ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツ   作:さくらおにぎり

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7話 紫陽花の咲く頃に

 宇宙という世界は本来、空気がないために音と言う振動を伝えることが出来ない。

 ただその宇宙空間が、ゲームと言う二次元の仮想空間であれば話は別だ。

 

 轟音と共に、紫とグレーの二色で塗装された『ユーゴー』が大型のスペースデブリに沈む。

 

 ユーゴーの胴体フレーム斬り裂き、それでも息があったので頭部も切断してようやく沈黙させたのは、ツルギのレイジングマスラオ。

 

 ユーゴー、撃墜。

 

「まずはひとつ、と」

 

 ツルギは撃墜を確認してから、明後日の方向を見やる。

 

 ユーゴーと同じようなカラーリングで塗装された『マン・ロディ』がサブマシンガンを撃ちまくるものの、ストライダーフォームによる高速機動中のガンダムAGE-2 エアレイドには当たらない。

 ガンダムAGE-2 エアレイドはストライダーフォームの速度を維持したままMS形態へ変形、マン・ロディと擦れ違い様に銃剣ビームサーベルを振るい、マン・ロディの胴体部のフレームを真っ二つに斬り裂いた。

 

 マン・ロディ、撃墜。

 

「後三つか」

 

 マン・ロディの撃墜を確認したサヤは、戦況を確認する。

 

 マシンガンを撃ちながらも素早く動き回る『百里』だが、実弾射撃では、PS装甲に守られたユイのガンダムヘビーバスターにまともなダメージが与えられない。

 それは、ナノラミネートアーマーに守られた百里自身も同じことだが、構わずにガンダムヘビーバスターは対装甲散弾砲を組み上げて発射。

 広範囲に拡散する弾丸の群れは、大部分は百里のナノラミネートアーマーに弾かれるが、一部は装甲に守られていないスラスター類を撃ち抜き、まともな推力を失った百里はその速度を落とし、そこへマイのハンブラビが追撃、百里の胴体へ電撃ワイヤー『海ヘビ』を巻き付け、機体の内部ばかりか、コクピット内のダイバーにすら高圧電流によるダメージを流し込み、やがて沈黙する。

 

 百里、撃墜。

 

「んー、決まった決まった♪さすがユイちゃん」

 

「あのねぇ、お姉ちゃんはいいとこ取りしただけでしょ……」

 

 自分が撃墜したことで自慢げになるマイを、ユイが呆れたようにぼやく。

 

 ライフルカノンで牽制しながらも、リアスカートから片刃式ブレードを抜き放つ『百錬』だが、それよりも先に一抱えもある巨大な拳が襲いかかり、頭部を殴り潰された。

 その巨大な拳の持ち主は、ヤイコの蛇威雄音。

 ついでに百錬を蹴り飛ばして、漂っていたスペースデブリに激突させた。

 

 百錬、撃墜。

 

「おぅおぅおぅ大将さんや、後はてめぇしか残ってねぇが、どうするよ?」

 

 ヤイコは視界に捉えている、悪趣味な紫色と金色に塗られた『獅電』に通信を発する。

 モニターに映る、これまた趣味の悪い豹柄のコートを着込んだ、くっきりと二つに分かれた顎を持つ、人相の悪い男。

 その表情は焦りと恐慌で歪んでいる。

 当然だろう、戦闘開始から五分もしない内に自分以外の僚機が全滅したのだから。

 それでも、せめて己の面子を保つためにどうにか上から目線の態度だけは保とうとする。

 

『お……、お前らの実力はよーく分かった。で、どうよ?ここらで手打ちといかねぇか?』

 

 このダイバーはフォース『JPTトラスト』を率いており、格下のフォースに魅力的な条件をチラつかせてバトルを申し込ませ、その後で『ビルドコインの全額支払い』『全アイテム・パーツデータの引き渡し』等と言った法外な条件を突きつけ、敗北した相手フォースから全て根こそぎ奪い取ると言う、『運営に目を付けられないギリギリのラインで』不正に近い行為を行っていた。

 

 新参フォースのスピリッツもそのターゲットにしていたが、彼らの実力をあまりにも甘く見過ぎていた。

 高額のビルドコインで雇った上位ランクのダイバー達が、こうもあっさりと倒されてしまったのだ。

 そしてたった今一人になってしまい、目の前のジャイオーンの改造機に追い詰められていた。

 

『もちろん、タダでとは言わねぇ。お前らだって提示した条件だけじゃ物足りねえだろ?ここはお互いのポイントのため……』

 

「どうするよ?って聞いてんのはこっちだこのケツアゴ。質問に質問で返すんじゃねぇよ」

 

『だ、だから手打ちといかねぇかって……』

 

 ダイバーポイントを刈り取られることだけは何とか免れようとする獅電だが、ヤイコはさらに問い詰める。

 

「降参するのか、しねぇのか、どっちだって訊いてんだよ。あァン?」

 

『……人の話もまともに聞けねぇガキが、調子に乗りやがって!』

 

 ガッ、と蛇威雄音の左手が獅電の頭部を掴み上げ、右手は握り拳を作る。

 

「いちにのさんで答えな。「はい」か「いいえ」で、選べや」

 

 そんじょそこらの「ヤ」の付く組合の人間すらも怯むような声がヤイコから発される。

 

「いーち」

 

『まっ、待て!条件の追加じゃねぇなら何だっ、アイテムか!?』

 

「にーの」

 

『だったらっ、SRアイテムの十個でも百個でもくれてやっからよっ、ここは……』

 

「さん」

 

 と同時に蛇威雄音は獅電のバイタルバートに拳をぶち込んだ。

 

 獅電、撃墜。

 

『Battle ended.Winner. Spirits』

 

 

 

 

 

 ヤイコのフォース・スピリッツの加入から数日。

 

 つい先程に、JPTトラストとのフォースバトルを終えて、通常なら有り得ない額のビルドコインとレアアイテムを、当初の予定よりも遥かに大量に巻き上げて、ベース基地へと帰還してきたスピリッツの面々。

 

「もっと派手な喧嘩になると思ってたんだがなぁ……」

 

 残念そうな顔を浮かべながら、ヤイコは飴玉を一口する。もちろん、実際に味や食感が伝わるわけではないが、"食べてるつもり"だ。

 

「まぁまぁいいじゃないの。おかげでたんまりビルドコインが入ったんだしさ♪」

 

 マイはコンソールパネルに表示されている、目が眩むような額のビルドコインの残高を見てニヤニヤしている。

 

「お姉ちゃん?分かってると思うけど、使い道はちゃんとみんなで相談してから……」

 

「よーしっ、早速ショッピングへレッツゴーよ!」

 

「ちょっ、お姉ちゃ……!」

 

 釘を刺そうとするユイだが、それよりも先にマイはユイの手を掴んで、ショッピングエリアへ移動してしまう。

 

 残されるのは、ツルギとサヤの二人。

 

「いいんですか?マイの奴、止めなくて」

 

