ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツ   作:さくらおにぎり

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8話 戦慄、モビルドールの旋律

 

 フォースフェスの開催終了から一週間少しが過ぎた。

 フォース・スピリッツの面々は、フォースひとつにつき一室が与えられる、『フォースネスト』で集まっていた。

 

「バトランダムミッション?」

 

 ツルギがオウム返しにそう口にした。

 話の発起人はサヤだ。

 

「月に一度開催される、フォースバトルイベントでね。対戦相手、バトルフィールド、シチュエーション、あらゆる状況がランダムで決められるところに面白味のあるイベントだ」

 

 そのサヤを補足するようにハルナが続く。

 

「エントリーが締め切られた時点で、各参加フォースのレベルに合わせてシャッフルされるの。まぁ、多少の振れ幅はあるけどね」

 

 極端な組み合わせにはならないが、場合によっては数段格上、もしくは格下のフォースとバトルすることになる、と言うことだ。

 

「それで、そのバトランダムミッションのエントリーをこれからするってことか。まだ締め切りじゃないよな?」

 

 もしかしたらもう締め切られている可能性もあるが、ツルギは一応訊いてみる。

 

「それはもちろんだよ。締め切ってたら、話してもしょうがないしね」

 

 そう答えつつ、ハルナはフォースネストのコンソールパネルを開き、フォース・スピリッツのエントリーを決定する。

 後は、結果を待つだけだ。

 

 もうしばらく雑談に華を咲かせていると、バトランダムミッションのマッチングが通達された。

 

「お、来た来た……」

 

 ツルギが通達されたマッチングリストを開く。

 

 ミッション名『熱砂の攻防戦【連邦軍シナリオ】』

 

 原典作品『0083 STARDUST MEMORY』の劇中である、キンバライト鉱山基地が今回のフィールドだ。

 概要は、『アナベル・ガトー』と、核弾頭を装備した『ガンダム試作2号機サイサリス』を搭載した『HLV』の打ち上げを巡る攻防戦で、打ち上げを阻止するのが連邦軍、すなわちオフェンス、打ち上げまでの時間を稼ぐのがジオン残党軍、つまりディフェンスだ。

 

「ボク達がオフェンスですね」

 

 ミーシャはフォース・スピリッツが【連邦軍シナリオ】、つまりは攻める側であることを指す。

 こちらの勝利条件は、『HLVの破壊、もしくは発射の阻止』だ。

 

「じゃぁ、ディフェンス側のフォースは?」

 

 ユイがコンソールを下にスライドさせ、マッチングされた相手フォースを表示する。

 

 相手フォース名は『フォートレス』。

 

 しかし、フォースメンバー一覧を見て、その場にいた全員が目を丸くした。

 一瞬だけ言葉が詰まり、最初に声を発したのはヤイコ。

 

「……なんじゃこりゃ、一人しかいねぇじゃねぇか?」

 

 そう、彼女がそう言ったように、一覧表にはフォースリーダー一である『フルメタルシェパード』と言うらしい、犬のシェパードを模した獣人型のアバターに、目元を覆う銀色のマスクを着用したダイバーしかいないのだ。

 

「確かに単独でもフォースは結成出来るけど、まさかホントにやる"ぼっち"がいるとはねぇ……」

 

 大変失礼なことを口走るのはマイ。もしも本人が聞いていたら黙ってはいないだろうに。

 

「サヤ先輩、五人チームに対して相手フォースが一人しかいない場合、どうなるんですか?」

 

 すかさずユイが挙手して質問し、サヤがすぐに答える。

 

「その場合だと、頭数を合わせるために、NPDのガンプラが代わりに出撃することになる。まぁ、NPD機だからアテに出来るような性能は持っていないが……」

 

「でも、サヤ先輩……見てください。この、フルメタルシェパードって人のランク」

 

 ミーシャはそのアルファベットを指す。

 

 そこには『SS』ランクと表示されている。

 

「え、SSランクぅ!?」

 

 予想外のランクを目にしてハルナは声を裏返した。

 フォース・スピリッツの中でも最も高い、サヤのAランクよりもさらに二段階も上。

 

「いや、驚くこともないな。事実上、たった一人でバトランダムミッションに挑んでくるような奴だ。相応の実力はあるだろうよ」

 

 冷静に事を読み取るツルギ。

 確かに、NPD機をアテに出来ない以上、頼れるのは自分の力だけ。

 多少の振れ幅はあるだろうが、少なくとも五対一でも互角を張ってくると言うことだ。

 

「それに、真っ向からぶつかる必要はないんだ。俺達の勝利条件は、あくまでも『HLV発射の阻止』。それさえ出来れば、無理に撃墜を狙うこともない」

 

 サヤがそう説明する。

 逆に、敵機の撃墜にこだわった挙げ句、HLVを逃してしまったらそれこそ目も当てられない。

 

「いんや、それじゃぁつまんねぇなぁ」

 

 ゴリッと音を立てて口にした飴玉を噛み砕き、ヤイコは不敵な笑みを浮かべる。

 

「どうせやるなら、敵は全員ぶっ飛ばして勝つ!勝ちを狙いに逃げるってのは性じゃねぇんだ」

 

 的を得ているようで、微妙に外れているような、自前の根性論を持ち出す。

 彼女にとってはそれが正しいのかもしれないが、他のメンバーがそれに納得するのかはまた別だ。

 

「ヤイコ、気持ちは分からなくはないが、みんながみんなそう思ってるわけじゃないんだぞ」

 

 ツルギはヤイコの身勝手な意見を咎めた。

 ユイやミーシャも同じような表情を浮かべ、マイだけはなるようになれとでも言うように傍観している。

 

「あん?アタシがなんか間違ったこと言ったってのか?」

 

 薄々と気付いているのだ。

 

 ヤイコは、このフォースにとっての"不協和音"であると。

 

 フォースの足並みを乱し、バトルでは連携など考えない。

 そんな存在を、多少なりとも疎ましく思い始めている。

 

「……あのな、カラスノ。俺達は……」

 

 喧嘩になる前に、サヤがヤイコを諭そうしたところで、パンッと手が鳴らされ、全員がその方向を向く。

 その音源は、ハルナからだ。

 

「サヤ先輩、まずはこの相手フォース、フォートレスの戦闘データを見ましょう。それを見て具体的な傾向と対策を打ち出し、それからヤイコちゃんの意見も組み込めるかを決めましょう。ここで頭ごなしに否定したってしょうがないでしょ」

 

 理路整然と、誰も否定しない意見を挙げるハルナ。

 

「……ほらな、ヒメカワだってそう言ってんだしよ!」

 

 唯一、ハルナが自分を肯定してくれてか、ヤイコは気を良くする。

 サヤもツルギも、ハルナの言葉を効いて納得したらしく、首を縦に振った。

 

