ツルギのマスラオが振るう『ハワード』の一閃が、角張った頭部に三つのカメラアイを持つ機体『ドートレス』を斬り裂いた。
動力部を焼き切られたドートレスは爆発四散する。
しかし、またすぐに別の方向から複数のドートレスが90mmマシンガンを撃ちながら迫り、さらにまた別の遠距離からバリエーション機である『ドートレス・ウェポン』がジャイアントバズや500mmキャノンを持って砲撃を行ってくる。
「ちぃっ、数ばかりごちゃごちゃと!」
マスラオは跳躍して身を翻し、足を止めて弾幕を張るドートレスの群れに飛び込み、着地と同時に『ハワード』『ダリル』の両方を持ってドートレス部隊を両断する。
なおも現れるドートレス部隊の増援。
ミッション名『作戦は一刻を争う』。
『ガンダムX』のサブタイトルのひとつから取られたそれは、アルタネイティヴ基地の制圧、つまりはターゲットの殲滅、もしくは撃退が目的のミッションだ。
出現する敵機のほとんどはドートレスや、それを搭載したピレネー級の陸上艦ばかりで、実際、ドートレスの群れはミッションレベルの低さもあって大したことない相手である。
厄介なのは、大挙して迫ってくることだ。
弱いとはいえ、数に物を言わせる物量攻撃は回避しにくく、ジリジリと確実に耐久値を削ってくる。
さらに消耗したその上から、ミッションボスである『ガンダムヴァサーゴ』『ガンダムアシュタロン』と言う強敵を相手にすることになる。
これでもランクの低いミッションなのだが、GBNに慣れていない初心者には厳しい戦いになる。
粗方ドートレスを撃墜し、ピレネー級も全艦撃沈した辺りで『WARNING!』の赤い表示が現れる。
アルタネイティヴ基地から出撃してきた、赤い悪魔ーーガンダムヴァサーゴと、青紫の奇怪な悪魔ーーMA形態のガンダムアシュタロンだ。
可変機であるガンダムアシュタロンの上に、ガンダムヴァサーゴが乗り込む形で、真っ直ぐマスラオへ向かってくる。
「ここで本命の登場か……上等ッ!」
マスラオは一対のGNビームサーベルを構え直し、現れた強敵に立ち向かった。
GBNを始めてから数日、ようやくツルギもランクがひとつ上がり、Eランクになったところだ。
無事にミッションクリアしたツルギは、格納庫のハンガーでマスラオの整備を行っている。
今回のミッションでも、少なくない損傷を負ってしまったので、修復にはまだ時間がかかる。
「……ふぅ」
我知らず、ツルギは溜息をついた。
ツルギとしては手早くランクを上げて、次元覇王流拳法を知る『ダークマスター』なるダイバーと接触する機会が欲しい。
しかし、ランクは一朝一夕に上がるものではないことも理解している。
分かっている。
分かっていても、不満が無いわけではない。
「そんなクサナギにご朗報だ!」
突如ツルギの目の前に"パッ"とジオンの軍服を纏ったダイバーが現れた。
「おわぁぁぁっ!?」
突然目の前から現れたせいで、ツルギは驚いて思わず後退る。
「って、カゲトラかよ。驚かすなっての……」
「うむ、俺も驚いたぞ。格納庫に移動したら目の前にクサナギがいるのだからな」
いやはや全く……と、カゲトラは驚いたような素振りも見せない。
「……で、ご朗報ってのはなんのことだ?」
気を取り直して、カゲトラの言う"ご朗報"を聞いてみるツルギ。
「しっかりランクを上げたいのであれば、質の高いミッションをこなす他あるまい。と言うわけで、コレだ」
カゲトラはコンソールパネルを呼び出し、それをツルギに見せてやる。
ミッション名『キリマンジャロの吹雪』
『Zガンダム』の舞台の一つである、キリマンジャロ基地で行われる連戦ミッションだ。
連戦ミッションとは、五つのフェーズに分割してバトルが行われる形で進行し、第三、第四フェーズの間にインターミッションエリアでの休憩を挟みつつ、最後の第五フェーズでボスを倒せばクリア、と言うものだ。
「なかなかポイントの高いミッションなのだが、どうだ?」
「なるほどな。さすがに今日はもう上がるが、明日なら受けられるぞ」
明日は日曜日で、授業も部活もない曜日なので、のびのびとGBNをプレイ出来る。
だがカゲトラは「まぁ、待て」と勿体ぶったように制止する。
「実はこのミッション、ミツキ氏から頼まれたものでな。GBN初心者が一人来るので、同等ランクの者を同行させてほしい、とな」
「それで、俺が呼ばれたわけか?だったら、ハルナやユイも一緒に……」
「残念ながら、ヒメカワ嬢とイチノセ妹にも声を掛けたのだが、お二方は明日、リアルの方で予定があるようなのでな」
そう言えばハルナがそんなことを言っていたな、とツルギも思い直す。
「代わりと言ってはなんだが、今回のミッションは俺も同行させてもらおう」
それを聞いて、ツルギは少しだけ意外に思った。
いつものカゲトラなら「本日は別件がある」「准将への報告を行う」などと言っては、ツルギやハルナからの誘いなど受けもしなかった。
だと言うのに、今回に限っては違うらしい。
「これも准将からのご命令でな。まぁ細かいことは気にするなと言うことだ」
カゲトラは、何か言えば"准将"と言う人物を口にする。
彼はその准将の命令によって動くらしいのだが、どう言う人物なのか聞いてみれば、カゲトラ本人曰く『ある時はニュータイプ、またある時はスーパーコーディネイター、そしてまたある時は純粋種のイノベイター。その正体は現代のアグニカ・カイエル』らしい。
全く持って意味が分からない。
とにかく何か凄い人物ということだけが辛うじて分からないでもない。
