ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツ   作:さくらおにぎり

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19話 With you

 カイドウの抜き打ちテスト『ヘルレイザー・リターンズ』を受けてからすぐに、ツルギはログアウトして物販コーナーにいるのだが、その目的はただひとつ、『レイジングマスラオのさらなる改造の参考探し』だ。

 しかしその進捗状況は、良好とは言い難いものだった。

 

「(どうしたもんか……)」

 

 ツルギは『ブレイヴ試験指揮官機』を睨むように見る。

 マスラオの改造機であるレイジングマスラオは、一部のカラーリングに赤みを増し、背部のユニオンの徽章を模したコンデンサーの代わりに、ハルナが製作したレイジングユニットを装備させたものだ。

 これだけでも、当時のツルギには十分すぎる改造であったが、現在の彼の力量はレイジングユニットだけでは賄い切れなくなっていた。

 もっとマスラオの機体性能を根本から底上げしなくてはならない。

 それを今考えようとしているのだが、いざそれを考えてみると、全く思い付かないのだ。

 

「(サヤ先輩とかは、ずっとこんな感じだったのか?)」

 

 サヤがガンダムAGE-2 ノーマルをエアレイドに改造しようとしていた時、今の自分のように何時間も何日も悩んだのだろうか、とツルギは、今はエアレイドではなくヴィントブリューゲルとなっている深緑のガンダムAGE-2 を思い浮かべる。

 

 GBNで改造ガンプラを使うダイバーもまた、リアルではこんな風におもちゃ売り場のど真ん中で立ち尽くしているのだろうか、とも思う。

 

「(ダメだ、今日はもう帰るか)」

 

 かれこれもう一時間近くが経つものの、未だに何も思い付かないツルギは、これ以上店内にいても仕方ないとして、帰宅することにした。

 

 

 

 

 

 その一方、ログアウトしてからすぐに帰宅したハルナは自室のベッドに腰掛けながらダイバーギアを眺めていた。

 正確には、ツルギのレイジングマスラオの戦いぶりを凝視するように観ていた。

 

「(二、三ヶ月前と比べたら、反応速度もダンチ……そりゃアムロみたいに「もう少し早く反応してくれ」って思いたくもなるかぁ)」

 

 特にそれが顕著に現れ始めたのは、イフリート・エスパーダで反マスダイバー連合軍へ参加した時の戦いだ。

 いくらEXAMシステムを使っているとはいえ、関節からオイル漏れが起きたり、バーニアがオーバーヒートを超過して爆発するなど、普通ならば有り得ない。

 

 そんな"有り得ない"を有り得ているーー有り得てしまっているのが、今のツルギだ。

 

 今しばらくツルギのログデータのリプレイを観ていたハルナだが、動画を止めてダイバーギアをベッドに放り出して、自身もそこに寝転がった。

 

「うー、全然思い付かない……どうしよ」

 

 ハルナは久しぶりに頭の中が煮詰まる感覚を覚えた。

 GNコンデンサーの数を増やしても重くなるだけだ、それではツルギにとっては逆に足枷になる。

 だからといって軽量化のために装甲を減らしては、ゼロ距離のインファイトに耐え切れなくなってしまう(元々マスラオが被弾することを考慮していないMSではあるのだが)。

 何度も寝返りを繰り返していると、不意に放り出したダイバーギアから通話の着信を告げてきた。

 

「っとと、誰かな?」

 

 画面表示には、ユイからのものだった。

 ハルナは通話に応じた。

 

「もしもし?」

 

『あ、ハルナ。今、大丈夫?』

 

「うん、大丈夫だよ」

 

 ハルナの状態を確認してから、ユイは話を持ち込んできた。

 

『やっぱり、ツルギのマスラオのことで悩んでる?』

 

「うん、そうなのぉ……わたしもね、今の姫武者頑駄無を改造しようとしててね、そっちは大体イメージついてるのに、ツルギくんのマスラオはなんかもぉ、お手上げ寸前って感じ」

 

 困ったちゃんと化してます、とハルナは現状を溢す。

 

『イメージも無いとなると、私達も手伝いようが無いけど……』

 

 だと思っていたとでも言うように、ユイは提案を持ち掛けた。

 

『だったら、ツルギと二人で旅に出掛けるのもいいんじゃない?』

 

「旅?ツルギくんと?」

 

 何故そこでツルギと二人で旅に出掛ける必要があるのかと、ハルナはユイの提案に疑問符を浮かべる。

 

『気分転換よ、気分転換。大体、ツルギのガンプラ作りを手伝うのにその本人の意見も無しじゃ出来ないでしょ?』

 

「それは、そうだけど。どこに行けばいいの?」

 

『そこはほら、二人で決めないと。ね』

 

 それ以上は私が口を挟むことも無いし、といたずらっぽく笑うユイ。

 

 それからもう少しだけ他愛もない会話を交わしてから、ユイとの通話を終える。

 

「ツルギくんと、二人っきりでかぁ……」

 

 暫しの間、画面を消したダイバーギアに映る自分の顔を見つめて、

 

「もしかしなくてもコレ、デート?」

 

 そんなことを口にしてみた。

 

 デート。

 

 その意味を自覚した途端、ハルナはまたもやダイバーギアを放り出してベッドに寝転がった。

 

「(えっ、えっ、ちょっ、ちょっと待って……デート?わたしが?ツルギくんと?デートって言ったらアレだよね、恋人同士がイチャイチャしながらあーんなことやこーんなことをする、デート……だよね?)」

 

 何だか急に恥ずかしくなってきた。

 彼がいつも近くにいるせいであまり意識していなかったが、いざ『デートをする』(ユイは旅をすることを奨めたのだが、これはハルナの盛大な勘違い)と決めると、緊張してきた。

 

「ど……どーしよ、こんなのガンプラ作りの参考とかそれどころじゃないんですけど……っ」

 

 ハルナが一人で激しく緊張感で震えているところで、再びダイバーギアが通話の着信を告げてきた。

 もしかして、とハルナは恐る恐るダイバーギアを取り、発信者を確認する。

 

 案の定、ツルギからだった。

 

「はっ、はいはははもしもももしっ、わわわたしっ、ヒヒヒメカワとともっ申しますがっ、ツッツ、ツルギくっん、はい、いらっしゃいましたかッ!?」

 

