ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツ   作:さくらおにぎり

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21話 突入、ポイントゼロ

『ファーストELダイバー・サラ』なる存在による、あまりにも唐突な運営の乗っ取り完了宣言。

 宣言完了の演説が終わってからその五分後に、フォース・スピリッツのフォースネストに、カゲトラのザクⅠがやって来た。

 ……のだが、わざわざ開いてやったカタパルトデッキに着地せず、和室の窓に取り付き、カゲトラはコクピットハッチからそのまま畳に降り立つ。

 

「あ、そぉいっ!クルゥクルウゥ〜……シュピィィィィィーーーーーィンヌッ!!」

 

 クルクルシュピン(あまりにも謎すぎる名乗り)(しかも名乗ってない)を決めてから、さも当たり前のようにお茶を啜るカゲトラ。

 

「カゲトラくん、ちゃんと靴は脱いでね?」

 

「ハッハッハッ、めんごめんご」

 

 ツッコミどころのおかしいハルナにたしなめられて、カゲトラは素直に軍用ブーツを脱いで窓際に立て掛けておく。

 

「おぅカゲトラ、余計なことしてないでさっさと本題に入ってくれ」

 

 ツルギは呑気にお茶を啜っているカゲトラに早く"積もる話"をするように急く。

 

「まぁ落ち着けぃ。急いては事を仕損じると言うだろう」

 

 お茶の一杯を終えてから、カゲトラは全員の注目を浴びる。

 それを確認してから、ようやく話を始めてくれた。

 

「優先度の高い内容から話させてもらう。まず、現在イチノセ姉が行方不明だと聞いたが……今、奴がどこで何をしているか、俺は知っているぞ」

 

 それを聞いて、真っ先にユイが喰い付いた。

 

「ホントッ!?いつもみたいなっ、口から出まかせ嘘八百のデタラメを言ってるんじゃないわよねッ!?」

 

「俺は逃げも隠れもするし嘘などついて当たり前、必要とあらば卑怯な真似もするし手段も選ばんぞ」

 

 さも当然のように言い切っているが、よくよく聞いてみれば人として最低である。

 

「お姉ちゃんは無事なのかって訊いてんのよッ!!」

 

 ユイは乱暴にカゲトラの胸倉を掴むとガクガクと振り回す。

 

「ユ、ユイちゃん落ち着いて、ね」

 

 ハルナは二人の間に割って行っては、ユイを諌めさせる。

 もう一度ユイが落ち着くのを見計らってから、カゲトラは続ける。

 

「ただ、少しばかり面倒なことになっていてな。今、イチノセ姉はその場から動くことが出来ない」

 

「……事故に巻き込まれて、病院に運ばれたのか?」

 

 ユイが声を荒げそうになっているのを尻目に、サヤは努めて冷静さを保ちつつ、事態を予測する。

 

「いや、そうじゃない。しかし、意識不明状態が続いている。……これ以上は説明するよりは、実際に見てもらわねばならんな」

 

「意識不明が続いてるって……んなモンすぐにでも病院に連れて行かなきゃならねぇんじゃねぇのか!?」

 

 ヤイコが声量を増して怒鳴るように問い詰めるが、カゲトラはそれを否定する。

 

「搬送させたいのは無論だ。だが、そうしてはならん理由がある」

 

「その理由って、何ですか?」

 

 挙手しながらミーシャが質問する。

 

「それを説明するには、実際にイチノセ姉がどんな状態にあるかを直に見た方が良い。……故に、これから学校に来てもらいたい」

 

 何故学校に?

 カゲトラ以外の全員がそう思ったが、他にアテも無いため、ここはカゲトラの言うことに従うしかない。

 

 全員一旦ログアウトしてから、通学路に足を向け直した。

 

 

 

 

 

 ツルギ達が校門前に到着した頃には、カゲトラは既に待ってくれていた。

 そのまま彼の案内に従って敷地内に入っていくものの、何故か体育館裏に来ていた。

 

「さて……ここまで来て何を今更と思うだろうが、最後に確認だ」

 

 カゲトラは踵を返して、ツルギ達に向き直る。

 

「これより先に進みたいと言うのなら、全てを知ってもらい、そして他言無用を貫いてもらう。……それでも、来るか?」

 

 つまり、後戻りはもう出来ない、引き返させてはくれないと言うことだ。

 カゲトラにしては珍しい神妙な声に、全員は緊張感を滾らせながら頷く。

 

「そうか。では、ついて来い」

 

 そう言ってから、カゲトラは足元にあるマンホールの蓋を開ける。

 下水路でも通るのかと、カゲトラ以外は嫌そうな顔をしたが、マンホールの中に見えたのは下水路ではなく、しっかりと舗装されているーーそれもごく最近に仕上がっただろう、地下通路だった。

 カゲトラが梯子に足を掛けて降りていくのを見て、ツルギ達もそこへ降りていく。

 

 

 

 

 

 まるで蟻の巣のように幾筋も分岐した地下通路を下り、ある部屋に出てきた。

 そこは、GBNの筐体が幾つも並んでいる。

 

「すごい……学校の地下に、こんな部屋があったなんて」

 

 ミハイルが感嘆を洩らす。

 

「それでカゲトラ、お姉ちゃんはどこに?」

 

 ユイは急かすようにカゲトラに問い詰める。

 そんな彼女に、カゲトラは声のトーンを落として注意を促す。

 

「イチノセ妹よ。もう何回も言っているが、これから見る光景を見ても、決して取り乱すなよ」

 

「もうそれ6回目、いい加減耳にタコが出来るわよ」

 

「ならばよし」

 

 それを確認してから、カゲトラは複数ある内の、現在稼働中の筐体に近付いた。

 その筐体に、マイが居座っているらしい。

 どこに取り乱すような原因があるのかと、ユイはマイの姿を見ようとして、

 

 一瞬、言葉に詰まった。

 

 確かにそこには、ヘッドギアを付けてGBNにダイブしているイチノセ・マイはいた。

 

 しかし、手足や首が力無く投げ出され、微動だにしていない。

 

 それこそまるでーー死んでいるかのように。

 

「お、お姉、ちゃん……?生きてる、わよね……?」

 

 ユイは声を震わせ、膝を笑わせながら、マイに近付こうとしてカゲトラに制止された。

 

「待て。今のイチノセ姉を下手に動かしてはならん」

 

「……どうしてよ」

 

 ずっと心配していた姉が見つかったと言うのに、安堵しきれないユイは、苛立ちに声を尖らせる。

 

 それを抑えさせるように、カゲトラは、信じられないことを告げた。

 

 

 

「イチノセ姉は、GBNに意識を持って行かれている」

 

 

 

「「「「「「は?」」」」」」

 

 どういうことかと、ツルギ達は頭に疑問符を浮かべた。

 いち早く落ち着いたサヤが、その理由を訊く。

 

「意識を持って行かれている……とは?」

 

