ELダイバー・サラ。
五年前のブレイクデカールの存在を知っていた者であれば、誰もが見聞きしたことがあるだろう。
GBNにガンプラのデータがスキャン、転送される際に生じる、1/1000000程度の余剰データが蓄積されて生まれた、自我を持ちながらも肉体を持たない電子の生命体ーー全く新しい形の"命"だった。
普通ならば、新たな可能性の発見であると謳われるところであったがーーしかしその存在は、記憶や感情の蓄積によってGBNの内部データ容量を喰い尽くす害虫(バグ)そのものだった。
ダイバー達はその新たな可能性を見ても何も感じなかった。
そればかりか、GBNへの害だと知れば、諸手を上げてデリートすることを喜んだ。
まるで、ニュータイプの存在を恐れた、オールドタイプのようだった、と後の誰かが語ったと言う。
しかし、そのELダイバー・サラのフォース『ビルドダイバーズ』と、そのアライアンスや個人的な協力者達による死闘の末、ELダイバー・サラは一度リアル世界に転送され、ガンプラと言うプラスチックの肉体を得たことにより、GBNの内部データを圧迫させることも無くなり、その存在を認められるようになった。
五年が経った今も、その彼女は東京のガンダムベースのマスコットキャラクターとして、今日も生きている。
乾いた銃声が夕焼けの中に溶け消えたーーーーーが、
「まぁ待たれよ、いきなり撃つこともなかろう」
放たれた銃弾は間違いなくカゲトラの顔面を撃ち抜いていた……はずだった。
銃弾は、その2cmほど寸前でカゲトラの人差し指と中指で掴み取られていた。
「その名前で僕を呼ぶな、不愉快だ」
エルは硝煙の洩れる拳銃を向けたまま、忌々しげにカゲトラを睨む。
「ふむ、では何と呼べば良い?」
カゲトラはエルに一歩歩み寄った。
「エルでいい」
「では、エルよ。貴様の目的を聞かせてもらいたい」
「……何のことかな」
「そう惚けずとも良い。新型ブレイクデカールをGBN内に蔓延させているのは、貴様だろう?」
「……」
ピクリ、とエルの眉が微動した。
それを見て、カゲトラは人の悪い笑みを浮かべた。
「やはりそうか。まぁそれは予定調和だ、貴様があのワンワン……フルメタルシェパードと言う、運営に敵愾心を抱く相手と共に行動している時点で、怪しいと踏んでいたからな」
それよりも、と人の悪い笑みを消して、カゲトラはもう一歩踏み出す。
「貴様の目的とは、如何なるものだ?かつてのシバ・ツカサのように、このGBNを崩壊させることか?」
カゲトラの問い掛けに対して、エルは鼻で嘲笑った。
「馬鹿なことを言う……GBNを崩壊させてしまったら、この世界でしか生きていけない電子生命体は死んでしまうんだよ?」
「ふむ、それもそうか。では、次の質問だ」
この目の前にいる電子生命体の目的のことは一旦置いておき、カゲトラは話を進める。
「貴様は、『何者だ』?……あぁ、電子生命体(ELダイバー)と言うのは先刻承知済みだから、それ以外で頼む」
「その先刻に君が言った通りだよ。僕は、GBN内部に蓄積される、ほんの0.000001%以下のデータの集合体、ELダイバーさ。それ以上でもそれ以下でもない」
「そうか……」
何喰わぬ顔で言ってのけるエルに、カゲトラは元々悪い目付きを細め、顎先を指で触れる。
「月のサーバーゲートのバグは……いやしかし、アレは一時的なものだったはず。だとすれば、ヒメカワ達が接触したと言う三人組との関連性は……ふむ……」
ブツブツと独り言を零すカゲトラ。
「用が済んだなら、僕は失礼するよ。人を待たせているからね」
エルは片腕を失ったままのプロヴィデンスガンダムを見上げる。
「まぁ待て、質問はまだあるぞ。貴様の言う、"ゼロ"……どうやら場所のようだが、どこを指しているのかを知りたい」
さっきの思考を一旦棚上げにして、カゲトラはエルに向き直るが、
「さようなら」
そのエルは質問を無視し、プロヴィデンスガンダムに乗り込むと、そのまま無人島を飛び出して水平線の向こうへ消えてしまった。
カゲトラはそれを黙って見送っていた。
ーーエルの消えた方向に文字化けした空間が発生し、その中へプロヴィデンスガンダムが入り込むのも。
「なるほど……"ゼロ"とはそういうことか」
それだけを呟いて、銃弾をアイテムボックスに納めてから、カゲトラは海に飛び込んだ。
海底には、カゲトラのザクⅠが沈んでいた。
外部のスイッチを押してコクピットハッチを開き、その中へ潜り込む。
すぐにハッチを閉めずに、そのまま浮上、完全に機体を海中からだしてから排水、それからハッチを閉め直す。
カゲトラは先程アイテムボックスに納めた、エルが撃った銃弾を手元に転がす。
「さて……忙しくなるな」
カゲトラの呟きに応えるように、ザクⅠの蛍光ピンク色のモノアイが不気味に輝いた。
サヤがローラン達フォース・サンダーバードと共に、新型ブレイクデカールの調査から帰還して来て数日。
夏休みも残り僅かになった時、学生達は基本的に3パターンに分かれる。
一つ目は、早々に課題を終わらせているために暇を持て余している者。
二つ目は、毎日少しずつ課題を消化しているため、慌てずにいつもと同じように過ごす者。
三つ目は、いい加減に課題に手を付けなければならないと大慌てで取り掛かっている者。
幸い、フォース・スピリッツに三つ目のパターンになる者はおらず、安心してGBNに没頭している。
そのフォースネストのエリア内の、森林地帯の白刃の滝を前に、ツルギは立っていた。
現実であれば、文字通り身を切るような冷水を見上げ、静かに構えを取る。
「スゥ……ハァァァァァァァァァァ……」
目を閉じ、深く息を吸い込み、吐き出し、
カッ、と目を開く。
「ハァッッッッッ!!!!!」
極限まで閉じ込めた集中力を解放、烈迫の勢いと共に正拳突きを滝に打ち込む。
一瞬の沈黙。
その後、滝が真っ二つに叩き割られる。
それも一瞬で、滝は元の流れに戻った。
「はーッ」
構えを解いたツルギは、滝壺を後にする。
そこから次は、見上げるほどもある巨岩の前に立つ。
オプションとして所持していた太刀を抜き放ち、上段に構えーー
「シャァッッッッッ!!!!!」
一閃。
一拍を置いて、巨岩が真っ二つに斬り分けられた。
ズズゥンッ、と半分ずつになった巨岩が重々しく地面を転がる。
「ふーッ」
それを確認してから、ツルギは太刀を鞘に納めた。
