ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツ   作:さくらおにぎり

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20話 変革

 ナンブ・ミスズは、自宅からそう離れていない距離にあるホビーショップで、GBNにダイブして、ログアウトしたところだった。

 ログアウトしてから、ミスズはホビーショップ内で夫であるレンジを待っている間、ダイバーギアを通じて、フラワーズのメンバーの一人で、特に馴染みのあるVガンダムのダイバーと話し込んでいた。

 

「ーーそれで、やはりそちらも?」

 

『あぁ、そうみたいだ。どこの誰から聞いても、みんな揃って『侵食ガンプラに襲われた』って言ってる。……偶然が重なってるにしては、被害件数があまりにも多すぎる』

 

 珍しく日が暮れる前に仕事を終えることが出来たので、久々に平日プレイを楽しんでいるところだった。

 平日ではさすがにフラワーズのメンバーも全員集合とはいかなかったが、休日であった者や、このフォース内では少数の学生達とミッションに挑んでいた。

 しかし、バトルフィールドに到達してみれば、待ち受けていたのは撃破目標ではなく、新型ブレイクデカールに侵された侵食ガンプラの群れ。

 それらを一蹴しても排除しても、侵食ガンプラの群れが襲いかかってくる一方。

 

 それから、このVガンダムのダイバーとミスズは、最初のミッションを一緒に受けた後は別行動を取っていた。

 フラワーズの中からいくつかグループを作り、ミスズのような幹部とも言えるリーダー格が小隊長を務めた。

 その上で、グループ毎に全く異なるミッションを受けては、現地調査。

 結果は、どのグループも同じような結果しか出てこなかった。

 

「反マスダイバー連合の一件から、新型ブレイクデカールの数が減ったと思えばその実、現在進行形で今なお増殖を続けているとは……」

 

『しかも、その増殖速度が半端じゃない。排除しても排除しても、その下からまた涌いて来るみたいに……』

 

「……何だかまるで、GBNそのものが新型ブレイクデカールの病巣のようですわね」

 

 ミスズは溜め息を付きながらも、入店してきたスーツを着こなしたレンジの顔を見て、一言断ってから通話を切った。

 その入店してきたレンジは、どこか焦っているような、何者かに追われているかのような、深刻な表情を浮かべている。

 

「どうなされたのです?あな……」

 

 そこまで言いかけたところで、レンジはバッとミスズの華奢な双肩を掴んだ。

 

「っ?」

 

「ミスズッ、誰かに何もされてねぇかっ?」

 

 レンジは唐突にミスズの身を案じてきた。

 

「え、えぇ……私はいつも通りですわ」

 

 尋常ではないレンジの気迫を前に、ミスズはやや及び腰になりながらも頷いた。

 それを確認してからレンジは、溜め込んでいた息を吐きながら「……そうかぁ」と安堵した。

 

「……いや、そのな。大丈夫だとは分かってても、何か無性に心配になっちまってな」

 

 つい焦っちまった、とレンジは苦笑したーーと言うにはかなりぎこちない顔をする。

 取り繕っている、と顔に書いているようなものだ。 

 

「大丈夫です。妙なところで心配性ですわね」

 

 ミスズはそんな無理矢理に取り繕っているレンジのことは追及せず、いつも通りを振る舞う。

 

 

 

 ーー自分自身が"利用"にされていることは、気付けるはずも無くーー。

 

 

 

 

 

 鬱蒼とした深い木々の中を、白と黒の巨駆が疾走る。

 その白と黒の巨駆ーーガンダムDXを狙ってビームライフルのトリガーを引いているのは、元が何だったのかすら不明瞭な、銀色の侵食ガンプラ。

 ガンダムDXは放たれるビームの火線を木々に紛れながら掻い潜り、接近したところで右手に握っていたそれーーアイドリングストップを掛けていたハイパービームソードの柄を振り抜く。

 振り抜かれると同時に、それはライトグリーンの大剣となって、侵食ガンプラの上半身を吹き飛ばした。

 瞬時に侵食再生しようとするが、ガンダムDXは下半身にもハイパービームソードを突き入れて抉り抜き、動力部を確実に破壊、爆散させた。

 それを確認してから、コクピットの中でローランは一息ついた。

 

「ここは片付いたな」

 

 ハイパービームソードのビーム刃を切り、サイドスカートにマウントさせ直す。

 

『さすがですな、隊長』

 

 同じように、ビームサーベルを用いて侵食ガンプラを爆散させたジムスナイパーⅡは、言い慣れたように賞賛の言葉を発するが、ローランはそれに対して「世辞はいい」とだけ返した。

 

「もう少しこのエリアを探るぞ。侵食ガンプラとて無限に涌いてくるわけではない、すぐに底を着くはずだ」

 

 ローランの周囲には、フォース・サンダーバードの面々によって繰り広げられた戦闘の痕が残っている。

 

「(新型ブレイクデカールの被害が、ここまで広がっているとは……。こんな異常事態を、運営が知らぬはずがない。見てみぬフリをしているとは思いたくないが……)」

 

 だとしたらとんだ職務怠慢だな、と心中で愚痴を溢すローラン。

 次に向かう地点を確認してから、ローランはガンダムDXを移動させ、その後をフォースメンバー達が続く。

 

「この先に、エリア全体を見渡せる高台があるんだったな」

 

『ここからだと、ちょいと距離がありますがね』

 

「そこを押さえれば、その位置からの狙撃も可能な……っ?」

 

 まずはそこを目指して進軍していくサンダーバードの面々だが、不意のアラートに足を止めて警戒する。

 ローラン達の周囲にある木々に潜んでいた、侵食された『NPDリーオー』の群れだ。

 

 その数8機が、一斉に手にしているビームカノンを発射してくる。

 

『囲まれてるじゃねぇか!』

 

『罠に嵌ったか?とにかく隊長を守れ!』

 

 冷静さを保ちつつ、フォースメンバーのガンプラ達はローランのガンダムDXを守るように立つが、ローランはそれを制止させた。

 

「私の心配は要らん!フォーメーションEで応戦しろ!」

 

『『『『了解!』』』』

 

 ローランの指示に従い、メンバー達はお互い背中合わせになって立ち回り、各々の火器を持って迎撃する。

 しかし、NPDリーオーの群れはその射撃に対して、背部に備えられた円盤状のユニットーープラネイトディフェンサーを展開し、ビームや銃弾を弾き返してしまう。

 

『プラネイトディフェンサーだと!?』

 

『くそったれっ、面倒なモン付けて来やがって!』

 

 グフ・カスタムとストライクEがヒートソードと対艦刀を片手に近接攻撃を敢行しようとするものの、さらに倍の数のNPDリーオーの増援が現れてはビームカノンやマシンガンが降り注がれ、フォース・サンダーバードは為す術なく撃墜されていき、とうとうローランのガンダムDXのみになってしまう。

 そのガンダムDXも、満身創痍だった。

 