「ハルナの言う通りだな。まずは、俺達のやるべきことと、俺達に出来ることをやらなくてはな」

 

 それを聞いて、ユイとミーシャも納得したらしく、苦々しい表情から、やる気に満ちたものに変わる。

 

 コンソールパネルを切り換え、フルメタルシェパードのフォース・フォートレスの、過去10戦のフォースバトルの履歴からリプレイを閲覧する。

 

 

 

 フルメタルシェパードが出撃するのは、『トールギス』を黒銀に塗装し、機体各部にレドーム等を増設した『トールギスコンダクター』。

 それ以外の僚機は、全てNPDリーオー……だが、手持ちの武装は105mmライフルではなく、大口径かつ長大な砲身を持つ、ビームカノンだ。連射は効かないが、一発の威力の高さは比べ物にならないし、なおかつある程度の長距離射撃も可能だ。

 そして、バックパックに搭載されている円盤状のユニットーープラネイトディフェンサーーーが目立つ。

 このように、NPD機は設定を変更することで、あらゆるバリエーション形態になれる。

 重装なぶん、少々機動性は落ちているがそれを補って余る火力と防御力を優先させたカスタムだ。 

 

 まるで、『ガンダムW』に登場するMDモビルドール『ビルゴ』のようだ。

 

 戦闘開始にも関わらず、トールギスコンダクターはその場から動かない。

 NPDリーオー四機のみが前進、二機二組に展開しつつ相手フォースを迎え撃つ。

 その動きは機械的でーー一切の無駄が無く、恐ろしく正確に動く。

 それも、ただ無駄無く動くだけではない。

 一機一機の動きが、まるで見えない糸に繋がっているかのように連携し、相手フォースを寄せ付けない。

 これを見て、ハルナが口を開く。

 

「ちょっと待ってください、何でNPDがあんなに連携するみたいに動けるんですか?まるで、ダイバーが操縦してるみたいな……」

 

 無人機がまるで人が操縦しているように動いている、とハルナは言う。

 サヤは言葉を選んでから答えた。

 

「そうだな……リーオーの動きを見たところ、恐らく独自のAIプログラムが組み込まれているな」

 

「そんなことが出来るんですか?」

 

 ミーシャが思わず挙手せずに口を開く。

 

「ダイバーがディメンション内で打ち込んだプログラミングを、NPD機に読み込ませる……これは違反じゃないし、公式でも認められているものだ」

 

 しかし、とサヤは目を細めて動画のNPDリーオーの挙動を指す。

 

「これほどまで緻密な連携が出来るプログラミングは、そうそう実現出来ない。フルメタルシェパードと言うのは、その道のプロかもしれないな」

 

 動画は進み、NPDリーオー達は円盤状のユニットーープラネイトディフェンサーを展開、連携してユニットを集約させ、ミサイルや長距離ビームすらも完全に防いでしまう。

 

 プラネイトディフェンサーによる鉄壁の防御力と、ビームカノンによる長距離射撃、さらにはビームサーベルを用いた接近戦にも対応。

 まさに要塞フォートレスに等しいフォースと言えよう。

 

「つまり、俺達が想像していた相手とはむしろ逆……アテにならないはずのNPDを上手く利用して登って来たってことか」

 

 ツルギは腕を組みながら、遥か後方で何もせずに立っているだけの、トールギスコンダクターを見る。

 次に、ユイが挙手する。

 

「この円盤……プラネイトディフェンサーって言うのは、射撃をほとんど無効化する武装なんですよね。さらに、ビームサーベルも通さない……だったら、ミーシャのアスタロトが持っているハンマーや、ツルギやカラスノ先輩の徒手空拳のような、物理打撃なら壊せませんか?」

 

 ユイの観点は、『まずはプラネイトディフェンサーの破壊を優先』することであり、プラネイトディフェンサーを装備したNPDリーオーを複数固めて行動させ、防御力の高さを売りにしているのなら、それを破壊する必要がある、と見たのだ。

 

「そうだな、確かにプラネイトディフェンサーは直接打撃に弱い。それを封じても楽にはならないだろうが、撃破するには必要な過程のひとつに違いはない」

 

 サヤも肯定の意を示す。

 例えプラネイトディフェンサーによる防御を封じたとしても、フォートレスのNPDリーオーの主力火器であるビームカノンも馬鹿にできないし、原作のMDであるトーラスやビルゴとは違ってビームサーベルによる接近戦も可能だ。

 

「となると、まず確実にミーシャは必要になりますね」

 

 ツルギはミーシャの方に視線を向ける。

 ビームカノンを防ぐナノラミネートアーマーと、プラネイトディフェンサーの破壊に適した質量武器を持つ、ガンダムアスタロトリオートを駆る彼の存在は必須だろう。

 そのミーシャは、先輩達から期待を寄せられて緊張しながらも大きく頷く。

 

「次に……ユイとマイには申し訳ないが、今回は譲ってほしい」

 

 サヤはイチノセ姉妹に向き直る。

 その理由は、姉妹二人にも理解できている。

 

「まぁ、ユイちゃんの機体は射撃基本だから話になんないし、あたしのハンブラビもビーム兵器主体。大人しくした方がいいわねぇ」

 

 一応、ガンダムヘビーバスターにはアーマーシュナイダーが、ハンブラビには腕部クローとテールランスと言う直接打撃可能な武器はあるが、戦力として数えるのは難しい。

 

 従って今回のメンバーは、

 

 ツルギ

 ハルナ

 ミーシャ

 サヤ

 ヤイコ

 

 となる。

 

 フォーメーションは、ツルギ、ミーシャ、ヤイコの三人が前衛を務め、ハルナとサヤが後方から援護。

 フォース・フォートレスのMDの撃破に手間取り、ターゲットのHLV発射の時間に間に合いそうに無い場合、最悪でも可変機であるサヤのガンダムAGE-2 エアレイドが単騎でHLVへ攻撃するケースも含めて、フォース・スピリッツの面々は作戦を詰めていく。

 

 バトランダムミッションは、数日後に控えている。

 

 

 

 

 

 フォース・フォートレスのNPDリーオー達が、一斉にビームカノンを照射した。

 四筋もの高出力の高エネルギーは、『ガンダムサバーニャ』のホルスタービットを撃ち抜き、それらが守っていた本体に直撃を与える。

 大破寸前のダメージを受け、まともな武装のほとんどを失ってしまったガンダムサバーニャは、その場で膝を着いた。

 他の仲間はとうの昔に撃墜されている。

 

 その様子を遠方からの見ているだけのトールギスコンダクター。

 

