ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツ   作:さくらおにぎり

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16話 風雷の剣

 夏期休暇も後半に差し掛かり、そろそろ課題の量に焦りを覚え始める頃。

 それぞれの盆休みから明けたフォース・スピリッツの面々は、久々に全員集合していた。

 

「ようやく思う存分喧嘩が出来るってモンだ」

 

 二週間近くの間、ログインすら出来なかったヤイコは、実家に帰っていた時に溜めていた鬱憤を晴らすべく、意気揚々とミッションを選んでいた。

 いつもなら、ツルギかサヤが「勝手に選ぶな」と口を挟むところだが、GBN(と言うか喧嘩)がしたくても出来なかったヤイコの心情を考えて、今日くらいは好きにさせてやろう、と黙認していた。

 

「……んよしっ、コイツにするか!」

 

 思ったよりも早くミッションを決定したヤイコ。

 はてさて何を受注したのかと、メンバー達はミッション詳細を見て、

 

「おい……マジかこれ」

 

 ツルギは思いきり眉を顰めた。

 

 ミッション名『宇宙要塞ア・バオア・クー』

 

 難易度レベルは最大の10。

 ザクⅡを始めとする、一年戦争時に登場する陸戦型、水陸両用機を除くジオン系のMSやMA、艦艇が勢揃いし、その中にはアナベル・ガトーやジョニー・ライデン、シン・マツナガと言った、名だたるエースパイロットが搭乗する専用機も多数出現するなど、GBNでも屈指の難易度を誇る。

 

 トップランカー勢が念入りに念を入れた下準備をして、多大な消耗と犠牲を払ってようやくクリア出来るレベルだ。

 特に、ボスNPD機であるシャア・アズナブルのジオングの強さが尋常でないため、後少しと言う所でジオングに纏めて返り討ちにされるフォースが後を絶たないのだとか。

 

 さも当然のようにこれを受けようとするヤイコ。恐らく実態を知らないからだろう。知ったとしても同じかもしれないが。

 

 今日はヤイコの好きにさせると言う方針だったので、ツルギ達はあくまでもクリアするつもりでこのミッションを受けてーーーーー

 

 

 

 

 

 ーーーーー案の定、瞬殺された。

 

 開幕一番、マイはソーラ・レイに巻き込まれて撃墜。

 

 ヤイコは敵陣のド真ん中に突っ込もうとしたところでガトーのゲルググに返り討ちにされて撃墜。

 

 ミーシャはビグ・ラングに格闘戦を挑もうとしたが、そのビグ・ラングを取り巻くオッゴの物量の前に圧倒されて撃墜。

 

 ユイは戦艦を狙撃しようと足を止めた瞬間、マツナガのゲルググJの大型ビームマシンガンに狙撃し返されて撃墜。

 

 サヤはMS形態とフライヤーフォームに敵機を捌いていたが、ライデンの高機動型ゲルググの前には歯が立たずに撃墜。

 

 最後まで残っていたツルギとハルナも、現れたシャアのジオングによって共々四方八方から焼き払われて撃墜。

 

 散々な結果になってミッションは失敗した。

 

 

 

 

 

 ミッションに失敗したために、強制的にベース基地に戻されたフォース・スピリッツは、渋々とフォースネストに帰還し、温泉に浸かって気を取り戻していた。

 その女湯の方。

 

「っかしいなー、こんなはずじゃなかったんだけどな」

 

 どっかりと湯船に浸かるヤイコ。

 

「しょうがないよ。アレはほんとにキッツいミッションだったし」

 

 ハルナはそこまで落ち込んでいるわけではなく、すぐに気を取り直している。

 

「久しぶりに失敗した気がするわ……」

 

「まーまーいいじゃないの。これから残念会でもしちゃう?」

 

 溜息を溢すユイとは対照的に、マイは本当に失敗したのか分からないほどあっけらかんとしている。

 

「いんや、残念会なんざしてらんねぇッ。アタシは先に上がるぜ」

 

 そう言うなりヤイコは浸かったばかりだと言うのに、もう上がって更衣室に駆け込む。

 恐らく、今度は一人で何か別のミッションを受けるつもりだろう。

 

 

 

 一方の男湯。

 

「ま、さすがにあのレベルにはまだ早かったな」

 

 失敗することはある意味予定調和だったのか、サヤはそれほど落ち込むこともなく一息ついていた。

 

「そりゃぁ、ボクらの平均ランクはAですから。それであれは早過ぎましたよ」

 

 ミーシャも同じような感想を抱いていたようで苦笑する。

 

「……」

 

 しかしツルギは落胆しているわけでもなければ、半ば諦めていたわけでもない、何か考え込むような顔をしている。

 

「ツルギさん?」

 

「……ん、あぁ、少し考え事をな」

 

 ミーシャに声を掛けられてようやくツルギは我を取り戻す。

 

「ダークマスターは、あのミッションをクリア出来たのか、ってな」

 

「ダークマスターって……ツルギさんが捜してるダイバー、でしたっけ」

 

「正確には、次元覇王流拳法を知るダイバー、だったな?」

 

 サヤが若干の補足をしながら尋ねるが、ツルギの反応は芳しいものではなかった。

 

「GBNを始めて三ヶ月になるんですが、未だに情報の欠片も聞こえない。……本当にそんなダイバーがいるのかと疑問を思えるくらいに」

 

 そう。

 ツルギはGBNを始めてから三ヶ月の間、少し時間が空けばダークマスターなるダイバーのことを訊いて回っていた。

 しかし、去年のフォーストーナメントを優勝に導いた、ワールドランク1位のダイバーである、と言うこと以外の情報はまるで聞かないのだ。

 ログインしている回数がそもそも少ないのかも知れないが、それにしては影も形も幻も見当たらず、噂のひとつも聞こえない。

 

「ただ単に俺の運が悪いだけ、と思いたいですがね」

 

