読み込みに失敗したりエラーが発生したりするばっかりでこれっぽっちも上手くいきません。解せぬ。
仕方ないので今回2話も挿絵無しです。解せぬ。
クサナギ・ツルギの朝は早い。
まず、起きる時間は日の光が辺りに差し込み始めるよりも前。
そこからまずはランニングと呼ぶには生温いレベルの走り込み。
ほとんどダッシュに等しいペースをほぼ休憩無しで走り切る。
その走り込みが終わってから休む間もなく、次は腕立て伏せや上体起こしなどの基礎トレーニングを三桁単位で繰り返す。
それが終わって呼吸を整えてから最後に、ツルギ自身が身に着けてきた拳法の型を一通り繰り出す。
それが終わった頃には時刻も6時半を過ぎており、ここでツルギは一度帰宅する。
帰宅してからすぐにシャワーを浴びて、平日である今日は登校の準備を整える。
この朝の一連の流れは、中学の頃から今まで四年近い間、外泊などのケースを除けばほぼ欠かしたことはない。
いつもの時間に差し掛かった辺りで、ツルギはスポーツバッグを担ごうとして、ふとその手を止める。
「っと、忘れるとこだった……」
ツルギが手にしたのは、昨日に作り上げたガンプラ、マスラオだ。
昨日、帰り間際にハルナから「ツルギくんの部活が終わったら、帰りにGBNやろう」と約束されたのだ。
それも、「ツルギと同じくらいの初心者も一緒に混ぜてプレイする」と言うものだ。
現時点で、多少人数が増えたところでツルギにとって困ることは何一つない。
下校の流れからガンダムベースに寄るつもりなので、ガンプラとダイバーギアもバッグの中に仕込んでおく。
もう一度中身を確認してから、自宅を出た、
「あっ、ツルギくんおはよー♪」
ところでハルナがいた。
「ん?あぁおはようさん。待ってたのか」
「待ってないよ。普通に通りかかろうとしたら、玄関から物音聞こえたから、ツルギくんかなって」
偶然と言えば偶然だが、断る理由もないので、ツルギとハルナは並んで登校する。
「昨日も言ってたけど、今日は友達二人混ぜてやるの」
「確か、俺と同じくらいの初心者なんだったか」
「んー、正確にはツルギくんよりもほんのちょっと早く始めたのが一人と、経験者がもう一人かな」
ハルナは友達二人のことを思い起こしているのだろう、頬に人差し指を当てながら答える。
「経験者か……どのくらいの経験があるのかは知らんが、もしかしたら次元覇王流拳法についても知ってるかもしれねぇな」
「もーツルギくんったら、何かあったら、次元覇王流拳法、次元覇王流拳法、だね?」
次元覇王流拳法を渇望するツルギと、そんな様子を見て苦笑するハルナ。
住宅街から駅前広場を抜け、大通りに入った所で、ツルギやハルナ達と同じ制服を着た学生達と、そこへ向かう校舎が見えてくる。
中高一貫であるため、生徒の半数はそれぞれ別の校舎で別れる。
ツルギとハルナは高校二年生であるため、高等学年の校舎へ向かう。
自分達のクラスの教室に入れば、早めに登校してきた数人のクラスメートが思い思いの形で過ごしている。
ハルナはその内の一人の席に向かう。
ケータイの画面で何かを見ている、ベージュ色の髪を右側頭部で青紫色のリボンでサイドテールに纏めた女子生徒だ。
ーー周りはあまり気にしていないが、左右の瞳の色が異なるのも特徴的だ。
「ユイちゃんおはよー♪」
ハルナの挨拶に気付いて、ユイちゃん、と呼ばれた女子生徒ーー『イチノセ・ユイ』はケータイの画面を閉じて向き直る。
「おはよう、ハルナ」
挨拶を交わす二人を見比べつつ、ツルギはハルナの方を見る。
「ハルナの言ってた、俺と同じくらいの初心者って、イチノセのことか?」
「うん、そうだよ。ツルギくんより先に、2、3回ダイブしたことがあるくらいかな?」
まだ昨日にダイブしたばかりのツルギよりも、少しだけ早い段階からGBNを始めているようだ。
ユイもまた、ツルギとハルナを見比べる。
「クサナギも、GBN始めたの?」
「あぁ」
ユイの問い掛けに頷くツルギ。
ツルギとユイは、個人としては単なるクラスメートの一人と言う認識だが、ハルナを通じてGBNと言う共通点を持つことになったと言うわけだ。
「まぁ、GBNを通じてになるが、よろしくな」
まだイチノセ・ユイと言う人間についてよく知らない以上、あまり干渉しないように接するツルギだが、対するユイはくすりと小さく笑った。
「そんなに気張らなくても大丈夫よ。私もまだ始めたばっかりだし、初心者同士、仲良くしましょ」
あ、そうそう、とユイは思い出したように鞄の中を探る。
「今、ダイバーギア持ってる?持ってるなら、先にフレンド登録しましょうよ」
「おぅ、あるぞ」
ツルギもスポーツバッグからダイバーギアを取り出しながら起動し、フレンド登録の画面を開く。
ツルギのフレンドにはまだハルナの名前しか登録されていない。
まずはユイの方から送信してもらい、受信を確認してからツルギも送信を返す。
「ねぇユイちゃん、マイちゃんはもう学校来てる?」
ハルナは、ツルギの知らない名前をユイに訊いた。
ツルギとのフレンド登録を確認したユイは「んー……」と思案しながらダイバーギアの時刻を見る。
「この時間帯なら、お姉ちゃんはまだ来てないと思う。お姉ちゃんってば、いっつも遅刻ギリギリになって来るから……」
「そっかぁ。今の内にツルギくんにも紹介しときたかったんだけどねぇ」
マイちゃんじゃしょうがないね、とハルナは困った風な様子もなく苦笑した。
ともかく、朝の内にもう一人の友達と会うことは出きなさそうだ。
