ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツ   作:さくらおにぎり

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 ※今回の話に、どっかの地獄公務員みたいな人が登場しますが、細かいことは気にしないでくださいお願いします。


9話 カイドウ先生の地獄の修練

 フォース・スピリッツとのバトルの後、フルメタルシェパードは、キンバライト鉱山基地から帰還し、自身のフォースネストに入室するなりロックを掛け、そこに篭った。

 

 モニターに映し出されるのは、フォース・スピリッツのガンプラ達と、それと相対する自分のAIを組み込んだMD達。

 

「(しかし……このバトルも悪いばかりでもない。今回のような相手への、今後の対策にもなるだろう)」

 

 露呈された、MD達の欠陥。

 それは、想定外への対処と、自軍への被害の考慮。

 そこさえ押さえて調整し直せば、今度こそ完璧になるはずだ。

 

 不本意ながらそこは感謝しよう、とフルメタルシェパードは一人呟く。

 

「勉強熱心だね」

 

 不意に、自分以外の声が背中から聞こえた。

 

「っ!?」

 

 フルメタルシェパードは慌てて椅子を蹴り倒して振り返ると、そこには純白の肌と髪を持った幼気なダイバーが、ニコニコしながら立っていた。

 誰も入ってこれないよう、ロックを掛けていたはずのここに。

 

「だっ……誰だね君は?ロックを掛けていたこのフォースネストに、どうやって入ってきた?」

 

「そんなことはどうだっていいの」

 

 そう言いながら、純白のダイバーは歩み寄る。

 どうでも良くない、とフルメタルシェパードは怒鳴ろうとするが、咳払いと共にいつもの高慢な態度で応じる。

 

「……そうか。それで、私に何の用かな?」

 

 フルメタルシェパードの目の前で足を止めて、唐突に語りだした。

 

「昔むかし、と言っても三年前のことです。このGBNの運営に就職した、一人の男がいました」

 

「……待て」

 

 フルメタルシェパードはマスクのフィルター越しから、怒りと戸惑いを入り混ぜた視線を向けたが、構わずに語りは続く。

 

「彼は、NPDガンプラのモーションプログラムを一任されていました。彼のプログラミングは素晴らしく、まるで人の手によって操縦されているかのように滑らかで、高度な判断力を持っていました」

 

「待てと言ったぞっ、何故君がそんなことを知っている!?」

 

 声を荒げてもなお、純白のダイバーは口を閉じない。

 

「ですがその反面、彼は優秀過ぎました。彼がプログラミングしたAIを組み込んだNPDは強すぎて、初心者はおろか、トップランカーでさえも倒せないほどになっていたのです」

 

「喋るなっ!!」

 

 フルメタルシェパードはデスクに置いていたタクトを手に取り、それで純白のダイバーを叩こうとする。

 が、振り抜かれたタクトは指先で止められ、へし折られた。

 

「その反響は、クレームとなって運営を叩きました。運営は謝罪と共に責任を取る形で、その男を解雇しました。彼は納得出来ませんでした。何故、自分が除け者にされたのかと」

 

「……」

 

 攻撃が通用しないと悟り、フルメタルシェパードは鉾を納めて黙って語りを聞くことにした。

 

「そして、彼はあるひとつの誓いを立てました。自分がプログラミングしたAIを組み込んだMDでGBNの頂点に立ち、自分を捨てた運営と、自分を叩いた世界を見返してやる、と」

 

 そこまで語ったところで、純白のダイバーは一息ついた。

 

「その気持ちは、揺るぎのないものかな?」

 

「当然だ。君が何故、私の胸中を知っているのか不気味でならないが、世界に私の偉大さを思い知らせるその日まで、私は立ち止まるわけにはいかんのだ」

 

「そっか。なら、君と僕は、"同志"だ」

 

 金色の瞳が、ジッと仮面のフィルターを捉える。

 

「実はね、僕にも見返したい相手がいるの。だから、君の気持ちは、分からなくない」

 

「同、志……」 

 

 "志"を"同"じくする者。

 その言葉は、甘美な響きとなってフルメタルシェパードの耳を撫でる。

 彼のダイバーギアには、フレンド登録が一人も登録されていない。

 それは、自分の力を示すためには仲間の存在はむしろ邪魔なものだと思っている節もある。

 

「誰かを見返したいって言う、その強い思いを尊重したい。出来ることなら何だって力になるよ」

 

「……!」

 

 フルメタルシェパードは、歓喜に震えていた。

 長らくコンピュータと向き合ってばかりだった自分に、友人と言える存在はいなかった。それを気にしたことも無かった。

 だと言うのに、目の前のこの幼気なダイバーは、自分の力を素晴らしいものだと誉め称え、それを尊いものだと言う。

 そして、出来ることなら協力したいと申し出てくれた。

 

 これほど他人の存在が心地好いと感じたことはない。

 

 フルメタルシェパードは、自分の力だけでと言う考えを改めた。

 

「私は感動している……物事を正しく見極め、素晴らしいものを素晴らしいと言える、君のその高潔さに、私は感動した!」

 

 思わず両手を伸ばし、純白のダイバーの右手を取った。

 

「ならば君の言う通り、私達は同志だ。君が私に力を貸すと言うのなら、私も君への協力は惜しまん」

 

「ありがとう、君ならそう言ってくれるって信じてたよ」

 

 肉球の掌を握り返して、純白のダイバーは微笑みを浮かべた。

 

「名乗り忘れていた。私の名は、フルメタルシェパードだ」

 

「僕は……、……」

 

 一瞬だけ視線を彷徨わせ、もう一度視線を戻す。

 

「僕の名前は、『エル』」

 

 金色の双眸が、妖光を秘めた。

 

 

 

 

 

 ようやく梅雨明けを迎え、夏の暑さが本格的に始まる初夏。

 

 ツルギ達フォース・スピリッツの面々は、昼休みの食堂の一角で集まっていた。

 

 フォース・フォートレスとのバトランダムミッションイベントを惜敗と言う結果で迎えた彼らは、さらなる高みを目指すために邁進すべく、今日はチームで昼食を共にしつつ、今後について気軽に話し合うのだ。

 

「「強くなりたい」って言うのは簡単だけど、何をすればいいのかが漠然とし過ぎてるんだよねぇ」

 

 ハルナは肩を落として小さく溜め息をつく。

 かつて、あるダイバーはこう言った。

 

 ガンプラバトルを強くなるには、『ガンプラの操縦技術』『ガンプラの製作技術』の二つを磨き上げることと、そして『ガンプラへの愛』が必要であると。

 

 何をどこまでどうすれば良いのかが全く見えない、漠然とした答えだろう。

 ダイバーの数だけ操縦技術があり、ビルダーの数だけ製作技術があり、それらに無数の"愛"がある。

 こうすればよい、と言う模範的な解答はあっても、それが最上の結果に繋がるとは限らない。

 