 そんな風にツルギが薄く笑った時、フォースネストに来客を告げるインターホンが鳴る。

 

「俺が出よう」

 

 サヤはコンソールパネルを開き、コール音に応じる。

 

『む、入浴中だったか?』

 

 コンソールパネルの画面に現れたのは、フォース・サンダーバードのリーダー、ローランだった。

 

「ローランさん?すぐに出ますので、少し待ってもらえますか」

 

 一度通話を切ると、サヤは湯船か上がる。

 

「俺は先に上がるな」

 

 ツルギとミーシャに一言告げてから、サヤは小走りで脱衣所へ向かう。

 

 

 

 

 

 手早く着替えを済ませ、サヤはフォースネストの玄関を開いて、待っていたローランを迎える。

 

「すみません、お待たせしました」

 

「こちらこそ、急かせてしまったようですまないな、サヤ君」

 

「立ち話もなんです、中へどうぞ」

 

 サヤはローランにフォースネスト内に入るように勧め、ローランはそれに頷いた。

 

 スピリッツとサンダーバードは、以前にこのフォースネストを賭けてのフォースバトルを行ったこともある。

 そのため、物件情報を調べに来たことのあるローランも、このフォースネストもある程度は把握していた。

 

 来客も考慮した作りである和室に、サヤとローランは座布団に腰を下ろす。

 

「早速で申し訳ないがサヤ君、我々に協力してほしいことがある」

 

 サヤが淹れた茶を啜る間もなく、ローランは早急に用件を持ち出してきた。

 

「協力、と言うと?」

 

 何を協力してほしいのかと、サヤは尋ねる。

 ローランは神妙な面持ちで頷いた。

 

「君達なら既に察しているとは思うが……新型ブレイクデカールのことだ」

 

「……やはり、そのことでしたか」

 

 サヤも以前から薄々と感じていたが、この間のミーシャとマホとのバトルでほぼ確信に至った。

 

 新型ブレイクデカールの脅威は、未だ健在であることに。

 

「確かに、反マスダイバー連合によって新型ブレイクデカールの被害件数は激減した。だが、全くのゼロになったわけではない」

 

 そこで、とローランはコンソールパネルを呼び出し、待機させていた画面を開いて見せた。

 

「我々サンダーバードは、新型ブレイクデカールの根源はどこからなのかを調査している。そして、大凡の目星も既に付けられている」

 

 ローランの示す画面には、GBN全体を映したワールドマップが広げられており、その中にいくつかのマークが点滅している。

 

「このマーキングされている部分が、新型ブレイクデカールが新たに発生したと思われる場所を指している」

 

「俺達スピリッツと、ローランさん達サンダーバードが、手分けしてこの場所を探る、と言うことですね」

 

 サヤはローランが何を求めているのかを読み取るが、少しだけ違った。

 

「いや、君達の中で手を貸してほしいのは、サヤ君だけでいい。あまり大人数で動くと黒幕に気取られ、逃げられる可能性がある」

 

 リスクは承知の上で少数精鋭で攻める、とローランは言う。

 

「各隊は基本的にツーマンセルで行動。サヤ君には私の補佐をお願いしたい」

 

「……随分と俺のことを買ってくれますね。過分な期待に応えられるよう、微力を尽くします」

 

 サヤにとっては、かつて敵対しつつも認め合った好敵手とも言える人物の補佐を務めると言う大役を任せられ、内心は小躍りしつつも謙虚に頷いた。

 

「では、作戦決行は二日後の17:00でいいかね?」

 

「了解です」

 

 

 

 それからもう少しだけ、サンダーバードの作戦調整を行ってから、ローランはフォースネストを後にしていった。

 ローランのガンダムDXがリニアカタパルトに打ち出されるのを見送ってから、サヤは振り返った。

 その先にあるのは己の愛機である、ガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルがハンガーに納められている様。

 

「俺にも、探している相手がいるんだったな」

 

 脳裏に浮かぶのは、今でも鮮明に覚えている、あのストライクフリーダムガンダムとの邂逅。

 あの頃から、少しでも近付けただろうか。

 今でもここで奴と戦っても、勝てるかどうかは分からない。

 それに、あのストライクフリーダムガンダムも、加工や改造を受けて、姿形は変わっているかもしれない。

 だとしても。

 

「俺はあくまでも"俺"だ。……そうだろ、相棒」

 

 目の前に立つ深緑の風翼(ヴィントフリューゲル)は何も応えない。

 ただ、黙って頷いてくれたように感じた。

 

 

 

 

 

 二日後。

 予めフォースメンバー達には「私用につき、ソロで行動させてもらう」と伝えていたサヤは、一人でフォースネストのカタパルトデッキで出撃準備を整え、コクピットに滑り込む。

 

「サヤ、ガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲル、出撃します!」

 

 音声入力によってリニアカタパルトが起動、火花を散らしながらガンダムAGE-2ヴィントフリューゲルが、紅葉と共に舞い上がるように飛び立つ。

 出撃完了と同時にフライヤーフォームへと変形、ローラン達フォース・サンダーバードの面々が待つエリアへ急行する。

 

 

 

 

 

 程なくしてサヤは、先日に予定していた合流地点に到着した。

 既にローランのガンダムDXが到着しており、片膝立ちの体勢で待っていた。

 

「お待たせしました、ローランさん」

 

 サヤはガンダムAGE-2ヴィントフリューゲルをMS形態に変形させて着陸する。

 

「いや、それほど待ってはいない。時間通りに来てくれて何よりだ」

 

 さて、と呟いてから、ローランはガンダムDXを立ち上げさせて、時刻を確認する。

 後数分で17時ちょうどになる頃合いだ。

 ローランはそれぞれ別の地点にいるメンバー達に共通回線を開く。

 

