ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツ   作:さくらおにぎり

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23話 勇気と希望を握り締めて

 カゲトラのザクⅠの振り下ろすヒートホークが、侵食されたGBNガードフレームを斬り裂いた。

 マシンガンやバズーカはとっくの昔に弾切れ、残っている武器と言えば、そろそろ斬り辛くなってきたヒートホークと、左肩のショルダーアーマーくらいのものだ。

 辛うじて五体満足でいられているが、装甲のあちこちは剥がれ落ちて穴を穿たれ、関節の隙間から火花が散っている。

 

「ふむ……さすがに限界だな」

 

 カゲトラは冷静に機体の状態を確かめ、そして残る敵機の数を見据える。

 50機近くは撃墜したが、まだ一個中隊ほどの数が残っている。

 今のこのザクⅠで残り12機のNPD機を倒せるかと言えば、"無理"と即断出来るほどには、機体のコンディションはすごぶる劣悪だ。

 

「……まぁいい、そろそろ頃合いだしな」

 

 NPDリーオーやGBNガードフレームが、マシンガンやビームガンを向けて撃ってくるが、その直前にカゲトラはコクピットハッチを蹴り開けて、ザクⅠから脱出した。

 

 瞬間、誰もいないコクピットを撃ち抜かれ、ザクⅠは爆散していった。

 

 ザクⅠ、撃墜。

 

 同時に、爆散したザクⅠは、爆発の煙のそれではない、白灰色のスモークを噴き出した。

 撃墜判定に合わせて、その直後に起爆する時限信管に、スモーク弾を仕込ませていたのだ。

 

「すまない」

 

 ここまでよく戦ってくれた乗機に短く詫びを入れ、カゲトラは床に着地し、スモークに紛れ込むようにその場から全力で駆け出した。 

 

 NPD機達は、視界を遮られるスモークの中で、油断なく銃火器を構えてアイカメラを左右させていた。

 先程まで戦っていた敵機は撃墜したが、中のダイバーには逃げられてしまった。

 機体ごとダイバーを排除する……それが『サラ』から命じられたプログラムだった。

 スモークが薄れ始めた頃、不意にどこからか新たな反応が現れた。

 その反応に目を向けようとしてーー

 

 NPDリーオーは弾丸のようにぶっ飛ばされた。

 隔壁に激突し、バラバラに砕け散るNPDリーオー。

 

 何が起きたのかとNPD機達は反応が遅れ、その瞬間には次々に機体が吹き飛んでいく。

 

 

 

 "聖"なる"拳"と"槍"

 

 "疾風"の如き"突き"

 

 "蒼天"を駆け抜ける"紅蓮"

 

 "旋風"による"竜巻"

 

 "流星"の如き"螺旋"

 

 "弾丸"が"破"るは"岩"

 

 "閃光"の如き"魔術"

 

 "波動"に込められし"烈帛"

 

 

 

 NPD機達の残骸の中に堂々と立つのはーーーーー

 

 

 

 

 

 三筋の破壊光線(トリプルメガソニック砲)と、一対の光の大剣(ビームソード)による鍔迫り合い。

 

 その軍配はーーーーーどちらにも上がらなかった。

 

 どちらかがどちらかを突き破るよりも前に、両者のエネルギーが底を付き、互いに相殺されたのだ。

 酷使のあまり、ガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルのフリューゲルカノンが小爆発を起こして接続部から壊れた。

 ガンダムヴァサーゴ・チェストブレイクのトリプルメガソニック砲の砲口も、連続での使用に放熱が追いつかず、黒煙を噴き上げている。

 どちらも、機体のエネルギーが切れて動けなかった。

 

「……」

 

『…………』

 

「『………………」』

 

 何十秒にも渡る睨み合い。

 

 その末に先に動けるようになったのは、ガンダムヴァサーゴ・チェストブレイクだった。

 ギギギギギ、と火花を上げながらも機体を駆動させ、一歩踏み出す。

 ガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルは、まだ動けない。

 

「もう、これまでか……」

 

 サヤは、アームレイカーから手を離した。

 

「俺の負けです。……あなたに討たれるなら、悔いはない」

 

 諦めるつもりはなかった。

 しかしここで負けを認めることに後悔はない。

 

『……』

 

 ぎこちなくながら、ガンダムヴァサーゴ・チェストブレイクは右のクロービーム砲を、ガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルに向ける。

 その砲口の奥に広がる闇が、サヤを呑み込まんと口を空けている。

 もう一発でも喰らえば、ガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルはバラバラに吹き飛ぶだろう。

 

 サヤは静かに目を閉じて、厳粛にローランの一撃を受けると決める。

 瞼の裏の暗闇が視界を覆い尽くした時、

 

 バギャァッ、と何かが砕かれたような音が聞こえた。

 

「……?」

 

 ビームどころか、攻撃を受けたことに対するアラートも鳴らない。

 思わず目を開けて、

 

「……………………嘘だろ?」

 

 サヤはさらに目を見開いた。

 

 彼が見ているのが幻覚か何かで無ければ、間違うはずもない。

 

 

 

 クロービーム砲を放つはずだったガンダムヴァサーゴ・チェストブレイクが、自分の胴体に向けてストライククローを貫かせているではないか?

 

 

 

『……サヤ君が気にすることはない』

 

 ノイズ混じりの、ローランからの通信が届く。

 

『機体の損傷が甚大で、操縦が誤作動を起こした。ただ、それだけだ』

 

 そんなことはなかった。

 本物のMSならまだ有り得なくはなかった。

 しかし、GBNはあくまでもゲームであり、どれだけガンプラが損傷しようとも操縦に誤作動が起こることなど、一切ない。

 

 つまるところローランは、『それらしい適当な理由を作ってから』わざとやられたのだ。

 あの『サラ』に余計なことをさせないように。

 

『……ポイントゼロの最下層の奥には、月のサーバーへの直通ルートがある』

 

「……?」

 

『もし、新型ブレイクデカールの侵食汚染がそこまで広がっていたとするなら、"非常に良くないこと"が起きるかもしれな……』

 

 それだけを言い残して、ガンダムヴァサーゴ・チェストブレイクは、トリプルメガソニック砲のジェネレーターが暴発し近くにいたガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルを吹き飛ばしながら、砕け散っていった。