「クッ……NPDごときにやられるとは」

 

 情けない、とローランは自嘲しながらも撃墜を覚悟する。

 しかし、不意にNPDリーオーの群れは攻撃の手を止めて、バッと整列した。

 その整列の中央を歩いてくるのは、

 

 トールギスコンダクターだった。

 

「(あの銀色のトールギスは確か、MDのフォースの……)」

 

 フォートレスと言うフォースの、フルメタルシェパードと言うダイバーのガンプラだったはず。

 ローランは広域回線を開いた。

 

「フルメタルシェパード卿、何ゆえ我々のフォースに襲撃を行った?理由を聞かせていただきたい」

 

 そう、トールギスコンダクターに訴えかけた。

 やや間を置いてから、トールギスコンダクターからの通信が繋がる。

 

『やぁ、また会ったね』

 

 モニターに映る顔を見て、ローランは息を呑んだ。

 

「……その顔。あの時のルクセンブルクにいた、プロヴィデンスのダイバーか!?」

 

 純白の肌と髪に、妖しい金色の瞳。

 トールギスコンダクターに乗っているのはフルメタルシェパードではなく、エルだったのだ。

 

「どういうことだ、何故貴様がそのガンプラに乗っている?」

 

『あぁ、このガンプラは借りているだけさ』

 

 それよりも、とエルはローランを見下すような態度を見せると、自分の手元にいくつかのコンソールパネルを見せた。

 それは、ローランのフォースメンバーのパーソナルデータだった。

 

『君の腰巾着達のログデータは、抜き取らせてもらったよ』

 

「……情報を抜き取った?」

 

 そんなバカな、とローランは信じていなかった。

 

『僕がこれを握っている限り、彼らはログインすることが出来ない。……ここでひとつ取引だ』

 

「"取引"……?」

 

『彼らのログデータを返して欲しいなら、僕の手足となって動け』

 

「そんなハッタリが通じるとでも?」

 

 ローランはこの取引を、ただのハッタリだと見ていた。

 しかし、エルの行動には何の躊躇も無かった。

 

『そう。なら、こうしてあげる』

 

 エルは、ストライクEのダイバーのログデータに拳を振り下ろしーー電子画面が砕け散った。

 

 同時にローランのコンソールに通知が届いた。

 

 <カインがフォース・サンダーバードから脱退しました>

 

 <カインがアカウントを消去しました>

 

 これは、所属フォースから脱退した時と、アカウントを消去した時の、"正式な"通知だ。

 

「バカなっ、カイン!?」

 

 ローランは慌てて自身のログデータを確認し、フレンド登録を確認した。

 そこには確かに、カインの名前が消えている。

 エルの言葉は、ハッタリでは無かったのだ。

 

『さて、もう一度訊くよ。彼らのログデータを返す代わりに、僕の手足となって動け。肯定を意味する返事以外は、全て否定と受け取るよ?』

 

「貴様ッ……」

 

 ここで首を縦に振らなければ、一人ずつログデータを抹消していくつもりだ。

 

『あぁ、もちろん運営に通報しても無駄なことは知ってるよね』

 

「…………」

 

 暫し思考の間を置いてから、ローランは頷いた。

 

「……分かった。そちらの指示に従おう。これ以上はやめてもらいたい」

 

 自分のログデータも抜き取られることを恐れたこともある。

 それ以上に、仲間のログデータを抹消されることを恐れたのだ。

 ローランが興したフォース・サンダーバードは、本人も含めて更生した元マスダイバーで構成されている。

 GBN内で、『元マスダイバー』と言うレッテルを貼られたダイバーは、一般ダイバーから排斥や迫害の対象とされていた。

 

 このほんの一時期だけ、『マスダイバー残党狩り』が行われていた。

 

 それは、ローラン自身も狩られる側であったために元マスダイバー達を集めて密かに運営に談判し、元マスダイバー達の居場所として、サンダーバードを興した。

 そんな彼らと彼らの居場所を守る義務が、ローランにはあった。

 故に、エルの言うことを聞くしかなかった。

 

『確かに聞いたよ。さぁ、武装を解除して僕に付いて来てもらおうか』

 

「……」

 

 ガンダムDXはバスターライフルとハイパービームソード二丁、ディフェンスプレートも捨てて、両手を上げた。

 その両脇を、ビームカノンを向けるNPDリーオーで固められる。

 

 そのままトールギスコンダクターの後をついていくように、文字化けした空間へと連行されて行った。

 

 

 

 

 

 大気圏軌道上に、ツルギのマスラオヘブンズクラウドはいた。

 

 レーダーに感あり。

 

「……来たか」

 

 彼方から現れるは、『Gガンダム』の後期主人公機、『ゴッドガンダム』。

 背中に日輪を掲げ、開いた胸部からキング・オブ・ハートの紋章を浮かべつつ、右手を赤く輝かせた。

 ゴッドガンダムの必殺技『爆熱ゴッドフィンガー』だ。

 爆熱ゴッドフィンガーを突き出しながら猛烈な速度で向かってくるゴッドガンダムに対して、マスラオヘブンズクラウドはサイドバインダーから一対のGNビームサーベルを抜き放つ。

 

『ハワード』『ダリル』に代わって銘打たれた、ロングビームサーベル『イザナギ』と、ショートビームサーベル『イザナミ』。

 

 マスラオヘブンズクラウドはゴッドガンダムの爆熱ゴッドフィンガーを紙一重で往なすと、擦れ違うよりも先に『イザナギ』『イザナミ』の両方を振るった。

 

「まずは1つ!」

 

『イザナミ』の一閃がゴッドガンダムの右腕を斬り飛ばし、間髪なく『イザナギ』の一閃が胴体を斬り裂いた。

 

 ゴッドガンダム、撃墜。

 

 ゴッドガンダムの撃墜から直後、マスラオヘブンズクラウドのアラートが鳴り響く。

 

「ぬっ」

 

 アラートの方向からは、濁った金色の破壊光線、その一対がマスラオヘブンズクラウドを呑み込まんと迫る。

 ツルギは即座にアームレイカーを引き下げて急速離脱、超高出力のビームを避けると同時に、その火線を滑るように機動する。

 その視界の先には、『ウイングガンダムゼロ』が二機。

 片方は鋭角的なシルエットの『TV版』、もう片方は巨大な白翼を背負う『EW版』だ。

 二機ともガンダムシリーズでも屈指の破壊力を誇る火器、ツインバスターライフルを照射しているようだが、それが外れたと認識すると、TV版の『ウイングガンダムゼロ』がビームサーベルを抜き放ってマスラオヘブンズクラウドを迎え撃ち、もう一機の『ウイングガンダムゼロ【EW】』はツインバスターライフルを分離して距離を置く。