『……電話掛けてんのは俺の方だぞ?いいから落ち着けハルナ。つか、いらっしゃいましたかって何だそりゃ』

 

 呆れたようなツルギの溜息が聞こえる。

 

「あっ、あっ、えーーーーーっと、えーっと、スゥ……ハァ……フゥ……んんっ、もしもし、ツルギくん、だよね?」

 

『はいはい、ツルギだよ。そんなに慌ててどうしたんだ?』

 

 今のハルナ(デートを目前にした年頃の娘)がどんな心境にあるか。

 そんなことを全く気付くはずもないツルギはこう言った。

 

『今度の日曜日辺りに、二人でどっかに出掛けないか?』

 

 ドンガラガシャーンッ

 

『っておいハルナ、何だ今のマンガみたいな効果音は?大丈夫か?』

 

「あたたた……だ、大丈夫、ちょっとベッドから落っこちただけだから」

 

 手を掛けて這い上がるように、ハルナはダイバーギアを拾いながらベッドに座り直す。 

 

「えーっと、それで、二人でどっかに出掛けようかって、話だったよね」

 

 可能な限り平静を保ちつつ、ハルナはツルギの話を聞く。

 

『さっきサヤ先輩から、「気分転換にハルナと二人で旅でもしたらどうだ?」って言われてな。それでハルナとどこに行こうかと思ってたんだが……』

 

「……はっはぁ、そういうことねぇ」

 

 ハルナは瞬時に察した。

 

 この偶然が、意図的に仕組まれたものであることに。

 

 ツルギと二人で旅でもしたらどうかと提案してきたユイと、そのツルギにハルナと二人で旅でもしたらどうかと提案したサヤ。

 つまり、ユイとサヤ(恐らくミーシャもヤイコも)がグルになってツルギとハルナを二人っきりにさせようとしたのだ。

 

『そういうことってどういうことだ?』

 

「んー、ツルギくんは知らなくていいよ。なーんにも知らなさそうだし」

 

『なんだそりゃ……まぁいい、ハルナは日曜日に予定とか空いてるか?』

 

 問い詰めても無駄だろうと決め付けたらしく、ツルギは話を本題に戻す。

 

「今度の日曜日なら一日中空いてるよ」

 

『よし、なら俺も予定も空けとくぞ。で、日曜日にどこに行くかだな』

 

 肝心なのがそこだとツルギは悩んでいたそうだが、ハルナはすぐに意見を挙げた。

 

「じゃぁさ、GBNの中を自由に旅するとかって、どうかな?」

 

『GBNの中で旅するのか?』

 

「ツルギくんだって、GBNの中でも行ったことのない場所とかたくさんあるでしょ?中には景観のためのエリアもあるから、そう言う場所に行こうよってこと」

 

『なるほど。まぁ、ハルナが行きたいって言うなら、そうするか』

 

 今ひとつピンと来てなさそうなツルギだが、ハルナが挙げてくれた意見以外の案も見つかりそうに無いので、それに賛成することにした。

 ツルギとハルナ、二人の日曜日の予定は、端から見ればいつもと変わらないようにも見える。

 

 ーーこの予定によって、彼らが"戦い"と言う運命に流転することになるとは、この時はまだ知る由もなかったーー。

 

 

 

 

 

 そして、運命(いつも)の日曜日がやって来た。

 ツルギはいつも通りの日曜日と認識しているが、一方のハルナは違った。

 

「(デート……ツルギくんとデート……GBNで、ツルギくんとデート……)」

 

 数日前ですらソワソワしていたと言うのに、その当日はガッチガチに緊張していた。

 いつもと変わらないはずなのに、そこに"デート"と言う魔法の三文字を持ってくると、途端にその意味合いが変わってくる。

 いつもと同じ、駅前広場近くのガンダムベースの開店に合わせて10時に待ち合わせ……なのだが、ハルナは何故か一時間も前からそこにいた。

 昨夜は緊張のあまり明け方近くまで眠れなかったと言うのに、三時間も寝るともう起きてしまった。

 今朝のハルナの起床時間は8時ちょうど。

 今から後一時間近くもここで直立不動するのはさすがに気が引けるので、駅前のファーストフードショップで時間を潰すことにした。

 とりあえずアイスカフェラテをひとつ頼んで、こそこそと隠れるように隅の席に座る。

 ちびちびとアイスカフェラテを飲みつつ、ダイバーギアを取り出してダイバー設定画面を立ち上げる。

 GBNのダイバー設定は、初期設定時に必ず決められるものだが、以降はいつでも設定変更が可能である。

 ハルナはいつもの和装から、別の服にしようとして、ふと止まる。

 

「(急に服とか変えたら、変に思われないかな……)」

 

 ツルギのことなら単に「いつも服装が違う」程度の認識しか持たないだろうが、せっかくのデート(違う)なのだからいつもと違う格好で装いたい、と言うのも乙女心。

 

 何か無いだろうか。

 こう、いつもと違う雰囲気があって、尚かつ不自然過ぎない程度の服装は……

 

 そう思いながら、ハルナは自身のアイテムボックスにある服装のプレビューを見ながら思考に耽る。

 手持ちに無いなら、非ログイン状態でも利用出来るショップの品ぞろえも探ってみるが、ピンと来るようなものは見当たらない。

 そうこうしている内に、もう30分が過ぎた。

 こんな時に限って時間とは随分早足になる。

 結局いつもと同じにするしか無いのかと諦めかけて、

 

 ふと手持ちの服装のひとつに目を落とす。

 

「(あっ、これいいかも……)」

 

 早速それを選択し、アバターのプレビューを確認してみて、ハルナは無意識に頷く。

 もう少しだけ時間が経つのを待っていると、ツルギがいつもの待ち合わせ場所にやって来た。

 それを見てからハルナはアイスカフェラテを飲み干して店を出た。

 

 

 

 

 

 ガンダムベースのダイブルームに入り、ヘッドギアを装着していざログインしようと言う時に、ハルナはツルギにアイテムを添付したメッセージを送った。

 

「ん?何だこれ」

 

 ツルギはダイバーギアを筐体に装着させた状態で開き、メッセージの内容を確認する。

 