彼は今、何をしているのかと言うと、有り体に言えば「ダイバーである自分自身とのシンクロ」である。
リアル世界とGBNとでは、当然ながら勝手が変わる。
生身を持たないGBNであれば、一種の自己暗示のように、無いはずの感覚をあるものにしているように錯覚させている。
それは外的要因に限らず、ダイバーの内的エネルギーにも影響している。
その道のプロともなれば、掌で触れるだけで地割れを発生させ、MSよりも遥かに巨大な岩を軽々と放り投げ、ミサイルを生身で撃ち落とすことさえ可能なのだ。
言ってしまえば、GBNのシステムの範疇と言う制約はあるもののダイバーには、
『限界なんてない』のだ。
一休みする間もなく、ツルギは次の特訓に向かう。
そのツルギの様子を、ハルナとミツキはフォースネストの窓から見ていた。
「精が出ていますね」
お邪魔させていただいているミツキは、煎茶を一口啜る。
「うん……そうだね」
ハルナは窓の外を見ながら頷いた。
しかし、彼女の顔が憂いを帯びているように見えるのを、ミツキが見逃すはずもない。
「どうかしましたか?」
「ど、どうかしたって?」
「いつものハルナなら、もっとツルギのことを自慢げに言うので、どうしたのかと」
「……」
やはりいくら取り繕っても、ミツキの目は誤魔化せないと言うことらしい。
隠し通すことを早々に諦め、ハルナは胸中を話すことにした。
「あのね、最近……ツルギくんが遠くに感じるの」
「……単純な距離の話ではなさそうですね」
物理的な距離であれば、今も昔もハルナが一番近い。
幼馴染みなんて関係なく、ハルナはいつもツルギと一緒にいるから。
「なんかね、ツルギくんがGBNを始めて、色んな人と知り合うようになって……、……なんだろ」
よく分かんないけど、と一呼吸を置いてから、囁くように零した。
「わたしが、ツルギくんの隣に立ってて良いのかなって……」
「……それはまた、難しいことを」
ミツキは判断しかねた。
自分に見える範囲だけを鵜呑みにして「自分は彼と同じ場所にいる」と思い上がり、取り返しのつかないことになってしまうよりは、多少なりとも不安に思っている方が、まだ最悪の結果は防げるのかもしれない。
「隣合っているのに、わたしとツルギくんとでは違う段を歩いてるみたい。……しかも、ツルギくんの段はどんどん高くなって、わたしの段はずっとそのまんま」
ハルナは視線をツルギの方へ戻そうとして、
既にツルギの姿は見えなくなっていた。
ーーまるで、ツルギはまた一段先に上がってしまったかのように。
「であれば、追い掛けるしかないでしょう」
ミツキは正論を投げ掛けてやるしかない。
「「自分はツルギのパートナーです」と、胸を張って他人に言えるようになるまで」
「そうだよね……それしかないよね」
よしっ、と少しは気を取り直したようで、ハルナは勢い良く立ち上がった。
「じゃぁ、ちょっとソロでミッション受けに行こっかな」
カタパルトデッキに行こうと襖を開けようとしたところで、
「おぅ誰かいるかァッ!」
ズドォンッ、と襖が吹き飛ばされーー
「あヴぇっ」
襖をもろともハルナは部屋の隅にぶっ飛ばされた。
その襖を吹き飛ばして来たのは、ヤイコだった。
本来、横に開く襖を力任せに正面から"蹴り"で押し開けて。
「おや、ヤイコですか?」
何事も無かったかのように普通に反応するミツキ。
「よぉミツキっ、相変わらず男か女か分かんねぇツラしてんなっ」
「まぁご覧の通り中性ですが。それよりもヤイコ、切羽詰まっているところ申し訳ありませんが、あなたにミッションを依頼しましょう」
ミツキはヤイコと、部屋の隅と襖に挟まったまま出られなくなったハルナを見比べる。
「ハルナの救出です。報酬金は、マイナス100ビルドコインです」
「は、ばやぐだじげで……」
「スマン、やらかした。ごめんなさい」
畳の上で土下座を敢行するヤイコ。
その向かいで正座しているハルナとミツキの前には、ヤイコのポケットマネーである100ビルドコインが一枚。
「怪我とかしないから良かったけど、いや、全然良くないけどね。襖は、正しく開けましょう。いいね?」
ぷぅぷぅと頬を膨らませながら怒るハルナ。
「ハイ、すいませんでした」
ヤイコは土下座の姿勢のまま、硬直する。
「はい。じゃぁこのビルドコインは返しましょう。それで、何があったの?」
ハルナはビルドコインをヤイコに返すと、彼女が何を切羽詰まって襖を蹴り飛ばして来たのかを問う。
ミツキが呼んだルームサービスによって襖が修復されていくのを尻目に、ようやく本題に入れる。
「おぉそうだった。この間から、フォース戦形式のマッチングバトルが始まるって言ってたろ?あれのマッチングが決まったんだけどよ……」
とりあえずこいつを見てくれや、とヤイコは自身のコンソールパネルを開き、二人にそれを見せた。
「……これってっ」
「なるほど、そう言うことでしたか」
ハルナは目を見開き、ミツキは頷く。
トーナメント表にある『SPIRITS』の名前と繋がっているのは『FORTRESS』。
一回戦から強敵ーー因縁ある、フルメタルシェパードのフォース・フォートレスが相手だった。
同じ頃、フルメタルシェパードもまた、フォースネストの中で、マッチングされた相手フォースを見て、忌々しげに口を歪めた。
「あの野蛮な女のいるフォースが相手か……」
彼の言う野蛮な女と言うのは、ヤイコのことだ。
出来ることなら二度と会いたくなかった相手だが、フルメタルシェパードとしては好都合だった。
「(今度こそ、あの忌々しい女のフォースを完膚なきまでに叩き潰し、私のプライドに傷を付けたことを後悔させてやる)」
彼の中で、復讐にも似た暗い炎が灯った時、フォースネストに誰かが入ってきた。
「ごめんね、ちょっと遅れちゃった」
それは、エル。
フルメタルシェパードがこのGBNの中で唯一、心を許したダイバーだ。
その彼女がやって来たことで、フルメタルシェパードはすぐに表情をいつもの余裕めいたものに取り繕う。
「やぁ、エル君。遅れることは誰にでもあるさ、気にすることはない」
声色も極力穏やかなものにして、何事も無かったかのように振る舞う。
エルはフルメタルシェパードに歩み寄ると、彼のコンソールパネルを覗き込む。
「何を見ていたの?」
「あぁ、数日後に開催されるマッチングバトルの、トーナメント表だ。ただ最初の相手が、前に一度戦ったことのあるフォースだったと言うだけだ」
