pixivにGBDスピリッツの続編の連載開始の前に、このハーメルンでもGBDスピリッツをちゃんと完結させておきたいのです。
忘れていた方も、もうpixivで全部読んだ方も、忘れずに待っていた方も、申し訳ありませんでした。
スマホの電池が許す限り、このGBDスピリッツを投稿し続けたいと思います。
気を取り直して、4話からです。
「よっ、と……」
仄暗い洞窟の中で、ツルギは手にしたピッケルを振り下ろして亀裂の入った壁を叩く。
それを何度か繰り返すと、彼の足元には鈍色の拳大の石ころがいくつか転がる。
「ここからはもう出ないか……」
亀裂の内側を覗き込みながら、ツルギは一息つく。
足元の石ころ達を拾い集め、その中でも金属的な光沢を持つものだけを手元に残す。
「おーいミーシャ、そっちはいくつ集まった?」
ツルギは少し離れた位置で、彼と同じようにピッケルを振るう少年ーーミーシャに声を掛ける。
「ふぅ……なかなか出ないですね。二個だけです」
ミーシャは足元のそれを拾い、ツルギと同じようなそれを見せてくる。
「こっちも一個だけだ……」
気が遠くなるぜ、とツルギは嘆息をつく。
「そっちも出ないの?」
「いくら疲れないって言っても、こう出ないと気が滅入る……」
ツルギとミーシャの反対側からは、ハルナとユイがあまり芳しくなさそうな顔を浮かべている。
「まぁな、もうこれで七ヵ所は掘ったはずだが……」
「えっと、ここまで集まったハーフメタルは、さっきツルギさんとボクが集めた分も含めて……まだ11個です」
ミーシャはコンソールパネルから、ミッション進行状況を確認する。
ミッション名『火星ハーフメタル採掘指令』
舞台は『鉄血のオルフェンズ』の火星の採掘場で、『火星ハーフメタル』と言う希少金属を入手して納品する、コレクトミッションだ。
コレクトミッションは、ガンプラに搭乗しなくても受注することが可能であるため、ツルギ、ハルナ、ユイ、ミーシャの四人はガンプラで出撃せずに現地に赴いている。
ターゲットの火星ハーフメタルは、合計で二十個納品する必要があるため、今ようやく半分を越えたところだ。
まだまだ掘るのか、とミーシャを含めた四人は溜め息をついた。
「それにしても、ミーシャがウチの学園の中等部の生徒だったとはなぁ」
ツルギはピッケルを振るいながら、ミーシャに話しかける。
「ボクだって、みんながみんな同じ学園にいるなんて思ってませんでしたよ」
ミーシャはハルナとユイを見比べて苦笑した。
ツルギ、カゲトラ、ミーシャの三人で挑んだ連戦ミッションをクリアしたその日の翌日。
いつもと同じように登校していたツルギは、校門近くでミーシャに似た中等部の男子生徒を見掛けたので、思い切って声をかけてみれば、当たりだったというわけだ。
そんなことがあって、ミーシャ(リアルではミハイル)はハルナとユイの知るところになった。
今回のこのコレクトミッションは、互いの親睦も兼ねた軽めのミッション……と言う理由でハルナが選んだものだが、これが思いの外難易度のある内容である。
「世界、って言うか、GBNも案外狭いものね」
ユイは新たに火星ハーフメタルをひとつ入手して、アイテムボックスに収める。
「……ハルナ?何ボーッとしてるのよ」
洞窟の奥を見たまま動かないハルナを見て、ユイは声をかけてやる。
「時間勿体無いし、いっそ爆弾でも使って一気に掘り進んじゃおうよ」
自分が選んだミッションだと言うのに、早速やる気が失われているのか、ハルナは自分のアイテムボックスから道具を取り出す。
筒状のスティックを何本も纏めて、それらを一本の導火線によって繋いだそれは……
「ちょっ、ハルナ!?それもしかしてダイナマ……」
ユイは慌ててハルナを制止しようとするが、
「えいっ」
時既に遅し、ハルナは火のついたダイナマイトを洞窟の奥へと放り込んだ。
数秒の間を置いてから、ドゴォォォォォンッ、とダイナマイトが爆発したのだろう爆音と共に、石の破片がボロボロと吹き飛んでくる。
「わぉ、凄い威力だね♪」
「なに感心してるのよっ、そんなことしたら……っ」
実はこのミッション、コレクトミッションと銘打っているのだが、非常に危険なボスガンプラが眠っていると言う噂がある。
もちろん、スリープモードなので下手に刺激したりしなければ何事もなくミッションはクリア出来る、
……はずである。
「おいハルナっ、今の爆発はなんだ!?」
ツルギとミーシャは、何が起きたのかと駆けつけてくる。
「……ね、ねぇ、なんか奥から近付いて来ますよ?」
ミーシャは恐る恐る洞窟の奥を指差す。
爆発の衝撃とは違う、もっと規則的な足音のような地鳴り。
それが暗がりから現れた。
巨大な白い鳥のような、神々しくも奇怪なマシーン。
その白い鳥の足元には、昆虫に似た黒い虫のような小さなーーそれでも大型トラックほどのマシーンがわらわらと群がっている。
それは、この火星の採掘場に眠っていた、『非常に危険なガンプラ』。
「は、は、は……ハシュマルぅぅぅぅぅ!?」
白い鳥ーーMA『ハシュマル』は嘴を開くと、おぞましい咆哮を上げながらその喉奥から極彩色の破壊光線を吐き出し、その場にいた四人を呑み込んだ。
『Mission Failed』
ハシュマルのビーム攻撃によって四人とも撃破されてしまい、ミッションは失敗、強制的にベース基地へ戻される。
「ごめんなさい」
戻されて開口一番、ハルナは三人の前で腰を直角に折り曲げて頭を下げる。
