ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツ   作:さくらおにぎり

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18話 戦々恐々!ヘルレイザー・リターンズ

 日付が変わって間もない夜更け。

 ナンブ・レンジは、寝室で寝ている妻のナンブ・ミスズを起こさないように、自室のパソコンにダイバーギアとイヤホンマイクを接続した状態で誰かと通信を繋いでいた。

 

『…………こんな夜中じゃないと話せない内容か?』

 

 顔の映らないサウンドオンリーのボイスからは、野太い男性のダミ声。

 

「あまり他人に……妻にも聞かれたくねぇ内容でね。まぁ、俺が『呪われた英雄』なんて呼ばれたアンタにダイバーギアを通じて、秘匿回線で通話している時点で分かるとは思うが……」

 

 声量を抑えつつも聞き取れる程度に、マイクに向かって声を発するレンジ。

 画面の向こう側の男もレンジの言いたいことを察したらしく、『昨今のGBNのことか』と返す。

 

『最近のGBNは明らかにおかしい。それこそ、五年前のブレイクデカール事件以上だ』

 

「やっぱアンタもそう感じるか。ディメンション各地の異常反応に始まり、マスダイバーフォースのIDの不可解な一斉削除、ダイバー反応の無い侵食再生機、……んでもって極めつけは、ガード機の新型ブレイクデカールの服用ときたもんだ」

 

『……"魔女狩り"のことは含まれんのか?』

 

「"魔女狩り"?何の事だそりゃ?」

 

 近世ヨーロッパにおける、理不尽な思想的偏見による排除や糾弾の俗称だが、それが何か関係あるのかとレンジは無意識に首を傾げた。

 

『ELダイバー……電子生命体のことは知っているな?"サラ"と言う少女が、記憶と感情の蓄積によってGBNの内部データを圧迫させていたことも』

 

「そりゃぁ知っているが……っておい、まさか魔女狩りってのは」

 

 察したくもなかったことを頭に浮かべて、レンジは真夏の夜だと言うのに、背筋に酷い悪寒が走るのを覚えた。

 

『ご明察。考えてみれば当然だろうが、『彼女以外にもELダイバーは存在する』のさ』

 

 数千万人といるダイバーの人数にしてみれば、1/1000000と言う数字などすぐに満ちる。

 言ってしまえば、世界中のダイバーが一斉にガンプラをスキャンすれば、数十人近い電子生命体もまた同時に生まれてくるのだ。

 

『既にその人数は100人を越えているらしい。そんな人数が記憶や感情を蓄積させてみろ、仮に内部データが今の何万倍あっても一瞬でパンクするだろうな』

 

「……で?運営のポンコツどもは、ELダイバーを見つけ次第、一般ダイバーの見てねぇところで"消去"、内部ストレージの空きを確保、か?」

 

 クソだな、とレンジは吐き捨てた。

 

『大を生かすために小を切り捨てる……理には適ってるんだが、気に入らんな』

 

「あぁ、激しく同感だ。多分、アンタとここまで同感したのは初めてだろうよ。……話が逸れちまった。それで、その魔女狩りとやらも、一連の事件に関係してるってのか?」

 

『……………………』

 

 沈黙が続く。思考中だろう。

 数十秒の間を置いてから、レンジのイヤホンに咳払いが聞こえた。

 

『憶測も憶測だが、恐らく関係ない。……と言うより、前提条件が違う。『魔女狩りのせいで、新型ブレイクデカールが発生した』のかもしれん』

 

「新型ブレイクデカールの発生よりも前に、魔女狩りが既に始まっていたってことか。となると、魔女狩りを防ぐために新型ブレイクデカールが存在するのだとしたら……」

 

『電子生命体の誰かが新型ブレイクデカールを拡散させている……んだが、理念と目的が矛盾している』

 

 男はもうひとつの懸念点を挙げた。

 

『新型ブレイクデカールが、旧ブレイクデカールと同じ、GBNを破壊するものだとすれば、彼らは自分達の居場所を自ら無くすことになる。それが分からんとは思えん』

 

「……壊す必要はねぇだろうさ」

 

 レンジの声のトーンが下がった。

 

「頭の固さガンダニュウム合金並みの運営のガード機までもが、新型ブレイクデカールに侵されてんだ。新型ブレイクデカールの本質は、GBNの破壊じゃなくて……」

 

『"乗っ取り"、か』

 

 男の『乗っ取り』と言う言葉が、最も的を得ているだろう。

 ELダイバーの誰かが新型ブレイクデカールでGBNを汚染させ、それで意のままに乗っ取ろうとしている、と言うところまでは推測がついた。

 だが、

 

『いや待て、もうひとつ引っ掛かることがあった』

 

 ふと何かに気付いた男はまた、懸念点を挙げる。

 

『ブレイクデカールとはそもそも、『リアルのガンプラに』ナノICチップを練り込んだものを貼り付けるシロモノだ。一度GBNに持ち込めばいくらでも複製出来るが、その持ち込みには、ハード……"実物"を介する必要がある』

 

 その懸念点にレンジも気づいた。

 

「……そうかっ、実体のないELダイバーが、実物を必要とするモノを独自には作れねぇ。……なら、どうやって?」

 

『黒幕にリアル世界への伝手があるのかもしれんが……それを疑いだせばキリが無くなるぞ』

 

「数千万人を一人一人締め出すわけにもいかねぇし……実行したとしても、リアルの黒幕に白を切られちまうだけだな」

 

 何とも対処の出来ない真似をしやがる、とレンジは溜息をつくしかなかった。

 

『ふむ……』

 

 またも男の思考の沈黙の時が訪れる。

 

「あまり長居は出来ねぇぞ、黒幕がいつこの通信を傍受するか分からねぇからな」

 

 急かしたわけではないが、レンジは男の答えを待つ。

 

『いや……その黒幕のことなんだが、何か妙だなと』

 

 男にしては珍しい、端切れの悪い言い方だった。

 

『その手口、大凡の目的、周到過ぎる下準備、それとそんな大事に誰も気付かないほどの隠密行動……とてもじゃないが、個人が実現出来ることじゃない』

 

「組織的に動いてる可能性もあるが、それじゃ隠密行動は難しいだろうよ。やっぱ、個人が事を動かしている方が有力だ」

 

『かもしれん。……そろそろ切るぞ、これ以上の通信は危険だ』

 

「あいよ。アンタもいい加減歳なんだ、肝心なところでくたばるなよ」

 

『若造に言われたくないな』

 

 男の方が通信を切ったのを確認してから、レンジもパソコンからダイバーギアを抜き取る。

 

「ガード機にまで被害が及んでいるなら……」

 

 ーーもう既に手遅れなのではーー?