予鈴が鳴るまでもう少しだけ談笑する流れになった時、ふとツルギに声を掛ける者がいた。
「ほっほぅ、武道一筋のクサナギがGBNを始めたとは、どう言った風の吹き回しかな?」
その声に三人全員が反応する。
「この声は……」
ツルギがそう口にした時、ぬっ、とツルギの背後から男子生徒が現れた。
「うっわっ、カゲトラお前いつの間に……」
「ひゃーっはっはっはっ、油断大敵とはまさにこのこと!」
笑いを上げながら現れた男子生徒ーー『カゲトラ』は、遠慮の欠片もなく隣の席から椅子を引っ張ってきてはどっかりと座る。
「おはようカゲトラくん」
「ぉ、おはよう……」
ハルナは平常通りに、ユイは顔を引きつらせながら、それぞれカゲトラに挨拶する。
「うむ、おはよう。ヒメカワ嬢にイチノセ妹」
カゲトラも律儀に挨拶を返したところで、何事も無かったかのように会話に混ざってくる。
「先も申したが、クサナギがGBNを始めたと聞いたのでな。長期休暇の間は南米のギアナ高地で修行でもしていそうな男が、何故突然オンラインゲームなどに興味を持ったのか、とな」
「あのなカゲトラ、いくらなんでも海外にまで行って修行はしねぇぞ」
とりあえずツッコミを入れてから、ツルギは自分がGBNを始めた目的を話す。
「GBNの中にいる、ダークマスターって奴が使ってたらしい、次元覇王流拳法って言う拳法を知るためだ。カゲトラは何か知ってるか?」
ツルギの質問に対して、カゲトラは右手を顎に置き、考え込むような仕草を見せるが、やはり胡散臭い。
「……、ふむ……これは、准将に報告する必要があるな」
このカゲトラと言う男、普段の行動も言動もぶっ飛んでいるのだが、独自の広大な情報網を隠し持っている。
それも、個人の都合では使わずに、カゲトラ曰く「准将の命令のためだけに使う」らしい。
ともかく、並外れた情報通と言うことだけは間違いない。
「そうか……カゲトラでも知らないことはあるのか」
そのカゲトラから具体的な答えが出ないことから、どうやら次元覇王流拳法はとんでもなくマイナーな拳法なのだろう。
そもそも、"拳法"と言う括りにあるのかさえ怪しいところだ。
「フッ、所詮は俺も人の子と言うわけだ」
誰も褒めていないのに、謙遜するように俯くカゲトラ。
それまでの流れを無視して、ハルナが入ってくる。
「カゲトラくんも、GBNやってるんだよね。ツルギくんとフレンド登録しといたら?」
「すまんがヒメカワ嬢、今日の俺は別の要件があって、ダイバーギアを持ってきていない。それはまたの機会にするとしよう」
ふと、朝のホームルームが始まる直前の予鈴が鳴り響く。
騒がしい面々は、一時限目の授業の用意をしつつ、各々の席につく。
「そう言えばイチノセ」
ツルギは、席が隣のユイに話し掛けた。
「ユイでいいわよ。私もツルギって呼ばせてもらうから」
「んじゃ、ユイ。さっきのマイってのは……」
「あぁ、私のお姉ちゃんのことね」
勉強道具を机の中に入れながら、ユイは続ける。
「学年は同じなんだけど、クラスは違うの。GBNも、けっこう長いことやってる。でもね……」
その喋りが、ため息混じりになった。
「お姉ちゃん、昔からずぼらなのよ。だから、プレイ時間の割にはランクもそんなに高くなくて」
先程にもユイが言っていたように、遅刻ギリギリになって学校に来ると言う。
ランク上げ等には熱心ではない、気ままにプレイしているのだろう。
「つっても、俺やユイよりは経験者であることに変わりはねぇだろ?」
「まぁ、そうなんだけど。だから、私もツルギもすぐに追い付くと思う」
会ってからのお楽しみね、とユイはツルギとの会話を打ち切る。
ツルギも前を向いて、担任教師の登壇を待つ。
昼休み。
ツルギ、ハルナ、ユイは三人とも弁当を持参してきているので、食堂や購買に行くことはない。
ツルギとユイの姉が朝の内に顔を合わせられなかったため、ユイを通じて、姉の方からクラスの教室に来るらしい。
ずぼらと言う割には、昼休みの時間になってから早いタイミングで来てくれた。
「やっほー。ユイちゃんのお姉ちゃん、マイちゃんでーす」
が、
「…………」
ツルギは、やって来たユイの姉ーー『イチノセ・マイ』と、その隣に座るユイを見比べて絶句する。
瓜二つ。
控え目に、そうとしか言えないレベルで、このイチノセ姉妹はそっくりだった。
左右の瞳の色が異なるのも、だ。
ツルギから見て見分けが付くとすれば、髪型だろう。
ユイはサイドテールで、マイはそのサイドテールを降ろしたようなストレート。
そのユイが髪を降ろしたら、もう見分けがつかなくなる。
「いや待て、いくら双子姉妹だからって、こうまで似るもんなのか?」
自分の目を疑うツルギだが、その理由はユイが答えてくれた。
「『一卵性双生児』、って言ったら分かる?」
「えー……アレか?同じ日に時間差で産まれてくる双子って奴か」
「そうそう。それで、私の方が後に産まれたから、私が妹なの」
知識としては何となく知っていたツルギだが、いざその実例を目の当たりにすると、まさに不思議だ。
気を取り直して(?)各々の弁当を広げて食べながら、談笑に興じる。
「それでねマイちゃん。このツルギくんも、昨日からGBNを始めたんだよ」
まずは話題の始めとして、ハルナがツルギのことを話し、続いてツルギが自己紹介する。
「俺はクサナギ・ツルギ。早速で悪いんだが、次元覇王流拳法って知らないか?」
自己紹介と同時に次元覇王流拳法のことを訊くツルギ。
しかし、それを聞いたマイは首を横に振るだけ。
「うぅん知らない」