 

 ガンダムヴァサーゴ・チェストブレイク、撃墜。

 

 倒れた機体の中でサヤは、先程のローランの言葉を反芻する。

 

「……つまり、『月のサーバーに何か起きる』のか……?」

 

 こうしてはいられない、とサヤはガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルを起動させようとするが、ガンダムヴァサーゴ・チェストブレイクの爆風に巻き込まれたせいで、機体が動かなくなってしまっている。

 

「くそっ、こんなところで……」

 

 

 

 

 

 ガンダムヴァサーゴ・チェストブレイクのジェネレーターの暴発は凄まじく、全く反対方向にいるはずの、ミーシャとレンジのいるエリアにまで響き届いた。

 追い詰められているミーシャはそれに気付けなかったが、元三年連続チャンピオンであるレンジは、未だ健在である感覚を持って鋭敏に感じ取っていた。

 

『ん、何が起きた……?』

 

 何かが大爆発を起こした。

 そのことに一瞬でも意識を向けたこと。

 それが、レンジの圧勝と言うシナリオが逆に引っくり返った。

 

「ッ!」

 

 ミーシャは左のアームレイカーを押し上げて、ガンダムアスタロトリオートはライフルを左手から離し、代わりにファストゥスの右腕を掴み、力任せに引き込んだ。

 

『っ、てめぇまだっ……!』

 

 ガンダムアスタロトリオートに掴まれてようやく我に返ったレンジだが、既にその視界にはパイルハンマーの尖端部ーーパイルバンカーのスパイクが目を光らせていた。

 ファストゥスはバイタルバートへの直撃を避けるべく、左肩をパイルハンマーにぶつけるように身を捩る。

 結果、パイルバンカーのスパイクはファストゥスの腕ごと左肩を吹き飛ばしたが、コクピットへの直撃を外した。

 

『クソッタレがっ!』

 

 しかし、ファストゥスの右腕は依然としてガンダムアスタロトリオートがガッチリと掴んだままであり、距離を取ることが出来ない。

 ファストゥスはガンダムアスタロトリオートに掴まれたまま強引に推力を噴射させ、その勢いでもう一度ガンダムアスタロトリオートを隔壁に叩きつける。

 

 一度ならず、何度でも何度でも。

 

『オラ!オラ!オラ!オラァッ!!』

 

 背部のウェポンラックはへしゃげ、大腿部の装甲にあるスラスターも潰れ、ファストゥスに激突される都度にフレームが歪み、亀裂が走る。

 

 そこまで傷つけられようとも、左手はファストゥスから離さない。

 

『……何だってんだ』

 

 レンジは、まるで溶接されてしまったかのように離れないガンダムアスタロトリオートの左手を、何か恐ろしいモノでも見るように凝視する。

 

『何で、離れねぇんだ』

 

「……ボクには、レンジさんの言う、"大事な女"がどれだけ大事なのかは、分からない……」

 

 ガンダムアスタロトリオートのコクピットの中は歪みへしゃげ、各部がスパークし、『HAZARD』まみれの警告表示で真っ赤になっている。

 ミーシャは震える手でアームレイカーを握り締めて、ほとんど使い物にならないモニターを見据える。

 

「レンジさんが「GBNなんかどうでもいい」って言うくらい、大事なんだと思う……」

 

 でも、と右手はパイルハンマーを握り締める。

 

「ボクはGBNを通じて、みんなと知り合って、一緒に戦って、フォースを作って、楽しいことも、辛いこともたくさんあって……でもそれは、GBNって言う『もうひとつの世界』があってこそなんだ……」

 

『何を……』

 

「レンジさんがそう言うなら、ボクだって……「GBNはボク達の大事な場所だ、奪わないでくれ」って言い続けてやる!」

 

『そぉかよ!』

 

 ファストゥスがガンダムアスタロトリオートのバイタルバートを踏み潰そうと右足を振り上げるが、それはパイルハンマーによって押し止められる。

 

『これ以上、ガキの我儘に付き合ってられるか!』

 

 そのままパイルハンマーを蹴り飛ばし、その足で一歩踏み込んで、左足の膝蹴りがガンダムアスタロトリオートの胴体に叩き込まれる。

 胸部のインテークがへしゃげ、その内側にあるコクピットが圧迫される。

 

「ぐっ……うおぉぁぁぁぁぁッ!!」

 

 へしゃげた凸部に身体を潰されかけながらも、ミーシャはアームレイカーを押し込む。

 その瞬間、ガンダムアスタロトリオートは残されたスラスターをフルスロットルで開き、逆にファストゥスを押し返し、隔壁に叩き付け返す。

 

『ぐっ、この野郎ッ』

 

「もう武器が無いっ、直接殴るしか……」

 

 ファストゥスを押さえつけながら、ガンダムアスタロトリオートは拳を振り上げようとしてーー、すぐ足元に手を伸ばした。

 

 それは、先程レンジが捨てたスピニングブラスターのひとつだった。

 ミーシャは迷わずそれを拾い上げた。

 

「(まだ弾がある!)」

 

 ガンダムアスタロトリオートのスピニングブラスターのガトリングガンの銃口が、ファストゥスの胴体部に突き込まれる。

 

『だとしてもここは通せねぇ!例えそれが、てめぇらの大事な場所を奪うことになってもな!』

 

 なおも抵抗しようと足を振り上げるファストゥスだが、

 

「だったらボクはっ、あなたを押し通して進む!!」

 

 スピニングブラスターのトリガーが引き絞られ、ファストゥスへとガトリングガンのゼロ距離射撃を何発も叩きまれる。

 ファストゥスは元々、極限まで装甲を薄く減らしているケンプファーがベースの機体だ。

 直接打撃に近いゼロ距離射撃を何発も受けたとなれば、

 

 ファストゥスの胴体には、ガトリングガンの銃弾によって荒々しく撃ち抜かれた痕が刻まれていた。

 

『……やるじゃねぇか、ロシアの坊主』

 

 ノイズまみれの接触通信で、レンジの声が届く。

 

「ごめんなさい、レンジさん……ボクだって、こんな形であなたと戦いたくはなかった」

 

 ガンダムアスタロトリオートは、左手をファストゥスから離し、スピニングブラスターを下ろした。

 

