君か?」

 

 アグリッサもまた、イフリート・エスパーダに向き直る。

 

 イフリート・エスパーダは、輸送艦に積載させていたものを途中で持ってきたジャイアントバズを捨てて、一対のヒートサーベルを抜き放つ。

 

「さぁ……俺の相手をしてもらおうか」

 

 ツルギはコンソールパネルから武装フォルダを開く。

 

 フォルダの一番後ろにある、『EXAM』と言う四文字のアイコンを選択した。

 

「EXAMシステム、起動ッ!!」

 

 同時に、システム音声からも『EXAM System. Standby』と流れ、イフリート・エスパーダのピンク色のモノアイが、禍々しい紅色に変色していく。

 

 GBNにおけるEXAMシステムは、公式設定にあるような暴走の危険は無く、スーパーモードやトランザム同様、一定時間性能を爆発的に向上させる反面、機体への負荷が大きく掛かり、完成度が高くないと自壊を起こす恐れもあるリスキーなシステムとして設定されている。 

 

 EXAMシステムそのものは、デフォルトで搭載されているのは『ブルーディスティニー』シリーズと、イフリート改のみだが、実は対応機種は限られているものの、オプション装備として搭載可能である。

 対応機種は、陸戦型ガンダム系、RGM系、イフリート系のガンプラ。ベースであるイフリート・シュナイドにも搭載可能だ。

 事前にツルギがハルナと相談していたのは、このシステムのことだった。

 

 ツルギはアームレイカーを殴るように押し出す。

 同時に、イフリート・エスパーダは爆発的に加速する。

 モノアイの残光が尾を引くほどの速度でアグリッサに肉迫、一番手前の右脚にヒートサーベルを振り抜き、アグリッサの爪先を切断する。

 爪先立ちになっていたアグリッサはバランスを崩すものの、すぐに再生侵食させて原型を取り戻す。

 アグリッサもブレイドライフルを連射して反撃するが、

 

「見えてるんだよ」

 

 大砲並の口径の電磁加速弾が降り注ぐ中、ツルギは高速でアームレイカーを振り回し、それに応じるようにイフリート・エスパーダは跳躍とホバーを併用した機動で、ブレイドライフルの銃弾を掻い潜る。

 

「一人で戦うつもりか!?よせっ、そいつは一人では無理だ!」

 

 ローランは制止を呼びかけるが、当の本人はその声が聞こえていないのか、アグリッサの足元へ突撃する。

 再生侵食されていない脚を狙ってヒートサーベルを振るい、アグリッサの体勢を崩す。

 それもすぐに再生侵食されるものの、ツルギはすぐさま別の脚に狙いをつける。

 アグリッサ自身、足元にはブレイドライフルを向けられないことを知っているのか、脚を振り翳してイフリート・エスパーダを踏みつけようとするが、ツルギはこれにも即反応、一度アグリッサの足元から離脱する。

 敵が足元から離れたと見たか、アグリッサはプラズマキャノンを集束させてーー

 

「そらよッ!」

 

 イフリート・エスパーダは右のヒートサーベルを投げ付けた。

 放たれたヒートサーベルはプラズマキャノンの砲口近くに突き刺さり、中途半端に発射を阻害されたアグリッサはよろめき、プラズマキャノンは明後日の方向に照射される。

 その隙を見逃すツルギではない、即座にもう一つのヒートサーベルを両手で構えながら突撃、アグリッサのコアユニットであるAEUイナクトカスタム本体を狙って飛び掛かる。

 

「面ッ!!」

 

 ヒートサーベルを振り下ろすイフリート・エスパーダだが、アグリッサの反応も早く、ブレイドライフルから大型カーボンブレイドを引き出し、それでヒートサーベルを受け止める。

 鍔迫り合いにはならず、ツルギは大型カーボンブレイドを弾き返し、

 

「突きィッ!!」

 