 Haruna:今送った服装に着替えてからログインしてね♪

 

「??」

 

 ハルナがどういうつもりでこう言うことをしてきたのかは図り兼ねるが、とりあえず彼女の言う通りに、ツルギはダイバー設定画面を開き、アバターの服装を変更する。

 

 一見は、いつものツルギの和装と同じように見えるが、ツルギの和装が"侍"や"武士"を思わせるモノに対して、ハルナが送ってくれた和装は幾分か軽装で、頭に被る笠が目を引く。

 どちらかと言えば、"旅人"をイメージしたような和装だ。

 ついでに、ツルギがいつも帯刀している太刀も装備できるようだ。

 

「旅をするから、まずは形から入るってか?」

 

 雰囲気を作ってくれているのだろう、と読み取ったツルギは

設定変更を完了し、先にログインしたハルナを追うようにそのままログインした。

 

 

 

 フォースネストにダイブしたツルギは、真っ先に見えたハルナのその姿に目を止めた。

 

「ハルナ、お前その格好……」

 

「えへへ、ペアルックでーす」

 

 ハルナの服装も、今のツルギと同じ和装だったのだ。

 男女の違いは多少あるが、それでもほとんど同じだ。

 

「ツルギくんは似合うけど、わたしはどう?……もしかして、似合ってない?」

 

 ハルナの内心は、「ペアルックなんかしたりして嫌がられないだろうか」と不安に思っているが、それは杞憂に終わった。

 

「いや、いつもは赤と桜の和装だし、それに髪も下ろしてて何か新鮮だな。似合ってるぞ」

 

「あ、ありがと……」

 

 普通に「似合ってる」と言われて、ハルナは頬が熱くなるような感覚を覚えた。

 

「さ、さぁ行こうすぐ行こうレッツゴー!」

 

 途端に照れ臭くなってきたので、ハルナはツルギの手を引いて格納庫へ向かう。

 

「お、おい、急に引っ張るなって……」

 

 いつものハルナには無いような様子に、ツルギは戸惑いながらも引かれていく。

 

 

 

 

 

 フォースネストのカタパルトデッキには、ツルギとイフリート・エスパーダが一機だけハンガーに掛けられていた。

 

「ツルギくん、今日はイフリートの方なんだね」

 

「マスラオは今、改造のために分解してるからな。ところで、ハルナのガンプラはどうしたんだ?」

 

 彼女の姫武者頑駄無が見当たらないとツルギはその本人に訊いてみる。

 

「わたしも今は改造中なんだよ。だから、今日は一緒に乗ろ?」

 

「ハルナも改造してたのか。んじゃ、二人乗りで出撃するか」

 

 二人はキャットウォークを渡り、イフリート・エスパーダのコクピットに滑り込む。

 ツルギがアームレイカーを握り、ハルナがその一歩後ろに立つ。

 

「……なんか、懐かしいな」

 

 ハンガーからイフリート・エスパーダをリニアカタパルトに下ろしながら、ふとツルギは過去を懐かしむように呟いた。

 

「懐かしいって、何が?」

 

 何が懐かしいのかとハルナは訊き返す。

 

「俺が初めてGBNに挑戦した時だよ。あの時は、マスラオのコクピットに二人で入ってたなって」

 

「あ、そう言えばそうだったね。……ほんと、四ヶ月も前のことなのに、昨日のことみたいに思い出せるよ」

 

「……さて、いつまでも懐かしんでもいられねぇな。ツルギ、イフリート・エスパーダ、参るッ!」

 

 ツルギは出撃開始を音声入力させる。

 それに応じて、リニアカタパルトは火花を巻き上げながら高速スライド、一直線にイフリート・エスパーダを打ち出した。

 

 ディメンションの空は、雲ひとつない晴天だ。

 澄み渡るような蒼空を、赤黒の炎神が駆け抜けていく。

 

「それで、ハルナはどこに行きたいんだ?」

 

 慣性制御しつつ、ツルギはハルナに行き先を尋ねる。

 ハルナは自分のコンソールパネルを開き、メモ帳を開く。

 

「えっとね、まずは『ペリシア・エリア』だね。わたし達はAランクだから、アフリカン・サーバーに入ったら、ペリシア・エリアへの直通ルートが使えるから、そっちを通るね」

 

 ペリシア・エリアとは、砂漠に点在するガンプラビルダーの聖地である中立地帯のことだ。

 

「了解」

 

 ツルギはイフリート・エスパーダの高度を上げてサーバーゲートに突入、複数ある分岐の内、ペリシア・エリアへの直通ルートを選択する。

 ダイバーデータの認証、Aランク以上であることを読み取られると、そのままイフリート・エスパーダは素通りした。

 

 ペリシア・エリアには、Aランクよりも下のランクのダイバーはガンプラに搭乗したまま入ることが出来ないので、大抵の場合は砂漠地帯の街や拠点、詰所などで砂塵地帯を強行出来るジープ、或いは輸送機などを借りて渡るのが望ましいとされている。そう言った乗り物の借り出しを知らない初心者の中には、徒歩で砂漠を渡ろうとする者が少なからず存在したりもするのだが。

 

 ツルギとハルナはどちらもAランクなので、問題なくガンプラに搭乗してエリアに入ることが出来るのだが、ツルギはふと懸念を挙げた。

 

「そう言えば、砂漠地帯は防塵処置をしないと不味いとか聞いたんだが、俺のイフリートは大丈夫なのか?」

 

 彼の言う懸念とは、砂漠地帯における常とも言える事だった。

 防塵処置の施していないガンプラが砂漠地帯に突入すると、砂塵が装甲や関節の隙間に入り込み、可動を妨げてしまうと言う状態異常が起きてしまう。

 

「それは大丈夫。イフリートは元々地上での運用を想定してる機体だから、最初から防塵処置が施されているの」

 

 防塵処置が必要なガンプラは、大気圏内外を問わずに行動可能な機体が当て嵌まる。

 そのため、イフリート・エスパーダにそう言った心配はいらないとハルナは言う。

 

「細かい設定だな。ま、手間が省けてありがたいが」

 

 そこは素直に甘えさせてもらおう、とツルギはイフリート・エスパーダを加速させて、ペリシア・エリアに突入する。

 