「まぁ、ユイもいるし、使いすぎることはないだろうさ」

 

 サヤは苦笑するものの、ツルギは呆れたように溜息をつく。

 

 今回のバトルは、ツルギとユイ、サヤの三人まではともかく、ハルナとミーシャの予定が合わず、やむを得ない形でマイとヤイコをチームとして組み込んだものだ。

 

 マイは実力こそあるものの、気分屋なために安定性に欠き、ヤイコに至っては「喧嘩すること」が目的であるため、味方との連携など考えもしないのだ。

 

 それでも、個々の実力で勝つことは出来たのだから、結果オーライなのかもしれないが。

 

「なぁツルギよぉ、今日はもう喧嘩しねぇのか?」

 

 ヤイコの中では『バトル=喧嘩』と言う式が完成されているため、このような言い方になる。

 

「予定はしてないな。サヤ先輩は何かミッションに行く予定とかありますか?」

 

 ツルギは特に予定がないため、サヤにも意見を求めてみる。

 

「いいや。今日のバトルは済んだから、俺はログアウトさせてもらうよ。後は自由にしてもらって構わないさ」

 

 そう答えつつ、サヤはログアウトの準備を整える。

 

「んじゃ、アタシは好きにさせてもらうぜ」

 

 ヤイコはどうするか知らないが、一人で動くつもりなのか、エントランスを後にしていった。

 

「じゃぁサヤ先輩、お疲れ様でした」

 

「お疲れ様。遅くなり過ぎないように、気を付けてな」

 

 最後にツルギと挨拶を交わしてから、サヤはログアウトした。

 

 一人残されたツルギは「さてどうしたものか」と考える。

 とりあえず自分のダイバーデータを目に通す。

 今まであまり使うことが無かったため、ビルドコインは潤沢に溜まっている。

 

「ま、たまには一人で彷徨くのもいいか……」

 

 ここの所は、戦闘系のミッションやフォースバトルばかりで、のんびりとプレイすることがあまり無かった。

 思い立ったが吉日、ツルギはコンソールパネルを開いて行き先を選択、『GBN City』を入力する。

 

 

 

 現実世界の都心部を模したような近代的な街並みは、多くのダイバーが行き交い、賑わっている。

 ツルギはとりあえず街中を歩き回ってみる。

 

「(こうして改めて見るとほんとに自由な世界だな、ここは)」

 

 ガンダムシリーズに登場する軍服やキャラクターの私服、ファンタジー職業のような装備、犬や猫を模した獣人等々、皆が皆、思い思いの形で過ごしている。

 そもそもGBNは、五体不満足な人間や何かしらの障害を負った人間でも自由に平等に楽しむことが出来る、と言うキャッチフレーズも持つ。

 

 なりたい自分になれる世界なのだ。

 

 そう言った理由もあって、GBNは今年で20周年を迎え、ログインユーザーもじきに3000万人に登ると言う。

 

 ふと、日本に見られるような甘味処を見つけ、そこに腰掛けている数人のグループの中に、特徴的な薄紫色の髪の持ち主ーーミツキの姿を見かける。

 

 ミツキの周りにいるのは、薄緑色や薄赤色、濃い紫色の髪をした、同じく中性的な、と言うより本当に中性のイノベイドタイプのダイバー達。

 ツルギは甘味処へ入り、ミツキに声を掛けた。

 

「よう、ミツキ」

 

「おや、ツルギではありませんか。今日はお一人で?」

 

「まぁな」

 

 ミツキに続いて、その周りのイノベイド達もツルギの姿を見る。

 その中で、薄緑色の短い髪ーーリボンズ・アルマークと同じ塩基配列ーーのイノベイドが、ミツキとツルギを見比べる。

 

「ミツキ。彼が、最近君が目に掛けていると言う、マスラオ使いのダイバーかな?」

 

「えぇ、そうですよ。スサノオではなく、マスラオを選ぶ辺りにセンスの片鱗を感じますよね。……あぁ、そうです。せっかくですし、ツルギにもこれを」

 

 ミツキはふと思い出したようにコンソールパネルを開き、メールをツルギへ送信する。

 何を送信してきたのかと、ツルギは送られたメールを開く。

 

 本文には『フォースフェス開催のお知らせ』と、別サイトへのリンク先のアドレスが表記されている。

 

「フォースを結成したのであれば、フォース限定のイベントもあります。こちらは、その一例です」

 

「フェスってことは、何かのお祭りか何かか」

 

 ツルギは適当にみたらし団子のセットを頼んでから、近くの席に腰掛ける。

 リンク先へ移動し、フェスの内容を目に通してみる。

 

 一面には、『シャア!シャア!シャア!フェス』とデカデカと、赤やら金色で彩られたタイトルが目立つ。

 とにかく、ガンダムシリーズにおいて『アムロ・レイ』と双璧を誇る有名キャラクター『シャア・アズナブル』に関するイベントらしい。

 今週の日曜日に開催されるようだ。

 

「へぇ……バトル関連以外でのイベントってことか」

 

 ハルナ辺りが聞いたら喜んで飛び付きそうだな、と脳裏に見馴れた幼馴染みの姿を思い浮かべる。

 

「もし良ければ、ぜひ参加してみてください。当イベントでしか入手出来ないアイテム等もありますから」

 

「あぁ、ありがとな」

 

 注文した団子を頬張りながらーーやはり食べてるつもりだがーー、ツルギは早速フォースメンバー達に同じ内容のメールを一斉送信する。

 

 

 

 

 

 送信したメールの返信は、その日の内に行われた。

 フォース・スピリッツのフェス参加者は、ツルギ、ハルナ、ユイ、マイ、ミーシャの五人。

 サヤはリアルの方で都合が悪く、ヤイコは「喧嘩じゃねぇなら気が乗らねぇからパス」とのこと。

 

 参加者と不参加者を確認してから、部屋を消灯、ツルギは布団の上に寝転がった。

 

「(フェスってことは、多くのダイバーが集まる。つまり、次元覇王流拳法について訊いて回れるチャンスでもある)」

 

 バトルを行う分けではないので、ちょっと気軽に話し掛けたついでに訊くことは出来るだろう。

 次元覇王流拳法そのものや、その使い手であるダークマスターを知っているダイバーと会うのは難しいだろうが、聞き覚えの端くれくらいは掴めるかもしれない。

 

 ふと、天井からポツポツと小さな粒が叩くような音が聞こえてきた。

 

「雨……梅雨入りか」

 

 今は六月で、ちょうど梅雨入りの時期だ。

 しばらくは雨続きだな、と思いつつツルギは眠りについた。

 

 

 

 

 

 日曜日でも雨の日でも関係なく、ツルギの朝の鍛錬は行われる。

 レインコートを着込み、雨の中を堂々とランニングし、水溜まりの出来たコンクリートの上で筋トレと拳法の型の繰り出し。

 

 その後の濡れたレインコートや運動靴の手入れと言う手間を除けば、ほぼいつもの日曜日。

 最近のツルギはその日常の中に、GBNにダイブすることが日課のようになっている。

 フォースフェスの開催時刻に合わせて、ハルナと共にいつものガンダムベースへ向かう。

 