「そうか……すまん」
「まぁまぁそう気を落とさずに、フレンド登録フレンド登録」
そう言うなりマイはダイバーギアを取り出して、自分のプロフィールデータを見せてやる。
これと言って特筆すべきことは表示されておらず、個人ランクも『D』だ。
『SSS』が最高ランクであるため、それと比べるとまだ低い分類だろう。
それでも、ツルギやユイよりも高いことに変わりはない。
ツルギもダイバーギアを取り出して起動、マイとフレンド登録を返す。
「俺は剣道部と柔道部を掛け持ちで入っている。だから、GBNもそんなに出来るわけじゃないってことは了承しといてほしい」
ツルギは部活動を行っているので、放課後すぐに自由に動けるわけではない。
「はいはーい、オッケーよ」
マイも特に気にすることもなく頷いた。
「わたしはツルギくんのこと待つつもりだから、二人は先にダイブしてていいよ」
ハルナはツルギの部活動が終わるのを待って、帰りを一緒にしながらGBNへダイブすると言う。
その間、イチノセ姉妹は一足先にダイブしておく、と言う形だ。
「そう?いいって言うなら、私とお姉ちゃんは先にダイブしてるけど……お姉ちゃんもそれでいい?」
ユイはマイに確認する。
「あたしは何でもいいよ。みんなの都合に合わせるから」
マイの方も異論はないようだ。
他に何か懸念すべきことも無く、後は放課後を待つだけになった。
放課後。
イチノセ姉妹は先にガンダムベースへ向かい、ツルギは今日は剣道部で活動し、ハルナはそのツルギを待つ。
ツルギの部活動が終わるのは、下校時間の18時前。
解散になってから、ツルギとハルナは昨日も赴いたガンダムベースへ行く。
その途中で、ハルナは今日はGBNで何をするのかをツルギに伝えている。
「それでね、ユイちゃんとマイちゃんの方は、二対二のタッグバトルがしたいって言ってるの。ツルギくんとはわたしが組むけど、それでいいかな?」
ツルギが部活中に連絡を取っていたのだろう、イチノセ姉妹は対人戦を所望しているようだ。
「俺は別に構わないぞ。二対二のバトルって勝手は分からんが」
「詳しい設定とかは、ミツキくんにしてもらうから大丈夫。向こうも、ユイちゃんがよく分かんないと思うし、変なことにはならないと思うよ」
ハルナがミツキの名前を口にしたのを聞いて、ツルギは少しだけ疑問に思った。
「ミツキって、昨日もお前の頼み聞いてたよな?そんな連日頼んでいいのか?」
向こうの都合だってあるだろうに、とツルギは懸念するものの、ハルナは「それも大丈夫」と答えた。
「ミツキくんね、色んな依頼とかを率先して請け負ってるの。場合によってはビルドコインの支払いも請求するけど、初心者の案内とか、バトルの審判とかは無料で受けてるから」
「えらい親切だな……まぁ、ありがたいけどな」
そうこうしている内に、ガンダムベースが見えてきた。
GBNにログイン、ダイブしたツルギとハルナは、エントランスで見覚えた三人の姿を見つける。
やはりイノベイドの服を着付けているミツキ。
胴着と袴を着込み、その上から胸当てを付けた、弓道着を纏ったユイ。
濃紺の上から朱色の彩りに、黄色い『T』のアルファベットを鳥のようにあしらったーー『Zガンダム』に登場する組織『ティターンズ』のーー軍服を着込んだマイ。
雑談か打ち合わせか、三人で話し込んでいるようだが、ツルギとハルナを見かけた所で話を止める。
「三人ともお待たせー。ミツキくん、打ち合わせとかは大丈夫?」
ハルナはミツキに、今日のタッグバトルの進行状況を確認する。
「もちろんです。今から、皆さんに説明します」
一度咳払いをしてから、ミツキはこの場にいる四人に説明する。
「本日のタッグバトルは、ハルナとツルギのチームと、マイとユイのチームとで行います。ルールに特に捻りはありません、二機とも撃墜、もしくは行動不能にさせたチームが勝利です」
ミツキはコンソールパネルを呼び出して、キーを叩きながら説明を続ける。
「両チームのガンプラは、それぞれ別の格納庫に待機しています。出撃してからは、こちらが指定したバトルフィールドへ案内いたします。……私からは以上です。何かご質問等はありますか?」
ミツキが質問等はあるかを訊き、誰も意見が挙がらないのを確かめてから、コンソールパネルを閉じる。
「それでは両チーム、出撃をどうぞ。私も、案内のために出撃しますので」
格納庫に移動したツルギとハルナ。
ツルギのマスラオは昨日と同じように佇んでいるが、今日はその隣にハルナのガンプラがある。
「なんか、ハルナのガンプラって小さくねぇか?」
一目見るなり、ツルギは目を細める。
頭がかなり大きく、首から下の手足は短い、寸足らずな外観。
白と桃色に、金色の縁取りがされた装甲のそれらは、姫武者を思わせる。
背中に背負っているのは薙刀と、取り回しやすそうな銃。
「SDガンダムってガンプラだよ。カッコかわいいでしょ?」
「その、カッコかわいいってのはよく分からんが、ハルナらしいガンプラだな」
少なくとも、見かけばかりで弱いガンプラではないだろう。
その強さは、バトルで確かめればいい。
ツルギはマスラオに乗り込み、早速出撃していく。
「ツルギ、マスラオ、参る!」
マスラオがリニアカタパルトに打ち出され、続いてハルナのガンプラもハンガーから降ろされる。
「ハルナ、『姫武者頑駄無』、行きまーす!」
ハルナのガンプラ、姫武者頑駄無も、後頭部の黒髪のようなバインダーをなびかせながら、マスラオの後を追うように打ち出された。