 流れるような動作でヒートサーベルの切っ先をアグリッサのボディへ突き立てようとするが、不意にアグリッサはその場で跳躍しながら飛び下がり、ヒートサーベルを空振りさせたイフリート・エスパーダを蹴り飛ばした。

 

「ッ!?」

 

 イフリート・エスパーダが地面に叩き付けられた衝撃で砂煙が立ち昇り、アグリッサは着地と同時にその砂煙の中へブレイドライフルを連射して叩き込み、地面に着弾したものはさらに砂煙を立ち込めさせる。

 

「ツルギ君ッ!」

 

 ローランはツルギの名を叫ぶが、その直後に砂煙を斬り裂いてイフリート・エスパーダがアグリッサに迫る。

 先程アグリッサに蹴り飛ばされた時にヒートサーベルを落としたのか、丸腰だった。

 だが、徒手空拳による肉弾戦こそがツルギの本領だ。

 

「ぅルアァッ!!」

 

 スラスターの加速による勢いも上乗せされた正拳突きは、アグリッサの再生侵食された脚に打ち込まれるが、侵食によって強度も増しているのか、弾き返されたものの、亀裂を走らせることには成功した。

 衝撃に仰け反るアグリッサ。

 すぐにイフリート・エスパーダを蹴り飛ばそうとするが、同じ轍は踏むまいとツルギはアームレイカーを思い切り引き下げてイフリート・エスパーダを急速バックホバー、ついでに先ほどに手放したジャイアントバズを拾い直すなり、またしても再突撃する。

 対するアグリッサはブレイドライフルと踏みつけの波状攻撃でイフリート・エスパーダを迎え撃つが、ツルギはそれら波状攻撃を全て掻い潜りながらもその最中にジャイアントバズを発射する。

 

「吹っ飛べ!」

 

 先程亀裂を走らせた脚に弾頭が直撃、炸裂と共にアグリッサの脚を粉々に吹き飛ばす。

 イフリート・エスパーダはすぐさまジャイアントバズを投げ捨てるとアグリッサの懐に飛び込み、先程投げ付けて突き刺したヒートサーベルを抜き取りながら急速離脱、離脱のついでに侵食されていない脚を切断、アグリッサの体勢をさらに崩す。

 

 

 

 

 

 南方面。

 フラワーズのVガンダムがビームサーベルを突き立て、ようやく最後の一機であるアビスガンダムを撃墜した。

 

「ふぅ……何とかなったかぁ」

 

 周囲に増援の出る様子もない。

 それを確認してから、カイドウは生き残っている者達に指示を飛ばす。

 

「よーし、これより北西方面へ援護に向かう!体勢を立て直したやつから、順次北西方面へ行けや!」

 

 そう言うや否や、ガンダムダブルオーカイザーはバスタービームソードを担ぎ直して、その場から飛び立つ。

 サヤは自身のフォースメンバーに通信を繋ぎ、状態を確かめる。

 

「みんな、まだいけるか?」

 

「わたしは大丈夫です」

 

 ハルナの姫武者頑駄無は火糸薙刀を担ぎ直す。

 

「ガンランチャーとミサイルはもうありませんけど、ビーム装備ならまだ撃てます」

 

 ユイのガンダムヘビーバスターも、一応継続戦闘は可能なようだ。

 

「ボクもまだいけます」

 

 ミーシャのガンダムアスタロトリオートも、グシオンアックスを担ぎ直し、まだ弾数の残っているサブマシンガンも拾う。

 

「遅れた分はキッチリ働かねぇとな。アタシは先に行っとくぜ」

 

 ヤイコの蛇威雄音は先駆けてカイドウのガンダムダブルオーカイザーを追うように北西方面へ向かう。

 

 フォース・フラワーズの面々も全員生き残っているらしく、体勢を立て直した者から北西方面へ急行していく。

 フォース・スピリッツもすぐに北西方面へ向かう。

 

 