 大勢は決したと判断し、コクピットの中で仮面の獣人ーーフルメタルシェパードはほくそ笑み、広域通信を持ってこれ聞きよがしに口上を垂れ流す。

 

「分かるかね?人間の知恵は時にマシンをも凌駕するが、その逆もまた然りだ。マシンは嘘をつかない。猜疑と欺瞞に満ちた人間とは違うのだよ」

 

『だから何だっ、ダイバーの手でガンプラを動かすのがいけないとでも言うつもりか!?』

 

 ガンダムサバーニャのダイバーが語気を荒げて言い返す。

 対するフルメタルシェパードは、表情の見えないマスクの顔で、「愚考だな」と冷笑を浮かべた。

 

「いけないとは言っていない」

 

 NPDリーオーが、ガンダムサバーニャを取り囲み、ビームカノンの砲口を向ける。

 

「尤も、そのマシンに負けている君には無駄な言葉だったかもしれんがな」

 

『貴様ぁっ!』

 

 ガンダムサバーニャは怒りのままに、刃の砕けたGNビームピストルをトールギスコンダクターに向けようとして、

 四方からのビームカノンに撃ち抜かれた。

 

 ガンダムサバーニャ、撃墜。

 

「誰も彼もがこの程度か。GBNも落ちたものだな」

 

 NPDリーオー達は、一糸乱れぬ動きでトールギスコンダクターの元へ整列して並ぶ。

 

「やはり運営は無能だ。この私を敵に回したのだからな……」

 

 硝煙が立ち込める中、フルメタルシェパードの高笑いが響くーーーーー。

 

 

 

 

 

 数日後。

 バトランダムミッション開催の当日だ。

 

『間もなく、バトランダムミッション、バトルスタートの時刻です。参加フォースは、各ステージへ移動してください』

 

 GBN全体にアナウンスが流れ、バトランダムミッションに参加するフォースがそれぞれ出撃を開始していく。

 その中に、フォース・スピリッツの面々もあった。

 

 

 

 原作再現のためか、レイジングマスラオ、姫武者頑駄無、ガンダムアスタロトリオート、ガンダムAGE-2 エアレイド、蛇威雄音の五機は、ペガサス級の強襲揚陸艦『アルビオン』に艦載され、カタパルトに乗せられてスタンバイしていた。

 ブリッジには、ユイとマイ、それとナビゲーターとしてミツキが乗艦している。

 

「ツルギ達は、打ち上げが完了するまでにHLVを破壊するか、相手フォースを全滅させれば勝利。逆に、ツルギ達が全滅するか、HLVの打ち上げが完了すれば、敗北です」

 

 ミツキが姉妹二人にそう説明する。

 

「十分以上の対策はしてきた。後は、みんなの頑張りに掛かってるわ」

 

 ユイがCICの席に付き、通信状態を確認する。

 

「さて、と……ぼっちフォースの、お手並み拝見ね」

 

 相変わらず緊張感のないマイは欠伸をしながら、艦長席に座り込む。

 

 

 

 アルビオンがキンバライト鉱山基地に近付くと同時に、バトルスタートが告げられる。

 

「ハルナ、姫武者頑駄無、行きまーす!」

 

「ミーシャ、ガンダムアスタロトリオート、行きます!」

 

「サヤ、ガンダムAGE-2 エアレイド、出撃します!」

 

「ヤイコ、蛇威雄音、喧嘩上等!」

 

「ツルギ、レイジングマスラオ!フォース・スピリッツ、参るッ!!」

 

 カタパルトによって打ち出され、フォース・スピリッツのガンプラ達が一斉にアルビオンから出撃、砂塵の大地へ降り立つ。

 

 

 

 

 

 一方のキンバライト鉱山基地内部で、トールギスコンダクターが起動し、NPDリーオー四機も倣うように起動していく。

 

『フン……新進気鋭の常勝フォース、スピリッツか……せいぜい、私の踏み台になってもらうとしよう。フルメタルシェパード、トールギスコンダクター、オープンゲーム!』

 

 フルメタルシェパードのトールギスコンダクターがハッチを飛び出し、続いてNPDリーオー達も追従していく。

 識別のため、NPDリーオー達にはそれぞれ、『A』『B』『C』『D』の記号が割り振られる。

 出撃してすぐに、トールギスコンダクターは岩陰に身を潜め、NPDリーオー四機は主戦場へ向かう。

 

 

 

 

 

 前線に立つレイジングマスラオと蛇威雄音、ガンダムアスタロトリオートの三機が、MDであるNPDリーオーの敵対反応を確認した。

 その中で、ヤイコはニヤリと口元を曲げる。

 

「前にいる奴からぶっ飛ばしゃいいんだろ?楽勝だぜ!」

 

 そう啖呵を切ると、蛇威雄音はスロットルを開いて突進していく。

 

「ヤイコさんっ、そんな突っ込んだら……」

 

 ミーシャは独断先行に走るヤイコを呼び止めようとするが、ツルギがそれを制止した。

 

「構うなミーシャ、あいつ一人で一機は何とかしてくれる。俺達は俺達の役目に集中するぞ」

 

 悪い言い方をすれば、ヤイコ一人を捨て石にすることで、ツルギ達は残り三機のMDに集中出来る。

 ツルギの声を聞いてミーシャも意識を入れ換えたらしく、パイルハンマーを構え直す。

 

 対するNPDリーオー達は四機の内、AとBの二機が前進を継続し、残るCとDの二機が後方からビームカノンを構えて距離を置く。

 

「オラオラオラァッ!何もかんもぶっ飛ばしてやらぁ!!」

 

 突出するヤイコの蛇威雄音。

 当然、ビームカノンの火線は彼女に集中、蛇威雄音は次々に直撃を受けていく。

 決して小さくはないダメージを受けながらも、蛇威雄音は突撃を止めない。

 ターゲットロックを定められたNPDリーオーAもビームカノンを撃ちながらも、距離を取っていく。

 

 同時にサヤが戦況を見渡しながら指示を飛ばす。

 

「前のもう一機はミーシャが叩いてくれ!ツルギとハルナが残りの二機を頼む!遊撃は俺がやる!」

 

「「「了解!」」」

 

 ツルギ、ハルナ、ミーシャの三人は了解を示し、蛇威雄音の隣にいるNPDリーオーBにはガンダムアスタロトリオートが、奥でビームカノンによる射撃を行っているCとDのNPDリーオーにはレイジングマスラオと姫武者頑駄無が、ガンダムAGE-2 エアレイドがストライダーフォームに変形して遊撃に回る。

 