 何となくながらその意味を悟りつつも、訊かずにはいられない。

 カゲトラはカゲトラで、そんなサヤの心意を汲み取るように律儀に答える。

 

「通常、ダイバーは一定以上のダメージを受けると強制ログアウトされるだろう。だが、"何らかの手段"で『強制ログアウト出来ない状態でライフがゼロになる』と言うことが起きてみろ。ダイバーの無意識下では「死んだ」と誤認して、通常なら強制ログアウトで弾き出されるが、それが出来ない……つまり、ダイバーの無意識は「死んだ」と誤認したまま、眠っている状態が継続される」

 

 この説明を聞いて、完全に理解できた者はこの場にいないだろう。

 理解出来ないことを承知の上か、ハルナはカゲトラとマイを指し比べる。

 

「どういうことなの……マイちゃんは生きてるんでしょ?」

 

「そうだな。"今はまだ"、生きている」

 

 カゲトラは「今はまだ」の部分を強調した。

 

「仮死状態ではないからな。昨日からこの状態だとすれば、身体機能を維持出来るのは……良くて、後二日が限界だろうな」

 

 多少の個人差はあるが、人間ーーそれも東洋人は全く飲まず食わずでも三日は生き長らえるとされている。

 このままマイがログアウト出来ないままの状態が続けば、栄養の過不足によって身体機能の保持が出来なくなりーー死ぬと言うことだ。

 

「じゃぁ今すぐ病院に連れていかなきゃダメじゃないのッ!」

 

 一刻も早くマイをどうにしかしたいユイは焦れるように声を張り上げるが、カゲトラは至極冷静ーーいっそ冷酷なまでに告げる。

 

「ならんと言っただろうイチノセ妹。意識そのものはGBNに繋がったままなのだぞ。強制ログアウト出来ない状態で強引にGBNから引き離してみろ……最悪、意識が肉体から切断され、廃人になるぞ」

 

「ッ!?」

 

 マイのヘッドギアを外そうとしていたユイは、カゲトラの警告を聞いて反射的に手を離した。

 下手なことをすればマイが死ぬーーそれを理解出来る程度には、ユイは落ち着いているつもりだった。

 沈黙が流れるのを見計らってから、カゲトラは次の行動に出る。

 これを見ろ、とカゲトラは自分のダイバーギアのアイテムボックスから、一発の銃弾を取り出し、その画面を見せる。

 それは、サヤがローランと共にルクセンブルクの古城に調査した後、別の場所でエルと遭遇した際に撃たれ、掴み取った銃弾だった。

 

「一見、ただの銃弾に見えるが……これは弾の中にコンピュータウイルスが仕込まれている。銃撃でプレイヤーキルを行い、同時にログデータを汚染させる、と言うものだ。イチノセ姉は、これに撃たれてしまったのだろうな」

 

 そうだとすれば、一体何人ものダイバーがあの『サラ』に撃たれ、操られていたのだろうか。

 

「先の演説を聞いていたなら分かると思うが、新型ブレイクデカール……ルビスシステムに汚染されたログデータは、あの『サラ』の意のままに操ることが出来ると。恐らく、イチノセ姉は『サラ』によってプレイヤーキルされ、強制ログアウトするより前にルビスシステムを植え付けられ、今は奴の操り人形になっている……と言ったところか」

 

「そん、な……」

 

 ユイは愕然とするしかなかった。

 

「どうにか、マイさんを助ける方法は無いんですか?」

 

 ミハイルは縋るようにカゲトラに答えを求める。

 

「断定は出来んが……ルビスシステムに汚染された機体は、動力部を完全に破壊すれば、その機能が止まる。ならば、汚染されていない機体による攻撃でライフをゼロにすれば、強制ログアウトさせられるはずだ」

 

「助けたいんなら、その本人を倒すしか方法がねぇってことか」

 

 ヤイコがつまりの要約を確認する。

 既に手遅れの可能性も無きにしもあらずだが、万が一でも救い出せる手段があるのならそれを選ばない手はない。

 

「そういうことだ。……さて、ここからが重要だ」

 

 ここまでは、あくまでもマイの現状把握。

 ここから先は、その解決に向けての行動だ。

 

「俺達の最優先目標は、イチノセ姉の救出。そのためには、あの『サラ』と対峙する必要があるが……今のGBNの運営権は奴にある。まともに押し掛けても、運営権限でIDを削除されて終わりだ。それ以前に、強引に運営権を乗っ取ったことに反感を覚えた者達が、武力を持ってあの『サラ』に歯向かい、逆に返り討ちにされた。」

 

「なら、交渉か?」

 

 戦闘ではなく、『サラ』と言葉を交わしてマイを助け出すのか、とサヤは読み取ったが、それに対してカゲトラは首を横に振る。

 

「交渉は、不可能……と言うか論外だな。交渉したところで、イチノセ姉の代わりを求められるだけだ。それでは問題の先延ばしにしかならん」

 

「ならどうするんだ?武力でも対話でも無理で、他にどんな手があるんだ。まさか、インチキにはインチキで対抗するとか言い出すんじゃないだろうな」

 

 ツルギは、目の前のこの胡散臭い男にどのような考えがあるかは測れないし、測る気にもならない。

 彼のその声を聞いて、カゲトラは待っていたとばかりニヤリと口の端を歪めた。

 

「なぁに、正面突破が無理なら『抜け穴を通る』。ただそれだけのことだ」

 

 と言いたいところだが、とカゲトラは目つきを変えて、この場の全員に問い掛けた。

 

「俺は、「GBNの未来を守れ」と言う准将からの命令に従うまでだが……他の者はどうだ?イチノセ姉を救い出すのは当然として、今のGBNでも構わないのなら、俺の話に乗らずとも良い。俺と同じ、GBNの未来を守るために命タマを張る覚悟のある者だけで良い。……答えは今すぐではない、明日の夕方までに決めてくれ」

 

 

 

 

 それから、重要事項をいくつかカゲトラから聞いて、体育館裏まで戻ってきたところで解散となった。

 

 明日の夕方17:00に、体調、精神状態、ガンプラ、あらゆる点で万全の準備を調えた上で、フォースネストに集合。

 ただし、戦う意志のある者だけで良い。

 

 明日が、午前中で授業の終わる土曜日だったのが幸いだった。

 

 いつもの駅前広場を中心にそれぞれの帰路に付いていく中、ツルギとハルナは二人並んで歩く。

 

「大変なことになったねぇ……」

 

 ハルナは疲れたように嘆息をついた。

 今日は朝から心が休まらない日だった。

 

 マイの行方不明、『サラ』による運営権限乗っ取り宣言、カゲトラから告げられたマイの現状、そして、明日。

 そのカゲトラは地上に戻ってくるなり「俺はこれから准将からのご指示のもと、東京に行かねばならん」と言い残して足早に去っていった。

 もうじき日も暮れ始めると言う時間帯に、何故東京にまで行かなくてはならないのか。

 彼曰く「大事な物を取りに行く」とか言っていたが、ツルギもハルナも半分くらい聞いていなかった。

 

