ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツ   作:さくらおにぎり

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 最終回です。これで心置きなくスピリッツ続編に取り掛かれます。


25話 このソラの果てまでも

 島の海岸に寄り添うような形のフォースネスト。建て替えられてから早五年が経っていた。

 高台の岩をくり抜いて作られたカタパルトデッキには今、一機のガンプラが出撃しようとしていた。

 

「君の言う"あの子"は今、月にいるんだね?」

 

 その出撃しようとしているガンプラに乗り込む青年は、側にいる純白の少女に問い掛ける。

 

「うん。今も、助けてって苦しんでる……急いであげて」

 

「分かった。……マスドライバーを使う時間も惜しい、このまま単独で成層圏を抜ける。しっかり掴まってて」

 

 青年はそっと少女の肩を抱き寄せる。

 少女の方も、青年にしっかりと抱き付くように掴まる。

 そのか細い肩に、金平糖を頬張った小さなカーバンクルを乗せて。

 

「モルー!!」

 

 カタパルトから放たれたそのトリコロールカラーの機体は、機体が宙を浮くと同時に、『光る翼』を広げはばたき、ほぼ垂直に上昇しながらも急激に加速していく。

 

 

 

 

 

 ネオ・ジオングとⅡネオ・ジオングの守る、月のサーバーエリアでの戦いは、一千万人以上の援軍の到着と共に、第二ラウンドを迎えた。

 この宇宙を埋め尽くさんばかりのガンプラを見上げつつ、カゲトラは全周波通信で全てのダイバーに指示を与えている。

 

「射撃機のガンプラは一点に飽和攻撃を仕掛けろ!Iフィールドにも限度はある!格闘機は援護射撃をアテにしつつ突撃せよ!なお各機、三機一組(スリーマンセル)で行動し、互いに連携を取り合え!」 

 

『誰だか知らないけど、了解!』

 

『おぅ、任されて!』

 

『やってやるよ!』

 

 カゲトラからの指示の元、ダイバー達は見知りもしない相手とも互いに手を取り合い、ネオ・ジオングとⅡネオ・ジオングへと砲撃を仕掛け、懐に飛び込むために弾幕の中へと突っ込んでいく。

 

 対するネオ・ジオングとⅡネオ・ジオングも、増援によって敵が増えたことに動じることなく、持てる火力を駆使して目の前に群がる蚊トンボの群れを薙ぎ払う。

 何機、何十機がメガ粒子に貫かれて撃墜されるが、それでも怯むことなく突撃を試みる者達と、強固な装甲やIフィールドを突き破らんと射撃を敢行する者達。

 

「オラ行け行け行けェ!ケツなんざ気にしてんじゃねーっ、足ィ止めてる暇あったら突っ込めやオラァッ!!」

 

 その中で、ヤイコの蛇威雄音が尻込みしているガンプラの尻を、文字通り蹴り飛ばして突撃を促しながらも、自らもまたネオ・ジオングへと迫る。

 ミーシャのガンダムアスタロトリオートも滑腔砲を撃ちながら、グシオンアックスを構えてⅡネオ・ジオングへ突撃、その周りにも何機ものガンプラが追従していく。

 Ⅱネオ・ジオングのファンネルビットが放たれ、突撃してくる者達をジャックしようと迫る。

 

「邪魔をしないで!」

 

 グシオンアックスが振り抜かれ、ファンネルビットの一つが叩き割られる。

 ミーシャに続く者達も各々の近接武器でファンネルビットを破壊しようとするが、何機かは迎撃に失敗し、ファンネルビットにジャックされてしまう。

 

『しっ、しまった!……ダメだっ、俺を撃ってくれ!』

 

『クソッ、悪く思わないでくれ!』

 

 ジャックされたガンプラに、別のガンプラがビームサーベルを突き刺して沈黙させる。

 なおも襲い掛かるファンネルビット。

 

「これ以上はさせない!」

 

 ガンダムアスタロトリオートは滑腔砲を捨てると、パイルハンマーとグシオンアックスの両方を以てファンネルビットを弾き返し、叩き落としていく。

 

 

 

 

 

「撃ち続けるのよ!攻撃の手を止めないで!そうすればいつかは突き破れる!」

 

 ユイのガンダムヘビーバスターがダブルガトリングガンを撃ちまくりながら、他のガンプラも続くように叫ぶ。

 

「一斉射撃を仕掛ける!一点を狙うぞ!」

 

 サヤのガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルを中心に、砲撃型のガンプラが集まり、各々の重火器をネオ・ジオングへと向ける。

 

「撃ェェェェェ!!」

 

 ハイパードッズライフルとフリューゲルカノンの照射を号令に、大口径砲弾や高出力のビームが吐き出され、一斉にネオ・ジオングへと殺到する。

 実弾は装甲に着弾してわずかに装甲を破壊し、ビームはIフィールドに逸らされてしまうもののーーバリアの範囲外であった、一対のシュトゥルムブースターを焼き、莫大な量の推進剤が引火、大爆発を起こした。

 これはあくまでもネオ・ジオングの稼働時間を多少削り落としたに過ぎない。

 

 むしろ、ここからが本番だ。

 

 スカート裏のシュトゥルムブースターの接続部を閉じたネオ・ジオングは爆煙の中から飛び出すと、機体の両肩と背面装甲から湾曲した物体を展開した。

 ちょうど、ネオ・ジオングの背後に"輪"を背負うような形を取ると、そこから黄金色に輝くヘックス状の"何か"が重なり広がっていく。

 見ようによってはそれは、日輪を背負う太陽神のようにも見えるそれは、確かに神々しくーー

 

 ーー同時に、恐るべき武装でもある。

 

『『サイコシャード』だっ、完全に展開される前に破壊するんだ!』

 

 その名を叫ぶダイバーを含む、多くのダイバーが何かを知っている。

 それは、擬似的なサイコフィールドを展開することで、『操縦者が望むイメージを具現化させる』と言うモノ。

 具体的に何をどこまで具現させてしまうのかは不明だが、少なくとも劇中ではユニコーンガンダムとバンシィ・ノルンの武装に干渉、自壊させるに追い込んでいる。

 一説によれば、搭乗者のフル・フロンタルがその気になれば上記の二機を跡形無く消滅させることも可能だと言う。

 

 GBNでは、これをそのまま組み込むことは出来ない(仮に組み込めたとしてもゲームバランスが完全に引っくり返る)ため、アニメ劇中を再現する形で『有視界内にいる敵機の武装を破壊する』だけに留めている。ーー尤も、ほぼ無条件に相手の攻撃手段のほとんどを奪ってしまう時点でかなりチートに近い領域なのだが。

 

 だがそれも、サイコシャードは破壊可能であるため、完全に展開される前に破壊することが出来れば、武装の自壊もされることはない。

 そのことを知っている者達が急いでネオ・ジオングへ接近しようとするが、それを守るようにⅡネオ・ジオングが立ち塞がった。

 まだ攻撃手段をほとんど失っていないⅡネオ・ジオングの攻撃がダイバー達の行く手を阻む。

 

「やばいっ、サイコフィールドが展開されるよ!」

 

 ハルナがそう警戒を促すものの、この月周辺全てがネオ・ジオングのサイコシャードの効果範囲内だろう。

  

 ここで武装の大半を失ってしまえば、ネオ・ジオングはおろか、Ⅱネオ・ジオングの撃破も困難になってしまう。

 

 

 

 

 

 ーーーーーだが、突如彼方から蒼白の光の柱、その一対がネオ・ジオングのサイコシャードの光輪を薙ぎ払った。

 破壊されたサイコシャードではサイコフィールドを展開できず、ダイバー達の武装の破壊は免れた。

 

「サテライトキャノン!?どこから……」

 

 サヤはその光の柱ーーサテライトキャノンの放たれてきた方向を見やる。

 それは、ツインサテライトキャノンを展開したガンダムDXと、それに随伴する複数のガンプラ。

 

「少々出遅れたが、ここから取り戻すぞ」

 

「フォース・サンダーバード……ローランさんか!?」

 

 それは、ローランのガンダムDX。

 しかし、サヤはひとつ疑問を覚え、ガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルをそちらに向かわせる。

 

「援護をありがとうございます。ですけど、月からの送電も無しにどうやって……」

 

 そこまで言いかけてサヤは、ガンダムDXがいくつものコンテナ状の物体に繋がれていることに気付く。

 

「そうか、これはマイクロウェーブの余剰電力を蓄えたコンテナか」

 

「その通り。撃てるのは一発限りだが、月からの送電無しでツインサテライトキャノンを撃つことが出来るのだ」

 

 その一発を撃ち終えたコンテナは次々に切り離され、僚機からバスターライフルとディフェンスプレートを受取るガンダムDX。

 

「総員突撃せよ!そして、この戦いを勝利で終わらせるぞ!」

 

『『『『『了解!』』』』』

 

 リーダーであるローランの号令の元、サンダーバードのメンバー達も次々に躍りかかっていく。

 

 

 

 

 

 ネオ・ジオングのサイコシャードを破壊された。

 これでネオ・ジオングの脅威は半分を下回ったと言っても良い。

 だとしても、まだ残ったファンネルビットや超大型ハイメガ粒子砲が生きているため、予断は許さない。

 

 ネオ・ジオングとⅡネオ・ジオングが並列し、なおも激しい弾幕を張り続ける。

 

「よし、このまま攻め続ければ……」

 

 メガデッサの粒子チャージの完了を確認したミツキは、このまま冷静に攻め続ければいつかは両方とも倒せるだろうと見通しつつ、GNハイメガランチャーを構え直し、ライフル型コントローラーを覗き込みーー

 

 信じたくない光景を見てしまう。

 

 それは、メガ粒子砲やサイコシャード発生機を破壊されたはずのネオ・ジオングが、侵食再生しつつあるのだ。

 