 その途中で、ハルナがフェスについての話題を持ってくる。

 

「今日のフェスって、シャアに関するフェスみたいだけど、どんなフェスなんだろうね?」

 

「俺もよく知らんが……まぁ、仮面を被ってたり、赤くて角が生えてたり、通常の三倍速かったりするんじゃねぇか?」

 

 ツルギは、自分が知る限りの『シャア・アズナブル』について挙げてみる。

 たまに仮面の代わりにサングラスを付けていたり、通常の三倍速いのはシャア本人の技量によるものだとか、シャア専用ザクの性能は普通のザクの1.3倍増程度(ただし推進剤等の積載量は変わらないので稼働時間は逆に短い)だったりするのだが、ジオングや百式は赤くなかったりするし、リック・ディアスは後に全て赤く塗装されたりするし、『フル・フロンタル』のことをシャアだと指す人もいたりするのだが、ツルギもそこまで細かくは知らない。

 

 ーーさらに詳細に表記することも可能ではあるが、ここでは割愛させていただくーー

 

 ともかく、シャアと言う人物像はそれほどまでに知名度のあるキャラクターである。

 

「何にせよ、楽しみだね♪」

 

 ミツキくんに感謝感謝ー、と嬉しそうに呟くハルナ。

 

 が、不意にガシャンッと言う何か金属がぶつかったような音が二人の聴覚に届く。

 何かと思い、辺りを見回してみる。

 

「……あっ、ツルギくんあっちッ」

 

 ハルナが指す方向に、排水路の溝に半分沈んだ車椅子と、何とか落ちないように自分を支えている女性が見えた。

 

「おぅっ」

 

 短く頷きと共にツルギはその場から駆け出し、ハルナもその後を追う。

 

「大丈夫ですか!」

 

「……大丈夫です。けど、困りましたわ」

 

 ひとまず、怪我をしている分けではなさそうだが、自分でこの状態を何とかするのは難しいようだ。

 ツルギはハルナに「ちょっと持ってろ」と自分の荷物と傘、さらに女性の荷物も取り上げて押し付けると、車椅子のハンドルをしっかり掴む。

 

「持ち上げますよ……っと!」

 

 その場で滑らないように踏ん張り、合わせて50〜60kgはあるだろう女性と車椅子を引き上げる。

 ほんの短い時間だけ車椅子の車輪を宙に浮かせ、元のアスファルトの上に乗せ直す。

 

「っし、もういいですよ」

 

 一息ついてから、ツルギはハルナから鞄と傘を受け取る。

 

「ありがとうございます。おかげで助かりましたわ」

 

 車椅子に座ったままの姿勢で、女性は小さく頭を下げた。

 

「雨の日は滑りやすいですし、お気をつけて」

 

 ツルギは言葉短くそう告げて一礼すると、ハルナと踵を返してガンダムベースへの道程に戻る。

 

 

 

 

 

 雨粒に 紫陽花揺れて 一滴 

 

 

 

 

 

 最初にツルギとハルナ、次にミーシャ、最後にユイとマイがログインし、参加者は全員揃った。

 順次出撃し、フォースフェス専用のサーバーゲートを通過する。

 

 

 

『今は良いのさ全てを忘れて 一人残った傷ついた俺が この戦場で 後に戻れば地獄に落ちーるー♪』

 

 到着すると同時に、BGMに『シャアが来る』が流れ始める。

 

 会場入り口には、1/1スケールのシャア専用ザクⅡが立ち、デカデカと『フォースフェス、シャア!シャア!シャア! へようこそ!!』と看板が提げられている。

 

 場内には、シャアの真っ赤なジオン軍服や、クワトロ・バジーナが着用したノースリーブジャケット、ネオジオン総帥時の軍服の他、士官学校時代の制服等など、有名どころからドマイナーな所まで、劇中でシャアが着用した服装を身に着けたスタッフが各所に立ち、さらには『シャアッガイ』と言う赤くて角の生えたベアッガイが出迎えてくれる。

 

 露天などは九割近くがサーモンピンクなどで彩られ、(残りの一割は金色)『シャア専用カステラ』『シャア専用フランクフルト』『シャア専用焼きモロコシ』と言うような、何もかもが赤くて角が生えたような形をした物が並ぶ。

 

 ビルダー達が展示するために用意したガンプラは、歴代シャア搭乗機はもちろん、アナザーガンダム作品のガンプラを赤くしてブレードアンテナを取り付けて、『シャア専用リーオー』『デュランダル議長(恐らく中の人ネタ)専用ザクファントム』『シャア専用ガンダムアストレアType-F【トランザムインジェクションver】』はおろか、『コレンカプル』や『ゼイドラ』『グリムゲルデ』をそのまま持ってきて機体名の頭に『シャア専用』と銘打っただけのものまで、もはや赤くて角さえあれば何でもありである。

 

 アトラクションには『シャア専用ジェットコースター(通常のジェットコースターの三倍の速度)』や、クワトロ型のサンドバッグを殴って"修正度"を計る『これが若さか……』や、ダカールやスウィートウォーターで行われた演説を再現する『演説大会』など、これもまたシャア関係のソレである。

 

 

 

 目の痛くなるような真っ赤なそれらを一通り見て回ってきたツルギ達は、バー風のカフェ(シャアがギレンの演説をテレビで見ながら「坊やだからさ」と言う台詞を残した場所)で休憩していた。

 ご丁寧にも、テレビモニターにはギレンの演説まで再現している。

 

「……なんつーか、やり過ぎ感がハンパないんだが」

 

 それがツルギの最初の感想だった。

 

「何でもかんでも赤くして角を生やせば三倍になると思ったら大間違いだからね!」

 

 とっても嬉しそうにそんなことを言い放つのはハルナ。そりゃそうだ。

 

「えっ、違うの!?あたしってば三倍速くなると思ってハンブラビを赤く塗ったんですけど!」

 

 途端にマイが真顔になってハルナの言葉に便乗する。

 

「そんなわけないでしょ……」

 

 真面目にふざけるマイにツッコミを入れるのはユイ。

 

「あっはは……」

 

 苦笑するミーシャだが、その手は露天やアトラクションで入手したアイテムでいっぱいである。

 

「あ、そう言えばイベントミッションってあるんでしょうか」

 

 ふと、ミーシャが思い出したようにつぶやく。

 

「イベントミッションって何だ?」

 

 ツルギがミーシャに訊いてみる。

 

「こう言うフォースフェスには、フェス限定のミッションがあるらしいんです。ボク、それが目当てで来たような感じなんだけど……」

 

 それらしい告知が見当たらない、とミーシャは言う。

 他の四人も、見たような気はするが見逃していたような反応している。

 

 

 

「あら、イベントミッションにご参加ですの?」

 

 

 

 不意にこの場の五人の誰でもない声が掛けられる。

 