「「MSの性能の違いが戦力の決定的差ではない」ってシャアが言ってたように、まずは操縦技術が一番じゃないですか?」

 

 ミハイルが控えめに挙手しながら答える。

 先人の言葉を借りたものだが、一理あるだろう。

 ダイバーの中には、素組みのガンプラで上位ランカーの中へ這い上がる者もいるのだ。

 

「それも正しい。でも、やっぱりガンプラの性能だって大事だと思う」

 

 彼の言葉を肯定しつつも、ユイは反対にガンプラの性能も大きな要因だと言う。

 素組みのガンプラで勝ち抜けるダイバーはいるだろうが、それでもいつかはどこかで頭打ちになるのは避けられない。

 

「結局はどっちも欠かせないことだ。操縦だけでも製作だけでも、ね」

 

 サヤのその発言が、最もたる答えだ。

 

 "力"を持つ者には、相応の"剣"が必要なのだ。

 

「ま、そうなるわよねぇ。ちなみに、脳みそガチムチのヤイコちゃん的には、その辺どうかしら?」

 

 マイは茶化しを入れつつも、ヤイコの意見も求める。

 

「んーなゴチャゴチャ難しいこと並べなくてもよ、最初っから最後までモノ言うのは根性だろうよ。操縦も製作も、根性無しで出来るわきゃねぇからな」

 

 相変わらず体育会系と言うか脳筋と言うか、しかし意外なほど鋭さを秘めた言葉だ。

 根性と言う言葉を言い換えれば、それはやはり"愛"なのだろう。

 

「とにかく行動あるのみ、とは言わないが、出来ることからひとつひとつやるしかないだろうな」

 

 お冷を一口してから、ツルギが最終的な結論を出す。

 ヤイコの言う"根性"は己の問題なのでともかく、操縦技術はGBNで、製作技術はリアルで、それぞれ磨き上げていく。

 やはりそうかとこの場の全員が頷きかけたところで、横槍が入ってきた。

 

「いいや、まだあるぞ?」

 

 いつの間にこの席にいたのか、カゲトラがカレーライスをかっ込んでいた。

 モグモグと、リスやハムスターのように頬を膨らませている。

 

「フォッ、むぃふぇいふぇんうぉへうぃふぇん……」

 

「食べながら喋るな。飲み込んでからにしろ」

 

 そのまま喋ろうとするカゲトラをツルギが制し、ゴクリと飲み込んでから改めて口を開く。

 

「フッ、未経験を経験するのも、強くなるための秘訣だ」

 

「未経験?」

 

 一体なんのことかとハルナが小首を傾げる。

 

「まぁ、それを教えてくれる先達は、すぐに来てくれるさ。何せ、それは地獄の使……」

 

 と、カゲトラが言い掛けたところで、

 

 

 

 

「使いじゃねぇぇぇぇぇェェェェェ!!!!!」

 

 

 

 

 

 誰かの怒鳴り声が聞こえたと思えば、出入り口から暴風が吹き込んできた。

 ドアを蹴破って来たその人物を見て、周囲の生徒達はこぞって道を譲り、そこを突っ切るように真っ直ぐに突っ込んで来た。

 

「だぁれだ俺のことを地獄の使いとか言いやがったバカ野郎は!?ガキの使いやあらへんで!!」

 

 ボサついた黒髪を揺らしながら大声で怒鳴り散らしながら、ツルギ達を見回す。

 

 この男ーー『カイドウ・リュウガ』は、粗野な風貌からは想像しにくいが、実はこの学園の用務員である。

  

「フッ、俺に出来るのはここまでだ。後はカイドウ先生にお任せするとしよう。では、さらばだッ」

 

 気付いた時には既にカレーライスを平らげていたカゲトラは、足早に食器返却棚にトレイを置き行ってしまう。

 残されるツルギ達七人。

 

「あ、カイドウ先生こんにちはー」

 

 周囲の生徒は、カイドウ先生と言うらしい彼を引いていると言うのに、ハルナはいつも通りに挨拶する。

 

「おぅこんちは。で、何だ?お前らが俺を呼んだのか?」

 

 一息ついてからカイドウ先生ーーリュウガも落ち着いたらしく、普通の口調に戻る。

 一瞬だけツルギ達の間で視線が交わされ、一拍置いてからサヤが答えた。

 

「呼んだも何も、カゲトラの奴が勝手に呼んだってところでしょうかね……?」

 

「ふぅん?まぁいい」

 

 それよりも、とリュウガはどっかりとカゲトラがいた席に座った。

 

「ここは一体何の集まりだ?」

 

 他に誰も口を開かない(マイだけは自分の食事を続けている)ので、ハルナが応じる。

 

「カイドウ先生も、GBNって知ってますよね?わたし達、ガンプラバトルで強くなるにはどうしたらいいかなって、話し合ってたんですよ」

 

「あぁー、GBNか。俺もまぁ、やってないことはねぇな」

 

 リュウガもGBNをやっていると聞いて、マイを除く全員の興味が彼に向き、次にツルギが話し掛ける。

 

「なら、カイドウ先生。先生は、次元覇王流拳法って知ってますか?」

 

「いや知らん、聞いたこともねぇな」

 

 しかし、リュウガの答えは「NO」だった。

 

「そうですか……」

 

 自分達学生よりも歳上ならば知っているかもしれない、と思ったツルギだが、またしても外れだったようだ。

 

 ハルナ、ツルギが話し掛けたことで警戒心と言うか恐れ多さが弱まったおかげで、ユイやミハイルも話そうとする。

 

「カイドウ先生って今、ダイバーギア持ってますか?データとか見てみたいんですけど……」

 

 ミハイルが小さく挙手する。

 

「おぅ。まぁ大したモンじゃねぇが、見てくれや」

 

 リュウガは持っていた手荷物からダイバーギアを取り出して起動させると、自分のプロフィール画面を開いて、スピリッツと面々に見せてやる。

 

「Sランク……だいぶやり込んでますね」

 

 ユイが目を見開きながら頷く。

 先日のフルメタルシェパードよりはひとつランクが低い。

 しかし、ワールドランキングが45位であることや、フォースバトルの戦績を見ても勝率80%を上回っているなど、かなりの実力を持ったダイバーであることに違いはなさそうだ。

 

「カイドウ先生、失礼を承知でお訊きします。先生の、その強さの理由を教えてください」

 

 サヤが小さく頭を下げて、リュウガの実力とはどこから来るものかを訊いてみる。

 それを聞いて、リュウガは腕を組んで眉を顰めた。

 

「んー、俺自身もガンダムにゃ詳しくねぇし、使ってるガンプラも他人が作ったモンを使わせてもらってるだけだ。気が付いたらそこまでになってたって感じだが……」

 

 でもな、と言葉を続ける。

 