ベース基地から出撃して間もなく、マスラオと姫武者頑駄無が並走する形になったところで、二人にミツキからの通信が届く。
『ハルナとツルギ、よろしいですね?』
「はーい、感度良好だよ」
「おぅ、こっちもよし」
『これより、ガイドビーコンを発信します。そちらへ向かってください』
すると、二人のコンソールマップに赤いマークが表示、点滅する。
ミツキが発信しているガイドビーコンに従い、二機は移動していく。
到着した場所は、広大な荒野だった。
ガイドビーコンの発信源であるため、ここでバトルを行うようだ。
ツルギとハルナが辺りを見回していると、再びミツキからの通信が届く。
『お待ちしておりました。つい先程に、イチノセ姉妹のチームも到着しています』
「それで、もうバトルは始まってるのか?」
ツルギは既に戦闘開始状態なのかをミツキに訊く。
『いえ、まだですよ。開始の合図はこちらで行いますので。これより、一分間のインターバルの後にバトルスタートを合図します。それでは、ご健闘をお祈りします』
それだけ告げると、ミツキは通信を切る。
この一分間を利用して、ハルナはツルギと繋ぐ。
「ねぇツルギくん、いいかな?」
「ん、何だハルナ?」
「ツルギくんのガンプラはマスラオだから、前に出て戦ってほしいの。わたしは、その後ろから援護するから」
「まぁ、このマスラオじゃ援護なんか出来そうにないしな……」
完全に接近戦に特化している以上、ツルギは必然的に前に出ることになる。
元よりそのつもりであったツルギは、残り20秒前になってアームレイカーを握り直す。
3……2……1……
『それでは、バトルスタートです』
ミツキがブザーを鳴らし、バトル開始が告げられる。
同時に、マスラオと姫武者頑駄無が前進し、荒野の中を突き進む。
意識を周囲に傾けつつ、ツルギはハルナに問い掛ける。
「ハルナ、あの二人とは前から知り合ってたんだよな?だったら、どんなガンプラを使ってくるか分かるか?」
「うーん……わたしはフレンド登録しただけで、どんなガンプラ使ってるかまでは知らないかな」
「……いや、訊いて悪いがその必要はねぇな」
マスラオの前方から敵対反応が高速で近付く。
上空から飛来してくるのは、この蒼空には酷く目立つワインレッドのガンプラ。
尖った頭に広がった肩、丸みを帯びた平べったい翼、鋭い尻尾のようなスタビライザー。
何より、頭部だけではなく、肩の内部からもアイカメラが覗いている。
人型からやや外れたような、と言うより人型ですらない。
「何だ?あの変な紅いエイみたいなガンプラは……」
銃身の長いライフルを抱え込んだ紅いエイ、と見たツルギだが、もちろん油断などしていない。
「『ハンブラビ』だよ。アレ、変形してるの」
ハルナがそのガンプラの名前を教えてくれたが、黙って聞いている余裕はない、ハンブラビは抱え込んだライフルーーフェダーインライフルーーをマスラオに向けて発射してくる。
しかしその距離はまだ遠く、大気の流れもあるせいかフェダーインライフルのビームは逸れてしまい、マスラオの足元近くにぶつかって拡散した。
「変形だか何だか知らんが……」
マスラオは『ハワード』『ダリル』の両方を抜き放ち、その場から一気に飛び上がる。
「ただ飛んでるだけなら、近づくのは簡単だろうよ!」
ツルギの注意は目の前のハンブラビに注がれ、一直線にマスラオを接近させる。
それを見たハルナは慌てて警戒を促した。
「ちょっ、待ってツルギくんっ!そんな迂闊に飛び出したらっ……」
だがそれも既に遅く、不意にハンブラビとは別方向からもアラートが反応する。
それは、目視できないような距離から放たれた、高出力のビームだ。
「なっ!?」
ツルギがアームレイカーを咄嗟に引き下げたのは、ほぼ反射だった。
瞬時にマスラオは下方へ回避したものの、誇らしげな兜飾りのようなクラビカルアンテナを掠め、ビームチャクラム発生機が破壊されてしまう。
「っぶねぇ……どこから撃ってき……」
致命傷を避けられたことに安堵しかけたツルギだが、すぐさま追い詰めるように、上からハンブラビが迫ってくる。
ウイングに乗せていたそれを広げると、角張ったような形の脚部となり、五体満足な人の形となった。
フェダーインライフルを逆さに向けてスピアーのように構え直すと、その先端部分からビームサーベルが発振、それをマスラオ目掛けて振り抜いてくる。
「ぬっ……」
ツルギは左のアームレイカーを捻り、マスラオの左手に握る『ダリル』でフェダーインライフルを受け止める。
『へぇ、いい反応してるじゃない?』
接触通信越しに相手からの声が聞こえてくるが、声色すらも酷似しているので、ユイなのかマイなのかの聞き分けがつかない。
「……ユイとマイ、どっちだ?」
『んー?あたしはユイちゃんの方よ』
「マイの方だな、よく分かっ、たッ!」
まだほぼ初対面だが、イチノセ姉妹の大体の喋り方や微妙な発音の差異で聞き取ったツルギは、鍔迫り合いの状態からハンブラビの腹部を蹴り上げ、怯ませた所で機体を翻して急速離脱する。
「もっと慎重になるべきだったか……ハルナはどこだ?」
ツルギはレーダーを視認、僚機である姫武者頑駄無の位置を確かめる。
ハルナの方も、マイとは別のーー恐らくユイの方のガンプラを追っているのか、先程ツルギが狙撃を受けた方向へ向かっている。
しかし、マイのハンブラビも逃してくれそうない、再びMA形態に変形すると、マスラオよりも遥かに速いスピードで追ってくる。
「チッ、背を向けてたんじゃやられる……!」