 声の方へ振り向くと、出入り口に修道女ーーシスターの服装をした女性ダイバーがいた。

 その周りには、青年〜中年層辺りのダイバー達もいる。

 シスターの顔を見て、真っ先にハルナが思い当たった。

 

「……あれ?もしかして、さっきの車椅子の人ですか?」

 

 ハルナが「車椅子の人」と言ったせいなのか、一瞬だけシスターの眉が顰めたように見えたが、すぐに話を戻す。

 

「先程はありがとうございます。それで、あなた達もイベントミッションにご参加なのですか?」

 

 それを訊かれて、ミーシャが反応する。

 

「あ、そうなんです。でも、参加方法が分からなくて……」

 

「でしたら、私達でご案内致しましょうか?」

 

 構いませんね?とシスターは周りのダイバー達に目配せし、リーダー格らしい、『ウッソ・エヴィン』を大人にしたような感じの服装をした、人の良さそうな男性が口を開く。

 

「あぁ、困るもんじゃないし、どうせなら一緒に行こうか」

 

 リーダーがそう言うと、ピンクのウサギの着ぐるみを着込んだダイバーや、『タービンズ』のジャケットを羽織った女性、初老だが隆々とした筋肉を見せつけるような軽装の大男と、その息子なのだろうこの中では一番若い大学生くらいの、傭兵のような出で立ちの青年も、それぞれ頷くのを確認する。

 

「良かったぁ、分かんなくて困ってたんですよ」

 

 仮にも(GBNでは)初対面だろうに、何の警戒心もないミーシャ。まぁ、イベントの案内をするだけなので騙す意味も無いだろうが。

 

「あっ、ボク、ミーシャって言います。所属フォースは、スピリッツで」

 

「『ミスズ』ですわ。所属フォースは『フラワーズ』。以後、お見知りおきを」

 

 シスターーーミスズは行儀よく一礼した。

 

 そんなわけで、ツルギ達はミスズ達のフォース、フラワーズの面々についていくことになった。

 

 

 

 

 

『シャア・アズナブルクエスト。ガンプラを使って謎を解き、『シャア・アズナブル』その人を見つけ出そう!見事、シャアを発見したダイバーには、イベント限定の『RGサザビー【レッドコメットコーティングver』を進呈!』

 

 と言う謳い文句と共に、イベントフェスは開催された。

 

 シャア専用ザクⅡのMS少女のコスプレをした女性による説明が開始される。

 

『これより、ルールを説明させていただきます。このエリアには、様々な場所に『宝箱』が隠されています。それらたくさんの宝箱の中にはアイテムが入っていますが、その中にひとつだけ『シャア・アズナブル』が隠れていますので、彼を見つけ出してください。もう一度言います、『"シャア・アズナブル"を見つけ出してください』。ただし、シャアの偽物も混ざっております』

 

 

 

 スタートラインに、参加者のガンプラが立ち並び、その中にツルギ達のガンプラも混ざる。

 

『失礼……フォース・スピリッツの方々ですね?』

 

 ガンダムアスタロトリオートの隣にいた『キュベレイ』の改造機が話し掛けてきたので、ミーシャが応対する。

 

「あ、はい。そうです。そっちは、フラワーズの人達ですね」

 

 キュベレイーー『ヒュドレインシァ』と言う銘のガンプラと、Vガンダム、百錬などが並んでいる。

 

『悔いなく、最後まで楽しみましょう』

 

「はいっ。ボク達も頑張ります!」

 

 ミーシャの元気の良い返事を聞いて、ミスズは小さく笑う。

 

『それでは、ミッションスタートです!』

 

 ブザーが鳴り響き、参加者のガンプラ達が宝箱を目指して一斉に飛び出す。

 

「五人固まって動くのもなんだ、二手に分かれて動くか?」

 

 最初にツルギがそう提案する。

 このフィールドは広いため、人数がいるのに固まって動くのは効率が悪い。

 

「なら、私とお姉ちゃんの二人で動くわ。そっちは三人でってのはどう?」

 

 ユイが意見を挙げる。

 

「うん、それがいいと思うよ」

 

 ハルナが頷いて、レイジングマスラオ、姫武者頑駄無、ガンダムアスタロトリオートの三機と、ガンダムヘビーバスターとハンブラビがコンビになって分かれる。

 ハンブラビはMA形態に変形、その上にガンダムヘビーバスターが乗り込む。

 

「ユイちゃんってば重いわねぇ、最近太ったんじゃないの?」

 

「なぁっ!?まるで私の体重が増えたみたいに言わないでよッ!!」

 

 相変わらず口喧嘩をしながらも、イチノセ姉妹は別方向に進路を変更していく。

 

「んじゃ、俺達は俺達でのんびり探すとするか」

 

「レッツゴー♪」

 

「おー!」

 

 ツルギ、ハルナ、ミーシャの三人も、加速して宝箱を探しに行く。

 

 

 

 

 

 

『あったぞっ、宝箱だ!』

 

 参加者の一機である『ムーンガンダム』が、茂みの中に隠れていた宝箱を発見する。

 

『ナーイス!意外と簡単に見つかるもんやな』

 

 僚機の『グレイズシルト』が、ムーンガンダムの元に駆け寄ってくる。

 

『さーて、中身とご対面……』

 

 早速、宝箱を開けてみる。

 すると、真っ赤なジオン軍服と特徴的なマスクを被った、宝箱サイズの『シャア・アズナブル』が現れる。

 

『ラッキー!いきなりシャアが当たったぜ!』

 

『……いんや、ちょい待ち。こいつまさか……』

 

 喜ぶムーンガンダムだが、グレイズシルトはカメラアイを露出させて凝視する。

 すると、シャアは突然仮面を脱ぎーー否、それはシャアではなく、『シャアの服装をしたゼクス・マーキス』だった。

 

『なんだこりゃっ、偽物ってこういうことかよ!?』

 

『あー、こいつはややこしいやっちゃ』

 

 

 

 

 

 また、イベントミッションには、ロイヤルナイツの面々も参加していた。

 

「宝箱を見つけましたわ!」

 

 ノエルのエーデルνガンダムが、高々と宝箱を掲げてみせる。

 

「さすがはノエル姉様!」

 

 リヒターのアレックスと、僚機の騎士ガンダムが駆け寄ってくる。

 

「では、早速……」

 

 ノエルは宝箱を開ける。

 

『モビルスーツを赤く塗れ♬ あ、そーれあっかく塗れ♪』

 

 中にあったのは、シャア・アズナブル……ではあったが、デフォルメ化されて、赤いお盆で見えては不味い部分を隠しながら裸踊りをしている、『ガンダムさん』に登場するシャアであった。

 しかも、分かりやすくデカデカと『ハズレ』と描かれている。

 

「…………クケェェェェェーーーーーーッ!!」

 

 どう見ても小馬鹿にしているとしか思えない、だらしなさすぎるシャアを見て、ノエルは発狂した。

 

「ノッ、ノエル姉様がご乱心になられた!?」

 