 

 その先を考えないように、レンジはパソコンをシャットダウンした。

 

 

 

 

 

 フルメタルシェパードのフォース・フォートレスとのリベンジマッチは、一応、勝利という形で終えることが出来たフォース・スピリッツだが、とても勝った気にはなれなかった。

 

 その後のマッチングバトルも順調に勝ち進み、見事優勝してみせたが、釈然としなさは晴れそうになかった。

 

 

 

 夏季休暇が終わり、始業式も終礼を終えた辺りで、同じクラスであるツルギ、ハルナ、ユイの三人は、この後の行動を確認し合っていた。

 

「俺は昼過ぎまで部活だな」

 

 ツルギは平時通り部活動に行くようだ。

 

「じゃぁ、ツルギくんは部活の後でお昼ごはん食べたら、そのままGBNに行く感じかな。わたしは一回家に帰って、お昼食べてから行くけど、ユイちゃんもわたしとおんなじかな?」

 

 ハルナは自分の動きを伝えつつ、ユイにも訊いてみる。

 

「そうね、私も一回帰ってからになるわね。お姉ちゃんもそうだと思う」

 

 ユイも(恐らくマイも)ハルナと同じ。

 中等部のミハイルも一度帰ってからになるだろう。

 サヤは例によって例のごとく、生徒会の仕事に忙殺されているので、今日からはほぼ毎日ログインするのは難しいかもしれない。

 ヤイコはリアルの方で喧嘩しにいくのか、それともGBNの方に来るのかは未定のようだ。彼女曰く「忙しくなきゃそっちに行く」とのこと。

 

 各自の都合を確認して、ツルギは今日は剣道部の方に赴き、ハルナとユイは一度帰宅することにした。

 

 

 

 

 

「……で、俺がログインしたら何でこんなことになってるんだ?」

 

 GBNにログイン、フォースネストにダイブしてきたツルギは、和室内を見回した。

 

 ハルナは口からエクトプラズムを浮かべている。

 

 ユイは死んだ目で体育座りしたまま畳に横たわっている。

 

 ミーシャは白目を剥いたまま痙攣している。

 

 サヤはノイローゼに陥ったかのようにブツブツと何かを呟いている。

 

 ヤイコはケタケタと不気味に笑っていた。

 

 マイだけは何事も無かったかのようにカタログを見ながら寝転がっている。

 

「おや、ツルギではありませんか。お邪魔しております」

 

 もはや当たり前のようにお茶をいただいているミツキが、ツルギがやって来たのを見て挨拶してきた。

 

「おう、こんにちはミツキ。それで、何が起きてこうなったんだ?まるでカイドウ先生のシミュレーションでもして来たみたいじゃないか」

 

 ツルギはミツキに向き直りながらも、この明らかに何かあったとしか思えないフォースメンバー達を指す。

 

「随分とピンポイントな例を出すのですね。まぁ……」

 

 不意にミツキは、和室の出入り口の方に目を向けた。

 

「ほぼ、その通りですね」

 

 ミツキがそう言うと同時に、この惨状を作り出した"元凶"が姿を現した。

 

「ようツルギ、邪魔させてもらってるぜ」

 

 ボサついた黒髪に、着崩した地球連邦軍の軍服のダイバーーーカイドウが和室に入ってきた。

 

「やっぱりカイドウ先生の仕業か……」

 

 当たっても嬉しくない予想を当てたツルギは、深く溜息をついた。

 そして、意を決したようにカイドウに向き直る。

 

「今度は、どんなムリゲークソゲーを与えに来たんですか?」

 

「ムリゲークソゲーとは随分な言い草だな、実際お前らクリアしただろう?」

 

 カイドウは悪びれもせずに苦笑した。 

 確かにムリゲーでは無かった。クソゲーであることに違いはなかったが。

 

「まぁ、今日はシミュレーションの方じゃなくてだな……」

 

 カイドウはポン、とツルギの肩に右手を置いてにっこりと(おどろおどろしい)笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

 

「抜き打ちテストだ。俺とサシでやり合え」

 

 

 

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

「………………………………は?」

 

 ツルギはそれを理解するのに数十秒ほどの時間を要した。

 理解に苦しんでいたツルギの意など介さず、カイドウはコンソールを開いて、マップ付きのメッセージを送る。

 

「十五分後に、ここな」

 

 一方的にそれだけ言いつけると、カイドウは和室を出ていってしまい、ツルギもしばし固まったまま見送ってしまう。

 

「ツルギ、固まってしまうのも分かりますが、そろそろ正気に戻ってください」

 

 ミツキにそう言われてツルギはハッと我に返る。

 

「そうか、抜き打ちテストってのはそういうことか」

 

 つまり、カイドウが直々に"診て"やると言うことだ。

 出し惜しみなんかせずに、思う存分かかって来い、と言いたいのだろう。

 尤も、出し惜しみや温存などさせてくれる相手ではないだろうが。

 それで、恐らく全員ズタボロにされた結果、この惨状を生み出しているのだ。

 