「おもっくそやらかしてくれやがったなお前……」
ツルギは思い切り眉間に皺を寄せて、
「って言うか、ダイナマイトなんてどこで手に入れたのよ……」
ユイは頭が痛いとでも言うように片手で顔を覆い、
「ま、まぁまぁ、これも経験ってことで……」
ミーシャも苦笑しているつもりなのだろうが、引きつっているのは隠し切れていない。
結局、親睦会を兼ねたミッションは失敗と言う結果で終わり、四人はログアウトした。
日の沈んだ夜の街並みは電灯や信号、自動車のライトが目立ち、道行く学生や務め帰りのサラリーマンなどで賑わい、まだまだ眠らない。
ツルギとハルナは家が隣同士、ユイとミハイル(ミーシャ)はそれぞれ別の方向なので、ガンダムベースで別れることになる。
「わたし達でフォースを結成するのは良いんだけどね……」
以前にツルギとミーシャが話していた、フォース結成の話をハルナにもしたところ、上記の反応が返ってきた。
「わたしやマイちゃんも、そこまで経験があるわけじゃないの。だから、もう一人くらい経験の深い人がいてくれるといいんだよね」
「言いたいことは分かる。俺みたいな素人と、それに毛が生えたような奴ばかりのフォースじゃ、他のフォースとのバトルになっても勝つのが難しい……ってことだな?」
「そそ。でもね、そう言う経験の深い人って、大体はもう他所のフォースに入ってるか、自分で立ち上げてる場合が多いから、難しいんだよね……」
「まぁ……自分のことは二の次にして初心者の面倒を見てやる奴なんざ、そうそういるもんでもないしな」
ミツキのような例外ももちろんあるが、彼(彼女)の場合はごく稀に見られるタイプのダイバーだろう。
「んー……」
ハルナは一思案してからダイバーギアを取り出して、メール画面を開く。
「歩きスマホは危険だぞ」
「スマホじゃないから大丈夫」
「んじゃ、歩きダイバーギアは危険だぞ」
「はーい」
"歩きダイバーギア"をツルギから指摘されて、ハルナは素直にそこで足を止めてメール本文を入力する。
「んし、オッケイ」
送信完了を確認したか、ハルナはダイバーギアを鞄にしまう。
すぐに返信は届いたようで着信音が鳴るが、ハルナはそれをすぐに確認しようとしない。
「メール来てるぞ?」
「帰ってからゆっくり確認するから」
住宅地に入り込み、ツルギとハルナは隣り合う自宅に到着する。
「んじゃ、また明日な」
「うん、またねー」
互いに手を振り合ってから、それぞれの自宅に帰宅する。
Haruna∶ウチの学園近くで、経験豊富なダイバーっている?出来れば紹介してほしいな。
Kagetora∶了解した。准将の許可が降りれば、すぐにでも検索、返信しよう。しばし待たれよ。
Haruna∶待ってるねー♪
Kagetora∶お待たせした。該当する人物は三名ほどいたが、最も的確だろうダイバーをここに挙げる。
高等部3年2組『ツバキ・サヤ』
我らが学び舎の生徒会、書記を努めている人物だ。
GBN内におけるランクはA。
無論、フォースは無所属。
今年度、生徒会書記に着任してからはログイン率が下がっているようだが、戦闘能力や製作技術は申し分ないはずだ。
いかがかな?
Haruna∶ありがとう!明日、早速声かけてみるね!
Kagetora∶精進怠ることなかれ。では、俺はこの辺で失礼する。さらばだ!
翌日。
ハルナがカゲトラを通じて入手した情報を持って、昼休みに食堂で会合を開くことになった。
出席者はハルナ、ツルギ、ユイ、マイ、ミハイルの五名。
ハルナは参加者全員に、昨日のカゲトラとのやり取りを見せてやる。
表示されている顔画像は、やや黒みを帯びた緑色の髪に、紅色の瞳が特徴的な、ライトグリーンのローブを纏った男性エルフ型のアバター。
「ーーと言うわけで放課後になったら、『ツバキ・サヤ』先輩のクラス、三年二組にカチ込みを掛けに行きまーす」
「待て、カチ込みってなんだカチ込みって。お礼参りか落とし前でも付けにいくのか」
ハルナの発言にツルギがツッコミを入れるところから始まった。金玉のケツア号……もとい、黄金のジャスレイ号でも撃沈しに行くのだろうか。
「それで、生徒会書記の人を、私達のフォースに誘うって、そう言う話?」
話の腰が折られる前に、ユイが引き戻す。
「うん。この学園近くならリアルでも会えるし、ランクもAランクだからけっこう強いと思うの」
今、この場にいる五人の内、Dランクがツルギ、ユイ、ミハイル。Cランクがハルナとマイだ。
ハルナとマイよりも二段階も上のランクを持ち、なおかつ無所属。
ソリストなのか、その時限りでチームを組むような傭兵的なプレイスタイルなのかの判断はつかないが、少なくとも周りの上位ランカーにおんぶだっこされてきただけ、と言うことはないだろう。
「ワールドランキングは、どのくらいなんですか?」
ミハイルが挙手してから質問する。
ハルナはダイバーギアのプロフィールデータを確認しながらの答えた。
「んーと、89位だね。ベスト100位には留まってる感じ」
世界に二千万人といるユーザーの中でも、ほんの一握りのレベルだ。
「そんなすげぇ人が、俺達みたいな初心者の集まりに手ぇ貸してくれるのか?」
ツルギは少しだけ否定的に捉えた。
自分達を過小評価しているわけではない。
至極現実的に、自分達の実力とサヤ書記の実力が明らかに釣り合っていないからだ。
「そこで諦めたらバトルは終了!まずはツバキ先輩に、わたし達の気持ちを伝える!ちゃんとお願いして、それでもダメだったらキッパリ諦める!」