「GBNをやる日は、欠かさずやってることはある。それを教えてほしいってんなら、お前らにもやらせてやるが……」

 

「……アタシからもお願いします、カイドウ先生」

 

 ふとヤイコがテーブルに手を着き、深々と頭を下げた。

 

「どうしたカラスノ。お前が俺に頭を下げるってなぁ珍しいもんだな」

 

「アタシは先生に頭を上げられねぇ。だから、お願いをするにゃぁ頭下げるしかねぇ」

 

 どうやらヤイコは、リュウガに何かしらの恩義を感じているらしい。

 それを見てリュウガは苦笑した。

 

「よせよせ、頭ぁ上げろ。俺は大したモンじゃねぇって言ってるだろうが」

 

 ヤイコが頭を上げたのを見てから、リュウガは大きく頷いた。

 

「今度の日曜の午後でいいんなら、お前ら揃ってGBN来いや。俺がお前らに、ちょっとした課題を与えてやらぁ」

 

 ニヤリ、とリュウガは笑みを見せた。

 

「「「「「「…………………………」」」」」」

 

 そのリュウガの笑みは、ハルナ以外を恐々とさせるには十分過ぎる代物だったと、後にフォース・スピリッツの誰かが語ったと言う。

 

 

 

 

 

 日曜日。

 リュウガのダイバーネーム『カイドウ』とフレンド登録したフォース・スピリッツのメンバーは、午後に揃ってGBNへログインした。

 

 待ち合わせ場所であるエントランスロビーで、ツルギ達は集まっていた。

 

「ところで、カイドウ先生ってどんな人なんですか?」

 

 唯一、中等部の生徒であるミーシャが、高等部の先輩方に質問する。

 

「んー、わたしはあんまり知らないかな。他のみんなは?」

 

 ハルナが最初に答えてから、他のメンバーにも訊いてみる。

 ツルギ、ユイ、マイ、サヤもあまり知らないようだ。

 この中でリュウガを多少なりとも知っているのは、ヤイコだけだった。

 

「カイドウ先生は用務員って肩書こそ持ってっけど、あの人、昔は『傭兵』だったらしい」

 

 ヤイコは神妙な声で、リュウガについて語る。

 

「それもマジもんの傭兵。十代の頃から紛争地帯でドンパチやってる中を渡り歩いて来たって人だ。日本に戻って来たのは最近のことで、ウチの学園長を助けたことから、用務員として雇ってもらった、って先生は言ってたな」

 

 傭兵から用務員になったと言う、その華麗(?)なる転職のことはともかく、凄まじい経歴の持ち主と言うことは、ツルギ達にも理解できた。

 

 もう少しだけ待っていると、エントランスの出入り口から、一目でカイドウだと分かる容姿のダイバーがやって来た。

 宇宙世紀における連邦軍の軍服を崩して着用している。

 

「よぅ、待たせたな」

 

 カイドウが軽く手を振ると、ツルギ達は「おはようございます」と挨拶する。

 顔合わせを終えて、カイドウはコンソールパネルを開く。

 

「とりあえず、『シミュレーションルーム』に来いや」

 

 言うが早いか、カイドウはコンソールパネルで『Simulation Room』を選択して移動してしまったので、ツルギ達も同じようにコンソールパネルを開いてそちらへ移動する。

 

 

 

 

 

 シミュレーションルーム。

 トレーニングモードとは異なり、自分のガンプラに搭乗する必要はなく、システム上で再現出来る範囲であれば、どんな機体も操縦することを体感出来て、さらにトレーニングモードと同じように、NPD機体も自由に設定できると言うものだ。

 

 シミュレーションルームには、ゲームセンターによくある、実際に乗り込んでプレイするタイプの筐体が幾つも並んでおり、正面にはプレイ状況を確認できる大型モニターが備え付けられている。

 カイドウはここで『課題』を与えるらしい。

 

「んじゃ、早速やってもらうぞ。ほれ、乗った乗った」

 

 彼の言うままに、ツルギ達はそれぞれ筐体に乗り込んでは起動させていく。

 シミュレーションとはいえ、アームレイカーなどの操縦系は全て同じだ。

 

「それで、俺達は何をすればいいんですか?」

 

 ツルギは通信回線を開き、システムを調整しているカイドウと通信を繋ぐ。

 

『ちょいと待ってろ……、良いぞ』

 

 調整を終えたらしく、ツルギ達の画面には出撃スタンバイの画面が立ち上げられる。

 

『これからやるシミュレーションは、俺が日頃からやってることを少しマイルドにした感じのそれだ。操縦する機体も、相手にする機体も、シチュエーションも、全部俺が定めたものにする。いいな?』

 

「「「「「「「はい」」」」」」」

 

 ツルギ、ハルナ、ユイ、マイ、ミーシャ、サヤ、ヤイコの七人は気負いなく返事をする。

 

『よーし、それじゃぁまずはこいつらをやってもらおうか』

 

 カイドウはデータを打ち込み、ツルギ達の筐体にプログラムを送信する。

 

「ツルギ、参るッ!」

 

「ハルナ、行きまーす!」

 

「ユイ、出るわ!」

 

「マイちゃん行っきまーす」

 

「ミーシャ、行きます!」

 

「サヤ、出撃します!」

 

「ヤイコ、喧嘩上等ッ!」

 

 フォース・スピリッツの面々は、勢い勇んでカイドウのシミュレーションプログラムに挑む。

 が、しかし……

 

 

 

 

 

「……クソッ、またやられたッ!」

 

 ツルギは『LOSE』の文字が横切る画面の前で膝を叩いた。

 

「こっ、こんなのホントにクリア出来るのぉっ!?」

 

 ハルナももう何度も挑戦しているのだが、全くクリア出来ない。

 

「……っ、あぁもぅっ、また弾切……あっ!?」

 

 ユイの画面にもまたしても『LOSE』が横切る。

 

「〜♪」

 

 マイは鼻歌を口ずさみながらシミュレーターをこなしている。

 

「こ、こんなのムチャクチャだぁ!」

 

 喚きながらミーシャはガックリと肩を落とす。

 

「くっ、だがこれも出来ないようでは……チイィッ!」

 

 普段は冷静なサヤも、今回ばかりは苛立ちを隠せない。

 

「だあぁぁぁぁぁこんちくしょうがぁぁぁぁぁッ!!」

 

 バンバンとコンソールパネルを叩きまくるヤイコ。台パンはマナー違反です。

 

 

 

 

 

 カイドウが設定したシミュレーションプログラムだが、彼が与えたプログラムは複数あり、好きな順番でクリアしても良いのだが、その内容がとにかくデタラメ過ぎるのだ。

 具体的にどんな内容かと言うと、

 

 ・F型のザクⅡでS型のゲルググ一個大隊(36機)を倒せ。

 

 ・ボールでデンドロビウムを倒せ。

 