「登竜門、と言うものでしょうね。随分とハードルの高い門のようですが」

 

「登竜門か……」

 

 ミツキのその三文字を聞いて、ツルギは無意識に右の拳を握りつつ、左手にはカイドウから送られたマップ付きのメッセージを確認する。

 

「行くか」

 

 誰に向けたものでもない、自らの意志のままに、ツルギは格納庫へ向かった。

 

 

 

 ツルギが出撃した頃、暫しの間あの世に片足を突っ込んでいたハルナは、離脱しそうになっていたエクトプラズムを吸い込んだ。

 

「あ、あれっ?今さっきツルギくん来てなかったっけ?」

 

 ようやく正気を取り戻して和室内を見回してみるが、周りにはカイドウの抜き打ちテストを受けて精神的に半殺しにされた者達と、いつも通りのマイとミツキしかいなかった。

 

「ツルギなら、つい先程にカイドウ先生の抜き打ちテストに行きましたよ」

 

 お茶のおかわりを煎れていたミツキは、ハルナの問い掛けに答える。

 

「えっ、うそっ、大変っ!早く応援しにいかなきゃ!」

 

 慌ててハルナは、自分と同じように精神的に半殺しにされたメンバー達を起こす。

 

「ほらユイちゃんっ、次はツルギくんの番だよっ。早く起きて起きて!」

 

「わかった……ぅえっぷっ」

 

 虚ろな目をしながらもユイは立ち上がる。時折、嘔吐を催しかけているが大丈夫だろうか。

 

「ミーシャくんもっ、早く早くっ!」

 

「……うっ、むがっ。あ、ハルナさんおはようございま……」

 

「寝惚けてる場合じゃないよっ、ほらサヤ先輩も!」

 

 寝惚けているミーシャの頬をぺちぺちと叩きながら、サヤに呼び掛けるハルナ。

 

「いや、まだだッ。俺はまだ、自分を弱者と認めていない!決着を着けるぞ、カイドウ先生!」

 

 自分の中ではまだカイドウと戦っているのか、サヤはそんなことを叫びながら立ち上がり格納庫へ駆けていく。未来は見えていないはずだ。

 

「ヤイコちゃんはいつまでトチ狂ってお友達にでもなりに来てるの!」

 

 ハルナは、不気味に笑っているヤイコの顔面にドロップキックをぶち込んでやった。

 

「へぶるごぶげぇッ!?、…………ぁん?ここはアタシらのフォースネストじゃねぇか、アタシは寝てたってのか?」

 

 とりあえず全員起こしたハルナも、真っ先に格納庫へ向かった(だろう)サヤを追うようにそちらへ向かう。

 

 和室に残るのは、マイとミツキだけ。

 

「あなたは良いのですか?マイ」

 

 ミツキはお茶を啜りながら、寝転がってカタログを読み耽っているマイを見やる。

 

「んー、あたしはいいのよ。あたしは忙しいんだから……」

 

 ふと、マイのコンソールパネルが通話の着信を告げる。

 

「あらら、ちょっと電話してくるわねぇ」

 

 そう言うなりマイはコンソールを開きながら和室を後にする。

 

 襖を閉めると同時にマイはダッシュ、格納庫とは反対側の、女湯の脱衣場に入ってから通話に応じる。

 

 通話の相手はカゲトラだ。

 

『ご機嫌ようイチノセ姉。相変わらず"そっち"では独居老人のような生活を送っているようだな』

 

「そう言うあんたはいつまでもどこまでも頭ハッピーセットね。……で?」

 

『ほぼ99%の結論が出た。やはりあのELダイバーの目的は、GBNを乗っ取ることのようだ』

 

「やっぱりね。……んでもって、もう"手遅れ"な感じ?」

 

『後ろ手に回り過ぎたようだな。さすがに『ミス・トーリ』の直轄下には迂闊に近付けないだろうが、メインシステムへの干渉も、もはや時間の問題だ』

 

「じゃぁ、あのクソゲーマスターはもう"アウト"ってところねぇ。ELダイバーの暗殺なんてしてたら、誰かの恨みを買うことくらい分かんなかったのかしら。……分かるわけないか」

 

『故に、こちらから先手を打つ。イチノセ姉よ、"妹との決別"も覚悟してくれ』

 

「…………………………」

 

 妹との決別、と言われてマイは押し黙った。

 躊躇いが無いとは言えない。

 しかし、マイにはそれを断ると言う選択肢は無い。

 

「…………分かった」

 

『あぁ、それともうひとつ。あのワンワン……フルメタルシェパードがアカウントを凍結された『らしい』。……後は、分かるな?』

 

「……ははぁ、そう言うことね。ま、お人形くらいならどうにでもなるけど」

 

『では、そろそろ切るぞ。……イチノセ姉よ、殺されるなよ?」

 

「へいへーい」

 

 通話が切られる。

 マイはコンソールパネルを閉じてから脱衣場を出て、

 

 すぐ側にミツキが立っていた。

 

「……あーら、女の子の着替えを覗くなんて、スケベねぇ」

 

「ご安心ください、中性ならグレーラインですよ」

 

茶化し合いもそこまでに、ミツキは目線だけをマイに向ける。

 

「あの時のユイのそっくりさんは、やはりあなたでしたか」

 

「なんのことかしら?」

 

 分かっていて敢えて惚けてみせるマイ。

 

 

 

「『"惨血"のマイ』」

 

 

 

 そう言ったのは、ミツキだった。

 

「相対したダイバーを恐怖させるほど残酷な戦いぶりを見せる、血のように紅いガンプラを使うダイバーのことですよ。ユイの公開ログデータにいた、紅いレギンレイズジュリアを見て、気付いたのです」

 

 そして、とミツキは目線だけでなく、身体もマイに向けた。

 