それはともかく、この連戦ミッションにはツルギだけでなく、カゲトラとビギナーがもう一人入ってくる、と言うことだ。
しかしツルギは目を細めながら、訝しむようにカゲトラを睨む。
「……お前、何を企んでやがる」
疑ってかかられていると言うのに、カゲトラは余裕めいた怪しい笑みを崩さない。
だがこの男は疑われていることへの否定をするどころか、むしろそれを肯定した。
「フッ……さすがはクサナギ、察しの良いことだ。だがな、今回は俺の企みとお前の目的が一致した、と言うことだ」
「利害の一致ってのが微妙に気に入らんが、話には乗る。せいぜい利用されてやろうじゃねぇか」
「おぉっ、さすがクサナギ!お前なら引き受けてくれると思っていたぞ!」
わざとらしく大仰に頷くカゲトラ。
ツルギからすれば、ただただ鬱陶しいだけだ。
「では、時間を指定する。明日の13時にベース基地のエントランスでよろしいか?」
「あぁ、それで構わないぜ」
「了解した。俺はこれから、ミツキ氏と件のビギナーにもこの旨を伝えねばならん。では、さらばだ!」
そう言い残して、カゲトラはコンソールパネルを開いて移動していった。
一人残ったツルギは、マスラオの修復完了を確認して、呟くようにぼやいた。
「カゲトラからの頼み事か……何も無、くはないな」
間違いなく何か厄介なことになる。
そんなしたくもない確信があるのは、これまでにツルギもハルナも、カゲトラの仕業に巻き込まれてロクな目にあったことが無いからだ。
学園一の情報通であると同時に、学園一の問題児でもある。
明日を鬱に思いながら、ツルギはGBNからログアウトした。
翌日。
午前中をのんびり過ごしてから、ツルギはガンダムベースへ赴き、GBNへログイン、ディメンションへダイブした。
「さて、待ち合わせ時間の10分前だが……」
待ち人は来ているだろうか、とツルギはエントランスを見回す。
今回のこともミツキが仲介しているはずなので、あの目立つ紫色の髪を探せば見つかるはずだ。
その探し方は間違っていなかったようで、ミツキの姿はすぐに見つかった。
ミツキの側には、ジオン軍服を着込んだカゲトラともう一人、白い毛皮のような分厚い服にエスニックな意匠が施された、小柄なダイバーがいる。
恐らくあの集まりだろうと判断して、ツルギはその方へ向かう。
ツルギがやって来たことに気付いて、その場の三人は一斉に振り返ってくる。
「こんにちは、ツルギ。お待ちしておりました」
開口一番、ミツキが挨拶をしてくる。
「フッ……待ち合わせ時間の10分前行動とは、なかなか殊勝な心掛けではないか、クサナギよ」
相変わらず胡散臭そうな怪しい笑みを浮かべてくるカゲトラ。
「後はお任せしますよ、カゲトラ」
これから別件があるのだろう、ミツキはコンソールパネルを開いて行き先を選択している。
「うむ、任せておけ。貴殿はこちらを気にすることなく、本懐を成し遂げよ」
「お願いします。では、私はこれで」
それだけ告げてから、ミツキはエントランスから移動していった。
ミツキを見送ってから、カゲトラはツルギともう一人に向き直る。
「さて、み〜ちゃんよ。こちらのジャパニーズサムライが、今回の同行者、クサナギ・ツルギだ」
「誰がジャパニーズサムライだコラ。……否定出来んがな」
カゲトラの紹介にツッコミを入れてから、ツルギは相手の反応を待つ。
すると、目の前の少年は小さく笑ってから、白兎の耳のようなフードを外した。
毛先の跳ねた銀色の髪と、深い碧眼が印象的だ。
「初めまして。ボクは『ミーシャ』です。本当は『ミハイル・ハヅキ・ストロガノフ』って名前なんですけど、このGBNではミーシャです」
よろしくお願いします、とぺこりと深くお辞儀するミーシャ。
「ミツキやカゲトラから聞いているとは思うが、ツルギだ。今日はよろしく頼む」
ツルギが右手を差し出せば、ミーシャも「こちらこそお願いします」と握手を返してくれる。
「ミハイル・ハヅキ・ストロガノフ、……ってミドルネームは日本名か?」
「はい。ボク、出身はロシアなんですけど、日本人のハーフなんです」
「日露のハーフってことか」
双方の自己紹介とフレンド登録を終えたところで、ツルギ、カゲトラ、ミーシャの三人はミッションカウンターで、連戦ミッション『キリマンジャロの吹雪』を受注する。
格納庫にはツルギのマスラオの他に、二機のガンプラが並んでいる。
一機は、ガンダムの原作知識に疎いツルギでもなんとなく分かる、"旧ザク"と呼ばれる『ザクⅠ』、それも最新の『THE ORIGIN』仕様のものだ。
こちらはカゲトラが搭乗する。
もう一機のミーシャが搭乗するガンプラは、氷を思わせるメタリックブルーの装甲と、銀色のフレームが鈍く輝く、ガンダムタイプだ。
右腕にはナックルガードによって固定保持された、銃身の長いライフルを備えている。
バックパックには武装のマウントラッチが配置されているようで、大工道具の金槌のような武器と、予備の武器なのだろう、右腕のライフルよりは小型のライフルが背負われている。
「ほぅ、み〜ちゃんのガンプラは"アスタロトオリジン"ベースのガンプラか」
見上げているツルギの隣に、カゲトラとミーシャがやってくる。
「ふむ……本来のウイングやスタビライザーの代わりに、バルバトス用の胸部装甲、それとグレイズリッターの肩装甲。指し詰め、機動性の代わりに装甲とパワーを重点に置いた機体、と言うことか」
一目見ただけで、カゲトラはペラペラと専門用語を並べ立て、大まかな性能まで挙げてみせる。