「総員に告ぐ。これより我々は新型ブレイクデカール、その根源たる存在の調査を行う。先日に伝えた通り、敵機に遭遇した場合は攻撃を許可するが、隠密作戦故、出来るだけ交戦は避けてくれ。何か真新しい発見があればすぐに報告し、証拠物も必ず回収すること。良いな」

 

『『『『『了解』』』』』

 

 フォースメンバーからの応答を確認し、ローランは頷く。

 ちょうど、時刻が16︰59から17︙00に切り替わった。

 

「作戦、開始」

 

 同時に回線が切られて、GBN各地でサンダーバードのメンバーのガンプラが動き出す。

 

「サヤ君、これよりマークポイントへ向かう。準備は良いか?」

 

「問題ありません、いつでもどうぞ」

 

「よし。では……始めるとしよう」

 

 ローランのガンダムDXが先行し、サヤのガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルがその一歩後ろに控える形で追従する。

 

 

 

 

 

 ーーその様子を岩陰から、GBNガードフレームが覗いていたことに気づく事もなく。

 GBNガードフレームは、ガンダムDXとガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルが見えなくなるまで監視を続けると、微かにアイカメラを光らせ、そこから離脱しようとして、

 即座に赤熱化した斧刃が振り下ろされ、GBNガードフレームは頭から股間を真っ二つに叩き割られた。

 

 叩き割られた頭部からデータを回収するその機体は、破壊したGBNガードフレームのデータの破片ひとつ残さず消してから、飛び去った。

 

 

 

 

 

 サーバーゲートを通過、ガンダムDXが着陸し、続いてガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルもフライヤーフォームからMS形態へ変形して着陸する。

 

「間もなくポイントに到着する。帰還するまでが作戦だ、気を抜くなよ」

 

 ローランがサヤに注意を呼び掛ける。

 以前の反マスダイバー連合の先遣隊が罠に嵌められた例を警戒している。

 もぬけの殻と見せかけて一網打尽にさせられたのだ、否が応でも警戒心を強めるローラン。

 

「了解」

 

 サヤも十分以上に緊張の糸を張る。

 

 この地点は、ヨーロピアン・サーバーのルクセンブルク。

 ガンダム作品的には、『W』においてトレーズ・クシュリナーダが幽閉されていた場所であり、その彼の意向によって密かにガンダムエピオンが開発されていた場所でもある。

 ちょうど、そのシーンを再現しているのだろう、古城が見える。

 あそこがマークポイントだと、ローランは言う。

 両機はライフルを油断なく構えつつ、ルクセンブルクの古城に接近する。

 

 接近して十数秒が経過するが、周囲には依然として何の異変も起きない。

 しかしここで油断することを、見えない敵は狙っているのだろう。

 ローランは数秒の思考の後、サヤと接触回線を繋ぐ。

 

「私は城の中を調べる、サヤ君は周囲の警戒を頼む。何かあればすぐに伝えてくれ」

 

「分かりました。……まさか、中でエピオンが保管されているとは思いませんが、気を付けてください」

 

「無論だ」

 

 サヤが頷くのを確認してから、ローランはガンダムDXを跪かせて、コクピットハッチを開けて自身は降り立つ。

 懐に忍ばせていた拳銃を抜くと、ローランは開いたままの城門を潜り、城内へ突入する。

 

 

 

 

 

 同時刻、シベリア。

 

 サンダーバードのメンバーであるMA形態のアンクシャと、その上に乗っているガンダムヴァサーゴは、上空から線路を走る貨物列車を見下ろしている。

 シベリアの世界観の追求と言う点であれば、二機ともこの貨物列車を無視していただろう。

 それが無視するどころか、注意深く凝視する理由がある。

 

『……間違いない、新型ブレイクデカールの反応だ』

 

 アンクシャのダイバーは、コンソールが表示している赤紫色の『BREAK DECAL』と言う文字に目を細める。

 その反応は、列車の貨物コンテナからだ。

 

『破壊するか?』

 

 ガンダムヴァサーゴはいつでも腹部のメガソニック砲を発射出来るように身構えている。

 

『いや、まずは列車を止めさせるぞ』

 

 アンクシャは破壊するよりも前に、列車を止めさせて貨物を調べるべきだと進言する。

 ガンダムヴァサーゴもそれに頷くと、アンクシャの上から飛び降り、背部ラジエータープレートを翻して急降下、貨物列車の進路を塞ぐように着地し、貨物列車へクロービーム砲を向ける。

 この貨物列車はあくまでも再現のためのオブジェクトに過ぎないため、無人で動いているが、目の前に障害があれば停車する。

 停車した貨物列車の後ろから、アンクシャは着地、慎重に貨物コンテナに近付こうとするが、突然アラートが鳴り響いた。

 

『やはり罠か!』

 

 アンクシャは瞬時に飛び下がって貨物コンテナから離れる。

 

『コンテナを壊すぞ!』

 

 ガンダムヴァサーゴは貨物コンテナに回り込み、延伸腕を伸ばしながらストライククローを振り抜いた。

 鉤爪はコンテナを叩き潰し、列車を横転させる。

 横倒しになったコンテナにはーー何も入っていなかった。

 

『空っぽ?』

 

『どうやら俺達は、"ハズレ"を引いたみたいだな』

 

 であれば、もうここに用はない。

 アンクシャは再度MA形態に変形し、その上にガンダムヴァサーゴが乗り込み、その場から離脱する。

 

 

 

 もう一方、シベリア鉄道のその上空。

 サンダーバードのユニオンフラッグと、ローターパックを背負ったジム改は、コンテナ輸送機を捕捉していた。

 一見はただの輸送機だが、ジム改のバイザーは確実にそれが新型ブレイクデカール反応のあるものだと読み取っている。

 ユニオンフラッグは左マニュピレーターの親指を下に向けて、ジム改も同様にそれを返す。

 

 撃ち落とせ、と言う意味だ。

 