「そうだな……だが、これでスッキリしたな。新型ブレイクデカール……ルビスシステムなんてものが、どうして蔓延していたのか、それがどこから出てきたものなのか」

 

 ずっと引っ掛かっていたものが、するりと通り抜けたような気分だった。

 同時に、今の今まで見えていなかったーー否、見ようとしてこなかった、GBNの"闇"を見せられた。

 運営が、内部データ容量を保持するために、人知れずELダイバーをデリートしていた。

 そのELダイバーの中で『サラ』が、同胞を殺されていくのを黙って見ていられなかった。

 先程にツルギはその行為を「何もかも全部お前のエゴだ」と怒りを露わにしたが、思い直してみれば、あの『サラ』の主張は"人間として"然るべきだったのだろう。

 ツルギやハルナも、自分の家族や友達を殺した者がいれば、その者を許さないだろう。

 それと同じである。

 

「そう言えばハルナ、お前の姫武者頑駄無ってまだ改造中なのか?」

 

 ツルギは話題を変えようと、ハルナのガンプラの話を持ってきた。

 

「うん。って言っても、あとは仕上げを済ませるだけだから、明日には間に合うよ」

 

「つーか、俺のマスラオを手伝ってくれたから、そっちに手が回って無かったんだな。悪い」

 

「いいのいいの。元々、どう改造するかのイメージはあったから、そんなに大変じゃなかったし」

 

 重苦しかった空気が少しだけ薄れたところで、住宅街に入り込み、それぞれの自宅の前で別れる。

 

「じゃ、また明日ね」

 

「おう、またな」

 

 ハルナが自宅に入ったのを見て、ツルギは玄関の鍵を懐から取り出しつつ、思考を回す。

 

「(マイを救い出すのは当然。だが、あの『サラ』のやり口も気に入らねぇ……)」

 

 いくら同胞が殺されていくのを黙って見ていられなかったとは言え、大勢の他人を巻き込むことは無かっただろう。

 彼女の握る運営権も、コンピュータウイルスを蔓延させて強引に奪い取ったものだ。

 そんなあまりにもあまりな力業で勝ち取った"正しい世界"は、果たして本当に"正しい"のか?

 力で奪い勝ち取った世界は、また他の誰かの力によって奪い返されるだけではないのか?

 では、ELダイバー達が殺されるのを良しとすればいいのか?

 何が"正しい"のかすらも不明瞭だ。

 

「(今ここで考えても仕方ない。まずはマイの救出。その後は、それからだ)」

 

 あの『サラ』と対峙するよりも、マイを助け出すことがツルギ達の目的だ。

 そこからどうするかはその時に決めればいい。

 

 それ以上深く考えるのを止めにして、ツルギは玄関に足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 その日の夜、サヤはダイバーギアを通した調べものをしていた。

 とあるフォースの、公開許可範囲での情報だ。

 

 Force name:Build Divers

 

 Reader︰Riku

 

 Sub Reader:Yukki

 

 Members:Momo/Ko-1/Ayame/Nami/

 

 "Sarah"

 

「("サラ"。間違いない、この娘だ……)」

 

 サヤは、五年前の記憶と照らし合わせながら、画面の顔画像に映る少女を凝視する。

 かつて、GBN崩壊の危機を救うと同時に、新たな崩壊の危機を招いた、ELダイバー。

 どういった仕組みなのかは知り得ないが、リアル世界ではガンプラと言うプラスチックの肉体として自我を保っているらしい。

 東京のガンダムベースの名物売り娘だと、今なお彼女の生きた姿を一目見ようとする客足が絶えないのだそうだ。

 

 しかし、この"サラ"とあの『サラ』には、いくつか相違点があった。

 この画像の"サラ"は、純白の髪と肌に、ライトブルーの瞳をしている。

 

 対して、運営権を乗っ取ったあの『サラ』は、髪と肌の色こそ同じだが、若干服装が異なるのと、何より瞳の色が違う。

 

「(設定を変えているのか?いや、そもそもELダイバーは自分の容姿を変更出来るのか?)」

 

 変更可能かどうかは分からない。

 変更出来るのだとしても、この"サラ"とあの『サラ』が同一人物だとはとても思えない。

 自分が排斥の対象にされながらも、仲間達が必ず助け出してくれると信じていた"サラ"と、かつてのブレイクデカール事件よりも悪質な手段を用いてまで運営権を乗っ取った『サラ』。

 仮に同一人物だとしたら、この五年の間で"サラ"に一体何があったのか。

 

 思い当たる例があった。

 

 シャア・アズナブルと言う人物がいる。

 

 彼は、両親を誅殺したザビ家に復讐すべく行動していたが、『自分の母になってくれるかもしれなかった女性』ララァ・スンとの出逢いによって、個人的な復讐よりも『ニュータイプ』と言う、"人の革新"を信じるようになった。

 

 その七年後、シャアはクワトロ・バジーナとしてエゥーゴに参加、その中でかつて敵対し、決定的な溝を作ってしまった相手であるアムロ・レイと轡を並べて戦ったこともあった。

 その時のクワトロは、「希望は確かに宇宙そらにあったのだ」と、人の革新を信じていた。

 

 しかし、ハマーン・カーンが率いるネオ・ジオンによる跳梁跋扈と、腐敗し続ける地球連邦の現状を見兼ねたクワトロは、再びシャア・アズナブルとなって、分裂状態にあったネオ・ジオンを纏め上げ、地球人類を粛清する『アクシズ落とし』を敢行するようになった。

 

 キャスバルからエドワゥに、エドワゥからシャアに、シャアからクワトロに、そしてクワトロから再びシャアに。

 

 そこから何が読み取れるのかというと、"サラ"もまた、運営によって同胞が殺されていくのを見兼ね、運営を粛清すべく『サラ』となって行動を起こしたのかもしれない。

 

「(……いや待て、そうじゃない)」

 

 サヤは自分のその考えに待ったをかけた。

 

 五年前ーーそれも第二次有志連合とフォース・ビルドダイバーズとの戦いを思い出す。

 その時の運営者は、確かに"サラ"を削除すると公言していた。

 しかし、死闘の末に奇跡的に勝利を掴み取ったフォース・ビルドダイバーズを見て、"サラ"を救うための『可能性』を信じるようになったのだ。

 

 だが、それももう五年も前の過去の話だ。

 

「(確か、三年前かその辺りに一度、運営責任者が変わったんだったな)」

 

 サヤは自身の記憶を振り絞って思い出す。

 第二次有志連合の戦いから三年後、長らく運営責任を担当していた、『ガンダイバー』のアバターを使用する『カツラギ氏』に代わり、新たな人物がそれを引き継いだはずだ。

 

 だとすれば、

 

「(五年前の奇跡を知らない人間が、運営になったと言うわけか)」

 