『あぁ?勝ったのはお前さんだろうが、敗者にいちいち謝ってんじゃねぇ』

 

 不意に、ファストゥスはガンダムアスタロトリオートを蹴り飛ばした。

 

『勝ったヤツは、負けたヤツを踏み越えて進まなきゃならねぇ。お前さんには、その義務があ……』 

 

 爆発を起こして、ファストゥスは動かなくなった。

 モノアイが弱々しく点滅し、ブラックアウトした。

 

 ファストゥス、撃墜。

 

「……行かなくちゃ」

 

 元三年連続チャンピオンである男を降したことに対する喜びよりも、先へ進まなくてはならないと言う意志がミーシャの足を前へ向けさせようとするが、

 

 ガンダムアスタロトリオートのフレームも、もう限界だった。

 

 火花を上げながら、下半身の可動部が砕け折れた。

 もう、そこから動けなかった。

 

 

 

 

 

 突然のリヒターの介入によって混乱しかけていたユイだったが、レギンレイズギルティを相手に必死に喰い下がっているブルシュヴァリエの姿を見て、こうしている場合ではないとガンダムヘビーバスターを立ち上がらせる。

 しかし、どうするべきか。

 射撃ではレギンレイズギルティを撃破出来ず、直接打撃を与えられる武器は、左手に握るアーマーシュナイダーのみ。

 せめてビームサーベルがあれば、まだ何とかなったかもしれないが、ガンダムヘビーバスターにその類の武装は……

 

 ある。

 

 先程に手放したために既に選択肢から消していたが、『まだ失ってはいない』。

 ユイはその方向に視線を向ける。

 

 邪魔になると思ってそこに突き刺して置いていた"ソレ"が、まだあった。

 

 

 

 リヒターは目を凝らしながら、下半身を目まぐるしく回転させながらブレードキックを繰り出してくるレギンレイズギルティに果敢に挑み掛かっている。

 

「前に随分世話になった礼だ、覚悟するんだな!」

 

 ブレードキックをシールドやチョバムアーマーで受け流しつつ、ビームサーベルで反撃するものの、僅かに装甲を掠めるだけで決定打を与えられない。

 距離を取られれば、頭部のバルカンや右肩のキャノンで狙い撃つが、レギンレイズギルティには効果が薄い。

 それら射撃を滑るように躱しながら、回り込むように機動するレギンレイズギルティに対して、ブルシュヴァリエはシールドを構えながら、回り込んでくるレギンレイズギルティへ向かって突進、シールドバッシュで弾き飛ばす。

 

「もらった!」

 

 仰け反ったレギンレイズギルティへ、シールドバッシュから流れるようにビームサーベルを突き出すブルシュヴァリエ。

 しかしレギンレイズギルティは、弾き飛ばされた時には既にサイドスカートからアンカークローを天井へ向けて射出、それが巻き取られて、レギンレイズギルティは上方へ躱してしまう。

 

「ちっ、そう言う使い方もあるか」

 

 リヒターは舌打ちしながらも、キャノン砲を上方へ向けて発射して牽制するが、レギンレイズギルティはこれも回避、下降しながら蛇行するように再びブルシュヴァリエへ迫る。

 シールドでブレードキックを受け流しながら、ビームサーベルかキャノン砲で反撃、と瞬時にリヒターの中で算段が組み立てられるが、レギンレイズギルティは右のブレードキックを振り抜くよりも先に、先程巻き取ったアンカークローを射出、ブルシュヴァリエのシールドの縁に噛み付いた。

 

「しまったっ……!」

 

 左腕の自由が効かないままに右のブレードキックが襲いかかる。

 

「(いやっ、むしろ好機!)」

 

 アンカークローに繋がれて自由が効かないのは、向こうも同じだ。

 迫るレギンレイズギルティに対して、ブルシュヴァリエは右手に握るビームサーベルを捨てて、敢えて懐に飛び込む。

 右肩のキャノン砲がブレードキックに破壊されるが、構わずにブルシュヴァリエはレギンレイズギルティの脇の下を潜るように背後に回り込む。

 同時にシールドのグリップから手を離して、空いた両手でアンカークローのワイヤーを掴む。

 そのままレギンレイズギルティの背中に密着、右のサイドスカートから伸びているワイヤーを手繰り寄せ、首に引っ掛ける。

 背後に密着されて思うように反撃出来ないでいるレギンレイズギルティの肩に、手首に、腰に、股関節に、次々にワイヤーを絡めて縛り付けていくブルシュヴァリエ。

 

「これなら自由も効くまい!」

 

 リヒターはそこで慢心することなく、さらにワイヤーを絡みつかせてレギンレイズギルティの自由を封じる。

 

「(ユイは大丈夫か?)」

 

 ギリギリギリギリとワイヤーの軋む音を耳にしつつ、リヒターは味方機の状態を確認する。

 

 

 ユイのガンダムヘビーバスターは、そこに突き刺していた武器ーーアルクフレッシュを取り戻すと、バインダーを展開、指向性粒子線の"弦"を引きしぼる。

 元よりアルクフレッシュとは、『ビームサーベルを弓矢のように"射出"する武器』

 貫通力に優れたこの武装なら、レギンレイズギルティの装甲を突き破れるはずだ。

 リヒターのブルシュヴァリエの奮戦により、レギンレイズギルティは今、身動きの自由を失っている。

 

「仕留めるなら、今しかない……!」

 

 半身の姿勢で立ち、ビームの鏃先をレギンレイズギルティの胴体部へと向ける。

 しかし、身動きの取れないはずのレギンレイズギルティは、スラスターの推進力だけで強引に機体を暴れさせて、ブルシュヴァリエを振り解こうとしている。

 ブルシュヴァリエも自機の推進力をフルスロットルで開き、暴れ回るレギンレイズギルティを壁に押さえつける。

 しかしそのポジショニングは、ガンダムヘビーバスターのアルクフレッシュでレギンレイズギルティの撃墜を狙うには、ブルシュヴァリエを巻き込む位置だった。

 

「ッ……」

 

 ユイは躊躇した。

 ここでアルクフレッシュを撃てば、ほぼ確実にリヒターは撃墜されるだろう。

 その上、ブルシュヴァリエにはビルドデカールによる運営権の無効化が効いていないかもしれない。

 あの『サラ』の影響下にあるここで撃墜されれば、ルビスシステムを植え付けられ、ログデータを抹消されるか、あるいはマイのように洗脳される可能性もある。

 その躊躇が、アルクフレッシュの弦を掴む手を震わせる。

 