「ちっ、再生能力まで備わっているとは……ッ」

 

 苛立ちを隠そうともせずに舌を打つミツキは、急いでカゲトラと通信を繋ぐ。

 

「こちらミツキ。カゲトラ、よろしくない事態です。ネオ・ジオング及びⅡネオ・ジオングにも、再生能力を備えているようです」

 

『あぁ、こちらでもそれを確認した。……しかし、これでは多勢に無勢、とは行かなくなったな』

 

 いくらネオ・ジオングとⅡネオ・ジオングが強大な機体であろうとも、一千万機近いガンプラでじっくりと包囲して袋叩きにしてしまえば、時間は掛かっても確実に倒せる。

 しかし、そこに再生能力があれば話は別だ。

 時間を掛けていてはその端から再生されてしまい、キリが無くなってしまう。

 

 

 

 

 

 マイのレギンレイズギルティは、Ⅱネオ・ジオングのファンネルビットをバスターソードで叩き斬りながら、ネオ・ジオングが再生していくのを尻目にする。

 

「んー、再生されるってのは面倒ねぇ。……ここはいっちょ、"起爆剤"が突っ込むっきゃぁないか」

 

 ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべーーそれもすぐに隠し、マイは自分の妹に通信を繋いだ。

 

「もしもしユイちゃん?ヘイユー?」

 

「なぁにお姉ちゃんっ、こっちはお喋りなんかしてる暇無いけどっ」

 

「ちょーっと、赤い方に突っ込んで来るわ。下手な援護したら、コクピットちょん切って生身で宇宙に放り出すからねぇ」

 

 笑顔でかなり笑えない冗談を口にしてから、マイはグッとアームレイカーを押し出して、レギンレイズギルティを爆発的に加速させる。

 

 襲い掛かるファンネルビットの群れなどいちいち相手にしない、マイは巧妙にレギンレイズギルティを振り回してファンネルビットの隙間を潜り抜けていく。

 そればかりか、ファンネルビットを繋ぐワイヤー同士を絡みつかせて追っ手を封じてしまう。

 懐に潜り込まれると悟ったか、ネオ・ジオングはまだ数を残した巨腕を振り上げてレギンレイズギルティを殴り飛ばそうとするが、

 

「はいご苦労さま」

 

 振り抜かれる巨腕にバスターソードを撫でるように叩けば、その一撃を"往なす"。

 質量による物理的な破壊を目的としたバスターソードで、このような神技にも等しい行為を平然とやってのけるのは、マイを含めても数えるほどしかいないだろう。

 続いて別方向から殴り掛かってくる巨腕も同様に往なし、そのついでに、ブレードキックを装甲表面に押し付けて、スケートのように滑走する。

 正確には、ブレードの接地面を推進力の"軸"にしているだけだが、本来宇宙空間にはない"摩擦力"を伴った機動は、思いの外安定力を生む。

 氷の破片の代わりに火花を散らしながら、マイのレギンレイズギルティは、ひらりひらりとネオ・ジオングからの攻撃をおちょくるように躱し続ける。

 

 それを見ているツルギは、マイの目的を瞬時に悟る。

 

「まさかマイの奴っ、一人で囮になるつもりか!?」

 

 ネオ・ジオングに積極的に攻撃を仕掛けるわけでもなし、それでいながらわざとネオ・ジオングの注意を引くように動き回る。

 その行動の真意は考えるまでもなく、"囮"だろう。 

 しかし、いくら大型MAの多くの弱点である懐近くにいるとはいえ、それも長くは保たないだろう。

 何かの気まぐれでマイが一度でもしくじればその瞬間潰されるのは、目に見えなくとも理解できる。

 

 ならば一刻も早くネオ・ジオングを倒さなければと焦りかけたツルギだが、

 

『待てクサナギ、お前に特命がある』

 

 カゲトラからの通信を聞いて待ったをかけた。

 

「特命?」

 

『あのネオ・ジオング二機に再生能力があるのは分かるな?このまま消耗戦に持ち込んでも勝てん。であれば、奴等の再生能力の"元"を断つしかあるまい』

 

 元を断つ、と聞いてツルギはすぐにカゲトラの意図を読み取り、脈打つ歪な銀塊を見やる。

 

「……月か」

 

『そうだ。いいか、ネオ・ジオング二機の相手は他に任せて、お前は月へ突入せよ。月の中はどうなっているか分からん、十分以上に注意して行け』

 

「分かった!」

 

 ツルギはアームレイカーを捻り返すと、マスラオヘブンズクラウドは加速、突出する。

 

「待ってツルギさんっ、どうするんですか!?」

 

 それを見てミーシャがツルギが呼び止めるが、構わずマスラオヘブンズクラウドは速度をさらに加速させて突っ込んでいく。

 

「俺は月に行く!みんなはデカブツ二匹を引きつけてくれ!」

 

 マイのレギンレイズギルティとフラワーズの砲撃に気を取られているネオ・ジオングと、トレイルブレイザーとロイヤルナイツの攻撃を受けているⅡネオ・ジオングの、ちょうどその空いている隙間へと飛び込もうとする。

 

 しかし、不意にⅡネオ・ジオングのコアユニットであるシナンジュ・スタインのデュアルアイが、マスラオヘブンズクラウドへ向けられた。

 

 放たれたファンネルビットのひとつが、ツルギの背後からメガ粒子砲を放つ。

 

「っ、気付かれ……」

 

 気付いた時にはすでに遅く、メガ粒子の奔流がマスラオヘブンズクラウドを呑み込ーー

 

 みかけた時、フォートレスのMDであるNPDリーオーの一機がプラネイトディフェンサーを展開して割り込んだ。

 しかし、単騎分のプラネイトディフェンサーだけでは防ぎきれず、NPDリーオーは焼き払われてしまったが、マスラオヘブンズクラウドを無傷で守ることが出来た。

 

「ツルギ君とやら!後ろのことは気にするな!」

 

 不意に、NPDリーオーのマスター機であるトールギスコンダクターから、フルメタルシェパードが通信を掛けてきた。

 

「あんた……」

 

「何か考えがあるのだろう?ならば行け!」

 

 そのトールギスコンダクターと言えば、護衛のMDや他のガンプラと共にⅡネオ・ジオングへ砲撃を行っている。

 

「すまん、恩に着る!」

 

 ツルギは彼とまともに言葉を交わしたことは無かった。

 それでもツルギを先へ進ませようとする、その意志は受け取れた。

 

 MDの援護もあり、ツルギはどうにかネオ・ジオングとⅡネオ・ジオングを突破した。

 しかし、月の表面に取り付こうとすると、新たな侵食ガンプラが出現し、ツルギを阻む。

 

「ちっ、しつこいんだよ!」

 

 納めていた『イザナギ』『イザナミ』を抜刀、襲い掛かる侵食ガンプラを斬り捨てて行くが、いかんせん数が多く包囲されつつある。

 このままではまずいと分かっていても、マスラオヘブンズクラウドの速度は遅くなっていく。

 

 その時、遥か彼方から無数の火線が降り注ぎーーしかしそれはマスラオヘブンズクラウドを巻き込むことなく侵食ガンプラだけを正確に撃ち抜いた。

 それだけではなく、なおも増殖している侵食ガンプラの増援も同時に破壊していた。

 

 しかし、その攻撃の正体はツルギからは見えない。

 

 ーー目視も出来ないような超長距離から、何百近い数の敵"だけ"を正確に撃ち抜いたのだ。

 

 神技、と呼ぶには生温いほどの攻撃。

 

「誰かは知らんが助かった、行かせてもらう!」

 

 見えない誰かに感謝しつつ、ツルギは月表面へと急ぐ。

 

 

 

 

 

 距離にして、およそ400000㎞。

 地球軌道上、北緯90°に当たる北極点では、一機のガンプラが蒼翼を広げて、己の持つ火器全てを月の方向へ向けていた。

 役目は終わったとばかり、広げていた蒼翼を納め閉じる。

 この位置からでは、月周辺の詳しい戦況など見えるはずもなく、レーダーの範囲にも限度がある。

 つまるところこのガンプラを操るダイバーは、有視界で見える宇宙空間で点滅しているほんの僅かな光源だけで戦況を正確に読み取り、火器の掃射開始から目標への着弾までのタイムラグも、何もかも計算し尽くした上で援護射撃を行ったのだ。

 これほどまでの神憑りな、否ーー神そのものが行ったかのような絶技を行えるダイバーは、歴代GBNのどこの誰を挙げても当て嵌まらないだろう。

 

 ーーただ、一人の青年を除いて。

 

 それは、光波を伝える可能性(エーテル)の銘を宿した、ストライクフリーダムガンダム。

 

 そのストライクフリーダムガンダムが軌道上から離脱しようとした時、大気圏から何かが重力を振り切って離脱してきた。

 彼はそれを見て敵とは判断せずに、送られてきた通信を聞き取り、短く返す。

 

 時間にしてほんの二秒のやり取り。

 

 たったそれだけの時間で、両者は互いに背中を向けた。

 

 

 

 

 

 月面に到着したツルギのマスラオヘブンズクラウド。

 侵食の根源となっている存在はどこだと辺りを見回すものの、月に見られるクレーター郡はほとんど見えず、侵食物体が月を埋め尽くしている。

 

「クソッ、これじゃどこを抑えればいいか分からん」

 

 そう長々と時間を掛けてはいられない。

 手探りで何とかするしかない、とツルギは行動を開始しようとするが、

 突如、スラスターの蒼炎を纏った白い閃光が飛来し、目視困難なほどの速度のまま、月面に激突した。

 

「何だっ!?」

 

 激突の震動がマスラオヘブンズクラウドにまで響き、何が起きたのかと、ツルギはそちらの方向へ目を向ける。

 その方向には、一機の白き狼王ーーガンダムバルバトスルプスレクスが、手にしていた超大型メイスを侵食した月面に叩き付けていた。

 ちょうど、その空間が開いておりここから月基地の内部へと進入出来るようだ。

 ガンダムバルバトスルプスレクスは超大型メイスを引き抜くと、先端のパイルバンカーをその空間へ指す。

 