 "サラ"の一件からELダイバーに関する問題は解決済みとして、何も聞かされていなかったのかもしれない。

 そうして、いざ運営していくぞと言うところで、第二第三の"サラ"が現れて、そこで初めてELダイバーの危険性に気付き、そしてそれへの対応が『デリートする』ことだと認識してしまったのだろう。

 

 だからこそ、あの『サラ』に付け入る隙を与えてしまったのかもしれない。

 

 確かにあの『サラ』は、運営権の乗っ取りには成功した。

 だが、

 

「(内部データ容量の問題はどうやって解決するつもりだ……?)」

 

 "サラ"が今存在出来ているのは、自分のメモリーの保存先はGBNの内部データではなく、別のハードである『GPデュエル』のシステムに移し替えているからだ。

 まさか、現存するELダイバー全員を"サラ"と同じようにGPデュエルのシステムに移し替えるとでも言うつもりだろうか。

 それだけの量のガンプラを、誰か作るというのか。

 あの『サラ』の行動には、様々な問題が解決出来ているようには思えない。

 

 ますます分からない。

 

「だとしても、人を弄ぶような存在にGBNの全てを任せるわけにはいかない」

 

 コンピュータウイルスを植え付け、それを通じて己の手を汚さずに不都合を始末させようとする、その"傲慢"さを見過ごすほど、サヤのGBNへの思い入れは浅くない。

 決意を新たにして、サヤはダイバーギアを閉じた。

 

 

 

 

 

 ユイは、自分の勉強机に腰掛けて、その手元にあるガンダムヘビーバスターを見つめる。

 今、向かいの部屋にいるはずのマイはいない。

 そのマイは今なお、学校の地下室で意識を奪われたまま。

 この事すら、カゲトラは他言無用だと言っていた。

 そして、そのマイが使っていたガンプラーーレギンレイズギルティ。

 

「(あの時のミラーミッションにいたの、お姉ちゃんだったのかな……?)」

 

 リヒターとコンビを組んで挑んだミラーミッションの、最終フェイズに現れた紅いレギンレイズジュリアの改造機。

 しかし、あの時現れたのがマイだとすれば、何故自分達を攻撃してきたのか。

 あれだけのガンプラを持っていながら、何故フォース・スピリッツの面々といる時はハンブラビを使っていたのか。

 ハンブラビとレギンレイズギルティ、どっちが本当の自分の姉なのか。

 

 そもそも何故、自分達に隠れてGBNをしていたのか。

 奔放でやる気がなくて、頼り甲斐のない、でも放っておけない姉……それがユイにとってのマイだった。

 だと言うのに、マイは隠し事をしていた。

 それも、命を落とすかもしれないような、危険なことを。

 

「(分かんない……お姉ちゃん、一体何を考えてるの……?私は、お姉ちゃんに何をしてあげたらいいの……?)」

 

 ガンダムヘビーバスターから手を離し、両手でくしゃくしゃと前髪を掻く。

 ふと、ダイバーギアがメールの着信を告げた。

 

 受信ボックスを開いてみると、メールの送信者はリヒターからだった。

 

 Rihiter:今日の夕方頃に流れていたアナウンスを見ていたか?見ていたなら、君はどう思う?

 

 リヒターが指しているのは、あの『サラ』のことだ。

 ユイはテンキーに指を伸ばそうとして、ふと止まる。

 

「(リヒターになら、お姉ちゃんのこと話してもいいかな……)」

 

 時々嫌味っぽくはあるが、悪い奴でもないので、他言無用にしてくれと言えば、口を堅くしてくれるだろう。

 しかし、下手に明かせば混乱を招きかねないのも容易に想像できる。

 ユイの知らないところでマイの身に何かが起きてしまうのは、望ましくない。

 

 話すべきか、話さないか。

 

 数巡の末に、ユイが取った選択は……

 

 

 

 

 

 ミハイルは、自分の部屋である和室に布団を敷いて、後はもう寝るだけという体制を整えてから、ガンダムアスタロトリオートをケースから取り出す。

 カゲトラは、「あの『サラ』と対峙することになるだろう」と言っていた。

 具体的に何と戦えばいいかは分からない。

 だが、万全を期すに越したことはない。

 そのために、ガンダムアスタロトリオートに何を装備させるか。

 両手のマニュピレーターと、サイドスカート、バックパック、最大で六つの装備をマウント可能だ。

 エネルギー武装は機体の問題から使用できないが、重量のある武装も軽々と扱えるのが、GBNにおけるガンダムフレームの特徴だ。

 

 それを踏まえて、さてどうするかと思考に更けようとした時、ダイバーギアに通話の着信を告げた。

 誰だろうかと画面を見れば、非通知の相手からの通話だった。

 

「……」

 

 迷惑電話かもしれない、と無視しようとしたミハイルだが、こんな夜に掛けてくるものだろうか。

 気が付けば、通話に応じていた。

 

「……もしもし?」

 

『っと、まさか本当に出てくれるとは思ってなかった……』

 

 サウンドオンリーの、知らない男性の声。

 

『返事はしてくれなくていい。ただ、君ぐらいにしか話せそうな相手がいなくてね』

 

「?」

 

 この男は何を伝えるつもりなのか、ミハイルは黙って聴くことにした。

 

『五年前、ある一人の少女がどこかで誕生した。生まれたばかりの少女は何も知らなかった。そんな少女は二人の少年と出会い、行動を共にする内に仲間も増えていった。仲間が増えていくにつれて、少女は少しずつ"感情"を覚えるようになった。嬉しいこと、楽しいこと、辛いこと、寂しさ、苦しさ、……世界中から非難されることも、涙を零すことだって覚えた』

 

 誰のことを伝えているのか、ミハイルには分からなかったが、その少女はきっと今、とても幸せなのかもしれない。

 

『しかし、少女にはまだ知らない感情があった。……それは、"負"の感情だった。嫉妬、怒り、憎しみ、猜疑、悪意……。少女はそんな暗く後ろ向きなことを、全く知らないままに自らのアイデンティティを確立させてしまった』

 

 幸せであるが故に、不幸を知らない。

 

『少女が持ち得なかった、持つことをやめてしまった"負"の感情。残されたその感情は、人々のネガティブな思考や気持ちに共感することで増幅、集積したその末に、もう一人の少女は命を持つようになった』

 

 今度は逆だ。

 痛くて、苦しくて、辛くて、重くて、冷たくて、暗くて。

 

『一人の少女は人々の純粋で暖かな想いによって命を与えられ、もう一人の少女は人々の暗く冷たい想いによって命を押し付けられた。憎悪に満ち溢れたもう一人の少女は、その世界に絶望した。絶望の世界に悪意をばら撒いた。悪意は憎悪を呼び、そして憎悪がまた新たな絶望を呼ぶ……』

 

「……」

 

 何だろう。

 この、光と影のような、表裏一体の二人の少女の物語は。

 