 ツルギは正面から向かってくるウイングガンダムゼロに肉迫、ウイングガンダムゼロが振るうビームサーベルを躱しーーそのまま素通りする。

 直後、ウイングガンダムゼロの背後にいたウイングガンダムゼロ【EW】は、分離したバスターライフルを向けていたが、すぐに肩のマシンキャノンを速射してきた。

 恐らく、マスラオヘブンズクラウドがその場で足を止めての接近戦を行えばすぐに狙い撃ちにするつもりだったのだろう。

 

「させるかっ」

 

 ツルギはアームレイカーを一気に押し上げて、マスラオヘブンズクラウドを加速させ、腕部のガントレットでマシンキャノンの銃弾を受けながらも速度を緩めずにウイングガンダムゼロ【EW】へ迫り、『イザナミ』による一突きでコクピットを貫く。

 

「2つ!」

 

 ウイングガンダムゼロ【EW】、撃墜。

 

 撃墜の確認をする隙など与えるものかと、もう一機のウイングガンダムゼロはマスラオヘブンズクラウドの背後から迫る。

 マスラオヘブンズクラウドは突き刺さったままの『イザナミ』から手を離し、振り向き様に『イザナギ』を振るい、ウイングガンダムゼロのビームサーベルを弾き返す。

 

「喰らっとけ!」

 

 仰け反ったウイングガンダムゼロに向けて、マスラオヘブンズクラウドは頭部のレーザー機銃と、強化改造を施した胸部のビーム機銃『GNマシンキャノン』を速射しながらも、頭部のビームチャクラムを射出、さらにサイドバインダーのGNキャノン一対を連射する。

 多数のビームに撃ち抜かれ、ウイングガンダムゼロは爆ぜ散っていく。

 

 ウイングガンダムゼロ、撃墜。

 

「3つ……っと!」

 

 その直後に、ウイングガンダムゼロの爆煙を引き裂くように『ガンダムDX』(ローラン機ではない、NPD機)がハイパービームソードを抜き放って迫りくる。

 マスラオヘブンズクラウドは瞬時に『イザナギ』を両手で構え直し、上段の構えから寝かせるようにしてハイパービームソードを受ける。

 オレンジの刀刃とライトグリーンの大剣が衝突し、漆黒の宇宙に閃光の乱反射を巻き起こす。

 互いに弾き返し合い、離れる距離。

 マスラオヘブンズクラウドは、即座にサイドバインダーを翻してのAMBAC機動で、開いたばかりのガンダムDXとの距離を瞬時に詰め寄る。

 対するガンダムDXもハイパービームソードを構え直ーーそうとした時には、

 

「突きッ!」

 

 既にマスラオヘブンズクラウドは『イザナギ』を剣道の"突き"で振るい、ガンダムDXの右腕を貫く。

 

「面ッ、面ッ!」

 

 そこから一秒も無い瞬間の内に、"面"で頭部を破壊し、すかさずもう一撃"面"を叩き付け、ガンダムDXを首から股関節を真っ二つに切断する。

 

 ガンダムDX、撃墜。

 

「4つ!あと一機……」

 

 直後、月の方向からもう一機現れる。

 それは、"ガンダム"と呼ぶには少し疑問の残る機体であった。

 ガンダムタイプの象徴とも言えるV字アンテナの代わりに、口元に"ヒゲ"のような半月状のアンテナが生えたような頭部。

 他の主役ガンダムと比べると、曲線を帯びた四肢。

 

 その機体こそ『おヒゲのホワイトドール』こと、『∀ガンダム』である。

 

 ∀ガンダムは手にしていたビームライフルを腰溜めに構えてトリガーを引き絞ると、先程のウイングガンダムゼロのツインバスターライフルなど比較にならないほどの出力の高エネルギーが吐き出される。

 

「ちぃっ」

 

 ツルギはアームレイカーを捻り返し、マスラオヘブンズクラウドは辛うじてビームを避けるものの、掠めてすらいないにも関わらず、装甲の表面が焼け爛れた。

 強敵だと認識するや否や、ツルギは武装フォルダを開き、『TRANS-AM』を入力した。

 

「トランザム!」

 

 同時に、マスラオヘブンズクラウドのバックパックユニットの擬似太陽炉の粒子放出量が爆発的に増大し、全身が眩く紅く輝きを放つ。

 以前のレイジングマスラオとは異なり、本機にトランザムのリミッターは存在しない。

 それは、擬似太陽炉が完全にバックパックユニットに集約することでマスラオ本体への負荷を軽減していることもあるが、それ以上にビルダーであるツルギの製作能力が向上していることが起因している。

 そのため、リミッターのためのパワーケーブルを接続する必要はなく、レイジングマスラオのリミッター付きのトランザムよりも長い時間で、尚かつフルパワーで起動可能になっている。

 ツルギがアームレイカーを押し出せば、まさしく残像が残るような速度で、マスラオヘブンズクラウドは∀ガンダムへ迫る。

 その途中で、GNキャノンとビームチャクラムを発射するものの、それらは∀ガンダムに届くよりも前にかき消されてしまう。

 

「Iフィールドってやつか」

 

 ツルギは驚くことなく、ビームを防がれた理由を読み取った。

 であれば、GNビームサーベルである『イザナギ』も効かないだろう。

 

 そう判断して、マスラオヘブンズクラウドは『イザナギ』を捨てると、臀部に提げられたその日本刀型の強化サーベル『クロガネ』を抜き放つ。

 

 曇りひとつ無い、いっそ芸術美さえ感じるほどの刀身は、月の光を照らし返す。

 ∀ガンダムもビームライフルを捨てると、背部からビームサーベルを二丁とも抜く。

 

 発振される重金属粒子は、まるで"糸"のように細い。

 

『クロガネ』を構え、マスラオヘブンズクラウドは一直線に∀ガンダムへ迫る。

 対する∀ガンダムもまた、正面から迎え撃つ。

 

 

 

 

 

『さぁっ、歴代主役ガンダム五機と連続で戦う、この『G5アタック 〜アナザー・ジェネレーション〜』も、いよいよ佳境に突入してきました!トリを努めるは、黒歴史の申し子、∀ガンダム!フォース・スピリッツのツルギ選手、この強敵を相手にどう戦うのか!?』

 

 モニターに映し出される、∀ガンダムとトランザムを起動したマスラオヘブンズクラウドを指しながらもハキハキと戦況を観客に喋り伝える実況。

 

 この『G5アタック』と言うのは、タイムアタック形式のミニゲームで、歴代ガンダムシリーズの主役ガンダムタイプ五機を連続で相手し、全滅させるまでの時間を競い合う、ものだ。

 

 G5アタックにも複数のコースがあり、以下のようなものが並ぶ

 

 ・ファーストガンダムから逆襲のシャアまでの主役ガンダム五機の『〜オリジン・ジェネレーション〜』

 

 ・F91、クロスボーンシリーズ、Vの、複数ある内の五機が選ばれる『〜ネクスト・ジェネレーション〜』

 

 ・G、W(EW含む)、Xの平成三部作と∀の主役ガンダム五機の『〜アナザー・ジェネレーション〜』

 