「撃て、ユイッ!僕ごとこいつを!」

 

 必死にレギンレイズギルティを押さえつけているリヒターからの通信だった。

 

「でもっ、ここで私がこれを撃ったら……」

 

「構うなっ!僕一人のためにっ、せっかくのチャンスを捨てるつもりか!」

 

 ここで撃墜されることを躊躇わないリヒターは、さらにもう一押し言葉を投げ掛けた。

 

 

 

「ここでこいつを討たなければっ、君はまた後悔するんじゃないのか!?」

 

「!!」

 

 

 

 ミラーミッションの最中、焚き火の洞窟の中で打ち明けあった腹の中。

 

 後悔して、一度は投げ出してしまった弓道。

 GBNでさえも、同じ後悔を繰り返しかけていた。

 あの時リヒターは「辛くないのか」と心配してくれた。

 そこで思い出した、「何のためにGBNをするのか」を。

 その答えは、「みんなと一緒に楽しみたいから」。

 

 ユイは構えたアームレイカーをもう一度引き締める。

 みんなと一緒に楽しむためには、ここでマイを取り戻すこと。

 

「そうよ……」

 

 ユイは決断した。

 

「私はもう迷わないって決めた……!」

 

 菫色と紺色のオッドアイが、ブルシュヴァリエとレギンレイズギルティを捉える。

 

 極限まで絞り詰めた弦を放つーーーーーその0.2秒前、

 

「!」

 

 一瞬、何かを"見た"ユイは、ターゲットロックをほんの僅かに右にずらした。

 

 放たれたビームの矢は、ブルシュヴァリエのボディの右半分を貫き、そのままレギンレイズギルティのコクピットブロックをまっすぐーーではなく、ほんの僅かに中心部から右にズレた位置を貫いた。

 

 レギンレイズギルティ、撃墜。

 

「……、……ユイ、何故躊躇った!?」

 

 ほぼ大破状態のコクピットの中から、リヒターはユイを怒鳴るが、そのユイの耳には届いておらず、ガンダムヘビーバスターは、アルクフレッシュによって貫かれた二機に近づく。

 密着するほど接近してから、ガンダムヘビーバスターのコクピットハッチが開き、ユイはそこからレギンレイズギルティのコクピットに飛びつく。

 

「お姉ちゃんッ!!」

 

 ユイは焼き切れたバイタルバートの隙間に頭から突っ込み、中にいるだろうマイを呼び掛ける。

 コクピットの中はアルクフレッシュによってズタズタになっており、機体の状態を示すランプはほとんど消えており、その暗がりの中で、ギャラルホルンのアリアンロッド所属を示すグリーンの軍服を着込んだ、マイの姿が見えた。

 

「……、……あ、れ……?ユ、イちゃ……?」

 

 ふと、マイは気がついたようにユイと目を合わせた。

 ルビスシステムによる侵食と洗脳が切れたようだ。

 

「っ、良かった……っ、正気に戻ってっ……!」

 

「……あたし……、どう、したっけ……?あいつに、殺されたはずじゃ……?」

 

 やはり洗脳される以前の記憶がないらしく、何がなんだかと混乱しているようだが、ユイにとってそんなことはどうでもいい。

 ずっと心配していた姉が無事だった。

 そもそもユイの本懐はあの『サラ』の打倒ではなく、そちらなのだから。

 ユイは「ちょっと待ってて」と一言断ると、ガンダムヘビーバスターに乗り直し、マニュピレーターでレギンレイズギルティのコクピットハッチを引き剥がすと、掌を差し伸べる。

 

「私のヘビーバスターに乗って。脱出する」

 

「あ、うん……」

 

 マイはガンダムヘビーバスターの掌に乗り、それを確かめてから、ユイのいるコクピットの中に近付け、滑り込ませる。

 その様子を見ていたリヒターは、何故ユイが狙いをずらしたのかを悟った。

 

「(あんなギリギリの一瞬で、僕を撃墜させずに、なおかつ奴の動力"だけ"を停止させられる位置を見抜いたのか……ある意味、末恐ろしいな)」

 

 弓道によって培われた、極限的な集中力を持つユイの眼力だからこそ見抜けたのだろう。

 まずはマイを安全な位置まで運んでログアウトするため、ガンダムヘビーバスターとブルシュヴァリエはその場から離脱していった。

 

 

 

 

 

 クラティアプロヴィデンスガンダムが放つ黒翼のドラグーン・システムが、マスラオヘブンズクラウドと桜花姫頑駄無の二機を寄せ付けまいとビームをばらまく。

 マスラオヘブンズクラウドは『イザナギ』『イザナミ』の二刀で斬り弾きながら、桜花姫頑駄無は羽根浮安音流で身を守りながら、支配の天帝へと追い縋る。

 しかし、雨霰のごとく降り注がれるビームを前に、二人は前に進むことが出来ないでいた。

 マスラオヘブンズクラウドは一度その場から跳躍して距離を取り、GNマシンキャノンのサイドバインダーのGNキャノンを連射、クラティアプロヴィデンスガンダムを牽制しながら、もう一度接近を試みる。

 

『そんな攻撃が通じると思ってるのかい!』

 

 クラティアプロヴィデンスガンダムは黒翼を羽ばたかせたAMBAC機動でビーム射撃を躱し、そのままマスラオヘブンズクラウドへ自ら接近する。

 その最中にもドラグーン・システムを展開、桜花姫頑駄無の相手をさせておく。

 マスラオヘブンズクラウドとの距離を詰めるなり、ガントレットのビームソードを振り抜くクラティアプロヴィデンスガンダム。

 

「来るかっ」

 

 ツルギは瞬時にアームレイカーを捻り返し、マスラオヘブンズクラウドは『イザナギ』『イザナミ』をクロスさせてビームソードの一閃を受け止める。

 細く見えるが、尋常ではない出力で形成されたビームソードらしく、機体自体の膂力も相まって、マスラオヘブンズクラウドを押し返す。

 

「ぬっ、ぐっ……!」

 