 蛇威雄音を挟み撃ちにしようとするNPDリーオーBだが、ガンダムアスタロトリオートの接近を察知、プラネイトディフェンサーを張りながらビームカノンを照射する。

 それに対してミーシャはアームレイカーを少しだけ左斜めに捻り、ガンダムアスタロトリオートは装甲の厚い肩部装甲で受ける。

 ナノラミネートアーマーに効果によって、ビームカノンのエネルギーは弾き返されるが、震動するコクピット内でミーシャは顔を顰める。

 

「ナノラミネートアーマーでも、こんなに衝撃が……!」

 

 機体への損傷はごく軽微だが、ダイバーへの負担はそうもいかない。

 だとしても怯まずミーシャはアームレイカーを押し上げて前進、パイルハンマーを構え直して猛進する。

 

 

 

 

 

 残り二機のNPDリーオー、CとDがビームカノンを持ってレイジングマスラオと姫武者頑駄無、ガンダムAGE-2 エアレイドを迎撃する。

 散開しつつビームを回避、姫武者頑駄無が雷振火音を、ガンダムAGE-2 エアレイドがハイパードッズライフルで反撃するものの、NPDリーオー二機は瞬時にプラネイトディフェンサーを展開、集約させた電磁フィールドは雷振火音の銃弾はおろか、ハイパードッズライフルのビームさえも弾き返してしまう。

 

「くっ、やはりドッズライフルも通らないか!」

 

 サヤはこのバトルが始まる前に「ハイパードッズライフルならばプラネイトディフェンサーを突破出来るのではないか?」と僅かながら期待を抱いていたが、それもあっさりと砕かれてしまう。

 そもそも、それで突破出来るのならとっくに対策は取られているだろう。

 

「なら作戦通り、まずは俺がプラネイトディフェンサーを破壊する!」

 

 ツルギはアームレイカーを押し上げてレイジングマスラオを加速させ、NPDリーオーC目掛けて突撃する。

 

「わたしも行くよ!」

 

 レイジングマスラオの後を追うように、火糸薙刀を抜き放った姫武者頑駄無も加速する。

 NPDリーオー二機の注意がレイジングマスラオと姫武者頑駄無に向けられたのを見て、サヤは思案する。

 

「(周りの援護を続けるか、HLVの破壊に向かうか……いや、まずは敵の数を減らすべきか)」

 

 

 ガンダムAGE-2 エアレイドはストライダーフォームからMS形態に変形し、ハイパードッズライフルを油断なく構えつつ、隙を窺う。

 

 

 

 

 

 ビームカノンを装甲で防ぎつつ、ようやくガンダムアスタロトリオートはNPDリーオーBへ肉迫する。

 

「でえぇぃッ!」

 

 ガンダムアスタロトリオートはパイルハンマーを横薙ぎに振るい、展開しているプラネイトディフェンサーごとNPDリーオーBを打ち砕こうとする。

 超重量の金槌はNPDリーオーBのシールドを捕え、殴り飛ばした。

 が、

 

「ッ?」

 

 ミーシャはその手応えに妙なものを覚えた。

 妙な、と言うより『手応えが軽過ぎる』のだ。

 彼はこれまでに幾度となく、パイルハンマーで敵ガンプラを打ち砕いてきたが、こんな感覚は初めてだった。

 受け流されてはいない。そうであれば吹き飛ばされはしない。

 確かにパイルハンマーの打撃はNPDリーオーBを捕えた。

 そのはずである。 

 

「まともに入っていない……?」

 

 その証左として、即座に受け身を取って体勢を立て直したNPDリーオーBのシールドには、大したダメージが入っているようには見えない。

 どういうことかと、ミーシャの思考に迷いが生じかけて、すぐさまビームカノンの火線がガンダムアスタロトリオートの胴体装甲を直撃する。

 

「うわっ!?」

 

 これもナノラミネートアーマーによって守られるが、先程から受け流しているとは言え何度もビームを喰らっているのだ、ガンダムアスタロトリオートのライトメタリックブルーの装甲が剥げ始め、その下地塗装が露わになってきている。

 これ以上受け続けては、やがて防ぎ切れなくなってしまう。

 

「もう一度っ」

 

 ミーシャは頭を振って正気を保ち、ガンダムアスタロトリオートを再び前進させる。

 MDであるNPDリーオーBの射撃は機械的で、しかし恐ろしく正確で、回避しようにも回避しきれず、ナノラミネートアーマーの特殊塗料が見る内に剥げていく。

 それでもどうにかもう一度肉迫し、パイルハンマーを振り払うが、やはりNPDリーオーBはシールドで受けては吹き飛ばされ、すぐに体勢を立て直してしまう。

 

「どうしてっ、どうして効いてない!?」

 

 通っているはずの攻撃が通っていない。

 その不可解さがミーシャを焦らせる。

 

 

 

 

 

 フルメタルシェパードのトールギスコンダクターは、レドームセンサーがキャッチする正確な状況を、モニタリングさせて視認している。

 目に見えて挙動の乱れるガンダムアスタロトリオートが、NPDリーオーBに一方的にビームカノンを浴びせ付けられる様子を見て、フルメタルシェパードは嘲笑った。

 

『フフン……プラネイトディフェンサーへの対策で、直接打撃を狙うのは読めているのだ。その『対策への対策』をしていないとでも思ったか?』

 

 フォース・フォートレスのMDには、PS装甲やウィージィアーマーのような、物理攻撃全般を無効化する装甲はない。

 にも関わらず、なぜパイルハンマーによる質量打撃を大した損傷もなく受けることが出来るのか。

 

 それは、フルメタルシェパードもまたフォース・スピリッツへの研究対策も入念に行っていることもある。

 その中で、MDの天敵とも言えるガンダムフレームのガンプラーーミーシャのガンダムアスタロトリオートにも目を付けていた。

 彼は予め、MD達にこのようなプログラミングを打ち込んだ。

 

 シールドで打撃を受ける寸前に小さくジャンプさせる。

 

 これにより、打ち込みの衝撃に逆らわずにあえて吹き飛ばされることでダメージを最小限に防ぐ、と言うものだ。

 文字に表すと至極簡単なように思えるが、非常に危険でもあった。

 タイミングが速すぎればシールドの防御範囲外で受けてしまう上に、相手に対処法を見抜かれる恐れもある。

 逆にタイミングが遅いとまともに打撃を打ち込まれてしまう。

 ダイバーの操縦でそれを実行するのは困難だが、プログラムで動くMDであれば難しいことではない。

 

『そのタイミングでその通りに動く』。たったそれだけで、ガンダムアスタロトリオートを封殺出来てしまうのだ。

 

『さて、そろそろ"仕掛け時"だな……』

 

 フルメタルシェパードはコンソールパネルを打ち込み、MDにプログラミングさせていたプランを進める。

 

「力押しこそが最もシンプルで効果的な戦法だが、それだけでは戦には勝てんのだよ」

 