「はい、これがボクのガンプラ『ガンダムアスタロトリオート』です」
ミーシャのこのガンプラは、『鉄血のオルフェンズ 月鋼』に登場する『ガンダムアスタロト』の、本来の姿に限りなく近い『ガンダムアスタロトオリジン』と呼称されるガンプラをベースに改造されている。
「……カゲトラ、少しいいか?」
話の区切りを見て、ツルギはカゲトラに話しかける。
「お前、なんでミーシャのこと「みーちゃん」って呼んでんだ?」
「それは違うぞクサナギッ!」
ツルギは何気なく聞いただけなのだが、カゲトラは語気を強くして否定した。
「彼は、「みーちゃん」ではなく、「み〜ちゃん」だ!」
「どう違うんだそりゃ……」
「えぇいッ、何でこれが分からん!」
いつもは胡散臭さが服を着て歩いているようなこの男だが、たまにどうでもいいことにムキになったりするのだ。
「カ、カゲトラさんっ。ボクは呼び方なんて気にしませんから……」
ツルギに呼び方の訂正を強いるカゲトラを、ミーシャは止めさせる。
「むぅ……み〜ちゃんがそう言うのであれば、仕方あるまい」
不満そうながら、カゲトラはツルギに対する矛を納める。
ツルギは何がなんだかと思いながら、キャットウォークを渡ってマスラオに乗り込み、出撃準備を整える。
「ツルギ、マスラオ、参るッ!」
最初にツルギのマスラオが出撃し、
「カゲトラ、ザクで出るとしよう」
次にカゲトラのザクⅠが出撃し、
「ミーシャ、ガンダムアスタロトリオート、いきます!!」
最後にミーシャのガンダムアスタロトリオートが出撃する。
ベース基地より発進したマスラオ、ザクⅠ、ガンダムアスタロトリオート。
「カゲトラ、キリマンジャロ基地ってのはどこにあるんだ?」
ツルギは今回の目的地をカゲトラに訊いてみる。
「キリマンジャロ基地なら、『アフリカン・サーバー』を経由する必要があるな。み〜ちゃんよ、ついてこれるな?」
カゲトラはミーシャと通信を繋いで応答を確認する。
「ボクは大丈夫です」
「うむ。では、行くか」
カゲトラのザクⅠが先行し、その後ろをマスラオとガンダムアスタロトリオートが追従していく。
前方より、ダイバーギアに似た形状の浮遊物体が見えてくる。
アレが、サーバーを移動するためのゲートらしい。
サーバーへの移動空間は、数字の世界で構成されているのだが、ダイバーの視覚には蒼い世界に見えている。
リアルからGBNへログイン、ダイブする際にもこのような蒼い世界が見える。
ダイブする、と言う意味として捉えるのならば、この蒼い世界は"海"なのかもしれない。
海が蒼く綺麗に見えるのは、太陽光の反射も影響していることだが、太陽光の届かなくなってくる深海域では視界が全て青く見える。
さらに深くなれば、ヒトの目では色を感じられない灰色に見え、それよりも先はヒトの知覚では感知出来ない領域にまで達する。
見えているもののその先……そこは、『未知の世界』と言う名の『破滅の戸口』ではないだろうか。
実際、視覚化出来ないような深海は、人間が安易に踏み込めるような場所ではない。
そして、そんな何も見えない、この世の果てのような深淵と言える場所でさえ、生物は存在するのかもしれない。
そのような"かもしれない"と言う想像。
姿も形も定かでない、そんなものを、人はこう呼ぶ。
"魔物"、と。
アフリカン・サーバーを通過、ツルギ達の目下に広がる世界は、広大なアフリカ大陸。
目的地であるキリマンジャロ基地のバトルフィールドの境界も見えている。
それを見据えながら、カゲトラは二人に通信を繋ぐ。
「キリマンジャロ基地に到達後は、各々の自由に戦闘を行って構わない。ただし、ダイバーとしての常識的な節度は忘れずにな」
カゲトラが呼びかけたのは、こう言ったネットワークゲームではありがちな『寄生』や『妨害』と言った行為だ。
自分だけ安全地帯で何もせずにクリアを待つようなことや、故意に他ダイバーを誤射するなどしてプレイ進行を遅延、中断させることはするな、と言うことだ。
「了解」
「分かりました」
ツルギとミーシャから気負いのない応答を聞き、カゲトラは「うむ」と頷く。
「これより、戦闘エリアに突入する。各員の健闘に期待する。以上だ」
境界を通過し、ミッションが開始される。
フェーズ1、スタート。
ほんの数秒後に、下方向からの砲弾やミサイル、ビームが多数襲い掛かってくる。
地表からのトーチカや対空ミサイルランチャー、砲撃戦仕様のガンプラによる迎撃だ。
「行くぞ!」
ツルギはアームレイカーを押し出して、弾幕の中へマスラオを加速させる。
ビームやミサイルを掻い潜り、敵陣のド真ん中へ突入するのだ。
「わっ、あんなに突っ込んで大丈夫なんですか?」
高度を落としながら地表への着陸を優先するミーシャは、もう小さく見えるほどに遠いマスラオを見て驚く。
「フッ……奴はサムライだからな。幾千の矢が飛び交う戦場など日常に過ぎんさ」
カゲトラもミーシャと同じく着陸を優先しながら、ミーシャに間違った認識を教えようとしている。
「スゴいっ、姿だけじゃなくて、心構えも戦い方もサムライなんですね!」
「バカなことやってないで、早く来いよ」
感心しているミーシャを他所に、ツルギは文句を言いながらも『ガンキャノン・ディテクター』や『ガンタンクⅡ』などをバッサバッサと斬り捨てていく。
「ご、ごめんなさい。じゃぁボクも!」
着陸したガンダムアスタロトリオートは前進を開始、右腕のロングレンジライフルを放っては正確に対空砲やトーチカなどを撃ち抜いていく。
「さて、サボタージュしていると思われん程度にやるか」