 ・リーオーで五機のガンダム(ウイング、デスサイズ、ヘビーアームズ、サンドロック、シェンロン)を倒せ。

 

 ・ストライクダガーでフリーダムガンダムとジャスティスガンダムを倒せ。

 

 ・AEUイナクトで常時トランザム起動中のトランザムライザーを倒せ。

 

 ・CGSモビルワーカーでグレイズアインを倒せ。

 

 ……等など、正直言ってどう見てもクリア出来るとは思えない。

 こんなものクリア出来るか、とツルギが文句を呟いたのを聞いたのか、カイドウはツルギに代わって全く同条件でやってみせる。

 

 すると、

 

「ほい、おしまいっと」

 

 いともあっさりクリアしてしまった。

 カイドウが操縦するそれは、ツルギと同じように見えて、動きが全く違うのだ。

 弾薬やエネルギー、推進剤なども限られた条件の中で、最低限の消費で最高のスピードとパワーを引き出す。

 

「たかがシミュレーターだが、これが出来ないようじゃぁ上には行けねぇ。トップランカー連中は、これくらい出来て当然だぜ?」

 

 しかも、これでさえ『カイドウの自己鍛錬プログラムをマイルドにしている』ものだ。

 これよりもさらに難しいことを当たり前のようにやっていると思うと、もはや気が遠くなる。

 

 だが、実際にクリアしたのを見て、不可能ではないと分かるのならツルギは諦めない。

 その姿勢に触発されて、他のメンバー達も奮起する。

 

 

 

 

 

 それから二時間ほどが経過した頃。

 

「や、やっとひとつクリア出来た……」

 

 這々の体で、ツルギは筐体から這い出てきた。

 

「わ、わたしもぉ……」

 

 ハルナも同様にズルズルと身体を引き摺るように筐体から出てくる。

 

 そこから次に、ユイとマイが筐体から出てきたが、この姉妹の反応は違うものだった。

 

「こ、こんなのやってたら、気が狂うわ……」

 

「あー、面白かった♪」

 

 前者はユイ、後者はマイの反応だ。

 

 続いて、ミーシャ、サヤ、ヤイコも筐体から這い出てくるが、三人とも疲労困憊も同然だった。

 

「ありぇりぇりぇー、皆さんぐぁ、ふゅたりに見えまひゅぅ……」

 

 ミーシャは目を回しながら、

 

「……左舷推進部損傷、任務遂行に障害発生、まずいな……」

 

 サヤは筐体から降りてなおシミュレーターを続けており、

 

「クランクニー、ボードウィントクムサンサー、ワタシハ、ワタシノタダシ……」

 

 ヤイコは死んだ目をしながらよく分からないことを呟いている。 

 

 肉体的疲労のないGBNだが、これはどちらかと言えば精神的な疲労だ。

 ……むしろ、疲労を通り越して正気を失っている。

 

「よーし、お前らよくやった。一日でひとつクリア出来たんなら上出来だ」

 

 パンパンと手を鳴らしながら、カイドウが出迎えてくれる。

 

「さっきのシミュレーターのデータは、お前らのダイバーギアにも保存されてるから、俺がいなくてもシミュレーションルームでいつでも出来るようになってる。ま、暇な時にでもやってみろや」

 

 それじゃ今日は解散な、と告げるなりカイドウはコンソールパネルを開き、ログアウトしていった。

 シミュレーションルームに残されるツルギ達。

 

 正気を失っていた者もどうにか正気を取り戻して、声を揃えてこう絶叫した。

 

 

 

 

 

「クソゲーェェェェェェェェェェ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

「えー?確かに難しかったけど、そんなにクソゲーだった?」

 

 このメンバーの中で、マイだけが一日で全てクリアしていた。

 頭おかしいんじゃないだろうか。

 

 

 

 

 

 その日を皮切りに、ツルギ達はGBNへダイブする度にミッションを受けずにシミュレーションルームに篭り、カイドウから与えられた課題に挑み続けている。

 

 リーオーを駆るツルギは、ウイングガンダム、ガンダムデスサイズ、ガンダムヘビーアームズ、ガンダムサンドロック、シェンロンガンダムの五機を相手に大乱戦を繰り広げていた。

 

「リーオーのサーベルじゃまともにダメージが通らん……ならッ!」

 

 ツルギが狙いを付けて突っ込むのは、シェンロンガンダム。

 五機のガンダムの中でも、最も白兵戦能力の高いこのガンダムに自ら接近するなど自殺行為も同然だ。尤も、距離を離そうが縮めようが結果は同じなのだが。

 シェンロンガンダムは右腕の龍ーードラゴンハングを伸ばし、高熱火炎放射を噴き出す。

 まともに喰らえば、リーオーなど一秒もしない内に消し炭にされるほどの炎だが、それこそがツルギの狙いだった。

 

 リーオーは瞬時に身を屈めてドラゴンハングの火炎放射をやり過ごして、シェンロンガンダムの背後に回り込みーー、背中の長物ーービームグレイブを奪い取った。

 

「づあぁッ!」

 

 

 ビームの長刀の一閃が、その本来の持ち主であるシェンロンガンダムを斬り裂いた。

 

 シェンロンガンダム、撃墜。

 

 自前の武器が通らないなら、敵の武器を奪うまでだ。

 ターゲットは残り四機。

 ツルギは死力を死力で振り絞って、ガンダニュウム合金製の怪物達に立ち向かう。

 

 

 

 

 

 フリーダムガンダムとジャスティスガンダムの二機によるフルバースト。

 視界を埋め尽くすかのような火線の中を、ハルナのストライクダガーは掻い潜る。

 

「よ、避けるのが精一杯……だけどっ、段々見切れるようになってきたよ!」

 

 続いて、ジャスティスガンダムが肩のバッセルビームブーメランを投擲、その後ろからフリーダムガンダムがルプス・ビームライフルで援護射撃。

 ストライクダガーはルプス・ビームライフルを避けつつ、バッセルビームブーメランはシールドで受け流す。

 次の瞬間にはジャスティスガンダムがラケルタ・ビームサーベル二振りを連結させた、アンビデクストラス・ハルバードフォームにして接近してくる。

 さらにフリーダムガンダムがストライクダガーの側面に回り込みながら、バラエーナとクスィフィアスを交互に撃ち込んでくる。

 

「はいっ、ひいっ、ふいっ、へいっ、ほいっ!」

 

 重粒子砲と電磁加速弾の波状射撃に加えて、ジャスティスガンダムの双刃のラケルタ・ビームサーベルによる変則的な格闘攻撃を、全て凌いでいくストライクダガー。

 

 

 

 

 

 ユイは、マイについてもらいながらシミュレーターを行っていた。

 

「ねぇお姉ちゃん……ナノラミネートアーマーに守られてる相手に、MWでどうやって勝つの?」

 