 

 アデレートの市街地を通過、北西方面側に出たカイドウは、巨大アグリッサと、動けないローランのガンダムDXを視認する。

 

「どうしたローランっ、動けねぇのか!?」

 

「……カイドウ先生。申し訳ありません、この有様で」

 

 しかし私よりも、とガンダムDXの頭部がアグリッサの足元を縦横無尽に駆け巡る小さな陰ーーイフリート・エスパーダに向けられる。

 

「彼……ツルギ君の援護を優先してください。あれではーー長くは保ちません」

 

 

 

 

 

 プラズマキャノンの照射とブレイドライフルの連射による激しい攻撃がイフリート・エスパーダに襲い掛かる。

 それに対してツルギはアームレイカーを大きく捻り込み、急激なカーブを掛けつつプラズマキャノンの火線から逃れ、同時に降りかかるブレイドライフルの銃弾をホバーと跳躍を不規則に繰り返して全て回避していく。

 そして一瞬でも隙が生じれば即座に懐に潜り込んでヒートサーベルを一閃、爪先を斬り裂いてアグリッサの体勢を崩し、そのままコアユニットに斬りかかる。

 コアユニットのAEUイナクトカスタムは大型カーボンブレイドでヒートサーベルを弾き返し、瞬時に袈裟がけに振るった。

 大型カーボンブレイドの切っ先はイフリート・エスパーダのボディを斬り裂き、バックパックと繋がる動力部パイプがちぎれ飛ぶ。

 

「チッ……!」

 

 アグリッサはさらに先ほどと同じように脚部クローで蹴り飛ばそうとするが、そうくることはツルギにも理解しており、押し出していたアームレイカーを急激に引き戻し、逆方向にスロットルを全開にして急速後退しつつアグリッサの脚を受け流す。

 一旦着地したイフリート・エスパーダだが、着地と同時に即座に同様に着地しようとするアグリッサの足元へまた突撃する。

 

ーーその最中に脚部の関節からスパークが走り、オイル漏れが生じ始めていることに気を向けることもなくーー。

 

 アグリッサの真下にまで踏み込むと、イフリート・エスパーダはヒートサーベルを真上ーーアグリッサの股関節とも言える部位ーーへ振り上げ、その内部へ突き刺し込む。

 エンジンの一部に赤熱化した刃が突き刺さったのか、その部位が爆発を起こす。

 それに巻き込まれるよりも先にヒートサーベルを手放したイフリート・エスパーダは急速離脱してから大きく回り込むようにターン、爆発した部位へ向かって正拳突きを叩き込む。

 

「っらァッ!!」

 

 バギャァッ、と音を立てて砕け散ったのはアグリッサの下半身ではなくーーイフリート・エスパーダの右マニュピレーターだった。

 砕け散った手首から、切れた血管のようにオイルが噴き出す。

 

「いい加減にっ……」

 

 が、ツルギは構わずもう一度右腕を振りかぶり、マニュピレーターの無くなった右腕そのものをアグリッサの内部へと突っ込ませる。 

 

「くたばりやがれッ!!」

 

 さらにエンジン部が爆発を起こし、ほぼゼロ距離にいたイフリート・エスパーダはまともに巻き込まれて吹き飛ばされる。

 地面を転がった拍子に、酷使し過ぎた右腕が肩からちぎれ飛んだ。

 ツルギはすぐに起き上がろうとするが、イフリート・エスパーダの右膝の関節がべキリッ、と音を立てて砕け折れてしまい、点火しようとしたスラスターも小爆発を起こして黒煙を吹き出し、イフリート・エスパーダは地面に横たわった。

 

 必然だった。

 

 元よりそれほど高くない完成度であったイフリート・エスパーダで、半ば強引にEXAMを起動、その上から機体の耐久性を遥かに超える操縦に加えて、関節に多大な負荷を掛ける肉弾攻撃、さらに被弾のダメージも加わっている。