カゲトラのザクⅠも、ザクマシンガンを連射、寒冷地仕様のジムやミサイルランチャーなどを撃破していく。
大した消耗もすることもなく、第一フェーズをクリア。
続いてフェーズ2へ移行。
次に現れるのは、『ハイザック』や『マラサイ』『バーザム』と言った、ティターンズ製の機体の群れ。
一斉にビームライフルなどを撃ってきては向かってくるものの、それらは連携などない散発的な攻撃だ。
開幕一番にツルギのマスラオが突っ込み、その後ろからガンダムアスタロトリオートとザクⅠが後方支援射撃。
ハイザックの一機がマスラオをすり抜け、ガンダムアスタロトリオートへ接近戦を仕掛けようと、ヒートホークを抜き放ってくる。
「!」
ミーシャのガンダムアスタロトリオートは右腕のロングレンジライフルを切り離し、背負っている金槌『パイルハンマー』を構え直す。
振り下ろされる赤熱化した斧刃だが、ミーシャはこれをパイルハンマーで受け止める。
鍔迫り合いをするまでもなくヒートホークを弾き返し、ガンダムアスタロトリオートは軸足を入れ替え、パイルハンマーをフルスイングする。
「ふんッ!」
遠心力も合わさったその一撃は、ハイザックの心臓部を砕き、派手に吹き飛ばした。
吹き飛ばされたハイザックは、隊列を組んでいたマラサイの小隊の中に放り込まれ、マラサイ小隊は飛んできたハイザックとぶつかり、隊列が乱れる。
その乱れた中へマスラオが突撃し、乱戦へともつれ込んでいく。
「ナイスショットだな、み〜ちゃんよ」
くくっ、と笑みを浮かべながらも、カゲトラのザクⅠはザクマシンガンとザクバズーカを使い分けて、ツルギとミーシャの両方を援護していく。
フェーズ2、クリア。
続いてフェーズ3へ移行。
出現する敵機は同じくハイザックやマラサイだが、今度は上空からサブフライトシステム『ベースジャバー』に乗って来る。
単独で空戦が可能なマスラオが上空へ昇る。
「こいつを使う!」
ツルギは武装フォルダから、リング状のアイコンを選択する。
すると、マスラオの一対のグラビカルアンテナの間から朱色の光輪が集束し、勢い良く射出される。
マスラオとその後継機であるスサノオだけが装備する特殊兵装『ビームチャクラム』だ。
放たれるビームリングは、ハイザックやマラサイ達のベースジャバーを斬り裂いていく。
空戦能力を失った者から地上へ降下していくものの、それらはザクマシンガンとロングレンジライフルによって熱烈な歓迎を受けることになる。
フェーズ3、クリア。
次はインターミッションエリアで補給を受けた後に、強敵が現れる始めるフェーズ4だ。
インターミッションエリアは、キリマンジャロ基地内部の兵器工廠であり、そこのハンガーを占拠するような形で補給を行うことになる。
応急処置程度、と言われているものの、推進剤や弾薬はしっかりと最大まで補給してくれるし、破損した装甲も原型を留めている程度の損害であれば元通りになる。
「ふむ……パターンA8の可能性が高いとされていたが、実際にはパターンB5だったか。フッ……これだから不確定要素は面白い」
補給を待つ間、カゲトラは何やらコンソールパネルとにらめっこをしながらブツブツと呟いているが、どうせロクでもないことを考えているのだろう。
「そう言えば、ツルギさんのガンプラって素組みなんですね?」
ミーシャはハンガーに固定されているマスラオを見上げながら、その持ち主であるツルギに訊いてみた。
「すぐみ?……あぁ、こいつは普通に組み立てただけだな」
ツルギは特に取り繕うこともなく、正直に答えた。
「それであんなに戦えるなんて、スゴいです」
「ミーシャのガンプラは、塗装も改造もしてるのか?」
今度はツルギが、ガンダムアスタロトリオートを見上げながらミーシャに訊いた。
「はい。って言っても、少しだけパーツを組み替えて、色を変えただけですけど」
ミーシャは謙遜するように視線をガンダムアスタロトリオートへ向ける。
「……やっぱ、塗装も改造もしないと強くなれねぇのか」
ふと、ツルギは独り言のようにつぶやいた。
「ツルギさんって、塗装とか改造とか嫌いなんですか?」
それを聞いたミーシャは、皮肉るわけでもなく、ただ疑問に思って質問した。
「嫌いだとか、そんなんじゃねぇな。その素組みってのに拘ってるわけでもない」
「どう言うことですか?」
「……こんなことを言えば、GBNが好きな奴に対して失礼だろうけどな」
躊躇いを見せてから、ツルギは言葉を続ける。
「俺は、次元覇王流拳法ってのを知るためにGBNを始めた。それ以外に思いつく手段がなかったからだ。……ぶっちゃけ、他に道があるならガンプラだって作らなかったかもな」
「……」
ミーシャはそこで口を挟まない。ツルギはまだ話を続けると思ったから。
「その俺の目標地点にいるダイバーは、かなり上位にいる奴なんだ。そこまで行くには、今のままでは無理なのかもしれない」
「ツルギさんは、ガンプラが好きじゃないんですか?」
不意にミーシャが口を開いた。
「その、ヂゲンハオールーケンポー……って言うのを知ったら、GBNもやめちゃうんですか?」
彼のアイスブルーの瞳は、どこか寂しげに揺れている。
「……どうなんだろうな、今は分からない。分からないことだらけだ。右も左もガンダム作品も分からないまま、何もかも手探りでやってるようなもんだ」
けどな、と付け足した。
「少なくとも、嫌いになってやめることはない。一度やるって決めたからには、途中で放り出すような真似だけは絶対にしねぇ。……これは、俺が自分で決めたことだ」