 力の限り押し込んでいるはずのアームレイカーが徐々に押し戻される。

 その最中に、マスラオヘブンズクラウドはサイドバインダーを回転させ、ほぼゼロ距離でGNキャノンを発射するが、クラティアプロヴィデンスガンダムは瞬時に跳躍するように上方へ回避、上昇からすぐさま下降しながらビームソードを振り下ろす。

 

「(まともに打ち合ってはこっちが不利ッ)」

 

 そう即断したツルギは、一度マスラオヘブンズクラウドを飛び下げて、ビームソードの間合いから逃れる。

 叩き付けられたビームソードは大理石の床を捲りあげ、その場所に小さなクレーターを穿つ。

 

『はっ、そんな格闘しかまともに出来ないガンプラが、後ろに下がって何をするって言うのさ!』

 

 ビームソードの空振りから0.5秒もしない内に、クラティアプロヴィデンスガンダムはシュペリエルユーディキウム・ビームライフルを連射して撃ち込む。

 銃(ライフル)と言うよりは、いっそのこと大砲(カノン)と呼ぶべきほどの長大な銃火器から放たれるビームは、ガントレットのビームソードと比較しても劣らない出力だ。

 襲いかかるビームを避けながら、ツルギはハルナを呼び出す。

 

「ハルナ!そっちは大丈夫か!?」

 

 ドラグーン・システムの群れに足止めされていた桜花姫頑駄無だが、ようやく振り切れたようだ。

 

「わたしは大丈夫だよ!」

 

 桜花姫頑駄無も何発がビームを掠めてしまっているようだが、損傷軽微のようだ。

 

「前後から挟み込む。"あの攻撃"で行くぞ」

 

「オッケー!」

 

 "あの攻撃"と聞いて何をするべきかを理解したハルナは、桜花姫頑駄無を迂回させながらクラティアプロヴィデンスガンダムの後ろから回り込む。

 ツルギはこのまま、GNキャノンとGNマシンキャノンを撃ちまくってクラティアプロヴィデンスガンダムを牽制し続ける。

 

『何のつもりかは知らないけど、無駄だよ!』

 

 マスラオヘブンズクラウドからのビーム射撃を掻い潜りながら、クラティアプロヴィデンスガンダムは再び黒翼からドラグーン・システムを射出、背後から回り込もうとする桜花姫頑駄無を足止めする。

 

「行けッ!!」

 

 マスラオヘブンズクラウドは頭部のグラビカルアンテナからビームチャクラムを放ち、それは真っ直ぐにクラティアプロヴィデンスガンダムへ向かう。

 

『当たるとでも?』

 

 案の定、クラティアプロヴィデンスガンダムはそれも避ける。

 

 避けられたビームチャクラムの先には、ドラグーン・システムからのオールレンジ攻撃を凌いでいる桜花姫頑駄無がいるがーー

 

「どぉんぴしゃぁッ!!」

 

 不意に桜花姫頑駄無は十雷電刀を振りかぶり、横薙ぎにビームチャクラムに叩き付けた。

 ビームを弾くことの出来る十雷電刀に叩き付けられたビームチャクラムは、文字通りそのままラケットに打たれたボールのごとく"跳ね返した"。

 その跳ね返した先には、背を向けているクラティアプロヴィデンスガンダム。

 

『何ッ!?』

 

 マスラオヘブンズクラウドの放つビームチャクラムを、桜花姫頑駄無が"打ち返す"。

 

 それがこの二人の狙い。

 互いが互いを知っている、幼馴染みだからこそ成し得た時間差攻撃だ。 

 その上、十雷電刀に打たれたビームチャクラムはさらにその出力が上がっている。

 咄嗟にクラティアプロヴィデンスガンダムは、左腕のガントレットを盾にして防ぐが、着弾と同時にビームチャクラムは、チップソーのようにガントレットを削り取っていき、そのまま左腕ごと切断した。

 

『チイィィィッ、小賢しいんだ、よッ!!』

 

『サラ』は苛立ちを隠そうともせずに、その方向へ反射的にシュペリエルユーディキウム・ビームライフルを放った。

 放たれたビームは、十雷電刀を振り抜いていた桜花姫頑駄無の下半身を貫き、吹き飛ばした。

 

「やぁっ!?」

 

 ビームの着弾と下半身の爆発によって、桜花姫頑駄無のコンソールの下半分の状態がロストする。

 

『外したっ……でも、消えろッ!!』

 

 反射的なものと苛立ちによってコクピットへの直撃を外したことにさらに苛立つ『サラ』は、シュペリエルユーディキウム・ビームライフルの銃口をしっかりと向け直し、トリガーを引き絞った。

 

「 ぁ」

 

 瞬間、ハルナは理解する。

 放たれた死の光が、自分を消し飛ばそうと向かってくる、その光景が酷くスローモーションに見えた。

 視界が黄緑色に塗りつぶされるーーその寸前、

 

 何故か、自分よりも小さなツルギがーーーーー否、マスラオヘブンズクラウドが立ち塞がった。

 

『イザナギ』『イザナミ』の二刀をクロスさせて構え、シュペリエルユーディキウム・ビームライフルを防ぎ、ビームの拡散と共にその持っていた二刀がマニュピレーターから吹き飛んでしまうが、マスラオヘブンズクラウドは無論、桜花姫頑駄無もそれ以上の損傷はなかった。

 

「……ツルギ、くん」

 

「約束しただろ。俺が、お前を守るって。……忘れたとは、言わせねぇぞ」

 

 約束。

 いつか交わした、「ハルナを守るために強くなる」と言う、幼く拙い言葉。

 いつしかそれは「強くなる」ことが当たり前になり、やがて「ハルナを守るため」だけに変わっていたが、彼女を想う彼の気持ちは変わらない。

 

 それだけは、何も変わっていない。

 

 振り向かないままに、マスラオヘブンズクラウドは強化サーベル『クロガネ』を抜き放ち、

 

「トランザム!!」

 

 圧縮粒子を全面解放、マスラオヘブンズクラウドの全身が眩い真紅色に輝き、一筋の閃光となってクラティアプロヴィデンスガンダムへと飛び立つ。

 

 それをそこで見送るハルナは、ただ惚けたように彼の戦いを見ていてーーハッと思い出す。

 

「そっ、そうだ……機体が動かなくてもっ」

 