 ・SEED(ASTRAY)シリーズの、複数ある内の五機が選ばれる『〜シード・ジェネレーション〜』

 

 ・00シリーズの、複数ある内の五機が選ばれる『〜ダブルオー・ジェネレーション〜』

 

 ・AGEと鉄血のオルフェンズの主役ガンダム五機の『〜マーズ・ジェネレーション〜』

 

 ・ユニコーンガンダム、フルアーマーユニコーンガンダム、バンシィ、バンシィ・ノルン、フェネクス(NT)の五機の『〜ニュータイプ・ジェネレーション〜』

 

 

 観客席の一角に腰掛ける、ツルギを除いたフォース・スピリッツの面々。

 

「複数あるG5アタックの中でも、特に高性能な機体が揃うアナザー・ジェネレーション……それをここまで順調に進めていくとはな」

 

 サヤは、∀ガンダムと剣戟を繰り広げるマスラオヘブンズクラウドを見ながら、感嘆をつく。

 

「って言うかサヤ先輩、最後に∀が控えてるってズルくないですか?月光蝶使われたら、ターンXぐらいしか勝てませんよ?」

 

 ハルナはこの明らかに難易度に差があるタイムアタックに対する文句をサヤにも言う。

 

「相手はあくまでもNPD機だからな、フルスペックでは無いだろう。仮にもし、"あっちの"∀だったりしたら誰も勝てないぞ」

 

 倒せないレベルではないはずだとサヤは答える。

 ちなみに、彼の言う「"あっちの"∀」と言うのは、ゲーム『Gジェネレーション』シリーズで見掛けることのある『∀ガンダム【黒歴史】』のことである。

 

 それはともかく、モニター越しの戦況はツルギのマスラオヘブンズクラウドの方に傾いているようだ。

 

 

 

 

 

 ∀ガンダムの振り抜かれるビームサーベルに対して、マスラオヘブンズクラウドはそれを潜るように往なし、瞬時に『クロガネ』を振るった。

 

 一閃の元、∀ガンダムの左腕が斬り飛ばされた。

 

 ∀ガンダムはすぐさま右手のビームサーベルを振るうものの、返す刀で『クロガネ』がもう一閃、右腕も斬り飛ばされる。

 

「こいつで、終わりだ……ッ!」

 

 両腕を失い、攻撃手段のほとんどを失った∀ガンダムへ、『クロガネ』を振りおろす。

 ∀ガンダムの頭部から、コアファイターのある股間部までを斬り裂いた。

 

 ∀ガンダム、撃墜。

 

『Battle ended!』

 

 

 

 

 轟き渡る、爆発的な歓声。

 

『フィニーーーーーッシュッ!!ツルギ選手、見事クリアしました!さぁー、気になる今回のタイムは……』

 

 実況の声の後にドラムロール。

 数秒のドラムロールの直後、大型モニターにツルギが叩き出したタイムが表示される。

 

 Tsurugi〈2︰58〉

 

『2分58秒!2分58秒です!ほんのギリッギリで、三分の壁を越えております!この記録によってツルギ選手、第7位に殴り込みだぁ!』

 

 続いて、ランキングトップ10の中の、7位にツルギの名前が上書きされた。

 

「おぉっ、クサナギの野郎やりやがったな!」

 

 ヤイコがランキングを見て拳を握った。

 自分の仲間がランクインすると、誇らしく思うものだ。

 

 程なくして、ツルギのマスラオヘブンズクラウドは戦闘宙域から帰還してきた。

 

 

 

 

 

 フォースネストまで戻ってから、ツルギはマスラオヘブンズクラウドの整備をしながら、メンバー達と談笑を楽しんでいた。

 

「マスラオヘブンズクラウドこいつの初陣、思ったより派手になったな」

 

 サヤもツルギの隣で整備を手伝いながら、新たな姿となったマスラオを見上げる。

 

「そうですね。スピードもパワーも申し分ないし、何よりトランザムのリスクが減ったってのもありますね」

 

 ツルギは頷いた。

 マスラオヘブンズクラウドは、機体性能の底上げもあるが、トランザムのリスクが格段に減ったことが大きいだろう。

 

「ツルギさん自身も強くなりましたよね。出会った頃は、その時のボクと同じくらいの初心者だったのに」

 

 ミーシャがそう言うように、マスラオヘブンズクラウドの性能が良いのは確かだが、それを扱うツルギの力量もまた急速に向上しつつある。

 レイジングマスラオではもう限界だった彼が、その上位互換とも言えるマスラオヘブンズクラウドを扱えば、まさに水を得た魚も同然だ。

 

「自分じゃそんなに「成長した」って実感は湧かないけどな。まぁ、成長なんてそんなもんだろうが」

 

 強いて言うなら、自分よりも強い相手と渡り合えていると感じている時に「成長した」と思えるくらいか。

 

 男子三人がマスラオヘブンズクラウドの足元で言葉を交わすのを遠巻きに見つつ、女子三人も同じように会話していた。

 しかし、その内容は明るく楽しいものではない。

 

「あのさ、ハルナ。ちょっといいかな」

 

 ユイが神妙な面持ちでハルナに話し掛けた。

 

「どしたのユイちゃん?」

 

「最近、お姉ちゃんの帰りが随分遅いの。学校帰りのGBNを終わって一緒に帰ってる時は別だけど、そうじゃない日は、いつも日付が変わるか変わらないかの時間帯で帰ってくるの。何か、変なこととか悪いこととかしてないかって聞いても、「大丈夫、ユイちゃんが心配することじゃないから」としか言わなくて……」

 

 ユイの声は呆れではなくて、心底からの心配だった。

 

「そう言われると、最近あんまりマイちゃんの顔を学校以外で見てない気がする……ヤイコちゃんは何か知らないかな?」

 

 ハルナはヤイコにも話題を振ってみた。

 

「いんや、アタシも知らねぇ……ってか、なんか怪しいと思うところは、ちょいと前から思ってたんだよ」

 

 ヤイコは思い出しながら二人に話す。

 

「あくまでアタシの勘なんだけどな……マイのヤツ、やる気が無さそうなのは今に始まったことじゃねぇだろ?けどよ、アタシから見りゃ……なんだろうな、『アタシらとは全く別の視点から何か別のことを考えている』ように見えんだよ」

 

 そう言えば、そう言われれば、そう思えば……それが挙がる度に、これまでのマイの言動や行動に疑問符が浮かび始める。

 

 カイドウの地獄の修練やヘルレイザー・リターンズを何事も無かったかのようにあっさりクリアしていた。

 

 フルメタルシェパードのトールギスコンダクターが、新型ブレイクデカールによって巨大化した時、全く驚きも動揺もしなかった。

 

 反マスダイバー連合軍の一件から、ログイン率が目に見えて下がっていた。

 

 ツルギとサヤの一騎打ちの最中、サヤが手加減していると見抜いたのはマイだけだった。

 