「ノエル姉様っ、お気を確かに!」

 

 アレックスと騎士ガンダムが、暴れ出したエーデルνガンダムを取り押さえる。

 

 

 

 

 

 そして、フラワーズの面々も宝箱を発見していた。

 

『うっかり潰すなよー』

 

『分かってるから話し掛けんな……ッ』

 

 緊張感の『き』の字も無さそうにブレイクダンスを踊っている『ガンダムバルバトスルプス』と、細い空洞にシザーシールドを入れ込ませて、慎重に宝箱を引っ張り出そうとしている『ガンダムグシオンリベイクフルシティ』の二機。

 

『……よ、しっ、取れた!』

 

 破損させることもなく、宝箱を回収、早速開けてみる。

 

 宝箱の中から現れたのは、高齢の白人男性だった。

 

『……誰だこのおっさん?』

 

 ガンダムグシオンリベイクフルシティのダイバーである青年は指を差しながら、隣にいるガンダムバルバトスルプスに訊いてみる。

 

『んーとな、この人は確か、『シャ○ル・ア○ナヴール』だな。フランス・パリ出身のシンガーソングライターだ。ついこの間に亡くなったらしいねぇ』

 

 シャア・アズナブルと言うフルネームの元になった名前の人物だと、ガンダムバルバトスルプスのダイバーである大男は言う。

 どちらにせよ、ハズレである。

 

 

 

 

 

 エリア各地で、アイテムやシャアの偽物が納められた宝箱が開封されていく中、ツルギ、ハルナ、ミーシャの三人は未だに宝箱を見つけられないでいた。

 

「なかなか見つからんな……」

 

「うーん、それっぽそうな所にも無いしねぇ……」

 

 ハルナは、別行動中のユイとマイに通信を繋ぐ。

 

「ねぇユイちゃん、そっちは宝箱あった?」

 

『ちょっとハルナっ、今すぐ来て!』

 

 通信越しのユイの声は、ハルナを要求していた。

 

『今宝箱を開けたんだけど、ヒントを教えてくれるクイズが出てきたの。それで、「『アムロ・レイ』に最も近いのは次の内どれ?」って問題で……』

 

「え、ちょっと待って何その問題……あぁんもうっ。ツルギくんとミーシャくん、わたしちょっとユイちゃんのとこ行ってくるね」

 

 ハルナはアームレイカーを捻り返し、姫武者頑駄無を反転させて加速していく。

 

「あっ、おいハルナっ……」

 

 ツルギが制止を呼び掛けるが既に遅く、姫武者頑駄無はもう見えなくなっていた。

 

「お前がいなかったらクイズが出てきた時どうすんだよ……」

 

「ま、まぁまぁ、ボク達の出来る範囲で頑張りましょうよ」

 

 仕方なく、ツルギとミーシャだけで宝箱を探索を続行することになる。

 

 

 

 

 

 ハルナは、ユイとマイの元に到着する。

 

「それで、どれって?」

 

「ハルナ、これ分かる?」

 

 ユイが指す選択肢には

 

 ・アマクサ

 

 ・ガンダムF90(1号機)

 

 ・メガゼータ

 

 ・パーフェクトガンダム

  

 の四つが表示されている。

 

「……えぇぇぇぇぇ!?最も近いってどう言う意味なのこれぇ!?」

 

 アムロの戦闘データのことを指すのか、実際にアムロが搭乗したことを指すのか、アムロが搭乗したガンダムに近いものを指すのか、全く分からない問題だ。

 

「あーもー、って言うかメガゼータって何これ、こんなのあったっけ?」

 

 半ば当てずっぽうでそれを選択すると、ブブーッと言う外れたような効果音が鳴る。

 

『メガゼータは公式なMSではないので、カウントされません。要するに、オフィシャルではありませんぞおおおお!』

 

「……こんなもん分かるかーッ!!」

 

 ハルナは怒りのままに宝箱を蹴り飛ばした。

 

 

 

 

 

 ツルギとミーシャは二人でしばらく探し回っていると、ふと金色に光る建造物が見えた。

 

『黄金の百式像』と言うらしい、胸部やフット部、関節も全て同じイエローゴールドの百式の石像が聳え立っている。

 

「アレを探るか」

 

「ですね」

 

 レイジングマスラオとガンダムアスタロトリオートは、黄金の百式像の近くに着地して、不意に他のガンプラの反応が近付いてくる。

 飛来してきたのは、フラワーズのVガンダムと百錬だが、それだけでなく、その他大勢のガンプラが黄金の百式像目掛けて来る。

 

「ヤバイな、早く見つけないと先を越されるぞ」

 

「はいっ」

 

 ツルギとミーシャは手分けして、黄金の百式像の周りを探索を始める。

 しかしすぐには見つからず、次第に他のガンプラ達も到着してくる。

 

『あ、どうも』

 

 レイジングマスラオの近くに着地した、フラワーズのVガンダムが小さく会釈してきた。

 

「どーも……」

 

 ツルギも一応、片手を小さく挙げて会釈を返す。

 そんなことをしている場合ではないのだが、それも杞憂で終わることになる。

 

「あっ、あったぁ!ツルギさんっ、宝箱ありましたよー!」

 

 パイルハンマーの柄で地面を掘っていたミーシャのガンダムアスタロトリオートが、掘り出したのだろう宝箱を持ち上げて来る。

 

「おっ、でかしたぞミーシャ!」

 

 ツルギはミーシャのお手柄を褒めつつ、彼の方へ向かおうとする。

 

 

 

 ーーーーーが、ここで事態は風雲急を告げることになる。

 

 

 

『クソッ、こうなったらアイツから奪ってやるまでだ!』

 

 大勢の中から、Gエグゼス・ジャックエッジが飛び出し、宝箱を抱えているガンダムアスタロトリオートに体当たりを仕掛けた。

 

「うわっ!?」

 

 突然体勢を崩されたミーシャは、誤って宝箱を落としてしまう。

 

『悪く思うなよ、拾ったモン勝ちだ!』

 

 地面を転がる宝箱に、Gエグゼス・ジャックエッジが拾おうと手を延ばす。

 が、突如横殴りの一撃を受けて吹き飛ばされる。

 

「何してんだっ、これは俺達が見つけた宝箱だぞ!」

 

 ツルギのレイジングマスラオが、Gエグゼス・ジャックエッジを突き飛ばして、宝箱を確保しようとする。

 しかしーー

 

『あのマスラオが宝箱持ってる!』

 

『目の前で取られてたまるかよ!』

 

『奪えっ、奪えぇッ!』

 

 騒ぎを聞き付けたのか、他のダイバーのガンプラが一斉にレイジングマスラオに襲い掛かってくる。

 

「おいやめろっ、イベントミッション中に攻撃はマナー違反じゃねぇのか!?」

 

『うるせぇ!』

 

 ツルギの声は届かず、接近してきたギャプランがビームサーベルをレイジングマスラオに振り下ろし、宝箱を持った左腕を斬り裂いた。

 

「しまっ……!」

 