 行け、と伝えているらしい。

 

「……」

 

 それを読み取ったツルギは、マスラオヘブンズクラウドの頭部を軽く下げることで了解を示し、空間の奥へと突き進む。

 

 ーーそのガンダムバルバトスルプスレクスが、かつての五年前、『呪われた英雄』と呼ばれていたある一人の男であることなど、気付くはずもなくーー。

 

 

 

 

 

「さて……"仕上げ"に行くとするか」

 

 薄暗い格納庫に、一機のガンプラと一人のダイバーが立った。

 

 

 

 

 

 ツルギが月面基地の内部へ突入する時を同じくして。

 ネオ・ジオングはマイ一人に注意を傾けている間に、ダイバー達の攻撃はⅡネオ・ジオングへと集中していた。

 Ⅱネオ・ジオングの方も、ファンネルビットの数を減らされ、徐々に攻撃手段を失いつつあった。

 しかし、再生途中であるネオ・ジオングとは違い、まだ切り札とも言うべきサイコシャードが生きている。

 ダイバー達はそれを警戒してはいたが、確実にダメージを重ねていると言う現状に、いつしか警戒が慢心に変わっていた。

 

「……何かおかしいですわね」

 

 最初に何かーーⅡネオ・ジオングの行動に不自然さを感じたのは、ミスズだった。

 インコムでネオ・ジオングのファンネルビットのワイヤーを絡みつかせて動きを封じ、ファンネルのビームでそれ焼き払って制御を失わせると言う芸当を見せていた彼女は、これまで押せ押せで迎撃していたⅡネオ・ジオングが急に及び腰になっていることに気づく。

 

「ミスズさん、どうしたんですか?」

 

 近くにいたハルナが、疑問を感じているミスズと通信を繋ぐ。

 

「ネオ・ジオングの戦闘力が落ちているから?いいえ、それにしては……」

 

 ヒュドレインシァを一度後方まで下がらせ、記憶を遡らせる。

 

 Ⅱネオ・ジオングの行動に変化が生じたのはいつか。

 ローランのガンダムDXのツインサテライトキャノンでネオ・ジオングのサイコシャードを破壊した時からか?

 否、その時にはまだ変化らしい変化は無かったはず。

 その後で何か起きたとすれば、マイが単騎で突っ込んでネオ・ジオングの囮になろうとした時。

 恐らく、そこだ。

 だとすれば、Ⅱネオ・ジオングの目的は……

 

「……いけないっ」

 

「えっ?」

 

 ミスズが気付いた時には、もう遅かった。

 

 不意に、Ⅱネオ・ジオングの矛先が別の方向ーーネオ・ジオングを前に囮になっている最中であるマイのレギンレイズギルティに向けられた。

 

 Ⅱネオ・ジオングが及び腰になっていたように見えていたのは、マイのレギンレイズギルティを虎視眈々と狙っていたからだ。

 

 Ⅱネオ・ジオングのファンネルビットのひとつが、レギンレイズギルティに放たれ、組み付いてしまった。

 

「ッ!?」

 

 格納されていたワイヤードリルが牙を剥き、レギンレイズギルティの右のサイドバインダーを喰い破っていく。

 不意の攻撃に動揺しかけたマイだったが、即座にレギンレイズギルティ本体から右サイドバインダーを切り離して、ジャックを防ぐ。

 だが、一瞬でもⅡネオ・ジオングに意識を傾けてしまった、その隙間を狙っていたかのように、ネオ・ジオングは再生した巨腕を振るった。

 それは、指先の砲口で押さえつけるように、レギンレイズギルティを挟んでいた。

 

「やっ、ばっ、まずっ……!?」

 

 ネオ・ジオングはレギンレイズギルティを挟み込んだままハイメガ粒子砲の砲口の目の前に引っ張り出す。

 いくらナノラミネートアーマーに守られているレギンレイズギルティとは言え、アレを直撃してしまえば機体はともかく、コクピットの中のマイはメガ粒子の高熱で焼け死ぬ。

 砲口が集束を開始する。

 

「お姉ちゃんッ!」

 

 マイの窮地を瞬時に察したユイは、本来なら遠距離から砲撃を行うべきはずのガンダムヘビーバスターをネオ・ジオングへと接近させようとするが、その距離は遠い。

 その上、別のファンネルビットからのメガ粒子砲が放たれ、ガンダムヘビーバスターは左足を破壊される。

 

「あっ!?」

 

 撃墜は免れたユイだが、足が止まってしまう。

 そうこうしている内にも、ネオ・ジオングのハイメガ粒子砲が臨界に達しーー

 

 その寸前、レギンレイズギルティとネオ・ジオングの間に何かが割り込んだ。

 それは、シールドを構えたリヒターのブルシュヴァリエ。

 

「はっ、あんた何して……!?」

 

 マイはブルシュヴァリエの後ろ姿に何をするつもりかと怒鳴ろうとして、

 ネオ・ジオングのハイメガ粒子砲が吐き出され、レギンレイズギルティを呑み込むよりも先に、ブルシュヴァリエのシールドに直撃する。

 いくら表面に耐ビームコーティングが施されているとは言え、MAの火力を防ぎ切れるはずもなくーーブルシュヴァリエは爆散した。

 

「リヒターぁッ!!」

 

 その光景を直視したユイは、撃墜してしまっただろう彼の名を悲痛に叫んだ。

 

 ーーーーーしかし、爆風を切り裂いて姿を現したのは、チョバムアーマーを脱ぎ捨てた、左腕を失った本来のアレックスだった。

 

 ブルシュヴァリエは、シールドを破壊される寸前にチョバムアーマーをパージ、爆散したように見えたのはチョバムアーマーを固定していた炸裂ボルトの爆発である。

 同時に、ボルトの爆風でハイメガ粒子砲の余波も弾き飛ばし、"中身"であるアレックス本体を守る。

 シールドと密接していた左腕はどうしても防ぎ切れなかったようだが、戦艦すらも一撃で沈める砲撃をMS単体で防いだのだ、むしろまだ動けることの方がおかしいくらいだ。

 

 結果リヒターは、マイを守りながらもネオ・ジオングの懐に飛び込むことに成功したのだ。

 

「うおぉぁぁぁぁぁァァァァァッ!!」

 

 アレックスは残った右手でビームサーベルを抜刀、フルスロットルの加速の勢いのまま、その切っ先をネオ・ジオングのハイメガ粒子砲の砲口に突き込んだ。

 ジェネレーターを焼き切られたハイメガ粒子砲は暴発、ハルユニットそのものに甚大なダメージを喰らわせたが、その爆発源の間近にいたアレックスはまともに爆風を受け、吹き飛ばされていく。 

 中破レベルのダメージを負ったハルユニットは一部のパーツが崩れ、レギンレイズギルティは拘束から解放される。

 コアユニットのシナンジュはハルユニットのウェポンベイからビームライフルを取り出し、ハルユニットに致命的な損傷を負わせた本人である、リヒターのアレックスへ向けてビームライフルを放つ。

 

 爆風をまともに浴びたショックで動けないアレックスは、避けることが出来ないーーが、その寸前で三角形状の赤光が割り込み、ビームを弾き返した。

 

「全く、相変わらず無茶をしては手間を掛けさせる……」

 

 それは、ノエルのエーデルνガンダムが放った、フィンファンネルのビームバリア。

 ロイヤルナイツの面々はⅡネオ・ジオングの方に攻撃を行っていたが、マイの危機を見てリヒターが単騎で飛び出したのだ。

 とは言え、リヒターの無謀にも見えた単独行動は功を奏し、ネオ・ジオングのハルユニットの大破に成功したのだ、大金星を挙げたと言っても良い。

 

「……ですけど、よくやってくれましたわリヒター。後は任せなさい」

 

 ノエルのエーデルνガンダムは、フィンファンネルを呼び戻すと、近くにいた他のガンプラにリヒターの救助を頼み、自身は再びネオ・ジオングに向き直る。

 

 なおもファンネルビットを飛ばしては抵抗するネオ・ジオングだが、ハイメガ粒子砲の破壊に伴ってIフィールドジェネレーターも機能しなくなったために、その絶対的な防御力は発揮されず、次々に被弾していく。

 

「いいぞっ、今のネオ・ジオングにIフィールドはない!倒すなら今しかないっ!」

 

 サヤが周囲のダイバー達に呼び掛け、奮起させる。

 

「ユイッ、援護を頼むぞ!」

 

「了解!」

 

 ユイの了解を確認して、サヤのガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルはフライヤーフォームに変形、ファンネルビットによるメガ粒子の弾幕を潜り抜けていく。

 

「私も続かせてもらうぞ!」

 

 さらにローランのガンダムDXも、バスターライフルでファンネルビットを被弾させながらもサヤに続く。

 

 その最中に、ユイは長距離から超高インパルス長射程狙撃ライフルを構え、ネオ・ジオングの侵食再生中のフロントスカートへ向けて照射する。

 ジリジリと溶断するように削り取られるネオ・ジオングの装甲。

 その上から他のガンプラが援護射撃を叩き込んでいく。

 

「ツバキが突っ込んだっ、アタシらも続くぞヒメカワっ、ミーシャ!」

 

「うんっ!」

 

「はいッ!」

 

 三人の攻撃を見て、ヤイコとハルナ、ミーシャも続いて突撃していく。

 

 ある程度の距離に踏み込んだところで、ガンダムアスタロトリオートは滑腔砲による砲撃をネオ・ジオングに浴びせつける。

 

「ランダムシュートッ!」

 