ツルギは右手で拳を握る。
それは、彼自身の決意の現れだ。
「……良かった。それが聞きたかったんです」
ミーシャは、安堵したように息を吐いた。
「せっかくこうして知り合えたのに、すぐに会えなくなるなんて、寂しいですから」
安堵したように見えたが、ミーシャの表情はやや固いままだ。
彼には彼の出会いと別れがあるものだ。
ロシア出身のミーシャが何故日本に来たのか、それに起因しているのかもしれないが、その真偽を問うのはもうすこし気心が知れてからでいいだろう。
「ごめんなさい。なんか、湿っぽいですよね」
「気にすんなよミーシャ。それより、そろそろ整備が終わる頃だな」
ツルギはマスラオに向き直り、すぐに乗り込めるよう準備する。
「ムッ、この反応は……いかんっ」
終始、コンソールパネルとのにらめっこをしていたカゲトラは不意に声を荒げた。
「二人とも、整備を中止してすぐに戦闘態勢にかかれ!」
そう言いながら、カゲトラは自身のザクⅠの整備を中止させる。
「どうしたカゲトラ?」
「いいから急げ!」
説明の暇すらも惜しいのか、カゲトラはコクピットに滑り込むなりザクⅠを起動させた。
それと同時に、工廠内に震動が発生し始めている。
「い、一体何が……!?」
震動に尻もちをついてしまったミーシャだが、すぐにツルギに服を掴み上げられて立ち上げられる。
「分からん、だがとにかく急ぐぞっ」
ツルギとミーシャも整備を中止させてガンプラに乗り込み、カゲトラのザクⅠを追うようにキリマンジャロ基地内部から脱出する。
やや曇り空であったキリマンジャロの空だが、いつの間にか不気味な暗雲が空を覆っていた。
キリマンジャロ基地内部から退去したことで、自動的にフェーズ4がスタートする。
フェーズ4は、レベルの高いエース機が出現する。
上空から、MSにしては極端に肩幅が広く、マニュピレーターも五本指のそれではない、小さい三本指だけと言うの異形の機体が出現する。
『Z』の、このキリマンジャロ基地が初登場となる試作機『バイアラン』だ。
バイアランはツルギ達を捕捉するなり、腕部のメガ粒子砲を差し向けて来る。
降ってくるメガ粒子ビームを散開しながら回避していく三機。
「何が起きてるのかは知らんが!」
ツルギはマスラオを上昇させようとアームレイカーを押し上げようとするが、何故かカゲトラのザクⅠに制される。
「待てクサナギ、迂闊に動いてはならん」
「……カゲトラ、さっきから何のつもりだ?」
ふざけているのだとしたら、リアルで一発ぶん殴ってやるつもりだったツルギだが、カゲトラの様子と声色から、嘘や狂言ではないことは感じ取っている。
「アレを見ろ」
ザクⅠが指差した方向は、バイアランのその背後。
あり得ない光景が見えた。
空に亀裂が走り、そこから巨大な機体が這い出てくる。
地響きを起こしながら、そいつはキリマンジャロの山肌に着地した。
「カ、カゲトラさん、あれって……?」
ミーシャが恐る恐るカゲトラに声を掛けた。
「あぁ、間違いない。このミッションのボス『サイコガンダム』だ」
通常の1/144スケールのガンプラの三倍はある黒い巨体。
左腕には分厚く巨大な盾。
そんなべらぼうな図体で、ガンダム顔をした頭部。
バイアラン同様『Z』に登場する巨大可変MS『サイコガンダム』だ。
「しかし、俺の記憶が正しければ、サイコガンダムは"機体の半分が銀色に染まったような色"では無かったはずだが……」
カゲトラは元々悪い目付きをさらに細めて、その現れたサイコガンダムを睨む。
原典のサイコガンダムは、黒を基調とした上で、左右対称の配色である。
しかし、目の前にいるサイコガンダムはどうか。
機体の右半分が、あまりにも不自然に、金属的な銀色が見える。
ーーまるで、何かに侵されているかのように。
「そのサイコガンダムってのが何なのか俺には分からんが……アレは、かなりヤバイ奴じゃないのか?」
ツルギはどちらにも訊かないような言葉を言い、それに応えたのはカゲトラ。
「どのくらいヤバイかどうかは分からん。だが……」
サイコガンダムは唐突に上空にいるバイアランに飛び掛かり、捕まえるなり強引に引きちぎるようにバイアランを真っ二つにした。
バイアラン、撃墜。
ーー原作ではこのキリマンジャロ基地でバイアランに討たれたサイコガンダムが、この場でそのバイアランを逆に破壊するとは、何と皮肉なことだろうかーー。
積年の恨みでも晴らしに来たか、とカゲトラは至極冷静に、目の前の惨状を見ていた。
バイアランを引き裂いたサイコガンダムは、不気味にツインアイを光らせながら頭部をツルギ達に向けてきた。
「おい、なんかこっち見てるぞ、アイツ」
「ふむ、アレは元々最終フェーズのボスだからな。俺達を狙うのは当然ではないか?」
「つまり、撃ってくるってことだろうが!」
サイコガンダムはおもむろに右手の指先を向けると、その五本指からビームを放ってきた。
三機は瞬時に散開してビームを避ける。
「様子が変だか何だか知らねぇが、倒す相手ってことに変わりはねぇだろ!」
ツルギはターゲットロックをサイコガンダムに切り替え、アームレイカーを押し出してマスラオを加速させる。
しかしサイコガンダムは、胴体部に並ぶ砲口を光らせ、拡散するメガ粒子砲を乱射、圧倒的な弾幕の前にマスラオは後退しつつ直撃を避ける。
「正面からは危険か……なら側面から回り込めば!」
マスラオは方向転換し、サイコガンダムの右側面から回り込むように機動する。
「ボクも援護します!」