「あなたは"二つの"アカウントを持っている。……複数のアカウントを使って別人を騙るくらい、ありふれた手段ですよ」

 

「あらあら、随分と知った風な口を聞くのね」

 

「それで、何をどうするつもりですか?」

 

 ミツキはマイの目的を訊く。

 そう訊かれたマイは、にっこりと笑って、

 

「ちょっと、"黒幕"をブチ殺してくる」

 

 とだけ告げると、ログアウトした。

 

 

 

 

 

 一方、レイジングマスラオに搭乗して出撃したツルギは、カイドウの指定したポイントへ向かっている。

 

「この辺のはずだが……ん?」

 

 ポイントに近づくにつれて、この場所がどこか見覚えのある場所であることに気付く。

 見えてきたのは、半壊したコロシアム。

 それを見て、ツルギは思い出した。

 

「そうかっ、この闘技場は……俺が初めてGBNに来た時の場所だ」

 

 そう、このコロシアムは、ツルギがハルナに連れられてGBNに初めてダイブした時に、一番最初に来た場所だった。

 あの時は、トレーニングモード中に勘違いしたリヒターと偶発的に戦闘になり、初勝利が逆転勝ちと言う劇的なデビューを果たしたのだ。

 

 あの頃からもう、四ヶ月近くが経とうとしている。

 

「早いもんだな……」

 

 しみじみと呟いている内に、コロシアムの中に進入していた。

 

 場内の中央には、ビーム刃を切ったバスタービームソードを地面に突き刺した状態で、ガンダムダブルオーカイザーが腕組みをして待っていた。

 

 ツルギがレイジングマスラオを着地させると、カイドウからの通信が届いてきた。

 

『来たな、ツルギ』

 

「お待たせしました、カイドウ先生」

 

『んじゃぁ始めるか……抜き打ちテスト『ヘルレイザー・リターンズ』、スタートだ』

 

 レイジングマスラオは両手に『ハワード』『ダリル』を抜き放った。

 

「(あの大剣以外の武器を装備していないのか?)」

 

 ツルギはカイドウのガンダムダブルオーカイザーを見やる。

 確かあの機体は、ビームサーベルやGNソードⅡなども備えていたはずだが、今回はそれが装備されていない。

 

 ガンダムダブルオーカイザーは右手でバスタービームソードを引き抜き、左手には手頃な石ころを握り、それを上に放り投げた。

 

 高く舞い上がった石ころは、重力に引かれて落ちてくる。

 

 その石ころが、地面に落ちーー

 

 

 ーーると同時に、レイジングマスラオとガンダムダブルオーカイザーは正面から突撃した。

 

 互いの最初の一撃は、『ハワード』とバスタービームソードの激突。

 

 ビーム刃同士が干渉し合い、激しいスパークが発生する。

 双方の剣が鍔迫り合いを続ける中、埒が明かないと判断したか、レイジングマスラオの方が先にバスタービームソードを弾き返して飛び下がった。

 

 しかし、その飛び下がりすら隙だと言うように、ガンダムダブルオーカイザーが猛烈な速度で迫りくる。

 

 

 

 ツルギはアームレイカーを捻り返し、レイジングマスラオのスラスターウイングを翻してのAMBACで、突き出されるバスタービームソードの切っ先を躱す。

 

『ほれどうしたどうしたどうした!?』

 

 ほとんど速度を殺さないままにガンダムダブルオーカイザーはバック宙しながら振り向き、レイジングマスラオを追う。

 

「まだどうもしてません……よっ!」

 

 振り抜かれるバスタービームソードに、レイジングマスラオは『ハワード』『ダリル』をクロスさせて受け止める。

 再び力の拮抗になる前に、レイジングマスラオは頭部からビームチャクラムを射出する。

 ほぼゼロ距離のそれはカイドウと言えども避けるのは難しく、辛うじて首を捻るように避けたが、ガンダムダブルオーカイザーの頬を斬り裂かれる。

 

『なめんなッ!』

 

 鍔迫り合いの状態から、ガンダムダブルオーカイザーは右足を振り上げてレイジングマスラオを蹴りつけようとするものの、足を振り上げようとする挙動からツルギはそれを瞬時に読み取り、レイジングマスラオを飛び下がらせた。

 

 

 

 

 

 ツルギとカイドウの戦いが始まって間もなく、ハルナ達はコロシアムに到着した。

 

「もう始まっちゃってるっ」

 

 ハルナの姫武者頑駄無の目が、レイジングマスラオとガンダムダブルオーカイザーの激しい斬り合いを捉える。

 

「ツルギさん……カイドウ先生と互角に戦ってる!?」

 

 ミーシャは拮抗し合っている二機の戦いを目にして驚く。

 自分ではほぼ瞬殺されたに等しいカイドウを相手に、被弾した様子もなく戦闘を続けている。

 

「いや……互角じゃなくて、ツルギの方が押されているわね」

 

 目を細めるユイは、一見互角に見えるその戦いを、『ツルギの方が劣勢』だと見ていた。

 

「どちらかと言えば、カイドウ先生の攻撃に辛うじて対応出来ている……と言うところだな」

 

 ガンダムダブルオーカイザーの一方的な攻撃を前に、どうにかレイジングマスラオがそれを後出しで防いでいるようにも見える、とサヤは言う。

 

「でも、攻めなきゃ勝てねぇぞ。クサナギ、てめぇはどうやって覆すつもりだ?」

 

 そう言いつつも、ヤイコは期待していた。

 ツルギがどのようにカイドウと戦うのかを。

 

 

 

 

 レイジングマスラオは『ハワード』『ダリル』の両方を叩き付けるが、ガンダムダブルオーカイザーはバスタービームソードを寝かせて構えるようにして防ぐ。

 しかし防がれることをツルギは既に読んでいるのか、レイジングマスラオは流れるように跳び蹴りを繰り出して、ガンダムダブルオーカイザーを蹴り飛ばす。

 