 言ってしまえば、『イフリート・エスパーダではツルギの操縦に追い切れなかった』のだ。

 

「……限界か」

 

 EXAMも沈黙した。

 コンソールパネルは、機体全体が『Hazard』や『Pow Lost』を告げていることを伝えてくる。

 イフリート・エスパーダはもう動けない。

 

 それに対してアグリッサは、甚大な損傷を負っているにも関わらず、再生侵食を開始し、原型を取り戻しつつある。

 

 わずか数分に渡るツルギの足止めも、全て無駄にーーーーー

 

 

 

「おーし!よぉく踏ん張ったツルギ!後は任せろォッ!!」

 

 は、ならなかった。

 横たわるイフリート・エスパーダの側に、爆雷を走らせたバスタービームソードを握った、カイドウのガンダムダブルオーカイザーが現れる。

 

「トゥウオォォォォォルフゥァンマァァァァァッ、ブウゥゥゥルエェイクアァァァァァーーーーーッッッッッ!!!!!」

 

 カイドウの必殺技、トールハンマーブレイカーが放たれ、想像を絶する万雷がアグリッサを呑み込まんと迫る。

 さすがにアグリッサのサイズが巨大なために、消滅させることは出来なかったが、再生侵食中だったアグリッサの損傷をさらに広げる。

 

「カイドウ先生に遅れを取るなっ、俺達も続くんだ!」

 

 サヤの声と共に、いち早く北西方面に到着したフォース・スピリッツの面々が果敢に攻撃を仕掛けていた。

 ガンダムヘビーバスターとガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルはエネルギーのギリギリまでビーム射撃を行い、ガンダムアスタロトリオートと蛇威雄音がアグリッサの足元に近接攻撃に掛かる。

 

「だあぁぁぁぁぁッ!」

 

「どおぉりゃぁぁぁぁぁッ!」

 

 グシオンアックスのモーニングスターと蛇威雄音のパンチが、アグリッサの再生侵食した脚を打ち砕く。

 これまでより大きくよろめいたアグリッサは、足元の二機に注意を向ける。

 その隙に、ハルナの姫武者頑駄無が、横たわるツルギのイフリート・エスパーダの救出に向かう。

 

「ツルギくんっ、大丈夫!?」

 

 とりあえずイフリート・エスパーダを掴み、姫武者頑駄無は安全な場所まで後退する。

 

「悪いハルナ、さすがに無茶だった」

 

「もう、無茶も無茶だよ。あんなの相手に一人で何とかしてたなんて」

 

 でも、とハルナの視線が北東方面に向けられる。

 

「ツルギくんが頑張ったおかげで、みんな間に合ったよ」

 

 視線の先からは、南方面から駆け付けに来たフラワーズのメンバー。

 

「また随分デタラメな相手をしていたものですわね……」

 

 ミスズは嘆息をつきながらもヒュドレインシァを上昇させ、自機の周囲にファンネルを展開、さらにインコムクローも伸ばし、袖口のビームガンにもビームを集束させる。

 

「もう終わらせましょうか。天雨ノ奏【五月雨】!!」

 

 ファンネル、インコム、ビームガン、合計で14ものビームがアグリッサのブレイドライフルに向かって降り注がれる。

 サイズの巨大さから、ブレイドライフル自体の強度も相当なものだが、複数のビームを一点に集中させた一撃には耐えられず、ブレイドライフルが爆散する。

 

 さらにミツキのメガデッサとノエルのエーデルνガンダムが先頭になって、多数のガンプラが駆け付けて来る。

 

「何とか、間に合ったようですね」

 

 ミツキは安堵しつつも、動けないローランのガンダムDXの元へ向かわせる。

 

「全機、攻撃を集中なさい!アレを墜せば、この戦いも終わるはずです!」

 

 ノエルは自ら先陣を切りつつ、生き残っているフォースメンバー達を奮起させる。

 