 思惑通りに事が進んでいることに、彼は冷笑を浮かべる。

 

 

 

 

 

 ヤイコの蛇威雄音は、自身が目標としているNPDリーオーAを殴り付けようと拳を振るうものの、寸前でNPDリーオーAは身を翻しては距離を置き、すかさず反撃にビームカノンを撃ち込む。

 先程から何度もこれが繰り返されている。

 

「チッ、ヒラヒラ避けやがって……ッ!」

 

 ビームカノンの直撃を受けた蛇威雄音のコクピット内で、ヤイコは歯噛みする。

 まともな打撃を与えられず、苛立ちが募る。

 しかし、NPDリーオーAが回避を続ける内に、もう一機のーーミーシャが相対しているーーNPDリーオーBとの距離が縮まりつつある。

 だが、ヤイコはそんなことに意識など傾けない。

 ただひたすらに、相手を打ち倒すことだけに執着する。

 

「いい加減に、勝負しやがれぇッ!」

 

 蛇威雄音はスラスターバインダーを翻し、NPDリーオーAに飛びかかる。

 

 ーーその猪突猛進の先に、"罠"が仕掛けられていることも気付かずに。

 

 NPDリーオーAは回避、またしても蛇威雄音の攻撃は空振りに終わりーーそれどころか、近くにいたガンダムアスタロトリオートとぶつかってしまう。

 

「っと!?」

 

「あっ、悪ぃ!」

 

 蛇威雄音とガンダムアスタロトリオートは二機とも体勢を崩して倒れ込んでしまう。

 

「きっ、気を付けてくださいよ!」

 

「す、すまねぇ、悪かった」

 

 文句を言うミーシャと謝るヤイコだが、NPDリーオーA、Bはその隙を見逃さなかった。

 プラネイトディフェンサーを一斉に射出、ガンダムアスタロトリオートと蛇威雄音を取り囲むと、電磁フィールドが蜘蛛の巣のようになって二機に絡みついた。

 

「うっ、あぁぁぁぁ!?」

 

「なっんじゃこりゃぁぁぁぁぁ!?」

 

 電磁波が機体の内部に干渉し、激しいスパークがミーシャとヤイコを襲う。

 プラネイトディフェンサーの電磁フィールドは防御だけでなく、このような間接的攻撃に利用することも出来るのだ。

 

 

 

 

 仕掛けた罠に掛かったガンダムアスタロトリオートと蛇威雄音を見て、フルメタルシェパードは高笑いを上げた。

 

『フッハハハハハッ!こうまで容易く罠に掛かるとは逆に計算外だったぞ!』

 

 前線にいたNPDリーオーA、Bの二機は、罠に掛かった二機に背を向けて、残り二機の元ーーレイジングマスラオと姫武者頑駄無、ガンダムAGE-2 エアレイドの三機のいる地点ーーへ向かう。

 

『さぁ、すぐに始末してやろう!』

 

 この戦いは既に勝った、とフルメタルシェパードは高を括った。

 

 

 

 

 ツルギとハルナは、目の前のNPDリーオーC、Dとの攻防を繰り広げていたが、全く攻め込めていなかった。

 

「クソっ、上手い具合に踏み込めさせてくれないか!」

 

 ツルギは呼吸を入れ換えつつ、冷静さを保つ。

 レイジングマスラオは、ガンダムアスタロトリオートや蛇威雄音のようにビーム射撃を受け切れるような装甲ではない。

 そのため回避に回避を重ねつつ接近をしなくてはならないのだが、その回避運動だけでも精一杯だ。

 ハルナやサヤもどうにか接近しようとするものの、機械的故に反応が恐ろしく早く、的確に正確に攻撃を防がれている。

 

「戦闘開始から三分か、さすがにまだHLVは動かないだろうが……っ!?」

 

 サヤはタイマーを目に通しつつ、レーダー反応を見て目を見開いた。

 

 ミーシャとヤイコが相手をしていたNPDリーオーA、Bが、こっちに向かって来ている。

 それどころか、既に長距離からビームカノンを構えているではないか。

 

「ま、ずいッ!!」

 

 サヤはアームレイカーを殴るように押し倒し、ガンダムAGE-2 エアレイドを急加速させた。

 

 ツルギが背後から狙われている。

 

「アラートッ、後ろだと!?」

 

 しかしツルギが気付いた時には、もうNPDリーオーAはビームカノンを発射しておりーー

 突然、ガンダムAGE-2 エアレイドがレイジングマスラオを体当たりで突き飛ばした。

 

「なっ、サヤ先ぱ……」

 

 ツルギの視界に映っていたのは、ガンダムAGE-2 エアレイドのボディが、ビームカノンに撃ち抜かれた瞬間だった。

 スローモーションのように、ガンダムAGE-2 エアレイドは膝を着き、倒れ込んだ。

 

「サヤ先輩ッ!」

 

 ハルナが思わず叫ぶが、サヤからの応答はない。

 ガンダムAGE-2 エアレイドの反応も、シグナルロストを表示している。

 

 ガンダムAGE-2 エアレイド、撃墜。

 

「サヤ先輩……俺なんかを庇って……ッ!」

 

 ツルギは自分の至らなさにアームレイカーを握り締める。

 

「ツルギくんっ、一旦下がろう!わたし達狙われ……てるしっ、なんかミーシャくんとヤイコちゃんもヤバそう!」

 

 ハルナの呼び掛けに反応し、ツルギは攻め急ごうとする足を止め、姫武者頑駄無に追従する。

 

 

 

 

 

 

『おやおや、撤退か?まぁ……不利を悟って退くことくらいは出来てくれなければなぁ』

 

 後退していくレイジングマスラオと姫武者頑駄無を見て、フルメタルシェパードは鼻で笑った。

 後ろのNPDリーオーCとDは、一度プラネイトディフェンサーを呼び戻し、ビームカノンを構えて待機する。

 こちらはあくまでもHLVを守り通せば勝てるのだ、攻め込まなくとも向こうから来るのを待てば良い。

 

 

 

 

 

 ガンダムアスタロトリオートと蛇威雄音は、未だにプラネイトディフェンサーによる電磁フィールドの拘束から抜け出せそうに無かった。

 やがて、ガンダムアスタロトリオートのカメラアイが弱々しく点滅する。

 

「す、すいませ……もぅ、限か……」

 

 ノイズだらけのミーシャからの通信が途切れた。

 ガンダムアスタロトリオートの手からパイルハンマーが零れ落ち、膝を着いて動かなくなってしまった。

 点滅していたカメラアイも、とうとう消失した。

 

 ガンダムアスタロトリオート、撃墜。

 

「や、郎っ、よくも……」

 

 電磁フィールドによる高圧電流を浴びさせられながらも、ヤイコは歯を食い縛ってアームレイカーを握り潰すかのように持ち直す。

 