そんなことを言うツルギを黙らせるように、ハルナは語気を強くして言い張る。
「俺に何を伝えるって?」
「そう!わたし達のフォースに入ってくださ……って、アレ?」
突如降り掛かってきた、第三者の声。
全員がその方へ振り向くと、やや黒みを帯びた緑色の髪と、紅色の瞳をした、長身痩駆の男子生徒が不思議そうに見ていた。
「ツ、ツバキ・サヤ先輩!?」
ハルナは慌てて姿勢を正して居直る。
「そんなに畏まらなくてもいいさ。それで、俺に何をお願いしたいんだ?」
ついでにそこの席に失礼するよ、と男子生徒ーーツバキ・サヤは手にしていたトレイを空席に置いて着席する。ちょうど、ツルギと向かい合う形だ。
早速、ハルナが交渉にかかる。
「あのっ、ツバキ先輩もGBNをやってるんですよねっ?」
「あぁ、そうだね」
「でしたらズバリっ、わたし達のフォースに入ってくれませんか!?」
イケイケドンドンと押すようにハルナはサヤを勧誘する。
それを聞いて、サヤは「そういうことか」と言うような顔をして、一思案。
そしてほんの数秒もしない間で、返答は出された。
「悪いけど、丁重にお断りさせてもらうよ」
「えぇぇぇぇぇっ、な、何でですかぁ!?」
思わず理由を追及してしまうハルナ。
それに対してサヤは冷静に切り返す。
「どうして君達が、俺がGBNをしていることを知っているのか……まぁ十中八九、カゲトラを通じてだろうけど」
全くあいつは……とサヤは憮然とした顔で鼻で溜め息をつく。
「なら知っていると思うけど、俺は生徒会の業務や諸々があって、GBNにダイブする時間があまり取れないんだよ。最後にダイブしたのだって、二週間前かその辺だ」
GBN内での問題ではなくこちら、現実的な理由だった。
「もちろん、俺を誘ってくれたのは嬉しい。でも俺じゃなくても、もっと実力のあるダイバーに頼んだ方がいいんじゃないかい?」
「どうしても、ダメなんですか?」
ユイが食い下がると、横からマイが茶化してくる。
「いくらイケメンを誘いたいからって、わがまま言っちゃダメよユイちゃん」
「あのね……お姉ちゃんも真面目にお願いしてよっ」
ユイは真面目になれない姉の足を踏んづける。
「……俺からもお願いします、ツバキ先輩」
一瞬流れかけた茶番の空気を断ち切るように、姿勢を正してツルギが深々と頭を下げる。
ボクからもお願いします、とミーシャも同様にだ。
「………………」
ツルギの真摯な態度を前に、サヤは顔付きを変えて再び思案する。
………………
…………
……
「ひとつ、訊かせてもらうよ」
声のトーンを落として、サヤはこの場にいる五人に問い掛ける。
「君達は、本気で上を目指しているのか?」
シンッ、とサヤの纏う空気が静かな、しかし鋭いものになる。
柔和で誰とでも友好的になる生徒会書記のソレではない、一人の戦士として。
「俺には目的があります」
そのサヤを前にして、微塵も怯むことなく、ツルギは堂々と自分のGBNにおける目的を話す。
「次元覇王流拳法の使い手……前年度トーナメントのファイナリスト、ダークマスター。俺はそいつと接触し、次元覇王流拳法を会得するために、GBNを始めました」
「……なるほど。それが君の、上を目指す理由か」
ツルギの言葉を咀嚼し、サヤは頷く。
「わたし達だって、やるからには本気です」
ツルギに便乗するように、ハルナも強い言葉で伝える。
ユイとミーシャも、頷くことで意志を示し、マイだけは我関せずのスタイルで事の推移を見守る。
「……分かった。が、ひとつ条件だ」
一拍の間を置いてから、サヤはひとつの条件を提示する。
「そうだな……19時でいい。GBNにダイブして、君達の中から一人、俺と一対一のバトルをしてくれ」
「なるほど……仲間にしたいなら、力を示せってことか」
上等、とツルギは拳を握る。
「19時に、俺が指定するポイントに来てもらう」
そう言うなり、サヤはポケットから適当な紙切れと、ボールペンを取り出し……たのはいいが、まだそれを書かない。
「さて、真面目な話は一度区切るとしよう。今は、昼休みだからね」
サヤのその一声で、全員が全員、自分の食事が全く進んでいないことに気付いた。
いただきます。
放課後。
部活動も終了したツルギは、待ってくれていたハルナと共にいつものガンダムベースへ向かう。
ツルギの手には、昼休みにサヤから手渡された手書きのメモ。
「『トリントン基地』……か」
トリントン基地。
宇宙世紀の世界では度々見聞きすることがある、地球連邦軍の基地だ。
オーストラリア大陸に点在し、ジオン軍によるコロニー落としの痕が痛々しく残る。
戦術的価値の低い施設ではあるが、核弾頭の保有、新型ガンダムのテスト、La+システムが示した座標であったなどの理由によって、重ねてジオン軍(あるいはその残党)の襲撃を受けることになる。
「えっと、トリントン基地だから、『オーストラリア・サーバー』を経由だね」
ハルナが思い出しながら、トリントン基地への到着手段を話す。
「ま、行き方さえ分かればいいさ」
「え、でも、ツバキ先輩と戦うのって、ツルギくんだよね?」
「そのつもりだぞ」
何を今更、と言うような顔をするツルギ。
実際、メモを渡されたのはツルギであるため、彼が戦うことになるだろうと言うのは、その場の全員が承知している。
「あのね、わたしが言うことじゃないんだけど……、ツバキ先輩って、物凄く強いと思うの。わたしやマイちゃんじゃ、全然歯が立たないくらい」