 

 

 ガンプラの待機スペースに片膝を着けて着陸させ、ツルギとハルナはイフリート・エスパーダから降りた。

 

「賑わってるね」

 

 そう言ったハルナの目の前には、多種多様、選り取り見取りのガンプラが立ち並び、その隙間を縫うように多くの人々が行き交い、互いのガンプラを自賛し、賞賛する。

 

「一目見ただけで、俺じゃ真似出来そうもないガンプラがズラズラと……ガンプラの聖地ってのは伊達じゃないな」

 

 ツルギは、立ち並ぶガンプラの数々を前に見上げる。

 最初期のキットから最新のキット、或いはフルスクラッチで作られた機体、電飾などを惜しみなく注ぎ込んだ機体、デザインから設定まで完全オリジナルの機体など、ツルギの頭では考えつかないようなガンプラの数々。

 二人は手近な露店で飲み物を購入すると、それを片手に往来の中を慎ましく歩いて回る。

 

「わたしがここに来たいって言ったのも、ツルギくんのマスラオの改造に、何か参考になるかなって思ったから」

 

「……気分転換のための旅じゃなかったか?一箇所にいるよりは気分転換になるけどな」

 

 それからしばらく、ガンプラを見て回り、何人かと言葉を交わす(ついでに次元覇王流拳法のことも聞いて)ものの、マスラオの改造の参考になるような作品は見当たらなかった。

 

 しかし、参考になるかは別として、目を引くような作品を見つけることは出来た。

 

「おっ……見ろよハルナ、あのガンプラ」

 

 不意にツルギはその方向を指した。

 

「あっ、すごい……めちゃくちゃ綺麗なガンプラ」

 

 二人はそのガンプラを近くで見ようと足元に近付けば、見知った顔を見つけた。

 他に類を見ない、シスターの姿をしたダイバー。

 

「あれ、ミスズさん」

 

「あら、スピリッツの方……ツルギくんとハルナさんでしたか?」

 

 ミスズは見知った二つの顔を見つけて、そちらに向き直る。

 

「お二人も、ここのコンテストにご参加でしょうか?」

 

「「コンテスト?」」

 

 なんのことかと疑問符を揃えるツルギとハルナ。

 丁寧にもミスズは説明してくれた。

 

「月に一度、ペリシア・エリアでは、小規模ながら完成度を競うコンテストがありますの」

 

 そう言いながら、ミスズは自分の上ーー彼女が持ち込んできただろうガンプラを見上げる。

 

「スゴイですよね、このゼフィランサス。RGがベースですか?」

 

 ハルナもそのガンプラーー『GP01』とも『ゼフィランサス』とも呼ばれる『ガンダム試作1号機』を見上げる。

 原典ではトリコロールカラーのそれだが、全身をほぼ純白に染め上げ、要所要所に黄色や緑でアクセントを加えている。

 機械的な部分を最低限に留めつつ、華やかさを重視したガンプラと言えるだろう。

 

「えぇ、その通りですハルナさん。実存する、ゼフィランサスの花をモチーフにしましたのよ」

 

「実際の花をモチーフに、か……」

 

 ツルギはそう呟きながら、食い入るにそのゼフィランサスを見上げている。

 

「ですが、まだまだあの人には敵いそうにありませんが……」

 

 そう呟くように口にしたミスズの視線の先には、どう見ても本物のMSのようにしか見えない、ザク・デザートタイプが堂々と立っており、その足元には人集りができている。

 人集りの中心には、浅黒い肌に銀色の髪をした、人狐型の男性ダイバーがいた。

 

「ところで、コンテスト参加でないなら、お二人は何故ペリシアに?」

 

 ミスズはツルギとハルナに、コンテスト以外の目的があったのかと訊いてきた。

 

「あー、実はちょっと、ツルギくんのガンプラの改造で悩んでまして、何か参考になりそうなものが見つかるかなーって」

 

 ハルナが苦笑して答える。

 

「まぁ、見つからなかったわけですが」

 

 ツルギも補足する。

 

「……そう、ですわね」

 

 ミスズは少し考え込むような顔をして、ツルギの方に向き直った。

 

「あなたは、ご自分の"スタイル"と言うものをご存知?」

 

「スタイル、ですか?」

 

「そう、スタイル。自分は何が出来るのか。その出来る中で、何が一番得意なのか。自分の苦手を自覚した上で、自分の得意を最大限に活かす。それを理解してこそ、自分の最高のガンプラは出来上がるもの……と、私は思います」

 

 自分のスタイル、と言われて真っ先に答えられるものが、ツルギにはある。

 

「俺なら、格闘技や剣術、ですね」

 

「であれば、その格闘技や剣術を極限まで活かすためには、何が必要なのか。それを見つけることが出来れば、自ずと自分の理想の形は浮かび上がるはず」

 

 ミスズはそう言うものの、ハルナは「それを見つけるのがすごく大変なんじゃ……」と心中で呟いた。

 

「GBNを続けていると、色々な人を知ります。私もです。何の変哲も無いくせに愛機への思い入れだけは人一倍強いサラリーマンに、不動産業者の顔した厄介事引受人とその息子、……呪われた英雄と呼ばれた男。彼らにも、自分だけのスタイルがありました。……あなた方二人も、自分だけのスタイルが、早く見つかると良いですわね」

 

 そう言うと、ミスズは妖艶に微笑を浮かべた。

 

 

 

 

 

 それからミスズともう二、三言を交わしてから、ツルギとハルナはペリシア・エリアを後にした。

 サーバーゲートには潜らずに、ハルナは次の行き先を指定する。

 

「次はね、このままトリントン基地に行って」

 

「トリントン基地か。何だかんだよく来る場所だな」

 

 一度目はサヤとの一騎討ちで、二度目はミッションで、今回は旅のために。

 とは言えあんなだだっ広いだけの基地に何の見所があるのだろうか。

 まぁハルナが行きたいと言うならそれでいいか、とツルギは気にせずに、ペリシアから南下していく。

 

 

 

 

 

 相変わらず、トリントン基地にはめぼしいものが何も無かった。

 

「到着したのは良いが、ここで何をするんだ?」

 