 ジム改は担いだハイパーバズーカのトリガーを引き、放たれた砲弾が輸送機の楊力翼を粉々に吹き飛ばす。

 バランスを崩した輸送機は、黒煙を吹き出しながら急速にその速度と高度を落としていく。

 続いてユニオンフラッグが加速して輸送機に接近すると、プラズマソードを抜刀、機関部にそれを付き立てる。

 エンジンを焼き切られた輸送機は爆発、本体からコンテナが弾き飛ばされ、地表に落下した。

 

『ターゲットを回収する』

 

 ローターの回転を止め、同じく着陸したジム改はコンテナに接近する。

 アラートが鳴り響くが、構わずビームサーベルでコンテナの蓋を切り落とし、その中を確認する。

 

『……ダミーだったか』

 

 コンテナの中は何もない。

 念の為、コンテナ自体に何か仕掛けが無いかと調べてみるが、何の捻りもないただの箱でしかない。

 どうやら、ここも"ハズレ"らしい。

 

 

 

 

 

 ルクセンブルクの古城の近くで、サヤのガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルは視界を左右させて辺りを警戒していた。

 何もないわけが無い、必ず何かが来る。

 いつ来るとも分からない見えない脅威に、サヤは神経を擦り減らしながらも目視とレーダーを見比べる。

 

「ローランさんなら、大丈夫だと思うが……」

 

 何か、こう、チリチリするようなザラザラするような、トースターに焼かれた食パンのような、上手く形容出来ない不快感。

 見る、聞く、嗅ぐ、触れる、味わう……五感のどれにも当てはまらない、

 

 不吉な第六感。

 

 気が付けばサヤは、ローランとの通信回線を開いていた。

 この嫌な予感は、決して無視していいものではない。

 だが、コール音ばかりが繰り返されるばかりで、一向に繋がらない。

 

「(まさかっ、中で何かあったのか!?)」

 

 同時に、センサーに感あり。

 一機のガンプラが接近してきている。

 サヤは弾かれたようにそちらへ反応し、反射的にハイパードッズライフルとフリューゲルカノンを向けた。

 

「(敵は一機……いや、敵じゃない?)」

 

 目視ギリギリの距離から見えたのは、黒金のνガンダムーーフォース・ロイヤルナイツのリーダー、ノエルのエーデルνガンダムだった。

 エーデルνガンダムもビームレイピアを構えて、その相手が知り合いであったことに気付いたようで、その足を止めた。

 サヤは慌てて武装を下げると、光通信で「攻撃の意志は無い」と告げる。

 向こうもサヤの意図を汲み取り、警戒させないように歩行でガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルに近付く。

 

『知り合いに向かっていきなり銃を向けるとは、随分と穏やかではありませんわね』

 

 ノエルは咎めるようにサヤに広域回線で話し掛ける。

 

「すまない、注意し過ぎたようだ」

 

『注意し過ぎに越したことはありませんが、貴方はここで何をしてらっしゃるの?』

 

 ルクセンブルクの古城近くでピリピリしながら突っ立って入れば、ノエルがそう尋ねるのも自然だった。

 しかしサヤはその質問に答えるよりも先に、自分の意見を押し付けた。

 

「ノエル、通りすがりのところ申し訳ないが、俺の代わりにここを見張っていてくれ」

 

『は?突然何を……』

 

 困惑するノエルを尻目に、ガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルは片膝立ちになり、サヤはコクピットから滑り降りて、城内に駆け出した。

 

『なっ、お、お待ちなさいッ!事情を説明し……』

 

 ノエルが制止を呼びかけるものの、既にサヤは古城の中にいて聞こえなかった。

 

 

 

 

 

 灯りのない暗闇の中、ローランは周囲を警戒しながら、慎重に足音を忍ばせ、壁伝いに進む。

 階段を降りて、廊下を渡り、観音開きのドアを見つける。

 ドアの隙間から、薄ぼんやりとした光が漏れている。

 

「(この先に何がある……?)」

 

 ドアノブに手を掛け、捻ってみる。

 鍵は開いている。

 一呼吸を入れ換えてから、意を決してローランはドアを蹴破ると、即座に拳銃を構えながら地下室の中を見渡す。

 

 誰もいない。

 

 それを確認してから、部屋の奥を見やる。

 薄ぼんやりとした光の光源とは、微かな光量しかない小さなライト。

 ローランはそれに歩み寄り、見上げる。

 それは、MSハンガーに掛けられた、ガンプラだった。

 

 ガンダムフェイスの上から、目元を覆うマスクを被せたような頭部。

 脇腹から背中に掛けて伸びる露出したケーブル。

 白灰色一色の装甲に見えるが、それは本来、薄暗いトリコロールカラーのはず。

 

 それらの特徴から、ローランはそれが何かを読み取った。

 

「"プロヴィデンス"か……?」

 

『SEED』の最終局面にて姿を現し、圧倒的な戦闘能力を見せつけたラスボス機『プロヴィデンスガンダム』のそれだった。

 しかし、プロヴィデンスガンダムの象徴とも言える背部のドラグーン・システムのプラットフォームが存在しない。

 

「しかし、こんな場所で何故こんなものが……」

 

 誰かがプロヴィデンスガンダムの改造機を未完成のままで使っている、と言うのならまだ納得出来るが、場所が場所だ。

 ルクセンブルクは、拠点として機能していない。

 GBNにログインする際、ベースエリアのエントランスロビーか、フォースに所属していればフォースネストかのどちらかからスタートすることになる。

 そのため、普通のプレイではこんなところでガンプラを保管することは出来ない。

 

 普通のプレイであれば、の話ではあるが。

 

 ローランは一旦頭に浮かぶ疑問符を除外し、地上にいるサヤと通信を繋ぐ。

 数回ほどコール音が鳴っても、サヤからの反応はない。

 

 

 

 ーー同じ頃、サヤもローランに通信回線を開いているにも関わらずーー。

 

 

 