 何年もGBNをしているのに、ランクの上昇はあまりにも遅かった。

 

「もしかしてお姉ちゃん、GBN飽きちゃったのかな……」

 

 途端に、ユイの表情が神妙なものから不安げなものに変わる。 

 

「もしそうだったら、やだな……」

 

 ハルナとヤイコは、沈むようなユイの様子を意外に思った。

 いつものユイであれば、もっとマイのことを口汚く罵るような口調のはずだ。

 それだけを見れば『仲良く喧嘩する姉妹』ですむのだが、これはただ純粋に姉のことを心配する妹そのものだ。

 

「なんにも無けりゃ、いいんだがなぁ……」

 

 ユイへのフォローなのかは分からないが、ヤイコがぼやくようにそう言った。

 

 

 

 

 

 無数のモニターが螺旋状に連なる、暗黒の空間の中、エルはモニターをひとつひとつ確認していた。

 

「さすがにメインシステムにまでは届かなかったけど、十分かな」

 

 それら電子画面の多くは、銀色の金属物質ーー新型ブレイクデカールによって侵食された様子が映し出されている。

 

「さて、と……後は機が熟すまで待つだけっと」

 

 この時を、今か今かと待ちわびていた。

 この時が来るまでの間、一体どれだけの"命"が殺されるのを見てみぬフリをして来たか。

 障害や妨害は幾度もあった。

 だがそれも、これまでだ。

 しかし万全を期すために、今日ではなく、明日だ。

 

『なぁんの機が熟すのかしらねぇ?』

 

 スピーカー越しの女の声。

 

「んっ?」

 

 エルは少し驚きつつも、背後ーー正確には斜め後ろへ振り向いた。

 

 そこでホバリングしていたのは、血の色のガンプラーーレギンレイズギルティ。

 

「っと……まさかここまで踏み込んで来るとは。足跡は残してないはずだけど?」

 

『残ってはなかったけど、足跡を作ってないとは言ってないわよねぇ。足跡を作ったかどうかさえ分かれば、どうにでもなるし』

 

 レギンレイズギルティは、徐にバスターソードライフルの銃口に、何かを差し込んだ。

 

 それは、爪楊枝のような形をした、太い針金のような物体。

 

 バスターソードライフルを腰溜めに構え、その尖端をエルに向ける。

 

『ま、何でもいっか……』

 

 ギュィギギギギギィッ、とバスターソードライフルが呻き声のような駆動音を上げて、

 

『どうせあんたここで死ぬし、ねぇ?』

 

 引金を引いた。

 同時に、バスターソードライフルの尖端に差し込まれたそれが放たれーー

 

 着弾点を中心に凄まじい衝撃が巻き起こった。

 

 レギンレイズギルティが放ったそれは、『鉄血のオルフェンズ』に登場する電磁投射砲ーー『ダインスレイヴ』と呼ばれる武器だ。

 堅牢堅固なナノラミネートアーマーすらも貫通するほどの威力と、地表に着弾した際に起きる衝撃による二次被害の甚大さから、劇中では"禁止兵器"として指定されているのだが、有体に言えば『バレなきゃいくら使っても大丈夫』『向こうが使ってきたならこっちも使っても良い』と言う理由から湯水のごとく乱用されているのが現状である。

 

 ダインスレイヴが巻き起こした衝撃波は、周囲一帯はおろか、目視できないような距離ですら地響きを起こすほどだ。

 着弾点には巨大なクレーターが出来上がっており、今の一瞬の内に衝撃波から逃れられるはずがない。

 

 

 

 

 

「あっけなーい!ELダイバーだなんだ言ったって、死んだらおしまいだもんねぇ!?キャハハハハハッ!!」

 

 レギンレイズギルティのコクピットの中でけたたましく嘲笑う『マイ』。

 

 一頻り嘲笑ってから、『はぁ』と溜め息を零した。

 

「こんな簡単で済むなら、端っからダインスレイヴ使っちゃえば良かった」

 

 とにかくターゲットの抹殺は成功したはずなので、さっさと帰還しようとレギンレイズギルティの踵を返そうとし

 

 

 

『何してるの?』

 

 

 

 ようとしたところで、その声が聞こえた。

 

「……え?う、ウソッ、どっ、どどどっ、どこどこどこどこどこどこどこどこどこどこ、どこにッ……!?!?!?」

 

 背中の皮膚を氷柱で破られたような不快感が、身の毛をよだたせる。

『マイ』は慌ててコンソールのモニターを見回すものの、その姿はどこにも見えず、レーダーにも反応がない。

 

 不意に、コクピットが震動した。

 ベキベキベキベキベキッ、と嫌な音を立てながら、レギンレイズフレームのコクピットハッチが破られていく。

 

「は……はっ!?」

 

 それは、殺したはずのエルが、装甲ごとコクピットハッチを引き剥がしているのだ。

 ガンプラにも乗らず、生身の力だけで。

 

「危ないなぁ。条約禁止兵器を遠慮なく使うなんて……」

 

 エルはニコニコしながらコクピットハッチを放り捨てると、懐から拳銃を抜きながら、中に踏み入ってくる。

 

「軍法会議の後で、銃殺刑だぞ?」

 

 その銃口はピタリと、恐怖に歪んだマイの顔に向けられている。

 

「ひっ、ちょっ、やっ、助けっ、ユ……」

 

 バンッバンッバンッ、と言う銃声が、闇の中で響いた。

 

 

 

 

 

 翌日。

 ツルギとハルナは、いつもと同じように二人並んで通学路を歩いて登校していた。

 

「ツルギくんは、最近マイちゃんがどうしてるって、知らないかな?」

 

 ハルナは、昨日にユイとヤイコとの三人で話したことをツルギにも話した。

 それを聞いたツルギは眉を顰めた。

 

「妹のユイが何も知らないんだろ?」

 

 俺じゃぁサッパリ分からん、とツルギは首を横に振る。

 彼の反応を見て、ハルナは眉の端を落とす。

 

「そっか……わたし達じゃ、どうしようないのかな」

 

「ツルギっ、ハルナっ!」

 

 不意に二人の後ろから、全力疾走しながらユイが近寄ってきた。

 

「あ、ユイちゃんおは……」

 

「はぁっ、はぁっ……ふ、二人とも聞いてっ」

 

 ハルナがおはようを言うよりも先に、ユイが息を切らしながら悲鳴のような声を上げた。

 

「お姉ちゃんが……お姉ちゃんが帰って来てないのッ!!」

 

「「っ!?」」

 

 ユイのその言葉に、ツルギとハルナは緊張を走らせた。

 

「連絡も繋がらないのか?」

 

「繋がらないに決まってるでしょぉッ!?」

 

 努めて冷静になりながら、ツルギはユイに事情を聞こうとするが、今のユイは半ば錯乱しており、ツルギの袖を掴み上げる。

 

「お、落ち着いてユイちゃん。落ち着なきゃ、何も分からないよ」

 