フルメタルシェパードは半歩下がると、エルにコンソールパネルを見せてやる。
「…………へぇ、フォース・スピリッツかぁ……」
ふと、エルの金色の瞳が妖光を放ったように見えたが、フルメタルシェパードはそれに気付いていない。
「なぁに、その前に戦った時に勝利しているのだ。負ける心配はいらんよ」
その実、ほんのギリギリのところで辛うじて勝ち逃げ出来たと言う屈辱な結果に終わってしまったのだが、それは話す必要もなかった。
エルにとって、フルメタルシェパードとは完璧で、落ち着きのある大人であり、悔しさをバネに出来る強かな存在である……と彼は思い込んでいる。
「そっか。なら、安心だね」
何も知らない純粋無垢な子どものように頷くエル。
その彼女を見て、フルメタルシェパードは愉悦を覚えていた。
「(そうだとも、この私の、私だけの女神の顔を曇らせるわけにはいかんからな……)」
自分のことを理解し、信じてくれる存在、それがいるだけでこんなにも心が躍るものだとは思わなかった。
であれば、自分は彼女に勝利を見せてやるだけだ。
フルメタルシェパードは、恋心にも似た高揚感を押し隠し、何の不安感も無く、マッチングバトルに臨む。
ーーエルのその胸中に、何が渦を巻いているのかを想像することもなくーー。
一方、フォース・スピリッツのフォースネスト内のブリーフィングルームでは、緊急作戦会議が開かれていた。
今回の議題は、対フォース・フォートレス戦についてだ。
「改めて確認する必要もないだろうけど、気を引き締め直すと言う理由で、前回の戦闘を見直す」
モニターの前にサヤが立ち、以前のバトランダムミッションの時に戦ったフォース・フォートレスとのバトルのリプレイを再生する。
「まず、フォートレスの主戦力であるMDモビルドール。プラネイトディフェンサーによる防御力と、ビームカノンによる長距離射撃を両立させた上で、ビームサーベルを用いた近接戦闘にも対応している」
リプレイ動画の中で、NPDリーオーがプラネイトディフェンサーを展開しながらビームカノンを照射するところで一時停止される。
「以前に俺達は、プラネイトディフェンサーを物理攻撃で破壊しつつ攻略する、と言う作戦を取ったが、この作戦は相手に読まれていた」
動画を早送りして、ミーシャのガンダムアスタロトリオートが、パイルハンマーでNPDリーオーを攻撃するシーンで再び一時停止。
どんな手品を使ったのかは分からないが、ミーシャが打撃を与えてもダメージらしいダメージが入らなかった。
「そこから俺とミーシャが撃墜されて、ツルギ、ハルナ、ヤイコの三人になってからだな」
撃墜される場面は飛ばして、三人が岩陰に隠れるところで再生させ直したところで、サヤはハルナを名指しする。
「ハルナ。君はここで、『MDを同士討ちさせる』と言う綱渡りを行い、最初の一機の撃墜に成功した……そうだな?」
「あっ、はい。成功するかどうかは、半々ってとこでしたけど」
名指しされたハルナは、跳ね返ったように頷く。
「そこから、同じ要領でMDの数を減らそうと思ったんですけど……」
「今度は一斉に自爆攻撃を敢行してきた」
サヤが動画を止めた場面は、姫武者頑駄無がNPDリーオーの一機に組み付かれ、自爆に巻き込まれる瞬間。
「この自爆攻撃をされて、唯一生き残れたのは、ヤイコの蛇威雄音だけ」
残り全てのNPDリーオーが自爆した後、ボロボロになったヤイコの蛇威雄音が、トールギスコンダクターをボコボコに殴り回していくものの、ビームサーベルによる反撃を受け、力尽きたところでリプレイが終了する。
「あの野郎……今度はぜってぇしばき倒してやらぁ」
ヤイコは飴玉を噛み砕き、その瞳に闘志をギラつかせる。
「ヤイコ、そう意気込むのはいいが、正面から突っ込むだけでは勝てないことは分かるな?」
サヤは釘を刺すようにヤイコに言葉を掛けてやる。
前回のバトルで、ヤイコの猪突猛進が余計な被害を出してしまったこともある。
「……んなこたぁ分かってる」
ヤイコはサヤに向き直る。
「教えろツバキ!アタシはどう動きゃいいんだ、どうすりゃぁあの野郎に一泡二泡吹かせてやれんだ?」
ヤイコのこの言動に、この場にいるダイバー全員が大なり小なり驚いた。
他人との連携など考えず、ただ己の力だけが信条だと言わんばかりだったヤイコが、初めて他人に助言を求めたのだ。
参謀役のサヤも驚きの例外ではなく、ほんの数秒面食らいーー不敵な笑みを浮かべた。
「一泡や二泡じゃ足りないだろう?何泡でも吹かせてやろうじゃないか」
サヤの表情を見て、ヤイコもまた同じように不敵な笑みを浮かべて、バシッと拳と掌を打ち鳴らす。
だから、とサヤは不敵な笑みから真剣に引き締め直した。
「そこで、今回の作戦だが……」
詰め込まれていく作戦。
それは殺戮の人形達と、それを自在に操る軍師を出し抜けるか、果たしてーーーーー。
数日後。
マッチングバトルの開催を迎えた。
フォース・スピリッツの面々は輸送機に乗り込んでベース基地を発進、バトルフィールドまで移動していた。
到着した場所は、大西洋北部のアイスランド島に点在する『ヘブンズベース』。
原点作品は『SEED DESTINY』に当たり、地球連合軍(と言うよりはロゴス)の最高司令部。
多数のMSやMA、さらには対空掃討砲『ニーベルング』まで備える大規模な軍事拠点であり、地球連合・ザフトの同盟とブルーコスモスのロゴスが激戦を繰り広げた戦場でもある。
フォース・スピリッツは同盟軍側に当たるらしく、海からの出撃になり、フォース・フォートレス側は基地内部から展開することになるだろう。
輸送機の中、バトルに参加する五人だけがガンプラに乗り込み、順々にリニアカタパルトに打ち出されて行く。
「ハルナ、姫武者頑駄無、行きまーす!」
「はいはい、ハンブラビ、マイちゃん行きますよっと」
「サヤ、ガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲル、出撃します!」
「ヤイコ、蛇威雄音、喧嘩上等!」
「ツルギ、レイジングマスラオ、フォース・スピリッツ、参るッ!」
今回のメンバーは、ツルギ、ハルナ、マイ、サヤ、ヤイコの五人。
以前のメンバーと比べると、ミーシャの代わりにマイが抜擢されている。