 もう少しだけ待って、それでも繋がらなければ諦めて一度戻ろうと考えるローランだが、不意に通信が繋がった。

 

『あー、あー、テステス、マイクテスト、本日も晴天なり』

 

 サヤの声ではない。かと言って他のメンバーの声でもない、顔の見えないサウンドオンリーの男の声。

 ローランは背筋に冷たいものが伝う感覚を覚えた。

 

「……何者だ?どうやって我々の通信回線に割り込んできた?」

 

 ローランはそう問いながらも、少しだけ解いていた警戒を一気に引き締め直す。

 

『勝手に通信を繋げたことは謝罪しよう。この通信は普通の回線ではなく、暗号コードとシークレット回線で繋げているものでな』

 

 まぁそんなことはどうでもいい、と強引に話を変える。

 

『早急にそこから離れた方が良い。自分のログデータが惜しいなら尚更だ。新型ブレイクデカ……』

 

 不意にブヅンッ、と回線が切れたような音声が鳴った。

 通信の相手が何者かは知らないが、そこから離れた方がいいと言うのは、言葉通りの意味だろう。

 

 確かに、長居をするべき場所ではない。

 ローランはこの場の調査を打ち切り、速やかに地上に戻ろうとする。

 が、

 

『人の家に土足で入らないで欲しいな』

 

 ガシュゥンッ、と音を立ててプロヴィデンスガンダムのコクピットハッチが開いた。

 コクピットから降りてきたのは、金色の瞳をした、髪も肌も真っ白な少女のようなダイバーだった。

 

「ッ!?」

 

 ローランはその姿を見て、弾かれたように目を見開いた。

 彼のたじろぐ様子に、ダイバーは小さく微笑を浮かべる。

 

「……あぁ、僕の容姿に見覚えがあるんだね。でも残念。僕は、『君が知っている"私"じゃない』」

 

「何を言っているんだ……?」

 

 そう言いながらも、ローランは"彼女"の言葉を否定出来なかった。

 ローランは"彼女"を知っている。

 否、知っている……はず、"だった"。

 

「僕の名前はエル。君達が知っているはず"だった"存在だよ」

 

 過去形だった。

 

 彼女は彼女であったのに彼女ではなかった?。

 彼女は彼女ではなかったのに彼女であった?。

 

 何か変だ。

 

 何か違う。

 

 何かおかしい。

 

 

 

 ーーこいつは明らかな異常だ!絶対に関わってはいけないッーー!!

 

 

 

 本能が激しく警鐘を鳴らし、今すぐここから逃げろと足の筋肉が疼く。

 しかし、このエルと言う、敵か味方かも不鮮明な存在が何かを知っている可能性も捨てきれない。

 

「さて、ここでひとつ言葉遊びです」

 

 ローランの意など全く介していないように、エルは口を開いた。

 

「A=B、B=Cであるとする。

 では、A=Cと言う式は成り立つか?」

 

 突然何を言い出すのか、とローランは混乱したが、一度思考を働かせて、言葉遊びに付き合うことにした。

 

「……AとBが同じもので、Aと同じであるBがCとも同じであるのなら、A=Cと言う式は成り立つ」

 

「うん、確かにその通り。数学的に、って言うか普通に考えたら当たり前だよね。……だけどそれじゃぁ75点」

 

 問題には正解したが、エルを満足させられる解答ではなかったらしい。

 

「なら、残りの25点はどう答えれば獲得出来たのだ?」

 

「良い質問だね。それなら、君と僕は同じ存在だと言われたら、どう答える?」

 

「……それは違う。君と私は名前も性別も、体つきも顔も、何もかも違う」

 

「じゃぁ、さっきのA=B=Cは?その式が成り立つなら、僕と君は同じ存在もののはずだよ」

 

「その式に当て嵌めるのなら、君も私も同じ人間として括られることになるな」

 

 ローランはそのように答えたが、

 

 

 

「じゃぁ、人間じゃなかったら?」

 

 

 

 エルはさらに問題を重ねた。

 

「ロボットでも人工生命体でも、この際実体が無くてもいいや。人間以外の命も、その式に当て嵌められるかな?」

 

「それは……、…………」

 

 二の句を言葉を出来なかった。

 いくら同じものであると言う式が成り立つのだとしても、それはさすがに違うのではないか?

 

「はい、時間切れ。元マスダイバーの君なら、僕のことも理解してくれると思ったんだけど……」

 

 軽く瞼を閉じてーー開き直せば、エルの金色の瞳が妖しく輝く。

 

「残念だな」

 

 その輝きに反応するように、エルの後ろで立ち尽くすプロヴィデンスガンダムのツインアイが光り、PSフェイズシフトの起動によって装甲が色づくと、ダイバーによる操縦も無しに一人でに動き出し、ハンガーから降りた。

 

 ローランは悟った。

 

 奴はここから生かして返すつもりはない、と。

 

「撃て、プロヴィデンス!」

 

 エルのその声と共に、プロヴィデンスガンダムは頭部をローランに向けると、側頭部の機関砲『ピクウス』を速射してきた。

 

「クッ」

 

 ローランは床を蹴って身を翻すと、自分が入ってきたドアに飛び込む。

 間一髪、76mmの弾丸の雨が0.5秒前までローランがいた位置を抉った。

 それに安堵する隙もなく、ローランは脱兎のごとく廊下と地下階段を駆け上がる。

 地下室から一階に戻って来ると、何故かサヤが城内に入ってきていた。

 

「あっ、ローランさん!良かった、無事だったんですね!」

 

「サヤ君っ、何故ここに……いや、今はそれよりも脱出す……」

 

 ここで足を止めている場合ではない、ローランは説明などは全て後回しにして、サヤに古城から脱出するように言い付けようとして、

 

 ビシュゥンッ、と鼓膜が麻痺するような轟音と共に、ライトグリーンの破壊光線が古城の壁を突き破った。

 