 これからユイが行うのは、MWでグレイズアインを倒すと言うもの。

 当たり前だが、MWに質量打撃を与えられる格闘武器などない。

 唯一の火器である一対の30mmマシンガンも、MSの前では豆鉄砲同然だ。グレイズアインどころか、そもそもMSを倒せるかどうかも怪しい。

 始めから事実上のクリア不可能が見えているこのシミュレーターを、マイはどうやってクリアしたのかと言うと……

 

「まずはグレイズアインの機関銃を破壊するの。次に懐に潜り込んだら、膝関節にマシンガン撃ち込んで、関節の可動部を詰まらせて、その次はスラスターを破壊。そしたら動けなくなるから、最後は頭部のカメラアイに全弾ぶっこんで機能停止させる。ハイ、クリア!」

 

「そんなの出来るわけないでしょうがぁッ!?」

 

「うっさいわねー、つべこべ四の五の言わずにやんなさいよ」

 

「お姉ちゃんの鬼ーーーーー!!」

 

 無理難題をクリアするには、それ以上の無理難題が出来るようになるしかない。

 ユイは泣き喚きながら、漆黒の悪魔に立ち向かった。

 

 

 

 

 

 開幕一番、デンドロビウムのメガビーム砲が薙ぎ払われる。

 それを必死に回避するミーシャのボール。

 

「大振りな攻撃なむしろ避けやすい、大丈夫……」

 

 だけど、とミーシャが次に見るのは、アームドベースである『オーキス』から放たれる何十発ものミサイルがボール目掛けてあらゆる方向から追尾してくる様。

 

「こっちのミサイルの方が大問題ッ」

 

 ミサイルの一発どころか、爆風を直に浴びただけで一発アウト。

 宇宙空間におけるボールの機動性などお情け程度のものだ、それでこのホーミングミサイルの大群を掻い潜るなど、限りなく不可能に近い。

 だが、『全くの不可能ではない』のであれば、このシミュレーターはそれを成し遂げるーー否、押し通すことが目的。

 ミーシャは細かにアームレイカーを振り回し、追尾するミサイル同士をぶつけさせて爆発させ、その爆風を利用して連鎖的に他のミサイルも誘爆させていく。

 

「こんのぉぉぉっ!」

 

 ミサイル同士を誘爆させながらもその隙間を縫うように、ボールの180mmキャノンを撃ち込んで、オーキスのコンテナの内部へ着弾させる。

 コンテナの一部を失って、デンドロビウムのバランスが崩れる。

 ただの支援ポッドが、超大型の拠点防衛兵器を下す。

 ミーシャがその光景を見るのは、そう長くない先のことになりそうだ。

 

 

 

 

 

 残像すら残るほどの速度で機動し続ける赤い光。

 それは、限界時間などない、無制限にトランザムを維持し続けるトランザムライザー。

 それに対するは、サヤのAEUイナクト。

 

「………………ッ!」

 

 瞬きひとつすれば、その瞬間で負ける。

 必死に目を凝らしながら、不意に接近してくるトランザムライザーのGNソードⅢによる斬撃を躱す。

 すぐ様反撃にリニアライフルを連射するが、その電磁加速弾がトランザムライザーを捕えた瞬間、霧のようにダブルオーライザーが"消える"。

 

『量子化』と言う、機体を量子化させてワープ、別の空間に再構築する、と言う現象だ。

 

「来るッ」

 

 量子化を視認した瞬間、サヤはアームレイカーを一気に押し出してAEUイナクトをフルスロットルで加速させる。

 その0.2秒後に、AEUイナクトの背後に再構築されたトランザムライザーがGNソードⅢを振るっていた。

 しかし切っ先が僅かに掠めたか、AEUイナクトの揚翼に切れ目が入るが、構わずサヤはアームレイカーを振るい、AEUイナクトは左マニュピレーターにあるプラズマソードを振り抜く。

 トランザムライザーも即座に回避を取るが、向こうも僅かに掠めらしい、胸部に斬りつけられた後が走る。

 

「フーッ……どうにか、読めてきたぞ」

 

 これはクリアするより先に俺がおかしくなるな、と思える程度には余裕が出てきたサヤ。

 その時点で既に何かおかしくなっていることへの自覚はない。

 

 

 

 

 

 一年戦争の中でも、ザクⅡと同等の量産性と整備性、そしてガンダムタイプに匹敵する性能を持つ傑作機として知られるゲルググ。

 そのゲルググーーそれもエースパイロットに優先的に配備される『S型』のみで編成された一個大隊は、四方八方からビームライフルを放つ。

 それらが狙っているのは、ただの量産型のザクⅡの一機。

 普通ならオーバーキルも良いところだが、そのザクⅡはビームの火線を縦横無尽に機動して避けていく。

 

「……後ろからのビームって、見えるもんなのか?」

 

 ヤイコは自分が何を言ったのか理解していない。

 

 優れたパイロットは『装甲越しに敵の殺気を感じろ』と言い、ニュータイプかそれに比類するパイロットは『後ろにも目を付けろ』と言う。

 

 実際に背中に眼球が生えるはずがないので、言ってしまえば『勘』のようなものだろう。

 

 そんな勘だけで、後ろからのビーム射撃を回避しさらに自分の正面にいたゲルググに誤射させる。

 絶えず襲い来るビームを往なしつつ、ヤイコはザクマシンガンを連射する。

 

 すると、120mmの弾丸はまるで吸い込まれるかのようにゲルググのメインカメラやコクピットハッチを正確に着弾していく。

 

「おっかしいなぁ……テキトーに狙っただけなんだが」

 

 ゲルググの一機がビームナギナタを抜き放ってザクⅡに斬りかかるものの、ヤイコはビームライフルを避ける"ついでに"ビームナギナタを蹴り上げ、その双刃のビームサーベルが持ち主を斬り裂いてしまう。

 

 そんなこんなを繰り返す内に、ヤイコのモニターには『Mission Clear!!』の文字が現れる。

 

「あん?もう終わったんか?」

 

 なんか呆気なかったな、とヤイコは呟く。

 数日前までこのシミュレーションを「クソゲー」と言っていたはずだった彼女は、自分に何が起きているかなど、知る由もなかった。

 

 

 

 

 カイドウのシミュレーター課題、通称『地獄の修練』を与えられてから早一週間。

 

「「「「「「…………………………」」」」」」

 

 ツルギは真っ白に燃え尽き、ハルナは開いた口からエクトプラズムを浮かべ、ユイは体育座りをしたまま床に倒れ、ミーシャは白目を剥きながら痙攣し、サヤは半ばノイローゼに陥り、ヤイコはケタケタと笑っていた。

 

 正気を犠牲にして、彼らはようやく与えられた全ての拷問課題をクリアしたのだ。

 カイドウが、ツルギ達のコンソールパネルのクリアチェッカーをひとつひとつ確認して、頷く。

 

「お疲れさん。よくやったな、お前ら」

 