 それを尋ねるツルギに、ハルナはある方向を指した。

 

「ほら、あそこにミデア輸送機があるでしょ?あれに乗り込んで」

 

 彼女の指先には、いかにも輸送機でございと言わんばかりの四角いコンテナを抱えた航空機が待機している。

 ファーストガンダムの時代から、十数年後の『UC』時点まで現役で活用されているミデア輸送機。

 乗り込んで欲しいと言うので、ツルギはイフリート・エスパーダをそちらに向かわせ、開いているコンテナに入り込む。

 

「じゃぁ、イフリートから降りて、ミデアの操縦席に移るよ」

 

 続いて、ハルナはイフリート・エスパーダのコクピットハッチを開けて、機体から降りる。

 輸送機を借りに来たのだと読み取ったツルギは、彼女に倣うようにコクピットから降りて、ミデアの操縦席に移動する。

 

 シートに着くなり、各部を立ち上げていく二人。

 

「輸送機を借りるのは分かるが、どこに行くんだ?」

 

「ちょっと待っててね……よしっ、離陸開始!」

 

 調整を終えると、ハルナがミデアを動かして離陸を開始、あっという間にトリントン基地から離れていく。

 基地から離れて間もない空域にも関わらず、ミデアはぐんぐん高度を上げていく。

 

「3800……4300……4800……っておいおい、高度上げすぎじゃないのか?もう雲を突き抜けるぞ?」

 

「もうちょっと!」

 

 こんな上空まで高度を上げてどこへ行くつもりなのか。

 空に浮かんだ島でもあるのかとツルギは冗談でそんなことを思ったところで、ミデアが上昇を止めた。

 

 高度、5000m。

 

 ミデアの頂部が白雲を突き破ったところで、ハルナが次の指示を出してきた。

 

「ツルギくんはイフリートに乗り直して」

 

「?」

 

 今度は何だと思いつつ、ツルギは操縦席を離れてイフリート・エスパーダに乗り直す。

 通信回線を操縦席にいるハルナと合わせた時だった。

 

『ツルギくん』

 

「ん?」

 

 すると、ハルナはにっこり笑って、

 

『受け止めてね?』

 

 と言い残すと、開いた窓から身を乗り出してーーーーーそのまま身体を宙に放り出した。

 この、高度5000mの空の上に。

 

「ーーーーーは!?いやいやいやいやいやちょっと待てちょっと待てちょっと待てちょっと待てちょっと待てちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇェェェェェェェェェェ!!!!!」

 

 生身でのスカイダイビングを敢行するハルナを見て、ツルギは大慌てでイフリート・エスパーダをミデアから発進させて、絶賛落下中の彼女の後を追った。

 

 

 

 

 

 イフリート・エスパーダのコクピットから降りた二人は、波打ちに腰掛ける。

 

「はーーーーー、面白かったぁ♪」

 

 スッキリしたように一息つくハルナ。

 

「…………………………お、おま、お前、もう、あんな心臓に悪い真似は、すんなよ……ッ」

 

 それに対してツルギは脱力する。

 

 ハルナがトリントン基地に訪れた理由とは、「高度5000mの上空のスカイダイビングをやってみたかった」とのこと。

 正確には「ガンダムUCのEpisode5の、ユニコーンガンダムに受け止められるミネバになってみたかった」のようだが。

 今回、ミネバ役のハルナを受け止めたのは、バナージのユニコーンガンダムではなく、ツルギのイフリート・エスパーダだが、見事ツルギはハルナを助け出すことに成功した。

 

 二人を乗せたイフリート・エスパーダは今、オーブ郊外の別荘ーーキラ・ヤマトやラクス・クラインが隠遁していた場所ーーにいた。

 

 ペリシア・エリアのガンプラ鑑賞と、トリントン基地からのスカイダイビングと来て、一休みだ。

 その間、イフリート・エスパーダは、原典作品ではフリーダムガンダムが秘匿されていた地下シェルター内のMSハンガーに預けられて補給を受けている。

 

「次は、ツルギくんが行きたいところに行っていいよ」

 

 ハルナは、次の行き先をツルギに任せてきた。

 

「……俺が行きたいところにって言われてもなぁ」

 

 難題だ。

 この広大なGBNに何があるのか、ひとつも分かっていないツルギにとっては、難題もいいところだった。

 

「ん〜〜〜〜〜……」

 

 それでももう少し頭を捻って、ツルギはふと思い出した。

 

「あ、あそこだ。えー……と、エスタニア・エリアってとこだ。中華風の街とか、なんか聞いた覚えがある」

 

 次元覇王流拳法について聞いて回る中で、そんな感じの名前を聞いたことがあったのだ。

 

「エスタニア・エリアね。じゃぁ、まずはアジアン・サーバーを経由しなきゃだね」

 

 ハルナも了承したところで、ツルギのコンソールから、イフリート・エスパーダの補給完了の通知が届いた。

 ちょうどいいタイミングだ。

 

 

 

 

 

 再びサーバーゲートに突入、今度はアジアン・サーバーへのルートを通過する。

 その途中で、ハルナはツルギに話し掛けてきた。

 

「エスタニア・エリアに行きたいってことは、やっぱりフォース・虎武龍が目的?」

 

「虎武龍?そう言えばそんな名前のフォースも聞いたことがあったかもしれん。エスタニア・エリアの名前を覚えてたから、それを挙げただけなんだが……ハルナは知ってるのか?」

 

 どう言うフォースなのかを、ツルギは訊いてみた。

 

「うん。虎武龍は、近接格闘術を極めるために作られたフォースなの。フォースランクも、毎年10位以内に入ってるくらいの強豪だよ」

 

「近接格闘術を極めるフォース、か……」

 

 もしかすると、そこにツルギが求めていた答えがあるのかもしれない。

 何となくで決めた行き先にそんな大当たりの可能性があったとは、とツルギは内心で小躍りした。

 

 サーバーゲートを通過。

 眼下には、漢字で彩られたきらびやかな繁華街。

 ちょうど、香港の街がこんな感じかもしれない。

 

 その上空をイフリート・エスパーダは駆け抜け、荒れ果てた荒野のような場所に降り立った。

 エリアマップによると、この辺りが虎武龍のフォースネストらしく、各所に石段が見える。

 