「なっ、これは一体!?」

 

 サヤは何が起きたのか理解しきれなかったが、ローランの鬼気迫る様とこの惨状を見て、「とにかく今は逃げる」のだと察する。

 

 

 

 

 崩落するルクセンブルクの古城から、命からがら脱出して来た二人は、息つく暇もなくガンプラに乗り込んだ。

 何が何だか分けの分からないままここの見張りをさせられていたノエルは、戻ってきたサヤに怒鳴る。

 

「貴方ッ、いくら何でも勝手が過ぎますわ!一体何がどうなっているのか……」

 

 説明しなさい、と言いかけたところで新たなレーダー反応が現れた。

 崩落する古城の屋根を、ライトグリーンのビームが突き抜け、そこを突き破って何かが飛び出してきた。

 

「あれは……プロヴィデンスか!?」

 

 サヤは瞬時に臨戦態勢を整えて、現れたその機体ーープロヴィデンスガンダムを見据える。

 背部のドラグーン・システムと、左腕の複合防盾は装備されていないようだが、少なくとも建造物を簡単に破壊するほどの出力を持った、『ユーディキウム・ビームライフル』だけでも十分脅威になり得る。

 

「プロヴィデンス?何故あの機体があんなところから……」

 

 ノエルのエーデルνガンダムもビームレイピアを抜き放って臨戦態勢を構える。

 

「サヤ君、それとノエル嬢か?」

 

 ローランもガンダムDXにバスターライフルとディフェンスプレートを油断なく構えさせると、二人に回線を繋ぐ。

 

「気を抜くなよ、"アレ"は……私達を生かしておく分けにはいかないようだ」

 

 彼の声は重苦しい。

 つまり、あのプロヴィデンスガンダムは強敵ーーそれもかなり危険なレベルであるらしい。

 

『少々予定から外れてしまったけど……十分取り戻せる。だからーーーーー消えてもらうよ』

 

 本来のものではない、流用品だろうビームサーベルを左手に抜き放つと、プロヴィデンスガンダムは三機に襲い掛かった。

 

 ローランはバスターライフルで牽制しながらも瞬時に二人に指示を飛ばす。

 

「私が前に出る、サヤ君とノエル嬢は援護を頼む!」

 

「「了解」」

 

 それと同時にガンダムDXが突進し、ガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルとエーデルνガンダムが左右から挟み込むように機動する。

 バスターライフルを撃ちながらも、ブレストランチャーを速射して牽制を掛けるガンダムDX。

 対するプロヴィデンスガンダムは、バスターライフルのビームはビームサーベルを振るって弾き返し、ブレストランチャーの銃弾は細かな機動で潜り抜けていく。

 

「ドラグーンの無いプロヴィデンスなど……フィンファンネルッ!」

 

 ノエルのエーデルνガンダムは、左肩のフィンファンネルを切り離して自身の周囲に展開させると、フルバーストの要領で放つ。

 それに呼応するように、サヤのガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルは、ハイパードッズライフルとフリューゲルカノンによる三つのビームを発射。

 

 十数筋もののビームがプロヴィデンスガンダムの両側面から襲いかかるものの、プロヴィデンスガンダムは僅かに機体を逸らすだけで、それら全てを全ての隙間を縫うようにやり過ごしてしまった。

 

『まずは君からだ』

 

 プロヴィデンスガンダムは、ユーディキウム・ビームライフルを四発ほど連射しながらさらに加速、ローランのガンダムDXへ肉迫する。

 

「くっ!?」

 

 散発的に見えるその射撃は、確実にローランの逃げ場を潰している。

 左右にも上にも避けても必ず被弾する弾道だ。

 それを瞬時に理解できたのはせめてもの幸いか、ガンダムDXは正面からのビームをディフェンスプレートで受ける。

 しかし、ユーディキウム・ビームライフルは出力、貫通力共に凄まじいらしく、たった一射を受けただけでディフェンスプレートが使い物にならなくなってしまう。

 ローランはすかさず左のアームレイカーを入力、ディフェンスプレートを左腕のマウントラッチから切り離す。

 

「させませんわっ!」

 

 そのままガンダムDXに接近しようとするプロヴィデンスガンダムを塞ぐように、エーデルνガンダムのフィンファンネルの二基が割り込んでは、ビームを放つ。

 

『邪魔だ』

 

 プロヴィデンスガンダムはビームを往なすと、ニ基のフィンファンネルの内、一基はビームサーベルで斬り裂き、もう一基はユーディキウム・ビームライフルを鈍器にして殴り潰した。

 

「私のフィンファンネルを!?」

 

 あり得ない、とノエルは驚愕する。

 数多のビーム攻撃を弾き返し、鉄壁とも言える強度を誇ったフィンファンネルが、まるで虫を払うかのように破壊されたのだ。

 結果、プロヴィデンスガンダムがガンダムDXに接近するまでの時間稼ぎにすらならなかった。

 

「無理するなっ、私がこいつを足止めする!」

 

 ガンダムDXは左手にハイパービームソードを抜き放ち、プロヴィデンスガンダムのビームサーベルを迎え撃つ。

 翡翠色の大剣がごときビーム刃が、通常のモノと何ら変わらないサイズのビームサーベルが激突する。

 

 本来ならガンダムDXのハイパービームソードが押し返して然るべきはずなのだが、プロヴィデンスガンダムのビームサーベルは、逆にハイパービームソードを押し返している。

 それでも、ほんの数秒でもプロヴィデンスガンダムの足が止まる。

 

「外すものか……」

 

 サヤは瞬時にロックオンマーカーをマニュアルで動かし、ガンダムDXと鍔迫り合いをしているプロヴィデンスガンダムの脇腹に、ハイパードッズライフルの照準を合わせようとするが、

 プロヴィデンスガンダムは鍔迫り合いの最中にも関わらず、ユーディキウム・ビームライフルをガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルに向けて撃ってきた。