 宝箱が再び地面をころがり、ギャプランがそれを奪おうとするが、その間にVガンダムが割り込んだ。

 

『やめろって言ってるじゃないかッ!』

 

 ビームサーベルを抜き放って、ギャプランのビームサーベルを切り飛ばした。

 

「あんた、何で……?」

 

 何故自分たちを助けるのか、ツルギは思わず訊き返す。

 

 別の方向からゴッグが迫りくるが、レイジングマスラオの背中を守るように、百錬が立ち塞がった。

 

『ここは私達に任せて、早く離脱しなさい』

 

 百錬の女性ダイバーからの通信だ。

 

「いや、離脱は無理そうですよ」

 

 しかしツルギはそれを否定し、右手に『ハワード』を抜き放つ。

 周りには、宝箱を奪おうとする欲深なダイバーが、虎視眈々と狙っている。

 逃げようとすれば、すぐに追ってくるだろう。

 

「ツルギさん……どうしてこんな」

 

 ミーシャのガンダムアスタロトリオートも起き上がり、レイジングマスラオの隣につく。

 

「結局、競い合いってのはこうなるもんなのかもな……」

 

 ツルギは舌打ちする。

 

 それを合図にしたかのように、醜い争奪戦が勃発した。

 

 

 

 

 

 ハルナ、ユイ、マイの三人は、ツルギとミーシャがいる地点まで急行していた。

 一度合流しよう、とハルナが提案したものの、何故か男子二人からの通信が返ってこなくなってしまったのだ。

 正確には、通信そのものは繋がっているのだが、二人からの声の代わりに、何やら騒がしい音が聞こえてくる。

 何かあったのかと思い、女子三人はそちらへ向かっている。

 

「……通信も返せないくらい、事態が紛糾しているってことかしら」

 

 ユイは神妙な顔をしながら、ツルギとミーシャの身を案ずる。

 

「ま、いんじゃない?良いにしろ悪いにしろ、なんか進展があったってことっしょ」

 

 真面目に探しているユイとは対照的に、やはりマイはお気楽だ。

 

「そろそろツルギくんとミーシャくんの反応が……って、え?」

 

 ハルナはそこで一度加速を止める。

 

「どしたのハルちゃん?」

 

 足を止めた姫武者頑駄無を見て、マイのハンブラビもその場で旋回する。

 

「ね、ねぇ、あれもしかしてバトルに発展してる?」

 

 ハルナが指差す方向。

 金ピカの百式の石像の足元では、砂煙やビーム、爆発などが断続的に巻き起こっている。

 

 

 

 

 

 レイジングマスラオ、ガンダムアスタロトリオート、Vガンダム、百錬の四機は、最初こそ善戦していたものの、我先にと宝箱を奪おうとする数十人もののダイバーと言う数の暴力の前に、次第に傷付き消耗し、膝を折りかけていた。

 

 四機とも損傷が酷く、まともに戦うことすら出来なくなっていた。

 

「クソッ、こんな奴らに負けてられるか……ッ!」

 

 ツルギは悪態をつきながらも、ドムの頭部を『ハワード』で斬り飛ばす。

 

『だけど、これ以上は辛いわね……』

 

 百錬は折れてしまったブレードを捨てて、ナックルガードでティエレンを殴り飛ばす。

 

『しかし諦めたくもない、なぁッ!』

 

 Vガンダムもビームシールドで殴るようにしてリグ・シャッコーを撃退する。

 

「ボクは……」

 

 ガンダムアスタロトリオートはパイルハンマーで薙ぎ払い、ジムコマンドの左腕をシールドごと砕き飛ばす。

 

「こんなことがしたくて、ここに来たんじゃないっ!」

 

『ならその宝箱を渡せばいいだろうが!』

 

 ミーシャの叫びなど届くはずもない、先程のGエグゼス・ジャックエッジが、ダガーナイフを振り下ろしガンダムアスタロトリオートの右肩に喰い込み、斬り落とす。

 

『それが嫌なら、ここで死にやがれ!』

 

 続けざまに、ダガーナイフをバイタルバートへ突き立てようと迫りーーーーー

 

 

 

 

 

『天雨ノ奏(あめのうた)【五月雨】ッ!!』

 

 

 

 

 

 突如、黄金の百式像の周りで争うガンプラ達の中へ、ビームの雨が降り注いだ。

 それらビームの雨は本体への直撃を避け、"武装だけ"を正確に撃ち抜き、破壊していく。

 

『な、何だっ、どこから!?』

 

『ストフリみたいな真似しやがって!』

 

 武装らしい武装を失ったダイバーは狼狽え、それは、『ハワード』を失ったレイジングマスラオと、ロングレンジライフルとパイルハンマーを失ったガンダムアスタロトリオートも同じだった。

 

「サーベルだけを狙って壊すとは……一体何者だ?」

 

 ツルギはビームの雨が降ってきた上を見上げる。

 

 上空から現れたのは、フラワーズのミスズのガンプラ、ヒュドレインシァだった。

 ヒュドレインシァの周りには十基のファンネルと、両腕のインコムクロー、さらに袖口のビームガン、合計で十四の砲口を向けていた。

 

『全機に告ぎます……即刻、諍いなど醜い真似はお止めなさい』

 

 広域通信で、その場にいる全機にミスズの戦闘中止が告げられる。

 一瞬だけ沈黙が漂い、一拍を置いてから反論の声がヒュドレインシァに向けられる。

 

『ふざけんじゃねぇぞ!』

 

『お前だって宝箱が欲しいだけだろうが!』

 

 そうだそうだ、と便乗するダイバー達だが、再びビームの雨ーーヒュドレインシァの必殺技『天雨ノ奏【五月雨】』が降り注いだ。

 今度は被弾することもなかったが、烏合の衆を黙らせるには十分だった。

 

『黙りなさい。今この場で、あなた方を殲滅してもよろしいのですよ?』

 

 ハッタリではない、ミスズの声から発される"プレッシャー"は、それが実行可能であることを示している。

 再びの沈黙。

 すると、今度はVガンダムのダイバーからも広域通信が届く。

 

『気は済まないかもしれないけど、ここは下がってくれないか?』

 

『『『『『………………』』』』』

 

 もうしばらく沈黙が続いてから、宝箱を奪おうとしていた一機が踵を返して飛び去った。

 それに倣うように、次々にガンプラ達が黄金の百式像から飛び去っていく。

 

 辺りに残っているのは、スピリッツとフラワーズのガンプラだけだった。

 

「……助かったのか」

 

 ツルギは降りてくるヒュドレインシァを見上げながら、安心に一息つく。

 一歩遅れて、ハルナとユイ、マイの三人もやって来る。

 

「二人とも大丈夫!?なんか、バトルになってたみたいだけど……」

 

 真っ先にハルナの姫武者頑駄無が、レイジングマスラオとガンダムアスタロトリオートに駆け寄ってくる。

 

「俺は大丈夫だ。……左腕は無くなったがな」

 