 ハルナは武装フォルダを開く。

 桜花姫頑駄無は確かに動けない。

 

 しかし、"それ以外"なら動く。

 

 

 

 

 

 ポイントゼロの宙域での戦いは、収束しつつあった。

 

「残り46機。一人あたり3、4機落とせばお釣りが出ると言ったところですね」

 

 メガデッサのGNハイメガランチャーを折り畳んだ三連ビームライフルを連射しながら、ミツキは戦況を冷静に把握する。

 そのメガデッサに近付こうとするNPDリーオーやGBNガードフレームの群れは、即座に多方向からのビームによって撃ち抜かれる。

 ノエルのエーデルνガンダムによる、フィンファンネルだ。

 

「全く、ようやく片付きますわね」

 

 フィンファンネルを左肩に呼び戻しながら、頭部のバルカンで牽制するエーデルνガンダム。

 ノエルはミツキに通信を送る。

 

「ミツキ、ここはもう少数で問題ありませんし、何名かをポイントゼロに突入させてはいかが?」

 

 まだ中で戦っている、もしくは動けない者がいるならそれを援護、救助させるべきとノエルは進言する。

 

「そうですね。……ソウゲツ、聞いてましたね?」

 

 ミツキはフォースリーダーである、トリコロールカラーのリボーンズガンダムに指示を仰ぐ。

 

『聞いているよ。……ロミ、行ってくれるかい』

 

『はいはい。ウチのリーダーは人遣いが荒いね』

 

 ガンダムヴァーチェの火器を装備した『ガルムガンダム』が指示を受けてポイントゼロへ向かう。

 

「ではこちらからは……ライアン、ポイントゼロ内部へ突入し、動けない者の救助へ向かいなさい」

 

『了解』

 

 ノエルはジンクスⅢに指示を与え、ガルムガンダムと並んでポイントゼロの内部へ突入させる。

 

 その二機を見送ってから、ミツキは呆れたように小さく溜息を零した。

 

「……後はもう私達だけで十分ですと言っているのに」

 

「だからって一人だけケツ捲ってられっか、よっと!」

 

 通信先の相手は、ヤイコ。

 銃弾の一発でも受ければすぐにでも動けなりそうなほど、満身創痍も満身創痍な蛇威雄音は、なおも最前線に立って暴れ回っている。

 少なくとも、NPDリーオーの胴体を真っ二つに引きちぎり、その引きちぎったNPDリーオーを武器代わりに振り回す程度には動けるようだが。

 

「それにアタシの心配よりも、こいつらを片付けんのが先だろ?」

 

「やれやれ、撃墜されても知りませんよ」

 

 そう言いながらも、ミツキのメガデッサはヤイコを狙う敵を優先的に撃破していく。

 

 

 

 

 

『クロガネ』の一閃と、銃剣の一撃が交差する都度に、マスラオヘブンズクラウドとクラティアプロヴィデンスガンダムの両者は、付かず離れずの剣戟を繰り広げていた。

 トランザムによる凄まじいばかりの機動性を以て、マスラオヘブンズクラウドはクラティアプロヴィデンスガンダムへ攻め立てる。

 

「面ッ!」

 

 挙動から0.2秒もせずに『クロガネ』の切っ先が、クラティアプロヴィデンスガンダムの首を跳ねんと迫るが、瞬時に銃剣を寝かせて構えて弾き返す。

 

『なめるなッ』

 

 瞬時に返す刀で銃剣を振るうクラティアプロヴィデンスガンダム。

 しかしマスラオヘブンズクラウドは、弾かれると同時に既にサイドバインダーを翻して飛び下がりーー銃剣の切っ先が掠めたのか、胴体部に斬撃の痕が走る。

 その被弾に気を留めることなく、ツルギはアームレイカーを弾くように素早く押し出し、マスラオヘブンズクラウドもそれに応じて瞬間的に加速、クラティアプロヴィデンスガンダムへ迫る。

 

「胴ッ!」

 

 下から懐へ潜り込むように、横薙ぎに振るう『クロガネ』。

 シュペリエルユーディキウム・ビームライフルは、大型のライフルだけあって出力は高く、さらに銃剣を装備することで白兵戦にも対応するが、純粋な刀剣同士の斬り合いになれば、そのサイズの大きさや重量が災いして取り回しが悪い。

『サラ』の判断も早く、銃剣による迎撃よりも回避を優先した。

 黒翼を羽ばたかせて飛び上がるクラティアプロヴィデンスガンダム。

 しかし、AMBACを行うための動作が必要だったためにアクションが遅れ、『クロガネ』の刃がクラティアプロヴィデンスガンダムの右足を膝から斬り裂いた。

 

『くっ、よくも……ッ』

 

『サラ』は左のアームレイカーを振るい、それに合わせてクラティアプロヴィデンスガンダムは機体ごと回転させて、左足で回し蹴りを放つ。

 蹴り飛ばされるマスラオヘブンズクラウドだが、すぐにサイドバインダーを翻して姿勢を制御、続いて襲い来るピクウスの銃弾も回避する。

 

『行けドラグーンッ、奴を潰せ!』

 

 クラティアプロヴィデンスガンダムは黒翼のドラグーン・システムを広げ、何十基もの黒羽根が一斉にマスラオヘブンズクラウドに襲いかかる。

 同時に、ビームがありとあらゆる方向から放たれ、マスラオヘブンズクラウドは加速しながら四方八方からのビームを掻い潜る。

 

「そこッ!」

 

 その最中にも『クロガネ』を振るい、黒羽根を叩き斬っていき、少しずつ確実にドラグーン・システムの手数を減らしつつ、クラティアプロヴィデンスガンダムへ接近する。

 

『どうしてそこまで……ッ!』

 

 ドラグーン・システムを制御しつつも、シュペリエルユーディキウム・ビームライフルを連射する『サラ』。

 

『どぉしてそこまで僕を否定するッ!?』

 

 何故自分を否定するのかと、怒りと悲痛に声を荒げる『サラ』

 

『何が何でも否定しなくちゃいけないのかい!?そうやって自分が正しいのだと優越感に浸らなければ、人間は生きていられないのかい!?』

 

「人類全てがそうじゃない!」

 