背面のビームライフルとフェダーインライフルを撃ち分けてくるハンブラビに、ツルギは舌を打つ。
「もー、ツルギくんったら。ヒヤヒヤしちゃったよ」
狙撃されたもののどうにか撃墜を免れたツルギのマスラオを見て、ハルナは胸を撫で下ろす。
しかし、悪いことばかりではない。
先程の狙撃によって、もう一機がどの辺りにいるのか、おおよその見当が付いた。
ハンブラビの相手はツルギに任せるとして、ハルナはもう一機の捕捉を急ぐ。
切り立った高台から高台をジャンプして飛び越え、遠方にもう一機のガンプラを発見する。
「見つけたっ……」
モニターを拡大してみると、青紫ーー菫ーー色の『バスターガンダム』が見えた。
「さっきのハンブラビが多分マイちゃんだから……向こうはユイちゃんの方かな」
バスターガンダムであれば、先程の狙撃は二丁の火砲を連結させた『超高インパルス長射程狙撃ライフル』によるものだろう。
一瞥しただけで分かるのは、脚部にミサイルポッドらしいコンテナを増設し、頭部にはセンサー類を強化しているだろうアンテナが立てられている。
向こうもハルナの姫武者頑駄無に捕捉されたと気付いたか、『94mm高エネルギー集束火線ライフル』と『350mmガンランチャー』の二つに切り離して、バックパックにマウントする。
そして、そのバックパックからもうひとつ武器を取り出しては左手に握る。
無骨な盾にも見えるそれから伸びるのは、六本のシリンダーを束ねたような砲身。それが左右一対。
『ガンダムヘビーアームズ改【EW】』や『サーペント』が装備する連装重機銃『ダブルガトリングガン』だ。
「バスターに、ヘビーアームズの武装を追加したってところかな……」
機体銘も『ガンダムヘビーバスター』と設定されており、文字通りの銘と言う分けだろう。
『悪いけど、ハルナだからって手加減はしないからっ』
ユイがそう言い放つと同時に、ガンダムヘビーバスターのダブルガトリングガンの一対の砲塔が姫武者頑駄無へ向けられる。
一拍を置いて、ダブルガトリングガンの一対の砲身が轟音を上げながら高速で回転を始め、銃弾の暴風となって姫武者頑駄無に襲いかかる。
昨日のアレックスのガトリング砲など比べ物にならない速度と連射力で撃ち出されるそれは、接近を考えていたハルナに『回避』を即断させるほどに重厚かつ濃密な弾幕だ。
原典作品でも、ガンダムヘビーアームズ改【EW】が使用したものは『サーペント』の重装甲を数秒の速射(実際には銃弾の信管が抜かれていたため、着弾の衝撃だけ)で行動不能にさせたその威力は想像するまでもない。
姫武者頑駄無は地面を蹴って降り注ぐ銃弾をやり過ごすが、避けて終わりではない、ダブルガトリングガンは地面を舐めるようにーー実際は砕き飛ばしながらーー追撃してくる。
「うわわっ……」
ハルナはアームレイカーを右へ左へと回し、蛇行するように姫武者頑駄無を後退させる。
距離を置きながら、姫武者頑駄無はマウントしていた銃『
離れればダブルガトリングガンの射撃も躱しやすいが、こちらの射撃も当たらない。
仮にダブルガトリングガンを突破できたとしても、350mmガンランチャーと94mm高エネルギー集束火線ライフルの他にも、肩と脚部のミサイルポッドまである。
だが、ベースがバスターガンダムである以上、近接攻撃力に乏しいのは間違いないはずだ。
問題なのは、その近接攻撃に至るまでの距離をどうやって縮めるかだ。
「それならっ」
ハルナは姫武者頑駄無を跳躍させて、ダブルガトリングガンの砲火から逃れつつ、岩陰に身を隠す。
『隠れたところで!』
ガンダムヘビーバスターはダブルガトリングガンの斉射を止め、右脚を一歩前に踏み出した。
開くのは、右脚のミサイルポッド『ホーミングミサイル』。
18発のミサイルが一斉に発射され、それらは姫武者頑駄無を隠す岩陰に着弾しては強引に吹き飛ばしていく。
「ちょっ、やばっ!?」
ハルナは慌てて岩陰から飛び出させ、直後にホーミングミサイルの群れが完全に姫武者頑駄無の隠れていた岩陰を破壊した。
姿を見せた姫武者頑駄無へ、ガンダムヘビーバスターは350mmガンランチャーを引き出して発泡、放たれる散弾がさらに追い詰めていく。
ガンダムヘビーバスターを撃破するには接近する他にないが、近づくことさえ出来ない。
せめて弾切れさえしてしまえば近付くことは容易だろうが、さすがに重砲撃戦に特化したガンダムヘビーバスターは、簡単に弾切れを起こしてくれないだろう。
「ツルギくんの援護にも行きたいけど……」
下手に背を向ければ後ろから狙い撃ちされるのは目に見えている。
ならば、とハルナは350mmガンランチャーの散弾を掻い潜り、足元へスラスターを噴射させる。
推進力が起こす風圧が砂塵を巻き起こしていき、瞬く間に姫武者頑駄無の姿を隠す。
『目くらまし?』
ユイは砂煙を前にして目を細める。
姿が見えないと言うことは、行動に出るための挙動が見えず、どう仕掛けて来るかが読めない。
『だったら、先手を打つ!』
ガンダムヘビーバスターは、350mmガンランチャーを前に、94mm高エネルギー集束火線ライフルを後ろに連結した『対装甲散弾砲』を組み上げる。
350mmガンランチャー単体よりも高出力で、なおかつより多くの砲弾を拡散させて撃ち出すこの形態で、姿の見えない姫武者頑駄無を炙り出す。
対装甲散弾砲を腰だめに構え、発射するガンダムヘビーバスター。
発射の反動でガンダムヘビーバスターの接地したフット裏がガリガリと地面を削る。
広範囲を巻き込む散弾が砂煙を切り裂くが、被弾したような反応は見えない。