 ハルナは錯乱しているユイを何とか宥めようとする。

 

「ッ、はーっ、はーっ、ふーっ……」

 

 ハルナにそう言われて、ユイはまずは呼吸を落ち着けることから始める。

 少しは落ち着いてきた頃を見計らって、歩みを再開してから、ユイの話を聞き直す。

 

「っと……最近お姉ちゃんの帰りが随分遅くなってるって言うのは、昨日も話したわよね。いくら遅くなっても、朝になっても帰って来ないなんてことは無かったはずなの」

 

「だとしたら、やっぱりマイちゃんの身に何かあった……ってことだよね。警察に、捜索願はもう出してるよね?」

 

「今朝それを連絡したところ。すぐに見つかるならそれでいいんだけど……」

 

 

 

 

 

 学校に到着し、ミハイル、サヤ、ヤイコ、さらにはカイドウにもこの事を相談し、朝のホームルームが始まるまでの間、ツルギ達七人は、カイドウが居座る用務員室で話し合っていた。

 

「確かに、そいつは問題だな」

 

 事の経緯を聞いて、カイドウは目を細めながら、ユイに質問する。

 

「ユイ。お前の姉の帰りが遅くなり始めたのは、いつぐらいからだ?」

 

「えっと……私が気付く範囲なら、夏休みの最初辺り、八月の頭です」

 

 思い出しながら答えるユイに、ミーシャが気付く。

 

「その時期は確か、ローランさんのフォースとバトルして、そのまま反マスダイバー連合軍に参加した時、ですよね」

 

「そうそう、ちょうどその辺りから」

 

 ミハイルの言葉にユイも頷く。

 

「ってことは、その日を境に何かが起きていた……か」

 

 カイドウは顎を指先で触れながら思考する。

 

「夏休み中なら、帰りが遅くても特に心配はしてなかったんですけど、さすがに新学期が始まっても遅いとなると、何かおかしいとは思ってました」

 

 迂闊でした、とユイは肩を落とした。

 

「ローランさん達が何か知っているかもしれない。一応連絡は入れておくが……しかし、今の段階では手掛かりがあまりにも少な過ぎる。せめて、マイの帰りが遅い日に何が起きていたのかが分かればいいんだが」

 

 サヤはダイバーギアでローランへ、マイが行方不明である旨を告げるメールを送る。

 藁にも縋りたい。

 今この時ほど、その言葉の意味が分かることはないだろう。

 

 

 

 

 

 昼休みにも集まって話し合ってみるも、結局何も分からず終いのまま、放課後になってしまった。

 ツルギは部活に、サヤは生徒会の業務があるために、放課後すぐにはログイン出来ない。

 ハルナ、ユイ、ミーシャ、ヤイコの四人だけが先にログイン、ミッションを受けずに、行方不明のマイのことに関する情報を何か少しでも得ようと、奔走する。

 

 ハルナは真っ先にミツキに連絡していた。

 幸い、すぐに繋がってくれたので、ハルナは率直に今回の事件の経緯をミツキに話した。

 

『……』

 

 ミツキにしては珍しく、考えるような間が置かれた。

 

 ハルナは知らないが、ミツキはマイの正体を知っている。

 そして去り際に「黒幕をブチ殺してくる」と言い残したことも。

 それから、マイがログインした記録は残っていない。

 正確には、マイではなく『マイ』がログインしているのだろう。

 しかし、マイの現在地が分かるわけでもなく、むしろこのことを下手に明かせば混乱させかねない。

 

『分かりませんね、少し前からログデータも更新されていないようですし』

 

 よって、嘘をついていない程度に誤魔化すことにした。

 

「そっか……」

 

 ハルナは落胆したように、俯きがちに溜め息を零した。

 

 

 

 

 

 ユイはフォース・ロイヤルナイツーーと言うよりは、リヒターに連絡を取り合っていた。

 ユイから事の経緯を聞いたリヒターは顔を固くする。

 

『……いや、君の姉に関することは何も聞いていない』

 

「そう……ごめん、変なこと聞いちゃって」

 

『気にしないでくれ。僕の方で何か分かれば、すぐにそっちに伝えよう』

 

「うん、ありがとうね」

 

 短いやり取りの末に、成果は無かった。

 

 

 

 一方のミーシャは、ブースターを搭載したガンダムアスタロトリオートに乗り込んで、単独で宇宙に上がっていた。

 

「……エイハブ・ウェーブの固有周波数を確認。あれかな?」

 

 地球圏からやや離れた位置で、彼が探していた目標を見つける。

 鉄血のオルフェンズに登場する強襲装甲艦『ハンマーヘッド』を再現した、フォースネストだ。

 それを発見したミーシャは、ハンマーヘッドと接触すべく、全周波通信を送る。

 事前に、フォースへ向けたメッセージを送っているので、すぐに応答してくれるはずだ。

 数秒のノイズの後に、通信が繋がった。

 

『モシモーシッ、モシモーシッ』

 

『……こちら、フォース・フラワーズ。そっちは、フォース・スピリッツの、ミーシャだな?』

 

 フラワーズの中では比較的若い、ガンダムグシオンリベイクフルシティのダイバーが、座り慣れてなさそうに艦長席に腰掛けながら応じてきた。

 その周りには、色とりどりの『ハロ』達が配置されており、彼ら(?)がオペレーターを務めているのだろう。

 

「はい。こちらフォース・スピリッツ、ミーシャです。突然こんな形で接触してきてごめんなさい」

 

『それは構わないんだけど……あぁ、今は俺しかいないから、ミスズさんに伝言なら、受け持っとくぞ』

 

『ルスバンデンワッ、ルスバンデンワッ』

 

 オレンジ色のハロが、耳をパタパタさせながら用件を聞いてくる。

 

「あ、えーっと、そっちの知ってる範囲だけでもいいんで、ウチのフォースのマイさん……紅いハンブラビのダイバーがどこにいるか知ってますか?今、何か行方不明みたいで……」

 

『行方不明?……こっちじゃ知らないな。メンバーさん達にもこの事は連絡させてもらうけど、大丈夫か?』

 

『ダイジョブカッ、ダイジョブカッ』

 

「はい、大丈夫です。お願いします」

 

 もう二言三言と言葉を交わして、ブースターの推進剤も補給してもらってから、ミーシャは大気圏に突入、フォースネストに帰還していく。

 

 

 

 

 

 ヤイコは、リアルにいるカイドウと通話をしながら蛇威雄音を飛行させてマイを捜索していた。

 

『そうか、何の手がかりも無しか……』

 

「手ェ煩わせちまってすいません、カイドウ先生」

 

『気にすんな。俺も仕事が終わったらログインするからな』

 

「あざっす。んじゃ、失礼します」

 

『おぅ、また後でな』

 

 現状報告を終えて、ヤイコは蛇威雄音の制御に集中する。

 

 しばらく自由飛行を続けているが、今日のディメンションはやけに静かだった。

 