「ガンプラに乗ったままご挨拶ってのもなんだしな」

 

 ツルギとハルナはイフリート・エスパーダから降りる。

 さてその長い石段を登ろうと足を掛けようとしたところで、

 

『ぁいや待たれい!ここは虎武龍の縄張りぞ!』

 

 突然、ネモとジムトレーナーが現れては、棍棒を構えて通せんぼをしてきた。

 

『フォースに所属していない者を通す分けにはいかん。もし、それでも行くと言うのなら……』

 

 十数mはある鉄巨人を前にして、ハルナは怯えるようにツルギの一歩後ろに下がるものの、彼は全く動じていない。

 

「行くと言うのなら……、……何だ?」

 

 ツルギは携えた太刀を抜刀した。

 

「ハルナ、イフリートに乗って待っててくれ。ここからは俺が一人で行かなきゃならんようだ」

 

「えっ、あ、うん……気を付けてね」

 

 ハルナは踵を返すと、真っ直ぐにイフリート・エスパーダに駆け戻って行った。

 それを見送ってから、ツルギは太刀を構えてーーーーー

 

 

 

 一瞬の閃光。

 

 

 

 ネモは頭から股間を真っ二つに裁ち割られ、ジムトレーナーは上下の半身を泣き別れにされた。

 

 

 

 

 

 門番を倒された虎武龍のフォースネストは、蜂の巣を突いたような騒ぎだった。

 修行僧のダイバー達は自分のガンプラに乗り込んでは、侵入者ーーツルギを捕えようと躍起になるが、そのツルギは太刀を手に縦横無尽に舞い踊り、次から次へと修行僧達のガンプラを斬り捨てていく。

 

 修行僧達を粗方倒したところで、ツルギは虎武龍のフォースネストの屋敷に踏み込んでいった。

 

 

 

 

 

 ハルナはイフリート・エスパーダのコクピットの中で、ツルギが戻って来るのを待っていた。

 

「なんか騒がしくなってるけど、ツルギくん大丈夫かな……」

 

 不意に、喧騒がピタリと収まった。

 

「……もしかして、捕まっちゃった?」

 

 他所のフォースネストに土足で好き勝手したのだ、お縄にされてしまったのかもしれない。

 そう思ったハルナは、ツルギを解放してもらうように説得しに行こうとイフリート・エスパーダのコクピットから出ようとして、

 

 ズドォンッ、とフォースネストの屋敷の天井が突き破られた。

 何が起きたのかと、イフリート・エスパーダのモノアイがそれを拡大画像として映す。

 

 屋敷の天井と共に天高くぶっ飛ばされたのは、ツルギだった。

 

「えっ、ちょっ、ツルギくんっ!?」

 

 ツルギはイフリート・エスパーダの足元近くの地面に叩き付けられた。

 半ばから折られた太刀と共に。

 

「ってて……油断はしてなかったが、格が違い過ぎたな」

 

 砂埃を払いながら、ツルギは折れてしまった太刀を拾い、鞘に納めると、アイテムボックスにしまった。

 

「ツッ、ツルギくん大丈夫!?」

 

 慌ててハルナはイフリート・エスパーダのコクピットから降りてくる。

 

「悪いハルナ、待たせた」

 

「なんか凄い勢いでぶっ飛んで来たけど、何があったの?」

 

 ツルギは待たせたことを謝るものの、そんなことはどうでも良いと言わんばかりにハルナが問い詰めて来た。

 

「狼みたいな虎の首領に、次元覇王流拳法を教えてもらおうと『OHANASHI』したら、返り討ちにされちまった」

 

 勝てる気がしないな、とツルギはあっけらかんと答える。

 

「一体どんなお話してきたの……」

 

 ハルナも何となく想像出来なくはなかった。

 きっと、口の代わりに拳とか拳とか、それから拳でお話して来たのだろう。

 これ以上長居していたら本当にお縄にされかねないので、ハルナはツルギをイフリート・エスパーダのコクピットに連れ戻すと、エスタニア・エリアを後にしていった。

 

 ちなみに、ツルギが『OHANASHI』してみたところ、あちらさんも次元覇王流拳法のことは知らなかったらしい。

 

 

 

 

 

 その後、ハルナが行きたい場所をいくつか回ってきて、GBN内の時間帯は夕方近く。

 

「なぁハルナ、何で俺達はガンプラから降りて、こんな山道を歩いているんだろうな?」

 

 ツルギは、隣で歩いているハルナに問い掛ける。

 

「何でって、登山してるんだよ。そりゃそうだよ」

 

 おかしそうに小さく笑うハルナ。

 辺りはもう雲が近いほどの高度。

 二人は一体どこの山を登っているのかと言うと……

 

「まさか、GBNで"富士山"を登ることになるとはなぁ」

 

 ツルギがそうぼやいた。

 

 そう、二人は今、日本の富士山の山頂を目指して歩いている。

 ハルナが最後に行きたい場所と言うのが、その富士山だったのだ。

 

 実際、『Gのレコンギスタ』の最終話では、主人公のベルリが日本の富士山の山頂に立つ場面にて締め括られている。

 これはその再現なのかもしれない。

 

 

 

 イフリート・エスパーダを麓に残してから、どれだけ歩いただろうか。とはいえ、GBNと言う範疇であることや、体力の消耗などが無いため、実際は15分ほどしか経っていないのだが。

 

『富士山山頂浅間大社奥宮』と書かれた社。

 既に雲が足よりも下に浮かんでいる、空の上。

 

「おー、着いた着いた」

 

「とうちゃーく♪」

 

 ツルギとハルナは、赤茶けた大地に立つ。

 

 日本で一番高い場所。

 

 富士山山頂だ。

 

「これ、一応ゲームの中なんだよな?」

 

 ツルギは、雲の向こう側に沈もうとしている赤く燃ゆる太陽に目を細める。

 

「ほんと、どっちがリアルか分かんなくなるよね。……本物の富士山に登ったことはないけど」

 

 ハルナは、コンソールパネルのカメラでカシャカシャと景色を撮りまくっている。

 

「だったら、冬休みにでも本物の富士山に行くか?」

 

「えー、絶対寒いよ。それは春休みにしようよ」

 