「な、め、ん、じゃ、ね、え、ぞ、オルアァァァァァッ!!」

 

 強引にアームレイカーを押し上げて、蛇威雄音はスラスターを噴射させ、NPDリーオーBをタックルで弾き飛ばす。

 そのおかげで、電磁フィールドが弱まり、蛇威雄音はどうにか拘束から抜け出す。

 

「ヤイコちゃんっ、大丈夫!?」

 

 撤退してきた姫武者頑駄無とレイジングマスラオから、ハルナの通信が届く。

 

「アタシは平気だ。けど、ミーシャの奴がやられちまった」

 

 ミーシャとヤイコを拘束していたNPDリーオーA、Bは追撃してくる様子は無く、ビームカノンを構えて警戒しているのを尻目で見つつ、ツルギも自分側の状況を伝える。

 

「こっちもサヤ先輩がやられた。……俺の代わりに、な」

 

 自分が情けない、とツルギは自嘲するが、そんなことをしている暇はない。

 ここから三人でどうやってMD達を突破して、HLVの発射を阻止すべきか。

 いくら追撃してこないとは言え、時間に余裕はない。

 時間が経つだけで向こうの勝ちが決まってしまうのだから。

 

「……二人とも、こっち」

 

 姫武者頑駄無は、レイジングマスラオと蛇威雄音に手招きすると、岩陰に降下する。

 

 岩陰に隠れつつ、レーダーからは目を切らず、ハルナはツルギとヤイコに接触通信を行う。

 

「向こうのリーオーは、あくまでもMD……無人機なんだよね?」

 

「あぁ、そうらしいな」

 

 本来のMDがどう言うものか分からないツルギでは、単なる無人機と言う事しか分からない。

 それさえ分かれば良し、とでも言うようにハルナの瞳にはまだ闘志が生きている。

 

「わたしね、ちょっと試したいことがあるの」

 

 

 

 

 

 フォース・スピリッツが一時撤退してから、一分が経過した。

 フルメタルシェパードは、未だ動きの見せない相手に緊張を解いていた。

 

『やれやれ、今から策を講じる時間など無いというのに、呑気なものだな』

 

 時間を使ってでも作戦を立て直す必要があったとしても、この短時間ではまともな策も打ち立てられないだろう。

 少しだけ、慢心した。

 

『どれ、少々藪を突いてみるか』

 

 トールギスコンダクターはその場からドーバーガンを構え、フォース・スピリッツが身を潜めているだろう岩陰を狙い撃つ。

 ビーム弾が岩肌に着弾し、崩壊こそしなかったが、撃ち込まれた部位を中心にパラパラと破片がこぼれ落ち、砂煙が巻き起こる。

 すると、それを見計らっていたかのように敵対反応が岩陰から現れる。

 

 ピンク色のSDガンダムーー姫武者頑駄無が単騎で飛び出してきたようだ。

 

『さて、付け焼き刃の策がどこまで通じるかね?』

 

 前線で待機していたNPDリーオーA、Bは、即座にプラネイトディフェンサーを展開し直し、ビームカノンで姫武者頑駄無を迎え撃つ。

 姫武者頑駄無も、SDガンダムの身軽さを活かしてビームを掻い潜り、NPDリーオーAへ接近する。

 

 手にした火糸薙刀による近接攻撃を仕掛けーーるのではなく、突然目の前でピタリと急停止する。

 

 目の前にいるNPDリーオーAは、迎撃のためにビームサーベルを抜いたのはいいが、そこから動かない。

 姫武者頑駄無とにらめっこでもしているかのように、迎撃しないのだ。

 

『ん、どうした……?』

 

 何故迎撃しない、とフルメタルシェパードが言いかけた瞬間、前衛のNPDリーオーBと、後衛のCとDは一斉に姫武者頑駄無へ向けてビームカノンを放つ。

 瞬間、姫武者頑駄無は飛び下がって三方からのビームカノンを回避する。

 

 すると、姫武者頑駄無を狙ったはずのビームは、同じMDであるNPDリーオーAに向かう。

 プラネイトディフェンサーで前からのビームは防ぐが、後ろからの二筋の火線は防ぎようがなく、容赦なく撃ち抜かれた。

 

 NPDリーオーA、撃墜。

 

「なっ、どういうことだっ、誰が味方を撃てと命令したのだ!?」

 

 思わずコンソールパネルを叩きながらフルメタルシェパードは怒鳴り、すぐにその原因に気付いた。

 

『……いや違うっ、『撃たされた』のか!?』

 

 MD達は、フルメタルシェパードによって与えられたプログラムを忠実に実行するが、それには二つの"欠陥"があった。

 

 ひとつは、『プログラムにない行動パターンへの対処が出来ない』こと。

「まさか、敵機の目の前で棒立ちになるガンプラはいないだろう」と言うフルメタルシェパードの想定不足もあってのことで、MD達には『目の前で攻撃もせずに動かない相手への対応』などプログラミングさせていない。

 結果、NPDリーオーAはパターンを読み込めず、フリーズしてしまったのだ。 

 

 もうひとつは、『味方への損害はプログラムの範疇に含まれていない』こと。

 一度『ターゲットを攻撃する』と判断すると、射線上に他のMDがいてもお構い無しに攻撃を実行してしまうのだ。

 今の状況は、『姫武者頑駄無がNPDリーオーに接近戦を仕掛けようとしている』と言うもので、他のNPDリーオーもそう判断したものだ。

 そのパターンは『残り三機で敵を狙い撃つ』と言うもの。

 MD達は、そのプログラミング通りに実行しただけだ。

 

『おのれっ、この私でさえ気付かなかった抜け穴を突いて来るとは……ッ!』

 

 フルメタルシェパードは、普段の自分には珍しく焦っていた。

 少し考えれば気付くはずのことさえ分からなかったとは、何たる様か。

 あの姫武者頑駄無を放っておけば、MD達は自滅させられてしまうだろう。

 タイマーの経過時間は七分が経過したところ。

 HLVはまだ動きそうにない。

 このままでは、突破されて敗北する。

 だが、今からプログラムを打ち込み直すことは出来ない。

 

『……何を焦っているのだ私は。敵は残り三機……ならば、こうしてしまえばいい!』

 

 フルメタルシェパードは半笑いを浮かべつつコンソールパネルを打ち込み、『Suicide』と言う赤文字のコマンドを入力させた。

 

 

 

 

 

 ーー数刻前。

 ハルナは、ツルギとヤイコの二人にこう切り出した。

 

「わたしが一人で囮になる」

 

 突然何を言い出すんだと二人は声を重ねたが、ハルナはあわてずに説明する。

 