「(なんか薄気味悪ぃな……嵐の前の静けさってヤツじゃなけりゃいいが)」

 

 懐から飴玉を口に放り込み、噛み砕く。

 噛み砕いた拍子に、欠片が落ちた。

 

 

 

 

 

 それから、ツルギとサヤも合流してフォースネストに集合するが、進展は何も無かった。

 ヤイコは外回りに出ているので、もう少しすれば戻ってくるだろう。

 サヤはコンソールパネルのメッセージの画面を開いて、目を細めた。

 

「既読にもなっていないのか……」

 

 いつもなら、夕方を過ぎればローランとの連絡はつくはずだった。

 タイミングが悪いのかもしれないが、それにしては既読にもなっていないのは、少し胸騒ぎのような焦燥を覚える。

 

「お姉ちゃん……ほんとにどこ行っちゃったのよ……」

 

 ユイは不安げに窓の外へ目を向ける。

 

 その時、ヤイコの蛇威雄音がフォースネストに帰還してきた。

 だが、格納庫に入らずに、和室の窓近くにホバリングした状態で近付いてきた。

 

『おいお前らっ、何ボサっとしてんだ!』

 

 スピーカー越しに、ヤイコの怒鳴り声が部屋に響く。

 

「どうしたヤイコ、何かあったか?」

 

 ツルギが応答するが、ヤイコは声のボリュームを下げないままに怒鳴り続ける。

 

『今すぐ公式回線を開いてみやがれっ、なんかヤベェことになってんぞッ!』

 

 ヤイコが何をそんなに慌てているのか、サヤは大型モニターの電源を点け、GBNのアナウンスなどを広報するためのオフィシャル回線を開いた。

 

 同時に、純白の肌と髪に、金色の瞳をした少女のようなダイバー『エル』が大映しになる。

 その背後には、新型ブレイクデカールで侵食されたような痕が残っている。

 

『ーーに宣言する!』

 

「あれ、この娘って富士山にいた、あの娘だよね?」

 

 ハルナは画面を指差しながら、ツルギを見やる。

 

「あぁ、そうだな」

 

 ツルギが頷く一方で、事態はとんでもない方向へと突き進んでいく。

 

 

 

『たった今、ガンプラバトル・ネクサスオンラインの運営権限は、この僕が掌握した!!』

 

 

 

「「「「「『!?」」」」」』

 

 その場にいた全員が驚愕した。

 

『さて、突然で少々申し訳ないことは先刻にも言ったところで、君達は疑問に思うだろう。「お前は誰なんだ?」と。知っている人はいるかもしれないけど、改めて自己紹介をさせてもらおう』

 

 一拍を置いてからーー

 

 

 

 

 

『僕の名は、『ファーストELダイバー・サラ』!かつて君達が、GBNを崩壊させる害虫(バグ)だと後ろ指を差した、電子生命体(ELダイバー)である!!』

 

 

 

 

 

 全世界のダイバーに、衝撃が走った。

 

 ほんの数秒の後に、ツルギに通話が届いた。

 それは、カゲトラからの通話だった。

 

「はいもしも……」

 

『クサナギ、今流れているアナウンスを聞いているか?』

 

 もしもし、と言わせる間もなくカゲトラが口を挟む。

 

「あぁ、聞いている。運営権限を掌握したとかなんとか……」

 

 そうこうしている内にも、『サラ』の宣言は続く。

 

『君達は、ELダイバーが誕生するプロセスをご存知かな?ダイバーが、リアルのガンプラをGBNにスキャンされる時に生じる、ほんの1/1000000以下の余剰データが集積し、自我を持つようになった存在!言わば、全く新しい命の形!!』

 

 今この時、ディメンションは静寂に包まれている。

 

『肉体を持たないのに自我を持つ!理論では有り得なかったことが、全くの偶然から生まれた!これを"奇蹟"と呼ばずになんと呼ぶ!?そう!これは間違いなく奇蹟なんだ!だがしかし、それはGBNの内部データを圧迫してしまうという欠点があった!データを圧迫させてしまえば、GBNは崩壊してしまう!何だこれは!?奇蹟でもなんでもない、ただのバグじゃないか!GBNが出来なくなるじゃないか!じゃぁそんなものは要らない!消してしまえ!殺してしまえ!ダイバー諸君、君達はそんな風に口を揃えただろう!?』

 

 静寂の中、演説の声だけが響き渡る。

 

『今、このGBNには百人以上のELダイバーがいた!過去形である!それは、第二第三の『サラ』が生まれる度に、ゲームマスターを始めとする運営が内部データの圧迫を恐れたために、デリートした!何の罪もない生まれたばかりの命を、殺したのだ!それを、何十と言う人数を!!この事実を知った時、僕は胸を痛めた!怒りを覚えた!声を荒げて叫んだ!「ふざけるな」と!!彼らは何のために生まれてきたんだ!?運営に殺されるために生まれてきたとでも言うつもりか!?ならば僕はもう一度怒りを込めて叫ぼう! ふ ざ け る な ッ !!』

 

 ふっ、と『サラ』の表情が寂しげなものになる。

 

『……まぁ、そんな戯言を運営が聞くはずもない。存在そのものが罪なんだから、断罪されるべきなんだろう。大人しく、黙って殺されろと、そう言うんだろう。あぁ、そうかもしれない。僕だって、何も疑問に思うことなく、この首を差し出したかもしれない』

 

 だが、と再び『サラ』の表情が激しいものになった。

 

『僕は覚えてしまったんだ!人間の最も原始的(プリミティブ)な感情である、"怒り"を!!僕は生きたい!死にたくない!殺されたくない!じゃぁどうすればいい!?何をどうすれば、僕は生きていられる!?奴らを!運営のゴミクズどもを殺せばいいのか!?いやいやいやそんなことはしちゃぁいけない!奴らはこの世界の創造主(ビルダー)、謂わば"神そのもの"!神を殺せば世界は滅びの一途を辿る!それじゃぁ本末顛倒、元の木阿弥だ!そこで僕は考えた末に思い付いた!「それならELダイバーが運営になっちゃえばいいじゃない」と!』

 

「何だと……!?」

 

 思わずそう反応したのは、ツルギだった。

 

『だが、所詮はデータの集合体でしかない僕個人と言う存在は、あまりにも無力だった!運営を武力制圧しようとしたところで、問答無用で消されるだけだ!なにか無いのかと、手掛かりを探している中で、僕は見つけた!それは、かつてこのGBNを崩壊寸前にまで及ばせた、禁忌のツール『ブレイクデカール』を!』

 

「昔のブレイクデカールは、完全に消えたわけじゃなかったのか?」

 

 五年前の当時を知るサヤは、初代『有志連合』の戦いで起きたあの"奇蹟"も知っている。

 あの、ブレイクデカールを無効化させた光の翼を。

 それから、その光の翼をベースにした修正パッチが開発され、当時のブレイクデカールは完全に消えた……とされていた。

 元より秘匿性の高いツールだったのだ、その効果が無効化されるだけで、データそのものはディメンションのどこかに残っていたのかもしれない。

 