ハンブラビの武装では、プラネイトディフェンサーを破るのは難しいが、可変機であるため、機動力ならガンダムアスタロトリオートより上だ。
対MD戦を想定した構えよりも、機動力を重視した編成と言えるだろう。
そのため、他と比べると足の遅いガンダムアスタロトリオートや、ガンダムヘビーバスターよりも、可変機であるガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルやハンブラビを投入している。
全機出撃完了、雪が吹き荒ぶ曇天の下、フォース・スピリッツの面々は降下を開始していく。
その最中、サヤは全員との通信状態の確認を含めて、作戦の再確認を行う。
「全機、聞こえているな?」
各々、感度良好である旨を返すのを確かめて、サヤは頷く。
「これより作戦を開始する。マイ、俺達の頑張りが掛かっているんだ、しっかり頼むぞ」
「ま、せいぜい期待を裏切らない程度には頑張りますよ、センパイ」
マイが若干の茶化しを入れつつ、ハンブラビをMA形態に変形、それに倣うようにガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルもフライヤーフォームに変形する。
「……行くぞ!」
ガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルとハンブラビの二機は一気に加速して前線に飛び出していく。
それとは対照的に、レイジングマスラオと姫武者頑駄無は減速する。
当然、前の二機との距離はあっと言う間に広がってしまう。
蛇威雄音に至っては、リニアカタパルトに打ち出されてすぐに飛び込むように海に潜ってしまった。
しかし問題ない、これが作戦なのだ。
一方のフォース・フォートレス。
フルメタルシェパードとエルは、トールギスコンダクターに乗って出撃を開始していた。
「フルメタルシェパード、エル、トールギスコンダクター、オープンゲーム!」
トールギスコンダクターは基地から発進せず、MDであるNPDリーオー四機だけが先行、予め打ち込まれたプログラミング通り、司令部と軍港の中間点に足を落ち着けるなり、ビームカノンを構えて迎撃体制を整える。
「あの子達だけで大丈夫?」
エルはフルメタルシェパードの顔を見上げながら、先行したNPDリーオー四機を指す。
「問題ない。君が思っているよりも、私の作り上げたAIは強いぞ」
安心させるように優しい口調で言ってやるフルメタルシェパード。
「(露呈された欠陥は完全に消した……今度こそ、完璧だ)」
その仮面の下に慢心を隠して。
ーーだが、もしもここでフルメタルシェパードが「だとしても侮るべきではない」と油断をしなければ、今回のバトルの結末もまた変わったものだったかもしれないーー。
不意に、A、B、C、Dと割り振られたNPDリーオー達のTV画面のようなアイカメラが反応し、即座にビームカノンを上空へ向けて照射を開始した。
下方から襲い掛かってくる、高出力のビームによる激しい砲撃に対して、サヤとマイはそれらを躱しながらも高度を下げつつあった。
「近付き過ぎるなよっ、俺達の役目はあくまでも"陽動"だからなっ」
「はいはーい、分かってまーす」
サヤは四苦八苦しながら、マイはそれほど苦にしてなさそうに、それぞれビームを回避し続ける。
NPDリーオー達の射撃は正確だが、距離が開いていれば、可変機の機動性で回避することは難しいことではない。反撃を考えていないのであれば尚の事回避に専念出来る。
この作戦の第一段階、それは、サヤとマイによる"陽動"だ。
ガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルとハンブラビの二機だけが姿を見せているのだが、攻め込んでは来ず、一定の間合いを保ち続けている。
その戦況をNPDリーオーを通じて読み取っているフルメタルシェパードは、マスクのフィルター越しに目を細める。
「(足の速い可変タイプ二機による陽動……なるほど、正面突破をするつもりはない、と。であれば……NPDリーオーを水際に引き込みつつ、残る三機でこちらを狙う腹か)」
所詮は子どもの浅知恵だな、とフルメタルシェパードは表情に出さない程度に薄く笑った。
「(そう来るのであれば……"隙を見せてやる")」
今のところは、フルメタルシェパードが想定していたパターン予測通りだ。
瞬時にコンソールを打ち込み、NPDリーオーに読み込ませていたパターンを変更させる。
四機の内、AとBが前進し、CとDはその場に留まる。
すると、スピリッツ側の状況に変化が現れた。
ガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルとハンブラビは即座に跳ね返ったように後退する。
そこから入れ替わるように、レイジングマスラオと姫武者頑駄無が前線に姿を現した。
サヤとマイが後退するのが合図。
「よぉしっ、行くぞハルナ!」
「うんっ!」
ツルギとハルナは減速させていた速度を一気に加速させて、レイジングマスラオと姫武者頑駄無は、前に出てきたNPDリーオーA、Bの二機に肉迫する。
この作戦の第二段階、ツルギとハルナによる"肉迫"。
対するNPDリーオー二機もすぐに反応し、プラネイトディフェンサーを展開させ、ビームカノンを発射しながらもビームサーベルを抜き放つ。
「いくら判断力に優れても……」
ツルギはアームレイカーを大きく捻り込ませ、NPDリーオーAのがビームカノンを掻い潜りながらもさらに距離を詰めていく。
レイジングマスラオが『ハワード』『ダリル』の両刀を抜き放てば、NPDリーオーAはビームサーベルで斬り掛かってくる。
「一対一の接近戦なら……」
レイジングマスラオは右の『ハワード』でビームサーベルを受け止め、弾き返すなり、流れるように左足を軸に右足で回し蹴りを振り抜いた。
ツルギが蹴り飛ばすのは、NPDリーオーAが展開させているプラネイトディフェンサーの一基。
蹴り飛ばされたプラネイトディフェンサーは、NPDリーオーによる制御を失い、海に落ちた。
四基あるプラネイトディフェンサーの一基を失えば、多少なりとも防御力が落ちる。
「こっちが上なんだよッ!」
すかさず『ダリル』を振るい、NPDリーオーAのビームカノンを斬り裂いた。
厄介な長距離砲は潰した。
後はこちらの得意な白兵戦に持ち込むだけだ。