『人任せにするようで申し訳ないが、どうか絶望から世界と、もう一人の少女を救ってやってほしい。その道筋に何が立ち塞がっても、決して諦めないでくれ。……以上だ』

 

「待ってください、あなたは誰なんですか?どうしてボクにこんなことを話したんですか?」

 

『すまない、これ以じょ……』

 

 ブヅンッ、と通話が途切れた。

 ミハイルは回線切断の画面を暫し見つめていた。

 

 通話先のダイバーネームには『Kyoya』と表示されていた。

 

 

 

 

 

『……なるほど、そんなことが起きていたとはな』

 

 ダイバーギアの画面越しに、カイドウが神妙な面持ちで頷いた。

 ヤイコはそのカイドウの顔と目を合わせつつも、軽く頭を下げる。

 

「すんません、先生だって忙しいでしょうけど、伝えておくべきかと思いまして」

 

『いや、教えてくれてありがとな。しかし、電子生命体がGBNを乗っ取ったか……』

 

 こりゃぁ完全に予想外だな、とカイドウはポリポリと後頭部を掻いて、目を細めて声のトーンを落とす。

 

『で、お前さんらは一戦殺り合ったのか?』

 

「いや、まだですよ」

 

『まだってことは、その予定はあるってことか?』

 

「……ま、そんなとこっすわ」

 

 ヤイコは声を濁しながら答える。

 カイドウはカゲトラから聞かされたことを知らないはずだが、あの『サラ』が運営を乗っ取ったと聞いただけで、「ヤイコ達は『サラ』と戦うつもりだ」と読んだらしい。

 

『俺が駆け付けるのは難しいだろうが、まぁ、気張って行けや』

 

「っす!」

 

 拳と掌を打ち鳴らし、やる気を見せつけるヤイコ。

 

 通話が切られて、ダイバーギアがトップ画面に戻る。

 

「(何が相手でも関係ねぇ。アタシはあいつらのために力を尽くすだけだ)」

 

 考えることは得意ではない。

 ならば、考えるのは他に任せて、それ以外を一身に背負うまでだ。

 

 

 

 

 

 翌日の放課後、夕方17時前頃。

 最初にハルナとユイ、次にミーシャとヤイコ、その後にツルギとサヤがフォースネストにログインしたところだ。

 

「やっぱり、全員揃ったな」

 

 ツルギはフォースメンバー達を見回して、満足げに頷いた。

 

「当たり前だよ」

 

 ハルナは力強く返した。

 

「私はお姉ちゃんを助けなくちゃいけないんだから」

 

 ユイも同調する。

 

「ボクも、覚悟を決めました」

 

 ミーシャもまた、その瞳に確固たる意志を宿す。

 

「アタシは考えんのは得意じゃねぇが、出来ることはやってやらぁ」

 

 ゴキボキベキッ、と拳骨を擦り鳴らすヤイコ。

 

「何だかんだ言って、考えることは皆同じか」

 

 サヤが最後に締めたところで、一歩遅れて最後にカゲトラがやって来る。

 

「全員集合、か」

 

 マイを除いたフォースメンバーが全員いることを確認してから、カゲトラは早速行動に移る。

 

「では各員、これを機体にインストールしてくれ」

 

 すると、カゲトラは全員にアイテム付きのメッセージを送信した。

 機体に落とし込んで読み込ませるタイプのアイテムらしい。

 

「それは『ビルドデカール』と言ってな。まぁ名前から分かると思うが、昔のブレイクデカールの応用品だ。これを使い、GBNの運営権をスルー出来るようにする」

 

 カゲトラが言うには、GBNに干渉出来るこのツールを使って運営権からの強制ログアウトなどを無効化させると言うものだ。

 

「……随分なチートツールじゃねぇか。どっからこんなもん持ってきたんだ?」

 

 ヤイコは訝しげにビルドデカールとカゲトラを見比べる。

 

「准将のお知り合いに、ビルドデカールの製作者がいてな。まぁそんなことはいい。各自、ビルドデカールをインストール後、出撃を開始してくれ」

 

 

 

 

 

 カタパルトデッキには、ビルドデカールを読み込ませたツルギのマスラオヘブンズクラウド、ユイのガンダムヘビーバスター、ミーシャのガンダムアスタロトリオート、サヤのガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲル、ヤイコの蛇威雄音、カゲトラのザクⅠ、そして、ハルナの新たな姫武者頑駄無が立ち並ぶ。

 

「これが、ハルナの新しいガンプラか」

 

 ツルギはハルナの隣に立って、彼女のガンプラを見上げる。

 

 まず目を引くのは、バックパックから伸びる桜色のバインダー。今は折り畳んでいるが、展開すれば六枚の羽根になるようだ。

 肩部装甲を軽装にしているのは変わらないが、以前と比べると四肢がやや細長くなったように見える。

 背負っている長物も火糸薙刀から変わり、三叉の槍のような武器になっている。

 右手に握られているのも雷振火音ではなく、9つの砲身を扇状に連結したような弩のような銃火器。

 雷振火音は背部にマウントしている。

 全体的に、以前の姫武者頑駄無と比べると、華やかさを増したようだ。

 

「うん。これがわたしの新しい姫武者ーー『桜花姫頑駄無』だよ」

 

 ハルナは自信ありげに新たな愛機、桜花姫頑駄無をツルギと共に見上げる。

 

「ご両人よ。仲睦まじいのは結構だが、出撃準備を頼む」

 

 ふと、カゲトラのザクⅠのモノアイが、ツルギとハルナの二人を見下ろしてくる。

 カゲトラに急かされて、二人は早足でキャットウォークを渡って、それぞれのガンプラに乗り込んでいく。

 

 ハッチ開放、カタパルト展開、出撃準備完了。

 

「ユイ、ガンダムヘビーバスター、出るわ!」

 

「ミーシャ、ガンダムアスタロトリオート、行きます!」

 

「サヤ、ガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲル、出撃します!」

 

「ヤイコ、蛇威雄音、喧嘩上等!」

 

「カゲトラ、ザクⅠで出るとしよう」

 

「ハルナ、桜花姫頑駄無、行きまーす!」

 

「ツルギ、マスラオヘブンズクラウド、フォース・スピリッツ、参るッ!!」

 

 フォース・スピリッツのガンプラ達が、一斉に湯煙を切り裂きながら、蒼空へと飛び立つ。

 

「全機、通信状態は良好だな?」

 

 間もなく、カゲトラからの通信が全員に届く。

 

「これより、ベース基地へ向かうためのサーバーゲートに突入するが、少々"裏道"を通る。遅れるなよ」

 

「裏道?そんなものがあるのか?」

 

 ツルギは思わず訊き返すが、カゲトラは「無いと言えば無いが、あると言えばある」と答えた。

 問答をする間もなく、七機はサーバーゲートに進入する。

 

 

 