『外れた?』
冷静にレーダーに目を通すと、既に姫武者頑駄無の反応は遠く、マスラオとハンブラビが交戦している方面へ向かっている。
『……』
ユイは対装甲散弾砲を分離し、前後逆にして再び連結し直して超高インパルス長射程狙撃ライフルを組み上げ、スコープを覗き込む。
その視界の中に、マスラオとハンブラビの姿を捉える。
『ダリル』でハンブラビのビームサーベルを弾き返し、反撃に『ハワード』で斬り上げようとするマスラオだが、マイのハンブラビはまるでツルギを小馬鹿にするようにひらりと『ハワード』の一閃を往なす。
「クソッ、ヒラヒラと鬱陶しい!」
『ほーれほれ、当ててごらーん?』
ツルギのマスラオも、マイのハンブラビも、どちらも大した損傷はない。
しかし、防戦一方なのはツルギの方だ。
ハンブラビは機動性の高さを活かした一撃離脱で攻め立てており、マスラオも反撃しようとするものの、攻撃後にすぐに変形して回避運動を行うハンブラビには当たらない。
深く攻め込まず、かといってこの場からの離脱も許さない、何とも嫌らしい立ち回りに、ツルギは翻弄され、苛立ちが募るばかりだ。
「……っ、当ててやろうじゃねぇかッ!」
ツルギは痺れを切らした。
マスラオは落下するように地面に着地し、その反動をバネにするようにして跳躍、上空のハンブラビへ追い縋る。
すると、マスラオが迫ってくるにも関わらず、ハンブラビは敢えて目の前でMA形態のまま速度を緩めた。
何故ハンブラビが速度を緩めたのかを疑問に思うこともなく、ツルギは真っ直ぐマスラオを突っ込ませる。
「もらったァっ!」
『ハワード』『ダリル』の両方を振り下ろすマスラオ。
が、それを喰らう直前でハンブラビはその場でバレルロールするように回避、流れるようにMS形態に変形すると、フェダーインライフルを構え直す。
その銃口は、空振りして隙だらけのマスラオの中心を捉えている。
『おっしまいっと……』
マイはフェダーインライフルの引き金を引こうとして、
不意の背後からのアラートが鳴り響き、咄嗟にアームレイカーを捻った。
その0.5秒後に、ハンブラビがいた空間とマスラオがいた空間の隙間を、高出力のビームが通り過ぎ、ハンブラビの持っていたフェダーインライフルを焼き払った。
『んのっ、バカ!なに誤射ってんのよユイちゃん!?』
マイはハンブラビのマニュピレーターからフェダーインライフルを投げ捨てさせると、側面モニターからユイを呼び出す。
しかし、ユイの方はユイの方で責めるような目と声を向けてくる。
『あのねお姉ちゃん……そこ私の射線だから入らないでって言ったでしょ!?思わず照準外しちゃったじゃないっ!』
今の攻撃は、ガンダムヘビーバスターの超高インパルス長射程狙撃ライフルだ。
マイとしては「ユイが誤射した」と言いたいのだが、そのユイの方は「打ち合わせていた自分の射線にマイが割り込んだ」と言い張る。
『今のはあたしが止め刺す所だって察しなさいよ!』
『そんなの私が分かるわけないでしょ!?』
バトル中だと言うのに口喧嘩を始めてしまったイチノセ姉妹。
「なんか知らんが……助かったか?」
無論、そんな口喧嘩など聞こえていないツルギは、冷静になってマスラオの体勢を立て直す。
『あーもーっ、いいところだったのにっ!』
ハンブラビは右の袖口からビームサーベルを抜刀、左の袖口からはビームガンを連射してマスラオを牽制する。
ツルギはハンブラビからのビームを回避しながら、ハルナの姫武者頑駄無を探して、
すぐに見つかった。
「ツルギくんっ、大丈夫!?」
「何とかな!」
マスラオはハンブラビを避けながら移動し、姫武者頑駄無と合流する。
それと同時にマイのハンブラビも後退し、向かってきたユイのガンダムヘビーバスターと合流する。
『さぁユイちゃん!今こそあたし達姉妹の真価を見せる時よ!』
『……最初から狙撃なんかせずに普通に戦えば良かった』
調子の良いことを言ってのけるマイに、ユイは溜息を零す。
臨戦態勢を整え直すハンブラビとガンダムヘビーバスター。
マスラオと姫武者頑駄無もまた各々の武器を構え直して対峙する。
一瞬の沈黙。
それを破ったのはマイのハンブラビだ。
ビームサーベルを両手に備え、飛び掛かってくる。
「わたしが行くっ」
姫武者頑駄無は雷振火音を納め、代わりに薙刀『
「ツルギくんはユイちゃんをお願いっ」
姫武者頑駄無の火糸薙刀とハンブラビのビームサーベルが交錯するその一方で、ハルナを狙い撃とうと、ガンダムヘビーバスターがダブルガトリングガンを向けようとしている。
「おぅッ!」
ハルナの意図を汲み取ったツルギはアームレイカーを押し出してマスラオを加速させ、ガンダムヘビーバスターへ接近を試みる。
『来るっ?』
マスラオの接近に気付いたユイは、姫武者頑駄無へ向けていたダブルガトリングガンをマスラオへ向け直して引き金を引く。
シリンダーの高速回転によって発射と薬莢の排出を同時に行うそれ一対が、マスラオに降り注ぐ。
『ぬおっ、こいつは……ッ!』
ツルギもダブルガトリングガンの脅威を瞬時に察知し、マスラオを横っ飛びさせて回避する。
しかし、やはり腕の自由が利くこともあって、銃弾の暴風はマスラオを追い掛けてくる。
「(弾切れを待ってたらこっちがやられる……だが、近付けないんじゃどうしようも……)」
頭部のビームチャクラムは発生できない。一応、レーザー機銃と言う武装もあるが、対ガンプラでは全く無力に等しい。