一方のハルナの姫武者頑駄無も、雷振火音で牽制しながらNPDリーオーBへ接近しつつあった。
雷振火音の銃弾はプラネイトディフェンサーに弾かれるものの、NPDリーオーBの注意を他に向けさせない程度の効果はある。
当然相手も撃たれるばかりではない、ビームカノンを以て反撃してくる。
「そうそう、わたしを見てればいいんだよ……っと」
正確な射撃を掠めそうになりつつも、
「(ツルギくんも、わたしのことを見てくれたらいいのになぁ……)」
等と余計なことを考えていたが、それも一瞬。
ある程度の間合いに入れば、NPDリーオーBはビームサーベルによる近接攻撃を仕掛けて来た。
即座に雷振火音を捨てて火糸薙刀を抜刀、振り抜かれるビームサーベルを潜るように回避、その通り抜け様に火糸薙刀を振るい、NPDリーオーBのビームサーベルを握る腕を斬り裂いた。
「こっちも、前と同じじゃないからねっ」
攻撃が通ることを確信し、ハルナは小さく笑む。
NPDリーオーA、Bが苦戦していることを読み取ったCとDは、その場から少しだけ前進し、ビームカノンによる援護射撃を行おうとする。
しかし、ビームカノンのトリガーを引こうとしたその寸前で、別方向からのビーム射撃を感知、プラネイトディフェンサーを展開して攻撃を防ぐ。
CとD、それぞれを左右から挟むように、後退したはずのガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルとハンブラビが急襲を仕掛けて来た。
「いいぞっ、このままこいつらの注意を向けさせるんだ!」
サヤは作戦通りに事が進んでいることに慢心せず、自らの役割を全うせんと奮闘する。
作戦の第三段階、敵戦力の"分散"だ。
マイのハンブラビも、バレルロールの要領でビームカノンを回避しつつも、背部ビームライフルを連射する。
「(あのわんちゃんと、エルとか言うELダイバーが手を組んでいるのは知ってるけど……"読めない"わね)」
何を目的に新型ブレイクデカールを蔓延させているのか。
フルメタルシェパードは、エルが新型ブレイクデカールを蔓延させていることを知っているのか。
今すぐ首根っこを引っ捕まえて問い質したいところだが、今はバトルの最中だ。
未だに本懐の見えない不気味さを感じながらも、マイは与えられた役割をこなす。
フルメタルシェパードは、NPDリーオー達の各機状況を見て、事態が思わしくない方向に進んでしまっていることに歯噛みする。
「(バカな……二ヶ月前とはまるで別人ではないか)」
戦力を分散させる、と言うところまでは予測出来ていたフルメタルシェパード。
分散させられた上で一対一の近接戦闘に持ち込まれても十分に対応出来る……そのはずだった。
しかし、彼らフォース・スピリッツの個々人の実力が大幅に向上していることは全く読んでいなかった。
彼が知るところではないが、カイドウの地獄の修練、ローランのフォース・サンダーバードとのバトル、反マスダイバー連合への参加など、様々な修羅場鉄火場を乗り越えて来たフォース・スピリッツは、平均ランクAとは思えないほどの上位フォースと化していたのだ。
「大丈夫?」
そのすぐ側で、エルが心配そうに見上げてくる。
フルメタルシェパードは咄嗟に取り繕った。
「大丈夫だ、心配はな……」
心配はない、と言いかけたところで、突如上方からアラートが鳴り響きーー
司令部の天井を突き破って何かが降ってきた。
『こんにちはそして殴らせろやァ!!』
それは、フルメタルシェパードが最も警戒していた相手ーーヤイコの蛇威雄音だった。
ヤイコの蛇威雄音が今まで何をしていたのか。
出撃してからすぐに海中へ潜ったヤイコは、気取られないようにヘブンズベースの裏手へと回り込み、NPDリーオー達が分散し始めた辺りを見計らって、司令部に文字通り殴り込みを掛けに来た、と言うことだ。
この作戦の最終段階、ヤイコが敵本丸に"強襲"する。
陽動、肉迫、分散、強襲。
この四つが、サヤの導き出した方程式だ。
最初にサヤとマイが敵をおびき寄せ、近づいて来た敵をツルギとハルナが相手をして、残る敵もまたサヤとマイが引き付け、最後に手薄になったところをヤイコが殴り込む。
司令塔フルメタルシェパードを守るためのNPDリーオー達は、前線にいる四機の相手に手間取っていることだろう。
故に、ヤイコは後ろを気にせずに堂々と戦えるのだ。
「てめぇには借りがあっからなぁ!」
『なっ、なめるなっ!』
トールギスコンダクターはすぐさまドーバーガンを蛇威雄音に向けようとするが、それよりも先に蛇威雄音の左マニュピレーターが銃身を掴み、握り圧し折った。
ドーバーガンから手を離し、次はレドームシールドの裏からビームサーベルを抜こうとするものの、もうそこはヤイコの間合いだ。
「捕まえたぜゴラァッ!」
蛇威雄音はトールギスコンダクターの両肩を捕まえると、そのままスラスターを噴射させて押し込み、ヘブンズベース司令部の壁に激突させた。
『グゥッ!?』
背後からの衝撃にフルメタルシェパードは呻き、エルは全く微動だにしない。
今の衝撃で、トールギスコンダクターのスーパーバーニアが接続部から折れてしまった。
そして、フルメタルシェパードにとってこの状況はもう最悪だった。
トールギスコンダクターにはバルカンやメガ粒子砲のような内蔵火器や、隠し腕のようなサブアームもない。
機体のパワー差では圧倒的に負けている。
その上、まともな推進力もたった今失った。
何より、正面切っての殴り合いで、フルメタルシェパードがヤイコに勝てるわけがないのだ。
「おうおうおう、ビビってんのかぁ?この間みてぇな、偉そうにふんぞり返った態度は……」
もがくトールギスコンダクターを力任せに持ち上げて、
「ただのコケ脅しかァ!?」
床に振り下ろした。
『グガァッハァッ!?』
隕石が落ちたかのような、クレーターを穿つほどのパワーで叩き付けられたトールギスコンダクターは両脚を砕かれ、この場から逃げることも抵抗することもままならなくなった。
ガンッ、と蛇威雄音のフット裏が、仰向けに倒れたトールギスコンダクターの胴体を踏み付けた。
「MDお人形がいなきゃこの程度ってか」
蛇威雄音のガンダムタイプに似た双眼が、フルメタルシェパードを見下す。
もはや、勝敗は決したと言っても良い。