「寒いからこそ登るもんじゃないのか?」

 

「わたしはツルギくんみたいな体力おばけじゃないもーん」

 

「もーん、じゃない。つか、誰がおばけだコラ」

 

「あっはははっ♪」

 

 山頂にはツルギとハルナしかおらず、夕焼けに照らされた茜色の世界は、まるで二人だけの聖域のようにも見える。

 他愛のない会話を交わしながら、沈み行く夕陽を眺める。

 

 そんな二人だけの聖域に、踏み込む者がいた。

 

「あれ、誰もいないと思ったのに……」

 

 ふと、ツルギとハルナは第三者の声に振り向いた。

 

 純白の髪と肌、金色の瞳。

 二人は知らないが、その人物とは、エルだった。

 

「あっ、こんにちはー」

 

「こんちは」

 

 ハルナはそのエルに挨拶し、ツルギも倣うように挨拶する。

 登山中で他人と擦れ違ったら挨拶するのが、登山のマナーだ。

 

「こんにちは」

 

 エルも二人に挨拶を返すと、社の石段に腰掛けた。

 それを見つつ、ハルナはツルギに向き直る。

 

「そろそろ帰ろっか?」

 

「今から帰還してログアウトすれば、ちょうどいい時間だな」

 

 さて下山して麓に残しているイフリート・エスパーダの元に戻ろうかと言う時、

 

「君達は、このGBNをどう思う?」

 

 社に腰掛けている、エルに声を掛けられた。

 ツルギとハルナはそちらに振り向く。

 

「どう思う、って?」

 

 ハルナが最初に訊き返す。

 

「みんながみんな平等で、虐げられることなんか、ない世界だよね」

 

 ハルナの訊き返しに答えているのか、エルは言葉を続ける。

 

「……そうだと、思う」

 

 エルが何を言いたいのか、ハルナにはよく分からなかった。

 だが、GBNは平等な世界であることを否定するつもりも無いので、肯定を示した。

 それを聞いて、エルは「そうだよね」と頷いた。

 

「……なのに、今なお虐げられている者達が、このGBNにいる。それって、おかしいよね」

 

「何を言っているんだ……?」

 

 同意を求めてくるようなエルの物言いに、ツルギは不審がった。

 単なる勧誘とは違う、どこか狂気染みた謳い文句。

 関わってはいけない、そう理性が訴えて来るが、無視させてくれなさそうな、その相手の眼力。

 見る者を金縛りにしてしまうような金色の瞳に、妖しい光が宿る。

 

「僕は、正しい者が虐げられない世界を作りたいだけなんだ」

 

 会話が噛み合っていない。

 相手の方から一方的に物を言っているだけだ。

 

「君は、今のGBNに不満があるの?」

 

 ハルナは、エルが何を言いたいかを汲み取りつつ問い掛ける。

 

「不満?いいや、そんなものじゃないよ……」

 

 不意に、エルの声に怒気が孕んだ。

 

 

 

「間違ってるんだよ」

 

 

 

「……間違ってる、だと?」

 

 ツルギは不審から警戒に気を切り替え、いつでも身構えられるようにハルナの一歩前に立つ。

 が、

 

『見ぃぃぃつけたぁぁぁぁぁァァァァァ!!』

 

 突然、雲を切り裂きながら紅色をしたガンプラが現れ、機体と同じ色をした血塗られたバスターソードを社にーー正確にはエルに振り下ろして来た。

 

 

「伏せろハルナッ!」

 

「えっ、きゃっ!?」

 

 伏せろと言いながらもツルギはハルナの首根っこを掴むと、そのまま地面に押し付けて、自らも姿勢を低くして伏せる。

 

 瞬間、肉厚の剣刃が社を叩き潰し、その衝撃の余波がツルギとハルナにも襲いかかる。

 

『チッ、逃したか……』

 

 紅色のガンプラーーレギンレイズギルティのスピーカー越しダイバーの声が流れてくるが、そんな声に耳を傾けている余裕などない、ツルギは瞬時にハルナを担ぎ上げてお姫様抱っこにすると、脇目も振らずに山道を駆け下りた。

 

 

 

 

 

 ハルナを抱えたまま、麓までノンストップで駆け下りて来たツルギは、イフリート・エスパーダの足元までたどり着くと、息を切らしたようにへたり込んだ。

 

「ッハ……あー、死ぬかと思った。死なないって知ってても死ぬかと思った……」

 

 本日二度目の心臓に悪い経験だった。

 十何mもある巨大な剣がいきなり生身の人間(ダイバー)に振り下ろされれば、誰でもこうなるだろう。

 

「こ、ここまで降りてくれば、もう巻き込まれないだろ……」

 

 寿命が半年くらい縮んだぜ、とツルギは安息をつく。

 

「あ、あの……ツルギくん?」

 

 ふと、ツルギの腕の中に収まっているハルナが、遠慮がちに声を掛けてきた。

 

「も、もう大丈夫だと思うから、その、下ろして欲しい、かな……?」

 

「ん?お、おぉ、悪い……」

 

 ツルギは自分がハルナをどうしているのか、ようやく気付いたらしく、両腕に抱えた彼女を地面に下ろす。

 ツルギの腕からハルナは、降ろされてからすぐには立ち上がらず、彼と同じようにへたり込む。

 

「ツルギくんって、意外とお姫様抱っことか平然としちゃうんだ?」

 

「いや、そのまぁ、非常事態だったしなぁ。さすがに人前でやれって言われると遠慮したいが……良くなかったよな」

 

 いくら幼馴染みで気心が知れているとは言え、何の断りもなくいきなり担ぎ上げるのは良くなかったかとツルギは反省するが、

 

「うぅん、そんなことないよっ」

 

 慌ててハルナはぶんぶんと首を振って、ツルギの行いを肯定する。

 

「むしろ役得……じゃなくてっ、……その、ありがとね」

 

 ーー気が付けばGBN内の時間帯は夜になっており、藍色の空には満天の星々が広がっていた。

 

「なんか、不思議だね」

 

 不意にハルナがそんなことを口にした。

 

「何がだ?」

 

 ツルギは訊き返す。

 