 数字の壁で構成された、蒼く見える世界。

 このまま真っ直ぐ突き進めば、馴染み深いベース基地周辺の街並み上空に到達するのだが、今回はその道は通らない。

 ある程度の距離を進んだところで、不意にカゲトラのザクⅠが止まった。

 

「確かこの辺りだな」

 

 モノアイを左右させると、ザクⅠは右に曲がって再び加速する。

 

「おいカゲトラ、んなところで曲がっても、世界の壁にぶつかっちまうぞ?」

 

 ヤイコはカゲトラを制止しようと声を掛けるが、構わずにザクⅠは直進しーー

 

 ーーそのまま壁の中へ消えた。

 

「えぇっ!?何っ、今の何が起きたの!?」

 

 ハルナは驚きながら、ザクⅠの消えた世界の壁を凝視する。

 

「……なるほど、裏道とはそういうことか。みんな、あの中に入るぞ」

 

 いち早く理解を示したサヤは、急いでカゲトラの後を追うように諭す。

 通常、サーバーゲート内で道を外れると、不可侵領域ーー世界の壁にぶつかり、跳ね返される。

 しかし、カゲトラが見せたように、その世界の壁も完璧ではなく、少なからず"抜け穴"があるようだ。

 それを実践するように、サヤのガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルも壁の中へ消える。

 戸惑いながらも、残りの者も世界の壁の中へ入り込む。

 

 

 

 サーバーゲートの世界の壁の向こう側。

 そこは、光らしい光の見えない、暗闇の世界だった。

 光は見えないのに、ガンプラの姿だけはハッキリ見える、異質な空間。

 

「ちょっとカゲトラ……こんなところ通って、本当に大丈夫なの?」

 

 ユイはカゲトラに文句を言うように問いかけるが、そのカゲトラのザクⅠは振り向きもせずに応じる。

 

「チートや異常(グリッチ)ではなく、裏技だからな。システム的な問題はない」

 

「非公開の"テストコード"のことか?」

 

 サヤは、開発時にプログラマーやテストプレイヤーが利用するコードのことを指した。

 ゲームプログラムの中に、一般プレイヤーでは知り得ないコードが紛れ込んでいるケースのことである。

 

「そうだ。昨日にシバ氏……『"ビルドデカール"の製作者に直接聞いた』からな。あの『サラ』が、メインシステムにまで干渉していないと公表してくれたおかげで、簡単に抜け穴を見つけることが出来た」

 

 そのシバと言うらしいビルドデカールの製作者にどうやって接触したのかは、首を突っ込まない方がいいかもしれない。

 

 

 

 もうしばらくだけ暗闇の裏道を通過していると、不意に暗闇から放り出された。

 

 目に見えるのは、目の痛くなるような、真っ赤な世界。

 目下には、朱い太陽らしき球体が、絶えず煮え滾っている。

 その太陽の中心部に、GBNのベース基地のような建造物が見える。

 

「どこだ、ここは?」

 

 ツルギのマスラオヘブンズクラウドがキョロキョロと首を左右させる。

 

「『ポイントゼロ』。GBNで、一番最初に作られたエリアだ。GBNと言う"世界"を創る上で、万物の象徴である太陽に対する畏敬の念を込めた……らしいな」

 

 そう答えたのはカゲトラだった。

 

「ここから直接、『サラ』のいるだろう運営本部に突入する」

 

「するのはいいけど、どうやって突入するの?」

 

 ハルナがそこまで言い掛けたところで、不意にアラートが鳴り響く。

 

 ポイントゼロの基地から、侵食されたNPDリーオーやGBNガードフレームが出撃してくる。

 その数は見る内に増え始め、既に1000機を超えているだろう。

 

「敵?」

 

 ミーシャのガンダムアスタロトリオートが銃火器を油断なく構える。

 

「えぇぃ、敵の動きが予想よりも早いか……仕方あるまい、強行突破するぞ!」

 

 そう言うや否や、カゲトラのザクⅠはスロットルを上げて敵のど真ん中へ突撃する。

 

「ちょっとカゲトラ!お姉ちゃんはどうするのよ!?」

 

 ユイはカゲトラに文句を言おうとするが、サヤにそれを遮られる。

 

「まずは目の前の敵に集中!倒すだけ倒したら、後は各々の判断で行動しろ!」

 

 良く言えば臨機応変に対応しろということだ。

 

「とりあえずこいつらをぶっ飛ばしゃいいんだろ!」

 

 カゲトラのザクⅠに続くように、ヤイコの蛇威雄音も突撃する。

 

「全部相手にしてたらキリがねぇ……可能な限り無視して、とりあえず内部への突入が優先だ!」

 

 ツルギのマスラオヘブンズクラウドが両手に『イザナギ』『イザナミ』を抜刀し、ポイントゼロの基地へ突き進むべく加速するのを見て、ハルナの桜花姫頑駄無、ユイのガンダムヘビーバスター、ミーシャのガンダムアスタロトリオート、サヤのガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルも続く。

 

 

 

 

 

 NPDリーオーやGBNガードフレームが、一斉にマシンガンやビームガンをぶっ放して来る。

 四方八方から銃弾やビームのスコールが降り注ぐ中を、フォース・スピリッツのガンプラ達が、基地内部目掛けて突き進む。

 それら敵機も、ただ散開しては攻撃を仕掛けているだけではない。

 小隊単位でフォーメーションを組みながら、少しずつ、しかし確実にツルギ達を分断し、各個撃破せんと迫りくる。

 

「クソッ、これじゃ前に進めねぇっ」

 

 GNマシンキャノンを撃ちまくりながら、ツルギはハルナの桜花姫頑駄無と背中合わせに立ち回る。

 

「……し、後ろにも下がれねぇか?」

 

「これっ、絶対わたし達追い詰められてるよね!?」

 

 桜花姫頑駄無は、9つの砲身を持つ弩ーー『孔雀』を展開、複数の砲身から砲弾を一斉掃射、多数の敵機を同時に撃ち抜いていく。

 

 ユイ、ミーシャ、サヤも敵機の陣形を前に攻めあぐねている。

 そんな中で、ヤイコがふと気付く。

 

「(このお上品な戦い方は……)」

 

 手近にいたGBNガードフレームを殴り潰して、ついでに他の機体に蹴り飛ばして、基地周辺に向けて目を凝らせばーー銀色の機体が見えた。

 

 それは、トールギスコンダクターだ。

 このやけに統率の取れた敵機の動きにも、納得がついた。

 

「……やっぱりテメェかっ、フルメタルなんたらァ!!」

 

 ヤイコはトールギスコンダクターのいる方向へ向かおうとするが、その途中にNPDリーオーがマシンガンやビームカノンで弾幕を張っては行く手を阻もうとする。

 しかし蛇威雄音はそれら射撃を全く無視しながら突っ込み、トールギスコンダクターへ肉迫する。

 

 

 

 

 