『……少しは出来るようになったじゃねぇか!』

 

 姿勢を立て直しながらも、ガンダムダブルオーカイザーはバスタービームソードを構え直して再び突撃する。

 

「そりゃぁ、あんだけ先生に扱かれれば、こうもなりますよッ!」

 

 再度、『ハワード』とバスタービームソードが激突、鍔迫り合いに持ち込まれる。

 その最中にレイジングマスラオは『ダリル』をガンダムダブルオーカイザーの腹部に突き立て、対するガンダムダブルオーカイザーは頭突きで反撃する。

 

「不思議なもんですよ、二ヶ月前まで自分は素人だって自覚があったのに……」

 

 頭突きを喰らっても怯むことなく、レイジングマスラオは『ハワード』を振り下ろす、

 咄嗟にガンダムダブルオーカイザーは身を捻るが、ボディに袈裟掛けに斬られた痕が走る。

 

「こうして先生とやり合ってると、確かに成長してるって分かる!」

 

 立て続けに『ダリル』も振るうレイジングマスラオだが、ガンダムダブルオーカイザーはバスタービームソードを払い、『ダリル』を吹き飛ばす。

 

『そうかい!』

 

 その勢いのままバスタービームソードを振り下ろすが、レイジングマスラオは『ダリル』を失った左腕を上に振り上げて、ガンダムダブルオーカイザーのバスタービームソードを握った右腕を押さえ込む。

 それだけで攻撃は終わらず、すかさずガンダムダブルオーカイザーは回し蹴りでレイジングマスラオの腹部を蹴り飛ばす。

 

『けどなぁっ、俺もそう簡単に負けてやりはしねぇからなァッ!!』

 

 カイドウはそのままガンダムダブルオーカイザーを加速させて追い込み、体当たりでコロシアムの壁にレイジングマスラオをぶつけさせる。

 

「ぐっ……!」

 

 背後からの衝撃を堪えつつ、ツルギは眼前に迫るガンダムダブルオーカイザーを見据える。

 

『さぁっ、どうするよツルギッ!?』

 

 一閃、一閃、一閃、一閃、一閃……

 

『ハワード』とバスタービームソードが激しく斬り結び合い、一閃の都度に稲妻が疾走る。

 

『後ろに逃げ場のねぇ、この状態を!』

 

 三度目の鍔迫り合いにもつれ込み、レイジングマスラオが押し返そうとするものの、逆にガンダムダブルオーカイザーが押し込み返し、レイジングマスラオはまた背中から壁に激突する。

 ツルギのコンソールパネルが、背部のレイジングユニットの損傷が激しくなっていることをうるさく伝えてくるが、そんなものを確認している場合ではない、レイジングマスラオは『ハワード』を振るいーー

 

 ついにバスタービームソードによって吹き飛ばされてしまった。

 

「ッ!」

 

『ハワード』『ダリル』、両方とも失ってしまった。

 その一瞬の動揺を突くようにガンダムダブルオーカイザーはバスタービームソードを突き出しーー

 

 ーー咄嗟の咄嗟、ツルギは思考することもなく、無意識の内にアームレイカーを前に出したーー。

 

 ガギンッ、と音が鳴り響いた。

 

 バスタービームソードの切っ先はレイジングマスラオには届かなかった。

 

 

 

 何故なら、レイジングマスラオの両手が、『バスタービー厶ソードの切っ先を挟み掴んで止めていた』からだ。

 

『"白刃取り"だとぉっ!?』

 

「ゥうるあァッ!!」

 

 レイジングマスラオはバスタービームソードを掴んだままガンダムダブルオーカイザーを持ち上げて薙ぎ払い、コロシアムの壁に激突させ返した。

 

『ぐはッ……』

 

 激突の拍子に、ガンダムダブルオーカイザーはマニュピレーターからバスタービームソードを手放してしまう。

 レイジングマスラオはバスタービームソードを放り捨てると、ガンダムダブルオーカイザーを殴り付けようと右の拳を振り下ろすが、掠めるか掠めないかのギリギリのところで躱されてしまう。

 

『今のは効いたぜ……やってくれるじゃねぇか』

 

 ガンダムダブルオーカイザーはバスタービームソードを拾って構え直す。

 

 対するツルギは肩で呼吸しながらも状況を確かめていた。

 

「(サーベルはどっちもない……後はもう素手しか残ってないか)」

 

 であれば、とツルギは武装フォルダを開き『TRANS-AM』を選択する。

 

「トランザム!!」

 

 レイジングマスラオのパワーケーブルがレイジングユニットに接続、スタビライザーを展開させ、スラスターウイングから朱い粒子が爆発的に吐き出されると、装甲が見る内に紅く染まっていく。

 

『面白ぇッ』

 

 ツルギが素手で突っ込んで来ると悟り、ガンダムダブルオーカイザーは拾い直したばかりのバスタービームソードを捨てて、レイジングマスラオと同じ素手になった。

 

 刀と大剣のぶつかり合いから、今度は拳で拳のぶつかり合いに発展する。

 

 セーブしているとは言えトランザムを発動しているレイジングマスラオと、ガンダムダブルオーカイザーとでは、さすがに前者が押している。

 だがそれは、元々3:7だった状態が、6︰4に押し返す程度に留まっている。

 根本的にツルギが有利になったわけではない。

 その上、この状態ですら時間制限が伴う。

 

 レイジングマスラオの右拳がガンダムダブルオーカイザーの頬を殴り壊し、ガンダムダブルオーカイザーの蹴りがレイジングマスラオの腹部を歪に凹ませる。

 

 互いが互いを殴り、蹴ると言う原始的な殴り合い。

 

 その最中にレイジングマスラオは肩からぶつけるように体当たり、殴りかかって来たガンダムダブルオーカイザーを弾き飛ばし、ツルギはアームレイカーを引き戻して距離を取る。