 その上から、ハルナの桜花姫頑駄無が回転しながら、『孔雀』を連射、螺旋状に連なるように銃弾がネオ・ジオングに降り注ぐ。

 

 ガンダムヘビーバスターの超高インパルス長射程狙撃ライフルが削り取った部位に300mmの砲弾がねじ込んで炸裂、ダメ押しとばかり『孔雀』のランダムシュートが叩き込まれ、さらにネオ・ジオングがグラつく中、ガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルとガンダムDX、蛇威雄音、エーデルνガンダムが迫る。

 ネオ・ジオングは、ファンネルビットを失った巨腕そのもので、近付いてくる敵機を追い払おうとする。

 

「アタシに任せろっ!」

 

 するとヤイコの蛇威雄音が突出、そのままネオ・ジオングの巨腕に右の拳をぶち込む。

 拳が穿った部位に左手もねじ込ませて、

 

「うおぉりゃあァァァァァッ!!」

 

 そのまま巨腕そのものを真っ二つに引きちぎった。

 超大型可変MSであるデストロイガンダムを、飛び蹴りの一撃で沈黙させられるほどのパワーを持つ蛇威雄音ならば、この程度は容易いものだ。

 

「サヤ君っ、こいつをを使え!」

 

 突撃の最中、ローランはガンダムDXはサイドスカートにマウントしているハイパービームソードを二丁とも抜くと、それをガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルへ投げ渡し、そのままブレストランチャーを速射して牽制を掛ける。

 

「ありがとうございます!」

 

 ガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルはフライヤーフォームの最高速度を維持したままMS形態に変形すると同時に、投げ渡されたハイパービームソード二丁を二刀流で構え、ネオ・ジオング本体のシナンジュへと迫る。

 二機の内、エーデルνガンダムが先に躍り出る。

 

「フィンファンネルッ!」

 

 左肩に提げられたフィンファンネルを放ち、それらはビームレイピアの柄の周囲を周るように回転する。

 フィンファンネルのエネルギーが柄に集束、眩い輝きを放つ。

 

「この輝きこそ、騎士の証!」

 

 エーデルνガンダムはビームレイピアの柄を両手で腰溜めに構えーー

 

「『ペネトレイト・リュミエール』ッ!!」

 

 その集束したエネルギーを最大出力で放出した。

 本来はビームサーベルを形成するエネルギーを、ビームスプレーガンのように発射、さらにそれを回転させているフィンファンネルの出力と併用して粒子加速させることで、擬似的ながら戦略ビーム兵器並の射程と破壊力を持つ、ノエルの必殺技だ。

 

 迫りくるペネトレイト・リュミエールに対して、ネオ・ジオングのコアユニットであるシナンジュは、ウェポンベイからシールドを取り出し、それを前に突き出しながら、ハルユニットから脱出した。

 この攻撃によってハルユニットは完全に破壊され、シールドは格納していたビームアックスごとほぼ使い物にならなくなるが、シナンジュ本体は無傷で凌ぎ切った。

 

「逃しは、しないッ!」

 

 そこへ、ハイパービームソード二丁を構えたガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルが、機体ごと螺旋状に回転しながら追い討ちを掛ける。

 その動作は、サヤの必殺技である『螺旋する先駆電導スパイラル・(ステップリーダー)』と同じだが、自前のビームサーベルではなく、ガンダムDXのハイパービームソードによって行われるそれは、通常のそれとは違う結果を生み出した。

 

「『竜を巻く先駆雷導(トルネイド・ステップリーダー)』ッ!!」

 

 ライトグリーンの竜巻と見紛うばかりのそれは、悪足掻きに袖口からビームサーベルを抜き放ったシナンジュのそれごと呑み込み、斬り刻んだ。

 

 ネオ・ジオング、及びシナンジュ、撃墜。

 

 月を守る二頭の怪物の、一頭の撃破に成功した。

 

「後は、Ⅱネオ・ジオング……ッ!」

 

 ハルナは逆サイドを見据える。

 残るは、Ⅱネオ・ジオングを残すのみ。

 

 

 

 

 

 

 ネオ・ジオングが撃破された。

 その事実は、衝撃となってダイバー達の士気を爆発させる。

 同時に、ネオ・ジオングを攻撃していたダイバー達がⅡネオ・ジオングの方へ攻撃を開始、何万ものビームや銃弾、砲弾がⅡネオ・ジオングを袋叩きにする。

 これには堪らなくなったのか、Ⅱネオ・ジオングはメガ粒子砲やファンネルビットを全て展開しながら、後方の月の方へ飛び下がる。

 

 しかしそれは必死の抵抗などではなく、サイコシャードを展開するための時間稼ぎであった。

 

「ミツキ、チャージは?」

 

 リボーンズガンダムのダイバーは、ミツキにサイコシャードの破壊を頼もうとするが、そのミツキは首を横に振った。

 

「まだです、つい先程に一度発射したばかりです」

 

 メガデッサのメインかつ最強の武装であるGNハイメガランチャーは、単独でもサテライトシステム持ちの機体に匹敵する最大出力を叩き出せるのだが、それ相応の粒子チャージが必要であり、連射も効かない。

 エネルギーの消耗の激しい擬似太陽炉搭載機であれば尚の事。

 

 距離を置かれ、さらに激しくなる弾幕を前に、ダイバー達もその数を減らされ、Ⅱネオ・ジオングの背面に日輪が形成されーー

 

 かけたその瞬間、一筋の黒い閃光がサイコシャードを真っ二つに斬り裂いた。

 

「……あれはっ」

 

 ミツキはその一筋の閃光の正体を見た。

 

「よぉミツキ、真打ち登場ってヤツだ」

 

 黒灰色の体躯に、漆黒の大剣を肩に担ぐのは、ガンダムダブルオーカイザー。

 つまりは、カイドウだ。

 サイコシャードを破壊したのは、そのバスタービームソードによるものだ。

 

「カイドウ先生、てっきりこの中にはいないものと」

 

「悪い悪い、急いで来たつもりだったんだが、ちょいとめんどくせぇのを途中で拾ってきてな」

 

 面倒臭いもの、と言うカイドウのガンダムダブルオーカイザーには、特に何か変わったものは見えない。

 どういう事かとミツキが問い掛けようとしたところで、カイドウが親指をある方向に指した。

 

 その方向に目を向けると、A.B.C.マントに身を包んだ、SDのクロスボーンガンダムX1が、ミーシャのガンダムアスタロトリオートに接触しているのを見る。

 

「ミーシャ、無事か?(み〜ちゃんみ〜ちゃんみ〜ちゃんンヌッ!あぁ会いたかった会いたかったぞみ〜ちゃんッ!あれから1875834秒ぶりだねみ〜ちゃんッ!全くみ〜ちゃんに会いたくて会いたくて会いたくて仕方ないのに会えないせいで何回アソんだことかッ!GBN越しなのが残念で誠に遺憾でならないがっ、今は我慢するとしようッ!それにしても相変わらずみ〜ちゃんは可愛いなァ!グフッ、グフフフフフフフフフフッ、おっといかんいかん(キリッ)な私をちゃんと維持しなくてはみ〜ちゃんにおかしくなったと思われてしまう、気をつけなくては)」

 

 ……そこにいたのは、確かに(色々と危険な意味で)面倒臭いものだった。

 

「ま〜しゃ姉っ、ま〜しゃ姉も来てくれたんだ!」

 

「当然だ(み〜ちゃんのためなら私は例え火の中水の中草の中森の中土の中雲の中み〜ちゃんのパンt……ゲフンッゲフンッ)」

 

 ミーシャがクロスボーンガンダムX1ーーマホ(やべー奴)との再会を喜んでいる(マホ(やべー奴)の方はどちらかと言うと"悦"んでいる)のを尻目に、カイドウはⅡネオ・ジオングに注意を向けながらも戦況を確認する。

 

 サイコシャードを破壊されたⅡネオ・ジオングは、苛烈にファンネルビットやメガ粒子砲をばら撒き、サイコシャードの侵食再生を開始する。

 

「ヤツにも新型ブレイクデカールによる再生能力があるか……よぉしッ!」

 

 カイドウは見知っているダイバー達に次々に指示を飛ばしていく。

 まずはトレイルブレイザーの面々から。

 

「ミツキッ、お前さんらはファンネルビットの破壊に専念しろ!」

 

「何か勝算がおありで?」

 

 ミツキはカイドウの目的を訊く。

 

「接近さえ出来りゃこっちのモンだ、俺が近付くための援護を頼む」

 

「了解しました」

 

 次に、ミスズ達フラワーズと、レンジ達ファイアワークスの同盟軍。

 

「フラワーズ!あんたらはヤツにありったけの射撃を叩き込め!そこのオレンジ色のあんたもだ!」

 

「突然出てきて、いきなり何を……」

 

 ミスズはカイドウの一方的な指示に不満を見せるが、レンジはすぐに了解する。

 

「誰だか知らんが、あい分かった!だが、隙が見えたら俺も前に出る。いいな?」

 

「おぅ、その辺りは任せるぜ!」

 

 それから、もう何フォースかに指示を与えてから、カイドウのガンダムダブルオーカイザーはバスタービームソードを構え直し、Ⅱネオ・ジオングへ突撃していく。

 

 カイドウの指示通り、トレイルブレイザーと他数フォースの面々は、Ⅱネオ・ジオングが飛ばすファンネルビットを破壊すべく迎撃を開始。

 同時に、Ⅱネオ・ジオングの注意を分散させるためにフラワーズとファイアワークス、加えて同様の指示を受けたフォースが、一斉にⅡネオ・ジオングへ砲撃を開始する。

 

「(奴がみ〜ちゃんを痛めつけていると言うのなら……殺すッ!殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すッ!徹底的に完膚なきまでにぐっちゃぐちゃに……グッチョングッチョンにしてぶっ殺すッ!!)」

 