『ハワード』もしくは『ダリル』を投げ付けることで中距離を攻撃出来なくもないが、あれだけ手数のある攻撃では投げ付けても銃弾に弾き返される恐れがある。
それを突破するには……
「……よぉしッ!」
ツルギは腹積もりを決めて、ガンダムヘビーバスターへ突っ込む。
マイのハンブラビは、ビームサーベル二刀流を持って苛烈に攻め立てる。
対するハルナの姫武者頑駄無も、火糸薙刀で的確に防いで反撃を試みている。
『っと、さすがにやるわね』
「マイちゃんも、ねっ!」
火糸薙刀でビームサーベルを斬り返し、瞬時に切っ先でハンブラビを貫こうとするが、ハンブラビは飛び下がって火糸薙刀を躱す。
姫武者頑駄無も下がりながら頭部のバルカン砲を速射し、雷振火音を左手に持ち直して射撃を行う。
ハンブラビは瞬時に変形、バルカンと雷振火音の銃撃を難無くやり過ごし、腕部ビームガンと背部ビームライフルを連射して反撃する。
4つの砲門によるビーム射撃は広範囲で、いくらサイズの小さなSDガンダムである姫武者頑駄無でも避け切れない。
そして、悪条件はさらに重なった。
姫武者頑駄無は肩の可動域を広めるために、わざと肩部だけを外装を外した軽装状態にしてある。
その防御の薄い部分ーー右肩をビームが直撃してしまい、右腕が火糸薙刀ごと吹き飛んでしまう。
「うぅっ、まずいかもっ……!?」
『これで、終わりぃっ!』
ハンブラビはMA形態のままで接近し、自由度の高い右腕を振り上げて、その腕部のクローを姫武者頑駄無へ振り下ろした。
ーーが、マイはここで致命的なミスを犯した。
そのまま腕部クローが姫武者頑駄無を引き裂くはずが、
『アレ?』
腕部クローは何故か空を切っていた。
確かに装甲を捕えたはずだった。
何故空振りしたのか分からずに、思考が止まるマイ。
理由があった。
大半のSDガンダムは、軽装モードの上から装甲を取り付ける形を取る。
ハンブラビ腕部クローの形状やリーチが短いことも災いし、姫武者頑駄無の胴部装甲を捉えたのはいいが、それは単に前面装甲を引き剥がしただけで、姫武者頑駄無本体へは届かなかったのだ。
そして、動きの止まった相手を見逃すほどハルナは暢気者ではない。
「チャンスッ!」
姫武者頑駄無はゼロ距離にいるハンブラビの胴体に、雷振火音の銃口を押し付ける。
そのまま、一発、二発、三発、と引き金を引いた。
『あー、ごめんユイちゃん、あとよろしく』
マイはそれだけを言い残し、ハンブラビは沈黙した。
ハンブラビ、撃墜。
マスラオは加速しながら急激にカーブを描くように機動する。
それを追撃してくるダブルガトリングガン。
銃弾が何発かマスラオの装甲を叩くものの、構わずにツルギは今度は逆方向にアームレイカーを勢いよく捻り倒す。
マスラオはその場で地面に足を踏み込み、急停止と方向転換を同時に行って跳躍する。
『そんな動きで!』
なおもガンダムヘビーバスターはダブルガトリングガンを撃ちまくりながらマスラオを追い縋る。
しかし、方向転換をしたマスラオは、瞬時にまた急停止と方向転換を行い、最初の方向転換を行う前と同じ軌道を辿る。
『フェイントッ!?』
立て続けに軌道を変えられ、ユイはアームレイカーを捻り返そうとするが、それよりも速くマスラオは加速して向かってくる。
「今ならどうだッ!」
マスラオは地面をスライディングするように機動し、その最中に『ダリル』を投げ付けた。
放たれた『ダリル』は、ガンダムヘビーバスター目掛けて朱色の輪を描きながら襲いかかるが、ユイの反応も早く、咄嗟にダブルガトリングガンを引き戻してシールド代わりにする。
結果、ガンダムヘビーバスターは直撃こそ防いだものの、ダブルガトリングガンの弾倉がビーム刃によって焼き斬られた。
『くっ……どうせ残弾は少なかったのよ!』
爆発寸前のダブルガトリングガンを投げ捨てるガンダムヘビーバスター。
同時に、脅威は去ったと判断したマスラオが『ハワード』を構え直して真っ直ぐ突っ込んでくる。
「接近さえ出来れば!」
『させない!』
ユイはガンダムヘビーバスターをマスラオと正面に向き合わせ、両肩部のハッチを開いた。
その内部に内蔵されている、バスターガンダム本来のミサイルポッドを全弾発射、同時に発射の反動に合わせるようにバックホバーしてマスラオから距離を置こうとする。
それと同時に、マイが撃墜されたことの知らせを聞く。
『えぇっ!?お姉ちゃんもうやられちゃったの!?』
「邪魔だッ!」
マスラオは速度をそのままに、レーザー機銃を速射してミサイルを迎撃、撃ち漏らしたミサイルは『ハワード』で切断して直撃を防いでいく。
ミサイルの爆風を斬り裂きながら、マスラオはガンダムヘビーバスターへ肉迫しに掛かる。
『まだッ!』
ガンダムヘビーバスターは一対の火砲をバックパックから引き出し、マスラオ目掛けて撃ちまくる。
散弾とビームを掻い潜り、ついにマスラオはガンダムヘビーバスターへの接近を果たす。
「突きィッ!」
踏み込みと共に放たれる、目視困難なほどに速い"突き"。
ガンダムヘビーバスターは右の350mmガンランチャーを犠牲にして致命傷を避ける。
『くっ、こんのぉッ!』
ガンランチャーに連結されたフレキシブルアームを切り離したガンダムヘビーバスターは、懐から対装甲ナイフ『アーマーシュナイダー』を抜き放ち様に振るい、マスラオの握る『ハワード』を弾き飛ばす。
「しまったっ!?」
『ハワード』『ダリル』の両方を失ったマスラオ。
ガンダムヘビーバスターのアーマーシュナイダーは、続いてマスラオのボディを突き立てようと迫る。