ミーシャのガンダムアスタロトリオートも、中距離からロングレンジライフルを連射するが、サイコガンダムは左腕のシールドを前面に向け、120mmの弾丸をいとも容易く弾き返す。
「ふむ、さすがに奴の相手にマシンガンでは、子どもの喧嘩にもならんな」
カゲトラのザクⅠはザクマシンガンを棄てると、ザクバズーカを右手に握り直す。
指先からのビームを掻い潜りながら、マスラオは一対のGNビームサーベルを構えなおしてサイコガンダムへ肉迫する。
「それだけバカでかい図体なら、小回りなんか利かねぇだろッ」
最低限の回避運動だけで跳躍するマスラオ。
ツルギの狙いは、心臓部があるだろう胴体だ。
一撃で真っ二つに、とはいかないだろうが、少なくないダメージは与えられるだろう。
「喰らえッ!」
そう高を括っていたツルギだが、『ダリル』の一閃はサイコガンダムへ届くよりも先に、
"何か"に弾かれた。
「!?」
弾かれた、と言うよりも、『阻まれている』の方が正しいかもしれない。
同極の磁力が反発し合うように、マスラオの『ハワード』はサイコガンダムへ届かない。
「クソッ、どんな手品か知らねぇが!」
仕方なくツルギはアームレイカーを引き下げて、サイコガンダムとの距離を取る。
「サイコガンダムにもIフィールドはあるが、ビームサーベルを弾くほど強力なものではなかったはず……どうやら事の進行は、予想以上に早いようだな」
カゲトラは先程の様子を見ては冷静に状況を確かめている。
ロングレンジライフルとザクバズーカの砲撃を継続する二機だが、ほとんどダメージが通っていないのは、サイコガンダムの暴れようを見れば分かる。
「……ツルギさんっ、カゲトラさんっ」
ロングレンジライフルによる射撃の手を止めて、ミーシャは二人に通信を繋ぐ。
「このままバラバラに戦っても、アレは倒せない……何とか連携して戦いましょう!」
「連携して……っても、俺のマスラオじゃ前に出るしか出来ることがねぇんだが」
マスラオにまともな射撃兵装はない。ビームチャクラムはあってもサイコガンダムの前では届くよりも先に弾かれるのは目に見えている。
「……いや、それだけで十分だ」
そこでニヤリと悪い笑みを浮かべたのはカゲトラだった。
ザクⅠはザクバズーカも捨てると、納めていた長銃身の武器、対艦ライフルを抜き出す。
「クサナギ、お前は奴を挑発して注意を引きつけろ」
「囮になれってのか?まぁいい、せいぜい利用されてやるって言ったのは俺だしなっ」
ツルギは再びマスラオを前進させ、レーザー機銃を速射させながらーー当然通用しないがーーサイコガンダムの周囲を飛び回る。
「お前の相手はこっちだ!」
その挑発に乗ったか、サイコガンダムは両手の指のビーム砲を連射してマスラオに浴びせ付けようとするが、回避に専念するのならツルギにとってそれは難しいことではない。
「カゲトラさん、ボクはどうすればいいですか?」
サイコガンダムの注意がマスラオに向き始めた頃を見計らい、ミーシャはカゲトラに指示を仰ぐ。
「み〜ちゃんよ、その背中のトンカチの出番だ」
ザクⅠの指先が、ガンダムアスタロトリオートに背負われているパイルハンマーを指す。
「奴とてサイコガンダムに変わりはないのだ、まさかPS装甲やウィージィアーマーに守られている分けではあるまい」
「つまり、ボクがアレを倒す鍵を握る、と」
カゲトラがミーシャに頼むのは、直接打撃。
ビームサーベルも通らないほど強力なバリアがあるなら、物理手的に殴ってしまえばいいじゃないと言うことだ。
「フッ……理解が早くて助かる。任せたぞ」
「はいっ!」
ミーシャの気負いのない応答を聞き、カゲトラは「うむ」と頷く。
ガンダムアスタロトリオートはロングレンジライフルを切り離すと、パイルハンマーを抜き放ってサイコガンダムへ接近する。
一方のカゲトラは、ザクⅠをその場で跪かせて、対艦ライフルを腰溜めに構え、スコープにモノアイを通す。
ツルギはサイコガンダムからの攻撃を避け続けているが、全く掠りもしないわけではない。
直撃こそ避けているものの、ビームの波動はマスラオの装甲を焼き、少しずつ融解を起こしている。
サイコガンダムのビームの出力が高いのは無論だが、問題はマスラオの方にある。
ツルギのマスラオは、組み立てただけでほとんど手を加えていない、最低性能しか備えられていないからだ。
GBNにおいては、ガンプラのクオリティの高さが性能に直結する。
ガンプラの性能の差が勝敗を分かつ絶対条件ではないが、要因のひとつであることに間違いはない。
「好き放題撃ちまくりやがって……こっちの装甲は薄っぺらいんだぞ」
サイコガンダムへ悪態を突きながらも、ビームの嵐を躱していく。
ジリジリとマスラオの装甲にダメージが重なり、コンソールパネルは『注意』を示す黄色の表示に切り替わる。
このままじゃまずい、とツルギに焦りが生じようとした時、状況が動いた。
「ツルギさんっ、下がって!」
ミーシャからの通信。
見れば、ガンダムアスタロトリオートがパイルハンマーを腰溜めに構えながら、サイコガンダムの足元へ迫っている。
その遠く後ろには、対艦ライフルを手にして積雪に膝を落ち着けたカゲトラのザクⅠ。
彼の言葉に従い、ツルギはマスラオを後退させる。
サイコガンダムはそれを追おうとするが、足元から近づく別の反応、ガンダムアスタロトリオートに気付く。
振り向こうと、頭部をミーシャへ向けた、
その一瞬。
「フッ……」
不敵な笑みを浮かべて、カゲトラは引き金を引いた。
それに応じて、対艦ライフルはマズルフラッシュと共に135mmの弾丸が吐き出した。