「はーい」

 

 と元気良さそうに返事するのはマイだけ。

 他の六人からの返事が無いのは無理もない。

 

 これでようやく、このムリゲークソゲーの極みから解放される……はずだったが、カイドウが「さて」と呟いた。

 

「いよいよ最終修練だ。これをクリア出来たなら、お前も晴れて脱ビギナーだ」

 

「ま、まだなんかあるんですか……」

 

 ツルギは真っ白に燃え尽きたままでぼやく。

 

「おう、とりあえずガンプラに乗ってこいや」

 

 言うや否や、カイドウはミッションカウンターに足を向けて、トレーニングモードを選択して、さっさと移動してしまう。

 

「これだけやってまだ最後があるって……」

 

 エクトプラズムを吸い込んで、ハルナは恐る恐る声を発する。

 

「もう私は嫌よ、あんな、あんな……ぅっ、思い出すだけで吐き気が……」

 

 どうにか立ち上がったユイは、ゲームの中だと言うのに吐き気をもよおす。

 

「も、もうこれ以上、頑張れないんですけど……」

 

 目の焦点を合わせ直してから、ミーシャは脱力したように溜息をつく。

 

「だが、やるしかないだろう……」

 

 サヤは正気を振り絞る。

 

「そうだ、アタシらは負けらんねぇんだからよ」

 

 ガクガクブルブルと身を震わせながら、ヤイコも頷く。完全にトラウマになっているようだ。

 

 ツルギ達は格納庫に移動、一足先に出撃してしまったカイドウの後を追う。

 

 

 

 

 

 一週間ぶりにガンプラに乗って出撃したフォース・スピリッツの面々は、カイドウの待つ地点である、だだっ広い荒野に到着する。

 

『来たな。よーし、それじゃぁ早速最終修練の開始だ』

 

 ガンプラから降りているのだろうカイドウは、コンソールパネルでトレーニングモードの設定を調整する。

 今度はどんなクソゲーを強いられるのか、とスピリッツのメンバーは覚悟を決める。

 

 すると、荒野に標準装備のNPDリーオーが出現する。

 しかしそれは一機だけはない。

 

 10、30、50、100、300、700……と増え続けていく。

 

 最終的なその数、1000機。

 

『よし、後は頑張れ』

 

 それを最後に、カイドウからの通信は切られた。

 つまり、この1000機のNPDリーオーを倒せ、と言うことらしい。

 

 普通なら「こんなのムリゲー」と喚くところだが、

 

「はっ、たかがリーオーの1000機、屁でもねぇな」

 

 ツルギは視界を埋め尽くす大群を見て鼻で笑い、

 

「うんうん、これくらいならいけるよね」

 

 ハルナもツルギの啖呵切りに頷き、

 

「え?これが最後って、拍子抜けね」

 

「ぶーぶー、こんなのつまんないわよー」

 

 ユイは意外そうに小首を傾げ、マイはブーたれて、

 

「よーし、頑張るぞ!」

 

 ミーシャは意気揚々とやる気を滾らせ、

 

「おりゃぁっ、どっからでもかかって来やがれってんだ!」

 

 ヤイコは堂々と啖呵を切り、

 

「……やはり、もう俺達は正気じゃなくなってるようだな」

 

 サヤだけが辛うじて正気を保っていた。

 

 次の瞬間、七機のガンプラが、1000のNPDリーオーの中へ突っ込んだーーーーー。

 

 

 

 

 

 流れ弾が雨霰のように降り注ぎ、爆音と爆風が爆発的なリズムを"撃ち"鳴らす中、カイドウは双眼鏡を目に通しながら平然とその場で立ち、ツルギ達の戦いを見ていた。

 

「おっほぉぅ……"アレ"を全部クリアしたってのもあるが、こりゃぁなかなかお目にかかれない原石だな」

 

 彼の言う"アレ"とはもちろんお手製の地獄の修練のこと。

 

 それをやらせたカイドウの双眼鏡のレンズの中で見える光景は、凄まじい……と言うより、(低ランカーから見て)おぞましいものだった。

 

 たった七機のガンプラが、1000機を相手に一方的に蹂躙している。

 

 縦横無尽に荒野を駆け巡り、すれ違いざまに斬撃や打撃、砲撃を叩き込み、360度上下前後左右あらゆる方向から襲い掛かってくる銃撃を悠々と泳ぐようにやり過ごして逆に誤射させ、撃破の際に起きる爆発すらも利用する。

 

 カイドウは通信回線を彼ら七人のものに合わせる。

 そこから聞こえてくるのは、

 

『ハルナ、こいつら後何機だっけか?』

 

『えーっと、だいたい420機だね』

 

『一人あたり60機落とせば、お釣りが出るわね』

 

『ユイちゃーん、残弾大丈夫?お姉ちゃんがライフル貸してあげよっか?』

 

『うーん、パイルハンマーじゃなくて、ツインメイスとかの方が良かったかなぁ』

 

『そうだな。俺もダブルバレットのようなウェアに換装すれば良かったな』

 

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!』

 

 目にも止まらぬ大乱戦の最中、交わされる言葉は、やけにのんきで緊張感のないものだった。ヤイコだけは誰とも通話せずに片っ端からちぎっては投げ、ちぎっては投げを繰り返しているが。

 

「いいねいいねぇ、楽し……」

 

 楽しいねぇ、とカイドウはそう呟きかけて、止まる。

 

 遥か彼方に視界を向けると、妖しげな紫色をした何かが近付いてくる。

 

「あれは……」

 

 カイドウは双眼鏡をアイテムボックスに納めると、その場から駆け出した。

 

 

 

 

 

 1000機いたはずのNPDリーオーの大群は、わずか十数分でその数を残り一割近くまで減らされていた。

 今のツルギ達にとってこのNPDリーオーの大群は、単なる『烏合の衆』でしかない。

 

 この最終修練もじきに終わりを迎えるだろう、とツルギ達は感じていたが、

 それは不意の横槍によって遠ざけられる。

 

 レイジングマスラオが相対していたNPDリーオーに、ビームが着弾する。

 

「何だっ?」

 

 ツルギはビームが放たれて来た方向に目を向ける。

 

 そこにいるのは、紫色のオーラを纏った数機のガンプラが、ビームライフルの銃口を向けている。

 

 ツルギだけではない、他の面々の周りにも同じオーラを纏ったガンプラの数々が、彼らを取り囲んでいた。

 数だけで言えば20機ほどだが、不正ツールを用いて違法強化を行なったガンプラだ、その性能はNPDリーオーなど比較になるまい。

 

『おぅおぅ、何やら楽しそうなことやってるじゃねぇか』

 

『俺らも混ぜろや』

 

 ガンプラから見られる反応を見ても、マスダイバーだろう連中は、一斉にツルギ達に襲い掛かってくる。

 

「またマスダイバーか……」

 