「強いからこそ、ハルナはフォースに入ってほしいって頼んだんだろ?勝つのは難しいかもしれんが、全力を尽くすのはいつもと同じだ」
どちらにせよ気を引き締めて挑むさ、とツルギは緊張感を滾らせる。
「……ツルギくんのそう言うとこ、カッコイイよね」
ハルナは目を俯けて、口元で呟く。
「何か言ったかハルナ?」
「うぅんっ、何でもない」
そうこうしている内に、ガンダムベースが見えてきた。
GBNにログイン、ダイブが完了したツルギとハルナは早速出撃し、オーストラリア・サーバーのゲートを通過する。
マスラオと姫武者頑駄無の目下にはオーストラリア大陸が広がり、不自然にポッカリと穴の穿たれたシドニーが見える。
「これが、コロニー落としの痕……か」
直径500mに及ぶ巨大な湾岸を見て、ツルギは思わず息を呑む。
これが、アニメの世界だからこその設定だろうが、将来人間が宇宙に住むようになり、何かの弾みで地球と宇宙の戦争になれば、このような光景が現実になるのだろうか。
そんな薄ら寒いものが背中に走るのを感じながら、トリントン基地の滑走路に、ガンダムヘビーバスター、ハンブラビ、ガンダムアスタロトリオートが並んでいるのを見かけ、二人はそこへ降下する。
「ツバキ先輩はもう来てるのか?」
ツルギはオープン回線にしながら、先着していた三人に訊いてみる。
「まだみたいね」
ユイが、サヤはまだ来ていないことを伝える。
生徒会書記の業務がどれだけハードなのかは分からないが、毎日下校時間ギリギリまで食い込むほどには忙しないのだろう。
もう少しだけ待っていると、遥か遠くから風切り音が近付いてくる。
ーー接近してくるのは、深い緑とライトブルーを中心とした四枚羽の戦闘機。
滑走路に近付くと、四枚羽の戦闘機は各部を駆動させ、瞬く間に人型へと変形する。
胸部に『A』の文字が表示されている、鋭角的なシルエットを持つーーガンダムAGE-2をベースにしたガンプラは、滑走路のアスファルトを潰すことなく、柔らかく着陸する。
『待たせてすまない。ツバキ・サヤだ』
予想通り、現れたのはサヤ本人だ。
「ご心配なく。こっちも来たとこですよ」
ツルギはマスラオを身構えさせる。
これより、ツルギとサヤとの一騎討ちが始まる。
二人を除く他のダイバーはガンプラから降りて、トリントン基地の管制塔の中から観戦する。
『準備はいいね?クサナギ・ツルギ』
「いつでもどうぞ……」
滑走路に、双方が向き合う。
『サヤ、『ガンダムAGE-2 エアレイド』!』
サヤのガンプラーーガンダムAGE-2 エアレイドが、右手のハイパードッズライフルをマスラオへ向ける。
「ツルギ、マスラオ!」
ツルギのマスラオは、『ハワード』『ダリル』の両方を抜刀する。
互いに沈黙の睨み合いが続く中、管制塔から発光信号が打ち上げられた。
『出撃します!』
「参るッ!!」
瞬間、ガンダムAGE-2 エアレイドがハイパードッズライフルを放つのと、マスラオが跳躍したのはほぼ同時。
二機のMSを容易く貫通するほど強力なDODS効果を帯びたビームを飛び越えるようにして、マスラオはガンダムAGE-2 エアレイドへ一気に肉迫する。
サヤはアームレイカーを短く引き下げてガンダムAGE-2 エアレイドを後退させながら、上空から向かってくるマスラオへ向けてハイパードッズライフルを連射する。
立て続けに襲い来るビームを掻い潜りながら、マスラオは確実にガンダムAGE-2 エアレイドへと接近する。
しかし、マスラオが目前に迫るなり、ガンダムAGE-2 エアレイドはストライダーフォームへ変形し、その場から急速離脱する。
「チッ、速い!」
仕方なく一度着地するマスラオ。
瞬時にマスラオの背後まで回り込んだガンダムAGE-2エアレイドは、ストライダーフォームの状態から、両肩内部のビームバルカンをばら撒いてくる。
マスラオはもう一度大きく跳躍してビームバルカンを躱し、頭部からビームチャクラムを射出して撃ち返す。
対するガンダムAGE-2 エアレイドは瞬間的にバレルロールするように機動してビームチャクラムを往なし、流れるようにMS形態に変形、ハイパードッズライフルで狙い撃つ。
ツルギはアームレイカーを捻り込んでマスラオに回避運動を取らせるが、左肩を掠めた。
被弾を気にすることなく、マスラオはガンダムAGE-2 エアレイドへ接近するべく再度加速する。
迎え撃つガンダムAGE-2 エアレイドは、マスラオを正面に捉えたままバックホバー、肩の四枚羽の基部を向ける。
『これをどう受けるかな?』
それは単なるウイングバインダーではない。
微細ながらそこには砲門が備えられており、ウイングバインダー一基につき四つ。
それら二対、合計で十六門の砲門から放たれるのは、雨霰のごとき、マイクロミサイルーー『シューターミサイル』。
ガンプラサイズにしては石ころほどの大きさだが、散弾のように飛び散りながら追尾するので、マスラオの進路を阻害するには十分な代物だ。
一発一発の威力は低いが、まともに突っ込めばただでは済まない。
だがツルギはそれらシューターミサイルの群れを睨み、アームレイカーを握りしめる。
そしてーー
「うおぉぉぉぉぉッ!!」
一対のGNビームサーベルを高速で振るった。
一見滅茶苦茶に振り回しているように見えるが、その動作一つ一つは、確実にシューターミサイルを破壊している。
「はッ!」
結果、シューターミサイルを全て打ち落とした。
『アレを全て打ち落とすか……』