 レイジングマスラオは最初に左腕を失った以外に、どこか欠損している部位はない。

 

「ボクは右腕と装甲が少し無くなったぐらいです……」

 

 そう答えたミーシャの声は暗い。

 楽しみにしていたイベントミッションで、こんな気分の悪くなる目に遭ったのだ、彼が気を落とすのも当然だと言える。

 

 一方のフラワーズの方も、状況を確かめ合っていた。

 

『そちらの損傷具合は?』

 

 全長の高いヒュドレインシァが膝を着くような形になり、脚部が破損して歩けなくなったVガンダムと接触通信を行う。

 

『こっちはブーツを外して、トップ・ファイターになれば問題ない。最悪、コアファイターでも動けるから』

 

 続いて百錬もVガンダム経由の接触通信を行う。

 

『私の方はそこまで損傷してないわ。ただ、スラスターのガスが心許無いかしら』

 

『……今、他の皆さんにこちらに来てもらうように通達したところですわ』

 

 もう少しここで立ち往生になりますが、とミスズが言いかけたところで、ハルナの姫武者頑駄無が近寄って来た。

 

「あの、ちょっといいですか?」

 

『何か?』

 

「そっちも、動けないんですよね?だったら、ちょっと思い付いたことがあるんですけど……」

 

 

 

 

 

 ミスズのエマージェンシーを受けて、フラワーズのメンバーであるパワード・ジム、ガンダムバルバトスルプス、ガンダムグシオンリベイクフルシティの三機も、黄金の百式像に到着した。

 

『緊急事態と聞いたが、無事か?』

 

 パワード・ジムのダイバーである、ピンクのウサギの着ぐるみを着込んだ男は、着陸と同時に状況を確認する。

 続いて、ガンダムバルバトスルプスとガンダムグシオンリベイクフルシティも到着する。

 

『んー、こりゃ俺達が来ることも無かったかな?』

 

『こいつは……』

 

 彼ら三人に見えている光景とは、スピリッツとフラワーズ、双方のフォースのガンプラが、互いにパーツやエネルギーを分け与え、助け合っている姿だった。

 

 推進剤に余裕のあるガンダムヘビーバスターが、百錬にそれを分け与える。

 

 Vガンダムはパーツを切り離してコアファイターだけになり、トップ・リムの右腕を、ガンダムアスタロトリオートに接続させる。

 余ったVガンダムのパーツは、姫武者頑駄無のハードポイントで持ち運ぶ。

 

 コアファイターだけでは航続力が心許無いので、可変機で単独での航続距離の長いハンブラビに抱えてもらう形を取る。

 

 フラワーズの援軍が到着したことで、協力作業はさらに広がる。

 

 エイハブ粒子と言う、"粒子"がエネルギー源であるため、半永久機関のエイハブ・リアクター、それも専用のツインリアクターを持つ、ガンダムフレームのガンダムバルバトスルプスは、同じく"粒子"をエネルギーとするレイジングマスラオのエネルギーケーブルをリアクターに接続され、充電と粒子供給を同時に行う。

 

 一方のガンダムグシオンリベイクフルシティは、自身のサブアームユニットを切り離して、左腕を失ったレイジングマスラオに接続し、交換としてレイジングユニットのスラスターウイングを自身に接続する。

 

 応急処置の際に、どうしても接続の弱い部位は、ヒュドレインシァのインコムのワイヤーを百錬のブレードで切り取り、切り取ったそれをテーピングの要領で巻きつけて補強する。

 その後で切り離されたクローアームはヒュドレインシァに接続し直し、インコムとしては扱えないが、水陸両用機のように固定して使えば問題ない。

 

 それら作品の異なるパーツを組み合わせる際に、噛み合わない齟齬は、パワード・ジムのダイバーがプログラミングを書き換え、何とか騙し騙し使えるようにだけ調整する。

 

『……よし、何とかなったぞ』

 

 ピンクのウサギという愛くるしい姿からは想像も出来ないような野太い声で、パワード・ジムから完了が告げられる。

 

「よぉしっ」

 

 ツルギは広域通信を開き、努めて快活そうな声を張り上げる。

 

「まだフェスは終わっちゃいない!最後まで楽しんでいこうじゃねぇかぁ!!」

 

「「「「『『『『おぉー!!」」」」』』』』

 

 スピリッツとフラワーズ、限定的ながらチームを組み、イベントミッションを続行する。

 

 

 

  

 

 レイジングマスラオにはガンダムバルバトスルプスと、ガンダムヘビーバスター、百錬がついてやる。

 

 Vガンダムはコアファイターだけになってしまったので、完全にハンブラビに抱っこされた状態になり、Vガンダムのパーツを運ぶ姫武者頑駄無と、パワード・ジムが護衛につく。

 

 ガンダムアスタロトリオートを支えるようにガンダムグシオンリベイクフルシティがついてやり、数的な問題からヒュドレインシァも随伴する。

 

「あ、そういえば宝箱開けてませんでした」

 

 レイジングマスラオ、ガンダムバルバトスルプス、ガンダムヘビーバスターのグループと、コアファイター、ハンブラビ、姫武者頑駄無、百錬のグループを見送ってから、ミーシャは手元にある宝箱の存在を思い出す。

 

 宝箱を開けてみた。

 

『大チャンス、スペシャルボーナスヒント!"本物のシャア"は……』

 

 

 

 

 

 

 3グループに分かれて発進し、ツルギ達は渓谷の谷間に隠されていた宝箱を発見した。

 

『フッ……よくぞこの私を見つけてくれたな』

 

 宝箱の中から現れたのは、シャアらしき男。

 

「おっ、どうやら本物か?」

 

 ツルギは一瞬期待して、すぐに考えを改める。

 もしかしたら偽物かもしれない。

 

『だが、私はシャアではなく、『キャスバル・レム・ダイクン』だ。もう一度言おう、私は「シャア・アズナブルではない」』

 

 そう、キャスバル・レム・ダイクンとは、"一般的に"「シャア・アズナブル」と呼ばれる仮面の男の本名である。

 しかし、この場合は『シャア・アズナブル』とは扱われないらしい。

 

「ちょっと、これがシャアじゃないなら誰を探せって言うのよ?」

 

 ユイは困ったように眉の端を落とす。

 キャスバルがシャア・アズナブルではないのなら、これはどういうことか?