ツルギを囮になってもらうと決めたその時から、このタイミングを待っていた。
カゲトラの文字通りの狙い澄ました一撃は、サイコガンダムの頭部にあるデュアルアイの片方ーー"左目"を撃ち抜いた。
いかに頑強な装甲だろうと、関節部はもちろん、装甲に守られていないカメラであればダメージは通る。
片目を潰されたサイコガンダムは仰け反って足を止めてしまう。
それは、ミーシャのガンダムアスタロトリオートが接近するまでに、十分過ぎる時間を稼いだ。
「でぇやぁぁぁぁぁッ!!」
間合いに踏み込んだガンダムアスタロトリオートは、左足を軸足として、肩内部のスラスターの噴射と共にパイルハンマーを振り抜いた。
本来、専用装備や滑空能力に機体出力を割り振る設計であるガンダムアスタロトオリジンだが、ミーシャはこのガンプラの出力を膂力に傾注させ、パワー重視にセッティングしている。
それらを一点に乗せて叩き込むその一撃は、サイコガンダムの左足を捉えーー頑強な装甲を砕き潰した。
黒い装甲は弾け飛び、その内部のムーバブルフレームが露わになる。
堅牢堅固な外甲を破壊されて、サイコガンダムはその場でたたらを踏んでニ、三歩後退る。
「……やった、効きましたッ!」
ようやくまともな有効打撃を与えられて、ミーシャの声が嬉々としたものになる。
だが、まだサイコガンダムを撃墜したわけではない。
サイコガンダムは足元から強烈な一撃をぶち込んでくれたガンダムアスタロトリオートに、右マニュピレーターの五本のビーム砲を向けていた。
「ミーシャッ!」
ツルギが警戒を呼び掛けるものの既に遅く、無情にもサイコガンダムは五筋のビームを照射した。
閃光の奔流は、ガンダムアスタロトリオートを呑み込
めなかった。
ガンダムアスタロトリオートはパイルハンマーを握った両腕でボディを守るように構え、サイコガンダムのビームを受けていた。
これは『鉄血のオルフェンズ』の世界観に存在する特殊な装甲『ナノラミネートアーマー』によるものだ。
ナパームによる燃焼や質量打撃には弱いものの、銃弾などの射撃武装の大半を無効化し、さらにはMAクラスの高出力ビームすらも弾き返すほどの防御力を誇る。
「ぐっ、うぅぅぅぅッ……!」
ビームを防ぎ続けているため、コクピットが激しく震動する中、ミーシャはそれを堪えながらアームレイカーを前に押し出す。
ビームを防ぎながら、ガンダムアスタロトリオートは一歩、また一歩とサイコガンダムの足元へと近づいて行く。
やがてビームの照射が止まる。
ガンダムアスタロトリオートは、今度はパイルハンマーの尖端の平たい部位を、サイコガンダムのムーバブルフレームへ押し付ける。
ガチリ、と言う駆動音が鳴り、次の瞬間にはズドゴォンッ、と言う轟音がキリマンジャロ基地に響く。
同時に、サイコガンダムはバランスを崩して背中から倒れた。
「ほっほぅ、トンカチの中にパイルバンカーか。やるではないか、み〜ちゃんよ」
カゲトラがそう言ったように、ガンダムアスタロトリオートのパイルハンマーには、杭打ち機ーーパイルバンカーが仕込まれていたのだ。
それを用いて、サイコガンダムのムーバブルフレームを破壊したのだろう。
ガンダムアスタロトリオートの攻撃を見て、ツルギも的を得た。
「そうか、物理攻撃なら通るのか!」
ならば話は早い、マスラオは『ハワード』『ダリル』共に納めて素手になってから、上体を起こそうとしているサイコガンダムへ突撃する。
狙いは、頭部。それも、カゲトラがダメージを与えた左目近くから。
サイコガンダムの胴体に飛び移り、そこを足場にする。
「面ッ!」
踏み込みと共に放つマスラオの正拳突きは、サイコガンダムの鼻面ーーへの字のスリットへ打ち込まれる。
しかし、素組みのガンプラの一撃だけではサイコガンダムは怯まない。
ーーであれば、何発でも打ち込むまで。
「面ッ、面ッ!面ッ!!」
打ち込んだ右腕を引いて左拳で打ち込み、そこから左右交互に一撃、ニ撃、三撃と正拳突きがサイコガンダムの頭部をへしゃげさせていく。
「面ぇぇぇんッ!!」
一際強かな一撃が、ついにサイコガンダムのへの字スリットを打ち砕き、その内部のコクピットブロックにまで到達した。
心臓部を潰されたサイコガンダムは、キリマンジャロ基地の積雪に身を埋めるようにして崩れ落ちた。
サイコガンダム、撃墜。
「機体の反応消失……やったか」
モニターに映るサイコガンダムの敵対反応が消えたのを確認して、ツルギは一息つく。
見れば、マスラオの左右のマニュピレーターは、まともに可動するかどうかも怪しいほどボロボロになっていた。
もう一発打ち込んでいれば、逆に手首が砕けていただろう。
それはともかくとして、ボスガンプラであるサイコガンダムの撃破には成功したので、これでこの連戦ミッション『キリマンジャロの吹雪』はクリア条件を達成だ。
「な、なんとかなりましたね」
ミーシャも安堵して緊張を解く。
「……ふむ」
カゲトラだけはまだ警戒を解かずに慎重に、倒れたサイコガンダムへ近付く。
グポゥンッ、とザクⅠのモノアイが光り、サイコガンダムの銀色部分を拡大してモニターに映す。
「…………………………」
「何してんだカゲトラ?」
動かないザクⅠの背中に、ツルギは声を掛けてやる。
「フッ……なぁに、なんのことはない。准将への報告内容を考えていただけだ」
「あっそ……んじゃ、長居は無用だ」
ツルギはマスラオの踵を返し、来た道であるアフリカン・サーバーのゲートへ飛び立ち、ミーシャのガンダムアスタロトリオートもそれに続く。