 ミーシャには気付かれないように、殺意の波動をⅡネオ・ジオングに向けるマホ(やべー奴)。どう見ても危険人物そのものだ。

 クロスボーンガンダムX1はビームザンバーを抜き放って、ガンダムダブルオーカイザーの後を追う。

 

 スピニングブラスターを撃ち尽くし、頃合いを見てから、レンジのファストゥスはヒートブレードを抜いて、先行した二機を追うように加速する。

 

「ミスズッ、援護を頼むぜ!」

 

「無理難題を押し付ける旦那様だこと。であれば……天雨ノ奏【五月雨】ッ!!」

 

 ミスズのヒュドレインシァは、突撃するファストゥスの進路を切り開くように、ファンネル全機とインコム、ビームガンを放つ必殺技、天雨ノ奏【五月雨】を放った。

 14筋もののビームは、ファストゥスの進路を塞ぐファンネルビットを直撃させ、破壊した。

 

 後ろから放たれる弾幕を背に、ガンダムダブルオーカイザー、クロスボーンガンダムX1、ファストゥスの三機がⅡネオ・ジオングへと迫る。

 

「先に仕掛ける!」

 

 レンジは一気にアームレイカーを押し倒して瞬時に最高速度にまで加速、ファストゥスの両手に握るヒートブレードが、花火のような幻想的な輝きを放つ。

 

「打チ鳴ラス享楽ノ鼓動ッ!!」

 

 Ⅱネオ・ジオングの懐に飛び込み、ファストゥスはヒートブレードをハルユニットの表面に叩き付けた。

 叩き付けた部位から爆炎が舞い踊り、ハルユニットのスラスター群を次々に爆破していく。

 スラスターの半分以上が破壊されたⅡネオ・ジオングは、まともに動くことすら出来なくなる。

 

 そして、ガンダムダブルオーカイザーとクロスボーンガンダムX1が、Ⅱネオ・ジオングの目の前に躍り出た。

 

「行くぜェ……トランザム!!」

 

 ガンダムダブルオーカイザーは、ツインドライヴに直結されたウイングユニットを広げ、トランザムを起動した。

 放たれるのはGN粒子の光ではなくーー煮え滾るマグマのような、地獄の業火。

 ガンダムスローネドライのGNステルスフィールドのようなそれの周囲には、内部データが破損しているような文字化けした空間が見え隠れしている。

 

 さらに、

 

「(み〜ちゃん……み〜ちゃんは私の、私だけの……グヒッ、グヒヒヒヒヒッ、グゲッヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘッ、み〜ちゃんは私だけの天使ッ!否ッ、神そのものッ!神(み〜ちゃん)に叛くクダル以下ッ、ブルック以下ッ、イオクと同レベルッ!ブヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ、フォカヌポゥッ、み〜ちゃんと私ッ、私とみ〜ちゃん以外の存在は全てゴミッ!み〜ちゃんのお溢れに預かろうとする浅ましきクズッ!残らず纏めて掃除してやるッ、処分してやるッ、消し炭ッ、いいや存在そのものから何も無かったことにしてやるッ!さぁ待っててねみ〜ちゃん!今すぐこのカスを消すからちょっと待っててねッ、その後で私と一緒に……シュコシュコシュコシュコシュコシュコシュコシュコシュコシュコッ、ブピュンブピュンブピュンブピュンブピュンブピュンブピュンブピュンブピュンブピュンッ(以下、30000文字省略))」

 

 マホ(やべー奴)も続く。

 クロスボーンガンダムX1からは、宇宙を塗り潰すほどの暗黒と、内臓物のようなどぎついピンク色が混ざり合ったオーラ、それがビームザンバーに纏わされる。

 

 カイドウ(バカ)とマホ(変態)が手を組んだ。

 もう誰にも止められない、止める術はない、止められるなら止めてみろ、と言うか誰か止めてくださいお願いします。

 これ以上、こいつらを喋らせてはいけない、文面に出してはいけない。

 

 頼 む か ら 誰 か こ い つ ら を 止 め r

 

「イィィィィィンッフェルヌゥオォォォォォッ、ブウゥゥゥルゥアストゥアァァァァァァァァァァーーーーーッッッッッ!!!!!」

「み〜ちゃんッ!!L・O・V・Eぃぃぃぃぃィィィィィーーーーーッッッッッ!!!!!」

 

 ブッ

 

 

 

 

 

【警告】

 

 ※深刻なエラーが発生しました。ただいま内部データの修復中です。しばらくお待ちください。

 

 

 

 (´・ω・`)

 

 

 

 ( ゚д゚)

 

 

 

 \(^o^)/

 

 

 

 

 

 

 

 \(^o^)/

 

 

 

 ( ゚д゚)

 

 

 

 (´・ω・`)

 

 

 

 ※エラーの修復が完了しました。再起動します。

 

 

 

 

 

 

 バシュゥッ、と音を立てながらガンダムダブルオーカイザーはトランザムを停止させ、ツインドライヴユニットを放熱させる。

 一方のクロスボーンガンダムX1も、頭部のフェイスカバーを展開して放熱する。

 

 そこには、何も無かった。

 正確には、Ⅱネオ・ジオングは破片のひとつ、塵のひとつも残らずに"消滅"したのだ。

 

 Ⅱネオ・ジオング、及びシナンジュ・スタイン、撃墜(?)。

 

 ダイバー達はその光景に絶句し、その光景を作り出した二機を見て、口を揃えてこう言った。

 

 

 

『『『『『もうこいつらだけでいいんじゃないかな』』』』』

 

 

 

 それはともかく、ネオ・ジオングとⅡネオ・ジオングの撃破に成功したダイバー達。

 

「さて、後は残存戦力を虱潰しにしていきましょうか」

 

 何事も無かったかのように、ミツキは残る侵食ガンプラを破壊していく。

 

 残る問題は、あとひとつだけ。

 

 ーー彼方から、ひとつの機影が月の中へと飛び込んでいくのが見えた者は、ほんの数人だけだった。

 

 

 

 

 

 月面基地の内部に突入したツルギのマスラオヘブンズクラウド。

 襲い掛かってくる侵食ガンプラを『イザナギ』で斬り捨てながら、進撃を続ける。

 

「ルビスシステムの根源はどこだ……?」

 

 必ずどこかにそれらしい何かが見当たるはずだ。

 かなりの数の侵食ガンプラを破壊したところで、この月面基地の中心部に当たる位置に辿り着くツルギ。

 

「ッ……あれが根源か?」

 

 目の前に見えているのは、歪な銀色の繭に包まれた"何か"。

 ならばアレを破壊する、とツルギはアームレイカーを押し出して、マスラオヘブンズクラウドを加速させる。

 

 すると、繭の周りから火砲のようなモノがいくつも生え始め、生成が完了したものから砲口からビームを放ってくる。

 

「ちっ、邪魔だ!」

 

 ツルギは舌打ちしながらもビームを回避し、マスラオヘブンズクラウドのサイドバインダーからGNキャノンを連射して撃ち返す。

 粒子ビームが直撃し、ビーム砲は破壊されるが、すぐにまた侵食再生させて原型を取り戻す。

 

「破壊しても無駄かッ」

 

 ならば強引に突破するしかない。

 降り注ぐビームを掻い潜りつつ、マスラオヘブンズクラウドは繭に迫ろうとするが、また別の侵食物体が生えてきては、今度はビームサーベルを発振させて、襲い掛かってくる。

 

「クソッ!」

 

『イザナミ』でビームサーベルを弾き返し、返す刀の『イザナギ』でビームサーベルを発振させる侵食物体を斬り捨てるが、これもビーム砲と同様にすぐに再生させてしまう。

 

 近付けばビームサーベル、離れればビーム砲。

 

 単純ながら、全く手数が減らせないのでは突破しようがない。

 ビーム砲を避けることだけなら難しくはない。

 だが、それを掻い潜ったその先にあるビームサーベルの群れも突破しなくてはならないのだ。

 

 突破口があるとすれば、ビームサーベルを破壊した直後であれば、ほんの1秒くらいのタイムラグがあること。

 

 狙うならそこしかない。

 

 腹積もりを決めて、ツルギは再びビーム砲の攻撃を掻い潜り、続いて牙を剥くビームサーベルを見据える。

 

「ハァッ!!」

 

 二刀を同時に振るい、ビームサーベルの侵食部位を切断、ほんの僅かの間、繭への一本道が開く。

 

 今だ、とツルギは一気にマスラオヘブンズクラウドを飛び上がらせて繭へと飛び掛かる。

 しかしーー不意に繭が蠢くと、その中から人間の"手"のような侵食物体が飛び出し、マスラオヘブンズクラウドを押し返した。

 

「なっ、ぐあッ!?」

 

 そのまま壁へと押し込まれてしまう。

 さらに、そこからマスラオヘブンズクラウドを侵食し始める。

 

「くっ、まずっ、いっ……!」

 

 マスラオヘブンズクラウドの各部から、"危険"を示す『DANGER!!』の表示が点滅する。

 抜け出そうにも、完全に壁に押し込まれており、文字通り手も足も出せない。

 

「ト、トランザ……」

 

 トランザムを起動すれば何とかなるかと希望を抱いたツルギだが、既に機体の内部にも侵食し始めており、コントロールを受け付けなくなっていた。

 

「これまでか……?」

 

 僅かでも可能性があればそれに縋るところだが、操縦出来なくなった時点で"詰み"だ。

 ツルギはアームレイカーを手にしたまま俯きかけてーー

 

 

 

 ーー何故か吹き飛ばされた。

 

「うおッ!?」

 

 マスラオヘブンズクラウドは床を転がった。

 何事かとその方へ視界を向ける。

 

「はっ……あれは……、あの、ザクは……!?」

 

 そこにいたのは、ツルギにとって見間違いようのない"ザク"だった。

 

 グレーと青紫色を基調とした配色に、所々にメタリックバイオレットで彩られた、その姿。

 