「もう貴様らの好き勝手にはさせん!」

 

「GBNはマスダイバーが身勝手していいとこじゃないんだよ!」

 

「これで終わりだ、デカブツ野郎!」

 

 南方面と北東方面の戦力が集中し始め、再生侵食が追い付かなくなってきたアグリッサは、ついにその膝を折り、コアユニットであるAEUイナクトカスタムが離脱し、そのまま連合軍に背を向けて逃走する。

 

「野郎、逃げるつもりかっ」

 

 カイドウはその後を追おうとするが、

 

「追わなくて結構です、カイドウ先生」

 

 それを止めたのはローランだった。

 何故かと言うと、先程まで動けなかったガンダムDXが、メガデッサと接続された状態で立ち上がり、ツインサテライトキャノンの発射体勢に入っていたからだ。

 しかし月が出ておらず、エネルギー源であるハイパーマイクロウェーブを受信出来ない状態から、どうやってそれを撃つのか?

 

「では行きますよローラン。……トランザム!!」

 

 すると、ミツキのメガデッサはトランザムを起動、機体を赤く発光させると、それに合わせるようにガンダムDXのラジエータープレートやミラーが眩い輝きを放つ。

 ガンダムDXは、支援戦闘機である『Gファルコン』とドッキング状態であれば、ハイパーマイクロウェーブ無しでツインサテライトキャノンを発射出来る設定がある。

 今回はGファルコンではなく、トランザムを起動したメガデッサではあるが、その出力は十分。

 

 ローランは照準をマニュアルモードに切り替え、遠くへ消えていくAEUイナクトカスタムの背中にカーソルを合わせる。

 そしてーーーーー迷いなくトリガーを引いた。

 

「これで終わらせる……ツインサテライトキャノン!!」

 

 一対の砲身から蒼白の光の柱が迸った。

 MS一機を撃ち落とすにはオーバーキルもオーバーキルではあるが、これなら確実に消滅させられる。

 

 AEUイナクトカスタムもツインサテライトキャノンを回避しようとするが、コロニーレーザーを一撃で破壊するほどのそれは避けようがなく、その閃光に呑み込まれ、跡形なく消滅した。

 

 アグリッサ、撃墜。

 

 周囲に敵対反応は無し。

 敵は全滅したようだ。

 

「俺達の勝利だ……お前ら、勝鬨を上げやがれェッ!!」

 

 しばらくの沈黙が流れてから、カイドウは全周波回線を開いて声を張り上げつつ、ガンダムダブルオーカイザーのバスタービームソードを天高く振り上げる。

 

 一拍の間を置いてからーーーーー

 

 

 

「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉォォォォォォォォォォーーーーー!!!!!」」」」」

 

 

 

 議会場で上げたものよりも一際巨大な、爆発的な歓声がオーストラリア大陸に轟いた。

 コクピットから降りたツルギとハルナは、歓声こそ上げなかったが、各々の武器や、持っていないものは拳を振り上げている、その光景を二人並んで静かに見ていた。

 

「あぁ……「勝った」って感じだな」

 

「うん。わたし達、勝ったんだね」

 

 これで本当に全てが解決したのかは分からないが、大きな、そして様々な意味を齎したことは変わらないだろう。

 ツルギは振り返った。

 

 その背後には、右腕と右足を失い、ボロボロになったイフリート・エスパーダと、それに寄り添う姫武者頑駄無がいる。

 

「ありがとな、イフリート」

 

 ツルギは、自分の無茶苦茶に壊れるまで付き合ってくれた愛機に、短く、それでも深い感謝を告げる。

 

 いつの間にか、辺りには夕陽が差し込み始め、二人と二機を優しく茜色に染めていたーーーーー。

 

 

 

 

 

 フォース・サンダーバードとのバトルから、そのまま反マスダイバー連合軍に参戦していたため、さすがにそろそろリアル側の時間が気になったため、フォース・スピリッツの面々は一度ログアウト、日を改めてから再びログインした。