 

「なっ……!?」

 

 狙撃に集中していたサヤは、辛うじてハイパードッズライフルを盾にするしかなく、ハイパードッズライフルもろとも右腕を失い、爆発に吹き飛ばされる。

 

「なんて奴だ……!」

 

 どうにかガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルの姿勢制御を行いつつ、サヤは歯噛みする。

 

 なおもプロヴィデンスガンダムのパワーは健在で、ローランのコンソールが、ガンダムDXの左腕に負荷が掛かり過ぎていることをレッドランプを点滅させながら伝えてくる。

 このままでは、左腕が折られ、そのままガンダムDXは斬り裂かれる。

 

「ちぃっ」

 

 ローランは勢い良くアームレイカーを後ろに引き戻し、ガンダムDXはビームサーベルを弾きながら急速にバックホバー機動してプロヴィデンスガンダムから距離を取る。

 ビームサーベルを空振りするプロヴィデンスガンダムだが、それに気をすることもなくーーすぐさま背後に振り返り様にビームサーベルを振り抜いた。

 

 再度、ビームサーベル同士の激突。

 

 プロヴィデンスガンダムのビームサーベルは、今度はエーデルνガンダムのビームレイピアと鍔迫り合いを繰り広げる。

 

「えぇぃっ、今の攻撃を防ぐと言うの……ッ!」

 

 プロヴィデンスガンダムはビームレイピアを弾き返し、流れるように右脚を振り抜いてエーデルνガンダムを蹴り飛ばして、すぐにその場から跳躍した。

 

 その跳躍の0.5秒後に、DODS効果を帯びた一対のビームーーフリューゲルカノンが通り過ぎた。

 サヤは構わずにフリューゲルカノンを連射、ユーディキウム・ビームライフルによる反撃が来る前にフライヤーフォームに変形、急速離脱。

 

「強いな……だがッ!」

 

 続いて、ローランのガンダムDXが再びバスターライフルによる射撃を敢行、もはや温存などと言う文字通り生温い出し惜しみをしていては負けると即断、ヘッドバルカン、マシンキャノン、ブレストランチャーを一斉射撃。

 PS装甲に守られたプロヴィデンスガンダム相手では、バスターライフル以外は有効打にはならないが、体勢を崩すくらいの効果はある。

 だとしてもプロヴィデンスガンダムは被弾一つすらも許さないのか、その場でビームサーベルを手にした左腕を高速回転させて即席のビームシールドとして、ガンダムDXからの攻撃を全て掻き消していく。

 

 しかし、プロヴィデンスガンダムのビームサーベルは一本のみ。

 今この瞬間、それ以外の方向は全くのノーガードだ。

 

「……であれば!」

 

 既にエーデルνガンダムを起き上がらせ、機を窺っていたノエルは、残ったフィンファンネルを全基射出、プロヴィデンスガンダムの周囲を取り囲むように展開させる。

 ガンダムDXの一斉射撃はまだ続いており、ビームサーベルによる防御は解けないはずだ。

 プロヴィデンスガンダムの上下左右をフィンファンネルの砲口が捉えた。

 

「チェックメイト、ですわッ!」

 

 フィンファンネルが一斉にビームを放った。

 

『……なめるなッ』

 

 プロヴィデンスガンダムは僅かに挙動し、回転斬りをするかのようにその場で機体を一回転させ、蛍光ピンク色の波動が円を描きーーガンダムDXのビームと銃弾、フィンファンネルのビームすらも全て掻き消してしまった。

 

「これでもなお墜ちぬと言うのか……!?」

 

 ローランは目眩を起こしそうになった。

 

「不完全な機体が、こうまで……!」

 

 攻撃と言う攻撃が全く通じない現実に、ノエルは歯噛みする。

 近付けば不利、離れても無意味。

 しかしーー

 

「だとしてもォォォォォッ!!」

 

 上空から、ビームサーベルを抜き放ったガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルが、プロヴィデンスガンダムの斜め上から切り揉むように迫る。

 

 

 振るうビームサーベルに、雷電が尾を引きーー

 

「螺旋する先駆電導(スパイラル・ステップリーダー)ッ!!」

 

『ッ!』

 

 サヤの必殺技、螺旋する先駆電導(スパイラル・ステップリーダー)と、プロヴィデンスガンダムのビームサーベルが激突した。

 

 雷電と高出力のビームによる閃光が絡み合い、ルクセンブルクの雑草を消滅させていく。

 互角に見えた力と力の拮抗の天秤はやがてーー

 

 ガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルに傾いた。

 

「斬り裂けェェェェェッ!!」

 

 雷電を纏うビームサーベルが、プロヴィデンスガンダムのビームサーベルを押し切り、そのままプロヴィデンスガンダムの左腕を斬り飛ばした。

 

『チッ、たかが"人間"の分際で……!』

 

 すると不利を悟ったのか、プロヴィデンスガンダムは右肩に担いだユーディキウム・ビームライフルを捨てて踵を返すと、瞬く間にルクセンブルクから飛び去った。

 

「……逃げた、のか?」

 

 サヤは息を吐き出しながら、既にプロヴィデンスガンダムの消えていった彼方を見つめる。

 

「であれば、良いのですが」

 

 ノエルはエーデルνガンダムのフィンファンネルを左肩に呼び戻していく。

 

「よくやってくれた、サヤ君。君がいなければ、私達はやられていたかもしれなかった。ありがとう」

 

 ローランは、プロヴィデンスガンダム撃退の決め手となったサヤに感謝するが、そのサヤはすぐにローランに振り向いた。

 

「ローランさん、あの古城をもう一度調べましょう。崩れているとは言え、完全には……」

 

 あのプロヴィデンスガンダムがいた場所だ、何かあるに違いないとサヤは進言するものの、ローランはそれに対して首を横に振った。

 