 ヤイコがトールギスコンダクターに攻撃を仕掛けると同時に、ツルギ達を追い詰めていた敵機の動きが鈍くなった。

 やはり司令塔を揺さぶられれば、それを無視出来ないようだ。

 一瞬だけ動きを止めたGBNガードフレームに、マスラオヘブンズクラウドは『イザナギ』を一閃、一太刀の元に斬り捨てた。

 

「ヤイコのおかげで敵の動きがトロくなった……今の内だ!」

 

「うんっ!」

 

 マスラオヘブンズクラウドはサイドバインダーを翻して一気に加速、その一歩後ろに桜花姫頑駄無が追従する。

 なおも進路を塞ごうとしてくるNPDリーオーの中隊。

 それらに向けて、桜花姫頑駄無は背中の六枚のバインダーを射出した。

 

「行っけぇっ、羽根浮安音流(フェザーファンネル)!」

 

 放たれたバインダーは、自我を持ったように飛翔し、立ち塞がるNPDリーオーの中隊に飛び掛かると、それらを次々に斬り刻んでいく。

 桜花姫頑駄無のこのバインダーは単なる加速や姿勢制御のためのモノだけではなく、これ自体が鋭いブレードとなっている。

 さらにこれをサイコミュ制御することによって、広い空間を自在に攻撃するフェザーファンネルとなる。

 中隊を纏めて撃破されたそこに、基地までへの一本道が開く。

 マスラオヘブンズクラウドと桜花姫頑駄無は、そこへ突っ込んでいく。

 

「ヤイコの援護にも行きたいが……だが、今は!」

 

 サヤのガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルは、フライヤーフォームに変形、ツルギとハルナの二人とは別方向から突入する。

 

「ユイさん、行きましょう!」

 

「分かってるっ。お姉ちゃん……今行くからね!」

 

 ユイのガンダムヘビーバスターと、ミーシャのガンダムアスタロトリオートも、基地内部へと突入していく。

 

 

 

 

 

 基地内部への進入に成功したサヤは、ガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルをMS形態に戻して、広くもない通路を進む。

 時折襲いかかって来る敵機をハイパードッズライフルで排除しながら、レーダーを見やる。

 

「ツルギとハルナ、ユイとミーシャも進入出来たか。ヤイコ一人であの数の相手をするのは無理かもしれないが……」

 

 申し訳ないが、ヤイコは捨て石にするしかなさそうだ。

 捨て石にするといっても、それは最大限に、なおかつ最速に活かす。

 可能なら、ヤイコが撃墜される前に事を片付ける。

 

 レーダーから目を離した瞬間、前方から高熱源体が迫ってきた。

 

「なにっ!?」

 

 サヤは咄嗟にアームレイカーを捻って回避運動を取り、0.5秒前までガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルがいた空間を、濁った金色の光柱ーーそれを三筋束ねたような凄まじい破壊光線が通り抜けた。

 

「危なかった……」

 

 自分の反射神経に感謝しつつ、高エネルギー体が放たれてきただろう方向を見やる。

 

 硝煙の向こう側。

 

 それは一機の"ガンダム"だが、胴体の形状はまるで頬の肉を削ぎ取られたような"顔"をしている。

 異様に長い両腕には金色の鉤爪が生え、背中には六枚の鋭角なバインダー。

 

「『ガンダムヴァサーゴ・チェストブレイク』か」

 

『X』のライバルガンダムタイプである『ガンダムヴァサーゴ』の強化改修機の名を呟くサヤ。

 先程の高エネルギー体は、その胴体の三門の砲口から放たれた『トリプルメガソニック砲』だろう。

 それを撃ち終えただろうガンダムヴァサーゴ・チェストブレイクは、観音開きの胴体装甲を閉じて、延伸腕ーーストライククローを引き戻した。

 

『その機体……サヤ君、君が相手とはな』

 

 ガンダムヴァサーゴ・チェストブレイクのダイバーからの全周波通信が届くが、サヤはその声に聞き覚えがあった。

 

「その声、まさか……」

 

 何故、と思わざるを得ない。

 

『戦場で躊躇をするなど……討ってくれとでも言うつもりか!』

 

 ガンダムヴァサーゴ・チェストブレイクは、右手にビームサーベルを抜き放ち、ガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルへと突進してきた。

 

「何故あなたが……ローランさん!?」

 

 

 

 

 

 ユイとミーシャの二人も基地内部への進入に成功し、着実に中枢へと進撃しつつあった。

 しかし、その無敵の行軍も長くは続かなかった。

 

 曲がり角を越えたその先にはMS用のエレベーターが見える。

 侵入者の迎撃なのか、そのエレベーターのドアが開いてーーこの無機質な四角い空間には似つかわしくない、派手なオレンジ色が現れた。

 

「っ、あのオレンジ色のケンプファーは……」

 

 間近で見たことのあるミーシャが、警戒に声を固くする。

 

『その蒼のアスタロト……ロシアの坊主だな?』

 

 オレンジ色のケンプファーーーファストゥスが、手にしていたスピニングブラスターの砲口を向けて立ち塞がった。

 

「待ってくださいレンジさん、何であなたがここに……」

 

『理由なんざどうでもいい。この先に行きてぇなら、好きにしろ。……通してやるつもりはねぇが、な』

 

 どうやら、今ここでその理由を話してはくれなさそうだ。

 ミーシャは短い思案の後に、ガンダムヘビーバスターと接触通信を行う。

 

「ボクがあの人を抑えます。ユイさんは先に行ってください」

 

「……大丈夫?」

 

 ユイとしては、こんなところで足を止めている暇は無いのだが、相手は頭に"元"が付くとは言え、チャンピオンの座を三年連続で守り続けたトップランカーだ、ミーシャ一人で戦ったところでどれほどの足止めが出来るのか。

 それを込めた上でユイは、大丈夫なのかと返したが、ミーシャの意志は確固たるものだ。

 こう言った時、ミーシャは梃子でも動かないし、たとえ相手が元三年連続チャンピオンでも、簡単に動かされはしないだろう。

 

「大丈夫です。ボクも後から追い掛けますから」

 

『なぁにをゴチャゴチャと……お喋りしてやがるッ!』

 

 瞬間、何か爆発したかのような轟音と共に、ファストゥスが急激に距離を詰めてきた。

 咄嗟にミーシャのガンダムアスタロトリオートが前に出て、ファストゥスのショルダータックルを受け止める。

 

「ぐっ……ユイさん早くッ」

 

「分かった……ミーシャも、やられないでよ!」

 

 ガンダムアスタロトリオートがファストゥスと取っ組み合っているその脇を通り抜け、ガンダムヘビーバスターはエレベーターに乗り込んで行った。

 

 

 

 

 

 エレベーターの行き先は、運営本部に最も近い階だ。

 ドアが開くと同時に、ユイはガンダムヘビーバスターを加速させて、先を急ぐ。

 中枢へ近付くに連れて、ルビスシステムによって建造物自体が汚染されているのか、所々に銀色の金属物体が見えている。

 