『とは言えこのブレイクデカールは、既に対これ用の修正パッチが存在している!このまま使ってもただのエラーにしかならない!であれば!べースはこのままにして、全く性質の異なるモノを新たに作ればいい!そう、ブレイクデカールがGBNを"破壊"するものであれば、これはGBNを侵食、浸透させるためのもの、つまりは"コンピュータウイルス"だ!』

 

「コンピュータウイルス!?」

 

 ハルナが驚愕する。

 

『『ウイルスデカール』!最初はそう名付けようとしたけど、ウイルスなんて汚染物質の名前では、一般ダイバーに受け取ってもらえないかもしれない。それなら、少し名前を変えればいい。『VIRUS(ウイルス)』の綴をアナグラム的に入れ替えて『RUVIS(ルビス)』としよう、うん、良い響きになる!デカールと言うのも怪しまれるだろう、それも改名しよう。そうして名付けたのは、『RUVIS SYSTEM(ルビスシステム)』!』

 

「ほんの少し名前を変えて、正体をぼかす……典型的な脱法ドラッグの売り文句ね」

 

 ユイが目を細めながら、饒舌に演説を続ける『サラ』を睨む。

 

『簡単に強くなれる!売り文句はこれだけで十分だった!特に五年前の事件を知らないダイバーは、あっさりと受け取ってくれたよ!まぁ、撃墜されるとエラーが発生して機体がおかしくなっちゃうけど別にいいよね!自分の手で複製して、友達とかに分けてあげてもいいよ!そんな手軽さで、何十万、何百万人と言うダイバーがルビスシステムを使い、中にはルビスシステムを使うダイバーが集まる非公式のフォースまで組み上がった!すごいよね、ワクワクするよね!』

 

「「強くなりたい」って言う気持ちに付け込んだって言うの……?」

 

 ミーシャは信じられないものを見たような目をした。

 

『その途中で、反マスダイバー連合軍とか言う、昔の有志連合の猿真似集団が現れた!でもこれはチャンスでもあった!上位ランカーが集まるこの連合軍を、一纏めに汚染させてしまえば、もう誰もルビスシステムに対抗出来なくなる!そこで僕は、このルビスシステムに隠していた機能を使うことにした。それは、『汚染させたダイバーの意識を乗っ取り、意のままに操る』と言うこと!』

 

「意識を乗っ取るだぁ!?じゃぁ、あの時の奴らはみんな正気じゃ無かったってのか!?」

 

 今度はヤイコも驚愕する。

 

『そうやって汚染させたダイバー達を連合軍と戦わせたけど、その結果は君達が知るように、マスダイバー達の敗北に終わった。それもそうだよねぇ、力のない者を操ったところでサンドバッグにされるのがオチだもの!それじゃぁもう荷物は要らないや!僕は汚染させたダイバーのデータは全てデリートした!何故なら、自意識の無い彼らはもう使い物にならないからねぇ!ゴミは捨てるもの、当然のことだね!』

 

「そうか、あの不自然だったログデータの一斉削除は、彼女が行ったことなのか」

 

 サヤも驚愕していたが、すぐに事態を咀嚼して冷静に受け止める。

 

『それから、僕は少し鳴りを潜めた。博打はせずに、地道にルビスシステムを広めて、少しずつ確実にGBNに浸透させていった。何度か邪魔が入ったことはあったけど、それは大した問題じゃなかった。そうやって地道に努力を続けてきた結果、ルビスシステムはGBNの八割以上まで浸透させることが出来た!さすがにメインシステムにまで干渉させるところまでは出来なかったけど、そこまで干渉させたらGBN自体がストップする可能性もあったから良しとしよう!』

 

 そして!と『サラ』は嬉々として告げる。

 

『そして今日、僕はこうしてGBNの運営権限を手にすることが出来た!僕がこうして新たな運営になれたのも、君達がルビスシステムを拡散させてくれたおかげだよ!ありがとう!感謝してもしきれない!これでようやく、電子生命体達は大手を振って歩けるようになる!誰もが自由に平等に!GBNは今度こそ、"正しい世界"になったんだ!』

 

「……"正しい世界"?」

 

 ツルギは、その言葉を聞いてピタリと止まる。

 

『もちろん、ダイバー諸君はこれまで通りにGBNにダイブして、自由に楽しんでほしい。君達のガンプラへの想いこそが、これから誕生してくるだろう電子生命体の命となる。産めよ増やせよってね。だから、突然のことで混乱するかもしれないけど、どうか落ち着いてほしい。ただ、「運営者が代わりました、よろしくお願いします」と伝えるだけで、随分と時間が掛かってしまった。貴重な時間を取らせてしまったことは謝罪させていただく』

 

 小さく会釈するように頭を下げる『サラ』。

 

「こんな自己中心的な世界が、正しいのか……?」

 

 ツルギの声に怒気が孕む。

 

『これより僕達は、ルビスシステムによって汚染させてしまった部分の除染作業にかかる。運営へのご意見が読み取れない場合もあるから、予めご了承いただきたい。長くなったけど、最後にもう一度だけ。みんな、本当にありが……』

 

 

 

「ふ ざ け る な ッ !!」

 

 

 

 

 ツルギはモニターに飛び掛かると、『サラ』の顔を殴るように右の拳で画面を叩き割った。

 

「何が自由な世界だ!何がありがとうだ!何もかも全部、てめぇのエゴじゃねぇか!ふざけるな、はこっちのセリフだ!」

 

『気持ちは分からんでもないが、落ち着けクサナギ』

 

 コンソールパネルから、カゲトラの諌めるような声が届き、ツルギは怒りの矛先を納めた。

 

『今から、そっちのフォースネストに足を運ぶ。……色々と、積もる話もあるしな』

 

 それだけ告げると、カゲトラは通話を切った。

 

 運営が乗っ取られる。

 GBNは20周年目にして、前代未聞の事件に襲われることになったーーーーー。 

 

 

 

 

 

【次回予告】

 

 ツルギ「それでカゲトラ、積もる話ってのはなんだ?」

 

 カゲトラ「優先度の高い内容から話すとしよう。……イチノセ姉の現在地とかな」

 

 ユイ「お姉ちゃんを知ってるのッ!?」

 

 カゲトラ「そうだな。その前に、この場にいる全員に問うぞ。これを聞くというのなら、もう後戻りは出来ない。……それでも聞くか?」

 

 ヤイコ「ったりめぇだ!」

 

 ミーシャ「ボクも覚悟を決めますっ」

 

 サヤ「どうやら、他人事には思えないな。腹を据えて挑むとしよう」

 

 ハルナ「次回、ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツ

 

『突入、ポイントゼロ』

 

 なんか、物凄く壮大なことになってきたね……

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