 放たれるビームの火線に装甲を掠め、焼き切られながらも、マスラオヘブンズクラウドは止まらない。

 

『それもそうか!でもルビスシステムの使用者達は、みんなその力を使って弱者を嘲笑い、足蹴にしていたな!楽しいだろうねぇ!嬉しいだろうねぇ!面白いだろうねぇ!』

 

「弱者を貶めて得る喜びにどんな意味がある!?」

 

 再び銃剣を振りかざし、『クロガネ』と衝突、火花を散らしながらの鍔迫り合いにもつれ込む。

 

 

 

『バッッッッッカじゃないの!?!?!?』

 

 

 

 鍔迫り合いの末に弾き合い、仰け反ったマスラオヘブンズクラウドに銃剣を振り下ろした。

 ツルギが咄嗟に機体を捻らせたおかげでコクピットを斬り裂かれなかったものの、肩から左腕を失った。

 

「ぐッ……!」

 

 ツルギのコンソールの左半分がロスト、残り右半分のコンソールも『警告』を示すオレンジ色の表示を示す。

 

『正義!正論!正当!どれもこれも人の物差しによって変わる!暴力だって結果次第で正しいものになる!勝てば官軍、負ければ賊軍!結局はそこさ!』

 

「力だけで全て罷り通らせることがっ、正しいとでも言うつもりか!?」

 

『そぉさ!例えその正しさの先が、人間と電子生命体との戦争になろうとも!』

 

 機体ごと回転させて、もう一度振り下ろされる銃剣。

 マスラオヘブンズクラウドはクロガネを寝かせて構えてその凶刃を防ぐが、右腕への過負荷に関節が軋む。

 

「……」

 

 ツルギは右腕のアラートが鳴り響くのを尻目に、

 

 何故か起動中のトランザムを切った。

 

『チープだろうがヒロイックだろうがダーティーだろうが、言い方が違うだけで!』

 

 不意に、マスラオヘブンズクラウドのトランザムが停止し、下がったパワーではクラティアプロヴィデンスガンダムに押し負け、大理石の床に叩き付けられた。

 その拍子に『クロガネ』も手放してしまった。

 

『正しければそれでいいんだよ!』

 

 クラティアプロヴィデンスガンダムは、シュペリエルユーディキウム・ビームライフルを構え直し、その銃口をマスラオヘブンズクラウドへと向ける。

 

『もう終わりだ。僕に楯突いたこと、その身で贖えッ!!』

 

 引き絞られるトリガー。

 放たれた黄緑の光は、真っ直ぐにマスラオヘブンズクラウドへと向かいーーーーー

 

「言いたいことはそれだけか?」

 

 

 

 その直前に何かが遮り、マスラオヘブンズクラウドをビームから守った。

 

 

 

「ナイスタイミングだ、ハルナ。信じてたぜ」

 

 マスラオヘブンズクラウドを守ったのは、重なった桜の花弁ーー桜花姫頑駄無の羽根浮安音流。

 

「もー、ツルギくんはわたしのこと信じすぎ。もし間に合わなかったら、やられてたよ?」

 

 ハルナは溜息混じりにぼやく。

 

『お前っ、まだ……!』

 

 そう、桜花姫頑駄無は確かに動けない。

 だが、例え機体が動かなくとも、誘導兵器だけなら動かせられる。

 止めを刺し損ねたことがこんな形で響くとは『サラ』も予想だにしていなかったらしい。

 今度こそハルナを仕留めようと、シュペリエルユーディキウム・ビームライフルをそちらに向け直そうとするが、

 

「トランザムッ!!」

 

 マスラオヘブンズクラウドはトランザムを再起動させ、桜花姫頑駄無に注意を傾けたクラティアプロヴィデンスガンダムへと距離を詰め、体当たりで吹き飛ばす。

 

『はっ!?もう限界時間じゃ……!?』

 

 つい先程にトランザムの限界時間を迎えたはずのマスラオヘブンズクラウドが、何故即座にまたトランザムを再起動したのか。

 

 疑似太陽炉とは元々、オリジナルの太陽炉とは異なり、予め注入したエネルギーに応じて出力を得る仕組みだ。

 トランザムを起動する際は確かにエネルギーの消費は激しくなるが、そのエネルギーの消費を抑えればトランザムを強制的に中断させられる。

 逆に、負荷にさえ気を付ければトランザムの中断からの即再起動も可能である。

 

 桜花姫頑駄無の羽根浮安音流がまだ動かせられることを知っていたツルギは、一度トランザムの羽休めをするために中断し、即座に喰らうだろう攻撃をハルナに凌いでもらい、反撃にトランザムを再起動しようとしたのだ。

 

 そこまで気付いた『サラ』だが、それに気付くと同時に、機体が隔壁に叩きつけられる。

 

「お前、さっき言ったよな。正しければそれでいい、と」

 

『なにっ、を……』

 

「確かにそうだな。正義は正しいから正義、悪は悪いから悪……」

 

 でもな、とツルギは言葉を紡ぐ。

 

「そう言う考え方、それこそお前の嫌いな"人間そのもの"だ」

 

『!?』

 

『サラ』は驚愕する。

 自分が、あの薄汚い人間と同じだと?

 

「俺は今まで、ELダイバーを宇宙からの侵略者か何かと勘違いしていたが、やっと分かったぞ。電子生命体だって、名前や場所が違うだけの、同じ"人間"だ。お前はその中でも、仲間を守りたいって気持ちが強くて、それが行き過ぎただけなんだな」

 

『ふざけているのかッ、僕ら電子生命体が、お前達のような薄汚い存在と同じなはずが……』

 

 そこまで言いかけて、『サラ』は言葉が止まる。

 何故、自分は運営を乗っ取ってまで電子生命体達の楽園を作ろうとしたのか?

 それは仲間の位場所を守ろうとして、

 

 そのためにローラン達のようなマスダイバーの居場所を奪おうとしたではないか。

 ナンブ・レンジの妻であるミスズを人質にしたではないか。

 大切なものを守ろうとする、人として当たり前のこと。

 

 それにつけ込んで自分の本懐を為そうとするなど、

 

 

 

 そ れ こ そ 人 間 以 下 で は な い か ?