ガンダムAGE-2 エアレイドはハイパードッズライフルを納め、両手をリアスカートへと伸ばし、ビームサーベルを抜き放って、マスラオへ真っ向から突っ込む。
「ようやくその気になったかっ!」
向こうから近付いてきてくれた、とツルギはさらにアームレイカーを押し込んでさらに加速させる。
オレンジとイエロー、双方の光刃が交錯し、トリントン基地に稲妻を迸らせた。
ジリジリジリジリと鍔迫り合いへともつれ込み、力と力が拮抗し合う。
それが数秒続いて、マスラオの方から強引に弾き返す。
鍔迫り合っていた『ハワード』とは逆の『ダリル』で斬り返すが、ガンダムAGE-2 エアレイドもこれに反応、同じく逆のビームサーベルで受ける。
振るっては弾き、振るっては弾き、マスラオとガンダムAGE-2 エアレイドは激しく斬り結ぶ。
管制塔のオペレーションルームで、ハルナ達はツルギとサヤの戦いを見ていた。
「すごいっ、ツルギさんが押してる……!」
ミーシャは、マスラオからの攻撃に対して防戦一方になりつつあるガンダムAGE-2 エアレイドを見て、ツルギが優勢だと見ていた。
「ツルギって、実は上位ランカー並の実力があるのかしら……」
ユイも同じように、ツルギがサヤを押していると見ている。
「うんっ、やっぱりツルギくんは強い!」
ハルナに至っては手放しで喜んでいる。
「ツルギが優勢である」と言う空気が漂う中。
「みんなホントにそう思っちゃってるの?」
不意にマイが、それを肯定しなかった。
「お姉ちゃん、どう言うこと?」
疑問に思ったユイが訊いてくる。
「あたしに言わせてもらえば、ツルギが押してるんじゃなくて、手加減……ってか、様子見されてると思うのよねぇ」
つまりサヤはまだ全力を出しておらず、ツルギの実力がどれだけのものかを見定めているのだと、マイは言うのだ。
彼女の言葉を聞いて、ユイは目を細めて二機の斬り合いを見つめ直す。
一見はマスラオが苛烈に攻撃を仕掛けているように見える。
だがそれら猛攻は、一度もガンダムAGE-2 エアレイドへは届いていない。
正確に、的確に、ビームサーベルを繰り出してはマスラオの攻撃を後出しで止めている。
「って言うか本気で潰すつもりなら、マスラオを相手にバカ正直に接近戦なんかしないわよ。変形出来るんだから、その気になればすぐに離されるし」
マイの言葉は辛辣で、しかし的を得ている。
そして、サヤが全力を出していないと言うこともまた、この後すぐに気付くことになる。
戦況が動くようだ。
柳に風。
そんな言葉がツルギの脳裏を過る。
斬撃を打ち込んでも打ち込んでも、全く手応えが感じられない。
「……」
このままがむしゃらに攻撃を仕掛けても無意味だ。
ツルギはアームレイカーを引き下げてマスラオを後退させ、ガンダムAGE-2 エアレイドとの距離を置く。
向こうもツルギの動きを警戒しているのか、近付いてこない。
どう攻めればダメージを与えられるか?
ツルギの中で思考が回る最中、サヤからの広域通信が届く。
『このままでは攻め切れないと分かっていながら、切り札をまだ切らないのか?』
「……切り札?」
何のことかと、ツルギは勝つための算段を止めてそちらに意識を傾ける。
『まさか、マスラオを使っていながら"トランザム"を知らないと言うのか?』
「そもそも俺はマスラオって自体もよく分かっていないんですが、ってかトランザムって何です?」
ツルギは本気で何のことか理解していない。
無理もない、ツルギはついこの間までガンダム作品の「ガ」の字も知らないレベルの素人だったのだ。
『……本当に知らないとは思わなかったぞ。まぁ簡単に言えば、一定時間強くなれるが、時間を過ぎれば弱体化する、ハイリスクハイリターンだ』
「なるほど。で、マスラオにはそのトランザムってのが使えると」
『使うことは出来るな。だが、そのマスラオは素組みだろう?とてもトランザムの負荷に耐え切れるとは思えないが……』
トランザムのみならず、『EXAMシステム』や『スーパーモード』と言った強力なシステムは、飛躍的な性能上昇を引き起こすが、ガンプラの完成度が高くないと負荷に耐え切れずに自壊、深刻な損傷を受けてしまう恐れもある。
「トランザム……トランザム……TRANS-AM。ん、これか」
武装フォルダを探っていたツルギは『TRANS-AM』と表示されたそれを入力した。
すると、マスラオの一対の擬似太陽炉から眩いまでの朱い粒子が溢れ出し、漆黒のボディを真紅に染め上げていく。
『おいおい、今俺が暗に「トランザムは使うなよ」って言った所だろうに、何の躊躇いもなく使ったな?』
ーー「トランザムは使うなよ」への返しには、「了解、トランザム」が決まっているのだーー。
「さ、続きと行きますか!」
サヤの遠回しな忠告などまるで無視、ツルギはアームレイカーを押し出してガンダムAGE-2 エアレイドへ肉迫する。
『クッ』
サヤも瞬時に構え直し、正面から突っ込んでくるマスラオを迎え撃つ。
圧縮粒子を全面に展開され、出力も跳ね上がった『ハワード』が、ガンダムAGE-2 エアレイドのビームサーベルと激突する。
僅かだが、マスラオがガンダムAGE-2エアレイドを押し込みつつある。
「これなら……行けるかッ」
マスラオは瞬時に『ハワード』を引き、間髪入れず『ダリル』を振るい、これは避けられるものの、反撃の隙を与えないように『ハワード』と『ダリル』を交互に繰り出して、ガンダムAGE-2 エアレイドへ攻め立てる。