 

「そろそろ限界時間か……?」

 

 コンソールモニターには、レイジングマスラオの擬似太陽炉にかかる負荷が"注意"を示すイエローランプを発している。

 

『どうした、息切れか?』

 

 ガンダムダブルオーカイザーは挑発するように人差し指を立てて、クイクイと自分の方に捻らせる。

 

「……」

 

 ツルギは一時の躊躇いを覚えた。

 こうしている内にもトランザムの限界時間は迫っている。

 しかしこのまま攻めても、攻め切れずにトランザムは限界を迎え、それこそカイドウの言う通り"息切れ"を起こす。

 

 この膠着状態を引っくり返す切り札は……

 

 無いわけではない。

 

 だがそれは、レイジングマスラオにどれだけの負荷がかかるか分からない。

 

『来ねぇってんなら、止めを刺しちまうぞ!』

 

 ガンダムダブルオーカイザーはバスタービームソードを拾うなり一回、二回と振り回し、見事なサンライズパースを決めると、唐突に暗雲から落雷が発生、その雷がバスタービームソードの刀身に打たれ、高エネルギーが凄まじい勢いで膨れ上がる。

 

『トゥウオォォォォォルフゥァンマァァァァァッ、ブウゥゥゥルエェイクアァァァァァーーーーーッッッッッ!!!!!』

 

 集束させて爆雷を一点に叩き付ける、トールハンマーブレイカーが放たれ、それは真っ直ぐレイジングマスラオに向かってくる。

 

 このままでは、レイジングマスラオは破片ひとつ残らず消滅、このコロシアムも3/4が消し飛ぶだろう。

 

 自身を呑み込まんと迫るそれを見てツルギはーー

 

「……はっ」

 

 自嘲するように笑った。

 

 危険を躊躇うためにこの抜き打ちテストを、ヘルレイザー・リターンズを受けたのか?(正確には受けさせられたのだが)

 

 笑止千万だ。

 

「おい、マスラオ。後でいくらでも付き合ってやる」

 

 だからーーーーー

 

「出してみろよ。お前の、力」

 

 ツルギはコンソールモニターにある、レイジングユニットのリミッターを切った。

 

 同時に、接続されたパワーケーブルが、レイジングユニットから切り離された。

 

 "枷"を解かれたレイジングユニットは、本来のその爆発力を遠慮なく放ち、パワーケーブルが接続されていた部位からも膨大な粒子を吐き出す。

 

 瞬間、トールハンマーブレイカーの爆雷が、コロシアムの3/4を消し飛ばした。

 

 

 

 

 トールハンマーブレイカーの衝撃の余波は、遠巻きから見ていたハルナ達の機体を吹き飛ばすほどだ。

 衝撃の余波が通り過ぎてから、ハルナは急いで姫武者頑駄無の制御を取り戻した。

 

「ツルギくんはっ!?」

 

 ハルナは、ツルギがレイジングユニットのリミッターを切った瞬間を見ていた。

 確かに、カイドウに対抗するにはレイジングマスラオのフルパワーのトランザムが必要かもしれない。

 しかし、レイジングユニットは元々ツルギの製作技術に合わせて作られたものだ。

 今のレイジングマスラオが、フルパワーのトランザムにどこまで耐えられるか。

 恐らく、一分もしない内にレイジングユニットが破裂し、サイドバインダーの擬似太陽炉も焼き切れるだろう。

 

 そもそも、今のトールハンマーブレイカーで跡形無く消し飛んでしまったかもしれない。

 

 

 

 

 

 爆煙が立ち昇る中で、カイドウのガンダムダブルオーカイザーはバスタービームソードの構えを解いた。

 

 ツルギと戦ってみた率直な感想は「悪くはなかった」

 何より、フォース・スピリッツの面々と抜き打ちテストをしていく中で、トールハンマーブレイカーを使わせたのはツルギ以外にいなかった。

 サヤが以前に言っていた、「"化ける"可能性がある」と言うのは間違いではなかった。

 今はまだ、その"化ける"時ではないが、それももう一歩だろう。

 

 バスタービームソードを担ぎ直し、ツルギ達のフォースネストへ戻ろうとした、

 

 その瞬間にカイドウは反応し、土煙を切り裂いて飛んできた"それ"を咄嗟にバスタービームソードの腹で防いだが、あまりのパワーに吹き飛ばされる。

 

『ぐぉっ!?』

 

 コロシアムの壁に背中から叩き付けられる前に踵で踏ん張って耐えてみせるガンダムダブルオーカイザー。

 

『……ははっ、まさか生きてたとはなぁ』

 

 バスタービームソードを構え直しながら、カイドウは苦笑した。

 

 土煙が晴れたそこには、眩いばかりの真紅色に光り輝く、レイジングマスラオが立っていた。

 

「さすがに負荷がヤバいが……これならやれるか!」

 

 機体各部のイエローランプの箇所が増えていく中、ツルギはアームレイカーを殴るように押し出す。

 瞬間、レイジングマスラオは先ほどとは比べ物にならない速度を叩き出しながらガンダムダブルオーカイザーに迫る。

 

『ぬっ』

 

 さすがのカイドウと言えども、この速度を前に反応するのも困難なのか、放たれた正拳突きをバスタービームソードで辛うじて受け流す。

 が、その受け流した先にはもうレイジングマスラオが回り込んでいる。

 

「らあぁァッ!」

 

 放たれる光速の拳が、ガンダムダブルオーカイザーの頭部のグラビカルアンテナをへし折り、その衝撃で吹き飛ばす。

 

『チイィッ、調子に乗んじゃねぇッ!』

 

 吹き飛ばされながらも、ガンダムダブルオーカイザーはバスタービームソードの切っ先を地面に突き刺し、それを軸にするようにして瞬時に姿勢制御、着地と同時にバスタービームソードを引き抜く。