 

 ツルギ達はログインしてから、真っ先にメンテナンスハンガーの方に向かった。

 ガンプラの整備は昨日に後回しにしていたため、フォースネストの使用権を購入しに行く前に済ませておこう、と考えている。

 

 ガンダムヘビーバスターとガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルは、銃火器を酷使したくらいで、機体の損傷は大きくなかった。

 姫武者頑駄無、ガンダムアスタロトリオート、蛇威雄音は近接戦も行っていたため、損傷はやや大きかったものの、そこまで時間がかかるわけでもなさそうだった。

 

 問題なのは、ツルギのイフリート・エスパーダだ。

 

「……これは長丁場になるぞ。何なんだ、この下半身の関節部の摩耗は」

 

 イフリート・エスパーダの状態を確認した、サヤの開口一番がそれだった。

 折れてしまった右の膝関節はともかく、足首や股関節、さらには胴体のボールジョイントすらも酷く摩耗しており、通常のミッションやフォースバトルでここまでになるのは滅多なことではない。

 

 これは、ツルギの操縦技術に起因するものだ。

 

 アグリッサとの戦いで行なった、機体の跳躍とスラスターによるホバー起動を超高速で併用する回避技術。

 跳躍に合わせて推進力を吹かすことで、戦闘機動時の初速を爆発的に高め、なおかつ着地に合わせて軌道変更と加速を同時に行う。

 言葉にすると簡単に聞こえるかもしれないが、バネの力と推進力を完全にシンクロさせるこれは、並大抵の技術ではない。

 その上から、全身を使った攻撃である徒手格闘も行い、さらにEXAMシステムまで使っているのだ、機体にかかる負担は(システム上の範疇であるにしろ)想像を遥かに上回る。

 例えイフリート・エスパーダの完成度の高いものだったとしても、結果は同じだったのではないだろうか。

 

「これじゃぁ修理って言うより、ほとんどレストアですね」

 

 呆れたように溜息をつくミーシャ。

 

「すいませんサヤ先輩、ミーシャ。俺もまさか、ここまでこうなるとは思ってなかった」

 

 ツルギは謝りつつも、コンソールパネルを打って修理作業に取り掛かり、サヤとミーシャも続く。

 特に、完全に壊れた右膝と右腕は難物だ。

 GBNのメンテナンスハンガーは、パーツが少し摩耗したり削れた程度であれば、ハンガーに放置しておけば自動で修復されるものの、パーツを丸ごと破損したような場合は、ダイバー自身が必要なパーツを選択した上で操作する必要がある。

「壊れた機体を人の手で直すのも、ガンダムと言う世界の醍醐味である」と言うコンセプトがあるらしい。

 

 男三人がイフリート・エスパーダの整備に四苦八苦しているところで、ハルナが声を掛けてきた。

 

「ねぇツルギくん、いいかな?」

 

「ん、なんだ?」

 

 一度手を止めて、振り返るツルギ。

 ハルナの側にはユイとヤイコもいる。

 

「わたし達の整備はもう大丈夫だから、先にフォースネストの購入を済ませておくね」

 

 整備がいち早く済んだので、昨日からの楽しみだったフォースネストの購入をしに行くらしい。

 

「あぁ、分かった。後から俺達もそっちに向かう」

 

「うん。じゃ、また後でねー」

 

 ハルナ、ユイ、ヤイコの三人は、整備の終えた各々のガンプラに乗り込むと、イースト・エリアの山岳地帯へ向かった。

 それを見送ってから、ツルギは修復中の愛機に向き直る。

 

「さぁて、もうひと頑張りしますか……」

 

 

 

 

 

 購入予約をしていたフォースネストに到着した女子三人。

 しかし、事前に連絡をしていたフォースネストのオーナーの姿は見えない。

 