いくらコクピット周りが装甲で守られているとは言え、装甲越しに伝わる破壊的な震動は、フルメタルシェパードに激痛と言う激痛を錯覚させるには十分過ぎた。
「お……おのれ……わ、たしが、負ける、わけに……」
コンソールからは、NPDリーオーのAとBが既に撃墜されていることを示し、たった今CとDもシグナルロストした。
機体損傷は甚大。
敵戦力は全機健在。
この状態から勝つなど、フルメタルシェパードの力量では不可能だ。
詰んだのだ。
このまま惨たらしく殴り潰されて負けるか、無様に降参して負けるか。
そんな"負け"の二択しか残っていないことに、フルメタルシェパードは悔しげにコクピットの壁を殴った。
「い、やだ……、負けたくない……私は、正しいのだ……正しい者が、負けていい、はずがないぃ……」
蛇威雄音が拳を振り上げた。
終わった。
今まで崩すことなく重ねてきた、フォース・フォートレスの無敗記録が、呆気なく崩れてしまう。
「負けていいの?」
不意に、フルメタルシェパードの耳に優しい声が届いた。
「諦めたくないんでしょ?」
エルの声だ。
「しかし、これはもう……無理だ、負けるしかないではないか……」
「大丈夫だよ」
すると、エルはコンソールに手を伸ばすと、手慣れたように何かを入力していく。
「正義のヒーローはね、どんな逆境だって跳ね返せるんだよ」
だって、と入力を完了させた。
「"物語"は、そういう風に作られているんだから」
同時に、画面を『RUVIS SYSTEM.Upload』と言う赤い表示が埋め尽くした。
「いい加減に終いだ、たっぷり礼をしてやるよ」
ヤイコの蛇威雄音は右拳を振り上げて、躊躇なくそれを振り下ろそうとしてーー
突如、トールギスコンダクターが挙動して蛇威雄音を弾き飛ばした。
「チッ、往生際の悪い野郎だ」
ヤイコは蛇威雄音を姿勢制御させて、
目を見開いた。
トールギスコンダクターから金属物体が突き破って生え始め、それが内側から機体を覆い尽くしていく。
「新型ブレイクデカールだとぉ……?」
見開いた目を細めた。
金属物体が、トールギスコンダクターを完全に取り込むと、見る内にその姿が肥大化し、穴の空いたヘブンズベースの天井を突き破った。
歪だった形状が洗練されると、そこには『外観はそのままに巨大化した、"暗黒"のオーラを纏ったトールギスコンダクター』が立っていた。
当然、その光景は外にいた四人にも見えている。
「何だっ……また新型ブレイクデカールか!?」
ツルギは即座にレイジングマスラオを身構えさせる。
「そんな……あの人もマスダイバーだったの!?」
ハルナも驚くものの、すぐに臨戦態勢を整える。
「この感じ……今までの新型ブレイクデカールじゃない……?」
見慣れた紫色ではない、暗黒のオーラ。
サヤは本能的に危険を感じ取った。
「…………」
他三人が驚くような様子を見せている一方で、マイだけは黙ってそれを見ていた。
「ザケてんじゃねぇぞ……」
ヤイコのその瞳に激しい怒りの炎が灯り、殴るようにアームレイカーを押し出した。
「外道の手段為してまでてっぺん取りてぇってのか、てめぇはよッ!!」
蛇威雄音のツインアイが力強く輝き、巨大化したトールギスコンダクターの頭部を殴り付けようと跳躍する。
が、トールギスコンダクターは目の前に飛び掛かってきた蛇威雄音に対して、煩わしい虫を払うかのように振り払った。
巨大な機体がただ身を震わせるだけでも、通常スケールのガンプラには脅威そのものだ。
「ぐっ!?」
振り払われた、と言うにはあまりにも重い一撃を受けて、蛇威雄音は呆気なく吹き飛ばされ、司令部から中央区画まで放り出された。
「ヤイコッ!」
咄嗟にツルギが反応し、レイジングマスラオが吹き飛んできた蛇威雄音を受け止める。
「ってて……悪ぃクサナギ」
「礼はいい。それよりも……」
レイジングマスラオが蛇威雄音を地面に下ろして、司令部から這い出てくる、巨大なトールギスコンダクターを見上げる。
トールギスコンダクターのコクピットの画面は、赤い『DANGER!』『ABNORMALITY!』の文字が絶えず表示されては消えていくを繰り返している。
フルメタルシェパードは慌てて起き上がった。
「エ、エル君っ!?君は一体何を……!?」
「何って……逆転のチャンスを作ってあげてるんだよ?」
何を当たり前のことを、とでも言いたげに小首を傾げているエル。
「待ってくれっ、これは新型ブレイクデカールとやらではないのか!?今すぐやめさせろ!」
フルメタルシェパードにも分かっている。
これは紛れもなく、新型ブレイクデカールによるものだと。
「あぁ、それは無理だよ。この機体はもう、ダイバーの操縦を受け付けなくなってるから」
「何だと……!?」
事も無げに恐ろしいことを言うエルを押し退けて、フルメタルシェパードはコンソールを叩く。
しかし、一度始まった暴走は止まらない。ブレーキなんてものが壊れて無くなったから、暴走は止まらないのだ。
いくらコンソールを叩いても、強制終了をさせても、すぐさま、危険や異常の表示で埋め尽くされる。
「トールギスッ、止まれっ!トールギスッ、何故止まらんッ!?」
不意に画面表示がブラックアウトした。
止まったのかと淡い期待を抱きかけたフルメタルシェパードだが、ブラックアウトした画面に文字が一行流れた。
『こ れ が お 前 の 望 ん だ 結 末 だ』
それを目に通したフルメタルシェパードは、コンソールを殴った。
「ふざけるな……どいつもこいつも、運営の無能共も、あの野蛮な女も、お前までもが……私をバカにしやがってッ!!」
憤怒に狂い、この元凶であるエルに向き直ろうとしたフルメタルシェパードだが、そのエルは既にコクピットから姿を消していた。
それを認識すると同時に、コクピットが震動を開始した。
ダイバーの手を離れ、機体が勝手に動き出したのだ。
「バカに、しやがって……しやが、って……ッ」
怒りの矛先を失ったフルメタルシェパードは、真っ暗になったコクピットの中で項垂れた。
項垂れるしか、出来る事がなかった。
トールギスコンダクターは、再生したドーバーガンの銃口をレイジングマスラオと蛇威雄音に向けるなり、トリガーを引き絞った。
ビームを纏った大口径弾が放たれるのを見て、ツルギとヤイコは左右に飛び下がり、0.5秒前まで二機がいた地点を抉り飛ばした。
「チッ……とにかくアイツは破壊するしかない!ヤイコ、突っ込めるか?」