『随分と強気になったじゃないか……』
サヤは目を細めながら、赤く輝きながら高速で迫ってくるマスラオを見据える。
『だが、トランザムが使えれば勝てるほど、GBNは甘くはないッ』
ガンダムAGE-2 エアレイドは『ハワード』を切り返して、ビームサーベルを納めるとストライダーフォームへと変形、一度距離を離してからUターン、ビームバルカンとハイパードッズライフルを連射しながらマスラオへ高速で迫る。
「ッ!」
降り掛かってくるビームの雨を凌ぎながら、向かってくるストライダーフォームのガンダムAGE-2 エアレイドから目を切らない。
すると、ガンダムAGE-2 エアレイドは減速することなく、ストライダーフォームのスピードを維持したままMS形態へ急速変形、ハイパードッズライフルの銃口からビームサーベルを発振させてマスラオへ振り翳してくる。
対するツルギは『ハワード』でそれを受け止める。
だがそこで鍔迫り合いにはならず、ガンダムAGE-2 エアレイドは『ハワード』を弾き、流れるように回し蹴りを振るい、マスラオの脇腹を蹴り飛ばす。
「ぬぐっ……!?」
バイタルバートへの直撃に、ツルギは震動に顔をしかめた。
『さっきまでの威勢の良さはどこへ消えた!?』
仰け反ったマスラオを追い込むように、ガンダムAGE-2 エアレイドはハイパードッズライフルのビームサーベルを切り、即座にマスラオの胴体目掛けてビームを放つ。
ツルギは咄嗟にアームレイカーを捻り倒して回避、即死は免れるが、DODS効果を帯びたビームはマスラオの左肩を直撃、何の耐性もない装甲は容易く喰い破られ、マスラオは肩から左腕を失う。
「クソッ!」
ツルギがマスラオの左腕の損失に気を留めた一瞬を突くように、ガンダムAGE-2 エアレイドは再びマスラオとの距離を詰めてくる。
『それが君の本気のつもりか?』
『ハワード』を構え直すと同時に迎え撃つツルギだが、ガンダムAGE-2 エアレイドはハイパードッズライフルの銃剣ビームサーベルと、左手に握ったビームサーベルの両方を持って激しく攻め立ててくる。
『ぬるい、ぬる過ぎる!もっと熱くしてみせろッ!!』
右手に握った『ハワード』だけで、この猛攻は凌ぎ切れない。
「なめるっ、なッ!」
どうにか苦し紛れに『ハワード』を振り抜いたツルギのマスラオだが、その一閃を飛び越えるようにガンダムAGE-2 エアレイドはマスラオの真上を取る。
『甘いッ!』
そのまま踵落としの要領で右足を振り下ろし、マスラオを脳天から蹴り落とした。
「なっ、ぐあぁっ!?」
蹴り付けられた衝撃、落下する浮遊感、最後にトリントン基地のアスファルトに思い切り叩き付けられて、ツルギは悶絶する。
さらにその上から、上空からガンダムAGE-2 エアレイドのシューターミサイルが降り注いでくる。
ミサイルの雨の炸裂が、爆煙を立ち込めた。
サヤのガンダムAGE-2 エアレイドの動きが変わったと思ったその十数秒間で、マスラオは地へ叩き付けられ、ダメ押しとばかりシューターミサイルが降り注ぎ、爆煙がマスラオを隠す。
「ツルギさんっ!」
その光景を見て、思わずミーシャは叫んだ。
「ウソっ、ツルギくんやられちゃったの!?」
ハルナは喰い入るようにモニターの爆煙を凝視する。
「あれが、ツバキ先輩の本気の実力……」
ユイは畏れを抱くように、ゆっくりと降下してくるガンダムAGE-2 エアレイドを見上げる。
「へぇ……」
そのユイとは対照的に、マイは大して驚きもせずにいる。
だが、まだマスラオの撃墜判定は出ていない。
爆煙が晴れる。
『久々に熱くなりすぎたか……だがさすがに、これならもう動けまい』
サヤはガンダムAGE-2 エアレイドを着地させ、爆煙の中から現れるマスラオを見据える。
素組みと言う最低限の性能でトランザムを強引に使い、さらにまともに地表に落下、その上からミサイルによる攻撃を受けたマスラオは、元の漆黒の色合いに戻り、全身がボロボロだ。
だが、まだ動けないことはなかった。
「さすが、Aランクは伊達じゃないってとこか……」
マスラオは取り零した『ハワード』を拾い、敢然とガンダムAGE-2 エアレイドへ向ける。
『そんな状態でも、まだ戦うと言うのか……!?』
サヤは驚愕、と言うよりある種の畏怖を覚えた。
普通、ここまで叩きのめされれば負けを認めるものだ。
「まだ戦えるんでね……簡単に諦めたら、あいつらに申し訳が無いんですよ」
だと言うのに、ツルギはまだ勝つ気でいる。
ギシギシと関節が呻き声を上げ、脚を引き摺りながらもガンダムAGE-2エアレイドへ迫ろうとする。
対するガンダムAGE-2 エアレイドは、ビームサーベルを構えながらも一歩後退る。
マスラオは一歩、また一歩とガンダムAGE-2 エアレイドへ迫り、ようやく間合いにまで接近した。
しかし、マスラオが『ハワード』を振るうよりも先に、ガンダムAGE-2 エアレイドのビームサーベルが一閃、『ハワード』の柄が弾き飛ばされた。
「まだァッ!」
武技を失ってもなおマスラオは殴り掛かろうとするが、その右拳が届くよりも先に、ガンダムAGE-2 エアレイドのビームサーベルが突き出され、切っ先がマスラオの首を焼き斬った。
同時にダメージが限界を迎え、マスラオの二つの擬似太陽炉が小爆発を起こし、その本体は背中からアスファルトの上に倒れた。
その側に、マスラオの首が転がった。
「……さすがにもうダメか」