「オーナーさん、いないね?」

 

 キョロキョロと姫武者頑駄無の頭が左右する。

 

「もう一度連絡してみるわね」

 

 ユイがコンソールパネルを開いて、オーナーに繋ぐ。

 

「あ、もしもし?フォース・スピリッツの、ユイと言う者ですが、フォースネストの購入に来ました。………………え、もう購入済み?ちょっと待ってください………………あ、確かに振り込まれてますね。所有権もフォース・スピリッツになってますし……えー、と、分かりました。はい、失礼します」

 

 通話を終えたユイは、ハルナとヤイコに通信を繋ぎ直す。

 

「なんか、私達の知らない内に購入したことになってたわ……ビルドコインもしっかり振り込んでたみたいだし」

 

「はぇ?わたしそんなことしてないし、男子三人も違うよね?」

 

 どういう事かと目を丸くしながら、ハルナはヤイコにも目を向けるが、

 

「アタシも知らねぇぞ」

 

 ヤイコも違うと言う。

 

 ツルギ、ハルナ、ユイ、ミーシャ、サヤ、ヤイコではない。

 

「「「と、言うことは……」」」

 

 三人は声を濁らせつつ、顔を見合わせるなりガンプラから降りて、フォースネストへ駆け込む。

 

 

 

 

 

「あら、遅かったじゃない」

 

 そこには、のんびりと温泉に浸かりながら、紅葉を肴に一杯引っ掛けている(無論ノンアルコール、と言うよりGBNでは酔わないのだが)マイの姿があった。

 

「あー、やっぱりねぇ……」

 

 ハルナは片手で頭を押さえながら溜息をついた。

 やはり、マイが勝手にオーナーと話を付けて購入したらしい。

 予想通りではあったが、的中しても嬉しくない。

 そんなやるせない気持ちになるハルナを押し退けて、ユイは詰め寄った。

 

「お姉ちゃんッ、何勝手なことしてるのよッ!」

 

「いーじゃないいーじゃない、あたしが何かマズいことしたっての?」

 

「そう言う問題じゃなぁいッ!」

 

「まぁまぁ、落ち着きなさいって。とりあえず、お説教なら温泉上がった後でもいいっしょ?それより、そんなとこに突っ立ってないで、早く入りなさいよ」

 

 怒気をぶちまけるユイを前にしても、吹く風のように受け流しつつ、マイはハルナ達三人に温泉に入るように勧める。

 ユイとしてはまだ怒り足りないくらいだが、どうにか気持ちを切り替えることにした。

 

「えーっと、普通に服を脱いで、入ればいいんだよね?」

 

 GBNでの脱衣と言う概念が分からなかったハルナは、マイの様子と脱衣所を見比べる。

 

「あっちに脱衣所にあるからねー」

 

 マイの指す方向に、女性用の脱衣所がある。

 

「おぅ、百聞は一見に如かずってことわざもあらぁ、アタシらも温泉に入ろうじゃねぇか」

 

 ヤイコは早速脱衣所に入っていき、ハルナとユイもその後に続く。

 

 男子三人がフォースネストに来るまでの間、存分に温泉を堪能したのだったーーーーー。

 

 

 

 

 

 

 某所。

 無数のモニターが螺旋状に連なるその暗闇の中、溜息をついた。

 

「あー、やられちゃったかぁ。ま、所詮は虫歯黴菌だし、消毒されておしまい、か」

 

 期待はしていなかった。

 成功すればラッキー程度のものだったが、期待出来ないその通りに、裏切らずに全滅してくれた。 

 

「じゃ、もういらないや」

 

 手元に残していた多数のモニターには、個々人のパーソナルデータが映されているが、それを全て、ゴミを捨てるようにーー否、病原菌を消毒するように、"デリート"した。

 

「さて、と」

 

 デリートさせたモニターを消すと、また別のモニターの数々を手元に寄せる。

 その中のひとつに目に止まる。

 