「ツルギくんは、覚えてる?……十年くらい前かな。ツルギくんが、色んな武道を頑張るようになったこと」

 

 ハルナは、過去のことを話に持って来た。

 

「お前な……そんな昔のことを、何で今に蒸し返すんだよ?」

 

 ツルギは呆れたようにーーと言うよりはどこか焦るように応じる。

 

「だって、今日ツルギくんと一緒に旅してて、なんか色々思い出しちゃったから」

 

 それを皮切りに、ハルナは思い出語りを始めた。

 

「わたしは今でも覚えてるよ。……わたしがイジメられてた時に、ツルギくんが割って入ってきて、喧嘩になって……ボコボコにされて泣きじゃくってたツルギくんを、わたしが慰めてたこと」

 

「ぐはっ……よりにもよって、一番思い出して欲しくないことを思い出してくれやがったっ……」

 

 ツルギは右手の掌で顔を隠すように覆うと、地面を背中に落ち着けた。

 

「俺にとって、アレほどの屈辱は無いってのに……」

 

「屈辱かなぁ……わたしは、すっごく嬉しかったんだよ?ツルギくんが「ハルナを守るために強くなる」って泣きながら言ってくれて、それからだよね、武道一筋になっちゃったのは」

 

「……ハァ、今になって思い出したら、バッカみてぇだ。武道を始めたのが、「ハルナを守るために」なんてこっ恥ずかしい理由なんだからよ」

 

 今この場で他の誰かが聞いてるとは思いたくねぇな、とツルギはぼやく。

 そのツルギに合わせるように、ハルナも地面を背にする。

 

「うん……ほんと、バカみたい」

 

 でもね、とハルナは言葉を紡ぐ。

 

「そんなバカみたいな理由を、ツルギくんはちゃんと覚えててて、わたしを守ってくれた」

 

「……さっきは、そう言うつもりで助けたんじゃ無かったんだけどな」

 

 ほとんど無意識の行動だったしな、とツルギは苦笑する。

 

「いいの。それでもいいの」

 

 満足そうにハルナは頷く。

 

「あー……昔のこと思い出してたら、今日何のために旅してたのか分からんくなってきたな……」

 

「でも、気分転換にはなったよね」

 

「まぁな。……よしっ」

 

 ツルギが上体を起こすのを見て、ハルナもそれに倣う。

 

「そろそろ帰るか、ハルナ」

 

「うんっ」

 

 二人はイフリート・エスパーダに乗り込むと、真っ直ぐにフォースネストに帰還、ログアウトした。

 

 

 

 

 

 ログアウトした頃には、もう日が沈んで辺りが暗くなり始める時間帯だった。

 

「昼飯も食わずにぶっ通しで旅してたなぁ」

 

「やり過ぎちゃったね」

 

 気分転換と言いつつも逆に疲れたかもしれないが、ツルギとハルナはどこかスッキリしたように、ダイブルームを後にする。

 

「あ、っと、忘れるとこだった……。ハルナ、ちょっと待っててくれ」

 

「ん、忘れ物したの?」

 

「忘れ物ってか、買い忘れだな」

 

 ツルギはダイブルームから物販コーナーに向かい、

 すぐに戻って来た。

 

 手提げ袋には、『ブレイヴ試験指揮官機』が入っている。

 

「ようやっと、イメージが付いてきたからな」

 

 

 

 

 

 それから数日。

 途中途中でメンバー達の力を借りながらも、ツルギはついに自分のマスラオを完成させた。

 

 そのお披露目として、フォース・スピリッツのメンバー(マイは何やら忙しいのかいないが)は一堂にいつものガンダムベースの製作ブースに集まっていた。

 ブースのテーブルの一角には、新しく生まれ変わった、ツルギのマスラオが立っている。

 

「へぇ、こいつがクサナギの新しいマスラオってか」

 

 最初にヤイコが口を開いた。

 

 基本的な外観は、以前のレイジングマスラオとほぼ同じだが、『スサノオ』のガントレットが両腕に取り付けられている。

 

「大部分はマスラオだが、一部のパーツはスサノオに置き換えられているな」

 

 マスラオとスサノオの細かい違いが分かるサヤは、この新しいマスラオがどう変わったのかを瞬時に理解する。

 

 左右の肩部には、GNコンデンサーに被せるような形でさらに大型のGNコンデンサーが配置されている。

 

「このサムライソードは、別の模型から流用して来てますよね」

 

 ミーシャが指した部位……何も無かった臀部には、鞘に納められた日本刀型の強化サーベルが提げられている。

 

「バックパックは、前のレイジングユニットと比べると、コンパクトになったわね」

 

 最も様変わりしている背部にユイは目を向ける。

 それは、ブレイヴ試験指揮官機の上半身を丸ごと背負ったようなバックパックユニットで、サイドバインダーの内部に、GNビームサーベルの柄がマウントされている。

 

 ガントレットや肩のコンデンサーによって、上半身はやや太みを帯びるようになったが、バックパックユニットの位置がやや下がったため、相対的な重量バランスはむしろ向上している。

 

「名前はもう決めてるんだよね?」

 

 ハルナが、そのマスラオとツルギを見比べる。

 

「あぁ。レイジングマスラオ改めーー『マスラオヘブンズクラウド』だ」

 

 ツルギは自身の新たなマスラオ『マスラオヘブンズクラウド』指したーーーーー。

 

 

 

 

 

 

【次回予告】

 

 ハルナ「ツルギくんのマスラオも完成したし、腕試しでもする?」

 

 ツルギ「そうだな、歴代ガンダムの主人公機五機と戦う、G5アタックなんか良いかもしれ……」

 

 ユイ「ちょっとごめん聞いてっ、お姉ちゃんが昨日から家に帰って来てないのよ!」

 

 ミーシャ「えぇっ、ケータイも繋がらないんですか!?」

 

 サヤ「偶然か知らないが、ローランさんとも連絡が取れなくなった。何かあったとは思いたくないが……」

 

 ヤイコ「おいおい、なんか運営から大事なアナウンスがあるとか何とか言ってんぞ!」

 

 ハルナ「次から次へと何なのもう……」

 

 ツルギ「次回、ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツ

 

『変革』

 

 いくらなんでも、ムチャクチャ過ぎるだろうが……!」

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