『ハワード』『ダリル』を構え直しながら、ツルギはヤイコとの通信状態を確認しつつ問い掛ける。
「言われねぇでもそのつもりだ!」
言うが早いか、蛇威雄音は背中のスラスターバインダーを翻し、一気に加速してトールギスコンダクターへ迫る。
トールギスコンダクターは、再生したドーバーガンの銃口をレイジングマスラオと蛇威雄音に向けるなり、トリガーを引き絞った。
ビームを纏った大口径弾が放たれるのを見て、ツルギとヤイコは左右に飛び下がり、0.5秒前まで二機がいた地点を抉り飛ばした。
「チッ……とにかくアイツは破壊するしかない!ヤイコ、突っ込めるか?」
『ハワード』『ダリル』を構え直しながら、ツルギはヤイコとの通信状態を確認しつつ問い掛ける。
「言われねぇでもそのつもりだ!」
言うが早いか、蛇威雄音は背中のスラスターバインダーを翻し、一気に加速してトールギスコンダクターへ迫る。
レイジングマスラオと蛇威雄音がトールギスコンダクターへ肉迫するのを見つつ、サヤは全員へ通信を飛ばす。
「ハルナとマイはありったけの射撃を奴に叩き込め!ツルギとヤイコを援護するんだ!」
「了解ですっ」
「……ん」
ハルナはしっかりと、マイは聞こえるか聞こえないかの頷きで返す。
続いてサヤは、ヘブンズベースの湾岸近くの上空で旋回している輸送機にも通信を繋ぐ。
「ユイとミーシャも出撃してくれ!」
とにかく一機でも戦力が欲しい。
もはやバトルどころではないのだ、今更レギュレーション人数の話などしている場合ではない。
「了解、すぐに出ます」
「分かりましたっ!」
通信機の向こうでユイとミーシャが頷くのを見てから、サヤは武装フォルダを開き、ハイパードッズライフルとフリューゲルカノンを同時に選択する。
「撃ちまくれッ!」
ガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲル、姫武者頑駄無、ハンブラビの三機と、遅れて到着したガンダムヘビーバスターとガンダムアスタロトリオートは、各々の火器をトールギスコンダクターへ向けて集中砲火を加える。
多数の銃弾とビームの弾幕がトールギスコンダクターに降り注ぎ、巨体故に避けられず直撃していくものの、やはり装甲が堅いらしく、大したダメージは見えない。
トールギスコンダクターの注意が、遠距離にいる三機にも向けられるが、その間に前衛二人の接近を許してしまう。
「だりゃぁぁぁぁぁッ!!」
ヤイコの蛇威雄音のパンチがトールギスコンダクターの左脚の脛を捉えた。
が、蛇威雄音のパワーを以てしても、トールギスコンダクターの装甲には亀裂ひとつ入らない。
「クソがっ、アタシの拳なんか痒くもねぇってか!」
ヤイコは悪態を付きながらアームレイカーを引き戻し、少し距離を取る。
「装甲以外を狙えヤイコ!それなら通るはずだ!」
巨大アグリッサとの戦いで、『新型ブレイクデカールを服用したガンプラには可動部を狙う』と言うことを身につけているツルギは、レイジングマスラオをトールギスコンダクターの右膝裏に回り込ませ、そこへ『ハワード』を突き立てる。
ツルギの目論見通り、ビーム刃は膝関節の内部へと入り込み、焼き斬った。
膝から下を切り離されたトールギスコンダクターは、支えを失って膝を着く。
「装甲以外ってこたぁ……目ん玉もそうだな!」
的を得たように頷くヤイコは、蛇威雄音を上昇させてトールギスコンダクターの鼻面に迫る。
「オルアァッ!!」
蛇威雄音の拳がトールギスコンダクターのアイカメラを捉え、砕き割る。
不意にトールギスコンダクターは、再生したバックパックバーニアを噴射させてその場から飛び下がると、破損した部位を侵食、再生させていく。
「攻撃の手を緩めるなっ、再生されたらキリがねぇッ!」
ツルギとヤイコはトールギスコンダクターの再生を阻止すべく、さらに肉迫していく。
距離を置いたトールギスコンダクターは、ドーバーガンを腰ために構えると、単発で発射していたそれを、照射するように薙ぎ払って来た。
とは言えその動きは決して速いものではなく、全員すぐに反応し、ドーバーガンのビームを飛び越えるようにやり過ごす。
だが、薙ぎ払われたドーバーガンのビームは、"空間を引き裂いた"。
「そ、空が割れた……!?」
ユイの目には、引き裂かれた空間の中には、文字化けした数字の壁が見えている。
「GBNの内部データを破壊しているのか!?」
サヤはその引き裂かれた空間に見覚えがあった。
五年前の有志連合の戦いに現れた超巨大ビク・ザムが、あのように空間を引き裂くようなビームを放っていた。
それはこのサーバーだけでなく、他のサーバーにまで干渉するものであったが、このドーバーガンのビームはどれほどの被害をもたらしているのか。
もうムチャクチャだ。
「ふざけ切った真似しやがってッ!」
ヤイコは苛立ちを吐き捨てながら、蛇威雄音は侵食再生しようとするトールギスコンダクターの右脚に拳をぶち込む。
元通りに再生しようとしたところをまた破壊され、トールギスコンダクターの右脚は歪な形になって再生が止まる。
「再生中を狙われたら堪んねぇってかァ?」
その反応を見て、ヤイコはニヤリと口の端を歪めた。
どうやら、侵食中の部位をさらに攻撃すると、再生が鈍くなるらしい。
ヤイコは全周波通信で、味方全員に叫ぶように伝える。
「お前らっ、出来るだけ一箇所を狙え!ちったぁ再生がトロくなんぞ!」
ヤイコの声を聞いて、後方から援護射撃を敢行する四人は頷き、それらの射撃は一点突破するように集中していく。
ツルギのレイジングマスラオは、トールギスコンダクターの左腕の関節を狙って『ダリル』を振るうものの、その斬撃はレドームシールドによって防がれてしまう。
トールギスコンダクターはドーバーガンから手を離して、レドームシールドの裏からビームサーベルを抜き放とうと手を伸ばしーー
「ーーそこかァッ!!」
その瞬間を見逃さなかったツルギは瞬時に懐に飛び込み、『ハワード』の切っ先を、レドームシールドの裏側へ突き立て、続いて抉りこむように『ダリル』を斬り込ませた。
ビームサーベルのマウントラッチも兼ねたそこへビーム刃を突き立てられ、さらにレドームの電子機器類が焼き切られ、レドームシールドが爆散する。
もはや形振り構わなくなってきたのか、トールギスコンダクターは再びドーバーガンを手に取ると、メチャクチャに振り回しながら撃ちまくる。