「中枢はこの先……ツルギとハルナ、サヤ先輩もここまで来れてればいいけど」

 

 回廊には、NPDリーオーやGBNガードフレームはおろか、自走砲やガーダーの一機も見当たらない。

 何か不自然だ、とユイの中で猜疑心が芽生えかけた時、

 

 ガンダムヘビーバスターの真上からアラートが鳴り響く。

 

「上ッ」

 

 ユイは瞬時にアームレイカーを引き下げてガンダムヘビーバスターを飛び下がらせた。

 一拍の後に、鋭利なブレードが床を抉った。

 

「やっぱり、来ると思ってた……」

 

 目の前にいるのは、アルケーガンダムに似た、レギンレイズフレームの機体ーーレギンレイズギルティ。

 床から脚部ブレード『ブレードキック』を引き抜いて、レギンレイズギルティはバスターソードを構え直した。

 

「倒せばいいんだよね……お姉ちゃんッ」

 

 ユイは悲痛な覚悟と共に、ダブルガトリングガンの砲口を向けた。

 

 

 

 

 

 サヤ、ユイとミーシャの二手とは違う方向から基地内部に進入したツルギとハルナ。

 前と後ろから襲い来るNPD機を排除しながら、進撃を続ける二人だが、敵の迎撃が激しくなるにつれて、その足が遅くなりつつあった。

 

 しかし不意に、何者かの銃撃が二人を援護する。

 

「クサナギ、ヒメカワ嬢、こっちだ」

 

 カゲトラのザクⅠが、ザクマシンガンを撃ちながら二人を誘導している。

 それを見て、ツルギとハルナはその方向に機体を向かわせる。

 

「すまんカゲトラ、助かった」

 

「フッ、気にするな。それよりも、急ぐぞ」

 

 カゲトラのザクⅠはハンドグレネードを転がし、追手を爆破した上で、自分達のいるハッチを崩落させて道を塞いだ。

 後背の憂いを塞き止めてから、三機は先へ進む。

 

「カゲトラくん、道分かるの?」

 

 ハルナは前方に目を凝らしながら、カゲトラに道程は分かるのかと問い掛ける。

 

「お前達が外で暴れてくれている内に、基地内の見取り図を取っておいた。道に迷うことはない」

 

 さすがはカゲトラ、仕事が早い。

 

 やや狭まった通路を進む三機だが、やがて施設的な外観はほとんど見えなくなり、侵食汚染された銀色が視界を埋め尽くし始める。

 

「こいつはひどいな……」

 

 目に見える光景を見て、ツルギは目を細めて呟く。

 

「正しい世界を作ろうとするのに、ここまでするの?」

 

 ハルナも嫌悪感を顕にした。

 

「これこそが正しいのだろう。……奴にとってはな」

 

 ふと、二人の呟きに対してカゲトラが答えた。

 

「俺達が間違っていると叫んでも、あの『サラ』はこれが正しいのだと叫び返すだけだ。主義主張や発言、表現は自由でも、それの実現には"力"があってこそだ」

 

「……『SEED』でも、そんな風にオーブがブルーコスモスに侵攻を許したんだよね」

 

 ハルナが、ガンダム作品を用いて例えた。

 

「そうだな。積極的自衛権の行使、強すぎる力がまた争いを呼ぶ、争いが無くならぬから力が必要。まるでファンデルワールスの状態方程式やコールブルックの式……言うなれば、卵が先か鶏が先かの話になるな」

 

「どうでもいいだろ、そんなこと」

 

 不意にツルギがカゲトラの言葉を遮った。

 

「俺は、あの『サラ』のやり口が気に入らないだけだ。だから今こうして先を急いでるってのに、ここまで来て科学の勉強か?」

 

 そのツルギの「気に入らない」が、全てを表していた。

 結局のところ、あの『サラ』が運営を乗っ取ったのも、ツルギ達がそれを良しとしないのも、全部現状が

 

「気に入らない」からだ。

 

 事実、有史以来人類はそうやって自分達を二色に塗り分けて争いを続けてきた。

 今回のそれは、その延長線上に過ぎないのだと、ツルギは言う。

 

「フッ……その通りと言えば、その通りだな」

 

 自分が言いたいことは全てツルギが代弁してくれた。ツルギ自身はカゲトラの代弁などするつもりは微塵もなかったが。

 

 

 

 

 

 それからどれほどの距離を進んできたか。

 

「ぬっ」

 

 それを目の前にして、ツルギが声を殺した。

 侵食汚染物質によって覆われたそれが、口を開けて待っているかのような空間。

 恐らく、この先にあの『サラ』がいるのだろう。

 

「きっと、この先だね……」

 

 ハルナの声も、緊張で固いものになる。

 

「さて、ラスボスとのご対面……と、言いたいところだ、がっ」

 

 カゲトラのザクⅠは不意に背後に振り返ってザクバズーカを発射した。

 放たれた弾頭は、いつの間にいたらしいNPDリーオーを吹き飛ばした。

 その後ろから、さらなるNPDリーオーやGBNガードフレームの群れが迫ってくる。

 

「クサナギッ、ヒメカワ嬢ッ、先へ急げ!」

 

「カゲトラくんっ!?」

 

「ラスボスとの戦いにザコキャラは要らんだろう。なぁに、お前達二人なら問題はあるまい」

 

 つまり、ここは俺が抑えておくから先に行け、と言いたいらしい。

 

「お前、そんなキャラじゃ無いだろうが……まぁいい、行くぞハルナ!」

 

「……うんっ」

 

 ツルギが先に、ハルナがほんの少しだけ躊躇してからその後に続いた。

 それを後ろ目で見送ってから、カゲトラは愉快そうに口の端を曲げた。

 

「悪を挫くのは正義のヒーローだと、決まっているだろう?」

 

 

 

 

 

 ヤイコはトールギスコンダクターと。

 

 サヤはガンダムヴァサーゴ・チェストブレイクと。

 

 ミーシャはファストゥスと。

 

 ユイはレギンレイズギルティと。

 

 それぞれの戦いの火蓋が切り落とされたその最中、ツルギとハルナは、全ての元凶の元へ突き進むーーーーー。

 

 

 

 

 

 

【次回予告】

 

『サラ』「やぁ、よく来たね」

 

 ツルギ「歓迎される謂れは無いんだがな」

 

 ハルナ「いくらELダイバー達のためだからって、こんなことはしちゃいけないことのはずだよ!」

 

『サラ』「僕の言うことやることは間違っているのかな?そうだとしても、君達もダイバーならこのGBNでの意見の通し方を知っているはずだ」

 

 ツルギ「元よりそのつもりだ……ッ!」

 

『サラ』「そうかい!なら君達の正しさとやらで、僕の正しさを否定してみせろ!!」

 

 ツルギ「次回、ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツ

 

『天帝は自由と正義を謳う』

 

 正しさが正義とは限らねぇ!」

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