 

 

 

『違うッ!!』

 

『サラ』は頭を振って脳裏に浮かんだ言葉を否定しようとする。

 

『違う違う違う違う違うッ!僕らはもっと崇高な存在のはずだっ、人間以下なんてそんなことは有り得ないッ!!』

 

「だから認めてるだろうが。"お前は人間なんだ"って」

 

 だが、とツルギは右のアームレイカーを握り締める。

 

「お前のやろうとしていることは、認めるわけにはいかねぇ!」

 

 マスラオヘブンズクラウドは右腕を天高く突き上げた。 

 

「行くぞマスラオ……俺の力に、応えてみせろ!」

 

 その右腕に疑似GN粒子が集束し、それが燃え盛る焔へと姿を変える。

 

 それは、カイドウとの抜き打ちテスト、ヘルレイザー・リターンズの時に見せた、焔の拳。

 

「この魂の焔、それを恐れぬ勇気と希望を、この掌(て)に宿せ!」

 

 あの時咄嗟に編み出したそれを、己の力を限界まで引き出せるように鍛え続けた、ツルギの必殺技。

 

 

 

 

「燃えろ!烈火爆焔拳(れっかばくえんけん)ッ!!」

 

 

 

 

 

 右腕に纏う焔を握り締める拳が、真っ直ぐに向かう。

 

『ッ!』

 

 クラティアプロヴィデンスガンダムは銃剣を振るい、その焔の拳に叩き付けるが、焔が切っ先に触れると瞬く間に剣刃ーーそれもビームサーベルと打ち合えるほどのそれーーを溶解した。

 銃剣に続いてシュペリエルユーディキウム・ビームライフル本体すらも爆散させーー

 

『ハ……』

 

 焔の拳はクラティアプロヴィデンスガンダムの"頭部"に打ち込まれた。

 

 首を失ったクラティアプロヴィデンスガンダムは、隔壁を背に力無く倒れ、PSダウンを起こした装甲は元の黒灰色へと戻っていく。

 

『………………何故、殺さない?』

 

 PS装甲すらも破壊出来る攻撃であれば、コクピットを狙えば良かったはずだった。

 しかし、右の拳を突き出しているマスラオヘブンズクラウドはそれをしなかった。

 

「俺は、"人殺し"をしたくて武道を身につけたんじゃない」

 

 焔を消して、マスラオヘブンズクラウドは拳を下げた。

 同時に、トランザムの限界時間を迎え、疑似太陽炉が焼き切れた。

 

「俺達の勝ちで、お前の負け。それでいいだろう」

 

 マスラオヘブンズクラウドはクラティアプロヴィデンスガンダムを掴み、立ち上がらせる。

 

「分かったんなら、今すぐGBN中のウイルスを全部消せ」

 

『その後はどうする?僕を消すつもりか?』

 

「別に消しはしない、どこにでも行けばいい」

 

『……どこに行けと言うんだ。ここでGBNを元に戻せば、僕はまた運営から追われる身になる。……どこへ逃げたって、同じさ』

 

 悲劇が繰り返されるだけだ、と『サラ』は吐き捨てた。

 

「同じにはならねぇよ」

 

 殺意を捨てて、生きる力さえも捨てようとしている『サラ』に、ツルギは諭すように声を掛けてやる。

 

「GBNの運営がどうだかは知らん。だが、今回の一件を何事も無かったかのようにはしないだろう。なら今までよりは、マシになるんじゃねぇか?……電子生命体達を、守りたいんだろ?」

 

『…………』

 

「信用出来ねぇか。じゃぁ、アレだ。今回の一件が全部落ち着いたら、俺達みんなで運営に直談判でもしに行くか」

 

『"俺達"……?"みんな"……?』

 

 その言葉に、『サラ』の声が揺れる。

 

「おぅ。スピリッツもロイヤルナイツもフラワーズも、フォートレス、サンダーバード、スカルフォース、トレイルブレイザーも、まだ解散してないならファイアワークスも、みんなで一緒に頭下げに行くんだよ。「電子生命体達のことをもっと考えてください」ってな」

 

『……それで、いいのかい。僕は赦されないことをたくさんして来た。今更この罪から、免れようとも思わない』

 

「罪悪感があるんなら尚更だ。死ねばそれで済むと思うな、ちゃんと果たすべき責任を全うしろ。生きるかどうかは、それから考えるんだな」

 

 後始末を他人に任せて逃げるな、とツルギは語気を強くする。

 

『…………分かった』

 

 少しの沈黙の後に『サラ』は頷き、クラティアプロヴィデンスガンダムのコクピットハッチが開けられ、それを見てツルギもマスラオヘブンズクラウドから降りる。

 コクピットから降りた『サラ』は、先程自分が殴り壊した玉座へと戻っていき、ツルギもその様子を見守る。

 

「ツルギくんっ」

 

 一歩遅れて、ハルナがツルギの背中に追い付いた。

 

「これで、終わったんだよね」

 

 玉座の前でコンソールを叩く『サラ』と、ツルギを見比べるハルナ。

 

「あぁ。これからやることは増えたが、もう大丈夫だ」

 

 まずはこのポイントゼロからの脱出。

 フォースネストに帰還してガンプラを整備し、リアルのマイの安否も確認して、それから間を置いてから、元に戻るだろう運営に直談判だ。

 これから数日、GBNでは忙しなくなるだろう。

 

 しかし……

 

「……………………え?」

 

 不意に『サラ』の手が止まる。

 

「ちょ、ちょっと待って、何で……?」

 

 慌ててコンソールを叩き直す『サラ』

 何事かとツルギとハルナもその様子を見ようとする。

 コンソールには文字化けた赤い『ERROR』ばかりが表示されては消えるだけ。

 

「何で……元に戻らないんだ……ッ!?」

 

 

 

 

 

 

【次回予告】

 

 ツルギ「何やってるんだ、早くしろ」

 

『サラ』「今やってるよ!でもっ、どうしてっ、言うことを聞いてくれないよ!?」

 

 ハルナ「ちょ、ちょっと待ってこれ、もしかしてエラーとかバグの暴走とか、そう言うのじゃないの……!?」

 

 ツルギ「暴走だと!?」

 

『サラ』「あ、ぁ……もう、ダメだ……」

 

 ツルギ「次回、ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツ

 

『崩落へのカウントダウン』」

 

 ハルナ「月が落ちて来るってどう言うことなのぉ!?」

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