狙いも何もあったものではない乱射は、ヘブンズベースの基地設備を次々に破壊していく。
「チッ、大暴れも良いところだな」
あぁにも暴れては迂闊に近付けず、ツルギはトールギスコンダクターから距離を置く。
にも関わらず、ヤイコの蛇威雄音は暴れに暴れているトールギスコンダクターへ真っ直ぐ突っ込んで行く。
その途中で、ドーバーガンの流れ弾が蛇威雄音に襲い掛かってくるがーー
「オラァッ!」
なんと蛇威雄音は、ドーバーガンの銃弾を殴って弾き返した。
それを殴り返したマニュピレーターもまた、動作不良を起こすようなこともなく、蛇威雄音は加速しながら跳躍、トールギスコンダクターの頭部に取り付いた。
トールギスコンダクターも蛇威雄音を振り払おうと暴れるものの、先程から断続的に放たれる援護射撃に加え、レイジングマスラオのビームチャクラムもまともに受け続けたせいで怯み、その挙動が一瞬止まる。
「覚悟しやがれっ、このチート野郎!」
蛇威雄音は、トールギスコンダクターの頭頂部の鶏冠状のアンテナを掴み、そのまま力任せに引きちぎり、露わになった頭部の内側へさらにマニュピレーターを突っ込ませて、
「うおぉりゃァァァァァッ!!」
頭部を真っ二つに引き裂き、首を失った部位からトールギスコンダクターの胴体に、渾身の一撃を振り降ろした。
機体制御を一任する頭部と、機関部を潰されたトールギスコンダクターは、小爆発を起こしてぐらりと崩れ落ちた。
トールギスコンダクター、撃墜。
「ったく、面白くもねぇ喧嘩だぜ」
ヤイコは溜息を吐きながら、蛇威雄音を着地させて、ふと足元にカメラを向ける。
侵食再生が止まったトールギスコンダクターの、割れ目の入ったバイタルバートから、項垂れているフルメタルシェパードの姿を見つけたのだ。
「……」
それを睨み付けると、ヤイコは蛇威雄音から降りた。
力無く伸びた手足を伝い、トールギスコンダクターのコクピット付近へと駆け寄る。
「おい」
「私は……こんな、はずでは……」
うわ言をぼやいているフルメタルシェパードは、ヤイコが目の前にいることも気付いていないのだろう。
「聞いてんのかッ!」
ヤイコは半壊したコクピットハッチを強引にこじ開けると、中にいるフルメタルシェパードの胸倉を掴み寄せた。
「チートなんざに頼って、てめぇは恥ずかしくねぇのかッ!?」
「ち、違う、私ではない、彼が、エルが……」
言い訳じみたことを宣うフルメタルシェパードだが、そんなものに聞く耳を持たないヤイコは怒鳴りつける。
「他人に偉っそうにふんぞり返って!いざ蓋を開けてみりゃぁチートで!んでもってこのザマか!どのツラ下げて他人に罪擦り付けようとしてんだ!あ"ぁ"ッ"!?」
「っ……」
ヤイコの剣幕を前にすくみ上がるフルメタルシェパード。
その怯えた様子に、MDを自在に操る軍師の面影は無い。
そんなフルメタルシェパードの顔面を殴ろうと拳を振り上げるヤイコだが、
「……ケッ、アホらし過ぎて殴る価値もねぇや」
掴み上げていた手を乱暴に振り払い、ヤイコは蛇威雄音のコクピットに戻っていった。
『ハワード』『ダリル』を納めたレイジングマスラオが、蛇威雄音の肩に手を置いて接触通信を行う。
「いいのか?」
仮にもバトルの途中なのでプレイヤーキルをしても反則にはならない、とツルギは言うが、ヤイコは無言のままだった。
蛇威雄音はレイジングマスラオの手を退かすと、スラスターバインダーを噴かせて輸送機へと飛び去った。
言葉にし難い虚しさを残したまま、フォース・スピリッツはヘブンズベースから離脱していく。
一人残されたフルメタルシェパードは、トールギスコンダクターのコクピットの中で茫然自失としていた。
エルが、GBN内に新型ブレイクデカールを蔓延させていたのだ。
そして、そのために自分を利用したのだ。
それに気付いた時、フルメタルシェパードは仮面のフィルター越しの瞳に邪悪な闇が宿った。
「もう、誰も信じるものか」
最初から仲間なんかいなかったのだ。
自分以外は全て敵だ。
邪魔する奴は皆殺しにしてしまえ。
負の感情で凝り固められた決意をしようとした時、ヘブンズベースに何かが接近して来た。
それは、運営のGBNガードフレームが一個小隊。
だが、それらは新型ブレイクデカールを用いたような、暗黒のオーラを纏っている。
「ガードフレームが新型ブレイクデカールだと……?」
フルメタルシェパードは目を疑った。
何故、違法行為を取り締まるはずの運営が、自ら違法ツールを使っているのか。
『IDナンバー7293722、フルメタルシェパード。違法ツール使用の疑いで貴様を逮捕する』
スピーカーを通じて流される、無機質な逮捕通告。
マシンガンを構えて、倒れたトールギスコンダクターに迫って来る。
それを見上げながら、フルメタルシェパードは指を指した。
「どういうことだ!?違法ツールを使っているのは貴様らの方ではないかッ、運営が自らルールを破ると言うのか!?」
『抵抗だ。殺れ』
GBNガードフレーム達は、生身を晒しているフルメタルシェパードに、100mm以上はある口径のマシンガンを躊躇なくぶっ放した。
抵抗も何もしていない相手を、だ。
「がっごひゅっぶぁっ、おびっ」
降り注ぐMSサイズの銃弾に、フルメタルシェパードとトールギスコンダクターは瞬く間に蜂の巣にされ、強制ログアウトされた。
この後、フルメタルシェパードは運営によってIDナンバーをブラックリストに載せられ、アカウントを凍結された、と公言されたことになっているーーーーー。
【次回予告】
ユイ「あのフルメタルシェパードまでもが、チートを使っていたとはね……」
ミーシャ「やっぱり新型ブレイクデカールは、これまでみたいに広がる一方なんですね……」
サヤ「ローランさん達も調査を続けているが、何の進展もないらしい」
ハルナ「GBNは、これからどうなっちゃうんだろ……」
カイドウ「よぉお前ら、久しぶりだな!」
ハルナ「カイドウ先生、どうしたんですか?」
カイドウ「今日は抜き打ちテストに来てやったぞ!」
マイ「抜き打ちテストぉ?」
ツルギ「次回、ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツ
『戦々恐々!ヘルレイザー・リターンズ』
……カイドウ先生と、サシでバトルしろってかぁッ!?」