「いや……私が一度見てしまっているのだ、あそこはすぐにでも爆破するなりして、証拠隠滅されるだろう。あのプロヴィデンスは随分な秘密主義らしいしな」

 

 彼がそう言うのを合図にしたかのように、古城が連鎖爆発を起こし、あちらこちらから火の手が上がる。

 あの様子では、もう一度調べようにも残っているのは灰と炭しか無いだろう。

 

「だが、分かるとすれば……あのプロヴィデンスは、新型ブレイクデカールについて何か知っている、という事だな」

 

 同時にローランは、プロヴィデンスガンダムのダイバーだったろう、エルの容姿を思い浮かべる。

 

「(あの容姿は間違いなく……いやそれよりも、『君が知っている"私"じゃない』とはどういうことだ?)」

 

 疑問は絶えないが、確かめる方法はない。

 せっかくの手掛かりも、爆破されてしまった。

 また一から調査しなくてはならないだろう。

 

 ふと、他のチームからの定時連絡が届く。

 

『こちらチームツヴァイ、手掛かりを発見出来ず』

 

『チームドライ、ダミー反応に引っ掛けられた』

 

 どうやら、他のチームからの報告は芳しくないものらしい。

 ローランも連絡を返す。

 

「こちらチームアイン、手掛かりを発見したが、証拠を隠滅された。これより帰還する」

 

 定時連絡を終えて、ローランはノエルと通信を繋ぐ。

 

「私とサヤ君はこれより帰還する。ノエル嬢、協力を感謝する」

 

「私はむしろ、サヤに巻き込まれただけですが……、微力でもお力になれたのであれば光栄ですわ」

 

 エーデルνガンダムは芝居がかったお辞儀を見せる。

 

「それはそうとして……あなた方は何を目的にここに?」

 

 ノエルはローランとサヤに事情を訊ねてきた。

 

 ローランは、自分達のフォース・サンダーバードは、未だ脅威である新型ブレイクデカールの出処を調査しようとしており、その助っ人としてサヤを招聘し、複数のグループに分かれて調査をしていた、と答えた。

 

「なるほど、そう言うことでしたか……」

 

 だから通りすがりの自分に見張りを勝手に頼んだのか、とノエルはサヤを睨む。

 

「勝手が過ぎました、すいません」

 

 ノエルに有無も聞かずに見張りを頼んだサヤは、素直に頭を下げた。

 素直に謝る相手をそれ以上詰め寄ることもせず、ノエルはエーデルνガンダムの踵を返す。

 

「では、私はこの辺りで失礼致します」

 

 プロヴィデンスガンダムが飛び去った方向とは反対へ、エーデルνガンダムは飛び去った。

 

「では、我々も帰還するとしよう」

 

 ローランに促され、サヤは帰りのサーバーゲートへ向かった。

 

 

 

 

 

 広大なインターネット世界であるGBNは、運営ですら全域を把握出来ていない。

 特に、人通りもなければ特殊なオブジェクトもない場所は、異常でもない限りはスルーされているのが現状だ。

 

 そんな人通りもなければ特殊なオブジェクトもないような、それこそ世界地図にも乗っていないような、夕暮れの無人島の岩陰に、プロヴィデンスガンダムは片膝を突いていた。 

 

「余計な手間が増えた……」

 

 プロヴィデンスガンダムから降りたエルは、足元で機体の状態をチェックしていた。

 左腕をまともに持ってかれているのだ、修復に掛かる時間は長い。

 

「……」

 

 エルのコンソールに『RUVIS SYSTEM』と言う表示が浮かんでいる。

 これを使えばプロヴィデンスガンダムの修復はすぐに済む……はずなのだが、いかんせんこれはまだ不完全だ。

 これが完全であれば、例えコクピットブロックを破壊されようと、機体の破片ひとつでも残っていれば一瞬で元通りなる。

 

 しかし、このシステムのベースとなったソレは、生憎のところそれは運営の修正パッチによって全て無効化されてしまっているのだが。

 

「仕方ない……"ゼロ"の中でやるしかないな」

 

 エルが溜息を吐いたその時だった。

 

 

 

「ほっほぅ、その"ゼロ"とは何なのか……興味があるな」

 

 

 

「!?」

 

 突然、どこから声が聞こえたのを感じ、エルはバッと辺りを見回す。

 すると、いつの間にそこにいたのか、片膝を着いたプロヴィデンスガンダムの陰から、胡散臭い笑みを浮かべる男ーーカゲトラが現れた。

 

「誰だっ」

 

 エルは懐から拳銃を抜くと、カゲトラに銃口を向けた。

 

「おっと、突然で申し訳ない。俺の名はカゲトラ、ご覧の通り人間だ。とりあえず銃を下ろしてほしいものだな」

 

 パッと両手を上げてホールドアップするカゲトラ。

 

「……そうかい。それで、僕に何の用?」

 

 カゲトラの言う通り、ひとまず拳銃を下ろすエル。そのトリガーに指を掛けたままだが。

 

「話はトントン拍子で進んだ方がいい。そうだろう?」

 

 カゲトラはニヤリと笑みを深めた。

 

 

 

 

 

「ELダイバー・サラ」

 

 

 

 

 

 

 バァンッ、と乾いた銃声が夕焼けに溶け消えたーーーーー。

 

 

 

 

 

 

【次回予告】

 

 ハルナ「そう言えば、そろそろマッチングバトルの開催時期だね」

 

 ツルギ「なんだそりゃ?」

 

 サヤ「1デイトーナメント方式で行われるバトルイベントでね、個人戦とフォース戦の二つがあるんだが、今回はフォース戦のようだな」

 

 ミーシャ「レイドバトル前の腕試しってことですね」

 

 ユイ「それで、マッチング結果は……」

 

 ツルギ「次回、ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツ

 

 『フルメタルシェパード、再び』」

 

 ヤイコ「上等……この間の借り、たっぷり返してやろうじゃねぇか!!」

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