頭部を失ったマスラオは、もはやコンソールは何も映さなくなり、真っ暗になったコクピットの中でツルギは呟いた。
壊れかけたセーフティーシャッターを強引に抉じ開けて、マスラオの中から這い出る。
目の前には、跪いたガンダムAGE-2 エアレイドと、手を差し伸べるサヤの姿があった。
「ナイスファイトだった、ありがとう」
「そいつは、どうも……」
ツルギは差し伸べられた手を取り、マスラオの中から引き上げられる。
勝敗は決したと見て、管制塔の中からも四人が駆け寄ってくる。
「でもまぁ、これで分かりましたよ。俺達がツバキ先輩をフォースに引き入れるには、まだまだ早いってことが」
諦めた、と言うよりはどこかすっきりしたように、ツルギは自分の敗北を認める。
「……ん?何を言ってるんだ?」
サヤは不思議そうな表情を浮かべた。
「別に俺は「俺に勝ったらフォースに入ってやる」なんて言ってないぞ?」
「………………え?」
彼の言葉を聞いて、ツルギははたと止まる。
「俺はただ「一対一のバトルをしてほしい」としか言った覚えがないんだが?」
一体何を勘違いしていたんだか、とサヤは苦笑する。
「こうしてバトルするように言ったのは、君達の"心意気"を確かめたかっただけで、勝敗は関係なかったさ。……尤も、ここで俺が負けるようなダイバーであれば、それは君達の見込み違いだったかもしれないがね」
面食らうとはまさにこれ。
ツルギは『勝たなければサヤは仲間にならない』と思い込んでいたせいで、その言葉の裏(サヤからすれば嵌めるつもりなど微塵も無かったのだが)に気付かなかった。
「あぁ、そう言うことすか……それで、俺達は先輩のお眼鏡に掛かりましたかね?」
肝心なのはそこだ。
サヤがツルギ達のフォースに入るか、入らないか。
「もちろん。君達の本気は十分見せてもらったからね」
肯定。
「「やったー!!」」
ハルナとミーシャは声を重ねて喜び、ユイは安堵したように胸を撫で下ろす。
夕暮れが、トリントン基地とマスラオ、ガンダムAGE-2 エアレイドを朱く染めていく。
その一方。
一人管制塔に戻っていたマイは、コンソールパネルを通じて、誰かと連絡を取っていた。
「……そう言うわけだから、ツバキ・サヤはウチらのフォースに入ることが決定したわ」
その相手とは、カゲトラだった。
『うむ。ツバキ・サヤのような実力者がいれば、クサナギ達も心強いことだろう。……それで、本題に移ろう』
「あんたが前に見たって言う、『"新型"ブレイクデカール』……その影響を受けたらしき現象のこと?」
『『新型ブレイクデカール』と言うのはあくまでも仮の呼称だが、それと状況が類似していることから、そう呼んでいる』
「でも、『ELダイバー』のデータをサルベージした際に使われた『ビルドデカール』をベースにした修正パッチで大抵のインチキツールは、……いや、それすらも引っ掛からないようなトンデモツールが現れたっての?」
『現段階ではまだ分からん。俺も先日に、アフリカン・サーバーでそのデータの一部を回収したに過ぎん。それも、専門のチームが解析を行っているが……ん?すまん、少し……』
何かの着信を告げたような音がカゲトラの方から聞こえる。
『……何っ、コード017の状況が確認されただと?イチノセ姉よ、すまんが急用が出来た、切るぞ』
それだけ言い残して、カゲトラは一方的に通話を切った。
マイもコンソールパネルを閉じる。
「はぁ……めんどくさ」
大きく深く溜息をついた。
「お姉ちゃーん、何してるのー?」
管制塔の出入り口から、ユイが手を振ってくれている。
「はいはーい、すぐいくからー」
踵を返して、マイはユイの元へ戻る。
トリントン基地からベース基地へ帰還するため、ツルギ達とサヤはオーストラリア・サーバーを通過していた。
ツルギのマスラオは動けなくなってしまったので、ハルナの姫武者頑駄無にゲストモードとして同乗させてもらっている。
「そう言えば……」
通過途中の中、ハルナはサヤと通信を繋いだ。
「どうしてわざわざ、わたし達の"心意気"を試すなんてことしたんですか?サヤ先輩」
『……それに答えるなら、少し長くなるよ』
前置きを置いてから、サヤは理由を語り始めた。
ーー五年も前の話になる。
当時、中学一年生だったサヤは、何も目指す目標など無く、ただGBNが出来るだけで楽しかった。
フリーバトルを行っていて、少し深入りし過ぎたかと思ったそんな時に、彼は出会った。
それは、一機の『ストライクフリーダムガンダム』だった。
ストライクフリーダムガンダムは、地に平伏したガンダムキマリスヴィダールのコクピットにビームサーベル『シュペールラケルタ』を突き立て、止めを刺した所だった。
『……』
ガンダムキマリスヴィダールの撃墜を確認してから、ストライクフリーダムガンダムは、サヤのガンダムAGE-2 エアレイドの存在に気付いたのか、シュペールラケルタを引き抜いて向き直った。
「……ッ!?」
ストライクフリーダムガンダムと目が合って、サヤは無意識に身を震わせた。
悪寒にも似た、全身に静電気を流し込まれたような不快感。
『雷のような殺気』
まさにそんな言葉が正しかった。
震える手を無理矢理動かして、ガンダムAGE-2 エアレイドはハイパードッズライフルの銃口をストライクフリーダムガンダムへ向けた、
その瞬間には、もうサヤの目の前からストライクフリーダムガンダムは"消えていた"。
「はっ……!?」