「あのリーオーはね、多分プログラム通りに動いてるだけだから、『同士討ちになっても分からない』はずなの。SDガンダムなら、攻撃を避けることは難しくないから、何とか同士討ちさせてみる」

 

「同士討ちさせるってお前、そんなこと出来るってのかよ?」

 

 ヤイコは眉を顰めながら、蛇威雄音は腕組みする。

 

「んー、簡単じゃないかもだけど、出来ると思う」

 

 出来るとは断言出来ない。

 もしもあのMD達に、同士討ちにならないように動くことが出来るようにプログラムを仕込まれていたとしたら、ハルナの陽動は無駄になる。

 

「ハルナは出来るって言うんだろ?だったら、頼む」

 

 ヤイコとは反対に、ツルギは特にハルナを疑うことなく頷いた。

 ハルナも、ツルギから頼むと言われて自信を持てたのか、力強く頷いた。

 

「まっかせて!」

 

 

 

 

 

 ーーそしてハルナは宣言通り、NPDリーオーAを同士討ちにさせてみせた。

 

「あと三つ……!」

 

 時間はない、早急に行動に出ようとするハルナ。

 

 だが、残りのNPDリーオー三機のモニターカメラが、青色から"赤色"に切り替わった。

 すると、NPDリーオーBは突然ビームカノンを捨てて、真っ直ぐに姫武者頑駄無に突撃してくる。

 

「自分から接近してくる!?」

 

 迎え撃つばかりだと思い込んでいたハルナは、慌てて火糸薙刀を構え直して、目前にまで迫っていたNPDリーオーBへ向けて突き出した。

 切っ先は確かにNPDリーオーBのボディを貫くが、このガンプラはあくまでもMDであり、ダイバーが居座るためのコクピットなど無いため、これだけでは止まらない。

 あろうことか、NPDリーオーBは火糸薙刀が突き刺さったまま腕を伸ばし、姫武者頑駄無を拘束する。

 そして、機体の中心部から眩い光が溢れ出しーー

 

「ちょっ、これもしかして……ッ!?」

 

 大爆発を起こした。

 その爆発質量は、姫武者頑駄無一機を呑み込むには十分過ぎた。

 

 姫武者頑駄無、撃墜。

 

 

 

 ツルギは、ハルナの撃墜を見て目を見開いた。

 

「自爆特攻だと!?」

 

 いくら無人機とは言え、何の躊躇いもなく自爆させるなど、ツルギには信じられなかった。

 

「おいおいクサナギっ、残りの奴さん達も来んぞ!」

 

 ヤイコが敵対反応の接近をツルギに知らせる。

 

「まさか……全員道連れにするつもりか!」

 

 接近してくるNPDリーオーCとDが何を狙っているのかを悟ったツルギは、すぐさまレイジングマスラオを立ち上げさせる。

 ヤイコの蛇威雄音も身構え直し、レイジングマスラオと同時に岩陰から飛び出してNPDリーオーDを迎え撃つ。

 ビームカノンもプラネイトディフェンサーはおろか、ビームサーベルすらも使わずに真っ直ぐに向かってくる。

 

「(組み付かれたら一発アウト、なら……)」

 

 一撃必殺。

 狙うならそれだ。

 

 レイジングマスラオは『ハワード』だけを抜き放ち、NPDリーオーCと相対する。

 ただ真っ直ぐ向かってくるだけなら、すれ違いざまに胴を狙いながら斬り抜けられる。

 その算段を立てていたツルギに、突如別方向からのアラートがけたたましく鳴る。

 

「!?」

 

 それは、NPDリーオーDから放たれたビームカノンのビーム。

 ヤイコの蛇威雄音に組み付くよりも先に、ツルギを狙ったらしい。

 ツルギは咄嗟にアームレイカーを捻ってビームを回避するが、気が付けばNPDリーオーCとの距離は致命的なまでに狭まっていた。

 

「しまっ……」

 

 NPDリーオーCはレイジングマスラオに組み付きーー自爆した。

 

 レイジングマスラオ、撃墜。

 

 これで残るはヤイコ一人。

 だが、ツルギを狙ったNPDリーオーDは、一瞬だけでもヤイコから注意が外れる。

 

「余所見するたぁ、いい度胸!」

 

 蛇威雄音はNPDリーオーDの頭部を掴むと、そのまま力任せに引きちぎり、ボディを蹴り潰した。

 NPDリーオーDは仰向けに倒れ、動かなくなる。

 

「そろそろ時間がねぇな、さっさと大将ぶっ倒してHLVを止めねぇと……」

 

 最後の一機、フルメタルシェパードのトールギスコンダクターは岩陰に隠れているらしい。

 ヤイコはその方向へ蛇威雄音を向かわせようとして、

 

 ガシリ、と足を掴まれた。

 

 それは、ヤイコが蹴り倒したNPDリーオーDだった。

 頭部もボディも破壊したと言うのに、まだ動けるようだ。

 その上、しっかり自爆プログラムも生きている。

 

「てめっ、離しやがれこの……ッ!」

 

 NPDリーオーDの動力炉が臨界に達し、暴発した。

 爆発閃光が蛇威雄音を巻き込んだ。

 

 

 

 

 

 MD達の自爆を全て確認し、フルメタルシェパードはトールギスコンダクターを岩陰から移動させ、高笑いを上げた。

 

『ククク……フフフフフッ、アーッハッハッハッハッハッ!!』

 

 MDを自爆させなければならないケースなど稀有ではあったが、想定の範囲内でもある。

 最終的に、トールギスコンダクターが生きてさえいれば、何機自爆させても構いはしないのだ。

 

『ーーハッハッハッ……。さて、今回のデータを見直すとす……』

 

 フォース・フォートレスの勝利……のはずだが、不意にコンソールパネルからアラートが鳴り響く。

 

 

 

 

 

 爆煙と砂塵を切り裂いて現れたのはーーーーー蛇威雄音だった。

 

 

 

 

 

『ワゥンッ!?』

 

 

 フルメタルシェパードは、思わず素の反応を出してしまった。

 

 スラスターバインダーを失い、機体各部からスパークを漏らしながらも、ヤイコの蛇威雄音はトールギスコンダクター目掛けて突撃する。

 

『自爆までされてまだ動けるとは……ば、バケモノか!?』

 

 慌ててトールギスコンダクターは右肩に提げたドーバーガンを構え、蛇威雄音へ向けて放つ。

 ビーム弾が蛇威雄音に着弾、仰け反るものの速度は全く落とさない。

 一発だけではなく、二発、三発とドーバーガンが放たれては蛇威雄音に直撃していく。

 蛇威雄音のコクピットは激しく震動し、機体の至るところが『Hazard』を告げている。

 それでもヤイコは怯まずにアームレイカーを押し上げる。

 