 その間にもレイジングマスラオは残像を後に残しながらも追撃してくる。

 

『ならもう一発凌げるかァ!?トゥウオォォォォォルフゥァンマァァァァァッ、ブウゥゥゥルエェイクアァァァァァーーーーーッッッッッ!!!!!』

 

 二度目のトールハンマーブレイカーを放つガンダムダブルオーカイザー。

 爆雷に真っ直ぐ突っ込む形になるレイジングマスラオ。

 

 しかし、今のツルギに"避ける"ことは考えていない。

 

「先生の必殺技が、大剣に雷を纏わせているんなら……」

 

 考えていない割には、思考はクリアだった。

 

「……なら、俺ならこうするッ!」

 

 レイジングマスラオは右拳を構えてさらに加速する。

 トールハンマーブレイカーの爆雷が目の前一杯に広がる。

 爆雷がレイジングマスラオを呑み込まんとする、

 

 その寸前に、レイジングユニットから放出される朱い擬似GN粒子が、本体であるレイジングマスラオの右腕に纏われーー

 

 ーーそれは、激しく燃え盛る"焔"となった。

 

「でぇぇぇぇぇりゃぁぁぁぁぁァァァァァーーーーーッ!!」

 

 激しく燃え盛る焔の拳が、トールハンマーブレイカーと正面から激突した。

 

 焔と雷。

 

 二つの莫大なエネルギーがぶつかり合い、コロシアムの地面を捲り上げーーーーー

 

 

 

 

 

 ーーーーーコロシアムは、ほとんど崩壊していた。

 

「……どうなったんだ?」

 

 サヤは何度巻き起こったか分からない砂煙を睨む。

 

 砂煙が晴れていく中、最初に姿が見えたのは、カイドウのガンダムダブルオーカイザー。

 全身がボロボロになり、その手に半ばから折れたバスタービームソードを握りながらも、しっかりと立っていた。

 

「やっぱり、カイドウ先生の勝ち?」

 

 ミーシャは力強く立つガンダムダブルオーカイザーを見て「ツルギが負けた」と見た。

 

「いやちげぇ……」

 

 ヤイコがミーシャの判定を否定した。

 やがてガンダムダブルオーカイザーの反対側の砂煙を晴れる。

 

「ツルギも負けてないわ」

 

 ユイの言葉を合図にしたように、レイジングマスラオも姿を見せる。

 

レイジングマスラオもまた、しっかりと右拳を突き出して、立っていた。

 

 しかしーーーーー右腕に亀裂が走り、砕け散った。

 

 全身にスパークが漏れると、レイジングユニットが、擬似太陽炉一対が、頭部ののグラビカルアンテナが、一斉に爆発していく。

 爆発に煽られながら、レイジングマスラオは地に平伏した。

 

「あー、やっぱりこうなるよなぁ……」

 

 ツルギは、コンソールモニターが示すレイジングマスラオの状態を見て溜め息をついた。

 

 全身という全身が『HAZARD』の表示が埋め尽くされている。

 

 だが、その画面の上から『SPECIAL MOVE ACQUIRED』と言う画面が上乗せされ、文字入力画面に『FINISH MOVE 01』と表示される。

 

「これは……必殺技?」

 

『ああ、その通りだ』

 

 倒れたレイジングマスラオはグイッと起き上がらされ、そのまま腕を肩に担がれる。

 ガンダムダブルオーカイザーが、レイジングマスラオを肩に担いでやっているのだ。

 

 

『まさか、俺のトールハンマーブレイカーを正面から受け止めるとは思わなかった。……今の焔の拳は、紛れもなくお前の、お前だけの必殺技だ』

 

「俺だけの、必殺技……」

 

 ツルギには実感が無かった。

 カイドウのトールハンマーブレイカーを回避するのではなく、対抗するにはどうすればいいか思考が回った時、その目の前の相手を見て、"真似"をしてみたのだ。

 

 その結果、凌ぐことは出来た。

 代わりに機体はボロボロになってしまったが。

 

『さっ、フォースネストに帰ってガンプラの整備に取り掛かんぞー』

 

 ガンダムダブルオーカイザーは、レイジングマスラオを担いで飛行すると、フォース・スピリッツのフォースネストへと飛び去り、それを追うようにメンバー達も自分達の居場所へ戻っていく。

 

 

 

 

 

 フォースネストに帰還するなり、レイジングマスラオの整備に取り掛かるツルギ。

 ここまで酷い損傷は、イフリート・エスパーダの時以来だ。

 特に、完全に壊れたレイジングユニットとサイドバインダー、右腕はツルギ一人ではいつまでかかるか分からないほどだ。

 それを汲み取り、今いるフォースメンバー全員が手伝い、自分のガンプラの整備を終えてからカイドウも手伝ってくれる。

 

 そのおかげで、ツルギ一人よりもずっと早くレイジングマスラオは元通りになった。

 しかしツルギは、レイジングマスラオを見上げたまま動かず、何かを考え込むような表情を浮かべている。

 

「どうしたのツルギくん?」

 

 ハルナはそんなツルギの隣に立ち、一緒にレイジングマスラオを見上げる。

 

「……こんなことを言ったらハルナに悪いんだけどな」

 

 そう前置きを置いてから、ツルギは腹の中を話す。

 

「フルパワーのトランザムのレイジングマスラオでも、もう限界だ。いや、本当はもっと前から……イフリート・エスパーダを使っていた時からかもしれない。……どっちも、俺が思うように動いてくれないんだ」

 

 イフリート・エスパーダで超巨大アグリッサと戦った時でさえ、限界をとっくに越えていた。

 

 今回のカイドウとの一騎打ちでも、甚大な負荷がかかるフルパワーのトランザムを使ってようやくツルギに追い付いた程だった。

 