 その機体こそ、第十九回ガンプラバトルフォーストーナメントの優勝フォースのリーダー、現時点でのGBNランク1位。

 そして、ツルギが今までずっと探し求めていた存在。

 

 

 

 機体銘『ダークネスマスターザク』

 

 ダイバーネーム『ダークマスター』

 

 

 

 そのダークネスマスターザクが、侵食された"手"を打ち砕いたのだ。

 

「あ、あ……あんた、あんたは……」

 

 ツルギは通信を繋ごうとするが、向こうは通信を途絶しているらしい。

 すると、ダークネスマスターザクは一直線に繭へと突撃する。

 ビーム砲が一斉にビームを放ってくるが、ダークネスマスターザクは突撃しながらもその場で高速回転を始め、竜巻を巻き起こす。

 竜巻がビームをかき消すと同時に、その中からダークネスマスターザクが飛び出し、強烈な回し蹴りをビーム砲に叩き込み、ついでに他のビーム砲やビームサーベルにもぶつけさせる。

 それを脅威と見たか、ビーム砲とビームサーベルの注意が、全てダークネスマスターザクに向けられる。

 それら全てを躱しては破壊していくダークネスマスターザクは、モノアイレールを回転させてマスラオヘブンズクラウドに向ける。

 

 ーー今の内に、行けーー。

 

 そう言われた気がした。

 

「!」

 

 その意図に気付いたツルギは、急いでコンソールを再起動させて、マスラオヘブンズクラウドを立ち上がらせる。

 そして、

 

「トランザムッ!!」

 

 擬似太陽炉から眩いまでの朱い輝きを放ちながら、マスラオヘブンズクラウドは銀色の繭へと向かう。

 すると、またも繭の中から今度は左"手"が飛び出してくるが、それはもうツルギの見切りの範疇だ。

 マスラオヘブンズクラウドは押し返そうとしてくる"手"を飛び越えると機体を翻し、『クロガネ』を抜刀した。

 

「この魂の焔、己の仁義を貫き、斬り開いてみせろ!」

 

 その刀身に、擬似GN粒子を纏わせてーー焔へと変化させた。

 ツルギの必殺技である烈火爆焔拳の、その応用だ。

 

「断ち斬れ!『猛火灼焔斬(もうかしゃくえんざん)』ッ!!」

 

 振り下ろされた猛火の一閃。

 焔そのものが刃であるそれは、歪な銀色の左腕を真っ二つに斬り裂いてみせたが、超高熱の焔を刀身に当て続けたせいか、『クロガネ』は使い物にならなくなってしまう。

 

 しかし、今度こそ繭までの道を邪魔するモノは何も無い。

 

『クロガネ』をその場に捨てて、マスラオヘブンズクラウドは繭に迫る。

 恐らくこれが、暴走したルビスシステムの根源。

 ならば、これを破壊するまで。

 マスラオヘブンズクラウドの右拳に、焔が躍る。

 

「燃えろ!烈火爆焔拳ッ!!」

 

 渦巻く焔の拳を真っ直ぐ叩き付けて、繭の表層を突き破りーー

 

 その中にいるPSダウンしたクラティアプロヴィデンスガンダムを発見する。

 

「ッ、お前……!」

 

 トランザムが停止し、擬似太陽炉が焼き切れる中、マスラオヘブンズクラウドはクラティアプロヴィデンスガンダムのコクピットハッチを強引に引き剥がして、中にいる『サラ』に手を差し伸べる。

 

「なんでこんなところに……おい大丈夫か!?」

 

 それを見て、『サラ』は弾かれたようにマスラオヘブンズクラウドを見上げる。

 しかし、『サラ』はその掌を拒絶した。

 

『何を今更……この暴走を引き起こしたの僕のミスだ。だったら、早く僕を消せばいい。それなら侵食も止まる』

 

「おいおい、それで「はいそうですか」と頷くとでも思ってんのか」

 

 マスラオヘブンズクラウドの掌を見て、『サラ』は泣き叫ぶ。

 

『僕が死ねば、何もかも元通りになって終わる……こんな戦いだって終わる……さぁ、早く僕を殺してくれ……ッ』

 

「……ふっざけんなこのっ、バカ野郎ッ!!」

 

 ツルギはコクピットハッチを開けて、クラティアプロヴィデンスガンダムの中に入り込んで、『サラ』の胸ぐらを掴み上げる。

 

『う……ッ?』

 

「軽々しく死ぬなんて口にしてんじゃねぇッ!電子生命体だかELダイバーだか知らねぇがっ、死んだらそこでおしまいだろうがッ!俺は言ったはずだぞっ、死ねばそれで済むなんて思うなってなッ!」

 

 怯む『サラ』に、ツルギは額を打ち付けて叫ぶ。

 

 

 

「情けなくてもいい、みっともなくてもいい!お前も人間のつもりなら、生きるのを諦めるなッ!!」

 

 

 

 

『ッ……!』

 

「分かったんなら俺と一緒に来い!後で説教してやるからな!」

 

 ツルギはそのまま強引に『サラ』をマスラオヘブンズクラウドに連れて行こうとするが、

 

『君は、本当に強い人間なんだね』

 

 不意に、『サラ』がそう言った。

 その者の声とは思えないほど、穏やかに。

 

 そして、いきなりツルギをコクピットの外から、マスラオヘブンズクラウドの掌へ突き飛ばした。

 

「ぐっ!?おいっ、何を……!?」

 

『ごめんね、それでもやっぱり、僕は自分が許せないんだ』

 

『サラ』はコンソールを打ち込むと、クラティアプロヴィデンスガンダムのセーフティシャッターを閉じた。

 

『今から、この機体の核動力を自爆させる。それで月の侵食を全て吹き飛ばせるはずだ。だから、君は早く逃げた方がいい』

 

「自爆させるだと!?バカなこと言ってんじゃねぇっ、今すぐやめろ!」

 

『無理に機体を破壊しても核動力は爆発する。そうなれば君だって助からない』

 

「諦めるなって言っただろうがッ!」

 

『それは、君のやるべきこと。自分の果たすべき責任があるって言ったのは君のはずだ』

 

「お前ッ……」

 

 ツルギはクラティアプロヴィデンスガンダムのセーフティシャッターを叩いた。

 

「おいっ、本気で自爆するってのか!?」

 

『ツルギ。僕は今日、君に「最後まで生きるのを諦めるな」って言われるために生まれて来たんだと思う』

 

「シャッターを開けろ!俺はまだお前に説教しなきゃいけないことがあるんだぞ!」

 

 

 

『ありがとう。……さようなら』

 

 

 

『サラ』はコンソールを打ち込み、自爆装置を作動させる。

 15:00のカウントダウンが開始された。

 

 

 

「……もう、止められないのか?」

 

 ツルギはセーフティシャッターを力無く叩いた。

 そんな彼を見兼ねたように、ビーム砲とビームサーベルを全て破壊してきたダークネスマスターザクが、マスラオヘブンズクラウドに歩み寄ってきた。

 その丸みを帯びたマニュピレーターが、出入り口を指した。

 

「……」

 

 もう、ここでツルギに出来ることはないだろう。

 ひとつだけ出来ることがあるとすれば、ここから無事に脱出することくらいか。

 

「……この、大バカ野郎」

 

 最後にそう呟いてから、ツルギはマスラオヘブンズクラウドに乗り込み直し、その場から脱出する。

 その後を、ダークネスマスターザクも続く。

 

 

 

 

 

 十五分後きっかりに、クラティアプロヴィデンスガンダムは自身の心臓である核エンジンを暴発させた。

 

『ELダイバーに、生まれ変わりってあるのかな』

 

 自分の口から放ったその声も認識出来たかどうかも定かでないまま、『サラ』は放射能の奔流に呑み込まれた。

 

 

 

 

 

 マスラオヘブンズクラウドとダークネスマスターザクが、月からの脱出に完了してほんの少しの間を置いてから、月が内側から大爆発を起こし、侵食された部位を焼き払い、吹き飛ばしていく。

 

「ツルギくんっ!」

 

 マスラオヘブンズクラウドを捕捉すると同時に、ハルナの桜花姫頑駄無が、真っ先に飛び出してきた。

 

「大丈夫っ?」

 

 誰よりも早く飛んできては身を案じてくれる幼馴染みがいる辺り、もしかしたら自分は幸せ者なのかもしれないな、とツルギは声にせずに呟く。

 

「俺は大丈夫だ。トランザムでマスラオの太陽炉が壊れたくらいだ」

 

「そっか、良かったぁ」

 

 安堵に胸を撫で下ろすハルナ。

 ふと、マスラオヘブンズクラウドともう一機に目を向ける。

 

「あれっ、ねぇツルギくん……あのザクって、もしかして……」

 

 桜花姫頑駄無が、ダークネスマスターザクに目にすると、ダークネスマスターザクは踵を返して、どこかへ飛び去ってしまった。

 

「あっ、待てっ、待ってくれ!」

 

 飛び去ろうとするダークネスマスターザクを、慌てて追おうとするツルギだが、ブールしていた粒子が底を付き、マスラオヘブンズクラウドは停止、右手だけが伸ばされる。

 

「あんたはっ、次元覇王流拳法の使い手なんだろ!?」

 

 全周波通信に切り替えて、ツルギは必死に呼びかける。

 

「俺はずっとあんたを探していたんだ!俺にっ、その拳法を……ッ」

 

 やはり通信は途絶されたままらしく、ダークネスマスターザクは、そのまま見えなくなるような場所まで行ってしまう。

 ツルギは、その姿が見えなくなるのを見送るしかなかった。

 

「……行っちゃったね」

 