 

『ふーむ、これはアレか。ORIGINに登場する『本物のシャア・アズナブル』のことだな』

 

 ガンダムバルバトスルプスの大男が、何故かコサックダンスを踊りながら答える。

 

 

 

 

 

 ガンダムアスタロトリオート、ヒュドレインシァ、ガンダムグシオンリベイクフルシティの三機は、スペシャルボーナスヒントに従い、『シャア専用ザクⅡの頭』を見つけた。

 

『ここにあるのは分かるが……』

 

 ガンダムグシオンリベイクフルシティは、シャアザクの頭部の形をした地点に着陸、ガンダムアスタロトリオートとヒュドレインシァも続く。

 

『はて、ここのどこにあるのやら……』

 

 ミスズも首を傾げて辺りを見回す。

 各々のカメラアイを左右させ、ふとミーシャはそれに目を止める。

 

「これってもしかして……」

 

 ガンダムアスタロトリオートはシャアザク頭のブレードアンテナを指す。

 ガンダムグシオンリベイクフルシティとヒュドレインシァもそれに気付いたようで、三機は(ヒュドレインシァはクローで挟み潰してしまわないようにして)シャアザク頭の上半分を掴む。

 

「『『せー、のっ』』」

 

 すると、鍋の蓋のようにシャアザク頭の上半分が"取れた"。

 

「……これだぁ!」

 

 シャアザク頭の内部、そこに他とは違う真っ赤な宝箱があった。

 

 ガンダムアスタロトリオートの左マニュピレーターを伸ばそうとして、一旦止まる。

 勝手に開けては良くないと、ガンダムグシオンリベイクフルシティと、ヒュドレインシァの様子を窺う。

 フラワーズの二機は互いにカメラアイを合わせて頷き、ミーシャにそれを開くように進める。

 ガンダムアスタロトリオートもそれを見て頷き、宝箱に左マニュピレーターを伸ばす。

 

 宝箱を開くと、ファンファーレが鳴り出した。

 

『おめでとう。私が、本物のシャア・アズナブルだ』

 

 宝箱の中から、キャスバルとは瞳の色が違う点を除けば瓜二つの、"本物の"シャア・アズナブルが現れた。

 

 同時に、エリア全体にブザーが鳴り響いた。

 

『たった今、本物のシャア・アズナブルが発見されました!おめでとうございまーす!!』

 

 優勝はフォース・スピリッツだ。

 

 

 

 

 

 優勝景品を受領したフォース・スピリッツと、一時的に同盟を組んでいたフォース・フラワーズの面々は、思い思いの形でこのフォースフェスの最後を楽しんでいた。

 

 その中で、ミーシャとミスズは二人並んで、エレクトリカルパレードを眺めていた。

 

「今日は本当にありがとうございました、ミスズさん」

 

「お気になさらず。私達は私達なりに、楽しんだつもりですので」

 

「でも、わざわざ優勝を譲ってもらったのに……」

 

「お気になさらずと言ったはずです」

 

 気を遣ってもらったと感じているミーシャを、ミスズは遮る。

 

「そうですわね……気を遣ってくれたと思うのなら、私もひとつ条件を」

 

「なんですか?」

 

 ミーシャは、できる事であれば何でもするつもりだった。

 しかしミスズの条件とは、彼の想定とは少しズレた条件であった。

 

「この話を、あまり言い触らさずに、覚えていてほしいのです」

 

 そう前置きを置いてから、ミスズは語り始めた。

 

 

 

 

 

 ーーーーー六年前のことだった。

 

 第十四回ガンプラバトルフォーストーナメント、決勝戦。

 その輝かしい祭典の、見えない裏で行われていたことだった。

 

 それは、千人ものマスダイバーによる、トーナメント会場を狙った襲撃だ。

 

 無論、運営にこの動きはキャッチされないように細工し、仮にこの動きをキャッチされてもログデータにも残らないようにもしている。

 そもそも、運営側は『例え不正を自首しても証拠が無ければ裁くことが出来ない』。

 言い換えてみれば、『証拠さえ無ければどれだけ悪質な不正を働いても不問にされる』のだ。

 

 そんなザルどころか節穴にも等しいセキュリティを知っているマスダイバー達は、会場に集まったダイバー達を対象に大量虐殺を行い、ダイバーポイントを荒稼ぎしようとしていた。

 

 そこへ立ち塞がったのは、たった一人のダイバーによる、ガンダムバルバトスルプスレクスが単騎。

 

 戦力比、1対1000……否、不正ツールによる性能補正値も上乗せすれば、1対10000どころではなかっただろう。

 

 にも関わらず、ガンダムバルバトスルプスレクスは敢然とマスダイバー達に襲い掛かった。

 

 超大型メイスが、ワイヤーブレードが、レクスネイルが、200mm砲が、ヒールバンカーが、ついでに敵から奪った武器が縦横無尽に舞い、マスダイバー達のガンプラは次から次へと、文字通り虱潰しにされていく。

 

 どれだけの時間が過ぎたのか分からなくなった頃、愛ない絶えない退廃の中で、一人のファイターは立っていた。

 

 最後の一機の首が引き千切られた時、ガンダムバルバトスルプスレクスは、フレーム以外ほとんど残っていなかった。

 

 そして、咆哮した。

 

 ーー俺はマスダイバーだ。俺の行く手を阻むのならば、どこの誰でも、容赦なく、躊躇なく、必ず殺してやると約束しようーーと。

 

 後に、その彼は『歴史に殺された呪われし英雄』と名付けられ、ごくごく一部のダイバーの間でしか語られなかったーーーーー。

 

 

 

 

 

「……そんなことが、あったんですね」

 

 ミスズの語りを聞き終えた、ミーシャの開口一番がそれだった。

 五年前に起きた『第二次有志連合』と、それに対するフォース・ビルドダイバーズとそのアライアンスによる、GBNの安定とELダイバーの存在を賭けた変則フラッグ戦においても、戦力比は1対10000を上回るものだったと言う。

 況してや、他者からの助力や援軍なども無い、文字通りの孤立無援、一騎当千。

 それを成し遂げた……成し遂げられてしまったそのガンダムバルバトスルプスレクスのダイバーが、どれほどの怪物であったかは想像するにも難い。

 

 それこそ、"悪魔"そのものだろう。

 

「おーいミーシャ、そろそろ帰るぞー」

 

 ふと、ミーシャとミスズの後ろから、ツルギが声を掛けてきた。

 

「あっはい!……じゃぁミスズさん、ボクはこれで」

 

「えぇ、また会うことがあれば」

 

 ミスズが小さく会釈して、ミーシャも会釈を返してから、仲間達の元へ戻っていく。

 

 ミーシャが立ち去ってからすぐに、フラワーズの面々もミスズを迎えに来た。

 

「随分話し込んでたみたいですね?何を話していたんですか?」

 

 Vガンダムのダイバーが最初に口を開く。

 

「えぇまぁ、"昔話"を少し」

 

 フェスの終幕であるパレードは、まだまだ終わりを告げそうにないーーーーー。

 

 

 

 

 

【次回予告】

 

 ハルナ「楽しかったねー、シャアフェス!」

 

 ミーシャ「フラワーズの皆さんが親切な人達でほんとに良かったです!」

 

 ヤイコ「おぅおぅ、ケンカフェスってのはねぇのか?それならアタシにも優勝出来そうだぜ」

 

 サヤ「喧嘩じゃぁないが、月に一度のバトランダムミッションならどうかな?」

 

 ツルギ「それで、俺達の相手は……何?人形だと?

 

 次回、ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツ

 

『戦慄、モビルドールの旋律』

 

 こいつら……ただの人形じゃねぇ!?」

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