心臓部を狙われたと察し、マスラオは左手の甲の装甲で超振動の切っ先を受ける。
切っ先は左手の掌まで貫通し、使い物にならなくなる。
『これで!』
しかし、アーマーシュナイダーによる刺突は陽動。
ユイの本命は、残された94mm高エネルギー集束火線ライフルによるゼロ距離射撃。
「させねぇッ!」
マスラオは咄嗟に右脚を振り上げ、94mm高エネルギー集束火線ライフルを蹴り上げてバイタルバートへの直撃を逸らすものの、ビームはマスラオの胴体から左腕を焼き、震動するツルギのコンソールが甚大な損傷を告げる『Hazard』の表示がいくつも現れる。
「グッ……うおぉぉぉッ!」
ツルギは右のアームレイカーを押し上げ、それに呼応するマスラオは右手でガンダムヘビーバスターの94mm高エネルギー集束火線ライフルの銃身を握り、そのままねじ曲げる。
『まだ……ッ!』
ユイは武装フォルダを開き、左脚のホーミングミサイルを選択する。
それを撃ち出すために、左脚を一歩前に出そうとしてーー
その瞬間をツルギは見逃さなかった。
「ッ!!」
マスラオは左脚をガンダムヘビーバスターの右側面に落ち着け、それを軸足とする。
その軸足とガンダムヘビーバスターの右脚との間に右脚を振り上げ、勢い良く振り下ろした。
『なっ!?』
結果、左脚を浮かせていたガンダムヘビーバスターは、マスラオに右脚を刈られ、一瞬の浮遊感の直後にバックパックから地面に叩き付けられ、ホーミングミサイルも明後日の方向へ発射されてしまった。
柔道の技のひとつ、『大外刈り』だ。
「胴ッ!!」
仰向けに倒れたガンダムヘビーバスターの腹へ、マスラオは右の拳を振り下ろした。
だが、ツルギの一撃はガンダムヘビーバスターを捉えたものの、腹部表面が僅かに潰れただけだった。
「……効いてない!?」
『うぐっ……効いてる、わよ……』
コクピットをまともに殴り付けられた衝撃は、ダイバーであるユイへのダメージには繋がったようだ。
直後、ガンダムヘビーバスターの青紫色の装甲が徐々に黒灰色に染まっていく。
これは、『SEED』系のガンダムタイプに見られる『
一定の電圧を加えることで相転移効果を持った特殊な装甲で、物理攻撃の大半を無効化するものの、常にエネルギーを消費し続けるため、稼働時間が短いと言う欠点を持つ。
PSを起動していないディアクティブモードでは、このような黒灰色となり、この状態では物理攻撃の無効化どころかビーム兵器の使用すら出来ない。
つまり、マスラオの一撃をPS装甲の恩恵で致命的なダメージこそ防げたものの、今のでガンダムヘビーバスターのエネルギーが尽きてしまったのだ。
その上で、マスラオにマウントポジションを取られた状態。
『……さすがにこれじゃ、ね』
ユイはコンソールを打ち込み、『リタイア』を入力した。
ガンダムヘビーバスター、リタイア。
『そこまで!』
審判を務めているミツキから四人に通信が届く。
『ハンブラビの撃墜判定、及びガンダムヘビーバスターのリタイアにより、ツルギ・ハルナチームの勝利です』
ツルギ・ハルナチームの勝利が決まった。
バトルフィールドの荒野の一角に設立されているメンテナンスハンガーに並ぶ、マスラオ、姫武者頑駄無、ガンダムヘビーバスター、ハンブラビの四機。
『SUPPLYING』の表示が回り、戦闘によるダメージが回復されていく。
それを待つまでの間の時間。
「もーっ、お姉ちゃんがちゃんとしないから負けちゃったじゃない!」
「何よそのあたしだけ悪いみたいな言い方は!?あんただって誤射しかけたでしょうが!」
ユイとマイは喧嘩の真っ最中であった。
「お姉ちゃんが私の射線に割り込んだりするから誤射しかけたんでしょ!?」
「うっさいわねこのノーコン!バーカバーカブース!」
「だぁれがブスですってぇぇぇぇぇ!!」
ギャーギャーと子供のような言い合いを続けているイチノセ姉妹を遠目から見ているツルギとハルナ、ミツキ。
「おい、止めなくていいのかアレ」
ツルギはハルナに目を向けながら、親指の先を二人に向ける。
「ユイちゃんとマイちゃんは、いつもあんな感じだから大丈夫だよ」
「仲の良い姉妹で何よりです」
ミツキも納得しているように頷いている。
「そういうもんなのか……?」
今にも殴り合いでも始めそうな、と言うより、
思い切り取っ掴み合っていた。
「喧嘩するほど仲が良いっては、このことか」
なるほどな、とツルギも納得した。
「「どこが仲良しよッ!?」」
全機の修復を終えてもなお喧嘩を続ける姉妹。
ベース基地へ帰還するまでに、思いの外時間が過ぎてしまったーーーーー。
【次回予告】
ツルギ「ようやくGBNにも慣れてきたな。っても、ランクはなかなか上がりそうもないが……」
カゲトラ「フッ……そんな悩めるクサナギに、この俺が連戦ミッションを紹介してやろう」
ツルギ「……お前、何を企んでやがる」
カゲトラ「いやいや、今回は純粋な善意だ。ただ、もう一人ビギナーを同行させてほしいと、ミツキ氏に頼まれてな」
ツルギ「ビギナーはともかく、お前が絡むと面倒ごとに巻き込まれる気しかしねぇ……
次回、ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツ
『吹雪の山を越えて』
ほれ見ろっ、やっぱり面倒事が待ってたじゃねぇか!?」
と言うわけで2話でした。
写真を加工した画像は投稿出来ないはずじゃないのに、何故エラーばっかり発生するのやら。捕鯨。
次の3話以降には挿絵が入れられたらいいなぁ……