 リヒターが言っていた通りだな、とツルギはすぐさまレイジングマスラオを構え直させる。

 マスダイバーによる被害が爆発的に増えている、とリヒターは忠告していたが、それもこのような大人数が徒党を組んで数人を攻撃してくるほどにまで膨らんでいるのだ。

 

 ともかく、黙って撃ち落とされるつもりはないツルギ達は、ターゲットをマスダイバー達のガンプラに変更しようとする。

 が、

 

「おぅお前ら、ちょっと下がってろ」

 

 不意に、ツルギ達にカイドウからの通信が届いた。

 

 すると、突然荒野の空に暗雲が立ち込め、落雷が発生した。

 落雷は地面のある地点に落ちて、地面に亀裂を走らせる。

 

 そしてーーーーーその亀裂からマグマの火柱が地面を突き破って生えてきた。

 

「「「「「「「え」」」」」」」」

 

 その光景を見て、フォース・スピリッツの面々はおろか、マスダイバー達の思考すら止まる。

 

 マグマの火柱が突き破った地面から這い出てくるのは、一機のガンプラ。

 

 外観は、『ダブルオーガンダム』をベースにして、黒と灰色を中心にして塗装されたもの。

 しかし、ツインアイやコンデンサーは禍々しい紅色に輝き、カラーリングも合わさってのそれは、地獄から現れた悪魔のよう。

 右手に引き抜くのは、レーザー対艦刀に似た大型のバスタービームソード。

 

「何だあのガンプラは……カイドウ先生なのか?」

 

 ツルギがそう呟いた時、それに応えるような声が届く。

 

『げぇっ!?あ、あの黒いダブルオー……あいつが『ガンダムダブルオーカイザー』の、『地獄のカイドウ』!!』

 

 マスダイバーの一人が、カイドウの漆黒のダブルオーガンダム『ガンダムダブルオーカイザー』を指しながら、悲鳴のように叫んだ。

 それが伝播したかのように、他のマスダイバー達からも『勝てるわけがない!』『早く逃げるんだ!』などと、シナンジュを目の前にしたアルベルト・ビストのように喚き出す。

 

「おーぅよ、この俺が、『地獄のカイドウ』だ』

 

 なめずりするように、カイドウのガンダムダブルオーカイザーがマスダイバー達のガンプラを見回す。

 その挙動はぬたりとして不気味で、狂気的だ。

 

『や、やばいっ、こいつ本物の地獄のカイドウだぞ!?』

 

 自分達はとんでもない所へ踏み込んでしまった。

 それを自覚したマスダイバー達は、ツルギ達への襲撃も、現れたカイドウのガンダムダブルオーカイザーに抵抗することもせずに、一目散に逃げ出していく。

 

「ほーれほれ、地獄への片道切符、ちゃぁんと忘れずに買っていけよォ」

 

 ガンダムダブルオーカイザーはその場から跳躍し、散々に逃げていくマスダイバーのガンプラ達へ飛びかかる。

 

 両手剣のように長大な刀身を持つバスタービームソードを片腕だけで軽々と振り回し、不正ツールで違法に強化しているはずのガンプラの群れを容易く斬り裂き、その上で正確に動力部を潰して爆散させている。

 一撃で完全破壊させているため、ツルギ達が以前に相手したマスダイバー機のような再生現象は起きない。

 

 その内、マスダイバー機のゾリディアだけ戦線を離脱しかけている。

 

「ほーぉ、この俺から逃げようってか?」

 

 ギロリ、とカイドウの目がゾリディアの背中を捕えた。

 ガンダムダブルオーカイザーはその一機に向き直り、バスタービームソードを一、二回と振り回し、見事なサンライズパースを決めると、落雷がバスタービームソードに降り掛かる。

 刀身に雷が集束し、凄まじい勢いで膨れ上がっていく。

 

 カイドウは雷を纏うバスタービームソードを上段に構えーー

 

 

 

 

 

「トゥウオォォォォォルフゥァンマァァァァァッ、ブウゥゥゥルエェイクアァァァァァーーーーーッッッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 バスタービームソードに集束した雷を、真っ直ぐに放出した。

 このガンダムダブルオーカイザーの必殺技『トールハンマーブレイカー』だ。

 放たれた雷の奔流は、荒野を埋め尽くしーーーーー

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「おいおい……何だよ、これ」

 

 そう言ったのはツルギだった。

 何が起きたのか分からなかった。

 カイドウのガンダムダブルオーカイザーが、トールハンマーブレイカーなる必殺技を放ったのは見えていた。

 問題はそこではない。

 

「一体、何をどうしたらこんなことになるのよ……」 

 

 ユイが恐る恐る呟く。

 

 彼女の視線の先ーーガンダムダブルオーカイザーの前方に見える地形が、サテライトキャノンでも放たれたように"無くなっている"ことだ。

 

「何にも残ってねぇ……」

 

 ヤイコはそのように表現したが、喩えでも何でもない、その通りにしか見えないのだ。

 

 破壊などと言う生温いものではない、"消滅"。

 

 そればかりか、消滅した地形にはデータが破損したかのような跡さえ見える。

 

 GBNのディメンションの内部すら損傷させる……カイドウの放ったトールハンマーブレイカーが、どれだけの破壊力を持っているのか、間近で見ていたツルギ達ですら推し量れるものではい。

 

「これが、カイドウ先生の実力……」

 

 ミーシャの視線は、バスタービームソードを突き出したガンダムダブルオーカイザーに注がれている。

 

 だとしても直撃を免れたのか、大破したゾリディアがその消滅した地点から少しズレた位置で倒れている。

 

「チッ、まぁだ生きてやがったか……まぁいい」

 

 カイドウは小さく舌打ちしてから、バシュゥゥゥッ、と放熱の蒸気を噴き上げるバスタービームソードを地面に突き刺して置くと、ゾリディアの方へ向かう。

 ゾリディアは破損した内部から金属物体を生やし始め、再生を開始するが、構わずにガンダムダブルオーカイザーはゾリディアのバイタルバートに手を掛けて、それを力任せに引きちぎる。

 

「よっと」

 

 そのまま露わになったコクピット内部に指先を滑り込ませると、中にいたマスダイバーを捕まえた。

 

『はっ、離せっ、離せぇっ!』

 

 捕まえられたマスダイバーは抵抗しようとするが、十数mはある鋼鉄の巨人の掌を押し返せるはずもなく、ガンダムダブルオーカイザーはマスダイバーをゾリディアから引き剥がす。

 

 再生を続けるゾリディアには、リアスカートからビームサーベルを抜き放ち、それで動力部を焼き切っておく。

 

「てめぇにゃちょいと訊きたいことがあるんでな」

 

 カイドウはマスダイバーを拘束したまま、ツルギ達の元へ戻る。

 

 

 

 

 