「ッ!!」

 

 ーーそれは、森の中を逃げ惑う少女。

 少女を追いかけ回しているのは、複数のGBNガードフレーム。

 

『いやっ、来ないでッ!私消えたくないッ!!』

 

 悲痛に泣き叫ぶ少女に、GBNガードフレームは手にしたライフルの引き金を引いた。

 

『消えたくな……』

 

 銃口から放たれた死の光が、少女を焼いた。

 衣服の一欠片、髪の毛先の一本残さず、少女は消えた。

 存在していた足跡すら残らずに、

 

 死んだのだ。

 

「アアアアアアアアアアああああああああああァァァァァァァァァァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 生の感情を丸出しにしながら、衝動的にそのモニターを殴り壊した。

 

 まただ。

 

 また一人、殺された。

 

 ギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチッ、と歯が軋む。

 軋む歯の隙間から、辛うじて言葉としての意味を持った声を洩らす。

 

「フ、ザ、ケ、ル、ナ」

 

 見開いた瞼の奥から感情が流れた。

 

 涙。

 

 もう会えないと理解してしまった、悲しみ。

 

 何故だ。

 何故彼女は殺された。

 彼女は何もしていない。

 ただこの世界にいただけだった。

 この世界にいたいだけだった。

 

 なのに、

 

「ふ ざ け る な」

 

 悲しみの次に訪れたのは、"怒り"だった。

 

 彼女が何をしたと言うのだ?

 彼女が誰かの物を盗んだのか?

 彼女が誰かを傷付けたのか?

 

 彼女が誰かを殺したのか?

 

 そんなわけがない。

 

「ふざけるなッ!!」 

 

 怒りのままに押し寄せきたのは、"憎しみ"。

 

 人は言う。

 

「つまりあの子が悪いってこと?」

 

「これが消えちゃえばいいの?」

 

 

 

 

 

 こ れ が 消 え ち ゃ え ば い い の ?

 

 

 

 

 

 あれはバグだ、と。

 あれは不必要な存在だ、と。

 放っておけばGBNは崩壊する、と。

 だから消せ、と。

 

 殺せ、と言うのだ。

 

「………………………………きひっ」

 

 怒りと憎しみが混ざり合って生まれたのは、

 

 

 

 

 

「ひゃっ……ひゃははははははははははハハハハハハハハハハハ!!!!!ひゃはははははははははははは!!!あっははははははは!!!きゃははははははははははははははははははは!!!!アーーーーーヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!!」

 

 

 

 

 

 笑い。

 嗤い。

 嘲い。

 

 そして、

 

「あーーーーーーーーーーー……はぁ」

 

 哀れみ。

 

 溜息をひとつついてから、別のモニターを引っ張り出していく。

 

「命を命とすら思えない、動物以下の卑しいケダモノの分際が」

 

 悲しみ、怒り、憎しみ、嗤い、哀れみ。

 それは一周回って、また元に戻った。

 

「少しずつでも、キレイにしなきゃ……次の時代に生まれてくる、"僕達"のために」

 

 

 

 

 

【次回予告】

 

 ツルギ「新しいフォースネストも手に入ったんだ。心機一転、改めて次元覇王流拳法を探していくか!」

 

 ハルナ「とか何とか言うのはいいけど、なんだかユイちゃん、元気ないよ?」

 

 ユイ「ん……ちょっと、行き詰まってるって感じかな」

 

 ハルナ「困った時は……ミツキくん!」

 

 ミツキ「人を便利屋扱いしないでください。それで、ユイが行き詰まっていると言う話ですね?でしたら、こちらのミッションは如何でしょう?」

 

 ユイ「ありがと、ミツキ。早速受けてみるわね」

 

 ツルギ「次回、ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツ

 

『偽りを写す鏡』

 

 ユイ「……え、あなたも来るの?別にいいけど……」

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