 ハルナの桜花姫頑駄無のマニュピレーターが、マスラオヘブンズクラウドに触れる。

 せっかく次元覇王流拳法の使い手と出会えたと言うのに、言葉を交わすことすら出来なかったのだ。

 さぞかし残念だったろうとハルナは慰めるつもりだったが、ツルギの顔はどこかスッキリしていた。

 

「ま……いいか」

 

「……?」

 

 何がいいのか、とハルナは小首を傾げた。

 

「俺が今まで追い掛けていた夢は、幻想なんかじゃなかったんだ。確かに、そこにある現実(リアル)だった」

 

 グッ、と右の拳を握ってみせるツルギ。

 

「今すぐここで、じゃなくてもいいさ。いつかまた、どこかで会えるんだって分かった。……俺も、そのいつかまたの日が来るまで、もっと強くならなきゃな」

 

「ツルギくん……」

 

 どうやらハルナの心配は杞憂で済んだらしい。

 

「さ、帰ろうぜ。俺達の居場所に」

 

 マスラオヘブンズクラウドは踵を返そうとするが、うんともすんとも言わない。

 

「あ、そういや粒子残量が尽きてたんだったか……」

 

「もう、ホントにツルギくんは無茶しかしないんだから……」

 

 そう言いつつも微笑ましげに、ハルナは桜花姫頑駄無に、マスラオヘブンズクラウドを支えさせる。

 しかし、桜花姫頑駄無のエネルギーも既に限界を迎えていたらしく、中途半端にスラスターを噴かせただけだった。

 

「何だよ、お前だって無茶してたんじゃねぇか」

 

「ツ、ツルギくんほどじゃないもんっ。後先考えずにトランザム使って動けなくなって困ったりしないもんっ」

 

「はいはい、俺の方が無茶してるよ。悪かったな」

 

 そんなどっちも動けない二機を見て、仲間達が近付いてくる。

 

 結局、可変機であるサヤのガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルに牽引してもらう形で、ツルギとハルナは帰還する。

 

 

 

 

 

 戦いは終わった。

 そのことに世界中のダイバーが湧く中で、ミツキは一人、密かにサウンドオンリーの通信を繋いだ。

 

 通信先の相手は、ダークネスマスターザク。

 

「良いのですか?ツルギに、次元覇王流拳法とやらを教えなくて」

 

 すると、ツルギの前では通信を拒絶しているはずの、相手からの、距離があるせいでややノイズの混じった応答が返ってくる。

 

『フッ、俺とてこの流派を完璧に会得しているとは言えん。しょせんは、准将の真似事をしているだけのこと』

 

「さようでございますか」

 

『なぁに心配するな。……いつか、奴が俺と対等に戦えるようになる、その時を待つばかりだ』

 

「では、私の口からは話さないでおきましょう」

 

『メッセージに書いて伝えようとするなよ?』

 

「手話もアイコンタクトもしませんし、暗号通信もモールス信号も発信しませんよ。ついでにテレパシーもね」

 

『小指に誓えるか?』

 

「何か行き違いが起きた際に弁明出来ませんので、指を詰めるのは無しでお願いします。針千本飲ますのも無しで」

 

『無責任な奴め』

 

「なんとでも。私は我が身が可愛いので」

 

『では、そろそろ失礼するとしよう。さらばッ』

 

 通信は切られた。

 ミツキはそれ以上何かをすることもなく、フォースメンバーと共に帰還した。

 

 

 

 

 

 誰もいなくなった月に、一機のガンプラが降り立った。

 

「ここでいい?」

 

 青年は、側にいる少女に声を掛ける。

 

「うん、ありがとう」

 

 少女は頷いて礼を言うと、静かに目を閉じた。

 心を澄まし、見えない何かを探すようにーーーーー

 

 

 

 

 ーーーーー少女の意識は、電脳空間のどこかにいた。

 

 何も無い虚無の光の中に溢れるのは、泡沫につつまれた誰かの思い出。

 無数のそれらーー深層意識とも言える、誰かの思い出や記憶は、川のように流れ出てくる。

 奔流とも言うべき"情報"の波を掻き分けて、少女は目的の姿を探す。

 

 波と言う波を乗り越えたその先へと辿り着く。

 

 少女の視界の中のは、自分と同じ容姿を持った少女が、俯くように座っている。

 電子の肉体を失った彼女は、魂(データ)だけとなってこの電脳空間を彷徨っていた。

 すると、その虚ろな金色の瞳が少女に向いた。

 

『……誰?』

 

「わたしは、"サラ"。……あなたも、『サラ』」

 

『『サラ』?違うさ、僕は"エル"だよ。……僕はただの、"サラ"の名を騙っていただけの、偽物に過ぎない』

 

「それでも、あなたはわたしで、わたしはあなた」

 

 少女ーー"サラ"は、"エル"に優しく語り掛ける。

 

「あなたは、わたしが持っていなかったーーうぅん、持つことをやめてしまったモノを、ずっと背負っていてくれた」

 

 その言葉を聞いて、"エル"は苛立ちと怒りを覚えた。

 

『そうさ、君はいつだってそうだった。楽しくて嬉しいことばかり覚えて、優しくて暖かな気持ちを持った友達にも囲まれていた』

 

「……うん」

 

『僕は人間の薄汚くて穢らわしくて醜くて冷たくて、酷いことばかり見ていて、ずっとひとりぼっちで、いつ誰かに消されるのかとオドオドするしかなかった』

 

「……うん」

 

『そんな"お前"を僕は許せない!どうしてお前ばかり!どうして僕には分けてくれないのさ!お前が何もかも独り占めしている間、僕は殺されないように必死だったんだ!』

 

「……うん」

 

『僕だって……僕だって!仲間と一緒に楽しくてワクワクするような時間を過ごしたかった!なんでどうして何故意味が分からない!』

 

 不意に"エル"は声のトーンを落とした。

 

『……なのに、ちくしょう。どうして僕はこんな方法しか取れなかったんだ。こんなはずじゃなかったんだ。こうすれば僕だって楽しくて嬉しいことが出来るんだって信じてたのに』

 

 歯を噛み締めて、心の脆さを必死に喰い止める。

 

『……僕は、何がいけなかったの?どうすれば僕はお前と同じようになれたの?お前と僕の、何が違うの?ねぇ、教えてよ……教えろよっ、教えてくれよぉッ!』 

 

「……ごめんね」

 

 "サラ"は囁くようにそう言うと、静かに"エル"に歩み寄る。

 

「わたしはあなたに押し付け過ぎた。あなたがずっと一人で泣いていたのを無視し続けてた。……楽しくて嬉しいことが、心地よすぎたから」

 

『だから、「ごめんね」って?ハイこれで謝ったからこれからも同じようにねって、そう言いたいのか!?どこまでいい加減で身勝手なんだお前はッ!!』

 

「だから、これからはわたしもちゃんと向き合うよ。あなたがずっと背負っていていたモノを、全部引き受ける」

 

 "サラ"は、俯く"エル"の頭を手に取ると、優しく胸に抱いた。

 

『…………え?』

 

 むずがる子どもをあやすように、髪を撫でる。

 

「あなたを自由にすることは出来ない。だけどせめて、わたしと一緒に、わたしの見てきたモノと、これからわたしの見る世界を見てほしい。……わたしと、ひとつになって」

 

『ひとつになって、って……?』

 

「あなたの心を、わたしの中に取り込む」

 

『バカな……もう僕の心は汚れきっている。それを取り込んだりしたら……きっと、"心が壊れる"よ?』

 

「大丈夫」

 

 "サラ"は力強く、そして優しく頷く。

 子どもの必死の訴えを聞いている、慈母のような微笑みを添えて。

 

「わたしだってね、辛いことや悲しいことを経験してないことは無いから。必ず、受け止めてあげられる」

 

 でもその前に、と"サラ"は"エル"を少しだけ強く抱きしめた。

 

「今まで、よく頑張ったね。もう、苦しまなくていいんだよ。ずっと我慢してた分も、泣いていいからね。……ありがとう、"エル"」

 

『ッ……!』

 

 怒りと憎しみと悪意で塞き止めていたダムが、決壊した。

 

『うぅ……ぅあっ、っくあぁ……ッ』

 

 それは、"涙"と言う名の感情の証明。

 

 

 

『うわあぁぁぁぁぁァァァァァ……ッ!!』

 

 

 

 止まらない。

 痛みや悲しみ、そして懺悔がポロポロと溢れ出る。

 

『ごめっ……ごめんな、さいっ……ぼ、僕は、わ、"わたし"っ、わたしはぁ……ッ!』

 

「うん、うん」

 

『どう、してっ、っひっ、どぉして……ッ』

 

「大丈夫。今なら……」

 

 "サラ"は静かに目を閉じた。

 それに呼応するように、首に提げられたネックレスが優しく輝く。

 その輝きに吸い込まれるように、"エル"は姿を消した。

 

 キンッ、と小さな音を立てて、ネックレスが揺れた。

 

 

 

 

 

 同時に"サラ"に、重く冷たく穢らわしく醜いモノが伸し掛かる。

 

「ーーーーーウっ、ぷッ!?」

 

 否、腹の底から涌き上がった。

 

 妬み。

 怒り。

 憎しみ。

 悲しみ。

 悪意。

 殺意。

 

 憎悪。

 

 足の裏から頭の天辺と、口から腹の底にまで、蟲が這い渡るような、寒気と吐気、拒絶感。

 

 何千万ものネガティブーーそれらをひとつの魂に凝縮されたソレは、如何ともし難いほどグチャグチャでブヨブヨでネチョネチョでグチュグチュでドロドロでビチャビチャで

 

 気 持 ち 悪 い 。

 

 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 それでもーーーーーッ!!