最後にカゲトラのザクⅠも二機の後を追う。
「(やはりあれは、准将が危惧していた……、しかし……)」
ベース基地へ帰還し、無事にミッションクリアとなった。
カゲトラは「准将への報告」を理由に、帰還するなりさっさとどこかへ消えてしまった。
ツルギとミーシャは今回取得したダイバーポイントに応じて、Dランクへと昇格した。
「ようやくDランクか……まだまだ先は長いな」
最も高いランクであるSSSランクまでに、あと六段階もあるのだ。
FからDまでは必要なダイバーポイントも大した量ではないために、ツルギは始めて間もなくランクを二つも上げているが、ここから先、ランクが上がれば上がるほど必要なダイバーポイントも増えてくる。
「でも、これでやっとボク達も『フォース』に参加することが出来ますね」
険しい顔をするツルギとは対象的に、ミーシャは嬉しそうだ。
「フォース?……部隊、あぁ、ようするにチームってことか」
ツルギはまだ知らなかったが、GBNにおいて『フォース』への参加、もしくは結成を行うには最低でもDランクは必要になる。
その最低ラインに達したと、ミーシャは言う。
「あの、ツルギさん」
「ん?」
「今日は、ボクのワガママを聞いてくれて、ありがとうございました」
深々と頭を下げて礼を示すミーシャ。
「それで、ですね……こうして一緒にランクもDになったし、その……ぼ、ボクと一緒にフォースを組んでくれませんか?」
「あぁ、いいぜ」
「そりゃ、今日会ったばかりで厚かま……ってえぇっ!?そんなあっさり……」
ミーシャとしては、断られると思いながらもダメ元で誘ったのだろうが、ツルギはいとも簡単に首を縦に振った。
「あ、いや、ちょっと待ってくれ。そのフォースってのは、人数制限とかあるのか?」
一度は頷いたツルギだが、一歩踏み止まる。
「人数制限とかは特にないそうですよ。一人でもフォースを組めるくらいですから」
「なら、GBNやってる知り合いが三人いる。そいつらも混ぜてやっていいか?」
ツルギの言う知り合い三人とは、ハルナとユイ、マイのことだ。
人数が増えることを懸念したツルギだが、むしろミーシャはもっと喜んでくれた。
「すごいっ、三人もいるんですね!?」
「まぁ……俺含めて初心者が二人と、俺より先に始めた経験者が二人ってとこだが」
「それでもいいですよ!」
ミーシャの白兎の耳のような帽子がピコピコ動いているように見えるのは気のせいではないかもしれない。
「俺は平日は部活の後にダイブするから、それほど長々と出来るわけじゃない。それでもいいか?」
「もちろんです!」
まだ口約束の段階だ。
ハルナが勧誘したいフォースが他にあるのかもしれないし、ユイも同様だ。
特にマイは先日に知り合った時点でDランクだったので、もうどこかのフォースに所属している可能性もある。
どう転んだとしても、ミーシャを一人仲間外れにしないように腹積もりを決めるツルギ。
今日はまだGBNにいるつもりなので、ツルギはミーシャと軽めのミッションをこなすことにした。
近々に、フォースを組んでいくことを考えながらーーーーー。
某所。
ある一人のダイバーは、人目のつかない路地裏に訪れていた。
「指定された場所はここのはずだが……」
コンソールの表示するマップのポイントは、確かにここを指しており、自身の現在地も然りだ。
彼は、GBNを始めて間もないビギナーだった。
最初は初心者向けミッションを中心に、確実にこなしていた。
だが、難易度が上がるに連れて次第にクリア出来なくなっていた。
フリーバトルでも負けてばかりだった。
強くなりたい。
そう思い始めていた時、ある一人のユーザーからこのようなメッセージが届いた。
『強くなりたいかい?それならこの場所へ来ると良いよ』
明らかに怪しいメッセージだった。
普通なら無視したところだろうが、彼はそれを鵜呑みにした。
強くなれるのなら、どんな手を使ってもいい。
そのような黒い感情が渦巻く中、上から窓がスライドされる音が聞こえた。
「やぁ、来てくれたんだね」
開いた窓に足を掛けると、そのまま路地裏に飛び込み、着地した。
肌も髪も真っ白で、男女の区別が付かない、幼気な少年、あるいは少女にも見えるダイバーだった。
澱みのない澄んだ金色の瞳を見て、ダイバーは口を開いた。
「お前か?俺をここに来るように言ったのは」
「うん、そうだよ」
だからね、と彼(彼女?)はコンソールパネルを開き、目の前のダイバーにメールを送った。
何かと思ってメールを開いてみれば、それはガンプラに読み込ませるプログラムデータだった。
「困った時はそれを使うといい。きっと、君の助けになるはずさ」
それだけを告げて、彼はログアウトしたのか、姿を消してしまった。
「何だってんだ……」
残されたダイバーは呆然としながらも、もう一度送られたメールに添付されているデータを見てみる。
『RUVIS SYSTEM』と表示されていた。
【次回予告】
ツルギ「フォースを結成するのはいいんだが、俺達って初心者が多いんだよな」
ユイ「そうね、経験のある人……お姉ちゃんは頼りないから除くけど」
ハルナ「ねぇねぇ、ウチの学園の生徒会の中に、GBNの実力者がいるってカゲトラくんから聞いたんだけど……」
ツルギ「カゲトラからの情報か……あんま鵜呑みにしたくはないんだがなぁ……
次回、ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツ
『実力者は生徒会にいる』
そう簡単には、いかねぇか……」