 そしてついに、トールギスコンダクターへ肉迫した。

 

「自爆たぁテメーよくもナメ腐った真似ぇしてくれやがったなァ、えぇ?フルなんたらさんよォ!」

 

 蛇威雄音の左マニュピレーターが、ガッチリとトールギスコンダクターの肩部装甲を掴んでは引き寄せる。

 

『ひぃっ』

 

「オラァッ!」

 

 蛇威雄音の右拳がトールギスコンダクターの頭部を殴り付けるが、損傷が甚大なせいでいつものパワーが出せず、頭部装甲が歪に凹むだけだった。

 だったら殴り続けるまでだ。

 

「オラ!オラ!オラ!オラ!オルァッ!」

 

 一撃、二撃、三撃、四撃、五撃、と蛇威雄音がトールギスコンダクターをタコ殴りにする。

 

『こっ……この野蛮な凡人が!どけっ、どけぇっ!!』

 

 接触通信による怒声と震動がコクピット支配する中、フルメタルシェパードは声を裏返しながらアームレイカーをメチャクチャに振り回して蛇威雄音を弾き、蹴り飛ばす。

 フラつきながらたたらを踏む蛇威雄音に、トールギスコンダクターはビームサーベルを抜き放って振り下ろす。

 

「ぐぁっ、クソッ、がっ……」

 

 ビーム刃が蛇威雄音のボディに喰い込み、高エネルギーの波動がヤイコに浴びせ付けられるが、まだ撃墜判定は出ない。

 

『まだ抵抗するかっ、このッ!このッ!このッ!』

 

 自棄になったかのように、トールギスコンダクターは何度もビームサーベルを蛇威雄音に打ち付ける。

 

「ァッ、ッ、……、……」

 

 ここまで攻撃を受けて、まだ立っているのが不思議だったヤイコがついに力尽き、『Hazard』まみれのコクピットに倒れた。

 

 蛇威雄音、撃墜。

 

 蛇威雄音の撃墜判定が出たにも関わらず、トールギスコンダクターはビームサーベルを振り回していたが、フルメタルシェパードがようやく我に返ったおかげでその手が止まる。

 

『ハァっ、ハァっ、ハァっ……フーッ……』

 

 ズレかけていたマスクを被り直し、フルメタルシェパードは一息ついた。

 

『Battle ended. Winner. Fortress』

 

 フォース・スピリッツのガンプラが全滅したため、フォース・フォートレスの勝利となった。

 

 

 

 

 ツルギ達のガンプラは、全機とも着陸したアルビオンの格納庫に収容され、修復を受けている。

 それを待つまでの間、フォース・スピリッツの面々はキンバライト鉱山基地にいるフルメタルシェパードに、レーザー通信を送っていた。

 バトランダムミッションの進行上、バトル前に顔を合わせて挨拶する、と言うことが出来なかったため、バトル後に挨拶しようと思っていたのだ。

 モニターに、目元に銀色のマスクを被った、シェパード犬型の獣人ダイバーの顔が映る。

 仮の代表として、サヤが最初に挨拶をする。

 

「こちら、フォース・スピリッツ代表、サヤです。本日のバトランダムミッション、ありがとうございました」

 

 負けて悔しい気持ちはサヤにもあったが、今はそれを押し隠して、礼儀に倣って小さく頭をさげる。

 

『……』

 

 マスク越しでは表情は分からないが、不機嫌さが見て取れる。

 数秒の間の後に、フルメタルシェパードの口が開く。

 

『これは何かの間違いだ……』

 

 独り言のようなそれを聞いて、スピリッツの面々は頭に疑問符を浮かべた。

 

『私が望んでいた勝利はこんなものではないのだ!』

 

 健闘を労うような言葉ひとつなく、フルメタルシェパードは一方的に喚く。

 

『この程度のフォースに躓いている場合ではない、この私の偉大な才能を世界に知らしめるためには、こんなものでは足りんのだ!』

 

「……さっきから分け分かんねぇことばっか吠えてんじゃねぇよッ!」

 

 ヤイコがモニターの前に歩み寄っては、画面越しのフルメタルシェパードを睨みつける。

 

「こちとら下げたくもねぇドタマぁへいこらおっ下げて、礼儀ってのを通してんだよ。礼儀にゃ礼儀で応えるっつー当たり前も知らねぇってのか!?」

 

『黙れッ、このバケモノがっ!この私のプライドに傷を付けたことっ、絶対に許さんぞ!!』

 

「あ"ァ"!?誰がバケモンだテッメェこの……ッ」

 

 一方的に通信を切られ、モニターがブラックアウトする。

 ガンッ、とヤイコはブリッジの壁を殴った。

 

「ッ……野郎、アタシをコケにしてくれやがったっ……」

 

 歯軋りしながら、絞り出すような声。

 

「なーによアレ、ただの感じ悪いわんちゃんじゃない」

 

 艦長席の背もたれに体重を預けながら、マイは不快さを言葉にした。

 

「まぁ……GBNにはあぁ言うダイバーもいるさ」

 

 サヤは落ち着きを払いながら、小さく溜め息をつく。

 

「勝てなかったね……」

 

 ハルナはしょんぼり、と言う擬音が聞こえてきそうなくらい肩を落とす。

 

「MDがあんなに強いなんて、思わなかったです」

 

 ミーシャも落ち込んでいる。一機も倒せないままに撃墜されてしまったのだ、無理もない。

 

「でも、ハルナのMDを同士討ちにさせるって発想は、良かったと思う。それで一機は落としたんだから」

 

 アルビオンのCIC席から戦況を見ていたユイは、客観視点から述べる。

 もしもフォートレスのMD達が自爆特攻をしなければ、勝敗はまた変わっていたかもしれない。

 

「何にせよ、俺達もまだまだってことだな」

 

 ツルギは腕組みをしながら、大きく頷く。

 

「もっと強くならなきゃ、先へは進めねぇ」

 

 各人のガンプラの修復完了を確認してから、アルビオンは離陸、ベース基地へと帰還していくーーーーー。

 

 

 

 

 

 

【次回予告】

 

 ハルナ「強くなるにはどうしたらいいかな?」

 

 ミーシャ「バトルの腕を鍛える」

 

 ユイ「ガンプラの製作技術を磨く」

 

 サヤ「仲間との連携」

 

 ヤイコ「根性」

 

 マイ「抽象的ねぇ」

 

 カゲトラ「二、三回死にそうな目に遭えば、ニュータイプになれるそうだぞ?」

 

 ツルギ「それで死んだらおしまいだろうが……。

 

 次回、ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツ

 

『カイドウ先生の地獄の修練』

 

 ……待て、マジで殺す気かぁぁぁぁぁッ!?」

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