つい0.2秒前までストライクフリーダムガンダムがいたはずの場所には、砂埃が立ち上がっているだけ。
その砂埃を視認した瞬間、アラートが上から鳴り響く。
サヤがアームレイカーを咄嗟に引き下げたのはほぼ反射だった。
ガンダムAGE-2 エアレイドが飛び下がったその場所に、砲弾ーーストライクフリーダムガンダムの『クスィフィアス3』レールガンーーが打ち込まれていた。
「クソッ」
サヤは悪態をつきながら、ハイパードッズライフルを納め、ビームサーベルを両手に抜き放ち、上空にいるストライクフリーダムガンダムを見上げ、
もうそこにストライクフリーダムガンダムはいなかった。
「どこにっ……」
フッ、と部屋の灯りが消えたように目の前が薄暗くなった。
その薄暗い視界の中でガンダムAGE-2 エアレイドを照らすのは、金色の双眼。
ストライクフリーダムガンダムが、ゼロ距離にいたのだ。
「うっ、うわ……」
瞬間、雷が走った。
気が付けば、ガンダムAGE-2 エアレイドはコクピット周りの胴体しか残っていなかった。
四肢や頭部は、バラバラになって地面に落ちていた。
胴体だけになったガンダムAGE-2 エアレイドも落ちる。
バイタルバートにも斬り裂かれた痕が走っているものの、コクピットには届いていない。
おかげで、メインカメラを失っても斬られた隙間から、ストライクフリーダムガンダムの姿がよく見える。
『……』
しばらくガンダムAGE-2 エアレイドを見下ろすと、ストライクフリーダムガンダムはシュペールラケルタを納めると、踵を返して飛び去って行った。
「ぁっ……」
思わず、サヤは手を伸ばしていた。
その手がストライクフリーダムガンダムに届くはずもなく、空を切る。
何も掴めなかった手が、サヤの元へ戻る。
「……すごい」
人は感動が頂点に達すると、その言葉は酷く陳腐で簡潔なものになると言う。
ただ、「すごい」としか言えないレベルだった。むしろ、それ以外の言葉など蛇足に過ぎない。
GBNチャンピオン『クジョウ・キョウヤ』や、智将『ロンメル』のような、手の届かない天上の存在ではない、自分の目の前に現れるような中で、あんなダイバーがいるのだ。
夢ではない、目の前の現実。
なろうと思えば、自分もあのストライクフリーダムガンダムのようになれるのだ。
それからのサヤは変わった。
ただGBNが出来るだけでは満足出来なくなり、実力が欲しくなった。
心意気も覚悟も半端なフォースには入らなかった。
向上心のないダイバーなど、サヤにとっては足枷だった。
時折、臨時的に他所のフォースに傭兵のような形で参戦することもあったが、本格的にフォースを組むようなことはなかった。
とはいえ、年月を追うごとにリアルでの都合が忙しくなり、徐々にGBNにダイブする時間も減っていた。
それでも、目標とも言えるストライクフリーダムガンダムの姿だけは一日たりとも忘れたことはない。
「……それで今日に至って、君達と共にいればその道も近くなるだろうって思ったわけだ」
その言葉を区切りに、アフリカン・サーバーを通過、元のベースエリアに戻って来た。
ベース基地へ帰還するや否や、エントランスの受付カウンターの前に、ツルギ、ハルナ、ユイ、ミーシャ、サヤの五人はいた。
マイは何やら「急用が出来た」などと言っていたため、すぐにログアウトしてしまった。
受付カウンターで何をしているのかと言うと……
「フォース・『スピリッツ』の結成、おめでとうございます!」
カウンター越しの受付嬢は、入力されたデータを確認して新たなフォース結成を告げてくれた。
ちなみに、フォース名の命名はツルギ。
サヤに『心意気』を認めてもらえたツルギ達は、彼の引き入れに成功し、そして今、自分たちのフォースを結成したのだ。
「結成ーーーーーッ!!」
フォース結成して開口一番、ハルナが飛び上がって盛大に喜ぶ。
「やったーーーーーッ!!」
続いてミーシャも飛び上がって盛大に喜ぶ。
………………
………
……
「さぁユイちゃんも、さんっ、ハイッ」
「わっ、私も!?」
ハルナに同調を求められて慌てるユイ。
「えっ、えーっと……ば、バンザーーーーーイッ!!」
両手を上げて何とか喜びを表すが、
周りにいたダイバー達は何事かと言うような目でユイを見ている。
「〜〜〜〜〜……もうヤダ、ログアウトしたい」
こんな大勢の前で何をやっているのかと、ユイは万歳の両手で顔を覆ってしまう。
「ん?万歳三唱か。よしっ、バンザーイ!バンザーイ!」
何か的を外しながら解釈したのか、ツルギはユイに続くように万歳を唱える。
ハルナ、ミーシャ、ツルギが万歳三唱をしている中、サヤは一人受付嬢に「騒がしくてすいません」と小さく頭を下げる。
「「「バンザーイ!バンザーイ!!」」」
万歳三唱は、もう少しだけ続くようだーーーーー。
【次回予告】
ユイ「フォース結成!いよいよ私達もフォース戦にデビューね」
ミーシャ「それで、ボク達のデビュー戦はどこのフォースとやるんですか?」
サヤ「デビュー戦も大事だが、それにはツルギのマスラオの強化も重要だな。ずっと素組みのままでは、この先が辛くなる」
ツルギ「俺、改造とかやったことねぇんだけど……」
ハルナ「みんなで手伝い合えば大丈夫!きっと強くなれるよ!
次回、ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツ
『激闘!フォース・ロイヤルナイツ』」
ツルギ「新しいマスラオの力、見せてやろうじゃねぇか!」