 カイドウが捕まえたマスダイバーは、手頃な岩に縛り付けられていた。

 その周りには、フォース・スピリッツのメンバー達と、カイドウの八人。

 

「ご、拷問なんざに屈さねぇぞ!」

 

 マスダイバーは強がって見せるものの、まな板の上の鯉も同然のこの状況では、それも意味をなしていない。

 

「カイドウ先生、この人、運営に通報するんですか?」

 

 ハルナはマスダイバーとカイドウの顔を見比べる。

 運営に通報でもするのかと思った彼らだが、カイドウは「それは無駄だ」と言い切った。

 

「こいつらの使っていた不正ツールが『ブレイクデカール』のソレなら、運営に通報しても『証拠不十分』で即日釈放だ。それじゃぁ、こうして取っ捕まえた意味がねぇ」

 

 まぁ任せろ、とカイドウ先生はツルギ達を下げさせると、自らがマスダイバーの正面に立つ。

 ツルギ達はカイドウの背中とマスダイバーの様子を遠巻きに見ている。

 

「お前さんよぉ、誰の差し金で俺達を襲ったか、教えてくれるかなァ?」

 

 背中越しでカイドウの表情は見えない。

 しかしーーーーー

 

「ヒイィッ!?」

 

 マスダイバーの顔が、まるでおぞましいモノを見るようなそれになる。

 

「ちゃぁんと教えてくれりゃぁ、手荒な真似はしねぇからよ、なァ?」

 

「たっ、た、助けて助けて助けて死にたくない死にたくない死にたくない嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だァァァァァァァァァァ!!」

 

 逃げようにも、岩に縛り付けられているために逃げられず、マスダイバーは泡を吹き出し、白目を剥きながら、動かせない手足を暴れさせ、耳障りな奇声を上げ続ける。

 あのマスダイバーの目には、一体何が映っているのだろうか。

 

「落ち着け落ち着け。別に取って食うわけじゃねぇからよ、正直に話すだけでい……」

 

 これでは話を聞こうにも聞けない。

 とりあえずカイドウは落ち着かせようとするが、マスダイバーの恐慌はもはや一線を越えてしまっていた。

 

「うっ、ウフフッ、僕はっ、僕はねェッ……ヒャーーーーー!!」

 

 マスダイバーは"壊れて"しまったのか、目と口を開けたまま事切れた。

 

「……あー、こりゃリアルの方で頭"イッ"ちまったか」

 

 カイドウはポリポリと頭を掻いて溜息をつく。

 ダイバーとリンクしているリアル側の人間が気絶しているので、彼は自分でログアウト出来なくなってしまったのだ。

 こうなった場合は、気絶した本人が目を覚ますまで待つか、運営に強制ログアウトしてもらうしかない。

 カイドウはコンソールパネルから運営へのご意見番に「気絶したと思わせるダイバーがいるので、対応を願う」と書き込んで投稿する。

 

「……あの、カイドウ先生?」

 

 サヤが恐る恐る話し掛けると、カイドウは振り返りながら頷く。

 

「あぁ、正確な情報は聞き出せなかったが……こいつのIDが改竄されたものってのは分かった。その改竄具合から、どこの連中かは大体予想がついた」

 

 カイドウは息を吐いてから、真剣味を帯びた表情で答えた。

 

「『フォース・キバ軍団』。俺がここ数年間、追い掛け回してる『キバ』って野郎がアタマ張ってる、クッソだせぇ名前のマスダイバーフォースだ」

 

「マスダイバー、フォース……」

 

 サヤが噛み締めるようにそれを口にした。

 つまりは、マスダイバーのみで構成された非合法な集団と言うことだろう。

 そして、カイドウはその連中のリーダーを目の敵にしていると。

 

「さっきの奴等は多分、キバ軍団の下部組織……ようするに下っ端だ」

 

 まぁんなことはどうだっていい、とカイドウは話を変えた。

 

「途中で奴等が介入したが、お前らの戦いぶりを見ても、十分及第点だ。この俺の『地獄の修練』、合格だ。根性の足らん奴は、大体三日くらいで投げ出すもんだが、お前らは一週間も続けて、さらに全クリもした。上等上等、よくやったな」

 

 カイドウは言うものの、肝心の(マイを除いた)ツルギ達の反応は芳しくなかった。

 

「何だろうな、褒められていないような感じがするのは気のせいですかね?」

 

 ツルギは怪訝そうな顔を浮かべた。

 カイドウはそんな彼の顔を見て「事実を言ってるだけだからな」と笑う。

 

「ほんじゃ、俺はそろそろ仕事しに戻るわ。保健室のソノザキ先生から手伝ってくれって言われてるんでな」

 

 何かあったら呼んでくれや、と言い残してからカイドウはガンダムダブルオーカイザーに乗り込み、さっさとベース基地へ帰還していく。

 

 一部が消滅した荒野に残されるツルギ達と、気絶したままのマスダイバー。

 

「何というか、ムチャクチャだったなぁ……」

 

 どこか遠い目にならざるを得ないツルギ。

 

「でもでも、わたし達強くなったよね!」

 

 ハルナはこの一週間を前向きに捉えていた。

 

「強くなったって言うか、強くさせられたと言うか……」

 

 ユイは脱力したように大きな嘆息をついた。

 

「溜息をつくと幸せが光の速さで逃げちゃうわよ」

 

 お気楽そうに笑うのはマイ。

 

「さすがに、もうアレはしたくないですね……」

 

 力無く苦笑するのはミーシャ。

 

「カイドウ先生には感謝だが、ミーシャにも同意してぇな……」

 

 ヤイコは乾いた笑みを浮かべたが、無理矢理笑っているようにしか見えない。

 

「キバ軍団か……」

 

 サヤだけは、カイドウの言うフォース・キバ軍団のことを気に掛けていた。

 

 しばらくして、運営の機体であるGBNガードフレームがマスダイバーの確保に駆け付けて来たのを見て、縛り上げていたマスダイバーを解放、引き渡してからツルギ達もベース基地へ帰還していった。

 

 

 

 

 

 ログアウトしてから解散した後、ガンダムベースに救急車が到着しては、ダイブルームで気絶しているプレイヤーが搬送されたらしいーーーーー。

 

 

 

 

 

 

【次回予告】

 

 ハルナ「そう言えばツルギくん、マスラオ以外のガンプラって作ったことないよね。作らないの?」

 

 ツルギ「そうだなぁ、そろそろ新しいガンプラを作ってみるか」

 

 ユイ「私も、ヘビーバスターを改造しようかしら」

 

 サヤ「それなら、今までのミッションクリア報酬で入手したパーツデータを打ち出してみるのもいいな」

 

 ミーシャ「新しいガンプラって、何だかワクワクしますよね!」

 

 ツルギ「次回、ガンダムビルドダイバーズ・スピリッツ

 

『鍛えし意志と知恵を持ち』

 

 さて、何を作るか……」 

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