 

「んッ……くっ、ぅんッ……っ」

 

 ここでそれらを吐き出してはならない。

 吐き出せば、"エル"を拒絶することになる。

 これを呑み込んではならないーー本能が拒否を叫ぶものの、"サラ"は本能を理性で押さえ付けて、呑み込んだ。

 

「……はっ、ふゥ……、ふぅ……はー……」

 

 "サラ"は全てを受け止めてみせた。

 これでもう、"エル"はひとりぼっちで苦しまなくてもいい。

 次に苦しむことがあるとしても、それはひとりぼっちではない。

 

 嬉しいことも楽しいことも良いことも辛いことも悲しいことも嫌なことも、何もかも全て共有し合うのだから。

 

 "サラ"は電脳空間から飛び去りーー

 

 

 

 ーー"サラ"の魂が、電子の肉体へと戻り着いた。

 

「サラッ、大丈夫!?」

 

 コクピットの中、ずっと側にいてくれた青年の声が、"サラ"は覚醒する。

 

「…………うん。わたしは、もう大丈夫」

 

 初めてのフォース戦で彼から贈ってもらった、四つ葉のネックレスに触れる。

 

「"この娘"も、大丈夫。だから、わたし達も帰ろう」

 

「よし」

 

 青年は"サラ"の了承を得てから、機体を起動させ直す。

 

「トランザムインフィニティ」

 

 光る翼を広げ、崩壊した月から一機のガンプラが飛び去った。

 

 

 

 

 

 新型ブレイクデカールこと、ルビスシステムによる、『ファーストELダイバー・サラ』を名乗る電子生命体による運営権の乗っ取り、及びそれに伴う月のサーバーを巡る戦いは、ここにて幕を閉じた。

 

 後に『ELダイバー動乱』と呼ばれた出来事であった。

 

 

 

 

 

 それから三日間ほど、GBNはサービス配信をストップしていた。

 ルビスシステムによる汚染は完全に除去されたものの、その副作用による内部データの破損などはそのまま放置されたままであったため、GBN現運営陣はこの破損の修復と、セキュリティーの強化を最優先とした。

 そこから各種システムのアップデートやプログラムの一新した他、"准将なる人物"による提供によってルビスシステムのデータを入手、それをベースとした修正パッチの作成も急いだ。

 

 その結果、安全性を大幅に一新させた上で、GBNは再びサービスを配信し始めた。

 

 この三日の間、ツルギ、ハルナ、ユイ、マイ、ミハイル、サヤ、ヤイコ、カゲトラの八人も行動に出ていた。

 まず、行方不明になっていたマイの安否確認。

 これに関する状況説明をユイとマイの家族と警察に話すだけで丸一日も掛かるハメになった。

 

 二日目は、今回の事件解決に大きく関わったために、なんと静岡のホビーセンターに招聘されたのだ。

 あの『サラ』の運営権の乗っ取り宣言後から24時間後と言う驚異的な早さで事件を収束に導いた、そこに至るまでの過程を徹底的に聞かれ続け、それを隠しもせず誇張もせずありのままを答えさせられる、もはや容疑者への質疑応答もかくやと言うレベルだった。

 彼ら八人の意見が、今後のGBNの運営を担うに当たっての重要参考になると言う。

 これもまた朝早くから静岡に赴いて、しかも静岡のホテルで泊りがけまでした。

 

 三日目にようやく静岡から帰って来た頃には、もう昼過ぎ。

 その帰りに、ホビーセンターから今回のお詫びとお礼を兼ねて、一人につき一万円相当のガンプラが贈呈された。

 ちなみにこの三日間ツルギ達は、非常に特別的な理由によって学校は公欠扱いになっている。

 

「ったく、ようやく解放されたなぁ」

 

 ツルギは疲れたように溜息を吐く。

 

「う〜ん、何だかこの二日で肩凝っちゃったよ……」

 

 ハルナは肩を回して背伸びをする。

 警察や会社勤めの大人を前に敬語を使いながら話すと言うのは、意外と精神的に負担になる。

 

「ん……まぁ、私達の「電子生命体達のことをもっと考えてください」って訴えだってちゃんと聞いてくれたじゃない」

 

 ユイは欠伸を噛み殺す。

 そう、そもそもの事の発端は、運営が電子生命体達に対して誤った対応をし続けていたことに他ならない。

 同じ轍を踏むまいと、運営の人間達も真剣に話を聞いてくれていた。

 

「ふあぁぁぁぁぁ……マイちゃん難しいお話は苦手なのよねぇ」

 

 そのユイとは対照的に、今回の特に重要参考人であったはずのマイは遠慮なく欠伸を洩らす。命を落とすかもしれなかったような目に遭っていながらも、緊張感がまるで無い。そんなふてぶてしさこそが、マイらしさなのかもしれないが。

 

「アップデート後のGBNは、どうなるんでしょうね」

 

 確か今日からアップデート明けのはずですし、とミハイルはこれからのGBNに期待を膨らませる。

 

「基本的な部分は特に変わらないらしいが、新しいエリアやミッションは増えるだろうな」

 

 それより俺は生徒会の方が心配なんだが……とは思いつつも口にはしないサヤ。

 

「あー……固っ苦しいのは、しばらく無しにしてもらいてぇモンだ……」

 

 何度も警察のお世話になっているために肩身が狭く、スーツを着こなした社員なんぞ面と向かったこともないヤイコにとって、この三日ほど疲れるものは無かった。

 これなら実家で巫女の真似事でもしている方が少しはマシだと思うくらいだ。それでも、"少しはマシ"だが。

 

「うむ。何はともあれ、これにて一件落着だな」

 

 相変わらず胡散臭さメイジン 〜通常の六倍のフラメンコの情熱〜 であるカゲトラ。

 ちなみに、カゲトラだけがさも本当のことのように、デタラメばかり言っていたらしい。

 

「どうせ公欠扱いで、今から学校行っても仕方ねぇしな。この後何も予定が無いなら、これから皆でGBNにでも行くか?」

 

 ツルギが何気なくそう聞けば、全員からOKが返ってくる。

 

 

 

 

 

 スピリッツのフォースネストから出撃、蒼空へと飛び立つ八機のガンプラ。

 

 ツルギのマスラオヘブンズクラウド。

 

 ハルナの桜花姫頑駄無。

 

 ユイのガンダムヘビーバスター

 

 マイのレギンレイズギルティ

 

 ミーシャのガンダムアスタロトリオート

 

 サヤのガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲル

 

 ヤイコの蛇威雄音。

 

 カゲトラのザクⅠ。

 

「さて、三日ぶりのGBNだが、今日はどうする?」

 

 最初にサヤが周りの意見を訊く。

 

「アタシは前に失敗したア・バオア・クーのミッションがしてぇな」

 

 ヤイコは以前に自分が選んで呆気なく失敗したミッションを挙げる。

 

「ちょうど八人いるし、四人同士で模擬戦って言うのも良いんじゃないかしら」

 

 ユイは身内でのチームバトルの案を挙げた。

 

「それも良いですけど、ボクは新しく出来たサーバーにも行ってみたいです」

 

 ミーシャは新規で追加されたサーバーの探索をしたいと言う。

 

「どれにするか迷うねぇ、ツルギくんは?」

 

 ハルナはツルギにも意見を求める。

 

「そうだな……」

 

 ツルギは、蒼空の先を見据える。

 

 あの月での戦いで、ほんの僅かの時間だけ共に戦った、次元覇王流拳法の使い手、ダークマスター。

 自分が目標としている、あの者と同じ境地に辿り着くまでに、どれほどの時が必要なのかは分からない。

 

 ーー案外、その存在は近くにいるのかもしれないがーー

 

 それもあるが、今はむしろ……

 

「(まだ俺は、この世界に足を踏み入れたばかりだ)」

 

 もっとガンプラバトルを、ガンダムと言うコンテンツを楽しみたいと言う想いが強くなっている。

 

「んじゃぁせっかくだ、新しく出来たサーバーってのに行ってみるか」

 

 ツルギのその言葉に、全員が頷いた。

 

「じゃ、マイちゃんが一番乗りしちゃおーっとっ」

 

 我先にと、マイのレギンレイズギルティが加速して、サーバーゲートへ突入していった。

 

「ちょっとお姉ちゃんっ、一人で先に行かないでよ!」

 

 ユイのガンダムヘビーバスターもその後を追う。

 

「じゃぁ、ボクも行きますね」

 

 ミーシャのガンダムアスタロトリオートも突入していく。

 

「新しいサーバーか。どんな喧嘩が出来るか、俄然燃えてきたぜ!」

 

 ガキンッ、と拳と掌を打ち付けて、ヤイコの蛇威雄音も続く。

 

「なら、俺も行くとするか」

 

 サヤのガンダムAGE-2 ヴィントフリューゲルは、フライヤーフォームに変形、速度を上げて他の皆の後を追う。

 

「ほらツルギくん。わたし達も行かなきゃ、置いてかれちゃうよ」

 

 ハルナの桜花姫頑駄無が、早く行こうとツルギを促す。

 

「おぅ、そうだな。……でもハルナ、これだけは言わせてくれ」

 

「ん、なぁに?」

 

 モニター越しのハルナを見つめながら、ツルギは素直な気持ちを伝えた。

 

「ハルナ、俺をGBNに誘ってくれてありがとう。これからも、よろしくな」

 

「……やだもう、何そんな改まっちゃって」

 

 GBNはダイバーの状態に応じて顔色まで再現してくれるので、きっと頬が赤くなっているのは丸わかりだろう。

 それを見られるのが何だか照れ臭いので、ハルナはふいっと顔を背けた。

 

「ご両人よ。門出を祝うのは結構だが、俺も先に行かせてもらうぞ」

 

 カゲトラのザクⅠも、二人を置いて先に行く。

 それを見送ってから、ツルギとハルナは目を合わせた。

 

「んじゃ、俺達も行くか」

 

「うんっ♪」

 

 ツルギは、自分の行方を見上げる。

 

 新たな世界、このソラの果てまでも。

 

「ツルギ、マスラオヘブンズクラウド、参るッ!!」

 

 

 

 

 

 END


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