 どちらにせよ、ツルギのダイバーとしての能力は、もはや並大抵のガンプラでは追いつかないほどにまで高まりつつあるのだ。

 

「だから、また新しいガンプラを作る必要があるかもしれない」

 

「……」

 

 ハルナはまだ口を開かない。ツルギの言葉にはまだ続きがあると感じたから。

 そこから先のツルギの声のトーンが落ちる。

 

「……でも、どうすれば今の俺が満足出来るガンプラを作れるのかが分からない。マスラオ、イフリート……それだけじゃない、これと思ったガンプラはこれまでにも作ってきた。だけど、いざ自分の全力を出せるガンプラを作ろうと思ったら……全くイメージが出来ない」

 

 ツルギがそこまで喋り終えるのを聞いてから、ハルナはそれに応えた。

 

「ツルギくんはさ、何で最初にマスラオを選んだとか、その後でイフリートを作ったのかって、覚えてる?」

 

「え?そりゃぁ、マスラオは本当に直感……って言うか、マスラオを最初に見たときに、「変なガンプラだな」って思ったんだぞ?」

 

「そのマスラオ変なガンプラを、ツルギくんは選んで、他のガンプラも作ってみて、それでも今日までマスラオから手を離さなかったんだよね?」

 

 ハルナにそう言われて、ツルギは気付いた。

 何故、自分はマスラオを使い続け、レイジングマスラオに改造してからも、何度でも使い続けて来たのか。

 ガンプラなら他にいくらでもあったにも関わらず、結局ここぞと言う時はレイジングマスラオを手に取っていた。

 

 それは、それだけの"愛"着がマスラオにあるからではないか?

 

「……」

 

 ツルギは、目の前に立つレイジングマスラオを見上げ、その脳裏にはこれまでの戦いを思い浮かべていた。

 

 初めてのGBNで、リヒターとの偶発的な戦闘。

 

 ハルナとタッグを組んだ、イチノセ姉妹とのバトル。

 

 ミーシャとカゲトラと共に、新型ブレイクデカールに侵されただろうサイコガンダムとの戦い。

 

 サヤとの一騎討ち。初めての敗北。

 

 ノエルのフォース・ロイヤルナイツとのバトル。

 

 トリントン基地で、図らずもヤイコと出会ったミッション。

 

 ミスズ達フォース・フラワーズと共に最後までフェスのイベントミッションを楽しんだこと。

 

 フルメタルシェパードのフォース・フォートレスとのバトル。

 

 カイドウの地獄の修練。

 

 そこから一度、イフリート・エスパーダを作り上げたこと。

 

 ローランのフォース・サンダーバードと、フォースネストを賭けたバトル。

 

 反マスダイバー連合軍への参加、侵食ガンプラ達との死闘。

 

 フォース・フォートレスとのリベンジマッチ。

 

 そして、今日の抜き打ちテスト、ヘルレイザー・リターンズ。

 

 そこまでを思い返したところで、確信した。

 

「俺に必要なのは、新しいガンプラじゃない。今のレイジングマスラオを、もう一度改造することだ」

 

 益荒男と銘打たれたこの紅黒の鎧武者に、これまでに作り上げてきたガンプラから得たもの、その全て注ぎ込む。

 

「っても、俺一人でどこまでやれるかは分からん。だから、まずは俺が自分の力だけでやって、足掻くだけ足掻いて、それでも無理だった時は……ハルナ、また頼んでいいか?」

 

「それはいいけど……正直、わたしじゃ今のツルギくんに付いてこれるガンプラなんて、作れるか分かんないよ?」

 

 ハルナは自信無さげに眉の端を落とす。

 彼女がツルギを間近で見て来たからこそ、そのツルギにとって必要なガンプラがどれほどのモノかを推し量ることが出来る。

 推し量ることが出来てしまうからこそ、自信が無いのだ。

 

「だったら、話は早いでしょ」

 

 ツルギとハルナに、ユイが声を掛けた。

 ユイだけではない、ミーシャ、サヤ、ヤイコ、ミツキ、カイドウもいる。

 

「二人でも無理なら、みんなで作ればいいんですよ」

 

「任せろ、とは言わないが、可能な限り力は尽くすさ」

 

「細けぇことは出来ねぇが、頑丈に作るだけならアタシにも出来るぜ」

 

「私は製作については手を出せませんが、アドバイザーの端くれとして、意見を出すくらいはお手伝いしましょう」

 

「ようは、もっと皆に頼れってな」

 

 カイドウの言葉が、全てを代弁していた。

 

「「……」」

 

 ツルギとハルナはメンバー達を見比べて、もう一度向き合って、

 

「……まぁ、その、アレだ。俺もハルナも無理なら、皆にも手伝ってもらおう、ってことだな」

 

「……そうだね、ふふっ♪」

 

 二人して笑った。

 

 ハンガーに掛けられているレイジングマスラオは、そんな二人を黙って見守ってくれているような気がした。

 

 

 

 

 

【次回予告】

 

 ツルギ「偉そうなこと言ったもの、やっぱどうすれば良いか分からんな……」

 

 ハルナ「うー、自分のガンプラなら分かるのに、ツルギくんのガンプラになるとさっぱりだよぉ……」

 

 ミーシャ「早速悩み出しましたね」

 

 サヤ「まぁ、いざと思う時に限って事が進まないのはよくあることだしな」

 

 ミツキ「そんな時は、気分転換にお二人で旅でもしてはいかがでしょうか?」

 

 ハルナ「旅?」

 

 ツルギ「どこに行けって言うんだ?」

 

 ヤイコ「それはお前らで決めるこったな」

 

 ユイ「あ、お土産はいいからね」

 

 ツルギ「次回、ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツ

 

『With you』」

 

 ハルナ「GBNでお土産って、どこで買えるかな……」

 

 ツルギ「そっちの心配かよ」

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